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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007147
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】シールド構造及びシールドコネクタ
(51)【国際特許分類】
   H01R 13/6596 20110101AFI20250109BHJP
   H05K 9/00 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
H01R13/6596
H05K9/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023108353
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅ヶ谷 菖一
(72)【発明者】
【氏名】達川 永吾
(72)【発明者】
【氏名】島貫 斉史
【テーマコード(参考)】
5E021
5E321
【Fターム(参考)】
5E021FB07
5E021FB20
5E021FC21
5E021LA09
5E021LA20
5E021MA40
5E021MB08
5E321AA03
5E321AA05
5E321CC01
5E321GG05
5E321GG09
(57)【要約】
【課題】電力の出力側と入力側との間で通信に係る周波数帯のノイズを抑える。
【解決手段】シールド構造は、車両において電力が入力される入力部へ電力を供給する導体を覆い、導電性を有するシールドと、前記入力部を覆う導電性を有する筐体に前記シールドを電気的に接続する接続部と、前記シールドと前記筐体との間を絶縁する絶縁部と、を有し、前記シールドのインダクタンス成分と、前記絶縁部のキャパシタンス成分により共振回路が形成され、前記車両におけるノイズの周波数が前記共振回路の共振周波数を含む抑制帯域に含まれる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両において電力が入力される入力部へ電力を供給する導体を覆い、導電性を有するシールドと、
前記入力部を覆う導電性を有する筐体に前記シールドを電気的に接続する接続部と、
前記シールドと前記筐体との間を絶縁する絶縁部と、
を有し、
前記シールドのインダクタンス成分と、前記絶縁部のキャパシタンス成分により共振回路が形成され、
前記車両におけるノイズの周波数が前記共振回路の共振周波数を含む抑制帯域に含まれる
シールド構造。
【請求項2】
前記シールドにおいて前記筐体に対向する面の少なくとも一部に絶縁性を有する絶縁層が設けられている
請求項1に記載のシールド構造。
【請求項3】
少なくとも前記シールド又は前記筐体の一方が磁性体を有する請求項1に記載のシールド構造。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のシールド構造を有し、
前記導体は、前記電力の出力部に接続された第1導体と前記入力部に接続された第2導体からなり、
前記第1導体と前記第2導体とを接続する導体接続部を有する
シールドコネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド構造及びシールドコネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
車両で発生する電磁波のシールドに係る発明として、例えば特許文献1に開示された発明がある。特許文献1に開示されたシールドコネクタは、絶縁性の合成樹脂からなるハウジングと、導電性金属からなるシールドシェルを有し、シールドシェルがボルトによって金属製の筐体に固定される。また、シールドシェルは、突起を有し、この突起が筐体の凹部に嵌め入れられる。突起が筐体の凹部に挿入された状態でボルトにより筐体に固定されることにより、シールドシェルと筐体との間に隙間が発生するのが抑えられ、シールド性能の低下が防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-76438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動車では非常に数多くの電装品が搭載されており、この電装品が通信を行う際に用いる信号の周波数も様々である。例えば、自動車で採用される通信の規格としては、LIN(Local Interconnect Network)があるが、この規格に従った通信では、kHz帯の通信周波数で通信が行われる。また、自動車で採用される通信の規格としてBluetooth(登録商標)があるが、この規格に従った通信では、GHz帯の通信周波数で通信が行われる。このように自動車においては、様々な通信周波数で通信が行われるため、電装品の接続に関係するハーネスやコネクタは、通信周波数帯に対してノイズの対策が重要となる。
