(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025072166
(43)【公開日】2025-05-09
(54)【発明の名称】銀めっき膜および銀めっき膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 15/02 20060101AFI20250430BHJP
C25D 7/00 20060101ALI20250430BHJP
C25D 3/46 20060101ALI20250430BHJP
C25D 3/64 20060101ALI20250430BHJP
H01R 13/03 20060101ALN20250430BHJP
【FI】
C25D15/02 J
C25D7/00 H
C25D3/46
C25D3/64
C25D15/02 H
C25D15/02 L
H01R13/03 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023182741
(22)【出願日】2023-10-24
(71)【出願人】
【識別番号】000231073
【氏名又は名称】日本航空電子工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(72)【発明者】
【氏名】松村 淳平
(72)【発明者】
【氏名】八木 俊介
【テーマコード(参考)】
4K023
4K024
【Fターム(参考)】
4K023AA24
4K023AB40
4K023BA24
4K023CB11
4K023CB32
4K023DA04
4K023DA07
4K024AA10
4K024AA24
4K024AB01
4K024AB02
4K024BA09
4K024BB10
4K024CA02
4K024CA03
4K024CA06
4K024DA02
4K024DA03
4K024DA04
4K024DA09
4K024GA03
(57)【要約】
【課題】 表面の摩擦係数が低い銀めっき膜を提供すること。
【解決手段】 銀原子、炭素原子、および、窒素原子を含む銀めっき膜であって、炭素原子の含有量が、銀めっき膜の全質量に対して0.30質量%以上であり、窒素原子の含有量が、銀めっき膜の全質量に対して1.00質量%以上である、銀めっき膜。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀原子、炭素原子、および、窒素原子を含む銀めっき膜であって、
前記炭素原子の含有量が、前記銀めっき膜の全質量に対して0.30質量%以上であり、
前記窒素原子の含有量が、前記銀めっき膜の全質量に対して1.00質量%以上である、銀めっき膜。
【請求項2】
前記銀原子の含有量が、前記銀めっき膜の全質量に対して90.00質量%以上である、請求項1に記載の銀めっき膜。
【請求項3】
さらに、酸素原子を含み、前記酸素原子の含有量が、前記銀めっき膜の全質量に対して0.10質量%以上である、請求項1または2に記載の銀めっき膜。
【請求項4】
硫黄原子の含有量が、前記銀めっき膜の全質量に対して2.0質量%以下である、請求項1または2に記載の銀めっき膜。
【請求項5】
前記炭素原子の含有量が、前記銀めっき膜の全質量に対して0.35質量%以上である、請求項1または2に記載の銀めっき膜。
【請求項6】
前記窒素原子の含有量が、前記銀めっき膜の全質量に対して1.20質量%以上である、請求項1または2に記載の銀めっき膜。
【請求項7】
銀イオン源を含むめっき液に通電して銀めっき膜を製造する銀めっき膜の製造方法であって、
前記めっき液は、炭素原子および窒素原子を含む含窒素高分子化合物を含み、
前記含窒素高分子化合物の数平均分子量が、1000以上であり、
前記めっき液中における前記含窒素高分子化合物の含有量が、0.5g/L以上である、銀めっき膜の製造方法。
【請求項8】
前記含窒素高分子化合物が、孤立電子対を有する窒素原子を含む、請求項7に記載の銀めっき膜の製造方法。
【請求項9】
前記銀イオン源が、銀原子と、銀原子に配位したシアノ基とを含む、請求項7または8に記載の銀めっき膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀めっき膜に関する。また、本発明は、銀めっき膜の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の電装化の進展に伴い、自動車の電子部品を接続するケーブル等に流れる電流値が大きくなり、また、高電圧が印加されるようになっている。さらに、近年増加している電気自動車は、電気によって駆動するため、ケーブル等に大電流が流れる。
電子部品と電源とは、ケーブルおよびコネクタで接続される場合が多い。コネクタは、コネクタ接点材料を介して電子部品とケーブルとの間に電流を流すが、電装化の進む自動車に用いられるコネクタ接点材料としては、高伝導性を示す銀めっき膜が好ましく用いられる。
【0003】
銀めっき膜は、高伝導性を示す一方、一般的に表面の硬度が低く、また、銀めっき膜同士の摺動は、凝着が生じやすい。そうすると、コネクタを繰り返し挿抜してコネクタ接点材料(銀めっき膜)を摺動した際には、コネクタ接点材料(銀めっき膜)の摩耗が生じやすい。
銀めっき膜の摩耗を低減する方法としては、例えば、銀めっき膜の高硬度化が挙げられ、そのような銀めっき膜は、硬質銀めっきとも呼ばれる。例えば、特許文献1では、アンチモンを含むビッカース硬度の大きい銀めっき膜を形成したことが記載されている。
また、銀めっき膜の摩耗を低減する他の方法としては、炭素粒子等の固体潤滑剤を銀めっき膜の表面に配置する方法が挙げられる。例えば、特許文献2では、炭素粒子を添加した銀めっき液を使用して、電気めっきを行うことで、炭素粒子を含む複合材料からなる銀めっき膜を形成する技術が開示されている。上記文献では、上記炭素粒子を含む銀めっき膜は、優れた耐摩耗性を有することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-079250号公報
【特許文献2】特開2021-025133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らが上記特許文献1に記載の方法について検討したところ、耐摩耗性が昨今求められる水準に達していないことを知見した。この要因について検討したところ、銀めっき膜表面の摩擦係数が耐摩耗性と関係しており、銀めっき膜表面の摩擦係数において、改善の余地があることを知見した。
【0006】
