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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025073002
(43)【公開日】2025-05-12
(54)【発明の名称】硬化性樹脂組成物、硬化物および物品
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/40 20060101AFI20250501BHJP
   C08G 65/40 20060101ALI20250501BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20250501BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20250501BHJP
【FI】
C08G59/40
C08G65/40
H01L23/30 R
H05K1/03 610T
H05K1/03 610H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023183539
(22)【出願日】2023-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177426
【弁理士】
【氏名又は名称】粟野 晴夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141601
【弁理士】
【氏名又は名称】貴志 浩充
(74)【代理人】
【識別番号】100179866
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】迫 雅樹
【テーマコード(参考)】
4J005
4J036
4M109
【Fターム(参考)】
4J005AA24
4J005BA00
4J036AA01
4J036AD07
4J036AD08
4J036AD11
4J036AE05
4J036AE07
4J036AF06
4J036AF36
4J036DC05
4J036DC38
4J036DC40
4J036DC45
4J036FB06
4J036HA12
4J036JA07
4J036JA08
4M109AA01
4M109EA02
4M109EB02
4M109EB04
4M109EC07
4M109EC09
(57)【要約】
【課題】活性エステル樹脂の硬化剤を含む硬化性樹脂組成物と同等の誘電特性を有し、電子材料に用いられる部材との密着性に優れる硬化性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】エポキシ樹脂と、硬化剤と、塩基性触媒とを含み、前記硬化剤が、フェノキシトリアジン樹脂を含み、前記フェノキシトリアジン樹脂が、フェノキシトリアジンのオリゴマーを含み、前記硬化剤が、NCO-基を有しない、硬化性樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と、
硬化剤と、
塩基性触媒と、
を含み、
前記硬化剤が、フェノキシトリアジン樹脂を含み、
前記フェノキシトリアジン樹脂が、フェノキシトリアジンのオリゴマーを含み、
前記硬化剤が、NCO-基を有しない、硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記オリゴマーが、以下の一般式1で表される構造を有する、請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【化1】
(式中、Arは、それぞれ独立して、式3~5:
【化2】
のいずれかであり、
Lは、それぞれ独立して、式6~8:
【化3】
のいずれかであり、
式3~6、8中、Rは、水素原子、炭素原子数1~11の1価の炭化水素基、または、炭素原子数1~11の1価のアルコキシ基もしくはアリールオキシ基であり;
式3~8中、*は、式1または2の構造との結合点であり;
式6、8中、Yは、置換もしくは非置換の炭素原子数1~20のアルキレン、置換もしくは非置換の炭素原子数3~20のシクロアルキレン、炭素原子数6~20のアリーレン、または炭素原子数8~20のアラルキレンであり、
nは、1~20の整数である。)
【請求項3】
Arが、式3である、請求項2に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
