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特開2025-7383樹脂成形品の応力緩和率を算出する方法、樹脂成形品における流動直交方向の応力緩和率を算出する方法、樹脂成形品の製造方法、樹脂材料の応力緩和率を最大限に発現し得る成形プロセスを決定する方法、樹脂成形品の応力緩和を考慮した弾性率を算出する方法、および樹脂成形品の寿命を予測する方法
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  • 特開-樹脂成形品の応力緩和率を算出する方法、樹脂成形品における流動直交方向の応力緩和率を算出する方法、樹脂成形品の製造方法、樹脂材料の応力緩和率を最大限に発現し得る成形プロセスを決定する方法、樹脂成形品の応力緩和を考慮した弾性率を算出する方法、および樹脂成形品の寿命を予測する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007383
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】樹脂成形品の応力緩和率を算出する方法、樹脂成形品における流動直交方向の応力緩和率を算出する方法、樹脂成形品の製造方法、樹脂材料の応力緩和率を最大限に発現し得る成形プロセスを決定する方法、樹脂成形品の応力緩和を考慮した弾性率を算出する方法、および樹脂成形品の寿命を予測する方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/76 20060101AFI20250109BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
B29C45/76
B29C45/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023108741
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003421
【氏名又は名称】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】束田 拓平
(72)【発明者】
【氏名】土田 浩喜
【テーマコード(参考)】
4F206
【Fターム(参考)】
4F206AD03
4F206AD05
4F206AM23
4F206AM35
4F206AP06
4F206AP11
4F206AR02
4F206AR06
4F206AR08
4F206JA07
4F206JB12
4F206JL09
4F206JM05
4F206JN21
4F206JP11
4F206JP13
4F206JP17
4F206JW50
(57)【要約】      (修正有)
【課題】樹脂固化過程で発生する応力緩和を簡便に、かつ定量的に評価できる樹脂成形品の応力緩和率の算出方法を提供する。
【解決手段】樹脂成形品10の冷却過程でのスプリングイン変形を用い、応力緩和率を算出する。コーナー部11を有する樹脂成形品を取り出し、かつコーナー部の内側面に拘束治具30が接した状態で、樹脂成形品を所定の温度まで冷却する工程と、同じ樹脂材料、形状を有し、かつ同じ条件で成形された樹脂成形品を取り出した状態で、拘束治具を用いずに樹脂成形品を前記所定の温度まで冷却する工程と、冷却前のコーナー部の外角度θorigin、冷却後に樹脂成形品から拘束治具を取り外した状態でコーナー部の外角度θconst、冷却後にコーナー部の外角度θfreeを実測する工程と、実測したθorigin、θconst、およびθfreeに基づいて、冷却後の樹脂成形品の応力緩和率Relaxθ(%)を算出する工程と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型を用いて成形された樹脂成形品の冷却過程での前記樹脂成形品のスプリングイン変形を用いて前記樹脂成形品の応力緩和率を算出する方法であって、
金型から、成形されたコーナー部を有する第1樹脂成形品を取り出し、または前記金型内に前記第1樹脂成形品が存在する状態で、かつ前記コーナー部の内側面に拘束治具が接している状態で、前記第1樹脂成形品を所定の温度まで冷却する工程と、
金型から、前記第1樹脂成形品と同じ樹脂材料を用い、同じ形状を有し、かつ同じ条件で成形されたコーナー部を有する第2樹脂成形品を取り出し、前記第2樹脂成形品の前記コーナー部の内側面に前記拘束治具が接していない状態で、前記第2樹脂成形品を前記所定の温度まで冷却する工程と、
冷却する前の前記第1樹脂成形品の前記コーナー部の外角度θorigin(°)を実測する工程と、
前記所定の温度まで冷却した後に前記第1樹脂成形品から前記拘束治具を取り外した状態で、前記第1樹脂成形品の前記コーナー部の外角度θconst(°)を実測する工程と、
前記所定の温度まで冷却した後に前記第2樹脂成形品の前記コーナー部の外角度θfree(°)を実測する工程と、
実測したθorigin、θconst、およびθfreeに基づいて、下記式(1)から前記所定の温度まで冷却した後の前記拘束治具を取り外した状態での前記第1樹脂成形品の応力緩和率Relaxθ(%)を算出する工程と、
を含む、方法。
【数1】
【請求項2】
少なくとも1つの前記第1樹脂成形品および少なくとも1つの前記第2樹脂成形品を一組としたとき、前記第1樹脂成形品および前記第2樹脂成形品の組が複数存在し、前記冷却における冷却条件が、前記第1樹脂成形品を構成する樹脂材料の結晶化温度およびガラス転移温度のいずれか高い温度以下の温度領域において、前記組毎に異なる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記冷却条件が、冷却速度および前記拘束治具による拘束時間の少なくともいずれかに関する条件である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1つの前記第1樹脂成形品および少なくとも1つの前記第2樹脂成形品を一組としたとき、前記第1樹脂成形品および前記第2樹脂成形品の組が複数存在し、前記第1樹脂成形品および前記第2樹脂成形品の成形条件が、前記組毎に異なる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記成形条件が、インサート治具の有無、金型からの脱型温度、保圧力および射出速度の少なくともいずれかに関する条件である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記拘束治具が、インサート治具または金型構造自体である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
金型を用いて成形された樹脂成形品の冷却過程での前記樹脂成形品のスプリングイン変形を用いて、前記樹脂成形品における成形の際の樹脂材料の流動方向と直交する方向である流動直交方向の応力緩和率を算出する方法であって、
請求項1に記載の方法によって、前記所定の温度まで冷却した後の前記拘束治具を取り外した状態での前記第1樹脂成形品の前記応力緩和率Relaxθを算出する工程と、
前記第1樹脂成形品と同じ樹脂材料を用い、かつ同じ条件で成形され、前記所定の温度まで冷却した第3樹脂成形品において、成形時の前記樹脂材料の流動方向の成形収縮率と、前記流動方向と直交する方向である流動直交方向の成形収縮率をそれぞれ実測する工程と、
実測した前記第3樹脂成形品の前記流動方向の成形収縮率および前記流動直交方向の成形収縮率を用いて、前記第1樹脂成形品のCAE解析用データおよび前記第2樹脂成形品のCAE解析用データを得る工程と、
前記第1樹脂成形品および前記第2樹脂成形品を複数の要素に分割したCAE解析用モデルをそれぞれ作製する工程と、
前記CAE解析用データを用いて、それぞれの前記CAE解析用モデルに対してCAE解析を行って、請求項1で規定されるθorigin、θconst、およびθfreeをそれぞれ算出する工程と、
前記第1樹脂成形品の応力緩和率Relaxθと、前記CAE解析により算出したθorigin、θconst、およびθfreeとを用いて、前記所定の温度まで冷却した後の前記拘束治具を取り外した状態での前記第1樹脂成形品の前記流動直交方向の応力緩和率を算出する工程と、
を含む、方法。
【請求項8】
前記第1樹脂成形品のCAE解析用データが、実測した前記第3樹脂成形品の前記流動方向の成形収縮率およびバイメタル法を用いて取得した流動方向の応力緩和率を用いて算出された値と、任意の係数を用いた流動直交方向の応力緩和率を用いて算出された値であり、前記第2樹脂成形品のCAE解析用データが、実測した前記第3樹脂成形品の前記流動方向の成形収縮率と、実測した前記第3樹脂成形品の前記流動直交方向の成形収縮率であり、
前記所定の温度まで冷却した後の前記第1樹脂成形品の前記流動直交方向の応力緩和率を算出する工程が、前記CAE解析により算出したθorigin、θconst、およびθfreeを用いて前記式(1)から前記第1樹脂成形品の前記流動直交方向の緩和率を算出して、前記任意の係数に応じた前記第1樹脂成形品の前記流動直交方向の緩和率の近似式を求め、実測した前記第1樹脂成形品の前記応力緩和率Relaxθを前記近似式に代入して、実測した前記第1樹脂成形品の前記応力緩和率Relaxθのときの前記流動直交方向の緩和率を算出する工程である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記第3樹脂成形品が短冊形状であり、かつ前記第3樹脂成形品の幅が前記第1樹脂成形品の幅と同じである、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
樹脂成形品の応力緩和率を算出するために用いられるコーナー部を有する樹脂成形品の製造方法であって、
金型内でコーナー部を有する第1樹脂成形品を、前記コーナー部の内側面にインサート治具が接するように成形した後に、前記第1樹脂成形品の前記コーナー部の前記内側面に前記インサート治具が接した状態のまま、前記第1樹脂成形品を所定の温度まで冷却し、前記所定の温度まで冷却した後に前記第1樹脂成形品から前記インサート治具を取り外して、第1樹脂成形品を得る工程と、
