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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008147
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】ウエーハの製造方法及び分離装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
H01L21/304 611Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023110071
(22)【出願日】2023-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【弁理士】
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 貴之
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【弁理士】
【氏名又は名称】今藤 敏和
(72)【発明者】
【氏名】平田 和也
【テーマコード(参考)】
5F057
【Fターム(参考)】
5F057AA04
5F057BA01
5F057BB03
5F057BB06
5F057BB09
5F057CA02
5F057DA20
5F057DA22
5F057DA26
5F057DA31
5F057FA35
(57)【要約】
【課題】インゴットを複数の分離層において分離させてウエーハが製造されるようにインゴットに液体の層を介して超音波を付与してから、ウエーハとインゴットとを引き離す際にウエーハ又はインゴットの少なくとも一方が破損する蓋然性を低減することが可能なウエーハの製造方法を提供する
【解決手段】インゴットを複数の分離層において分離させてウエーハが製造されるようにインゴットに液体の層を介して超音波を付与してから、ウエーハとインゴットとを所定の方向、すなわち、複数の分離層のそれぞれが延在する方向に沿うように相対的に移動させることによって、ウエーハとインゴットとを引き離す。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インゴットからウエーハを製造するウエーハの製造方法であって、
該インゴットの素材を透過する波長のレーザービームが集光される集光点を該インゴットの内部に位置づけた状態における該インゴットと該集光点との所定の方向に沿った相対的な移動と、該インゴットと該集光点が形成される位置との該所定の方向に直交する方向に沿った相対的な移動と、を交互に繰り返すことによって、それぞれが該所定の方向に沿い、かつ、それぞれに改質部と該改質部から伸展するクラックとが含まれる複数の分離層を該インゴットの内部に形成する分離層形成ステップと、
該分離層形成ステップの後、該インゴットを該複数の分離層において分離させて該ウエーハが製造されるように該インゴットに液体の層を介して超音波を付与する超音波付与ステップと、
該超音波付与ステップの後、該ウエーハと該インゴットとを該所定の方向に沿うように相対的に移動させることによって、該ウエーハと該インゴットとを引き離す引き離しステップと、
を備えるウエーハの製造方法。
【請求項2】
それぞれが所定の方向に沿い、かつ、それぞれに改質部と該改質部から伸展するクラックとが含まれる複数の分離層が内部に形成されているインゴットからウエーハを製造するウエーハの製造方法であって、
該インゴットを該複数の分離層において分離させて該ウエーハが製造されるように該インゴットに液体の層を介して超音波を付与する超音波付与ステップと、
該超音波付与ステップの後、該ウエーハと該インゴットとを該所定の方向に沿うように相対的に移動させることによって、該ウエーハと該インゴットとを引き離す引き離しステップと、
を備えるウエーハの製造方法。
【請求項3】
該複数の分離層は、それぞれに含まれる該改質部が同一の仮想平面上に位置づけられるように形成され、
該クラックは、該仮想平面に対して傾斜するように伸展する請求項1又は2に記載のウエーハの製造方法。
【請求項4】
それぞれが所定の方向に沿い、かつ、それぞれに改質部と該改質部から伸展するクラックとが含まれる複数の分離層が内部に形成されているインゴットからウエーハを製造するための分離装置であって、
該インゴットを保持するための第1の保持ユニットと、
該ウエーハを保持するための第2の保持ユニットと
該第1の保持ユニットによって保持されている該インゴットに液体の層を介して超音波を付与するための超音波付与ユニットと、
該第1の保持ユニットと該第2の保持ユニットとを該所定の方向に沿って相対的に移動させるための移動機構と、
該第1の保持ユニット、該第2の保持ユニット、該超音波付与ユニット及び該移動機構を制御するためのコントローラと、を備え、
