(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007049
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】研磨用組成物および研磨方法
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20250109BHJP
C09G 1/02 20060101ALI20250109BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20250109BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20250109BHJP
【FI】
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
C09G1/02
H01L21/304 622B
H01L21/304 622D
B24B37/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023108194
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100115679
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 勇毅
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 章太
(72)【発明者】
【氏名】平野 達彦
(72)【発明者】
【氏名】坪田 翔吾
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 昌明
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 雄介
(72)【発明者】
【氏名】芦▲高▼ 圭史
【テーマコード(参考)】
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158CA04
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5F057EA32
5F057FA41
(57)【要約】
【課題】本発明は、SiO2よりもSiNを選択的に高い研磨速度で研磨することができる研磨用組成物および研磨方法を提供する。
【解決手段】有機酸を表面に固定したコロイダルシリカとpH調整剤とを含み、有機酸を表面に固定したコロイダルシリカの平均アスペクト比が1.38以上である、研磨用組成物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機酸を表面に固定したコロイダルシリカとpH調整剤とを含み、
前記コロイダルシリカの平均アスペクト比が1.38以上である研磨用組成物。
【請求項2】
SEM画像解析により算出される前記コロイダルシリカの粒度分布において、微粒子側から積算粒子数が全粒子数の90%に達するときの粒子の直径D90と微粒子側から積算粒子数が全粒子数の10%に達するときの粒子の直径D10の差と、微粒子側から積算粒子数が全粒子数の50%に達するときの粒子の直径D50の比(D90-D10)/D50が70%以上105%以下である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記比(D90-D10)/D50が90%以上105%以下である、請求項2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
pHが7未満である、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
pHが4未満である、請求項4に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
前記pH調整剤は酸である、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
前記有機酸はスルホン酸である、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
SiO2とSiNとを含有する研磨対象物を研磨するときに、前記SiO2に対して前記SiNが選択的に高い研磨速度を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項9】
請求項1または2の研磨用組成物を用いてSiO2とSiNとを含有する研磨対象物を研磨する方法であって、前記SiO2の研磨速度よりも前記SiNの研磨速度が選択的に高いことを特徴とする研磨方法。
【請求項10】
前記SiO2の研磨速度に対する前記SiNの研磨速度の選択比が、6.5以上20以下である、請求項9に記載の研磨方法。
【請求項11】
