(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008008
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】ウエーハの加工方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
H01L21/304 601Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023109814
(22)【出願日】2023-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水谷 彬
(72)【発明者】
【氏名】大武 裕介
【テーマコード(参考)】
5F057
【Fターム(参考)】
5F057AA12
5F057BA19
5F057BB03
5F057CA16
5F057DA18
5F057DA22
5F057DA31
5F057DA40
5F057GA03
(57)【要約】
【課題】ウエーハの外周に残存した部分が後工程において脱落して汚染源になったり、ウエーハを個々のデバイスチップに分割する際にデバイスチップの欠けの原因になり、品質を低下させたりするという問題を解決するウエーハの加工方法を提供する。
【解決手段】ウエーハに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を該有効領域と該面取り部との境界部の内部に位置付けて照射して面取り部に沿って改質層を形成する改質層形成工程と、ウエーハをスピンナーテーブルに保持して高速回転して遠心力によって面取り部を飛散させ除去する面取り部除去工程と、ウエーハの裏面を研削して所望の厚みに加工する加工工程と、を含み構成される。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に形成された有効領域と、該有効領域を囲繞して外周に面取り部を有するウエーハの加工方法であって、
ウエーハに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を該有効領域と該面取り部との境界部の内部に位置付けて照射して面取り部に沿って改質層を形成する改質層形成工程と、
ウエーハをスピンナーテーブルに保持して高速回転して遠心力によって面取り部を飛散させ除去する面取り部除去工程と、
ウエーハの裏面を研削して所望の厚みに加工する加工工程と、
を含み構成されるウエーハの加工方法。
【請求項2】
該改質層形成工程において、
該レーザー光線の集光点を該有効領域と該面取り部との境界部の内部に位置付けて照射しクラックがウエーハの表面に至る比較的深い第一の改質層を形成する第一のステップと、
該第一の改質層に隣接して外側又は内側に該表面には至らない比較的浅い第二の改質層を形成する第二のステップと、を含み、
該第一の改質層を起点として該面取り部を該有効領域から裏面側に反らす請求項1に記載のウエーハの加工方法。
【請求項3】
ウエーハは、第一のウエーハと第二のウエーハとが積層された積層ウエーハであり、
第一のウエーハに対して、該改質層形成工程と、該面取り部除去工程と、該加工工程と、を実施する請求項1に記載のウエーハの加工方法。
【請求項4】
該第二のステップにおいて、第二の改質層は該加工工程において研削されて除去される位置に形成される請求項2に記載のウエーハの加工方法。
【請求項5】
該面取り部除去工程において、該スピンナーテーブルの回転数は、1000~3000rpmである請求項1に記載のウエーハの加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に形成された有効領域と、該有効領域を囲繞して外周に面取り部を有するウエーハの加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IC、LSI等の複数のデバイスが分割予定ラインによって区画されたデバイス領域が表面に形成されたウエーハは、裏面が研削されて所望の厚みに薄化された後、切削装置、レーザー加工装置によって個々のデバイスチップに分割され、携帯電話、パソコン等の電気機器に利用される。
【0003】
また、ウエーハの外周には面取り部が形成されていて、ウエーハの裏面を研削して薄化すると、該面取り部がナイフエッジのように鋭利となり、オペレータが怪我をしたり、ウエーハの外周から亀裂が入りデバイスを損傷させたりするという問題がある。
【0004】
