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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025071881
(43)【公開日】2025-05-09
(54)【発明の名称】樹脂組成物及びその成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/10 20060101AFI20250430BHJP
   C08L 23/26 20250101ALI20250430BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20250430BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20250430BHJP
【FI】
C08L23/10
C08L23/26
C08L1/02
C08J5/04 CES
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023182294
(22)【出願日】2023-10-24
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亮太
(72)【発明者】
【氏名】松永 伸之
【テーマコード(参考)】
4F072
4J002
【Fターム(参考)】
4F072AA02
4F072AA08
4F072AB03
4F072AB14
4F072AB22
4F072AD04
4F072AD53
4F072AE10
4F072AF16
4F072AF24
4F072AF28
4F072AG05
4F072AH04
4F072AH19
4F072AK04
4F072AK15
4F072AL02
4J002AB013
4J002BB121
4J002BB141
4J002BB212
4J002FA043
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】耐湿熱性に優れ、かつ機械強度も良好な成形品を提供できる樹脂組成物及びその成形品を提供する。
【解決手段】樹脂組成物であって、前記樹脂組成物は、溶剤法再生セルロース繊維(B)を長さ方向に揃えた繊維束にポリオレフィン樹脂(A)が含浸した、ポリオレフィン樹脂含浸再生セルロース繊維束(B1)を含み、前記ポリオレフィン樹脂(A)が、ポリプロピレン樹脂(A1)と、酸変性ポリプロピレン樹脂(A2)とを含み、前記酸変性ポリプロピレン樹脂(A2)の酸価が20mgKOH/g超であり、重量平均分子量が90,000以下であり、前記ポリオレフィン樹脂含浸再生セルロース繊維束(B1)の総質量に対する、前記ポリオレフィン樹脂(A)の含有量が30~95質量%であり、前記溶剤法再生セルロース繊維(B)の含有量が5~70質量%である、樹脂組成物。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物は、溶剤法再生セルロース繊維(B)を長さ方向に揃えた繊維束にポリオレフィン樹脂(A)が含浸した、ポリオレフィン樹脂含浸再生セルロース繊維束(B1)を含み、
前記ポリオレフィン樹脂(A)が、
ポリプロピレン樹脂(A1)と、
マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(A2-1)及び無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(A2-2)から選択される少なくとも1つの樹脂である、酸変性ポリプロピレン樹脂(A2)とを含み、
前記酸変性ポリプロピレン樹脂(A2)の酸価が20mgKOH/g超であり、重量平均分子量が90,000以下であり、
前記ポリオレフィン樹脂含浸再生セルロース繊維束(B1)の総質量に対する、
前記ポリオレフィン樹脂(A)の含有量が30~95質量%であり、
前記溶剤法再生セルロース繊維(B)の含有量が5~70質量%である、樹脂組成物。
【請求項2】
前記酸変性ポリプロピレン樹脂(A2)の重量平均分子量が30,000以上である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記酸変性ポリプロピレン樹脂(A2)の融点(Tm)が、130~160℃である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記溶剤法再生セルロース繊維(B)の平均繊維長が5~30mmである、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリオレフィン樹脂(A)の総質量に対する、前記酸変性ポリプロピレン樹脂(A2)の割合が、0.5~5質量%である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1または2に記載の樹脂組成物の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及びその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
持続可能な社会構築に向けて、石油由来の樹脂成分にバイオマス成分を配合した複合樹脂組成物の活用が進んでいる。これらの複合樹脂組成物として、例えば、特許文献1には、再生セルロース繊維等の植物繊維に、ポリプロピレン樹脂を組み合わせた複合樹脂組成物が提案されている。
【0003】
このような複合樹脂組成物においては、バイオマス成分を含むことにより弾性率等の機械特性の向上が期待できる。一方で、複合樹脂組成物を長期間使用した場合の性能変化や、課題の精査等は評価が進んでいないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-21087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明者らによる調査の結果、バイオマス成分として、特に再生セルロース繊維を含む樹脂組成物は、耐湿熱性に劣ることが判明した。「耐湿熱性」は、樹脂組成物の長期使用における劣化を判断するための指標の一つである。樹脂組成物(又は成形品)を湿熱処理した後、引張強度や曲げ強度等の機械特性を処理前と比較することにより、長期間の使用における樹脂組成物の劣化の度合いを評価することができる。本願発明者らが検討した結果、再生セルロース繊維及びポリプロピレン樹脂を含む樹脂組成物は、湿熱条件下で再生セルロース繊維と樹脂界面の空隙が成長して白化したり、強度低下が生じたりすることが分かった。
