(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007207
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】樹脂組成物及びその製造方法、並びに、成形体及びギヤ
(51)【国際特許分類】
C08L 81/06 20060101AFI20250109BHJP
C08L 27/12 20060101ALI20250109BHJP
C08L 27/18 20060101ALI20250109BHJP
C08F 14/18 20060101ALI20250109BHJP
C08F 14/26 20060101ALI20250109BHJP
F16H 55/06 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
C08L81/06
C08L27/12
C08L27/18
C08F14/18
C08F14/26
F16H55/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023108457
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(74)【代理人】
【識別番号】100214215
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼梨 航
(72)【発明者】
【氏名】小森 翔平
(72)【発明者】
【氏名】能島 士貴
【テーマコード(参考)】
3J030
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
3J030BC01
4J002BD122
4J002BD152
4J002BE042
4J002CN031
4J002CN033
4J002GM02
4J100AC26P
4J100AE09P
4J100AE09Q
4J100BB18P
4J100BB18Q
4J100DA09
4J100FA03
4J100FA20
4J100FA29
4J100GB05
4J100GC25
4J100GC35
4J100JA28
4J100JA43
(57)【要約】
【課題】芳香族ポリスルホンを含み、耐疲労性に優れた成形体を提供可能な樹脂組成物、及びその成形体を提供する。
【解決手段】極性基及び/又はその塩を分子内に有する芳香族ポリスルホン(A)と、フッ素樹脂(B)と、前記芳香族ポリスルホン(A)及び前記フッ素樹脂(B)以外の熱可塑性樹脂(C)と、を含み、前記芳香族ポリスルホン(A)の前記極性基及び/又はその塩の含有量は、前記芳香族ポリスルホン(A)1gあたり、1×10-5mol/g以上40×10-5mol/g以下であり、下記CF3基含有量の測定方法により求められるCF3基含有量が0.15%未満である、樹脂組成物。
CF3基含有量の測定方法:19F固体NMRにより測定されたCF3基に対応するピーク面積ICF3と、CF2基に対応するピーク面積ICF2とから、下記式(f1)により求める。
CF3基含有量(%)={((ICF3)/3)/((ICF2)/2)}×100(f1)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
極性基及び/又はその塩を分子内に有する芳香族ポリスルホン(A)と、
フッ素樹脂(B)と、
前記芳香族ポリスルホン(A)及び前記フッ素樹脂(B)以外の熱可塑性樹脂(C)と、を含み、
前記芳香族ポリスルホン(A)の前記極性基及び/又はその塩の含有量は、前記芳香族ポリスルホン(A)1gあたり、1×10-5mol/g以上40×10-5mol/g以下であり、
前記フッ素樹脂(B)中の、下記<CF3基含有量の測定方法>により求められる、CF3基含有量が0.15%未満である、樹脂組成物。
<CF3基含有量の測定方法>
前記フッ素樹脂(B)中のCF2基含有量に対するCF3基含有量は、19F固体NMRにより測定されたCF3基に対応するピーク面積ICF3と、CF2基に対応するピーク面積ICF2とから、下記式(f1)により求める。
CF3基含有量(%)={((ICF3)/3)/((ICF2)/2)}×100 (f1)
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂(C)が、前記芳香族ポリスルホン(A)に該当しない芳香族ポリスルホン(c)である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記芳香族ポリスルホン(c)が、下記式(1)で表される繰返し単位を有する、請求項2に記載の樹脂組成物。
(1)-Ph1-SO2-Ph2-O-
[式中、Ph1及びPh2は、それぞれ独立に、フェニレン基を表す。前記フェニレン基にある水素原子は、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子、スルホ基、ニトロ基、アミノ基、カルボキシル基、又はヒドロキシル基で置換されていてもよい。]
【請求項4】
前記芳香族ポリスルホン(A)の前記極性基が、ヒドロキシル基及び/又はアミノ基である、請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記芳香族ポリスルホン(A)が、下記式(1)で表される繰返し単位を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
(1)-Ph1-SO2-Ph2-O-
[式中、Ph1及びPh2は、それぞれ独立に、フェニレン基を表す。前記フェニレン基にある水素原子は、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子、スルホ基、ニトロ基、アミノ基、カルボキシル基、又はヒドロキシル基で置換されていてもよい。]
【請求項6】
前記フッ素樹脂(B)中の、前記<CF3基含有量の測定方法>により求められる、CF3基含有量が0.11%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記フッ素樹脂(B)が、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である、請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記樹脂組成物の総質量100質量%に対し、前記芳香族ポリスルホン(A)の含有量が1質量%以上18質量%以下であり、前記フッ素樹脂(B)の含有量が5質量%以上22質量%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記樹脂組成物の総質量100質量%に対し、前記熱可塑性樹脂(C)の含有量が60質量%以上94質量%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含む成形体。
【請求項11】
請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含むギヤ。
【請求項12】
食品接触用ギヤである、請求項11に記載のギヤ。
【請求項13】
医薬品接触用ギヤである、請求項11に記載のギヤ。
【請求項14】
請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法であって、
極性基及び/又はその塩を分子内に有する芳香族ポリスルホン(A)と、
フッ素樹脂(B)と、
前記芳香族ポリスルホン(A)及び前記フッ素樹脂(B)以外の熱可塑性樹脂(C)と、を混合する工程を含み、
前記芳香族ポリスルホン(A)の前記極性基及び/又はその塩の含有量は、前記芳香族ポリスルホン(A)1gあたり、1×10-5mol/g以上40×10-5mol/g以下であり、
前記フッ素樹脂(B)中の、下記<CF3基含有量の測定方法>により求められる、CF3基含有量が0.15%未満である、樹脂組成物の製造方法。
<CF3基含有量の測定方法>
前記フッ素樹脂(B)中のCF2基含有量に対するCF3基含有量は、19F固体NMRにより測定されたCF3基に対応するピーク面積ICF3と、CF2基に対応するピーク面積ICF2とから、下記式(f1)により求める。
CF3基含有量(%)={((ICF3)/3)/((ICF2)/2)}×100 (f1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及びその製造方法、並びに、成形体及びギヤに関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリスルホンは、耐熱性や耐薬品性に優れることから、成形体の成形材料として各種用途に用いられている。特許文献1には、芳香族ポリスルホンを含む、摺動材料用途の樹脂組成物が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、機械部品などとして従来使用されてきた金属製部品を、樹脂製の成形体へと置き換えることが検討されている。機械部品のなかでも、長期間又は周期的に力が加え続けられるギヤ等の部品では、耐疲労性が求められる。
しかし、特許文献1に記載されるような従来の樹脂組成物及びその成形体では、耐疲労性の向上において、未だ改良の余地がある。
【0005】
本発明は、上記のような問題点を解消するためになされたものであり、芳香族ポリスルホンを含み、耐疲労性に優れた成形体を提供可能な樹脂組成物、及びその成形体の提供を目的とする。
また本発明は、芳香族ポリスルホンを含み、耐疲労性に優れたギヤの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、極性基及び/又はその塩の含有量が特定の値を満たす芳香族ポリスルホン(A)と、CF3基含有量が特定の値を満たすフッ素樹脂(B)とを含む樹脂組成物の成形体が、優れた耐疲労性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の態様を有する。
【0007】
<1> 極性基及び/又はその塩を分子内に有する芳香族ポリスルホン(A)と、フッ素樹脂(B)と、前記芳香族ポリスルホン(A)及び前記フッ素樹脂(B)以外の熱可塑性樹脂(C)と、を含み、前記芳香族ポリスルホン(A)の前記極性基及び/又はその塩の含有量は、前記芳香族ポリスルホン(A)1gあたり、1×10-5mol/g以上40×10-5mol/g以下であり、前記フッ素樹脂(B)中の、下記<CF3基含有量の測定方法>により求められる、CF3基含有量が0.15%未満である、樹脂組成物。
<CF3基含有量の測定方法>
前記フッ素樹脂(B)中のCF2基含有量に対するCF3基含有量は、19F固体NMRにより測定されたCF3基に対応するピーク面積ICF3と、CF2基に対応するピーク面積ICF2とから、下記式(f1)により求める。
CF3基含有量(%)={((ICF3)/3)/((ICF2)/2)}×100 (f1)
【0008】
<2> 前記熱可塑性樹脂(C)が、前記芳香族ポリスルホン(A)に該当しない芳香族ポリスルホン(c)である、前記<1>に記載の樹脂組成物。
<3> 前記芳香族ポリスルホン(c)が、下記式(1)で表される繰返し単位を有する、前記<2>に記載の樹脂組成物。
(1)-Ph1-SO2-Ph2-O-
[式中、Ph1及びPh2は、それぞれ独立に、フェニレン基を表す。前記フェニレン基にある水素原子は、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子、スルホ基、ニトロ基、アミノ基、カルボキシル基、又はヒドロキシル基で置換されていてもよい。]
【0009】
<4> 前記芳香族ポリスルホン(A)の前記極性基が、ヒドロキシル基及び/又はアミノ基である、前記<1>~<3>のいずれか一つに記載の樹脂組成物。
