(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025075012
(43)【公開日】2025-05-14
(54)【発明の名称】組成物及びその硬化物、成形物、表示装置、並びに固体撮像素子
(51)【国際特許分類】
C08G 75/06 20060101AFI20250507BHJP
G02B 1/04 20060101ALI20250507BHJP
H10K 59/10 20230101ALI20250507BHJP
H10K 85/10 20230101ALI20250507BHJP
H10K 50/858 20230101ALN20250507BHJP
【FI】
C08G75/06
G02B1/04
H10K59/10
H10K85/10
H10K50/858
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024189982
(22)【出願日】2024-10-29
(31)【優先権主張番号】P 2023185643
(32)【優先日】2023-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】淺津 悠司
(72)【発明者】
【氏名】出▲崎▼ 光
【テーマコード(参考)】
3K107
4J030
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107AA03
3K107BB01
3K107CC05
3K107EE21
4J030BA04
4J030BB02
4J030BB03
4J030BC02
4J030BC08
4J030BC21
4J030BC22
4J030BF19
4J030BG25
(57)【要約】
【課題】成膜性を損なうことなく高い屈折率を示す硬化物を与えることが可能な組成物を提供すること。
【解決手段】(A)チイラン基又はチエタン基を少なくとも一つ有する化合物と、(B)式(Z)で表される化合物とを含有する、組成物。
[式(Z)中、
R
iは1価の置換基を表し、R
iが複数ある場合、複数あるR
iは同一であっても異なっていてもよい。
pは1~8のいずれかの整数を表す。
qは0~7のいずれかの整数を表す。
ただし、pとqとの和は8以下である。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)チイラン基又はチエタン基を少なくとも一つ有する化合物と、(B)式(Z)で表される化合物とを含有する、組成物。
【化1】
[式(Z)中、
R
iは1価の置換基を表し、R
iが複数ある場合、複数あるR
iは同一であっても異なっていてもよい。
pは1~8のいずれかの整数を表す。
qは0~7のいずれかの整数を表す。
ただし、pとqとの和は8以下である。]
【請求項2】
(C)重合開始剤をさらに含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
(D)重合抑制剤をさらに含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
(A)チイラン基又はチエタン基を少なくとも一つ有する化合物が、式(I)で表される化合物である、請求項1に記載の組成物。
【化2】
[式(I)中、
Lは単結合又は2価の基を表し、二つあるLは同一であっても異なっていてもよい。
A
1は酸素原子又は硫黄原子を表し、二つあるA
1は同一であっても異なっていてもよい。ただし、二つあるA
1の少なくとも一方は硫黄原子である。
mは0又は1を表し、二つあるmは同一であっても異なっていてもよい。
nは0~6のいずれかの整数を表す。
R
1は1価の置換基を表し、R
1が複数ある場合、複数あるR
1は同一であっても異なっていてもよい。
R
2は水素原子又は1価の置換基を表し、二つあるR
2は同一であっても異なっていてもよい。]
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物を硬化させてなる、成形物。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物の硬化物。
【請求項7】
請求項6に記載の硬化物を含む、表示装置。
【請求項8】
請求項6に記載の硬化物を含む、固体撮像素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物及びその硬化物、成形物、表示装置、並びに固体撮像素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光学機器の分野においては、高屈折材料が要望されている。高屈折材料を用いることによりレンズを得ることができ、レンズにより光学機器内の光路を制御することができる。固体撮像素子においては、各光電変換素子への集光効率を向上させる目的のレンズが使用されている。表示装置においては、画素からの光の取り出し効率を向上させる目的のレンズが使用されている。従来、種々の高屈折材料の開発が進んでおり、高屈折化のために無機フィラーを添加することが知られている。一方で、無機フィラーの凝集による光散乱、加工時の金属イオンによる周囲の汚染等、無機フィラーの添加が種々の問題を引き起こす場合もある。従来の高屈折材料としては、例えば、特定の(メタ)アクリレート化合物を含む組成物が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、成膜性を損なうことなく高い屈折率を示す硬化物を与えることが可能な組成物を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、[1]~[4]に記載の組成物、[5]に記載の成形物、[6]に記載の硬化物、[7]に記載の表示装置、及び[8]に記載の固体撮像素子を提供する。
[1](A)チイラン基又はチエタン基を少なくとも一つ有する化合物と、(B)式(Z)で表される化合物とを含有する、組成物。
【化1】
[式(Z)中、
R
iは1価の置換基を表し、R
iが複数ある場合、複数あるR
iは同一であっても異なっていてもよい。
pは1~8のいずれかの整数を表す。
qは0~7のいずれかの整数を表す。
ただし、pとqとの和は8以下である。]
[2](C)重合開始剤をさらに含有する、[1]に記載の組成物。
[3](D)重合抑制剤をさらに含有する、[1]又は[2]に記載の組成物。
[4](A)チイラン基又はチエタン基を少なくとも一つ有する化合物が、式(I)で表される化合物である、[1]~[3]のいずれかに記載の組成物。
【化2】
[式(I)中、
Lは単結合又は2価の基を表し、二つあるLは同一であっても異なっていてもよい。
A
1は酸素原子又は硫黄原子を表し、二つあるA
1は同一であっても異なっていてもよい。ただし、二つあるA
1の少なくとも一方は硫黄原子である。
mは0又は1を表し、二つあるmは同一であっても異なっていてもよい。
nは0~6のいずれかの整数を表す。
R
1は1価の置換基を表し、R
1が複数ある場合、複数あるR
1は同一であっても異なっていてもよい。
R
2は水素原子又は1価の置換基を表し、二つあるR
2は同一であっても異なっていてもよい。]
[5][1]~[4]のいずれかに記載の組成物を硬化させてなる、成形物。
[6][1]~[4]のいずれかに記載の組成物の硬化物。
[7][6]に記載の硬化物を含む、表示装置。
[8][6]に記載の硬化物を含む、固体撮像素子。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、成膜性を損なうことなく高い屈折率を示す硬化物を与えることが可能な組成物が提供される。また、本発明によれば、このような組成物を用いた成形物、このような組成物の硬化物、硬化物を含む表示装置、及び硬化物を含む固体撮像素子が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0008】
本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0009】
本明細書において、(メタ)アクリレートは、アクリレート又はそれに対応するメタクリレートを意味する。(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリル酸エステル等の他の類似表現についても同様である。
【0010】
本明細書中、以下で例示する材料は、特に断らない限り、条件に該当する範囲で、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。各成分の含有量は、各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、当該複数の物質の合計量を意味する。
【0011】
<組成物>
