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特開2025-6993ピラン誘導体、その製造法及び光電変換素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006993
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】ピラン誘導体、その製造法及び光電変換素子
(51)【国際特許分類】
   C07D 407/14 20060101AFI20250109BHJP
   C07D 309/34 20060101ALI20250109BHJP
   H10K 30/60 20230101ALI20250109BHJP
   H10K 30/30 20230101ALI20250109BHJP
   H10K 85/60 20230101ALI20250109BHJP
【FI】
C07D407/14 CSP
C07D309/34
H10K30/60
H10K30/30
H10K85/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023108089
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000173762
【氏名又は名称】公益財団法人相模中央化学研究所
(72)【発明者】
【氏名】山縣 拓也
(72)【発明者】
【氏名】青柳 圭哉
(72)【発明者】
【氏名】堀 桃子
(72)【発明者】
【氏名】浅野 祥生
(72)【発明者】
【氏名】金子 岳史
(72)【発明者】
【氏名】後藤 玄
(72)【発明者】
【氏名】岩永 宏平
【テーマコード(参考)】
3K107
4C063
5F149
【Fターム(参考)】
3K107AA03
3K107CC03
3K107GG28
4C063AA03
4C063BB06
4C063CC78
4C063DD75
4C063DD76
4C063EE10
5F149AB11
5F149BA01
5F149BA05
5F149BA09
5F149BB03
5F149BB06
5F149CB06
5F149CB15
5F149DA30
5F149FA04
5F149GA02
5F149JA07
5F149LA02
5F149XA01
5F149XA43
5F149XA53
(57)【要約】      (修正有)
【課題】青色光用光電変換材料として適した高い外部量子効率を示す化合物の提供、該化合物の合成方法、及び該化合物を含む光電変換素子の提供。
【解決手段】下記式(1)で示すピラン誘導体及びその製造方法。

式(1)中、Aは、電子求引性の二重結合性官能基を表す。R~Rは、各々独立に、水素原子又はアルキル基を表す。Rは、各々独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基又はトリアルキルシリル基を表す。前記ジアルキルアミノ基及びジアリールアミノ基は、窒素原子を含んで、または酸素原子又は硫黄原子を介して結合し窒素原子を含んで一体となって環を形成してもよい。Arは、各々独立に、アリーレン基又はヘテロアリーレン基を表し、それぞれアルキル基で置換されていてもよい。nは0~2の整数を表す。ただし、nが0であり、Rが水素原子である場合を除く。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で示されるピラン誘導体。
【化1】
式(1)中、
は、電子求引性の二重結合性官能基を表す。
~Rは、各々独立に、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。
は、各々独立に、水素原子、炭素数1~18のアルキル基、炭素数6~14のアリール基、炭素数2~8のジアルキルアミノ基、炭素数12~24のジアリールアミノ基又は炭素数3~12のトリアルキルシリル基を表す。前記ジアルキルアミノ基及びジアリールアミノ基は、2つのアルキル基又はアリール基が窒素原子を含んで一体となって環を形成してもよい。また、前記ジアルキルアミノ基及びジアリールアミノ基は、2つのアルキル基又はアリール基が酸素原子又は硫黄原子を介して結合し窒素原子を含んで一体となって環を形成してもよい。
Arは、各々独立に、炭素数6~18のアリーレン基又は炭素数2~12のヘテロアリーレン基を表し、前記アリーレン基及びヘテロアリーレン基は炭素数1~4のアルキル基で置換されていてもよい。
nは0~2の整数を表す。
ただし、nが0であり、Rが水素原子である場合を除く。
【請求項2】
式(1)中、Arが、各々独立に、炭素数1~4のアルキル基で置換されていてもよいフェニレン基、フラニレン基、チエニレン基、ベンゾフラニレン基又はベンゾチエニレン基である、請求項1に記載のピラン誘導体。
【請求項3】
式(1)中、Aが、ジシアノメチリデン基、1,3-インダンジオン-2-イリデン基又は1,3-シクロペンタ[b]ナフタレンジオン-2-イリデン基である、請求項1に記載のピラン誘導体。
【請求項4】
式(1)中、R~Rが水素原子である、請求項1に記載のピラン誘導体。
【請求項5】
下記式(2)
【化2】
(式(2)中、R~Rは、各々独立に、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。Aは、電子求引性の二重結合性官能基を表す。X及びXは、各々独立にハロゲン原子を表す。)で示されるピラン化合物と、下記式(3)
【化3】
(式(3)中、Rは、水素原子、炭素数1~18のアルキル基、炭素数6~14のアリール基、炭素数2~8のジアルキルアミノ基、炭素数12~24のジアリールアミノ基又は炭素数3~12のトリアルキルシリル基を表す。前記ジアルキルアミノ基及びジアリールアミノ基は、2つのアルキル基又はアリール基が窒素原子を含んで一体となって環を形成してもよい。また、前記ジアルキルアミノ基及びジアリールアミノ基は、2つのアルキル基又はアリール基が酸素原子又は硫黄原子を介して結合し窒素原子を含んで一体となって環を形成してもよい。Arは、各々独立に、炭素数6~18のアリーレン基又は炭素数2~12のヘテロアリーレン基を表し、前記アリーレン基及びヘテロアリーレン基は炭素数1~4のアルキル基で置換されていてもよい。nは1~2の整数を表す。Mは、ZnY、MgY、Sn(Y又はB(OYを表す。Y及びYは、各々独立に、炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基を表し、Yは、各々独立に、炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基を表し、Yは、各々独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基を表す。2つの(OY)基は一体となってホウ素原子とともに環を形成していてもよい。)で示される化合物、又は下記式(4)
【化4】
(式(4)中、R4aは炭素数2~8のジアルキルアミノ基又は炭素数12~24のジアリールアミノ基を表す。前記ジアルキルアミノ基及びジアリールアミノ基は、2つのアルキル基又はアリール基が窒素原子を含んで一体となって環を形成してもよい。また、前記ジアルキルアミノ基及びジアリールアミノ基は、2つのアルキル基又はアリール基が酸素原子又は硫黄原子を介して結合し窒素原子を含んで一体となって環を形成してもよい。)で示されるアミン化合物と、を反応させることを特徴とする、下記式(1)
【化5】
(式中、R~R、A及びArは、前記と同じ意味を表す。RはR4aと読み替えてもよく、各々独立に、水素原子、炭素数1~18のアルキル基、炭素数6~14のアリール基、炭素数2~8のジアルキルアミノ基、炭素数12~24のジアリールアミノ基又は炭素数3~10のトリアルキルシリル基を表す。前記ジアルキルアミノ基及びジアリールアミノ基は、2つのアルキル基又はアリール基が窒素原子を含んで一体となって環を形成してもよい。また、前記ジアルキルアミノ基及びジアリールアミノ基は、2つのアルキル基又はアリール基が酸素原子又は硫黄原子を介して結合し窒素原子を含んで一体となって環を形成してもよい。nは0~2の整数を表す。)で示されるピラン誘導体の製造方法。
【請求項6】
下記式(5)
【化6】
(式(5)中、R~Rは、各々独立に、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。Aは、電子求引性の二重結合性官能基を表す。Mは、ZnY、MgY、Sn(Y又はB(OYを表す。Y及びYは、各々独立に、炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基を表し、Yは、各々独立に、炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基を表し、Yは、各々独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基を表す。2つの(OY)基は一体となってホウ素原子とともに環を形成していてもよい。)で示されるピラン化合物と、下記式(6)
【化7】
