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特開2025-7751光ファイバ心線および光ファイバ心線の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007751
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】光ファイバ心線および光ファイバ心線の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 25/40 20060101AFI20250109BHJP
   C03C 25/6226 20180101ALI20250109BHJP
   C03C 25/475 20180101ALI20250109BHJP
   C03C 25/1065 20180101ALI20250109BHJP
   G02B 6/44 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
C03C25/40
C03C25/6226
C03C25/475
C03C25/1065
G02B6/44 331
G02B6/44 301A
G02B6/44 336
G02B6/44 311
G02B6/44 371
G02B6/44 301B
G02B6/44 391
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023109358
(22)【出願日】2023-07-03
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100114915
【弁理士】
【氏名又は名称】三村 治彦
(74)【代理人】
【識別番号】100125139
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 洋
(72)【発明者】
【氏名】石附 邦彬
(72)【発明者】
【氏名】岩屋 光洋
【テーマコード(参考)】
2H201
2H250
4G060
【Fターム(参考)】
2H201AX17
2H201AX19
2H201AX23
2H201AX24
2H201BB03
2H201BB12
2H201BB23
2H201BB24
2H201BB85
2H201BB99
2H201DD02
2H201DD06
2H201DD28
2H201DD33
2H201KK26C
2H201KK29C
2H201KK37C
2H201KK39C
2H201KK63
2H201KK72
2H201KK73
2H201KK76
2H201MM03
2H201MM34
2H250AB03
2H250AH14
2H250BA03
2H250BA22
2H250BA25
2H250BA32
2H250BB02
2H250BB07
2H250BB14
2H250BB19
2H250BB33
2H250BC02
2H250BC03
2H250BD07
2H250BD10
2H250BD12
2H250BD14
2H250BD17
2H250BD20
4G060AA01
4G060AA02
4G060AA03
4G060AC02
4G060AC09
4G060AC15
4G060AD22
4G060AD43
4G060CB09
4G060CB27
4G060CB33
(57)【要約】
【課題】プライマリ層のヤング率および破断伸びを適切な値に設定可能な光ファイバ心線および光ファイバ心線の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明における光ファイバ心線は、光ファイバ裸線と、前記光ファイバ裸線を覆う第1紫外線硬化型樹脂により形成されたプライマリ層と、前記プライマリ層を覆う第2紫外線硬化型樹脂により形成されたセカンダリ層とを備え、前記プライマリ層は、不飽和炭素結合由来の架橋点およびシランカップリング剤由来の架橋点を有し、前記プライマリ層は、ケイ素原子を0.014wt%以上0.72wt%以下含むことを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ裸線と、
前記光ファイバ裸線を覆う第1紫外線硬化型樹脂により形成されたプライマリ層と、
前記プライマリ層を覆う第2紫外線硬化型樹脂により形成されたセカンダリ層とを備え、
前記プライマリ層は、不飽和炭素結合由来の架橋点およびシランカップリング剤由来の架橋点を有し、
前記プライマリ層は、ケイ素原子を0.014wt%以上0.72wt%以下含むことを特徴とする光ファイバ心線。
【請求項2】
前記プライマリ層の破断伸びが200%以上であることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ心線。
【請求項3】
前記プライマリ層は、ケイ素原子を0.014wt%以上0.43wt%以下含むことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ心線。
【請求項4】
前記プライマリ層のヤング率が0.29MPa以上であることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ心線。
【請求項5】
前記プライマリ層のヤング率が2.32MPa以下であることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ心線。
【請求項6】
前記プライマリ層が酸性であることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ心線。
【請求項7】
前記プライマリ層がシランカップリング剤由来の架橋点を含まないプライマリ層と比較して破断伸びが上昇していることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の光ファイバ心線。
【請求項8】
請求項1に記載の光ファイバ心線と、
前記光ファイバ心線の前記セカンダリ層を覆う第3紫外線硬化型樹脂により形成された着色層とを備えることを特徴とする光ファイバ着色心線。
【請求項9】
請求項1に記載の光ファイバ心線の前記セカンダリ層が着色されていることを特徴とする光ファイバ着色心線。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の複数の光ファイバ着色心線と、
前記光ファイバ着色心線を覆う第4紫外線硬化型樹脂により形成されたリボン層とを備えることを特徴とする光ファイバリボン。
【請求項11】
光ファイバ母材から光ファイバ裸線を線引きする工程と、
前記光ファイバ裸線の周囲にプライマリ層を形成する第1紫外線硬化型樹脂を塗布し、プライマリ層を形成する工程と、
前記プライマリ層の周囲にセカンダリ層を形成する第2紫外線硬化型樹脂を塗布し、前記第2紫外線硬化型樹脂に紫外線を照射してセカンダリ層を形成する工程とを備え、
前記プライマリ層は、不飽和炭素結合由来の架橋点およびシランカップリング剤由来の架橋点を有し、
前記プライマリ層は、ケイ素原子を0.014wt%以上0.72wt%以下含むことを特徴とする光ファイバ心線の製造方法。
【請求項12】
前記プライマリ層の破断伸びが200%以上であることを特徴とする請求項11に記載の光ファイバ心線の製造方法。
【請求項13】
前記プライマリ層を形成する工程において、前記プライマリ層を形成する前記第1紫外線硬化型樹脂に紫外線を照射することを特徴とする請求項11に記載の光ファイバ心線の製造方法。
【請求項14】
請求項11に記載の光ファイバ心線の前記セカンダリ層の周囲に着色層を形成する第3紫外線硬化型樹脂を塗布し、前記第3紫外線硬化型樹脂に紫外線を照射して着色層を形成する工程を備えることを特徴とする光ファイバ着色心線の製造方法。
【請求項15】
請求項11の光ファイバ心線の前記セカンダリ層を着色することによって着色層を形成する工程を備えることを特徴とする光ファイバ着色心線の製造方法。
【請求項16】
前記プライマリ層を形成する工程において、前記プライマリ層を形成する前記第1紫外線硬化型樹脂に紫外線を照射することを特徴とする請求項14に記載の光ファイバ着色心線の製造方法。
【請求項17】