そこで、ウエーハの裏面を研削する前に、ウエーハに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を面取り部の内側に位置付けて照射し、リング状にウエーハの内部に改質層を形成することで、研削加工を実施する際に面取り部が除去される技術が本出願人によって提案されている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した特許文献1に記載の技術によれば、研削加工時に加わる外力によって面取り部が除去されることになるが、ウエーハの外周から面取り部が完全に除去されずに僅かに残存することがあり、残存した部分が後工程において脱落して汚染源になったり、ウエーハを個々のデバイスチップに分割する際にデバイスチップの欠けの原因になったりする等の問題が生じる。
【0007】
本発明は、上記事実に鑑みなされたものであり、その主たる技術課題は、ウエーハの外周から面取り部を完全に除去することであり、残存した部分が後工程において脱落して汚染源になったり、ウエーハを個々のデバイスチップに分割する際にデバイスチップの欠けの原因になり、品質を低下させたりするという問題を解決することができるウエーハの加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記主たる技術課題を解決するため、本発明によれば、表面に形成された有効領域と、該有効領域を囲繞して外周に面取り部を有するウエーハの加工方法であって、ウエーハに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を該有効領域と該面取り部との境界部の内部に位置付けて照射して面取り部に沿って改質層を形成する改質層形成工程と、ウエーハをスピンナーテーブルに保持して高速回転して遠心力によって面取り部を飛散させ除去する面取り部除去工程と、ウエーハの裏面を研削して所望の厚みに加工する加工工程と、を含み構成されるウエーハの加工方法が提供される。
【0009】
該改質層形成工程において、該レーザー光線の集光点を該有効領域と該面取り部との境界部の内部に位置付けて照射しクラックがウエーハの表面に至る比較的深い第一の改質層を形成する第一のステップと、該第一の改質層に隣接して外側又は内側に該表面には至らない比較的浅い第二の改質層を形成する第二のステップと、を含み、該第一の改質層を起点として該面取り部を該有効領域から裏面側に反らすことが好ましい。また、ウエーハは、第一のウエーハと第二のウエーハとが積層された積層ウエーハであり、第一のウエーハに対して、該改質層形成工程と、該面取り部除去工程と、該加工工程と、を実施することができる。さらに、該第二のステップにおいて、第二の改質層は該加工工程において研削されて除去される位置に形成されることが好ましい。該面取り部除去工程において、該スピンナーテーブルの回転数は、1000~3000rpmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のウエーハの加工方法は、ウエーハに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を該有効領域と該面取り部との境界部の内部に位置付けて照射して面取り部に沿って改質層を形成する改質層形成工程と、ウエーハをスピンナーテーブルに保持して高速回転して遠心力によって面取り部を飛散させ除去する面取り部除去工程と、ウエーハの裏面を研削して所望の厚みに加工する加工工程と、を含み構成されていることから、ウエーハの裏面を研削して所望の厚みに加工する加工工程を実施する前に、ウエーハの外周端から面取り部を完全に除去することが可能になり、面取り部がウエーハの外周に残存して、後の工程で脱落して汚染源になったり、ウエーハを個々のデバイスチップに分割する際にデバイスチップの欠けの原因になったりして、デバイスの品質を低下させる等の問題を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】(a)本実施形態において被加工物となる積層ウエーハの斜視図、(b)本実施形態において被加工物となる単体のウエーハの斜視図である。
【
図2】(a)改質層形成工程において、チャックテーブルにウエーハを載置する態様を示す斜視図、(b)改質層形成工程において、改質層を形成する態様を示す斜視図である。
【
図3】(a)ハーフカットとなる第一の改質層の形態を示す概略断面図、(b)(a)に示す第一の改質層に隣接して第二の改質層の形態を示す概略断面図、(c)第二の改質層の別の形態を示す概略断面図である。
【
図4】(a)フルカットとなる第一の改質層の形態を示す概略断面図、(b)(a)に示す第一の改質層に隣接して第二の改質層の形態を示す概略断面図、(c)第二の改質層の別の形態を示す概略断面図である。
【
図5】