【0006】
本発明は、耐湿熱性に優れ、かつ機械強度も良好な成形品を提供できる樹脂組成物及びその成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは鋭意検討した結果、驚くべきことに、再生セルロース繊維として、溶剤法再生セルロース繊維を選択し、該溶剤法再生セルロース繊維を長さ方向に束ねた繊維束に、酸価が20mgKOH/g超であり、かつ重量平均分子量が90,000以下である酸変性ポリプロピレン樹脂を含むポリオレフィン樹脂を含浸させた、ポリオレフィン樹脂含浸再生セルロース繊維束を含む樹脂組成物であれば、得られる成形品の耐湿熱性が向上することを見出した。さらにこの樹脂組成物から得られる成形品は、機械強度も良好であることを見出した。
【0008】
すなわち、本開示は以下の態様を有する。
[1]樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物は、溶剤法再生セルロース繊維(B)を長さ方向に揃えた繊維束にポリオレフィン樹脂(A)が含浸した、ポリオレフィン樹脂含浸再生セルロース繊維束(B1)を含み、
前記ポリオレフィン樹脂(A)が、
ポリプロピレン樹脂(A1)と、
マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(A2-1)及び無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(A2-2)から選択される少なくとも1つの樹脂である、酸変性ポリプロピレン樹脂(A2)とを含み、
前記酸変性ポリプロピレン樹脂(A2)の酸価が20mgKOH/g超であり、重量平均分子量が90,000以下であり、
前記ポリオレフィン樹脂含浸再生セルロース繊維束(B1)の総質量に対する、
前記ポリオレフィン樹脂(A)の含有量が30~95質量%であり、
前記溶剤法再生セルロース繊維(B)の含有量が5~70質量%である、樹脂組成物。
[2]前記酸変性ポリプロピレン樹脂(A2)の重量平均分子量が30,000以上である、[1]に記載の樹脂組成物。
[3]前記酸変性ポリプロピレン樹脂(A2)の融点(Tm)が、130~160℃である、[1]または[2]に記載の樹脂組成物。
[4]前記溶剤法再生セルロース繊維(B)の平均繊維長が5~30mmである、[1]から[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[5]前記ポリオレフィン樹脂(A)の総質量に対する、前記酸変性ポリプロピレン樹脂(A2)の割合が、0.5~5質量%である、[1]から[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[6][1]から[5]のいずれかに記載の樹脂組成物の成形品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐湿熱性に優れ、かつ機械強度も良好な成形品を提供できる樹脂組成物及びその製造方法と、前記樹脂組成物の成形品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例2の成形品のSEM写真である。
図2】比較例1の成形品のSEM写真である。
図3】比較例4の成形品のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の一実施形態について詳細に説明するが、本開示の範囲はここで説明する一実施形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更ができる。本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。また、特定のパラメータについて、複数の上限値及び下限値が記載されている場合、これらの上限値及び下限値の内、任意の上限値と下限値とを組合せて好適な数値範囲とすることができる。また、本開示に記載されている数値範囲の下限値及び/又は上限値は、その数値範囲内の数値であって、実施例で示されている数値に置き換えてもよい。数値範囲を示す「X~Y」との表現は、「X以上Y以下」であることを意味している。一実施形態について記載した特定の説明が他の実施形態についても当てはまる場合には、他の実施形態においてはその説明を省略している場合がある。
各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
【0012】
[樹脂組成物]
本開示における第1の実施形態は、樹脂組成物に関する。
第1の実施形態は、樹脂組成物であって、前記樹脂組成物は、溶剤法再生セルロース繊維(B)を長さ方向に揃えた繊維束にポリオレフィン樹脂(A)が含浸した、ポリオレフィン樹脂含浸再生セルロース繊維束(B1)を含み、前記ポリオレフィン樹脂(A)が、ポリプロピレン樹脂(A1)と、マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(A2-1)及び無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(A2-2)から選択される少なくとも1つの樹脂である、酸変性ポリプロピレン樹脂(A2)とを含み、前記酸変性ポリプロピレン樹脂(A2)の酸価が20mgKOH/g超であり、重量平均分子量が90,000以下であり、前記ポリオレフィン樹脂含浸再生セルロース繊維束(B1)の総質量に対する、前記ポリオレフィン樹脂(A)の含有量が30~95質量%であり、前記溶剤法再生セルロース繊維(B)の含有量が5~70質量%である、樹脂組成物に関する。
【0013】