Lが、式13:
【化4】
である、請求項2に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の硬化性樹脂組成物の硬化物。
【請求項6】
請求項5に記載の硬化物を含む物品であって、
前記物品が、プリプレグフィルムおよび半導体封止材からなる群より選択される、物品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性樹脂組成物、硬化物および物品に関する。
【背景技術】
【0002】
情報通信のトラフィック量の増大に伴い、電子機器には情報処理の高速化および低電力化などが求められている。
【0003】
例えば、半導体封止材では、新しい機能を備えたアンテナインパッケージなどの半導体に使用するため、誘電正接が小さい(低誘電正接な)半導体封止材が開発されている。また、回路基板においても、誘電特性の改良が求められている。
【0004】
これらの分野においては比較的安価で特性に優れるエポキシ樹脂を硬化性樹脂として含む硬化性樹脂組成物が広く使用されている(例えば、特許文献1)。そして、そのような硬化性樹脂組成物においては、誘電特性に優れる活性エステル樹脂が硬化剤として検討されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2019/003822号
【特許文献2】国際公開第2020/003824号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、一般的なフェノール樹脂系の硬化剤を含む硬化性樹脂組成物と比較して、活性エステル樹脂の硬化剤を含む硬化性樹脂組成物では、硬化性樹脂組成物の硬化物と、銅箔などの電子材料に用いられる部材との密着性に改良の余地があった。
【0007】
そこで、本発明は、活性エステル樹脂の硬化剤を含む硬化性樹脂組成物と同等の誘電特性を有し、電子材料に用いられる部材との密着性に優れる硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る硬化性樹脂組成物は、
エポキシ樹脂と、
硬化剤と、
塩基性触媒と、
を含み、
前記硬化剤が、フェノキシトリアジン樹脂を含み、
前記フェノキシトリアジン樹脂が、フェノキシトリアジンのオリゴマーを含み、
前記硬化剤が、NCO-基を有しない、硬化性樹脂組成物である。これにより、硬化性樹脂組成物は、活性エステル樹脂の硬化剤を含む硬化性樹脂組成物と同等の誘電特性を有し、電子材料に用いられる部材との密着性に優れる。
【0009】
本発明に係る硬化性樹脂組成物の一実施形態では、前記オリゴマーが、以下の式1で表される構造および式2で表される構造からなる群より選択される1種以上を有する。
【化1】
式1、2中、Arは、それぞれ独立して、式3~5:
【化2】
のいずれかであり、
Lは、それぞれ独立して、式6~8:
【化3】
のいずれかであり、
式3~6、8中、Rは、水素原子、炭素原子数1~11の1価の炭化水素基、または、炭素原子数1~11の1価のアルコキシ基もしくはアリールオキシ基であり;
*は、式1または2の構造との結合点であり;
式6、8中、Yは、置換もしくは非置換の炭素原子数1~20のアルキレン、置換もしくは非置換の炭素原子数3~20のシクロアルキレン、炭素原子数6~20のアリーレン、または炭素原子数8~20のアラルキレンであり、
nは、1~20の整数である。
【0010】
本発明に係る硬化物は、上記硬化性樹脂組成物の硬化物である。
【0011】
本発明に係る物品は、上記硬化物を含む物品であって、プリプレグフィルムおよび半導体封止材からなる群より選択される物品である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、活性エステル樹脂の硬化剤を含む硬化性樹脂組成物と同等の誘電特性を有し、電子材料に用いられる部材との密着性に優れる硬化性樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。これらの記載は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0014】
本発明において、2以上の実施形態を任意に組み合わせることができる。
【0015】
本明細書に記載の材料、成分、化合物、樹脂、触媒および溶剤は、別段の記載がない限り、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