一実施形態の組成物は、(A)チイラン基又はチエタン基を少なくとも一つ有する化合物(以下、「含硫黄複素環化合物」という場合がある。)と、(B)式(Z)で表される化合物(以下、「化合物(Z)」という場合がある。)とを含有する。本実施形態の組成物によれば、成膜性を損なうことなく高い屈折率を示す硬化物を与えることが可能となる。本実施形態の組成物は、(C)重合開始剤、(D)重合抑制剤等をさらに含有していてもよい。
【0012】
(A)成分:含硫黄複素環化合物
本実施形態の組成物は、(A)成分を含有する。(A)成分は、硬化性化合物であり得る。組成物が(A)成分を含有することにより、(A)成分が重合して、高い屈折率を示す硬化物を与えることが可能となる。(A)成分を含有する組成物は、成膜性にも優れる。
【0013】
(A)成分は、チイラン基又はチエタン基を少なくとも一つ有する化合物であれば特に制限なく用いることができる。(A)成分は、例えば、式(X0)で表される基を少なくとも一つ有する化合物であってよく、好ましくは、式(X1)で表される基を少なくとも一つ有する化合物である。
【0014】
【0015】
式(X0)中、
mは0又は1を表す。
R2は水素原子又は1価の置換基を表す。
*は結合位置を表す。
【0016】
【0017】
式(X1)中、
Lは単結合又は2価の基を表す。
mは0又は1を表す。
R2は水素原子又は1価の置換基を表す。
*は結合位置を表す。
【0018】
Lで表される2価の基としては、例えば、置換基を有していてもよい2価の脂肪族鎖状炭化水素基;置換基を有していてもよい2価の脂環式炭化水素基;置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基;これらの組み合わせからなる2価の基(例えば、アラルキレン基)等の2価の炭化水素基などが挙げられる。2価の基に含まれるメチレン基(-CH2-)は、-O-、-S-、-NRA-(RAは水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基を表す。)、-CO-、又は-SO2-で置換されていてもよい。
【0019】
2価の脂肪族鎖状炭化水素基としては、例えば、飽和又は不飽和の脂肪族鎖状炭化水素基が挙げられる。より具体的には、メチレン基、エチレン基、プロパンジイル基、ブタンジイル基、ペンタンジイル基、ヘキサンジイル基、ヘプタンジイル基、オクタンジイル基、ノナンジイル基、デカンジイル基、ウンデカンジイル基、ドデカンジイル基、トリデカンジイル基、テトラデカンジイル基、ペンタデカンジイル基、ヘキサデカンジイル基、ヘプタデカンジイル基、オクタデカンジイル基、ノナデカンジイル基、エイコサンジイル基等のアルカンジイル基などが挙げられる。2価の脂肪族鎖状炭化水素基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。2価の脂肪族鎖状炭化水素基の炭素原子数は、通常1~20であり、好ましくは1~10、より好ましくは1~6、さらに好ましくは1~4、特に好ましくは1又は2である。
【0020】
2価の脂肪族鎖状炭化水素基が有していてもよい置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;ヒドロキシ基;アミノ基;アセチル基;シアノ基などが挙げられる。
【0021】
2価の脂環式炭化水素基としては、例えば、飽和又は不飽和の脂環式炭化水素基が挙げられる。より具体的には、シクロプロパンジイル基、シクロブタンジイル基、シクロペンタンジイル基、シクロヘキサンジイル基、シクロオクタンジイル基、シクロノナンジイル基、シクロデカンジイル基等の単環の脂環式炭化水素基;ビシクロ[1.1.0]ブタンジイル基、トリシクロ[2.2.1.0]ヘプタンジイル基、ビシクロ[3.2.1]オクタンジイル基、ビシクロ[2.2.2.]オクタンジイル基、アダマンタンジイル基、ビシクロ[4.3.2]ウンデカンジイル基、トリシクロ[5.3.1.1]ドデカンジイル基等の多環の脂環式炭化水素基等が挙げられる。2価の脂環式炭化水素基の炭素原子数は、通常3~20であり、好ましくは3~10、より好ましくは3~6、さらに好ましくは5又は6である。
【0022】
2価の脂環式炭化水素基が有していてもよい置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の炭素原子数1~10(好ましくは炭素原子数1~4)のアルキル基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;ヒドロキシ基;アミノ基;アセチル基;シアノ基等が挙げられる。
【0023】
2価の芳香族炭化水素基は、単環であっても多環であってもよい。2価の芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニレン基、ナフチレン基、アントラセンジイル基、フルオレンジイル基等が挙げられる。2価の芳香族炭化水素基の炭素原子数は、通常6~20であり、好ましくは6~10である。
【0024】
2価の芳香族炭化水素基が有していてもよい置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の炭素原子数1~10(好ましくは炭素原子数1~4)のアルキル基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;ヒドロキシ基;アミノ基;アセチル基;シアノ基等が挙げられる。
【0025】
R2で表される1価の置換基としては、例えば、置換基を有していてもよい1価の脂肪族鎖状炭化水素基、置換基を有していてもよい1価の脂環式炭化水素基、置換基を有していてもよい1価の芳香族炭化水素基、これらの組み合わせからなる1価の基(例えば、アラルキル基)等の1価の炭化水素基;ヒドロキシ基;アミノ基、モノメチルアミノ基、モノエチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、メチルエチルアミノ基等の一つ又は二つの炭素原子数1~6のアルキル基で置換されていてもよいアミノ基;ピロリジニル基、ピロリニル基、イミダゾリジニル基、イミダゾリニル基、オキサゾリニル基、チアゾリル基、ピペリジニル基、モルホリニル基、ピペラジニル基、インドリル基、イソインドリル基、キノリル基、チエニル基、ピロリル基、フリル基等の炭素原子数4~20の脂肪族複素環基又は炭素原子数3~20の芳香族複素環基等のヘテロ環基;ハロゲン原子;ニトロ基;シアノ基;カルボキシ基;スルホ基;チオール基;ホルミル基;-SF3基;-SF5基が挙げられる。1価の置換基に含まれるメチレン基(-CH2-)は、-O-、-S-、-NRB-(RBは水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基を表す。)、-CO-、又は-SO2-で置換されていてもよい。なお、1価の置換基に含まれるメチレン基(-CH2-)が、-O-で置換された基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基等の炭素原子数1~12のアルコキシ基;メトキシメチル基、エトキシメチル基、メトキシエチル基等のアルコキシアルキル基などが挙げられる。
【0026】
1価の脂肪族鎖状炭化水素基としては、例えば、飽和又は不飽和の脂肪族鎖状炭化水素基が挙げられる。より具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基等のアルキル基などが挙げられる。1価の脂肪族鎖状炭化水素基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。1価の脂肪族鎖状炭化水素基の炭素原子数は、通常1~20であり、好ましくは1~10、より好ましくは1~6、さらに好ましくは1~4、特に好ましくは1又は2である。
【0027】
1価の脂肪族鎖状炭化水素基が有していてもよい置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;ヒドロキシ基;アミノ基;アセチル基;シアノ基等が挙げられる。
【0028】
1価の脂環式炭化水素基としては、例えば、飽和又は不飽和の脂環式炭化水素基が挙げられる。より具体的には、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基等の単環の脂環式炭化水素基;ビシクロ[1.1.0]ブチル基、トリシクロ[2.2.1.0]ヘプチル基、ビシクロ[3.2.1]オクチル基、ビシクロ[2.2.2.]オクチル基、アダマンチル基、ビシクロ[4.3.2]ウンデシル基、トリシクロ[5.3.1.1]ドデシル基等の多環の脂環式炭化水素基等が挙げられる。1価の脂環式炭化水素基の炭素原子数は、通常3~20であり、好ましくは3~10、より好ましくは3~6、さらに好ましくは5又は6である。
【0029】
