(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007443
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】芳香族ポリスルホン、芳香族ポリスルホンの製造方法、樹脂組成物、及びプリプレグ
(51)【国際特許分類】
C08G 65/40 20060101AFI20250109BHJP
C08G 59/40 20060101ALI20250109BHJP
C08J 5/10 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
C08G65/40
C08G59/40
C08J5/10 CFC
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023108835
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(74)【代理人】
【識別番号】100214215
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼梨 航
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 和幸
【テーマコード(参考)】
4F072
4J005
4J036
【Fターム(参考)】
4F072AA07
4F072AB10
4F072AB28
4F072AB29
4F072AD28
4F072AD46
4F072AE01
4F072AG03
4F072AG17
4F072AK02
4F072AK14
4J005AA24
4J005BA00
4J005BB01
4J005BB02
4J036AA01
4J036AH19
4J036DD04
4J036DD05
4J036FA02
4J036FB15
4J036JA11
(57)【要約】
【課題】式(1)で表される繰返し単位を有する芳香族ポリスルホンであって、該芳香族ポリスルホンとエポキシ樹脂とを含む樹脂組成物の硬化物が、優れた破壊靭性を発揮可能な、芳香族ポリスルホンの提供を目的とする。
【解決手段】式(1)で表される繰返し単位を有する芳香族ポリスルホンであって、前記芳香族ポリスルホン1gあたりの水酸基及び/又はその塩の量が70μmol/g以上である、芳香族ポリスルホン。式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又はフェニル基を表す。
[化1]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される繰返し単位を有する芳香族ポリスルホンであって、
前記芳香族ポリスルホン1gあたりの水酸基及び/又はその塩の量が70μmol/g以上である、芳香族ポリスルホン。
【化1】
[式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又はフェニル基を表す。]
【請求項2】
前記R1及び前記R2がメチル基である、請求項1に記載の芳香族ポリスルホン。
【請求項3】
さらに、下記式(2)で表される繰返し単位を有し、
前記芳香族ポリスルホンを構成する全繰返し単位の合計数100%に対して、前記式(2)で表される繰返し単位の数が55%以上である、請求項1又は2に記載の芳香族ポリスルホン。
【化2】
[式(2)中、R
3及びR
4は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、フェニル基、炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数2~10のアルケニル基を表し、m及びnは、それぞれ独立に0~4の整数を示す。R
3又はR
4が複数ある場合、それらは同一でも異なっていてもよい。]
【請求項4】
重量平均分子量が10000以上30000未満である、請求項1又は2に記載の芳香族ポリスルホン。
【請求項5】
ジヒドロキシ化合物とジハロゲノ化合物とを重合させて芳香族ポリスルホンを得る重合工程を含み、
前記ジヒドロキシ化合物が、下記式(1a)で表される化合物を含み、
【化3】
[式(1a)中、R
11及びR
12は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又はフェニル基を表す。]
前記ジヒドロキシ化合物と前記ジハロゲノ化合物とのモル比の値が、下記式(I)の条件を満たす、芳香族ポリスルホンの製造方法。
前記ジヒドロキシ化合物/前記ジハロゲノ化合物>1 式(I)
【請求項6】
前記重合工程において、
前記ジヒドロキシ化合物が、ジヒドロキシジフェニルスルホン、及び9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレンを含み、
前記ジハロゲノ化合物が、ジハロゲノジフェニルスルホンを含む、請求項5に記載の芳香族ポリスルホンの製造方法。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の芳香族ポリスルホンと、エポキシ樹脂と、を含む、樹脂組成物。
【請求項8】
さらに硬化剤を含む、請求項7に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の樹脂組成物と、強化繊維とを含む、プリプレグ。
【請求項10】
前記強化繊維が炭素繊維である、請求項9に記載のプリプレグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリスルホン、芳香族ポリスルホンの製造方法、樹脂組成物、及びプリプレグに関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリスルホンは、ガラス転移温度(Tg)が高く、耐熱性に優れる材料として、電子材料分野をはじめ多くの分野で用いられている。
例えば、特許文献1には、高いガラス転移温度(Tg)を発現できる芳香族ポリスルホン、該芳香族ポリスルホンを用いたプリプレグ及び該プリプレグの製造方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、下記式(1)で表される繰返し単位を有する芳香族ポリスルホンが、高いガラス転移温度(Tg)を示す傾向にあることを見出したが、このガラス転移温度が向上された芳香族ポリスルホンを含む樹脂組成物の硬化物の、破壊靭性の向上の点においては未だ検討の余地がある。
【0005】
【化1】
[式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又はフェニル基を表す。]
【0006】