該コントローラは、該インゴットを保持するように該第1の保持ユニットを制御した状態で、該インゴットを該複数の分離層において分離させて該ウエーハが製造されるように該インゴットに該液体の層を介して超音波を付与するように該超音波付与ユニットを制御した後に、該インゴットを保持するように該第1の保持ユニットを制御し、かつ、該ウエーハを保持するように該第2の保持ユニットを制御した状態で、該ウエーハと該インゴットとが引き離されるように該第1の保持ユニットと該第2の保持ユニットとを該所定の方向に沿って相対的に移動させるように該移動機構を制御する分離装置。
【請求項5】
該所定の方向を特定するための特定ユニットをさらに備える請求項4に記載の分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インゴットからウエーハを製造するウエーハの製造方法及び分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスのチップは、一般的に、シリコン(Si)、炭化シリコン(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、タンタル酸リチウム(LiTaO:LT)又はニオブ酸リチウム(LiNbO:LN)等の単結晶からなるウエーハを利用して製造される。このウエーハは、例えば、インゴットの素材を透過する波長のレーザービームを利用してインゴットを分離することによって製造される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
具体的には、この方法においては、まず、このレーザービームが集光される集光点をインゴットの内部に位置づけた状態におけるインゴットと集光点との所定の方向に沿った相対的な移動と、インゴットと集光点が形成される位置との所定の方向に直交する方向に沿った相対的な移動と、を交互に繰り返す。これにより、それぞれが所定の方向に沿い、かつ、それぞれに改質部と改質部から伸展するクラックとが含まれる複数の分離層がインゴットの内部に形成される。
【0004】
そして、この方法においては、このクラックをさらに伸展させるようにインゴットに外力が付与される。その結果、インゴットが複数の分離層において分離されてウエーハが製造される。また、このようにインゴットに外力を付与する方法としては、ウエーハが製造されるようにインゴットに液体の層を介して超音波を付与してから、ウエーハとインゴットとを両者の界面に直交するような方向に引き離す方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-111143号公報
【特許文献2】特開2019-102513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
その内部に複数の分離層が形成されているインゴットに液体の層を介して超音波を付与する際には、複数の分離層のそれぞれに液体が浸透する。そのため、このインゴットが複数の分離層において分離されてウエーハが製造されると、ウエーハとインゴットとの間に液体の層が残存する。
【0007】
この場合、ウエーハとインゴットとを両者の界面に直交するような方向に引き離す際に液体の層の表面張力に起因した強い抵抗力が作用する。そのため、この場合には、ウエーハとインゴットとを引き離す際にウエーハ及びインゴットのそれぞれに強い力が作用し、両者の少なくとも一方が破損するおそれがある。
【0008】
この点に鑑み、本発明の目的は、インゴットを複数の分離層において分離させてウエーハが製造されるようにインゴットに液体の層を介して超音波を付与してから、ウエーハとインゴットとを引き離す際にウエーハ又はインゴットの少なくとも一方が破損する蓋然性を低減することが可能なウエーハの製造方法及び分離装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面によれば、インゴットからウエーハを製造するウエーハの製造方法であって、該インゴットの素材を透過する波長のレーザービームが集光される集光点を該インゴットの内部に位置づけた状態における該インゴットと該集光点との所定の方向に沿った相対的な移動と、該インゴットと該集光点が形成される位置との該所定の方向に直交する方向に沿った相対的な移動と、を交互に繰り返すことによって、それぞれが該所定の方向に沿い、かつ、それぞれに改質部と該改質部から伸展するクラックとが含まれる複数の分離層を該インゴットの内部に形成する分離層形成ステップと、該分離層形成ステップの後、該インゴットを該複数の分離層において分離させて該ウエーハが製造されるように該インゴットに液体の層を介して超音波を付与する超音波付与ステップと、該超音波付与ステップの後、該ウエーハと該インゴットとを該所定の方向に沿うように相対的に移動させることによって、該ウエーハと該インゴットとを引き離す引き離しステップと、を備えるウエーハの製造方法が提供される。
【0010】