1価の脂環式炭化水素基が有していてもよい置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の炭素原子数1~10(好ましくは炭素原子数1~4)のアルキル基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;ヒドロキシ基;アミノ基;アセチル基;シアノ基等が挙げられる。
【0030】
1価の芳香族炭化水素基は、単環であっても多環であってもよい。1価の芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フルオレニル基等が挙げられる。1価の芳香族炭化水素基の炭素原子数は、通常6~20であり、好ましくは6~10である。
【0031】
1価の芳香族炭化水素基が有していてもよい置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の炭素原子数1~10(好ましくは炭素原子数1~4)のアルキル基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;ヒドロキシ基;アミノ基;アセチル基;シアノ基等が挙げられる。
【0032】
mは0又は1を表す。mが0であるとき、チイラン基である三員環構造を表し、mが1であるとき、チエタン基である四員環構造を表す。mは好ましくは0である。
【0033】
(A)成分は、硬化物の高屈折率の観点から、好ましくは芳香族環を含む化合物である。芳香族環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環の芳香族炭化水素環;フラン、ピロール、ベンゾフラン、チオフェン、ベンゾチオフェン、インドール、ピリジン、キノリン、イソキノリン、ピリダジン、ピリミジン、トリアジン等の芳香族複素環などが挙げられる。芳香族環は、好ましくはベンゼン環又はナフタレン環、より好ましくはナフタレン環である。
【0034】
(A)成分は、硬化物の高屈折率の観点から、好ましくは式(I)で表される化合物である。
【0035】
【0036】
式(I)中、
Lは単結合又は2価の基を表し、二つあるLは同一であっても異なっていてもよい。
A1は酸素原子又は硫黄原子を表し、二つあるA1は同一であっても異なっていてもよい。ただし、二つあるA1の少なくとも一方は硫黄原子である。
mは0又は1を表し、二つあるmは同一であっても異なっていてもよい。
nは0~6のいずれかの整数を表す。
R1は1価の置換基を表し、R1が複数ある場合、複数あるR1は同一であっても異なっていてもよい。
R2は水素原子又は1価の置換基を表し、二つあるR2は同一であっても異なっていてもよい。
Lは前記と同じ意味を表し、mは前記と同じ意味を表し、R2は前記と同じ意味を表す。
【0037】
化合物(I)において、二つある式(X)で表される基は、ナフタレン環の1~8位の任意の位置に結合していてもよい。ナフタレン環上の式(X)で表される基は、例えば、1~4位(5~8位)の任意の二つの位置に結合していてもよく、1~4位(5~8位)の任意の一つの位置と5~8位(1~4位)の任意の一つの位置とに結合していてもよい。ナフタレン環上の式(X)で表される基は、1~4位(5~8位)の任意の一つの位置と5~8位(1~4位)の任意の一つの位置とに結合していることが好ましい。
【0038】
【0039】
式(X)中、L、A1、m、及びR2は前記と同じ意味を表し、*は結合位置を表す。
【0040】
化合物(I)が1以上のR1で表される1価の置換基を有する場合、R1で表される1価の置換基は、式(X)で表される基の結合位置を除くナフタレン環の1~8位の任意の位置に結合していてもよい。
【0041】
Lは単結合又は2価の基を表し、二つあるLは同一であっても異なっていてもよく、同一であってもよい。化合物(I)において、二つあるLは、好ましくは、少なくとも一方がアルカンジイル基であり、より好ましくは、両方がアルカンジイル基である。この場合において、アルカンジイル基の炭素原子数は、好ましくは1~10、より好ましくは1~6、さらに好ましくは1~4、特に好ましくは1又は2である。
【0042】
A1は酸素原子又は硫黄原子を表し、二つあるA1は同一であっても異なっていてもよい。ただし、二つあるA1の少なくとも一方は硫黄原子である。化合物(I)において、二つあるA1は、好ましくは、両方が硫黄原子である。A1としての硫黄原子の数が増えるにつれて、より高い屈折率を示す硬化物を与えることができ、成膜性により優れる傾向がある。
【0043】
mは0又は1を表し、二つあるmは同一であっても異なっていてもよく、同一であってもよい。化合物(I)において、二つあるmは好ましくは両方が0である。
【0044】
nは0~6のいずれかの整数を表す。nは、好ましくは0~3のいずれかの整数、より好ましくは0~2のいずれかの整数、さらに好ましくは0又は1であり、特に好ましくは0である。
【0045】
R1は1価の置換基を表し、R1が複数ある場合、複数あるR1は同一であっても異なっていてもよく、同一であってもよい。R1で表される1価の置換基は、R2で表される1価の置換基と同様のものが例示できる。
【0046】
R2は水素原子又は1価の置換基を表し、二つあるR2は同一であっても異なっていてもよく、同一であってもよい。化合物(I)において、二つあるR2は、好ましくは、水素原子又は1価の脂肪族鎖状炭化水素基であり、より好ましくは、水素原子又は炭素原子数1~6の1価の脂肪族鎖状炭化水素基であり、さらに好ましくは、水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基であり、特に好ましくは、水素原子、メチル基、又はエチル基である。
【0047】
(A)成分(化合物(I))としては、例えば、式(Ia)、式(Ib)、式(Ic)、式(Id)、式(Ie)、及び式(If)で表される化合物等が挙げられる。式(Ia)、式(Ib)、式(Ic)、式(Id)、式(Ie)、及び式(If)中のL、A1、m、n、R1、及びR2は前記と同じ意味を表す。
【0048】
【0049】
式(Ia)、式(Ib)、式(Ic)、式(Id)、式(Ie)、及び式(If)において、二つあるLは、好ましくは、少なくとも一方がアルカンジイル基であり、より好ましくは、両方がアルカンジイル基である。この場合において、アルカンジイル基の炭素原子数は、好ましくは1~10、より好ましくは1~6、さらに好ましくは1~4、特に好ましくは1又は2である。
【0050】
式(Ia)、式(Ib)、式(Ic)、式(Id)、式(Ie)、及び式(If)において、二つあるmは、それぞれ独立して、0又は1であり、好ましくは0である。式(Ia)、式(Ib)、式(Ic)、式(Id)、式(Ie)、及び式(If)において、二つあるmは、好ましくは両方が0である。
【0051】
式(Ia)、式(Ib)、式(Ic)、式(Id)、式(Ie)、及び式(If)において、nは、それぞれ独立して、0~6のいずれかの整数であり、好ましくは0~3のいずれかの整数、より好ましくは0~2のいずれかの整数、さらに好ましくは0又は1であり、特に好ましくは0である。
【0052】
式(Ia)、式(Ib)、式(Ic)、式(Id)、式(Ie)、及び式(If)において、二つあるA1は、それぞれ独立して、酸素原子又は硫黄原子である。ただし、二つあるA1の少なくとも一方は硫黄原子である。A1は、好ましくは、両方が硫黄原子である。
【0053】
式(Ia)、式(Ib)、式(Ic)、式(Id)、式(Ie)、及び式(If)において、二つあるR2は、それぞれ独立して、好ましくは、水素原子又は1価の脂肪族鎖状炭化水素基、より好ましくは、水素原子又は炭素数1~6の1価の脂肪族鎖状炭化水素基、さらに好ましくは、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基であり、特に好ましくは、水素原子、メチル基、又はエチル基である。二つあるR2は、好ましくは同一である。
【0054】
以下に(A)成分(化合物(I))の具体例を例示するが、これらに限定されるものではない。
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
(A)成分の分子量は、合成の観点から、好ましくは2000以下、より好ましくは1000以下、さらに好ましくは750以下である。(A)成分の分子量は、揮発性の観点から、好ましくは50以上、より好ましくは100以上、さらに好ましくは150以上である。
【0072】
(A)成分としての化合物(I)は、式(I-A)で表される化合物(以下、「化合物(I-A)」という場合がある。)を合成し、化合物(I-A)と硫化剤とを反応させることによって得ることができる。
【0073】
【0074】
式(I-A)中、L、m、n、R1、及びR2は前記(式(I))と同じ意味を表す。
【0075】