【0005】
特許文献1に開示されたシールドコネクタは、シールドシェルがボルトによって金属製の筐体に固定されることにより、筐体とシールドシェルとの隙間が抑えられ、GHz帯の放射ノイズが低減される可能性があるが、GHz帯より低い周波数帯の放射ノイズに対しては、低減に寄与しないという課題がある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、電力の出力側と入力側との間で通信に係る周波数帯のノイズを抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るシールド構造は、車両において電力が入力される入力部へ電力を供給する導体を覆い、導電性を有するシールドと、前記入力部を覆う導電性を有する筐体に前記シールドを電気的に接続する接続部と、前記シールドと前記筐体との間を絶縁する絶縁部と、を有し、前記シールドのインダクタンス成分と、前記絶縁部のキャパシタンス成分により共振回路が形成され、前記車両におけるノイズの周波数が前記共振回路の共振周波数を含む抑制帯域に含まれる。
【0008】
本発明の一態様に係るシールド構造においては、前記シールドにおいて前記筐体に対向する面の少なくとも一部に絶縁性を有する絶縁層が設けられていてもよい。
【0009】
本発明の一態様に係るシールド構造は、少なくとも前記シールド又は前記筐体の一方が磁性体を有していてもよい。
【0010】
本発明に係るシールドコネクタは、上記のいずれかのシールド構造を有し、前記導体は、前記電力の出力部に接続された第1導体と前記入力部に接続された第2導体からなり、前記第1導体と前記第2導体とを接続する導体接続部を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電力の出力側と入力側との間で通信に係る周波数帯のノイズを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施形態に係るシールド構造の断面の模式図である。
図2図2は、第1絶縁部の配置例を示す図である。
図3図3は、変形例に係るシールド構造の断面の模式図である。
図4図4は、変形例に係るシールド構造の断面の模式図である。
図5図5は、変形例に係るシールド構造の断面の模式図である。
図6A図6Aは、第1実施例の周波数特性を示すグラフである。
図6B図6Bは、第2実施例の周波数特性を示すグラフである。
図6C図6Cは、第3実施例の周波数特性を示すグラフである。
図6D図6Dは、第4実施例の周波数特性を示すグラフである。
図6E図6Eは、比較例の周波数特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態により本発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一又は対応する要素には適宜同一の符号を付している。さらに、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係などは、現実のものとは異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0014】
[実施形態]
図1は、本発明の実施形態に係るシールド構造1の断面の模式図である。シールド構造1は、車両において電力を出力する出力側と電力が入力される入力側との間でノイズを抑制する構造である。例えば車両がモータで車輪を駆動する電気自動車やハイブリッド車の場合、電力の出力側は、車両が備える二次電池であり、電力の入力側は、モータを駆動するインバータである。なお、電力の出力側は、二次電池を充電する充電器であり、電力の入力側は、二次電池であってもよい。シールド構造1は、ハウジング12、第1シールド13、固定部13a、金属板14、第1絶縁部15、ボルト16で構成されている。なお、第2シールド22がシールド構造1に含まれていてもよい。
【0015】