(式(6)中、Rは、水素原子、炭素数1~18のアルキル基、炭素数6~14のアリール基、炭素数2~8のジアルキルアミノ基、炭素数12~24のジアリールアミノ基又は炭素数3~10のトリアルキルシリル基を表す。前記ジアルキルアミノ基及びジアリールアミノ基は、2つのアルキル基又はアリール基が窒素原子を含んで一体となって環を形成してもよい。また、前記ジアルキルアミノ基及びジアリールアミノ基は、2つのアルキル基又はアリール基が酸素原子又は硫黄原子を介して結合し窒素原子を含んで一体となって環を形成してもよい。Arは、各々独立に、炭素数6~18のアリーレン基又は炭素数2~12のヘテロアリーレン基を表し、前記アリーレン基及びヘテロアリーレン基は炭素数1~4のアルキル基で置換されていてもよい。nは1~2の整数を表す。Xは、ハロゲン原子を表す。)で示される化合物と、を反応させることを特徴とする、下記式(1a)
【化8】
(式(1a)中、R~R、A、Ar及びnは、前記と同じ意味を表す。Rは、各々独立に、水素原子、炭素数1~18のアルキル基、炭素数6~14のアリール基、炭素数2~8のジアルキルアミノ基、炭素数12~24のジアリールアミノ基又は炭素数3~10のトリアルキルシリル基を表す。前記ジアルキルアミノ基及びジアリールアミノ基は、2つのアルキル基又はアリール基が窒素原子を含んで一体となって環を形成してもよい。また、前記ジアルキルアミノ基及びジアリールアミノ基は、2つのアルキル基又はアリール基が酸素原子又は硫黄原子を介して結合し窒素原子を含んで一体となって環を形成してもよい。)で示されるピラン誘導体の製造方法。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか1項に記載のピラン誘導体を含んでなる光電変換素子。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか1項に記載のピラン誘導体を光電変換層に含んでなる光電変換素子。
【請求項9】
光電変換層にさらにフラーレン誘導体を含む、請求項8に記載の光電変換素子。
【請求項10】
フラーレン誘導体が[60]フラーレン(C60)又は[70]フラーレン(C70)である、請求項9に記載の光電変換素子。
【請求項11】
請求項1~4のいずれか1項に記載のピラン誘導体を含む、光電変換素子用材料。
【請求項12】
光電変換層用材料である、請求項11に記載の光電変換素子用材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピラン誘導体、その製造方法及び光電変換素子に関するものである。
【0002】
光電変換素子は、光センサーや撮像素子などのセンサー、及び太陽電池などの光発電装置に使用されている。有機光電変換材料を用いる光電変換素子が特許文献1などに開示されている。
【0003】
光電変換素子としては、シリコン半導体を用いた素子が広く用いられており、特に撮像素子としてはシリコンフォトダイオードが主に使用されている。このようなシリコンフォトダイオードは可視光領域全域に感度を有しているため、この上部にRGBがモザイク状に配置されたカラーフィルターを配置し、各画素をRGBそれぞれの受光部として振り分けることでカラー撮像を行っている。本方式ではカラーフィルターでの入射光の損失により光の利用効率が低いため、撮像素子の高感度化の障壁となることが懸念される。そこで、RGB各色の有機光電変換膜を積層した撮像素子(以下積層型有機撮像素子)が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。本方式はカラーフィルターを用いた場合と比べてカラーフィルターによる光の損失がなく、光の利用効率が数倍となるため、カメラなどのデバイスの高画素化に伴う画素の微細化に優位性を持つ、高感度デバイスへの利用が期待されている。
【0004】
積層型有機撮像素子の光電変換膜としては、各色に対応する波長領域にて高い外部量子効率を示すことが求められる。すなわち、B層(青色用光電変換膜)の場合、青色光領域である400~500nmにおいて高い外部量子効率を示すことが求められる。
【0005】
特許文献1~3には、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ジピロメテン誘導体等を含む青色用光電変換素子が記載されているが、いずれも本発明のピラン誘導体を含む光電変換素子とは異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2020/195935号
【特許文献2】国際公開第2020/196029号
【特許文献3】国際公開第2021/029223号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Japanese Journal of Applied Physics,2011年、50巻、024103頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、青色光用光電変換材料として適した高い外部量子効率を示す化合物を提供すること、該化合物を簡便に合成する方法、及び該化合物を含む光電変換素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、新規なピラン誘導体を含む光電変換素子が青色光の波長域において高い外部量子効率を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち本発明は、
[1]
下記式(1)で示されるピラン誘導体。
【0011】
【化1】
【0012】
{式(1)中、
は、電子求引性の二重結合性官能基を表す。
~Rは、各々独立に、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。
は、各々独立に、水素原子、炭素数1~18のアルキル基、炭素数6~14のアリール基、炭素数2~8のジアルキルアミノ基、炭素数12~24のジアリールアミノ基又は炭素数3~12のトリアルキルシリル基を表す。前記ジアルキルアミノ基及びジアリールアミノ基は、2つのアルキル基又はアリール基が窒素原子を含んで一体となって環を形成してもよい。また、前記ジアルキルアミノ基及びジアリールアミノ基は、2つのアルキル基又はアリール基が酸素原子又は硫黄原子を介して結合し窒素原子を含んで一体となって環を形成してもよい。
Arは、各々独立に、炭素数6~18のアリーレン基又は炭素数2~12のヘテロアリーレン基を表し、前記アリーレン基及びヘテロアリーレン基は炭素数1~4のアルキル基で置換されていてもよい。
nは0~2の整数を表す。
ただし、nが0であり、Rが水素原子である場合を除く。};
[2]
式(1)中、Arが、各々独立に、炭素数1~4のアルキル基で置換されていてもよいフェニレン基、フラニレン基、チエニレン基、ベンゾフラニレン基又はベンゾチエニレン基である、前記[1]に記載のピラン誘導体;
[3]
式(1)中、Aが、ジシアノメチリデン基、1,3-インダンジオン-2-イリデン基又は1,3-シクロペンタ[b]ナフタレンジオン-2-イリデン基である、前記[1]又は[2]に記載のピラン誘導体;
[4]
式(1)中、R~Rが水素原子である、前記[1]~[3]のいずれか1項に記載のピラン誘導体に関する。
また、本発明は、
[5]
下記式(2)
【0013】
【化2】
【0014】
(式(2)中、Aは、電子求引性の二重結合性官能基を表す。R~Rは、各々独立に、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。X及びXは、各々独立にハロゲン原子を表す。)で示されるピラン化合物と、下記式(3)
【0015】
【化3】
【0016】
(式(3)中、Rは、水素原子、炭素数1~18のアルキル基、炭素数6~14のアリール基、炭素数2~8のジアルキルアミノ基、炭素数12~24のジアリールアミノ基又は炭素数3~12のトリアルキルシリル基を表す。前記ジアルキルアミノ基及びジアリールアミノ基は、2つのアルキル基又はアリール基が窒素原子を含んで一体となって環を形成してもよい。また、前記ジアルキルアミノ基及びジアリールアミノ基は、2つのアルキル基又はアリール基が酸素原子又は硫黄原子を介して結合し窒素原子を含んで一体となって環を形成してもよい。Arは、各々独立に、炭素数6~18のアリーレン基又は炭素数2~12のヘテロアリーレン基を表し、前記アリーレン基及びヘテロアリーレン基は炭素数1~4のアルキル基で置換されていてもよい。nは1~2の整数を表す。Mは、ZnY、MgY、Sn(Y又はB(OYを表す。Y及びYは、各々独立に、炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基を表し、Yは、各々独立に、炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基を表し、Yは、各々独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基を表す。2つの(OY)基は一体となってホウ素原子とともに環を形成していてもよい。)で示される化合物、又は式(4)
【0017】
【化4】
【0018】
(式(4)中、R4aは炭素数2~8のジアルキルアミノ基又は炭素数12~24のジアリールアミノ基を表す。前記ジアルキルアミノ基及びジアリールアミノ基は、2つのアルキル基又はアリール基が窒素原子を含んで一体となって環を形成してもよい。また、前記ジアルキルアミノ基及びジアリールアミノ基は、2つのアルキル基又はアリール基が酸素原子又は硫黄原子を介して結合し窒素原子を含んで一体となって環を形成してもよい。)で示されるアミン化合物と、を反応させることを特徴とする、下記式(1)
【0019】
【化5】
【0020】