本明細書において、1価の炭化水素基、1価のアルコキシ基、1価のアリールオキシ基などの「X価のある基」という表現は、他の原子、基または構造に対する、その基の結合手の数がXであることを意味する。「1価のフェノール性水酸基を含有する置換基」は、フェノール性水酸基を含有する置換基自体の、他の原子、基または構造に対する、結合手の数が1であることを意味する。「2価のフェノール性水酸基を含有する置換基」は、フェノール性水酸基を含有する置換基自体の、他の原子、基または構造に対する、結合手の数が2であることを意味する。
【0017】
本明細書において、ある基または化合物が、1個のフェノール性水酸基を有する場合は、「水酸基1価のフェノール性水酸基」を有するという。ある基または化合物が、2個のフェノール性水酸基を有する場合は、「水酸基2価のフェノール性水酸基」を有するという。ある基または化合物が、3個以上のフェノール性水酸基を有する場合は、「水酸基多価のフェノール性水酸基」を有するという。
【0018】
(硬化性樹脂組成物)
本発明に係る硬化性樹脂組成物は、
エポキシ樹脂と、
硬化剤と、
塩基性触媒と、
を含み、
前記硬化剤が、フェノキシトリアジン樹脂を含み、
前記フェノキシトリアジン樹脂が、フェノキシトリアジンのオリゴマーを含み、
前記硬化剤が、NCO-基を有しない、硬化性樹脂組成物である。
【0019】
・エポキシ樹脂
エポキシ樹脂としては、特に限定されず、公知のエポキシ樹脂を用いることができる。
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;ノボラック型エポキシ樹脂;トリフェニルメタン型エポキシ樹脂;テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン-フェノール付加反応型エポキシ樹脂;フェノールアラルキル型エポキシ樹脂などが挙げられる。この他、特開2021-102702号公報に記載のエポキシ樹脂を用いてもよい。
【0020】
ノボラック型エポキシ樹脂としては、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、フェノール類とフェノール性水酸基を有する芳香族アルデヒドとの縮合物のエポキシ化物、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0021】
また、硬化性樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度を高くして耐熱性を高める観点から、エポキシ樹脂のエポキシ基当量は1,000g/当量以下、中でも700g/当量以下、とりわけ500g/当量以下であることが好ましい。
【0022】
・硬化剤
本発明の硬化性樹脂組成物の硬化剤は、フェノキシトリアジン樹脂を含み、フェノキシトリアジン樹脂が、フェノキシトリアジンのオリゴマーを含むが、硬化剤は、NCO-基(シアネートエステル基)を有しない。
【0023】
フェノキシトリアジン樹脂は、フェノキシトリアジンのオリゴマーを含む。フェノキシトリアジンを形成するトリアジンは、1,2,3-トリアジン、1,2,4-トリアジンおよび1,3,5-トリアジンが挙げられる。好適な一実施形態では、フェノキシトリアジンを形成するトリアジンは、1,3,5-トリアジンである。
【0024】
本発明に係る硬化性樹脂組成物の一実施形態では、前記オリゴマーが、以下の一般式1で表される構造を有する。
【化4】
式1、2中、Arは、それぞれ独立して、式3~5:
【化5】
のいずれかであり、
Lは、それぞれ独立して、式6~8:
【化6】
のいずれかであり、
式3~6、8中、Rは、水素原子、炭素原子数1~11の1価の炭化水素基、または、炭素原子数1~11の1価のアルコキシ基もしくはアリールオキシ基であり;
式3~8中、*は、式1または2の構造との結合点であり;
式6、8中、Yは、置換もしくは非置換の炭素原子数1~20のアルキレン、置換もしくは非置換の炭素原子数3~20のシクロアルキレン、炭素原子数6~20のアリーレン、または炭素原子数8~20のアラルキレンであり、
nは、1~20の整数である。
【0025】
Arを形成する化合物としては、例えば、以下の式9~11の化合物が挙げられる。
【化7】
式中、Rは、式3~5のRと同義である。
【0026】
