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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025071610
(43)【公開日】2025-05-08
(54)【発明の名称】環状オレフィン共重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 232/04 20060101AFI20250428BHJP
   C08F 4/6592 20060101ALI20250428BHJP
【FI】
C08F232/04
C08F4/6592
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023181922
(22)【出願日】2023-10-23
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】多田 智之
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 俊亮
(72)【発明者】
【氏名】中野 篤志
【テーマコード(参考)】
4J100
4J128
【Fターム(参考)】
4J100AA02Q
4J100AR11P
4J100CA04
4J100FA10
4J100FA28
4J128AA01
4J128AB00
4J128AB01
4J128AC10
4J128AC28
4J128AD01
4J128AD06
4J128AD13
4J128AD16
4J128AD18
4J128AD19
4J128BA00A
4J128BA02B
4J128BB00A
4J128BB01B
4J128BC12B
4J128BC15B
4J128EA01
4J128EB02
4J128EB18
4J128EC02
4J128FA02
4J128GA26
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、ポリエチレン様の不純物の生成を抑制できる、環状オレフィン共重合体の製造方法を提供することである。
【解決手段】本発明は、環状オレフィン共重合体の製造方法であって、前記製造方法が、ノルボルネン単量体と、エチレンとを付加重合させることを含み、前記付加重合が、ボレート化合物、アルキルアルミニウム、及び触媒の存在下で、所定の条件で行われる、製造方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状オレフィン共重合体の製造方法であって、
前記製造方法が、ノルボルネン単量体と、エチレンとを付加重合させることを含み、
前記付加重合が、ボレート化合物、アルキルアルミニウム、及び触媒の存在下で行われ、
前記ボレート化合物が、含ホウ素アニオンと、含窒素カチオンとからなる塩であり、
前記付加重合の温度条件が、90℃超であり、
前記含窒素カチオンを構成する第三級アミンの共役酸の酸解離定数(pKa)が、5.0超であり、
前記触媒に対する前記ボレート化合物の仕込み量(モル比)が、1.0~1.7である、
製造方法。
【請求項2】
前記含ホウ素アニオンが、テトラアリールホウ素アニオンであり、
前記含窒素カチオンが、第三級アンモニウムカチオンである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第三級アンモニウムカチオンが、炭素数6~20の脂肪族炭化水素基を有する、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記第三級アンモニウムカチオンが、ジデシルメチルアンモニウムイオンである、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記アルキルアルミニウムが、トリイソブチルアルミニウム、トリメチルアルミニウム、及びオクチルアルミニウムからなる群から選択される1以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状オレフィン共重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環状オレフィン共重合体は、高透明性等を有し、光学材料等の幅広い分野で利用されている樹脂である。
【0003】
環状オレフィン共重合体の製造方法としては、触媒や助触媒(ボレート化合物等)の存在下で各種モノマーを付加重合させる方法等が知られる(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2020/204187号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
他方で、本発明者らは、環状オレフィン共重合体の製造方法において、特にノルボルネン単量体とエチレンとの付加重合の反応過程で、重合温度が90℃を超えるとポリエチレン様の不純物が生成しやすく、該不純物が環状オレフィン共重合体の透明性を損ない得るという新規な課題を見出した。
【0006】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、ポリエチレン様の不純物の生成を抑制できる、環状オレフィン共重合体の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ノルボルネン単量体とエチレンとの付加重合において、特定のボレート化合物を所定量用いることで上記課題を解決できる点を見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下を提供する。