(式(1)中、A、R~R及びArは、前記と同じ意味を表す。RはR4aと読み替えてもよく、各々独立に、水素原子、炭素数1~18のアルキル基、炭素数6~14のアリール基、炭素数2~8のジアルキルアミノ基、炭素数12~24のジアリールアミノ基又は炭素数3~10のトリアルキルシリル基を表す。前記ジアルキルアミノ基及びジアリールアミノ基は、2つのアルキル基又はアリール基が窒素原子を含んで一体となって環を形成してもよい。また、前記ジアルキルアミノ基及びジアリールアミノ基は、2つのアルキル基又はアリール基が酸素原子又は硫黄原子を介して結合し窒素原子を含んで一体となって環を形成してもよい。nは0~2の整数を表す。)で示されるピラン誘導体の製造方法に関する。
また、本発明は、
[6]
式(5)
【0021】
【化6】
【0022】
(式(5)中、Aは、電子求引性の二重結合性官能基を表す。R~Rは、各々独立に、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。Mは、ZnY、MgY、Sn(Y又はB(OYを表す。Y及びYは、各々独立に、炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基を表し、Yは、各々独立に、炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基を表し、Yは、各々独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基を表す。2つの(OY)基は一体となってホウ素原子とともに環を形成していてもよい。)で示されるピラン化合物と、下記式(6)
【0023】
【化7】
【0024】
(式(6)中、Rは、水素原子、炭素数1~18のアルキル基、炭素数6~14のアリール基、炭素数2~8のジアルキルアミノ基、炭素数12~24のジアリールアミノ基又は炭素数3~10のトリアルキルシリル基を表す。前記ジアルキルアミノ基及びジアリールアミノ基は、2つのアルキル基又はアリール基が窒素原子を含んで一体となって環を形成してもよい。また、前記ジアルキルアミノ基及びジアリールアミノ基は、2つのアルキル基又はアリール基が酸素原子又は硫黄原子を介して結合し窒素原子を含んで一体となって環を形成してもよい。Arは、各々独立に、炭素数6~18のアリーレン基又は炭素数2~12のヘテロアリーレン基を表し、前記アリーレン基及びヘテロアリーレン基は炭素数1~4のアルキル基で置換されていてもよい。nは1~2の整数を表す。Xは、ハロゲン原子を表す。)で示される化合物と、を反応させることを特徴とする、下記式(1a)
【0025】
【化8】
【0026】
(式(1a)中、A、R~R、Ar及びnは、前記と同じ意味を表す。Rは、各々独立に、水素原子、炭素数1~18のアルキル基、炭素数6~14のアリール基、炭素数2~8のジアルキルアミノ基、炭素数12~24のジアリールアミノ基又は炭素数3~10のトリアルキルシリル基を表す。前記ジアルキルアミノ基及びジアリールアミノ基は、2つのアルキル基又はアリール基が窒素原子を含んで一体となって環を形成してもよい。また、前記ジアルキルアミノ基及びジアリールアミノ基は、2つのアルキル基又はアリール基が酸素原子又は硫黄原子を介して結合し窒素原子を含んで一体となって環を形成してもよい。)で示されるピラン誘導体の製造方法に関する。
また、本発明は、
[7]
前記[1]~[4]のいずれか1項に記載のピラン誘導体を含んでなる光電変換素子;
[8]
前記[1]~[4]のいずれか1項に記載のピラン誘導体を光電変換層に含んでなる光電変換素子;
[9]
光電変換層にさらにフラーレン誘導体を含む、[8]に記載の光電変換素子;
[10]
フラーレン誘導体が[60]フラーレン(C60)又は[70]フラーレン(C70)である、[9]に記載の光電変換素子
[11]
前記[1]~[4]のいずれか1項に記載のピラン誘導体を含む、光電変換素子用材料。
[12]
光電変換層用材料である、[11]に記載の光電変換素子用材料に関する。
【発明の効果】
【0027】
本明細書中、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。また、具体的に明示する場合を除き、「~」の前後に記載される数値の単位は同じである。本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。また、個別に記載した上限値及び下限値は任意に組み合わせ可能である。
【0028】
本発明のピラン誘導体(1)は、青色光領域において高い外部量子効率を示すことから、青色光用有機光電変換素子用材料に代表される有機電子材料としての適用が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0030】
本発明のピラン誘導体(1)における、A、R~R、Arの定義について説明する。
【0031】
で表される電子求引性の二重結合性官能基としては、特に限定するものではなく、具体的には、ジフルオロメチリデン基、シアノフルオロメチリデン基、カルボキシシアノメチリデン基、ジシアノメチリデン基、1,3-インダンジオン-2-イリデン基又は1,3-シクロペンタ[b]ナフタレンジオン-2-イリデン基等を例示することができ、ピラン誘導体(1)の合成が容易な点で、ジシアノメチリデン基、1,3-インダンジオン-2-イリデン基又は1,3-シクロペンタ[b]ナフタレンジオン-2-イリデン基が好ましい。
【0032】
~Rで表される炭素数1~4のアルキル基としては、特に限定するものではなく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、1-メチルエチル基、シクロプロピル基、ブチル基、2-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基を例示することができ、ピラン誘導体(1)の合成が容易な点で、メチル基が好ましい。
~Rとしては、水素原子又はメチル基が好ましく、水素原子がより好ましい。
で表される炭素数1~18のアルキル基としては、直鎖状、分岐状又は環状アルキル基のいずれでもよく、具体的には、メチル基、シクロヘキシルメチル基、エチル基、2-シクロペンチルエチル基、1-プロピル基、2-プロピル基、2-メチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、3-シクロプロピルプロピル基、1-メチルエチル基、シクロプロピル基、ブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、2-ブチル基、3-メチルブタン-2-イル基、tert-ブチル基、シクロブチル基、ペンチル基、2-メチルペンチル基、3-エチルペンチル基、2,4-ジメチルペンチル基、2-ペンチル基、2-メチルペンタン-2-イル基、4,4-ジメチルペンタン-2-イル基、3-ペンチル基、3-エチルペンタン-3-イル基、シクロペンチル基、2,5-ジメチルシクロペンチル基、3-エチルシクロペンチル基、ヘキシル基、2-メチルヘキシル基、3,3-ジメチルヘキシル基、4-エチルヘキシル基、2-ヘキシル基、2-メチルヘキサン-2-イル基、5,5-ジメチルヘキサン-2-イル基、3-ヘキシル基、2,4-ジメチルヘキサン-3-イル基、シクロヘキシル基、4-エチルシクロヘキシル基、4,4-ジメチルシクロヘキシル基、ヘプチル基、2-ヘプチル基、3-ヘプチル基、4-ヘプチル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル基、オクチル基、2-オクチル基、3-オクチル基、4-オクチル基、シクロオクチル基、ビシクロ[2.2.2]オクチル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、1-アダマンチル基等を例示することができ、ピラン化合物(1)の合成が容易な点で、メチル基、エチル基、tert-ブチル基、ヘキシル基、アダマンチル基が好ましい。
【0033】
で表される炭素数6~14のアリール基としては、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、2-ビフェニリル基、3-ビフェニリル基、4-ビフェニリル基、3,5-ターフェニリル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-フェナントレニル基、2-フェナントレニル基、3-フェナントレニル基、4-フェナントレニル基、9-フェナントレニル基、1-フルオレニル基、2-フルオレニル基、3-フルオレニル基、4-フルオレニル基、9,9-ジメチル-9H-フルオレン-1-イル基、9,9-ジメチル-9H-フルオレン-2-イル基、9,9-ジメチル-9H-フルオレン-3-イル基、9,9-ジメチル-9H-フルオレン-4-イル基、1-ピレニル基、2-ピレニル基、9-ピレニル基、1-トリフェニレニル基、2-トリフェニレニル基等を例示することができ、ピラン化合物(1)の合成が容易な点でフェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基が好ましい。
