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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025078018
(43)【公開日】2025-05-19
(54)【発明の名称】地盤改良工法
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/12 20060101AFI20250512BHJP
【FI】
E02D3/12 102
E02D3/12 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024186694
(22)【出願日】2024-10-23
(31)【優先権主張番号】P 2023189098
(32)【優先日】2023-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390002233
【氏名又は名称】ケミカルグラウト株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100096002
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 弘之
(74)【代理人】
【識別番号】100091650
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 規之
(72)【発明者】
【氏名】神 俊章
(72)【発明者】
【氏名】山野辺 純一
(72)【発明者】
【氏名】大久保 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】高橋 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 庸平
(72)【発明者】
【氏名】福田 朱里
【テーマコード(参考)】
2D040
【Fターム(参考)】
2D040AA01
2D040AB03
2D040CA10
(57)【要約】
【課題】地下水位以深に適用できる、微生物を用いた炭酸カルシウムの析出による地盤の固化技術を確立する。
【解決手段】地盤10に注水井戸12及び揚水井戸14を構築する工程と、供給タンク16内に含酸素有機物及びカルシウム塩を含む薬液を充填する工程と、薬液を注水井戸12から地盤中に放出すると共に、揚水井戸14から吸引して供給タンク16に戻すことにより、薬液の循環経路を形成する工程と、地盤中の微生物を用い、含酸素有機物を嫌気環境下で発酵させることや酸化還元反応で分解すること(嫌気性代謝)によって二酸化炭素を発生させ、この二酸化炭素とカルシウム塩との反応により、地盤中に炭酸カルシウムよりなる固化体32を形成する工程からなる地盤改良工法。当初はカルシウム塩の濃度を比較的低く抑えた低濃度薬液を用いて微生物の活性化を促し、活性化期間が終了した時点で、カルシウム塩の濃度を高めた高濃度薬液を用い、炭酸カルシウムの析出効率を高める。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に注水井戸及び揚水井戸を構築する工程と、
供給タンク内に含酸素有機物及びカルシウム塩を含む薬液を充填する工程と、
この薬液を上記注水井戸から地盤中に放出すると共に、上記揚水井戸から吸引して上記供給タンクに戻すことにより、地盤中に薬液の循環経路を形成する工程と、
地盤中の微生物により、上記含酸素有機物を嫌気環境下で発酵させることやその他の嫌気性代謝によって二酸化炭素を発生させ、この二酸化炭素と上記カルシウム塩との反応により、地盤中に炭酸カルシウムよりなる固化体を形成する工程と、
からなる地盤改良工法であって、
開始当初は上記カルシウム塩の濃度を比較的低く抑えた低濃度薬液を用いて微生物の活性化を促進させ、
所定の活性化期間が終了した時点で、上記カルシウム塩の濃度を当初よりも高めた高濃度薬液を用いて炭酸カルシウムの析出効率を高めることを特徴とする地盤改良工法。
【請求項2】
遮水壁で囲まれた地盤に注水井戸及び揚水井戸を構築する第1の工程と、
供給タンク内に含酸素有機物及びカルシウム塩を含む薬液を充填する第2の工程と、
この薬液を上記注水井戸から放出して地盤内に拡散させる第3の工程と、
地盤中の微生物により、上記含酸素有機物を嫌気環境下で発酵させることやその他の嫌気性代謝によって二酸化炭素を発生させ、この二酸化炭素と上記カルシウム塩との反応により、地盤中に炭酸カルシウムを析出させる第4の工程と、
所定の養生期間経過後、上記揚水井戸を介して土壌内の薬液を回収し、上記供給タンク内に戻す第5の工程とを有し、
地盤中に炭酸カルシウムの固化体が形成されるまで、上記第3~第5の工程を繰り返す地盤改良工法であって、
開始当初は上記カルシウム塩の濃度を比較的低く抑えた低濃度薬液を用いて微生物の活性化を促進させ、
所定の活性化期間が終了した時点で、上記カルシウム塩の濃度を当初よりも高めた高濃度薬液を用いて炭酸カルシウムの析出効率を高めることを特徴とする地盤改良工法。