【0008】
(1) 環状オレフィン共重合体の製造方法であって、
前記製造方法が、ノルボルネン単量体と、エチレンとを付加重合させることを含み、
前記付加重合が、ボレート化合物、アルキルアルミニウム、及び触媒の存在下で行われ、
前記ボレート化合物が、含ホウ素アニオンと、含窒素カチオンとからなる塩であり、
前記付加重合の温度条件が、90℃超であり、
前記含窒素カチオンを構成する第三級アミンの共役酸の酸解離定数(pKa)が、5.0超であり、
前記触媒に対する前記ボレート化合物の仕込み量(モル比)が、1.0~1.7である、
製造方法。
【0009】
(2) 前記含ホウ素アニオンが、テトラアリールホウ素アニオンであり、
前記含窒素カチオンが、第三級アンモニウムカチオンである、(1)に記載の製造方法。
【0010】
(3) 前記第三級アンモニウムカチオンが、炭素数6~20の脂肪族炭化水素基を有する、(2)に記載の製造方法。
【0011】
(4) 前記第三級アンモニウムカチオンが、ジデシルメチルアンモニウムイオンである、(2)又は(3)に記載の製造方法。
【0012】
(5) 前記アルキルアルミニウムが、トリイソブチルアルミニウム、トリメチルアルミニウム、及びオクチルアルミニウムからなる群から選択される1以上である、(1)~(4)のいずれか1つに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ポリエチレン様の不純物の生成を抑制できる、環状オレフィン共重合体の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、環状オレフィン共重合体の製造方法等について説明する。ただし、該製造方法等は、以下に説明される具体的な実施形態には限定されず、所望する効果が損なわれない範囲で適宜改変を加えられてもよい。
【0015】
<環状オレフィン共重合体の製造方法>
環状オレフィン共重合体の製造方法は、以下の要件を満たす。
・製造方法が、ノルボルネン単量体と、エチレンとを付加重合させることを含む。
・付加重合が、ボレート化合物、アルキルアルミニウム、及び触媒の存在下で行われる。
・ボレート化合物が、含ホウ素アニオンと、含窒素カチオンとからなる塩である。
・付加重合の温度条件が、90℃超である。
・含窒素カチオンを構成する第三級アミンの共役酸の酸解離定数(pKa)が5.0超である。
・触媒に対するボレート化合物の仕込み量(モル比)が1.0~1.7である。
【0016】
環状オレフィン共重合体は、各種モノマーの付加重合等によって製造される。
このような製造工程において、本発明者らは、特に、ノルボルネン単量体と、エチレンとを付加重合させる場合に、ポリエチレン様の不純物が生成し、該不純物が環状オレフィン共重合体の透明性を損ない得ることを見出した。
【0017】
そこで、本発明者らは、このような不純物の生成を抑制できる条件を鋭意検討した。
その結果、意外にも、付加重合において触媒とともに用いる助触媒(すなわち、所定のボレート化合物、及びアルキルアルミニウム)に関する条件を調整することで、ポリエチレン様の不純物の生成を抑えられることを見出した。このような抑制効果は、付加重合の温度条件が、90℃超である場合であっても安定的に認められた。
【0018】
本出願の明細書における「ポリエチレン様の不純物」とは、ノルボルネン単量体と、エチレンとの付加重合の際に生じる、ポリエチレン構造又はその類似構造を有する副産物である。
【0019】
付加重合の際に、ポリエチレン様の不純物が生成したかどうかやその程度は、作製した環状オレフィン共重合体について、ガラス転移温度に基づく不純物熱分析、及び/又は、濁り試験を行うことによって特定できる。
ガラス転移温度に基づく不純物熱分析、及び、濁り試験のいずれも、実施例に示した方法を好ましく採用できる。
例えば、不純物熱分析においてポリエチレン様の不純物に由来するピークが検出されなかったり、濁り試験において濁りが認められなかったりすれば、ポリエチレン様の不純物の生成が抑制されていると判断できる。
【0020】
以下、環状オレフィン共重合体の製造方法について詳述する。
【0021】
(1)付加重合に用いる成分
付加重合は、ボレート化合物、アルキルアルミニウム、及び触媒の存在下で行う。
ボレート化合物、アルキルアルミニウム、及び触媒は、それぞれ、1種単独で用いてもよいが、2種以上を組み合わせてもよい。
【0022】
(1-1)ボレート化合物
ボレート化合物は、助触媒に相当する。
該ボレート化合物は、含ホウ素アニオンと、含窒素カチオンとからなる塩である。
【0023】
(1-1-1)含ホウ素アニオン
ボレート化合物を構成する含ホウ素アニオンは、「[B(Org)」で表されるアニオンであれば特に限定されない。なお、「Org」は、有機基である。含ホウ素アニオンにおいて、Org中の炭素原子と、ホウ素原子とが結合している。
【0024】
含ホウ素アニオンは、ポリエチレン様の不純物の生成抑制効果を高めやすいという観点から、テトラアリールホウ素アニオンを含むことが好ましく、テトラアリールホウ素アニオンからなることがより好ましい。
【0025】