<5> 前記芳香族ポリスルホン(A)が、下記式(1)で表される繰返し単位を有する、前記<1>~<4>のいずれか一つに記載の樹脂組成物。
(1)-Ph1-SO2-Ph2-O-
[式中、Ph1及びPh2は、それぞれ独立に、フェニレン基を表す。前記フェニレン基にある水素原子は、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子、スルホ基、ニトロ基、アミノ基、カルボキシル基、又はヒドロキシル基で置換されていてもよい。]
【0010】
<6> 前記フッ素樹脂(B)中の、前記<CF3基含有量の測定方法>により求められる、CF3基含有量が0.11%以下である、前記<1>~<5>のいずれか一つに記載の樹脂組成物。
<7> 前記フッ素樹脂(B)が、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である、前記<1>~<6>のいずれか一つに記載の樹脂組成物。
【0011】
<8> 前記樹脂組成物の総質量100質量%に対し、前記芳香族ポリスルホン(A)の含有量が1質量%以上18質量%以下であり、前記フッ素樹脂(B)の含有量が5質量%以上22質量%以下である、前記<1>~<7>のいずれか一つに記載の樹脂組成物。
<9> 前記樹脂組成物の総質量100質量%に対し、前記熱可塑性樹脂(C)の含有量が60質量%以上94質量%以下である、前記<1>~<8>のいずれか一つに記載の樹脂組成物。
【0012】
<10> 前記<1>~<9>のいずれか一つに記載の樹脂組成物を含む成形体。
<11> 前記<1>~<9>のいずれか一つに記載の樹脂組成物を含むギヤ。
<12> 食品接触用ギヤである、前記<11>に記載のギヤ。
<13> 医薬品接触用ギヤである、前記<11>に記載のギヤ。
【0013】
<14> 前記<1>~<9>のいずれか一つに記載の樹脂組成物の製造方法であって、極性基及び/又はその塩を分子内に有する芳香族ポリスルホン(A)と、フッ素樹脂(B)と、前記芳香族ポリスルホン(A)及び前記フッ素樹脂(B)以外の熱可塑性樹脂(C)と、を混合する工程を含み、前記芳香族ポリスルホン(A)の前記極性基及び/又はその塩の含有量は、前記芳香族ポリスルホン(A)1gあたり、1×10-5mol/g以上40×10-5mol/g以下であり、前記フッ素樹脂(B)中の、下記<CF3基含有量の測定方法>により求められる、CF3基含有量が0.15%未満である、樹脂組成物の製造方法。
<CF3基含有量の測定方法>
前記フッ素樹脂(B)中のCF2基含有量に対するCF3基含有量は、19F固体NMRにより測定されたCF3基に対応するピーク面積ICF3と、CF2基に対応するピーク面積ICF2とから、下記式(f1)により求める。
CF3基含有量(%)={((ICF3)/3)/((ICF2)/2)}×100 (f1)
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、芳香族ポリスルホンを含み、耐疲労性に優れた成形体を提供可能な樹脂組成物、及びその成形体を提供できる。
また本発明は、芳香族ポリスルホンを含み、耐疲労性に優れたギヤを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】実施例2、比較例2、比較例4及び比較例5の樹脂組成物から成形された試験片の断面のSEM観察画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の樹脂組成物、成形体、及びギヤの実施形態を説明する。
【0017】
≪樹脂組成物≫
実施形態の樹脂組成物は、極性基及び/又はその塩を分子内に有する芳香族ポリスルホン(A)と、フッ素樹脂(B)と、前記芳香族ポリスルホン(A)及び前記フッ素樹脂(B)以外の熱可塑性樹脂(C)と、を含み、前記芳香族ポリスルホン(A)の前記極性基及び/又はその塩の含有量は、前記芳香族ポリスルホン(A)1gあたり、1×10-5mol/g以上40×10-5mol/g以下であり、前記フッ素樹脂(B)中の、下記<CF3基含有量の測定方法>により求められるCF3基含有量が、0.15%未満である。
【0018】
<CF3基含有量の測定方法>
前記フッ素樹脂(B)中のCF2基含有量に対するCF3基含有量は、19F固体NMRにより測定されたCF3基に対応するピーク面積ICF3と、CF2基に対応するピーク面積ICF2とから、下記式(f1)により求める。
CF3基含有量(%)={((ICF3)/3)/((ICF2)/2)}×100 (f1)
【0019】
極性基及び/又はその塩の含有量が特定の値を満たす芳香族ポリスルホン(A)と、CF3基含有量が特定の値を満たすフッ素樹脂(B)と、を含む実施形態の樹脂組成物の成形体は、前記樹脂組成物が当該芳香族ポリスルホン(A)を含まない場合の樹脂組成物の成形体と比べ、耐疲労性が向上される。
以下、実施形態の樹脂組成物を含む成形体に対して測定された耐疲労性について、単に、樹脂組成物の耐疲労性と説明することがある。
【0020】
後述の実施例に示されるように、樹脂組成物における芳香族ポリスルホン(A)の含有によって、樹脂組成物の耐疲労性が向上される。ただし、後述の実施例に示されるように、このような耐疲労性の向上効果は、フッ素樹脂が上記の特定のCF3基含有量を満たさない場合では顕著ではない。
【0021】
すなわち、樹脂組成物が、極性基及び/又はその塩の含有量が特定の値を満たす芳香族ポリスルホン(A)と、CF3基含有量が特定の値を満たすフッ素樹脂(B)と、の特定の組み合わせで、これらを含有することにより、該樹脂組成物の耐疲労性が顕著に向上する。
【0022】
以下、前記極性基及び/又はその塩の含有量が、前記芳香族ポリスルホン(A)1gあたり1×10-5mol/g以上40×10-5mol/g以下である芳香族ポリスルホンのことを、単に、芳香族ポリスルホン(A)ということがある。
また、前記CF3基含有量が0.15%未満であるフッ素樹脂のことを、単に、フッ素樹脂(B)ということがある。
【0023】
実施形態の樹脂組成物は、さらに、熱可塑性樹脂(C)を含む。熱可塑性樹脂(C)は、前記芳香族ポリスルホン(A)及び前記フッ素樹脂(B)に該当しない熱可塑性樹脂である。
【0024】
前記熱可塑性樹脂(C)は、芳香族ポリスルホンであることが好ましい。以下、熱可塑性樹脂(C)が芳香族ポリスルホンである場合には、芳香族ポリスルホン1gあたりの極性基及び/又はその塩の含有量が1×10-5mol/g以上40×10-5mol/g以下である芳香族ポリスルホンを、芳香族ポリスルホン(A)とし、芳香族ポリスルホン1gあたりの極性基及び/又はその塩の含有量が1×10-5mol/g未満である芳香族ポリスルホンを、芳香族ポリスルホン(c)(この場合の芳香族ポリスルホン(c)は熱可塑性樹脂(C)に該当する。)とする。
【0025】
実施形態の樹脂組成物は、芳香族ポリスルホン(A)と、フッ素樹脂(B)と、熱可塑性樹脂(C)と、必要に応じて用いられる任意成分とを、樹脂組成物におけるそれらの含有量(質量%)の合計が、樹脂組成物の総質量100質量%を超えないように配合して得ることができる。
【0026】
以下、実施形態の樹脂組成物が含有する、芳香族ポリスルホン(A)、フッ素樹脂(B)、及び熱可塑性樹脂(C)について説明する。また、実施形態の樹脂組成物に必要に応じて配合されてよい各成分について説明する。
【0027】
<芳香族ポリスルホン(A)>
本明細書において、「芳香族ポリスルホン」とは、2価の芳香族基(芳香族化合物から、その芳香環に結合した水素原子を2個除いてなる残基)と、エーテル結合(-O-)と、スルホニル基(-SO2-)とを含む繰返し単位を有する樹脂である。
【0028】
実施形態の樹脂組成物に配合される芳香族ポリスルホン(A)は、その分子内に極性基及び/又はその塩を有する。
【0029】
前記極性基の塩は、例えば、極性基からプロトンが解離してなるアニオン部と、対カチオンとから構成されてもよく、極性基にプロトンが付加してなるカチオン部と、対アニオンとから構成されてもよい。
対カチオンの例としては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンの等のアルカリ金属イオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン等のアルカリ土類金属イオン、アンモニアや1~3級アミンがプロトン化されてなるアンモニウムイオン、4級アンモニウムイオンが挙げられる。なお、対カチオンが、アルカリ土類金属イオン等の多価カチオンである場合、対アニオンは、複数のオキシアニオン基から構成されていてもよいし、オキシアニオン基と、塩化物イオン、水酸化物イオン等の他のアニオンとから構成されていてもよい。
対アニオンの例としては、ハロゲン化物イオン、水酸化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン等が挙げられる。
【0030】
前記極性基及び/又はその塩は、芳香族ポリスルホン(A)の主鎖末端に位置するものであってよい。即ち、芳香族ポリスルホン(A)は、その芳香族ポリスルホンの主鎖末端に少なくとも1つの末端極性基及び/又はその塩を有するものであってよい。
【0031】
前記芳香族ポリスルホン(A)の前記極性基及び/又はその塩の含有量は、前記芳香族ポリスルホン(A)1gあたり1×10-5mol/g以上40×10-5mol/g以下であってよく、6×10-5mol/g以上35×10-5mol/g以下であってよく、8×10-5mol/g以上20×10-5mol/g以下であってよい。
上記の数値範囲内の含有量で極性基及び/又はその塩を含有する芳香族ポリスルホン(A)によれば、上記の耐疲労性の向上の作用に優れる。
【0032】
なお、芳香族ポリスルホン(A)の前記極性基及び/又はその塩の含有量とは、前記極性基及び前記極性基の塩の含有量の総和を意味する。
【0033】
前記芳香族ポリスルホン(A)の前記極性基としては、1価の極性基が好ましく、ヒドロキシル基及び/又はアミノ基が好ましく、ヒドロキシル基又はアミノ基が好ましく、ヒドロキシル基がより好ましい。
【0034】
なお、前記極性基及び/又はその塩の含有量の測定方法として、前記極性基がヒドロキシル基である場合の、前記極性基及び/又はその塩の含有量の測定方法を以下に示す。
【0035】
[極性基及び/又はその塩の含有量:極性基がヒドロキシル基である場合]
所定量の芳香族ポリスルホンをジメチルホルムアミドに溶解させ、過剰量のパラトルエンスルホン酸を加えた後、電位差滴定装置を用いて、0.05モル/Lのカリウムメトキシド/トルエン・メタノール溶液(体積比率トルエン:メタノール=8:2)で滴定し、残存パラトルエンスルホン酸を中和した後、ヒドロキシル基を中和し、このヒドロキシル基の中和に要したカリウムメトキシドの量(モル)を、芳香族ポリスルホンの前記所定量(g)で割ることにより求める。
【0036】
次に、前記極性基及び/又はその塩の含有量の測定方法として、前記極性基がアミノ基である場合の、前記極性基及び/又はその塩の含有量の測定方法を以下に示す。
【0037】
[極性基及び/又はその塩の含有量:極性基がアミノ基である場合]
重水素化ジメチルスルホキシド等の溶媒に芳香族ポリスルホンを溶解し、1H-NMR測定において、アミノ基で置換された芳香族炭素に隣接する炭素に結合する2つのプロトンのピーク面積(1HNH2)と、芳香族ポリスルホンの構造単位に由来する芳香族炭素に隣接する4つのプロトンのピーク面積(1HPES)を算出する。これらのピーク面積に基づいて、アミノ基の含有量は、下記式(f0)により求める。
アミノ基含有量(mol/g)
={(1HNH2/1HPES)×2}/一般式(1)の式量 (f0)
【0038】
