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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007255
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】蓄熱構造体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/18 20060101AFI20250109BHJP
   F28D 20/00 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
C09K5/18 ZAB
F28D20/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023108531
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(72)【発明者】
【氏名】村上 康之
(72)【発明者】
【氏名】山下 誠司
(72)【発明者】
【氏名】北 英紀
(57)【要約】
【課題】蓄熱性を十分に発揮する一方で耐久性にも優れる蓄熱構造体の提供。
【解決手段】化学蓄熱材と繊維状炭素ナノ構造体とを含み、前記繊維状炭素ナノ構造体のBET比表面積が600m/g以上であり、前記繊維状炭素ナノ構造体の質量に対する前記化学蓄熱材の質量の比が1以上20以下である、蓄熱構造体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学蓄熱材と繊維状炭素ナノ構造体とを含み、
前記繊維状炭素ナノ構造体のBET比表面積が600m/g以上であり、
前記繊維状炭素ナノ構造体の質量に対する前記化学蓄熱材の質量の比が1以上20以下である、蓄熱構造体。
【請求項2】
前記化学蓄熱材が、水酸化マグネシウム蓄熱材、水酸化カルシウム蓄熱材、炭酸カルシウム蓄熱材、水酸化バリウム蓄熱材、及びLiSiO蓄熱材からなる群から選択される少なくとも一つを含む、請求項1に記載の蓄熱構造体。
【請求項3】
前記繊維状炭素ナノ構造体の最大バンドル径が0.2μm以上0.9μm以下である、請求項1に記載の蓄熱構造体。
【請求項4】
比重が0.25g/cm以上0.95g/cm以下である、請求項1に記載の蓄熱構造体。
【請求項5】
BET比表面積が600m/g以上である繊維状炭素ナノ構造体を分散媒に分散させ、前記繊維状炭素ナノ構造体の分散粒子径が15μm以上50μm以下である分散液を調製する分散工程と、
前記分散液と、化学蓄熱材とを、前記分散液中の前記繊維状炭素ナノ構造体の質量に対する前記化学蓄熱材の質量の比が1以上20以下となるように混合して、混合液を調製する混合工程と、
前記混合液から前記分散媒を除去して、蓄熱構造体を得る形成工程と、
を含む、蓄熱構造体の製造方法。
【請求項6】
前記化学蓄熱材が、水酸化マグネシウム蓄熱材、水酸化カルシウム蓄熱材、炭酸カルシウム蓄熱材、水酸化バリウム蓄熱材、及びLiSiO蓄熱材からなる群から選択される少なくとも一つを含む、請求項5に記載の蓄熱構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱構造体及び蓄熱構造体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、効率の高い蓄熱技術として、化学反応により蓄熱を行う化学蓄熱材を用いた蓄熱構造体に関する技術が検討されている。
【0003】
例えば特許文献1では、カルシウム及び/又はマグネシウムの水酸化物及び/又は酸化物と、リチウムの水酸化物、及び、リチウムの塩化物を含む化学蓄熱材が、高い反応率を有しつつ、低温での蓄熱が可能との報告がされている。そして特許文献1よれば、当該化学蓄熱材はプレス成形等を行い、成形体として用いることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2019/159791号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1の手法で蓄熱材を成形して得られる蓄熱構造体は、耐久性に乏しく、その成形時や、蓄熱・放熱に伴う化学蓄熱材の体積変化により破損してしまうという問題があった。
【0006】
そこで本発明は、蓄熱性を十分に発揮する一方で耐久性にも優れる蓄熱構造体、及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、本発明者は、化学蓄熱材と、所定の性状を有する繊維状炭素ナノ構造体とを含み、それらの質量比が所定の範囲内である蓄熱構造体が、優れた蓄熱性及び耐久性を備えることを新たに見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明は、以下の〔1〕~〔4〕の蓄熱構造体、〔5〕~〔6〕の蓄熱構造体の製造方法を提供する。
【0009】
〔1〕化学蓄熱材と繊維状炭素ナノ構造体とを含み、前記繊維状炭素ナノ構造体のBET比表面積が600m/g以上であり、前記繊維状炭素ナノ構造体の質量に対する前記化学蓄熱材の質量の比が1以上20以下である、蓄熱構造体。