請求項14又は請求項15に記載の複数の光ファイバ着色心線の周囲にリボン層を形成する第4紫外線硬化型樹脂を塗布し、前記第4紫外線硬化型樹脂に紫外線を照射してリボン層を形成する工程を備えることを特徴とする光ファイバリボンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ心線および光ファイバ心線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ心線において、光ファイバ裸線を覆うプライマリ層、プライマリ層を覆うセカンダリ層のそれぞれが紫外線硬化型樹脂によって所望のヤング率に設定される技術が知られている(特許文献1)。例えば、プライマリ層のヤング率は低く設定され、プライマリ層は光ファイバ裸線に加わる外力を緩衝し、光ファイバ裸線の微小変形による光の伝送損失(マイクロベンドロス)を抑えることができる。また、セカンダリ層のヤング率はプライマリ層のヤング率よりも高く設定され、セカンダリ層は光ファイバ裸線およびプライマリ層を外力から保護している。
【0003】
プライマリ層のヤング率は低いことが望ましいため、特許文献2に記載された技術は、プライマリ層3の紫外線硬化型樹脂が発現し得る最大のヤング率(飽和ヤング率)を低く設定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-162522号公報
【特許文献2】国際公開第2018/062364号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、プライマリ層に要求される特性は、ヤング率だけではない。例えば、プライマリ層の破断伸びが不十分である場合、プライマリ層の光ファイバ裸線からの剥離が生じやすくなるという問題が生じ得る。
【0006】
本発明は、プライマリ層のヤング率および破断伸びを適切な値に設定可能な光ファイバ心線および光ファイバ心線の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一観点によれば、光ファイバ裸線と、前記光ファイバ裸線を覆う第1紫外線硬化型樹脂により形成されたプライマリ層と、前記プライマリ層を覆う第2紫外線硬化型樹脂により形成されたセカンダリ層とを備え、前記プライマリ層は、不飽和炭素結合由来の架橋点およびシランカップリング剤由来の架橋点を有し、前記プライマリ層は、ケイ素原子を0.014wt%以上0.72wt%以下含むことを特徴とする光ファイバ心線が提供される。
【0008】
本発明の他の観点によれば、光ファイバ母材から光ファイバ裸線を線引きする工程と、前記光ファイバ裸線の周囲にプライマリ層を形成する第1紫外線硬化型樹脂を塗布し、プライマリ層を形成する工程と、前記プライマリ層の周囲にセカンダリ層を形成する第2紫外線硬化型樹脂を塗布し、前記第2紫外線硬化型樹脂に紫外線を照射してセカンダリ層を形成する工程とを備え、前記プライマリ層は、不飽和炭素結合由来の架橋点およびシランカップリング剤由来の架橋点を有し、前記プライマリ層は、ケイ素原子を0.014wt%以上0.72wt%以下含むことを特徴とする光ファイバ心線の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、プライマリ層のヤング率および破断伸びを適切な値に設定可能な光ファイバ心線および光ファイバ心線の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態に係る光ファイバの断面図である。
図2】第1実施形態に係る光ファイバの製造方法に用いる製造装置の一部分を示す模式図である。
図3】第1実施形態に係る光ファイバの製造方法に用いる製造装置の一部分を示す模式図である。
図4】第1実施形態に係る光ファイバの製造方法のフローチャートである。
図5】紫外線硬化型樹脂の紫外線照射後におけるヤング率の経時変化を示すグラフである。
図6】第2実施形態に係る光ファイバリボンの断面図である。
図7】第2実施形態に係る光ファイバリボンの製造装置の模式図である。
図8】第2実施形態に係る光ファイバリボンの製造方法のフローチャートである。
図9】実施例および比較例における硬化樹脂のヤング率および破断伸びを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。各図面を通じて共通する機能を有する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略または簡略化することがある。
【0012】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る光ファイバの断面図である。図1は、本実施形態に係る光ファイバの一例として光ファイバ着色心線6を示している。光ファイバ着色心線6は、光ファイバ心線1と、光ファイバ心線1の外周を被覆する着色層5とを備える。また、光ファイバ心線1は、光ファイバ裸線2と、光ファイバ裸線2の外周を被覆するプライマリ層3と、プライマリ層3の外周を被覆するセカンダリ層4とを備える。光ファイバ裸線2は、プライマリ層3、セカンダリ層4および着色層5の3層の被覆層により被覆される。
【0013】
光ファイバ裸線2は、例えば石英系ガラス等から形成され、光を伝達する。プライマリ層3は、軟質層であり、光ファイバ裸線2に加わる外力を緩衝するための機能を有している。プライマリ層3のヤング率は、好ましくは0.1MPa以上3.0MPa以下であり得る。セカンダリ層4は、硬質層であり、光ファイバ裸線2およびプライマリ層3を外力から保護するための機能を有している。セカンダリ層4のヤング率は、好ましくは500MPa以上2000MPa以下であり得る。着色層5は、光ファイバ着色心線6を識別するために着色されている。なお、着色層5は、着色剤によって着色されたセカンダリ層4であってもよい。着色剤は、顔料または潤滑材を含む混合物であり得る。
【0014】
光ファイバ裸線2に外力が加わることによって、光ファイバ裸線2の微小変形による光の伝送損失(マイクロベンドロス)が生じる。プライマリ層3のヤング率を低く設定することによって、プライマリ層3の外力を緩衝する機能が向上し、光ファイバ着色心線6のマイクロベンドロスが抑制されている。
【0015】
光ファイバ着色心線6の直径は、190μm以上260μm以下であり得る。光ファイバ裸線2の直径は、80μm以上150μm以下であり、好ましくは124μm以上126μm以下であり得る。プライマリ層3の厚さは、5μm以上60μm以下であり得る。セカンダリ層4の厚さは、5μm以上60μm以下であり得る。また、着色層5の厚さは数μmであり得る。ここで、光ファイバ着色心線6の直径は、光ファイバ裸線2の直径と、プライマリ層3の厚さの2倍の長さと、セカンダリ層4の厚さの2倍の長さと、着色層5の厚さの2倍の長さとの和によって定められ得る。したがって、光ファイバ着色心線6の直径が190μm以上260μm以下となるように光ファイバ裸線2の直径、プライマリ層3の厚さ、セカンダリ層4の厚さ、着色層5の厚さがそれぞれ選択され得る。
【0016】
なお、光ファイバのプライマリ層3のヤング率は、ISM(In Situ Modulus)であり、以下の方法でプライマリ層3のヤング率を測定できる。
【0017】
まず、市販のストリッパーを用いて、サンプルとなる光ファイバの中間部のプライマリ層3およびセカンダリ層4を数mmの長さだけ剥ぎ取った後、被覆層が形成されている光ファイバの一端を接着剤でスライドガラス上に固定するとともに、被覆層が形成されている光ファイバの他端に荷重Fを印加する。この状態において、被覆層を剥ぎ取った部分と被覆が形成されている部分との境目におけるプライマリ層の変位δを顕微鏡で読み取る。そして、荷重Fを10、20、30、50および70gf(すなわち順次98、196、294、490および686mN)とすることにより、変位δに対する荷重Fの変化の割合(傾き)を算出する。算出された傾きと以下の式(1)を用いてプライマリ弾性率を算出する。算出されるプライマリ弾性率は、いわゆるISMであり、以下ではプライマリ弾性率を適宜P-ISMと記載する。なお、光ファイバを線引きする際、P-ISMを調整するために線引き速度および紫外線の照度を制御する。
P-ISM=(3F/δ)*(1/2πl)*ln(DP/DG) ・・・(1)
【0018】
P-ISMの単位は[MPa]である。式(1)の右辺において、F/δは変位(δ)[μm]に対する荷重(F)[gf]の変化の割合(傾き)、lはサンプル長(例えば10mm)、DP/DGはプライマリ層の外径(DP)[μm]と光ファイバのクラッド部の外径(DG)[μm]との比である。したがって、用いたF、δ、lから式(1)を用いてP-ISMを算出する場合、所定の単位変換が必要がとなる。なお、ファイバカッターにより切断した光ファイバの断面を顕微鏡で観察することにより、プライマリ層3の外径およびクラッド部の外径を計測できる。
