(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007322
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】免震ダンパー及び免震構造
(51)【国際特許分類】
F16F 7/12 20060101AFI20250109BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20250109BHJP
F16F 15/06 20060101ALI20250109BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
F16F7/12
E04H9/02 331E
E04H9/02 351
F16F15/06 Z
F16F15/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023108624
(22)【出願日】2023-06-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和 5年 5月26日 日本建築学会近畿支部研究報告集,第63号・構造系,令和5年度,pp.65-68,日本建築学会近畿支部 (2)令和 5年 6月24日、25日 2023年度日本建築学会近畿支部研究発表会 大阪保健医療大学1号館 大阪工業技術専門学校6号館
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】591205536
【氏名又は名称】JFEシビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】畑中 祐紀
(72)【発明者】
【氏名】桑原 進
(72)【発明者】
【氏名】戸張 涼太
(72)【発明者】
【氏名】吉永 光寿
(72)【発明者】
【氏名】塩田 啓介
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
3J066
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC20
2E139AC43
2E139BA06
2E139BA34
2E139BC04
2E139BC06
2E139BD34
2E139CA21
2E139CA30
2E139CB04
2E139CB15
2E139CC02
3J048AA01
3J048AD11
3J048BA03
3J048BC09
3J048DA01
3J048EA38
3J066AA26
3J066BA04
3J066BC03
3J066BD07
3J066BF01
(57)【要約】
【課題】大規模な地震動により水平方向及び鉛直方向に大きな相対変位が発生しても、減衰部材の過度の変形を抑制して減衰性能を確実に発揮することができる免震ダンパーを提供する。
【解決手段】構造物下部4と基礎5との間に設置され、大規模な地震動のときに作動する免震ダンパー6であって、構造物下部及び基礎の一方に一端が固定されている減衰部材10と、減衰部材の他端に固定され、構造物下部及び基礎の他方に対向して配置された変位部15と、構造物下部及び基礎の他方に配置されており、大規模な地震動のときの変位部の水平方向の相対変位を減衰部材に伝達する減衰作動部16と、大規模な地震動のときに変位部が水平面に対して傾斜しながら回転しようとするのを規制する回転変位規制部4a、18と、を備えている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物下部と基礎との間に設置され、大規模な地震動のときに作動する免震ダンパーであって、
前記構造物下部及び前記基礎の一方に一端が固定されている減衰部材と、
前記減衰部材の他端に固定され、前記構造物下部及び前記基礎の他方に対向して配置された変位部と、
前記構造物下部及び前記基礎の他方に配置されており、大規模な地震動のときの前記変位部の水平方向の相対変位を前記減衰部材に伝達する減衰作動部と、
大規模な地震動のときに前記変位部が水平面に対して傾斜しながら回転しようとするのを規制する回転変位規制部と、を備えていることを特徴とする免震ダンパー。
【請求項2】
前記変位部は、前記減衰部材の他端に連結部を介して固定されている円板形状の変位板であり、
前記減衰作動部は、前記構造物下部及び前記基礎の他方の面に固定され、前記変位板の外周を囲っている円環形状の水平変位作動部材であり、
