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特開2025-75960ポリアセタール樹脂組成物およびその熱安定性改善方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025075960
(43)【公開日】2025-05-15
(54)【発明の名称】ポリアセタール樹脂組成物およびその熱安定性改善方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 59/00 20060101AFI20250508BHJP
   C08L 97/00 20060101ALI20250508BHJP
   C08K 3/014 20180101ALI20250508BHJP
【FI】
C08L59/00
C08L97/00
C08K3/014
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023187510
(22)【出願日】2023-11-01
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和5年度、みどりの食料システム戦略実現技術開発・実証事業のうち農林水産研究の推進(委託プロジェクト研究)「木質リグニン由来次世代マテリアルの製造・利用技術等の開発」委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】501186173
【氏名又は名称】国立研究開発法人森林研究・整備機構
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】山田 竜彦
(72)【発明者】
【氏名】西山 寛樹
(72)【発明者】
【氏名】▲柳▼澤 佑
(72)【発明者】
【氏名】鈴江 郁哉
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AH002
4J002CB001
4J002EJ066
4J002EN076
4J002ER027
4J002EU187
4J002FB262
4J002FD067
4J002FD076
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】熱安定性に優れるポリアセタール樹脂組成物およびその熱安定性改善方法を提供すること。
【解決手段】本発明のポリアセタール樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂(A)と、リグニン(B)と、酸化防止剤(C)と、耐熱安定剤(D)を含む。前記リグニン(B)が化学修飾されたリグニンであり、前記耐熱安定剤(D)が、塩基性窒素含有化合物である、ポリアセタール樹脂組成物である。前記化学修飾されたリグニン(B)は、ポリエチレングリコールにより化学修飾されたリグニンである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアセタール樹脂(A)と、
リグニン(B)と、
酸化防止剤(C)と、
耐熱安定剤(D)と、を含み、
前記リグニン(B)が化学修飾されたリグニンであり、
前記耐熱安定剤(D)が、塩基性窒素含有化合物である、
ポリアセタール樹脂組成物。
【請求項2】
前記化学修飾されたリグニンが、ポリエチレングリコールにより化学修飾されたリグニンである、請求項1に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項3】
前記化学修飾されたリグニンの添加量が、前記ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対して1~50質量部である、請求項1または2に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項4】
前記酸化防止剤(C)が、ヒンダードフェノール系化合物または芳香族アミン系化合物である、請求項1に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項5】
前記塩基性窒素含有化合物が、シアノグアニジンまたはメラミンである、請求項1に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項6】
ポリアセタール樹脂(A)と、
リグニン(B)と、
酸化防止剤(C)と、
耐熱安定剤(D)と、を含み、
前記リグニン(B)が化学修飾されたリグニンであり、
前記耐熱安定剤(D)は、塩基性窒素含有化合物であり、
前記ポリアセタール樹脂(A)に、前記化学修飾されたリグニンを添加する、ポリアセタール樹脂組成物の熱安定性改善方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアセタール樹脂組成物およびその熱安定性改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール樹脂は、機械的性質、耐疲労性、耐摩擦・摩耗性、耐薬品性および成形性に優れているため、自動車部品、電気・電子機器部品、その他の精密機械部品、建材・配管部材、生活・化粧用部品、医用部品等の分野において広く利用されている。このような用途の拡大、多様化に伴い、その品質に対する要求はより高度化する傾向を示している。
【0003】