再生セルロース繊維及びポリプロピレン樹脂を含む樹脂組成物では、一般に、ポリプロピレン樹脂と無水マレイン酸等で変性した酸変性ポリプロピレン樹脂とを組み合わせることが多い。本願発明者らが検討を進めた結果、この酸変性ポリプロピレン樹脂と再生セルロース繊維とを組み合わせることにより、耐湿熱性の低下が生じることが判明した。酸変性ポリプロピレン樹脂は、ポリプロピレン樹脂の繊維への密着性を向上させるために添加されることが多く、単純に酸変性ポリプロピレン樹脂を排除すると、所望の機械強度が得られにくくなる。本願発明者らの更なる検討の結果、再生セルロース繊維として、特に、ビスコース法により調製された再生セルロース繊維と酸変性ポリプロピレン樹脂とを組み合わせることにより、耐湿熱性の低下が顕著となることを突き止めた。さらに検討を進めた結果、再生セルロース繊維として、溶剤法再生セルロース繊維(B)を選択すること、さらに、該溶剤法再生セルロース繊維(B)を長さ方向に揃えた繊維束に、酸価及び重量平均分子量を制御した酸変性ポリプロピレン樹脂(A2)を含むポリオレフィン樹脂(A)を含浸させることにより、耐湿熱性に優れ、かつ機械強度も良好な成形品を提供できることを見出した。
【0014】
<ポリオレフィン樹脂含浸再生セルロース繊維束(B1)>
第1の実施形態に係る樹脂組成物は、ポリオレフィン樹脂含浸再生セルロース繊維束(B1)(以下、「繊維束(B1)」と記載する)を含む。第1の実施形態に係る樹脂組成物が繊維束(B1)を含むことにより、耐湿熱性に優れ、かつ機械強度も良好な成形品を提供できる。
【0015】
繊維束(B1)は、溶剤法再生セルロース繊維(B)(以下、単に「繊維(B)」と記載することもある)を長さ方向に揃えた繊維束に、ポリオレフィン樹脂(A)(以下、「樹脂(A)」と記載することもある)を含浸させた後にカッティングして得られる複合材である。一実施形態において、樹脂組成物は繊維束(B1)と任意の熱可塑性樹脂(その他の熱可塑性樹脂)とを含んでいてもよく、繊維束(B1)のみを含んでいてもよい。
【0016】
(ポリオレフィン樹脂(A))
繊維束(B1)は、ポリプロピレン樹脂(A1)と、酸変性ポリプロピレン樹脂(A2)とを含むポリオレフィン樹脂(A)を含む。ポリオレフィン樹脂(A)の含有量は、繊維束(B1)の総質量に対して、30~95質量%である。繊維束(B1)中のポリオレフィン樹脂(A)(以下、「樹脂(A)」と記載することもある)の含有量は、30~95質量%の範囲内で任意に調整できる。一実施形態において、繊維束(B1)中の樹脂(A)の含有量は、30~80質量%であってもよく、30~75質量%であってもよく、30~70質量%であってもよい。
【0017】
(ポリプロピレン樹脂(A1))
樹脂(A)は、ポリプロピレン樹脂(A1)を含む。ポリプロピレン樹脂(A1)(以下、「樹脂(A1)」と記載することもある)としては、例えば、プロピレンのホモポリマー(以下、「PPホモポリマー」と記載することもある)、プロピレンとプロピレン以外のα-オレフィンとの共重合体等が挙げられる。なお、樹脂(A1)には、後述する、マレイン酸又は無水マレイン酸で変性されたポリプロピレン樹脂は含まれない。
【0018】
プロピレンのホモポリマーとしては、例えば、アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレンが挙げられる。これらは一種単独で用いられてもよく、二種以上を併用してもよい。
プロピレン以外のα-オレフィンとしては、例えば、エチレン、ブテン、ヘキセン、ヘプテン等が挙げられる。これらは一種単独で用いられてもよく、二種以上を併用してもよい。このうち、プロピレンとプロピレン以外のα-オレフィンとの共重合体としては、プロピレンとエチレンとのブロックコポリマー、プロピレンとエチレンとのランダムコポリマーが好ましい。
一実施形態において、樹脂(A1)は、PPホモポリマー、プロピレンとエチレンとのブロックコポリマー(以下、「PPブロックコポリマー」と記載することもある)、及びプロピレンとエチレンとのランダムコポリマーからなる群より選択される少なくとも1つの樹脂を含むことが好ましく、PPホモポリマー、及びPPブロックコポリマーからなる群より選択される少なくとも1つの樹脂を含むことがより好ましい。
【0019】
一実施形態において、樹脂(A1)としては、ISO 1133に従って測定されるメルトフローレート(MFR)(230℃、2.16kg荷重)の物性が20~300g/10minのポリプロピレン樹脂を用いてもよい。
【0020】
一実施形態において、樹脂(A)中の樹脂(A1)の割合は、樹脂(A)の総質量に対して、90~99.5質量%であってもよく、93~99.5質量%であってもよく、95~99.5質量%であってもよく、95~99質量%であってもよく、96~99質量%であってもよい。一実施形態においては、樹脂(A)中の樹脂(A1)の割合は、96.5~98.8質量%であってもよい。樹脂(A)中の樹脂(A1)の割合が前記範囲内であれば、繊維束(B1)中の酸変性プロピレン樹脂(A2)の割合を制御して、耐湿熱性及び機械強度の良好な成形品が得られやすい。
【0021】
一実施形態において、繊維束(B1)中の樹脂(A1)の割合は、繊維束(B1)の総質量に対して、22.5~89.5質量%であってもよく、35~89.5質量%であってもよく、50~89.5質量%であってもよく、60~89.5質量%であってもよく、65~70質量%であってもよい。
【0022】
(酸変性ポリプロピレン樹脂(A2))
樹脂(A)は、マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(A2-1)及び無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(A2-2)から選択される少なくとも1つの樹脂であり、かつ酸価が20mgKOH/g超であり、重量平均分子量が90,000以下である酸変性ポリプロピレン樹脂(A2)を含む。
酸価が20mgKOH/g超であり、重量平均分子量が90,000以下である酸変性ポリプロピレン樹脂(A2)(以下、「樹脂(A2)」と記載することもある)を含む樹脂(A)を、繊維(B)に含浸させた繊維束(B1)を含むことにより、樹脂組成物の耐湿熱性が向上し、かつ初期強度に優れる成形品が得られる。
【0023】
・酸価
樹脂(A2)は20mgKOH/g超の酸価を有している。樹脂(A2)として市販品を採用する場合、樹脂(A2)の酸価はメーカー公称値を採用できる。あるいは、JIS K0070の「中和滴定法」に沿って測定することもできる。
【0024】
樹脂(A2)の酸価は20mgKOH/g超であり、その上限は本発明の効果を有する限り特に限定されない。一実施形態においては、樹脂(A2)の酸価は20mgKOH/g超60mgKOH/g以下であってもよく、22~55mgKOH/gであってもよい。なお、樹脂(A2)として複数の樹脂の混合物を用いる場合、各樹脂の酸価から算出した平均値を樹脂(A2)の酸価として採用する。