前記選択比が、10以上20以下である、請求項10に記載の研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物および研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置(デバイス)を製造する際に、半導体基板の表面を研磨して平坦化する、いわゆる化学機械研磨(Chemical Mechanical Polishing:CMP)技術が利用されている。CMPは、シリカやアルミナ、セリア等の砥粒、防食剤、界面活性剤などを含む研磨用組成物(スラリー)を用いて、半導体基板等の研磨対象物(被研磨物)の表面を平坦化する方法である。
研磨対象物となる半導体基板は、シリコン、ポリシリコン(多結晶シリコン)、酸化ケイ素膜(SiO2膜)、窒化ケイ素膜(SiN膜)や、金属等からなる配線、プラグなどの各種材料により構成されている。このため、特定の材料のみを選択的に研磨したいという要求や、例えば、ある材料が他の材料と比べて過度に削られることで基板の中央部分が皿状に凹むディッシング等の問題が存在する。
【0003】
窒化ケイ素膜は化学反応性に乏しく、研磨速度が他の材料と比べて低くなりやすいことから、特に、半導体基板をCMPにより研磨する際に、特に、SiO2膜よりもSiN膜を高い研磨速度で研磨できる研磨用組成物が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
他の材料と比べてSiN膜を高い研磨速度で研磨するために、添加剤を加える組成は種々検討されてきたが、添加剤によらず、砥粒の形状そのものに注目した研磨用組成物は検討されていなかった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、SiN膜を、高い研磨速度で研磨することができる研磨用組成物および研磨方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討を積み重ねた。その結果、有機酸を表面に固定したコロイダルシリカとpH調整剤とを含み、コロイダルシリカの平均アスペクト比が1.38以上である研磨用組成物により、上記課題が解決することを見出した。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、SiN膜を高い研磨速度で研磨できる研磨用組成物および研磨方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施形態を詳細に説明する。なお、以下の実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。また、本明細書において、範囲を示す「X~Y」は、「X以上Y以下」を意味し、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で測定する。
【0010】
本発明の一実施形態は、有機酸を表面に固定したコロイダルシリカとpH調整剤とを含み、コロイダルシリカの平均アスペクト比が1.38以上である、研磨用組成物である。
【0011】
研磨用組成物は、一般に、基板表面を摩擦することによる物理的作用および砥粒以外の成分が基板の表面に与える化学的作用、ならびにこれらの組み合わせによって研磨対象物を研磨するものである。これにより、砥粒の形態や種類は、研磨速度に大きな影響を与えることとなる。
【0012】
本実施形態に係る研磨用組成物は、平均アスペクト比が1.38以上である有機酸を表面に固定したコロイダルシリカを含有する。平均アスペクト比が1.38以上であることは、コロイダルシリカが異形状の粒子からなることを意味する。コロイダルシリカが異形状の粒子であることから、研磨面における転がりが抑制され、研磨面に留まり、機械的力を十分に加えることができるため、好適に研磨することができる。
【0013】
本実施形態に係る研磨方法は、上記本実施形態に係る研磨用組成物を用いて、SiO2とSiNとを含有する研磨対象物を研磨する方法である。SiO2とSiNとを含有する研磨対象物を、上記本実施形態に係る研磨組成物を用いて行った場合に、SiO2に対するSiNの研磨速度を選択的に高くすることができる。
【0014】
<研磨用組成物>
(有機酸を表面に固定したコロイダルシリカ)
本発明の研磨組成物は、砥粒として、有機酸を表面に固定したコロイダルシリカを含む。「有機酸を表面に固定したコロイダルシリカ」とは、砥粒として用いられる、有機酸を表面に化学的に結合させたシリカである。
【0015】
有機酸を表面に固定したコロイダルシリカにおいて、有機酸を固定する前のコロイダルシリカの製造方法としては、ケイ酸ソーダ法、ゾルゲル法が挙げられる。いずれの製造方法で製造されたコロイダルシリカであってもよいが、金属不純物低減の観点から、ゾルゲル法により製造されたコロイダルシリカが好ましい。ゾルゲル法によって製造されたコロイダルシリカは、半導体中で拡散する性質を有する金属不純物や塩化物イオン等の腐食性イオンの含有量が少ないため好ましい。ゾルゲル法によるコロイダルシリカの製造は、従来公知の手法を用いて行うことができ、具体的には、加水分解可能なケイ素化合物(例えば、アルコキシシランまたはその誘導体)を原料とし、加水分解・縮合反応を行うことにより、コロイダルシリカを得ることができる。
【0016】