前記回転変位規制部は、前記連結部が貫通する中央貫通孔を設けて前記水平変位作動部材に固定された円板形状の第1回転規制部材と、前記構造物下部及び前記基礎の他方の面とで構成され、これらが前記変位板を鉛直方向から挟むことで前記変位板の回転を規制していることを特徴とする請求項1記載の免震ダンパー。
【請求項3】
前記第1回転規制部材の中央貫通孔の内径は、円板形状とした前記変位板の外径以下の寸法に設定されていることを特徴とする請求項2記載の免震ダンパー。
【請求項4】
前記変位部は、中央貫通孔を設けて前記減衰部材の他端に固定されている変位板であり、
前記減衰作動部は、前記構造物下部及び前記基礎の他方の面に固定した第1回転規制部材から突出して前記変位板に設けた前記中央貫通孔に貫通している円柱形状の水平変位作動部材であり、
前記回転変位規制部は、前記第1回転規制部材と、前記水平変位作動部材の開放端に固定した円板形状の第2回転規制部材とで構成され、これらが前記変位板を鉛直方向から挟むことで前記変位板の回転を規制していることを特徴とする請求項1記載の免震ダンパー。
【請求項5】
前記変位板の前記中央貫通孔の内径は、円板形状とした前記第2回転規制部材の外径以下の寸法に設定されていることを特徴とする請求項4記載の免震ダンパー。
【請求項6】
前記減衰部材は、平面視において十字方向に延在する4枚の免震板で構成されていることを特徴とする請求項1記載の免震ダンパー。
【請求項7】
請求項1から6の何れか1項に記載の免震ダンパーと、構造物下部と基礎との間に設置され、常時の微小な変位や中小の地震動のときに構造物の鉛直荷重を支持しながら水平方向に移動して小さな水平変位のエネルギーを吸収する免震装置と、を備えていることを特徴とする免震構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大規模な地震動のときに作動する免震ダンパー及びその免震ダンパーを備えた免震構造に関する。
【背景技術】
【0002】
超高層ビルなどの建築構造物や大型の土木構造物は、大規模な地震動に対して安全性が高まるように、構造物下部と基礎との間に、免震ゴムなどの免震装置を設置して地震動を受ける免震構造が採用されている。この免震構造は、地震力が大きくなると建築構造物及び基礎に発生する水平方向の相対変位(以下、水平変位と称する)が非常に大きくなり、建物の内部の設備備品が破損するおそれがある。このため、常時の微小な変位や中小の地震動には免震装置が微振動を吸収し、大規模な地震動のときに免震ダンパーが作動する免震構造が知られている(例えば特許文献1、2の免震ダンパー)。
【0003】
特許文献1の免震ダンパーは、構造物下部(引用文献1では、上層側構造物と称する)の下面に上端が固定され、基礎(下層側構造物と称する)の上面に下端が水平方向に沿って移動自在に配置された減衰部材(引用文献1では、金属ダンパーと称する)と、減衰部材の下端に一体に設けた円板形状のベースと、基礎の上面に形成されてベースが内部に入り込む円環形状の当接部と、を備えている。そして、大規模な地震動の際の大きな水平変位のときに、当接部の内周面にベースの外周面が当接することで減衰部材が変形し、大規模な地震動のエネルギーを吸収する。
【0004】
また、特許文献2の免震ダンパーは、基礎(引用文献2では、台座と称する)に下端が固定された減衰部材(引用文献2では、金属減衰部材と称する)と、構造物下部(引用文献2では、床梁と称する)の下面から鉛直方向に突出する変位部(引用文献2では、第2鉛直部と称する)と、変位部の下端に固定された四角形状のフランジと、減衰部材の上端に固定され、フランジの4辺の側部及び上下面に隙間を設けて対向した状態で挟み込んでいる複数のストッパーと、を備えている。そして、大規模な地震動の際に、水平方向に移動したフランジの側部が、移動側に配置されているストッパーの内壁の側部に当接することで減衰部材が変形し、大規模な地震動のエネルギーを吸収する。
【0005】
ここで、本出願人が先に出願した特許文献3の免震用鋼材ダンパーは、その上部基板及び下部基板が構造物の下部及び基礎に剛結合されて両端固定梁の状態とされているので、免震用鋼材ダンパーに作用する曲げモーメントは抑制され、主に水平方向に働くせん断力に対しての変形挙動となり、その塑性変形によって地震時のエネルギー吸収を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6087605号公報(
図1~
図4)
【特許文献2】特開2022-186790号公報(