【請求項3】
上記供給タンクに対して薬液が適宜補充され、必要な薬液濃度及び薬液量が確保されることを特徴とする請求項1または2に記載の地盤改良工法。
【請求項4】
微生物による嫌気性代謝によって生じた窒素ガスが、上記揚水井戸を介して地上に排出されることを特徴とする請求項1または2に記載の地盤改良工法。
【請求項5】
地盤に注水井戸を構築する工程と、
培養タンク内に、上記地盤の土壌と、含酸素有機物及び比較的低濃度のカルシウム塩を含む低濃度薬液を充填し、所定の期間、嫌気条件下で土壌中の微生物を活性化させる工程と、
活性化された微生物を含む低濃度薬液を供給タンク内に移送する工程と、
供給タンクにカルシウム塩を追加投入することにより、上記薬液を含酸素有機物と比較的高濃度のカルシウム塩を含む高濃度薬液となす工程と、
この高濃度薬液及び活性化された微生物を上記注水井戸から地盤中に放出する工程と、
活性化された微生物により、上記含酸素有機物を嫌気環境下で発酵させることやその他の嫌気性代謝によって二酸化炭素を発生させ、この二酸化炭素と上記カルシウム塩との反応により、地盤中に炭酸カルシウムよりなる固化体を形成する工程と、
からなる地盤改良工法。
【請求項6】
上記地盤にはエア抜き井戸が構築されており、
微生物による嫌気性代謝によって生じた窒素ガスが、上記エア抜き井戸を介して地上に排出されることを特徴とする請求項5に記載の地盤改良工法。
【請求項7】
上記供給タンクに対し、上記培養タンクから活性化された微生物を含む低濃度薬液が適宜補充されると共に、カルシウム塩が追加投入されることにより、必要な薬液濃度及び薬液量が確保されることを特徴とする請求項5または6に記載の地盤改良工法。
【請求項8】
上記高濃度薬液中に、金属成分が含まれていることを特徴とする請求項1、2または5に記載の地盤改良工法。
【請求項9】
上記金属成分が、鉄であることを特徴とする請求項8に記載の地盤改良工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は地盤改良工法に係り、特に、微生物の発酵やその他の嫌気性代謝を用いて土壌中に炭酸カルシウムよりなる固化体を形成する工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軟弱または含水量の高い地質・地盤の改良には、主としてセメント系固化材が利用されてきたが、昨今の二酸化炭素排出量削減の要請から、微生物を用いた環境負荷の比較的低い地盤改良工法の実用化が期待されている。
【0003】
例えば、特許文献1においては、培養した石灰化細菌(ウレアーゼ産生微生物)を栄養源、尿素、カルシウム源と共に地盤に注入することによって炭酸イオンを生成し、地盤を固化する技術が開示されている。
また、特許文献2には、微生物代謝で発生する窒素ガスや二酸化炭素ガスによって地盤の水飽和度を低下させることで液状化抵抗を高め、あるいは微生物を利用して粘度の高いバイオフィルムを地盤の間隙水中に生成させ、その粘性増加によって液状化抵抗を高める技術が開示されている。
特許文献3には、含酸素有機物及びカルシウム塩を土壌に添加し、土壌中に存在する微生物の嫌気性代謝を用いて形成した炭酸カルシウムにより、土壌の粒子間を架橋する地盤の強化技術が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特許第5140879号公報
【特許文献2】特許第5148764号公報
【特許文献3】特開2022-043735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術は石灰化細菌が排出するウレアーゼ酵素の触媒作用によって尿素を分解し、炭酸イオンを生成するという好気性の反応を前提とするものであり、地下水位以深の地盤には適用できないという問題があった。
また、特許文献2の技術については、微生物代謝による窒素ガスや二酸化炭素ガスが土壌の間隙中に留まり続けるとは限らず、バイオフィルムに関しても栄養の供給が絶たれれば消滅する可能性があり、何れにしてもその恒久性について疑問が残る。
特許文献3の技術の場合、微生物の嫌気性発酵を利用するため地下水位以深の地盤に適用できる点で評価でき、炭酸カルシウムの析出も確認されているが、地盤改良工法としての実用性を高めるためには、さらなる改良の余地があった。
【0006】
この発明は、このような現状に鑑みて案出されたものであり、地下水位以深に適用できる、微生物を用いた炭酸カルシウムの析出による地盤の固化技術を確立することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、この発明に係る第1の地盤改良工法は、地盤に注水井戸及び揚水井戸を構築する工程と、供給タンク内に含酸素有機物及びカルシウム塩を含む薬液を充填する工程と、この薬液を上記注水井戸から地盤中に放出すると共に、上記揚水井戸から吸引して上記供給タンクに戻すことにより、地盤中に薬液の循環経路を形成する工程と、地盤中の微生物により、上記含酸素有機物を嫌気環境下で発酵させることやその他の嫌気性代謝(酸化還元反応による分解等)よって二酸化炭素を発生させ、この二酸化炭素と上記カルシウム塩との反応により、地盤中に炭酸カルシウムよりなる固化体を形成する工程とからなる地盤改良工法であって、工法の開始当初は上記カルシウム塩の濃度を比較的低く抑えた低濃度薬液を用いて微生物の活性化を促進させ、所定の活性化期間が終了した時点で、上記カルシウム塩の濃度を当初よりも高めた高濃度薬液を用いて炭酸カルシウムの析出効率を高めることを特徴としている。