ここで、ポリアセタール樹脂には、押出または成形工程などの加工工程における機械的強度が低下しないこと、射出成型時に金型への付着物(モールドデポジット)が発生しないこと、長期加熱条件下(ヒートエージング)における成形品の機械的物性が低下しないこと、高温環境下における高い熱安定性を有することなどが求められている。特に、高温環境下、ポリアセタール樹脂が分解されて生じる熱的に不安定な末端が、解重合することで発生するホルムアルデヒドの発生量を低減できる高い熱安定性を有するポリアセタール樹脂が求められている。
【0004】
そこで、ポリアセタール樹脂の分解を抑制するために、例えば、特許文献1では、ヒンダードフェノール類等の酸化防止剤、塩基性窒素含有化合物等の耐熱安定剤、長鎖脂肪酸またはその誘導体等の加工安定剤、ベンゾトリアゾール系化合物等の耐侯安定剤を用いた検討がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-043610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の検討では、ポリアセタール樹脂の熱安定性等は改善傾向にあるものの、さらなる改善が望まれている。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、熱安定性に優れるポリアセタール樹脂組成物およびその熱安定性改善方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ところで、近年のカーボンニュートラルの観点から、製造時に発生する二酸化炭素の排出量を大幅に低減するために、バイオマス由来の材料を用いた樹脂開発の必要性が高まっている。
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行っていたところ、バイオマス由来の材料として化学修飾されたリグニンを用いることで、意外にも、ポリアセタール樹脂組成物の熱安定性を高めることができることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は、以下の[1]~[6]のように構成される。
【0010】
[1]ポリアセタール樹脂(A)と、リグニン(B)と、酸化防止剤(C)と、耐熱安定剤(D)と、を含み、前記リグニン(B)が化学修飾されたリグニンであり、前記耐熱安定剤(D)が、塩基性窒素含有化合物である、ポリアセタール樹脂組成物。
[2]前記化学修飾されたリグニンが、ポリエチレングリコールにより化学修飾されたリグニンである、[1]に記載のポリアセタール樹脂組成物。
[3]前記化学修飾されたリグニンの添加量が、前記ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対して1~50質量部である、[1]または[2]に記載のポリアセタール樹脂組成物。
[4]前記酸化防止剤(C)が、ヒンダードフェノール系化合物または芳香族アミン系化合物である、[1]に記載のポリアセタール樹脂組成物。
[5]前記塩基性窒素含有化合物が、シアノグアニジンまたはメラミンである、[1]に記載のポリアセタール樹脂組成物。
[6]ポリアセタール樹脂(A)と、リグニン(B)と、酸化防止剤(C)と、耐熱安定剤(D)と、を含み、前記リグニン(B)が化学修飾されたリグニンであり、前記耐熱安定剤(D)が、塩基性窒素含有化合物であり、前記ポリアセタール樹脂(A)に、前記化学修飾されたリグニンを添加する、ポリアセタール樹脂組成物の熱安定性改善方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、熱安定性に優れるポリアセタール樹脂組成物およびその熱安定性改善方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で適宜変更が可能である。
【0013】
[ポリアセタール樹脂組成物]
本発明の一実施形態に係るポリアセタール樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂(A)と、リグニン(B)と、酸化防止剤(C)と、耐熱安定剤(D)と、を含む。
【0014】
本発明の一実施形態に係るポリアセタール樹脂とは、ホモポリマーまたはコポリマーのことをいう。
【0015】
<ホモポリマー>
ホモポリマーとは、単一のモノマーから構成される重合体のことをいう。また、ポリアセタール重合体におけるホモポリマーとは、繰り返し単位としてオキシメチレン基(-OCH-)のみを主鎖に有する重合体のことをいう。
【0016】
ホモポリマーは、ホルムアルデヒドを、重合触媒存在下で、アニオン重合することにより得ることができる。なお、重合工程で得られる粗ポリオキシメチレンの末端を、エーテル化剤、エステル化剤などを用いて安定化させることを要する。
【0017】
ホモポリマーは、上述の方法で重合したホモポリマーを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。上記市販品の例には、デルリン(デュポン(米国)社製、「デルリン」は同社の登録商標)、テナック(旭化成株式会社製、「テナック」は同社の登録商標)などが含まれる。
【0018】
<コポリマー>
コポリマーとは、2以上のモノマーから構成される共重合体のことをいう。また、ポリアセタール重合体におけるコポリマーとは、オキシメチレン基(-OCH-)を主鎖に有し、かつ、分子中に炭素数が2以上のオキシアルキレン基等の他の基も有する共重合体のことをいう。
【0019】
コポリマーは、重合触媒存在下で、トリオキサンと、トリオキサンと共重合可能なコモノマーと、を共重合させることにより得ることができる。
【0020】
≪トリオキサン≫
トリオキサンは、ホルムアルデヒドの環状三量体である。なお、トリオキサンは、一般的には酸性触媒の存在下で、ホルムアルデヒド水溶液を反応させることによって得られ、蒸留などにより精製されている。