化学蓄熱材と、BET比表面積が上記値以上である繊維状炭素ナノ構造体とを上記の質量比で含む蓄熱構造体は、優れた蓄熱性と耐久性を備える。
【0010】
本明細書において、「繊維状炭素ナノ構造体」とは、外径(繊維径)が1μm未満の繊維状の炭素構造体を指す。
本明細書において、「BET比表面積」とは、BET(Brunauer-Emmett-Teller)法を用いて測定した窒素吸着比表面積を指す。
本明細書において、「化学蓄熱材の質量」とは、蓄熱状態と放熱状態をとりうる化学蓄熱材の、蓄熱状態での質量を指す。
【0011】
〔2〕前記化学蓄熱材が、水酸化マグネシウム蓄熱材、水酸化カルシウム蓄熱材、炭酸カルシウム蓄熱材、水酸化バリウム蓄熱材、及びLiSiO蓄熱材からなる群から選択される少なくとも一つを含む、上記〔1〕に記載の蓄熱構造体。
化学蓄熱材が上述した何れかであれば、蓄熱構造体の蓄熱性を更に向上させることができる。
【0012】
本明細書において、「水酸化マグネシウム蓄熱材」とは、蓄熱状態では酸化マグネシウム(MgO)、放熱状態では水酸化マグネシウム(Mg(OH))になる化学蓄熱材を指す。
本明細書において、「水酸化カルシウム蓄熱材」とは、蓄熱状態では酸化カルシウム(CaO)、放熱状態では水酸化カルシウム(Ca(OH))になる化学蓄熱材を指す。
本明細書において、「炭酸カルシウム蓄熱材」とは、蓄熱状態では酸化カルシウム(CaO)、放熱状態では炭酸カルシウム(CaCO)になる化学蓄熱材を指す。
本明細書において、「水酸化バリウム蓄熱材」とは、蓄熱状態では酸化バリウム(BaO)、放熱状態では水酸化バリウム(Ba(OH))になる化学蓄熱材を指す。
本明細書において、「LiSiO蓄熱材」とは、蓄熱状態ではLiSiO、放熱状態ではLiSiOとLiCOになる化学蓄熱材を指す。
【0013】
〔3〕前記繊維状炭素ナノ構造体の最大バンドル径が0.2μm以上0.9μm以下である、上記〔1〕又は〔2〕に記載の蓄熱構造体。
繊維状炭素ナノ構造体の最大バンドル径が上述した範囲内であれば、蓄熱構造体の耐久性を一層高めることができる。
【0014】
本明細書において、繊維状炭素ナノ構造体の「最大バンドル径」は、実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0015】
〔4〕比重が0.25g/cm以上0.95g/cm以下である、上記〔1〕~〔3〕の何れかに記載の蓄熱構造体。
比重が上述した範囲内であれば、蓄熱構造体の蓄熱性を更に向上させつつ、耐久性を一層高めることができる。また化学蓄熱材の反応性を高め、蓄熱構造体の初期放熱特性を向上させることができる。
【0016】
本明細書において、蓄熱構造体の「比重」は、蓄熱構造体の質量(g)を体積(cm)で除することで求めることができる。
【0017】
〔5〕BET比表面積が600m/g以上である繊維状炭素ナノ構造体を分散媒に分散させ、前記繊維状炭素ナノ構造体の分散粒子径が15μm以上50μm以下である分散液を調製する分散工程と、前記分散液と、化学蓄熱材とを、前記分散液中の前記繊維状炭素ナノ構造体の質量に対する前記化学蓄熱材の質量の比が1以上20以下となるように混合して、混合液を調製する混合工程と、前記混合液から前記分散媒を除去して、蓄熱構造体を得る形成工程と、を含む、蓄熱構造体の製造方法。
上記の手順を採用すれば、蓄熱性と耐久性に優れる蓄熱構造体を作製することができる。
【0018】
本明細書において、分散液中における繊維状炭素ナノ構造体の「分散粒子径」は、実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0019】
〔6〕前記化学蓄熱材が、水酸化マグネシウム蓄熱材、水酸化カルシウム蓄熱材、炭酸カルシウム蓄熱材、水酸化バリウム蓄熱材、及びLiSiO蓄熱材からなる群から選択される少なくとも一つを含む、上記〔5〕に記載の蓄熱構造体の製造方法。
化学蓄熱材が上述した何れかであれば、蓄熱構造体の蓄熱性を更に向上させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、蓄熱性を十分に発揮する一方で耐久性にも優れる蓄熱構造体、及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0022】
(蓄熱構造体)
本発明の蓄熱構造体は、化学蓄熱材と繊維状炭素ナノ構造体を含む成形体である。本発明の蓄熱構造体は、その用途等に応じて任意の形状をとりうるが、例えばシート状、円柱状、又は直方体状とすることができる。また、本発明の蓄熱構造体は、化学蓄熱材と繊維状炭素ナノ構造体以外の成分(以下、「その他の成分」と称する場合がある。)を含んでいてもよい。
そして、本発明の蓄熱構造体は、繊維状炭素ナノ構造体のBET比表面積が600m/g以上であり、且つ繊維状炭素ナノ構造体の質量に対する化学蓄熱材の質量の比(以下、「化学蓄熱材/繊維状炭素ナノ構造体の質量比」と称する場合がある。)が1以上20以下であるため、蓄熱性と耐久性の双方に優れる。
【0023】
ここで、本発明の蓄熱構造体が蓄熱性と耐久性に優れる理由は、以下の通りであると推察される。