また、特許文献2に記載の方法では、めっき液に炭素粒子を分散させる必要があり、めっきを行う際に、炭素粒子の分散処理、および、めっき液の十分な撹拌等を行う必要がある。加えて、このようなめっき液には、使用により種々の不純物が蓄積され、不純物を除去するためにろ過処理が行われる場合がある。上記のような炭素粒子が分散しためっき液をろ過すると、炭素粒子が不純物とともに除去されてしまうため、上記のようなめっき液はろ過処理に供することが難しい。
さらに、上記方法で形成した銀めっき膜は、銀めっき膜の表面に付着した余分な炭素粒子を洗浄する必要がある。
上記点で、特許文献2に記載の方法は煩雑で製造コストが上がりやすく、生産性よく摩擦係数の低い銀めっき膜が得られる、銀めっき膜の製造方法が求められていた。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、本発明は、表面の摩擦係数が低い銀めっき膜の提供を目的とする。
また、本発明は、生産性よく表面の摩擦係数が低い銀めっき膜が得られる、銀めっき膜の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明を完成させるに至った。すなわち、以下の構成により上記課題が解決されることを見出した。
〔1〕 銀原子、炭素原子、および、窒素原子を含む銀めっき膜であって、
上記炭素原子の含有量が、上記銀めっき膜の全質量に対して0.30質量%以上であり、
上記窒素原子の含有量が、上記銀めっき膜の全質量に対して1.00質量%以上である、銀めっき膜。
〔2〕 上記銀原子の含有量が、上記銀めっき膜の全質量に対して90.00質量%以上である、〔1〕に記載の銀めっき膜。
〔3〕 さらに、酸素原子を含み、上記酸素原子の含有量が、上記銀めっき膜の全質量に対して0.10質量%以上である、〔1〕または〔2〕に記載の銀めっき膜。
〔4〕 硫黄原子の含有量が、上記銀めっき膜の全質量に対して2.0質量%以下である、〔1〕または〔2〕に記載の銀めっき膜。
〔5〕 上記炭素原子の含有量が、上記銀めっき膜の全質量に対して0.35質量%以上である、〔1〕または〔2〕に記載の銀めっき膜。
〔6〕 上記窒素原子の含有量が、上記銀めっき膜の全質量に対して1.30質量%以上である、〔1〕または〔2〕に記載の銀めっき膜。
〔7〕 銀イオン源を含むめっき液に通電して銀めっき膜を製造する銀めっき膜の製造方法であって、
上記めっき液は、炭素原子および窒素原子を含む含窒素高分子化合物を含み、
上記含窒素高分子化合物の数平均分子量が、1000以上であり、
上記めっき液中における上記含窒素高分子化合物の含有量が、0.5g/L以上である、銀めっき膜の製造方法。
〔8〕 上記含窒素高分子化合物が、孤立電子対を有する窒素原子を含む、〔7〕に記載の銀めっき膜の製造方法。
〔9〕 上記銀イオン源が、銀原子と、銀原子に配位したシアノ基とを含む、〔7〕または〔8〕に記載の銀めっき膜の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、表面の摩擦係数が低い銀めっき膜が提供できる。
また、本発明によれば、生産性よく表面の摩擦係数が低い銀めっき膜が得られる、銀めっき膜の製造方法が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされる場合があるが、本発明はそのような実施態様に制限されない。
【0011】
以下、本明細書における各記載の意味を表す。
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
<銀めっき膜>
本発明の銀めっき膜は、銀原子、炭素原子、および、窒素原子を含み、炭素原子の含有量が、上記銀めっき膜の全質量に対して0.30質量%以上であり、窒素原子の含有量が、上記銀めっき膜の全質量に対して1.00質量%以上である。
本発明の銀めっき膜は、その表面の摩擦係数が低い。この理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推測している。
本発明の銀めっき膜は、炭素原子および窒素原子の含有量が銀めっき膜の全質量に対して、所定値以上である。そうすると、炭素原子および窒素原子が銀めっき膜の表面に一定以上存在し、例えば、後述する含窒素高分子化合物等が潤滑剤の役割を果たすと考えられる。結果として、本発明の銀めっき膜は、その表面の摩擦係数が低くなると考えられる。
【0013】
以下、本発明の銀めっき膜について説明する。
【0014】
[組成]
本発明の銀めっき膜の組成について説明する。
本発明の銀めっき膜は、上述したように、銀原子、炭素原子、および、窒素原子を含み、炭素原子の含有量が、上記銀めっき膜の全質量に対して0.30質量%以上であり、窒素原子の含有量が、上記銀めっき膜の全質量に対して1.00質量%以上である。
本発明において、銀めっき膜の組成は、グロー放電発光分析法によって分析して得られる値を用いる。具体的な測定方法については、後段の実施例の部分で記載する方法に従う。
【0015】
本発明の銀めっき膜において、銀原子の含有量は、銀めっき膜の導電性の点で、銀めっき膜の全質量に対して、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。銀原子の含有量は、銀めっき膜の全質量に対して、98.5質量%以下である場合が多い。
本発明の銀めっき膜においては、銀、炭素および窒素、ならびに、後述する酸素および硫黄以外の元素を含んでいてもよい。
銀以外の金属元素としては、例えば、金、ビスマス、カドミウム、コバルト、クロム、銅、鉄、インジウム、イリジウム、モリブデン、ニッケル、鉛、パラジウム、白金、ロジウム、レニウム、ルテニウム、錫、チタン、タリウム、タングステン、および、亜鉛等が挙げられる。
銀以外の半金属元素としては、例えば、セレン、ヒ素、ゲルマニウム、および、アンチモン等が挙げられる。
また、銀、炭素および窒素以外の非金属元素としては、例えば、臭素、および、ヨウ素等が挙げられる。
なお、銀めっき膜は、銀以外の金属元素を含まないことも好ましい。
【0016】
炭素原子の含有量は、銀めっき膜の全質量に対して0.30質量%以上であり、0.35質量%以上が好ましく、0.40質量%以上がより好ましい。また、炭素原子の含有量は、銀めっき膜の全質量に対して、1.40質量%以下である場合が多く、銀めっき膜の耐摩耗性がより優れる点で、1.00質量%以下が好ましく、0.70質量%以下がより好ましく、0.60質量%以下がさらに好ましい。
【0017】
窒素原子の含有量は、銀めっき膜の全質量に対して1.00質量%以上であり、1.15質量%以上が好ましく、1.20質量%以上がより好ましく、1.30質量%以上がさらに好ましい。また、窒素原子の含有量は、銀めっき膜の全質量に対して、4.00質量%以下である場合が多く、銀めっき膜の耐摩耗性がより優れる点で、3.00質量%以下が好ましく、2.50質量%以下がより好ましく、2.00質量%以下が更に好ましい。