そこで、本発明は、上記のような問題点を解消するためになされたものであり、前記式(1)で表される繰返し単位を有する芳香族ポリスルホンであって、該芳香族ポリスルホンとエポキシ樹脂とを含む樹脂組成物の硬化物が優れた破壊靭性を発揮可能な、芳香族ポリスルホンの提供を目的とする。
また、本発明は、当該芳香族ポリスルホンとエポキシ樹脂とを含み、その硬化物が優れた破壊靭性を発揮可能な、樹脂組成物の提供を目的とする。
また、本発明は、当該樹脂組成物と、強化繊維とを含む、プリプレグの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、式(1)で表される繰返し単位を有し、水酸基及び/又はその塩の量が特定の値を満たす芳香族ポリスルホンと、エポキシ樹脂と、を含む樹脂組成物の硬化物が、優れた破壊靭性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の態様を有する。
【0008】
<1> 下記式(1)で表される繰返し単位を有する芳香族ポリスルホンであって、
前記芳香族ポリスルホン1gあたりの水酸基及び/又はその塩の量が70μmol/g以上である、芳香族ポリスルホン。
【0009】
【化2】
[式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又はフェニル基を表す。]
【0010】
<2> 前記R1及び前記R2がメチル基である、前記<1>に記載の芳香族ポリスルホン。
【0011】
<3> さらに、下記式(2)で表される繰返し単位を有し、
前記芳香族ポリスルホンを構成する全繰返し単位の合計数100%に対して、前記式(2)で表される繰返し単位の数が55%以上である、前記<1>又は前記<2>に記載の芳香族ポリスルホン。
【0012】
【化3】
[式(2)中、R
3及びR
4は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、フェニル基、炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数2~10のアルケニル基を表し、m及びnは、それぞれ独立に0~4の整数を示す。R
3又はR
4が複数ある場合、それらは同一でも異なっていてもよい。]
【0013】
<4> 重量平均分子量が10000以上30000未満である、前記<1>~<3>のいずれか一つに記載の芳香族ポリスルホン。
【0014】
<5> ジヒドロキシ化合物とジハロゲノ化合物とを重合させて芳香族ポリスルホンを得る重合工程を含み、
前記ジヒドロキシ化合物が、下記式(1a)で表される化合物を含み、
前記ジヒドロキシ化合物と前記ジハロゲノ化合物とのモル比の値が、下記式(I)の条件を満たす、芳香族ポリスルホンの製造方法。
前記ジヒドロキシ化合物/前記ジハロゲノ化合物>1 式(I)
【0015】
【化4】
[式(1a)中、R
11及びR
12は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又はフェニル基を表す。]
【0016】
<6> 前記重合工程において、
前記ジヒドロキシ化合物が、ジヒドロキシジフェニルスルホン、及び9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレンを含み、
前記ジハロゲノ化合物が、ジハロゲノジフェニルスルホンを含む、前記<5>に記載の芳香族ポリスルホンの製造方法。
【0017】
<7> 前記<1>~<4>のいずれか一つに記載の芳香族ポリスルホンと、エポキシ樹脂と、を含む、樹脂組成物。
<8> さらに硬化剤を含む、前記<7>に記載の樹脂組成物。
【0018】
<9> 前記<8>に記載の樹脂組成物と、強化繊維とを含む、プリプレグ。
<10> 前記強化繊維が炭素繊維である、前記<9>に記載のプリプレグ。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、前記式(1)で表される繰返し単位を有する芳香族ポリスルホンであって、該芳香族ポリスルホンとエポキシ樹脂とを含む樹脂組成物の硬化物が、優れた破壊靭性を発揮可能な、芳香族ポリスルホンを提供できる。
また、本発明は、当該芳香族ポリスルホンとエポキシ樹脂とを含み、その硬化物が優れた破壊靭性を発揮可能な、樹脂組成物を提供できる。
また、本発明は、当該樹脂組成物と、強化繊維とを含む、プリプレグを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の芳香族ポリスルホン、芳香族ポリスルホンの製造方法、樹脂組成物、及びプリプレグの実施形態を説明する。
【0021】
≪芳香族ポリスルホン≫
実施形態の芳香族ポリスルホンは、下記式(1)で表される繰返し単位(以下「繰返し単位(1)」ということがある。)を含む芳香族ポリスルホンであって、前記芳香族ポリスルホン1gあたりの水酸基及び/又はその塩の量が70μmol/g以上である。
【0022】
【化5】
[式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又はフェニル基を表す。]
【0023】
前記式(1)中、R1及びR2におけるアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、1-プロピル基、イソプロピル基、1-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、n-オクチル基、n-デシル基等が挙げられる。アルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐していてもよい。
【0024】
芳香族ポリスルホンのエポキシ樹脂への溶解性が向上するとの観点から、式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立に、炭素数1~6のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~3のアルキル基であることがより好ましく、R1及びR2はそれぞれメチル基であることがさらに好ましく、R1及びR2がいずれもメチル基であることが特に好ましい。
【0025】
繰返し単位(1)を有する芳香族ポリスルホンは、高いガラス転移温度(Tg)を発揮可能であり、耐熱性に優れる。
【0026】
芳香族ポリスルホンのTgは、226℃以上であってよく、230℃以上であってよく、235℃以上であってよい。
芳香族ポリスルホンのTgの上限値は特に限定されず、一例を挙げると、260℃以下であってよく、255℃以下であってよく、250℃以下であってよい。
上記ガラス転移温度の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができ、芳香族ポリスルホンのTgは、一例として、226℃以上260℃以下であってよく、230℃以上255℃以下であってよく、235℃以上250℃以下であってよい。