【0025】
・重量平均分子量(Mw)
樹脂(A2)の重量平均分子量(Mw)は90,000以下である。樹脂(A2)として市販品を採用する場合、樹脂(A2)のMwはメーカー公称値を採用できる。また、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)法により、以下の条件で測定した値を採用することもできる。
(重量平均分子量(Mw)の測定条件)
装置:高温ゲルパーミエイションクロマトグラフ(例えば、Waters(株)製、製品名「Alliance(登録商標) GPC V2000」)
検出装置:屈折率検出器
溶媒:オルトジクロロベンゼン
基準物質:ポリスチレン
サンプル濃度:3mg/mL
カラム固定相:PLgel10μm、MIXED-B2本直列(ポリマーラボラトリーズ(株)製)
カラム温度:135℃
【0026】
樹脂(A2)のMwは90,000以下であり、その下限は、樹脂(A1)の分子鎖同士の絡み合いが良好となりやすい観点からは、25,000以上が好ましく、30,000以上がより好ましい。一実施形態において、樹脂(A2)のMwは、25,000~90,000であってもよく、30,000~90,000であってもよく、30,000~70,000であってもよく、30,000~60,000であってもよい。なお、樹脂(A2)として複数の樹脂の混合物を用いる場合、各樹脂のMwから算出した平均値を樹脂(A2)のMwとして採用する。
【0027】
・融点(Tm)
一実施形態において、樹脂(A2)の融点(Tm)は、130~160℃が好ましく、135~155℃がより好ましい。樹脂(A2)の融点(Tm)は130~150℃であってもよい。樹脂(A2)の融点(Tm)は、樹脂(A2)が市販品の場合はメーカー公称値を採用することができる。また、以下の方法で測定した値を採用することもできる。
(融点(Tm)の測定方法)
JIS K-7121(1999)に基づいた方法により、昇温を10℃/分として融点を測定する。
【0028】
(マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(A2-1)、無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(A2-2))
樹脂(A2)は、マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(A2-1)(以下、「樹脂(A2-1)」と記載することもある)及び無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(A2-2)(以下、「樹脂(A2-2)」と記載することもある)から選択される少なくとも1つの樹脂であり、前述の酸価及びMwを満たすものである。
好ましい実施形態においては、樹脂(A2-1)及び樹脂(A2-2)は、ポリプロピレンに、マレイン酸又は無水マレイン酸をグラフト重合して得られた酸変性ポリプロピレン樹脂であってもよい。樹脂(A2-1)及び(A2-2)における前記ポリプロピレンは、PPホモポリマーであってもよく、PPブロックコポリマーであってもよい。
【0029】
一実施形態において、樹脂(A2-1)及び樹脂(A2-2)としては市販品を用いてもよい。このうち、樹脂(A2-2)の市販品としては、例えば、三洋化成工業(株)製の、製品名「UMEX(登録商標) 1001」(酸価:26mgKOH/g、Mw:45,000、融点(Tm):142℃)、「UMEX 1010」(酸価:52mgKOH/g、Mw:30,000、融点(Tm):135℃);理研ビタミン(株)製の、製品名「MG250P」(酸価:28mgKOH/g、Mw:58,000、融点(Tm):166℃)、「MG441P」(酸価:43mgKOH/g、Mw:41,000、融点(Tm):161℃)等が挙げられる。これら樹脂(A2-1)及び樹脂(A2-2)は1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
一実施形態において、樹脂(A)中の樹脂(A2)の割合は、樹脂(A)の総質量に対して、0.5~10質量%であってもよく、0.5~7質量%であってもよく、0.5~5質量%であってもよく、1.0~5.0質量%であってもよく、1.0~4.0質量%であってもよく、1.2~3.5質量%であってもよい。樹脂(A)中の樹脂(A2)の割合が前記範囲内であれば、樹脂組成物の初期機械物性や耐湿熱性が高くなりやすい。
一実施形態において、樹脂(A2)が樹脂(A2-2)を含む場合、樹脂(A)中の樹脂(A2-2)の割合は、前述の樹脂(A2)の割合と同じ範囲としてもよい。すなわち、樹脂(A)中の樹脂(A2-2)の割合は、樹脂(A)の総質量に対して、0.5~10質量%であってもよく、0.5~7質量%であってもよく、0.5~5質量%であってもよく、1.0~5.0質量%であってもよく、1.0~4.0質量%であってもよく、1.2~3.5質量%であってもよい。
【0031】
(その他のポリオレフィン樹脂)
一実施形態において、樹脂(A)は前述の樹脂(A1)及び樹脂(A2)以外の樹脂(その他のポリオレフィン樹脂)を含むことができる。
その他のポリオレフィン樹脂としては、本発明の効果を有する限り特に限定されず、例えば、樹脂(A1)及び樹脂(A2)以外の炭素数2~6のオレフィンの単独重合体又は共重合体(ポリエチレン、エチレン-プロピレン共重合体等のエチレン系樹脂;ポリ(メチルペンテン-1);プロピレン-メチルペンテン共重合体等);炭素数2~6のオレフィンと共重合性単量体との共重合体(エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体等);アルキル基やエステル基等の置換基を有していてもよい環状オレフィン(特に炭化水素環と縮合した環状オレフィン、橋架環式環状オレフィン等)の単独重合体又は共重合体(例えば、ポリビシクロペンタジエン、ポリノルボルネン等の環状オレフィンの単独重合体;ビシクロアルカジエン、トリシクロアルカジエン、ビシクロアルケン、及びトリシクロアルケンから選択される環状オレフィンと炭素数2~4のα-オレフィン(エチレン等)との共重合体等)等が挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