【0018】
炭素原子および窒素原子は、後述するめっき液に含まれる含窒素高分子化合物、または、含窒素高分子化合物に由来する成分として、本発明の銀めっき膜に含まれることが好ましい。
【0019】
また、銀めっき膜は、上記以外の原子を含んでいてもよい。上記以外の原子としては、例えば、酸素原子、および、硫黄原子が挙げられる。なかでも、銀めっき膜は、酸素原子を含むことが好ましい。
【0020】
銀めっき膜が酸素原子を含む場合、酸素原子の含有量は、銀めっき膜の全質量に対して、0.05質量%以上が好ましく、0.10質量%以上がより好ましく、0.20質量%以上がさらに好ましい。また、酸素原子の含有量は、銀めっき膜の全質量に対して、2.00質量%以下である場合が多く、1.00質量%以下が好ましく、0.60質量%以下がより好ましい。
【0021】
また、銀めっき膜は硫黄原子を含んでいてもよい。
銀めっき膜が硫黄原子を含む場合、硫黄原子の含有量は、銀めっき膜の全質量に対して、0.10質量%以上が好ましい。また、硫黄原子の含有量は、銀めっき膜の導電性の点で、銀めっき膜の全質量にて、4.00質量%以下が好ましく、1.00質量%以下がより好ましい。
なお、銀めっき膜が硫黄原子を含まないことも好ましい。
【0022】
[原子の分布]
本発明の銀めっき膜の表面においては、炭素原子および窒素原子が均一に分散して存在することが好ましい。
具体的には、走査型電子顕微鏡で銀めっき膜の表面を観察した際に、炭素原子および窒素原子の少なくとも一方が存在する領域が観察され、上記領域の平均円相当径が100nm以下であることが好ましい。上記平均円相当径は、耐摩耗性により優れる点で、50nm以下がより好ましく、30nm以下がさらに好ましい。上記平均円相当径は、1nm以上である場合が多い。
上記円相当径は、以下の手順で求める。
まず、銀めっき膜の表面を、走査型電子顕微鏡で観察し、倍率が10万倍の反射電子像を取得する。炭素原子および窒素原子の少なくとも一方が観察される領域は、上記反射電子像において、明るさが低い(黒い)領域として観察される。
次に、上記反射電子像において、各画素の平均明るさを取得し、平均明るさを閾値として反射電子像を二値化処理し、処理観察像を得る。処理観察像において、黒い領域の粒径の円相当径を測長し、100個の黒い領域の円相当径の算術平均値を平均円相当径とする。
ここで、処理観察像において、黒い領域が100個に満たない場合、別の視野で取得した反射電子像に基づいて、上記解析を行い、黒い領域が100個となるまで円相当径の測長を行う。
【0023】
また、本発明の銀めっき膜の厚み方向において、炭素原子および窒素原子が均一に分散して存在することが好ましい。
具体的には、炭素原子の含有量に関しては、以下の手順で計算される厚み方向の含有割合比が1.0~1.8であることが好ましい。すなわち、後述する方法で上記銀めっき膜の組成の分析を行う際に、銀めっき膜の厚み全体を100%としたときの、25%の厚み位置、50%の厚み位置、および、75%の厚み位置における炭素原子の含有割合(%)をそれぞれ算出し、上記含有割合のうち、最小の含有割合の値に対する最大の含有割合の値の比を、炭素原子に関する厚み方向の含有割合比とする。
また、窒素原子の含有量に関しても、炭素原子に関する厚み方向の含有割合比と同様の手順で、厚み方向の含有割合比を算出した際に、その値が、1.0~1.8であることが好ましい。
【0024】
本発明の銀めっき膜の表面において、炭素原子および窒素原子が均一に分散し、かつ、厚み方向においても炭素原子および窒素原子が均一に分散していると、耐摩耗性により優れると考えられる。これは、銀めっき膜の表面が摩耗によって削り取られても、厚み方向において炭素原子および窒素原子が均一に分散していれば、削り取られた後の表面においても、炭素原子および窒素原子が存在しているため、上述した原理で摩擦係数が低くなると考えられる。
【0025】
[厚み]
本発明の銀めっき膜の厚みは、0.5μm以上の場合が多く、銀めっき膜の耐摩耗性の点で、1.0μm以上が好ましく、3.0μm以上がより好ましい。また、銀めっき膜の厚みは、50μm以下の場合が多く、経済性の点で、15μm以下が好ましい。
本明細書において、銀めっき膜の厚みは、銀めっき膜の析出量、析出面積、および、銀の密度から計算される値を採用する。なお、銀めっき膜の厚みは、走査型電子顕微鏡を用いて得てもよい。具体的には、銀めっき膜の表面に垂直な方向の断面を作製し、走査型電子顕微鏡で断面を観察し、銀めっき膜の厚みを10か所で測長し、その算術平均値を銀めっき膜の厚みとしてもよい。
【0026】
[物性]
本発明の銀めっき膜が示す好ましい物性について説明する。
【0027】
本発明の銀めっき膜の表面粗さは、0.5μm以下が好ましく、0.3μm以下がより好ましく、0.2μm以下がさらに好ましい。また、表面粗さは、0.01μm以上である場合が多い。
本明細書において、表面粗さとは、ISO 25178に規定される算術平均高さSaをいい、レーザー顕微鏡(VK-X1100、キーエンス社製)を用いて測定する。なお、測定条件は、ISO 25178に準拠するものとする。
【0028】
本発明の銀めっき膜のビッカース硬さは、50HV以上が好ましく、60HV以上がより好ましい。また、ビッカース硬さは、200HV以下である場合が多い。
本明細書において、ビッカース硬さは、JIS Z 2244:2020にしたがって測定されるものをいい、具体的には、マイクロビッカース硬さ試験機(HM-221、ミツトヨ社製)で測定する。
【0029】
本発明の銀めっき膜の表面の摩擦係数は、0.5以下が好ましく、0.4以下がより好ましい。また、摩擦係数は、0.1以上である場合が多い。
本明細書において、摩擦係数とは、動摩擦係数をいい、後段の実施例の部分で記載の方法で測定して得られる。
【0030】
本発明の銀めっき膜の表面の接触抵抗は、1.0mΩ以下が好ましく、0.5mΩ以下がより好ましい。また、接触抵抗は、0.1mΩ以上である場合が多い。
本明細書において、接触抵抗は、4端子法によって実施して得られる値とし、具体的には、摺動試験器によって実施する摺動試験中の接触抵抗の値をいう。測定装置としては、接触電気抵抗同時計測型摩擦摩耗試験機FPR-2300(レスカ社)を用い、測定条件は以下の通りとし、接触抵抗は3回の測定の算術平均値をとる。
・荷重:6N
・測定電流値:10mA
・開放電圧値:20mV
・摺動距離:10mm
・摺動速度:10mm/秒
【0031】
<接点部材>
本発明の銀めっき膜の用途は特に制限されないが、例えば、接点部材に用いられることが好ましい。
接点部材は、金属基材と、金属基材の少なくとも一部に配置された上記本発明の銀めっき膜とを有することが好ましい。接点部材における本発明の銀めっき膜の好ましい態様は、上述したとおりである。