芳香族ポリスルホン(A)は、耐熱性や耐薬品性に優れる点から、下記式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」ということがある。)を有するものであることが好ましい。繰返し単位(1)の他に、さらに、下記式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」ということがある。)や、下記式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」ということがある。)等の他の繰返し単位を1種以上有していてもよい。
【0039】
(1)-Ph1-SO2-Ph2-O-
[式中、Ph1及びPh2は、それぞれ独立に、フェニレン基を表す。前記フェニレン基にある水素原子は、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子、スルホ基、ニトロ基、アミノ基、カルボキシル基、又はヒドロキシル基で置換されていてもよい。]
【0040】
(2)-Ph3-R-Ph4-O-
[式中、Ph3及びPh4は、それぞれ独立に、フェニレン基を表す。前記フェニレン基にある水素原子は、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子、スルホ基、ニトロ基、アミノ基、カルボキシル基、又はヒドロキシル基で置換されていてもよい。Rは、アルキリデン基、酸素原子又は硫黄原子を表す。]
【0041】
(3)-(Ph5)n-O-
[式中、Ph5は、フェニレン基を表す。前記フェニレン基にある水素原子は、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子、スルホ基、ニトロ基、アミノ基、カルボキシル基、又はヒドロキシル基で置換されていてもよい。nは、1~3の整数を表す。nが2以上である場合、複数存在するPh5は、互いに同一であっても異なっていてもよい。]
【0042】
Ph1~Ph5のいずれかで表されるフェニレン基は、p-フェニレン基であってもよいし、m-フェニレン基であってもよいし、o-フェニレン基であってもよいが、p-フェニレン基であることが好ましい。
【0043】
前記フェニレン基にある水素原子を置換していてもよいアルキル基において、炭素数は、1~10であることが好ましい。該アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、n-オクチル基、n-デシル基等が挙げられる。
【0044】
前記フェニレン基にある水素原子を置換していてもよいアリール基において、炭素数は、6~20であることが好ましい。該アリール基の具体例としては、フェニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基等が挙げられる。
【0045】
前記フェニレン基にある水素原子を置換していてもよいハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0046】
前記フェニレン基にある水素原子がこれらの基で置換されている場合は、その数は、前記フェニレン基毎に、それぞれ独立に、好ましくは2個以下であり、より好ましくは1個である。
上記の中でも、前記フェニレン基にある水素原子は置換されていないことが好ましい。
【0047】
Rで表されるアルキリデン基において、炭素数は、1~5であることが好ましい。具体例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、1-ブチリデン基等が挙げられる。
【0048】
芳香族ポリスルホンは、繰返し単位(1)を、全繰返し単位の合計数100%に対して、50%以上有することが好ましく、80%以上有することがより好ましく、90%以上有することがさらに好ましく、繰返し単位として繰返し単位(1)のみを有することがさらに好ましい。なお、芳香族ポリスルホンは、繰返し単位(1)~(3)を、それぞれ独立に、2種以上有してもよい。
【0049】
<製造手法>
芳香族ポリスルホンは、例えば、それを構成する繰返し単位に対応するジハロゲノスルホン化合物とジヒドロキシ化合物とを重縮合させることにより、製造することができる。
【0050】
例えば、繰返し単位(1)を有する樹脂は、ジハロゲノスルホン化合物として下記式(4)で表される化合物(以下、「化合物(4)」ともいう)を用い、ジヒドロキシ化合物として下記式(5)で表される化合物を用いることにより、製造することができる。
【0051】
例えば、繰返し単位(1)と繰返し単位(2)とを有する樹脂は、ジハロゲノスルホン化合物として化合物(4)を用い、ジヒドロキシ化合物として下記式(6)で表される化合物を用いることにより、製造することができる。
【0052】
例えば、繰返し単位(1)と繰返し単位(3)とを有する樹脂は、ジハロゲノスルホン化合物として化合物(4)を用い、ジヒドロキシ化合物として下記式(7)で表される化合物を用いることにより、製造することができる。
【0053】
(4)X1-Ph1-SO2-Ph2-X2
[式中、X1は及びX2は、それぞれ独立に、ハロゲン原子を表す。Ph1及びPh2は、前記と同義である。]
【0054】
(5)HO-Ph1-SO2-Ph2-OH
[式中、Ph1及びPh2は、前記と同義である。]
【0055】
(6)HO-Ph3-R-Ph4-OH
[式中、Ph3、Ph4及びRは、前記と同義である。]
【0056】
(7)HO-(Ph5)n-OH
[式中、Ph5及びnは、前記と同義である。]
【0057】
前記極性基がヒドロキシル基である場合に、上記式(5)~(7)中のOH基は、芳香族ポリスルホン(A)の主鎖末端に位置してよいヒドロキシル基に該当し得る。
【0058】
また、前記極性基がアミノ基である場合、例えば、芳香族ハロゲノスルホン化合物と、アミノ化合物と、を重縮合することによって副生するフェノキシ末端又はフェノレート末端とハロゲン末端とを重縮合反応(重縮合工程)させることにより、主鎖末端にアミノ基及び/又はその塩を有する、芳香族ポリスルホンを製造することができる。
【0059】
・芳香族ハロゲノスルホン化合物
芳香族ハロゲノスルホン化合物としては、下記一般式(*)で表される化合物が挙げられる。
【0060】
X3-Ph6-SO2-Ph7-(O-Ph8-SO2-Ph9)n0-X4 (*)
式(*)中、X3及びX4は、それぞれ独立に、OH又はハロゲン原子を表し、X3及びX4の少なくとも一方は、ハロゲン原子である。Ph6及びPh7は、前記式(1)のPh1及びPh2と同義であり;Ph8及びPh9は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいフェニレン基である。
【0061】
前記式(*)中、n0は、一般式(*)で表される化合物が有する上記構造単位の繰り返し数であり、例えば、0以上2000以下の整数を例示できる。
X3及びX4のハロゲン原子は、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、塩素原子が好ましい。
一般式(*)で表される化合物の例としては、ビス(4-クロロフェニル)スルホン、4-クロロフェニル-3’,4’-ジクロロフェニルスルホン、及びこれらが重合した化合物等が挙げられる。
また、芳香族ハロゲノスルホン化合物としては、公知の方法で製造することができ、例えば、住友化学株式会社製の「スミカエクセルPES3600P」及び「スミカエクセルPES4100P」等の市販品も使用できる。
上記一般式(*)で表される化合物としては、耐久性や耐薬品性の点から、下記一般式(*-1)で表される化合物が好ましい。
【0062】
【0063】
式(*-1)中、X30及びX40は、前記式(*)のX3及びX4と同義である。
n01は、構造単位の繰り返し数であり、0以上2000以下の整数である。
R1及びR2は、それぞれ独立に、炭素数1~6のアルキル基、炭素数3~10のアルケニル基、フェニル基又はハロゲン原子を表す。
n1は、0~4の整数である。n2は、0~4の整数である。
【0064】
・アミノ化合物
アミノ化合物としては、反応性が良好であるなどの観点から、フェノール構造を有するアミノ化合物が好ましい。
アミノ化合物としては、例えば4-アミノフェノール、3-アミノフェノール、2,4-ジアミノフェノール、2,5-ジアミノフェノール、3-アミノプロパノール、4-(2-アミノエチル)フェノール等が挙げられる。
アミノ化合物の中でも、下記一般式(8)で表される化合物が好ましく、その中でも4-アミノフェノール、又は3-アミノフェノールがより好ましい。
【0065】
【0066】
式(8)中、mは1~5の整数であり、1~3の整数が好ましく、1がより好ましい。
【0067】
芳香族ポリスルホンの製造における重縮合は、炭酸のアルカリ金属塩を用いて、溶媒中で行うことが好ましい。炭酸のアルカリ金属塩は、正塩である炭酸塩であってもよいし、酸性塩である重炭酸塩(炭酸水素塩)であってもよいし、両者の混合物であってもよい。炭酸塩としては、炭酸ナトリウムや炭酸カリウムが好ましく用いられ、炭酸水素塩としては、重炭酸ナトリウムや重炭酸カリウムが好ましく用いられる。
【0068】
重縮合の溶媒としては、有機極性溶媒が好ましく用いられる。具体例としては、ジメチルスルホキシド、1-メチル-2-ピロリドン、スルホラン(1,1-ジオキソチラン)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジエチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジイソプロピルスルホン、ジフェニルスルホン等が挙げられる。
【0069】
重縮合の際、原材料の種類、原材料のモル比や反応温度等を調整することにより、所望量の極性基が導入された芳香族ポリスルホン(A)を得ることができる。
【0070】
本実施形態においては、芳香族ハロゲノスルホン化合物の末端のハロゲン原子に対する、前記アミノ化合物のモル比(アミノ化合物/ハロゲン原子)が0.3以上1.0未満となるように、芳香族ハロゲノスルホン化合物とアミノ化合物とを混合することが好ましい。前記モル比は、0.6以上0.95以下がより好ましく、0.7超0.9以下がさらに好ましく、0.75以上0.85以下が特に好ましい。前記モル比が上記の範囲であると、副生するフェノキシ末端又はフェノレート末端及びハロゲン末端の残存量が少なく、得られる芳香族ポリスルホン(A)の重合度を高められる。
【0071】
炭酸のアルカリ金属塩の使用量は、芳香族ハロゲノスルホン化合物の末端のハロゲン原子に対して、アルカリ金属のモル比が、0.9以上1.2以下であることが好ましく、0.95以上1.15以下であることがより好ましい。炭酸のアルカリ金属塩の使用量が多いほど、目的とする重縮合が速やかに進行するが、炭酸のアルカリ金属塩の使用量が過剰となると、副生するフェノキシ末端又はフェノレート末端が多くなる。このため、炭酸のアルカリ金属塩の使用量が上記の範囲であることが好ましい。
【0072】
重縮合工程は、芳香族ハロゲノスルホン化合物とアミノ化合物とを、有機極性溶媒に溶解させ、得られた溶液に、炭酸のアルカリ金属塩を添加して、芳香族ハロゲノスルホン化合物とアミノ化合物とを重縮合させる。その後、前記重縮合工程で得られた反応混合物から、未反応の炭酸のアルカリ金属塩、副生したハロゲン化アルカリ及び有機極性溶媒を除去して、芳香族ポリスルホン(A)を得る。
【0073】
重縮合時の加熱温度は、150℃よりも高い温度が好ましく、165℃以上がより好ましく、200℃以上400℃以下がさらに好ましい。重縮合時の加熱温度が150℃よりも高い温度であると、目的とする重縮合が速やかに進行する。このため、得られる芳香族ポリスルホン(A)の重合度を高められる。
【0074】