で表される炭素数2~8のジアルキルアミノ基としては、2つのアルキル基は直鎖状又は分岐状のいずれでもよく、具体的には、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基等を例示することができる。2つの当該アルキル基は窒素原子を含んで一体となって環を形成してもよく、また酸素原子又は硫黄原子を介して結合し窒素原子を含んで一体となって環を形成してもよく、具体的には1-ピロリジニル基、1-ピペリジニル基、N-モルホリル基、N-チオモルホリル基等を例示することができる。ピラン誘導体(1)の合成が容易な点で、ジメチルアミノ基又はN-モルホリル基が好ましい。
で表される炭素数12~24のジアリールアミノ基としては、具体的には、ジフェニルアミノ基、1-ナフチル(フェニル)アミノ基、2-ナフチル(フェニル)アミノ基、ビス(ビフェニリル)アミノ基等を例示することができる。また2つのアリール基は窒素原子を含んで一体となって環を形成してもよく、酸素原子又は硫黄原子を介して結合し窒素原子を含んで一体となって環を形成してもよく、具体的には9-カルバゾイル基、N-フェノキサジニル基、N-フェノチアジニル基等を例示することができる。ピラン誘導体(1)の合成が容易な点で、ジフェニルアミノ基が好ましい。
で表される炭素数3~12のトリアルキルシリル基としては、トリメチルシリル基、エチルジメチルシリル基、ジメチルプロピルシリル基、イソプロピルジメチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基、トリエチルシリル基、ジエチルプロピルシリル基、ジエチルイソプロピルシリル基、トリプロピルシリル基、トリ(イソプロピル)シリル基、トリブチルシリル基、トリ(イソブチル)シリル基等を例示することができ、ピラン化合物(1)の溶解性が高い点でトリメチルシリル基、トリエチルシリル基が好ましい。
としては、水素原子、メチル基、エチル基、tert-ブチル基、ヘキシル基、アダマンチル基、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、ジメチルアミノ基、N-モルホリル基、ジフェニルアミノ基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基が好ましく、水素原子、アダマンチル基、フェニル基、N-モルホリル基、ジフェニルアミノ基、トリメチルシリル基がより好ましい。
Arで表される炭素数6~18のアリーレン基としては、具体的には、1,2-フェニレン基、1,3-フェニレン基、1,4-フェニレン基、1,4-ナフチレン基、1,5-ナフチレン基、2,6-ナフチレン基、2,7-ナフチレン基、1,4-アントリレン基、2,6-アントリレン基、1,8-フェナントリレン基、2,7-フェナントリレン基、2,6-フルオレニレン基、2,7-フルオレニレン基等を例示することができる。また当該アリーレン基は炭素数1~4のアルキル基で置換されていてもよく、具体的には、2-メチル-1,4-フェニレン基、9,9-ジメチル-9H-フルオレン-2,6-イレン基、9,9-ジメチル-9H-フルオレン-2,7-イレン基等を例示することができる。ピラン化合物(1)の合成が容易な点で、1,4-フェニレン基、2-メチル-1,4-フェニレン基が好ましい。
Arで表される炭素数2~12のヘテロアリーレン基としては、具体的には、2,5-フラニレン基、2,5-チエニレン基、2,5-ピロリレン基、2,5-ピリジレン基、2,6-キノリレン基、3,7-キノリレン基、2,5-ベンゾフラニレン基、2,6-ベンゾフラニレン基、2,5-ベンゾチエニレン基、2,6-ベンゾチエニレン基、2,5-インドリレン基、2,6-インドリレン基、2,7-カルバゾイレン基、3,7-ジベンゾフラニレン基、3,7-ジベンゾチエニレン基等を例示することができ、ピラン化合物(1)の合成が容易な点で2,5-フラニレン基、2,5-チエニレン基、2,5-ベンゾフラニレン基、2,6-ベンゾフラニレン基、2,5-ベンゾチエニレン基、2,6-ベンゾチエニレン基が好ましい。また当該ヘテロアリーレン基は炭素数1~4のアルキル基で置換されていてもよく、具体的には、3-メチル-2,5-フラニレン基、3-メチル-2,5-チエニレン基、3-メチル-2,5-ベンゾフラニレン基、3-メチル-2,6-ベンゾフラニレン基、3-メチル-2,5-ベンゾチエニレン基、3-メチル-2,6-ベンゾチエニレン基等を例示することができ、ピラン化合物(1)の合成が容易な点で3-メチル-2,5-ベンゾフラニレン基、3-メチル-2,6-ベンゾフラニレン基、3-メチル-2,5-ベンゾチエニレン基、3-メチル-2,6-ベンゾチエニレン基が好ましい。
Arとしては、1,4-フェニレン基、2,5-フラニレン基、2,5-チエニレン基、2,5-ベンゾフラニレン基、2,6-ベンゾフラニレン基、2,5-ベンゾチエニレン基、2,6-ベンゾチエニレン基、3-メチル-2,5-ベンゾフラニレン基、3-メチル-2,6-ベンゾフラニレン基、3-メチル-2,5-ベンゾチエニレン基、3-メチル-2,6-ベンゾチエニレン基が好ましく、1,4-フェニレン基、2,5-フラニレン基、2,5-ベンゾフラニレン基、2,6-ベンゾフラニレン基、3-メチル-2,5-ベンゾフラニレン基、3-メチル-2,6-ベンゾフラニレン基がより好ましい。
【0034】
本発明のピラン化合物(1)としては、特に限定するものではなく、例えば、下記の1-1~1-35に示す構造の化合物を具体的に例示することができる。
【0035】
【化9】
【0036】
【化10】
【0037】

【0038】
なお本明細書中、Meはメチル基を表す。
【0039】
1-1~1-35で示される化合物のうち、本発明のピラン誘導体(1)としては、合成が容易な点で1-1、1-5、1-6、1-7、1-8、1-9、1-10、1-14、1-15、1-18、1-19、1-22、1-25、1-26、1-27、1-28、1-29、1-30、1-31又は1-32で示される化合物が好ましく、1-5、1-7、1-22、1-25、1-29、1-30、1-31又は1-32で示される化合物がより好ましい。
【0040】
次に、本発明のピラン誘導体(1)の製造方法(以下、本発明の製造方法と称する。)について説明する。
【0041】
本発明のピラン誘導体(1)は、次の反応式に示される工程1A、工程1B又は工程2により製造することができる。
【0042】
【化11】
【0043】
【化12】
【0044】
【化13】
式中、Aは、電子求引性の二重結合性官能基を表す。R~Rは、各々独立に、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。Rは、各々独立に、水素原子、炭素数1~18のアルキル基、炭素数6~14のアリール基、炭素数2~8のジアルキルアミノ基、炭素数12~24のジアリールアミノ基又は炭素数3~12のトリアルキルシリル基を表す。前記ジアルキルアミノ基及びジアリールアミノ基は、2つのアルキル基又はアリール基が窒素原子を含んで一体となって環を形成してもよい。また、前記ジアルキルアミノ基及びジアリールアミノ基は、2つのアルキル基又はアリール基が酸素原子又は硫黄原子を介して結合し窒素原子を含んで一体となって環を形成してもよい。R4aは炭素数2~8のジアルキルアミノ基又は炭素数12~24のジアリールアミノ基を表す。前記ジアルキルアミノ基及びジアリールアミノ基は、2つのアルキル基又はアリール基が窒素原子を含んで一体となって環を形成してもよい。また、前記ジアルキルアミノ基及びジアリールアミノ基は、2つのアルキル基又はアリール基が酸素原子又は硫黄原子を介して結合し窒素原子を含んで一体となって環を形成してもよい。Arは、各々独立に、炭素数6~18のアリーレン基又は炭素数2~12のヘテロアリーレン基を表し、前記アリーレン基及びヘテロアリーレン基は炭素数1~4のアルキル基で置換されていてもよい。nは1~2の整数を表す。X、X及びXは、各々独立にハロゲン原子を表す。M及びMは、各々独立に、ZnY、MgY、Sn(Y又はB(OYを表す。Y及びYは、各々独立に、炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基を表し、Yは、各々独立に、炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基を表し、Yは、各々独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基を表す。2つの(OY)基は一体となってホウ素原子とともに環を形成していてもよい。
【0045】
工程1Aは化合物(2)と化合物(3)とを反応させ、ピラン誘導体(1a)を製造する工程である。化合物(2)及び化合物(3)における置換基としては、一般式(1)で示されるピラン誘導体の置換基と同様のものを挙げることができる。
【0046】
工程1Aに用いる化合物(2)としては、例えば、下記の2-1~2-6に示す構造の化合物を具体的に例示することができる。X及びXは式(2)と同じ定義である。
【0047】
【化14】
【0048】
及びXで表されるハロゲン原子としては、具体的にはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を例示することができる。
【0049】
化合物(2)は、当業者の良く知る汎用的な方法で製造することができ、例えば、Tetrahedron 1972年,28巻,1001-1008頁に開示されている方法又は合成参考例-1及び3に記載された方法等に従えば、収率よく化合物(2)を得ることができる。また、市販品を用いてもよい。
【0050】
工程1Aに用いる化合物(3)としては、例えば、下記の3-1~3-24に示す構造の化合物を具体的に例示することができる。Mは式(3)と同じ定義である。
