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特開2025-7813補正値演算方法、補正値演算プログラム、補正値演算装置、およびエンコーダ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007813
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】補正値演算方法、補正値演算プログラム、補正値演算装置、およびエンコーダ
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/244 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
G01D5/244 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023109451
(22)【出願日】2023-07-03
(71)【出願人】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】100166545
【弁理士】
【氏名又は名称】折坂 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】桐山 哲郎
【テーマコード(参考)】
2F077
【Fターム(参考)】
2F077AA20
2F077CC02
2F077UU18
2F077UU20
(57)【要約】      (修正有)
【課題】2相正弦波状信号の内挿誤差を補正するための補正係数を、簡易な方法で効率よく高精度に算出することができる補正値演算方法、補正値演算プログラム、および補正値演算装置、並びに当該補正値演算装置を備えるエンコーダを提供する。
【解決手段】補正値演算方法は、エンコーダが出力する2相正弦波状信号(X、Y)を補正するための補正値を演算する。リサージュ波形におけるN個の位相角と各位相角に対応するリサージュ半径について、各位相角に対応するリサージュ半径の2乗である二乗半径を算出する極座標演算ステップと、算出された各位相角と位相角に対応する二乗半径Rとに基づき、2相正弦波状信号を成す信号Xのオフセット誤差の補正残差および信号Yのオフセット誤差の補正残差、信号Xと信号Yの振幅比誤差の補正残差、信号Xと信号Yの位相差誤差の補正残差を算出し、各補正残差に基づき各補正値を算出する補正値演算ステップと、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンコーダが出力する2相正弦波状信号(X、Y)を補正するための補正値を演算する補正値演算方法であって、
前記2相正弦波状信号によって描かれるリサージュ波形におけるN個の位相角θと各位相角θに対応するリサージュ半径Rについて、各位相角θに対応する前記リサージュ半径Rの2乗である二乗半径R を算出する極座標演算ステップと、
前記極座標演算ステップにより算出された各位相角θと当該位相角θに対応する前記二乗半径R とに基づき、少なくとも、前記2相正弦波状信号を成す信号Xのオフセット誤差Cの補正残差ΔCおよび信号Yのオフセット誤差Cの補正残差ΔC、信号Xと信号Yの振幅比誤差Kの補正残差ΔK、並びに信号Xと信号Yの位相差誤差Pの補正残差ΔPを算出し、各補正残差に基づき各補正値を算出する補正値演算ステップと、を備え、
前記補正値演算ステップは、
前記二乗半径Rを位相角θを引数に含む三角関数で表した近似式モデルにおける係数を、各位相角θと各位相角θに対応する前記二乗半径R とを用いて最小二乗法により求め、得られた係数から前記補正残差を求めることを特徴とする補正値演算方法。
【請求項2】
前記補正値演算ステップは、
式(5)および式(6)を前記近似式モデルとし、
【数1】
当該式(5)における係数Ac1およびAs1を、式(7)によりC行列の要素として求め、
【数2】
当該式(6)における係数Ac2およびAs2を、式(8)によりC行列の要素として求め、
【数3】
得られた係数Ac1、As1、Ac2およびAs2から、式(9)~(12)により各補正値を求める
【数4】
ことを特徴とする請求項1に記載の補正値演算方法。
【請求項3】
前記極座標演算ステップにおいて、Aを前記2相正弦波状信号の振幅として式(20)によりsinθとcosθを近似して得られるxおよびyを位相角θを表すデータとして算出し、
【数5】
前記補正値演算ステップは、
式(5)および式(6)を前記近似式モデルとし、
【数6】
当該式(5)における係数Ac1およびAs1を、式(21)によりC行列の要素として求め、
【数7】
当該式(6)における係数Ac2およびAs2を、式(23)によりC行列の要素として求め、
【数8】
得られた係数Ac1、As1、Ac2およびAs2から、式(9)、(10)、(26)、および(12)により各補正残差を求める
【数9】
ことを特徴とする請求項1に記載の補正値演算方法。
【請求項4】
前記補正値に基づいて前記2相正弦波状信号を補正する補正ステップをさらに備え、
前記補正ステップにより補正された2相正弦波状信号に対して前記補正値演算ステップを再度適用して前記補正値を更新することを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の補正値演算方法。
【請求項5】
各補正値を、式(19)により更新する
【数10】
ことを特徴とする請求項4に記載の補正値演算方法。
【請求項6】
前記エンコーダは、2相正弦波状信号の1周期に相当する変位を超える広範囲の変位を検出可能であり、
各位相角θに対応する前記広範囲の変位を表す広域位相角φを算出する広域位相角算出ステップと、
前記二乗半径Rを広域位相角φの三角関数で表す近似式モデルにおける係数を、前記二乗半径R と前記広域位相角φとを用いて最小二乗法により求め、得られた係数から前記各広域位相角φに対応する信号強度補正値を求め、当該信号強度補正値に基づき前記各広域位相角φに対応する前記二乗半径R を補正する信号強度補正ステップと、
をさらに備え、
前記補正値演算ステップは、前記信号強度補正ステップによって前記二乗半径R が補正された前記二乗半径RLCi に基づき補正値を算出する、ことを特徴とする請求項1に記載の補正値演算方法。
【請求項7】
前記信号強度補正ステップは、
式(27)を、前記二乗半径Rを広域位相角φの三角関数で表す近似式モデルとし、
【数11】
当該式(27)における係数aおよびb(ただしkは1からNの整数であり、Nは近似に用いる際に高次の高調波の次数である)を、式(28)によりR行列の要素として求め、
【数12】
得られた係数aおよびbから、式(29)により前記各広域位相角φに対応する信号強度補正値RCi を算出し、
【数13】
式(30)により、信号強度補正値RCi で前記二乗半径R を補正して前記各広域位相角φに対応する補正後の二乗半径RLCi を算出する
【数14】
ことを特徴とする請求項6に記載の補正値演算方法。
【請求項8】
コンピュータに、請求項1から3の何れか1項に記載の補正値演算方法を実行させるプログラム。
【請求項9】
エンコーダが出力する2相正弦波状信号(X、Y)を補正するための補正値を演算する補正値演算装置であって、