図11~
図13)
【特許文献3】特許第7140344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これに対して、特許文献1の免震ダンパーは、減衰部材の上端が建築構造物に剛結合されているが、減衰部材の下端は基礎に固定されておらず、減衰部材が片持ち梁状態で配置されていることから、大規模な地震動で建築構造物及び基礎の間に大きな水平変位が発生すると、減衰部材に作用する曲げモーメントが過度に大きくなり、座屈や破断が生じやす
くなる。これにより、特許文献1の免震ダンパーは、十分な地震時のエネルギー吸収が行われないおそれがある。また、片持ち梁状態で配置された減衰部材が揺動することで、減衰部材の下端に設けたベースが水平面に対して傾斜しながら回転することで、基礎の上面に設けた当接部に接触すべきベースが当接部から抜け出てしまい、大規模な地震動の減衰機能が失われてしまうおそれがある。
【0008】
特許文献2の免震ダンパーは、減衰部材の上端に固定した複数の独立したストッパーが、変位部の下端に固定したフランジに対して上下面に隙間を設けて配置されているので、大きな水平変位が発生すると、フランジの側部に接触したいくつかの独立したストッパーに集中的に荷重がかかるため、ストッパーが破損しやすい。また、四角形のプレートの側面にストッパーを配置していることから、プレートが水平面内で移動する方向によって接触する距離が異なり、減衰部材の挙動にばらつきが生じ、正常な減衰性能が発揮できなくなる。
【0009】
そこで、本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、大規模な地震動により水平方向に大きな相対変位が発生しても、減衰部材の過度の変形を抑制して減衰性能を確実に発揮することができる免震ダンパーを提供することにある。また、大規模な地震動によるエネルギーを直接構造物に伝わらないようにすることができる免震構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る免震ダンパーは、構造物下部と基礎との間に設置され、大規模な地震動のときに作動する免震ダンパーであって、構造物下部及び基礎の一方に一端が固定されている減衰部材と、減衰部材の他端に固定され、構造物下部及び基礎の他方に対向して配置された変位部と、構造物下部及び基礎の他方に配置されており、大規模な地震動のときの変位部の水平方向の相対変位を減衰部材に伝達する減衰作動部と、変位部が水平面に対して傾斜しながら回転しようとするのを規制する回転規制部とを備えている。
【0011】
また、本発明の一態様に係る免震構造は、上述した免震用鋼材ダンパーと、構造物下部と基礎との間に設置され、常時の微小な変位や中小の地震動のときに構造物の鉛直荷重を支持しながら水平方向に移動して小さな水平変位のエネルギーを吸収する免震装置と、を備えている。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る免震ダンパーによると、大規模な地震動により水平方向に大きな相対変位が発生しても、減衰部材の過度の変形を抑制して減衰性能を確実に発揮することができる。また、本発明に係る免震構造によると、地震動のエネルギーを直接構造物に伝わらないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る第1実施形態の免震構造を示す図である。
【
図2】第1実施形態の免震ダンパーを構成する減衰部材及び減衰作動部の連結部及び変位板を示す斜視図である。
【
図3】第1実施形態の免震ダンパーの構造を示す図である。
【
図5】大規模な地震動における第1実施形態の免震ダンパーの挙動を示す図である。
【
図7】第2実施形態の免震ダンパーの構造を示す図である。
【
図9】大規模な地震動における第2実施形態の免震ダンパーの挙動を示す図である。
【
図11】本発明に係る第3実施形態の免震構造を示す図である。
【
図12】第3実施形態の免震ダンパーの構造を示す図である。
【
図14】大規模な地震動における第3実施形態の免震ダンパーの挙動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、図面を参照して、本発明に係る実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0015】
[第1実施形態]
図1から