金型内でコーナー部を有する第2樹脂成形品を、前記コーナー部の内側面にインサート治具が接するように成形した後に、前記第2樹脂成形品を構成する樹脂材料の結晶化温度およびガラス転移温度のいずれか高い温度まで冷却した前記第2樹脂成形品から前記インサート治具を取り外した状態で、前記第2樹脂成形品を前記所定の温度まで冷却し、前記金型から前記第2樹脂成形品を取り出して、第2樹脂成形品を得る工程と、
を備える、樹脂成形品の製造方法。
【請求項11】
前記第1樹脂成形品を構成する樹脂材料の成形収縮率が、前記インサート治具を構成する材料の成形収縮率より大きい、請求項10に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項12】
樹脂成形品の応力緩和率を算出するために用いられるコーナー部を有する樹脂成形品の製造方法であって、
金型内でコーナー部を有する第1樹脂成形品を、前記コーナー部の内側面に前記金型の一部が接するように成形した後に、前記第1樹脂成形品の前記コーナー部の前記内側面に前記金型の一部が接した状態のまま、前記第1樹脂成形品を所定の温度まで冷却し、前記所定の温度まで冷却した後に前記金型から前記第1樹脂成形品を取り出して、第1樹脂成形品を得る工程と、
金型内でコーナー部を有する第2樹脂成形品を、前記コーナー部の内側面に前記金型の一部が接するように成形した後に、前記第2樹脂成形品を構成する樹脂材料の結晶化温度およびガラス転移温度のいずれか高い温度まで冷却した前記第2樹脂成形品を前記金型から取り出した状態で、前記第2樹脂成形品を前記所定の温度まで冷却し、第2樹脂成形品を得る工程と、
を備える、樹脂成形品の製造方法。
【請求項13】
少なくとも1つの前記第1樹脂成形品および少なくとも1つの前記第2樹脂成形品を一組としたとき、前記第1樹脂成形品および前記第2樹脂成形品の組を複数得て、前記第1樹脂成形品および前記第2樹脂成形品の成形の際の金型からの脱型温度、保圧力および射出速度の少なくともいずれかを前記組毎に変える、請求項10ないし12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項2ないし5のいずれか一項に記載の樹脂成形品の応力緩和率を算出する方法を行い、それぞれ前記応力緩和率Relaxθを算出し、算出した前記応力緩和率Relaxθの比較によって前記樹脂成形品の応力緩和率を最大限に発現し得る成形プロセスを決定する方法。
【請求項15】
コーナー部を有する樹脂成形品の応力緩和を考慮した弾性率を算出する方法であって、
請求項1に規定されている前記第1樹脂成形品を構成する樹脂材料の弾性率をEとしたとき、請求項1に記載の方法で算出した前記第1樹脂成形品の応力緩和率Relaxθ(%)と、前記弾性率Eとを用いて、前記第1樹脂成形品の前記応力緩和率Relaxθを考慮した弾性率Erelaxθ(%)を下記式(2)により算出する、方法。
Erelaxθ = (1-Relaxθ)×E0 …式(2)
【請求項16】
コーナー部を有する樹脂成形品の応力緩和を考慮した弾性率を算出する方法であって、
請求項8に記載の方法における、前記第2樹脂成形品のθfreeをCAE解析により算出する際に用いられる前記流動直交方向の成形収縮率をa(%)とし、実測した前記第1樹脂成形品の前記応力緩和率Relaxθ(%)と同じ値のCAE解析により算出された樹脂成形品10の応力緩和率Relaxθ(%)が得られるようなCAE解析の際に用いられる前記第1樹脂成形品の前記流動直交方向の成形収縮率をa(%)とし、予め測定された前記第1樹脂成形品を構成する樹脂材料の弾性率をEとしたとき、前記実測した前記第1樹脂成形品の前記応力緩和率Relaxθを考慮した弾性率Erelaxθ(%)を下記式(3)により算出する、方法。
【数2】
【請求項17】
請求項1に記載の樹脂成形品の応力緩和率を算出する方法によって算出された応力緩和率または請求項7に記載の樹脂成形品における流動直交方向の応力緩和率を算出する方法によって算出された応力緩和率を用いて、CAE解析により樹脂成形品の寿命を予測する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形品の応力緩和率を算出する方法、樹脂成形品における流動直交方向の応力緩和率を算出する方法、樹脂成形品の製造方法、樹脂材料の応力緩和率を最大限に発現し得る成形プロセスを決定する方法、および樹脂成形品の応力緩和を考慮した弾性率を算出する方法、および樹脂成形品の寿命を予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属部材と樹脂を複合したいわゆるインサート成形品は、電気制御部品、電子制御部品や金属部材の軽量化など様々な目的で自動車、電機部材や電子部品などに応用されている。このようなインサート成形品は温度変化が大きい環境で用いられた場合、樹脂と金属との線膨張差に起因する残留応力が製品の早期破壊やヒートショック割れの要因となる。このため、残留応力の定量計測やシミュレーションを用いた寿命予測が重要になる。シミュレーションを用いて射出成形後の残留応力等を予測するためには、樹脂固化過程(金型内外における冷却過程)で発生する応力緩和を考慮した物性値の取得が必要であり、そのための応力緩和特性の評価手法が検討されている。
【0003】
例えば、金型から取り出されてから冷却する過程で変動する樹脂成形品の弾性率を精度良く算出する方法として、バイメタル法による弾性率取得とThermo-DIC法(サーモグラフィとDIC法(デジタル画像相関法)を用いた方法)による収縮率取得による応力緩和特性の評価方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第7001874号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術においては、応力緩和特性の定量化には、バイメタル法とThermo-DIC法の両手法の評価に伴う計測機器の同期測定のセットアップ等が必要であり、また樹脂成形品の冷却過程における経時変化を連続的に測定する必要がある。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものである。すなわち、特殊な計測機器が不要であり、連続的な計測が不要であり、樹脂成形品の冷却過程で発生する応力緩和を簡便に、かつ定量的に評価することができる樹脂成形品の応力緩和率を算出する方法、樹脂成形品の冷却過程で発生する樹脂成形品における成形の際の樹脂材料の流動方向と直交する方向である流動直交方向の応力緩和を簡便に、かつ定量的に評価することができる樹脂成形品における流動直交方向の応力緩和率を算出する方法、樹脂成形品の応力緩和率を算出するために用いられる樹脂成形品の製造方法、樹脂材料の応力緩和率を最大限に発現し得る成形プロセスを決定する方法、樹脂成形品の応力緩和を考慮した弾性率を算出する方法、および樹脂成形品の寿命を予測する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]金型を用いて成形された樹脂成形品の冷却過程での前記樹脂成形品のスプリングイン変形を用いて前記樹脂成形品の応力緩和率を算出する方法であって、
金型から、成形されたコーナー部を有する第1樹脂成形品を取り出し、または前記金型内に前記第1樹脂成形品が存在する状態で、かつ前記コーナー部の内側面に拘束治具が接している状態で、前記第1樹脂成形品を所定の温度まで冷却する工程と、金型から、前記第1樹脂成形品と同じ樹脂材料を用い、同じ形状を有し、かつ同じ条件で成形されたコーナー部を有する第2樹脂成形品を取り出し、前記第2樹脂成形品の前記コーナー部の内側面に前記拘束治具が接していない状態で、前記第2樹脂成形品を前記所定の温度まで冷却する工程と、冷却する前の前記第1樹脂成形品の前記コーナー部の外角度θorigin(°)を実測する工程と、前記所定の温度まで冷却した後に前記第1樹脂成形品から前記拘束治具を取り外した状態で、前記第1樹脂成形品の前記コーナー部の外角度θconst(°)を実測する工程と、前記所定の温度まで冷却した後に前記第2樹脂成形品の前記コーナー部の外角度θfree(°)を実測する工程と、実測したθorigin、θconst、およびθfreeに基づいて、下記式(1)から前記所定の温度まで冷却した後の前記拘束治具を取り外した状態での前記第1樹脂成形品の応力緩和率Relaxθ(%)を算出する工程と、を含む、方法。
【数1】
【0008】
[2]少なくとも1つの前記第1樹脂成形品および少なくとも1つの前記第2樹脂成形品を一組としたとき、前記第1樹脂成形品および前記第2樹脂成形品の組が複数存在し、前記冷却における冷却条件が、前記第1樹脂成形品を構成する樹脂材料の結晶化温度およびガラス転移温度のいずれか高い温度以下の温度領域において、前記組毎に異なる、上記[1]に記載の方法。
【0009】
[3]前記冷却条件が、冷却速度および前記拘束治具による拘束時間の少なくともいずれかに関する条件である、上記[2]に記載の方法。
【0010】
[4]少なくとも1つの前記第1樹脂成形品および少なくとも1つの前記第2樹脂成形品を一組としたとき、前記第1樹脂成形品および前記第2樹脂成形品の組が複数存在し、前記第1樹脂成形品および前記第2樹脂成形品の成形条件が、前記組毎に異なる、上記[1]ないし[3]のいずれか一項に記載の方法。
【0011】
[5]前記成形条件が、インサート治具の有無、金型からの脱型温度、保圧力および射出速度の少なくともいずれかに関する条件である、上記[4]に記載の方法。
【0012】
[6]前記拘束治具が、インサート治具または金型構造自体である、上記[1]ないし[5]のいずれか一項に記載の方法。
【0013】