化合物(I-A)は、例えば、式(II)で表される化合物(以下、「化合物(II)」という場合がある。)と、式(III)で表される化合物(以下、「化合物(III)」という場合がある。)とを反応させる工程を含む方法によって得ることができる。
【0076】
【0077】
式(II)中、n及びR1は前記と同じ意味を表す。
【0078】
【0079】
式(III)中、L、m、及びR2は前記と同じ意味を表し、Xは脱離基を表す。
【0080】
化合物(II)と化合物(III)との反応は、例えば、塩基の存在下に行うことができる。塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、水素化ナトリウム、水素化アルミニウムリチウム、水素化ホウ素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素セシウム等の無機塩基;ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、リチウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムイソプロポキシド、カリウムイソプロポキシド、ナトリウムt-ブトキシド、カリウムt-ブトキシド等の金属アルコキシド;アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリイソプロピルアミン、DBU(ジアザビシクロウンデセン)、DABCO(1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン)、ピリジン、2,6-ジメチルピリジン、2,6-ジt-ブチルピリジン、ジメチルアミノピリジン、トリフェニルホスフィン、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラメチルアンモニウムクロリド等の有機塩基が挙げられる。使用する塩基の量は、化合物(II)の1モルに対して、例えば、0.0001~10モルであってよく、好ましくは0.001~5モル、より好ましくは0.01~4モル、さらに好ましくは0.1~3モルである。
【0081】
また、塩基は2種類以上の塩基を併用してもよい。併用する場合、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム等の炭酸塩、又は、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素セシウム等の炭酸水素塩と、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム等の金属水酸化物、又は、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、リチウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムイソプロポキシド、カリウムイソプロポキシド、ナトリウムt-ブトキシド、カリウムt-ブトキシド等の金属アルコキシドとの組み合わせであることが好ましく、炭酸水素塩と金属水酸化物の組み合わせであることがより好ましい。併用する場合は2種類を同時に加えてもよいし、段階的に加えてもよい。
【0082】
化合物(III)において、Xで表される脱離基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、プロピルスルホニル基、ブチルスルホニル基、トリフルオロメチルスルホニル基、パーフルオロエチルスルホニル基、パーフルオロプロピルスルホニル基、パーフルオロブチルスルホニル基等のアルキルスルホニル基;フェニルスルホニル基、p-トルエンスルホニル基、p-フルオロフェニルスルホニル基、ペンタフルオロフェニルスルホニル基等のアリールスルホニル基等が挙げられる。化合物(III)の具体例としては、エピハロヒドリン化合物(Lがメチレン基であり、mが0であり、R2が水素原子であり、Xがハロゲン原子である化合物)が挙げられる。使用する化合物(III)の量は、化合物(II)の1モルに対して、例えば、0.01~20モルであってよく、好ましくは0.5~15モルである。本工程では、2種以上の化合物(III)を用いて反応を実施してもよい。
【0083】
化合物(II)と化合物(III)との反応は、溶媒中で実施されることが好ましい。溶媒としては、水の他、ケトン類、芳香族炭化水素類、ハロゲン化芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類、ハロゲン化脂肪族炭化水素類、エーテル類、アルコール類、グライム類、エステル類、脂肪族ニトリル類、スルホキシド類、アミド類等の有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、以下の溶媒が例示される。
【0084】
ケトン類:アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ブチルメチルケトン、ジイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソアミルケトン、2-ヘプタノン、2-オクタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等
芳香族炭化水素類:ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ナフタレン、アニソール、ニトロベンゼン、アニリン、テトラリン、デュレン等
ハロゲン化芳香族炭化水素:クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロナフタレン等
脂肪族炭化水素:ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等
ハロゲン化脂肪族炭化水素類:ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、テトラクロロエタン、テトラクロロエチレン等
エーテル類:ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルt-ブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジメトキシエタン、ジオキサン等
アルコール類:メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、t-ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキサフルオロイソプロパノール等
グライム類:メチルジグライム、エチルジグライム、トリグライム、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル等
エステル類:酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等
脂肪族ニトリル類:アセトニトリル等
スルホキシド類:ジメチルスルホキシド、スルホラン等
アミド類:N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等。
【0085】
化合物(II)と化合物(III)との反応の温度は、例えば、-80~200℃であってよく、好ましくは-40~150℃、より好ましくは-20~120℃、さらに好ましくは-5~100℃である。
【0086】
このようにして、化合物(I-A)を得ることができる。化合物(I)の合成に得られた化合物(I-A)を用いる場合、化合物(I-A)は、単離されてから用いてもよく、単離されることなく、そのまま用いてもよい。
【0087】
化合物(I)は、例えば、化合物(I-A)と硫化剤とを反応させる工程を含む方法によって得ることができる。
【0088】
化合物(I-A)と硫化剤との反応は、化合物(I-A)が有するエポキシ環又はオキセタニル環の酸素原子を、硫化剤を用いて硫黄原子に置換し、チイラン環(エピスルフィド環)又はチエタン環を形成する反応である。硫化剤としては、例えば、チオ尿素、メチルチオウレア、ジメチルチオウレア、トリメチルチオウレア、テトラメチルチオウレア、テトラエチルチオウレア、エチレンチオウレア、フェニルチオウレア、ジフェニルチオウレア、トリルチオウレア、ジトリルチオウレア、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム等が挙げられる。使用する硫化剤の量は、置換対象である酸素原子に合わせて任意に調整することができる。使用する硫化剤の量は、化合物(I-A)の1モルに対して、例えば、0.01~20モルであり、好ましくは0.5~10モルである。また、使用する硫化剤の量、反応温度、反応時間等を調整することで、化合物(I-A)における酸素原子の両方を硫黄原子に置き換えることもできるし、化合物(I-A)における酸素原子の一つを硫黄原子に置き換えることもできる。
【0089】