有機酸を表面に固定したコロイダルシリカにおいて、表面に固定するために使用される当該有機酸としては、例えば、スルホン酸、カルボン酸、リン酸などが挙げられる。これらの中でも、スルホン酸またはカルボン酸が好ましく、さらに負電荷の帯電がしやすい理由から、スルホン酸がより好ましい。なお、コロイダルシリカの表面には、上記有機酸由来の酸性基(例えば、スルホ基、カルボキシル基、リン酸基など)が(場合によってはリンカー構造を介して)共有結合により固定される。
【0017】
有機酸を表面に固定したコロイダルシリカは合成品を用いてもよいし、市販品を用いてもよい。また、有機酸を表面に固定したコロイダルシリカは、単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0018】
有機酸をコロイダルシリカの表面に導入する方法は特に制限されず、例えば、メルカプト基やアルキル基などの状態でコロイダルシリカ表面に導入し、その後、スルホン酸やカルボン酸に酸化するといった方法が挙げられる。また、例えば、有機酸由来の酸性基に保護基が結合した状態でコロイダルシリカ表面に導入し、その後保護基を脱離させるといった方法が挙げられる。また、コロイダルシリカ表面に有機酸を導入する際に使用される化合物は、有機酸基となり得る官能基を少なくとも1つ有し、さらに、コロイダルシリカ表面のヒドロキシル基との結合に用いられる官能基、疎水性・親水性を制御するために導入する官能基、立体的嵩高さを制御するために導入される官能基等を含むことが好ましい。
【0019】
具体的な合成方法として、有機酸の一種であるスルホン酸をコロイダルシリカの表面に固定するのであれば、例えば、“Sulfonic acid-functionalized silica through quantitative oxidation of thiol groups”,Chem.Commun.246-247(2003)に記載の方法で行うことができる。具体的には、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のチオール基を有するシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に過酸化水素でチオール基を酸化することにより、スルホン酸が表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。
【0020】
あるいは、カルボン酸をコロイダルシリカの表面に固定するのであれば、例えば、“Novel Silane Coupling Agents Containing a Photolabile 2-Nitrobenzyl Ester for Introduction of a Carboxy Group on the Surface of Silica Gel”,Chemistry Letters,3,228-229(2000)に記載の方法で行うことができる。具体的には、光反応性2-ニトロベンジルエステルを含むシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に光照射することにより、カルボン酸が表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。
【0021】
研磨用組成物中の有機酸を表面に固定したコロイダルシリカの平均アスペクト比は、1.38以上とするが、1.40以上であればより好ましい。このような範囲であれば、研磨面における転がりが抑制され、研磨対象物を選択的に高速度で研磨することができる。平均アスペクト比が1.38より小さい場合、コロイダルシリカの形状が球体に近づき、研磨対象物を研磨する能力が低下する傾向にある。また、平均アスペクト比の上限は、特に制限されないが、3.0以下であることが好ましく、2.5以下であることがより好ましく、2.0以下であることがさらに好ましい。このような範囲であれば、研磨速度をより向上させることができる。なお、平均アスペクト比は、走査型電子顕微鏡によりコロイダルシリカ粒子の画像に外接する最小の長方形をとり、その長方形の長辺の長さを同じ長方形の短辺の長さで除することにより得られる値の平均であり、一般的な画像解析ソフトウエアを用いて求めることができる。
【0022】
具体的には、走査型電子顕微鏡(SEM)(株式会社日立ハイテク製 製品名:SU8000)で測定した画像から150個以上のシリカ粒子を選び、これらの長径および短径を測定、算出した上で、式「長径/短径」により算出することができる。砥粒のアスペクト比の測定、算出方法の詳細は実施例に記載する。
【0023】
なお、有機酸を表面に固定したコロイダルシリカ粒子のアスペクト比はコロイダルシリカ合成の反応時の条件、特に合成時に使用するアルカリ触媒量を制御することにより、適切に制御することができる。例えば、アルカリ触媒の含有量を少なくすることにより、平均アスペクト比を高くすることができる。また、アルカリ触媒の含有量を多くすることにより、平均アスペクト比を低くすることができる。
【0024】
本発明において、有機酸を表面に固定したコロイダルシリカの形状は、非球形状であることが好ましい。非球形状の具体例としては、三角柱や四角柱等の多角柱状、円柱状、円柱の中央部が端部よりも膨らんだ俵状、円盤の中央部が貫通しているドーナツ状、板状、中央部にくびれを有するいわゆる繭型形状、複数の粒子が一体化しているいわゆる会合型球形状、表面に複数の突起を有するいわゆる金平糖形状、ラグビーボール形状等、種々の形状が挙げられ、特に制限されない。