【0027】
芳香族ポリスルホンのガラス転移温度(Tg)は、以下の方法により測定できる。
【0028】
<芳香族ポリスルホンのガラス転移温度Tgの測定>
示差走査熱量測定装置(例えば、島津製作所製DSC-50)を用い、JIS-K7121に準じた方法で、芳香族ポリスルホンのガラス転移温度を算出する。芳香族ポリスルホン約10mgを秤量し、昇温速度10℃/minで400℃まで上昇させた後、50℃まで冷却し、再び昇温速度10℃/minで400℃まで上昇させ、2回目の昇温で得られたDSCチャートより、芳香族ポリスルホンのガラス転移温度Tgを算出する。
【0029】
実施形態の芳香族ポリスルホンは、その分子内に水酸基及び/又はその塩を有する。
【0030】
水酸基の塩は、水酸基からプロトンが解離してなるオキシアニオン基と、対カチオンとから構成されてよい。
対カチオンの例としては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンの等のアルカリ金属イオン;マグネシウムイオン、カルシウムイオン等のアルカリ土類金属イオン;アンモニアや1~3級アミンがプロトン化されてなるアンモニウムイオン、4級アンモニウムイオンが挙げられる。なお、対カチオンが、アルカリ土類金属イオン等の多価カチオンである場合、対アニオンは、複数のオキシアニオン基から構成されていてもよいし、オキシアニオン基と、塩化物イオン、水酸化物イオン等の他のアニオンとから構成されていてもよい。
【0031】
前記水酸基及び/又はその塩は、芳香族ポリスルホンの主鎖末端に位置するものであってよい。即ち、芳香族ポリスルホンは、その芳香族ポリスルホンの主鎖末端に少なくとも1つの末端水酸基及び/又はその塩を有するものであってよい。
【0032】
芳香族ポリスルホン1gあたりの水酸基及び/又はその塩の量は、以下の測定方法により求められる。
【0033】
なお、芳香族ポリスルホンの前記水酸基及び/又はその塩の量とは、前記水酸基及び前記水酸基の塩の含有量の総和を意味する。
【0034】
<芳香族ポリスルホンの水酸基及びその塩の合計量の測定(μmol/g)>
所定量の芳香族ポリスルホンをジメチルホルムアミドに溶解させた後、過剰量のp-トルエンスルホン酸を加える。次いで、電位差滴定装置を用いて、0.05モル/Lの水酸化カリウム/トルエン・メタノール溶液で滴定し、残存p-トルエンスルホン酸を中和した後、水酸基を中和する。このとき、水酸基の中和に要したカリウムメトキシドの量(モル)を、芳香族ポリスルホンの前記所定量(g)で割ることにより、水酸基およびその塩の合計量を求める。
【0035】
前記芳香族ポリスルホン1gあたりの水酸基及び/又はその塩の量は、70μmol/g以上であり、100μmol/g以上が好ましく、150μmol/g以上がより好ましい。
上記の下限値以上で、水酸基及び/又はその塩を含有する芳香族ポリスルホンは、該芳香族ポリスルホンとエポキシ樹脂とを含む樹脂組成物の硬化物が、優れた破壊靭性を発揮可能である。
【0036】
前記芳香族ポリスルホン1gあたりの水酸基及び/又はその塩の量は、380μmol/g以下であってよく、340μmol/g以下であってよく、300μmol/g以下であってよい。
前記芳香族ポリスルホン1gあたりの水酸基及び/又はその塩の量の数値範囲としては、70μmol/g以上380μmol/g以下であってよく、100μmol/g以上340μmol/g以下であってよく、150μmol/g以上300μmol/g以下であってよい。
【0037】
本明細書において、「芳香族ポリスルホン」とは、2価の芳香族基(芳香族化合物から、その芳香環に結合した水素原子を2個除いてなる残基)と、エーテル結合(-O-)と、スルホニル基(-SO2-)とを含む繰返し単位を有する樹脂である。
【0038】
芳香族ポリスルホンは、繰返し単位(1)の他に、下記式(2)で表される繰返し単位(以下「繰返し単位(2)」ということがある。)を有するものであることが好ましい。
【0039】
【化6】
[式(2)中、R
3及びR
4は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、フェニル基、炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数2~10のアルケニル基を表し、m及びnは、それぞれ独立に0~4の整数を示す。R
3又はR
4が複数ある場合、それらは同一でも異なっていてもよい。]
【0040】
前記式(2)中、R3及びR4におけるアルキル基としては、式(1)中のR1及びR2において例示した前記アルキル基を例示できる。
前記式(2)中、R3及びR4におけるアルケニル基としては、式(1)のR1及びR2において例示した前記アルキル基において、いずれか一つの炭素原子間の単結合(C-C)が、二重結合(C=C)に置換されたものが例示でき、二重結合の位置は限定されない。
【0041】
前記式(2)中、m及びnは、それぞれ0が好ましい。
【0042】
芳香族ポリスルホンは、前記芳香族ポリスルホンを構成する全繰返し単位の合計数100%に対して、繰返し単位(2)を55%以上有することが好ましく、60%以上有することがより好ましく、65%以上有することがさらに好ましい。
【0043】
上記の下限値以上で、繰返し単位(2)を有する芳香族ポリスルホンは、エポキシ樹脂への溶解性が向上され、熱分解温度が高まり耐熱性にも優れる。
【0044】
芳香族ポリスルホンは、前記芳香族ポリスルホンを構成する全繰返し単位の合計数100%に対して、例えば、繰返し単位(2)を55%以上98%以下有することが好ましく、60%以上95%以下有することがより好ましく、65%以上95%以下有することがさらに好ましい。
【0045】
芳香族ポリスルホンは、前記芳香族ポリスルホンを構成する全繰返し単位の合計数100%に対して、例えば、繰返し単位(2)を55%以上98%以下有し、繰返し単位(1)を2%以上45%以下有していてもよく、繰返し単位(2)を60%以上95%以下有し、繰返し単位(1)を5%以上40%以下有していてもよく、繰返し単位(2)を65%以上95%以下有し、繰返し単位(1)を5%以上35%以下有していてもよい。
【0046】
芳香族ポリスルホンは、繰返し単位(1)及び繰返し単位(2)の他に、さらに、下記式(3)で表される繰返し単位(以下「繰返し単位(3)」ということがある。)や、下記式(4)で表される繰返し単位(以下「繰返し単位(4)」ということがある。)等の他の繰返し単位を1種以上有していてもよい。
【0047】
(3)-Ph3-R-Ph4-O-