【0008】
この発明に係る第2の地盤改良工法は、遮水壁で囲まれた地盤に注水井戸及び揚水井戸を構築する第1の工程と、供給タンク内に含酸素有機物及びカルシウム塩を含む薬液を充填する第2の工程と、この薬液を上記注水井戸から放出して地盤内に拡散させる第3の工程と、地盤中の微生物により、上記含酸素有機物を嫌気環境下で発酵させることやその他の嫌気性代謝によって二酸化炭素を発生させ、この二酸化炭素と上記カルシウム塩との反応により、地盤中に炭酸カルシウムを析出させる第4の工程と、所定の養生期間経過後、上記揚水井戸を介して土壌内の薬液を回収し、上記供給タンク内に戻す第5の工程とを有し、地盤中に炭酸カルシウムの固化体が形成されるまで、上記第3~第5の工程を繰り返す地盤改良工法であって、工法の開始当初は上記カルシウム塩の濃度を比較的低く抑えた低濃度薬液を用いて微生物の活性化を促進させ、所定の活性化期間が終了した時点で、上記カルシウム塩の濃度を当初よりも高めた高濃度薬液を用いて炭酸カルシウムの析出効率を高めることを特徴としている。
【0009】
この発明に係る第3の地盤改良工法は、地盤に注水井戸を構築する工程と、培養タンク内に、上記地盤の土壌と、含酸素有機物及び比較的低濃度のカルシウム塩を含む低濃度薬液を充填し、所定の期間、嫌気条件下で土壌中の微生物を活性化させる工程と、活性化された微生物を含む低濃度薬液を供給タンク内に移送する工程と、供給タンクにカルシウム塩を追加投入することにより、上記薬液を含酸素有機物と比較的高濃度のカルシウム塩を含む高濃度薬液となす工程と、この高濃度薬液及び活性化された微生物を上記注水井戸から地盤中に放出する工程と、活性化された微生物により、上記含酸素有機物を嫌気環境下で発酵させることやその他の嫌気性代謝によって二酸化炭素を発生させ、この二酸化炭素と上記カルシウム塩との反応により、地盤中に炭酸カルシウムよりなる固化体を形成する工程とからなることを特徴としている。
【0010】
上記高濃度薬液中に、鉄やニッケル、コバルト、マンガン等の金属成分(金属の粉体、金属化合物、金属酸化物、金属水酸化物、金属イオン含有水溶液等)を含有させることが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
この発明に係る地盤改良工法の場合、地盤改良工法の開始当初はカルシウム塩の濃度を比較的低く抑えた低濃度薬液を地盤中の微生物に供給することにより、微生物の活性化を促し、活性化期間が経過した後は、当初に比べてカルシウム塩の濃度を高めた高濃度薬液を微生物に供給することで炭酸カルシウムの析出効率を高めることができ、結果として十分な品質を備えた固化体を地盤中に形成することが可能となる。
高濃度薬液中に鉄等の金属成分が含まれていると、土粒子間の間隙を鉄酸化物によって塞ぐことでき、固化体の強度の向上や形成速度の向上に資する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】この発明に係る第1の地盤改良工法の構成を示す概念図である。
図2】第1の地盤改良工法における注水管及び揚水管の配置パターンを示す概念図である。
図3】第1の地盤改良工法の作業工程を示すフローチャートである。
図4】第1の地盤改良工法の効果を示すグラフである。
図5】第1の地盤改良工法を建物下の液状化対策に適用した例を示す概念図である。
図6】第1の地盤改良工法を建物下の液状化対策に適用した場合における注水管及び揚水管の配置パターンを示す概念図である。
図7】この発明に係る第2の地盤改良工法の構成を示す概念図である。
図8】第2の地盤改良工法における注水管及び揚水管の配置パターン及び施工手順を示す概念図である。
図9】第2の地盤改良工法の作業工程を示すフローチャートである。
図10】この発明に係る第3の地盤改良工法の構成を示す概念図である。
図11】第3の地盤改良工法の作業工程を示すフローチャートである。
図12】第3の地盤改良工法における注水管の配置パターンを示す概念図である。
図13】第1の地盤改良工法における高濃度薬液中に鉄粉を投入することによって形成された固化体のSEM画像である。
図14図13のSEM画像中の特定ポイントに係るEDSの分析結果を示す図である。
図15図13のSEM画像中のケイ素の分布状況を他の元素に比べて明るく表現した図である。
図16図13のSEM画像中の酸化鉄の分布状況を他の元素に比べて明るく表現した図である。
