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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025070478
(43)【公開日】2025-05-02
(54)【発明の名称】熱硬化性マレイミド樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 283/00 20060101AFI20250424BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20250424BHJP
   C08K 5/3415 20060101ALI20250424BHJP
   C08K 5/3475 20060101ALI20250424BHJP
   C08K 5/34 20060101ALI20250424BHJP
【FI】
C08F283/00
C08L101/00
C08K5/3415
C08K5/3475
C08K5/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023180827
(22)【出願日】2023-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】津浦 篤司
(72)【発明者】
【氏名】堤 吉弘
【テーマコード(参考)】
4J002
4J026
【Fターム(参考)】
4J002AA021
4J002CD051
4J002CH071
4J002EK008
4J002EK038
4J002EU026
4J002EU118
4J002EU178
4J002EU197
4J002EX078
4J002FD146
4J002FD147
4J002FD158
4J002GQ00
4J026AB04
4J026AB22
4J026BA40
4J026DB06
4J026DB13
4J026FA05
4J026GA07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】優れた誘電特性を有しながら銅箔との高い接着力を有し、高温保管や高温高湿保管後でも高い接着力を保持することが可能な硬化物を与える熱硬化性マレイミド樹脂組成物の提供。
【解決手段】(A)下記式(1)で表されるマレイミド化合物、
(B)窒素原子を含有する複素環化合物、
(C)マレイミドを除く熱硬化性樹脂、及び
(D)硬化促進剤
を含む熱硬化性マレイミド樹脂組成物。

(式(1)中、Aは独立して環状構造を有する4価の有機基であり、Bは独立して炭素数6~200の2価炭化水素基であって少なくとも1つはダイマー酸骨格由来の炭化水素基であり、nは0~200である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記式(1)で表されるマレイミド化合物:100質量部、
(B)窒素原子を含有する複素環化合物:0.1~20質量部、
(C)マレイミドを除く熱硬化性樹脂:0.5~50質量部、及び
(D)硬化促進剤:0.1~10質量部
を含む熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
【化1】
(式(1)中、Aは独立して環状構造を有する4価の有機基であり、Bは独立して炭素数6~200の2価炭化水素基であって少なくとも1つはダイマー酸骨格由来の炭化水素基であり、nは0~200であり、nで括られた各繰り返し単位は同一でも異なっていてもよく、その順序は限定されず、結合様式は、交互であっても、ブロックであっても、ランダムであってもよい。)
【請求項2】
式(1)中のAが下記構造式で示される4価の有機基のいずれかである請求項1に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
【化2】
(上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(1)において環状イミド構造を形成するカルボニル炭素と結合するものである。)
【請求項3】
(C)成分が、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、メタクリル基、アクリル基、スチリル基及びアルケニル基から選択される1種以上の官能基を有する熱硬化性樹脂である請求項1に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
【請求項4】
(B)成分が下記式(3)
【化3】
(式(3)中、R2は、水素原子又は下記式(4)で示される基である。)
【化4】
(式(4)中、R3は、独立して炭素数1~6のアルキル基、оは2~10の整数、pは1~3の整数であり、*は結合手を示す。)
