(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007811
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】燃料供給システム
(51)【国際特許分類】
B65D 90/12 20060101AFI20250109BHJP
F17C 13/08 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
B65D90/12 Z
F17C13/08 302Z
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023109449
(22)【出願日】2023-07-03
(71)【出願人】
【識別番号】000005902
【氏名又は名称】株式会社三井E&S
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】具志堅 将
【テーマコード(参考)】
3E170
3E172
【Fターム(参考)】
3E170AA03
3E170AB29
3E170DA01
3E170GB01
3E170GB04
3E170QA06
3E170VA20
3E170WF01
3E172AA03
3E172AA06
3E172AB04
3E172AB05
3E172AB20
3E172BA06
3E172BB05
3E172BB13
3E172BB17
3E172BC06
3E172BD01
3E172CA24
3E172DA90
3E172KA03
(57)【要約】
【課題】燃料の貯蔵容量が大きいにも関わらず、燃料タンクの製造コストを抑制でき、燃料タンクの設置スペースの制約を受け難い燃料供給システムを提供する。
【解決手段】実施形態の燃料供給システムは、液体燃料を供給するための燃料供給システムであって、互いに連通した、前記液体燃料を貯蔵するための複数の燃料タンクと、前記燃料タンクのうちの少なくとも1つを下部タンクとし、前記下部タンクの上方に、前記燃料タンクのうちの他の少なくとも1つが上部タンクとして位置するように前記下部タンク及び前記上部タンクを支持する支持構造と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体燃料を供給するための燃料供給システムであって、
互いに連通した、前記液体燃料を貯蔵するための複数の燃料タンクと、
前記燃料タンクのうちの少なくとも1つを下部タンクとし、前記下部タンクの上方に、前記燃料タンクのうちの他の少なくとも1つが上部タンクとして位置するように前記下部タンク及び前記上部タンクを支持する支持構造と、を備えることを特徴とする燃料供給システム。
【請求項2】
前記燃料タンクに貯蔵された前記液体燃料が前記燃料タンクから取り出され、移送されるように前記燃料タンクに接続された液相用配管をさらに備える、請求項1に記載の燃料供給システム。
【請求項3】
前記液相用配管は、前記燃料タンクそれぞれから取り出されて合流した前記液体燃料の流路となる共通流路部を有し、
前記燃料供給システムは、前記共通流路部に配置された、前記液体燃料を移送するためのポンプをさらに備える、請求項2に記載の燃料供給システム。
【請求項4】
前記燃料タンク内の気相空間を互いに連通させるように前記燃料タンクに接続された気相用配管をさらに備える、請求項2又は3に記載の燃料供給システム。
【請求項5】
前記気相用配管の途中に配置された圧縮機であって、前記気相空間のうち少なくとも1つの気相空間から気体を吸い込み、他の少なくなくとも1つの気相空間に送り込むための圧縮機をさらに備える、請求項4に記載の燃料供給システム。
【請求項6】
前記燃料タンクと接続された前記気相用配管の接続端部に、前記気相用配管の流路を開閉するための複数の制御弁が設けられ、
前記燃料供給システムは、前記燃料タンク内に前記液体燃料を入れる間、及び、前記燃料タンクから前記液体燃料が取り出される間の少なくとも一方の間、前記気相用配管の前記流路が開くように前記制御弁を制御する制御装置をさらに備える、請求項4に記載の燃料供給システム。
【請求項7】