図17図13のSEM画像中の炭酸カルシウムの分布状況を他の元素に比べて明るく表現した図である。
図18】第1の地盤改良工法における高濃度薬液中に鉄粉を投入することによる効果を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、この発明に係る第1の地盤改良工法を実現するための構成要素を示すものであり、改良対象となる地盤10に構築された注水井戸12及び揚水井戸14と、地上に設置された供給タンク16が用いられる。
供給タンク16内には、含酸素有機物及びカルシウム塩の水溶液よりなる薬液18が充填されている。
注水井戸12及び揚水井戸14の本数や配置については、特に限定はない。
【0014】
供給タンク16と注水井戸12間は、注水パイプ20介して接続されており、その途中に注水ポンプ22が介装されている。
また、供給タンク16と揚水井戸14間は、揚水パイプ24介して接続されており、その途中に揚水ポンプ26が介装されている。
揚水井戸14の下端にはウェルポイント28が配置されており、揚水パイプ24の下端と接続されている。
【0015】
ここで、注水ポンプ22を稼働させると、供給タンク16内の薬液が注水井戸12に供給され、地盤10中に浸透していく。
また、揚水ポンプ26を稼働させると、地盤10中の薬液がウェルポイント28を介して吸引され、揚水パイプ24を経由して供給タンク16内に戻される。
この結果、地盤10の内部には薬液の循環経路が形成される。
【0016】
図2は、注水井戸12及び揚水井戸14の配置パターンを例示するものであり、地盤10に対し矩形状に配置された6本の注水井戸12と、その内側に配置された2本の揚水井戸14が示されている。
図中の破線矢印が薬液の流れ(循環経路)を、また二点鎖線で示された矩形が改良範囲(固化体の形成範囲)30を示している。
【0017】
以下、図3のフローチャートに従い、第1の地盤改良工法の作業工程について説明する。
まず準備段階として、供給タンク16内に低濃度薬液18が充填される(S10)。
ここで「低濃度」とは、後の工程で用いられる高濃度薬液の濃度との比較によるものであり、また含酸素有機物+カルシウム塩よりなる薬液18の中で、特にカルシウム塩の濃度が相対的に低いことを意味している。カルシウム塩濃度が0の場合も、ここで言う「低濃度」に含まれるものとする。
【0018】
つぎに、注水ポンプ22及び揚水ポンプ26を稼働させ、地盤10中に低濃度薬液を循環供給する(S12)。
この薬液は、上記のようにカルシウム塩の濃度が比較的低く設定されており、微生物の成育に適しているため、地盤10中に元々存在する微生物の活性化(増殖)を促すことができる。
【0019】
土壌に浸透した薬液の一部は、微生物や地下水と共に揚水井戸14及び揚水パイプ24を介して供給タンク16内に戻される。
この供給タンク16に戻された薬液に対しては、薬剤の追加投入によって必要な濃度及び量が確保された上で(S14)、微生物と共に注水パイプ20及び注水井戸12を介して地盤10に再投入される。
【0020】
そして、所定の「微生物の活性化期間」が終了した時点で(S16/Y)、供給タンク16内の薬液が高濃度化される(S18)。
具体的には、供給タンク16内にカルシウム塩が追加投入され、当初の薬液中のカルシウム塩濃度に比べ、例えば2倍程度の濃度に調整される。ただし、濃度差に限定はない。また、ここで言う「高濃度」は1種類の濃度に限定されるものではなく、当初のカルシウム塩濃度に比べて高濃度でさえあれば、異なるカルシウム塩濃度を段階的に適用することもできる。
【0021】
これに対し、「微生物の活性化期間」が終了していない場合には(S16/N)、低濃度の薬液による微生物の活性化工程が継続される(S12、S14)。
「微生物の活性化期間」については後述する。
【0022】
高濃度化された薬液は、注水ポンプ22及び揚水ポンプ26の稼働によって地盤10及び供給タンク16間を循環し、地盤10中の微生物に供給される(S20)。
この結果、活性化した土壌中の微生物によって含酸素有機物が好気性発酵やその他の嫌気性代謝で分解され、大量の二酸化炭素が発生する。
この二酸化炭素が高濃度のカルシウム塩と反応することによって炭酸カルシウムが大量に生成され、地盤10内に固化体(改良体)32が形成される。
この固化体32の形成過程においても、供給タンク16に戻された薬剤に対しては適宜薬剤が補充され(S22)、薬液の必要濃度及び必要量が確保された上で、微生物と共に注水パイプ20及び注水井戸12を介して地盤10に再投入される。この際、微細粒子(CaCO3の初期析出物)も土壌に戻されるため、析出物の粒径増大速度が向上する。
この供給タンク16内において、補充した薬剤により、地盤より戻された活性化済み微生物の増殖も進行する。
【0023】
地盤10に対しては適当なタイミングでチェックボーリング等の検査が実施され、固化体32の完成度が観測される(S24)。
そして、必要な強度及び体積を備えた固化体32の形成が確認された時点で(S26/Y)薬液の循環供給が停止され、改良工事の完了となる。