で表される1,2,3-ベンゾトリアゾール環を有する複素環化合物である請求項1に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性マレイミド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、5Gという次世代の移動通信システムが普及しつつあり、高速、大容量、低遅延通信を実現しようとしている。これらを実現するためには、高周波帯用の材料が必要であり、ノイズ対策として伝送損失の低減が必須である。そのために、低比誘電率かつ低誘電正接といった誘電特性の優れた絶縁材料の開発が求められている。高周波帯用の誘電特性の優れた絶縁材料に求められる主な特性としては、例えば、高ピール強度、低吸水性、低熱膨張率性、耐熱性などが挙げられる。
【0003】
高周波帯用の材料として、特に基板用途で、このような誘電特性の優れた絶縁材料が求められている。リジッド基板(RPC)やフレキシブル基板(FPC)などの基板は、誘電特性の優れた絶縁材料が求められている。その材料として、反応性ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、液晶ポリマー(LCP)や特性を改良した変性ポリイミド(MPI)と呼ばれる製品が使用されている。
【0004】
上記FPCを製造する際、ベースフィルムやカバーレイフィルムを、配線部分を有する面などに熱プレス等を用いて貼りつけるための接着剤が必要である。従来は、エポキシ樹脂を主に使用した接着剤を用いているが、最近は接着剤も誘電特性の優れた材料が求められるようになってきている。
【0005】
このような背景から、誘電特性が優れる接着剤が報告されている(例えば、特許文献1~4)。その多くは、エポキシ樹脂と、その他の熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂の組成物であり、周波数10GHz以下の領域では優れた誘電特性を有する。しかし、5Gではさらにミリ波と呼ばれる28GHz以上の周波数領域での誘電特性を有することが求められている。そのため、従来の誘電特性に優れると言われた接着剤では、現時点で十分な誘電特性と言えるものはない。
【0006】
また、特殊なマレイミド化合物と熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物が、高周波特性や導体との接着性に優れた組成物として開示されている(特許文献5)。しかしながら、この樹脂組成物は、熱可塑性エラストマーを含有するため耐熱性が低く、高温高湿保管等の信頼性試験に耐えられない可能性がある。接着性に関しても長期間銅箔から剥離しないことが重要である。
【0007】
また、マレイミド化合物と複素環化合物とを含む組成物も報告されている(例えば、特許文献6~8)。これらの組成物は、温度サイクル試験や耐熱試験の結果が良好であるものの、誘電特性に関する記載はなく、高周波領域で求められる誘電特性(低比誘電率・低誘電正接)を有しているとは言えない。
【0008】
さらに、特定のマレイミド化合物を用いた組成物も報告されている(例えば、特許文献9、10)。これらの組成物は、誘電特性(低比誘電率・低誘電正接)と高接着性とを有しているが、高温高湿保管後の接着性に関する記載がなく、改善する必要性を残している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008-248141号公報
【特許文献2】特開2011-68713号公報
【特許文献3】国際公開第2016-17473号
【特許文献4】特開2016-79354号公報
【特許文献5】国際公開第2018-16489号
【特許文献6】特開2018-115233号公報
【特許文献7】特開2017-110051号公報
【特許文献8】特開2005-89659号公報
【特許文献9】特開2021-127438号公報
【特許文献10】特開2022-149589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、優れた誘電特性(低比誘電率・低誘電正接)を有しながら銅箔との高い接着力を有し、高温保管や高温高湿保管後でも高い接着力を保持することが可能な硬化物を与える熱硬化性マレイミド樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、下記熱硬化性マレイミド樹脂組成物が、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
具体的には、以下のような熱硬化性マレイミド樹脂組成物を提供する。
[1]
(A)下記式(1)で表されるマレイミド化合物:100質量部、
(B)窒素原子を含有する複素環化合物:0.1~20質量部、
(C)マレイミドを除く熱硬化性樹脂:0.5~50質量部、及び
(D)硬化促進剤:0.1~10質量部
を含む熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
【化1】
(式(1)中、Aは独立して環状構造を有する4価の有機基であり、Bは独立して炭素数6~200の2価炭化水素基であって少なくとも1つはダイマー酸骨格由来の炭化水素基であり、nは0~200であり、nで括られた各繰り返し単位は同一でも異なっていてもよく、その順序は限定されず、結合様式は、交互であっても、ブロックであっても、ランダムであってもよい。)
[2]