テトラアリールホウ素アニオンとしては、テトラキスフェニルボレート([B(C)、テトラキストリルボレート([B(CCH)、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート([B(C)、テトラキス[(トリフルオロメチル)フェニル]ボレート([B(CCF)、及びテトラキス(ジフルオロフェニル)ボレート([B(C)等が挙げられる。
【0026】
(1-1-2)含窒素カチオン
ボレート化合物を構成する含窒素カチオンは、含窒素カチオンを構成する第三級アミンの共役酸の酸解離定数(pKa)が5.0超であれば特に限定されない。
ここで、上記の酸解離定数は、第三級アミンの共役酸の300Kにおける、水中での値である。
【0027】
本発明者らの検討の結果、第三級アミンの共役酸の酸解離定数が5.0超である含窒素カチオンを用いると、ポリエチレン様の不純物を安定的に抑制できるという意外な知見が見出された。
かかる観点から、含窒素カチオンを構成する第三級アミンの共役酸の酸解離定数は、5.0超、好ましくは7.0以上、より好ましくは9.0以上である。
該酸解離定数の上限は特に限定されないが、通常、12.0以下である。
【0028】
第三級アミンの共役酸の酸解離定数の特定には、中和滴定法が好適に使用される。
【0029】
含窒素カチオンは、ポリエチレン様の不純物の生成抑制効果を高めやすいという観点から、第三級アンモニウムカチオンを含むことが好ましく、第三級アンモニウムカチオンからなることがより好ましい。
第三級アンモニウムカチオンは、「(Org)H」で表されるカチオンである。「Org」は、有機基である。第三級アンモニウムカチオンにおいて、Org中の炭素原子と、窒素原子とが結合している。
【0030】
第三級アンモニウムカチオンは、好ましくは炭素数6~20、より好ましくは8~18の脂肪族炭化水素基を有する。脂肪族炭化水素基の構造は、直鎖状であっても、分岐鎖状であっても、環状であっても、これらの構造の組み合わせであってもよい。
【0031】
また、第三級アンモニウムカチオンを構成する脂肪族炭化水素基は、炭素-炭素二重結合、及び炭素-炭素三重結合から選択される不飽和結合を1つ以上有していてもよい。
脂肪族炭化水素基としては、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、n-へプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基、n-ノニル基、イソノニル基、n-デシル基、イソデシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-へプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、及びn-イコシル基等のアルキル基;シクロヘキシル基、シクロへプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、及びシクロデシル基等のシクロアルキル基等が挙げられる。
【0032】
第三級アンモニウムイオンは、炭素数6~20の脂肪族炭化水素基とともに、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基を有していてもよい。
炭素数1~5の脂肪族炭化水素基としては、アルキル基(メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、及びtert-ペンチル基等)、シクロアルキル基(シクロプロピル基、シクロブチル基、及びシクロペンチル基等)等が挙げられる。
【0033】
最も好ましい第三級アンモニウムカチオンは、ジデシルメチルアンモニウムイオンである。
【0034】
(1-1-3)好ましいボレート化合物
好ましいボレート化合物として、実施例で使用した「ボレート-3」、「ボレート-4」が挙げられる。
【0035】
(1-1-4)ボレート化合物の使用量
付加重合において、触媒に対するボレート化合物の仕込み量(モル比)は1.0~1.7、好ましくは1.0~1.5、より好ましくは1.0~1.2である。
本発明者らの検討の結果、上述のボレート化合物をこのような量で使用することで、ポリエチレン様の不純物を安定的に抑制できることを見出した。
【0036】
(1-2)アルキルアルミニウム
アルキルアルミニウムは、助触媒に相当する。
上述のボレート化合物とアルキルアルミニウムとを併用することで、ポリエチレン様の不純物を安定的に抑制できる。
【0037】
アルキルアルミニウムは、重合体(特に、環状オレフィン共重合体)の合成に用いられるものであれば特に限定されない。
アルキルアルミニウムとしては、トリイソブチルアルミニウム、トリメチルアルミニウム、及びオクチルアルミニウムからなる群から選択される1以上が挙げられる。
これらのうち、工業的に広く使用されているという観点から、トリイソブチルアルミニウムが好ましい。
【0038】
付加重合において、アルキルアルミニウムの使用量は特に限定されないが、環状オレフィン共重合体の活性(収量)が良好になりやすいという観点から、ボレート化合物に対して、1~1000(モル比)が好ましく、1~500(モル比)がより好ましく、1~250(モル比)がさらに好ましい。
【0039】
(1-3)触媒
触媒は、重合体(特に、環状オレフィン共重合体)の合成に用いられるものであれば特に限定されない。