上記の観測時に固化体32の完成度が所定の基準に達していない場合には(S26/N)、高濃度の薬液の供給による固化体32の形成工程が継続される(S20~S24)。
【0024】
上記の「微生物の活性化(増殖)期間」とは、低濃度薬液の循環供給によって標的微生物が十分に増殖し固化反応が起こるように活性化されるのに要する期間を意味しており、例えば、改良対象となる地盤の土壌を採取し、実験室における培養実験を通じて活性化に要する期間が予め設定される。
【0025】
あるいは、供給タンク16内に戻された薬液を顕微鏡で観察したり、rRNA遺伝子のコピー数を測定したりすることで、微生物の増殖が所定以上になっていることを確認できた時点で、「微生物の活性化(増殖)期間」の終了と認定することもできる。
また、供給タンク16内に戻された薬液中のカルシウムイオンや硝酸イオンの量を計測し、その減少スピードの推移によって微生物の代謝活性を推定することもできる。
【0026】
また、上記S24及びS26における固化体の完成度判定については、固化体の完成度を実際に観測する代わりに、同一の施工領域において先に実施された改良工事のデータに基づき、当該領域の地盤における固化体の完成に要する期間を推定し、この期間経過をもって必要な固化体32が形成されたものと認定することもできる。
【0027】
この地盤改良工法の場合、微生物の活性化(増殖)段階においてはカルシウム塩の濃度が比較的低く抑えられているため、炭酸カルシウムの生成はそれほど進行しないが、微生物の成育に適した環境を土壌中に形成できるため、その活性化(増殖)が促進される。
そして、微生物の十分な増殖がみられた時点で、比較的高濃度のカルシウム塩を含む薬液を地盤10中に供給することで、炭酸カルシウムを効率的に生成することが可能となる。
【0028】
微生物代謝によるCaCO3の析出に伴って生じた窒素ガスは、揚水時に揚水井戸14を介して外部に排出される。窒素ガスが土粒子間に留まると、CaCO3による土粒子間を架橋する作用が阻害されることとなるが、このように窒素ガスを揚水井戸14経由で除去することにより、固化体32の強度低下を有効に防止できる。
【0029】
図4は、この地盤改良工法によって形成された固化体32の品質を示すグラフであり、図4(a)は一軸圧縮強度についての測定結果を、同図(b)は透水係数についての測定結果を示すグラフである。
両者とも、比較対象として同一現場にて採取した土壌そのままの「土壌のみ」と、同一現場において1種類の濃度の薬剤を単純に添加して形成した固化体の数値である「単純薬剤添加」の数値がグラフ化されている。
【0030】
図示の通り、一軸圧縮強度については「本特許技術」による固化体の数値が、「土壌のみ」及び「単純薬剤添加」に比べて遥かに高いことがわかる。
また、透水係数についても、「本特許技術」による固化体の数値が、「土壌のみ」及び「単純薬剤添加」に比べて遥かに低いことが示されている。
この結果、本特許技術による固化体32は、単純薬剤添加に比べて効率よく炭酸カルシウムが析出され、土中間隙に充填することで地盤の固化が行え、液状化対策や土壌中の地下水流の低減に資することが確認された。
【0031】
本発明の場合、薬液は注水及び揚水に伴う循環方式によって地盤10に供給されるため、廃液の発生を抑制できる利点がある。
また、揚水・注水の量、循環時間(交換回数) 等によって固化体の強度を調整することも可能となる。すなわち、薬液の交換回数の増加に伴い固化体の強度が上昇すると共に、透水係数が低くなることが確認されており、固化体の仕上がりを要求に応じた強度や透水係数に導くことが可能となる。
【0032】
また、微生物の嫌気反応を利用するため、地下深部での固化に適応できる。
好気性微生物の反応に依存した場合には、表層1m以浅での固化に限定される。
【0033】
また、尿素分解によるアンモニアや硫酸還元反応に伴う硫化水素等の悪臭は生じない。
薬液は中性のためpHコントロールの必要がなく、環境にも優しい工法と言える。pHが異なる土壌でも液剤の構成を変える必要がなく、適用範囲が広い利点もある。
さらに、薬液には粘性がないため、地盤に高圧で注入する必要はなく、構造物の地下に対しても適応可能となる。
【0034】
上記薬液に含まれる含酸素有機物としては、微生物による発酵によって二酸化炭素を生成可能な化合物であればよく、例えば有機酸やアルコール、糖類、たんぱく質を挙げることができる。
有機酸は、好ましくは、炭素数2~10のカルボン酸であり、より好ましくは、コハク酸、プロピオン酸又はピルビン酸である。特にコハク酸は、陸生植物の主成分であるセルロースから生じる一般的な酸であり、電子供与体として地中微生物による硝酸還元を効率化することもあり好ましい。
アルコールは、例えばエタノールが該当する。
糖類には、単糖類、2糖類、多糖類が含まれ、例えば、グルコース又はスクロースを挙げることができる。
【0035】
また上記薬液における含酸素有機物の濃度(溶存する濃度)は、土壌の状態等に応じて適宜変更することができるが、好ましくは1~100mMの範囲であり、より好ましくは5~50mMの範囲である。