式(1)中のAが下記構造式で示される4価の有機基のいずれかである[1]に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
【化2】
(上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(1)において環状イミド構造を形成するカルボニル炭素と結合するものである。)
[3]
(C)成分が、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、メタクリル基、アクリル基、スチリル基及びアルケニル基から選択される1種以上の官能基を有する熱硬化性樹脂である[1]又は[2]に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
[4]
(B)成分が下記式(3)
【化3】
(式(3)中、R2は、水素原子又は下記式(4)で示される基である。)
【化4】
(式(4)中、R3は、独立して炭素数1~6のアルキル基、oは2~10の整数、pは1~3の整数であり、*は結合手を示す。)
で表される1,2,3-ベンゾトリアゾール環を有する複素環化合物である[1]~[3]のいずれかに記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
また、本発明は、上記[1]~[4]のいずれかに記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物を含む未硬化樹脂フィルム、硬化樹脂フィルム、ボンディングシート、ビルドアップフィルム、接着剤、ソルダーレジスト、レジスト、封止材、プリプレグ及び基板も提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の熱硬化性マレイミド樹脂組成物は、誘電特性に優れ(低比誘電率・低誘電正接)、銅箔に対する接着力に優れる硬化物となるものであり、特に硬化後、高温保管や高温高湿保管後にも高い接着力を保持する。従って、本発明の熱硬化性マレイミド樹脂組成物は、特に銅箔への接着剤として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
【0014】
[(A)マレイミド化合物]
本発明で用いる(A)成分は、下記式(1)で示される特定構造のマレイミド化合物である。
【0015】
【化5】
(式(1)中、Aは独立して環状構造を有する4価の有機基であり、Bは独立して炭素数6~200の2価炭化水素基であって少なくとも1つはダイマー酸骨格由来の炭化水素基であり、nは0~200であり、nで括られた各繰り返し単位は同一でも異なっていてもよく、その順序は限定されず、結合様式は、交互であっても、ブロックであっても、ランダムであってもよい。)
【0016】
(A)成分は熱硬化性樹脂であり、(A)成分を含む本発明の組成物は、耐熱性、機械特性及び接着性が良好な硬化物となり、信頼性の高い硬化物となる。加えて(A)成分はダイマー酸骨格を有しているために誘電特性が良好である。そのため組成物は優れた誘電特性を示す。
【0017】
式(1)中のAで示される有機基は、独立して環状構造を有する4価の有機基であり、特に下記構造式で示される4価の有機基のいずれかであることが好ましい。
【化6】
上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(1)において環状イミド構造を形成するカルボニル炭素と結合するものである。
【0018】
式(1)中のBは独立して炭素数6~200の2価炭化水素基である。Bとしては、それぞれ炭素数6~200の、ダイマー酸骨格由来の炭化水素基、アルキレン基、脂環式炭化水素基及び芳香族基が例示できるが、ダイマー酸骨格由来の炭化水素基であることが好ましい。
【0019】
ダイマー酸とは植物系油脂などの天然物を原料とする炭素数18の不飽和脂肪酸の二量化によって生成された、炭素数36のジカルボン酸を主成分とする液状の脂肪酸であり、ダイマー酸は単一の骨格ではなく、複数の構造を有し、何種類の異性体が存在する。ダイマー酸の代表的なものは下記式で示すような直鎖型(a)、単環型(b)、芳香族環型(c)、多環型(d)という名称で分類される。
なお、一般的に、ダイマー酸には三量体(トリマー酸)が含まれる場合もあるが、ダイマー酸及びトリマー酸由来の炭化水素基のうちダイマー酸由来の炭化水素基が占める割合が例えば95質量%以上、とダイマー酸由来の炭化水素基の割合が高いがことが、誘電特性に優れ、熱時の粘度が下がりやすく成形性に優れ、吸湿の影響も少なくなる傾向にあることから好ましい。
【化7】
【0020】
本明細書において、ダイマー酸骨格とは、このようなダイマー酸のカルボキシ基を1級アミノメチル基で置換した構造を有するダイマージアミンから誘導される基をいう。ダイマー酸骨格由来の炭化水素基としては、上記(a)~(d)で示される各式において、2つのカルボキシ基がアミノメチル基で置換した基を例示することができるがこれらに限定されるものではない。
前記の通り、ダイマー酸骨格は複数の構造を有するため、本明細書では、ダイマー酸骨格由来の炭化水素基をその平均構造として-C3670-と表記する場合がある。