[7]金型を用いて成形された樹脂成形品の冷却過程での前記樹脂成形品のスプリングイン変形を用いて前記樹脂成形品における成形の際の樹脂材料の流動方向と直交する方向である流動直交方向の応力緩和率を算出する方法であって、上記[1]に記載の方法によって、前記所定の温度まで冷却した後の前記拘束治具を取り外した状態での前記第1樹脂成形品の前記応力緩和率Relaxθを算出する工程と、前記第1樹脂成形品と同じ樹脂材料を用い、かつ同じ条件で成形され、前記所定の温度まで冷却した第3樹脂成形品において、成形時の前記樹脂材料の流動方向の成形収縮率と、前記流動方向と直交する方向である流動直交方向の成形収縮率をそれぞれ実測する工程と、実測した前記第3樹脂成形品の前記流動方向の成形収縮率および前記流動直交方向の成形収縮率を用いて、前記第1樹脂成形品のCAE解析用データおよび前記第2樹脂成形品のCAE解析用データを得る工程と、前記第1樹脂成形品および前記第2樹脂成形品を複数の要素に分割したCAE解析用モデルをそれぞれ作製する工程と、前記CAE解析用データを用いて、それぞれの前記CAE解析用モデルに対してCAE解析を行って、上記[1]で規定されるθorigin、θconst、およびθfreeをそれぞれ算出する工程と、前記第1樹脂成形品の応力緩和率Relaxθと、前記CAE解析により算出したθorigin、θconst、およびθfreeとを用いて、前記所定の温度まで冷却した後の前記拘束治具を取り外した状態での前記第1樹脂成形品の前記流動直交方向の応力緩和率を算出する工程と、を含む、方法。
【0014】
[8]前記第1樹脂成形品のCAE解析用データが、実測した前記第3樹脂成形品の前記流動方向の成形収縮率およびバイメタル法を用いて取得した流動方向の応力緩和率を用いて算出された値と、任意の係数を用いた流動直交方向の応力緩和率を用いて算出された値であり、前記第2樹脂成形品のCAE解析用データが、実測した前記第3樹脂成形品の前記流動方向の成形収縮率と、実測した前記第3樹脂成形品の前記流動直交方向の成形収縮率であり、前記所定の温度まで冷却した後の前記第1樹脂成形品の前記流動直交方向の応力緩和率を算出する工程が、前記CAE解析により算出したθorigin、θconst、およびθfreeを用いて前記式(1)から前記第1樹脂成形品の前記流動直交方向の緩和率を算出して、前記任意の係数に応じた前記第1樹脂成形品の前記流動直交方向の緩和率の近似式を求め、実測した前記第1樹脂成形品の前記応力緩和率Relaxθを前記近似式に代入して、実測した前記第1樹脂成形品の前記応力緩和率Relaxθのときの前記流動直交方向の緩和率を算出する工程である、上記[7]に記載の方法。
【0015】
[9]前記第3樹脂成形品が短冊形状であり、かつ前記第3樹脂成形品の幅が前記第1樹脂成形品の幅と同じである、上記[7]または[8]に記載の方法。
【0016】
[10]樹脂成形品の応力緩和率を算出するために用いられるコーナー部を有する樹脂成形品の製造方法であって、金型内でコーナー部を有する第1樹脂成形品を、前記コーナー部の内側面にインサート治具の側面が接するように成形した後に、前記第1樹脂成形品の前記コーナー部の前記内側面に前記インサート治具の側面が接した状態のまま、前記第1樹脂成形品を所定の温度まで冷却し、前記所定の温度まで冷却した後に前記第1樹脂成形品から前記インサート治具を取り外して、第1樹脂成形品を得る工程と、金型内でコーナー部を有する第2樹脂成形品を、前記コーナー部の内側面にインサート治具が接するように成形した後に、前記第2樹脂成形品を構成する樹脂材料の結晶化温度およびガラス転移温度のいずれか高い温度まで冷却した前記第2樹脂成形品から前記インサート治具を取り外した状態で、前記第2樹脂成形品を前記所定の温度まで冷却し、前記金型から前記第2樹脂成形品を取り出して、第2樹脂成形品を得る工程と、を備える、樹脂成形品の製造方法。
【0017】
[11]前記第1樹脂成形品を構成する樹脂材料の成形収縮率が、前記インサート治具を構成する材料の成形収縮率より大きい、上記[10]に記載の樹脂成形品の製造方法。
【0018】
[12]樹脂成形品の応力緩和率を算出するために用いられるコーナー部を有する樹脂成形品の製造方法であって、金型内でコーナー部を有する第1樹脂成形品を、前記コーナー部の内側面に前記金型の一部が接するように成形した後に、前記第1樹脂成形品の前記コーナー部の前記内側面に前記金型の一部が接した状態のまま、前記第1樹脂成形品を所定の温度まで冷却し、前記所定の温度まで冷却した後に前記金型から前記第1樹脂成形品を取り出して、第1樹脂成形品を得る工程と、金型内でコーナー部を有する第2樹脂成形品を、前記コーナー部の内側面に前記金型の一部が接するように成形した後に、前記第2樹脂成形品を構成する樹脂材料の結晶化温度およびガラス転移温度のいずれか高い温度まで冷却した前記第2樹脂成形品を前記金型から取り出した状態で、前記第2樹脂成形品を前記所定の温度まで冷却し、第2樹脂成形品を得る工程と、を備える、樹脂成形品の製造方法。
【0019】
[13]少なくとも1つの前記第1樹脂成形品および少なくとも1つの前記第2樹脂成形品を一組としたとき、前記第1樹脂成形品および前記第2樹脂成形品の組を複数得て、前記第1樹脂成形品および前記第2樹脂成形品の成形の際の金型からの脱型温度、保圧力および射出速度の少なくともいずれかを前記組毎に変える、上記[10]ないし[12]のいずれか一項に記載の方法。
【0020】
[14]上記[2]ないし[5]のいずれか一項に記載の樹脂成形品の応力緩和率を算出する方法を行い、それぞれ前記応力緩和率Relaxθを算出し、算出した前記応力緩和率Relaxθの比較によって前記樹脂成形品の応力緩和率を最大限に発現し得る成形プロセスを決定する方法。
【0021】
[15]コーナー部を有する樹脂成形品の応力緩和を考慮した弾性率を算出する方法であって、上記[1]に規定されている前記第1樹脂成形品を構成する樹脂材料の弾性率をEとしたとき、請求項1に記載の方法で算出した前記第1樹脂成形品の応力緩和率Relaxθ(%)と、前記弾性率Eとを用いて、前記第1樹脂成形品の前記応力緩和率Relaxθを考慮した弾性率Erelaxθ(%)を下記式(2)により算出する、方法。
Erelaxθ = (1-Relaxθ)×E0 …式(2)
【0022】
[16]コーナー部を有する樹脂成形品の応力緩和を考慮した弾性率を算出する方法であって、上記[8]に記載の方法における、前記第2樹脂成形品のθfreeをCAE解析により算出する際に用いられる前記流動直交方向の成形収縮率をa(%)とし、実測した前記第1樹脂成形品の前記応力緩和率Relaxθ(%)と同じ値のCAE解析により算出された樹脂成形品10の応力緩和率Relaxθ(%)が得られるようなCAE解析の際に用いられる前記第1樹脂成形品の前記流動直交方向の成形収縮率をa(%)とし、予め測定された前記第1樹脂成形品を構成する樹脂材料の弾性率をEとしたとき、前記実測した前記第1樹脂成形品の前記応力緩和率Relaxθを考慮した弾性率Erelaxθ(%)を下記式(3)により算出する、方法。
【数2】
【0023】
[17]上記[1]ないし[6]のいずれか一項に記載の樹脂成形品の応力緩和率を算出する方法によって算出された応力緩和率または上記[7]ないし[9]のいずれか一項に記載の樹脂成形品における流動直交方向の応力緩和率を算出する方法によって算出された応力緩和率を用いて、CAE解析により樹脂成形品の寿命を予測する方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、特殊な計測機器が不要であり、連続的な計測が不要であり、樹脂成形品の冷却過程で発生する応力緩和を簡便に、かつ定量的に評価することができる樹脂成形品の応力緩和率を算出する方法、樹脂成形品の冷却過程で発生する樹脂成形品における成形の際の樹脂材料の流動方向と直交する方向である流動直交方向の応力緩和を簡便に、かつ定量的に評価することができる樹脂成形品における流動直交方向の応力緩和率を算出する方法、樹脂成形品の応力緩和率を算出するために用いられる樹脂成形品の製造方法、樹脂材料の応力緩和率を最大限に発現し得る成形プロセスを決定する方法、樹脂成形品の応力緩和を考慮した弾性率を算出する方法、および樹脂成形品の寿命を予測する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、実施形態に係るコーナー部を有する第1樹脂成形品および第2樹脂成形品ならびに拘束治具の平面図である。
図2図2は、実施形態に係る他のコーナー部を有する第1樹脂成形品および第2樹脂成形品ならびに拘束治具の平面図である。
図3図3は、図1の第2樹脂成形品のコーナー部に拘束治具を取り外した状態の平面図である。
図4図4は、図2の第2樹脂成形品のコーナー部に拘束治具を取り外した状態の平面図である。
図5図5Aは、図1の第1樹脂成形品のθoriginを示す図であり、図5Bは、図1の第1樹脂成形品のθconstおよびスプリングイン角度を示す図であり、図5Cは、図1の第2樹脂成形品のθfreeおよびスプリングイン角度を示す図である。
図6図6は、実施形態に係る第3樹脂成形品の平面図である。
図7図7Aおよび図7Bは、バイメタル法による評価方法を説明する図である。
図8図8は、PPS樹脂組成物1からなる拘束L型成形品およびPOM樹脂組成物からなる拘束L型成形品、拘束U型成形品の経過時間に対するスプリングイン角度の変化を示す図である。
図9図9は、PPS樹脂組成物1からなる未拘束L型成形品およびPOM樹脂組成物からなる未拘束L型成形品、未拘束U型成形品の経過時間に対するスプリングイン角度の変化を示す図である。
図10図10は、PPS樹脂組成物1の試験用成形品における、バイメタル法で得られた各温度の弾性率EBi-Metal、各温度で実施した曲げ試験で得られた曲げ弾性率EBending、および成形収縮率の関係を示したグラフである。
図11図11は、実施例8に係る拘束L型成形品における流動直交方向(TD)の応力緩和率を求める際に使用するグラフである。