【0036】
上記薬液に含まれるカルシウム塩は、ハロゲン化カルシウム、水酸化カルシウム、酢酸カルシウム、炭酸カルシウムなどの1種又は2種以上を用いることができる。
好ましくは、ハロゲン化カルシウム、より好ましくは、塩化カルシウム(CaCl)である。
薬液中におけるカルシウム塩の濃度は、土壌の状態等に応じて適宜変更することができるが、好ましくは、100~5000mMの範囲であり、より好ましくは200~2000mMの範囲である。この範囲内において、微生物の活性化段階と炭酸カルシウムの析出段階におけるカルシウム塩の具体的濃度が設定される。
【0037】
この発明は、含酸素有機物を微生物によって嫌気性環境下で発酵させ、これにより二酸化炭素を発生させるものである。
用いる微生物としては、含酸素有機物を発酵原料として嫌気性発酵により二酸化炭素を産生し得るものを広く用いることができる。
当該微生物は、例えば、含酸素有機物が有機酸の場合には、以下の反応式で示される発酵を行い、二酸化酸素を産生する。
[式1]
→Cx-1z-2+CO
【0038】
ここで、嫌気性発酵とは、無酸素環境或いは低酸素環境において微生物による発酵が進行することを意味する。
【0039】
この発明で用いる微生物の具体例としては、メチルマロニル-CoAデカルボキシラーゼをコードする遺伝子(mmdA)を有する微生物を挙げることができる。
かかる微生物は、より具体的には、バクテロイデス門(Bacteroidetes)に属する微生物、特に、バクテロイデス目(Bacteroidales)に属する微生物が好ましい。
これらmmdA遺伝子を有する微生物は、メチルマロニルCoAから二酸化炭素を外す機能を有しており、含酸素有機物としてコハク酸等の有機酸を用いる場合に効率的に二酸化炭素を生成させるという点で特に好ましい。
微生物は、土壌中に元来存在する微生物が用いられる。
【0040】
本発明では、嫌気性環境下での微生物による含酸素有機物の発酵作用やその他の嫌気代謝によって二酸化炭素を発生させ、これとカルシウム塩とを反応させることにより、土壌中に炭酸カルシウム(CaCO)が析出される。
より詳細には、以下の反応式に示すように、まず、発生した二酸化炭素が土壌中の水に溶けて炭酸イオン(CO 2-)が生じ、当該炭酸イオンが、カルシウム塩に由来するカルシウムイオン(Ca2+)と反応することで、炭酸カルシウム(CaCO)が沈殿(石灰化)するというものである。
[式2]
CO+HO→HCO→CO 2-+2H
Ca2++CO 2-→CaCO
【0041】
上記のようにして生成した炭酸カルシウムを地盤中の粒子間や亀裂に充填することで、地盤強度を上げ、空隙率や透水性を下げるという地質改良効果が得られる。
【0042】
上記薬液中に硝酸塩の粉末または水溶液を添加することにより、土壌中で硝酸還元反応を進行させることもできる。
かかる硝酸還元反応によって、窒素ガスを副産物とする脱窒(NO→N
が生じ、付近土壌のpHを上昇させることで炭酸イオンを増加させ、炭酸カルシウムの生成を促進することができる点で有益である。
典型的には、硝酸還元反応は以下の式で表すことができる。
[式3]
CHCOO+2.6H+1.6NO →2CO+0.8N+2.8H
【0043】
添加される硝酸塩としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の硝酸塩を用いることができ、扱い易さから好ましくは、硝酸ナトリウム(NaNO)である。
カルシウム塩を水溶液の形態で添加する場合、当該水溶液における硝酸塩の濃度は、土壌の状態等に応じて適宜変更することができるが、好ましくは、10~250mMの範囲である。
ただし、微生物の活性化段階においては硝酸塩の濃度が比較的低く設定され、固化体の形成段階に入った時点で、その濃度が比較的高くなるように調整することができる。
【0044】
図5は、第1の地盤改良工法を用いて、既設建物40の下に位置する地盤10に対して液状化対策を施す例を示している。
この場合、既設建物40を避けた位置に注水井戸12及び揚水井戸14が構築されると共に、供給タンク16が設置され、注水ポンプ22及び揚水ポンプ26の稼働により、既設建物40の真下に位置する地盤10に薬液の循環経路が形成される。
【0045】
図6は、注水井戸12及び揚水井戸14の配置パターンを例示するものであり、3本の注水井戸12と、同じく3本の揚水井戸14が所定の距離を隔てて対向配置されている。
図中の破線矢印が薬液の流れ(循環経路)を、また二点鎖線で示された矩形が建物直下の改良範囲30を示している。
【0046】
この場合も、微生物の活性化段階では比較的低濃度の薬液が地盤10に供給され、微生物が所定以上に活性化された時点で、比較的高濃度の薬液が地盤10に供給される。
そして、所定品質の固化体32が形成されるまで、高濃度薬液の循環供給が継続される。
【0047】
図7は、第2の地盤改良工法を用いて、遮水壁42で囲まれた地盤10に対して液状化対策を施す例を示している。