【0025】
有機酸が表面に固定したコロイダルシリカ粒子のSEMにより求められる粒度分布において、微粒子側から積算粒子数が全粒子数の90%に達するときの粒子の直径(D90)から全粒子の全粒子数の10%に達するときの粒子の直径(D10)を引いた値と、全粒子の全粒子数の50%に達するときの粒子の直径(D50)との比である個数分布率(D90-D10)/D50は、70%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましく、100%以上であることが特に好ましい。また、有機酸が表面に固定したコロイダルシリカ粒子のSEMにより求められる粒度分布において、個数分布率(D90-D10)/D50は、105%以下であることが好ましい。このような範囲であれば、表面欠陥を抑制しつつ研磨対象物を選択的に高い研磨速度で研磨することができる。個数分布率が低い場合、粒子がSiN上に密に付着しすぎることで粒子の転がりが抑制されることからSiNの研磨速度が抑制され、また個数分布率が高すぎる場合、SiO2と研磨速度が上昇するため、いずれの場合もSiNを選択的に研磨をすることができなくなる。
【0026】
研磨用組成物中の有機酸を表面に固定したコロイダルシリカの平均一次粒子径は、特に制限されず、例えば5nm~100nm程度の範囲から適宜選択することができる。隆起解消性向上の観点から、平均一次粒子径は、5nm以上であることが好ましく、7nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることがさらに好ましい。また、スクラッチの発生防止の観点から、平均一次粒子径は、通常、100nm以下であることが有利であり、80nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましく、30nmであることがさらに好ましい。なお、有機酸を表面に固定したコロイダルシリカの平均一次粒子径の値は、例えば、BET法で測定される有機酸を表面に固定したコロイダルシリカの比表面積に基づいて算出することができる。なお、シリカ粒子の平均一次粒子径は、コロイダルシリカ合成の反応時の条件、特に反応温度(つまり、反応時の液温)により制御することができる。反応温度を高くすることにより、平均一次粒子径を小さくすることができる。また、反応温度を低くすることにより、平均一次粒子径を大きくすることができる。
【0027】
また、研磨用組成物中の有機酸を表面に固定したコロイダルシリカの平均二次粒子径は、特に制限されず、例えば、10nm~200nm程度の範囲から適宜選択することができる。有機酸を表面に固定したコロイダルシリカの平均二次粒子径は、10nm以上であることが好ましく、15nm以上であることがより好ましく、20nm以上であることがさらに好ましく、25nm以上であることがよりさらに好ましく、30nm以上であることが特に好ましい。また、有機酸を表面に固定したコロイダルシリカの平均二次粒子径は、200nm以下であることが好ましく、180nm以下であることがより好ましく、150nm以下であることがさらに好ましく、100nm以下であることが特に好ましい。なお、有機酸を表面に固定したコロイダルシリカの平均二次粒子径の値は、例えば、レーザー光を用いた光散乱法測定に基づいて算出することができる。
【0028】
有機酸を表面に固定したコロイダルシリカ粒子の個数分布率((D90-D10)/D50)は、上記アスペクト比、一次粒子径等製造方法の選択により適切に制御することができる。
【0029】
砥粒の濃度(含有量)は特に制限されないが、研磨用組成物の総重量に対して、0.1重量%以上であることが好ましく、0.3重量%以上であることがより好ましく、0.5重量%以上であることがさらに好ましく、0.8%以上であることが特に好ましい。また、砥粒の濃度(含有量)の上限は、研磨用組成物の総重量に対して、20重量%以下であることが好ましく、15重量%以下であることがより好ましく、10重量%以下であることがさらに好ましく、5重量%以下であることが特に好ましい。すなわち、砥粒の濃度(含有量)は、研磨用組成物の総重量に対して、0.1重量%以上20重量%以下が好ましく、0.3重量%以上15重量%以下がより好ましく、0.5重量%以上10重量%以下がさらに好ましく、0.8重量%以上5重量%以下が特に好ましい。このような範囲であれば、コストを抑えながら、研磨速度を向上させることができる。なお、研磨用組成物が2種以上の砥粒を含む場合には、砥粒の濃度(含有量)は、これらの合計量を意味する。
【0030】
(pH調整剤)
本実施形態に係る研磨用組成物は、SiNの研磨速度を高く維持できる観点から、pHの値が7よりも小さく、pHの値が6以下が好ましく、4以下がより好ましく、3以下がさらに好ましく、2.5以下が最も好ましい。また、研磨用組成物のpHの値は、安全性の観点から1以上であることが好ましく、2以上であることがより好ましい。
【0031】
研磨用組成物のpHの値は、pH調節剤の添加により調整することができる。使用されるpH調節剤は、酸及び塩基のいずれであってもよいが、酸、またはその塩であることが好ましい。