図1(a)に示す第一のウエーハに対して、放射状の分割用改質層を形成した状態を示す平面図である。
【
図6】スピンナーテーブルを備えた面取り部除去装置の全体斜視図である。
【
図7】
図6に示す面取り部除去装置の一部を断面として面取り部除去工程の実施態様を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に基づいて構成されるウエーハの加工方法に係る実施形態について、添付図面を参照しながら、詳細に説明する。
【0013】
図1(a)には、本発明に基づき構成されるウエーハの加工方法によって加工されるウエーハWが示されている。ウエーハWは、第一のウエーハ10Aと、第二のウエーハ10Bとを積層し一体とした積層ウエーハである。第一のウエーハ10Aは、例えば、直径が300mmであって、厚みが300μmのシリコンのウエーハであり、複数のデバイス12Aが分割予定ライン14Aによって区画され表面10Aaに形成されている。ウエーハ10Aは、表面10Aaと裏面10Abとを有し、製品として使用されるデバイス12Aが形成された中央寄りの有効領域16Aと、有効領域16Aを囲繞する外周の端部に形成された面取り部17Aと、該有効領域16Aと面取り部17Aとの間であって製品となるデバイス12Aが形成されていない境界部18Aとを備えている。第二のウエーハ10Bも、第一のウエーハ10Aと同様の構成を備え、図示はされていないが、図中下面側に向けられた表面10Baに、複数のデバイスが分割予定ラインによって区画され形成されたシリコンのウエーハである。第一のウエーハ10Aと第二のウエーハ10Bとは、例えば、第一のウエーハ10Aの表面10Aaと第二のウエーハ10Bの表面10Baとを貼り合わせて熱処理することによるシロキサン結合で一体とされている。
【0014】
図1(b)には、本実施形態のウエーハの加工方法によって加工される別のウエーハ10Cが示されている。ウエーハ10Cは単体のウエーハであり、該ウエーハ10Cの表面10Caに貼着される保護テープTも示されている。図示のウエーハ10Cは、例えば、上記したウエーハ10Aと同一の構成であり、直径が300mm、厚みが300μmのシリコンのウエーハであり、複数のデバイス12Cが分割予定ライン14Cによって区画され表面10Caに形成されている。ウエーハ10Cは、表面10Caと裏面10Cbとを有し、製品として使用されるデバイス12Cが形成された中央寄りの有効領域16Cと、有効領域16Cを囲繞する外周の端部に形成された面取り部17Cと、該有効領域16Cと面取り部17Cとの間であって製品となるデバイス12Cが形成されていない境界部18Cとを備えている。上記したように、本実施形態のウエーハの加工方法によって加工される際には、図示のように、表面10Ca側に保護テープTが貼着されて一体とされる。
【0015】
なお、本発明のウエーハの加工方法によって加工されるウエーハは、上記した2枚のシリコンのウエーハを積層したウエーハW、単体のシリコンのウエーハ10Cに限定されず、有効領域と該有効領域を囲繞する外周の端部に面取り部を有する様々なウエーハが含まれる。例えば、窒化ガリウム(GaN)のウエーハ、ガリウム砒素(GaAs)のウエーハ、リチウムタンタレート(LiTaO3)のウエーハ、リチウムナイオベート(LiNbO3)のウエーハであってもよく、さらには、中央領域にデバイスは形成されていないが、該中央領域が、後に加工されて製品として使用されるウエーハ(例えばガラスウエーハ)であってもよい。以下に説明する実施形態では、上記した積層ウエーハであるウエーハWを例にしながら、本実施形態のウエーハの加工方法について説明する。
【0016】
(改質層形成工程)
本実施形態のウエーハの加工方法をウエーハWに対して実施するに際し、第一のウエーハ10Aの裏面10Abから、第一ウエーハ10Aに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を有効領域16Aと面取り部17Aとの間の境界部18Aの内部に位置付けて照射して、面取り部17Aに沿って改質層を形成する改質層形成工程を実施する。
【0017】
形質層形成工程では、まず、ウエーハWを、
図2(a)、(b)に示すレーザー加工装置20(一部のみを示している)に搬送する。レーザー加工装置20は、
図2(a)に示すチャックテーブル21と、