【0032】
金属基材の構成材料は、特に制限されず、電気抵抗値が低い材料が好ましい。金属基材の構成材料としては、例えば、銅、銀、および、金が挙げられ、銅が好ましい。
金属基材は、単層構造であってもよいし、積層構造であってもよい。
金属基材が積層構造である場合、金属基材は、母材(金属支持体)と、その表面上に配置されためっき層とを有することが好ましい。めっき層は特に制限されないが、例えば、銅めっき層、銀めっき層、金めっき層、錫めっき層、ニッケルめっき層、白金めっき層、ロジウムめっき層、および、上記金属に他の金属を添加した合金めっき層が挙げられる。なお、積層構造の金属基材中におけるめっき層が銀めっき層である場合、銀めっき層は、上記本発明の銀めっき膜とは異なる層である。
【0033】
金属基材の表面には、各種処理が施されていてもよく、例えば、変色防止処理が施されていてもよい。変色防止処理としては、例えば、金属基材の表面(金属基材がめっき層を有する場合には、めっき層の表面)上に、アルカンチオールからなる群から選択される膜を形成する処理が挙げられる。
【0034】
金属基材の表面における最大高さ(Sz)は、特に制限されず、0.1~5.0μmの場合が多く、0.5~1.7μmが好ましい。
金属基材の表面における最大高さは、公知の方法で制御することができ、例えば、めっき層を有さない金属基材の場合、切削加工の切り込み深さや送りピッチなどの加工条件や、切削加工後のブラスト処理や化学エッチングなどの表面処理で制御できる。めっき層を有する金属基材の場合、めっきの析出速度や温度などの条件によっても制御できる。
【0035】
上記接点部材は、本発明の銀めっき膜を有するため、摩擦係数が低く、耐摩耗性に優れるため、種々の用途に適用できる。
上記接点部材は、例えば、スイッチやリレーなどの電流をON-OFFするのに用いる電子部品、および、電気機器に適用できる。つまり、本発明の銀めっき膜を有する接点部材は、接点部材を有するコネクタにも関する。
なお、上記接点部材を使用する場合、接点部材同士が互いの銀めっき膜を対向させた状態で摺動するように用いてもよい。
上記接点部材を有するコネクタの形状は特に制限されず、公知の形状のコネクタに適用できる。
【0036】
<銀めっき膜の製造方法>
本発明の銀めっき膜の製造方法は、銀イオン源を含むめっき液に通電して銀めっき膜を製造する。本発明の銀めっき膜の製造方法において、上記めっき液は、炭素原子および窒素原子を含む含窒素高分子化合物を含み、含窒素高分子化合物の数平均分子量が、1000以上であり、めっき液中における上記含窒素高分子化合物の含有量が、0.5g/L以上である。
本発明の銀めっき膜の製造方法によれば、上述した本発明の銀めっき膜が製造できる。また、本発明の銀めっき膜の製造方法は、所定の含窒素高分子化合物を所定量含むめっき液を用いて、通電すればよく、既存の設備を流用でき、めっき液のろ過処理等の特殊な装置の適用が不要であるため、生産性に優れる。
【0037】
以下、本発明の銀めっき膜の製造方法について説明する。
なお、以下、本発明の銀めっき膜の製造方法のことを、単に「本発明の製造方法」ともいう。
【0038】
[めっき液]
本発明の製造方法に用いるめっき液は、銀イオン源、および、炭素原子および窒素原子を含む含窒素高分子化合物を含む。
以下、めっき液に含まれる成分、および、めっき液に含まれていてもよい成分について説明する。なお、めっき液は、溶媒として水を含むことが好ましい。
【0039】
(銀イオン源)
めっき液に含まれる銀イオン源は、めっき液中で銀イオンを放出することができれば特に制限されず、公知の銀イオン源を用いることができる。
銀イオン源としては、銀原子と、銀原子に対して化学結合もしくは配位結合する基、または、銀原子とイオン結合するイオンとを含む化合物が挙げられる。なかでも、銀イオン源は、銀原子と、銀原子に配位する基を含むことが好ましく、銀原子と、銀原子に配位するシアノ基とを含むことが好ましい。すなわち、銀イオン源は、シアン系銀錯体を含むことが好ましい。シアン系銀錯体は、幅広いpHで安定であり、好ましい。
【0040】
銀イオン源としては、例えば、種々の銀塩が挙げられる。銀塩は、錯体を含む錯塩であってもよい。
銀塩としては、例えば、硝酸銀、硫酸銀、アルキルスルホン酸銀(例えば、メタンスルホン酸銀、および、エタンスルホン酸銀等)、シアン化銀、および、ジシアノ銀酸塩(例えば、ジシアノ銀酸ナトリウム、および、ジシアノ銀酸カリウム等)が挙げられる。なかでも、シアン化銀またはジシアノ銀酸塩が好ましく、ジシアノ銀酸塩がより好ましい。
【0041】
めっき液中における銀イオン源の含有量(めっき液1L当たりに含まれる銀イオン源の量(g))は、適宜調整し得るが、例えば、1~100g/Lが挙げられ、5~50g/Lが好ましい。
【0042】
(含窒素高分子化合物)
めっき液に含まれる含窒素高分子化合物は、炭素原子および窒素原子を含み、数平均分子量が1000以上である。また、めっき液中における含窒素高分子化合物の含有量は、0.5g/L以上である。
含窒素高分子化合物は、炭素原子および窒素原子を含めば特に制限されないが、孤立電子対を有する窒素原子を含むことが好ましい。孤立電子対を有する窒素原子に対しては、プロトンの配位および脱離が起こり得るため、後述する機序で、本発明の銀めっき膜がより得られやすいと考えられる。
含窒素高分子化合物において、窒素原子の含有量は、含窒素高分子化合物の全原子に対して、1原子%以上が好ましく、5原子%以上がより好ましく、8原子%以上がさらに好ましい。また、含窒素高分子化合物において、窒素原子の含有量は、40原子%以下である場合が多く、20原子%以下が好ましい。
【0043】
含窒素高分子化合物における窒素原子が形成する構造としては、例えば、アミン構造、イミン構造、および、第四級アンモニウム塩構造が挙げられる。すなわち、含窒素高分子化合物は、上記各構造を含む基を有することが好ましい。
上記各構造は、以下の式(a)~(c)で表される構造をいう。
【0044】
【0045】
式(a)は、アミン構造を表す。
式(a)中、*は、結合手を表す。式(a)の3つの結合手には、それぞれ独立に、水素原子、または、炭素原子が結合することが好ましい。
式(a)の3つの結合手のうち、1つの結合手に炭素原子が結合し、残りの2つの結合手に水素原子が結合する場合、式(a)は、第一級アミノ基を表す。
式(a)の3つの結合手のうち、2つの結合手に炭素原子が結合し、残りの1つの結合手に水素原子が結合する場合、式(a)は、第二級アミノ基を表す。
式(a)の3つの結合手のうち、3つの結合手に炭素原子が結合する場合、式(a)は、第三級アミノ基を表す。