まず本発明の蓄熱構造体に含まれる繊維状炭素ナノ構造体はBET比表面積が600m/g以上であるため、当該繊維状炭素ナノ構造体による強固なマトリックスが形成される。このマトリックスは繊維状炭素ナノ構造体が絡み合った構造を形成しており、例えば化学蓄熱材の体積変化等が生じた場合でも体積変化を十分に吸収できる柔軟性を持つ。加えて、本発明の蓄熱構造体は、化学蓄熱材/繊維状炭素ナノ構造体の質量比が20以下であるため上記マトリックス形成のための繊維状炭素ナノ構造体の量が十分であり、優れた耐久性を発揮しうる。その上同質量比が1以上であるため化学蓄熱材の量も確保され、当該蓄熱構造体は蓄熱性を良好に発揮することができると考えられる。
【0024】
<化学蓄熱材>
化学蓄熱材としては、水や二酸化炭素などの反応媒体と接触する際に起こる化学反応熱を利用して蓄熱・放熱を実現しうる無機化合物を用いる。
【0025】
化学蓄熱材としては、蓄熱構造体の蓄熱性を更に向上させる観点から、水酸化マグネシウム蓄熱材、水酸化カルシウム蓄熱材、炭酸カルシウム蓄熱材、水酸化バリウム蓄熱材、及びLiSiO蓄熱材が好ましく挙げられ、水酸化マグネシウム蓄熱材、水酸化カルシウム蓄熱材、及び水酸化バリウム蓄熱材がより好ましく、水酸化マグネシウム蓄熱材が特に好ましい。なお化学蓄熱材は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
また、蓄熱構造体中に含まれる化学蓄熱材の質量は、蓄熱構造体の全質量を100質量%として、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが更に好ましく、90質量%以上であることが特に好ましく、95質量%以下であることが好ましく、94質量%以下であることがより好ましく、93質量%以下であることが更に好ましい。蓄熱構造体中に占める化学蓄熱材の割合が60質量%以上であれば、蓄熱構造体の蓄熱性を更に向上させ、また初期放熱特性を高めることができる。一方、蓄熱構造体中に占める化学蓄熱材の割合が95質量%以下であれば、蓄熱構造体の耐久性を一層高めることができる。
なお、本明細書において、「蓄熱構造体の全質量」は、化学蓄熱材の質量を蓄熱状態での質量として算出される全質量を指す。
【0027】
<繊維状炭素ナノ構造体>
繊維状炭素ナノ構造体としては、例えば、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と称する場合がある。)等の円筒形状の炭素ナノ構造体や、炭素の六員環ネットワークが扁平筒状に形成されてなる炭素ナノ構造体等の非円筒形状の炭素ナノ構造体を用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
そして、上述した中でも、繊維状炭素ナノ構造体としては、蓄熱構造体の蓄熱性を更に向上させつつ、耐久性を一層高める観点から、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体を用いることが好ましい。
【0029】
ここで、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、CNTのみからなるものであってもよいし、CNTと、CNT以外の繊維状炭素ナノ構造体との混合物であってもよい。
そして、繊維状炭素ナノ構造体中のCNTとしては、特に限定されることなく、単層カーボンナノチューブ及び/又は多層カーボンナノチューブを用いることができるが、CNTは、蓄熱構造体の蓄熱性を更に向上させつつ、耐久性を一層高める観点から、単層から5層までのカーボンナノチューブであることが好ましく、単層カーボンナノチューブであることがより好ましい。
【0030】
なお、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、特に限定されることなく、アーク放電法、レーザーアブレーション法、化学的気相成長法(CVD法)などの既知のCNTの合成方法を用いて製造することができる。具体的には、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、例えば、カーボンナノチューブ製造用の触媒層を表面に有する基材上に原料化合物およびキャリアガスを供給し、化学的気相成長法(CVD法)によりCNTを合成する際に、系内に微量の酸化剤(触媒賦活物質)を存在させることで、触媒層の触媒活性を飛躍的に向上させるという方法(スーパーグロース法;国際公開第2006/011655号参照)に準じて、効率的に製造することができる。なお、以下では、スーパーグロース法により得られるカーボンナノチューブを「SGCNT」と称することがある。
そして、スーパーグロース法により製造したCNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、SGCNTのみから構成されていてもよいし、SGCNTに加え、例えば、非円筒形状の炭素ナノ構造体等の他の炭素ナノ構造体が含まれていてもよい。
【0031】
ここで、繊維状炭素ナノ構造体は、BET比表面積が、上述した通り600m/g以上であることが必要であり、700m/g以上であることが好ましく、800m/g以上であることがより好ましく、900m/g以上であることが更に好ましく、1000m/g以上であることが特に好ましく、2500m/g以下であることが好ましく、1200m/g以下であることがより好ましい。繊維状炭素ナノ構造体のBET比表面積が600m/g未満であると、優れた耐久性を有する蓄熱構造体を、成形体として得ることができない。また、繊維状炭素ナノ構造体のBET比表面積が2500m/g以下であれば、繊維状炭素ナノ構造体の凝集を抑制して、均質で耐久性に一層優れる蓄熱構造体を作製することができる。