【0019】
さらに、光ファイバのセカンダリ層4のヤング率は、ISM(In Situ Modulus)であり、以下の方法でセカンダリ層のヤング率を測定できる。
【0020】
まず、液体窒素中に光ファイバを浸漬し、ストリッパーにより被覆層を剥ぐことで光ファイバから光ファイバ裸線2を引き抜いた被覆層のみの試料を作製する。試料の末端部分を接着剤を用いてアルミ板に固定した。温度23℃、相対湿度50%の雰囲気中で、テンシロン万能引張試験機を用いて、アルミ板部分をチャックする。次に、標線間隔25mm、引張速度1mm/分で試料を伸長させ、2.5%伸長時における力を測定することで、セカンダリ層の弾性率S-ISM(2.5%セカント弾性率(Secant Modulus))を算出する。
【0021】
また、光ファイバのマイクロベンドロスの生じやすさを表す指標として有効コア断面積(実効コア断面積)Aeffが挙げられる。有効コア断面積Aeffは以下の式(2)によって表される。なお、有効コア断面積Aeffは、例えば、1999年 電子情報通信学会エレクトロニクスソサイエティ大会予稿集のC-3-76およびC-3-77等に記載されている。
Aeff=(πk/4)*(MFD) ・・・(2)
ここで、有効コア断面積Aeffは、波長1550nmにおける値であり、MFDはモードフィールド径(μm)、kは定数である。有効コア断面積Aeffは、光ファイバ裸線2の軸に直交する断面のうち、所定の強度を有する光が通過する部分の面積を表す。一般的に、光ファイバ裸線2の有効コア断面積Aeffが大きくなるほど、光ファイバ裸線2の断面における光学的閉じ込めが弱くなる。すなわち、光ファイバ裸線2の有効コア断面積Aeffが大きい場合、光ファイバ裸線2に加わる外力によって光ファイバ裸線2内の光が漏出しやすくなる。このため、光ファイバ裸線2の有効コア断面積Aeffが大きくなると、光ファイバ着色心線6のマイクロベンドロスが生じやすくなる。
【0022】
一方、光ファイバ裸線2の有効コア断面積を大きくすることによって、光ファイバ裸線2の断面における単位面積あたりの光強度を低減することができる。これにより、光ファイバ裸線2の非線形光学効果を抑制することができる。
【0023】
本実施形態に係る光ファイバ着色心線6は、マイクロベンドロスを効果的に抑制可能なプライマリ層3を有する。すなわち、光ファイバ裸線2の有効コア断面積が大きい場合においても、光ファイバ着色心線6のマイクロベンドロスを効果的に抑制することができる。
【0024】
光ファイバ裸線2の有効コア断面積Aeffは、80μm以上、例えば130μm以上150μm以下であることが好ましい。これにより、光ファイバ裸線2の非線形光学効果を抑制可能な光ファイバ着色心線6を得ることができる。
【0025】
プライマリ層3、セカンダリ層4、着色層5は、紫外線の照射によって紫外線硬化型樹脂を硬化させることによって形成される。本実施形態におけるプライマリ層3の紫外線硬化型樹脂(第1紫外線硬化型樹脂)は、添加剤としてシランカップリング剤を含む。以下、紫外線硬化型樹脂およびシランカップリング剤を詳述する。
【0026】
[紫外線硬化型樹脂]
紫外線硬化型樹脂は、紫外線の照射によって重合し、硬化する樹脂である。紫外線硬化型樹脂は、紫外線の照射によって重合可能なものであれば特に限定されるものではない。紫外線硬化型樹脂は、例えば、光ラジカル重合などにより重合可能なものである。
【0027】
紫外線硬化型樹脂は、例えば、ポリエーテル系ウレタン(メタ)アクリレートおよびポリエステル系ウレタン(メタ)アクリレートのようなウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレートなどの紫外線で重合および硬化するエチレン性不飽和基などの重合性不飽和基を有する紫外線硬化型樹脂であり、重合性不飽和基を少なくとも2つ有するものであることが好ましい。
【0028】
紫外線硬化型樹脂における重合性不飽和基は、例えば、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基などの不飽和二重結合を有する基、プロパルギル基などの不飽和三重結合を有する基などであり得る。これらの中でも、アクリロイル基、メタクリロイル基が重合性の面で好ましい。
【0029】
また、紫外線硬化型樹脂は、紫外線の照射により重合を開始して硬化するモノマー、オリゴマーまたはポリマーでありうるが、好ましくはオリゴマーである。なお、オリゴマーとは、重合度が2~100の重合体である。また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよびメタクリレートの一方または両方を意味する。紫外線硬化型樹脂は、紫外領域に感度を有する任意の光重合開始剤(光開始剤)を含む。
【0030】
ポリエーテル系ウレタン(メタ)アクリレートとは、ポリエーテル骨格を有するポリオールと、有機ポリイソシアネート化合物およびヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとの反応物のように、ポリエーテルセグメント、(メタ)アクリレートおよびウレタン結合を有する化合物である。また、ポリエステル系ウレタン(メタ)アクリレートとは、ポリエステル骨格を有するポリオールと、有機ポリイソシアネート化合物およびヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとの反応物のように、ポリエステルセグメント、(メタ)アクリレートおよびウレタン結合を有する化合物である。
【0031】
紫外線硬化型樹脂は、オリゴマーおよび光開始剤に加えて、例えば希釈モノマー、光増感剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、連鎖移動剤および各種添加剤を含んでもよい。希釈モノマーは、単官能(メタ)アクリレートまたは多官能(メタ)アクリレートであり得る。ここで、希釈モノマーとは、紫外線硬化型樹脂を希釈するためのモノマーを意味する。
【0032】
上述のように、プライマリ層3の紫外線硬化型樹脂は不飽和炭素結合を有する。このため、プライマリ層3の紫外線硬化型樹脂の重合によって、プライマリ層3は不飽和炭素結合由来の架橋点を有する。
【0033】
[シランカップリング剤]
シランカップリング剤は、プライマリ層3を光ファイバ裸線2の表面に密着させるために用いられる。シランカップリング剤は、Si(ケイ素、シラン)を含む化合物である。シランカップリング剤は、有機化合物と反応する有機反応部位と、無機化合物と反応する無機反応部位とを含む。有機反応部位は、例えば、アミノ基、エポキシ基、(メタ)アクリロイルオキシ基、ビニル基、メルカプト基であり得る。無機反応部位は、例えば、メトキシ基、エトキシ基、アセトキシ基であり得る。シランカップリング剤の具体的な化合物は、例えば、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、3-ウレイドプロピルトリアルコキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどであり得る。なお、有機反応部位および無機反応部位の両方を含むシランカップリング剤と、無機反応部位のみを含むシランカップリング剤とを併用してもよい。これにより、後述するシランカップリング剤によるプライマリ層3の紫外線硬化型樹脂の架橋反応が促進され得る。無機反応部位のみを含むシランカップリング剤の具体的な化合物は、例えば、テトラメチルシリケート、テトラエチルシリケートなどであり得る。
【0034】
シランカップリング剤の有機反応部位は、プライマリ層3の紫外線硬化型樹脂と結合する。プライマリ層3の紫外線硬化型樹脂と結合したシランカップリング剤は、無機反応部位における加水分解と、それに続く光ファイバ裸線2表面のヒドロキシ基との脱水縮合とにより光ファイバ裸線2の表面と反応する。プライマリ層3の紫外線硬化型樹脂と光ファイバ裸線2とがシランカップリング剤を介して結合することによって、プライマリ層3と光ファイバ裸線2とが密着する。
【0035】
[製造装置]
次に、本実施形態に係る光ファイバの製造方法に用いる製造装置について説明する。図2は、本実施形態に係る光ファイバの製造方法に用いる製造装置10の一部分を示す模式図である。製造装置10は、加熱装置20、プライマリ層被覆装置30、セカンダリ層被覆装置40、ガイドローラ60および巻取り装置70を有する。図2に示される製造装置10は、光ファイバ母材BMから光ファイバ心線1を製造する。