図12図12は、実施例9に係る拘束L型成形品における流動直交方向(TD)の応力緩和率を求める際に使用するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態に係る樹脂成形品の応力緩和率を算出する方法等について説明する。図1は、本実施形態に係るコーナー部を有する第1樹脂成形品および第2樹脂成形品ならびに拘束治具の平面図であり、図2は、本実施形態に係る他のコーナー部を有する第1樹脂成形品および第2樹脂成形品ならびに拘束治具の平面図である。図3は、図1の第2樹脂成形品のコーナー部に拘束治具を取り外した状態の平面図であり、図4は、図2の第2樹脂成形品のコーナー部に拘束治具を取り外した状態の平面図である。図5Aは、図1の第1樹脂成形品のθoriginを示す図であり、図5Bは、図1の第1樹脂成形品のθconstおよびスプリングイン角度を示す図であり、図5Cは、図1の第2樹脂成形品のθfreeおよびスプリングイン角度を示す図であり、図6は、本実施形態に係る第3樹脂成形品の平面図であり、図7Aおよび図7Bは、バイメタル法による評価方法を説明する図である。
【0027】
(A)樹脂成形品の応力緩和率の算出方法
この方法は、樹脂成形品の成形直後における冷却過程での樹脂成形品のスプリングイン(Spring-in)変形を用いて行うものである。
【0028】
まず、金型(図示せず)に樹脂材料を流し込んで、射出成形等により図1に示されるコーナー部11を有する第1樹脂成形品10(以下、単に「樹脂成形品10」と称することがある。)およびコーナー部21を有する第2樹脂成形品20(以下、単に「樹脂成形品20」と称することがある。)を得る。ここで、第1樹脂成形品10および第2樹脂成形品20の成形は、金型内に拘束治具30を配置した状態で行う。
【0029】
コーナー部11、21は、それぞれ内側面11A、21Aおよび外側面11B、21Bを有しており、内側面11A、21Aおよび外側面11B、21Bともに内側面11A、21A側に曲がっている。
【0030】
図1に示される樹脂成形品10、20は、L型部を有しているが、樹脂成形品10、20は、1以上のコーナー部11、21を有していればよく、図2に示されるように樹脂成形品10、20は、U型部を有していてもよい。U型部を有する樹脂成形品10、20は、2つのコーナー部11、21を有している。コーナー部11、21の角は、丸みを帯びていてよい。
【0031】
図1図2に示される樹脂成形品10、20は、コーナー部11、21の他、コーナー部11、21から少なくとも一方向に一続きで延びた延在部12、22をさらに備えている。図1図2においては、コーナー部11の両側から直線状の延在部12が延びている。
【0032】
図1図2に示される樹脂成形品10、20の寸法は、特に限定されない。例えば、図1に示される樹脂成形品10、20の厚みは1mm以上20mm以下であってもよく、コーナー部11、21の内側角から延在部12、22の先端までの長さLは10mm以上200mm以下であってもよく、コーナー部11、21および延在部12、22の幅W1は5mm以上50mm以下であってもよい。また、例えば、図2に示される樹脂成形品10、20の厚みは1mm以上20mm以下であってもよく、一方のコーナー部11、21の内側角と他方のコーナー部11、21の内側角までの長さL1は10mm以上200mm以下であってもよく、コーナー部11、21の内側角から延在部12、22の先端までの長さL2は10mm以上200mm以下であってもよく、コーナー部11、21および延在部12、22の幅W1は5mm以上50mm以下であってもよい。
【0033】
樹脂成形品10と樹脂成形品20は、同じ形状となっている。また、樹脂成形品10と樹脂成形品20は、同じ樹脂材料から構成されており、また同じ成形条件で成形されている。
【0034】
樹脂成形品10、20は、樹脂材料からなる成形品であるが、樹脂材料は特に限定されない。また、複数の樹脂材料をブレンドした樹脂混合物も上記樹脂材料に含まれる。さらに、樹脂に対してガラス繊維、炭素繊維等の無機充填剤、核剤、カーボンブラック、無機焼成顔料等の顔料、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤および難燃剤等の添加剤を添加して、所望の特性を付与した樹脂材料も含まれる。
【0035】
樹脂材料としては、熱可塑性樹脂を用いることが可能である。熱可塑性樹脂としては、結晶性熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0036】
拘束治具30は、拘束治具30の側面30Aがコーナー部11、21の内側面11A、21Aに接している。拘束治具30の形状は、側面30Aがコーナー部11の内側面11Aに接していれば、特に限定されず、例えば、図1に示されるようにコーナー部11、21の角度が直角の樹脂成形品10であれば、直角のコーナー部を有する拘束治具が挙げられる。
【0037】
拘束治具30の構成材料は、特に限定されないが、例えば、金属や樹脂が挙げられる。拘束治具30の変形を抑制する点からは金属製の拘束治具の方が好ましく、また容易に作製できる点からは樹脂製の拘束治具が好ましい。拘束治具30が樹脂製である場合には、拘束治具30を構成する樹脂材料は、樹脂成形品10を構成する樹脂材料の融点もしくは軟化点温度のいずれか高い方の温度以上の融点もしくは軟化点温度を有する必要がある。拘束治具30を構成する樹脂材料と樹脂成形品10を構成する樹脂材料は、同じ樹脂材料であってもよい。
【0038】
後述するように、金型から樹脂成形品10を拘束治具30とともに取り出した後に、樹脂成形品10を拘束治具30で拘束した状態で樹脂成形品10を冷却するが、樹脂成形品10が成形収縮率の小さい樹脂材料から構成されている場合、拘束治具30への抱き着きが弱く、金型から樹脂成形品10および拘束治具30を取り出す際に拘束治具30が樹脂成形品10から外れてしまう可能性がある。従って、樹脂成形品10の構成材料の成形収縮率が、拘束治具30の構成材料の収縮率(=温度変化ΔT×線膨張係数)よりも大きい組み合わせを選ぶことが好ましい。例えば、成形対象として高充填ポリフェニレンサルファイド樹脂のように極めて収縮率が小さい樹脂材料を用いる場合には、拘束治具30の構成材料としてポリフェニレンサルファイド樹脂を用いることで樹脂成形品10と拘束治具30の接触界面が射出熱で再溶融して弱い溶着状態を作ることができるため、樹脂成形品10からの拘束治具30の外れを抑制することが可能となる。
【0039】
拘束治具30の大きさは、特に限定されないが、拘束治具30は、図1図2に示されるように樹脂成形品10の延在部12の先端面12Aと平行となる位置まで存在していることが好ましい。
【0040】
金型のキャビティ内に配置された拘束治具は、樹脂材料の流動圧力によって、流されてしまうことや破損することがある。このため、確実に金型のキャビティ内の所定位置に拘束治具30を保持するために拘束治具30に数mmのボス部を設けることが好ましい。金型可動面側に拘束治具30のボス部をキャビティのエジェクターピンと位置合わせして、はめ込むことにより、確実に拘束治具30をキャビティ内に固定できる。
【0041】
次に、金型から、応力緩和率の測定対象とする樹脂成形品10、20を拘束治具30とともに取り出して、樹脂成形品10、20を冷却する。
【0042】
樹脂成形品10においては、金型から樹脂成形品10を拘束治具30とともに取り出した後、コーナー部11の内側面11Aに拘束治具30が接した状態(拘束状態)で所定の温度まで冷却する。樹脂成形品10がスプリングイン変形すると、コーナー部11の内側面11Aが拘束治具30の側面30Aに押し付けられる。拘束治具30を接した状態で樹脂成形品10を冷却することにより、樹脂成形品10の残留応力を緩和することができる。所定の温度としては、室温(例えば27℃)が挙げられるが、室温に限らず、金型から樹脂成形品10を取り出した後の樹脂成形品10の冷却中の温度(室温以上の温度)であってもよい。所定の温度が、冷却後の室温であっても、冷却中の室温以上の温度であっても、樹脂成形品10、20を用いることにより、樹脂成形品10の応力緩和率を求めることが可能である。
【0043】
樹脂成形品20においては、金型から樹脂成形品20を拘束治具30とともに取り出した後、樹脂成形品20から拘束治具30を取り外して、コーナー部21の内側面21Aに拘束治具30が接していない状態(未拘束状態)で上記所定の温度まで冷却する。冷却条件は、拘束治具30を用いないこと以外は、樹脂成形品10の冷却条件と同様とする。
【0044】
樹脂成形品10においては、冷却前に図5Aに示される樹脂成形品10のコーナー部11の外角度θorigin(°)を実測し、また冷却後に、樹脂成形品10から拘束治具30を取り外した状態で、図5Bに示される樹脂成形品10のコーナー部11の外角度θconst(°)を実測する。図5Aにおいては、コーナー部11の外角度θoriginは、90°となっているが、0°を超え180°以下の範囲であれば、特に限定されない。なお、本明細書の「コーナー部の外角度」とは、図5A図5Cに示されるように樹脂成形品を平面視したときのコーナー部の外側面で挟まれる内側の角度を意味する。また、樹脂成形品20においては、冷却後に図5Cに示される樹脂成形品20のコーナー部21の外角度θfree(°)を実測する。
【0045】
ここで、樹脂成形品10のスプリングイン角度(°)は、θorigin-θconstで表される。樹脂成形品20のスプリングイン角度(°)は、θorigin-θfreeで表される。スプリングイン角度は、コーナー部を有する樹脂成形品の内倒れの指標となるものである。
【0046】
そして、樹脂成形品10のθoriginおよびθconst、樹脂成形品20のθfreeをそれぞれ実測した後、実測したθorigin、θconst、およびθfreeに基づいて、以下の式(1)から樹脂成形品10の応力緩和率Relaxθ(%)を算出する。
【数3】
【0047】
本実施形態によれば、式(1)に基づいて樹脂成形品10の応力緩和率Relaxθを算出するので、特殊な計測機器が不要であり、また連続的な計測が不要であり、製品寿命を予測する上で重要となる樹脂固化過程(冷却過程)で発生する応力緩和特性を簡便に、かつ定量的に評価することができる。
【0048】