図6は、超高層ビルなどの建築構造物や大型の土木構造物などの構造物1と基礎2との間に設置された第1実施形態の免震構造3を示している。
図1に示すように、免震構造3は、構造物1の下部に設けたダンパー用上部構造体4と基礎2上に設けたダンパー用下部構造体5との間に設置した免震ダンパー6と、ダンパー用上部構造体4に隣接して構造物1の下部に設けた装置用上部構造体7とダンパー用下部構造体5に隣接して基礎2上に設けた装置用下部構造体8との間に設置した免震装置9と、を備えている。
図1では1組の免震構造3しか示していないが、構造物1と基礎2との間には複数組設置されている。なお、ダンパー用上部構造体4、ダンパー用下部構造体5、装置用上部構造体7及び装置用下部構造体8は、鉄筋コンクリート製である。
免震ダンパー6は、減衰部材10と、減衰作動部11と、を備えている。
【0016】
減衰部材10は、
図2に示すように、平面視において互いに直交する十字方向に延在している4枚の免震板10a,10b,10c,10dで構成されており、4枚の免震板10a,10b,10c,10dの上端部同士が重なっている上端部12に、減衰作動部11を構成する連結部13が固定される。また、4枚の免震板10a,10b,10c,10dの下端部同士が重なっている部位に下部基板14が固定されており、下部基板14はダンパー用下部構造体5に固定されている。
【0017】
減衰作動部11は、
図3に示すように、減衰部材10の上端部12に固定された連結部13と、連結部13の上部に同軸に固定された円板形状の変位板15と、ダンパー用上部構造体4の下面4aに固定されて変位板15の外周を囲っている円環形状の水平変位作動部材16と、水平変位作動部材16の下端に連結ボルト17で固定され、中央貫通孔18aを形成した円板形状の第1回転規制部材18と、を備えている。
連結部13は、
図2に示すように、上部連結板13a及び下部連結板13bの間に、これらより小径の円筒鋼管13cが固定されており、円筒鋼管13の外周に周方向に所定間隔を空けて固定した複数のリブ13dの上下端が上部連結板13a及び下部連結板13bに固定されている。そして、連結部13の上部連結板13aに変位板15が同軸に固定さ
れている。
【0018】
第1回転規制部材18は、2つの半円弧部材18b,18cを水平変位作動部材16に固定することで形成されている。第1回転規制部材18の外径は、水平変位作動部材16の外径と同一寸法に形成されている。第1回転規制部材18の中央貫通孔18aの内径d1は、
図4に示すように、変位板15の外径D1より小さい寸法に設定されている(d1<D1)。これにより、
図3に示すように、円板形状の変位板15の外周側は、水平変位
作動部材16の内周面、ダンパー用上部構造体4の下面4a及び第1回転規制部材18の上面18dに、水平方向及び鉛直方向から囲まれた状態で配置されている。
【0019】
また、ダンパー用上部構造体4の下面4a及び第1回転規制部材18の上面18dの鉛直方向の間隔をH1、変位板15の厚さをS1とすると、4mm ≦ H1-S1 ≦ 10mm に設定されている。
なお、本発明の構造物下部は、ダンパー用上部構造体4に対応し、本発明の基礎は、ダンパー用下部構造体5に対応している。
【0020】
次に、第1実施形態の免震構造3の作用効果について説明する。
第1実施形態の免震構造3は、常時の微小な変位や中小の地震動のときには、構造物1と基礎2との間に小さな水平方向の相対変位(以下、水平変位と称する)が発生し、免震装置9が作動することで小さな水平変位のエネルギーを吸収する。また、免震ダンパー6は、変位板15が水平面内のいずれの方向に小さく水平変位するが、変位板15は水平変位作動部材16の内周に接触せず、減衰部材10を構成する4枚の免震板10a,10b,10c,10dが変形しないので、減衰性能を発揮しない。
【0021】
一方、
図5は、大規模な地震動が発生したときの免震ダンパー6の挙動を示している。大規模な地震動が発生すると、構造物1と基礎2との間には、大きな水平変位が発生する。
大きな水平変位が発生すると、水平面内のいずれの方向に大きく水平変位した変位板15が水平変位作動部材16の内周面に接触し、免震ダンパー6の減衰部材10を構成する4枚の免震板10a,10b,10c,10dは、せん断方向変形と曲げ方向変形の両方の変形を行う。4枚の免震板10a,10b,10c,10dは、平面視において十字方向に配置されているので、大規模な地震動が水平面内のいずれの方向に作用しても、何れかの免震板10a,10b,10c,10dがせん断方向変形と曲げ方向変形の両方の変形を行うことで地震動のエネルギーを吸収し、大規模の地震動のエネルギーが直接構造物1に伝わらないようにする。