前記制御装置は、前記上部タンク及び前記下部タンクそれぞれから前記液体燃料が取り出される間、前記上部タンクと前記下部タンクとを接続する前記気相用配管の部分において前記流路が開くよう前記制御弁を制御する、請求項6に記載の燃料供給システム。
【請求項8】
前記燃料タンクは、一方向に延びる形状を有し、
前記支持構造は、前記一方向と平行な方向に互いに離間して配置された複数の板状支持体を有し、
前記板状支持体それぞれは、前記燃料タンクが互いに平行に延びて配置されるように前記燃料タンクそれぞれと嵌め合わせられる複数の篏合部を有している、請求項7に記載の燃料供給システム。
【請求項9】
前記板状支持体は、前記下部タンクと、前記下部タンクが嵌め合わせられる前記篏合部と、の間の隙間に配置された干渉部材であって、前記下部タンクと、前記上部タンクの側の前記篏合部の縁部との接触を阻止するよう構成された干渉部材を有している、請求項8に記載の燃料供給システム。
【請求項10】
前記液体燃料は液体アンモニアである、請求項1又は2に記載の燃料供給システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料タンクから燃料を供給する燃料供給システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両、船舶等の輸送手段や地上設備において、発電装置、エンジン等の機器に燃料タンクから燃料を供給し、機器を運転することが行われている(例えば、特許文献1)。
【0003】
近年、温室効果ガスである二酸化炭素を排出しない燃料としてアンモニアが注目され、様々な分野でアンモニアを機器の燃料として利用することが検討されている。液体アンモニアを燃料として利用するためには、液体アンモニアを貯蔵するのに適した強度や耐腐食性を備えたアンモニアタンクが必要である。
【0004】
アンモニアの発熱量は、従来より燃料として利用されている重油や液化天然ガス(LNG)と比べ低い。そのため、機器の運転時間を、これら従来の燃料を利用した場合と同等とするためには、より多くのアンモニアが必要となり、従来の燃料と比べ、燃料タンクの容積を増やす必要がある。
【0005】
一方で、容積を増やすためにアンモニアタンクを大型化するには、タンクの材料となる鋼材の強度を上げる必要がある。そのために、鋼材の厚さを厚くする、あるいは高強度の鋼材を用いる等の方策が考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、素材メーカーが製造可能な鋼材の厚さには限界がある。また、船舶に用いられる素材に関して、例えば「液化ガスのばら積み運送のための船舶の構造及び設備に関する国際規則」(IGCコード)では、アンモニアによる応力腐食割れ防止の観点から、素材の強度を示す物性値の上限が制限されている。IGCコードでは、アンモニアタンクの完成後に、残留応力を緩和するよう熱処理を施すことを条件に、素材の強度を示す物性値の上限を超える高強度の素材を使用することが認められているが、大型のアンモニアタンクになるほど、大型の熱処理設備が必要となるほか、工期の長期化により、アンモニアタンクの製造コストの上昇が予想される。さらに、大型のアンモニアタンクであるほど、設置スペースの制約を受けやくなるという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、燃料の貯蔵容量が大きいにも関わらず、燃料タンクの製造コストを抑制でき、燃料タンクの設置スペースの制約を受け難い燃料供給システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、以下の態様を包含する。
態様1
液体燃料を供給するための燃料供給システムであって、
互いに連通した、前記液体燃料を貯蔵するための複数の燃料タンクと、
前記燃料タンクのうちの少なくとも1つを下部タンクとし、前記下部タンクの上方に、前記燃料タンクのうちの他の少なくとも1つが上部タンクとして位置するように前記下部タンク及び前記上部タンクを支持する支持構造と、を備えることを特徴とする燃料供給システム。
【0010】
態様2