また、(A)成分が有するダイマー酸骨格由来の炭化水素基は、水添反応により、該ダイマー酸骨格由来の炭化水素基中の炭素-炭素二重結合が低減した構造を有するものが、硬化物の耐熱性や信頼性の観点からより好ましい。
【0021】
式(1)、nは0~200であり、好ましくは0~100である。
【0022】
(A)成分を含有しない場合、組成物は接着性と誘電特性が悪化する。加えて溶剤溶解性が低下するため、ワニス状としたときに濁りや分離が発生する。それによって組成物内にムラが発生し、組成物の特性のばらつきが発生するおそれがある。
(A)成分は、本発明の組成物中、1~99質量%含有することが好ましく、5~95質量%含有することがより好ましい。
(A)成分は、1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
[(B)窒素原子を含有する複素環化合物]
本発明で用いる(B)成分は窒素原子を含有する複素環化合物であり、好ましくは、複素環を構成する原子の少なくとも1つが窒素原子である複素環化合物であるが、(A)成分のマレイミド化合物は除く。
本発明の組成物は、(B)成分を配合することで、銅箔との密着性の向上に加え、高温高湿保管後の密着力及び高温保管後の密着力を保持することができる。
【0024】
窒素原子を含有する複素環としては、単環でも複環でもよい。単環としてはピロール環、イミダゾール環、ピラゾール環およびトリアゾール環等の5員環、ピリジン環、ピリミジン環及びトリアジン環等の6員環が挙げられる。複環としてはインドール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環、キノリン環、ビピリジル環およびフェナントロリン環等が挙げられる。
【0025】
(B)成分は下記式(3)で示される1,2,3-ベンゾトリアゾール環を有する複素環化合物が好ましい。
【化8】
(式(3)中、R2は、水素原子又は下記式(4)で示される基である。)
【化9】
(式(4)中、R3は、独立して炭素数1~6のアルキル基、оは2~10の整数、pは1~3の整数であり、*は結合手を示す。)
【0026】
式(4)中、R3の炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。なかでも、R3は、メチル基、エチル基が好ましい。
【0027】
(B)成分の配合量としては、(A)成分100質量部に対して0.1~20質量部であり、0.2~10質量部が好ましい。この範囲内であれば、誘電特性が悪化することなく密着力を向上させることができる。
【0028】
[(C)熱硬化性樹脂]
本発明で用いる(C)成分は、マレイミドを除く熱硬化性樹脂である。本発明の組成物は、(C)成分を配合することにより、硬化性の向上、耐熱性の向上が可能となる。
【0029】
熱硬化性樹脂としては、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、メタクリル基、アクリル基、スチリル基及びアルケニル基から選択される1種以上の熱硬化性官能基を有するものが好ましい。(ただし、(A)成分に該当するマレイミド化合物は除く。)
熱硬化性樹脂としては、例えば、アミン樹脂、スチレン樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、アリル樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、フェノール樹脂、シアネート樹脂、エポキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、メラミン樹脂及びシリコーン樹脂等が挙げられる。中でもエポキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂及びアリル樹脂が好ましい。これらの熱硬化性樹脂は、樹脂骨格に前記熱硬化性官能基を有していてもよく、前記熱硬化性官能基によって変性されたものであってもよい。また、(C)成分は、1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(C)成分の配合量としては、(A)成分100質量部に対して0.5~50質量部であり、1~30質量部が好ましい。この範囲内であれば、硬化性と耐熱性が向上する。
【0030】
[(D)硬化促進剤]
本発明で用いる(D)成分は硬化促進剤である。
(D)成分である硬化促進剤は主に(A)成分のマレイミド化合物と、(C)成分の熱硬化性樹脂の架橋による硬化反応を促進させるために添加する。硬化促進剤としては特に制限されないが、有機過酸化物、イミダゾール化合物、リン系化合物及びアミン化合物から選ばれる1種以上の化合物が好ましい。
【0031】