【0032】
また、繊維状炭素ナノ構造体は、平均直径が0.5nm以上であることが好ましく、1nm以上であることがより好ましく、15nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。繊維状炭素ナノ構造体の平均直径が上述した範囲内であれば、蓄熱構造体の蓄熱性を更に向上させつつ、耐久性を一層高めることができる。
なお本明細書において、繊維状炭素ナノ構造体の平均直径は、透過型電子顕微鏡を用いて無作為に選択した繊維状炭素ナノ構造体100本の直径(外径)を測定して求めることができる。また、繊維状炭素ナノ構造体の平均直径は、繊維状炭素ナノ構造体の製造方法や製造条件を変更することにより調整してもよいし、異なる製法で得られた繊維状炭素ナノ構造体を複数種類組み合わせることにより調整してもよい。
【0033】
また、本発明の蓄熱構造体において、少なくとも一部の繊維状炭素ナノ構造体が複数本集合してバンドルが形成されることがある。そして、繊維状炭素ナノ構造体の最大バンドル径は、0.2μm以上であることが好ましく、0.3μm以上であることがより好ましく、0.4μm以上であることが更に好ましく、0.9μm以下であることが好ましく、0.8μm以下であることがより好ましく、0.7μm以下であることが更に好ましい。繊維状炭素ナノ構造体の最大バンドル径が上述した範囲内であれば、蓄熱構造体の蓄熱性を更に向上させつつ、耐久性を一層高めることができる。
なお、繊維状炭素ナノ構造体の最大バンドル径は、繊維状炭素ナノ構造体の平均直径や蓄熱構造体の製造条件を変更することにより調整することができる。
【0034】
また、蓄熱構造体中に含まれる繊維状炭素ナノ構造体の質量は、蓄熱構造体の全質量を100質量%として、5質量%以上であることが好ましく、6質量%以上であることがより好ましく、7質量%以上であることが更に好ましく、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることが更に好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。蓄熱構造体中に占める繊維状炭素ナノ構造体の割合が5質量%以上であれば、蓄熱構造体の耐久性を一層高めることができ、40質量%以下であれば、蓄熱構造体の蓄熱性を更に向上させることができる。
【0035】
<その他の成分>
本発明の蓄熱構造体に任意に含有され得るその他の成分としては、特に限定されることなく、蓄熱構造体の調製時に使用した分散剤などの既知の添加剤が挙げられる。そして、蓄熱構造体は、分散剤などの添加剤を実質的に含有せず、化学蓄熱材及び繊維状炭素ナノ構造体のみで構成されていることが好ましい。ここで、「添加剤を実質的に含有しない」とは、製造上の問題により蓄熱構造体中に不可避的に残留してしまう添加剤以外の添加剤を含有しないことを指す。
【0036】
<化学蓄熱材/繊維状炭素ナノ構造体の質量比>
本発明の蓄熱構造体は、化学蓄熱材/繊維状炭素ナノ構造体の質量比が、上述した通り1以上20以下であることが必要であり、3以上であることが好ましく、6以上であることがより好ましく、9以上であることが更に好ましく、18以下であることが好ましく、16以下であることがより好ましく、14以下であることが更に好ましい。化学蓄熱材/繊維状炭素ナノ構造体の質量比が1未満であると、蓄熱構造体の蓄熱性が低下し、20超であると蓄熱構造体の耐久性が損なわれる。
【0037】
<比重>
本発明の蓄熱構造体は、比重が、0.25g/cm以上であることが好ましく、0.3g/cm以上であることがより好ましく、0.4g/cm以上であることが更に好ましく、0.95g/cm以下であることが好ましく、0.85g/cm以下であることがより好ましく、0.75g/cm以下であることが更に好ましい。比重が0.25g/cm以上であれば、蓄熱構造体の耐久性を一層高めることができる。一方、比重が0.95g/cm以下であれば繊維状炭素ナノ構造体のマトリックスにおける間隙が十分に確保され、化学蓄熱材の反応性が高まる。そのためと推察されるが、蓄熱構造体の蓄熱性が更に向上し、また初期放熱特性が高まる。
【0038】
(蓄熱構造体の製造方法)
本発明の蓄熱構造体の製造方法は、上述した蓄熱構造体の製造に用いることができる。
本発明の蓄熱構造体の製造方法は、BET比表面積が600m/g以上である繊維状炭素ナノ構造体を分散媒に分散させ、繊維状炭素ナノ構造体の分散粒子径が15μm以上50μm以下である分散液を調製する分散工程と、分散工程で得られた分散液と、化学蓄熱材とを、分散液中の繊維状炭素ナノ構造体の質量に対する化学蓄熱材の質量の比が1以上20以下となるように混合して、混合液を調製する混合工程と、混合工程で得られた混合液から分散媒を除去して、蓄熱構造体を得る形成工程とを含む。なお本発明の蓄熱構造体の製造方法は、蓄熱構造体を製造することができれば特に限定されず、分散工程、混合工程及び形成工程以外の工程を備えていてもよい。
そして、本発明の蓄熱構造体の製造方法を用いて得られる蓄熱構造体は、蓄熱性と耐久性に優れる。
【0039】