前記燃料タンクに貯蔵された前記液体燃料が前記燃料タンクから取り出され、移送されるように前記燃料タンクに接続された液相用配管をさらに備える、態様1に記載の燃料供給システム。
【0011】
態様3
前記液相用配管は、前記燃料タンクそれぞれから取り出されて合流した前記液体燃料の流路となる共通流路部を有し、
前記燃料供給システムは、前記共通流路部に配置された、前記液体燃料を移送するためのポンプをさらに備える、態様2に記載の燃料供給システム。
【0012】
態様4
前記燃料タンク内の気相空間を互いに連通させるように前記燃料タンクに接続された気相用配管をさらに備える、態様2又は3に記載の燃料供給システム。
【0013】
態様5
前記気相用配管の途中に配置された圧縮機であって、前記気相空間のうち少なくとも1つの気相空間から気体を吸い込み、他の少なくなくとも1つの気相空間に送り込むための圧縮機をさらに備える、態様4に記載の燃料供給システム。
【0014】
態様6
前記燃料タンクと接続された前記気相用配管の接続端部に、前記気相用配管の流路を開閉するための複数の制御弁が設けられ、
前記燃料供給システムは、前記燃料タンク内に前記液体燃料を入れる間、及び、前記燃料タンクから前記液体燃料が取り出される間の少なくとも一方の間、前記気相用配管の前記流路が開くように前記制御弁を制御する制御装置をさらに備える、態様4又は5に記載の燃料供給システム。
【0015】
態様7
前記制御装置は、前記上部タンク及び前記下部タンクそれぞれから前記液体燃料が取り出される間、前記上部タンクと前記下部タンクとを接続する前記気相用配管の部分において前記流路が開くよう前記制御弁を制御する、態様6に記載の燃料供給システム。
【0016】
態様8
前記燃料タンクは、一方向に延びる形状を有し、
前記支持構造は、前記一方向と平行な方向に互いに離間して配置された複数の板状支持体を有し、
前記板状支持体それぞれは、前記燃料タンクが互いに平行に延びて配置されるように前記燃料タンクそれぞれと嵌め合わせられる複数の篏合部を有している、態様7に記載の燃料供給システム。
【0017】
態様9
前記板状支持体は、前記下部タンクと、前記下部タンクが嵌め合わせられる前記篏合部と、の間の隙間に配置された干渉部材であって、前記下部タンクと、前記上部タンクの側の前記篏合部の縁部との接触を阻止するよう構成された干渉部材を有している、態様8に記載の燃料供給システム。
【0018】
態様10
前記液体燃料は液体アンモニアである、態様1から9のいずれか1つに記載の燃料供給システム。
【発明の効果】
【0019】
上記態様の燃料供給システムによれば、燃料の貯蔵容量が大きいにも関わらず、燃料タンクの製造コストを抑制でき、燃料タンクの設置スペースの制約を受け難い。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】一実施形態の燃料供給システムの一例を示す図である。
【
図2】
図5に示す燃料供給システムのII-II断面図である。
【
図3】気相用配管内の気体の流れの一例を示す図である。
【
図4】
図5に示す燃料供給システムのIV-IV断面図である。
【
図5】燃料タンク及び支持構造を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1に、一実施形態の燃料供給システムの一例を示す。
燃料供給システム1は、液体燃料を供給するためのシステムである。液体燃料には、液体アンモニア、LNG(Liquefied Natural Gas)、LPG(Liquefied Petroleum Gas)等の液化燃料や、重油、軽油等の常温で液体の燃料を用いることができる。中でも、燃焼時に温室効果ガスである二酸化炭素を排出しない点で、液体アンモニアが好ましく用いられる。
【0022】
図2に、後で参照する
図5に示す燃料供給システム1のII-II断面を示し、
図4に、IV-IV断面を示す。
図5に、後述する上部タンク13、14及び支持構造20を上面視して示す。燃料供給システム1は、複数の燃料タンク11、12、13、14(
図2)と、支持構造20(
図4及び
図5)と、を備える。
【0023】