[式中、Ph3及びPh4は、それぞれ独立に、フェニレン基を表す。前記フェニレン基にある水素原子は、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子、スルホ基、ニトロ基、アミノ基、カルボキシル基、又は水酸基で置換されていてもよい。Rは、アルキリデン基、酸素原子又は硫黄原子を表す。]
【0048】
(4)-(Ph5)t-O-
[式中、Ph5は、フェニレン基を表す。前記フェニレン基にある水素原子は、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子、スルホ基、ニトロ基、アミノ基、カルボキシル基、又は水酸基で置換されていてもよい。tは、1~3の整数を表す。tが2以上である場合、複数存在するPh5は、互いに同一であっても異なっていてもよい。]
【0049】
Ph3~Ph5のいずれかで表されるフェニレン基は、p-フェニレン基であってもよいし、m-フェニレン基であってもよいし、o-フェニレン基であってもよいが、p-フェニレン基であることが好ましい。
【0050】
前記式(3)~(4)の前記フェニレン基にある水素原子を置換していてもよいアルキル基において、炭素数は、1~10であることが好ましい。該アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、n-オクチル基、n-デシル基等が挙げられる。
【0051】
前記式(3)~(4)の前記フェニレン基にある水素原子を置換していてもよいアリール基において、炭素数は、6~20であることが好ましい。該アリール基の具体例としては、フェニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基等が挙げられる。
【0052】
前記式(3)~(4)の前記フェニレン基にある水素原子を置換していてもよいハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0053】
前記繰返し単位(3)~(4)の前記フェニレン基にある水素原子がこれらの基で置換されている場合は、その数は、前記フェニレン基毎に、それぞれ独立に、好ましくは2個以下であり、より好ましくは1個である。
上記の中でも、前記繰返し単位(3)~(4)のフェニレン基にある水素原子は置換されていないことが好ましい。
【0054】
Rで表されるアルキリデン基において、炭素数は、1~5であることが好ましい。具体例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、1-ブチリデン基等が挙げられる。
【0055】
なお、芳香族ポリスルホンは、繰返し単位(1)~(4)を、それぞれ独立に、2種以上有してもよい。芳香族ポリスルホンは、繰返し単位として繰返し単位(1)及び繰返し単位(2)のみを有することが好ましい。
【0056】
実施形態の好ましい芳香族ポリスルホンとして、繰返し単位(1)及び繰返し単位(2)を有する芳香族ポリスルホンであって、前記繰返し単位(1)中、R1及びR2がメチル基であり、前記繰返し単位(2)中、m及びnは0であり、前記芳香族ポリスルホン1gあたりの水酸基及び/又はその塩の量が70μmol/g以上であり、好ましくは前記芳香族ポリスルホンを構成する全繰返し単位の合計数100%に対して、繰返し単位(2)の数が55%以上である、芳香族ポリスルホンを例示する。
【0057】
芳香族ポリスルホンの重量平均分子量(Mw)は、30000未満が好ましく、10000以上30000未満が好ましく、12000以上27000以下がより好ましく、15000以上25000以下がさらに好ましい。
上記の数値範囲内の重量平均分子量を有する芳香族ポリスルホンと、エポキシ樹脂とを含む樹脂組成物の硬化物は、より一層優れた破壊靭性を発揮可能である。
【0058】
芳香族ポリスルホンの多分散度(Mw/Mn)は、特に限定されるものではないが、1.0~4.0であってよく、1.0~2.0であってよく、1.5~1.8であってもよい。
【0059】
芳香族ポリスルホンのMnおよびMwは、以下の方法により測定できる。
【0060】
<芳香族ポリスルホンのMnおよびMwの測定、Mw/Mnの算出>
芳香族ポリスルホンの重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)および多分散度(Mw/Mn)は、下記[測定条件]にて、GPC測定により求める。なお、MnおよびMwはいずれも2回測定し、その平均値を求めてそれぞれMnおよびMwとし、Mw/Mnの平均値を求める。
【0061】
[測定条件]
試料:10mM臭化リチウム含有N,N-ジメチルホルムアミド溶液1mLに対し、芳香族ポリスルホン0.002gを配合。
試料注入量:100μL
カラム(固定相):東ソー株式会社製「TSKgel GMHHR-H」(7.8mmφ×300mm)を2本直列に連結。
カラム温度:40℃
溶離液(移動相):10mM臭化リチウム含有N,N-ジメチルホルムアミド
溶離液流量:0.8mL/分
検出器:示差屈折率計(RI)+光散乱光度計(LS)
dn/dc:dn/dc値が既知である標準ポリスチレンのピーク面積、注入濃度およびdn/dc(0.159)と、試料のピーク面積および注入濃度から算出。
分子量算出法:光散乱光度計(LS)から絶対分子量を算出。
【0062】
≪芳香族ポリスルホンの製造方法≫
本実施形態の芳香族ポリスルホンの製造方法は、ジヒドロキシ化合物と、ジハロゲノ化合物とを重合させて、前記芳香族ポリスルホンを得る重合工程を含み、前記ジヒドロキシ化合物が、下記式(1a)で表される化合物を含み、前記ジヒドロキシ化合物と前記ジハロゲノ化合物とのモル比の値が、下記式(I)の条件を満たす。
【0063】
前記ジヒドロキシ化合物/前記ジハロゲノ化合物>1 式(I)
【0064】
前記式(I)の条件を満たすこと、すなわち前記モル比の値が1を超えることにより、芳香族ポリスルホン1gあたりの水酸基及び/又はその塩の量が70μmol/g以上である芳香族ポリスルホンを、容易に製造できる。
【0065】
式(I)に示されるとおり、前記ジヒドロキシ化合物/前記ジハロゲノ化合物の値は、1超であり、1超1.20以下であってよく、1超1.10以下であってよく、1.02以上1.05以下であってよい。
【0066】
芳香族ポリスルホンは、それを構成する繰返し単位に対応するジハロゲノスルホン化合物とジヒドロキシ化合物とを重縮合させることにより、製造することができる。
【0067】
例えば、繰返し単位(1)を有する芳香族ポリスルホンは、前記重合工程における前記ジヒドロキシ化合物が、下記式(1a)で表される化合物を含む製造方法により、製造することができる。
【0068】
【化7】
[式(1a)中、R
11は、前記式(1)における前記R
1と同義であり、R
12は、前記式(1)における前記R
2と同義である。]
【0069】