上記方法においては、樹脂成形品10、20を1つずつ用いて樹脂成形品10の応力緩和率を算出しているが、少なくとも1つの樹脂成形品10および少なくとも1つの樹脂成形品20を一組として、複数組を用いて組毎に樹脂材料、冷却条件、および成形条件の少なくともいずれかを変更して樹脂成形品10の応力緩和率を算出してもよい。組毎に樹脂材料、冷却条件、および成形条件の少なくともいずれかを変更して得られた樹脂成形品10の応力緩和率を比較することによって、樹脂材料、冷却条件、および成形条件の少なくともいずれかが応力緩和特性に与える影響について簡便に定量化できる。一組を、2以上の第1樹脂成形品10および2以上の第2樹脂成形品20から構成する場合、第1樹脂成形品10のθoriginおよびθconstは、2以上の第1樹脂成形品10のθoriginの算術平均値およびθconstの算術平均値とし、第2樹脂成形品20のθfreeは、2以上の第2樹脂成形品のθfreeの算術平均値とする。
【0049】
冷却条件としては、例えば、冷却速度や拘束治具30による拘束時間に関する条件が挙げられる。冷却速度に関しては、異なる冷却速度(例えば、徐冷(空冷)、水冷、超徐冷)で冷却することにより、冷却条件が与える影響について簡便に応力緩和特性の定量化が可能となる。ここで、超徐冷とは、2℃/min程度の冷却速度を意味する。拘束時間に関しては、異なる拘束時間で拘束治具30による拘束を行うことにより、拘束時間が応力緩和特性に与える影響について簡便に定量化できる。
【0050】
成形条件としては、例えば、インサート治具の有無、金型からの脱型温度、保圧力および射出速度の少なくともいずれかに関する条件が挙げられる。インサート治具の有無の条件に関しては、インサート治具を使用した場合と使用しない場合で成形した場合において、インサート治具が応力緩和特性に与える影響について簡便に定量化できる。金型からの脱型温度に関しては、異なる温度で樹脂成形品を金型から取り出すことにより、脱型温度が応力緩和特性に与える影響について簡便に定量化できる。保圧条件に関しては、異なる保圧力で樹脂成形品を保圧することにより、保圧力が応力緩和特性に与える影響について簡便に定量化できる。射出速度に関しては、異なる射出速度で樹脂を射出することにより、射出速度が応力緩和特性に与える影響について簡便に定量化できる。
【0051】
上記方法においては、金型から樹脂成形品10および拘束治具30を取り出した後に、樹脂成形品10を冷却しているが、樹脂成形品10および拘束治具30を金型から取り出さずに、金型内で樹脂成形品10を冷却してもよい。また、拘束治具30は、成形の際に用いられるインサート治具であってもよく、また金型構造自体であってもよい。
【0052】
(B)樹脂成形品の流動直交方向の応力緩和率の算出方法
ガラス繊維等の添加剤を含むコーナー部を有する樹脂成形品における残留変形発現の要因は、主に添加剤(例えば繊維)の配向分布に由来した成形収縮の異方性(樹脂成形品10の成形の際の樹脂材料の流動方向(FD)と流動方向(FD)と直交する方向である流動直交方向(TD)の収縮率差)にあると考えられている。なお、コーナー部を有する樹脂成形品がガラス繊維等の添加剤を含んでいなくとも、異方性が発現する樹脂材料から成形することやコーナー部を有する樹脂成形品の成形時に温度分布を設けることによって同様の変形が発現する。
【0053】
また、下記式(4)で示されるスプリングイン角度の理論式によれば、スプリングイン角度は、弾性率(成形品の剛性)には依存せず、成形収縮の異方性(FDとTDの収縮率差)と温度変化に依存することが理解できる。
【数4】
上記式(4)中、Δθはスプリングイン角度、θはコーナー部の角度、αは熱膨張率、ΔTは温度変化、Δεはひずみ変化量、Φは硬化収縮ひずみ、添字lは面内方向、添字Tは面外方向を表す。
【0054】
上記(A)樹脂成形品10の応力緩和率の算出方法においては、樹脂成形品10の応力緩和率を算出することができるが、この方法は、見掛け上の収縮率を低下させることで応力緩和現象を表現したものである。すなわち、算出された応力緩和率はマクロな応力緩和率となる。
【0055】
これに対し、以下の方法では、樹脂成形品10の成形の際の樹脂材料の流動直交方向(TD)の応力緩和率を算出することができるので、よりミクロな影響を評価することができる。
【0056】
(ステップ1)上記(A)樹脂成形品10の応力緩和率の算出方法の欄に記載された手順に従って、コーナー部11を有する樹脂成形品10の応力緩和率Relaxθを算出する。
【0057】
(ステップ2)図6に示されるように、樹脂成形品10、20の樹脂材料と同じ樹脂材料から成形した第3樹脂成形品40(以下、単に「樹脂成形品40」と称することがある。)を用意して、樹脂成形品40の成形収縮率を実測する。具体的には、樹脂成形品40において、樹脂成形品40の成形の際の樹脂材料の流動方向(FD)の成形収縮率と流動直交方向(TD)の成形収縮率をそれぞれ実測する。
【0058】
樹脂成形品40は、樹脂成形品10、20と同じ成形条件で成形されるが、形状は樹脂成形品10、20と同じでなくともよい。例えば、図6に示されるように樹脂成形品40は、コーナー部を有さない短冊形状であってよい。ただし、図6に示される樹脂成形品40の幅W2は、樹脂成形品10の幅W1および樹脂成形品20の幅W1と同じであることが望ましい。樹脂成形品40の流動方向(FD)および流動直交方向(TD)の成形収縮率は、寸法測定機器やThermo-DIC法(サーモグラフィとDIC法(デジタル画像相関法)を用いた方法)を用いて実測することが可能である。
【0059】
(ステップ3)樹脂成形品10、20のCAE(Computer Aided Engineering)解析用モデルを作製する。樹脂成形品10のCAE解析用モデルと樹脂成形品20のCAE解析用モデルは同一であり、入力物性値のみ変化させる。CAE解析用モデルは、汎用有限要素ソフトウェア(例えば、アンシス社製のANSYS(登録商標)、シーメンス社製のNX NASTRAN、株式会社アライドエンジニアリング製のADVENTURECluster、ダッソー・システムズ社製のAbaqus等)を用いて作製することができる。
【0060】
(ステップ4)ステップ2で実測した樹脂成形品40の流動方向(FD)および流動直交方向(TD)の成形収縮率から以下のステップ4-1、ステップ4-2の手順に沿ってCAE解析用データを取得して、このCAE解析用データをステップ3で作製したCAE解析用モデルに入力して、CAE解析により樹脂成形品10のθoriginおよびθconst、樹脂成形品20のθfreeをそれぞれ算出する。
【0061】
(ステップ4-1)樹脂成形品20のCAE解析においては、ステップ2で取得した流動方向(FD)の成形収縮率および流動直交方向(TD)の成形収縮率をそのままCAE解析データとして使用する。
【0062】
(ステップ4-2)樹脂成形品10のCAE解析においては、ステップ2で取得した成形収縮率を以下のステップ4-2-1およびステップ4-2-2のように減少させてCAE解析データとして使用する。ここで、成形収縮率を減少させることとしたのは、実際の樹脂成形品10においては、拘束治具30の拘束による影響で応力が緩和されるからである。
【0063】
(ステップ4-2-1)CAE解析データとして用いる樹脂成形品10の流動方向(FD)の収縮率(%)を、以下の式(5)から算出する。
FDの収縮率=(ステップ2で取得したFDの成形収縮率)×(100-バイメタル法を用いて算出した応力緩和率)÷100 …式(5)
【0064】
ここで、上記「バイメタル法」とは、樹脂材料の弾性率を算出する一手法である。一般にバイメタルとは、熱膨張係数の異なる2枚の金属板を接合した一種の複合金属材料であり、温度変化によって湾曲する性質を有する。しかし、バイメタルの性質は金属板に限らず、熱膨張係数が異なる材料の2枚の板を接合させた接合板は同様の性質を有する。そこで、バイメタル法では、弾性率の算定対象の樹脂成形品10に含まれる樹脂材料の熱膨張係数とは異なる熱膨張係数の材料を含む一次側板と、樹脂成形品10と同一の樹脂材料を含む二次側板と、を接合させた接合板を利用して、樹脂成形品10の弾性率を算定する。
【0065】
図7Aおよび図7Bにおいて、接合板50の一次側板51および二次側板52の熱膨張係数をそれぞれα,αとし、接合板50の一次側板51および二次側板52の弾性率(縦弾性係数)をそれぞれE,Eとする。また、接合板50の一次側板51および二次側板52の板厚をそれぞれ、h,hとし、接合板50の板厚をh(=h+h)とする。このとき、接合板50を金型から取り出してから冷却する過程において、接合板50の樹脂成形品10を金型から取り出した直後の温度をT、室温をT、温度Tにおける接合板50の長さをL、温度Tでの曲率半径をrとする。弾性率比m=E/E、板厚比n=h/hとする。このとき、接合板50の変位量(反り量)Dは、幾何学的に以下の式(6)から求められる。なお、二次側板52の熱膨張係数αは、評価対象の樹脂成形品10における成形の際の樹脂材料の流動方向(FD)の成形収縮率と等価である。
【数5】
【0066】
例えば、一次側板51としてラペロス(登録商標)LCP S135を使用し、二次側板52として、樹脂成形品10の樹脂材料を使用する。一次側板をインサート部材とするインサート成形を行い、金型から取り出してから冷却する過程において、図7Bに示される接合板50の変位量Dを逐次測定する。すなわち、所定形状(つまり、式(6)のh,h,h,Lが規定された形状)の接合板50を形成し、温度T(樹脂成形品を金型から取り出した直後の温度と同じ)から温度T(例えば室温)まで温度を変化させたときの接合板の変位量Dを逐次測定する。接合板の変位量Dは、評価対象の組成物からなる二次側板52の緩和弾性率が反映された値となる。すなわち、測定された変位量Dに基づいて二次側板の弾性率を算定することで、算定される二次側板の弾性率は、評価対象の組成物を金型から取り出してから冷却する過程での粘弾性の挙動が考慮されたものとなる。
【0067】
バイメタル法で算出される弾性率は、応力緩和の影響が含まれているので、曲げ試験等の固化完了品を対象とした力学試験で得られる弾性率よりも低い。バイメタル法での各温度における応力緩和率は、バイメタル法の各温度における弾性率をEBi-Metalと定義し、各温度で実施した曲げ試験で得られた曲げ弾性率EBendingと定義したとき、以下の式(7)から求められるので、式(7)を用いて所定の温度(室温)の応力緩和率を求める。なお、曲げ試験は、JIS K7171:2016に準拠した3点曲げ試験を意味する。