【0032】
酸は、特に制限されず、無機酸であっても有機酸であってもよい。無機酸の具体例としては、リン酸(オルトリン酸)、硝酸、硫酸、塩酸、ホウ酸、スルファミン酸、ホスフィン酸、ホスホン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、テトラポリリン酸、ヘキサメタリン酸、炭酸、フッ化水素酸、亜硫酸、チオ硫酸、塩素酸、過塩素酸、亜塩素酸、ヨウ化水素酸、過ヨウ素酸、ヨウ素酸、臭化水素酸、過臭素酸、臭素酸、クロム酸、亜硝酸等が挙げられる。
【0033】
有機酸の具体例としては、クエン酸、マレイン酸、リンゴ酸、グリコール酸、コハク酸、イタコン酸、マロン酸、イミノ二酢酸、グルコン酸、乳酸、マンデル酸、酒石酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、アジピン酸、シュウ酸、吉草酸、エナント酸、カプロン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、シクロヘキサンカルボン酸、フェニル酢酸、安息香酸、クロトン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノレン酸、メタクリル酸、グルタル酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、タルトロン酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ酢酸、ヒドロキシ安息香酸、サリチル酸、イソクエン酸、メチレンコハク酸、没食子酸、アスコルビン酸、ニトロ酢酸、オキサロ酢酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸等の有機カルボン酸;グリシン、アラニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、プロリン、シスチン、グルタミン、アスパラギン、リシン、アルギニン等のアミノ酸;ニコチン酸;ピクリン酸;ピコリン酸;フィチン酸;1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸、エタンヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸、α-メチルホスホノコハク酸、アミノポリ(メチレンホスホン酸)等の有機ホスホン酸;メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、アミノエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、スルホコハク酸、10-カンファースルホン酸、イセチオン酸、タウリン等の有機スルホン酸等が挙げられる。
【0034】
また、前記の酸の代わりに、または前記の酸と組み合わせて前記酸のアンモニウム塩やアルカリ金属塩等の塩を用いてもよい。
【0035】
本実施形態に係る研磨用組成物は、pH調整剤として塩基を含んでもよく、含まなくてもよい。塩基の具体例としては、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニア、テトラメチルアンモニウムおよびテトラエチルアンモニウムなどの第4級アンモニウム塩、エチレンジアミンおよびピペラジンなどのアミン等が挙げられる。
【0036】
これらのpH調整剤は、単独でも2種以上混合しても用いることができる。
【0037】
なお、研磨用組成物のpHは、例えばpHメータにより測定することができる。
【0038】
(分散媒)
本発明の実施形態に係る研磨用組成物は、液状媒体を含む。研磨用組成物の各成分(有機酸を表面に固定したコロイダルシリカ、pH調整剤などの添加剤)を分散又は溶解するための分散媒又は溶媒として機能する。液状媒体としては水、有機溶剤が挙げられ、1種を単独で用いることができるし、2種以上を混合して用いることができるが、水を含有することが好ましい。ただし、各成分の作用を阻害することを防止するという観点から、不純物をできる限り含有しない水を用いることが好ましい。具体的には、イオン交換樹脂にて不純物イオンを除去した後にフィルタを通して異物を除去した純水や超純水、あるいは蒸留水が好ましい。
【0039】
(水溶性高分子)
本発明の実施形態に係る研磨用組成物は、水溶性高分子を添加してもよく、添加しなくてもよい。水溶性高分子の具体例としては、メチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース等のセルロース類や、キトサン等の多糖類や、ポリエチレングリコール等のポリアルキレングリコール、ポリエチレンイミン、ポリ-N-ビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸(又はその塩)、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド等のポリマー類が挙げられる。これらの中でも、ポリエチレングリコールが好ましく、SiO2膜の研磨速度に対するSiN膜の研磨速度の選択比を向上することができる。
【0040】
(防食剤)