樹脂(A)がその他のポリオレフィン樹脂を含む場合は、樹脂(A)の総質量に対して、50質量%以下とすることが好ましい。
【0032】
好ましい実施形態においては、樹脂(A)は、樹脂(A1)及び樹脂(A2)のみを含んでいてもよく、樹脂(A1)及び樹脂(A2-2)のみを含んでいてもよい。この時の樹脂(A1)及び樹脂(A2)(又は樹脂(A2-2))の割合は、樹脂(A1)が90~99.5質量%であり、樹脂(A2)が0.5~10質量%の範囲で任意に設定できる。
【0033】
(溶剤法再生セルロース繊維(B))
繊維束(B1)は、溶剤法再生セルロース繊維(B)を含む。繊維束(B1)中の溶剤法再生セルロース繊維(B)の含有量は、繊維束(B1)の総質量に対して、5~70質量%である。ペレットや成形品の製造性の観点からは、繊維束(B1)中の繊維(B)の含有量は、繊維束(B1)の総質量に対して、10~60質量%であってもよく、10~50質量%であってもよく、10~40質量%であってもよい。
【0034】
本明細書において「再生セルロース繊維」とは、天然セルロース繊維(高等植物由来のセルロース繊維、動物由来のセルロース繊維、バクテリア由来のセルロース繊維)を用いて人造で紡糸されたセルロース繊維を指す。
【0035】
高等植物由来のセルロース繊維としては、例えば、木材繊維(針葉樹、広葉樹等の木材パルプ等)、竹繊維、サトウキビ繊維、種子毛繊維(コットンリンター、ボンバックス綿、カポック等)、ジン皮繊維(例えば、麻、コウゾ、ミツマタ等)、葉繊維(例えば、マニラ麻、ニュージーランド麻等)等の天然セルロース繊維(パルプ繊維)等が挙げられる。
動物由来のセルロース繊維としては、ホヤセルロース等が挙げられる。
これら天然セルロース繊維は、1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
上述のセルロース繊維から溶剤法再生セルロース繊維を得る方法としては、溶剤紡糸法(セルロースを一旦化学的に変換することのない直接法)が挙げられる。溶剤紡糸法で得られた再生セルロース繊維としては、リヨセル、テンセル等が挙げられる。繊維(B)としては、これらの溶剤法再生セルロース繊維を1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
一実施形態において、溶剤法再生セルロース繊維(B)の平均繊維径は、5~30μmであることが好ましく、X線配向度が86%以上であることが好ましい。このような平均繊維径及びX線配向度を有することで、溶剤法再生セルロース繊維(B)に樹脂(A)が含浸しやすくなる。また、得られる成形品の機械強度も向上しやすくなる。
前記平均繊維径は6~20μmであることがより好ましく、7~15μmであることがさらに好ましい。なお、溶剤法再生セルロース繊維(B)の平均繊維径はSEM等にて複数本の繊維の径(長径)を観察してその平均値から算出できる。
また前記X線配向度は90%以上であることがより好ましい。また溶剤法再生セルロース繊維(B)のX線配向度は、特開平9-31744号公報や特開平9-256216号公報に記載の数式から求めることができる。
【0038】
一実施形態において、溶剤法再生セルロース繊維(B)の引張弾性率(ヤング率)は、10GPa以上であってもよく、13GPa以上であってもよく、15GPa以上であってもよい。溶剤法再生セルロース繊維(B)の引張弾性率は、特開2013-91775号公報の段落番号0038に記載の、「23℃、50%RHの空調で3週間保管後、チャック間距離200mm、引張速度200mm/minで測定」する方法で求めることができる。
【0039】
繊維束(B1)中の溶剤法再生セルロース繊維(B)の平均繊維長は、5~30mmが好ましい。このような再生セルロース繊維(B)を含むことにより、第1の実施形態に係る樹脂組成物を射出成形して得られる成形品の機械強度がより向上しやすくなる。繊維(B)の平均繊維長は、5mm超30mm以下であってもよく、5~20mmであってもよく、5~15mmであってもよく、5~10mmであってもよい。
溶剤法再生セルロース繊維(B)の平均繊維長は、繊維束(B1)のペレット約100個の長軸の長さをノギス等で測定し、その平均値から算出してもよい。
【0040】
第1の実施形態に係る樹脂組成物が、繊維束(B1)とその他の熱可塑性樹脂とを含む場合、樹脂組成物中の繊維(B)の平均繊維長も、5~30mmが好ましい。また前記平均繊維長は、5mm超30mm以下であってもよく、5~20mmであってもよく、5~15mmであってもよく、5~10mmであってもよい。樹脂組成物中の繊維(B)の平均繊維長は、樹脂組成物の樹脂を有機溶媒(キシレン等)で溶解除去した後、繊維を媒体に分散させ、前記繊維を画像処理することによって測定された繊維長の平均値として算出できる。
【0041】
繊維束(B1)における溶剤法再生セルロース繊維(B)の本数は、2,000~30,000本であることが好ましく、3,000~25,000本であることがより好ましく、5,000~25,000本であることがさらに好ましい。溶剤法再生セルロース繊維(B)の本数が前記範囲内であれば、繊維束(B1)の中心部にまで樹脂(A)が含浸しやすくなる。その結果、繊維束(B1)を含む樹脂組成物を成形加工した際に、外観がより良好であり、かつ機械強度により優れる成形品が得られやすくなる。また繊維束(B1)の製造時に、繊維束が切れる等の製造上の問題が発生しにくい。
【0042】
<ポリオレフィン樹脂含浸再生セルロース繊維束(B1)の製造方法>
一実施形態において、繊維束(B1)は、ダイスを用いた周知の製造方法により製造することができる。具体的には、特開平6-313050号公報、特開2007-176227号公報、特公平6-2344号公報等に記載の製造方法を適用することができる。
【0043】
一実施形態において、繊維束(B1)が樹脂(A)及び溶剤法再生セルロース繊維(B)からなる場合、繊維束(B1)の総質量に対する、溶剤法再生セルロース繊維(B)の割合は、5~70質量%が好ましく、10~60質量%がより好ましく、10~50質量%がさらに好ましく、10~40質量%が特に好ましい。また、繊維束(B1)中の樹脂(A)の割合は、30~95質量%が好ましく、50~90質量%がより好ましく、60~90質量%がさらに好ましく、60~80質量%が特に好ましい。繊維束(B1)の総質量に対する溶剤法再生セルロース繊維(B)の割合を前記範囲内に調整することで、射出成形時における流動性と成形品の機械強度とがより良好となりやすく、かつ耐湿熱性により優れる成形品が得られやすい。