【0036】
光ファイバ母材BMは、例えば石英系のガラスからなり、VAD法、OVD法、MCVD法など周知の方法により製造される。加熱装置20は、ヒータ21を有する。ヒータ21は、テープヒータ、リボンヒータ、ラバーヒータ、オーブンヒータ、セラミックヒータ、ハロゲンヒータなどの任意の熱源であり得る。光ファイバ母材BMの端部は、光ファイバ母材BMの周囲に配置されたヒータ21によって加熱されて溶融し、線引きされて光ファイバ裸線2が引き出される。
【0037】
加熱装置20の下方には、プライマリ層被覆装置30が設けられる。プライマリ層被覆装置30は、樹脂塗布装置31および紫外線照射装置32を有する。樹脂塗布装置31には、プライマリ層3の紫外線硬化型樹脂が保持される。プライマリ層3の紫外線硬化型樹脂は、添加剤として上述のシランカップリング剤を含む。光ファイバ母材BMから引き出された光ファイバ裸線2には、樹脂塗布装置31によってプライマリ層3の紫外線硬化型樹脂が塗布される。
【0038】
樹脂塗布装置31の下方には、紫外線照射装置32が設けられる。紫外線照射装置32は、メタルハライドランプ、水銀ランプ、UV-LEDなどの任意の紫外線光源を備える。光ファイバ裸線2には樹脂塗布装置31によってプライマリ層3の紫外線硬化型樹脂が塗布され、光ファイバ裸線2は紫外線照射装置32に入り、プライマリ層3の紫外線硬化型樹脂に紫外線が照射される。その結果、プライマリ層3の紫外線硬化型樹脂は硬化され、プライマリ層3が形成される。
【0039】
プライマリ層被覆装置30の下方には、セカンダリ層被覆装置40が設けられる。セカンダリ層被覆装置40は、樹脂塗布装置41および紫外線照射装置42を有する。樹脂塗布装置41には、セカンダリ層4の紫外線硬化型樹脂(第2紫外線硬化型樹脂)が保持される。プライマリ層3には、樹脂塗布装置41によってセカンダリ層4の紫外線硬化型樹脂が塗布される。
【0040】
樹脂塗布装置41の下方には、紫外線照射装置42が設けられる。紫外線照射装置42は、紫外線照射装置32と同様に構成され得る。プライマリ層3の周囲にセカンダリ層4の紫外線硬化型樹脂が被覆された光ファイバ裸線2は紫外線照射装置42に入り、セカンダリ層4の紫外線硬化型樹脂に紫外線が照射される。その結果、セカンダリ層4の紫外線硬化型樹脂は硬化され、セカンダリ層4が形成される。光ファイバ裸線2がプライマリ層3およびセカンダリ層4に被覆されることで、光ファイバ心線1が形成される。
【0041】
なお、樹脂塗布装置31は、プライマリ層3の紫外線硬化型樹脂とセカンダリ層4の紫外線硬化型樹脂とを別々に保持するように構成されてもよい。この場合、樹脂塗布装置31は、プライマリ層3の紫外線硬化型樹脂を光ファイバ裸線2に塗布し、続いて、プライマリ層3の紫外線硬化型樹脂の周囲にセカンダリ層4の紫外線硬化型樹脂を塗布する。さらにこの場合、紫外線照射装置32は、光ファイバ裸線2に塗布されたプライマリ層3の紫外線硬化型樹脂およびセカンダリ層4の紫外線硬化型樹脂に紫外線を照射する。これにより、プライマリ層3およびセカンダリ層4が形成される。この場合、製造装置10は、必ずしもセカンダリ層被覆装置40を有することを要しない。
【0042】
セカンダリ層被覆装置40の下方には、ガイドローラ60および巻取り装置70が設けられる。製造後の光ファイバ心線1は、ガイドローラ60にガイドされ、巻取り装置70に巻き取られる。
【0043】
図3は、本実施形態に係る光ファイバの製造方法に用いる製造装置10の一部分を示す模式図である。製造装置10は、着色層被覆装置50、ガイドローラ61、62および巻取り装置70、71を有する。図3において、製造装置10は、光ファイバ心線1から光ファイバ着色心線6を製造する装置である。
【0044】
巻取り装置70によって巻き取られた光ファイバ心線1は、ガイドローラ61によってガイドされ、着色層被覆装置50へ搬送される。
【0045】
着色層被覆装置50は、樹脂塗布装置51および紫外線照射装置52を有する。樹脂塗布装置51には、着色層5の紫外線硬化型樹脂(第3紫外線硬化型樹脂)が保持される。光ファイバ心線1には、樹脂塗布装置51によって着色層5の紫外線硬化型樹脂が塗布される。
【0046】
樹脂塗布装置51の下方には、紫外線照射装置52が設けられる。紫外線照射装置52は、紫外線照射装置32、42と同様に構成され得る。着色層5の紫外線硬化型樹脂が被覆された光ファイバ心線1は紫外線照射装置52に入り、着色層5の紫外線硬化型樹脂に紫外線が照射される。その結果、着色層5の紫外線硬化型樹脂が硬化され、着色層5が形成される。光ファイバ心線1が着色層5に被覆されることで、光ファイバ着色心線6が形成される
【0047】
着色層被覆装置50の下方には、ガイドローラ62および巻取り装置71が設けられる。製造後の光ファイバ着色心線6は、ガイドローラ62にガイドされ、巻取り装置71に巻き取られる。
【0048】
[製造方法]
次に、本実施形態に係る光ファイバの製造方法について説明する。図4は、本実施形態に係る光ファイバ着色心線6の製造方法のフローチャートである。まず、光ファイバ母材BMは製造装置10に設置される(ステップS101)。
【0049】
次いで加熱装置20に設けられたヒータ21は、光ファイバ母材BMを加熱し、光ファイバ裸線2の線引きを開始する(ステップS102)。
【0050】
プライマリ層被覆装置30は、線引きされた光ファイバ裸線2の周囲にプライマリ層3の紫外線硬化型樹脂を塗布し、プライマリ層3の紫外線硬化型樹脂に紫外線を照射し、プライマリ層3を形成する(ステップS103)。なお、プライマリ層3の紫外線硬化型樹脂は、添加剤として上述のシランカップリング剤を含む。
【0051】
次に、セカンダリ層被覆装置40は、プライマリ層3の周囲にセカンダリ層4の紫外線硬化型樹脂を塗布し、セカンダリ層4の紫外線硬化型樹脂に紫外線を照射してセカンダリ層4を形成する(ステップS104)。これにより、光ファイバ心線1が得られる。製造後の光ファイバ心線1は、巻取り装置70に巻き取られる。
【0052】
次に、着色層被覆装置50は、光ファイバ心線1の周囲に着色層5の紫外線硬化型樹脂を塗布し、着色層5の紫外線硬化型樹脂に紫外線を照射して着色層5を形成する(ステップS105)。これにより、光ファイバ着色心線6が得られる。製造後の光ファイバ着色心線6は、巻取り装置71に巻き取られる。
【0053】
なお、プライマリ層3を形成する工程(ステップS103)において必ずしも紫外線を照射することを要しない。この場合、プライマリ層3は、セカンダリ層4を形成する工程(ステップS104)において硬化され得る。
【0054】
[作用効果]
本実施形態によれば、プライマリ層3のヤング率および破断伸びを適切な値に設定可能な光ファイバ着色心線6を提供することができる。以下、本実施形態の作用効果について、従来技術と対比しながら詳述する。
【0055】
光ファイバのマイクロベンドロスを抑制させる技術として、国際公開第2018/062364号に記載されているようにプライマリ層3のヤング率を低く設定することが考えられる。プライマリ層3のヤング率を低く設定することによって、プライマリ層3は光ファイバ裸線2に加わる外力を緩衝し、光ファイバ裸線2の微小変形によるマイクロベンドロスを抑えることができる。
【0056】
しかしながら、光ファイバ裸線2に加わる外力を緩衝するためにプライマリ層3に要求される特性は、ヤング率だけではない。例えば、プライマリ層3の破断伸びが低い場合、プライマリ層3の光ファイバ裸線2からの剥離が生じやすくなる。プライマリ層3の剥離が生じた場合、マイクロベンドロスの増大などの問題が生じ得る。
【0057】
なお、マイクロベンドロスの測定方法については様々なものが考えられ、以下の方法によりマイクロベンドロスを測定できる。まず、サンドペーパーが巻かれたボビンに巻かれた光ファイバの伝送損失を測定し、このときの伝送損失を状態Aにおける光ファイバの伝送損失とする。次に、サンドペーパーが巻かれていないボビンに巻かれた光ファイバの伝送損失を測定し、このときの伝送損失を状態Bにおける光ファイバの伝送損失とする。状態Aにおける光ファイバの伝送損失と状態Bにおける光ファイバの伝送損失との差を光ファイバのマイクロベンドロスとする。ここで、状態Bにおける光ファイバの伝送損失は、外力による伝送損失を含まず、光ファイバ固有の伝送損失と考えられる。なお、サンドペーパーの番手は#1000であり、光ファイバの長さは400m以上である。また、状態Aおよび状態Bにおける光ファイバは、互いに重ならないようにボビンに巻き付けられている。言い換えれば、状態Aおよび状態Bにおける光ファイバは、ボビンに1層巻きにされている。