第1電線21は、電力の出力側に接続された電線である。第1電線21は、導電性を有し、径方向に沿った断面が円形状の複数の素線を撚って形成された芯線と、芯線を被覆した絶縁性を有するシースで形成されている。第1電線21の芯線は、例えば銅であるが導電性を有する他の金属で形成されていてもよい。
【0016】
第2シールド22は、第1電線21を被覆したシールドであり、導電性を有する金属で形成されている。第2シールド22は、例えばアルミニウムで形成されているが、導電性を有する他の金属で形成されていてもよい。第2シールド22は、第1電線21において第1シールド13より出力側にある部分を覆っている。
【0017】
第2電線31は、導電性を有し、径方向に沿った断面が円形状の複数の素線を撚って形成された芯線と、芯線を被覆した絶縁性を有するシースで形成されている。第2電線31の芯線は、例えば銅であるが導電性を有する他の金属で形成されていてもよい。入力部33は、インバータの回路であり、第1電線21及び第2電線31を介して電力が入力される。筐体32は、インバータの回路である入力部33を収納する筐体であり、導電性を有する金属で形成されている。筐体32は、第2電線31において第1シールド13より入力側にある部分も収納している。
【0018】
導体接続部11は、第1電線21の芯線と、第2電線31の芯線を電気的に接続する端子であり、導電性を有する金属で形成されている。導体接続部11は、本発明に係るコネクタの一例である。また、シールド構造1が導体接続部11を収納した構成は、本発明に係るシールドコネクタの一例である。ハウジング12は、絶縁性を有する合成樹脂で形成されている。ハウジング12を形成する合成樹脂は、例えばポリエチレンであるが他の合成樹脂であってもよい。導体接続部11、第1電線21の端部及び第2電線31の端部は、ハウジング12の内部に収納される。第1シールド13は、導電性を有する金属で形成されており、ハウジング12を内部に収納している。第1シールド13は、例えばアルミニウムで形成されているが、導電性を有する他の金属で形成されていてもよい。第1シールド13は、固定部13aを備えている。固定部13aは、第1シールド13に一体で第1シールド13から上方向へ突出して形成されており、ボルト16が貫通する孔が形成されている。金属板14は、導電性を有する金属で板状に形成されており、第1シールド13の内部に収納されている。ボルト16は、第1シールド13を筐体32に固定するボルトである。ボルト16は、固定部13aに設けられた孔に通されて筐体32に設けられたネジ穴に挿入され、第1シールド13を筐体32に固定する。固定部13a及びボルト16は、本発明に係る接続部の一例である。
【0019】
図2は、第1絶縁部15の配置例を示す図である。第1絶縁部15は、例えば絶縁性を有するゴムで形成されている。第1絶縁部15は、第1シールド13と筐体32との間に配置される。なお、図2では、4個の第1絶縁部15が配置されている例を示しているが、第1シールド13と筐体32との間に配置される第1絶縁部15の数は、4個未満又は5個以上であってもよい。また、図2に示す第1絶縁部15の配置位置は一例であり、第1絶縁部15の配置位置は、第1シールド13において筐体32に対向する領域で筐体32に接する他の位置であってもよい。第1絶縁部15が第1シールド13と筐体32との間に配置されることにより、第1シールド13と筐体32との間には、電気的に導通する部分と、第1絶縁部15により絶縁される領域が形成される。
【0020】
シールド構造1では、少なくとも第1シールド13及び第2シールド22がインダクタンス成分を有する。また、シールド構造1では、第1シールド13と筐体32との間に第1絶縁部15を設けて第1シールド13と筐体32との間を意図的に絶縁することにより、第1絶縁部15がキャパシタンス成分を有する。第1絶縁部15は、本発明に係る絶縁部の一例である。そして、シールド構造1では、このインダクタンス成分とキャパシタンス成分により、LC直列共振によるフィルタが形成される。
【0021】
このフィルタの共振周波数をfとし、第1シールド13と筐体32との間のキャパシタンス成分をCとし、筐体32より出力側のインダクタンス成分をLとすると、LC直列共振によるフィルタの共振周波数は、f=1/(2π(LC)1/2)となる。シールド構造1においては、インダクタンス成分とキャパシタンス成分を調整することにより、共振周波数を含む周波数帯域である抑制帯域におけるインピーダンスを低下させ、抑制帯域に含まれる周波数のノイズを低減することができるため、車両において低減したいノイズの周波数が抑制帯域に含まれるようにインダクタンス成分とキャパシタンス成分を調整すれば、所定の周波数のノイズを低減させることができる。ここで抑制帯域とは、共振周波数を含む周波数帯域であって、ノイズレベルが共振周波数のノイズレベルから所定範囲のレベルとなる周波数帯域である。抑制帯域の範囲は、インダクタンス成分キャパシタンス成分による共振回路のQ値により異なり、例えば対象周波数の±50%の範囲である。