図2(b)に示すレーザー光線照射手段22とを少なくとも備えている。チャックテーブル21は、上面側において保持面を構成する通気性を有する部材により形成された吸着チャック21aと、該吸着チャック21aを囲繞する枠体21bとを備えている。レーザー光線照射手段22は、ウエーハWを構成する第一のウエーハ10Aに対して透過性を有する波長のレーザー光線を発振するレーザー発振器(図示は省略する)と、該レーザー発振器により発振されたレーザー光線LBを集光して照射する集光器23とを備えている。さらに、レーザー加工装置20は、チャックテーブル21を移動させる移動手段、チャックテーブル21を回転させる回転駆動手段、吸着チャック21aの上面に負圧を生成する吸引手段等(いずれも図示は省略する)を備えている。
【0018】
レーザー加工装置20にウエーハWを搬送したならば、
図2(a)に示すように、第二のウエーハ10Bの裏面10Bb側を下方に、第一のウエーハ10Aの裏面10Ab側を上方に向けて、チャックテーブル21に載置し、図示を省略する吸引手段を作動して吸引保持する。該チャックテーブル21に吸引保持されたウエーハWに対し、レーザー加工装置20に配設されたアライメント手段及び高さ検出手段(いずれも図示は省略する)を用いてアライメントが実施され、第一のウエーハ10Aの面取り部17Aが形成された外周端部の位置と第一のウエーハ10Aの中心位置とを検出すると共に、第一のウエーハ10Aの裏面10Abの上面の高さを検出し、上記した境界部18Aにおいてレーザー光線LBを照射すべき加工位置を検出する。
【0019】
本発明において実施される改質層形成工程は、例えば、以下に説明する第一のステップと、第二のステップとを含み実施することができる。
【0020】
(第一のステップ)
第一のウエーハ10Aの面取り部17Aが形成された外周の端部の位置と第一のウエーハ10Aの中心位置を検出することにより、例えば、第一のウエーハ10Aの外周の端部から面取り部17Aが形成された領域(例えば外周の端部から0.5mmの領域)よりも内側であって、上記した境界部18Aに対応して環状に設定される第一のウエーハ10Aの中心点から例えば半径147mmの位置が、第一のステップによってレーザー加工が施され改質層を形成する所定の加工位置として検出される。このようにして検出された加工位置の位置情報は、図示しない制御手段に記憶される。
【0021】
上記したアライメントによって検出された第一のステップに係る加工位置の情報に基づき、チャックテーブル21を移動して、
図2(b)に示すように、レーザー光線照射手段22の集光器23の直下に、上記した所定の加工位置を位置付ける。次いで、第一のウエーハ10Aの裏面10Ab側から、境界部18Aの内部にレーザー光線LBの集光点を位置付けて照射すると共に、チャックテーブル21を矢印R1で示す方向に回転して第一のウエーハ10Aの面取り部17Aに沿って全周に渡り第一の改質層100を形成する。
【0022】
上記した第一のステップによって形成される第一の改質層100は、
図3(a)に示すように、第一の改質層100を形成することによりクラック101が生じ、該クラック101が第一のウエーハ10Aの表面10Aa側に至る比較的深い位置に形成される。さらに、この第一の改質層100は、上下方向に複数の層で形成することが好ましい。例えば、
図3(a)に示す第一の改質層100は、上下方向に4層の改質層で構成されている。このような第一の改質層100を形成するに際しては、まず、レーザー光線LBの集光点を、第一のウエーハ10Aの境界部18Aの内部の最深部(例えば、裏面10Abから180μmの深さ)に設定された位置に位置付けてレーザー光線LBを照射すると共にチャックテーブル21を上記したように回転して、面取り部17Aに沿って1層目の環状の改質層を形成し、その後、チャックテーブル21を回転させながら、該集光点を3回に渡って裏面10Ab側(上方)に向けて、例えば、裏面10Abからの深さを170μm→160μm→150μmの深さとなるように上昇させて、面取り部17Aに沿って合計4層の環状の改質層を形成すると共に、第一のウエーハ10Aの表面10Aa側に至るクラック101を生じさせる。なお、上記した第一のステップにより形成される第一の改質層100及びクラック101は、第一のウエーハ10Aの表面10Aaから裏面10Abに至るものではないため、
図3に示す第一の改質層100は、以下においてハーフカットとも称する。以上により、第一のステップが完了する。
【0023】
(第二のステップ)
上記したように第一のステップによって第一の改質層100を形成したならば、第一の改質層100の外側又は内側に第一のウエーハ10Aの表面10Aaには至らない比較的浅い第二の改質層を形成する第二のステップを実施する。より具体的には、例えば、
図3(b)に示すように、第一の改質層100における最上部(裏面10Abから150μmの深さ)の改質層の外側で隣接する位置に、レーザー光線LBの集光点を位置づけて照射し、チャックテーブル21を回転して、環状の改質層102を形成する。この第二のステップにより形成される第二の改質層は、