また、重縮合工程は、副生する水を除去しながら徐々に昇温し、有機極性溶媒の還流温度に達した後、さらに、1時間以上50時間以下保温することが好ましく、2時間以上30時間以下保温することがより好ましい。重縮合時間が長いほど、目的とする重縮合が進むため、得られる芳香族ポリスルホン(A)の重合度が高くなる。
【0075】
重縮合工程で得られた反応混合物から、未反応の炭酸のアルカリ金属塩、副生したハロゲン化アルカリ及び有機極性溶媒を除去することにより、芳香族ポリスルホン(A)が得られる。未反応の炭酸のアルカリ金属塩、及び副生したハロゲン化アルカリは、有機極性溶媒の除去の前に、濾過、抽出、遠心分離等で除去してもよい。有機極性溶媒の除去は、有機極性溶媒を留去することにより行ってもよいし、芳香族ポリスルホンの貧溶媒と混合して、芳香族ポリスルホンを析出させ、濾過や遠心分離等で分離することにより行ってもよい。未反応の炭酸のアルカリ金属塩、副生したハロゲン化アルカリ及び有機極性溶媒を同時に除去できることから、未反応の炭酸のアルカリ金属塩、及び副生したハロゲン化アルカリを溶解できる芳香族ポリスルホンの貧溶媒を混合して、芳香族ポリスルホンを析出させ、濾過や遠心分離等で分離することが好ましい。
【0076】
芳香族ポリスルホンの貧溶媒の例としては、メタノール、エタノール、2-プロパノール、ヘキサン、ヘプタン、水が挙げられ、除去が容易であることから、水が好ましい。
【0077】
芳香族ポリスルホン(A)の還元粘度は、分子量の指標となり得るものであり、0.25dL/g以上であることが好ましく、0.30dL/g以上であることがより好ましく、0.35dL/g以上であることがさらに好ましい。
芳香族ポリスルホン(A)の還元粘度が上記の下限値以上であると、芳香族ポリスルホン(A)による上記の耐疲労性の向上効果がより一層良好に発揮され、好ましい。
【0078】
芳香族ポリスルホン(A)の還元粘度の上限値は、特に制限されるものではないが、0.60dL/g以下であってよく、0.55dL/g以下であってよい。
芳香族ポリスルホン(A)の還元粘度が上記の上限値以下であると、芳香族ポリスルホン(A)の極性基及び/又はその塩の含有量を所望の値とすることが容易であり好ましい。
【0079】
上記の芳香族ポリスルホン(A)の還元粘度の数値範囲の一例としては、0.25dL/g以上0.60dL/g以下であってよく、0.30dL/g以上0.60dL/g以下であってよく、0.35dL/g以上0.55dL/g以下であってよい。
【0080】
本明細書において、芳香族ポリスルホンの還元粘度は、以下の方法で測定される値を採用する。
【0081】
[芳香族ポリスルホンの還元粘度]
まず、芳香族ポリスルホン約1gを精秤し、N,N-ジメチルホルムアミドに溶解させて、その容量を1dLとし、この溶液の粘度(η)を、オストワルド型粘度管を用いて、25℃で測定する。また、溶媒であるN,N-ジメチルホルムアミドの粘度(η0)を、オストワルド型粘度管を用いて、25℃で測定する。
得られた溶液の粘度(η)と溶媒の粘度(η0)とから、比粘性率((η-η0)/η0)を求める。得られた比粘性率を、測定に用いた溶液の濃度(約1g/dL)で割ることにより得られる値を、芳香族ポリスルホンの還元粘度(dL/g)とする。
【0082】
樹脂組成物の耐疲労性向上の観点から、前記樹脂組成物の総質量(100質量%)に対する、芳香族ポリスルホン(A)の含有量の割合は、0.001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましく、2質量%以上がさらに好ましく、3質量%以上が特に好ましい。
実施形態の樹脂組成物の混練を容易とする観点から、前記樹脂組成物の総質量(100質量%)に対する、当該芳香族ポリスルホン(A)の含有量の割合は、30質量%未満が好ましく、20質量%以下がより好ましく、18質量%以下がさらに好ましく、15質量%以下がさらに好ましく、8質量%以下が特に好ましい。
前記樹脂組成物の総質量(100質量%)に対する、芳香族ポリスルホン(A)の含有量の数値範囲の一例としては、0.001質量%以上30質量%未満であってよく、0.01質量%以上30質量%未満であってよく、0.1質量%以上20質量%以下であってよく、1質量%以上18質量%以下であってよく、2質量%以上15質量%以下であってよく、3質量%以上15質量%以下であってよく、3質量%以上8質量%以下であってよい。
【0083】
<フッ素樹脂(B)>
本実施形態の樹脂組成物におけるフッ素樹脂(B)は、前記フッ素樹脂(B)中の、下記<CF3基含有量の測定方法>により求められる、CF3基含有量が0.15%未満である。
<CF3基含有量の測定方法>
前記フッ素樹脂(B)中のCF2基含有量に対するCF3基含有量は、19F固体NMRにより測定されたCF3基に対応するピーク面積ICF3と、CF2基に対応するピーク面積ICF2とから、下記式(f1)により求める。
CF3基含有量(%)={((ICF3)/3)/((ICF2)/2)}×100 (f1)
【0084】
なお、上記CF3基含有量のピーク面積は、Macromolecules2001,Vol.34,66-75頁に記載された内容を参考にして求めたものである。
【0085】
固体試料測定用のNMR装置としては、例えば、400MHz NMR装置(JEOL RESONANCE社製、ブルカー社製、アジレント社製、バリアン社製等)が挙げられる。
【0086】
CF3基含有量を算出する19F固体NMR測定は、例えば、シングルパルス法により行い、測定条件は以下の条件である。
【0087】
分光器:JNM-ECZL600G(JEOL RESONANCE社製)
静磁場強度:14.1テスラ(1Hでの共鳴周波数600MHz)
観測核:19F(共鳴周波数565MHz)
測定法:シングルパルス法
MAS条件:16kHz(PTFE(Fluon L169J)のみは20kHzでも測定)
待ち時間:15秒
積算回数:128回(=27回、測定時間は約32分)
測定温度:室温(実測値23℃)
基準物質:PTFE(-122ppmに設定)
【0088】
本実施形態の樹脂組成物におけるフッ素樹脂(B)は、上記<CF3基含有量の測定方法>により求められる、前記フッ素樹脂(B)中のCF2基含有量に対するCF3基含有量が0.15%未満であり、0.11%以下が好ましく、0.05%未満がより好ましく、0.03%以下がさらに好ましい。
上記のCF3基含有量の値を満たすフッ素樹脂(B)によれば、上記の芳香族ポリスルホン(A)と組み合わせでの、耐疲労性の向上効果に優れる。
【0089】
上記<CF3基含有量の測定方法>により求められる、前記フッ素樹脂(B)中のCF2基含有量に対するCF3基含有量は、0.0005%以上であってよく、0.0008%以上であってよく、0.001%以上であってよく、0.008%以上であってよい。
【0090】
上記<CF3基含有量の測定方法>により求められる、前記フッ素樹脂(B)中のCF2基含有量に対するCF3基含有量の上記数値範囲の一例としては、0.0005%以上0.15%未満であってよく、0.0008%以上0.11%以下であってよく、0.001%以上0.05%未満であってよく、0.008%以上0.03%以下であってよい。
【0091】
本実施形態の樹脂組成物におけるフッ素樹脂(B)は、分解開始温度が、450℃以上が好ましく、470℃以上がより好ましく、473℃以上がさらに好ましい。
ここで、分解開始温度とは、熱重量測定装置(製品名;TGA-50、株式会社島津製作所製)を用いて、フッ素樹脂(B)を25℃(室温)から800℃まで昇温条件10℃/minで加熱した際に、重量減少率が0.1%となった際の温度である。
なお、本実施形態の樹脂組成物におけるフッ素樹脂(B)の分解開始温度の上限値は特に限定されず、例えば、600℃以下である。
例えば、本実施形態の樹脂組成物におけるフッ素樹脂(B)の分解温度は、450℃以上600℃以下が好ましく、470℃以上600℃以下がより好ましく、473℃以上600℃以下がさらに好ましい。
【0092】
本実施形態の樹脂組成物におけるフッ素樹脂(B)の数平均分子量(Mn)が、100~5000000であることが好ましく、200~1000000であることがより好ましく、300~50000であることがさらに好ましく、10000~30000であることが特に好ましい。
本明細書において、数平均分子量(Mn)は、J.Appl.Polym.Sci.1973,17,3253に記載の方法で求められる数平均分子量(Mn)である。具体的には、示差走査熱量測定装置(製品名;DSC-50、株式会社島津製作所製)を用いて求められる結晶化熱量(ΔHc:cal/g)より、以下の式(m-1)で算出した値を意味する。ここで、結晶化熱量(ΔHc)は、DSC曲線における結晶化ピークの面積から求められる熱量である。
数平均分子量(Mn)=2.1×1010ΔHc-5.16・・・(m-1)
【0093】
本実施形態の樹脂組成物におけるフッ素樹脂(B)の数平均分子量(Mn)が、上記の好ましい範囲内であれば、耐疲労性の向上効果により一層優れる。
【0094】
上述したフッ素樹脂(B)のCF3基含有量、分解開始温度、及び数平均分子量(Mn)は、フッ素樹脂(B)の製造方法を変更することにより制御することができる。
例えば、フッ素樹脂(B)のCF3基含有量については、フッ素樹脂の分岐鎖を増やしたり、フッ素樹脂(B)の重合度を制御したり、原料モノマーの混合比率を制御したりすることにより、CF3基含有量が0.15%未満であるフッ素樹脂(B)を得ることができる。
【0095】
本実施形態の樹脂組成物におけるフッ素樹脂(B)として、具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(パーフルオロアルコキシアルカン,PFA)等が挙げられる。
【0096】
本実施形態の樹脂組成物におけるフッ素樹脂(B)としては、上記の中でも、熱安定性、及び、耐疲労性の向上の観点から、PTFEが好ましい。
【0097】
すなわち、本実施形態の樹脂組成物におけるフッ素樹脂(B)としては、上記<CF3基含有量の測定方法>により求められる、PTFE中のCF2基含有量に対するCF3基含有量が0.15%未満であるPTFEが好ましく、該CF3基含有量が0.0005%以上0.15%未満であるPTFEがより好ましく、該CF3基含有量が0.0008%以上0.11%以下であるPTFEがより好ましく、該CF3基含有量が0.001%以上0.05%未満であるPTFEがさらに好ましく、該CF3基含有量が0.008%以上0.03%以下であるPTFEがさらに好ましい。
【0098】
また、本実施形態の樹脂組成物におけるフッ素樹脂(B)としては、分解開始温度が、450℃以上600℃以下のPTFEが好ましく、分解開始温度が470℃以上600℃以下のPTFEがより好ましく、分解開始温度が473℃以上600℃以下のPTFEがさらに好ましい。
【0099】
また、本実施形態の樹脂組成物におけるフッ素樹脂(B)としては、数平均分子量(Mn)が、100~5000000であるPTFEが好ましく、200~1000000であるPTFEがより好ましく、300~50000であるPTFEがさらに好ましく、10000~30000であるPTFEが特に好ましい。
【0100】
本実施形態の樹脂組成物におけるフッ素樹脂(B)は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0101】
実施形態の樹脂組成物におけるフッ素樹脂(B)の含有量は、樹脂組成物の総質量(100質量%)に対して、2質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、8質量%以上であることがさらに好ましく、10質量%以上であることが特に好ましい。