【0022】
前述のフィルタのインダクタンス成分については、第1シールド13の長さ、幅、高さの少なくとも一つを変えることにより第1シールド13のインダクタンス成分を調整し、LC直列共振の共振周波数を調整してもよい。また、フィルタの共振周波数の調整については、例えば、鉄、コバルト、ニッケルなどの磁性体を利用して第1シールド13の透磁率を増加させると、共振周波数を下げることができる。この磁性体については、第1シールド13の素材に合金として添加してもよいし、第1シールド13にメッキしてもよい。また、金属板14を磁性体とすることにより前述フィルタのインダクタンス成分を調整してもよく、ハウジング12に磁性体を含めることにより前述のフィルタのインダクタンス成分を調整してもよい。また、シールド構造1を形成する部品に磁性体を用いることにより、前述のフィルタのインダクタンス成分を調整してもよい。例えば、ボルト16や、ボルト16に対して用いられる図示省略したワッシャに磁性体を用いて前述のフィルタのインダクタンス成分を調整してもよく、導体接続部11に磁性体を用いて前述のフィルタのインダクタンス成分を調整してもよい。また、第1電線21に対して磁性体を取り付けて前述のフィルタのインダクタンス成分を調整してもよく、第1電線21の芯線に磁性体を添加して前述のフィルタのインダクタンス成分を調整してもよい。また、第1電線21の芯線に磁性体でメッキを施すことにより、前述のフィルタのインダクタンス成分を調整してもよい。また、筐体32に磁性体を含めて前述のフィルタのインダクタンス成分を調整してもよく、筐体32を磁性体でメッキして前述のフィルタのインダクタンス成分を調整してもよい。
【0023】
また、前述のフィルタのキャパシタンス成分については、例えば、第1絶縁部15の厚さや第1絶縁部15において筐体32に接する部分の面積を調整することによりキャパシタンス成分を調整し、LC直列共振の共振周波数を調整してもよい。また、前述のフィルタのキャパシタンス成分は、第1シールド13において筐体32に対向する面13bに絶縁性を有する酸化被膜を形成することにより調整してもよい。この酸化被膜は、例えば第1シールド13がアルミニウムである場合、自然に形成される酸化被膜であってもよく、アルマイト処理により形成される酸化被膜であってもよい。第1シールド13において面13bに絶縁性を有する酸化被膜が形成されることにより、誘電率が低下し、前述のフィルタの共振周波数を上げることができる。なお、この酸化被膜の面積を調整することにより、前述のフィルタのキャパシタンス成分を調整してもよい。この酸化被膜は、本発明に係る絶縁層の一例である。また、前述のフィルタのキャパシタンス成分は、面13bに凹凸を設けて第1シールド13と筐体32との間隔を調整することにより調整してもよい。また、第1シールド13を鋳造により形成する場合、鋳造後の面13bにおいて研磨を行って表面粗さを小さくした領域と、研磨を行わずに表面粗さが大きい領域とを設け、研磨が行われていない領域の面積で前述のフィルタのキャパシタンス成分を調整してもよい。また、筐体32において面13bに対向する面に凹凸を設けて第1シールド13と筐体32との間隔を調整することにより前述のフィルタのキャパシタンス成分を調整してもよい。また、筐体32において面13bに対向する面に樹脂を塗布し、樹脂が塗布される面積を変えることにより、前述のフィルタのキャパシタンス成分を調整してもよい。この樹脂の層は、本発明に係る絶縁層の一例である。
【0024】
また、面13bと筐体32との間で距離が異なる部分を複数設けることにより、前述のフィルタの共振周波数が複数となるようにしてもよい。また、材料が異なる複数種類の第1絶縁部15を準備し、面13bと筐体32との間に配置する第1絶縁部15を複数種類とすることで、前述のフィルタの共振周波数が複数となるようにしてもよい。また、厚さや面積が異なる複数種類の第1絶縁部15を準備し、厚さや面積が異なる複数種類の第1絶縁部15を面13bと筐体32との間に配置することで、前述のフィルタの共振周波数が複数となるようにしてもよい。