【0022】
ここで、大規模な地震動の発生により、構造物1と基礎2との間に大きな水平変位が発生すると、水平変位作動部材16の内周面に接触した変位板15には、水平面に対して傾斜しながら回転するような回転力が作用する。変位板15に回転力が作用したときに変位板15の回転が拘束されていない場合、変位板15は片持ち梁の挙動になり、変位板15に連結部13を介して固定されている4枚の免震板10a,10b,10c,10dに水平方向の力に加えて、大きな曲げモーメントが作用し、
図5の2点鎖線で示すように免震板10a,10bが過度に変形して第1回転規制部材18などに接触し、或いは座屈や破断が生じるおそれがある。
【0023】
これに対して、本実施形態は、水平変位作動部材16の内周面に接触した変位板15は、変位板15の上面の一部(
図5及び
図6の符号15aの部位)がダンパー用上部構造体4の下面4aに接触し、変位板15の下面の一部(
図5及び
図6の符号15bの部位)が第1回転規制部材18の中央貫通孔18aの上面18dの周縁に接触し、ダンパー用上部構造体4の下面4a及び第1回転規制部材18の上面18dの鉛直方向の間隔H1と変位
板15の厚さS1の関係を4mm ≦ H1-S1 ≦ 10mm に設定していることから、変位板15の回転が抑制される。
【0024】
このように、大規模な地震動が入力しても変位板15の回転が抑制されることで、4枚の免震板10a,10b,10c,10dに作用する曲げモーメントが両端固定梁の状態に抑制され、
図5の実線で示すように、正常なせん断方向変形と曲げ方向変形の両方の変形が行われることで、第1回転規制部材18などに接触するおそれがなく、部材の座屈や破断が生じないで十分なエネルギー吸収能を発揮する。
また、回転が抑制された変位板15の下面の一部(
図5及び
図6の符号15bの部位)が第1回転規制部材18の中央貫通孔18aの上面18dの周縁に接触することで、変位板15が第1回転規制部材18の中央貫通孔18aから外部に抜け出ることがない。
【0025】
したがって、本実施形態の免震ダンパー6は、大規模な地震動の発生により構造物1と基礎2との間に大きな水平変位が発生しても、ダンパー用上部構造体4の下面4a及び第1回転規制部材18の上面18dに変位板15が接触することで、変位板15の回転が抑制されるので、変位板15に連結部13を介して固定されている減衰部材10には両端固定梁の状態での抑制された曲げモーメントが伝達され、正常なせん断方向変形と曲げ方向変形の両方の変形が行われるとともに、変位板15が第1回転規制部材18の中央貫通孔18aから外部に抜け出ることがないので、正常な減衰性能を発揮して大規模な地震動のエネルギーを吸収することができる。
【0026】
また、水平変位作動部材16及び第1回転規制部材18は円筒形に連続したものであるため、変位板15の接触点に作用する外力に対して応力が分散されて集中せず、部材が破損するおそれがない。
さらに、変位板15は円板形状であり、水平変位作動部材16は円筒形であるため、水平全方向の接触距離が一定であり、減衰部材10の挙動にばらつきがなく、正常な減衰性能が発揮できる。
【0027】
なお、第1実施形態の免震ダンパー6は、減衰部材10の下部がダンパー用下部構造体5に固定され、減衰部材10の上部に連結部13を介して減衰作動部11を構成する変位板15が固定され、ダンパー用上部構造体4の下面4aに減衰作動部11を構成する水平変位作動部材16及び第1回転規制部材18が固定されているが、本発明の要旨がこれに限定されるものではない。すなわち、ダンパー用上部構造体4の下面4aに減衰部材10の上部が固定され、減衰部材10の下部に連結部13を介して減衰作動部11を構成する変位板15が固定され、ダンパー用下部構造体5の上面に減衰作動部11を構成する水平変位作動部材16及び第1回転規制部材18が固定されている構造であっても、第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0028】
[第2実施形態]
次に、
図7から
図10は、第2実施形態の免震構造3を示している。なお、第1実施形態で示した構成と同一構成部分には同一符号を付して説明は省略する。
図7に示すように、ダンパー用上部構造体4の下面4a及び第1回転規制部材18の上面18dの鉛直方向の間隔H2と、変位板15の厚さS2の関係は、4mm ≦ H2-S2 ≦ 10mm に設定されている。また、