前記2相正弦波状信号によって描かれるリサージュ波形におけるN個の位相角θと各位相角θに対応するリサージュ半径Rについて、各位相角θに対応する前記リサージュ半径Rの2乗である二乗半径R を算出する極座標変換部と、
前記極座標変換部により算出された各位相角θと当該位相角θに対応する前記二乗半径R とに基づき、少なくとも、前記2相正弦波状信号を成す信号Xのオフセット誤差Cの補正残差ΔCおよび信号Yのオフセット誤差Cの補正残差ΔC、信号Xと信号Yの振幅比誤差Kの補正残差ΔK、並びに信号Xと信号Yの位相差誤差Pの補正残差ΔPを算出し、各補正残差に基づき各補正値を算出する誤差検出部と、を備え、
前記誤差検出部は、
前記二乗半径Rを位相角θを引数に含む三角関数で表した近似式モデルにおける係数を、各位相角θと各位相角θに対応する前記二乗半径R とを用いて最小二乗法により求め、得られた係数から前記補正残差を求めることを特徴とする補正値演算装置。
【請求項10】
前記誤差検出部は、
式(5)および式(6)を前記近似式モデルとし、
【数15】
当該式(5)における係数Ac1およびAs1を、式(7)によりC行列の要素として求め、
【数16】
当該式(6)における係数Ac2およびAs2を、式(8)によりC行列の要素として求め、
【数17】
得られた係数Ac1、As1、Ac2およびAs2から、式(9)~(12)により各補正値を求める
【数18】
ことを特徴とする請求項9に記載の補正値演算装置。
【請求項11】
前記極座標変換部は、Aを前記2相正弦波状信号の振幅として式(20)によりsinθとcosθを近似して得られるxおよびyを位相角θを表すデータとして算出し、
【数19】
前記誤差検出部は、
式(5)および式(6)を前記近似式モデルとし、
【数20】
当該式(5)における係数Ac1およびAs1を、式(21)によりC行列の要素として求め、
【数21】
当該式(6)における係数Ac2およびAs2を、式(23)によりC行列の要素として求め、
【数22】
得られた係数Ac1、As1、Ac2およびAs2から、式(9)、(10)、(26)、および(12)により各補正残差を求める
【数23】
ことを特徴とする請求項9に記載の補正値演算装置。
【請求項12】
前記補正値に基づいて前記2相正弦波状信号を補正する補正部をさらに備え、
前記極座標変換部は、前記補正部により補正された2相正弦波状信号について、各位相角θに対応する前記リサージュ半径Rの2乗である二乗半径Rを算出し、
前記誤差検出部は、前記極座標変換部により算出された各位相角θと当該位相角θに対応する前記二乗半径Rとに基づき、新たな補正値を算出して補正値を更新することを特徴とする請求項9から11の何れか1項に記載の補正値演算装置。
【請求項13】
前記誤差検出部は、式(19)により補正値を更新する
【数24】
ことを特徴とする請求項12に補正値演算装置。
【請求項14】
前記エンコーダは、2相正弦波状信号の1周期に相当する変位よりも広範囲の変位を検出可能であり、
各位相角θに対応する前記広範囲の変位に対応する広域位相角φを算出する広域位相角算出部と、
前記二乗半径Rを広域位相角φの三角関数で表す近似式モデルにおける係数を、前記二乗半径R と前記広域位相角φとを用いて最小二乗法により求め、得られた係数から前記各広域位相角φに対応する信号強度補正値を求め、当該信号強度補正値に基づき前記各広域位相角φに対応する前記二乗半径R を補正する信号強度補正部とをさらに備え、
前記誤差検出部は、前記信号強度補正部によって前記二乗半径R が補正された前記二乗半径RLCi に基づき補正値を算出する、ことを特徴とする請求項9に記載の補正値演算装置。
【請求項15】
前記信号強度補正部は、
式(27)を、前記各二乗半径Rを広域位相角φの三角関数で表す近似式モデルとし、
【数25】
当該式(27)における係数aおよびbk(ただしkは1からNの整数であり、Nは近似に用いる際に高次の高調波の次数である)を、式(28)によりR行列の要素として求め、
【数26】
得られた係数aおよびbから、式(29)により前記各広域位相角φに対応する信号強度補正値RCi を算出し、
【数27】
式(30)により、信号強度補正値RCi で前記二乗半径Rを補正して前記各広域位相角φに対応する補正後の二乗半径RLCi を算出する
【数28】
ことを特徴とする請求項14に記載の補正値演算装置。
【請求項16】
請求項9から11の何れか1項に記載の補正値演算装置と、
測定方向に沿った変位に応じた2相正弦波状信号を出力するエンコーダ検出部と、
とを備え、
前記補正値演算装置は、
前記エンコーダ検出部が出力する2相正弦波状信号に基づいて補正値を算出する補正値算出処理と、
前記エンコーダ検出部が出力する2相正弦波状信号に算出した補正値を適用する補正処理とを行うことを特徴とするエンコーダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2相正弦波状信号を補正する補正値演算方法、補正値演算プログラム、補正値演算装置、およびエンコーダに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、エンコーダが出力する2相正弦波状信号について、オフセット誤差、振幅比誤差、位相差誤差等の誤差を補正する手法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1では、2相正弦波状信号の3次高調波成分を検出し、オフセット誤差、振幅比誤差、位相差誤差を演算し補正する発明が記載されている。特許文献1に記載の発明では、オフセット誤差と振幅比誤差は、2相正弦波信号を用いたリサージュ信号においてX軸またはY軸を横切る4つのゼロクロス点から得るため、補正係数を求める際に用いるデータにゼロクロス点近傍でサンプリングされたデータが含まれていないと、誤差を十分に低減できない。また、位相差誤差は、2相正弦波信号を用いたリサージュ信号がy=x、y=-xの直線と交差する4点から得られるが、誤差を低減するためには直線と交差する点の近傍でサンプリングする必要がある。
【0004】
ここで、電磁誘導式エンコーダは、交流信号を駆動して変位を検出するため、光電式エンコーダに比べサンプリングに時間を要する。また低消費電力のエンコーダでは、サンプリングレートを抑制する場合がある。このようなサンプリングレートが低いエンコーダでは、所望の点(例えばゼロクロス点やy=x、y=-xと交差する点)の近傍でサンプリングできないことがあり、誤差が十分に低減できない恐れがある。
【0005】
また特許文献2では、等ピッチのデータを用いたフーリエ解析による3次高調波成分の検出方法が開示されている。この方法では、リサージュ信号の1回転を均等に分割し、すべての区間をフーリエ解析する。この手法では、サンプリングレートが低いとすべての区間のサンプリングを終えるのに時間を要し、フーリエ解析の更新頻度が低下する。このことから、オフセット誤差、振幅比誤差、位相差誤差の検出に、フーリエ解析の採用は困難であるという問題がある。
【0006】