【0044】
<その他の成分>
第1の実施形態に係る樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲内で、繊維束(B1)以外の成分(その他の成分)を含むことができる。その他の成分としては、前述のその他の熱可塑性樹脂の他、例えば、軟化剤、表面潤滑剤、レベリング剤、酸化防止剤、界面活性剤、腐食防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、耐熱安定剤、重合禁止剤、シランカップリング剤、滑剤、可塑剤、結晶化促進剤、加水分解抑制剤、無機充填材、着色剤、離型剤、帯電防止剤、溶剤法再生セルロース繊維以外の有機充填剤、金属粉、顔料、エポキシ化合物等の添加剤等が挙げられる。これら添加剤は1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
その他の熱可塑性樹脂としては、前述のその他のポリオレフィン樹脂を1種又は2種以上併用できる。樹脂組成物がその他の熱可塑性樹脂を含む場合、樹脂組成物の総質量に対して、30質量%以下とすることができる。
【0045】
また、樹脂組成物が前述の添加剤を含む場合、樹脂組成物の総質量に対して、1質量%以下とすることができる。なお、添加剤は繊維束(B1)の製造時に配合されてもよい。これら添加剤のうち、より初期の機械特性に優れる成形品が得られやすくなる観点からは、エポキシ化合物を配合してもよい。
【0046】
(エポキシ化合物)
エポキシ化合物としては、例えば、エポキシ基濃度が0.1~6.0moL/kgの、エポキシ化油脂、エポキシ基含有共重合体、ビスフェノール型エポキシ化合物、及びエポキシシラン化合物からなる群より選択される少なくとも1つの化合物を含むことが好ましく、エポキシ基含有共重合体、及びビスフェノール型エポキシ化合物からなる群より選択される少なくとも1つの化合物を含むことがより好ましい。
【0047】
エポキシ化油脂としては、例えば、エポキシ化トリグリセリド及びエポキシ化脂肪酸モノエステルを用いることができる。エポキシ化トリグリセリドとしては、例えば、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油等が挙げられる。また、エポキシ化脂肪酸モノエステル(RCOOR)におけるアルキルエステル部分のアルキル基(R)としては、例えば、炭素数4~12の直鎖又は分岐鎖を有するアルキル基とすることができる。より具体的には、エポキシ化脂肪酸ブチル、エポキシ化脂肪酸オクチル等が挙げられる。これらエポキシ化油脂は、1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。このうち、価格と取り扱い性の観点からは、エポキシ化大豆油を用いることが好ましい。なお、エポキシ基濃度が0.1~6.0moL/kgのエポキシ化油脂として、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、(株)ADEKA製の製品名「Adekacizer(登録商標)O-130P」(エポキシ基濃度:4.2moL/kg)が挙げられる。
【0048】
エポキシ基含有共重合体としては、例えば、エポキシ基含有オレフィン系重合体(以下、「重合体(I)」と記載することもある)及びエポキシ基含有スチレン系重合体(以下、「重合体(II)」と記載することもある)からなる群より選択される少なくとも1つが挙げられる。
【0049】
重合体(I)としては、例えば、α-オレフィンに由来する繰り返し単位及びα,β-不飽和酸のグリシジルエステルに由来する繰り返し単位から構成される共重合体が挙げられる。このうち、α,β-不飽和酸のグリシジルエステルとしては、アクリル酸グリシジルエステル、メタクリル酸グリシジルエステル、エタクリル酸グリシジルエステル、イタコン酸グリシジルエステルが好ましく、メタクリル酸グリシジルエステルを含むことが特に好ましい。
【0050】
重合体(II)としては、例えば、スチレン類に由来する繰り返し単位及びα,β-不飽和酸のグリシジルエステルに由来する繰り返し単位とから構成される共重合体が挙げられる。α,β-不飽和酸のグリシジルエステルは、重合体(I)と同様のものが例示でき、好ましい例もまた同様である。
スチレン類としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ハロゲン化スチレン(例えば、ブロム化スチレン等)、ジビニルベンゼン等が挙げられる。このうち、スチレンが好ましく用いられる。
なお、重合体(I)と重合体(II)とを併用する場合、これら重合体同士の割合は、適宜、要求される特性に沿って選択することができる。
【0051】
ビスフェノール型エポキシ化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビスフェノールAD型エポキシ化合物が好ましい例として挙げられる。中でも、価格と取り扱い性の観点からは、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物がより好ましく、ビスフェノールA型エポキシ化合物が特に好ましい。ビスフェノール型エポキシ化合物は、1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
エポキシシラン化合物としては、例えば、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロへキシル)エチルトリメトキシシラン等を上げることができる。エポキシシラン化合物は、1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0053】