図3(b)に示すように、複数の改質層によって形成することが好ましく、本実施形態では、環状の改質層102の外側に隣接し、改質層102と同じ深さ位置にレーザー光線LBの集光点を位置付けて照射して、上記した環状の改質層102に加え、環状の改質層104、106を形成する。以上により第二のステップが完了し、形質層形成工程が完了する。
【0024】
上記した第一のステップを実行して第一の改質層100を形成することで、第一のウエーハ10Aの表面10Aa側に至るクラック101を生成し、さらに第二のステップを実行して上記の如く第二の改質層102、104、106を形成することで、第一の改質層100に応力が掛かる。これにより、
図3(b)に示すように、第一の改質層100に沿って上下方向にクラック101がさらに伸展し、該第一の改質層100を起点として、面取り部17Aを全周に渡って図中矢印R2で示す方向、すなわち裏面10Ab側に反らすことができる。なお、第二の改質層を形成する場合、上記したように3箇所に集光点を位置付けて環状の改質層を形成することに限定されず、2箇所以下、又は4箇所以上に集光点を位置付けて環状の改質層を形成してもよく、好ましくは、3~6箇所に集光点を位置づけて照射して環状の改質層を形成する。
【0025】
上した第一のステップ、第二のステップを含む改質層形成工程を実施する際のレーザー加工条件は、例えば、以下のように設定される。
波長 :1099nm
繰り返し周波数 :80kHz
平均出力 :2.0W
加工送り速度 :450mm/s
又は
波長 :1342nm
繰り返し周波数 :90kHz
平均出力 :1.9W
加工送り速度 :400mm/s
【0026】
本発明の改質層形成工程において実施される第二のステップによって形成される第二の改質層の位置は、
図3(b)に示す形態に限定されない。例えば、
図3(c)に示すように、上記した第一の改質層100に隣接した位置であって、境界部18Aにおける内部の内側(有効領域側)において、第一のウエーハ10Aの表面10Aaには至らない比較的浅い位置にレーザー光線LBの集光点を位置付けて照射して、第二の改質層(改質層107、108、109)を形成するようにしてもよい。
図3(c)に示す第二の改質層(改質層107、108、109)も、
図3(b)に示す第二の改質層(改質層102、104、106)と同様のレーザー加工条件によって実施され、第一の改質層100に対して応力を掛けることができ、第一の改質層100に沿って上下方向にクラック101を伸展させて、該第一の改質層100を起点として、面取り部17Aを図中矢印R2で示す方向に、すなわち裏面10Ab側に反らすことができる。この形態における第二の改質層(改質層107、108、109)は、後の加工工程で第一のウエーハ10Aの裏面10Abが研削されて所望の厚みに加工された場合に、除去される深さ位置に設定される。
【0027】
本発明の改質層形成工程において形成される改質層は、上記した形態に限定されない。
図4(a)には、
図3に基づき説明した改質層形成工程の第一のステップとは別の実施形態により形成される第一の改質層100’が示されている。
図4(a)に示す第一のステップでは、レーザー光線LBの集光点を、有効領域16Aと面取り部17Aとの境界部18Aの内部に位置付けて照射し、クラック101が第一のウエーハ10Aの表面10Aaに至ると共に裏面10Abに至る第一の改質層100’を形成する。このような第一の改質層100’を形成するに際しては、例えば、まず、レーザー光線LBの集光点を、第一のウエーハ10Aの境界部18Aの内部の最深部(例えば、裏面10Abから175μmの深さ)に設定された位置に位置付けてレーザー光線LBを照射すると共にチャックテーブル21を、
図2(b)に示すR2の方向に回転して、面取り部17Aに沿って1層目の環状の改質層を形成する。その後、チャックテーブル21を回転させながら、該集光点を多数回に渡って裏面10Ab側(上方)に向けて、例えば、裏面10Abからの深さを165μm→155μm→135μm→120μm→105μm→90μm→70μm→50μm→35μm→20μmの深さとなるように上昇させて、面取り部17Aに沿って合計11層の環状の改質層を形成する。以上により、第一のステップが完了する。なお、
図4(a)に基づき説明する第一のステップにより形成される第一の改質層100’及びクラック101は、第一のウエーハ10Aの表面10Aaから裏面10Abに至る領域全域に形成するものであることから、
図3に示した第一の改質層100をハーフカットと称するのに対し、フルカットと称する。
【0028】
上記した第一のステップを実施したならば、第二のステップを実施する。該第二のステップは、