【0040】
触媒としては、チタノセン触媒、ジルコノセン触媒、ハフノセン触媒等が挙げられる。
好ましい触媒として、実施例で使用した「触媒-1」、「触媒-2」、「触媒-3」が挙げられる。
【0041】
付加重合における触媒の量は、付加重合反応が良好に進行する限り特に限定されない。付加重合における触媒の量は、例えば、0.00001~0.1mmolであり得る。
【0042】
(1-4)ノルボルネン単量体及びエチレン
ノルボルネン単量体、及びエチレンは、付加重合における重合対象(モノマー)である。
【0043】
(1-4-1)ノルボルネン単量体
ノルボルネン(CAS登録番号:498-66-8、化学式:C10)は、環状オレフィンモノマーの1種である。
また、ノルボルネン単量体は、置換基を有するノルボルネンである、置換ノルボルネンも包含する。ノルボルネン単量体は、1種単独、又は2種以上の組み合わせでもよい。
【0044】
置換ノルボルネンは特に限定されない。置換ノルボルネンが有する置換基としては、例えば、ハロゲン原子、1価又は2価の炭化水素基が挙げられる。置換ノルボルネンの具体例としては、下記式(I)で表される化合物が挙げられる。
【0045】
【化1】
【0046】
式(I)中、Ra1~Ra12は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭化水素基からなる群より選ばれる原子又は基である。
a9とRa10、Ra11とR12は、一体化して2価の炭化水素基を形成してもよい。
a9又はRa10と、Ra11又はRa12とは、互いに結合して環を形成していてもよい。
nは、0又は正の整数である。
nが2以上の場合、Ra5~Ra8は、それぞれの繰り返し単位の中で、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
ただし、nが0である場合、Ra1~Ra4及びRa9~Ra12の少なくとも1個は、水素原子ではない。
【0047】
a1~Ra8の具体例としては、例えば、水素原子;フッ素、塩素、及び臭素等のハロゲン原子;炭素原子数1~20のアルキル基等が挙げられる。Ra1~Ra8は、全てが異なる原子又は基からなってもよい。Ra1~Ra8のうちの一部、又は全部が同一の原子又は基であってもよい。
【0048】
a9~Ra12の具体例としては、例えば、水素原子;フッ素、塩素、及び臭素等のハロゲン原子;炭素原子数1~20のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、イソプロピルフェニル基、ナフチル基、及びアントリル基等の置換又は無置換の芳香族炭化水素基;ベンジル基、及びフェネチル基等のアラルキル基等が挙げられる。Ra9~Ra12は、全てが異なる原子又は基からなってもよい。Ra9~Ra12のうちの一部、又は全部が同一の原子又は基であってもよい。
【0049】
a9とRa10、又はRa11とRa12とが一体化することにより形成され得る2価の炭化水素基の具体例としては、例えば、エチリデン基、プロピリデン基、及びイソプロピリデン基等のアルキリデン基等が挙げられる。
【0050】
a9又はRa10と、Ra11又はRa12とが、互いに結合して環を形成する場合、形成される環は単環でも多環であってもよい。形成される環は、架橋を有する多環であってもよい。形成される環は、二重結合を有してもよい。形成される環はメチル基等の置換基を有していてもよい。
【0051】
式(I)で示される置換ノルボルネンの具体例としては、5-メチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5,5-ジメチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-エチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-ブチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-エチリデン-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-ヘキシル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-オクチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-オクタデシル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-メチリデン-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-ビニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-プロペニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン等の2環の環状オレフィン;
トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3,7-ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3-エン;トリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ-3,7-ジエン若しくはトリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ-3,8-ジエン又はこれらの部分水素添加物(又はシクロペンタジエンとシクロヘキセンの付加物)であるトリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ-3-エン;5-シクロペンチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-シクロヘキシル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-シクロヘキセニルビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-フェニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エンといった3環の環状オレフィン;
テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン(単にテトラシクロドデセンともいう)、8-メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-エチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-メチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-ビニルテトラシクロ[4,4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-プロペニル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エンといった4環の環状オレフィン;
8-シクロペンチル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-シクロヘキシル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-シクロヘキセニル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-フェニル-シクロペンチル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン;テトラシクロ[7.4.13,6.01,9.02,7]テトラデカ-4,9,11,13-テトラエン(1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレンともいう)、テトラシクロ[8.4.14,7.01,10.03,8]ペンタデカ-5,10,12,14-テトラエン(1,4-メタノ-1,4,4a,5,10,10a-へキサヒドロアントラセンともいう);ペンタシクロ[6.6.1.13,6.02,7.09,14]-4-ヘキサデセン、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]-4-ペンタデセン、ペンタシクロ[7.4.0.02,7.13,6.110,13]-4-ペンタデセン;ヘプタシクロ[8.7.0.12,9.14,7.111,17.03,8.012,16]-5-エイコセン、ヘプタシクロ[8.7.0.12,9.03,8.14,7.012,17.113,l6]-14-エイコセン;シクロペンタジエンの4量体等の多環の環状オレフィンが挙げられる。
【0052】
これらの中でも、例えば、1個以上のアルキル基で置換されたビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エンのようなアルキル置換ノルボルネン、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エンのような1個以上のアルキリデン基で置換されたアルキリデン置換ノルボルネンが好ましい。5-エチリデン-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン(慣用名:5-エチリデン-2-ノルボルネン、又は、単にエチリデンノルボルネン)が特に好ましい。
【0053】
(1-4-2)エチレン
エチレン(C)は、炭素原子数2のα-オレフィンである。
【0054】
(1-4-3)モノマーの使用量等
モノマーの使用量等は特に限定されないが、下記の要件のいずれかを満たしていてもよい。
【0055】
触媒1質量部に対する、ノルボルネン単量体の仕込み量は、好ましくは1~300000質量部、より好ましくは10~200000質量部である。
【0056】
エチレンの仕込み方は、所望する量のエチレンを重合容器内に仕込める限り特に限定されない。典型的には、エチレンは、重合容器内でのエチレンの仕込み圧力が、0.5MPa以上であるように重合容器に仕込まれるのが好ましい。エチレンの仕込み圧力は、0.55MPa以上がより好ましく、0.6MPa以上がさらに好ましい。エチレンの仕込み圧力を高くすると、生成ポリマーあたりの触媒の使用量を少なくすることができる。上限について、エチレンの仕込み圧力は、例えば、10MPa以下が好ましく、5MPa以下がより好ましく、3MPa以下がさらに好ましい。
以上より、エチレンの仕込み圧力は、0.5~10MPaが好ましく、0.55~5MPaがより好ましく、0.6~3MPaがさらに好ましい。