セルロース繊維と酸変性ポリプロピレン樹脂とは、互いに密着することによってエステル結合を形成することが期待される。しかし、分散性や反応性等の違いにより、セルロースと密着することができずに、一部の酸変性ポリプロピレン樹脂がポリプロピレン樹脂中に点在してしまうことがある。このような酸変性ポリプロピレン樹脂における1つの無水マレイン酸官能基からは、加水分解により2つのカルボキシ基が生じる。本願発明者らは、再生セルロース繊維と酸変性ポリプロピレン樹脂とを含む複合樹脂組成物において耐湿熱性が悪化する原因が、このカルボキシ基にあると考えた。カルボキシ基は樹脂組成物全体のpHを低下させることから、エーテル結合やエステル結合の加水分解を促進する。従って、ポリプロピレン樹脂中で遊離している上記の酸変性ポリプロピレン樹脂は、セルロースとの密着に貢献しないだけでなく、かえって湿熱環境下でセルロースの切断を加速させたり、セルロースとポリプロピレン樹脂との密着を悪化させたりすると推察される。本願発明者らは、このように、セルロースと密着していない酸変性ポリプロピレン樹脂の存在を極力減らすことによる耐湿熱性向上について鋭意検討を行った。その結果、本願発明者らは、一定値超の酸価を有し、かつMwが一定値以下の酸変性ポリプロピレン樹脂(A2)を、ポリプロピレン樹脂(A1)及び溶剤法再生セルロース繊維(B)と組み合わせることにより、耐湿熱性が良好となることを見出した。これは、図1に示すように、樹脂(A2)が、溶剤法再生セルロース繊維(B)の界面に存在しやすくなり、繊維(B)と樹脂(A2)とが密着しやすくなること、また、樹脂(A1)と溶剤法再生セルロース繊維(B)との界面において、樹脂(A2)及び繊維(B)との絡み合いが増え、樹脂や繊維の加水分解が生じた場合でも、機械強度が低下しにくくなるためであると考えられる。
【0054】
<樹脂組成物の製造方法>
第1の実施形態に係る樹脂組成物の製造方法としては特に限定されず、任意の方法を採用できる。一実施形態においては、前述の繊維束(B1)の製造方法(例えば、ポリオレフィン樹脂(A)と、必要に応じて任意成分とを含む溶融状態の混合物を、クロスヘッドダイに通した溶剤法再生セルロース繊維(B)を長さ方向に揃えた繊維束に含浸させて、繊維束(B1)を調製する方法)によって繊維束(B1)を得ることと、必要に応じて繊維束(B1)をその他の成分とを混合することとを含む方法により、第1の実施形態に係る樹脂組成物を得てもよい。
【0055】
[成形品及びその製造方法]
本開示における第2の実施形態は、成形品に関する。
第2の実施形態に係る成形品は、第1の実施形態に係る樹脂組成物を成形して得られるものである。第2の実施形態に係る成形品は、第1の実施形態に係る樹脂組成物を射出成形して得られるものであってもよい。第2の実施形態に係る成形品は、第1の実施形態に係る樹脂組成物を成形して得られるものであるため、耐湿熱性に優れており、かつ機械強度も良好である。
【0056】
第2の実施形態に係る成形品の、121℃、100%RH、2気圧の湿熱条件下で50時間保管した後の引張強度の保持率((保管後の引張強度(MPa)/保管前の引張強度(MPa))×100(%))は、60%超が好ましく、62%以上がより好ましい。
【0057】
第2の実施形態に係る成形品の、ISO527-1,2に準拠して測定した、湿熱試験前の引張強度(TS)(初期強度)は、80MPa以上が好ましく、84MPa以上がより好ましい。
【0058】
本願発明者らは、第2の実施形態に係る成形品は表面外観も良好となりやすいことを見出した。セルロース繊維のような、繊維状充填剤を含む樹脂組成物の成形品においては、その表面に白色や黒色の異物が視認されることがある。一瞥して視認できる白色点や黒点は、異常点としての印象を与えるため、外観面で不良品となることが多い。驚くべきことに、第2の実施形態に係る成形品は、表面異物が少なく外観が良好な成形品となりやすい。このように外観に優れる成形品は、第1の実施形態に係る樹脂組成物において、樹脂(A2)として、融点(Tm)が比較的低い(好ましくは、130~160℃、より好ましくは、135~155℃、特に好ましくは135~150℃)樹脂を採用することにより得られやすくなる。
【0059】
[用途]
第2の実施形態に係る成形品は、耐湿熱性に優れ、かつ良好な機械強度も有する。このような成形品は、例えば、ケース部品、車載ドアモジュール等の用途に好適に用いることができる。
【実施例0060】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によって限定されるものではない。
【0061】
樹脂組成物の原料として、以下を用いた。
<ポリオレフィン樹脂(A)>
(樹脂(A1))
・プロピレンのホモポリマー(PPホモポリマー、サンアロマー(株)製、製品名「PMB02A」)。
(樹脂(A2))
・樹脂(A2-2-1):無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(三洋化成工業(株)製、製品名「UMEX(登録商標) 1001」、酸価:26mgKOH/g、Mw:45,000、Tm:142℃)。
・樹脂(A2-2-2):無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(三洋化成工業(株)製、製品名「UMEX 1010」、酸価:52mgKOH/g、Mw:30,000、Tm:135℃)。
・樹脂(A2-2-3):無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(理研ビタミン(株)製、製品名「MG250P」、酸価:28mgKOH/g、Mw:58,000、Tm:166℃)。
・樹脂(A2-2-4):無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(理研ビタミン(株)製、製品名「MG441P」、酸価:43mgKOH/g、Mw:41,000、Tm:161℃)。
(その他の樹脂)
・樹脂(A2’-2-1):無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(SK functional Polymer社製、製品名「OREVAC(登録商標) CA100」、酸価:10~20mgKOH/g、Mw:95,000、Tm:167℃)。
・樹脂(A2’-2-2):無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(三菱ケミカル(株)製、製品名「モディック(登録商標) P908」、酸価:12.8mgKOH/g、Mw:>100,000、Tm:155℃)。
上記樹脂の物性値はメーカー公称値を採用した。
【0062】
<溶剤法再生セルロース繊維(B)>
・溶剤法再生セルロース繊維(B-1):BioMid Fiber(平均繊維径(長径):11μm)。
<その他の繊維>