【0051】
【化15】
で表される基としては、特に限定されるものではないが、例えばZnY、MgY、Sn(Y、B(OY等が挙げられ、B(OYが好ましい。
【0052】
ZnY、MgYとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ZnCl、ZnBr、ZnI、MgCl、MgBr、MgI等が例示できる。
【0053】
Sn(Yとしては、特に限定されるものではないが、例えば、Sn(Me)、Sn(Bu)等が例示できる。
【0054】
B(OYとしては、特に限定されるものではないが、例えば、B(OH)、B(OMe)、B(OPr)、B(OBu)、B(OPh)等を例示することができる。なお、Meはメチル基、Prはイソプロピル基、Buはブチル基、Phはフェニル基を示す。
【0055】
また、2つの(OY)基が一体となってホウ素原子とともに環を形成している場合のB(OYの例としては、特に限定されるものではないが、例えば、次の(I)~(VI)で表される基が例示でき、収率がよい点で(II)で表される基が好ましい。
【0056】
【化16】
【0057】
化合物(3)は、当業者の良く知る汎用的な方法で製造することができ、例えば、The Journal of Organic Chemistry,1995年,60巻,7508頁、The Journal of Organic Chemistry,2000年,65巻,164頁又はJournal of the chemical Society, Perkin Transactions 1, 2000年、3786頁等に開示されている方法等に従えば、収率よく化合物(3)を得ることができる。また、市販品を用いてもよい。
【0058】
工程1Aは、化合物(2)及び化合物(3)に触媒及び塩基を作用させることが好ましい。
【0059】
工程1Aに用いる触媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、パラジウム触媒を例示することができる。具体的には、
塩化パラジウム、酢酸パラジウム、トリフルオロ酢酸パラジウム、硝酸パラジウム等のパ
ラジウム塩;
π - アリルパラジウムクロリドダイマ- 、パラジウムアセチルアセトナト、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム、ジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム等の錯化合物;および、
ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ジクロロ(1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン)パラジウム、ビス(トリ-tert-ブチルホスフィン)パラジウム、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウム、ジクロロビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウム等の第三級ホスフィンを配位子として有するパラジウム錯体;
を例示することができる。
【0060】
第三級ホスフィンを配位子として有するパラジウム錯体は、パラジウム塩または錯化合物に第三級ホスフィンを添加し、反応系中で調製することもできる。この際用いることのできる第三級ホスフィンとしては、トリフェニルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリ(tert-ブチル)ホスフィン、トリシクロへキシルホスフィン、tert-ブチルジフェニルホスフィン、9,9-ジメチル-4,5-ビス(ジフェニルホスフィノ)キサンテン、2-(ジフェニルホスフィノ)-2’-(N,N-ジメチルアミノ)ビフェニル、2-(ジ-tert-ブチルホスフィノ)ビフェニル、2-(ジシクロへキシルホスフィノ)ビフェニル、ビス(ジフェニルホスフィノ)メタン、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、トリ(2-フリル)ホスフィン、トリ(o-トリル)ホスフィン、トリス(2,5-キシリル)ホスフィン、(±)-2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-ビナフチル、2-ジシクロへキシルホスフィノ-2’,4’,6’-トリイソプロピルビフェニル等が例示できる。
【0061】
第三級ホスフィンを配位子として有するパラジウム錯体が収率のよい点で好ましく、2-ジシクロへキシルホスフィノ-2’,4’,6’-トリイソプロピルビフェニルまたはトリフェニルホスフィンを配位子として有するパラジウム錯体がさらに好ましい。
【0062】
第三級ホスフィンとパラジウム塩または錯化合物とのモル比は1:10~10:1の範囲にあることが好ましく、収率がよい点で1:2~3:1の範囲にあることがさらに好ましい。工程1Aで用いるパラジウム触媒の量に制限はないが、収率がよい点で、パラジウム触媒のモル当量は化合物(3)に対して0.005~0.5モル当量の範囲にあることが好ましい。
【0063】
工程1Aで用いられる塩基としては、特に限定されるものではないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等の金属水酸化物塩; 炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム等の金属炭酸塩; 酢酸カリウム、酢酸ナトリウム等の金属酢酸塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム等の金属リン酸塩;フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウム等の金属フッ化物塩; ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムtert-ブトキシド、カリウムイソプロピルオキシド、カリウムtert-ブトキシド等の金属アルコキシド;等を挙げることができる。中でも反応収率がよい点で、金属炭酸塩、金属リン酸塩及び金属アルコキシドが好ましく、炭酸カリウム、リン酸カリウム又はナトリウムtert-ブトキシドがさらに好ましい。塩基の量に特に制限は無いが、反応収率がよい点で、塩基と化合物(3)とのモル比は、1:2~10:1の範囲にあることが好ましく、1:1~4:1の範囲にあることがさらに好ましい。
【0064】
工程1Aは溶媒中で実施することができる。用いることのできる溶媒に特に制限はなく、反応を阻害しない溶媒であればよい。このような溶媒としては、具体的には、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、アニソール、テトラリン等の芳香族炭化水素;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタン、4-メチルテトラヒドロピラン(MTHP)等のエーテル;クロロホルム、ジクロロメタン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン等のハロゲン溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチルピロリドン(NMP)等のアミド;等を例示することができ、これらを任意の比で混合して用いてもよい。溶媒の使用量に特に制限はない。これらのうち、本発明のピラン誘導体(1a)の反応収率がよい点で芳香族炭化水素、エーテル、ハロゲン溶媒又はこれらの混合溶媒が好ましく、トルエン、THF、ジメトキシエタン又はこれらの混合溶媒がより好ましい。
【0065】
工程1Aを実施する際の反応温度には特に制限はなく、通常は-80~180℃から適宜選択された温度にて実施することができ、本発明のピラン誘導体(1a)の反応収率が良い点で20℃~140℃から適宜選択された温度にて実施することが好ましく、20℃~120℃から適宜選択された温度にて実施することがさらに好ましい。
【0066】
工程1Aは、反応の終了後に通常の処理を行うことで本発明のピラン誘導体(1a)を得ることができる。必要に応じて、再結晶、カラムクロマトグラフィー、昇華、又は分取HPLC等で精製してもよい。
【0067】
工程1Bは化合物(2)と化合物(4)とを反応させ、ピラン誘導体(1b)を製造する工程である。化合物(2)及び化合物(4)における置換基としては、一般式(1)で示されるピラン誘導体の置換基と同様のものを挙げることができる。
【0068】
工程1Bに用いる化合物(2)としては、工程1Aで挙げたものと同様のものを用いることができる。
【0069】
工程1Bに用いる化合物(4)としては、例えば、下記の4-1~4-12に示す構造の化合物を具体的に例示することができる。
【0070】
【化17】
【0071】
化合物(4)は、当業者の良く知る汎用的な方法で製造することができる。また、市販品を用いてもよい。
【0072】
工程1Bで用いることのできる触媒、塩基、溶媒、反応温度、後処理(精製)としては、工程1Aにて例示したものと同じのものを例示することができ、その好ましい構成についても同様である。
【0073】
工程2は、化合物(5)と化合物(6)とを反応させ、ピラン誘導体(1a)を製造する工程である。化合物(5)及び化合物(6)における置換基としては、一般式(1)で示されるピラン誘導体の置換基と同様のものを挙げることができる。