化合物(I-A)と硫化剤との反応は、溶媒中で実施されることが好ましい。溶媒としては、化合物(II)と化合物(III)との反応で例示した溶媒と同様のものが例示できる。化合物(I-A)と硫化剤との反応は、例えば、-80~200℃であってよく、好ましくは-40~100℃、より好ましくは-20~80℃、さらに好ましくは-5~60℃である。
【0090】
生成した化合物(I)の重合を抑制するために重合抑制剤を反応系中に添加してもよい。重合抑制剤としては、例えば、酸、酸無水物等が挙げられる。より具体的には、
硝酸、塩化水素(塩酸)、過塩素酸、次亜塩素酸、二酸化塩素、フッ酸、硫酸、発煙硫酸、塩化スルフリル、ホウ酸、ヒ酸、亜ヒ酸、ピロヒ酸、燐酸、亜リン酸、次亜リン酸、オキシ塩化リン、オキシ臭化リン、硫化リン、三塩化リン、三臭化リン、五塩化リン、青酸、クロム酸、無水硝酸、無水硫酸、酸化ホウ素、五酸化ヒ酸、五酸化燐、無水クロム酸、シリカ、アルミナ、塩化アルミニウム、塩化亜鉛、リン酸水素リチウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素カリウム、リン酸水素セシウム、リン酸二水素リチウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素セシウム等の無機の酸性化合物;
蟻酸、酢酸、過酢酸、チオ酢酸、蓚酸、酒石酸、プロピオン酸、酪酸、コハク酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ナフテン酸、メチルメルカプトプロピオネート、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、シクロヘキサンカルボン酸、チオジプロピオン酸、ジチオジプロピオン酸酢酸、マレイン酸、安息香酸、フェニル酢酸、o-トルイル酸、m-トルイル酸、p-トルイル酸、サリチル酸、2-メトキシ安息香酸、3-メトキシ安息香酸、ベンゾイル安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、サリチル酸、ベンジル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水安息香酸、無水フタル酸、無水ピロメリット酸、無水トリメリット酸、無水トリフルオロ酢酸等の有機カルボン酸類;
モノ、ジ及びトリメチルホスフェート、モノ、ジ及びトリエチルホスフェート、モノ、ジ及びトリイソブチルホスフェート、モノ、ジ及びトリブチルホスフェート、モノ、ジ及びトリラウリルホスフェート等のリン酸類及びこれらのホスフェート部分がホスファイトとなった亜リン酸類;
ジメチルジチオリン酸に代表されるジアルキルジチオリン酸類等の有機リン化合物;
フェノール、カテコール、t-ブチルカテコール、2,6-ジ-t-ブチルクレゾール、2,6-ジ-t-ブチルエチルフェノール、レゾルシン、ハイドロキノン、フロログルシン、ピロガロール、クレゾール、エチルフェノール、ブチルフェノール、ノニルフェノール、ヒドロキシフェニル酢酸、ヒドロキシフェニルプロピオン酸、ヒドロキシフェニル酢酸アミド、ヒドロキシフェニル酢酸メチル、ヒドロキシフェニル酢酸エチル、ヒドロキシフェネチルアルコール、ヒドロキシフェネチルアミン、ヒドロキシベンズアルデヒド、フェニルフェノール、ビスフェノール-A、2,2’-メチレン-ビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、ビスフェノール-F、ビスフェノール-S、α-ナフトール、β-ナフトール、アミノフェノール、クロロフェノール、2,4,6-トリクロロフェノール等のフェノール類;
メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ブタンスルホン酸、ドデカンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、o-トルエンスルホン酸、m-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、エチルベンゼンスルホン酸、ブチルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、p-フェノールスルホン酸、o-クレゾールスルホン酸、メタニル酸、スルファニル酸、4B-酸、ジアミノスチルベンスルホン酸、ビフェニルスルホン酸、α-ナフタレンスルホン酸、β-ナフタレンスルホン酸、ペリ酸、ローレント酸、フェニルJ酸等のスルホン酸類
などが挙げられる。
【0091】
使用する重合抑制剤の量は、化合物(I)の1モルに対して、例えば、0.0001~1.0モルであってよく、好ましくは0.001~0.5モル、より好ましくは0.01~0.25モル、さらに好ましくは0.05~0.15モルである。これらの中でも、重合抑制剤は、好ましくは、酢酸、無水酢酸、マレイン酸、無水マレイン酸、リン酸、リン酸水素アルカリ金属塩、又はリン酸二水素アルカリ金属塩である。
【0092】
反応後の生成物溶液は、酸性水溶液を用いて洗浄することによって得られる化合物(I)の経時安定性を向上させることができる。酸性水溶液に用いる酸の具体例としては、上記において重合抑制剤として例示した酸等が挙げられる。該酸は単独でも2種類以上を混合して用いてもよい。該酸性水溶液は通常pH6以下で効果を発現する傾向があるが、より効果的な範囲はpH3以下である。酸性水溶液に用いる酸は、好ましくは塩化水素(塩酸)、硫酸、リン酸及び/又はマレイン酸の水溶液である。
【0093】
さらに、化合物(I)の安定性を向上させるために硫化水素吸着剤を使用することもできる。硫化水素吸着剤としては、例えば、水酸化鉄(III)、酸化亜鉛、KNK-301(酸化亜鉛系吸着剤、呉羽油脂工業株式会社製)、ニオノン202A(酸化鉄系吸着剤、株式会社伊吹正製)、リモニック(水酸化鉄系、株式会社日本リモナイト製)等が挙げられる。硫化水素吸着剤は、反応時に添加してもよいし、反応後の精製において添加して使用することもできる。
【0094】
(A)成分の含有量は、本発明の効果が充分に得られ易いことから、組成物の固形分の総量を基準として、例えば、30~99質量%であってよい。(A)成分の含有量は、組成物の全量を基準として、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上であり、好ましくは97質量%以下、より好ましくは95質量%以下、さらに好ましくは92質量%以下である。
【0095】
組成物の固形分の総量とは、組成物に含まれる成分のうち、溶剤を除いた成分の合計を意味する。組成物の固形分中における各成分の含有量は、液体クロマトグラフィ、ガスクロマトグラフィ等の公知の分析手段で測定することができる。組成物の固形分中における各成分の含有量は、組成物調製時の配合から算出されてもよい。
【0096】
(B)成分:化合物(Z)
本実施形態の組成物は、(B)成分を含有する。(B)成分は、ヨウ素原子を有するナフタレン化合物である。組成物が(B)成分を含有することにより、より一層高い屈折率を示す硬化物を与えることができる。
【0097】
【0098】
式(Z)中、
Riは1価の置換基を表し、Riが複数ある場合、複数あるRiは同一であっても異なっていてもよい。
pは1~8のいずれかの整数を表す。
qは0~7のいずれかの整数を表す。
ただし、pとqとの和は8以下である。
【0099】
Riで表される1価の置換基は、R2で表される1価の置換基と同様のものが例示できる。
【0100】
pは1~8のいずれかの整数を表す。pは、好ましくは1~3のいずれかの整数、より好ましくは1又は2である。
【0101】
qは0~7のいずれかの整数を表す。qは、好ましくは0~3のいずれかの整数、より好ましくは0~2のいずれかの整数、さらに好ましくは0又は1であり、特に好ましくは0である。
【0102】
(B)成分の含有量は、本発明の効果が充分に得られ易いことから、組成物の固形分の総量を基準として、例えば、1~70質量%であってよい。(B)成分の含有量は、組成物の全量を基準として、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは8質量%以上であり、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下である。
【0103】
(C)成分:重合開始剤
組成物は、1種又は2種以上の(C)成分を含有していてもよい。(C)成分としては、(A)成分の重合を開始できるものであれば特に制限されず、例えば、ラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤、アニオン重合開始剤、ラジカル及びカチオン重合開始剤等が挙げられる。ラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤、又はアニオン重合開始剤は、活性エネルギー線照射及び熱の少なくとも1種により、それぞれ、ラジカル、酸、又は塩基を発生し、(A)成分のラジカル重合、カチオン重合、又はアニオン重合を進行させる。なお、(A)成分は、重合開始剤の不存在下でも、活性エネルギー線照射及び熱の少なくとも1種により重合硬化し得る。