燃料タンク11~14は、互いに連通した、液体燃料を貯蔵するためのタンクである。複数の燃料タンク11~14を備えることで、燃料供給システム1全体として液体燃料の貯蔵容量が大きくなり、多くの燃料を、供給先であるエンジンや発電装置等の機器に供給することができる。液体燃料のうちアンモニアの発熱量は、重油やLNGと比べ低く、重油やLNGを燃料とした場合と同等の機器の運転時間を達成するためには、より多くのアンモニアが必要になる。そのため、貯蔵容量が大きいことは、特に液体アンモニアを液体燃料として用いる場合に有効である。
【0024】
一般に、容積の大きい大型の燃料タンクを作製するためには、タンクの材料となる鋼材の強度を高くする必要があり、そのために、鋼材の厚さを厚くする、あるいは高強度の鋼材を用いる等の方策が考えられるが、上述したように種々の問題が予想される。燃料供給システム1では、複数の燃料タンク11~14を備えることで、個々の燃料タンクの容積を小さくしても、全体としては貯蔵容量が大きいので、個々の燃料タンクを比較的小型なものとすることができる。そのため、燃料タンクの材料の強度を過度に高くする必要がなく、鋼材の厚さを過度に厚くしたり、強度が過度に高い鋼材を用いたりする必要がない。また、貯蔵容量を確保するために大型の燃料タンクを用いる必要がないので、燃料タンクの製造過程で生じた残留応力を取り除くための熱処理を行う際に、大型の熱処理設備を必要としない。あるいは、大型の燃料タンクを複数に分割したブロックごとに熱処理を行うことによる工期の長期化を回避できる。このように、複数の燃料タンク11~14を備え、個々の燃料タンクを小型化できることにより、燃料タンクの製造コストを抑えられる。燃料タンクを小型化できると、燃料タンクの製造に大型の設備を必要としなくなり、製造可能なメーカーが多くなるので、複数の燃料タンク11~14の製造を分散して発注することにより、工期を短縮化できる。この点でも、燃料タンクの製造コストを抑えられる。
【0025】
燃料供給システム1が備える燃料タンクの数は、図示される例では4つであるが、これに制限されず、2つ、3つ、5つ、6つ以上であってもよい。燃料タンクの材料には、好ましくは鋼鉄が用いられる。燃料タンクの材料の厚さは、例えば、燃料タンクの材料が鋼鉄である場合に、5~39.9mmである。
【0026】
支持構造20は、燃料タンク11~14のうちの少なくとも1つを下部タンクとし、下部タンクの上方に、燃料タンクのうちの他の少なくとも1つが上部タンクとして位置するように下部タンク及び上部タンクを支持する構造体である。
図2に示す例では、燃料タンク11、12を下部タンクとし、下部タンク11、12の上方に、燃料タンク13、14が上部タンクとして位置するよう支持される。このように、燃料タンク11~14を上下に重ねて配置できることにより、燃料タンク11~14を省スペースで設置することができる。そのため、例えば、船舶の居住区のある船尾付近の比較的狭いスペースに燃料タンク11~14を設置することが可能となり、設置スペースの制約を受け難い。この効果は、上述したように燃料タンク11~14を小型化できることにより効果的に発揮される。支持構造20を用いて燃料タンク11~14を上下に重ねて配置することは、特に、機器の長い運転時間を確保するために大きな貯蔵容量が求められる液体アンモニアを液体燃料とする場合に有効である。支持構造20は、燃料タンク11~14を、上下方向に加え、側方向(
図2においてX方向)にも重ねて配置されるように支持することが好ましい。
【0027】
以上の燃料供給システム1は、燃料の貯蔵容量が大きいにも関わらず、燃料タンク11~14の製造コストを抑制でき、燃料タンク11~14の設置スペースの制約を受け難い。燃料供給システム1は、船舶や車両等の輸送手段や地上設備において、エンジン、発電装置等の機器に燃料タンク11~14から燃料を供給し、機器を運転するのに好適である。なお、燃料供給システム1において、液体燃料は、液体燃料の種類に応じて、供給先となる機器に対して、液体、気体、あるいは超臨界流体として供給される。
【0028】
燃料供給システム1は、