【0074】
工程2に用いる化合物(5)としては、式2-1~2-6で表される化合物におけるX及びXをMに置き換えた構造を例示することができる。Mは式(5)と同じ定義であり、化合物(3)におけるMと同様のものを挙げることができる。
【0075】
工程2に用いる化合物(6)としては、式3-1~3-24で表される化合物におけるMをXに置き換えた構造を例示することができる。Xは式(6)と同じ定義であり、化合物(2)におけるX及びXと同様のものを挙げることができる。
【0076】
工程2で用いることのできる触媒、塩基、溶媒、反応温度、後処理(精製)としては、工程1Aにて例示したものと同じのものを例示することができ、その好ましい構成についても同様である。
【0077】
さらに、本発明のピラン誘導体(1)を含む光電変換素子(以下、「本発明の光電変換素子」と称する。)について説明する。本発明の光電変換素子は、基板、負極層、光電変換層及び正極層を含む。また、必要に応じて負極層と光電変換層との間に正孔輸送層及び/又は電子ブロッキング層を、正極層と光電変換層との間に電子輸送層及び/又は正孔ブロッキング層を設けてもよい。
【0078】
本発明の光電変換素子において、本発明のピラン誘導体(1)をいずれの層に用いても良いが、光電変換層に用いることが好ましい。
【0079】
該光電変換層には、フラーレン誘導体を含んでいてもよい。該フラーレン誘導体としては、[60]フラーレン(C60)、[70]フラーレン(C70)、フェニル-C61-酪酸メチル([60]PCBM)、フェニル-C71-酪酸メチル([70]PCBM)、フェニル-C85-酪酸メチル([84]PCBM)等を例示することができ、[60]フラーレン(C60)又は[70]フラーレン(C70)が好ましい。
【0080】
該光電変換層にフラーレン誘導体を含む場合、本発明のピラン誘導体(1)とフラーレン誘導体の混合比は1:0.01~1:100が好ましく、1:0.1~1:10がさらに好ましい。
【0081】
本発明の光電変換素子は、キャリア輸送性の向上を目的として、負極と光電変換層との間に正孔輸送層を、正極と光電変換層との間に電子輸送層を設けてもよい。正孔輸送層としては、特に限定されるものではなく、正孔の注入または輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよく、具体的にはトリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、また導電性高分子オリゴマーが挙げられる。電子輸送層としては、特に限定されるものではなく、電子の注入または輸送、正孔の障壁性のいずれかを有するものであり、具体的にはニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体又はオキサジアゾール誘導体を例示することができる。また、暗電流発生の抑制を目的として、負極と光電変換層との間に電子ブロッキング層を、正極と光電変換層との間に正孔ブロッキング層を設けてもよい。電子ブロッキング層としては、2,7-ビス(9-カルバゾリル)-9,9-スピロビフルオレン(Spiro-2CBP)、3,7-ビス[4-(9H-カルバゾール-9-イル)フェニル]-2,6-ジフェニルベンゾ[1,2-b:4,5-b‘]ジフラン(CZBDF)等のトリアリールアミン類を挙げることができる。正孔ブロッキング層としては、N,N’-ジ(4-ピリジル)-1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド等のナフタレンテトラカルボン酸ジイミド類、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム(Alq)等を例示することができる。なお、正孔輸送層は電子ブロッキング層を兼ねていてもよく、電子輸送層は正孔ブロッキング層を兼ねていてもよい。
【0082】
本発明の光電変換素子の光電変換層、正孔輸送層、電子輸送層、正孔ブロッキング層及び電子ブロッキング層(以下、「有機層」と称する。)の製造法に特に限定はないが、真空蒸着法による成膜が可能である。真空蒸着法による成膜は、汎用の真空蒸着装置を用いることにより行うことができる。真空蒸着法により膜を形成する際の真空槽の真空度は、有機電界発光素子作製の製造タクトタイムや製造コストを考慮すると、一般的に用いられる拡散ポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオポンプ等により達成しうる1×10-6Pa以上1×10-2Pa以下程度が好ましい。蒸着速度は、形成する膜の厚さによるが、0.005nm/秒以上1.0nm/秒以下が好ましい。また、汎用の装置を用いたスピンコート法、インクジェット法、キャスト法又はディップ法等による成膜も可能である。
【0083】
本発明の光電変換素子の正極層及び負極層は、導線等の電気的な導体を介して電源に接続されている。正極層又は負極層のいずれかは本発明の光電変換素子の基板と接触することができる。基板と接触する電極は便宜上、下部電極と呼ばれる。本発明の光電変換素子に置いては、正極層、負極層のいずれを下部電極としてもよい。
【0084】
本発明の光電変換素子の正極層及び負極層(以下、「電極」と称する。)としては、受光面となる少なくとも一方は光透過性であることが好ましい。光透過性の電極としては、一般的な透明電極材料を用いることができ、インジウム-錫酸化物(ITO)、インジウム-亜鉛酸化物(IZO)、酸化錫、アルミニウム又はインジウム・ドープ型酸化錫、マグネシウム-インジウム酸化物、又はニッケル-タングステン酸化物等の金属酸化物、窒化ガリウム等の金属窒化物、セレン化亜鉛等の金属セレン化物、又は硫化亜鉛等の金属硫化物を例示することができる。光透過性や導電性が良い点で金属酸化物が好ましく、ITO、IZO、酸化錫がさらに好ましい。また、該電極はプラズマ蒸着されたフルオロカーボンで改質することができる。
【0085】
受光面でない他方の電極については、先に例示した透明電極材料に加え、不透明又は反射性の電極材料を使用することができる。該不透明又は反射性の電極材料としては、金、銀、イリジウム、モリブテン、パラジウム、白金、ナトリウム、ナトリウム-カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。
【0086】
本発明の光電変換素子の電極の製造法に特に限定はないが、真空蒸着法、スパッタリング法、電子ビーム蒸着法、化学反応法(ゾル-ゲル法など)、塗布法等による成膜が可能である。
【0087】
本発明の光電変換素子は、基板上に形成される。該基板は、意図される受光方向に応じて、光透過性又は不透明であってよい。光透過性は基板を通して受光するのに好ましく、該基板としては透明ガラス、石英又はプラスチック等を例示することができる。不透明基板としてはシリコン、酸化シリコン等を例示することができる。また該基板は、多重の材料層を含む複合構造であってよい。
【0088】
本発明の光電変換素子の製造方法に特に限定はないが、基板上に電極層、有機層及び電極層を順次成膜することにより製造することができる。なお、予め電極層を成膜した基板を用い、有機層及び電極層を順次成膜してもよい。
【実施例0089】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されるものではない。
H-NMR測定]
H-NMRの測定には、Bruker AVANCE III 400 または AVANCE III HD 400 NMRを用いた。H-NMRは、重溶媒を測定溶媒とし、内部標準物質としてテトラメチルシラン(TMS)を用いて測定した。
[薄膜作製及び膜厚測定]
薄膜作製は真空蒸着法により行い、ELORA-500(アルバック機工(株)製)を用いた。基板は、予めイソプロピルアルコールにより洗浄した後、酸素プラズマ洗浄を行ったものを用いた。膜厚測定には触針式膜厚測定計DektakXT(BRUKER社製)を用いた。
[吸収スペクトル測定]
吸収スペクトル測定には分光光度計V-750(日本分光製)を用いた。スキャンスピード400nm/分で測定を行った。測定試料には真空蒸着法により石英基板上に作製した薄膜を用いた。
[明電流測定]
明電流の測定には太陽電池分光感度測定装置(相馬光学社製)を用いた。照射光強度50μW/cmで測定を行った。
[暗電流測定]
暗電流の測定にはソースメジャーユニット2636B(ケースレー社製)を用いた。
【0090】
試薬類は市販品を用いた。
合成参考例-1
2-(2-(4-ブロモフェニル)-6-(4-クロロフェニル)-4H-ピラン-4-イリデン)マロノニトリル
【0091】
【化18】
【0092】
2-(4-ブロモフェニル)-6-(4-クロロフェニル)-4H-ピラン-4-オン(6.6g,18mmol)、マロノニトリル(1.3g,20mmol)を無水酢酸(90mL)中に懸濁させ、18時間還流した。反応溶液に水を加えて生じた固体をろ取し、水、メタノール及びヘキサンにて洗浄することで2-(2-(4-ブロモフェニル)-6-(4-クロロフェニル)-4H-ピラン-4-イリデン)マロノニトリルを得た(6.2g,83%)。
H-NMR(CDCl):δ7.83(brd,J=8.8Hz,2H),7.76(brd,J=8.8Hz,2H),7.71(brd,J=8.8Hz,2H),7.56(brd,J=8.8Hz,2H).7.19(d,J=2.0Hz,1H),7.18(d,J=2.0Hz,1H).