式1および2のオリゴマーの溶剤への溶解性の観点からRは、炭素原子数1~11の1価の炭化水素基、または、炭素原子数1~11の1価のアルコキシ基もしくはアリールオキシ基が好ましい。より好ましくは、Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、tert-ブチル基、フェニル基、ベンジル基、メトキシメチル基、アリル基である。
【0027】
好適な一実施形態では、Arを形成する化合物は、2-アリルフェノール、クレゾール、о-フェニルフェノールおよび2-アリル-1-ナフトールからなる群より選択される1種以上である。
【0028】
好適な一実施形態では、Arは、以下の式12である。
【化8】
【0029】
好適な一実施形態では、Lを形成する化合物は、以下の化合物1である。
【化9】
【0030】
別の好適な実施形態では、Lを形成する化合物は、以下の化合物2である。
【化10】
【0031】
好適な一実施形態では、Lは、以下の式13である。
【化11】
【0032】
別の実施形態では、Arを形成する化合物は、フェノール性水酸基を2個以上、例えば、2個、3個または4個有していてもよい。フェノール性水酸基を2個以上有する化合物としては、例えば、以下の式14~21で表される化合物を挙げることができる。
【化12】
【0033】
式14~21中、Rは、水素原子、炭素原子数1~20のアルキル基、または炭素原子数6~20のアリール基を表し、nは1、2または3を表し、pは、1以上の整数を表す。
【0034】
のアルキル基としては、例えば、炭素原子数1~20を挙げることができる。Rのアルキル基としては、炭素原子数1~6のアルキル基が好ましい。炭素数1~6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基等を挙げることができる。
【0035】
のアリール基としては、例えば、ベンジル基、ナフチル基、メトキシナフチル基等を挙げることができる。
【0036】
式17のpは、1以上の整数であり、好ましくは1~20、より好ましくは1~15、さらに好ましくは1~12の整数である。
【0037】
別の実施形態では、Arを形成する化合物は、多官能フェノール化合物でもよい。
多官能フェノール化合物は、以下の式22で表される化合物でもよい。
【化13】
式22中、
Arは、それぞれ独立して、1価のフェノール性水酸基を含有する置換基を表し、
Arは、それぞれ独立して、2価のフェノール性水酸基を含有する置換基を表し、
Zは、それぞれ独立して、酸素原子、硫黄原子、ケトン基、スルホニル基、置換もしくは非置換の炭素原子数1~20のアルキレン、置換もしくは非置換の炭素原子数3~20のシクロアルキレン、炭素原子数6~20のアリーレン、または炭素原子数8~20のアラルキレンを表し、
mは、0~20の整数である。
【0038】
Arを形成する化合物としては、例えば、以下の式23および24で表される化合物が挙げられる。
【化14】
式23、24中、
は、それぞれ独立して、ヒドロキシ基、炭素原子数1~20のアルキル基、または炭素原子数6~20のアリール基であり、
nは、0、1、2、3または4である。
【0039】
のアルキル基およびアリール基は、Rと同様である。
【0040】
式22のZにおける炭素原子数1~20のアルキレンとしては、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、1-メチルメチレン、1,1-ジメチルメチレン、1-メチルエチレン、1,1-ジメチルエチレン、1,2-ジメチルエチレン、プロピレン、ブチレン、1-メチルプロピレン、2-メチルプロピレン、ペンチレン、ヘキシレン等が挙げられる。
【0041】
式22のZにおける炭素原子数3~20のシクロアルキレンとしては、例えば、シクロプロピレン、シクロブチレン、シクロペンチレン、シクロヘキシレン、シクロペンチレン、シクロへプチレン、および以下の式25~28で表されるシクロアルキレン等が挙げられる。
【化15】
式25~28において、*は、ArまたはArとの結合点を表す。
【0042】
式22のZにおける炭素原子数6~20のアリーレンとしては、例えば、式29で表されるアリーレン等が挙げられる。
【化16】
式29において、*は、ArまたはArとの結合点を表す。
【0043】
式22のZにおける炭素原子数8~20のアラルキレンとしては、例えば、以下の式30~34で表されるアラルキレン等が挙げられる。
【化17】