なお、エチレンの仕込み圧力は、ゲージ圧である。
【0057】
(2)付加重合条件
ノルボルネン単量体と、エチレンとの付加重合の条件は、温度条件が、90℃超である点以外は特に限定されない。
【0058】
上述の条件下で付加重合を行うことで、付加重合の温度条件が、ポリエチレン様の不純物が生成しやすい90℃超であっても、ポリエチレン様の不純物の生成を安定的に抑制できる。
付加重合の温度条件は、90℃超であり、100℃以上であってもよく、110℃以上であってもよい。
付加重合の温度条件の上限は特に限定されないが、通常、180℃以下である。
【0059】
その他の付加重合条件は、付加重合反応が良好に進行し、所望の環状オレフィン共重合体が得られる限り特に限定されない。
【0060】
付加重合に際し、反応に供する成分(ノルボルネン単量体、エチレン等)は、反応容器に、同時に添加してもよく、別個に添加してもよい。
【0061】
付加重合は溶媒の存在下で行ってもよい。
溶媒としては、重合反応を阻害しない溶媒であれば特に限定されない。好ましい溶媒としては、例えば炭化水素溶媒や、ハロゲン化炭化水素溶媒が挙げられる。
溶媒を用いる場合、その使用量は、特に限定されず、モノマーの量等に応じて適宜設定される。
【0062】
付加重合の時間は特に限定されない。
付加重合の時間は、例えば、0.1~10時間であり得る。
【0063】
付加重合反応が行われる雰囲気は、反応が阻害されない限り特に限定されない。
付加重合反応が行われる雰囲気は、不活性ガス(窒素ガス、ヘリウムガス等)雰囲気が好ましい。
【0064】
付加重合が完了後、常法に従い、環状オレフィン共重合体を反応容器内から回収できる。
【0065】
環状オレフィン共重合体の製造方法における収量は特に限定されないが、例えば、触媒1gあたりの環状オレフィン共重合体の収量が、10~100kg/gであり得る。
【0066】
<環状オレフィン共重合体>
環状オレフィン共重合体は、上述の製造方法から得られる任意の環状オレフィン共重合体を包含する。
好ましい態様において、環状オレフィン共重合体は、例えば、以下の要件を満たし得る。
【0067】
(1)ポリエチレン様の不純物
上述の製造方法から得られる環状オレフィン共重合体は、ポリエチレン様の不純物の生成が抑制されている。したがって、環状オレフィン共重合体は、ポリエチレン様の不純物の含有量が少ないか、ポリエチレン様の不純物が含まれていない。
【0068】
好ましい態様において、環状オレフィン共重合体は、以下の検出試験に供した場合にピークが検出されない。
【0069】
[検出試験]
環状オレフィン共重合体の試料を、JIS K7121に記載の方法にしたがい、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/分の条件で示差走査熱量計(DSC)により測定を行い、DSC曲線を得る。
次いで、得られたDSC曲線において、ポリエチレン様の不純物に由来する融点(融解エンタルピー)のピークの有無を確認する。ポリエチレン様の不純物に由来する融点のピークは、一般的に100℃~140℃の範囲内に検出される。
ピークが検出されない場合、環状オレフィン共重合体に、ポリエチレン様の不純物が存在しないか、その含有量が極めて少ないことを意味する。
ピークが検出される場合、環状オレフィン共重合体に、ポリエチレン様の不純物が存在することを意味する。
【0070】
(2)構成モノマーの比率
環状オレフィン共重合体において、全構造単位のモル数に対する、エチレンに由来する構造単位のモル数の比率は、好ましくは1~99モル%、より好ましくは5~90モル%である。
【0071】
環状オレフィン共重合体において、全構造単位のモル数に対するノルボルネン単量体に由来する構造単位のモル数の比率は、好ましくは1~99モル%、より好ましくは5~90モル%、さらに好ましくは10~80モル%である。
【0072】
全構造単位のモル数に対する、エチレン、又はノルボルネン単量体に由来する構造単位のモル数の比率は、13C-NMRスペクトルを測定することにより算出する。
【0073】
なお、環状オレフィン共重合体は、ノルボルネン単量体、及びエチレン以外のモノマーに由来する構造単位を含む共重合体を包含する。つまり、環状オレフィン共重合体は、ノルボルネン単量体に由来する構造単位、及びエチレンに由来する構造単位以外の構造単位を有していてもよい。
ただし、ポリエチレン様の不純物の生成抑制効果を安定的に実現する観点から、環状オレフィン共重合体は、ノルボルネン単量体に由来する構造単位、及びエチレンに由来する構造単位のみからなることが好ましい。
【0074】
(3)ガラス転移温度
環状オレフィン共重合体のガラス転移温度(「Tg」ともいう。)は特に限定されないが、環状オレフィン共重合体の加工性が良好になりやすいという観点から、好ましくは185℃以下、より好ましくは170℃以下、さらに好ましくは160℃以下、さらにより好ましくは150℃以下、さらにより好ましくは130℃以下、さらにより好ましくは120℃以下、さらにより好ましくは100℃以下である。
【0075】
本出願の明細書において、「(環状オレフィン共重合体の)ガラス転移温度」とは、DSC法(JIS K7121記載の方法)によって特定される値である。
【0076】
(4)環状オレフィン共重合体の用途
環状オレフィン共重合体は、任意の用途に使用できる。