図3(b)、(c)に基づき説明した第二のステップと同様の手順により実施することができる。具体的には、第一の改質層100’の外側又は内側に第一のウエーハ10Aの表面10Aaには至らない比較的浅い第二の改質層を形成する。例えば、
図4(b)に示すように、第一の改質層100’において、裏面10Abから150μmの深さで形成した改質層の外側に隣接する位置に、レーザー光線LBの集光点を位置づけて照射し、チャックテーブル21を回転して、環状の改質層102を形成する。本実施形態においても、第二のステップにより形成される第二の改質層は、
図4(b)に示すように、複数の改質層によって形成することが好ましく、本実施形態では、環状の改質層102の外側に隣接する位置にレーザー光線LBの集光点を位置付けて照射して、上記した環状の改質層102に加え、環状の改質層104、106を形成する。以上により第二のステップが完了し、改質層形成工程が完了する。
【0029】
上記した第一のステップを実行して第一の改質層100’を形成し、さらに第二のステップを実行して上記の如く第二の改質層102、104、106を形成することで、第一の改質層100’に応力が掛かる。これにより、先に説明した実施形態と同様に、該第一の改質層100’を起点として、面取り部17Aを
図4(b)中の矢印R2で示す方向、すなわち裏面10Ab側に反らすことができる。
【0030】
なお、
図4に示す改質層形成工程における第二のステップによって形成される第二の改質層は、
図4(c)に示すように、上記した第一の改質層100’に隣接した位置であって、境界部18Aにおける内部の内側(有効領域側)において、ウエーハ10Aの表面10Aaには至らない浅い位置にレーザー光線LBの集光点を位置付けて照射して、第二の改質層(改質層107、108、109)を形成するようにしてもよい。
図4(c)に示す第二の改質層(改質層107、108、109)は、
図3(c)に基づき説明した手順により形成することができ、
図4(b)に示す第二の改質層(改質層102、104、106)と同様に、第一の改質層100’に対して応力を掛けることができ、該第一の改質層100’を起点として、面取り部17Aを図中矢印R2で示す方向に、すなわち裏面10Ab側に反らすことができる。この形態における第二の改質層(改質層107、108、109)も、後の加工工程でウエーハ10Aの裏面10Abが研削されて所望の厚みに加工された場合に、除去される深さ位置に設定される。
【0031】
図4に基づき説明した改質層形成工程を実施する際のレーザー加工条件は、例えば、以下のように設定される。なお、DFはレーザー光線LBの集光点のデフォーカス位置であり、第一のウエーハ10Aの裏面10Abからの深さ位置を示す。
波長 :1099nm
繰り返し周波数 :80kHz
平均出力 :DF(μm)≧135の場合→2W
DF(μm)<135の場合→1W
加工送り速度 :450mm/s
又は
波長 :1342nm
繰り返し周波数 :90kHz
平均出力 :DF(μm)≧135の場合→1.9W
DF(μm)<135の場合→1W
加工送り速度 :400mm/s
【0032】
改質層形成工程によって形成した第一の改質層、第二の改質層に加え、例えば、
図5に示すように、第一の改質層100’から、面取り部17Aが形成された外周端方向に伸びる放射状の分割用改質層110を形成してもよい。図示の分割用改質層110は、面取り部17Aをより細かく分割するための改質層であり、例えば、上記した第一の改質層100、100’と同様のレーザー加工条件によってレーザー光線LBが照射されて形成され、第一のウエーハ10Aの面取り部17Aに沿って、均等な間隔で複数箇所(図示の実施形態では4箇所)に形成される。この分割用改質層110を形成することにより、後述する面取り部除去工程において面取り部17Aを除去する際に、面取り部17Aが細かく分断されて、面取り部17Aの除去が良好に実施される。
【0033】
図1(b)に基づき説明した単体のシリコンのウエーハ10Cに対して、本発明に基づく改質層形成工程を実施する場合も、上記した第一のステップ、第二のステップを実施して、
図3、4に基づき説明した第一の改質層100又は100’、及び第二の改質層(改質層102、104、106又は改質層107、108、109)を形成することができる。ウエーハ10Cに対して改質層形成工程を実施する場合の手順は、上記した積層されたウエーハWに対して改質層を形成する手順に対し、ウエーハ10Cの裏面10Cbを上方に向け、保護テープT側をレーザー加工装置20のチャックテーブル21に吸引保持する以外は同一の手順であることから、詳細な説明は省略する。以下の説明では、上記した改質層形成工程によって、ウエーハWの第一のウエーハ10Aに対し、第一の改質層100及び第二の改質層(改質層102、104、106)を形成したものとして説明を続ける。