式30~34において、*は、ArまたはArとの結合点を表す。
【0044】
式22中のZは、炭素原子数3~20のシクロアルキレン、炭素原子数6~20のアリーレン、炭素原子数8~20のアラルキレンであることが好ましく、密着性と誘電特性の観点から、式27、28、29、30、31、32、33または34で表されるものが、より好ましい。
【0045】
式22におけるmは、0または1~20の整数であり、好ましくは0、1、2、3、4、5、6、7または8であり、式1および2のオリゴマーの溶剤への溶解性の観点から、好ましくは0、1、2、3、4または5である。
【0046】
反応生成物の溶剤溶解性と誘電特性の観点から、式21、22、17で表される化合物が好ましく、更に、式22のうち、Arがフェノール、オルソクレゾール、ジメチルフェノール、フェニルフェノール、またはα-ナフトール、β-ナフトールの残基であり、かつZが式27、29、30、31、32、33または34であるものが好ましく、式17で表される化合物がより好ましい。
【0047】
式1、2において、nは、1~20の整数である。好ましくは、nは、1~10の整数である。
【0048】
一実施形態では、フェノキシトリアジンのオリゴマーは、以下の構造3を有する。
【化18】
【0049】
本発明の硬化性樹脂組成物の硬化剤は、フェノキシトリアジンのオリゴマーを含めばよく、フェノキシトリアジンのモノマーを含んでいてもよいし、含まなくてもよい。フェノキシトリアジンのモノマーの割合は、例えば、フェノキシトリアジンのモノマーおよびオリゴマーの合計質量に対して、1~90質量%である。フェノキシトリアジンのモノマーの割合が、モノマーおよびオリゴマーの合計質量に対して、1質量%以上であれば、流動性が高まり、90質量%以下であれば、耐熱性が高まる。
【0050】
硬化剤の量は、エポキシ樹脂中のエポキシ基1当量に対して、硬化剤のフェノキシトリアジン基中のフェノキシ基が0.1~5.0の範囲であることが好ましい。この範囲内であると、硬化性、耐熱性、誘電特性が良好である。
【0051】
・塩基性触媒
塩基性触媒としては、特に限定されず、公知の塩基性触媒を用いることができる。塩基性触媒としては、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)、イミダゾール、1-メチルイミダゾール、2,4-ジメチルイミダゾール、1,4-ジエチルイミダゾールなどが挙げられる。また、この他、例えば、特開2023-037521号公報に記載の塩基性触媒、アミン系硬化促進剤および特開2023-090562号公報に記載の塩基性触媒、アミン系硬化促進剤などが挙げられる。
【0052】
好適な一実施形態では、塩基性触媒は、イミダゾール類およびDMAPからなる群より選択される1種以上である。別の好適な実施形態では、塩基性触媒は、イミダゾール、1-メチルイミダゾール、2,4-ジメチルイミダゾール、1,4-ジエチルイミダゾールおよびDMAPからなる群より選択される1種以上である。
【0053】
塩基性触媒の量は、適宜調節すればよく、例えば、硬化剤およびエポキシ樹脂の合計100質量部に対して、0.01~5.0質量部である。塩基性触媒の量が0.01質量部以上であると、硬化性に優れる。一方、塩基性触媒の量が5.0質量部以下であると、絶縁信頼性に優れる。
【0054】
・その他の成分
硬化性樹脂組成物は、難燃剤、無機充填剤、シランカップリング剤、離型剤、顔料、乳化剤、溶剤、その他の樹脂(すなわち、エポキシ樹脂以外の樹脂)などを含んでいてもよい。
【0055】
その他の樹脂としては、例えば、マレイミド樹脂等が挙げられる。この他、例えば、特開2023-090562号公報に記載の他の樹脂を用いてもよい。本実施形態の硬化性樹脂組成物における他の樹脂の含有量は、樹脂全体の50質量%以下であることが好ましい。
【0056】
・硬化性樹脂組成物の調製方法
硬化性樹脂組成物の調製方法は、特に限定されず、エポキシ樹脂、硬化剤および塩基性触媒を混合することにより得られる。
【0057】
・硬化性樹脂組成物の用途
硬化性樹脂組成物の用途としては、例えば、プリント配線板材料、フレキシルブル配線基板用樹脂組成物、ビルドアップ基板用層間絶縁材料、ビルドアップ用接着フィルム等の回路基板用絶縁材料、樹脂注型材料、接着剤、半導体封止材料、半導体装置、プリプレグ、導電ペースト、ビルドアップフィルム、ビルドアップ基板、繊維強化複合材料、当該複合材料を硬化させてなる成形品等が挙げられる。また、例えば、特許第7188657号公報に記載の用途なども挙げられる。