<分散工程>
分散工程では、繊維状炭素ナノ構造体が分散媒中に分散してなる分散液を調製する。なお分散液は、「蓄熱構造体」の項で上述した分散剤などのその他の成分を含有してもよい。
【0040】
<<繊維状炭素ナノ構造体>>
繊維状炭素ナノ構造体としては、「蓄熱構造体」の項で上述したBET比表面積が600m/g以上である繊維状炭素ナノ構造体を使用する。そして分散液の調製に用いる繊維状炭素ナノ構造体のBET比表面積及び平均直径の好適範囲は、蓄熱構造体を構成する繊維状炭素ナノ構造体のそれらと同じである。
【0041】
ここで、分散液の調製に用いる繊維状炭素ナノ構造体は、平均長さが、1μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましく、5000μm以下であることが好ましく、3000μm以下であることがより好ましく、1000μm以下であることが更に好ましい。繊維状炭素ナノ構造体の平均長さが上述した範囲内であれば、後述する繊維状炭素ナノ構造体の分散粒子径を容易に所期の範囲に制御しつつ、得られる蓄熱構造体の蓄熱性及び耐久性を更に向上させることができる。
なお本明細書において、繊維状炭素ナノ構造体の平均長さは、透過型電子顕微鏡を用いて無作為に選択した繊維状炭素ナノ構造体100本の長さを測定して求めることができる。
【0042】
<<分散媒>>
分散媒としては、特に限定されることなく、例えば、水、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、アミルアルコールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドンなどのアミド系極性有機溶媒、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン、パラジクロロベンゼンなどの芳香族炭化水素類などが挙げられる。これらは1種類のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。そしてこれらの中でも、分散媒としては、水、メチルエチルケトンが好ましい。
【0043】
<<分散粒子径>>
分散工程において調製する分散液は、繊維状炭素ナノ構造体の分散粒子径が、上述した通り15μm以上50μm以下であることが必要であり、17μm以上であることが好ましく、19μm以上であることがより好ましく、45μm以下であることが好ましく、40μm以下であることがより好ましく、35μm以下であることが更に好ましく、30μm以下であることが特に好ましい。繊維状炭素ナノ構造体の分散粒子径が15μm未満であると、蓄熱構造体の耐久性が確保できず、場合によっては蓄熱構造体を成形することが困難となる。一方、繊維状炭素ナノ構造体の分散粒子径が50μm超であると、後述する混合液中において繊維状炭素ナノ構造体による化学蓄熱材の仮固定が困難となるためと推察されるが、混合液のろ過に際し化学蓄熱材が早々と沈降し多孔質基材が目詰まりし、分散媒が除去し難くなる。
【0044】
<<分散処理>>
繊維状炭素ナノ構造体の分散粒子径が上述した範囲内である分散液は、特に限定されないが、キャビテーション効果又は解砕効果が得られる分散処理により調製することが好ましい。なお、キャビテーション効果が得られる分散処理は、液体に高エネルギーを付与した際、液中に生じた真空の気泡が破裂することにより生じる衝撃波を利用した分散方法である。そして、キャビテーション効果が得られる分散処理の具体例としては、超音波ホモジナイザーによる分散処理、ジェットミルによる分散処理及び高剪断撹拌装置による分散処理が挙げられる。また、解砕効果が得られる分散処理は、繊維状炭素ナノ構造体と分散媒を含む組成物(粗分散液)にせん断力を与えて繊維状炭素ナノ構造体の凝集体を解砕・分散させ、さらに粗分散液に背圧を負荷することで、気泡の発生を抑制しつつ、繊維状炭素ナノ構造体を分散媒中に均一に分散させる分散方法である。そして、解砕効果が得られる分散処理は、市販の分散システム(例えば、製品名「BERYU SYSTEM PRO」(株式会社美粒製)など)を用いて行うことができる。
【0045】
中でも、繊維状炭素ナノ構造体分散液を調製する際の分散処理としては、細管流路を備える分散処理装置を使用し、粗分散液を細管流路に圧送して粗分散液にせん断力を与えることで繊維状炭素ナノ構造体を分散させる分散処理が好ましい。粗分散液を細管流路に圧送して粗分散液にせん断力を与えることで繊維状炭素ナノ構造体を分散させれば、繊維状炭素ナノ構造体の損傷の発生を抑制しつつ、繊維状炭素ナノ構造体を良好に分散させて、繊維状炭素ナノ構造体の分散粒子径を容易に所期の範囲に制御することができる。
【0046】
ここで、細管流路を備える分散処理装置としては、例えば、湿式ジェットミル(例えば、製品名「JN5」、「JN10」、「JN20」、「JN100」、「JN1000」(いずれも株式会社常光製)など)および上述した分散システム(株式会社美粒製、製品名「BERYU SYSTEM PRO」)などが挙げられる。
【0047】
そして、上記分散処理装置が備える細管流路は、単一の細管流路であってもよいし、下流側の任意の位置に合流部を有する複数の細管流路であってもよい。但し、粗分散液同士をより効果的に衝突させてせん断力を付与し、繊維状炭素ナノ構造体の分散粒子径を容易に所期の範囲に制御する観点からは、分散処理装置が備える細管流路は、下流側の任意の位置に合流部を有する複数の細管流路であることが好ましい。