【0034】
(面取り部除去工程)
上記したように改質層形成工程を実施したならば、ウエーハWを高速回転して遠心力によって面取り部17Aを飛散させ除去する面取り部除去工程を実施する。
図6には、本発明の面取り部除去工程を実施するのに好適な面取り部除去装置30が示されている。
【0035】
図6に示すように、面取り部除去装置30は、スピンナーテーブル32と、スピンナーテーブル32の側方全体を囲み、上方に円形の開口部31aを有するカバー部31とを備える。なお、
図6では、説明の都合上、カバー部31の手前側の一部を切り欠いて示している。スピンナーテーブル32は、通気性を有するポーラス部材により形成された吸着チャック32aと、吸着チャック32aを囲繞する枠部32bとにより構成されている。吸着チャック32aは、図示を省略する吸引手段に接続されて、吸着チャック32aの上面に吸引力を生成することができる。スピンナーテーブル32には、回転シャフト33が接続され、該回転シャフト33は、モータ34によって駆動されてスピンナーテーブル32を回転駆動する。モータ34の外周にはエアピストン35が複数配設されている。該エアピストン35によってロッド36を上下方向に進退させることで、スピンナーテーブル32、軸部33、及びモータ34を一体的に昇降させることができる。前記した回転シャフト33、及びモータ34は、スピンナーテーブル32を支持する基台として機能する。
【0036】
図6から理解されるように、カバー部31は、環状の底壁31cと、底壁31cの外周に立設された外壁31dと、底壁31cの内周に立設された内壁31eとを備えると共に、カバー部31を支持する複数の脚部31bを備えている。外壁31dは、上方に行くに従って徐々に縮径する湾曲形状をなしており、円形の開口部31aは、スピンナーテーブル32の枠部32bの外形寸法に対して、僅かに大きい寸法で形成されている。スピンナーテーブル32の下側には、回転シャフト33に配設され、該回転シャフト33と共に回転するスカート部37が配設されている。面取り部除去装置30は、概ね上記したとおりの構成を備えており、面取り部除去装置30を使用して、面取り部除去工程を実施する手順について、
図6に加え、
図7も参照しながら、以下に説明する。なお、
図7では、説明の都合上、上記したカバー部31の外壁31d及びスカート部37を断面で示すと共に、カバー部31の脚部31b、及びエアピストン35の記載は省略している。
【0037】
面取り部除去工程を実施するに際し、
図7(a)に示すように、上記したエアピストン35を作動して、カバー部31の内部空間38内でスピンナーテーブル32を上昇し、ウエーハWを搬入する搬出入位置であるカバー部31の開口部31aの近傍に位置付ける。そして、改質層形成工程が施されたウエーハWの第一のウエーハ10Aを上方に向け、第二のウエーハ10B側を下方に向けてスピンナーテーブル32に載置し、図示を省略する吸引手段を作動して、スピンナーテーブル32にウエーハWを吸引保持する。
【0038】
スピンナーテーブル32にウエーハWを吸引保持したならば、エアピストン35を作動して、スピンナーテーブル32を下降し、
図7(b)に示す面取り部除去位置に位置付ける。このとき、スカート部37は、カバー部31の内壁31eの外側を覆う状態となる。
【0039】
次いで、モータ34を作動し、スピンナーテーブル32を回転させる回転シャフト33を
図7(b)に矢印R3で示す方向に、所定時間、高速で回転させる。該回転シャフト33の回転速度は、例えば、1000~3000rpmが好ましい。このように、スピンナーテーブル32を高速で回転させることにより、面取り部17Aに対して強い遠心力が作用する。これにより、上記した改質層形成工程によって形成した第一の改質層100、又は第一の改質層100’を起点として、面取り部17Aが分離して、第一のウエーハ10Aの外周端10Acからカバー部31の内部空間38内に飛散して、第一のウエーハ10Aから面取り部17Aが除去され、面取り部除去工程が完了する。このとき、カバー部31の外壁31dは、上記したように、上方に行くに従い縮径するように形成されていることから、飛散した面取り部17Aはカバー部31の外壁31dの内面に沿って落下し、カバー部31の外側に飛散することが抑制される。第一のウエーハ10Aから除去された面取り部17Aは、カバー部31の底壁31c上に溜まるため、複数のウエーハWに対してこの面取り部除去工程を実施した後、定期的に回収される。
【0040】