図1に示すように、液相用配管60を備えることが好ましい。液相用配管60は、燃料タンク11~14に貯蔵された液体燃料が、燃料タンク11~14から取り出され、移送されるように燃料タンク11~14に接続されている。具体的に、液相用配管60は、燃料タンク11~14それぞれと接続され、供給先であるエンジン、発電装置等の機器に向かって延びるよう設けられる。燃料タンク11~14が液相用配管60により接続されていることにより、個々の燃料タンクの容積が小さくても、燃料供給システム1全体として多くの液体燃料を機器に供給することができる。
【0029】
液相用配管60は、
図1に示すように、燃料タンク11~14それぞれから取り出されて合流した液体燃料の流路となる共通流路部61を有していることが好ましい。この場合、燃料供給システム1は、共通流路部61に配置された、液体燃料を移送するためのポンプ70を備えることが好ましい。これにより、燃料タンク11~14ごとにポンプを設けなくても燃料タンク11~14それぞれから燃料を取り出して移送し、機器に供給できるので、液体燃料の移送に必要なポンプの台数を削減できる。
図1に示す共通流路部61は、燃料タンク11~14のうち下部タンク11及び上部タンク13から取り出された液体燃料が合流して流れる共通流路区間61aと、下部タンク12及び上部タンク14から取り出された液体燃料が合流して流れる共通流路区間61bと、これら共通流路区間61a、61bを流れる液体燃料がさらに合流して機器に向かう共通流路区間61cと、を有している。
図1に示す例では、共通流路区間61cにポンプ70が配置されていることにより、燃料供給システム1のポンプの台数を大きく削減できる。なお、
図1に示す「左側」及び「右側」との表記は、
図2の左側及び右側と対応している。
一方で、液体燃料を移送するためのポンプは、共通流路部61に配置される代わりに、燃料タンク11~14それぞれの内部に配置されていてもよい。この場合、液相用配管60は、ポンプで吸い上げた液体燃料をタンクの外側に取り出すための図示されない配管を、燃料タンク11~14それぞれに有していることが好ましい。
なお、液相用配管60は、液体燃料を外部からタンク内に投入するための図示されない配管であって、タンクの上方からタンク内の底部付近まで延びる配管(張り込みライン)を燃料タンク11~14それぞれに有していることが好ましい。
【0030】
燃料供給システム1は、
図1に示すように、気相用配管80を備えることが好ましい。気相用配管80は、燃料タンク11~14内の気相空間を互いに連通させるように燃料タンク11~14に接続された配管である。燃料タンク11~14内には、貯蔵された液体燃料の上方あるいは空のタンク内に気相空間が形成されている。一般に、燃料補給後の燃料タンクの気相空間の内圧は徐々に上昇するので、タンク内の残量や温度等の違いに起因して複数のタンクの間で内圧差が生じる場合がある。ここで、
図1に示す例のように、燃料タンク11~14の気相空間が互いに連通していることにより、内圧の高い燃料タンクから内圧の低い燃料タンクに気相空間内の気体が流れるので、複数のタンク11~14の間で内圧差が生じることが抑えられる。燃料タンクの間での気相空間の内圧差が生じ難いことにより、例えば、燃料タンク11~14に液体燃料を補給する際に、一部の燃料タンクに、他の燃料タンクよりも液体燃料が補給されやすくなり、均等に補給し難くなることを防ぐことができる。特に、液体アンモニアの補給は、揮発したアンモニアの蒸気が外部に漏洩しないよう、燃料タンクと補給用ホースとを密閉した状態で行う必要があり、補給に伴って燃料タンクの内圧が変化しやすいことから、上述したように燃料タンク11~14の間で内圧差が生じ難くなることは有効である。
【0031】
燃料供給システム1は、
図1に示すように、圧縮機90を備えることが好ましい。圧縮機90は、気相用配管80の途中に配置され、燃料タンク11~14の気相空間のうち少なくとも1つの燃料タンクの気相空間から気体(例えば、気化した液体燃料の蒸気)を吸い込み、他の少なくなくとも1つの燃料タンクの気相空間に送り込むための装置である。例えば、燃料タンク11~14のうちの1つに、応力腐食割れ等の問題が発生し、補修の必要が生じた場合、この燃料タンクの使用を停止し、残りの燃料タンクを用いて燃料の供給を継続できるようにし、冗長性を確保する必要がある。上記した構成によれば、圧縮機90を稼働させて、問題が発生していない正常な燃料タンクの気相空間の気体を、問題の発生した燃料タンク内に送り込んで、意図的に内圧を高くすることにより、問題の発生した燃料タンクから液体燃料を、液相用配管60を経由させて他の正常な燃料タンクに移送することができる。これにより、一部の燃料タンクに問題が発生し、使用できなくなった場合でも、残りの正常なタンクを用いて燃料の供給を継続することができる。このように、燃料供給システム1によれば、冗長性を向上させることができる。