例えば、繰返し単位(2)を有する芳香族ポリスルホンは、前記重合工程におけるジヒドロキシ化合物が、下記式(2a)で表される化合物を含む製造方法により、製造することができる。
【0070】
【化8】
[式(2a)中、R
13は、前記式(2)における前記R
3と同義であり、R
14は、前記式(2)における前記R
4と同義である。p及びqは、それぞれ独立に0~4の整数を示す。R
13又はR
14が複数ある場合、それらは同一でも異なっていてもよい。p及びqは、それぞれ0が好ましい。]
【0071】
例えば、繰返し単位(2)を有する芳香族ポリスルホンは、前記重合工程におけるジハロゲノ化合物が、下記式(2b)で表される化合物を含む製造方法により、製造することができる。
【0072】
【化9】
[式(2b)中、X
1及びX
2は、それぞれ独立に、ハロゲン原子を表す。X
1及びX
2は互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。R
15は、前記式(2)における前記R
3と同義であり、R
16は、前記式(2)における前記R
4と同義である。r及びsは、それぞれ独立に0~4の整数を示す。R
15又はR
16が複数ある場合、それらは同一でも異なっていてもよい。r及びsは、それぞれ0が好ましい。]
【0073】
式(2b)のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、塩素原子が好ましい。
【0074】
実施形態の芳香族ポリスルホンの製造方法は、ジヒドロキシ化合物と、ジハロゲノ化合物とを重合させて、前記芳香族ポリスルホンを得る重合工程を含み、前記ジヒドロキシ化合物が、前記式(1a)で表される化合物を含み、前記ジハロゲノ化合物が、前記式(2b)で表される化合物を含むことができる。
【0075】
より好ましくは、実施形態の芳香族ポリスルホンの製造方法は、ジヒドロキシ化合物と、ジハロゲノ化合物とを重合させて、前記芳香族ポリスルホンを得る重合工程を含み、前記ジヒドロキシ化合物が、前記式(1a)で表される化合物、及び前記式(2a)で表される化合物を含み、前記ジハロゲノ化合物が、前記式(2b)で表される化合物を含むことができる。
【0076】
さらに好ましくは、実施形態の芳香族ポリスルホンの製造方法は、ジヒドロキシ化合物と、ジハロゲノ化合物とを重合させて、前記芳香族ポリスルホンを得る重合工程を含み、前記ジヒドロキシ化合物が、前記式(1a)で表される化合物、及び前記式(2a)で表される化合物を含み、前記ジハロゲノ化合物が、前記式(2b)で表される化合物を含み、前記芳香族ポリスルホンの重合に用いられる全モノマー(100mol%)に対して、前記式(1a)で表される化合物、前記式(2a)で表される化合物、及び前記式(2b)で表される化合物の合計が90mol%以上であってよい。
【0077】
特に好ましくは、実施形態の芳香族ポリスルホンの製造方法は、ジヒドロキシ化合物と、ジハロゲノ化合物とを重合させて、前記芳香族ポリスルホンを得る重合工程を含み、前記ジヒドロキシ化合物が、前記式(1a)で表される化合物、及び前記式(2a)で表される化合物からなり、前記ジハロゲノ化合物が、前記式(2b)で表される化合物からなる方法であってよい。
【0078】
当該製造方法によれば、前記式(I)の条件、すなわち、前記ジヒドロキシ化合物/前記ジハロゲノ化合物>1の条件を満たし、前記ジヒドロキシ化合物が前記式(2a)で表される化合物を含むことで、芳香族ポリスルホンを構成する全繰返し単位の合計数100%に対して、繰返し単位(2)を55%以上有する芳香族ポリスルホンを容易に製造可能である。
【0079】
前記重合工程における前記ジヒドロキシ化合物が、前記式(1a)で表される化合物、及び前記式(2a)で表される化合物を含む場合に、前記ジヒドロキシ化合物の全量(100mol%)に対する、前記式(1a)で表される化合物の割合は、90mol%未満であってよく、60mol%以下であってよく、50mol%以下であってよく、30mol%以下であってよい。
特に、前記ジヒドロキシ化合物の全量(100mol%)に対する、前記式(1a)で表される化合物の割合が90mol%未満であることで、芳香族ポリスルホンを構成する全繰返し単位の合計数100%に対して、繰返し単位(2)を55%以上有する芳香族ポリスルホンを容易に製造可能である。
【0080】
前記ジヒドロキシ化合物の全量(100mol%)に対する、前記式(1a)で表される化合物の割合は、例えば、5mol%以上90mol%未満であってよく、5mol%以上60mol%以下であってよく、10mol%以上50mol%以下であってよく、10mol%以上30mol%以下であってよい。
【0081】
前記式(1a)で表されるジヒドロキシ化合物としては、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン等を例示できる。
前記式(2a)で表されるジヒドロキシ化合物としては、ジヒドロキシジフェニルスルホンを例示できる。
前記式(2b)で表されるジハロゲノ化合物としては、ジハロゲノジフェニルスルホンを例示できる。
【0082】
実施形態の芳香族ポリスルホンの製造方法は、前記重合工程において、前記ジヒドロキシ化合物が、ジヒドロキシジフェニルスルホン、及び9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレンを含み、前記ジハロゲノ化合物が、ジハロゲノジフェニルスルホンを含むことが好ましい。
【0083】
また、上記で例示した繰返し単位(1)、繰返し単位(2)、及び繰返し単位(3)を有する芳香族ポリスルホンは、ジヒドロキシ化合物として前記式(1a)で表される化合物を含み、ジハロゲノ化合物として前記式(2b)で表される化合物を含み、ジヒドロキシ化合物として下記式(5)で表される化合物を含み、製造することができる。
【0084】
また、上記で例示した繰返し単位(1)、繰返し単位(2)、及び繰返し単位(4)を有する芳香族ポリスルホンは、ジヒドロキシ化合物として前記式(1a)で表される化合物を含み、ジハロゲノ化合物として前記式(2b)で表される化合物を含み、ジヒドロキシ化合物として下記式(6)で表される化合物を含み、製造することができる。
【0085】
(5)HO-Ph3-R-Ph4-OH
[式中、Ph3、Ph4及びRは、前記と同義である。]
【0086】
(6)HO-(Ph5)t-OH
[式中、Ph5及びtは、前記と同義である。]
【0087】
上記式(1a)、(2a)、及び(5)~(6)中のOH基は、芳香族ポリスルホンの主鎖末端に位置してよい水酸基及びその塩に該当し得る。
【0088】