合成実施例-1
2-(2,6-ビス(4-(ベンゾフラン-2-イル)フェニル)-4H-ピラン-4-イリデン)マロノニトリル(1-5)
【0093】
【化19】
【0094】
アルゴン雰囲気下、2-(2-(4-ブロモフェニル)-6-(4-クロロフェニル)-4H-ピラン-4-イリデン)マロノニトリル(0.30g,0.73mmol)、ベンゾフラン-2-イルボロン酸(0.29g,1.8mmol)、酢酸パラジウム(5.0mg,0.022mmol)及び2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,4’,6’-トリイソプロピルビフェニル(21mg,0.044mmol)をTHF(15mL)中に懸濁させた。この懸濁液に2M-炭酸カリウム水溶液(1.0mL,2.0mmol)を加え、80℃にて18時間撹拌した。反応溶液から沈殿をろ取し、水、メタノール、ヘキサンにて洗浄した。得られた固体を熱トルエンに溶解させ、室温にて静置することで生じた固体をカラムクロマトグラフィー(CHCl)にて精製することで2-(2,6-ビス(4-(ベンゾフラン-2-イル)フェニル)-4H-ピラン-4-イリデン)マロノニトリルを得た(0.050g,5%)。
H-NMR(CDCl):δ8.07(brd,J=8.6Hz,4H),8.02(brd,J=8.6Hz,4H),7.65(brd,J=8.3Hz,2H),7.58(brd,J=8.3Hz,2H),7.37(brdd,J=8.3,7.6Hz,2H),7.29(brdd,J=8.3,7.6Hz,2H),7.28(s,2H),7.24(s,2H).
合成参考例-2
2-(2,6-ビス(4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)フェニル)-4H-ピラン-4-イリデン)マロノニトリル
【0095】
【化20】
【0096】
アルゴン雰囲気下、2-(2-(4-ブロモフェニル)-6-(4-クロロフェニル)-4H-ピラン-4-イリデン)マロノニトリル(2.6g,6.3mmol)、ビス(ピナコラート)ジボロン(3.8g,15mmol)、酢酸パラジウム(43mg,0.19mmol)、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,4’,6’-トリイソプロピルビフェニル(0.18g,0.38mmol)及び酢酸カリウム(4.5g,45mmol)をTHF(60mL)中に懸濁させた。この懸濁液に2M-炭酸カリウム水溶液(1.0mL,2.0mmol)を加え、80℃にて18時間撹拌した。反応溶液に水及びヘキサンを加えることで生じた沈殿をろ取し、水、メタノール、ヘキサンにて洗浄することで2-(2,6-ビス(4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)フェニル)-4H-ピラン-4-イリデン)マロノニトリルを得た(3.0g,87%)。
H-NMR(CDCl):δ7.80(brd,J=8.6Hz,4H),7.89(brd,J=8.6Hz,4H),7.26(s,2H),1.38(s,24H).
合成実施例-2
2-(2,6-ビス(4-(5-(4-(トリメチルシリル)フェニル)フラン-2-イル)フェニル)-4H-ピラン-4-イリデン)マロノニトリル(1-29)
【0097】
【化21】
【0098】
アルゴン雰囲気下、2-(2,6-ビス(4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)フェニル)-4H-ピラン-4-イリデン)マロノニトリル(1.4g,2.5mmol)、(4-(5-ブロモフラン-2-イル)フェニル)トリメチルシラン(1.8g,6.1mmol)及びテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0.15g,0.13mmol)をTHF(25mL)中に懸濁させた。この懸濁液に2M-炭酸カリウム水溶液(6.5mL,13mmol)を加え、80℃にて18時間撹拌した。反応溶液から沈殿をろ取し、水、メタノール、ヘキサンにて洗浄した後、カラムクロマトグラフィー(CHCl3)にて精製することで2-(2,6-ビス(4-(5-(4-(トリメチルシリル)フェニル)フラン-2-イル)フェニル)-4H-ピラン-4-イリデン)マロノニトリルを得た(0.17g,9%)。
H-NMR(CDCl):δ7.98(brd,J=8.6Hz,4H),7.92(brd,J=8.6Hz,4H),7.76(brd,J=8.3Hz,4H),7.60(brd,J=8.3Hz,4H),7.25(s,2H),6.96(d,J=3.7Hz,2H),6.84(d,J=3.7Hz,2H),0.31(s,18H).
合成実施例-3
2-(2,6-ビス(4-(5-モルホリノフラン-2-イル)フェニル)-4H-ピラン-4-イリデン)マロノニトリル(1-25)
【0099】
【化22】
【0100】
アルゴン雰囲気下、2-(2-(4-ブロモフェニル)-6-(4-クロロフェニル)-4H-ピラン-4-イリデン)マロノニトリル(1.3g,3.2mmol)、4-(5-(トリメチルスタンニル)フラン-2-イル)モルホリン(2.4g,7.6mmol)、酢酸パラジウム(72mg,0.16mol)、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,4’,6’-トリイソプロピルビフェニル(0.30g,0.32mmol)及びフッ化セシウム(2.4g,16mmol)をジメトキシエタン(30mL)中に懸濁させ、90℃にて18時間撹拌した。反応溶液から沈殿をろ取し、水、メタノール、ヘキサンにて洗浄した後、カラムクロマトグラフィー(CHCl3)にて精製することで2-(2,6-ビス(4-(5-モルホリノフラン-2-イル)フェニル)-4H-ピラン-4-イリデン)マロノニトリルを得た(0.14g,7%)。
H-NMR(CDCl):δ7.86(brd,J=8.6Hz,4H),7.64(brd,J=8.6Hz,4H),7.16(s,2H),6.80(d,J=3.6Hz,2H),5.34(d,J=3.6Hz,2H),3.91-3.85(m,8H),3.31-3.24(m,8H).
合成実施例-4
2-(2,6-ビス(4-(5-(4-アダマンチルフェニル)フリル)フェニル)-4H-ピラン-4-イリデン)マロノニトリル(1-22)
【0101】
【化23】
【0102】
アルゴン雰囲気下で、2-(2,6-ビス(4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)フェニル)-4H-ピラン-4-イリデン)マロノニトリル(0.7g,2.0mmol)、2-ブロモ-3-メチルベンゾフラン(0.5g,0.83mmol)及びテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(69mg,60μmol)をTHF(10mL)中に溶解させた。この混合液に2M-炭酸カリウム水溶液(3.0mL,6.0mmol)を加え、80℃で22時間撹拌した。その後、懸濁液が熱い状態のまま濾過を行い、水、メタノ-ル、ヘキサン及びトルエンで固体を洗浄し、黄橙色固体の2-(2,6-ビス(4-(5-(4-アダマンチルフェニル)フリル)フェニル)-4H-ピラン-4-イリデン)マロノニトリルを得た(0.33g,収率20%)。
H-NMR(CDCl):δ7.97(d,J=8.6Hz, 4H),7.91(d,J=8.6Hz,4H),7.74(d,J=8.6Hz,4H),7.45(d,J=8.4Hz,4H),7.24(m,2H),6.95(d,J=3.5Hz,2H),6.77(d,J=3.3Hz,2H),2.13(brs,6H),1.96(brs,12H),1.80(brs,12H).
合成実施例-5
2-(2,6-ビス(4-(ジフェニルアミノ)フェニル)-4H-ピラン-4-イリデン)マロノニトリル(1-31)
【0103】
【化24】
【0104】
アルゴン雰囲気下、2-(2-(4-ブロモフェニル)-6-(4-クロロフェニル)-4H-ピラン-4-イリデン)マロノニトリル(1.7g,4.2mmol)、ジフェニルアミン(2.1g,12mmol)、酢酸パラジウム(47mg,0.21mmol)、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,4’,6’-トリイソプロピルビフェニル(0.20g,0.42mmol)及びナトリウムtert-ブトキシド(1.2g,12mmol)をトルエン(40mL)中に懸濁させ、18時間還流した。反応溶液にヘキサンを加えて生じた沈殿をろ取し、これをカラムクロマトグラフィー(CHCl:Hex=3:1)にて精製した。溶媒留去後に得られた固体を熱トルエンに溶解させ、室温にて静置することで2-(2,6-ビス(4-(ジフェニルアミノ)フェニル)-4H-ピラン-4-イリデン)マロノニトリルを得た(0.52g,20%)。
H-NMR(CDCl):δ7.70(brd,J=9.0Hz,4H),7.34(dd,J=8.6,7.3Hz,8H),7.19-7.13(m,12H),7.06(brd,J=9.0Hz,4H),7.02(s,2H).