本発明の別の側面によれば、それぞれが所定の方向に沿い、かつ、それぞれに改質部と該改質部から伸展するクラックとが含まれる複数の分離層が内部に形成されているインゴットからウエーハを製造するウエーハの製造方法であって、該インゴットを該複数の分離層において分離させて該ウエーハが製造されるように該インゴットに液体の層を介して超音波を付与する超音波付与ステップと、該超音波付与ステップの後、該ウエーハと該インゴットとを該所定の方向に沿うように相対的に移動させることによって、該ウエーハと該インゴットとを引き離す引き離しステップと、を備えるウエーハの製造方法が提供される。
【0011】
さらに、本発明のウエーハの製造方法においては、該複数の分離層は、それぞれに含まれる該改質部が同一の仮想平面上に位置づけられるように形成され、該クラックは、該仮想平面に対して傾斜するように伸展することが好ましい。
【0012】
本発明のさらに別の側面によれば、それぞれが所定の方向に沿い、かつ、それぞれに改質部と該改質部から伸展するクラックとが含まれる複数の分離層が内部に形成されているインゴットからウエーハを製造するための分離装置であって、該インゴットを保持するための第1の保持ユニットと、該ウエーハを保持するための第2の保持ユニットと該第1の保持ユニットによって保持されている該インゴットに液体の層を介して超音波を付与するための超音波付与ユニットと、該第1の保持ユニットと該第2の保持ユニットとを該所定の方向に沿って相対的に移動させるための移動機構と、該第1の保持ユニット、該第2の保持ユニット、該超音波付与ユニット及び該移動機構を制御するためのコントローラと、を備え、該コントローラは、該インゴットを保持するように該第1の保持ユニットを制御した状態で、該インゴットを該複数の分離層において分離させて該ウエーハが製造されるように該インゴットに該液体の層を介して超音波を付与するように該超音波付与ユニットを制御した後に、該インゴットを保持するように該第1の保持ユニットを制御し、かつ、該ウエーハを保持するように該第2の保持ユニットを制御した状態で、該ウエーハと該インゴットとが引き離されるように該第1の保持ユニットと該第2の保持ユニットとを該所定の方向に沿って相対的に移動させるように該移動機構を制御する分離装置が提供される。
【0013】
さらに、本発明の分離装置は、該所定の方向を特定するための特定ユニットをさらに備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、インゴットを複数の分離層において分離させてウエーハが製造されるようにインゴットに液体の層を介して超音波を付与してから、ウエーハとインゴットとを所定の方向、すなわち、複数の分離層のそれぞれが延在する方向に沿うように相対的に移動させることによって、ウエーハとインゴットとを引き離す。
【0015】
この場合、ウエーハとインゴットとを両者の界面に直交するような方向に引き離す場合と比較して、液体の層の表面張力に起因した抵抗力が弱くなる。そのため、本発明においては、この引き離しの際にウエーハ又はインゴットの少なくとも一方が破損する蓋然性を低減することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1(A)は、インゴットの一例を模式的に示す斜視図であり、図1(B)は、図1(A)に示されるインゴットを模式的に示す側面図である。
図2図2は、インゴットからウエーハを製造するウエーハの製造方法の一例を模式的に示すフローチャートである。
図3図3は、分離層形成ステップの様子を模式的に示す斜視図である。
図4図4は、複数の分離層をインゴットの内部に形成する際のレーザー加工装置の動作を模式的に示すフローチャートである。
図5図5は、分離層形成ステップ後のインゴットを模式的に示す部分拡大断面図である。
図6図6は、超音波付与ステップ及び引き離しステップを実施可能な分離装置の一例を模式的に示す斜視図である。
図7図7は、超音波付与ステップの様子を模式的に示す側面図である。
図8図8は、超音波付与ステップ後のインゴットとインゴットから製造されたウエーハとを模式的に示す部分拡大断面図である。
図9図9(A)及び図9(B)のそれぞれは、引き離しステップの様子を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。図1(A)は、インゴットの一例を模式的に示す斜視図であり、図1(B)は、図1(A)に示されるインゴットを模式的に示す側面図である。図1(A)及び図1(B)に示されるインゴット11は、例えば、SiCの単結晶からなり、概ね平行な表面11a及び裏面11bを含む円柱状の形状を有する。
【0018】
このインゴット11は、エピタキシャル成長を利用して製造されたものである。なお、インゴット11は、内部に形成される格子欠陥を少なくするために、SiCのc軸11cが表面11a及び裏面11bの垂線11dに対して僅かに傾くように製造される。例えば、c軸11cと垂線11dとがなす角(オフ角)αは、1°~6°(代表的には、4°)である。
【0019】