特許文献3では、2相正弦波状信号XおよびYを、それぞれ別個に正弦波と余弦波の和の式に最小2乗法で近似する方法が開示されている。振幅に係る内挿誤差を低減するには、2相正弦波間の振幅比を1とする必要があるところ、2相正弦波の相対的な関係を配慮せず別個に最小2乗法で近似する特許文献3の方法では、振幅比に係る内挿誤差の検出効率が低いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-112862号公報
【特許文献2】特開2006-112859号公報
【特許文献3】特開2007-327770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような状況に鑑み、本発明は、2相正弦波状信号の内挿誤差を補正するための補正係数を、簡易な方法で効率よく高精度に算出することができる補正値演算方法、補正値演算プログラム、および補正値演算装置、並びに当該補正値演算装置を備えるエンコーダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決すべく、本発明の実施形態に係る補正値演算方法は、エンコーダが出力する2相正弦波状信号(X、Y)を補正するための補正値を演算する。当該補正値演算方法は、2相正弦波状信号によって描かれるリサージュ波形におけるN個の位相角θと各位相角θに対応するリサージュ半径Rについて、各位相角θに対応するリサージュ半径Rの2乗である二乗半径R を算出する極座標演算ステップと、極座標演算ステップにより算出された各位相角θと当該位相角θに対応する二乗半径R とに基づき、少なくとも、2相正弦波状信号を成す信号Xのオフセット誤差Cの補正残差ΔCおよび信号Yのオフセット誤差Cの補正残差ΔC、信号Xと信号Yの振幅比誤差Kの補正残差ΔK、並びに信号Xと信号Yの位相差誤差Pの補正残差ΔPを算出し、各補正残差に基づき各補正値を算出する補正値演算ステップと、を備える。そして、補正値演算ステップにおいて、二乗半径Rを位相角θを引数に含む三角関数で表した近似式モデルにおける係数を、各位相角θと各位相角θに対応する二乗半径R とを用いて最小二乗法により求め、得られた係数から補正残差を求めることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の実施形態に係るプログラムは、コンピュータに、上記の補正値演算方法を実行させる。
【0011】
また、本発明の実施形態に係る補正値演算装置は、エンコーダが出力する2相正弦波状信号(X、Y)を補正するための補正値を演算する。当該補正値演算装置は、2相正弦波状信号によって描かれるリサージュ波形におけるN個の位相角θと各位相角θに対応するリサージュ半径Rについて、各位相角θに対応するリサージュ半径Rの2乗である二乗半径R を算出する極座標変換部と、極座標変換部により算出された各位相角θと当該位相角θに対応する二乗半径R とに基づき、少なくとも、2相正弦波状信号を成す信号Xのオフセット誤差Cの補正残差ΔCおよび信号Yのオフセット誤差Cの補正残差ΔC、信号Xと信号Yの振幅比誤差Kの補正残差ΔK、並びに信号Xと信号Yの位相差誤差Pの補正残差ΔPを算出し、各補正残差に基づき各補正値を算出する誤差検出部と、を備える。誤差検出部は、二乗半径Rを位相角θを引数に含む三角関数で表した近似式モデルにおける係数を、各位相角θと各位相角θに対応する二乗半径R とを用いて最小二乗法により求め、得られた係数から補正残差を求める。
【0012】
また、本発明の実施形態に係るエンコーダは、上記の補正値演算装置と、測定方向に沿った変位に応じた2相正弦波状信号を出力するエンコーダ検出部と、とを備える。そして補正値演算装置は、エンコーダ検出部が出力する2相正弦波状信号に基づいて補正値を算出する補正値算出処理と、エンコーダ検出部が出力する2相正弦波状信号に算出した補正値を適用する補正処理とを行う。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態に係る補正値演算装置1の基本構成をエンコーダ10におけるエンコーダ検出部11および広域位相角算出部50とともに示すブロック図である。
図2】第1実施形態における補正値算出処理の手順を示すフローチャートである。
図3】第1実施形態に係る補正値演算装置1に関して、補正前後の2相正弦波状信号X、Yをリサージュ波形としてプロットしたグラフである。
図4】第1実施形態に係る補正値演算装置1に関して、補正前後の2相正弦波状信号X、Yを位相角θと二乗半径R に変換したものを、横軸をθ、縦軸をRとしてプロットしたグラフである。
図5】第1実施形態に係る補正値演算装置1に関して、Rの標準偏差について、補正値演算の累積適用回数Mを横軸としてプロットしたグラフである。
図6】第1実施形態に係る補正値演算装置1に関して、オフセット誤差CおよびCについて、補正値演算の累積適用回数Mを横軸としてプロットしたグラフである。
図7】第1実施形態に係る補正値演算装置1に関して、振幅比誤差Kについて、補正値演算の累積適用回数Mを横軸としてプロットしたグラフである。
図8】第1実施形態に係る補正値演算装置1に関して、位相差誤差Pについて、補正値演算の累積適用回数Mを横軸としてプロットしたグラフである。
図9】第2実施形態に係る補正値演算装置1に関して、補正前後の2相正弦波状信号X、Yをリサージュ波形としてプロットしたグラフである。
図10】第2実施形態に係る補正値演算装置1に関して、補正前後の2相正弦波状信号X、Yを位相角θと二乗半径R に変換したものを、横軸をθ、縦軸をRとしてプロットしたグラフである。
図11】第2実施形態に係る補正値演算装置1に関して、Rの標準偏差について、補正値演算の累積適用回数Mを横軸としてプロットしたグラフである。
図12】第2実施形態に係る補正値演算装置1に関して、オフセット誤差CおよびCについて、補正値演算の累積適用回数Mを横軸としてプロットしたグラフである。
図13】第2実施形態に係る補正値演算装置1に関して、振幅比誤差Kについて、補正値演算の累積適用回数Mを横軸としてプロットしたグラフである。
図14】第2実施形態に係る補正値演算装置1に関して、位相差誤差Pについて、補正値演算の累積適用回数Mを横軸としてプロットしたグラフである。
図15】ロータリエンコーダにおいてステータに対しロータが傾いた様子を模式的に示す図である。
図16】ロータが傾いた状態での回転変位φに対する2相正弦波状信号の信号強度の変動を示すグラフである。
図17】第3実施形態に係る補正値演算装置1aの基本構成をエンコーダ10におけるエンコーダ検出部11とともに示すブロック図である。
図18】第2実施形態における補正値算出処理の手順を示すフローチャートである。
図19】第3実施形態に係る補正値演算装置1aに関して、信号強度の補正前の二乗半径R を、横軸をロータ変位φとしてプロットしたグラフである。
図20】第3実施形態に係る補正値演算装置1aに関して、信号強度の補正を適用した後の二乗半径RLCi を、横軸をロータ変位φとしてプロットしたグラフである。
図21】第3実施形態に係る補正値演算装置1aに関して、信号強度の補正前の二乗半径R を、横軸を位相角θとしてプロットしたグラフである。
図22】第3実施形態に係る補正値演算装置1aに関して、信号強度を補正した後の二乗半径RLCi を、横軸を位相角θとしてプロットしたグラフである。