図8に示すように、第1回転規制部材18の中央貫通孔18aの内径d2は、変位板15の外径D2と同一寸法に設定されている(d2=D2)。
大規模な地震動の発生により、構造物1と基礎2との間に大きな水平変位が発生すると、
図9に示すように、水平変位作動部材16の内周面に接触した変位板15には、水平面に対して傾斜しながら回転するような回転力が作用する。
【0029】
本実施形態は、
図9及び
図10に示すように、水平変位作動部材16の内周面に接触した変位板15の上面の符号15aの部位が、ダンパー用上部構造体4の下面4aに接触し、変位板15の下面の符号15cで示す2箇所の部位が第1回転規制部材18の中央貫通孔18aの周縁の上面18dに接触し、ダンパー用上部構造体4の下面4a及び第1回転規制部材18の上面18dの鉛直方向の間隔H2と変位板15の厚さS2の関係を4mm ≦ H2-S2 ≦ 10mm に設定していることから、変位板15の回転が抑制される。
【0030】
このように、大規模な地震動が入力しても変位板15の回転が抑制されることで、4枚の免震板10a,10b,10c,10dに作用する曲げモーメントが両端固定梁の状態に抑制され、第1実施形態と同様に、正常なせん断方向変形と曲げ方向変形の両方の変形が行われることで、第1回転規制部材18などに接触するおそれがなく、部材の座屈や破断が生じないで十分なエネルギー吸収能を発揮する。
また、回転が抑制された変位板15の下面の2箇所の部位15cが第1回転規制部材18の中央貫通孔18aの上面18dの周縁に接触することで、変位板15が第1回転規制部材18の中央貫通孔18aから外部に抜け出ることがない。
【0031】
したがって、本実施形態の免震ダンパー6も、大規模な地震動の発生により構造物1と基礎2との間に大きな水平変位が発生しても、ダンパー用上部構造体4の下面4a及び第1回転規制部材18の上面18dに変位板15が接触することで、変位板15の回転が抑制されるので、変位板15に連結部13を介して固定されている減衰部材10には両端固定梁の状態での抑制された曲げモーメントが伝達され、正常なせん断方向変形と曲げ方向変形の両方の変形が行われるとともに、変位板15が第1回転規制部材18の中央貫通孔18aから外部に抜け出ることがない。したがって、正常な減衰性能を発揮して大規模な地震動のエネルギーを吸収することができる。
【0032】
[第3実施形態]
次に、
図11から
図14は、第3実施形態の免震構造3を示している。なお、第1実施形態で示した構成と同一構成部分には同一符号を付して説明は省略する。
図11に示すように、免震構造3は、構造物1の下部に設けたダンパー用上部構造体4と基礎2上に設けたダンパー用下部構造体5との間に設置した免震ダンパー20と、ダンパー用上部構造体4に隣接して構造物1の下部に設けた装置用上部構造体7とダンパー用下部構造体5に隣接して基礎2上に設けた装置用下部構造体8との間に設置した免震装置9と、を備えている。
【0033】
免震ダンパー20は、
図12及び
図13に示すように、減衰部材10と、減衰作動部21と、を備えている。なお、
図12では、減衰部材10の4枚の免震板10a,10b,10c,10dのうち免震板10a,10bのみを示している。
4枚の免震板10a,10b,10c,10dの上端部は、
図12に示すように、減衰作動部21を構成する変位板22に固定される。また、
図12に示すように、4枚の免震板10a,10b,10c,10dの下端部は下部基板14に固定されている。
【0034】
減衰作動部21は、
図12に示すように、中央貫通孔22aを設けている前述した変位板22と、ダンパー用上部構造体4の下面4aに固定された平板形状の第1回転規制部材23と、第1回転規制部材23に固定されて変位板22の中央貫通孔22aを通過して下方に延在している円柱形状の水平変位作動部材24と、水平変位作動部材24の下端に固定され、変位板22の下面に接触しながら第1回転規制部材23に対向している円板形状の第2回転規制部材25と、を備えている。
【0035】
図13に示すように、変位板22の中央貫通孔22aの内径d3は、第2回転規制部材
25の外径D3以下の寸法に設定されている(d3≦D3)。
また、
図12に示すように、変位板22の厚さをS3、第1回転規制部材23の下面と第2回転規制部材25の上面との鉛直方向の間隔をH3とすると、4mm ≦ H3-S3
≦ 10mm に設定されている。
【0036】
次に、第3実施形態の免震構造3の作用効果について説明する。