【0104】
熱によりラジカル重合を開始させる熱ラジカル重合開始剤としては、例えば、過酸化水素、過安息香酸等の有機過酸化物、アゾビスブチロニトリル等のアゾ化合物等が挙げられる。活性エネルギー線照射によりラジカル重合を開始させる光ラジカル重合開始剤としては、例えば、オキシム化合物、アルキルフェノン化合物、アリールケトン化合物、ビイミダゾール化合物、トリアジン化合物、アシルホスフィン化合物等が挙げられる。
【0105】
カチオン重合開始剤は、活性エネルギー線照射及び熱の少なくとも一方によりカチオン重合を開始させる物質を放出することができる化合物である。カチオン重合開始剤としては、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩、芳香族アンモニウム塩、シクロペンタジエニル鉄(II)錯体等が挙げられる。これらは、構造の違いによって活性エネルギー線照射及び熱の少なくとも一方でカチオン重合を開始させることができる。活性エネルギー線照射によりカチオン重合を開始させる物質を放出することができる化合物を光カチオン重合開始剤といい、熱によりカチオン重合を開始させる物質を放出することができる化合物を熱カチオン重合開始剤という。
【0106】
アニオン重合開始剤は、活性エネルギー線照射及び熱の少なくとも一方によりアニオン重合を開始させる物質を放出することができる化合物である。アニオン重合開始剤としては、アンモニウム塩、DBU(ジアザビシクロウンデセニウム)塩、DBN(ジアザビシクロノネニウム)塩、ビグアニジウム塩、芳香族ホスホニウム塩、芳香族ジメチルウレア、脂肪族ジメチルウレア等が挙げられる。これらは、構造の違いによって活性エネルギー線照射及び熱の少なくとも一方でアニオン重合を開始させることができる。活性エネルギー線照射によりアニオン重合を開始させる物質を放出することができる化合物を光アニオン重合開始剤といい、熱によりアニオン重合を開始させる物質を放出することができる化合物を熱アニオン重合開始剤という。
【0107】
組成物が(C)成分を含有する場合、組成物及びその硬化物の耐熱性を向上させる観点から、組成物は、熱カチオン重合開始剤又は熱アニオン重合開始剤を含有することが好ましく、熱アニオン重合開始剤を含有することがより好ましい。
【0108】
組成物が(C)成分を含有する場合、重合開始剤の含有量は、(A)成分、及び、(A)成分以外の硬化性化合物の総量100質量部に対して、硬化性及び/又は耐熱性を高める観点から、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上であり、硬化物の機械的物性等の物性を良好にする観点から、好ましくは10質量部以下、より好ましくは8質量部以下である。
【0109】
(D)成分:重合抑制剤
組成物は、1種又は2種以上の(D)成分を含有していてもよい。重合抑制剤を組成物に含有させるか否かは、例えば、(C)成分の種類を考慮して決定することが好ましい。(C)成分は、好ましくは溶剤に溶解又は分散されるものである。組成物に含有される(D)成分は、組成物の調製時に添加されるものであってよく、(A)成分の製造後に添加されるものであってもよい。組成物が(D)成分を含有することにより、(A)成分の意図しない重合が抑制されるため、組成物の保管安定性を向上させることができる。
【0110】
(D)成分は、生成した化合物(I)の重合を抑制するために反応系中に添加される重合抑制剤と同様のものが例示できる。(D)成分は、好ましくは、蟻酸又は酢酸である。
【0111】
組成物が(D)成分を含有する場合、(D)成分の含有量は、組成物の保管安定性を向上させる観点から、(A)成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、さらに好ましくは0.5質量部以上、特に好ましくは1質量部以上であり、好ましくは100質量部以下、より好ましくは50質量部以下、さらに好ましくは25質量部以下、特に好ましくは10質量部以下である。
【0112】
組成物に含まれる他の成分としては、例えば、樹脂、(A)成分以外の硬化性化合物、溶剤、添加剤等が挙げられる。添加剤としては、例えば、無機粒子、充填剤、重合開始助剤、増感剤、レベリング剤、安定剤、界面活性剤、帯電防止剤、潤滑剤、防汚剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、分散剤等が挙げられる。
【0113】
(樹脂)
組成物は、1種又は2種以上の樹脂を含有していてもよい。組成物が樹脂を含有することにより、組成物の硬化物に現像性を付与したり、硬化物及びそれを含む成形物の機械的特性及び/又は光学特性を調整したりすることが可能である。樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂、硬化性樹脂が挙げられる。硬化性樹脂は、活性エネルギー線の照射により硬化する光硬化性樹脂であってもよいし、熱により硬化する熱硬化性樹脂であってもよい。
【0114】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂等のオレフィン系樹脂;ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂等の(メタ)アクリル系樹脂;ポリスチレン系樹脂、スチレン-アクリロニトリル系樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系樹脂等のスチレン系樹脂;ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、エチレン-酢酸ビニル系共重合体、エチレン-ビニルアルコール系樹脂等のビニル系樹脂;ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、液晶ポリエステル樹脂等のポリエステル系樹脂;ポリアセタール樹脂;ポリアミド樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリウレタン樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂などが挙げられる。これらの樹脂の1種又は2種以上を、ポリマーブレンド又はポリマーアロイとして使用してもよい。
【0115】
硬化性樹脂としては、光重合性基又は熱重合性基を有する樹脂が挙げられる。より具体的には、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。
【0116】
樹脂の他の例としては、アルカリ可溶性樹脂が挙げられる。組成物がアルカリ可溶性樹脂を含有することにより、組成物の硬化物に現像性を付与することができる。アルカリ可溶性樹脂とは、アルカリ水溶液に可溶な樹脂を意味する。具体的には、例えば、カルボキシ基及び/又はフェノール性水酸基を有する樹脂が挙げられる。
【0117】
アルカリ可溶性樹脂の酸価は、組成物の硬化物の現像性及び耐溶剤性を高める観点から、好ましくは10~170mgKOH/g、より好ましくは20~150mgKOH/g、さらに好ましくは30~140mgKOH/gである。酸価は、アルカリ可溶性樹脂1gを中和するに必要な水酸化カリウムの量(mg)として測定される値であり、例えば、水酸化カリウム水溶液を用いて滴定することにより求めることができる。
【0118】
また、樹脂の他の例としては、高屈折率樹脂が挙げられる。高屈折率樹脂とは、波長550nmにおける屈折率が1.60以上である樹脂を意味する。
【0119】
樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によって測定される標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、例えば、500~200万であってよく、好ましくは1000~100万、より好ましくは1500~75万である。樹脂のMwは、用いる原料の選択、仕込方法、反応温度、時間等の反応条件を適宜組み合わせて調整することができる。
【0120】
組成物が樹脂を含有する場合、樹脂の含有量は、組成物の固形分の総量を基準として、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。
【0121】
((A)成分(化合物(I))以外の硬化性化合物)
組成物は、(A)成分以外の硬化性化合物を1種又は2種以上を含有していてもよい。組成物が(A)成分以外の硬化性化合物を含有することにより、組成物の粘度又は硬化性を調整することができ、得られる硬化物及びそれを含む成形物の機械的特性及び/又は光学特性を調整することが可能である。