図23】第3実施形態に係る補正値演算装置1aに関して、信号強度の補正後の二乗半径RLCi を用いて算出した補正値を2相正弦波状信号X、Yに適用した補正後の二乗半径R を、横軸を位相角θとしてプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔第1実施形態〕
以下、第1実施形態を図1から図8に基づいて説明する。
【0015】
補正値演算装置1は、エンコーダにおける2相正弦波状信号を補正するための補正値を演算する。図1は、第1実施形態に係る補正値演算装置1の基本構成をエンコーダ10におけるエンコーダ検出部11および広域位相角算出部50とともに示すブロック図である。
【0016】
図1に示された例では、補正値演算装置1は、エンコーダ検出部11および広域位相角算出部50とともにエンコーダ10に内蔵される形で実装されている。本実施形態において、エンコーダ10は、測定方向に沿った変位に応じた2相正弦波状信号を出力するエンコーダ検出部11と、補正値演算装置1と、補正値演算装置1が算出した位相角θからエンコーダ10の最終出力となる広域位相角φ(例えばロータリエンコーダの回転変位等に相当)を算出する広域位相角算出部50とを備える。補正値演算装置1は、補正部20と、誤差検出部40と、極座標変換部30とを備える。補正値演算装置1は、エンコーダ検出部11が出力する2相正弦波状信号に基づいて補正値を算出する補正値算出処理と、エンコーダ検出部11が出力する2相正弦波状信号に予め算出した補正値を適用する補正処理とを行う。このようなエンコーダ10に内蔵される実装形態では、補正値演算装置1は、十分に早く補正値を算出できれば、変位の検出を行いながら補正値を動的に更新することができる。
【0017】
補正値演算装置1の他の実装形態としては、エンコーダ10とは別体として補正値演算装置1を実装してもよい。例えば補正値演算装置1を、エンコーダ検出部11とは別体のコンピュータにより実現するとよい。変位計測箇所にエンコーダ検出部11を設置するときに、設置された状態のエンコーダ検出部11で取得した2相正弦波状信号のデータを、通信手段または記憶媒体を介して補正値演算装置1が取得し、取得したデータに基づき補正値を算出するとよい。そして、算出した補正値を、通信手段または記憶媒体を介してエンコーダ検出部11に提供するとよい。
【0018】
エンコーダ検出部11はその検出原理は問わないが、例えば光電式、磁気式、電磁誘導式等とするとよい。エンコーダ検出部11が出力する2相正弦波状信号を用いて(例えばXを横軸、Yを縦軸として)、リサージュ波形を描くことができる。このようなリサージュ波形は、理想的にはリサージュ半径Rが位相角θによらず一定であることが望ましいが、エンコーダ検出部11から出力される2相正弦波状信号は、通常、振幅誤差、位相差誤差、オフセット等の誤差を含んでいるため、リサージュ半径Rが位相角θによらず一定とはならない。
【0019】
エンコーダ検出部11が出力するアナログの2相正弦波状信号は、図示せぬAD変換器により、所定の周波数でサンプリングされてディジタル化される。本明細書では、このディジタル化された2相正弦波状信号のデータの集まりを単に「2相正弦波状信号X、Y」のように呼ぶ。また、ディジタル化された2相正弦波状信号X、Yについて、必要に応じて同じサンプリングされた個別のデータを明示的に示すべく「2相正弦波状信号X、Y」のように共通の添え字を用いて表す。なお、本明細書では、補正値の算出に際し、2相正弦波状信号X、Yのディジタルデータについて、N点の対を用いるものとして説明する。すなわち、補正値の算出に用いる2相正弦波状信号X、Yのデータにおいて、iは0~N-1の範囲の整数である。「2相正弦波状信号X、Y」から算出される他のパラメータについても、必要に応じて二乗半径R 、位相角θのように添え字を用いて表現する。
【0020】
2相正弦波状信号X、Yは、補正部20に入力される。補正部20は、2相正弦波状信号に適用すべき補正値を保持する。この補正値は、誤差検出部40により演算される。補正部20は、2相正弦波状信号X、Yを補正値を用いて補正して出力信号X’、Y’を出力する。補正部20の出力信号X’、Y’は、極座標変換部30に入力される。
【0021】
補正部20は、2相正弦波状信号の直交方向のオフセット誤差(すなわち、Xのオフセット誤差CおよびYのオフセット誤差C)、直交方向の振幅比誤差(Ka=A/A)、およびXとYの位相差誤差(P)を補正値として用いて、2相正弦波状信号X、Yを補正する。各種の誤差を有する2相正弦波状信号X、Yは式(1)のように表される。
【数1】
【0022】
具体的な補正値の適用方法の一例として、補正部20は、式(2)により、補正値を2相正弦波状信号XおよびYに適用して、出力信号(補正された2相正弦波状信号)X’およびY’を求めるとよい。
【数2】
【0023】
なお、誤差検出部40により補正値が演算されていない初期状態では、補正部20は、2相正弦波状信号X、Yをそのまま出力信号X’、Y’を出力してもよいし、所定の初期値を用いて出力信号X’、Y’を出力してもよい。例えば補正値の初期値をC=0、C=0、K=1、P=0とすれば、誤差検出部40により補正値が演算されていない初期状態では実質的に補正が行われず、2相正弦波状信号X、Yがそのまま出力信号X’、Y’として出力されることになる。
【0024】
極座標変換部30は、式(3)および式(4)の演算により、補正部20の出力信号X’、Y’から、2相正弦波状信号における位相角θと当該位相角に対応するリサージュ半径Rの2乗である二乗半径R を算出する。
【数3】
【0025】
広域位相角算出部50は、各位相角θについて2相正弦波状信号の1周期に相当する変位を超える広範囲の変位を表す広域位相角φを算出する。広域位相角φは、基準となる変位(原点)からの2相正弦波状信号の周期数(リサージュ信号の回転数)n、極座標変換部30が算出する位相角θとから、既知の方法により求めることができる。例えば、広域位相角φの1周期(0度から360度)の中に2相正弦波状信号が100周期入るエンコーダの場合、φ=(n×360+θ)/100の関係によりφとnおよびθとを相互に変換することができる。リサージュ信号の回転数nは、公知のインクリメンタルアップダウンカウンタ(上位カウンタ)により計数することができる。広域位相角算出部50が算出した広域位相角φはエンコーダ10の最終出力となる。
【0026】
誤差検出部40は、極座標変換部30により算出された位相角θと二乗半径R とに基づき、補正値を算出する。誤差検出部40は、少なくとも、2相正弦波状信号の直交方向のオフセット誤差(CおよびC)、振幅比誤差(K)、および位相差誤差(P)を補正値として算出し、補正部20に与える。
【0027】
具体的には、誤差検出部40は、位相角θを引数に含む三角関数を用いて二乗半径Rを表した近似式モデル(式(5)および式(6))における係数Ac1、As1、o1を、複数の各位相角θとこれに対応する二乗半径Rとを用いて最小二乗法により求める。
【数4】
【0028】
例えば、誤差検出部40は、式(5)を近似式モデルとしてR とθの3変数連立一次方程式を作り、式(5)における各係数を式(7)によりC行列の要素として求めることができる。
【数5】
【0029】