・ビスコース法再生セルロース繊維(B’-1):Cordenka CR500TEX(平均繊維径(長径):11μm)。
【0063】
<その他の成分>
・酸化防止剤(1):ヒンダートフェノール系酸化防止剤(BASFジャパン(株)製、製品名「Irganox(登録商標)1010」)。
・酸化防止剤(2):リン系酸化防止剤(BASFジャパン(株)製、製品名「Irgafos(登録商標)168」)。
・耐侯剤:ヒンダートアミン系光安定剤(BASFジャパン(株)製、製品名「Tinuvin(登録商標)111FD」)。
【0064】
[実施例1]
樹脂(A1)68.54質量%、樹脂(A2-2-1)1.0質量%、酸化防止剤(1)0.21質量%、酸化防止剤(2)0.11質量%及び耐侯剤0.14質量%を混合して二軸押出機に投入したのち、シリンダー温度260℃で溶融混練して得られた溶融状態の混合物を、クロスヘッドダイに通した溶剤法再生セルロース繊維(B-1)を長さ方向に揃えた繊維束に、溶剤法再生セルロース繊維(B-1)が30質量%となるように含浸させた。その後、クロスヘッドダイ出口の賦形ノズルで賦形し、整形ロールで形を整えた後、ペレタイザーにより長さ7mmに切断することにより、ペレット状の繊維束(B1)からなる実施例1の樹脂組成物を得た。
【0065】
次に、実施例1の樹脂組成物(ペレット)を下記の条件で射出成形して成形品(ISO引張試験片)を得た。得られた成形品について、以下の条件で各種機械強度を測定した。また以下の条件で耐湿熱性を測定した。
(成形条件)
成形機:芝浦機械(株)製、製品名「EC40」。
試験片:ISO引張試験片。
成形温度:200℃。
金型温度:60℃。
【0066】
<機械強度の評価>
得られたISO引張試験片を用いて、ISO527-1,2に準拠して、引張強度(TS)、引張伸び(TE)を測定した。また、引張強度を以下の評価基準に沿って評価した。
(評価基準)
優:引張強度が85MPa以上である。
良:引張強度が75MPa以上85MPa未満である。
可:引張強度が65MPa以上75MPa未満である。
不可:引張強度が65MPa未満である。
【0067】
<耐湿熱性1(25時間後)の評価>
得られたISO引張試験片を、121℃、100%RH、2気圧の条件下で25時間保管した。その後、上記の機械強度の評価と同じ条件で引張強度を測定した。さらに、湿熱試験後の引張強度(MPa)と試験前の引張強度(MPa)の値から引張強度保持率を算出した。
引張強度保持率(%)=(湿熱試験後の引張強度(MPa))/(湿熱試験前の引張強度(MPa))×100
さらに以下の評価基準に沿って耐湿熱性を評価した。
(評価基準)
A:引張強度保持率が75%以上である。
B:引張強度保持率が70%超75%未満である。
C:引張強度保持率が70%以下である。
【0068】
<耐湿熱性2(50時間後)の評価>
得られたISO引張試験片を、121℃、100%RH、2気圧の条件下で、50時間保管した。その後、上記の機械強度の評価と同じ条件で引張強度を測定した。さらに、湿熱試験後の引張強度(MPa)と試験前の引張強度(MPa)の値から引張強度保持率を算出した。
引張強度保持率(%)=(湿熱試験後の引張強度(MPa))/(湿熱試験前の引張強度(MPa))×100
さらに以下の評価基準に沿って耐湿熱性を評価した。
(評価基準)
A:引張強度保持率が62%以上である。
B:引張強度保持率が60%超62%未満である。
C:引張強度保持率が60%以下である。
【0069】
<耐湿熱性総合評価>
25時間後及び50時間後の耐湿熱試験の評価を元に、以下の評価基準に沿って耐湿熱性の総合評価を行った。
(評価基準)
優:耐湿熱性1及び耐湿熱性2が共にA評価である。
良:耐湿熱性1又は耐湿熱性2の一方がA評価であり、他方がB評価である。
可:耐湿熱性1及び耐湿熱性2が共にB評価である。
不可:耐湿熱性1及び耐湿熱性2が共にC評価である、あるいは耐湿熱性1又は耐湿熱性2の一方がB評価であり、他方がC評価である。
【0070】
[実施例2~5及び比較例1~6]
樹脂組成物の組成を表1の通りとした以外は、実施例1と同じ条件で樹脂組成物を調製した。得られた樹脂組成物から実施例1と同じ条件で成形品を調製した。また得られた成形品について、実施例1と同じ条件で、機械強度及び耐湿熱性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
表1に示すように、第1の実施形態の構成を満たす樹脂組成物から得られた実施例1~5の成形品は、耐湿熱性に優れ、かつ機械強度も良好であった。一方で、樹脂(A2)として、酸価が20mgKOH/g以下の無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂を配合した比較例1~3の成形品、ビスコース法再生セルロース繊維を配合した比較例5、6の成形品は、初期の機械強度は良好であったが、引張強度保持率が低く、耐湿熱性に劣っていた。また、樹脂(A2)を含まない比較例4の成形品は、耐湿熱性は比較的良好であったものの、初期の機械強度が低かった。
【0073】
図1~3に、実施例2、比較例1及び比較例4の成形品のSEM写真を示す。図1より、第1の実施形態の構成を満たす樹脂組成物より得られた成形品は、図2~3の成形品よりも樹脂と繊維との密着が多い(繊維表面に樹脂が密着した状態となっている)ことが分かる。このように樹脂と繊維との密着が増えることにより、初期の機械強度が高く、かつ湿熱試験後も機械強度が低下しにくい成形品が得られたものと推察される。
【0074】
<成形品の外観評価>
各例の成形品の外観評価を以下の条件で行った。
成形品(前述のISO引張試験片)表面に存在する異物の数を測定した。異物は、最大長さ又は最大長径が1mm以上のものを対象とし、成形品3枚の異物の数を測定し、その平均値を算出した。結果を表2に示す。
【0075】
【表2】
【0076】
表2に示す通り、第1の実施形態に係る樹脂組成物は、比較例の成形品よりも、表面異物の数が少なかった。特に、Tmが135~142℃の樹脂(A2)を配合した実施例1~3は、その他の実施例よりも、表面異物の数が少なく、より外観に優れる成形品が得られることが分かった。
【0077】
以上の結果より、第1の実施形態に係る樹脂組成物は、耐湿熱性に優れ、かつ機械強度も良好な成形品を提供できることが分かった。また、成形品の表面外観にも優れることが分かった。
図1
図2
図3