式(a)が第二級アミノ基または第三級アミノ基を表す場合、第二級アミノ基または第三級アミノ基は、結合する炭素原子、および、その炭素原子に結合する他の原子が構成する環状構造に含まれていてもよい。すなわち、第二級アミノ基または第三級アミノ基は、環状アミノ基であってもよい。
【0046】
式(b)は、イミン構造を表す。
式(b)中、*は、結合手を表す。式(b)の2つの結合手には、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子、または、窒素原子が結合することが好ましく、それぞれ炭素原子が結合することがより好ましい。
なお、式(b)に結合する炭素原子は、他の炭素原子、および、その他の原子を介して環状構造を形成していてもよい。式(b)の構造を有する環状構造は、芳香性を有する芳香族イミン構造であってもよいし、芳香性を有さない脂肪族環状イミン構造であってもよい。
芳香族イミン構造を含む基としては、例えば、ピリジン、トリアジン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、オキサゾール、チアゾール、イミダゾリン、キノリン、ベンゾイミダゾール、および、ベンゾトリアゾール等の水素原子を1つ取り除いてなる基が挙げられる。
脂肪族イミン構造を含む基としては、例えば、アミジン、および、グアニジン等の水素原子を1つ取り除いてなる基が挙げられる。
【0047】
式(c)は、第四級アンモニウム塩構造を表す。
式(c)中、*は、結合手を表す。式(c)の4つの結合手には、炭素原子がそれぞれ結合する。
式(c)中、Aは、アニオンを表す。アニオンは特に制限されず、無機アニオンであってもよく、有機アニオンであってもよい。無機アニオンとしては、例えば、ハロゲン化物イオン、硝酸イオン、および、硫酸イオン等が挙げられる。有機アニオンとしては、例えば、カルボン酸化合物、スルホン酸化合物、および、リン酸化合物等の水素原子を1つ取り除いてなるイオンが挙げられる。
【0048】
含窒素高分子化合物は、上記構造のうち1種類のみの構造を有していてもよいし、2種以上の構造を有していてもよい。また、含窒素高分子化合物は、上記構造をその主鎖中に有していてもよいし、側鎖に有していてもよい。なお、主鎖とは、その含窒素高分子化合物中において、最も長い鎖状構造をいい、側鎖とは、上記主鎖に結合する部分をいう。
【0049】
なかでも、含窒素高分子化合物は、アミン構造または第四級アンモニウム塩構造を有することが好ましく、アミン構造を有することがより好ましい。
すなわち、含窒素高分子化合物は、アミノ基(第一級アミノ基、第二級アミノ基、および、第三級アミノ基からなる群から選択される1種以上の基)を含むことがより好ましい。なお、含窒素高分子化合物がアミノ基を有する場合、アミノ基は、酸との塩を形成していてもよい。
【0050】
含窒素高分子化合物としては、例えば、ポリアリルアミン、ジメチルアリルアミン、ポリエーテルアミン、ポリエチレンイミン、ポリメチロールメラミン、アミノエチルポリアクリル酸、および、ジメチルアミノエチルポリアクリル酸、ならびに、上記高分子化合物の繰り返し単位の少なくとも2種以上を有する共重合体が挙げられる。
なかでも、含窒素高分子化合物としては、ポリエチレンイミンが好ましい。ポリエチレンイミンは、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。
【0051】
含窒素高分子化合物の数平均分子量は、1000以上である。
含窒素高分子化合物の数平均分子量は、得られる銀めっき膜の表面の摩擦係数がより低くなる点で、1500以上が好ましく、5000以上がより好ましい。また、含窒素高分子化合物の数平均分子量は、得られる銀めっき膜の耐摩耗性がより優れる点で、100000以下が好ましく、50000以下がより好ましく、20000以下がさらに好ましい。
本明細書において、含窒素高分子化合物の数平均分子量は、分子量が5000以下については、溶液の沸点上昇(エブリオメトリー)によって測定する。また、分子量5000超については、高速液体クロマトグライフィーによって測定する。
なお、数平均分子量についてカタログ値がある場合、カタログ値を採用してもよい。
【0052】
めっき液における含窒素高分子化合物の含有量(めっき液1L当たりに含まれる含窒素高分子化合物の量(g))は、0.5g/L以上である。
めっき液における含窒素高分子化合物の含有量は、得られる銀めっき膜の表面の摩擦係数がより低くなる点で、0.8g/L以上が好ましく、1.0g/L以上がより好ましい。また、めっき液における含窒素高分子化合物の含有量は、得られる銀めっき膜の耐摩耗性がより優れる点で、15.0g/L以下が好ましく、10.0g/L以下がより好ましく、5.0g/L以下がさらに好ましい。
【0053】
めっき液が、上記要件を満たす含窒素高分子化合物を所定量含むことにより、上記本発明の銀めっき膜が形成できる。この機序は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推測している。
含窒素高分子化合物は、めっき液中において、正電荷を帯びやすいため、めっき液に通電して銀めっき膜を形成する際には、銀めっき膜が析出する電極の周辺に存在する場合が多いと考えられる。また、含窒素高分子化合物における窒素原子が形成する構造は、形成された銀めっき膜の表面に存在する銀に対して配位しやすいため、含窒素高分子化合物が銀めっき膜の表面に吸着しやすいと考えられる。
表面に吸着した含窒素高分子化合物は、その数平均分子量と含有量とを調整することにより、適度な吸着性と凝集性とを発現し、また、含窒素高分子化合物が銀めっき膜に吸着したまま銀めっき膜がその上に成長し得る。結果として、含窒素高分子化合物(または、含窒素高分子化合物に由来する成分)が銀めっき膜中に取り込まれて銀めっき膜が成長し、本発明の銀めっき膜が得られると考えられる。
【0054】
(pH調整剤)
めっき液は、上記成分の他に、pH調整剤を含んでいてもよい。なお、上述した銀イオン源、および、含窒素高分子化合物は、pH調整剤に含めない。
pH調整剤としては、酸性添加剤、および、塩基性添加剤が挙げられる。
【0055】
本明細書において、酸性添加剤とは、その添加剤の水溶液のpHが7.0未満となる添加剤をいう。また、酸性添加剤は、水溶液の形態としてpH調整剤として用いてもよい。酸性添加剤としては、例えば、無機酸、および、有機酸が挙げられる。
無機酸としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、および、リン酸、ならびに、それらの塩等が挙げられる。
有機酸としては、例えば、カルボン酸化合物、スルホン酸化合物、および、リン酸化合物、ならびに、それらの塩等が挙げられる。
【0056】