また、誤差検出部40は、式(6)を近似式モデルとしてR と2θの3変数連立一次方程式を作り、式(6)における各係数を式(8)によりC行列の要素として求めることができる。
【数6】
【0030】
そして、誤差検出部40は、得られた係数から式(9)~(12)により各補正値(すなわち、2相正弦波状信号に残存する補正残差)を求める。
【数7】
【0031】
式(9)にてXのオフセット誤差Cが得られる理由は、以下の通り説明できる。すなわち、式(1)においてXのオフセット誤差Cのみがあるとした場合、XとYは式(13)で表される。
【数8】
【0032】
したがって、二乗半径Rは式(14)で表される。
【数9】
【0033】
式(5)と式(14)におけるcosθの係数を比較することで、式(9)の関係が得られる。式(10)によりYのオフセット誤差Cが得られる理由も同様にして説明することができる。
【0034】
また、式(11)にて振幅比誤差Kが得られる理由は、以下の通り説明できる。すなわち、式(1)においてA≠Aであり、K=A/Aと表し、他の誤差が無い場合、二乗半径Rは式(15)で表される。
【数10】
【0035】
式(15)と式(6)におけるcos2θの係数を比較することで、式(11)の関係が得られる。
【0036】
また、式(12)にて位相差誤差Pが得られる理由は、以下の通り説明できる。式(1)において位相差誤差Pのみがあるとした場合、二乗半径Rは式(16)で表される。
【数11】
【0037】
≒0のとき、cos2P≒1と近似できるため、式(16)は式(17)のように近似できる。
【数12】
【0038】
さらに、P=0の近傍でsin2P≒2Pであることから、式(18)の関係が導ける。
【数13】
式(18)で振幅A=1として、式(6)と式(18)におけるsin2θの係数を比較することで、式(12)の関係が得られる。
【0039】
次に、このように構成された補正値演算装置1を用いて補正値を演算する補正値算出処理について説明する。図2は、第1実施形態における補正値算出処理の手順を示すフローチャートである。補正値算出処理は、補正部20、極座標変換部30、および誤差検出部40により実行される。補正値算出処理では、X、YからXのオフセット誤差C、Yのオフセット誤差C、振幅比誤差K、および位相差誤差Pを求める。求めたこれらの誤差が、補正値となり、エンコーダ検出部11から出力される2相正弦波状信号X、Yから誤差の影響を除去するのに用いられる。
【0040】
オフセット誤差CおよびC、振幅比誤差K、および位相差誤差Pを有する2相正弦波状信号X、Yは、上述の通り式(1)のように表すことができる。式(1)においてC=0、C=0、K=A/A=1、P=0が最も誤差が小さい状態である。
【0041】
補正値算出処理が開始されると、補正部20は、初めに補正に用いるエンコーダ検出部11の出力データとして、2相正弦波状信号X、YのディジタルデータのN点の対(X、Y;ただしiは0~N-1)を取得する(ステップS01)。このデータはエンコーダ検出部11からリアルタイムで取得してもよいし、予めエンコーダ検出部11でデータを取得して記録しておいたものを、通信手段や記憶媒体を介して取得するようにしてもよい。
【0042】
続いて、極座標変換部30が、2相正弦波状信号のN点のデータ対のそれぞれについて、位相角θとそれに対応する二乗半径R を算出する(ステップS02)。
【0043】
続いて、誤差検出部40が、ステップS02にて算出された各位相角θと二乗半径R とに基づき、ステップS01で入力した2相正弦波状信号X、Yに残存している2相正弦波状信号の直交方向のオフセット誤差の補正残差(ΔCおよびΔC)、振幅比誤差の補正残差(ΔK)、および位相差誤差の補正残差(ΔP)を算出する(ステップS03)。
【0044】
そして、算出した各誤差の補正残差に基づき補正部20が保持する補正値を更新する(ステップS04)。誤差検出部40は、所定のフィードバックゲインG(ただし0<G≦1)を用いて、各補正値を式(19)により更新するとよい。式(19)を用いて補正値を更新する際、フィードバックゲインGをG<1とすると、補正残差の影響が補正値に過剰に反映されることを防ぎ、補正残差が誤差の小さい値(ΔC、ΔC、およびΔPについては0、ΔKについては1)に収束させ易くすることができる。
【数14】
【0045】
なお、補正値算出処理においてステップ03がはじめて実施される場合には、各補正値について所定の初期値(例えば、C=0、C=0、K=1、P=0)に対し、算出した補正残差に基づく更新を適用するとよい。
【0046】
続いて、補正部20は、誤差検出部40が算出した補正値に基づいて2相正弦波状信号を補正し、信号X’、Y’を出力する(ステップS05)。
【0047】
補正値の算出を繰り返す場合(ステップS06;Yes)、ステップS05で補正された2相正弦波状信号X’、Y’を新たな2相正弦波状信号X、Yとして(ステップS07)、処理をステップS02に戻す。ステップS02~ステップS05を必要な回数だけ繰り返し実施し、繰り返しが不要となると(ステップS06;No)、補正値算出処理は終了する。補正値算出処理の終了時の補正値が最終的な補正値となる。補正値の算出・更新を繰り返す回数は、予め定められた回数としてもよい。あるいは、補正残差が十分に小さくなるまで(例えば所定の閾値を下回るまで)繰り返してもよい。このような補正値算出処理では、初期の2相正弦波状信号X、Yを元に補正値を算出・更新する演算が累積的に適用され、補正残差は誤差の小さい値(ΔC、ΔC、およびΔPについては0、ΔKについては1)に収束する。
【0048】
続いて、本実施形態に係る補正値演算装置1による補正値算出処理の有効性を確認するために行ったシミュレーションについて説明する。
【0049】
シミュレーションを実施するにあたり、補正値算出処理を適用するデータとして、C=0.1、C=0.05、A=0.95、A=1.05、P=-0.04の誤差を有する2相正弦波状信号X、Yをランダムに32点生成した(つまり、N=32)。そして、この32点のデータに対し、第1実施形態の補正値算出処理を適用した。補正の累積適用回数(ステップS02~S05の処理の繰り返し回数)Mは30回とした。
【0050】
図3は、補正前後の2相正弦波状信号X、Yをリサージュ波形としてプロットしたグラフである。図4は、補正前後の2相正弦波状信号X、Yを位相角θと二乗半径R に変換したものを、横軸をθ、縦軸をRとしてプロットしたグラフである。これらのグラフから、補正によってRが一定となっていることが分かり、理想に近い2相正弦波状信号X、Yが得られていることが分かる。
【0051】
図5~8は、補正の累積適用の効果を確認すべく、Rの標準偏差、並びにC、C、K、およびPの各誤差について、補正値演算の累積適用回数Mを横軸としてプロットしたグラフである。図5に示したRの標準偏差に関しては、補正値演算の累積適用回数Mが増すにつれ小さな値となっており、補正値演算を累積適用することによりRのばらつきが無くなっていくことが確認できる。図6~8に示した各誤差に関しては、2相正弦波状信号X、Yのデータを生成する際に設定した誤差の値に収束していく様子が確認できる。累積適用回数M=10回程度で十分収束することが分かる。
【0052】