樹脂組成物の総質量に対するフッ素樹脂(B)の含有量が、上記の好ましい下限値以上であることにより、耐疲労性の向上効果により一層優れる。
【0102】
実施形態の樹脂組成物におけるフッ素樹脂(B)の含有量は、造粒において、パウダーのフィードが困難になることや、強度が著しく低下することを抑制する観点から、樹脂組成物の総質量(100質量%)に対して、30質量%以下であることが好ましく、22質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましく、18質量%以下であることが特に好ましい。
【0103】
実施形態の樹脂組成物におけるフッ素樹脂(B)の含有量の上記数値範囲の一例としては、樹脂組成物の総質量(100質量%)に対して、2質量%以上30質量%以下であってよく、5質量%以上22質量%以下であってよく、8質量%以上20質量%以下であってよく、10質量%以上18質量%以下であってよい。
【0104】
また、実施形態の樹脂組成物におけるフッ素樹脂(B)の含有量は、芳香族ポリスルホン(A)、熱可塑性樹脂(C)、及びフッ素樹脂(B)の合計量100質量%に対して、2質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、8質量%以上であることがさらに好ましく、10質量%以上であることが特に好ましい。
実施形態の樹脂組成物におけるフッ素樹脂(B)の含有量は、芳香族ポリスルホン(A)、熱可塑性樹脂(C)、及びフッ素樹脂(B)の合計量100質量%に対して、30質量%以下であることが好ましく、22質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましく、18質量%以下であることが特に好ましい。
実施形態の樹脂組成物におけるフッ素樹脂(B)の含有量の上記数値範囲の一例としては、芳香族ポリスルホン(A)、熱可塑性樹脂(C)、及びフッ素樹脂(B)の合計量100質量%に対して、2質量%以上30質量%以下であってよく、5質量%以上22質量%以下であってよく、8質量%以上20質量%以下であってよく、10質量%以上18質量%以下であってよい。
【0105】
本実施形態の樹脂組成物において、PTFEをフッ素樹脂(B)として用いる場合、本実施形態の樹脂組成物におけるフッ素樹脂(B)は、例えば、以下の方法(製造方法(i)又は(ii))で製造することができる。
【0106】
製造方法(i)
製造方法(i)は、乳化重合と懸濁重合とを併用したPTFEの製造方法である。具体的には、重合開始剤(水溶性過酸化物)及び水性媒体(例えば、脱イオンされた高純度の純水)の存在下で、テトラフルオロエチレンを重合して乳化粒子を生成する。次いで、該乳化粒子を凝集させて凝集粉末を生成する。次いで、該凝集粉末、重合開始剤及び水性媒体の存在下に、テトラフルオロエチレンを重合することにより、上述したCF3基含有量が上記の範囲となるPTFEを製造することができる。
【0107】
製造方法(ii)
製造方法(ii)は、テトラフルオロエチレンと少なくとも1つの任意のコモノマーとを水性重合媒体中で重合する製造方法である。
具体的には、テトラフルオロエチレン及び少なくとも1つの共重合可能なフッ素化エチレン性不飽和コモノマー(例えば、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE))を、特定の分散剤(例えば、パーフルオロアルキル(C4~C16)エタンスルホン酸アンモニウムの混合物)下で、各モノマーの混合比率を調整して重合させることにより、上述したCF3基含有量が上記の範囲となるPTFEを製造することができる。
例えば、該PTFE中の該コモノマーの含有量は、0.005モル%から20モル%であることが好ましい。
【0108】
本実施形態の樹脂組成物におけるフッ素樹脂(B)は、上記の中でも、製造方法(ii)で製造したフッ素樹脂が好ましい。
【0109】
<熱可塑性樹脂(C)>
熱可塑性樹脂(C)は、前記芳香族ポリスルホン(A)及びフッ素樹脂(B)に該当しない熱可塑性樹脂であれば特に制限されるものではない。
【0110】
熱可塑性樹脂は、加熱による軟化と冷却による固化とを、加熱と冷却とを繰り返したときに可逆的に起こす樹脂である。熱可塑性樹脂は、液晶性熱可塑性樹脂(C1)と結晶性熱可塑性樹脂(C2)と非晶性熱可塑性樹脂(C3)とに大別することができる。
【0111】
<液晶性熱可塑性樹脂(C1)>
液晶性熱可塑性樹脂(C1)は、溶融時に光学異方性を示し、450℃以下の温度で異方性溶融体を形成する樹脂である。この光学的異方性は、直交偏光子を利用した通常の偏光検査法によって確認することができる。液晶性熱可塑性樹脂(C1)は、その分子形状が細長く、扁平で分子の長鎖に沿って剛性が高い分子鎖(この剛性が高い分子鎖は通常「メソゲン基」と呼称されている)を有するものであり、かかるメソゲン基を高分子主鎖又は側鎖のいずれか一方又は両方に有するものであるが、より高耐熱性を求めるならば、高分子主鎖にメソゲン基を有するものであることが好ましい。
【0112】
液晶性熱可塑性樹脂(C1)の例としては、液晶性ポリエステル、液晶性ポリエステルアミド、液晶性ポリエステルエーテル、液晶性ポリエステルカーボネート、液晶性ポリエステルイミド、液晶性ポリアミドが挙げられる。中でも、高強度の樹脂成形体が得られる点で、液晶性ポリエステル、液晶性ポリエステルアミド、液晶性ポリアミドが好ましく、より低吸水性の成形体が得られる点で、液晶性ポリエステル、液晶性ポリエステルアミドが好ましい。
【0113】
<結晶性熱可塑性樹脂(C2)>
結晶性熱可塑性樹脂(C2)とは、分子構造の中に長い鎖状の分子が規則的に並んだ結晶性領域と、規則的に並んでいない非結晶領域とが混在した樹脂をいう。その例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルニトリル(PEN)、脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、芳香族ポリアミドが挙げられる。
【0114】
<非晶性熱可塑性樹脂(C3)>
非晶性熱可塑性樹脂(C3)は、実質的に、分子構造の中に長い鎖状の分子が規則的に並んだ結晶性領域が存在せず、規則的に並んでいない非結晶領域のみで構成された樹脂であり。その例としては、ポリスルホン系樹脂、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドが挙げられる。
【0115】
一方で、芳香族ポリスルホン(A)との親和性が良好であると考えられることから、熱可塑性樹脂(C)は、ポリスルホン系樹脂であることが好ましい。
【0116】
なお、本明細書において「ポリスルホン系樹脂」とは、2価の芳香族基と、スルホニル基(-SO2-)とを含む繰返し単位を有する樹脂である。2価の芳香族基としては、前記繰返し単位(1)において例示したフェニレン基が好ましく、前記フェニレン基にある水素原子は、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子、スルホ基、ニトロ基、アミノ基、カルボキシル基又はヒドロキシル基で置換されていてもよい。
ポリスルホン系樹脂としては、前記芳香族ポリスルホンを例示できる。
【0117】
ポリスルホン系樹脂のなかでも、熱可塑性樹脂(C)としては、前記芳香族ポリスルホン(A)に該当しない芳香族ポリスルホン(c)(2価の芳香族基と、エーテル結合(-O-)と、スルホニル基(-SO2-)とを含む繰返し単位を有する樹脂)が好ましい。
【0118】
本実施形態の樹脂組成物の一例として、極性基及び/又はその塩を分子内に有する芳香族ポリスルホン(A)と、フッ素樹脂(B)と、前記芳香族ポリスルホン(A)及び前記フッ素樹脂(B)以外の芳香族ポリスルホン(c)と、を含み、前記芳香族ポリスルホン(A)の前記極性基及び/又はその塩の含有量は、前記芳香族ポリスルホン(A)1gあたり、1×10-5mol/g以上40×10-5mol/g以下であり、前記フッ素樹脂(B)中の、下記<CF3基含有量の測定方法>により求められる、CF3基含有量が0.15%未満である、樹脂組成物を例示できる。
<CF3基含有量の測定方法>
前記フッ素樹脂(B)中のCF2基含有量に対するCF3基含有量は、19F固体NMRにより測定されたCF3基に対応するピーク面積ICF3と、CF2基に対応するピーク面積ICF2とから、下記式(f1)により求める。
CF3基含有量(%)={((ICF3)/3)/((ICF2)/2)}×100 (f1)
【0119】
熱可塑性樹脂(C)が芳香族ポリスルホン(c)である場合、芳香族ポリスルホン(A)の極性基及び/又はその塩の含有量は、前記芳香族ポリスルホン(A)1gあたり1×10-5mol/g以上40×10-5mol/g以下であり、前記芳香族ポリスルホン(A)に該当しない熱可塑性樹脂(C)としての芳香族ポリスルホン(c)とは、芳香族ポリスルホン(c)の分子内に有する極性基及び/又はその塩の含有量が、芳香族ポリスルホン(c)1gあたり1×10-5mol/g未満である芳香族ポリスルホンとする。
【0120】
前記極性基は、ヒドロキシル基であることが好ましい。前記極性基が、ヒドロキシル基である場合、芳香族ポリスルホン(A)のヒドロキシル基及び/又はその塩の含有量は、前記芳香族ポリスルホン(A)1gあたり1×10-5mol/g以上40×10-5mol/g以下であり、前記芳香族ポリスルホン(A)に該当しない熱可塑性樹脂(C)としての芳香族ポリスルホン(c)とは、芳香族ポリスルホン(c)の分子内に有するヒドロキシル基及び/又はその塩の含有量が、芳香族ポリスルホン(c)1gあたり1×10-5mol/g未満である芳香族ポリスルホンであってよい。
【0121】
前記極性基は、アミノ基であることが好ましい。前記極性基が、アミノ基である場合、芳香族ポリスルホン(A)のアミノ基及び/又はその塩の含有量は、前記芳香族ポリスルホン(A)1gあたり1×10-5mol/g以上40×10-5mol/g以下であり、前記芳香族ポリスルホン(A)に該当しない熱可塑性樹脂(C)としての芳香族ポリスルホン(c)とは、芳香族ポリスルホン(c)の分子内に有するアミノ基及び/又はその塩の含有量が、芳香族ポリスルホン(c)1gあたり1×10-5mol/g未満である芳香族ポリスルホンであってよい。
【0122】
熱可塑性樹脂(C)が芳香族ポリスルホンである場合、前記芳香族ポリスルホン(c)の前記極性基及び/又はその塩の含有量は、前記芳香族ポリスルホン(c)1gあたり1×10-5mol/g未満であり、5×10-6mol/g以下であってよく、3×10-6mol/g以下であってよい。
【0123】
熱可塑性樹脂(C)が芳香族ポリスルホンであり、前記極性基がヒドロキシル基である場合、前記芳香族ポリスルホン(c)の前記ヒドロキシル基及び/又はその塩の含有量は、前記芳香族ポリスルホン(c)1gあたり1×10-5mol/g未満であり、5×10-6mol/g以下であってよく、3×10-6mol/g以下であってよい。
【0124】
熱可塑性樹脂(C)が芳香族ポリスルホンであり、前記極性基がアミノ基である場合、前記芳香族ポリスルホン(c)の前記アミノ基及び/又はその塩の含有量は、前記芳香族ポリスルホン(c)1gあたり1×10-5mol/g未満であり、5×10-6mol/g以下であってよく、3×10-6mol/g以下であってよい。
【0125】