また、インゴット11の側面には、SiCの結晶方位を示すための2つの平部、すなわち、一次オリエンテーションフラット13及び二次オリエンテーションフラット15が形成されている。そして、一次オリエンテーションフラット13は、二次オリエンテーションフラット15よりも長い。また、二次オリエンテーションフラット15は、SiCのc面11eに平行な面と表面11a又は裏面11bとが交差する交差線に平行になるように形成されている。
【0020】
なお、インゴット11は、SiC以外の物質(例えば、Si、GaN、LT又はLN等)の単結晶を素材としてもよい。また、インゴット11の側面には、一次オリエンテーションフラット13及び二次オリエンテーションフラット15の一方又は双方が形成されなくてもよく、また、これらに換えてインゴット11を構成する素材の結晶方位を示すための切り欠き(ノッチ)が形成されてもよい。
【0021】
図2は、インゴット11からウエーハを製造するウエーハの製造方法の一例を模式的に示すフローチャートである。この方法においては、まず、それぞれが所定の方向に沿い、かつ、それぞれに改質部と改質部から伸展するクラックとが含まれる複数の分離層をインゴット11の内部に形成する(分離層形成ステップS1)。なお、この所定の方向は、例えば、上記の交差線に平行な方向、すなわち、二次オリエンテーションフラット15に平行な方向である。
【0022】
図3は、分離層形成ステップS1の様子を模式的に示す斜視図である。なお、図3に示されるX軸方向及びY軸方向は、水平面上において互いに直交する方向であり、また、Z軸方向は、X軸方向及びY軸方向に直交する方向(鉛直方向)である。この分離層形成ステップS1は、図3に示されるレーザー加工装置2において実施される。
【0023】
レーザー加工装置2は、インゴット11を保持するための保持ユニット4を備える。この保持ユニット4は、水平面に概ね平行な円状の保持面を有するチャックテーブル4aと、このチャックテーブル4aに連通する吸引機構(不図示)と、を含む。
【0024】
また、吸引機構は、例えば、エジェクタ等を有する。そして、吸引機構が動作すると、チャックテーブル4aの保持面近傍の空間に吸引力が作用する。そのため、チャックテーブル4aの保持面にインゴット11が置かれた状態で吸引機構が動作すると、この保持面においてインゴット11が保持される。
【0025】
また、チャックテーブル4aは、回転機構(不図示)に連結されている。この回転機構は、例えば、プーリ及びモータ等を有する。そして、回転機構が動作すると、その保持面の中心を通るZ軸方向に沿った直線を回転軸としてチャックテーブル4aが回転する。例えば、回転機構は、チャックテーブル4aの保持面において保持されたインゴット11の二次オリエンテーションフラット15がX軸方向と平行になるようにチャックテーブル4aを回転させる。
【0026】
チャックテーブル4aの上方には、レーザービーム照射ユニット6のヘッド8が設けられている。このヘッド8は、Y軸方向に沿って延在する円筒状のハウジング10の先端部に設けられている。なお、ヘッド8は集光レンズ(例えば、開口数(NA)が0.65の集光レンズ)及びミラー等の光学系を収容し、ハウジング10はミラー及び/又はレンズ等の光学系を収容する。
【0027】
ハウジング10の基端部は、移動機構に連結されている。この移動機構は、例えば、ボールねじ及びモータ等を有する。そして、移動機構が動作すると、X軸方向、Y軸方向及び/又はZ軸方向に沿ってヘッド8及びハウジング10が移動する。また、レーザービーム照射ユニット6は、例えば、Nd:YAG等のレーザー媒質を含むレーザー発振器(不図示)を有する。
【0028】
このレーザー発振器は、インゴット11の素材を透過する波長(例えば、1064nm)のパルスレーザービーム(例えば、周波数が60kHzでパルス幅が4nsのパルスレーザービーム)を生成する。そして、レーザービームは、その出力(パワー)が減衰器において調整された(例えば、その平均出力が1.5Wになるように調整された)後、ハウジング10及びヘッド8に収容された光学系を介してヘッド8から直下に向けて射出される。
【0029】
さらに、ハウジング10の側部には、その直下の領域を撮像可能な撮像ユニット12が設けられている。この撮像ユニット12は、例えば、LED(Light Emitting Diode)等の光源と、対物レンズと、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサ又はCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサ等の撮像素子と、を有する。
【0030】
レーザー加工装置2において分離層形成ステップS1を実施する際には、まず、表面11aが上になるようにインゴット11をチャックテーブル4aの保持面に置く。次いで、この保持面においてインゴット11が保持されるように吸引機構を動作させる。次いで、撮像ユニット12による撮像によって形成されたインゴット11の表面11aの画像等に基づいて、所定の方向(すなわち、二次オリエンテーションフラット15に平行な方向)がX軸方向に平行になるように回転機構がチャックテーブル4aを回転させる。