【0058】
・硬化物
本発明の硬化物は、上記硬化性樹脂組成物の硬化物である。本発明の硬化物は、活性エステル樹脂の硬化剤を含む硬化性樹脂組成物の硬化物と同等の誘電特性を有し、電子材料に用いられる部材との密着性に優れる。
【0059】
硬化物を得る方法としては、例えば、硬化性樹脂組成物を加熱硬化すればよい。加熱硬化する際の温度は、例えば、100~300℃である。加熱時間としては、例えば、1~24時間である。
【0060】
・物品
一実施形態では、本発明の物品は、上記硬化物を含む物品であって、物品が、ワニス、プリプレグ、フィルムおよび半導体封止材からなる群より選択される、物品である。
【実施例0061】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0062】
実施例で使用した材料は以下のとおりである。
エポキシ樹脂:クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、DIC社製の製品名「EPICLON(登録商標)N-655-EXP-S」、軟化点58℃、エポキシ当量202g/当量
硬化剤:後述する方法で合成した。
塩基性触媒:4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)
以下の化合物1を約80質量%含有する、ジシクロペンタジエンとフェノールとのフリーデルクラフツ反応による重付加反応樹脂:水酸基当量:165g/当量、軟化点85℃
【化19】
溶融シリカ:デンカ社製、製品名「FB―560」
シランカップリング剤:信越化学工業社製、製品名「KBM―403」
離型剤:大日化学社製、製品名「F1-100」
【0063】
硬化剤の合成
温度計、滴下ロート、冷却管、分留管および撹拌器を取り付けたフラスコにシアヌル酸クロリド111.5gおよびトルエン923gを加えた。その系内を減圧窒素置換し、シアヌル酸クロリドをトルエンに溶解させた。次いで、その溶液にアリルフェノール162.4g、ジシクロペンタジエンとフェノールとの重付加反応樹脂100gを加え、系内を減圧窒素置換し溶解させた。その後、その溶液にテトラブチルアンモニウムブロマイド0.5gを溶解させた。系内に窒素ガスパージを施しながら、系内を60℃以下に制御した。次いで、その溶液に20%水酸化ナトリウム水溶液363.6gを3時間かけて滴下した。次いで、その条件を維持しながら1.0時間撹拌を続けた。反応終了後、フラスコを静置して分液し、水層を取り除いた。さらにトルエン層に水を投入して約15分間混合し、静置して分液して水層を取り除いた。水層のpHが7になるまでこの操作を繰り返した。その後、フラスコのトルエン層を熱減圧下で乾燥して、硬化剤であり、構造3を含むフェノキシトリアジン樹脂を得た。フェノキシトリアジン樹脂の軟化点は68℃であった。このフェノキシトリアジン樹脂は、NCO-基を有しない。
【0064】
比較硬化剤1の合成
温度計、滴下ロート、冷却管、分留管および撹拌器を取り付けたフラスコにジシクロペンタジエンとフェノールとの重付加反応樹脂165.0g、アリルフェノール134.0g(1.0モル)、およびトルエン1048gを加えた。その系内を減圧窒素置換し、重付加反応樹脂とアリルフェノールをトルエンに溶解させた。次いで、その溶液にイソフタル酸クロリド203g(1.0モル)を加え、系内を減圧窒素置換し、イソフタル酸クロリドを溶解させた。その後、系内に窒素ガスパージを施しながら、系内を60℃以下に制御した。次いで、その溶液に20%水酸化ナトリウム水溶液373gを3時間かけて滴下した。次いで、その条件を維持しながら1.0時間撹拌を続けた。反応終了後、フラスコを静置して分液し、水層を取り除いた。さらにトルエン層に水を投入して約15分間混合し、静置して分液して水層を取り除いた。水層のpHが7になるまでこの操作を繰り返した。その後、フラスコのトルエン層を熱減圧下で乾燥して、比較硬化剤である活性エステル樹脂を合成した。活性エステル樹脂のエステル化当量は215g/当量であり、軟化点は80℃であった。
【0065】
比較硬化剤3の合成
国際公開第2019/198606号の実施例1に記載の通り合成を行い、比較硬化剤3であるフェノキシトリアジンモノマー2として、2,4,6-トリ(アリルフェノキシ)-s-トリアジン(分子量478)を得た。
【0066】
・硬化性樹脂組成物の調製(実施例1および比較例1)