本実施形態に係る研磨用組成物には、防食剤を添加してもよく、添加しなくてもよい。防食剤は研磨対象物の表面の腐食を抑制する作用を有する。防食剤の具体例としては、アミン類、ピリジン類、テトラフェニルホスホニウム塩、ベンゾトリアゾール類、トリアゾール類、テトラゾール類、安息香酸等が挙げられる。
【0041】
(防腐剤、防カビ剤)
本実施形態に係る研磨用組成物には、防腐剤や防カビ剤を添加してもよく、添加しなくてもよい。防腐剤、防カビ剤の具体例としては、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン等のイソチアゾリン系防腐剤や、パラオキシ安息香酸エステル類や、フェノキシエタノールが挙げられる。
【0042】
(酸化剤)
本実施形態に係る研磨用組成物には、酸化剤を添加してもよく、添加しなくてもよい。酸化剤は研磨対象物の表面を酸化する作用を有し、研磨用組成物中に酸化剤を加えた場合は、研磨用組成物による研磨速度の向上効果がある。
過酸化物の具体例としては、過酸化水素、過酢酸、過炭酸塩、過酸化尿素、過塩素酸、過硫酸塩(例えば過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム)等の過酸化物が挙げられる。
【0043】
(その他の成分)
本発明の実施形態に係る研磨用組成物は、研磨用組成物の分野で使用される、公知の他の成分をさらに含んでもよく、含まなくてもよい。他の成分としては、特に制限されないが、例えば、研磨促進剤、界面活性剤、電気伝導度調整剤等が挙げられる。
【0044】
(研磨対象物)
本実施形態に係る研磨用組成物は、酸化ケイ素膜(SiO2膜)と比べて窒化ケイ素膜(SiN膜)の研磨速度を選択的に高い研磨速度にすることが可能である。このため、研磨対象物はSiO2膜とSiN膜を含むことが好ましい。ただし、研磨対象物の種類はSiO2膜とSiN膜に限定されるものではなく、単体シリコン、SiO2膜及びSiN膜以外のシリコン化合物、金属などであってもよい。単体シリコンとしては、例えば単結晶シリコン、ポリシリコン、アモルファスシリコン等が挙げられる。また、シリコン化合物としては、例えば、二酸化ケイ素、炭化ケイ素等が挙げられる。二酸化ケイ素は、テトラエトキシシラン((Si(OC2H5)4))を用いて形成される膜(以下、TEOS膜)であってもよい。
【0045】
(研磨速度)
上記したように、本発明に係る研磨用組成物は、SiO2に対してSiNを選択的に高い研磨速度で研磨することができる。本発明において、SiNの研磨速度は、180Å/min以上であることが好ましく、200Å/min以上であることがより好ましく、250Å/min以上であることがさらに好ましい。また、SiO2の研磨速度は、40Å/min以下であることが好ましく、45Å/min以下であることがより好ましく、30Å/min以下であることがさらに好ましい。
【0046】
(選択比)
本発明において、SiO2の研磨速度に対するSiNの研磨速度の選択比は7以上であることが好ましく、8以上であることがより好ましく、10以上であることがさらに好ましい。また、SiO2の研磨速度に対するSiNの研磨速度の選択比は30以下であることが好ましく、25以下であることがより好ましく、20以下であることがさらに好ましい。当該選択比が上記範囲を外れる場合、最終的に得られる研磨後の研磨対象物の表面状態が劣る場合がある。
【0047】
<研磨方法>
本発明は、本発明の実施形態に係る研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨する、研磨方法を提供する。
【0048】
(研磨装置の構成)
研磨装置の構成は特に限定されるものではないが、例えば、研磨対象物を有する基板等を保持するホルダーと、回転速度を変更可能なモータ等の駆動部と、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤と、を備える一般的な研磨装置を使用することができる。研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、液状の研磨用組成物が溜まるような溝加工が施されているものを使用することができる。
【0049】
(研磨条件)
研磨条件は特に制限はないが、例えば、研磨定盤の回転速度は、10rpm(0.17s-1)以上500rpm(8.3s-1)が好ましい。研磨対象物を有する基板にかける圧力(研磨圧力)は、0.5psi(3.4kPa)以上10psi(68.9kPa)以下が好ましい。一般に荷重が高くなればなるほど砥粒による摩擦力が高くなり、機械的な加工力が向上するため研磨速度が上昇する。この範囲であれば、より高い研磨速度が発揮され、荷重による基板の破損や、表面に傷などの欠陥が発生することをより抑制することができる。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、ポンプ等で連続的に供給する方法が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に本発明の一態様の研磨用組成物で覆われていることが好ましい。
【0050】