上記芳香族ポリスルホン(A)及び芳香族ポリスルホン(c)の極性基(好ましくはヒドロキシル基及び/又はアミノ基、より好ましくはヒドロキシル基又はアミノ基、さらに好ましくはヒドロキシル基)の含有量の組み合わせとしては、前記芳香族ポリスルホン(A)の極性基及び/又はその塩の含有量が、芳香族ポリスルホン(A)1gあたり1×10-5mol/g以上40×10-5mol/g以下で、芳香族ポリスルホン(c)の極性基及び/又はその塩の含有量が、芳香族ポリスルホン(c)1gあたり1×10-5mol/g未満であってよく、前記芳香族ポリスルホン(A)の極性基及び/又はその塩の含有量が、芳香族ポリスルホン(A)1gあたり6×10-5mol/g以上35×10-5mol/g以下で、芳香族ポリスルホン(c)の極性基及び/又はその塩の含有量が、芳香族ポリスルホン(c)1gあたり5×10-6mol/g以下であってよく、前記芳香族ポリスルホン(A)の極性基及び/又はその塩の含有量が、芳香族ポリスルホン(A)1gあたり8×10-5mol/g以上20×10-5mol/g以下で、芳香族ポリスルホン(c)の極性基及び/又はその塩の含有量が、芳香族ポリスルホン(c)1gあたり3×10-6mol/g以下であってよい。
【0126】
同様に、熱可塑性樹脂(C)の前記極性基及び/又はその塩の含有量は、前記熱可塑性樹脂(C)1gあたり1×10-5mol/g未満であってよく、5×10-6mol/g以下であってよく、3×10-6mol/g以下であってよい。
【0127】
実施形態の樹脂組成物における、芳香族ポリスルホン(A)及び芳香族ポリスルホン(c)の合計含有量は、前記樹脂組成物の総質量(100質量%)に対して、50質量%以上であってよく、61質量%以上92質量%以下であってよく、77質量%以上87質量%以下であってよい。
【0128】
前記芳香族ポリスルホン(A)に該当しない芳香族ポリスルホン(c)としては、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、変性ポリスルホン、及びポリフェニルスルホンからなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましく、ポリエーテルスルホン又はポリフェニルスルホンであることがより好ましく、ポリエーテルスルホンであることがさらに好ましい。
【0129】
熱可塑性樹脂(C)が芳香族ポリスルホンである場合の、当該芳香族ポリスルホン(c)の還元粘度としては、上記に説明した芳香族ポリスルホン(A)と同様のものを例示できる。
上記の耐疲労性をより一層向上させる観点から、芳香族ポリスルホン(c)の還元粘度と、芳香族ポリスルホン(A)との還元粘度との差は、一例として0.12dL/g以下であることが好ましい。
【0130】
また、耐熱性の観点から、熱可塑性樹脂(C)としては、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、変性ポリスルホン、ポリフェニルスルホン、液晶性ポリエステル、ポリエーテルエーテルケトン、及び半芳香族ポリアミドからなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0131】
なかでも熱可塑性樹脂(C)は、繰返し単位として前記繰返し単位(1)を有する芳香族ポリスルホン(c)であることが好ましく、繰返し単位として前記繰返し単位(1)のみを有する芳香族ポリスルホン(c)であることがより好ましい。
【0132】
特に好ましい組み合わせとして、芳香族ポリスルホン(A)が、繰返し単位として前記繰返し単位(1)を有する芳香族ポリスルホン(好ましくは、繰返し単位として前記繰返し単位(1)のみを有する芳香族ポリスルホン)であり、熱可塑性樹脂(C)が、繰返し単位として前記繰返し単位(1)を有する芳香族ポリスルホン(c)(好ましくは、繰返し単位として前記繰返し単位(1)のみを有する芳香族ポリスルホン(c))である組み合わせを例示できる。
【0133】
実施形態の樹脂組成物における、芳香族ポリスルホン(A)に対する熱可塑性樹脂(C)の含有量の質量比(熱可塑性樹脂(C)/芳香族ポリスルホン(A))は、例えば、1~60であってよく、5~50であってよく、10~20であってよい。かかる質量比(熱可塑性樹脂(C)/芳香族ポリスルホン(A))が前記の範囲内であれば、耐疲労性が向上しやすくなる。
【0134】
実施形態の樹脂組成物における、芳香族ポリスルホン(A)に対するフッ素樹脂(B)の含有量の質量比(フッ素樹脂(B)/芳香族ポリスルホン(A))は、例えば、0.5~20であってよく、1~10であってよく、2~5であってよい。かかる質量比(フッ素樹脂(B)/芳香族ポリスルホン(A))が前記の範囲内であれば、耐疲労性が向上しやすくなる。
【0135】
実施形態の樹脂組成物における熱可塑性樹脂(C)の含有量は、前記樹脂組成物の総質量(100質量%)に対して、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、74質量%以上であることがさらに好ましい。
実施形態の樹脂組成物における熱可塑性樹脂(C)の含有量は、前記樹脂組成物の総質量(100質量%)に対して、94質量%以下であることが好ましく、89質量%以下であることがより好ましく、84質量%以下であることがさらに好ましい。
実施形態の樹脂組成物における熱可塑性樹脂(C)の含有量の上記数値範囲の一例としては、樹脂組成物の総質量(100質量%)に対して、60質量%以上94質量%以下であってよく、70質量%以上89質量%以下であってよく、74質量%以上84質量%以下であってよい。
【0136】
実施形態の樹脂組成物における、上記で例示した芳香族ポリスルホン(A)、及びフッ素樹脂(B)の含有量の割合は、自由に組み合わせることができる。
実施形態の樹脂組成物の一例として、前記樹脂組成物の総質量100質量%に対し、前記芳香族ポリスルホン(A)の含有量が1質量%以上18質量%以下であり、前記フッ素樹脂(B)の含有量が5質量%以上22質量%以下である樹脂組成物を例示する。
【0137】
実施形態の樹脂組成物における、上記で例示した芳香族ポリスルホン(A)、フッ素樹脂(B)、及び熱可塑性樹脂(C)の含有量の割合は、自由に組み合わせることができる。
実施形態の樹脂組成物の一例として、前記樹脂組成物の総質量(100質量%)に対して、好ましくは、芳香族ポリスルホン(A)を1質量%以上18質量%以下含有し、フッ素樹脂(B)を5質量%以上22質量%以下含有し、熱可塑性樹脂(C)を60質量%以上94質量%以下含有してもよく、より好ましくは、芳香族ポリスルホン(A)を3質量%以上8質量%以下含有し、フッ素樹脂(B)を13質量%以上18質量%以下含有し、熱可塑性樹脂(C)を74質量%以上84質量%以下含有してもよい。
【0138】
別の側面として、実施形態の樹脂組成物は、芳香族ポリスルホン(A)、熱可塑性樹脂(C)、及びフッ素樹脂(B)の合計量100質量%に対して、好ましくは、芳香族ポリスルホン(A)を1質量%以上18質量%以下含有し、フッ素樹脂(B)を5質量%以上22質量%以下含有し、熱可塑性樹脂(C)を60質量%以上94質量%以下含有してもよく、より好ましくは、芳香族ポリスルホン(A)を3質量%以上8質量%以下含有し、フッ素樹脂(B)を13質量%以上18質量%以下含有し、熱可塑性樹脂(C)を74質量%以上84質量%以下含有してもよい。
【0139】
<任意成分>
実施形態の樹脂組成物には、必要に応じて、芳香族ポリスルホン(A)、熱可塑性樹脂(C)、及びフッ素樹脂(B)に該当しない、その他の任意成分が含まれていてもよい。その例としては、繊維状フィラー、板状フィラー、球状フィラー、粉状フィラー、異形フィラー、ウイスカーなどのフィラーの他、着色剤、潤滑剤、各種界面活性剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤が挙げられる。
【0140】
繊維状フィラーの例としては、ガラス繊維、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、シリカアルミナ繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、その他セラミック繊維、液晶高分子(LCP)繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維が挙げられる。板状フィラーの例としては、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイトが挙げられる。球状フィラーの例としては、ガラスビース、ガラスバルーンが挙げられる。粉状フィラーの例としては、炭酸カルシウム、ドロマイト、クレイ硫酸バリウム、酸化チタン、カーボンブラック、導電カーボン、微粒シリカが挙げられる。異形フィラーの例としては、ガラスフレーク、異形断面ガラス繊維が挙げられる。ウイスカーの例としては、ウォラストナイト、チタン酸カリウム繊維が挙げられる。また、任意成分としては、二硫化モリブデン等の固体潤滑剤、オキシベンゾイルポリエステル、ポリイミド等の耐熱性樹脂粒子、染料、顔料等の着色材も挙げられる。これら任意成分は、1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。これら任意成分の含有量は、芳香族ポリスルホン(A)、熱可塑性樹脂(C)、及びフッ素樹脂(B)の合計量100重量部に対して、250質量部以下が好ましく、150質量部以下がより好ましく、100質量部以下がさらに好ましく、67質量部以下が特に好ましい。
【0141】
以上に説明したとおり、芳香族ポリスルホン(A)、フッ素樹脂(B)及び熱可塑性樹脂(C)を含有する実施形態の樹脂組成物は、耐疲労性が向上された非常に有用なものである。
芳香族ポリスルホン(A)、フッ素樹脂(B)及び熱可塑性樹脂(C)を含有する実施形態の樹脂組成物で、耐疲労性が向上されるメカニズムは、明らかではないが、芳香族ポリスルホン(A)の作用によりフッ素樹脂(B)が微分散化され、フッ素樹脂(B)との界面での応力集中が抑制されることで、疲労試験結果が向上すると考えられる。
【0142】
(耐疲労性)
実施形態の樹脂組成物の耐疲労性は、下記[疲労試験]で測定される、下記試験片が破断に至るまでの引張回数を指標として評価することができる。当該引張回数が多いほど、耐疲労性が良好であると判断できる。
【0143】
[疲労試験]
樹脂組成物を成形材料として、射出成形機(例えば、住友重機械工業株式会社製、SE100EV-A型)を用いて、シリンダー温度340~370℃、金型温度150℃、背圧10MPa、スクリュー回転数80rpm、充填圧150MPa、保圧80MPa、冷却時間25秒の条件で射出成形を行い、JIS K 7118に準拠した板形状の試験片(厚み:2.5mm)を取得する。
図1は、試験片の一例であり、前記射出成形により製造した試験片を上方から見た平面視の図、及びその寸法(単位:mm)を示している。
取得した試験片について、試験温度23℃、相対湿度50%の雰囲気下で、最大応力40MPa、応力比0.2、周波数10Hz、チャック間距離50mm、波形:正弦波の条件で、疲労試験機(例えば、株式会社島津製作所製「EHF-FB1」)を用いて、JIS K 7118に準拠した引張疲労試験を行う。なお測定は、樹脂組成物につき2個の試験片について行い、試験片が破断に至るまでの引張回数の平均値を採用する。
【0144】
実施形態の樹脂組成物を測定サンプルとした前記試験片に対して測定された、上記[疲労試験]で測定される、上記試験片が破断に至るまでの引張回数は、7000回以上であってよく、7000回以上30000回以下であってよく、10000回以上20000回以下であってよく、12000回以上15000回以下であってよい。
【0145】
[樹脂組成物の製造方法]
実施形態の樹脂組成物は、上述した芳香族ポリスルホン(A)、熱可塑性樹脂(C)、及びフッ素樹脂(B)、並びに必要に応じて用いられる任意成分を、一括で又は適当な順序で混合して得ることができる。
【0146】
実施形態の樹脂組成物の製造方法によれば、上記の実施形態の樹脂組成物を製造可能である。
【0147】