【0032】
ここで、
図3を用いて、気相用配管80内の気体の流れの一例について説明する。例えば、燃料タンク12に問題が発生し、燃料タンク11の気相空間内の気体を燃料タンク12内に送り込む場合、気相用配管80に設けられた弁80a、80bを開き、弁80cを閉じるとともに、弁80d、80fを開き、弁80eを閉じ、さらに、弁80h、80i、80k、80lを閉じた状態で圧縮機90を稼働させることで、燃料タンク11の気相空間内の気体を、太い矢印で示す経路で燃料タンク12に送り込むことができる。その際、弁60fを閉じた上で、弁60b、60dを開き、燃料タンク12と燃料タンク14との間の流路を開けておくことで、燃料タンク12内の液体燃料を、正常な燃料タンク14内に移送することができる。なお、気相用配管80には、
図1に示すように、配管内の流路を開閉するための複数の弁(気相制御弁)80a~80lが設けられている。また、液相用配管60には、
図1に示すように、配管内の流路を開閉するための複数の弁(液相制御弁)60a~60fが設けられている。これらの弁は、後述する制御装置100により開閉動作を制御されてもよく、手動で開閉されてもよい。
【0033】
燃料供給システム1は、気相用配管80の弁80a~80l、及び、液相用配管60の弁60a~60fを制御する制御装置100を備えることが好ましい。制御装置100は、燃料タンク11~14内に液体燃料を補給する間、及び、燃料タンク11~14から液体燃料が取り出される間の少なくとも一方の間、気相用配管80の流路が開くように弁80a~80lを制御することが好ましい。これらの期間に、気相用配管80の流路が開いていることで、複数の燃料タンク11~14の間での内圧差の発生を抑えることができる。制御装置100は、例えば、CPU及びメモリを備え、メモリに記憶したプログラムを実行することで、種々の動作が行われるよう燃料供給システム1の各部を制御する。具体的に、制御装置100は、ポンプ70及び圧縮機90の稼働、弁80a~80l及び弁60a~60fの開閉を制御する。制御装置100は、後述する計器類により計測された、燃料タンク11~14の内圧や液面レベル等に関する計測値のデータの取得も行う。制御装置100は、これら各部と接続されている。制御装置100は、燃料タンク11~14及び支持構造20から離れた場所に配置することができ、例えば、燃料タンク11~14及び支持構造20を屋外に設置するとともに、制御装置100を屋内に配置することができる。
【0034】
制御装置100は、下部タンク11、12及び上部タンク13、14それぞれから液体燃料が取り出される間、下部タンク11、12と上部タンク13、14とを接続する気相用配管80の部分において流路が開くよう弁80a~80lを制御することが好ましい。燃料タンク11~14から同時に液体燃料の供給を行うとき、下部タンク11、12からは、通常、上部タンク13、14よりも速く液体燃料が供給されて内圧が下がるので、下部タンク11、12と上部タンク13、14との間で気相空間が連通していないと、下部タンク11、12と上部タンク13、14との間で液体燃料の残量にばらつきが生じやすい。そのため、上記のように、下部タンク11、12と上部タンク13、14とを接続する気相用配管80の部分において流路が開くよう制御することにより、液体燃料の供給に伴って内圧の下がった下部タンク11、12内に、内圧の高い上部タンク13、14の気相空間から気体を流し、内圧差の発生を抑えることが好ましい。これにより、下部タンク11、12と上部タンク13、14との間で液体燃料の減り方を均等に近づけることができる。
【0035】
図4及び