上記した面取り部除去工程が完了したならば、ウエーハWの第一のウエーハ10Aの裏面10Abを研削して、所望の厚みに加工する加工工程を実施する。以下の説明では、上記した面取り部除去工程によって面取り部17Aが除去された第一のウエーハ10Aを含むウエーハWの裏面10Abを研削して所望の厚みに加工する加工工程を実施する形態について説明する。
【0041】
面取り部除去工程が施されたウエーハWを、
図8の右方側に示す研削装置50(一部のみ示している)に搬送する。図示のように、研削装置50は、チャックテーブル51上に吸引保持される被加工物を研削して薄化するための研削手段52を備えている。研削手段52は、図示しない回転駆動機構により回転させられる回転スピンドル52aと、回転スピンドル52aの下端に装着されたホイールマウント52bと、ホイールマウント52bの下面に取り付けられる研削ホイール52cとを備え、該研削ホイール52cの下面には複数の研削砥石52dが環状に配設されている。
【0042】
図示のように、ウエーハWを研削装置50に搬送し、第二のウエーハ10B側を下方に向けてチャックテーブル51上に載置して、図示を省略する吸引手段を作動して吸引保持する。次いで、研削手段52の回転スピンドル52aを
図8において矢印R4で示す方向に、例えば6000rpmで回転させつつ、チャックテーブル51を矢印R5で示す方向に、例えば300rpmで回転させる。そして、図示を省略する研削水供給手段により、研削水を第一のウエーハ10Aの裏面10Ab上に供給しつつ、研削砥石52dを第一のウエーハ10Aの裏面10Abに接触させ、研削ホイール52cを、例えば1.0μm/秒の研削送り速度で、矢印R6で示す下方に向けて研削送りする。この際、図示しない接触式又は非接触式の測定ゲージによりウエーハWの厚みを測定しながら研削を進めることができる。第一のウエーハ10Aの裏面10Abを所定量研削して、ウエーハWを所望の厚みとしたならば、研削手段52を停止して退避させ、該加工工程が完了する。なお、前記加工工程が完了したならば、適宜、詳細を省略する洗浄、乾燥工程等が実施される。上記した加工工程では、第一のウエーハ10Bと第二のウエーハ10Cとを積層したウエーハWにおける第一のウエーハ10Aの裏面10Abを研削して所望の厚みに加工する形態を示したが、改質層形成工程及び面取り部除去工程が施された単体のウエーハ10Cの裏面10Cbを研削して所望の厚みに加工する場合も、上記した研削装置50によって、同様の手順によって加工することができる。以上により本実施形態のウエーハの加工方法が完了する。
【0043】
上記した実施形態の加工方法によれば、ウエーハの裏面を研削して所望の厚みに加工する加工工程を実施する前に、ウエーハの外周端から面取り部を完全に除去することが可能になり、面取り部がウエーハの外周に残存して、後の工程で脱落して汚染源になったり、ウエーハを個々のデバイスチップに分割する際にデバイスチップの欠けの原因になったりして、デバイスの品質を低下させる等の問題が解消する。
【0044】
なお、本発明における改質層形成工程によって形成される改質層は、上記した第一のステップ及び第二のステップによって形成される改質層に限定されない。例えば、第二のステップを省略し、第一のステップのみを実行し、ハーフカットの第一の改質層100、又はフルカットの第一の改質層100’のみを形成するものであってもよい。また、第一のステップのみを実施して上記した第一の改質層100、又は第一の改質層100’を形成した後、上記した放射状の分割用改質層110を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0045】
10A:第一のウエーハ
10Aa:表面
10Ab:裏面
12A:デバイス
14A:分割予定ライン
16A:有効領域
17A:面取り部
18A:境界部
10B:第二のウエーハ
10Ba:表面
10Bb:裏面
10C:ウエーハ(単体ウエーハ)
10Ca:表面
10Cb:裏面
12C:デバイス
14C:分割予定ライン
16C:有効領域
17C:面取り部
18C:境界部
20:レーザー加工装置
21:チャックテーブル
22:レーザー光線照射手段
30:面取り部除去装置
31:カバー部
31a:開口部
31b:脚部
31c:底壁
31d:外壁
31e:内壁
32:スピンナーテーブル
33:回転シャフト
34:モータ
35:エアピストン
36:ロッド
37:内部空間
50:研削装置
51:チャックテーブル
52:研削手段
52a:回転スピンドル
52b:ホイールマウント
52c:研削ホイール
52d:研削砥石
100、100’:第一の改質層
101:クラック
102、104、106:第二の改質層
107、108、109:第二の改質層
110:分割用改質層
W:積層ウエーハ