この場合、遮水壁42の内側に注水井戸12及び揚水井戸14が構築されると共に、遮水壁42の外部に供給タンク16が設置されている。
【0048】
図8は、注水井戸12及び揚水井戸14の配置パターン及び施工手順を例示するものであり、遮水壁42によって矩形状に囲まれた地盤10の対角線上に注水井戸12と揚水井戸14がそれぞれ配置されている。
この場合、注水井戸12から放出された薬液は遮水壁42によって堰き止められ、改良範囲外に流出することが抑えられるため、揚水ポンプ26を常時稼働させる必要がなく、所定の養生期間が設けられる点が特徴となる(図8(b))。
【0049】
以下、図9のフローチャートに従い、第2の地盤改良工法における作業工程の詳細について説明する。
まず、供給タンク16内に低濃度薬液18が充填される(S30)。
つぎに、注水ポンプ22を稼働させ、図8(a)に示すように、遮水壁42で囲まれた地盤10中に低濃度の薬液を拡散・浸透させる(S32)。
つぎに、注水ポンプ22の稼働を停止し、図8(b)に示すように、薬液が行き渡った地盤10を養生させる(S34)。
【0050】
所定の養生期間が経過した後は、図8(c)に示すように、揚水ポンプ26を稼働させ、揚水井戸14を介して遮水壁42内の薬液を供給タンク16に回収する(S36)。
この時点で、供給タンク16に対して必要な薬液の補充がなされる(S38)。
【0051】
上記S32~S38の処理は、上記した「微生物の活性化(増殖)期間」が終了するまで繰り返される(S40/N)。
これに対し、「微生物の活性化(増殖)期間」が終了すると(S40/Y)、供給タンク16内の薬液濃度が高められた後(S44)、注水ポンプ22の稼働によって注水井戸12から地盤10中に高濃度薬液が拡散させる(S46)。
そして、高濃度薬液が遮水壁42内の地盤10に十分に行き渡った段階で注水ポンプ22の稼働が停止され、所定の養生期間が確保される(S48)。
【0052】
この養生期間が経過した後は、揚水ポンプ26を稼働させ、揚水井戸14を介して遮水壁42内の薬液及び微生物が供給タンク16内に回収される(S50)。
この時点で、供給タンク16に対して必要な薬液の補充がなされる(S52)。
【0053】
地盤10に対しては所定のタイミングでチェックボーリング等の検査が実施され、固化体32の完成度が観測される(S54)。
そして、必要な強度及び体積を備えた固化体32の形成が確認された時点で(S56/Y)、改良工事の完了となる。
これに対し、固化体32の完成度が所定の基準に達していない場合には(S56/N)、「高濃度薬液の投入→養生期間の確保→高濃度薬液及び微生物の回収→薬液の補充→固化体の観測」による固化体32の形成工程が繰り返される(S46~S54)。
【0054】
図10は、この発明に係る第3の地盤改良工法を実現するための構成要素を示すものであり、改良の対象となる地盤10に構築された注水井戸12及びエア抜き井戸50と、地上に設置された供給タンク16と、培養タンク52が用いられる。
培養タンク52内には、含酸素有機物及びカルシウム塩の水溶液よりなる低濃度の薬液54と、改良対象地盤10から採取した土壌56が充填されている。
【0055】
供給タンク16と注水井戸12間は、注水パイプ20介して接続されており、その途中に注水ポンプ22が介装されている。
また、エア抜き井戸50内には真空ポンプ58に接続された排気管60が挿通されている。
培養タンク52と供給タンク16間は、移送パイプ62を介して接続されており、その途中には移送ポンプ64が介装されている。
【0056】
以下、図11のフローチャートに従い、第3の地盤改良工法における作業工程について説明する。
まず準備段階として、培養タンク52内に現地土壌56及び低濃度薬液54を充填し(S60)、嫌気条件下において土壌56中の微生物を培養する(S62)。
【0057】
そして、上記した「微生物の活性化(増殖)期間」が終了した時点で(S64/Y)、移送ポンプ64を稼働させ、培養タンク52内の活性化された微生物が薬液ごと移送パイプ62経由で供給タンク16内に移される(S66)。
「微生物の活性化(増殖)期間」が終了しない間は(S64/N)、低濃度の薬液による微生物の培養が継続される(S62)。
【0058】
供給タンク16内に移送された薬液に対しては、カルシウム塩が追加投入され、高濃度の薬液となるよう調整された上で(S68)、注水ポンプ22の稼働によって注水井戸12から地盤10中に供給される(S70)。
【0059】
この結果、活性化した微生物によって含酸素有機物が好気性発酵され、大量の二酸化炭素が発生する。
この二酸化炭素が高濃度のカルシウム塩と反応することによって炭酸カルシウムが大量に生成され、地盤10内に固化体32が形成される。
この間に生成された窒素ガスは、エア抜き井戸50を介して地上に吸引・排出される(S72)。
固化体形成過程中、供給タンク16に対しては培養タンク52から活性化された微生物を含む低濃度薬液が補充されると共に、これを高濃度化するために必要な薬剤が随時投入される(S74)。