以上で説明した第1実施形態の補正値演算装置1および補正値算出処理によれば、半径Rではなく二乗半径Rを用いて補正値を求めることができるので、平方根を求める計算が不要であり、簡易な方法で高精度でかつ効率よく補正値を求め補正することができる。特に、補正値演算を累積適用することで、精度の高い補正値を求めることができる。また、補正の基準となるマスターエンコーダが不要であり、かつ、不等ピッチのデータから補正値を求めることができるため、補正値を求めるために用いる2相正弦波状信号のデータを取得するために高精度な送り機構や制御を用いる必要がなく、コスト削減を図ることができる。さらに、従来の手法と比較して少ないデータ点数から補正値を求めることができる。したがって、演算リソースを抑制しつつ演算を高速化することができる。
【0053】
〔第2実施形態〕
続いて、本発明の第2実施形態を説明する。この第2実施形態は、第1実施形態よりも少ない演算量で、高速に補正値算出処理を実行するものである。補正値演算装置1の構成は、第1実施形態と共通であるため、以下では主に第2実施形態の補正値算出処理における演算について説明する。
【0054】
上記の第1実施形態では、位相角θを引数に含む三角関数を用いて二乗半径Rを表した近似式モデル(式(5)および式(6))における係数を求める際に、式(7)および式(8)を用いた。これらの式にはsinやcosの演算が含まれている。sinやcosの演算は、マイコン、DSP、FPGA等の組込みディジタル信号処理デバイスでは、高次の多項式により実現され、演算の精度は多項式の次数に依存する。例えば、sinθをマクローリン展開した多項式を用いて、代表的なQ14フォーマット固定小数点演算にて1LSB以下の精度を得るためには、11次の多項式演算が必要である。N個のθについて高次の多項式演算を行うことは、演算リソースの増加ないし演算時間の増大を招き、エンコーダに組込み実装されるような小型で軽量なディジタル信号処理デバイスに実装することは難しい。
【0055】
そこで、本実施形態では、sinやcosの演算をより演算量の少ない演算に置き換える。誤差が十分に小さい範囲においては、2相正弦波状信号XおよびYを振幅Aで除したxとyが式(20)のように近似できる。高精度なエンコーダは、補正前でも信号Xの振幅Aと、信号Yの振幅Aが近い値を持つ。またこれらは振幅の設計ノミナル値Anomにも近い値となる。そこで、信号Xと信号Yの共通の(平均した)振幅をAとして、式(20)により、cosθをxに、sinθをyに近似する。
【数15】
【0056】
このように、補正前でも式(20)の近似が適用できる程度に誤差が小さい高精度なエンコーダを用いるという制約条件の下、位相角θの三角関数の演算をxとyの演算に置き換えることで演算量を低減する。誤差検出部40がxとyを用いた演算を行うために、第2実施形態の極座標変換部30は、位相角θそのものに代えて、実質的に位相角θを表すxとyを算出し、これらを誤差検出部40に入力する。
【0057】
第2実施形態の誤差検出部40は、式(7)においてcosθをxに、sinθをyにそれぞれ置き換えて得られる式(21)を用いて式(5)における各係数を算出する。
【数16】
【0058】
誤差検出部40は、式(21)により、式(7)よりも少ない演算量で、式(5)における各係数をC行列の要素として求めることができる。
【0059】
式(8)については、2倍角の公式により、cos2θとsin2θを、xとyを用いてそれぞれ式(22)のように表すことができる。
【数17】
【0060】
第2実施形態の誤差検出部40は、式(22)を式(8)に代入して得られる、式(23)を用いて式(6)における各係数を算出する。
【数18】
【0061】
誤差検出部40は、式(23)により、式(8)よりも少ない演算量で、式(6)における各係数をC行列の要素として求めることができる。
【0062】
誤差検出部40は、第1実施形態と同様に、得られた係数から各補正値(すなわち、2相正弦波状信号に残存する補正残差)を求める。このとき、第1実施形態では、補正値は式(9)~(12)により求めていた。
【0063】
ここで、各補正値を求めるための式(9)~式(12)のうち、式(11)に平方根演算が含まれており、これが演算量を増加させる要因となる。このため、本実施形態では、式(11)の演算の簡易化を図る。すなわち、1+xの平方根(√(1+x))をマクローリン展開すると式(24)となる。
【数19】
【0064】
式(24)でx=-2Ac2とすれば、式(11)に含まれる平方根を含む演算は、式(25)のように多項式で近似できる。
【数20】
【0065】
誤差が小さい高精度なエンコーダを用いる場合には、ΔK≒1、すなわち、Ac2≒0とみなすことができるため、Q14フォーマットであれば2次までの展開で十分な精度が得られる。このため、式(11)を式(26)のように簡易化し、演算量を抑制することができる。
【数21】
【0066】
補正値演算装置1を用いて補正値を演算する補正値算出処理は、図2に示した第1実施形態における補正値算出処理と同様の手順で、ただし、式(7)、(8)、(11)に代えて、それぞれ式(21)、(23)、(26)を用いて、実現することができる。
【0067】
続いて、本実施形態に係る補正値演算装置1による補正値算出処理の有効性を確認するために行ったシミュレーションについて説明する。
【0068】
シミュレーションを実施するにあたり、補正値算出処理を適用するデータとして、C=0.1、C=0.05、A=0.95、A=1.05、P=-0.04の誤差を有する2相正弦波状信号X、Yをランダムに32点生成した(つまり、N=32)。そして、この32点のデータに対し、第2実施形態の補正値算出処理を適用した。補正の累積適用回数(ステップS02~S04の処理の繰り返し回数)Mは30回とした。
【0069】
図9は、補正前後の2相正弦波状信号X、Yをリサージュ波形としてプロットしたグラフである。図10は、補正前後の2相正弦波状信号X、Yを位相角θと二乗半径R に変換したものを、横軸をθ、縦軸をRとしてプロットしたグラフである。これらのグラフから、補正によってRが一定となっていることが分かり、理想に近い2相正弦波状信号X、Yが得られていることが分かる。
【0070】
図11~14は、補正の累積適用の効果を確認すべく、Rの標準偏差、並びにC、C、K、およびPの各誤差について、補正値演算の累積適用回数Mを横軸としてプロットしたグラフである。図11に示したRの標準偏差に関しては、補正値演算の累積適用回数Mが増すにつれ小さな値となっており、補正値演算を累積適用することによりRのばらつきが無くなっていくことが確認できる。図12~14に示した各誤差に関しては、2相正弦波状信号X、Yのデータを生成する際に設定した誤差の値に収束していく様子が確認できる。累積適用回数M=10回程度で十分収束することが分かる。
【0071】
以上で説明した第2実施形態の補正値演算装置1および補正値算出処理によれば、sin関数、cos関数、および平方根を求める演算が不要であり、四則演算のみの簡易な計算で高精度でかつ効率よく補正値を求めることができる。したがって、演算リソースを抑制しつつ演算を高速化することができるため、エンコーダに組込み実装されるような小型で軽量なディジタル信号処理デバイスで補正値演算処理を実行し動的に補正値を更新するといった応用が可能となる。