【0122】
(A)成分以外の硬化性化合物としては、例えば、(A)成分以外のエピスルフィド(チイラン)化合物、(A)成分以外のチエタン化合物、(A)成分以外のエポキシ化合物、(A)成分以外のオキセタン化合物、ヒドロキシ化合物、ビニルエーテル化合物、アリル化合物、チオール化合物、ポリフェノール化合物、イソ(チオ)シアナート化合物、(メタ)アクリレート化合物、酸無水物等が挙げられる。
【0123】
組成物が(A)成分以外の硬化性化合物を含有する場合、(A)成分以外の硬化性化合物の含有量は、組成物の固形分の総量を基準として、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上であり、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。
【0124】
(溶剤)
組成物は、1種又は2種以上の溶剤を含有していてもよい。溶剤は、好ましくは、(A)成分を溶解又は分散させることができるものであり、より好ましくは、さらに(A)成分以外の他の成分を溶解又は分散させることができるものである。溶剤としては、例えば、化合物(II)と化合物(III)との反応で例示した溶媒(有機溶媒)を用いることができる。
【0125】
組成物が溶剤を含有する場合、溶剤の含有量は、組成物の固形分の総量100質量部に対して、好ましくは60質量部以上、より好ましくは80質量部以上であり、好ましくは1000質量部以下、より好ましくは500質量部以下である。組成物が溶剤を含有する場合、組成物の固形分濃度は、好ましくは5~60質量%、より好ましくは10~50質量%である。
【0126】
<硬化物及び成形物>
一実施形態の硬化物は、組成物の硬化物である。一実施形態の成形物は、組成物を硬化させてなるものであり、組成物の硬化物を含む。組成物は成膜性、硬化性等に優れているため、硬化物又はそれを含む成形物を作製するための硬化性材料として好適に用いることができる。硬化物は、活性エネルギー線の照射及び熱の少なくとも一方により、組成物中の(A)成分等を硬化させることにより得ることができる。硬化物を含む成形物の形状は特に制限されず、フィルム(膜)状、板状、レンズ形状、粉状、粒状、非球粒子状、破砕粒子状、多孔質状、塊状連続体、繊維状、管状、中空糸状等を含んでいてもよく、成形物の用途等に応じた任意の形状であってよい。
【0127】
組成物から成形物を得る方法としては、特に限定されず、基板上に膜を形成してその後エッチング等により成形を行う方法、射出成形方法、注型重合成形方法等が挙げられる。
【0128】
注型重合成形方法では、例えば、成形モールド内に組成物を注入し、必要に応じて脱泡等を行い、次にオーブンでの加熱等により硬化させ、得られた成形物を取り出す。取り出した成形物に、さらに活性エネルギー線の照射を行い、追加で硬化を行うこともできる。
【0129】
基板上に成形物としての膜を形成する場合、組成物を基板に塗布し、必要に応じて乾燥を行って塗布膜(塗布層)を形成し、塗布膜(塗布層)を硬化させることにより硬化膜(硬化層)である成形物を得ることができる。成形物はパターニングされた硬化膜(硬化層)であってもよい。パターニングされた硬化膜は、フォトリソグラフ法、インクジェット法、印刷法等の方法によってパターニングすることにより得ることができる。パターニング方法は、例えば、フォトリソグラフィ法であってよい。フォトリソグラフィ法は、組成物を基板に塗布し、必要に応じて乾燥を行って塗布膜(塗布層)を形成し、フォトマスクを介して塗布膜(塗布層)を露光し、露光後の塗布膜(塗布層)を現像する方法である。
【0130】
基板としては、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミナケイ酸塩ガラス、表面をシリカコートしたソーダライムガラス、無アルカリガラス等のガラス板;ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂板;シリコン;これらの基板上にアルミニウム、銀、銀/銅/パラジウム合金薄膜等が形成された基板などが挙げられる。組成物の基板への塗布方法としては、スピンコート法、スリットコート法、スリットアンドスピンコート法等が挙げられる。
【0131】
露光に用いられる光源は、好ましくは、250~450nmの波長の光を発生する光源である。例えば、これらの範囲の波長の光から、光重合開始剤の吸収波長に応じて、436nm付近、408nm付近、又は365nm付近の光をバンドパスフィルタにより選択的に取り出してもよい。光源の具体例としては、水銀灯、発光ダイオード、メタルハライドランプ、ハロゲンランプ等が挙げられる。パターン露光後においては、露光後の塗布膜(塗布層)を現像前に加熱(現像前ベーク)を行ってもよい。
【0132】
現像に用いる現像液としては、例えば、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム等のアルカリ性化合物を含む、水溶液、溶剤などが挙げられる。溶剤としては、例えば、化合物(II)と化合物(III)との反応で例示した溶媒(有機溶媒)を用いることができる。現像液は、界面活性剤を含んでいてもよい。現像方法としては、パドル法、ディッピング法、スプレー法等が挙げられる。現像により得られたパターン状の硬化膜(硬化層)に対してさらに加熱(ポストベーク)を行ってもよい。
【0133】
硬化物又はそれを含む成形物は、組成物から形成されるものであるため、高屈折率を示すことができ、また、それらの屈折率は、組成物の組成等を調整することにより所望の屈折率に制御することができる。硬化物又はそれを含む成形物の波長550nmにおける屈折率は、1.650以上、1.680以上、1.700以上、1.720以上、1.740以上、1.750以上、又は1.760以上であってよい。硬化物又はそれを含む成形物の波長550nmにおける屈折率は、例えば、2.000以下であり、1.900以下であってもよい。
【0134】
硬化物又はそれを含む成形物の波長550nmにおける屈折率は、例えば、以下の方法により測定することができる。まず、基板上に塗布膜を形成し、塗布膜を硬化させ、硬化膜が形成された基板を得る。次に、硬化膜が形成された基板について、積分球ユニット(例えば、日本分光株式会社製、「ISV-922」)付き可視紫外分光光度計(例えば、日本分光株式会社製、「V-650」)を用いて、波長300nmから800nmにおける透過スペクトル及び反射スペクトルを測定する。次いで、透過スペクトル及び反射スペクトルから反射スペクトルの干渉による増減を減算処理して平滑化して得られた真の反射スペクトルのうち、波長550nmの値及び基板の屈折率から、硬化物又はそれを含む成形物の波長550nmにおける屈折率をフレネルの公式(例えば、ヘクト光学I原著第5版、丸善出版、2018年、p.209-226)に基づいて算出する。これにより、硬化物又はそれを含む成形物の波長550nmにおける屈折率を求めることができる。
【0135】
<使用用途>
硬化物又は成形物の用途としては、例えば、ガラス代替品とその表面コーティング材;住居、施設、輸送機器等の窓ガラス、採光ガラス及び光源保護ガラス用のコーティング材;住居、施設、輸送機器等のウインドウフィルム;住居、施設、輸送機器等の内外装材及び内外装用塗料及び該塗料によって形成させる塗膜;アルキド樹脂ラッカー塗料及び該塗料によって形成される塗膜;アクリルラッカー塗料及び該塗料によって形成される塗膜;蛍光灯、水銀灯等の紫外線を発する光源用部材;精密機械、電子電気機器用部材、各種ディスプレイから発生する電磁波等の遮断用材;食品、化学品、薬品等の容器又は包装材;ボトル、ボックス、ブリスター、カップ、特殊包装用、コンパクトディスクコート、農工業用シート又はフィルム材;印刷物、染色物、染顔料等の退色防止剤;ポリマー支持体用(例えば、機械及び自動車部品のプラスチック製部品用)の保護膜;印刷物オーバーコート;インクジェット媒体被膜;積層艶消し;オプティカルライトフィルム;安全ガラス/フロントガラス中間層;エレクトロクロミック/フォトクロミック用途;オーバーラミネートフィルム;太陽熱制御膜;日焼け止めクリーム、シャンプー、リンス、整髪料等の化粧品;スポーツウェア、ストッキング、帽子等の衣料用繊維製品及び繊維;カーテン、絨毯、壁紙等の家庭用内装品;プラスチックレンズ、コンタクトレンズ、義眼等の医療用器具;光学フィルタ、バックライトディスプレーフィルム、プリズム、レンズ(例えば、眼鏡レンズ、カメラレンズ、及び後述するマイクロレンズ、ピックアップレンズ等)、鏡、写真材料等の光学用品;金型膜、転写式ステッカー、落書き防止膜、テープ、インク等の文房具;標示板、標示器等とその表面コーティング材;光学装置等に用いられる基板;光導波路;ホログラム;LED封止材などが挙げられる。
【0136】