本明細書において、塩基性添加剤とは、その添加剤の水溶液のpHが、7.0超となる添加剤をいう。塩基性添加剤としては、無機塩基、および、有機塩基が挙げられる。
無機塩基としては、例えば、アルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、および、水酸化カリウム)、アンモニア、および、アンモニウム塩等が挙げられる。
有機塩基としては、例えば、アミン化合物、および、第四級アンモニウム化合物、ならびに、それらの塩等が挙げられる。
【0057】
めっき液のpHは、pH調整剤によって、所望のpHに調整し得る。また、pH調整剤の含有量は、めっき液の所望のpHによって適宜調整し得る。
【0058】
(その他添加剤)
めっき液は、上記成分以外の成分(その他添加剤)を含んでいてもよい。
その他添加剤としては、例えば、光沢剤、平滑材、電気伝導塩、pH緩衝剤、および、界面活性剤等が挙げられる。
光沢剤および平滑材は、通常この分野で用いられる光沢剤または平滑材を適用でき、市販のものを用いることができる。
電気伝導塩としては、例えば、硫酸、水酸化カリウム、および、水酸化ナトリウム等が挙げられる。電気伝導塩は、上記pH調整剤としてめっき液に含まれていてもよい。
pH緩衝剤としては、通常この分野で用いられるpH緩衝剤を適用でき、例えば、リン酸塩が好ましく挙げられる。
界面活性剤としては、例えば、陰イオン性界面活性剤、および、非イオン性界面活性剤が挙げられる。陰イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム等が挙げられる。また、非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル縮合物等が挙げられる。
また、その他の添加剤としては、他にも、可溶性金属化合物、硫黄化合物、環状含窒素化合物、および、アミノ酸類等が挙げられる。
上記その他添加剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
また、めっき液は、銀イオン源以外の他の金属イオン源を含んでいてもよいが、銀イオン源以外の他の金属イオン源を含まないことも好ましい。
上記他の金属イオン源とは、3族~15族の金属元素のイオンを放出し得る化合物をいう。上記のような他の金属イオン源を含むめっき液を用いると、銀と、上記金属元素を含む銀合金めっき膜が得られる場合がある。
ここで、銀合金めっき膜を得ようとする場合、上記他の金属イオン源から放出される多くの金属イオンは、銀よりも析出電位が低いため、銀が優先的に析出する傾向にある。このため、銀合金めっき膜を得ようとする際には、銀合金めっき膜を析出させようとする電極の電位をより下げる(卑にする)必要があり、そうすると、銀がより析出しやすくなる。このような状態では、銀の析出速度が上がりすぎるため、銀の表面に吸着しやすい化合物(光沢剤)をめっき液に添加する場合がある。一方で、上記のような条件下では、析出した銀に対して、光沢剤が強く吸着するより先に、さらに銀が析出していくため、銀合金めっき膜中に光沢剤が取り込まれにくい傾向にある。
なお、銀合金めっき膜は、含窒素高分子化合物の数平均分子量および含有量を調整することで得られる。
【0060】
(めっき液のpH)
めっき液のpHは、後述する手順等で銀めっき膜が形成されれば特に制限されない。めっき液のpHは、例えば、0.0~14.0であってもよく、2.0~12.0が好ましい。また、めっき液のpHは、9.0~12.0に調整することも好ましい。
めっき液のpHは、上記pH調整剤で調整できる。
含窒素高分子化合物としてポリエチレンイミンを用いる場合、めっき液にポリエチレンイミンを均一に溶解させる点で、めっき液のpHは、9.0以上が好ましく、11.0以上がより好ましい。
【0061】
なお、含窒素高分子化合物は、pHによって溶解性が変化する場合が多い。上記好ましい範囲にpHを調整すると、以下の理由でも含窒素高分子化合物(または、含窒素高分子化合物に由来する成分)が銀めっき膜中に取り込まれて銀めっき膜が成長しやすいと考えられる。
具体的には、銀めっきを行う電極近傍においては、副次的な電極反応によってH+等の発生が生じ、局所的にpHが低下し得ると考えられる。含窒素高分子化合物は、pHの低下に伴って、電極近傍においてのみ溶解性が低下し、電極近傍において含窒素高分子化合物の凝集体を形成し得る。よって、所定の数平均分子量の含窒素高分子化合物を用い、所定の含有量とすると、含窒素高分子化合物が銀めっき膜中に取り込まれて成長しやすいと考えられる。
【0062】
[銀めっき膜の形成]
本発明の銀めっき膜の製造方法では、上記めっき液に通電して銀めっき膜を製造する。銀めっき膜の製造手順は、上記めっき液に通電すれば特に制限されないが、例えば、導電性基材(例えば、上記金属基材)と、対極とをめっき液を介して電気的に接続し、上記導電性基材と、上記対極との間に電圧を印加してめっき液に通電し、導電性基材上に銀めっき膜を形成する製造手順が挙げられる。
以下、銀めっき膜の製造手順の一例として、上記態様について説明する。
【0063】
(導電性基材)
導電性基材は、特に制限されず、公知の導電性基材を適用できる。なかでも、上述した接点部材の部分で説明した金属基材が好ましい。導電性基材の好ましい態様は金属基材の好ましい態様と同様である。
また、導電性基材は、所望の形状に成形されていてもよい。
【0064】
導電性基材は、銀めっき膜を形成する前に、種々の表面処理を実施してもよい。
表面処理としては、例えば、脱脂処理、酸活性化処理、および、ストライクめっき処理が挙げられる。すなわち、本発明の銀めっき膜の製造方法において、導電性基材に対して下記の処理を行う工程を含んでいてもよい。
なお、下記の表面処理は、本発明の属する分野において一般的に行われる条件を適宜採用でき、表面処理の目的に応じて条件を調整可能である。
【0065】
本発明の銀めっき膜の製造方法は、導電性基材に対して脱脂処理を行う工程を含んでいてもよい。
脱脂処理とは、導電性基材の表面に存在する油脂等を除去する処理をいう。脱脂処理としては、溶剤洗浄処理、アルカリ洗浄処理、および、アルカリ電解脱脂処理等が挙げられる。
溶剤洗浄処理とは、油脂等を溶解し得る溶剤と導電性基材の表面を接触させ、表面の油脂等を除去する処理をいう。
アルカリ洗浄処理とは、アルカリ性の水溶液と導電性基材の表面とを接触させ、表面の油脂等をケン化させて除去する処理をいう。
アルカリ電解脱脂処理とは、導電性基材と、適当な陽極とをアルカリ性の水溶液中を介して電気的に接触させ、導電性基材を陰極として通電して導電性基材の表面に水素ガスの気泡を発生させる処理をいう。アルカリ電解脱脂処理においては、アルカリ性の水溶液による洗浄効果と、発生した水素ガスの気泡による物理的な洗浄効果が得られる。
【0066】