【0060】
地盤10に対しては適当なタイミングでチェックボーリング等の検査が実施され、固化体32の完成度が観測される(S76)。
そして、必要な強度及び体積を備えた固化体32の形成が確認された時点で(S78/Y)、薬液の供給が停止され、改良工事の完了となる。
これに対し、固化体32の完成度が所定の基準に達していない場合(S78/N)、高濃度薬液及び活性化した微生物の供給による固化体32の形成工程が継続される(S70~S74)。
【0061】
図12は、この第3の地盤改良工法における注水井戸12の配置パターンを例示するものであり、相互に所定の間隔をおいて一列に配置された複数の注水井戸12が示されている。
図中の破線矢印が薬液の流れを、また二点鎖線で示された円形が改良範囲30を示している。
【0062】
この第3の地盤改良工法の場合、培養タンク52内で活性化済みの微生物が注水井戸12を介して地盤10に次々と供給される仕組みであるため、揚水井戸14を設置して低濃度薬液の循環経路を地盤10中に形成し、当該循環経路内に生息している微生物を活性化させる必要がない。
【0063】
上記第1の地盤改良工法~第3の地盤改良工法の高濃度薬液中に、鉄等の金属成分を混入させることにより、固化体32の強度の向上や形成速度の向上を実現することができる。
具体的には、微生物の活性化期間終了し、低濃度薬液にカルシウム塩を追加投入して高濃度薬液化するタイミングで、鉄粉、鉄化合物、鉄の酸化物や水酸化物、鉄イオン含有水溶液等を投入すると共に、必要に応じて爾後の補充を行うことにより、形成される固化体32中の空隙に酸化鉄が充填され、結果として固化体32の強度向上や形成速度の向上が図れる。
【0064】
図13(a)は、第1の地盤改良工法において、高濃度薬液中に鉄粉を適量投入することによって形成された固化体32のSEM(走査電子顕微鏡)画像を示しており、その中の矩形領域を拡大したものが図13(b)である。また、図14は、図13(b)中の特定ポイント(Pt. 1~Pt. 5)のEDS(エネルギー分散型X線分光法)の分析結果を示す図であり、Pt. 1及びPt. 2には酸化鉄(FeO)が分布しており、Pt. 3には炭酸カルシウム(CaCO3)が、Pt. 4及びPt. 5にはケイ素(Si)が主に分布していることが示されている。
【0065】
図15は、図13(a)のSEM画像中のケイ素(Si)の分布状況を他の元素に比べて明るく表現した図である。また、図16は同SEM画像中の酸化鉄(FeO)分布状況を明るく表現した図であり、図17は炭酸カルシウム(CaCO3)分布状況を明るく表現した図である。
これらの図を総合すると、本来であれば土粒子(Si)間の隙間(空洞)となるはずのスペースに酸化鉄(FeO)が充填され、その境界部分を炭酸カルシウム(CaCO3)が目詰めしていることが理解できる。
【0066】
図18は、第1の地盤改良工法において、適量の鉄粉を混入させた高濃度薬液を用いて形成した固化体32の品質を示すグラフであり、図18(a)は一軸圧縮強度についての測定結果を、同図(b)は透水係数についての測定結果を示すグラフである。
両者とも、比較対象として同一現場にて採取した土壌そのままの「土壌のみ」の数値と、同一現場において1種類の濃度の薬剤を単純に添加して形成した固化体の数値である「単純薬剤添加」と、第1の地盤改良工法によって形成した固化体の数値である「本特許技術」が、第1の地盤改良工法に鉄粉を添加して形成した固化体の数値である「本特許技術+Fe添加」と並んでグラフ化されている。
【0067】
図示の通り、一軸圧縮強度については「本特許技術+Fe添加」による固化体の数値が、「土壌のみ」、「単純薬剤添加」、「本特許技術」に比べて遥かに高いことがわかる。
また、透水係数についても、「本特許技術+Fe添加」による固化体の数値が、「土壌のみ」、「単純薬剤添加」、「本特許技術」に比べて遥かに低いことが示されている。
【0068】
鉄以外の金属、例えばニッケル、コバルト、マンガン等を高濃度薬液中に混入させても同様の効果を奏することができる。
なお、これらの金属成分は少なくとも高濃度薬液中に存在していれば足りるのであって、その混入のタイミングが「低濃度薬液を高濃度薬液化する際」に限定されるものではない。すなわち、低濃度薬液の段階で金属成分を混入させておき、これにカルシウム塩を追加することで「金属成分を含む高濃度薬液」となすこともできる。
【符号の説明】
【0069】
10 地盤
12 注水井戸
14 揚水井戸
16 供給タンク
18 薬液
20 注水パイプ
22 注水ポンプ
24 揚水パイプ
26 揚水ポンプ
28 ウェルポイント
30 改良範囲
32 固化体
40 既設建物
42 遮水壁
50 エア抜き井戸
52 培養タンク
54 薬液
56 土壌
58 真空ポンプ
60 排気管
62 移送パイプ
64 移送ポンプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18