【0048】
更に、分散処理装置が備える細管流路の直径は、特に限定されないが、粗分散液が目詰まりすることなく粗分散液に高速流せん断を効果的に付与し、繊維状炭素ナノ構造体の分散粒子径を容易に所期の範囲に制御する観点から、50μm以上1000μm以下であることが好ましく、50μm以上600μm以下であることがより好ましい。
【0049】
また、細管流路に粗分散液を圧送する手段としては、特に限定されることなく、高圧ポンプやピストン構造を有するシリンダを用いることができる。
【0050】
そして、細管流路に粗分散液を圧送する際の圧力は、特に限定されることなく、60MPa以上200MPa以下とすることが好ましい。粗分散液を圧送する際の圧力を上記範囲内とすれば、繊維状炭素ナノ構造体の損傷の発生を十分に抑制しつつ、繊維状炭素ナノ構造体を良好に分散させて、繊維状炭素ナノ構造体の分散粒子径を容易に所期の範囲に制御することができる。
【0051】
<混合工程>
混合工程では、上記分散工程で得られた分散液と、化学蓄熱材とを混合して、繊維状炭素ナノ構造体と、化学蓄熱材と、分散媒とを含む混合液を調製する。なお混合液は、「蓄熱構造体」の項で上述した分散剤などのその他の成分を含有してもよい。
混合工程で得られる混合液中では、繊維状炭素ナノ構造体により化学蓄熱材が仮固定され、この仮固定により得られる蓄熱構造体が全体で高い空隙率を有することとなり、当該蓄熱構造体の蓄熱性及び初期放熱特性が確保されると推察される。
【0052】
<<化学蓄熱材>>
化学蓄熱材としては、「蓄熱構造体」の項で上述した化学蓄熱材を使用する。なお、混合液の調製には、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、LiSiO、などの蓄熱状態の化学蓄熱材を用いることが好ましい。
【0053】
<<混合>>
混合工程では、分散液と化学蓄熱材とを、化学蓄熱材/繊維状炭素ナノ構造体の質量比が、1以上20以下となるように混合することが必要であり、当該質量比の値は3以上であることが好ましく、6以上であることがより好ましく、9以上であることが更に好ましく、18以下であることが好ましく、16以下であることがより好ましく、14以下であることが更に好ましい。化学蓄熱材/繊維状炭素ナノ構造体の質量比が1未満であると、蓄熱構造体の蓄熱性が低下し、20超であると蓄熱構造体の耐久性が損なわれる。
なお分散液と化学蓄熱材を混合する方法は特に限定されず、ホモジナイザーなどの既知の混合機を用いることができる。
【0054】
<形成工程>
形成工程では、上記混合工程で得られた混合液から、分散媒を除去して蓄熱構造体を形成する。具体的には、形成工程では、例えば多孔質基材を用いて混合液をろ過し、得られたろ過物を乾燥させることにより、蓄熱構造体を形成する。
なお、分散液をろ過して得られたろ過物は、乾燥させる前に、水やアルコールなどを用いて洗浄してもよい。
【0055】
ここで、多孔質基材としては、特に限定されることなく、ろ紙や、セルロース、ニトロセルロース、アルミナ等よりなる多孔質シートを挙げることができる。
また、ろ過方法としては、自然ろ過、減圧ろ過、加圧ろ過、遠心ろ過などの既知のろ過方法を用いることができる。
【0056】
更に、ろ過物を乾燥する方法としては、公知の乾燥方法を採用できる。具体的には、乾燥方法としては、熱風乾燥法、真空乾燥法、熱ロール乾燥法、赤外線照射法等が挙げられる。乾燥温度は、特に限定されないが、通常、室温~200℃であり、乾燥時間は、特に限定されないが、通常、0.1~150分である。
【実施例0057】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
各実施例及び各比較例において、各種の属性及び評価は、それぞれ以下の方法に従って測定又は評価した。
【0058】
<繊維状炭素ナノ構造体の分散粒子径>
レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(堀場製作所製、LA-960)を用いて、分散液中の繊維状炭素ナノ構造体の平均粒子径(メジアン径)を測定し、この値を繊維状炭素ナノ構造体の分散粒子径とした。
<繊維状炭素ナノ構造体の最大バンドル径>
走査型電子顕微鏡(SEM、日立ハイテクノロジーズ製、製品名「SU3500」)を用いて、蓄熱構造体の表面を倍率10000倍で観察した。観察された繊維状炭素ナノ構造体のバンドルについてバンドル径(繊維束の径)を測定し、最も大きい値を繊維状炭素ナノ構造体の最大バンドル径とした。
<蓄熱性>
蓄熱構造体を25℃のリン酸水溶液(pH=6.0)300ml中に60分間浸漬した。この60分の間リン酸水溶液の温度を継続して測定し、最高温度を特定し評価対象とした。この最高温度が高いほど、蓄熱構造体は蓄熱密度が高く蓄熱性に優れるといえる。
<初期放熱特性>
上記蓄熱性の評価に際し、蓄熱構造体のリン酸水溶液中への浸漬を開始してから10分後のリン酸水溶液の温度を記録し、評価対象とした。この温度が高いほど、蓄熱構造体にリン酸水溶液が容易に含侵して放熱が迅速に行われており、初期放熱特性に優れるといえる。
<耐久性>