応力緩和率(%) = (1- (EBi-Metal / EBeinding) ) × 100 …式(7)
【0068】
(ステップ4-2-2)CAE解析データとして用いる樹脂成形品10の流動直交方向(TD)の収縮率(%)は、以下の式(8)で算出するものとする。ここで、バイメタル法を用いた方法では、同一材料における異方性について考慮できないため、応力緩和を考慮した流動方向(FD)のみ評価可能であり、流動直交方向(TD)については評価できない。このため、以下のような式(8)を用いて評価を行う。
TDの収縮率=(ステップ2で取得したTDの成形収縮率)×(任意の係数:0~1) …式(8)
上記式(8)中、任意の係数が1である場合にはTDの応力緩和率が0%、すなわち応力緩和が無いことを意味し、任意の係数が0である場合にはTDの応力緩和率が100%であることを意味する。
【0069】
(ステップ5)それぞれのCAE解析によって得られた樹脂成形品10のθoriginおよびθconst、樹脂成形品20のθfreeを用いてCAE解析によって樹脂成形品10の応力緩和率を上記式(1)から算出する。そして、CAE解析によって得られた樹脂成形品10の応力緩和率と上記式(8)で設定した任意の係数に応じた流動直交方向(TD)の緩和率との関係性をプロットし、近似式を取得する。
【0070】
(ステップ6)ステップ1で算出した実測した冷却後の拘束治具30を取り外した状態の樹脂成形品10の応力緩和率をステップ5で取得された上記近似式に代入することにより、樹脂成形品10の流動直交方向(TD)の応力緩和率を算出することができる。
【0071】
この方法によれば、これまで評価できなかった樹脂成形品10の流動直交方向(TD)の応力緩和特性の定量化が可能となる。
【0072】
上記方法においては、樹脂成形品10、20を1つずつ用いているが、少なくとも1つの樹脂成形品10および少なくとも1つの樹脂成形品20を一組として、複数組を用いて組毎に樹脂材料、冷却条件、および成形条件の少なくともいずれかを変更してもよい。組毎に樹脂材料、冷却条件、および成形条件の少なくともいずれかを変更して算出された樹脂成形品10の応力緩和率を比較することによって、樹脂材料、冷却条件、および成形条件の少なくともいずれかが応力緩和特性に与える影響について簡便に定量化できる。冷却条件や成形条件は、上記(A)樹脂成形品の応力緩和率の算出方法の欄に記載した冷却条件や成形条件と同様である。
【0073】
(C)樹脂成形品の製造方法
上記(A)樹脂成形品の応力緩和率の算出方法においては、樹脂成形品10、20を拘束治具30とともに金型から取り外した後に冷却しているが、金型内で拘束し、冷却した樹脂成形品10を得てもよい。このような樹脂成形品10を得た場合であっても、樹脂成形品10のθorigin、θconstおよび樹脂成形品20のθfreeをそれぞれ実測した後、実測したθorigin、θconstおよびθfreeに基づいて、上記と同様に式(1)から樹脂成形品10の応力緩和率Relaxθを算出することができる。
【0074】
このような場合、まず、コーナー部11を有する樹脂成形品10を成形する。具体的には、金型内でコーナー部を有する樹脂成形品10をコーナー部11の内側面11Aにインサート治具が接するように成形する。次いで、金型内で、樹脂成形品10のコーナー部11の内側面11Aにインサート治具が接した状態のまま、樹脂成形品10を所定の温度(例えば、室温)まで冷却する。冷却後に金型から樹脂成形品10を取り外し、かつ樹脂成形品10からインサート治具を取り外して、樹脂成形品10を得る。
【0075】
また、コーナー部21を有する樹脂成形品20を成形する。具体的には、金型内でコーナー部21を有する樹脂成形品20をコーナー部21の内側面21Aにインサート治具を接触させた状態で成形する。次いで、樹脂成形品20を構成する樹脂材料の結晶化温度およびガラス転移温度のいずれか高い温度まで冷却した樹脂成形品20からインサート治具を取り外した状態で、樹脂成形品20を室温まで冷却する。冷却後に、金型から樹脂成形品20を取り外して、樹脂成形品20を得る。
【0076】
上記においては、インサート治具によって、樹脂成形品10を拘束しているが、金型の一部を利用して樹脂成形品10を拘束してもよい。
【0077】
このような場合、まず、コーナー部11を有する樹脂成形品10を成形する。具体的には、金型内で樹脂成形品10のコーナー部11の内側面11Aに金型の一部が接するように成形する。次いで、樹脂成形品10のコーナー部11の内側面11Aが金型の一部に接した状態のまま、樹脂成形品10を室温まで冷却する。冷却後に、金型から樹脂成形品10を取り外して、樹脂成形品10を得る。
【0078】
また、コーナー部21を有する第2樹脂成形品20を成形する。具体的には、金型内で樹脂成形品20のコーナー部21の内側面21Aに金型の一部が接するように成形する。次いで、樹脂成形品20を構成する樹脂材料の結晶化温度およびガラス転移温度のいずれか高い温度まで冷却した樹脂成形品20を金型から取り出した状態で、樹脂成形品20を室温まで冷却して、樹脂成形品20を得る。
【0079】
上記製造方法においては、樹脂成形品10、20を1つずつ得ているが、少なくとも1つの樹脂成形品10および少なくとも1つの樹脂成形品20を一組として、複数組を用いて組毎に樹脂材料、冷却条件、および成形条件の少なくともいずれかを変更した樹脂成形品10、20を得てもよい。冷却条件や成形条件は、上記(A)樹脂成形品の応力緩和率の算出方法の欄に記載した冷却条件や成形条件と同様である。
【0080】
(D)樹脂成形品の応力緩和率を最大限に発現し得る成形プロセスの決定方法
まず、(B)樹脂成形品の流動直交方向の応力緩和率の算出方法において、上記のように複数組を用いて組毎に樹脂材料、冷却条件、および成形条件の少なくともいずれかを変更し、第1樹脂成形品10の応力緩和率Relaxθをそれぞれ算出する。そして、算出した応力緩和率Relaxθの比較によって樹脂成形品10の応力緩和率を最大限に発現し得る成形プロセスを決定する。このような方法によれば、効率良く樹脂成形品10の応力緩和率を最大限に発現し得る成形プロセスを見出すことができる。
【0081】
(E)樹脂成形品の応力緩和を考慮した弾性率の算出方法
上記(A)樹脂成形品の応力緩和率の算出方法で算出された応力緩和率および樹脂成形品を構成する樹脂材料の弾性率を用いて、または(B)樹脂成形品の流動直交方向の応力緩和率の算出方法でCAE解析により算出する際に用いられる流動直交方向(TD)の成形収縮率および実測した第1樹脂成形品10の応力緩和率Relaxθ(%)と同じ値のCAE解析により算出された樹脂成形品10の応力緩和率Relaxθ(%)が得られるようなCAE解析の際に用いられる樹脂成形品10の収縮率を用いて、以下のようにして、樹脂成形品の応力緩和を考慮した弾性率を算出することができる。
【0082】
(E1)樹脂成形品10を構成する樹脂材料の弾性率をEとしたとき、(A)樹脂成形品の応力緩和率の算出方法で算出された応力緩和率Relaxθ(%)と、弾性率Eとを用いて、樹脂成形品10の応力緩和率Relaxθを考慮した弾性率Erelaxθ(%)を下記式(2)により算出する。
Erelaxθ = (1-Relaxθ)×E0 …式(2)
【0083】
(E2)(B)樹脂成形品の流動直交方向の応力緩和率の算出方法における樹脂成形品20のθfreeをCAE解析により算出する際に用いられる流動直交方向(TD)の成形収縮率をa(%)とし、実測した樹脂成形品10の応力緩和率Relaxθ(%)と同じ値のCAE解析により算出された樹脂成形品10の応力緩和率Relaxθ(%)が得られるようなCAE解析の際に用いられる樹脂成形品10の流動直交方向(TD)の成形収縮率をa(%)とし、予め測定された樹脂成形品10を構成する樹脂材料の弾性率をEとしたとき、実測した樹脂成形品10の応力緩和率Relaxθを考慮した弾性率Erelaxθ(%)を下記式(3)により算出する。
【数6】
【0084】
ここで、成形収縮率aを変数としてCAE解析を行い、成形収縮率aと応力緩和率Relaxθの関係性を数式化しておくことが好ましい。
【0085】
応力緩和は収縮率で決定される。このため、上記(B)の方法においては収縮率に補正係数を乗じている。一方で、実際には、応力緩和は、一定のひずみ(変形)において応力(反発力)が減る現象であるので、見掛け上の弾性率が低下する挙動を示す。このため、上記式(2)や上記式(3)のように樹脂材料の弾性率に応力緩和の影響を考慮した補正係数を乗じることによって、見掛け上の弾性率を得ることができる。
【0086】
(F)樹脂成形品の寿命を予測する方法
上記(A)樹脂成形品の応力緩和率の算出方法で算出された応力緩和率または(B)樹脂成形品の流動直交方向の応力緩和率の算出方法で算出された応力緩和率を用いれば、樹脂成形品の静的破壊、疲労破壊、クリープ破壊、ヒートショック破壊、応力緩和破壊等の破壊に対する寿命を精度よく予測することができる。樹脂成形品の破壊寿命の予測には、CAE解析を用いることができる。
【実施例0087】
本発明を詳細に説明するために、以下に実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの記載に限定されない。図8は、PPS樹脂組成物1からなる拘束L型成形品およびPOM樹脂組成物からなる拘束L型成形品、拘束U型成形品の経過時間に対するスプリングイン角度の変化を示す図であり、図9は、PPS樹脂組成物1からなる未拘束L型成形品およびPOM樹脂組成物からなる未拘束L型成形品、未拘束U型成形品の経過時間に対するスプリングイン角度の変化を示す図である。図10は、ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物1の試験用成形品における、バイメタル法で得られた各温度の弾性率EBi-Metal、各温度で実施した曲げ試験で得られた曲げ弾性率EBending、および成形収縮率の関係を示したグラフであり、図11は、実施例8に係る拘束L型成形品における流動直交方向(TD)の応力緩和率を求める際に使用するグラフであり、図12は、実施例9に係る拘束L型成形品における流動直交方向(TD)の応力緩和率を求める際に使用するグラフである。