【0072】
〔第3実施形態〕
続いて、本発明の第3実施形態を図15から図23に基づいて説明する。
【0073】
上述の第1実施形態の補正値算出手法は、エンコーダ検出部11が2相正弦波状信号の1周期以内の測定範囲を有する場合や、エンコーダ検出部11が出力する信号の強度の変動が小さい場合に有効である。しかし、2相正弦波状信号の1周期を超える変位の測定範囲において信号強度の変動が大きい場合には、第1実施形態の補正値算出手法では十分な精度の補正値が得られない場合がある。
【0074】
例えば、ロータ200に多数のロータ目盛210が設けられ、ステータ300のステータ検出器310により対向するロータ目盛210を読み取って2相正弦波状信号を出力する電磁誘導式のロータリエンコーダ検出部110を想定する。このようなロータリエンコーダ検出部110では、ロータ200が1回転する間に、ロータ目盛210の数に応じた周期の2相正弦波状信号が出力される。例えば、ロータ200にロータ目盛210が100個設けられている場合、回転変位φが0度から360度まで1回転する間に、100周期分の2相正弦波状信号が出力される(したがってリサージュ波形が100回転する)ことになる。図15に示したようにロータ200がステータ300に対して傾いている場合、ステータ検出器310とロータ目盛210との距離がロータ200の回転変位φにより変化する。これに伴い2相正弦波状信号の信号強度も回転変位φによって変化し二乗半径R図16に示すように信号ピッチをより長い周期で変動する。つまり、ステータ検出器310とロータ目盛210との距離が近くなる回転変位φでは信号強度(および二乗半径R)が大きくなり、ステータ検出器310とロータ目盛210との距離が遠くなる回転変位φでは信号強度(および二乗半径R)が小さくなる。同様の信号強度の変動は、電磁誘導式のロータリエンコーダ以外の様々なエンコーダにおいて、エンコーダを取り付ける案内機構の取付時の調整不足などによるミスアライメントに伴って生じ得る。
【0075】
実際のエンコーダ検出部11が出力する信号から得られる二乗半径Rでは、2相正弦波状信号の内挿誤差に起因する変動と信号強度の変動に伴う変動が混在し、両者を分離することが困難となる。その結果、2相正弦波状信号の補正値を高精度で求めることが困難となる。
【0076】
第3実施形態に係る補正値演算装置1では、信号強度の変動に伴う変動が2相正弦波状信号の周期を超える長い周期であるのに対し、内挿誤差に起因する変動が2相正弦波状信号の周期以下の短い周期となっていることに着目し、二乗半径Rにおける広範囲の変動の影響を低減する。
【0077】
図17は、第3実施形態に係る補正値演算装置1aの基本構成をエンコーダ検出部11とともに示すブロック図である。図17に示された例では、補正値演算装置1aは、エンコーダ検出部11とともにエンコーダ10に内蔵される形で実装されているが、エンコーダ10とは別体として補正値演算装置1を実装してもよいことは第1実施形態と同様である。本実施形態において補正値演算装置1aは、2相正弦波状信号の1周期に相当する変位を超える広範囲での信号強度の変動を補正し、精度の高い補正値を得ることができる。これを実現するために、第3実施形態の補正値演算装置1aは、第1実施形態における補正値演算装置1の構成に加え、信号強度補正部60を備える点に特徴を有する。以下では第1実施形態における補正値演算装置1と異なる構成について詳しく説明し、第1実施形態における補正値演算装置1と共通の構成については、同じ符号を付してここでの説明を省略する。
【0078】
第1実施形態と同様、2相正弦波状信号X、Yは、補正部20に入力される。補正部20は、2相正弦波状信号に適用すべき補正値を保持する。補正部20は、2相正弦波状信号X、Yを補正値を用いて補正して出力信号X’、Y’を出力する。補正部20の出力信号X’、Y’は、極座標変換部30に入力される。極座標変換部30は、第1実施形態で説明した式(3)および式(4)の演算により、補正部20の出力信号X’、Y’から、2相正弦波状信号における位相角θと当該位相角に対応するリサージュ半径Rの2乗である二乗半径R を算出する。
【0079】
極座標変換部30により算出された位相角θは、第1実施形態の補正値演算装置1と同様に、誤差検出部40および広域位相角算出部50に入力される。また、極座標変換部30により算出された二乗半径R は、信号強度補正部60に入力される。
【0080】
広域位相角算出部50は、第1実施形態と同様に、各位相角θについて2相正弦波状信号の1周期に相当する変位を超える広範囲の変位を表す広域位相角φを算出する。広域位相角φは、基準となる変位(原点)からの2相正弦波状信号の周期数(リサージュ信号の回転数)n、極座標変換部30が算出する位相角θとから、例えば、広域位相角φの1周期(0度から360度)の中に2相正弦波状信号が100周期入るエンコーダの場合、φ=(n×360+θ)/100の関係によりφとnおよびθとを相互に変換することができる。リサージュ信号の回転数nは、公知のインクリメンタルアップダウンカウンタ(上位カウンタ)により計数することができる。第1実施形態では、広域位相角算出部50は補正値演算装置1に含まれずエンコーダ10の構成として存在したが、第3実施形態では、広域位相角算出部50は、補正値演算装置1aの構成要素となる。
【0081】
信号強度補正部60は、以下で詳述するように、極座標変換部30から入力される二乗半径R と、広域位相角算出部50から入力される広域位相角φとを用いて、二乗半径Rを広域位相角φの三角関数で表す近似式モデルにおける係数を最小二乗法により求め、得られた係数から各広域位相角φに対応する信号強度補正値RCi を求める。そして、当該信号強度補正値RCi に基づき各広域位相角φに対応する二乗半径R を補正する。
【0082】
二乗半径Rの長い周期の変動は、広域位相角φの1回転を基本周波数として、その高調波の和で近似的に表すことができる。そこで、信号強度補正部60は、二乗半径Rを広域位相角φの三角関数で表す近似式モデルとして式(27)用いるとよい。
【数22】
【0083】
なお、式(27)においてkは1からNの整数であり、Nは近似に用いる最高次の高調波の次数である。Nを大きくすれば近似の精度が高まるが、係数aおよびb、並びに信号強度補正値RCi を求めるための計算量が増加する。したがって、Nは精度と計算量のトレードオフを考慮して決定されるが、例えば、Nを3とし、3次の高調波までを含めた近似式モデルとするとよい。
【0084】
信号強度補正部60は、1からNまでの各kについて、式(27)における係数aおよびb、を、式(28)によりR行列の要素として求めることができる。
【数23】
【0085】
信号強度補正部60は、得られた係数aおよびbから、式(29)により前記各広域位相角φに対応する信号強度補正値RCi を算出する。
【数24】
【0086】
更に、信号強度補正部60は、式(30)により、信号強度補正値RCi で前記二乗半径R を補正して前記各広域位相角φに対応する補正後の二乗半径RLCi を算出し、誤差検出部40に入力する。
【数25】
【0087】