【0058】
この測定方法は、JIS C6823:2010に規定される固定径ドラム法に類似するものである。また、この測定方法は、サンドペーパー法とも呼ばれる。また、この測定方法では、波長1550nmにおける伝送損失を測定しているので、本実施形態に関わるマイクロベンドロスも波長1550nmでの値である。
【0059】
本実施形態において、プライマリ層3がシランカップリング剤を介して架橋されることが本発明者等の検討により初めて見出された。本発明者等の検討によれば、シランカップリング剤の無機反応部位は、他のシランカップリング剤の無機反応部位と反応する。シランカップリング剤同士の反応は、例えば脱水縮合であり得る。これにより、プライマリ層3の紫外線硬化型樹脂はシランカップリング剤を介して架橋され、プライマリ層3はシランカップリング剤由来の架橋点を有する。すなわち、プライマリ層3は、第1紫外線硬化型樹脂の不飽和炭素結合由来の架橋点およびシランカップリング剤由来の架橋点を有する。したがって、本実施形態によれば、プライマリ層3におけるケイ素原子濃度を適切に設定することにより、プライマリ層3のヤング率および破断伸びを適切な値に設定することができる。
【0060】
本実施形態において、プライマリ層3は、ケイ素原子を0.014wt%以上0.72wt%以下含むことが好ましい。これにより、プライマリ層3のシランカップリング剤由来の架橋点がプライマリ層3の破断伸びを効果的に向上させることができる。
【0061】
また、本発明者等の検討によれば、シランカップリング剤由来の架橋点の存在は、紫外線硬化型樹脂の紫外線照射後におけるヤング率の経時変化により確認され得る。図5は、紫外線硬化型樹脂の紫外線照射後におけるヤング率の経時変化を示すグラフであって、横軸は紫外線照射から経過した時間を表し、縦軸は紫外線硬化型樹脂のヤング率を表している。図5において、「×」で表された測定点は、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(MPTMS)を紫外線硬化型樹脂に対して1wt%添加し、紫外線を照射することによって得られるシート状硬化樹脂のヤング率を示している。また、「▲」で表された測定点は、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン(MPTES)を紫外線硬化型樹脂に1.2wt%添加し、紫外線を照射することによって得られるシート状硬化樹脂のヤング率を示している。なお、MPTMSの物質量(mol)は、MPTESの物質量(mol)とほぼ等しい。図5に示すように、MPTMSが添加された紫外線硬化型樹脂およびMPTESが添加された紫外線硬化型樹脂の両方ともヤング率が時間の経過とともに上昇している。これは、紫外線硬化型樹脂に結合したシランカップリング剤同士が紫外線照射後に結合し、新たに架橋点が生じたことに起因すると考えられる。また、図5に示すように、MPTMSが添加された紫外線硬化型樹脂のヤング率の上昇は紫外線照射から20日後まで観察される一方、MPTESが添加された紫外線硬化型樹脂のヤング率の上昇は紫外線照射から60日後まで観察される。ここで、MPTMSはアルコキシ基としてメトキシ基またはメトキシシリル基を有し、MPTESはアルコキシ基としてエトキシ基またはエトキシシリル基を有する。また、一般的にメトキシ基はエトキシ基よりも加水分解しやすく、メトキシシリル基はエトキシシリル基よりも加水分解しやすい。従って、MPTESが添加された紫外線硬化型樹脂は、MPTMSが添加された紫外線硬化型樹脂よりも長期間にかけてヤング率が上昇したと考えられる。一方、MPTESなどのエトキシシランは、MPTMSなどのメトキシシランと比較して、硬化前の樹脂に添加された状態において高い安定性を有する。よって、MPTMSとMPTESとを比較すると、紫外線照射後のヤング率の上昇期間という点でMPTMSの方が優れている一方、硬化前の紫外線硬化型樹脂におけるシランカップリング剤の安定性という点でMPTESの方が優れている。
【0062】
なお、本実施形態におけるプライマリ層3は酸性であることが好ましい。シランカップリング剤によるプライマリ層3の紫外線硬化型樹脂の架橋反応は、長期間にわたって進行し得る。この場合、光ファイバ製造後における経時でのプライマリ層3のヤング率が上昇し、出荷後における光ファイバのマイクロベンドロスを効果的に抑制することができない場合がある。プライマリ層3を酸性にすることによって、シランカップリング剤同士の反応が促進され、プライマリ層3の紫外線硬化型樹脂のシランカップリング剤を介した架橋が短期間で完了することができる。これにより、光ファイバ製造後における経時でのプライマリ層3のヤング率の上昇を抑え、マイクロベンドロスを効果的に抑制することができる。なお、プライマリ層3を酸性にする手法は、光酸発生剤をプライマリ層3の紫外線硬化型樹脂に添加する方法などであり得る。
【0063】
[第2実施形態]
図6は、第2実施形態に係る光ファイバリボン8の断面図である。光ファイバリボン8は、第1実施形態に係る複数の光ファイバ着色心線6とリボン層7とを有する。複数の光ファイバ着色心線6は、並んで配列される。リボン層7は、複数の光ファイバ着色心線6を被覆および連結している。
【0064】
リボン層7は、紫外線硬化型樹脂により構成される。リボン層7の紫外線硬化型樹脂(第4紫外線硬化型樹脂)は、プライマリ層3、セカンダリ層4、着色層5を形成する紫外線硬化型樹脂と同様の樹脂であり得る。
【0065】
図7は、本実施形態に係る光ファイバリボン8の製造装置80の模式図である。製造装置80は、複数の供給ボビン81、ガイドローラ82、樹脂塗布装置83、紫外線照射装置84、ガイドローラ85およびボビン86を有する。製造装置80は、光ファイバ着色心線6から光ファイバリボン8を製造する装置である。
【0066】
複数の供給ボビン81は並んで配列される。供給ボビン81には光ファイバ着色心線6が巻かれている。供給ボビン81に巻き取られた光ファイバ着色心線6は、ガイドローラ82によってガイドされ、樹脂塗布装置83へ搬送される。
【0067】
樹脂塗布装置83には、リボン層7の紫外線硬化型樹脂が保持される。複数の光ファイバ着色心線6は、樹脂塗布装置83によってリボン層7の紫外線硬化型樹脂が塗布される。
【0068】
樹脂塗布装置83の下方には、紫外線照射装置84が設けられる。紫外線照射装置84は、紫外線照射装置32、42、52と同様に構成され得る。リボン層7の紫外線硬化型樹脂が塗布された複数の光ファイバ着色心線6は、紫外線照射装置84に入り、リボン層7の紫外線硬化型樹脂に紫外線が照射される。その結果、リボン層7の紫外線硬化型樹脂が硬化され、リボン層7が形成される。複数の光ファイバ着色心線6がリボン層7によって被覆および連結されることによって、光ファイバリボン8が形成される。
【0069】
図8は、本実施形態に係る光ファイバリボン8の製造方法のフローチャートである。ステップS101~S105は第1実施形態と同様である。製造装置80は、複数の光ファイバ着色心線6にリボン層7の紫外線硬化型樹脂を塗布し、リボン層7の紫外線硬化型樹脂に紫外線を照射し、リボン層7を形成する(ステップS106)。これにより、光ファイバリボン8が得られる。
【0070】
本実施形態においても、プライマリ層3は、不飽和炭素結合由来の架橋点およびシランカップリング剤由来の架橋点を有する。このため、プライマリ層3のヤング率および破断伸びを適切な値に設定可能な光ファイバリボン8を提供することができる。
【0071】
[実施例]
以下、本発明の実施形態に係るプライマリ層の紫外線硬化型樹脂の測定結果について説明する。なお、本実施例および比較例において、光酸発生剤の添加によりシランカップリング剤由来の架橋が完了した後に、ヤング率測定および破断伸び測定を行った。
【0072】
【表1】
【0073】