【0021】
≪コモノマー≫
コモノマーは、少なくとも1つの炭素-炭素結合を有する環状エーテルおよび環状ホルマールからなる群から選択されることが好ましい。
【0022】
コモノマーの例には、1,3-ジオキソラン、ジエチレングリコールホルマール、1,4-ブタンジオールホルマール、1,3-ジオキサン、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、エピクロルヒドリン等が含まれる。これらの中では、重合安定性の観点から、1,3-ジオキソランが好ましい。
【0023】
また、コモノマーとして、ブタンジオールジグリシジルエーテル等のアルキレングリコールのジグリシジルエーテルやジホルマールのような2個の重合性環状エーテル基もしくは環状ホルマール基を有する化合物、またはグリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル等の3個以上の重合性環状エーテル基もしくは環状ホルマール基を有する化合物を用いることもできる。これらのコモノマーを用いることによって、分岐構造や架橋構造が形成されたポリアセタール樹脂を得ることができる。
【0024】
コポリマーの重合は、公知の方法およびバッチ式、連続式などの公知の重合装置を用いることができる。
【0025】
コポリマーは、上述の方法で重合したコポリマーを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。上記市販品の例には、ジュラコン(ポリプラスチックス株式会社製、「ジュラコン」は同社の登録商標)などが含まれる。
【0026】
[リグニン]
本発明の一実施形態に係るリグニンとは、化学修飾されたリグニンのことをいう。
【0027】
化学修飾されたリグニンは、ポリエチレングリコールにより化学修飾されたリグニン(以下、「グリコールリグニン」ともいう)であることが好ましい。
【0028】
グリコールリグニンは、分子内にポリエチレングリコール骨格を有することから、ポリアセタール樹脂とのコンポジットを行った際に高い分散性を有するとともに、高い熱安定性を有する化合物である。そのため、ポリアセタール樹脂組成物からホルムアルデヒドの発生を抑制することができる。
【0029】
また、グリコールリグニンは、エチレングリコールと木粉との反応により製造することができる。リグニンの原材料(木粉)となる植物バイオマスの例には、スギ、ヒノキ等の針葉樹材、カバ、ミズナラ等の広葉樹材、稲わら、バガス、タケ等の草本等が含まれる。
【0030】
また、グリコールリグニンの製造方法は、特に限定されないが、例えば、特開2017-197517号公報に開示されている工程を有する方法で製造することができる。
【0031】
具体的には、(a)リグノセルロースを酸触媒存在下、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリンおよびポリグリセリンから選択される少なくとも1種の蒸解溶媒を用いて常圧下で加溶媒分解する工程と、(b)加溶媒分解工程後に得られた反応混合物と希アルカリとを混合した後、グリコールリグニンを含む溶液画分と固形分とを分離する工程と、(c)溶液画分の溶液を硫酸で酸性化することにより、グリコールリグニンを沈殿物として得る工程と、(d)グリコールリグニンの沈殿物を、硫酸で酸性化した溶液画分から分離する工程と、(e)グリコールリグニンの沈殿物分離後の上清液および洗浄水を集積し、その集積溶液に水酸化ナトリウムを添加することにより、集積溶液を中和する工程と、(f)中和溶液を加熱することにより含水率10%以下に濃縮して蒸解溶媒を回収する工程と、(g)濃縮により生成した硫酸ナトリウムの結晶を分離する工程と、を有する方法である。
【0032】
化学修飾されたリグニンの添加量は、ポリアセタール樹脂100質量部に対して1~60質量部であることが好ましく、1~50質量部であることがより好ましく、5~50質量部であることがさらに好ましく、10~50質量部であることが特に好ましい。リグニンの添加量をポリアセタール樹脂100質量部に対して1~60質量部とすることにより、ホルムアルデヒドの発生量を60ppm以下に低減できる高い熱安定性を有するポリアセタール樹脂組成物を得ることができる。
【0033】
[酸化防止剤]
酸化防止剤の例には、ヒンダードフェノール系化合物、芳香族アミン系化合物等が含まれる。これらの酸化防止剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
ヒンダードフェノール系化合物の例には、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、1,6-ヘキサンジオール-ビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、n-オクタデシル-3-(4’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネート、ステアリル-2-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2-t-ブチル-6-(3-t-ブチル-5-メチル-2-ヒドロキシベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、4,4’-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)等が含まれる。
【0035】