【0025】
図3は、本発明の変形例に係るシールド構造1Aの断面の模式図である。シールド構造1Aは、第2シールド22、ハウジング12、第1シールド13、固定部13a、金属板14、第1絶縁部15、ボルト16、第2絶縁部23で構成されている。シールド構造1Aは、第2シールド22と第1シールド13との間に第2絶縁部23を有する点でシールド構造1と相違している。第2絶縁部23は、例えば絶縁性を有するゴムで形成されており、第1絶縁部15と同様にLC直列共振によるフィルタのキャパシタンス成分を有する。第2絶縁部23の厚さや面積、材料を調整することで前述のフィルタのキャパシタンス成分を調整し、共振周波数を変えることができる。
【0026】
図4は、本発明の変形例に係るシールド構造1Bの断面の模式図である。シールド構造1Bは、第1シールド13B、固定部13a、第1絶縁部15、ボルト16で構成されている。なお、シールド構造1Bは、第2シールド22がシールド構造1Bに含まれていてもよい。シールド構造1Bは、導体接続部11、ハウジング12、金属板14を備えていない点でシールド構造1と相違している。また、シールド構造1Bは、第1シールド13に替えて第1シールド13Bを有し、第2電線31及び第1電線21に替えて第3電線41を有している点でシールド構造1と相違する。
【0027】
第1シールド13Bは、例えばアルミニウムで形成されており、第3電線41が電力の出力側から入力側へ貫通する。第3電線41は、導電性を有し、径方向に沿った断面が円形状の複数の素線を撚って形成された芯線と、芯線を被覆した絶縁性を有するシースで形成されている。第3電線41の一端は、電力の出力側に接続され、他端は電力の入力側に接続されている。シールド構造1Bにおいては、第1シールド13Bが前述のフィルタのインダクタンス成分を有し、第1絶縁部15が前述のフィルタのキャパシタンス成分を有する。シールド構造1Bにおいても、このインダクタンス成分とキャパシタンス成分により、LC直列共振によるフィルタが形成され、抑制帯域に含まれる周波数のノイズを低減することができる。
【0028】
図5は、本発明の変形例に係るシールド構造1Cの断面の模式図である。シールド構造1Cは、ハウジング12、第1シールド13C、固定部13a、ボルト16で構成されている。なお、第2シールド22がシールド構造1Cに含まれていてもよい。また、シールド構造1Cは、第2絶縁部23を備える構成であってもよい。シールド構造1Cは、第1シールド13に替えて第1シールド13Cを有しており、金属板14と第1絶縁部15を有していない点でシールド構造1と相違している。第1シールド13Cは、例えばアルミニウムで形成されており、金属板14を収納していない点で第1シールド13と相違している。また、第1シールド13Cは、筐体32と対向する面に複数の凹部17が形成されている。ボルト16で第1シールド13Cを筐体32に固定すると、この凹部17により、第1シールド13Cと筐体32との間に隙間ができる。シールド構造1Cにおいては、第1シールド13Cが前述のフィルタのインダクタンス成分を有し、凹部17により形成される隙間が前述のフィルタのキャパシタンス成分を有する。シールド構造1Cにおいても、このインダクタンス成分とキャパシタンス成分により、LC直列共振によるフィルタが形成され、抑制帯域に含まれる周波数のノイズを低減することができる。
【0029】
特許文献1に開示されたコネクタでは、シールドシェルが筐体に対して隙間なく固定されるが、本発明では、意図的に第1シールド13と筐体32との間の少なくとも一部を絶縁することでLC直列共振が発生するため、特許文献1のコネクタと比較すると、特定の周波数帯においてノイズを低減することができる。なお、LC直列共振の共振周波数は、1kHz~1GHzの範囲にあることが好ましく、10kHz~1GHzの範囲にあるのがより好ましい。
【0030】
[実施例]