表1における実施例および比較例は、厚さ100μm程度のシート状に成形したプライマリ層の紫外線硬化型樹脂に水銀ランプを用いて紫外線を照射して得られた硬化樹脂である。なお、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂は、ウレタンアクリレートである。また、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂に添加した光開始剤は、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドである。さらに、水銀ランプの照射条件は照度1000mW/cm、照射量500mJ/cmであるが、これに限定されない。照射条件は、「照度1500mW/cm、照射量500mJ/cm」、「照度500mW/cm、照射量500mJ/cm」、「照度1500mW/cm、照射量1000mJ/cm」、「照度1000mW/cm、照射量1000mJ/cm」、「照度500mW/cm、照射量1000mJ/cm」であり得る。さらに、水銀ランプの代わりにUV-LEDを紫外線光源として用いても良い。照度測定には、水銀ランプであれば、例えば、株式会社オーク製作所のUV-351が使用され、UV-LEDであれば、例えば、トプコンテクノハウス社製のUVRT2 / UD-T3040T2が使用される。
【0074】
表1は、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂に添加されるシランカップリング剤(MPTMS)の添加量(wt%)、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂に添加されるヤング率調整剤(IOMP)の添加量(wt%)、硬化樹脂のケイ素量(wt%)、硬化樹脂のヤング率(MPa)、硬化樹脂の破断伸び(%)を示している。
【0075】
プライマリ層の紫外線硬化型樹脂に添加されるシランカップリング剤は、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(MPTMS)であるがこれに限定されない。シランカップリング剤は、例えば、ビニルトリメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、3-(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランであり得る。
【0076】
なお、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂には、光酸発生剤が添加されている。光酸発生剤は、紫外線によって酸を発生し、シランカップリング剤由来の架橋点の形成を促進させる。光酸発生剤は、サンアプロ株式会社のCPI(登録商標)-200Kであるが、紫外線照射によって酸を発生する任意の光酸発生剤であり得る。
【0077】
イソオクチル-3-メルカプトプロピオナート(IOMP)は、硬化樹脂のヤング率を調整するために添加されている。IOMPは、メルカプト含有化合物であり、エンチオール反応によってウレタンアクリレートなどの紫外線硬化型樹脂の重合反応を停止させる。これにより、硬化樹脂のヤング率を低く設定することができる。なお、ヤング率調整として用いられるメルカプト含有化合物は、IOMPに限定されない。メルカプト含有化合物は、例えば、エチルメルカプタン、1-ブタンチオール、1-ヘプタンチオール、1-ウンデカンチオール、4-ヒドロキシベンゼンチオール、(2-メルカプトエチル)ピラジン、2,3-ブタンジチオール、3-メチル-2-ブタンチオール、3-メルカプト-1,2,4-トリアゾール、1,3,4-チアジアゾール-2-チオール、イソブチルメルカプタン、4-メトキシ-α-トルエンチオール、4,4’-ビフェニルジチオール、トリメチルシリルメタンチオール、1,4-ブタンジチオール、1,8-オクタンジチオール、3-エトキシベンゼンチオール、ペンタエリトリトールテトラ(3-メルカプトプロピオナート)であり得る。
【0078】
ケイ素量は、硬化樹脂に含まれるケイ素原子の含有量であり、MPTMSの添加量およびMPTMSの分子量を用いて算出される。また、元素分析(EA:Elemental Analysis)によって硬化樹脂に含まれるケイ素量を測定してもよい。
【0079】
ヤング率は、以下の方法により測定され得る。温度23℃、相対湿度50%の雰囲気中で、テンシロン万能引張試験機を用いて、幅6mm、標線間隔25mm、引張速度1mm/分で試料を伸長させ、2.5%伸長時における力を測定し、ヤング率を算出した。
【0080】
破断伸びは、以下の方法により測定され得る。温度23℃、相対湿度50%の雰囲気中で、テンシロン万能引張試験機を用いて、幅6mm、標線間隔25mm、引張速度50mm/分で試料を伸長させ、破断時の伸長率を測定し、破断伸びを算出した。ただし、破断伸びはn4以上の破断試験における最も高い測定値を採用した。
【0081】
また、実施例および比較例において、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にMPTMSが添加されることによって、硬化樹脂内にシランカップリング剤由来の架橋点を含有させることができる。なお、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR:Fourier Transform Infrared)を用いて硬化樹脂内のシランカップリング剤由来の架橋点を確認しても良い。
【0082】
実施例1において、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にMPTMSを0.10wt%添加した。また、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にIOMPを添加しなかった。紫外線照射後の硬化樹脂は、シランカップリング剤由来の架橋点を含有する。硬化樹脂におけるケイ素量は0.014wt%であった。硬化樹脂のヤング率は2.20MPaであった。硬化樹脂の破断伸びは200%であった。
【0083】
実施例2において、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にMPTMSを0.20wt%添加した。また、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にIOMPを添加しなかった。紫外線照射後の硬化樹脂は、シランカップリング剤由来の架橋点を含有する。硬化樹脂におけるケイ素量は0.029wt%であった。硬化樹脂のヤング率は2.10MPaであった。硬化樹脂の破断伸びは219%であった。
【0084】
実施例3において、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にMPTMSを0.50wt%添加した。また、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にIOMPを添加しなかった。紫外線照射後の硬化樹脂は、シランカップリング剤由来の架橋点を含有する。硬化樹脂におけるケイ素量は0.072wt%であった。硬化樹脂のヤング率は1.99MPaであった。硬化樹脂の破断伸びは267%であった。
【0085】
実施例4において、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にMPTMSを2.0wt%添加した。また、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にIOMPを添加しなかった。紫外線照射後の硬化樹脂は、シランカップリング剤由来の架橋点を含有する。硬化樹脂におけるケイ素量は0.29wt%であった。硬化樹脂のヤング率は1.80MPaであった。硬化樹脂の破断伸びは288%であった。
【0086】
実施例5において、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にMPTMSを3.0wt%添加した。また、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にIOMPを添加しなかった。紫外線照射後の硬化樹脂は、シランカップリング剤由来の架橋点を含有する。硬化樹脂におけるケイ素量は0.43wt%であった。硬化樹脂のヤング率は1.91MPaであった。硬化樹脂の破断伸びは298%であった。
【0087】
実施例6において、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にMPTMSを4.0wt%添加した。また、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にIOMPを添加しなかった。紫外線照射後の硬化樹脂は、シランカップリング剤由来の架橋点を含有する。硬化樹脂におけるケイ素量は0.57wt%であった。硬化樹脂のヤング率は2.15MPaであった。硬化樹脂の破断伸びは285%であった。