有機過酸化物の具体例としては、たとえば、ジクミルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3、1,3-ビス(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(tert-ブチルパーオキシ)バレレート、ベンゾイルパーオキサイド、p-クロロベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジアセチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、tert-ブチルクミルパーオキサイド等を挙げることができる。
【0032】
イミダゾール化合物の具体例としては、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2,4-ジアミノ-6-[2'-メチルイミダゾリル-(1')]-エチル-s-トリアジン等のジアミノトリアジン環を有するイミダゾール等が挙げられる。
【0033】
リン系化合物の具体例としては、トリブチルホスフィン、トリ(p-メチルフェニル)ホスフィン、トリ(ノニルフェニル)ホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン・トリフェニルボラン、テトラフェニルホスフィン・テトラフェニルボレート等が挙げられる。
【0034】
アミン化合物の具体例としては、トリエチルアミン、ベンジルジメチルアミン、α-メチルベンジルジメチルアミン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等が挙げられる。
【0035】
(D)成分の配合量としては、(A)成分100質量部に対して0.1~10質量部であり、0.2~5質量部が好ましい。この範囲内であれば、硬化性と保存安定性が両立でき、低誘電特性を維持できる。
【0036】
[その他の添加剤]
本発明の熱硬化性マレイミド樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、更に必要に応じて各種の添加剤を配合することができる。該添加剤としては、シリカやアルミナ、窒化ホウ素を初めとする無機充填材、PTFEパウダーを初めとした樹脂パウダー、銀などの金属粒子、反応性官能基を有するオルガノポリシロキサン、無官能シリコーンオイル、熱可塑性樹脂、スチレン系以外の熱可塑性エラストマー、有機合成ゴム、光増感剤、光安定剤、重合禁止剤、難燃剤、顔料、染料等が挙げられる。また、熱硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化物の電気特性を改善するために、その他の添加剤としてイオントラップ剤等を配合してもよい。さらに、その他の添加剤として、(A)成分以外のマレイミド樹脂、ポリイミド樹脂及びポリアミドイミド樹脂を本発明の効果を損なわない範囲で、本発明の熱硬化性マレイミド樹脂組成物に配合してもよい。
その他の添加剤の配合量は、その種類に応じて、適宜決定されるが、例えば、無機充填材を配合する場合、(A)成分100質量部に対して、1~1,000質量部であることが好ましく、10~500質量部であることがより好ましく、20~300質量部であることが更に好ましい。
【0037】
本発明の熱硬化性マレイミド樹脂組成物は、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分及び必要に応じてその他の添加剤を混合することにより製造することができる。
本発明の熱硬化性マレイミド樹脂組成物は、有機溶剤に溶解してワニスとして扱うこともできる。熱硬化性マレイミド樹脂組成物は、ワニスにすることによってシート状又はフィルム状に成形しやすくなる。有機溶剤は(A)成分及び(C)成分が溶解するものであれば制限なく使用することができる。有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、アニソール、シクロヘキサノン、シクロペンタノン等を好適に用いることができる。上記の有機溶剤は単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。ワニス中の本発明の熱硬化性マレイミド樹脂組成物の濃度は、5~80質量%が好ましく、10~75質量%がより好ましい。
【0038】
この熱硬化性マレイミド樹脂組成物は、主に接着剤、プライマー、基板用のボンディングフィルムやシート材料、封止材、FPC用カバーレイフィルムの接着層、フレキシブルフラットケーブルとして好適に用い得る。使用方法、形態には制限なく使用できる。例えば、未硬化樹脂フィルムや硬化樹脂フィルムとして、また接着剤として使用できる。以下に使用例を例示するが、これに限定されない。
【0039】
例えば、有機溶剤に溶解した熱硬化性マレイミド樹脂組成物(ワニス)を支持シートに塗工した後、通常80℃以上、好ましくは100℃以上の温度で0.5~5時間加熱することによって有機溶剤が除去され、未硬化のフィルム状やシート状の組成物が得られる。該支持シートとしては、繁用のものが利用できる。例えば、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂などのポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂などのポリエステル樹脂、などが挙げられる。また、これら支持シートの表面を離形処理してもよい。また、上記ワニスの塗工方法も特に限定されず、ギャップコーター、カーテンコーター、ロールコーター及びラミネータ等が挙げられる。また、塗工層の厚さも特に限定されないが、溶剤留去後の厚さが1~100μm、好ましくは3~80μmの範囲である。さらに塗工層の上にカバーフィルムを使用してもよい。このようにして作成した未硬化樹脂フィルムや未硬化樹脂シートは、プリプレグなどに好適に使用できる。