図5に示されるように、燃料タンク11~14は、一方向に延びる形状を有していることが好ましい。図示される燃料タンク11~14は、略円筒形状を有し、長手方向(Y方向)の両端部が外側に突出した湾曲面ないし球面を有している。このような形状の燃料タンク11~14は、燃料タンクの設置スペースの制約を受け難くする効果を向上させるため、互いに平行に延びて配置されることが好ましい。
【0036】
上記のように、燃料タンク11~14が一方向に延びる形状を有している場合に、支持構造20は、
図4及び
図5に示すように、複数の板状支持体21、22を有していることが好ましい。板状支持体21、22は、燃料タンク11~14の長手方向(Y方向)に互いに離間して配置されている。このような形態の支持構造20によれば、燃料タンク11~14を支持しつつ、支持構造20の占有スペースを最小限に抑えることができ、設置スペースの制約を受け難くする効果の向上に寄与する。板状支持体の数は、図示される例において2つであるが、3つ、4つ以上であってもよい。
【0037】
板状支持体21、22は、燃料タンク11~14が互いに平行に延びて配置されるように燃料タンク11~14それぞれと嵌め合わせられる複数の篏合部を有していることが好ましい。板状支持体21は、嵌合部21a、21b、21c、21dを有しており、板状支持体22は、嵌合部22a、22b、22c、22dを有している。なお、
図2に、板状支持体22の主な各部の符号に続けて、対応する板状支持体21の各部の符号を括弧書きで示す。嵌合部21a~21d、22a~22dのうち、下部タンク11、12と嵌め合わせられる下部嵌合部21a、21b、22a、22bには、下部タンク11、12が貫通して配置されるように嵌め合わせられる孔が形成されている。また、上部タンク13、14と嵌め合わせられる上部嵌合部21c、21d、22c、22dには、上部タンク13、14が上方から配置されるように嵌め合わされる上方に開いた凹みが形成されている。このような形態の板状支持体21、22は、隣り合う孔や凹みの間のすべての領域で燃料タンク11~14の荷重を受けることができるので、容積の大きい大型の燃料タンク11~14を支持するのに適している。
【0038】
板状支持体21、22により支持される燃料タンク11~14の隣り合う間隔は、設置スペースの制約を受け難くしつつ、燃料タンク11~14の荷重を受ける板状支持体21、22の強度が確保されるよう定めることができる。
【0039】
板状支持体21、22は、例えば、複数の板材を繋ぎ合わせて作製することができる。
図2に示す例の板状支持体22では、上下に隣り合って配置される板材同士(板材32a、32bあるいは板材32d、32e)は、板状支持体22の作製のしやすさの観点から、水平に配置される板材(板材32c)を介在させて互いに接合される。
図2に示す例の板状支持体22では、左右に隣り合って配置される板材32a、32dの間、板材32b、32eの間のように、側方向に隣り合って配置され、接合された板材の間には、板状支持体22の強度を補強するため、ブラケット32l、32pが設けられるほか、板材32a、32b、32d、32eそれぞれの左右方向の中央部にブラケット32g、32h、32i、32jが設けられ、さらに、板材32a、32b、32d、32eの側方向の端部のうち他の板材と繋ぎ合わされない端部にブラケット32k、32n、32m、32rが設けられている。なお、
図5において、ブラケットの図示は省略されている。
同様に、板状支持体21では、上下に隣り合って配置される板材同士(板材31a、31bあるいは板材31d、31e)は、水平に配置される板材(板材31c)を介在させて互いに接合される。板状支持体21では、左右に隣り合って配置される板材31a、31dの間、板材31b、31eの間のように、側方向に隣り合って配置され、接合された板材の間には、ブラケット31l、31pが設けられるほか、板材31a、31b、31d、31eそれぞれの左右方向の中央部に設けられたブラケット31g、31h、31i、31jが設けられ、さらに、板材31a、31b、31d、31eの側方向の端部のうち他の板材と繋ぎ合わされない端部にブラケット31k、31n、31m、31rが設けられている。