本発明の発明者は、シールド構造1Cについて、前述のフィルタのインダクタンス成分やキャパシタンス成分を替えて第1実施例~第4実施例及び比較例を作製し、それぞれの周波数特性を評価した。第1実施例は、シールド構造1Cにおいて第2電線31と第1電線21の芯線を銅とし、ハウジング12の素材をポリエチレンとし、第1シールド13C及び第2シールド22の素材をアルミニウムとした構造である。また、第1実施例は、シールド構造1Cにおいて第1シールド13Cを筐体32に固定するボルト16の数を一つとし、図5に示すように第1絶縁部15を配置せず面13bと筐体32との間に隙間がある状態とした。第2実施例は、第1実施例の構成について第1シールド13C及び第2シールド22の素材を鉄とした構造である。第3実施例は、第1実施例の構成について、筐体32において面13bに対向する面の一部に絶縁性を有する硬化性樹脂をさらに塗布した構造である。第4実施例は、第2実施例の構成について、筐体32において面13bに対向する面の一部に絶縁性を有する硬化性樹脂をさらに塗布した構造である。比較例は、第1実施例について、第1シールド13Cを筐体32に対して隙間なく固定した構造である。
【0031】
周波数特性の評価については、第1電線21にノイズ電力を入力し、第1シールド13Cから5cm離れた位置に電磁界プローブを固定し、電磁界プローブの出力の周波数特性を測定した。周波数特性の測定には、GW Instec社製のスペクトラムアナライザであるGSP-9330を用いた。
【0032】
図6Aは、第1実施例の周波数特性の測定結果を示すグラフであり、図6Bは、第2実施例の周波数特性の測定結果を示すグラフであり、図6Cは、第3実施例の周波数特性の測定結果を示すグラフであり、図6Dは、第4実施例の周波数特性の測定結果を示すグラフである。また、図6Eは、比較例の周波数特性の測定結果を示すグラフである。
【0033】
比較例では、第1シールド13Cと筐体32との間に隙間や絶縁体がないため、第1シールド13Cと筐体32との間が前述のキャパシタンス成分を有しておらず、LC直列共振が生じない。このため、図6Eに示すように、比較例の周波数特性ではノイズレベルが低下している周波数帯がなく、ノイズを低減できていないことがわかる。
【0034】
一方、第1実施例では、インダクタンス成分とキャパシタンス成分の直列接続によるフィルタの共振周波数でノイズレベルが低下している。第1実施例に対して第1シールド13C及び第2シールド22の素材を変えた第2実施例では、インダクタンス成分が第1実施例と異なるため、第1実施例より低い周波数帯でノイズレベルが低下している。即ち、第1シールド13C及び第2シールド22の素材を変えるだけで共振周波数を調整し、低減されるノイズの周波数帯を変えることができる。
【0035】
また、第1実施例に対してキャパシタンス成分が異なる第3実施例では、第1実施例より高い周波数帯でノイズレベルが低下している。また、第2実施例に対してキャパシタンス成分が異なる第4実施例でも、第2実施例より高い周波数帯でノイズレベルが低下している。即ち、面13bと筐体32との間の絶縁の構成を変えるだけで共振周波数を調整し、低減されるノイズの周波数帯を変えることができる。
【0036】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、他の様々な形態で実施可能である。例えば上述の実施形態を以下のように変形して本発明を実施してもよい。なお、上述した実施形態及び以下の変形例は、各々を組み合わせてもよい。上述した各実施形態及び各変形例の構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施の形態や変形例に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【0037】
本発明においては、第2電線31と第1電線21をバスバーに替えてもよい。また、このバスバーは、錫やニッケルなどのメッキが施されたものであってもよい。
【0038】
本発明においては、第2シールド22についても、形状を変えて前述のフィルタのインダクタンス成分を調整してもよい。また、第2シールド22について、磁性体を含めるようにして前述のフィルタのインダクタンス成分を調整してもよい。第2シールド22のインダクタンス成分も調整することで、前述のフィルタの共振周波数を調整することができる。
【0039】
上述した実施形態においては、シールド構造を自動車に採用する例を示したが、シールド構造は、自動車だけでなく、電力を消費し、通信を行うものに採用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1、1A、1B、1C シールド構造
11 導体接続部
12 ハウジング
13、13B、13C 第1シールド
15 第1絶縁部
21 第1電線
22 第2シールド
23 第2絶縁部
31 第2電線
32 筐体
41 第3電線
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E