【0088】
実施例7において、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にMPTMSを5.0wt%添加した。また、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にIOMPを添加しなかった。紫外線照射後の硬化樹脂は、シランカップリング剤由来の架橋点を含有する。硬化樹脂におけるケイ素量は0.72wt%であった。硬化樹脂のヤング率は2.32MPaであった。硬化樹脂の破断伸びは245%であった。
【0089】
実施例8において、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にMPTMSを0.10wt%添加した。また、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にIOMPを4.0wt添加した。紫外線照射後の硬化樹脂は、シランカップリング剤由来の架橋点を含有する。硬化樹脂におけるケイ素量は0.014wt%であった。硬化樹脂のヤング率は0.52MPaであった。硬化樹脂の破断伸びは447%であった。
【0090】
実施例9において、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にMPTMSを0.20wt%添加した。また、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にIOMPを4.0wt添加した。紫外線照射後の硬化樹脂は、シランカップリング剤由来の架橋点を含有する。硬化樹脂におけるケイ素量は0.029wt%であった。硬化樹脂のヤング率は0.54MPaであった。硬化樹脂の破断伸びは441%であった。
【0091】
実施例10において、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にMPTMSを0.50wt%添加した。また、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にIOMPを4.0wt添加した。紫外線照射後の硬化樹脂は、シランカップリング剤由来の架橋点を含有する。硬化樹脂におけるケイ素量は0.072wt%であった。硬化樹脂のヤング率は0.56MPaであった。硬化樹脂の破断伸びは456%であった。
【0092】
実施例11において、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にMPTMSを2.0wt%添加した。また、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にIOMPを4.0wt添加した。紫外線照射後の硬化樹脂は、シランカップリング剤由来の架橋点を含有する。硬化樹脂におけるケイ素量は0.29wt%であった。硬化樹脂のヤング率は0.69MPaであった。硬化樹脂の破断伸びは521%であった。
【0093】
実施例12において、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にMPTMSを3.0wt%添加した。また、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にIOMPを4.0wt添加した。紫外線照射後の硬化樹脂は、シランカップリング剤由来の架橋点を含有する。硬化樹脂におけるケイ素量は0.43wt%であった。硬化樹脂のヤング率は0.80MPaであった。硬化樹脂の破断伸びは446%であった。
【0094】
実施例13において、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にMPTMSを0.20wt%添加した。また、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にIOMPを5.0wt添加した。紫外線照射後の硬化樹脂は、シランカップリング剤由来の架橋点を含有する。硬化樹脂におけるケイ素量は0.029wt%であった。硬化樹脂のヤング率は0.36MPaであった。硬化樹脂の破断伸びは567%であった。
【0095】
実施例14において、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にMPTMSを0.20wt%添加した。また、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にIOMPを5.5wt添加した。紫外線照射後の硬化樹脂は、シランカップリング剤由来の架橋点を含有する。硬化樹脂におけるケイ素量は0.029wt%であった。硬化樹脂のヤング率は0.29MPaであった。硬化樹脂の破断伸びは657%であった。
【0096】
比較例1において、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にMPTMSを添加しなかった。また、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にIOMPを添加しなかった。紫外線照射後の硬化樹脂は、シランカップリング剤由来の架橋点を含有しない。硬化樹脂におけるケイ素量は0wt%であった。硬化樹脂のヤング率は2.25MPaであった。硬化樹脂の破断伸びは184%であった。
【0097】
比較例2において、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にMPTMSを添加しなかった。また、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にIOMPを0.10wt添加した。紫外線照射後の硬化樹脂は、シランカップリング剤由来の架橋点を含有しない。硬化樹脂におけるケイ素量は0wt%であった。硬化樹脂のヤング率は2.19MPaであった。硬化樹脂の破断伸びは184%であった。
【0098】
比較例3において、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にMPTMSを添加しなかった。また、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にIOMPを0.30wt添加した。紫外線照射後の硬化樹脂は、シランカップリング剤由来の架橋点を含有しない。硬化樹脂におけるケイ素量は0wt%であった。硬化樹脂のヤング率は1.99MPaであった。硬化樹脂の破断伸びは192%であった。
【0099】
比較例4において、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にMPTMSを添加しなかった。また、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にIOMPを0.50wt添加した。紫外線照射後の硬化樹脂は、シランカップリング剤由来の架橋点を含有しない。硬化樹脂におけるケイ素量は0wt%であった。硬化樹脂のヤング率は1.84MPaであった。硬化樹脂の破断伸びは224%であった。
【0100】
比較例5において、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にMPTMSを添加しなかった。また、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にIOMPを1.0wt添加した。紫外線照射後の硬化樹脂は、シランカップリング剤由来の架橋点を含有しない。硬化樹脂におけるケイ素量は0wt%であった。硬化樹脂のヤング率は1.48MPaであった。硬化樹脂の破断伸びは264%であった。
【0101】
比較例6において、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にMPTMSを添加しなかった。また、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にIOMPを2.0wt添加した。紫外線照射後の硬化樹脂は、シランカップリング剤由来の架橋点を含有しない。硬化樹脂におけるケイ素量は0wt%であった。硬化樹脂のヤング率は1.15MPaであった。硬化樹脂の破断伸びは278%であった。
【0102】