【0040】
篏合部21a~21d、22a~22dの孔及び凹みと、燃料タンク11~14の下部領域と間の隙間は、例えば、敷き詰めたライナー材(
図2において符号42a、42b、42c、42dで示す)等により埋められる。一方で、篏合部21a~21d、22a~22dと、燃料タンク11~14の下部領域とは、互いに嵌め合わせた後、溶接により接合されていてもよい。
【0041】
板状支持体21、22は、下部タンク11、12と、下部篏合部21a、21b、22a、22bとの間の隙間に配置される干渉部材(
図2において符号51a、52aで示す)を有していることが好ましい。このような干渉部材が配置されていることで、浸水時等に下部タンク11、12が浮力を受けて浮き上がろうとすることにより、下部篏合部21a、21b、22a、22bから外れて上部タンク13、14と接触することを回避できる。干渉部材は、例えば、ライナー材と同じ材料(例えば木材)で作製される。
【0042】
また、板状支持体21、22及び上部タンク13、14には、互いに噛み合う噛み合い構造を有していることが好ましい。噛み合い構造は、上部タンク13、14の外壁面に設けた浮き上がり防止装置としての突起(
図2において符号13b、14bで示す)と、板状支持体21、22に設けた係止部21e、21f、22e、22fと、突起と係止部との間に配置される干渉部材(
図2において符号53a、54aで示す)と、を有している。このような噛み合い構造を有していることにより、例えば、浸水時等に上部タンク13、14が浮力を受けて上部篏合部21c、21d、22c、22dから外れ、漂流等してしまうことを回避できる。噛み合い構造の干渉部材は、先に説明した干渉部材(
図2において符号51a、52aで示す)と同様、例えば、ライナー材と同じ材料(木材)で作製される。
【0043】
なお、燃料タンク11~14それぞれには、タンク内から延びる配管や弁、及び、タンクの内圧、液面高さ等を計測する計器類等の収容スペースとして、燃料タンク11~14から隔離された区画11a、12a、13a、14aが設けられている。
図5に、区画13a、14aと同じ側方向(X方向)位置にある区画11a、12aを括弧書きで示す。
【0044】
図2において、燃料タンク11~14の外形を示す円の内側にある円は、タンク内に配置された補強部材11c、12c、13c、14cを示している。補強部材11c、12c、13c、14cは、燃料タンクの内壁面を内側から支持するよう内壁面に沿って一周するリング状の部材であり、長手方向(Y方向)に間隔をあけて複数配置されている。
【0045】
以上、本発明の燃料供給システムについて説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0046】
1 燃料供給システム
11、12 下部タンク(燃料タンク)
13、14 上部タンク(燃料タンク)
11a、12a、13a、14a 区画(計器類等の収容スペース)
13b、14b 突起(浮き上がり防止装置)
11c、12c、13c、14c 補強部材
20 支持構造
21、22 板状支持体
21a、21b、22a、22b 下部篏合部
21c、21d、22c、22d 上部篏合部
21e、21f、22e、22f 係止部
31a、31b、31c、31d、31e 板状支持体21の板材
31g、31h、31i、31j、31k、31l、31m、31n、31p、31r 板状支持体21のブラケット
32a、32b、32c、32d、32e 板状支持体22の板材
32g、32h、32i、32j、32k、32l、32m、32n、32p、32r 板状支持体22のブラケット
41a、41b、41c、41d 板状支持体21のライナー材
42a、42b、42c、42d 板状支持体22のライナー材
51a、52a、53a、54a 干渉部材
60 液相用配管
60a、60b、60c、60d、60e、60f 液相制御弁
61 共通流路部
61a、61b、61c 共通流路区間
70 ポンプ
80 気相用配管
80a、80b、80c、80d、80e、80f、80g、80h、80i、80j、80k、80l 気相制御弁
90 圧縮機
100 制御装置