脱脂処理は、上記処理のいずれかを単独で行ってもよいし、上記処理のうちの2つ以上を組み合わせて実施してもよい。
【0067】
本発明の銀めっき膜の製造方法は、導電性基材に対して、酸活性化処理を行う工程を含んでいてもよい。
酸活性化処理とは、酸によって、導電性基材の表面の一部を溶解させ、導電性基材の活性面を露出させる処理を指す。酸活性化処理としては、例えば、酸浸漬処理、酸電解処理が挙げられる。
酸浸漬処理とは、導電性基材の表面と、酸性の水溶液とを接触させる処理をいう。
酸電解処理とは、導電性基材と、適当な対極とを酸性の水溶液を介して電気的に接触させ、導電性基材を陰極または陽極として通電する処理をいう。通電する際、導電性基材の極性を所定時間で切り替えることも好ましい。酸電解処理は、上述した脱脂処理の効果を有する場合もある。
【0068】
本発明の銀めっき膜の製造方法は、導電性基材に対して、ストライクめっき処理を行う工程を含んでいてもよい。
ストライクめっき処理とは、めっき処理を行う前に、めっきを形成する基材に対して、薄いめっき層を形成する処理を指す。
本発明の銀めっき膜の製造方法において、ストライクめっき処理を行う場合、形成されるめっき層の材料は、銀を含むことが好ましい。すなわち、ストライクめっき処理は、銀ストライクめっき処理であることが好ましい。
【0069】
(対極)
対極は、特に制限されず、公知の対極を適用できる。対極は、高電位となるため、少なくともその表面が、耐食性を有する材料で構成されることが好ましい。すなわち、対極は、不溶性電極であることが好ましい。
例えば、不溶性電極(対極)の材料は、チタン、ルテニウム、錫、イリジウム、白金、および、鉛からなる群から選択される元素を含むことが好ましい。また、不溶性電極(対極)は、上記元素を含む合金を含む材料であってもよく、また、上記元素の酸化物を含む材料であってもよい。
なお、可溶性電極として、対極に銀を含む材料を用いてもよい。
【0070】
(銀めっき膜の形成処理)
本発明の銀めっき膜の製造方法の一態様として、銀めっき膜は、上記導電性基材と、上記対極とをめっき液を介して電気的に接続し、上記導電性基材と、上記対極との間に電圧を印加してめっき液に通電して導電性基材上に形成される。
例えば、上記方法としては、めっき槽に収容されためっき液に対し、導電性基材と、対極とを浸漬し、導電性基材(陰極)と、対極(陽極)との間に電圧を印加すればよい。電圧を印加すると、導電性基材の表面において、めっき液に含まれる銀イオン源から放出された銀イオンが還元されて銀めっき層が成長する。この際、上述した機序で、含窒素高分子化合物が層中に取り込まれながら銀めっき膜が成長するため、本発明の銀めっき膜が得られると考えられる。
【0071】
銀めっき膜を形成する際の電流密度は、本発明の銀めっき膜がより得られやすい点で、0.5A/dm2以上が好ましく、0.8A/dm2以上がより好ましく、1.0A/dm2以上がさらに好ましい。また、銀めっき膜を形成する際の電流密度は、得られる銀めっき膜の耐摩耗性がより優れる点で、3.0A/dm2以下が好ましく、2.5A/dm2以下がより好ましく、2.0A/dm2以下がさらに好ましい。
銀めっき膜を形成する際の電流密度は、導電性基材とめっき液との接触面積と、めっき槽全体に流れる電流値から計算できる。
【0072】
なお、電流密度は、銀めっき膜の成長速度に関連するパラメータであり、電流密度を大きくすると、含窒素高分子化合物が層中に取り込まれながら銀めっき膜が成長する際に、粒子状に取り込まれる含窒素高分子化合物の粒径が大きくなりやすい。
【0073】
上記電圧の印加は、形成される銀めっき膜が所定の厚みとなるまで行えばよい。また、上記電流密度は、銀めっき膜の形成中において、一定としてもよいし、可変としてもよい。また、電流密度は、パルス状に変化させてもよい。
【0074】
銀めっき膜の形成処理中、めっき液を流動させながら行ってもよい。例えば、公知の撹拌装置でめっき液を撹拌してもよいし、めっき液を循環させながら銀めっき膜を形成してもよい。また、導電性基材を揺動させて、導電性基材の周囲のめっき液を撹拌してもよい。
また、銀めっき膜の形成処理中、めっき液中の各成分の濃度をモニターし、各成分が所定の濃度に保たれるように、各成分をめっき液に添加してもよい。
【0075】
上記手順で銀めっき膜を形成した後、銀めっき膜が形成された導電性基材の表面を洗浄する処理を行ってもよい。
【実施例0076】
以下に実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。
以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、および、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更できる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきではない。
【0077】
<実施例1>
以下に示す手順で、実施例1の銀めっき膜付き導電性基材を得た。
【0078】
[導電性基材]
銅製の導電性基材(表面積:0.82dm2)を準備した。
導電性基材は、まず、液温40℃、10A/dm2の条件で、30秒間のアルカリ電解脱脂処理に供した。
アルカリ電解脱脂処理後、導電性基材は、40℃の硫酸(10質量%)に30秒間浸漬し、酸活性化処理を行った。
酸活性化処理後、銀ストライクめっき処理を行った。銀ストライクめっき処理は、シアン化銀めっき液(25℃)を用いて、2A/dm2の条件で6秒間行った。上記処理によって形成されたストライクめっき層の厚みは、0.01μmであった。
【0079】
[めっき液]
以下の成分を以下の含有量で含むめっき液1を調製した。めっき液1は、下記成分以外が水である、水溶液であった。
・ジシアノ銀酸カリウム:20g/L
・ポリエチレンイミン(数平均分子量:1800):3g/L
なお、めっき液のpHは、硫酸および水酸化カリウムで11.0となるように調整した。
ポリエチレンイミンは、含窒素高分子化合物に該当する。
【0080】
[銀めっき膜の形成]
めっき槽に上記めっき液1を収容し、めっき液1に対して銀ストライクめっき処理を行った導電性基材、および、対極(Ti-Pt合金)を浸漬し、両極に電圧を印加して、めっき液に通電して導電性基材上に銀めっき膜を形成した。印加する電圧は、電流密度が1.0A/dm2となるように調整した。
なお、上記銀めっき膜の形成は、揺動装置を用いて導電性基材を動かしながら行った。
上記手順で、導電性基材上に銀めっき膜を形成した。形成された銀めっき膜の厚みは、10μmであった。
【0081】
[分析および評価]
(銀めっき膜の組成の分析)