誤差検出部40は、極座標変換部30により算出された位相角θと信号強度補正部60による補正後の二乗半径RLCi とを用いて、第1実施形態における信号強度補正部60と同様の手法にて補正値を算出する。
【0088】
図18は、上記のように構成される第3実施形態の補正値演算装置1aにて実施される補正値算出処理の手順を示すフローチャートである。
【0089】
補正値算出処理が開始されると、補正部20は、初めに補正に用いるエンコーダ検出部11の出力データとして、2相正弦波状信号X、YのディジタルデータのN組の対(X、Y;ただしiは0~N-1)を取得する(ステップS11)。このデータはエンコーダ検出部11からリアルタイムで取得してもよいし、予めエンコーダ検出部11でデータを取得して記録しておいたものを、通信手段や記憶媒体を介して取得するようにしてもよい。
【0090】
続いて、極座標変換部30が、2相正弦波状信号のN組のデータ対のそれぞれについて、位相角θとそれに対応する二乗半径R を算出する(ステップS12)。続いて、広域位相角算出部50が、2相正弦波状信号の1周期を超える広範囲の変位角を表す広域位相角φを算出する(ステップS13)。信号強度補正部60は、広範囲にわたる信号強度の変動を補正するための各広域位相角φに対応する信号強度補正値RCi を求め、これにより対応する二乗半径R を補正してRLCi を算出する(ステップS14)。
【0091】
続いて、ステップS12にて算出された各位相角θと、ステップS14にて補正された二乗半径RLCi とに基づき、誤差検出部40が、ステップS01で入力した2相正弦波状信号X、Yに残存している2相正弦波状信号の直交方向のオフセット誤差の補正残差(ΔCおよびΔC)、振幅比誤差の補正残差(ΔK)、および位相差誤差の補正残差(ΔP)を算出する(ステップS15)。そして、算出した各誤差の補正残差に基づき補正部20が保持する補正値を更新する(ステップS16)。第1実施形態と同様、誤差検出部40は、各補正値を式(19)により更新するとよい。
【0092】
続いて、補正部20は、誤差検出部40が算出した補正値に基づいて2相正弦波状信号を補正し、信号X’、Y’を出力する(ステップS17)。
【0093】
補正値の算出を繰り返す場合(ステップS18;Yes)、ステップS05で補正された2相正弦波状信号X’、Y’を新たな2相正弦波状信号X、Yとして(ステップS19)、処理をステップS12に戻す。ステップS12~ステップS17を必要な回数だけ繰り返し実施し、繰り返しが不要となると(ステップS18;No)、補正値算出処理は終了する。補正値算出処理の終了時の補正値が最終的な補正値となる。補正値の算出・更新を繰り返す回数は、予め定められた回数としてもよい。あるいは、補正残差が十分に小さくなるまで(例えば所定の閾値を下回るまで)繰り返してもよい。このような補正値算出処理によれば、二乗半径Rの広範囲に渡る変動の影響を除去したうえで、精度の高い補正値を得ることが可能となる。また、第1実施形態と同様、2相正弦波状信号X、Yを元に補正値を算出・更新する演算が累積的に適用され、補正残差は誤差の小さい値(ΔC、ΔC、およびΔPについては0、ΔKについては1)に収束する。
【0094】
続いて、実際の電磁誘導式ロータリエンコーダが出力する2相正弦波状信号X、Yに本実施形態に係る補正値演算装置1aによる補正値算出処理を適用した例について説明する。このエンコーダは、ロータ変位φが1周期(つまり0度から360度まで)変化する間に、2相正弦波状信号が100周期分出力される構成となっている。
【0095】
図19は、2相正弦波状信号X、Yから算出した信号強度の補正前の二乗半径R を、横軸をロータ変位(すなわち広域位相角)φとしてプロットしたグラフである。φが0度から360度まで変化する間に、補正前の二乗半径Rは長周期で大きく変動し、その大きな変動に2相正弦波状信号の短周期の変動が重畳されている。
【0096】
図20は、図19の補正前の二乗半径R に信号強度補正部60による信号強度の補正を適用した後の二乗半径RLCi を、横軸をロータ変位φとしてプロットしたグラフである。補正により長周期の変動が抑制されていることが分かる。
【0097】
図21は、信号強度を補正する前の二乗半径R を、横軸を位相角θとしてプロットしたグラフである。ロータの1回転内で大きく信号強度が変動しており、これを内挿誤差による二乗半径Rの変化と分離することができず、このままでは誤差検出部40が高精度で補正値を算出することはできない。
【0098】
図22は、信号強度を補正した後の二乗半径RLCi を、横軸を位相角θとしてプロットしたグラフである。広範囲にわたる信号強度の変動が抑制され、内挿誤差によるRの変化を分離できたことがわかる。このRLCi を用いれば、誤差検出部40が高精度で補正値を算出することができる。
【0099】
図23は、信号強度の補正後の二乗半径RLCi を用いて誤差検出部40により補正値を算出し、当該補正値を2相正弦波状信号X、Yに適用した補正後の二乗半径R を、横軸を位相角θとしてプロットしたグラフである。二乗半径R が位相角θに依存せず、ほぼ一定の結果となり、内挿誤差を低減するための2相正弦波状信号の補正が高精度に実現できたことが分かる。
【0100】
以上で説明した第3実施形態の補正値演算装置1aおよび補正値算出処理によれば、エンコーダが出力する信号の信号強度が2相正弦波状信号の1周期を超える広範囲において変動する場合に、信号強度の変動の影響を抑制して補正値を算出することができる。
式(28)によれば、単純な行列の演算により、補正値の算出に必要な係数を求めることができる。
【0101】
〔実施形態の変形〕
なお、上記に本実施形態を説明したが、本発明はこの例に限定されるものではない。例えば、上記の第3実施形態では、ロータリエンコーダに補正値演算装置1aが適用される場合を例に説明したが、エンコーダはリニアエンコーダであってもよい。リニアエンコーダにおいて、案内機構に周期的に変動する要因がある場合に、本実施形態の補正値算出処理を適用すれば、周期的な変動を低減した上で補正値を算出することができる。
【0102】
また、上記の各実施形態では、広域位相角算出部50において、φをリサージュ信号の回転数nと、位相角θとから求める場合を例に説明したが、φを他の方法によって求めてもよい。例えば、アブソリュート型のエンコーダにおいては、アブソリュート検出によりφを得てもよい。
【0103】
また、前述の各実施形態に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除、設計変更を行ったものや、各実施形態の特徴を適宜組み合わせたものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含有される。
【符号の説明】
【0104】
1、1a 補正値演算装置
10 エンコーダ
11 エンコーダ検出部
20 補正部
30 極座標変換部
40 誤差検出部
50 広域位相角算出部
60 信号強度補正部
100 ロータリエンコーダ
200 ロータ
210 ロータ目盛
300 ステータ
310 ステータ検出器
図1
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