本発明の実施形態に係る研磨用組成物は、一液型であってもよいし、二液型をはじめとする多液型であってもよい。また、研磨用組成物は、研磨用組成物の原液を水などの希釈液を使って、例えば10倍以上に希釈することによって調整されてもよい。
【0051】
研磨終了後、基板を例えば流水で洗浄し、スピンドライヤ等により基板上に付着した水滴を払い落として乾燥させることにより、例えばシリコン含有材料を含む層を有する基板が得られる。このように、本実施形態に係る研磨用組成物は、基板の研磨の用途に用いることができる。本実施形態に係る研磨用組成物を用いて、半導体基板(基板の一例)上に設けられたSiN膜等の研磨対象物の表面を研磨することにより、研磨済み半導体基板を製造することができる。半導体基板としては、例えば、単体シリコン、シリコン化合物、金属等を含む層を有するシリコンウェーハが挙げられる。
【0052】
<基板の製造方法>
本実施形態に係る基板の製造方法は、上記の研磨用組成物を用いて、基板の表面を研磨する工程を含む。この工程における研磨の方法は、例えば<研磨方法>の欄に記載した通りである。
【実施例0053】
本発明の一実施形態を、以下の実施例及び比較例を用いてさらに詳細に説明するが、以下の実施例は本発明の一例を示したものであって、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。また、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件下で行われた。
【0054】
各研磨用組成物の物性測定は、下記の方法に従って行った。
【0055】
(アスペクト比)
各研磨組成物中の有機酸を表面に固定したコロイダルシリカについて、走査型電子顕微鏡SU8000(株式会社日立ハイテク製)を用いて、粒子形状を観測した。撮影されたSEM画像を画像解析式粒度分布測定ソフトウェアMac-View Ver.4(株式会社マウンテック製)を用いて、アスペクト比(平均アスペクト比)を算出した。
【0056】
なお、アスペクト比は、SEMにより150個以上のコロイダルシリカ粒子についてSEM画像を撮影し、その画像を解析したものである。平均アスペクト比は、個々の粒子において、面積が最小となる外接する四角形の短径および長径を求め、各粒子のアスペクト比を下記式より(各)アスペクト比を算出して、平均したものである。なお、平均アスペクト比の算出に用いる有機酸を表面に固定したコロイダルシリカは、撮影されたSEM画像のすべての粒子を対象とする。すなわち、アスペクト比は、以下の式にしたがって求められる。
アスペクト比=(面積が最小となる外接する四角形の長径)/(面積が最小となる外接する四角形の短径)
【0057】
<研磨用組成物の調製>
(実施例1)
溶媒としての水に、スルホン酸基を表面に固定したコロイダルシリカ(平均アスペクト比1.39、個数分布率((D90-D10)/D50))70.6)、pH調整剤として硝酸を添加し、攪拌混合して、研磨用組成物を調整した(混合温度約25℃、混合時間:約10分)。pHメータにより測定した研磨用組成物のpHは2.3であった。
【0058】
(実施例2~5、比較例1~7)
スルホン酸基を表面に固定したコロイダルシリカの平均アスペクト比および個数分布率、ならびに研磨用組成物のpH等を表1のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして実施例2~5および比較例1~7に係る研磨用組成物を調製した。
【0059】
(比較例8)
スルホン酸基を表面に固定したコロイダルシリカに代わり、未修飾のコロイダルシリカ(平均アスペクト比1.42、個数分布率103.3)を用いたこと以外は、実施例5と同様にして比較例8に係る研磨用組成物を調整した。
【0060】
<研磨試験>
(研磨装置及び研磨条件)
実施例1~5および比較例1~8において、調整した各研磨用組成物を使用して、研磨対象物の表面を下記の条件で研磨した。研磨対象物としては、表面に厚さ10000ÅのSiO2膜(TEOS膜)または5000ÅのSiN膜を形成したシリコンウェーハ(300mm、ブランケットウェーハ)を使用した。
研磨装置:株式会社荏原製作所製300mm用CMP片面研磨装置 FREX300E
パッド:ニッタハース株式会社製 硬質ポリウレタンパッド IC1000
研磨圧力:2.0psi
研磨定盤回転数:93rpm
キャリア回転数:87rpm
研磨用組成物の供給:掛け流し
研磨用組成物供給量:300ml/分
研磨時間:60秒間
【0061】
(研磨速度の評価)
研磨速度は、厚みを光学式膜厚測定器(ASET-f5x:ケーエルエー・テンコール社製)で求め、(研磨前の厚み)-(研磨後の厚み)を研磨時間で除することにより研磨速度とした。
【0062】
研磨速度の評価結果を表1に示す。
【0063】
【0064】
表1に示すように、実施例1~5の研磨用組成物を用いた場合、SiO2の研磨速度が30Å/minよりも低く、SiO2膜の研磨速度に対するSiNの研磨速度が高いこと、比較例1~8の研磨用組成物を用いた場合と比べてSiO2の研磨速度が低く、研磨対象物であるSiN膜を選択的に研磨できることがわかった。また、砥粒として未修飾のコロイダルシリカを使用した比較例8では、SiNの研磨速度がSiO2の研磨速度よりも低く、SiN膜を選択的に研磨できないことがわかった。