例えば、従来の環状オレフィン共重合体に代えて、又は従来の環状オレフィン共重合体とともに使用できる。
【実施例0077】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0078】
<環状オレフィン共重合体の作製及び評価>
以下の方法で、実施例又は比較例に係る環状オレフィン共重合体を作製し、その過程におけるポリエチレン様の不純物生成の有無を評価した。
【0079】
(1)環状オレフィン共重合体の製造
まず、撹拌子を含む150mLステンレス製オートクレーブをよく乾燥させ、総溶液量が70mLとなるように、重合溶媒(デカリン)、及びノルボルネン単量体(2-ノルボルネン)を加えた。
次いで、アルキルアルミニウム(トリイソブチルアルミニウム)のトルエン溶液(1mol/L、200μL)を加えた。さらに、ボレート化合物のトルエン溶液を加え、重合温度に到達するまでオートクレーブを加熱した後、触媒溶液(0.5μmol)を添加した。
触媒溶液を添加した後、エチレン圧(ゲージ圧0.9MPa)をかけ、その開始から30秒後を付加重合の重合開始点に設定した。なお、エチレン圧をかける直前のモノマー溶液の全量は、80mLに設定した。
重合開始点から15分後、エチレン供給を停止し、注意深く圧力を常圧に戻した後、反応溶液中にイソプロピルアルコールを加えて反応を停止させ、重合溶液を得た。重合溶液を混合溶媒に入れ、共重合体を沈殿させた。
得られた共重合体を吸引濾過によって回収し、アセトン、及びメタノールで洗浄後、真空乾燥(110℃、12時間)し、ノルボルネンとエチレンとの共重合体(環状オレフィン共重合体)を得た。
【0080】
本例において、ノルボルネン単量体の使用量は、表3の「ノルボルネン仕込み量」に示すとおりである。
【0081】
付加重合の重合温度は、表3の「重合温度」に示すとおりである。
【0082】
本例において使用した触媒は、表3の「触媒」に示すとおりであり、各番号は、下記表1に示す3種の触媒に対応する。
【0083】
【表1】
【0084】
本例において、触媒に対するボレート化合物の仕込み量(モル比)は、表3の「ボレート/触媒」に示すとおりである。
【0085】
本例において使用したボレート化合物は、表3の「ボレート化合物」に示すとおりであり、各番号は、下記表2に示す4種のボレート化合物に対応する。
なお、「ボレート-3」、及び「ボレート-4」は、いずれも、含ホウ素アニオンと、含窒素カチオンとからなる塩である。また、これらの塩において、含ホウ素アニオンは、テトラアリールホウ素アニオンであり、含窒素カチオンは、第三級アンモニウムカチオンである。
【0086】
【表2】
【0087】
本例において、ボレート化合物に対するアルキルアルミニウム(トリイソブチルアルミニウム、TIBA)の仕込み量(モル比)は、表3の「TIBA/ボレート」に示すとおりである。
【0088】
なお、共重合体を沈殿させる際に用いた混合溶媒は、アセトン(300mL)、メタノール又はイソプロピルアルコール(200mL)、塩酸(5mL)からなる溶媒である。
【0089】
得られた各共重合体の質量について、触媒1gあたりの収量を算出した。その結果を、表3の「触媒1gあたりの共重合体収量」に示す。
【0090】
(2)環状オレフィン共重合体の評価
上記(1)で得られた各環状オレフィン共重合体について、以下の方法でポリエチレン様の不純物の生成の有無を評価した。
【0091】
(2-1)ガラス転移温度(Tg)
DSC法(JIS K7121記載の方法)によって、以下の条件に基づき、環状オレフィン共重合体のTgを測定した。その結果を表3の「Tg」に示す。
・DSC装置:示差走査熱量計(TA Instrument社製 DSC-Q1000)
・測定雰囲気:窒素
・昇温条件:20℃/分
【0092】
(2-2)不純物熱分析
ガラス転移温度の測定により得られたDSC曲線において、100℃~140℃の範囲内に観察されるポリエチレン様の不純物由来の融点のピーク有無を、曲線の形状から判断した。
その結果を表3の「Tmピーク」に示す。
なお、「未検出」とは、DSC曲線上においてポリエチレン様の不純物に由来するピークが検出されなかったことを示し、「検出」とは、同ピークが検出されたことを示す。
【0093】
(2-3)濁り試験
得られた環状オレフィン共重合体(0.1g)を、トルエン(10g)に溶解させた後、得られた溶液における濁り(ポリエチレン様の不純物)の有無を目視観察した。
濁りが認められた場合を「有」と判定し、濁りが認められなかった場合を「無」と判定した。
その結果を表3の「濁り試験」に示す。
【0094】
【表3】
【0095】
実施例1と、比較例1との比較から理解されるとおり、ボレート化合物を用いた場合であっても、その含窒素カチオンを構成する第三級アミンの共役酸の酸解離定数が5以下であると、ポリエチレン様の不純物が生じた。
【0096】
実施例1と、比較例2又は比較例3との比較から理解されるとおり、含窒素カチオンを構成する第三級アミンの共役酸の酸解離定数が5超であるボレート化合物を用いた場合であっても、触媒に対するボレート化合物の仕込み量(モル比)が1.0~1.7の範囲内でなければ、ポリエチレン様の不純物が生じた。
【0097】
実施例7と、比較例4との比較から理解されるとおり、含ホウ素アニオンと、含窒素カチオンとからなる塩であるボレート化合物を使わない場合、ポリエチレン様の不純物が生じた。