芳香族アミン系化合物の例には、フェニル-1-ナフチルアミン、フェニル-2-ナフチルアミン、N,N’-ジフェニル-1,4-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-シクロヘキシル-1,4-フェニレンジアミン、4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン等が含まれる。
【0036】
なお、上述の酸化防止剤と、リン系酸化防止剤、ヒドロキノン系酸化防止剤、キノリン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤を併せて用いてもよい。
【0037】
上述のヒンダードフェノール系化合物の中では、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が好ましく、芳香族アミン系化合物の中では、4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、またはN,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミンが好ましい。
【0038】
酸化防止剤の添加量は、ポリアセタール樹脂100質量部に対して0.1~2.0質量部であることが好ましく、0.3~1.5質量部であることがより好ましい。上述の酸化防止剤を0.1~2.0質量部含むことにより、溶融混錬などの操作の際の熱安定性が向上する。
【0039】
[耐熱安定剤]
本発明の一実施形態に係る耐熱安定剤は、塩基性窒素含有化合物である。耐熱安定剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0040】
(塩基性窒素含有化合物)
塩基性窒素含有化合物の例には、低分子化合物、高分子化合物(窒素含有樹脂)等が含まれる。
【0041】
低分子化合物の例には、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン等の脂肪族アミン類、o,m,p-トルイジン、o,m,p-フェニレンジアミン等の芳香族第2級アミンまたは第3級アミン、o,m,p-アミノ安息香酸、o,m,p-アミノ安息香酸エチル等の芳香族アミン類、マロンアミド、イソフタル酸ジアミド等の多価カルボン酸アミド、o,m,p-アミノベンズアミド等のアミド化合物、ヒドラジン、ヒドラゾン、多価カルボン酸ヒドラジド等のヒドラジンまたはその誘導体、グアナミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、サクシノグアナミン、アジポグアナミン、フタログアナミン、CTU-グアナミン、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-ウンデシルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン等のグアナミン類またはそれらの誘導体、メラミンまたはその誘導体、ウラシルまたはその誘導体、シトシンまたはその誘導体、グアニジン、シアノグアニジン等の非環状グアニジン、クレアチニンなどの環状グアニジン等のグアニジンまたはその誘導体、ビウレット、ビウレア、エチレン尿素、アセチレン尿素、イソブチリデンジウレア、クロチリデンジウレア等の尿素またはその誘導体、1-メチルヒダントイン、5-プロピルヒダントイン、5,5-ジメチルヒダントイン等のモノまたはジC1-4アルキル置換体、5-フェニルヒダントイン、5,5-ジフェニルヒダントイン等のアリール置換体、5-メチル-5-フェニルヒダントイン等のアルキルアリール置換体等のヒダントインまたは置換ヒダントイン誘導体、モノ、ジまたはトリC1-4アルキル置換体、アリール置換体等のアラントインまたは置換アラントイン誘導体、アラントインの金属塩等が含まれる。
【0042】
高分子化合物(窒素含有樹脂)の例には、グアナミン樹脂、メラミン樹脂、グアニジン樹脂等の縮合樹脂、ベンゾグアナミン-メラミン樹脂、芳香族ポリアミン-メラミン樹脂等の共縮合樹脂、芳香族アミン-ホルムアルデヒド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステルアミド、ポリアミドイミド、ポリウレタン、ポリアクリルアミド、ポリ(N-ビニルホルムアミド)、N-ビニルホルムアミドと他のビニルモノマーとの共重合体、ポリ(N-ビニルカルボン酸アミド)、N-ビニルカルボン酸アミドと他のビニルモノマーとの共重合体等が含まれる。
【0043】
耐熱安定剤は、上述の化合物のうちシアノグアニジン、またはメラミンが好ましい。
【0044】
耐熱安定剤の添加量は、ポリアセタール樹脂100質量部に対して0.05~1質量部であることが好ましく、0.1~1質量部であることがより好ましい。上述の耐熱安定剤をポリアセタール樹脂100質量部に対して0.05~1質量部含むことにより、ポリアセタール樹脂組成物の熱安定性が向上する。
【0045】
[その他の成分]
ポリアセタール樹脂組成物には、その他の重合体、その他の充填剤、一般に合成樹脂に添加される公知の酸化防止剤や紫外線吸収剤等の安定剤、帯電防止剤、難燃剤、染料や顔料等の着色剤、滑剤、離型剤、結晶化促進剤、結晶核剤等のその他の成分も要求性能に応じ適宜添加することができる。その他の成分は1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0046】
[ポリアセタール樹脂組成物の熱安定性改善方法]
本発明の一実施形態に係るポリアセタール樹脂組成物の熱安定性改善方法は、ポリアセタール樹脂(A)と、リグニン(B)と、酸化防止剤(C)と、耐熱安定剤(D)と、を含み、前記ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対して、前記化学修飾されたリグニンを1~50質量部添加する方法である。上記耐熱安定剤(D)は、塩基性窒素含有化合物である。