成形物は、光学機器に用いられる光学用品であるレンズとして好適に用いられる。光学機器としては、固体撮像素子、表示装置等が挙げられる。固体撮像素子においては、各光電変換素子への集光効率を向上させる目的のレンズが用いられる。また、表示装置においては、画素からの光の取り出し効率を向上させる目的のレンズが用いられる。レンズはマイクロレンズであってもよい。表示装置としては、液晶表示装置、有機EL表示装置等が挙げられる。
【0137】
高屈折率材料としては、酸化ジルコニウム、酸化チタン等の無機化合物が従来知られている。しかし、無機化合物からなる高屈折率材料を含む成形物を作製する場合において、エッチングが進行しにくいなど成形が容易でないことがあり、また、成形時に高屈折率材料が飛散して汚染の問題を生じる場合がある。このような問題は、有機化合物である本実施形態の高屈折材料を用いることにより解決することが可能となる。
【0138】
本実施形態の組成物の硬化物は、主鎖切断型のポジ型レジストとして好適に用いることができる。本実施形態の組成物の硬化物を用いたレジストパターンの形成では、電離放射線等(例えば、電子線、KrFレーザー、ArFレーザー、EUVレーザー等)の照射により、レジスト膜の照射部分にて、硬化物を構成する(A)成分の重合体の主鎖が切断され、低分子量化する。そのため、露光部分と未露光部分とで現像液に対する溶解性に差が生じて、レジストパターンが形成される。本実施形態の組成物の硬化物を用いたレジストパターンは、ビルドアップ基板等のプリント基板;半導体;フォトマスク;モールドなどの製造においてレジストパターンを形成する際に適用することができる。
【実施例0139】
以下、本発明について、実施例を挙げてより具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下においては、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を意味する。
【0140】
[合成例1]
<化合物(I-1)の合成>
・化合物(I-A1)の合成
【化28】
【0141】
ジムロート冷却管及び温度計を設置した4つ口フラスコ内を窒素雰囲気とし、1,6-ナフタレンジチオール30部、アセトン165部、純水45部、及び式エピクロロヒドリン139部を上記フラスコに加えて氷浴中で15分撹拌した。続いて、別のフラスコに水酸化ナトリウム15部、アセトン66部、及び純水203部を加えて完溶させたのちに、上記4つ口フラスコに1時間かけて滴下した。滴下した後に30℃まで昇温し、30℃で2時間撹拌した。得られた混合物を精製し、式(I-A1)で表される化合物(化合物(I-A1))46部を得た。
【0142】
1H-NMR解析及びLC-MS測定を行い、化合物(I-A1)が生成したことを確認した。
1H-NMR(重クロロホルム)δ:8.37~8.39(1H)、7.85(1H)、7.39~7.70(4H)、3.08~3.29(5H)、2.94~2.98(1H)、2.57~2.81(3H)、2.39~2.41(1H)
LC-MS:[M+H]+=305.5
【0143】
【0144】
ジムロート冷却管及び温度計を設置した4つ口フラスコ内を窒素雰囲気とし、化合物(I-A1)3部、メタノール30部、トルエン30部、無水酢酸0.05部、及びチオ尿素3.8部を上記フラスコに加えて室温下で24時間撹拌した。得られた混合物を精製し、式(I-1)で表される化合物(化合物(I-1))2.5部を得た。
【0145】
1H-NMR解析及びLC-MS測定を行い、化合物(I-1)が生成したことを確認した。
1H-NMR(重クロロホルム)δ:8.39~8.43(1H)、7.86(1H)、7.40~7.74(4H)、3.40~3.53(2H)、3.04~3.18(2H)、2.78~2.96(2H)、2.47~2.49(1H)、2.35~2.36(1H)、2.14~2.16(1H)、1.93~1.94(1H)
LC-MS:[M+H]+=337.5
【0146】
[実施例1~6、比較例1~4、及び参考例1、2]
<組成物の調製>
表1に示す配合成分を表1に示す添加量(単位:質量部)でフラスコに入れ、撹拌して液状の実施例1~6、比較例1~4、及び参考例1、2の組成物を調製した。実施例1~6、参考例1、2、及び比較例1、3の組成物は、目視したところ透明であり、配合成分が均一に溶解されていることが確認された。比較例2、4、5の組成物は、目視したところ白濁しており、配合成分が均一に溶解されていないことが確認された。
【0147】
表1に示される配合成分の略称の詳細は次のとおりである。
(A)成分:含硫黄複素環化合物
・(A-1):合成例1で合成した化合物(I-1)
(B)成分:化合物(Z)
・(B-1):式(B-1)で表される化合物
【化30】
(C)成分:重合開始剤
・(C-1):DBN(ジアザビシクロノネニウム)塩タイプの熱アニオン重合開始剤(サンアプロ株式会社製、「U-CAT 1102」)
・(C-2):アンモニウム塩タイプの熱カチオン重合開始剤(KING INDUSTRIES INC.製、「CXC-1821」)
(A)成分以外の硬化性化合物
・化合物(Y1):式(Y1)で表される化合物(1,6-ビス(グリシジルオキシ)ナフタレン、DIC株式会社製、「EPICLON HP-4032D」)
【化31】
・化合物(Y2):式(Y2)で表される化合物(ビスフェノールAジグリシジルエーテル、DIC株式会社製、「EPICLON EXA-850CRP」)
【化32】
・化合物(Y3):式(Y3)で表される化合物(2,2’-ジグリシジルオキシ-1,1’-ビナフタレン、スガイ化学工業株式会社、「DGOBINL」)
【化33】
・化合物(Y4):式(Y4)で表される化合物(9-ビニルカルバゾール、東京化成工業株式会社製)
【化34】
溶剤
・溶剤(E-1):シクロペンタノン
【0148】
なお、式(B-1)で表される化合物は、J.Phys.Chem.A2003,107,480-484を参考に合成した。
【0149】
<評価試験>
(1)成膜性
実施例1~6、比較例1~4、及び参考例1、2の組成物について、次の方法で塗布膜を形成し、成膜性を評価した。組成物を、無アルカリガラス板(厚み0.7mm、コーニング社製、「Eagle XG」)上に約3mL滴下し、1000rpm及び20秒の条件でスピンコーター(ミカサ株式会社製、「MS-B100」)を用いてスピンコートして、塗布膜を形成した。塗布膜が形成された無アルカリガラス板を60℃で2分間加熱し、溶剤を除去した。
【0150】
得られた塗布膜を観察して、以下の評価基準に従って、組成物の成膜性を評価した。結果を表1に示す。なお、穴あき欠陥とは、塗布膜に直径1mm以上の穴があき、無アルカリガラス板が露出した状態を意味する。結果がAであれば、成膜性は良好であるといえる。
A:無色透明であり、穴あき欠陥及び白濁のどちらも観測されなかった。
D1:穴あき欠陥があった。
D2:白濁していた。
【0151】
以下では、(1)の評価が「A」及び「D1」であった実施例1~6、比較例1、2、及び参考例1、2の組成物について評価を行った。
【0152】
(2)硬化膜の形成
実施例1~6、比較例1、2、及び参考例1、2の組成物をそれぞれ、無アルカリガラス板(厚み0.7mm、コーニング社製、「Eagle XG」)上に約3mL滴下し、1000rpm及び20秒の条件でスピンコーター(ミカサ株式会社製、「MS-B100」)を用いてスピンコートして、塗布膜を形成した。塗布膜が形成された無アルカリガラス板を60℃で2分間加熱し、溶剤を除去した。次に、塗布膜が形成された無アルカリガラス板をポストベークとして120℃で10分間加熱して、硬化膜が形成された無アルカリガラスを得た。触針式膜厚計(Bruker社製、「DekTak XT」)で無アルカリガラス上の硬化膜の膜厚を測定したところ、膜厚はいずれも1.5μmであった。
【0153】
(3)屈折率の測定
上記(2)で作製した、硬化膜が形成された無アルカリガラスについて、積分球ユニット(日本分光株式会社製、「ISV-922」)付き可視紫外分光光度計(日本分光株式会社製、「V-650」)を用いて、波長300nmから800nmにおける透過スペクトル及び反射スペクトルを測定した。透過スペクトル及び反射スペクトルから反射スペクトルの干渉による増減を減算処理して平滑化して得られた真の反射スペクトルのうち、波長550nmの値及び無アルカリガラス板(コーニング社製、「Eagle XG」)の屈折率から波長550nmにおける硬化膜の屈折率をフレネルの公式(ヘクト光学I原著第5版、丸善出版、2018年、p.209-226)に基づいて算出した。結果を表1に示す。
【0154】
【0155】
表1に示すとおり、実施例の組成物は、成膜性及び屈折率の点で、比較例の組成物に比べて優れていた。これらの結果から、本発明の組成物は、成膜性を損なうことなく高い屈折率を示す硬化物を与えることが可能であることが確認された。