樹脂組成物の製造方法において、芳香族ポリスルホン(A)、熱可塑性樹脂(C)、フッ素樹脂(B)、及び任意成分、並びにそれら配合割合については、上記≪樹脂組成物≫で説明したものと同一のものを例示できる。
【0148】
実施形態の樹脂組成物の製造方法として、芳香族ポリスルホン(A)と、フッ素樹脂(B)と、熱可塑性樹脂(C)と、を混合する工程を含み、前記芳香族ポリスルホン(A)の前記極性基及び/又はその塩の含有量は、前記芳香族ポリスルホン(A)1gあたり、1×10-5mol/g以上40×10-5mol/g以下であり、前記フッ素樹脂(B)中の、下記<CF3基含有量の測定方法>により求められる、CF3基含有量が0.15%未満である、樹脂組成物の製造方法を例示する。
<CF3基含有量の測定方法>
前記フッ素樹脂(B)中のCF2基含有量に対するCF3基含有量は、19F固体NMRにより測定されたCF3基に対応するピーク面積ICF3と、CF2基に対応するピーク面積ICF2とから、下記式(f1)により求める。
CF3基含有量(%)={((ICF3)/3)/((ICF2)/2)}×100 (f1)
【0149】
実施形態の樹脂組成物の製造方法において、前記樹脂組成物の総質量100質量%に対し、前記芳香族ポリスルホン(A)を1質量%以上18質量%以下の割合で配合し、前記フッ素樹脂(B)を5質量%以上22質量%以下の割合で配合することが好ましい。
【0150】
実施形態の樹脂組成物の製造方法において、前記樹脂組成物の総質量100質量%に対し、前記熱可塑性樹脂(C)を60質量%以上94質量%の割合で配合することが好ましい。
【0151】
前記混合としては、溶融混練が好ましい。本実施形態の樹脂組成物は、芳香族ポリスルホン(A)、熱可塑性樹脂(C)、フッ素樹脂(B)、及び必要に応じて用いられる任意成分を、押出機を用いて溶融混練することで、ペレット化したものとして提供可能である。溶融混練は必ずしも押出機行う必要はなく、バンバリーミキサーやロールを用いることもできる。なお、押出機としては、二軸の混練押出機を用いることが好ましい。
【0152】
このようにして得られた樹脂組成物、特に樹脂組成物のペレットは、後述の成形体の成形材料として好適に使用可能である。
【0153】
≪成形体≫
本実施形態の成形体は、上述した実施形態の樹脂組成物を含む成形体である。本実施形態の成形体として、実施形態の樹脂組成物からなる成形体を例示できる。
【0154】
本実施形態の成形体として、極性基及び/又はその塩を分子内に有する芳香族ポリスルホン(A)と、フッ素樹脂(B)と、前記芳香族ポリスルホン(A)及び前記フッ素樹脂(B)以外の熱可塑性樹脂(C)と、を含み、前記芳香族ポリスルホン(A)の前記極性基及び/又はその塩の含有量は、前記芳香族ポリスルホン(A)1gあたり、1×10-5mol/g以上40×10-5mol/g以下であり、前記フッ素樹脂(B)中の、下記<CF3基含有量の測定方法>により求められる、CF3基含有量が0.15%未満である、成形体を例示できる。
<CF3基含有量の測定方法>
前記フッ素樹脂(B)中のCF2基含有量に対するCF3基含有量は、19F固体NMRにより測定されたCF3基に対応するピーク面積ICF3と、CF2基に対応するピーク面積ICF2とから、下記式(f1)により求める。
CF3基含有量(%)={((ICF3)/3)/((ICF2)/2)}×100 (f1)
【0155】
本実施形態の成形体は、実施形態の樹脂組成物を用いて、公知の成形方法により得ることができる。本実施形態の樹脂組成物の成形方法としては、溶融成形法が好ましく、その例としては、射出成形法、Tダイ法やインフレーション法などの押出成形法、圧縮成形法、ブロー成形法、真空成形法及びプレス成形が挙げられ、射出成形法が好ましい。
【0156】
本実施形態の成形体の製造方法として、上述した実施形態の樹脂組成物を成形材料として射出成形することを含む、成形体の製造方法を例示できる。
【0157】
例えば、上述した樹脂組成物を成形材料とし、射出成形法により成形する場合、公知の射出成形機を用いて、樹脂組成物を溶融させ、溶融した樹脂組成物を、金型内に射出することにより成形する。
ここで、樹脂組成物を射出成形機に投入する際に、各成分を別々に射出成形機に投入してもよいし、予め一部又は全部の成分を混合し、混合物として射出成形機に投入してもよい。
【0158】
射出成形の温度条件は、樹脂組成物の種類に応じて適宜決定され、射出成形機のシリンダー温度を、用いる樹脂組成物の溶融粘度に応じて適宜設定することができる。
【0159】
金型の温度は、樹脂組成物の冷却速度と生産性の点から、室温(25℃)から180℃の範囲に設定することが好ましい。
その他射出条件として、スクリュー回転数、背圧、射出速度、保圧、保圧時間などを適宜調節すればよい。
【0160】
本実施形態の成形体は、一般に樹脂組成物が適用し得るあらゆる用途に適用可能である。
本実施形態の成形体は、例えば、コネクター、ソケット、ICソケット、バーンインソケット、リレー部品、コイルボビン、光ピックアップ、発振子、プリント配線板、回路基板、半導体パッケージ、コンピュータ関連部品等の電気・電子部品;ICトレー、ウエハーキャリヤー、等の半導体製造プロセス関連部品;VTR、テレビ、アイロン、エアコン、ステレオ、掃除機、冷蔵庫、炊飯器、照明器具等の家庭電気製品部品;ランプリフレクター、ランプホルダー等照明器具部品;コンパクトディスク、レーザーディスク(登録商標)、スピーカー、等の音響製品部品;光ケーブル用フェルール、電話機部品、ファクシミリ部品、モデム等の通信機器部品;分離爪、ヒータホルダー、等の複写機、印刷機関連部品;インペラー、ファン歯車、ギヤ、軸受け、モーター部品及びケース、等の機械部品;自動車用機構部品、エンジン部品、エンジンルーム内部品、電装部品、内装部品等の自動車部品、マイクロ波調理用鍋、耐熱食器、等の調理用器具;床材、壁材などの断熱、防音用材料、梁、柱などの支持材料、屋根材等の建築資材又は土木建築用材料;航空機、宇宙機、宇宙機器用部品;原子炉等の放射線施設部材、海洋施設部材、洗浄用治具、光学機器部品、バルブ類、パイプ類、ノズル類、フィルター類、膜、医療用機器部品及び医療用材料、センサー類部品、サニタリー備品、スポーツ用品、レジャー用品、結束バンド等が挙げられる。
【0161】
実施形態の成形体は、実施形態の樹脂組成物が用いられているため、耐疲労性に優れる。実施形態の成形体は、耐疲労性が要求される部品、例えばギヤとして好適に使用可能である。
【0162】
本実施形態のギヤは、上述した実施形態の樹脂組成物を含むギヤであって、前記樹脂組成物は、極性基及び/又はその塩を分子内に有する芳香族ポリスルホン(A)と、フッ素樹脂(B)と、前記芳香族ポリスルホン(A)及び前記フッ素樹脂(B)以外の熱可塑性樹脂(C)と、を含み、前記芳香族ポリスルホン(A)の前記極性基及び/又はその塩の含有量は、前記芳香族ポリスルホン(A)1gあたり、1×10-5mol/g以上40×10-5mol/g以下であり、前記フッ素樹脂(B)中の、下記<CF3基含有量の測定方法>により求められる、CF3基含有量が0.15%未満である。
<CF3基含有量の測定方法>
前記フッ素樹脂(B)中のCF2基含有量に対するCF3基含有量は、19F固体NMRにより測定されたCF3基に対応するピーク面積ICF3と、CF2基に対応するピーク面積ICF2とから、下記式(f1)により求める。
CF3基含有量(%)={((ICF3)/3)/((ICF2)/2)}×100 (f1)
【0163】
本実施形態のギヤとして、実施形態の樹脂組成物からなるギヤを例示できる。本実施形態のギヤは、前記<1>~<9>のいずれか一つに記載の樹脂組成物を含むギヤであってよい。
【0164】
ギヤの種類としては、特に制限されず、平歯車、斜歯歯車、ラック、内歯車、ウォームギア、ウォームホイールギヤ、かさ歯車、ハイポイドギヤ等が挙げられる。
【0165】
本実施形態のギヤは、食品接触用ギヤとして、好適に使用可能である。食品接触用ギヤとしては、食品製造装置、又は食品製造機器が備えるギヤが挙げられる。食品接触用ギヤは、食品の製造過程において、当該装置又は機器の一部分として、直接又は間接的に、食品又は食品原料に接触する。ここでの食品とは、食品原料、製造途中の食品、及び完成後の食品を含む。
【0166】
本実施形態のギヤは、医薬品接触用ギヤとして、好適に使用可能である。医薬品接触用ギヤとしては、医薬品製造装置、又は医薬品製造機器が備えるギヤが挙げられる。医薬品接触用ギヤは、医薬品の製造過程において、当該装置又は機器の一部分として、直接又は間接的に、医薬品又は医薬品原料に接触する。ここでの医薬品とは、医薬品原料、製造途中の医薬品、及び完成後の医薬品を含む。
【0167】
実施形態の食品接触用ギヤ又は医薬品接触用ギヤにおける、芳香族ポリスルホン(A)及び芳香族ポリスルホン(c)の合計含有量は、前記樹脂組成物の総質量(100質量%)に対して、50質量%以上であってよく、61質量%以上92質量%以下であってよく、77質量%以上87質量%以下であってよい。
【0168】
芳香族ポリスルホンは、医療用としても用いられ、生体適合性が高い材料である。そのため、仮に、ギヤの破片などが食品、医薬品等に混入するような事態を想定した場合であっても、高い安全性を提供できる。
【0169】
本実施形態は、別の側面として、前記<1>~<9>のいずれか一つに記載の樹脂組成物を含むギヤを備える、食品製造装置を提供する。
本実施形態は、別の側面として、前記<1>~<9>のいずれか一つに記載の樹脂組成物を含むギヤを備える、医薬品製造装置を提供する。
【0170】
本実施形態は、別の側面として、ギヤを備える食品製造装置を使用して食品を製造する、食品の製造方法であって、前記食品製造装置が、食品の製造過程において、食品又は食品原料に接触することを含み、前記ギヤが、前記<1>~<9>のいずれか一つに記載の樹脂組成物を含むギヤである、食品の製造方法を提供する。
【0171】
本実施形態は、別の側面として、ギヤを備える医薬品製造装置を使用して医薬品を製造する、医薬品の製造方法であって、前記医薬品製造装置が、医薬品の製造過程において、医薬品又は医薬品原料に接触することを含み、前記ギヤが、前記<1>~<9>のいずれか一つに記載の樹脂組成物を含むギヤである、医薬品の製造方法を提供する。
【実施例0172】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0173】
≪原料≫
<芳香族ポリスルホン(A)>
・PES1
ポリエーテルスルホンである住友化学株式会社製「スミカエクセル5003P」を用いた(以下「PES1」と略記する。)。このPES1の繰返し単位は、前記式(1)においてPh1及びPh2がそれぞれp-フェニレン基である繰返し単位であり、末端基がヒドロキシル基を含み、後述の測定方法により測定された、芳香族ポリスルホン1gあたりのヒドロキシル基の含有量は8.6×10-5mol/gであり、還元粘度は0.51dL/gである。
【0174】
<熱可塑性樹脂(C)>
・PES2
ポリエーテルスルホンである住友化学株式会社製「スミカエクセル4100P」を用いた(以下「PES2」と略記する。)。このPES2の繰返し単位は、前記式(1)においてPh1及びPh2がそれぞれp-フェニレン基である繰返し単位であり、末端基がクロロ基を含み、後述の測定方法により測定された、芳香族ポリスルホン1gあたりのヒドロキシル基の含有量は1.8×10-6mol/gであり、還元粘度は0.41dL/gである。
【0175】
<フッ素樹脂>
・樹脂F1