【0047】
化学修飾されたリグニンの添加量は、ポリアセタール樹脂100質量部に対して1~60質量部であることが好ましく、1~50質量部であることがより好ましく、5~50質量部であることがさらに好ましく、10~50質量部であることが特に好ましい。リグニンの添加量をポリアセタール樹脂100質量部に対して1~60質量部とすることにより、ポリアセタール樹脂組成物からホルムアルデヒドが発生することを抑制することができる。また、リグニンの添加量をポリアセタール樹脂100質量部に対して1~60質量部とすることにより、高い熱安定性を有するポリアセタール樹脂組成物を得ることができる。
【0048】
[成形品]
本発明の一実施形態に係る成形品は、ポリアセタール樹脂(A)と、化学修飾されたリグニン(B)と、酸化防止剤(C)と、耐熱安定剤(D)と、を含み、耐熱安定剤(D)が塩基性窒素含有化合物である、ポリアセタール樹脂組成物を含む。当該成形品にはポリアセタール樹脂からなる部品等だけでなく、粉体状、ペレット状等に加工したポリアセタール樹脂も含まれる。
【0049】
成形品が、化学修飾されたリグニンを1~60質量部含むポリアセタール樹脂組成物からなることにより、熱安定性が高くなるため樹脂溶融時のホルムアルデヒドの発生量を低減できる。
【実施例0050】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
[ポリアセタール樹脂組成物の製造方法]
以下に示すようにして、表1~3に示されるポリアセタール樹脂組成物を製造した。
【0052】
コポリマーまたはホモポリマー(市販品)のペレットが投入された容器に、リグニン、酸化防止剤、および耐熱安定剤を表1~3に示される質量比で添加して混合した。次いで、ベント付き二軸押出機を用いて、シリンダーの温度が220℃であり、ベント部の真空度が5mmHgである条件下で溶融混錬して押し出し、表1~3に示されるポリアセタール樹脂組成物(ペレット)を得た。
【0053】
[評価]
表1~3に示されるコポリマーおよび表2、3に示されるホモポリマーを用いて熱安定性の評価を行った。熱安定性の評価は、ホルムアルデヒドの発生量で評価した。
【0054】
[ホルムアルデヒド発生量]
(評価方法)
表1~3に示されるポリアセタール樹脂組成物(5g)をそれぞれ200℃に保ったシリンダーに充填して、5分間で溶融保持した後、上記ポリアセタール樹脂組成物の溶融物をそれぞれ密閉容器内に押し出した。この密閉容器に窒素ガスを流し、出てきた窒素ガスに含まれるホルムアルデヒドを水に溶かして捕集した。この水中のホルムアルデヒド濃度をJIS K0102(2013)に準拠して測定することにより、上記溶融物からのホルムアルデヒドの質量を求めた。このホルムアルデヒドの質量を、用いた上記ポリアセタール樹脂組成物の質量で除してホルムアルデヒド発生量(単位:ppm)とした。本発明において、ホルムアルデヒド発生量は60ppm以下であることが実用上好ましい。
【0055】
上記評価方法にて得られた、ホルムアルデヒド発生量を表1~3に示す。
【0056】
また、表1~3中の符号、酸化防止剤および耐熱安定剤の名称は以下のとおりである。
【0057】
[POM樹脂]
A1:コポリマー(トリオキサン96.7質量%と1,3-ジオキソラン3.3質量%とを共重合させてなるポリアセタール共重合体(MFR:9g/10min))
A2:ホモポリマー
【0058】
[リグニン]
B1:特開2019-108490号公報に準じて作製したグリコールリグニン
B2:リグニンスルホン酸ナトリウム(東京化成工業株式会社製)
【0059】
[酸化防止剤]
C1:4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン
C2:ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]
C3:N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン
【0060】
[耐熱安定剤]
(塩基性窒素含有化合物)
D1:シアノグアニジン(東京化成工業株式会社製)
D2:メラミン(東京化成工業株式会社製)
(その他化合物)
D3:酸化マグネシウム(富士フィルム和光純薬株式会社製)
【0061】
なお、A2は旭化成株式会社製のテナック4010であり、C1は大内新興化学工業株式会社製のノクラックCDであり、C2はBASFジャパン製のIrganox1010であり、C3は大内新興化学工業株式会社製のノクラックホワイトである。
【0062】
[構成成分・評価項目]
POM樹脂組成物:ポリアセタール樹脂組成物
POM樹脂 :ポリアセタール樹脂
HCHO発生量 :ホルムアルデヒド発生量
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
【表3】
【0066】
表1~3に示されるように、化学修飾されたリグニンを用いることによりホルムアルデヒドの発生を低減できるポリアセタール樹脂組成物を得られることを確認できた。また、化学修飾されたリグニンを用いることによりポリアセタール樹脂組成物の熱安定性を改善方法する方法を提供できることを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明より、バイオマス由来の原料を用いたポリアセタール樹脂組成物の熱安定性が良好であることから、バイオマス由来の原料を用いた樹脂の製造技術の進展および普及に貢献することが期待される。