【0031】
次いで、複数の分離層をインゴット11の内部に形成する。図4は、複数の分離層をインゴット11の内部に形成する際のレーザー加工装置2の動作を模式的に示すフローチャートである。具体的には、まず、インゴット11のうち二次オリエンテーションフラット15から僅かに内側の領域が、平面視において、ヘッド8からみてX軸方向に位置づけられるように、移動機構がX軸方向及び/又はY軸方向に沿ってヘッド8及びハウジング10を移動させる。
【0032】
次いで、ヘッド8から射出されたレーザービームが集光される集光点(例えば、その直径が3.0μmの集光点)がインゴット11の表面11aから所定の深さ(例えば、表面11aから300μmの深さ)に位置づけられるように移動機構がZ軸方向に沿ってヘッド8及びハウジング10を移動させる。次いで、ヘッド8からレーザービームを射出しながら、レーザービームが集光される集光点がインゴット11のX軸方向における一端から他端までを通り過ぎるように移動機構がヘッド8及びハウジング10を所定の速度(例えば、200mm/s)でX軸方向に沿って移動させる。
【0033】
すなわち、レーザービームが集光される集光点をインゴット11の内部に位置づけた状態においてインゴット11と集光点とをX軸方向に沿って相対的に移動させる(レーザービーム照射ステップS11)。これにより、インゴット11の素材(ここでは、SiC)の結晶構造が乱れた改質部17が、レーザービームが集光される集光点を中心としてインゴット11の内部に形成される。
【0034】
そして、インゴット11の全域に対するレーザービームの照射が完了していない状況においては(ステップS12:NO)、インゴット11と集光点が形成される位置とをY軸方向に沿って相対的に移動させる(割り出し送りステップS13)。具体的には、ヘッド8が、平面視において、既にレーザービームが照射された領域よりも二次オリエンテーションフラット15から僅かに遠い領域からみてX軸方向に位置づけられるように、移動機構がY軸方向に沿ってヘッド8及びハウジング10を所定のインデックス量(例えば、250μm~400μm)だけ移動させる。
【0035】
次いで、上述したようなインゴット11に対するレーザービームの照射(すなわち、レーザービーム照射ステップS11)を再び行う。さらに、インゴット11のうち二次オリエンテーションフラット15から最も遠い領域に対してレーザービームが照射されてインゴット11の全域に対するレーザービームの照射が完了するまで、割り出し送りステップS13とレーザービーム照射ステップS11とを交互に繰り返す。これにより、分離層形成ステップS1が完了する。
【0036】
図5は、分離層形成ステップS1後のインゴット11を模式的に示す部分拡大断面図である。分離層形成ステップS1においては、それぞれが所定の方向(ここでは、X軸方向)に沿って延在し、かつ、それぞれの中心がインゴット11の表面11aから所定の深さに位置する複数の改質部17が形成される。
【0037】
換言すると、分離層形成ステップS1においては、所定の方向に直交する方向(ここでは、Y軸方向)において等間隔に、かつ、インゴット11の表面11aに概ね平行な仮想平面上に位置づけられるように複数の改質部17が形成される。また、インゴット11の内部に改質部17が形成されると、インゴット11の体積が膨張してインゴット11に内部応力が生じる。
【0038】
そして、この内部応力は、複数の改質部17のそれぞれからクラック19が伸展することによって緩和される。なお、このクラック19は、インゴット11の表面11aに対して傾斜したc面11eに沿うように伸展する。そのため、このクラック19は、複数の改質部17が位置付けられる仮想平面に対して傾斜するように伸展する。
【0039】
その結果、分離層形成ステップS1においては、それぞれが所定の方向に沿い、かつ、それぞれに改質部17と改質部17から進展するクラック19とが含まれる複数の分離層21がインゴット11の内部に形成される。
【0040】
分離層形成ステップS1の後には、インゴット11を複数の分離層21において分離させてウエーハが製造されるようにインゴット11に液体の層を介して超音波を付与してから(超音波付与ステップS2)、ウエーハとインゴット11とを所定の方向に沿うように相対的に移動させることによって、ウエーハとインゴット11とを引き離す(引き離しステップS3)。
【0041】
図6は、超音波付与ステップS2及び引き離しステップS3を実施可能な分離装置の一例を模式的に示す斜視図である。なお、図6に示されるU軸方向及びV軸方向は、水平面上において互いに直交する方向であり、また、W軸方向は、U軸方向及びV軸方向に直交する方向(鉛直方向)である。また、図6においては、分離装置の一部の構成要素がブロックで示されている。
【0042】
図6に示される分離装置14は、インゴット11を保持するための第1の保持ユニット16を備える。この第1の保持ユニット16は、水平面に概ね平行な円状の保持面を有するチャックテーブル16aと、このチャックテーブル16aに連通する吸引機構(不図示)と、を含む。