容量36Lのステンレス鋼の撹拌翼付きオートクレーブに、脱イオン水21.8kg、炭酸アンモニウム緩衝剤50g及びパーフルオロアルキル(C4~C16)エタンスルホン酸アンモニウムの混合物(平均C8)45gを加えた。このオートクレーブを閉じ、排気後、テトラフルオロエチレン(TFE)を3回吹込み、そして再び排気した。圧力が16.9kPaに上昇するまでエタンをオートクレーブ中に導入した後、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)44.95mL及びFreon(登録商標)F-113(CCl2FCClF2)350mLをオートクレーブ中に注入した。TFEを用いてオートクレーブを2.1MPaに加圧し、同時に脱イオン水500mLに過硫酸アンモニウム(APS)を1.5g溶解させた溶液をオートクレーブ中にポンプで導入した。重合が開始した後(圧力が0.07MPa降下)、追加のPPVE及び脱イオン水1000mL中にAPSを1.2g溶解させた溶液を重合の残留物に対して、それぞれ1.10mL/min及び10mL/minの割合でオートクレーブへポンプで導入した。圧力を2.2MPaに一定に保持するのに必要な追加のTFEが1分当たり50gである様に反応を調整するために撹拌機の回転数を調整した。反応開始からTFEを7kg加えた後、TFE及びPPVEの供給と撹拌機を停止させた。未反応物をオートクレーブから廃棄するまでに開始剤溶液(APS)をポンプで送り続けた。凝集した重合体をオートクレーブから取り出し、脱イオン水で洗浄し、150℃で乾燥した後、フッ素樹脂(樹脂F1)を得た。
【0176】
・樹脂F2
反応開始前にオートクレーブ中に注入するパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)及びFreon(登録商標)F-113(CCl2FCClF2)の注入量を、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)44.85mL、及びFreon(登録商標)F-113(CCl2FCClF2)350mLに変更したこと以外は、樹脂F1と同様に製造し、フッ素樹脂(樹脂F2)を得た。
【0177】
上記で得られた樹脂F1~F2について、後述する方法によりCF3基含有量を測定し、その結果を表1~4に示した。
【0178】
≪測定≫
[芳香族ポリスルホンのヒドロキシル基の含有量]
所定量の芳香族ポリスルホンをジメチルホルムアミドに溶解させ、過剰量のパラトルエンスルホン酸を加えた後、電位差滴定装置を用いて、0.05モル/Lのカリウムメトキシド/トルエン・メタノール溶液(体積比率トルエン:メタノール=8:2)で滴定し、残存パラトルエンスルホン酸を中和した後、ヒドロキシル基を中和し、このヒドロキシル基の中和に要したカリウムメトキシドの量(モル)を、芳香族ポリスルホンの前記所定量(g)で割ることにより、芳香族ポリスルホン中の前記ヒドロキシル基の含有量を求めた。
【0179】
[芳香族ポリスルホンの還元粘度]
芳香族ポリスルホン約1gをN,N-ジメチルホルムアミドに溶解させて、その容量を1dLとし、この溶液の粘度(η)を、オストワルド型粘度管を用いて、25℃で測定した。また、溶媒であるN,N-ジメチルホルムアミドの粘度(η0)を、オストワルド型粘度管を用いて、25℃で測定した。得られた溶液の粘度(η)と溶媒の粘度(η0)とから、比粘性率((η-η0)/η0)を、前記溶液の濃度(約1g/dL)で割ることにより、芳香族ポリスルホンの還元粘度(dL/g)を求めた。
【0180】
[フッ素樹脂中のCF3基含有量の測定]
樹脂F1~F2中のCF2基含有量に対するCF3基含有量は、19F固体NMRにより測定されたCF3基に対応するピーク面積ICF3と、CF2基に対応するピーク面積ICF2とから、下記式(f1)により求めた。
CF3基含有量(%)={((ICF3)/3)/((ICF2)/2)}×100 (f1)
【0181】
CF3基含有量を算出した19F固体NMR測定は、シングルパルス法により行い、以下の条件で測定した。
【0182】
分光器:JNM-ECZL600G(JEOL RESONANCE社製)
静磁場強度:14.1テスラ(1Hでの共鳴周波数600MHz)
観測核:19F(共鳴周波数565MHz)
測定法:シングルパルス法
MAS条件:16kHz(PTFE(Fluon L169J)のみは20kHzでも測定)
待ち時間:15秒
積算回数:128回(=27回、測定時間は約32分)
測定温度:室温(実測値23℃)
基準物質:PTFE(-122ppmに設定)
【0183】
≪樹脂組成物の製造≫
[実施例1~6、比較例1~7]
<ペレットの作製>
表1~4に示す各原料を、それぞれ表1~4に示す割合(質量%)で、ヘンシェルミキサーを用いて、混合した後、二軸押出機(池貝鉄工株式会社製「PCM-30」)を用いて、シリンダー温度300~350℃、スクリュー回転数150rpmの条件で溶融混練し、直径3mmの円形ノズル(吐出口)を経由してストランド状に吐出し、水温30℃の水浴に1.5秒間くぐらせた後、ローラーを経て、回転刃を20m/分に調整したストランドカッター(田辺プラスチックス機械株式会社製)にてペレタイズして、各実施例、及び比較例の樹脂組成物をペレット状で得た。
【0184】
<成形>
各樹脂組成物のペレットを成形材料として、温風循環式乾燥器を用いて、150℃で12時間乾燥後、JIS K 7118に準拠した板形状の試験片(厚み:2.5mm)を、射出成形機(住友重機械工業株式会社製「SE100EV-A型」)を用いて、射出成形した。
射出成形の条件は、シリンダー温度340~370℃、金型温度150℃、背圧10MPa、スクリュー回転数80rpm、充填圧150MPa、保圧80MPa、冷却時間25秒とした。前記射出成形により製造した試験片を上方から見た平面視の図、及びその寸法(単位:mm)を、
図1に示した。
【0185】
≪評価≫
樹脂組成物に係る耐疲労性は、下記[疲労試験]における試験片に対して測定される、試験片が破断に至るまでの引張回数を指標として評価した。当該引張回数が多いほど、耐疲労性が良好であると判断できる。
【0186】
[疲労試験]
上記で製造した試験片について、試験温度23℃、相対湿度50%の雰囲気下で、応力モード:引張、最大応力40MPa、応力比0.2、周波数10Hz、試験速度1/10sec、チャック間距離50mm、波形:正弦波の条件で、疲労試験機(株式会社島津製作所製「EHF-FB1」)を用いて、JIS K 7118に準拠した引張疲労試験を行った。
なお、測定は、各例につき2個の試験片について行い、試験片が破断に至るまでの引張回数を測定し、その平均値を求めた。応力比は、繰返し荷重1サイクルにおける最大応力に対する最少応力の比をいう。
【0187】
上記の測定結果を表1~4に示す。
【0188】
【0189】
表1を参照すると、PES2(熱可塑性樹脂(C))及び樹脂F1(フッ素樹脂(B))のみを含有し、PES1(芳香族ポリスルホン(A))を含有しない比較例1~3と、PES1を含有する実施例1~3との対比によれば、PES1を含有する実施例1~3で、疲労試験の結果の顕著な向上が確認された。
【0190】
【0191】
【0192】
一方で、表2を参照すると、樹脂F1の代わりに樹脂F2を含有する場合では、PES1(芳香族ポリスルホン(A))を含有する比較例4であっても、PES1を含有しない比較例5に比べ、実施例2ほどの疲労試験の結果の顕著な向上は確認されなかった。
【0193】
同様に、表3を参照すると、樹脂F1の代わりに樹脂F2を含有する場合では、PES1(芳香族ポリスルホン(A))を含有する比較例6であっても、PES1を含有しない比較例7に比べ、実施例3ほどの疲労試験の結果の顕著な向上は確認されなかった。
【0194】
以上のことから、ヒドロキシル基含有量が1×10-5mol/g以上40×10-5mol/g以下の値を満たす特定の芳香族ポリスルホン(A)と、CF3基含有量が0.15%未満を満たす特定のフッ素樹脂(B)との組み合わせで、予想を超える耐疲労性の向上効果が発揮されることが示された。
【0195】
【0196】
表4に、樹脂F1の含有量を15質量%に揃え、PES1とPES2との含有量の比を変えた場合の結果を示す。PES1(芳香族ポリスルホン(A))を含有しない比較例2に対し、PES1を含有する実施例2、4~6の全てで、疲労試験結果の顕著な向上が確認された。
【0197】
[PTFEの分散状態]
上記で製造した試験片のうち、実施例2、比較例2、比較例4及び比較例5の樹脂組成物から成形された試験片に対し、中央部を切断し、その切断面を研磨機(笠井商工(株)製「リファインポリッシャー」)で研磨し、金蒸着装置(株式会社日立製作所製「イオンスパッターE101」)にて金蒸着を施し、走査型電子顕微鏡(SEM、S-2300形、日立走査電子顕微鏡)を用いて、試験片断面のSEM観察画像を取得した(倍率1000倍)。結果を
図2に示す。
【0198】
上記で取得した試験片断面のSEM観察画像を、画像解析ソフト(三谷商事株式会社製「WinROOF」Ver.3.54)を用いて、連続相の領域と、凝集体として点在するPTFEの領域と、を二値化処理した。
図2において観察される白色の島状の領域が、PTFEの領域である。
なお、二値化処理の閾値は、目視で画像を確認し、PTFEと他の成分とが区別できるような値に設定すればよい。
二値化処理後の画像を用い、明らかにPTFEではない塵やノイズ、画像端の途中で切断されたPTFEの領域を除去した後、PTFEの円相当径を算出した。円相当径とは、同面積のPTFEを真円に換算した際の直径である。画像には、PTFEの領域が100個以上含まれるようにし、円相当径の算術平均から平均粒径を算出した。
【0199】
実施例2と比較例2との対比:
樹脂F1を含有する場合、PES1(芳香族ポリスルホン(A))を含有する実施例2の試験片は、PES1を含有しない比較例2の試験片に比べて、PTFEが微分散化していた。すなわち、実施例2の試験片と、比較例2の試験片とでは、PTFEの分散状態が大きく異なっていた。
【0200】
円相当径の算術平均から算出されたPTFEの平均粒径は以下のとおりであった。
実施例2におけるPTFEの平均粒径:6.94μm
比較例2におけるPTFEの平均粒径:18.27μm
【0201】
また、PTFEの円相当径の統計量は以下のとおりであった。
実施例2におけるPTFEの円相当径の分布の第1四分位数:4.51μm
実施例2におけるPTFEの円相当径の分布の第3四分位数:8.13μm
比較例2におけるPTFEの円相当径の分布の第1四分位数:7.81μm
比較例2におけるPTFEの円相当径の分布の第3四分位数:24.54μm
表1より、耐疲労性は、実施例2の試験片の方が、比較例2の試験片に比べて、格段に優れていた。
【0202】
図2において、本発明を適用した実施例2の樹脂組成物から成形された試験片は、連続相10と、連続相10に分散している分散相20と、を備えた成形体100であって、連続相10は、PES1(芳香族ポリスルホン(A))及びPES2(熱可塑性樹脂(C))を含む相からなり、分散相20は、樹脂F1(フッ素樹脂(B))を含む粒子群からなる成形体100であることが確認できる。
前記粒子群についての平均粒径は、4.94~8.94μmである。
前記粒子群についての円相当径の四分位範囲は、1.62~5.62μmである。
【0203】
前記粒子群についての円相当径の第1四分位数は、好ましくは3.51~5.51μmである。前記粒子群についての円相当径の第3四分位数は、好ましくは6.13~10.13μmである。
【0204】
一方で、樹脂F1の代わりに樹脂F2を含有する場合、PES1(芳香族ポリスルホン(A))を含有する比較例4の試験片と、PES1を含有しない比較例5の試験片とでは、PTFEの分散状態に顕著な変化は認められず、耐疲労性は実施例2の試験片に比べて劣っていた。
【0205】
各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。また、本発明は各実施形態によって限定されることはなく、請求項(クレーム)の範囲によってのみ限定される。