芳香族ポリスルホンの重縮合は、炭酸のアルカリ金属塩を用いて、溶媒中で行うことが好ましい。炭酸のアルカリ金属塩は、正塩である炭酸塩であってもよいし、酸性塩である重炭酸塩(炭酸水素塩)であってもよいし、両者の混合物であってもよい。炭酸塩としては、炭酸ナトリウムや炭酸カリウムが好ましく用いられ、炭酸水素塩としては、重炭酸ナトリウムや重炭酸カリウムが好ましく用いられる。
【0089】
重縮合の溶媒としては、有機極性溶媒が好ましく用いられる。その具体例としては、ジメチルスルホキシド、1-メチル-2-ピロリドン、スルホラン(1,1-ジオキソチラン)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジエチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジイソプロピルスルホン、ジフェニルスルホン等が挙げられる。
【0090】
≪樹脂組成物≫
実施形態の樹脂組成物は、芳香族ポリスルホンと、エポキシ樹脂と、を含む。
【0091】
樹脂組成物における芳香族ポリスルホンとしては、上記の実施形態の芳香族ポリスルホンと同一の芳香族ポリスルホンを例示できる。
一例として、実施形態の樹脂組成物は、前記<1>~<4>のいずれか一つに記載の芳香族ポリスルホンと、エポキシ樹脂と、を含んでよい。
【0092】
実施形態の樹脂組成物における芳香族ポリスルホンの含有量は、エポキシ樹脂と芳香族ポリスルホン樹脂との合計100質量部に対して、1~70質量部であることが好ましく、2~50質量部であることがより好ましく、4~30質量部であることがさらに好ましく、5~20質量部であることが特に好ましい。
あるいは、実施形態の樹脂組成物における芳香族ポリスルホンの含有量は、樹脂組成物の総質量100質量%に対して、1~70質量%であることが好ましく、2~50質量%であることがより好ましく、4~30質量%であることがさらに好ましく、5~15質量%であることが特に好ましい。
【0093】
<エポキシ樹脂>
本明細書においてエポキシ樹脂とは、分子内に少なくとも1個のエポキシ基を有する化合物を意味する。
前記エポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ヘキサヒドロビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールA、レゾルシノール、クレゾールノボラック、テトラブロモビスフェノールA、トリヒドロキシビフェニル、ビスレゾルシノール、ビスフェノールヘキサフルオロアセトン、テトラメチルビスフェノールF、ビキシレノール、ジヒドロキシナフタレン等の多価フェノールとエピクロルヒドリンとの反応によって得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物;前記グリシジルエーテル型エポキシ化合物を水添して得られる脂環型のグリシジルエーテル型エポキシ化合物;グリセリン、ネオペンチルグリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の脂肪族多価アルコールとエピクロルヒドリンとの反応によって得られるポリグリシジルエーテル型エポキシ化合物;p-オキシ安息香酸、β-オキシナフトエ酸等のヒドロキシカルボン酸とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるグリシジルエステル型エポキシ化合物; フタル酸、メチルフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラハイドロフタル酸、ヘキサハイドロフタル酸、エンドメチレンテトラハイドロフタル酸、エンドメチレンヘキサハイドロフタル酸、トリメリット酸、重合脂肪酸等のポリカルボン酸から誘導されるポリグリシジルエステル型エポキシ化合物;アミノフェノール、アミノアルキルフェノール等から誘導されるグリシジルアミノグリシジルエーテル型エポキシ化合物;アミノ安息香酸から誘導されるグリシジルアミノグリシジルエステル型エポキシ化合物;骨格がポリエーテル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアクリル、シリコーン等である柔軟性エポキシ樹脂などが挙げられる。
エポキシ樹脂は、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0094】
エポキシ樹脂の1分子あたりのエポキシ基の個数は特に制限されるものではなく、分子内に2個のエポキシ基を有する化合物(2官能のエポキシ樹脂)であってもよく、分子内に3個以上のエポキシ基を有する化合物(多官能のエポキシ樹脂)であってもよい。
【0095】
エポキシ樹脂は、液状のエポキシ樹脂であることが好ましい。液状のエポキシ樹脂とは、50℃(常圧)で液体の状態であるエポキシ樹脂をいう。
【0096】
実施形態の樹脂組成物におけるエポキシ樹脂の含有量は、エポキシ樹脂と芳香族ポリスルホン樹脂との合計100質量部に対して、30~99質量部であることが好ましく、50~98質量部であることがより好ましく、70~96質量部であることがさらに好ましく、80~95質量部であることが特に好ましい。
あるいは、実施形態の樹脂組成物におけるエポキシ樹脂の含有量は、樹脂組成物の総質量100質量%に対して、40~75質量%であることがより好ましく、50~70質量%であることがさらに好ましく、55~65質量%であることが特に好ましい。
【0097】
<硬化剤>
本実施形態の樹脂組成物は、さらに硬化剤を含んでいてもよい。本実施形態に係る硬化剤としては、前記エポキシ樹脂と反応し得るものであれば特に限定されず、通常、エポキシ樹脂の硬化剤として用いられる化合物が挙げられ、アミン系硬化剤が好ましく用いられる。かかる硬化剤としては、例えば、テトラメチルグアニジン、イミダゾール又はその誘導体、カルボン酸ヒドラジド類、3級アミン、芳香族アミン、脂肪族アミン、ジシアンジアミド又はその誘導体等が挙げられる。
芳香族アミンとしては、ジアミノジフェニルメタン、ビス(4-アミノフェニル)スルホンまたはその誘導体であることが好ましい。芳香族アミンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0098】
本明細書において、「誘導体」とは、基本骨格は変えずに、化合物の小部分を他の原子または原子団に置換した化合物である。
【0099】
硬化剤は、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
樹脂組成物中の硬化剤の含有量は、エポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対して、0.5~1.5当量であることが好ましい。0.5当量以上であると、樹脂の硬化が良好であり、良好な機械特性が発揮されやすい。また、1.5当量以下であると、硬化剤の未反応物が残存し難く、良好な機械特性を得られやすい。硬化剤の添加量としては特に限定はしないが、エポキシ樹脂100重量部に対して0.1~5重量部であることが好ましい。