【0043】
また、吸引機構は、例えば、エジェクタ等を有する。そして、吸引機構が動作すると、チャックテーブル16aの保持面近傍の空間に吸引力が作用する。そのため、チャックテーブル16aの保持面にインゴット11が置かれた状態で吸引機構が動作すると、この保持面においてインゴット11が保持される。
【0044】
また、チャックテーブル16aは、回転機構(不図示)に連結されている。この回転機構は、例えば、プーリ及びモータ等を有する。そして、回転機構が動作すると、その保持面の中心を通るW軸方向に沿った直線を回転軸としてチャックテーブル16aが回転する。例えば、回転機構は、チャックテーブル16aの保持面において保持されたインゴット11の二次オリエンテーションフラット15がV軸方向と平行になるようにチャックテーブル16aを回転させる。
【0045】
また、チャックテーブル16aは、W軸方向移動機構に連結されている。このW軸方宇高移動機構は、例えば、ボールねじ及びモータ等を有する。そして、W軸方向移動機構が動作すると、W軸方向に沿ってチャックテーブル16aが移動する、すなわち、チャックテーブル16aが昇降する。例えば、W軸方向移動機構は、チャックテーブル16aの保持面において保持されたインゴット11を後述する超音波付与ユニット30又は第2の保持ユニット42に接近させるようにチャックテーブル16aを上昇させる。
【0046】
チャックテーブル16aの斜め上方には、V軸方向移動機構18が設けられている。このV軸方向移動機構18は、V軸方向に沿って延在し、かつ、チャックテーブル16a側の側面に開口20aが形成されている四角柱状の枠体20を有する。この枠体20には、第1のボールねじ(不図示)及び第2のボールねじ(不図示)が収容されている。
【0047】
この第1のボールねじのねじ軸の基端部は、枠体20の一端(後端)部に形成されている貫通孔を通ってモータ22と連結する。同様に、第2のボールねじのねじ軸の基端部は、枠体20の他端(前端)部に形成されている貫通孔を通ってモータ24と連結する。さらに、枠体20の開口20aには、第1の移動プレート26の基端部と、第2の移動プレート28の基端部と、が挿入されている。
【0048】
そして、第1の移動プレート26の基端部は、第1のボールねじのナットに固定されている。同様に、第2の移動プレート28の基端部は、第2のボールねじのナットに固定されている。そのため、モータ22又はモータ24の少なくとも一方が動作すると、第1の移動プレート26又は第2の移動プレート28の少なくとも一方が互いに接触しない範囲でV軸方向に沿って移動する。
【0049】
第1の移動プレート26の先端部には、第1の保持ユニット16によって保持されているインゴット11に液体の層を介して超音波を付与するための超音波付与ユニット30と、このインゴット11に形成されている複数の分離層21のそれぞれが延在する方向(所定の方向)を特定するための画像を形成する撮像ユニット(特定ユニット)40と、が設けられている。
【0050】
超音波付与ユニット30は、第1の保持ユニット16によって保持されているインゴット11の上面(例えば、表面11a)に対面させることが可能な下面を有する円柱状の振動部材32を有する。そして、振動部材32は超音波振動子を内蔵し、この超音波振動子が振動することによって振動部材32の全体が振動する。
【0051】
また、振動部材32の上面の中央領域には、接続部34の先端(下端)部が固定されている。そして、この接続部34は、第1の移動プレート26の先端部の下面側に固定されている。また、第1の移動プレート26の上面の角には、配管(不図示)及びバルブ(不図示)等を介して液体供給源(不図示)から液体(例えば、水)が供給される円筒状の給水口36が設けられている。
【0052】
この給水口36に供給された液体は、V軸方向において振動部材32及び接続部34と隣接する位置に設けられた液体ノズル38に供給される。また、この液体は、液体ノズル38内の流路を通って、その下面に設けられた開口から振動部材32の下面に供給される。
【0053】
撮像ユニット40は、例えば、インゴット11を透過する波長の光を照射するLED等の光源と、対物レンズと、CCDイメージセンサ又はCMOSイメージセンサ等の撮像素子と、を有し、その直下の領域を撮像可能である。
【0054】
また、第2の移動プレート28の先端部には、インゴット11を複数の分離層21において分離することによって製造されるウエーハを保持するための第2の保持ユニット42が設けられている。この第2の保持ユニット42は、その下面に複数の吸引口が設けられている吸引板44を有する。
【0055】
複数の吸引口は、吸引板44の内部に設けられた流路(不図示)及び流路に連結された配管(不図示)及びバルブ(不図示)等を介してエジェクタ等の吸引機構(不図示)に連通する。また、吸引板44の上面の中央領域には、接続部46の先端(下端)部が固定されている。そして、この接続部46は、第2の移動プレート28の先端部の下面側に固定されている。
【0056】