蓄熱構造体の質量M0(g)を測定した。次いで蓄熱構造体を25℃のリン酸水溶液(pH=6.0)300ml中に入れ、60分間浸漬し、浸漬後の蓄熱構造体を窒素雰囲気下400℃で60分間焼成する操作を合計5回繰り返し、その後蓄熱構造体の質量M1(g)を測定した。M0とM1から、蓄熱構造体の質量減少率=(M0-M1)/M0×100(%)を算出し、下記の基準で評価した。質量減少率が小さいほど、蓄熱構造体が耐久性に優れることを示す。
A:質量減少率が0質量%以上1質量%未満
B:質量減少率が1質量%以上2質量%未満
C:質量減少率が2質量%以上4質量%未満
D:質量減少率が4質量%以上、又は耐久性が低く評価対象の蓄熱構造体(成形体)が得られなかった。
【0059】
(実施例1)
<分散工程>
分散媒としてのメチルエチルケトン中に、濃度が0.2重量%になるように繊維状炭素ナノ構造体としての単層CNT(ゼオンナノテクノロジー社製、製品名「ZEONANO(登録商標) SG101」、SGCNT、平均直径:3.5nm、平均長さ:400μm、BET比表面積:1050m/g)を添加し、マグネチックスターラーで1時間撹拌し、粗分散液を得た。
次いで、直径170μmの細管流路を有する高圧分散処理部(ジェットミル)に連結した多段圧力制御装置(多段降圧器)を有する多段降圧型高圧ホモジナイザー(株式会社美粒製、「BERYU SYSTEM PRO」)に上記粗分散液を充填し、温度25℃にて、断続的かつ瞬間的に100MPaの圧力を粗分散液に負荷し、細管流路に送り込むことを1サイクルとし、これを3サイクル繰り返した。
さらに、先の細管流路を直径90μmの細管流路に交換し、同様の分散処理を1サイクルとした。これを3サイクル繰り返し、分散液を得た。この分散液について、繊維状炭素ナノ構造体の分散粒子径を測定した。結果を表1に示す。
<混合工程>
上記分散工程で得られた分散液200gに、化学蓄熱材としての酸化マグネシウム(協和化学工業株式会社製、「キョーワマグ(登録商標)TM150」)を4g入れてホモジナイザーにより2分間撹拌し、混合液を得た。化学蓄熱材/繊維状炭素ナノ構造体の質量比は10であった。
<形成工程>
上記混合工程で得られた混合液全量(204g)を、ろ過装置としてのキリヤマ漏斗(桐山製作所製)、及び多孔質基材としてのキリヤマろ紙(No.5A、直径3cm)を用いて減圧ろ過し、ろ過物を得た。得られたろ過物を、温度80℃の雰囲気下で60分間乾燥させて円柱状の蓄熱構造体を得た。この蓄熱構造体について、繊維状炭素ナノ構造体の最大バンドル径、蓄熱性、初期放熱特性、及び耐久性を測定又は評価した。結果を表1に示す。
【0060】
(実施例2)
混合工程において、酸化マグネシウムの量を4gから8gに変更して化学蓄熱材/繊維状炭素ナノ構造体の質量比を10から20に変更した以外は、実施例1と同様にして、分散液及び混合液、並びに蓄熱構造体を準備し、各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0061】
(実施例3)
<分散工程>
分散媒としての水中に、濃度が0.2重量%になるように繊維状炭素ナノ構造体としての単層CNT(ゼオンナノテクノロジー社製、製品名「ZEONANO SG101」、SGCNT、平均直径:3.5nm、平均長さ:400μm、BET比表面積:1050m/g)を添加し、マグネチックスターラーで1時間撹拌し、粗分散液を得た。
次いで、直径90μmの細管流路を有する高圧分散処理部(ジェットミル)に連結した多段圧力制御装置(多段降圧器)を有する多段降圧型高圧ホモジナイザー(株式会社美粒製、「BERYU SYSTEM PRO」)に上記粗分散液を充填し、温度25℃にて、断続的かつ瞬間的に100MPaの圧力を粗分散液に負荷し、細管流路に送り込むことを1サイクルとし、これを3サイクル繰り返し、分散液を得た。この分散液について、繊維状炭素ナノ構造体の分散粒子径を測定した。結果を表1に示す。
<混合工程>
上記分散工程で得られた分散液200gに、化学蓄熱材としての酸化マグネシウム(協和化学工業株式会社製、「キョーワマグTM150」)を2g入れてホモジナイザーにより2分間撹拌し、混合液を得た。化学蓄熱材/繊維状炭素ナノ構造体の質量比は5であった。
<形成工程>
上記混合工程で得られた混合液全量(202g)を、ろ過装置としてのキリヤマ漏斗(桐山製作所製)、及び多孔質基材としてのキリヤマろ紙(No.5A、直径3cm)を用いて減圧ろ過し、ろ過物を得た。得られたろ過物を、温度80℃の雰囲気下で60分間乾燥させて円柱状の蓄熱構造体を得た。この蓄熱構造体について、繊維状炭素ナノ構造体の最大バンドル径、蓄熱性、初期放熱特性、及び耐久性を測定又は評価した。結果を表1に示す。
【0062】
(実施例4)
混合工程において、酸化マグネシウムの量を2gから4gに変更して化学蓄熱材/繊維状炭素ナノ構造体の質量比を5から10に変更した以外は、実施例3と同様にして、分散液及び混合液、並びに蓄熱構造体を準備し、各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0063】
(実施例5)
混合工程において、酸化マグネシウムの量を2gから8gに変更して化学蓄熱材/繊維状炭素ナノ構造体の質量比を5から20に変更した以外は、実施例3と同様にして、分散液及び混合液、並びに蓄熱構造体を準備し、各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0064】