【0100】
<その他の成分>
本実施形態の樹脂組成物は、上述した芳香族ポリスルホン樹脂、エポキシ樹脂及び硬化剤のいずれにも該当しないその他の成分を、所望により含有していてもよい。その他の成分としては、溶媒、芳香族ポリスルホン樹脂及びエポキシ樹脂に該当しない樹脂、着色成分、潤滑剤、各種界面活性剤、酸化防止剤、熱安定剤、その他各種安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤等が挙げられる。
その他の成分の含有量は、本実施形態の樹脂組成物の総質量に対して、0~10質量%が好ましく、0~5質量%がより好ましい。
【0101】
・溶媒
本実施形態の樹脂組成物は、さらに溶媒を含んでいてもよいが、実施形態の芳香族ポリスルホン樹脂を含有する樹脂組成物が硬化した硬化物において、当該溶媒の残存を低減させるとの観点からは、樹脂組成物に含まれる溶媒の量は少ないほうが好ましい。
【0102】
本実施形態の樹脂組成物は、溶媒の含有量が、前記エポキシ樹脂と前記芳香族ポリスルホン樹脂との合計100質量部に対して、0~5質量部であることが好ましく、0~1質量部であることがより好ましく、実質的に溶媒を含有しないことがさらに好ましい。
【0103】
溶媒の含有量は、実施形態の樹脂組成物の総質量に対して、0~5質量%であってもよく、0~1質量%であってもよく、0~0.1質量%であってもよく、実質的に溶媒を含有しないことが好ましい。
【0104】
溶媒としては有機溶媒であってよく、有機溶媒としては、極性溶媒であってよく、非プロトン性極性溶媒であってよい。
【0105】
溶媒は、エポキシ樹脂との芳香族ポリスルホン樹脂の親和性を向上させる効果を有するものが使用されることが好ましい。溶媒としては、例えば、非プロトン性極性溶媒として、N-エチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、スルホラン等を例示できる。
【0106】
・その他の樹脂
本実施形態の樹脂組成物は、芳香族ポリスルホン樹脂及びエポキシ樹脂のいずれにも該当しない、その他の樹脂をさらに含有していてもよい。
その他の樹脂としては、例えば、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリケトン、ポリエーテルイミド、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂及びその変性物等が挙げられる。
その他の樹脂の含有量は、樹脂組成物の総質量に対して、0~10質量%が好ましく、0~5質量%がより好ましく、0~1質量部であることがさらに好ましく、その他の樹脂を実質的に含有しなくともよい。
【0107】
≪硬化物≫
本実施形態の硬化物は、上述した実施形態の樹脂組成物が硬化したものである。
例えば、硬化剤を含む実施形態の樹脂組成物を、150℃超200℃以下に加熱して硬化させることにより、任意形状、任意形態の硬化物を容易に製造することができる。
【0108】
樹脂組成物を硬化させる際には、エポキシ樹脂に芳香族ポリスルホン樹脂が溶解して、又はエポキシ樹脂と芳香族ポリスルホン樹脂とが相溶して、あるいはエポキシ樹脂に芳香族ポリスルホン樹脂が分散して、エポキシ樹脂と芳香族ポリスルホン樹脂とが均一に混合された組成物を硬化させることが好ましい。
【0109】
本実施形態の硬化物は、上述した実施形態の樹脂組成物が用いられているため、破壊靭性値の向上された機械特性を備える。
【0110】
≪プリプレグ≫
本実施形態のプリプレグは、樹脂組成物と、強化繊維とを含むものである。
本実施形態のプリプレグは、上述した樹脂組成物を強化繊維に含浸させたものであってもよい。
強化繊維としては、プリプレグの強度の観点から、炭素繊維、ガラス繊維、ボロン繊維及びアラミド繊維からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、さらに機械物性及び軽量性の観点から、炭素繊維であることがより好ましい。これらの強化繊維は、織布又は不織布の状態であってもよい。
【0111】
本実施形態のプリプレグを製造する方法は、特に限定されず、例えば、上述した樹脂組成物を強化繊維に含浸させればよい。
【0112】
樹脂組成物を強化繊維に含浸させる方法としては、ウェット法、ホットメルト法(ドライ法)などが挙げられる。
【0113】
ウェット法は、樹脂組成物に強化繊維を浸漬した後、強化繊維を引き上げ、オーブンなどを用いて強化繊維から溶媒を蒸発させることにより、樹脂組成物を強化繊維に含浸させる方法である。
【0114】
ホットメルト法は、加熱により低粘度化した樹脂組成物を直接強化繊維に含浸させる方法である。また、ホットメルト法の別の形態としては、離型紙などの上に樹脂組成物をコーティングしたフィルムを作製しておき、次いで強化繊維の両側又は片側から前記フィルムを重ね、加熱加圧することにより、樹脂組成物を強化繊維に含浸させる方法である。
【0115】
このようにして強化繊維に樹脂組成物を含浸させた後、例えば120~150℃に加熱して、含浸させた樹脂組成物を硬化させることにより、プリプレグを製造することができる。前記含浸させた樹脂組成物の硬化は半硬化であってもよい。
【0116】
本明細書において「半硬化」とは、一定の形状が維持できるまで樹脂の粘度又は硬度が増加した状態であって、前記状態からさらに粘度又は硬度が増加し得る状態まで、粘度又は硬度が増加可能である状態をいう。
【0117】
本発明の一実施形態として、上記のプリプレグが硬化した硬化物を提供する。
本実施形態のプリプレグによれば、実施形態の樹脂組成物が用いられているため、破壊靭性値が向上された、機械特性の良好なプリプレグの硬化物を提供できる。
【0118】
本発明の他の実施形態として、上述したプリプレグが複数積層されて構成されたものを提供する。上述したプリプレグが複数積層されて構成されたものは、具体的には、上記方法で製造されたプリプレグを、複数重ね、オートクレーブ又は熱プレス機などを用いて熱硬化成形することで得ることができる。
【0119】
プリプレグを積層するパターンとしては、プリプレグに含まれる強化繊維の配列方向を揃えて積層する方法(0°)や、任意の角度でずらしながらプリプレグを積層する方法が挙げられる。例えば、45°ずつずらす場合には、0°/45°/90°/135°/180°/225°/270°/315°/360°(0°)という具合になる。
尚、「任意の角度でずらす」とは、積層させる2層のプリプレグに含まれる繊維方向の相対角度を変更することを意味する。任意の角度については、成形体の用途に応じて適宜設定することができる。
【0120】