第3実施形態の免震構造3は、常時の微小な変位や中小の地震動のときには、免震装置9が作動することで水平変位のエネルギーを吸収する。また、免震ダンパー20は、減衰作動部21の水平変位作動部材24が水平面内のいずれの方向に小さく水平変位するが、水平変位作動部材24が変位板22の中央貫通孔22aに接せず、減衰部材10を構成する4枚の免震板10a,10b,10c,10dが変形しないので、減衰性能を発揮しない。
【0037】
大規模な地震動が発生し、構造物1と基礎2との間に大きな水平変位が発生すると、
図14に示すように、水平面内のいずれの方向に大きく水平変位した水平変位作動部材24が変位板22の中央貫通孔22aに接触し、変位板22が水平方向に変位する。これにより、4枚の免震板10a,10b,10c,10dがせん断方向変形と曲げ方向変形の両方の変形が行われ、地震動のエネルギーを吸収することで、大規模の地震動のエネルギーが直接構造物1に伝わらないようにする。
【0038】
ここで、本実施形態は、水平変位作動部材24に接触した変位板22は、変位板22の下面の一部(
図14の符号22bの部位)が第2回転規制部材25の上面に接触し、変位板22の上面の一部(
図14の符号22cの部位)が第1回転規制部材23の下面に接触し、第1回転規制部材23の下面と第2回転規制部材25の上面との鉛直方向の間隔H3と変位板22の厚さS3の関係を4mm ≦ H3-S3 ≦ 10mm に設定していることから、変位板22が水平面に対して傾斜しながら回転するような挙動を、第1回転規制部材23及び第2回転規制部材25が抑制している。
【0039】
このように、大規模な地震動が入力しても変位板22の回転が抑制されることで、4枚の免震板10a,10b,10c,10dに作用する曲げモーメントが両端固定梁の状態に抑制され、正常なせん断方向変形と曲げ方向変形の両方の変形を行うことで、ダンパー用上部構造体4の下面4aなどに接触するおそれがなく、免震板10a,10b,10c,10dに座屈や破断が生じることがないため、十分なエネルギー吸収能が発揮される。
【0040】
したがって、本実施形態の免震ダンパー20は、大規模な地震動の発生により構造物1と基礎2との間に大きな水平変位が発生しても、変位板22の回転が抑制されるので、変位板22が固定している減衰部材10に作用する曲げモーメントが両端固定梁の状態に抑制され、正常なせん断方向変形と曲げ方向変形の両方の変形が行われ、常に、正常な減衰性能を発揮することができる。
【0041】
なお、第3実施形態の免震ダンパー20は、減衰部材10の下部がダンパー用下部構造体5に固定され、減衰部材10の上部に減衰作動部21を構成する変位板22が固定され、ダンパー用上部構造体4の下面4aに減衰作動部21を構成する第1回転規制部材23、水平変位作動部材24及び第2回転規制部材25が固定されているが、本発明の要旨がこれに限定されるものではない。すなわち、ダンパー用上部構造体4の下面4aに減衰部材10の上部が固定され、減衰部材10の下部に減衰作動部21を構成する変位板22が固定され、ダンパー用下部構造体5の上面に減衰作動部21を構成する第1回転規制部材23、水平変位作動部材24及び第2回転規制部材25が固定されている構造であっても、第2実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0042】
1 構造物
2 基礎
3 免震構造
4 ダンパー用上部構造体
4a ダンパー用上部構造体の下面
5 ダンパー用下部構造体
6 免震ダンパー
7 装置用上部構造体
8 装置用下部構造体
9 免震装置
10 減衰部材
10a,10b,10c,10d 免震板
11 減衰作動部
12 上端部
13 連結部
13a 上部連結板
13b 下部連結板
13c 円筒鋼管
13d リブ
14 下部基板
15 変位板
16 水平変位作動部材
17 連結ボルト
18 第1回転規制部材
18a 中央貫通孔
18b,18c 半円弧部材
20 免震ダンパー
21 減衰作動部
22 変位板
22a 中央貫通孔
23 第1回転規制部材
24 水平変位作動部材
25 第2回転規制部材
d1,d2,d3 中央貫通孔の内径
D1,D2 変位板の外径
D3 第2回転規制部材の外径
S1,S2,S3 変位板の厚さ
H1 ダンパー用上部構造体の下面及び回転拘束部材の上面の鉛直方向の間隔
H2 第1回転規制部材及び第2回転規制部材の鉛直方向の間隔
H3 第1回転規制部材の下面と第2回転規制部材の上面との鉛直方向の間隔