比較例7において、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にMPTMSを添加しなかった。また、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にIOMPを3.0wt添加した。紫外線照射後の硬化樹脂は、シランカップリング剤由来の架橋点を含有しない。硬化樹脂におけるケイ素量は0wt%であった。硬化樹脂のヤング率は0.75MPaであった。硬化樹脂の破断伸びは347%であった。
【0103】
比較例8において、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にMPTMSを添加しなかった。また、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にIOMPを4.0wt添加した。紫外線照射後の硬化樹脂は、シランカップリング剤由来の架橋点を含有しない。硬化樹脂におけるケイ素量は0wt%であった。硬化樹脂のヤング率は0.53MPaであった。硬化樹脂の破断伸びは397%であった。
【0104】
比較例9において、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にMPTMSを添加しなかった。また、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にIOMPを5.0wt添加した。紫外線照射後の硬化樹脂は、シランカップリング剤由来の架橋点を含有しない。硬化樹脂におけるケイ素量は0wt%であった。硬化樹脂のヤング率は0.32MPaであった。硬化樹脂の破断伸びは434%であった。
【0105】
比較例10において、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にMPTMSを添加しなかった。また、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にIOMPを5.5wt添加した。紫外線照射後の硬化樹脂は、シランカップリング剤由来の架橋点を含有しない。硬化樹脂におけるケイ素量は0wt%であった。硬化樹脂のヤング率は0.28MPaであった。硬化樹脂の破断伸びは488%であった。
【0106】
比較例11において、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にMPTMSを0.02wt%添加した。また、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にIOMPを添加しなかった。紫外線照射後の硬化樹脂は、シランカップリング剤由来の架橋点を含有する。硬化樹脂におけるケイ素量は0.003wt%であった。硬化樹脂のヤング率は2.24MPaであった。硬化樹脂の破断伸びは184%であった。
【0107】
比較例12において、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にMPTMSを0.02wt%添加した。また、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にIOMPを4.0wt添加した。紫外線照射後の硬化樹脂は、シランカップリング剤由来の架橋点を含有する。硬化樹脂におけるケイ素量は0.003wt%であった。硬化樹脂のヤング率は0.54MPaであった。硬化樹脂の破断伸びは382%であった。
【0108】
比較例13において、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にMPTMSを4.0wt%添加した。また、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にIOMPを4.0wt添加した。紫外線照射後の硬化樹脂は、シランカップリング剤由来の架橋点を含有する。硬化樹脂におけるケイ素量は0.57wt%であった。硬化樹脂のヤング率は0.87MPaであった。硬化樹脂の破断伸びは329%であった。
【0109】
比較例14において、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にMPTMSを5.0wt%添加した。また、プライマリ層の紫外線硬化型樹脂にIOMPを4.0wt添加した。紫外線照射後の硬化樹脂は、シランカップリング剤由来の架橋点を含有する。硬化樹脂におけるケイ素量は0.72wt%であった。硬化樹脂のヤング率は0.88MPaであった。硬化樹脂の破断伸びは287%であった。
【0110】
なお、硬化樹脂の破断伸びは、好ましくは200%以上である。これにより、プライマリ層の破断伸びが十分に確保され、プライマリ層の光ファイバ裸線からの剥離を抑制することができる。
【0111】
図9は、表1の実施例および比較例における硬化樹脂のヤング率および破断伸びを示すグラフであって、横軸は硬化樹脂のヤング率を表し、縦軸は硬化樹脂の破断伸びを表している。図9において、「●」で表された測定点は、比較例1~比較例10における硬化樹脂のヤング率および破断伸びを示している。また、「▲」で表された測定点は、実施例1~実施例14における硬化樹脂のヤング率および破断伸びを示している。さらに、「×」で表された測定点は、比較例11~比較例14における硬化樹脂のヤング率および破断伸びを示している。
【0112】
図9(a)は、比較例1~比較例10における硬化樹脂のヤング率および破断伸びを示している。図9(a)に示されるように、硬化樹脂のヤング率が低いほど硬化樹脂の破断伸びが大きい傾向がある。
【0113】
図9(b)は、比較例1~比較例10および実施例1~実施例14における硬化樹脂のヤング率および破断伸びを示している。図9(b)に示されるように、実施例1~実施例14は、比較例1~比較例10と比較して、広いヤング率の範囲でより大きい破断伸びを示している。上述のように、比較例1~比較例10における硬化樹脂は、シランカップリング剤由来の架橋点を含有せず、実施例1~実施例14における硬化樹脂は、シランカップリング剤由来の架橋点を含有する。よって、シランカップリング剤由来の架橋点によって、破断伸びが上昇したと考えられる。図9(b)において、破断伸びの上昇が確認されたケイ素量は0.014wt%以上0.72wt%以下である。
【0114】
図9(c)は、比較例1~比較例10、実施例1~実施例14および比較例11~比較例14における硬化樹脂のヤング率および破断伸びを示している。図9(c)に示されるように、比較例11~比較例14と比較例1~比較例10との間に破断伸びの差は確認されない。上述のように、比較例1~比較例10における硬化樹脂は、シランカップリング剤由来の架橋点を含有せず、比較例11~比較例14における硬化樹脂はシランカップリング剤由来の架橋点を含有する。すなわち、比較例11~比較例14における硬化樹脂は、シランカップリング剤由来の架橋点を含有するにも関わらず、比較例1~比較例10と同程度の破断伸びしか有さない。これは、硬化樹脂のケイ素量が適切でないためと考えられる。硬化樹脂のケイ素量が少な過ぎる場合、シランカップリング剤由来の架橋点による破断伸びの上昇は小さいと考えられる。また、硬化樹脂のケイ素量が多過ぎる場合、硬化樹脂内の全架橋に対するシランカップリング剤を介した紫外線硬化型樹脂の架橋の割合が高くなる。このため、硬化樹脂のヤング率によっては硬化樹脂のヤング率上昇率が高くなり、硬化樹脂の破断伸びの上昇が抑制されると考えられる。プライマリ層のケイ素量は、0.014wt%以上0.43wt%であることが好ましい。これにより、プライマリ層に含まれるシランカップリング剤由来の架橋点によって、プライマリ層の破断伸びが効果的に上昇することができる。
【0115】
以上に述べたように、本発明によれば、プライマリ層のヤング率および破断伸びを適切な値に設定可能な光ファイバ心線を提供することができる。
【0116】
本発明は、上記実施形態に限らず種々の変形が可能である。例えば、いずれかの実施形態の一部の構成を他の実施形態に追加した例、ほかの実施形態の一部の構成と置換した例も、本発明の実施形態である。また、実施形態において特段の説明や図示のない部分に関しては、当該技術分野の周知技術や公知技術を適宜適用可能である。
【符号の説明】
【0117】
1 光ファイバ心線
2 光ファイバ裸線
3 プライマリ層
4 セカンダリ層
5 着色層
6 光ファイバ着色心線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9