【0088】
(スプリングイン角度の測定)
まず、ガラス繊維30質量%を含むポリフェニレンサルファイド樹脂組成物1(PPS樹脂組成物1)からなる2つのL型成形品と、ガラス繊維20質量%を含むポリアセタール樹脂組成物(POM樹脂組成物)からなる6つのL型成形品および2つのU型成形品を、同じ形状の金型および同じ成形条件で成形した。ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物1からなる2つのL型成形品は、厚みが3mmであり、図1に示される長さLが70mmであり、図1に示される幅W1が10mmであった。ポリアセタール樹脂組成物からなる6つのL型成形品としては、厚みが3mmである3種類のL型成形品を2つずつ用意した。具体的には、図1に示される長さL1が70mmであり、図1に示される幅W1が10mmである成形品、長さL1が65mmであり、幅W1が15mmである成形品、長さL1が60mmであり、幅W1が20mmである成形品を2つずつ用意した。ポリアセタール樹脂組成物からなる2つのU型成形品は、厚みが3mmであり、図2に示される長さL1が50mmであり、図2に示される長さL2が65mmであり、図2に示される幅W1が15mmであった。なお、いずれのL型成形品およびU型成形品のいずれのコーナー部の外角度は90°であった。
【0089】
成形は、金型内にL型成形品およびU型成形品のコーナー部の内側面に上記ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物1からなる拘束治具が接するように拘束治具を配置した状態で行った。L型成形品を成形する際に用いた拘束治具は、厚みが3mmであり、各辺の長さが65mmである正方形状のものであった。U型成形品を成形する際に用いた拘束治具は、厚みが3mmであり、一辺の長さが65mmであり、他辺の長さが50mmの長方形状のものであった。なお、拘束治具の他辺がU型成形品の一方のコーナー部の内側角と他方のコーナー部の内側角を繋ぐ内側辺に接するように拘束治具を配置した。
【0090】
成形後、金型からL型成形品およびU型成形品を拘束治具とともに取り出した。そして、金型から取り出した2つのL型成形品およびU型成形品のうち片方のL型成形品およびU型成形品においては、拘束治具を装着した状態で室温(27℃)まで冷却した。そして、室温となった冷却後のL型成形品およびU型成形品からそれぞれ拘束治具を取り外して、冷却時に拘束治具によって拘束されていたL型成形品(以下、「拘束L型成形品」と称することもある)およびU型成形品(以下、「拘束U型成形品」と称することもあり、また拘束L型成形品および拘束U型成形品を「拘束成形品」と称することもある)において、拘束治具を取り外した時間を0時間として、0時間から500時間の所定時間でθoriginおよびθconstを実測した。また、実測したθoriginおよびθconstからスプリングイン角度を算出した。
【0091】
また、金型から取り出した他方のL型成形品およびU型成形品については、拘束治具を取り外した状態で、L型成形品およびU型成形品を室温(27℃)まで冷却した。冷却時に拘束治具によって拘束されていなかったL型成形品(以下、「未拘束L型成形品」と称することもある)およびU型成形品(以下、「未拘束U型成形品」と称することもあり、また未拘束L型成形品および未拘束U型成形品を「未拘束成形品」と称することもある)において、室温となった時間を0時間として、0時間から500時間の所定時間でθfreeを実測した。また、実測したθoriginおよびθfreeからスプリングイン角度を算出した。
【0092】
図8図9に示されるように、いずれの拘束成形品も、未拘束成形品よりスプリングイン角度が小さかった。このことから、拘束治具を用いてL型成形品およびU型成形品を用いて冷却した場合には、拘束治具を用いないで冷却した場合よりもスプリングイン変形しにくいことが理解できる。
【0093】
一方で、未拘束成形品においては、図9に示されるように、樹脂材料によらず、経過時間中で一定のスプリングイン角度を示したが、拘束成形品においては、図8に示されるように、樹脂材料によって挙動が異なることが理解できる。具体的には、ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物1からなる拘束L型成形品は、経過時間中で一定のスプリングイン角度を示したが、ポリアセタール樹脂組成物からなる拘束L型成形品や拘束U型成形品は経過時間につれてスプリングイン角度が徐々に増加していた。これは、樹脂材料のガラス転移温度(Tg)と拘束治具を取り外した温度である拘束解除温度(室温)の関係が影響しているものと考えられる。具体的には、ポリアセタール樹脂のTgは-60℃であり、室温(27℃)以下であるため、室温において拘束治具による拘束による応力緩和分が再び開放されてしまい、スプリングイン角度が徐々に増加したものと考えられる。これに対し、ポリフェニレンサルファイド樹脂のTgは90℃であり、室温以上であるため、室温においてはスプリングイン角度が変化せずに、一定であったものと考えられる。
【0094】
<実施例1~4>
(応力緩和率算出)
上記の結果から、上記ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物1からなる成形品においては、拘束L型成形品および未拘束L型成形品は、冷却により室温となった直後から時間が経過した後もスプリングイン角度は一定のまま変化しないため、上記ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物1を用いて以下の応力緩和率を求めた。
【0095】
まず、上記ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物1からなる2つのL型成形品1および2つのU型成形品1を、金型を用いてそれぞれ成形した。L型成形品1は、図1に示される長さLは65mmであり、図1に示される幅W1が15mmであった。U型成形品1は、図2に示される長さL1が50mmであり、図2に示される長さL2が65mmであり、図2に示される幅W1が15mmであった。
【0096】
また、ガラス繊維30質量%を含むポリフェニレンサルファイド樹脂組成物2(PPS樹脂組成物2)からなる2つのL型成形品2および2つのU型成形品2を、金型を用いてそれぞれ成形した。L型成形品2の寸法は、L型成形品1の寸法と同様とし、U型成形品2の寸法は、U型成形品1の寸法と同様とした。
【0097】
成形は、金型内にL型成形品およびU型成形品のコーナー部の内側面に上記ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物1からなる拘束治具が接するように拘束治具を配置した状態で行った。L型成形品1、2に装着した拘束治具は、厚みが3mmであり、各辺が65mmの正方形状のものであった。U型成形品1、2に装着した拘束治具は、厚みが3mmであり、一辺の長さが65mmであり、他辺の長さが50mmの長方形状のものであった。なお、拘束治具の他辺がU型成形品1、2の一方のコーナー部の内側角と他方のコーナー部の内側角を繋ぐ内側辺に接するように拘束治具を装着した。
【0098】
成形後、金型からL型成形品1、2およびU型成形品1、2を拘束治具とともに取り出した。そして、金型から取り出した2つのL型成形品1、2およびU型成形品1、2のうち片方のL型成形品1、2およびU型成形品1、2においては、拘束治具を装着した状態で室温(27℃)まで冷却した。
【0099】
その後、室温となった冷却後のL型成形品1、2およびU型成形品1、2からそれぞれ拘束治具を取り外して、冷却時に拘束治具によって拘束されていたL型成形品1、2(以下、「拘束L型成形品1、2」と称する)およびU型成形品1、2(以下、「拘束U型成形品1、2」と称する)において、拘束治具を取り外して、θoriginおよびθconstを実測した。
【0100】
また、金型から取り出した他方のL型成形品1、2およびU型成形品1、2については、拘束治具を取り外して、L型成形品1、2およびU型成形品1、2を室温(27℃)まで冷却した。そして、冷却時に拘束治具によって拘束されていなかったL型成形品1、2(以下、「未拘束L型成形品1、2」と称する)およびU型成形品(以下、「未拘束U型成形品1、2」と称する)において、θfreeを実測した。
【0101】
そして、実測した拘束L型成形品1のθorigin、θconstおよび未拘束L型成形品1のθfreeに基づいて、上記式(1)から拘束L型成形1の応力緩和率Relaxθ(%)を算出した。同様に、拘束L型成形品2、拘束U型成形品1、2についても、上記式(1)から応力緩和率Relaxθ(%)を算出した。
【0102】
結果を表1に示す。
【表1】
【0103】
上記表1から、上記ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物2からなるL型成形品は、上記ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物1からなるL型成形品に比べて応力緩和率Relaxθが高いことが確認され、また上記ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物2からなるU型成形品は、上記ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物1からなるU型成形品に比べて応力緩和率Relaxθが高いことが確認された。したがって、このような方法によって、材料特性における応力緩和特性を定量化できることが確認された。
【0104】