さらに、分離装置14は、各構成要素(例えば、第1の保持ユニット16、V軸方向移動機構18、超音波付与ユニット30、撮像ユニット40及び第2の保持ユニット42等)を制御するためのコントローラ48を備える。このコントローラ48は、プロセッサ48aとメモリ48bとを有する。
【0057】
プロセッサ48aは、例えば、CPU(Central Processing Unit)等によって構成される。また、メモリ48bは、例えば、DRAM(Dynamic Random Access Memory)又はSRAM(Static Random Access Memory)等の揮発性メモリと、SSD(Solid State Drive)(NAND型フラッシュメモリ)又はHDD(Hard Disk Drive)(磁気記憶装置)等の不揮発性メモリと、によって構成される。
【0058】
メモリ48bは、プロセッサ48aにおいて用いられるデータ及びプログラム等を記憶する。また、プロセッサ48aは、メモリ48bに記憶されたプログラムを読みだして実行するように分離装置14の各構成要素を制御する。
【0059】
複数の分離層21が形成されているインゴット11が分離装置14に搬入されると、まず、その表面11aが上になるようにインゴット11がチャックテーブル16aの保持面に置かれる。次いで、インゴット11が保持されるようにコントローラ48が第1の保持ユニット16、具体的には、チャックテーブル16aと連通する吸引機構を制御する。
【0060】
次いで、インゴット11の直上に振動部材32を位置づけるようにコントローラ48がV軸方向移動機構18、具体的には、モータ22を制御する。次いで、振動部材32の下面がインゴット11の表面11aに接近するまでチャックテーブル16aを上昇させるようにコントローラ48がチャックテーブル16aに連結されているW軸方向移動機構を制御する。
【0061】
次いで、インゴット11を複数の分離層21において分離させてウエーハが製造されるようにインゴット11に液体の層を介して超音波を付与するようにコントローラ48が超音波付与ユニット30を制御する。すなわち、超音波付与ステップS2を実施する。図7は、超音波付与ステップS2の様子を模式的に示す側面図である。
【0062】
超音波付与ステップS2においては、振動部材32の全体を振動させるようにコントローラ48が振動部材32に内蔵される超音波振動子を制御しながら、液体ノズル38から振動部材32の下面に液体Lが供給されるようにコントローラ48が液体供給源を制御する。
【0063】
この時、振動部材32を振動させ、かつ、振動部材32の下面に液体Lを供給したまま、チャックテーブル16aを回転させるようにコントローラ48がチャックテーブル16aに連結されている回転機構を制御してもよい。これにより、液体Lを媒体として超音波がインゴット11に付与される。以上によって、超音波付与ステップS2が完了する。
【0064】
図8は、超音波付与ステップS2後のインゴット11とインゴット11から製造されたウエーハとを模式的に示す部分拡大断面図である。超音波付与ステップS2においては、複数の分離層21のそれぞれに含まれるクラック19が伸展する。これにより、インゴット11の側面において露出するクラックが多くなるとともに、隣接する一対の分離層21に含まれるクラック19が繋がる。
【0065】
この時、インゴット11の内部には、その側面において露出するクラック19を介して液体Lが浸透する。また、インゴット11が複数の分離層21において分離してウエーハ23が製造される。そのため、インゴット11とウエーハ23との界面には、液体Lの層が残存する。
【0066】
なお、複数の分離層21のそれぞれに含まれるクラック19は、インゴット11の表面11aに対して傾斜したc面11eに沿うように伸展する。そのため、インゴット11及びウエーハ23のそれぞれの新たに露出される面は、インゴット11に形成されている複数の分離層21のそれぞれが延在する方向(所定の方向)に直交する方向においてうねるような形状を有する。換言すると、これらの面は、所定の方向における最大高さうねりWzが小さくなるものの、それに直交する方向における最大高さうねりWzが大きい形状を有する。
【0067】
次いで、インゴット11に対する液体Lの層を介した超音波の付与を停止するようにコントローラ48が超音波付与ユニット30を制御する。具体的には、振動部材32の振動及び振動部材32の下面への液体Lの供給を停止させるとともにチャックテーブル16aを下降させるように、コントローラ48が超音波振動子と液体供給源とチャックテーブル16aに連結されているW軸方向移動機構とを制御する。
【0068】
次いで、インゴット11の直上に撮像ユニット40を位置づけるようにコントローラ48がV軸方向移動機構18、具体的には、モータ22を制御する。次いで、所定の方向を特定するための画像を形成するようにコントローラ48が撮像ユニット40を制御する。例えば、コントローラ48は、インゴット11とウエーハ23との界面に焦点が合うような画像を形成するように撮像ユニット40を制御する。