得られた銀めっき膜の組成は、グロー放電発光分析法(GD-OES)によって分析した。具体的には、高周波グロー放電発光分析装置(堀場製作所製「GD-Profiler2」)を用い、上記銀めっき膜の組成を分析した。
具体的には、以下の条件で上記銀めっき膜の組成を分析した。
・高周波電力:35W
・パルス条件:1000Hz
・導入ガス種:アルゴンガス
・ガス圧力:600Pa
・デューティーサイクル:0.25秒
・ガス置換時間:300秒
なお、後段の表に示す各原子の含有量は、深さ方向の分析結果において、0.0~5.0μmの範囲の平均値を用いた。なお、銀めっき膜の厚みが5μm以外の場合には、銀めっき膜の表面から、銀めっき膜の厚みの深さまでの範囲の平均値を用いる。
上記各原子の含有量の計算は、予め、標準試料で測定された検量線を用い、発光量と標準試料の密度から、スパッタリングレートと発光量との関係を算出しておき、発光量から、スパッタリングレートと、各原子の含有量を算出した。
【0082】
(摩擦係数および耐摩耗性の評価)
得られた銀めっき膜の摩擦係数の測定および耐摩耗性の評価は、以下の方法で行った。
測定装置としては、接触電気抵抗同時計測型摩擦摩耗試験機FPR-2300(レスカ社)を用い、ピンプローブを銀めっき膜の表面に押し当てながら摺動させて測定を実施した。測定条件は以下のとおりとした。
摺動距離:10mm
摺動速度:10mm/秒
接点荷重:6N
上記測定装置においては、摺動試験中の動摩擦力を測定できる。動摩擦力は、動摩擦係数と垂直抗力との積で表されるため、接点荷重および動摩擦力の値から、動摩擦係数が求められる。
動摩擦係数は、実用上、0.5以下が好ましい。
後段の表に、測定した動摩擦係数を示す。なお、動摩擦係数は、下記方法で得られる摩耗寿命に達するまでの動摩擦係数の算術平均値を採用する。
【0083】
また、得られた銀めっき膜の耐摩耗性は、摩耗寿命で評価した。
具体的には、摩耗寿命は、銀めっき膜を形成した導電性基材に対し、上記測定装置でピンプローブを往復運動させ、繰り返し摺動を行い、導電性基材が露出するまでの摺動回数で評価した。後段の表には、導電性基材の露出が初めて確認できた摺動回数を掲載する。
上記装置では、摺動時の銀めっき膜表面の状態を、CCDカメラによって測定を行いながら観察することができる。
【0084】
<比較例1>
ポリエチレンイミンをめっき液に添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、導電性基材上に銀めっき膜を形成した。また、形成した銀めっき膜について、実施例1と同様にして分析および評価を行った。
分析結果および評価結果は、後段の表に示す。
【0085】
<実施例2および3、比較例2>
後段の表に示すようにポリエチレンイミンの数平均分子量を変化させた以外は、実施例1と同様にして、導電性基材上に銀めっき膜を形成した。また、形成した銀めっき膜について、実施例1と同様にして分析および評価を行った。
分析結果および評価結果は、後段の表に示す。
【0086】
<実施例4~6、比較例3および4>
上記実施例1~3、ならびに、比較例1および2において、電流密度を2A/dm2に変更した以外は、それぞれ同様にして導電性基材上に銀めっき膜を形成し、その分析および評価を行った。分析結果および評価結果を後段の表に示す。
【0087】
<実施例7~9、比較例5>
ポリエチレンイミンの数平均分子量を70000のものに変更し、ポリエチレンイミンの含有量を後段の表に示すようにそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして、導電性基材上に銀めっき膜を形成し、その分析および評価を行った。分析結果および評価結果を後段の表に示す。
【0088】
<結果>
実施例1~9、および、比較例1~5の銀めっき膜の形成に用いためっき液に含まれるポリエチレンイミン(含窒素高分子化合物)の数平均分子量および含窒素高分子化合物の含有量、分析結果、ならびに、評価結果を表1に示す。
なお、表1中、耐摩耗性の項目において、「6000以上」の記載は、6000回の摺動を行っても導電性基材が露出しなかったことを表す。
また、上記各実施例の銀めっき膜の表面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、炭素原子および窒素原子の少なくとも一方が存在する領域が観察された。上記領域の平均円相当径を、上述した方法で解析して得たところ、いずれの実施例においても、10~30nmであった。
【0089】
【0090】
表1に示す結果から、炭素原子の含有量が、銀めっき膜の全質量に対して0.30質量%以上であり、窒素原子の含有量が、銀めっき膜の全質量に対して1.00質量%以上である各実施例は、摩擦係数が低くなることが確認された。
一方、炭素原子の含有量および窒素原子の含有量が、上記範囲を充足しない各比較例、摩擦係数が低くならないことが確認された。また、各比較例に対して、各実施例は、それぞれ、耐摩耗性にも優れることが確認された。
また、めっき液が、炭素原子および窒素原子を含む含窒素高分子化合物を含み、高分子電解質の数平均分子量が、1000以上であり、高分子電解質の含有量が、0.5g/L以上である場合、摩擦係数が低い銀めっき膜が得られることが確認された。また、このめっき液を用いた銀めっき膜の製造方法は、特殊な操作等が必要でなく、生産性に優れる。
実施例1と、他の実施例との比較から、炭素原子の含有量が、銀めっき膜の全質量に対して0.35質量%以上である場合、耐摩耗性により優れることが確認された。
実施例1と、他の実施例との比較から、窒素原子の含有量が、銀めっき膜の全質量に対して1.20質量%以上である場合、耐摩耗性により優れることが確認された。
【0091】
また、上述した方法で、比較例1、実施例2および実施例5の銀めっき膜のビッカース硬さ、表面粗さ(上記算術平均高さSa)、および、接触抵抗を測定した。
比較例1の銀めっき膜のビッカース硬さは、76.4HVであったのに対し、実施例2の銀めっき膜のビッカース硬さは、74.6HVであり、実施例5の銀めっき膜のビッカース硬さは、76.2HVであった。よって、本発明の銀めっき膜のビッカース硬さは、従来の銀めっき膜と同等程度であった。
比較例1の銀めっき膜の表面粗さは、0.498μmであったのに対し、実施例2の銀めっき膜の表面粗さは、0.091μmであり、実施例5の銀めっき膜の表面粗さは、0.118μmであった。よって、本発明の銀めっき膜の表面粗さは、従来の銀めっき膜よりも平滑性が高かった。
比較例1の銀めっき膜の表面の接触抵抗は、0.18mΩであったのに対し、実施例2の銀めっき膜の表面の接触抵抗は、0.28mΩであり、実施例5の銀めっき膜の表面の接触抵抗は、0.26mΩであった。上記結果から、本発明の銀めっき膜の表面の接触抵抗は、実用において問題がない水準であることが確認された。