【0040】
また、塗工層の上に銅箔を貼り付けて、基板材料として用いることもできる。
【0041】
さらに、基材にワニスを塗布し、通常80℃以上、好ましくは100℃以上の温度で0.5~5時間加熱することによって有機溶剤を除去し、基材に接着したいものを加熱しながら圧着させ、130℃以上、好ましくは150℃以上の温度で0.5~10時間加熱することで、接着剤として使用できる。塗布方法として、スピンコーター、スリットコーター、スプレー、ディップコーター、バーコーター等が挙げられるが特に制限はない。
【実施例0042】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0043】
(A)マレイミド化合物
(A-1):下記式で示されるビスマレイミド化合物(SLK-3000、信越化学工業(株)製)
【化10】
-C3670-はダイマー酸骨格由来の炭化水素基を示す。

(A-2):下記式で示されるビスマレイミド化合物(SLK-1500、信越化学工業(株)製)
【化11】
-C3670-はダイマー酸骨格由来の炭化水素基を示す。

(A-3):下記式で示されるビスマレイミド化合物(SLK-6895、信越化学工業(株)製)
【化12】
-C3670-はダイマー酸骨格由来の炭化水素基を示す。
(A-4):4,4'-ジフェニルメタンビスマレイミド(BMI-1000、大和化成工業(株)製、比較例用)
【0044】
(B)窒素を含有する複素環化合物
(B-1)1,2,3-ベンゾトリアゾール(東京化成工業(株)製)
(B-2)下記式に示す1,2,3-ベンゾトリアゾール環を含むシランカップリング剤(信越化学工業(株)製)
【化13】
【0045】
(C)熱硬化性樹脂
(C-1)トリアリルイソシアヌレート(TAIC、三菱ケミカル(株)製)
(C-2)末端スチレン変性ポリフェニレンエーテル樹脂(OPE-2St-1200、三菱ガス化学(株)製)
(C-3)末端メタクリル変性のポリフェニレンエーテル(SA9000、SABIC(株)製)
(C-4)ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂(NC-3000、日本化薬(株)製)
【0046】
(D)硬化促進剤
(D-1)ジクミルパーオキシド(パークミルD、日油(株)製)
(D-2)2-エチル-4-メチルイミダゾール(2E4MZ、四国化成ホールディングス(株)製)
【0047】
(E)無機充填剤
(E-1)溶融球状シリカ(SO-25R、(株)アドマテックス製、平均粒径0.5μm)のメタクリル基変性シランカップリング剤(KBM-503、信越化学工業(株)製)処理品
【0048】
[実施例1~8、比較例1~3]
表1に示す配合(質量部)で各成分をトルエンに溶解、分散させ、不揮発分が60質量%になるように調整し、樹脂組成物のワニスを得た。
【表1】
(注1)上記式で示される1,2,3-ベンゾトリアゾール環を含むシランカップリング剤
【0049】
<未硬化樹脂フィルムの作製>
上記で調製した熱硬化性マレイミド樹脂組成物のワニスを厚さ38μmのPETフィルム上に、乾燥後の厚さが50μmとなるようにローラーコーターで塗布し、120℃で10分間乾燥させて未硬化樹脂フィルムを得た。
【0050】
<比誘電率、誘電正接>
前記未硬化樹脂フィルムを180℃、2時間の条件で硬化させた樹脂フィルムを切断して、60mm×60mmの試験片を作製した。得られた試験片について、SPDR誘電体共振器(MS46122B、アンリツ(株)製)を使用し、25℃における28GHzでの比誘電率、誘電正接を測定した。
【0051】
<接着性>
10mm×10mmの銅箔に対して、本願の熱硬化性樹脂組成物を塗布し、乾燥後にその上に2mm×2mmのシリコンチップを載置後、上記硬化条件にて樹脂組成物を硬化させることで接着用試験片を作製した。この試験片をボンドテスターDAGE-SERIES-4000PXY(DAGE社製)を用いて、室温(25℃)でのせん断接着力を測定した。
【0052】
<高温高湿保管後接着力>
作製した接着用試験片を85℃、85%RHで100時間保管した後にボンドテスターDAGE-SERIES-4000PXY(DAGE社製)を用いて、室温(25℃)でのせん断接着力を測定した。
高温高湿保管前後のせん断接着力から吸湿後接着力保持率を算出した。
【0053】
以上の評価結果を表2に示す。
【0054】
【表2】
【0055】
以上の結果から、本発明の熱硬化性マレイミド樹脂組成物は硬化物の誘電特性に優れ、高温高湿保管後でも金属や有機樹脂に対しても高い接着力を示すことから、熱硬化性樹脂組成物としての有用性を確認できた。