【0069】
この場合、この画像を参照することによってインゴット11及びウエーハ23のそれぞれの新たに露出される面のうねりが把握できるため、所定の方向を特定することが可能になる。次いで、この画像を参照して特定された所定の方向がV軸方向と平行になるようにコントローラ48がチャックテーブル16aに連結されている回転機構を制御する。
【0070】
次いで、撮像ユニット40を平面視においてインゴット11から離隔させ、かつ、インゴット11の直上に吸引板44を位置づけるようにコントローラ48がV軸方向移動機構18、具体的には、モータ22,24を制御する。次いで、吸引板44の下面がウエーハ23に接触するまでチャックテーブル16aを上昇させるようにコントローラ48がチャックテーブル16aに連結されているW軸方向移動機構を制御する。
【0071】
次いで、ウエーハ23とインゴット11とを所定の方向、すなわち、V軸方向に沿って相対的に移動させるようにコントローラ48が第2の保持ユニット42とV軸方向移動機構18、具体的には、モータ24とを制御する。すなわち、引き離しステップS3を実施する。図9(A)及び図9(B)のそれぞれは、引き離しステップS3の様子を模式的に示す側面図である。
【0072】
引き離しステップS3においては、まず、第2の保持ユニット42によってウエーハ23が保持されるようにコントローラが第2の保持ユニット42、具体的には、吸引板44の下面に設けられた複数の吸引口に連通している吸引機構を制御する(図9(A)参照)。次いで、第2の保持ユニット42によってウエーハ23を保持したまま、V軸方向に沿ってウエーハ23とインゴット11とを引き離すようにコントローラ48がV軸方向移動機構18、具体的には、モータ24を制御する(図9(B)参照)。
【0073】
図2に示されるウエーハの製造方法においては、インゴット11を複数の分離層21において分離させてウエーハ23が製造されるようにインゴット11に液体Lの層を介して超音波を付与してから、ウエーハ23とインゴット11とを所定の方向、すなわち、複数の分離層21のそれぞれが延在する方向に沿うように相対的に移動させることによって、ウエーハ23とインゴット11とを引き離す。
【0074】
この場合、ウエーハ23とインゴット11とを両者の界面に直交するような方向に引き離す場合と比較して、液体Lの層の表面張力に起因した抵抗力が弱くなる。そのため、この方法においては、この引き離しの際にウエーハ23又はインゴット11の少なくとも一方が破損する蓋然性を低減することが可能である。
【0075】
なお、上述した内容は本発明の一態様であって、本発明は上述した内容に限定されない。例えば、本発明のウエーハの製造方法は、図2に示されるウエーハの製造方法から分離層形成ステップS1が捨象されたウエーハの製造方法であってもよい。すなわち、本発明のウエーハの製造方法は、既に複数の分離層21が内部に形成されているインゴット11からウエーハ23を製造するウエーハの製造方法であってもよい。
【0076】
また、本発明の分離装置は、超音波付与ユニット30及び第2の保持ユニット42をV軸方向に沿って移動させるためのV軸方向移動機構18に換えて又は加えて、第1の保持ユニット16をV軸方向に沿って移動させるためのV軸方向移動機構が設けられてもよい。すなわち、本発明においては、ウエーハ23とインゴット11とを上記の所定の方向に沿って相対的に移動させることが可能であればよく、そのための構造に限定はない。
【0077】
また、本発明の分離装置は、撮像ユニット40を備えなくてもよい。この場合、上記の所定の方向は、撮像ユニット40による撮像によって形成される画像を参照して特定されるのではなく、例えば、二次オリエンテーションフラット15を目視することによって特定される。
【0078】
その他、上述した実施形態にかかる構造及び方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0079】
2 :レーザー加工装置
4 :保持ユニット(4a:チャックテーブル)
6 :レーザービーム照射ユニット
8 :ヘッド
10:ハウジング
11:インゴット(11a:表面、11b:裏面)
(11c:c軸、11d:垂線、11e:c面)
12:撮像ユニット
13:一次オリエンテーションフラット
14:分離装置
15:二次オリエンテーションフラット
16:第1の保持ユニット(16a:チャックテーブル)
17:改質部
18:V軸方向移動機構
19:クラック
20:枠体(20a:開口)
21:分離層
22:モータ
23:ウエーハ
24:モータ
26:第1の移動プレート
28:第2の移動プレート
30:超音波付与ユニット
32:振動部材
34:接続部
36:給水口
38:液体ノズル
40:撮像ユニット(特定ユニット)
42:第2の保持ユニット
44:吸引板
46:接続部
48:コントローラ(48a:プロセッサ、48b:メモリ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9