(比較例1)
<分散工程>
分散媒としての水中に、濃度が0.2重量%になるように繊維状炭素ナノ構造体としての単層CNT(ゼオンナノテクノロジー社製、製品名「ZEONANO SG101」、SGCNT、平均直径:3.5nm、平均長さ:400μm、BET比表面積:1050m/g)を添加し、マグネチックスターラーで1時間撹拌し、粗分散液を得た。
次いで、直径170μmの細管流路を有する高圧分散処理部(ジェットミル)に連結した多段圧力制御装置(多段降圧器)を有する多段降圧型高圧ホモジナイザー(株式会社美粒製、「BERYU SYSTEM PRO」)に上記粗分散液を充填し、温度25℃にて、断続的かつ瞬間的に100MPaの圧力を粗分散液に負荷し、細管流路に送り込むことを1サイクルとし、これを3サイクル繰り返し、分散液を得た。この分散液について、繊維状炭素ナノ構造体の分散粒子径を測定した。結果を表1に示す。
<混合工程>
上記分散工程で得られた分散液200gに、化学蓄熱材としての酸化マグネシウム(協和化学工業株式会社製、「キョーワマグTM150」)を2g入れてホモジナイザーにより2分間撹拌し、混合液を得た。化学蓄熱材/繊維状炭素ナノ構造体の質量比は5であった。
<形成工程>
上記混合工程で得られた混合液全量(202g)を、ろ過装置としてのキリヤマ漏斗(桐山製作所製)、及び多孔質基材としてのキリヤマろ紙(No.5A、直径3cm)を用いて減圧ろ過を試みた。しかしながら、酸化マグネシウムが沈降してしまい吸引しても水が抜けず、蓄熱構造体を形成することができなかった。
【0065】
(比較例2)
<分散工程>
実施例1と同様にして、分散液を得た。この分散液について、繊維状炭素ナノ構造体の分散粒子径を測定した。結果を表1に示す。
<混合工程>
上記分散工程で得られた分散液200gに、化学蓄熱材としての酸化マグネシウム(協和化学工業株式会社製、「キョーワマグTM150」)を10g入れてホモジナイザーにより2分間撹拌し、混合液を得た。化学蓄熱材/繊維状炭素ナノ構造体の質量比は25であった。
<形成工程>
上記混合工程で得られた混合液全量(210g)を、ろ過装置としてのキリヤマ漏斗(桐山製作所製)、及び多孔質基材としてのキリヤマろ紙(No.5A、直径3cm)を用いて減圧ろ過し、ろ過物を得た。得られたろ過物を、温度80℃の雰囲気下で60分間乾燥させたが、得られた蓄熱構造体は脆く耐久性に劣り、乾燥時に割れてしまった。この割れた蓄熱構造体について、繊維状炭素ナノ構造体の最大バンドル径のみ測定したが、蓄熱性、初期放熱特性については評価を行うことができなかった。また耐久性はD評価とした。結果を表1に示す。
【0066】
(比較例3)
混合工程において、酸化マグネシウムの量を4gから0.3gに変更して化学蓄熱材/繊維状炭素ナノ構造体の質量比を10から0.75に変更した以外は、実施例1と同様にして、分散液及び混合液、並びに蓄熱構造体を準備し、各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0067】
(比較例4)
<分散工程>
単層CNTを多層CNT(KUMHO PETROCHEMICAL社製、製品名「K-NANO」、MWCNT、平均直径:13nm、平均長さ:30μm、BET比表面積:266m/g)に変更した以外は、実施例1と同様にして、分散液を得た。この分散液について、繊維状炭素ナノ構造体の分散粒子径を測定した。結果を表1に示す。
<混合工程>
上記分散工程で得られた分散液200gに、化学蓄熱材としての酸化マグネシウム(協和化学工業株式会社製、「キョーワマグTM150」)を2g入れてホモジナイザーにより2分間撹拌し、混合液を得た。化学蓄熱材/繊維状炭素ナノ構造体の質量比は5であった。
<形成工程>
上記混合工程で得られた混合液全量(202g)を、ろ過装置としてのキリヤマ漏斗(桐山製作所製)、及び多孔質基材としてのキリヤマろ紙(No.5A、直径3cm)を用いて減圧ろ過し、ろ過物を得た。得られたろ過物を、温度80℃の雰囲気下で60分間乾燥させたが、得られた蓄熱構造体は脆く耐久性に劣り、乾燥時に割れてしまった。この割れた蓄熱構造体について、繊維状炭素ナノ構造体の最大バンドル径のみ測定したが、蓄熱性、初期放熱特性については評価を行うことができなかった。また耐久性はD評価とした。結果を表1に示す。
【0068】
なお以下に示す表1中、
「Mg」は、水酸化マグネシウム蓄熱材を意味し、
「化学蓄熱材/繊維状炭素ナノ構造体」は、繊維状炭素ナノ構造体の質量に対する化学蓄熱材の質量の比を意味し、
「MEK」は、メチルエチルケトンを意味する。
【0069】
【表1】
【0070】
表1より、BET比表面積が所定の値以上である繊維状炭素ナノ構造体を使用し、所定の分散工程、混合工程、及び形成工程を経て、繊維状炭素ナノ構造体の質量に対する化学蓄熱材の質量の比が所定の範囲内である蓄熱構造体を作製した実施例1~5では、蓄熱構造体が優れた蓄熱性及び耐久性を発揮できていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明によれば、蓄熱性を十分に発揮する一方で耐久性にも優れる蓄熱構造体、及びその製造方法を提供することができる。