上記においては、ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物1、2からなる成形品の応力緩和率を求めたが、ポリアセタール樹脂組成物からなる成形品であっても応力緩和率を求めることは可能である。ポリアセタール樹脂は、ガラス転移温度(Tg)がマイナス温度領域に存在するが、粘弾性を引き起こすダッシュポッドが完全に凍結されないため、金型から取り出した後に、室温環境下に拘束成形品を放置すると、スプリングイン変形が徐々に回復する、すなわち応力緩和率が低下する。このような経時変化中の応力緩和率も、基準となる未拘束成形品との比較から算出できる。
【0105】
<実施例5~7>
実施例1で成形した同じ形状のL型成形品(W=15、L=65)を6つ用意し、2つ一組として三組用意した。各組の一方を拘束L型成形品とし、他方を未拘束L型成形品とした。各組においては、拘束L型成形品および未拘束L型成形品を得る際の冷却条件を変更した以外、実施例1と同様にして、拘束L型成形品および未拘束L型成形品を得た。冷却条件は、空冷、水冷、超徐冷の3種類で変更した。水冷は、L型成形品と未拘束L型成形品を水中に浸すことによって行われた。超徐冷は、L型成形品を恒温槽に入れ、恒温槽の温度(環境温度)を2℃/minで徐々に冷却することによって行われた。
【0106】
そして、各組において、上記実施例1と同様に拘束L型成形品のθorigin、θconstおよび未拘束L型成形品のθfreeを実測し、実測した拘束L型成形品のθorigin、θconstおよび未拘束L型成形品のθfreeに基づいて、上記式(1)から拘束L型成形品の応力緩和率Relaxθ(%)を算出した。
【0107】
結果を表2に示す。
【表2】
【0108】
上記表2から、冷却条件を変えた場合において、応力緩和率が変化することから、冷却条件の影響について簡便に応力緩和特性を定量化できることが確認された。水冷の場合、応力緩和率が低下することが予測されるが、水冷により急冷されることで緩和しやすい非晶の割合が多くなり、結果的に空冷した場合と同等の応力緩和率となったと考えられる。一方、超徐冷の場合は、結晶化が促進されるが、結晶化の促進以上に応力緩和が促進されて応力緩和率が増大したものと考えられる。
【0109】
<実施例8、9>
実施例8においては、実施例1における拘束L型成形品の流動直交方向の応力緩和率を算出し、実施例9においては、実施例2における拘束U型成形品の流動直交方向の応力緩和率を算出した。
【0110】
(ステップ1)拘束成形品のθorigin、θconstおよび未拘束成形品のθfreeを実測し、実測されたθorigin、θconstおよびθfreeから、拘束成形品の応力緩和率を算出する必要があるが、実施例1では既にθorigin、θconstおよびθfreeを実測し、拘束L型成形品の応力緩和率42.2%(表1参照)を算出しているので、この値を使用した。また、同様に、実施例2では既にθorigin、θconstおよびθfreeを実測し、拘束U型成形品の応力緩和率33.7%(表1参照)を算出しているので、この値を使用した。
【0111】
(ステップ2)実施例1のL型成形品および実施例2のU型成形品は上記ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物1から構成されているので、このポリフェニレンサルファイド樹脂組成物1を用いて短冊形状成形品を成形した。この短冊形状成形品の厚みは、3mmであり、長さは200mmであり、幅は15mmであった。そして、各温度におけるこの短冊形状成形品の成形の際の上記ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物1の流動方向(FD)の成形収縮率と流動直交方向(TD)の成形収縮率をそれぞれ実測したところ、室温(27℃)におけるFDの成形収縮率は0.216%であり(図10参照)、TDの成形収縮率は0.770%であった(図10参照)。短冊形状成形品の流動方向(FD)および流動直交方向(TD)の成形収縮率は、サーモグラフィとDIC法を併用するThermo-DIC法によって実測された。具体的には、短冊形状成形品を対象に、Thermo-DIC法による収縮挙動と温度変化の同期計測を行い、その結果から、冷却完了後の短冊形状成形品における流動方向(FD)および流動直交方向(TD)の成形収縮率を求めた。
【0112】
(ステップ3)実施例1の拘束L型成形品および未拘束L型成形品のCAE解析用モデルをそれぞれ作製した。拘束L型成形品のCAE解析用モデルと未拘束L型成形品のCAE解析用モデルは同一であり、入力物性値のみ変化させることとした。実施例1の拘束L型成形品および未拘束L型成形品のCAE解析用モデルは、汎用有限要素ソフトウェアであるANSYS(アンシス社製)によって作製された。また、同様にして、実施例2の拘束U型成形品および未拘束U型成形品のCAE解析用モデルをそれぞれ作製した。
【0113】
(ステップ4)ステップ2で実測した短冊形状成形品の流動方向(FD)および流動直交方向(TD)の成形収縮率から以下のステップ4-1、ステップ4-2の手順に沿ってCAE解析用データを取得して、このCAE解析用データをステップ3で作製したCAE解析用モデルに入力して、CAE解析により実施例1の拘束L型成形品のθorigin、θconstおよび未拘束L型成形品のθfreeをそれぞれ算出した。同様に、CAE解析により実施例2の拘束U型成形品のθorigin、θconstおよび未拘束U型成形品のθfreeをそれぞれ算出した。
【0114】
(ステップ4-1)実施例1の未拘束L型成形品のCAE解析においては、ステップ2で取得した流動方向(FD)の成形収縮率および流動直交方向(TD)の成形収縮率をそのままCAE解析データとして使用した。同様に、実施例2の未拘束U型成形品のCAE解析においても、ステップ2で取得した流動方向(FD)の成形収縮率および流動直交方向(TD)の成形収縮率をそのままCAE解析データとして使用した。
【0115】
(ステップ4-2)実施例1の拘束L型成形品のCAE解析においては、ステップ2で取得した成形収縮率を以下のステップ4-2-1およびステップ4-2-2のように減少させてCAE解析データとして使用した。実施例2の拘束U型成形品のCAE解析においても、ステップ2で取得した成形収縮率を以下のステップ4-2-1およびステップ4-2-2のように減少させてCAE解析データとして使用した。
【0116】
(ステップ4-2-1)CAE解析データとして用いる実施例1の拘束L型成形品の流動方向(FD)の収縮率を、上記式(5)から算出したところ、0.101%であった。バイメタル法を用いて算出した応力緩和率は、以下のようにして求められた。具体的には、ラペロス(登録商標)LCP S135からなる一次側板と、実施例1の拘束L型成形品と同一の樹脂材料である上記ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物1からなる二次側板と、を接合させた接合板を利用して、各温度における上記ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物1の成形品の弾性率EBi-Metalを得た(図10参照)。また、各温度でJIS K7171:2016に準拠した3点曲げ試験を行い曲げ弾性率EBendingを得た(図10参照)。そして、バイメタル法を用いて室温(27℃)における応力緩和率を、上記式(7)から求めたところ、53.4%であった。なお、CAE解析データとして用いる実施例2の拘束L型成形品の流動方向(FD)の収縮率も、CAE解析データとして用いる実施例1の拘束L型成形品の流動方向(FD)の収縮率と同様に0.101%である。これは、実施例1の拘束L型成形品と実施例2の拘束U型成形品はいずれも上記ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物1から構成されているので、流動方向の収縮率を算出す際に用いる短冊形状成形品も同じであり、バイメタル法で用いる二次側板も同じであるからである。すなわち、樹脂成形品の形状が異なる場合であっても、同じ樹脂組成物を用いていれば、同じ流動方向(FD)の収縮率を用いるものとする。
【0117】
(ステップ4-2-2)CAE解析データとして用いる実施例1の拘束L型成形品の流動直交方向(TD)の収縮率を、上記式(8)で算出した。ここで、任意の係数は、0~1の間の任意の11個の数を用いた。同様に、CAE解析データとして用いる実施例2の拘束U型成形品の流動直交方向(TD)の収縮率を、上記式(8)で算出した。
【0118】
(ステップ5)それぞれのCAE解析によって得られた実施例1の拘束L型成形品および未拘束L型成形品のスプリングイン角度を用いてCAE解析によって拘束L型成形品の応力緩和率を上記式(1)から算出した。そして、CAE解析によって得られた拘束L型成形品の応力緩和率と上記式(8)で設定した任意の係数に応じた流動直交方向(TD)の緩和率との関係性をプロットし、近似式(y=0.6582x+16.77)を取得した。同様にして、CAE解析によって得られた実施例2の拘束U型成形品の応力緩和率と上記式(8)で設定した任意の係数に応じた流動直交方向(TD)の緩和率との関係性をプロットし、近似式(y=0.7153x+15.156)を取得した。
【0119】
(ステップ6)ステップ1で算出した実測した実施例1の拘束L型成形品の応力緩和率42.2%をステップ5で取得された上記近似式に代入することにより、拘束L型成形品の流動直交方向(TD)の応力緩和率を算出したところ、45.5%という値が得られた(図11参照)。同様に、ステップ1で算出した実測した実施例2の拘束U型成形品の応力緩和率33.7%をステップ5で取得された上記近似式に代入することにより、拘束U型成形品の流動直交方向(TD)の応力緩和率を算出したところ、39.4%という値が得られた(図12参照)。
【0120】
したがって、上記方法によって、CAE解析により得られた傾きと実測値から拘束L型成形品や拘束U型成形品の流動直交方向(TD)を算出できることが確認された。
【0121】
10…第1樹脂成形品
11、21…コーナー部
11A、21A…内側面
20…第2樹脂成形品
30…拘束治具
40…第3樹脂成形品
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