合成実施例-6
2-(2,6-ビス(4-(3-メチルベンゾフラン-2-イル)フェニル)-4H-ピラン-4-イリデン)マロノニトリル(1-7)
【0105】
【化25】
【0106】
アルゴン雰囲気下で、2-(2,6-ビス(4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)フェニル)-4H-ピラン-4-イリデン)マロノニトリル(1.7g,3.1mmol)、2-ブロモ-3-メチルベンゾフラン(1.2g,7.3mmol)及びテトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0.3g,0.22mmol)をTHF(30mL)中に溶解させた。この混合液に2M-炭酸カリウム水溶液(11mL,22mmol)を加え、80℃で19時間撹拌した。その後、懸濁液が熱い状態のまま濾過を行い、水、メタノ-ル、ヘキサン及びトルエンで固体を洗浄し、橙黄色固体の2-(2,6-ビス(4-(3-メチルベンゾフラン-2-イル)フェニル)-4H-ピラン-4-イリデン)マロノニトリルを得た(1.0g,収率58%)。
H-NMR(CDCl):δ8.05(s,8H),7.61(brd,J=8.2Hz,2H),7.54(brd,J=8.5Hz,2H),7.39-7.36(m,2H),7.30-7.24(m,4H),2.59(s,6H).
合成参考例-3
2-(2-(4-ブロモフェニル)-6-(4-クロロフェニル)-4H-ピラン-4-イリデン)-1H-インデン-1,3(2H)-ジオン
【0107】
【化26】
【0108】
2-(4-ブロモフェニル)-6-(4-クロロフェニル)-4H-ピラン-4-オン(2.0g,5.5mmol)及び1,3-インダンジオン(0.81g,5.5mmol)を無水酢酸中(55mL)に懸濁させ、6時間還流した。反応溶液に水を加えて生じた固体をろ取し、水、メタノール、ヘキサンにて洗浄することで2-(2-(4-ブロモフェニル)-6-(4-クロロフェニル)-4H-ピラン-4-イリデン)-1H-インデン-1,3(2H)-ジオンを得た(2.1g,79%)。
H-NMR(CDCl):δ9.09(d,J=1.8Hz,1H),9.08(d,J=1.8Hz,1H),7.95(brd,J=8.7Hz,2H),7.88(brd,J=8.7Hz,2H),7.84-7.80(m,2H),7.71(brd,J=8.7Hz,2H),7.68-7.65(m,2H),7.55(brd,J=8.7Hz,2H).
合成実施例-7
2-(2,6-ビス(4-(ジフェニルアミノ)フェニル)-4H-ピラン-4-イリデン)-1H-インデン-1,3(2H)-ジオン(1-32)
【0109】
【化27】
【0110】
アルゴン雰囲気下、2-(2-(4-ブロモフェニル)-6-(4-クロロフェニル)-4H-ピラン-4-イリデン)-1H-インデン-1,3(2H)-ジオン(1.0g,2.0mmol)、ジフェニルアミン(1.0g,6.1mmol)、酢酸パラジウム(23mg,0.10mmol)、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,4’,6’-トリイソプロピルビフェニル(95mg,0.20mmol)及びナトリウムtert-ブトキシド(0.59g,6.1mmol)をトルエン(20mL)中に懸濁させ、18時間還流した。反応溶液にヘキサンを加えて生じた沈殿をろ取し、これをカラムクロマトグラフィー(CHCl3)にて精製した。溶媒留去後に得られた固体を熱トルエンに溶解させ、室温にて静置することで2-(2,6-ビス(4-(ジフェニルアミノ)フェニル)-4H-ピラン-4-イリデン)-1H-インデン-1,3(2H)-ジオンを得た(0.49g,33%)。
H-NMR(CDCl):δ8.98(s,2H),7.84(brd,J=8.9Hz,4H),7.77-7.74(m,2H),7.1-7.58(m,2H),7.34(dd,J=8.4,7.4Hz,8H),7.20-7.12(m,12H),7.09(brd,J=8.9Hz,4H).
合成実施例-8
2-(2,6-ビス(4-モルホリノフェニル)-4H-ピラン-4-イリデン)マロノニトリル(1-30)
【0111】
【化28】
【0112】
アルゴン雰囲気下、2-(2-(4-ブロモフェニル)-6-(4-クロロフェニル)-4H-ピラン-4-イリデン)マロノニトリル(0.10g,0.24mmol)、モルホリン(63μL,0.73mmol)、酢酸パラジウム(1.6mg,7.3μmol)、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,4’,6’-トリイソプロピルビフェニル(6.8mg,15μmol)及びナトリウムtert-ブトキシド(70mg,0.73mmol)をトルエン(2mL)中に懸濁させ、18時間還流した。反応溶液をNMRにて分析することで2-(2,6-ビス(4-モルホリノフェニル)-4H-ピラン-4-イリデン)マロノニトリルが生成していることを確認した。
H-NMR(CDCl):δ7.81(d,J=8.8Hz,4H),7.04(s,2H),6.96(d,J=8.8Hz,4H),3.92-3.83(m,8H),3.38-3.27(m,8H).
評価実施例-1
本発明のピラン誘導体を構成成分とする光電変換素子を作製し、その性能評価を行った。
【0113】
基板には、2mm幅のITO膜がストライプ状にパターンされたITO透明電極付きガラス基板を用いた。この基板をイソプロピルアルコールにより洗浄した後、酸素プラズマ洗浄した。洗浄後の基板に、正孔輸送層として3,7-ビス[4-(9H-カルバゾール-9-イル)フェニル]-2,6-ジフェニルベンゾ[1,2-b:4,5-b’]ジフラン(CZBDF、膜厚10nm)、光電変換層として本発明のピラン誘導体(1-31)とフラーレン(C60)の共蒸着膜(膜厚140nm、単膜換算膜厚比2:1)、電子輸送層としてN,N’-ジ(4-ピリジル)-1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド(膜厚10nm)を順に真空蒸着法により成膜した。続いて該成膜基板にITOストライプと直行するようにメタルマスクを配し、正極層としてアルミニウムを0.2nm/秒の成膜速度で真空蒸着した。成膜後、この多層膜を酸素及び水分濃度1ppm以下の窒素雰囲気グローブボックス内で封止し、受光面積4mmの光電変換素子を作製した。封止は、ガラス製の封止キャップとエポキシ型紫外線硬化樹脂(ナガセケムテックス社製)を用いた。
【0114】
評価比較例-1
ピラン誘導体(1-31)の代わりに市販品の2-tert-ブチル-4-(ジシアノメチレン)-6-[2-(1,1,7,7-テトラメチルジュロリジン-9-イル)ビニル]-4H-ピラン(DCJTB)を用いた以外は評価実施例-1と同様の操作を行い、光電変換素子を作製した。
【0115】
表1に評価実施例及び評価比較例において作製した光電変換素子の1×10V/cm印加時の外部量子効率(照射光波長450nm)及び暗電流の測定結果を示した。本発明の光電変換素子は、青色光領域に感度を有する光電変換素子として駆動し、また、評価比較例-1と比較し、高い外部量子効率と低い暗電流を示した。光電変換素子としては、感度の指標である外部量子効率は高い方が好ましく、ノイズの指標である暗電流は低い方が好ましい。したがって本発明の光電変換素子は、評価比較例-1と比較し優れた性能を示すことが分かった。
【0116】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明のピラン化合物(1)は、有機フォトダイオード材料、有機薄膜太陽電池材料、有機半導体レーザー材料、有機ELディスプレイ材料、フォトニック結晶材料等の電子材料等に利用することができる。