本実施形態の樹脂組成物によれば、破壊靭性値が向上された、機械特性の良好な種々の成形体を提供できる。
【実施例0121】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0122】
<芳香族ポリスルホンの水酸基およびその塩の合計量の測定(μmol/g)>
所定量の芳香族ポリスルホンをジメチルホルムアミドに溶解させた後、過剰量のp-トルエンスルホン酸を加えた。次いで、電位差滴定装置を用いて、0.05モル/Lの水酸化カリウム/トルエン・メタノール溶液で滴定し、残存p-トルエンスルホン酸を中和した後、水酸基を中和した。このとき、水酸基の中和に要したカリウムメトキシドの量(モル)を、芳香族ポリスルホンの前記所定量(g)で割ることにより、水酸基およびその塩の合計量を求めた。
【0123】
<芳香族ポリスルホンのMnおよびMwの測定、Mw/Mnの算出>
芳香族ポリスルホンの重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)および多分散度(Mw/Mn)は、下記[測定条件]にて、GPC測定により求めた。なお、MnおよびMwはいずれも2回測定し、その平均値を求めてそれぞれMnおよびMwとし、Mw/Mnの平均値を求めた。
【0124】
[測定条件]
試料:10mM臭化リチウム含有N,N-ジメチルホルムアミド溶液1mLに対し、芳香族ポリスルホン0.002gを配合。
試料注入量:100μL
カラム(固定相):東ソー株式会社製「TSKgel GMHHR-H」(7.8mmφ×300mm)を2本直列に連結。
カラム温度:40℃
溶離液(移動相):10mM臭化リチウム含有N,N-ジメチルホルムアミド
溶離液流量:0.8mL/分
検出器:示差屈折率計(RI)+光散乱光度計(LS)
dn/dc:dn/dc値が既知である標準ポリスチレンのピーク面積、注入濃度およびdn/dc(0.159)と、試料のピーク面積および注入濃度とから算出。
分子量算出法:光散乱光度計(LS)から絶対分子量を算出。
【0125】
<芳香族ポリスルホンのガラス転移温度Tgの測定>
示差走査熱量測定装置(島津製作所製DSC-50)を用い、JIS-K7121に準じた方法で、芳香族ポリスルホンのガラス転移温度Tgを算出した。芳香族ポリスルホン約10mgを秤量し、昇温速度10℃/minで400℃まで上昇させた後、50℃まで冷却し、再び昇温速度10℃/minで400℃まで上昇させた。2回目の昇温で得られたDSCチャートより、芳香族ポリスルホンのガラス転移温度Tgを算出した。
【0126】
<破壊靭性値KIcの算出>
後述の方法で得たエポキシ樹脂組成物の硬化物を、寸法30mm×6mm(幅W)×3mmに切り出して試験片とした。クラック長aは、0.45≦a/W≦0.55となるように調整した。ASTM D5045に従い、万能試験機(島津製作所製、オートグラフ)を用いて、試験片の破壊靱性値(KIc)を測定した。
【0127】
<芳香族ポリスルホンの製造>
≪実施例1≫
撹拌機、窒素導入管、温度計、及び先端に受器を付したコンデンサーを備えた重合槽内で、ジクロロジフェニルスルホン(DCDPS)220.55g、ジヒドロキシジフェニルスルホン(DHDPS)80.09g、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン(BHMPF)181.67g、炭酸カリウム116.10g及びN-メチル-2-ピロリドン(NMP)443gを混合し、190℃で10時間反応させた。次いで、得られた反応混合溶液を、NMPで希釈し、室温まで冷却して、未反応の炭酸カリウム、及び副生した塩化カリウムを析出させた。上述の溶液を水中に滴下し、芳香族ポリスルホンを析出させ、ろ過で不要なNMPを除去することにより、析出物を得た。得られた析出物を、入念に水で繰返し洗浄し、150℃で加熱乾燥させることにより、実施例1の芳香族ポリスルホンを得た。
【0128】
表1に、芳香族ポリスルホンの重合に用いたジヒドロキシモノマー(DHDPSおよびBHMPF)と、ジクロロモノマー(DCDPS)とのモル比を示す。
また表1に、芳香族ポリスルホンの重合に用いたジヒドロキシモノマー(DHDPSおよびBHMPF)の全量100mol%に対する、ビスフェノールフルオレンモノマー(BHMPF)の割合(mol%)を示す。
【0129】
≪実施例2~6、参考例1~2≫
実施例1において、芳香族ポリスルホンの重合に用いたジヒドロキシモノマー(DHDPSおよびBHMPF)と、ジクロロモノマー(DCDPS)とのモル比を表1に記載の値に変更し、更に、芳香族ポリスルホンの重合に用いたジヒドロキシモノマー(DHDPSおよびBHMPF)の全量100mol%に対する、ビスフェノールフルオレンモノマー(BHMPF)の割合(mol%)を、表1に記載の値に変更した以外は、上記実施例1と同様にして、各実施例および各参考例の芳香族ポリスルホンを得た。
【0130】
各実施例および各参考例で得られた芳香族ポリスルホンの、水酸基およびその塩の合計量(表1中、水酸基量と表す。)、Tg、重量平均分子量(Mw)、及び多分散度(Mw/Mn)の値を表1に示す。
【0131】
<エポキシ樹脂組成物の硬化物の製造>
≪実施例1~6、参考例1~2の硬化物≫
500mLセパラブルフラスコに、上記の各実施例及び各参考例で得られた芳香族ポリスルホンのいずれか20gと、エポキシ樹脂(スミエポキシELM-100、住友化学製)100gとを入れ、130℃で1時間撹拌した後、100℃まで冷却し、ビス(4-アミノフェニル)スルホン(アルドリッチジャパン製)45gを入れ、140℃で1時間撹拌してエポキシ樹脂組成物を得た。得られたエポキシ樹脂組成物を、厚み3mmの金枠に充填した後、高温熱風乾燥器を用いて180℃で2時間加熱硬化し、実施例1~6、及び参考例1~2のエポキシ樹脂組成物の硬化物を得た。
【0132】
≪比較例1の硬化物≫
上記の実施例1等のエポキシ樹脂組成物の硬化物の製造において、上記の芳香族ポリスルホンを配合しなかった以外は同様の操作により、比較例1のエポキシ樹脂組成物の硬化物を得た。
【0133】
上記で得られたエポキシ樹脂組成物の硬化物について、破壊靭性値KIcを計測した値を表1に示す。
【0134】
【0135】
実施例1~6のエポキシ樹脂組成物の硬化物は、参考例1~2および比較例1のエポキシ樹脂組成物の硬化物に比べ、破壊靭性値KIcが向上していた。
このことから、上記で測定された水酸基及び/又はその塩の量が70μmol/g以上である芳香族ポリスルホンを含むエポキシ樹脂組成物の硬化物が、優れた破壊靭性を有することが示された。
【0136】
各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は各実施形態によって限定されることはなく、請求項(クレーム)の範囲によってのみ限定される。