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂と、得られた硬化剤の樹脂とを、それぞれ官能基が等量になるよう表1に記載の質量比で計量した。そして、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂と硬化剤の樹脂とを150℃で加熱溶融後、混合および均一化した。その混合物に表1に示す量のDMAPを加え、さらに撹拌および均一化した。次いで、その混合物を冷却し、硬化性樹脂組成物を得た。
【0067】
比較例2
フェノキシトリアジンモノマー1として、2,4,6-トリフェノキシ-1,3,5-トリアジン(分子量357)37.1質量部とクレゾールノボラック型エポキシ樹脂62.9質量部を150℃で加熱しながら混合したが、白濁したままで均一に溶解することができなかった。また、メチルエチルケトンとトルエンを合わせてエポキシ樹脂と同じ62.9質量部用いて均一化を試みたが、フェノキシトリアジンモノマー1は溶解しなかった。そのため、物性の測定に適した硬化性樹脂組成物を調製できなかったため、物性の測定を行わなかった。
【0068】
比較例3
44.1質量部の比較硬化剤3と、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂55.9質量部を150℃で加熱しながら混合した。そこに触媒であるDMAPを所定量加え、さらに撹拌して、均一化した。次いで、その混合物を冷却して、硬化性樹脂組成物を得た。
【0069】
・Tgおよび誘電特性測定用試験片
得られた硬化性樹脂組成物を型枠に詰め、熱プレス機で180℃で30分間加熱した後、一旦取り出した。次いで、さらにその硬化性樹脂組成物を200℃で2時間加熱して硬化物を得た。この硬化物を所定の大きさに切り出し、試験片1とした。
【0070】
・Tgの測定
粘弾性測定装置(DMA:レオメトリック社製固体粘弾性測定装置RSAII)を用いて、レクタンギュラーテンション法、周波数1Hz、昇温速度3℃/minの条件で、弾性率変化と粘弾性率変化の比が最大となる(tanδが最も大きい)温度をガラス転移温度として評価した。
【0071】
比較例3の硬化性樹脂組成物を型枠に詰め、熱プレス機で180℃30分加熱したのち、一旦取り出したものをさらに200℃2時間加熱することで硬化物を得た。DMAにてガラス転移温度を測定すると、108℃であり、実施例と比較して大きく劣っていた。
【0072】
・誘電特性の測定
JIS C 6481に準拠し、アジレント・テクノロジー社製のインピーダンス・マテリアル・アナライザ「HP4291B」により、105℃の熱風式乾燥機内に2時間置くことで乾燥した試験片を23℃、湿度50%の室内に24時間保管した後の試験片について、1GHz、10GHzでの誘電率および誘電正接を測定した。
【0073】
・ダイシェア試験
硬化性樹脂組成物30質量部、溶融シリカ30質量部、シランカップリング剤0.3質量部、離型剤0.45質量部を混合した。この混合物を、175℃、120秒間、成型圧6.9MPaの条件で銅基材上に、所定の大きさにトランスファー成型し、さらに200℃で2時間加熱することで硬化反応を完了させて、試験片2を得た。その試験片2を用いて、ダイシェア試験を行った。ダイシェア試験の詳細は以下のとおりである。
試験片2を粉砕し、トランスファー成形機を用いて圧力70kg/cm、ラム速度5cm/秒、温度175℃、時間600秒の条件で成形品寸法が厚さ2mmで、4mm×4mm、6mm×6mm、8mm×8mm、10mm×10mmとなるように銅箔上に成形し、4つの試験片を得た。試験はボンディングテスタ(RHESCA社製「PTR-1102」)を用いて行った。シェア速度は0.1mm/秒、それぞれの試験片の試験について5回実施し、銅箔からの剥離強度の平均値(kgf)を算出した。銅箔は、古河電気工業社製の「EFTEC-64T」(厚さ0.15mm)を使用した。
【0074】
比較例3の硬化性樹脂組成物はタック感が強く、半固形~粘稠液体状であった。固体としての取り扱いが困難であるためトランスファー成型を行うことが出来なかった。
【0075】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明によれば、活性エステル樹脂の硬化剤を含む硬化性樹脂組成物と同等の誘電特性を有し、電子材料に用いられる部材との密着性に優れる硬化性樹脂組成物を提供することができる。