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2025-8204セメント硬化体中のアミン系化合物の検出方法
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  • -セメント硬化体中のアミン系化合物の検出方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008204
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】セメント硬化体中のアミン系化合物の検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 31/00 20060101AFI20250109BHJP
   G01N 33/38 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
G01N31/00 V
G01N33/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023110162
(22)【出願日】2023-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】矢野 慧一
(72)【発明者】
【氏名】辻埜 真人
(72)【発明者】
【氏名】依田 侑也
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 亮介
(72)【発明者】
【氏名】西田 朗
(72)【発明者】
【氏名】北垣 亮馬
(72)【発明者】
【氏名】エラクネス ヨガラジャ
(72)【発明者】
【氏名】仙北 久典
(72)【発明者】
【氏名】坂入 正敏
(72)【発明者】
【氏名】伏見 公志
【テーマコード(参考)】
2G042
【Fターム(参考)】
2G042AA01
2G042BA03
2G042BA04
2G042BA06
2G042BD13
2G042CA04
2G042DA08
2G042EA03
2G042EA20
2G042FA01
2G042FA12
2G042FB02
(57)【要約】
【課題】セメント硬化体における、アミン系化合物の含有の有無および含有量の多寡について簡易に把握することができるアミン系化合物の検出方法を提供する。
【解決手段】セメント硬化体を粉砕してセメント粉体とする第1の工程と、前記セメント粉体と、酸性試薬と、呈色試薬とを混合して、前記セメント粉体と、前記酸性試薬と、前記呈色試薬とを含む混合物とする第2の工程と、前記混合物の呈色状態を確認する第3の工程と、を有する、アミン系化合物の検出方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント硬化体を粉砕してセメント粉体とする第1の工程と、
前記セメント粉体と、酸性試薬と、呈色試薬とを混合して、前記セメント粉体と、前記酸性試薬と、前記呈色試薬とを含む混合物とする第2の工程と、
前記混合物の呈色状態を確認する第3の工程と、を有する、アミン系化合物の検出方法。
【請求項2】
前記第2の工程において、前記セメント粉体と前記酸性試薬を混合した後に、さらに、前記呈色試薬を混合する、請求項1に記載のアミン系化合物の検出方法。
【請求項3】
前記セメント粉体の平均粒子径は、80μm以上150μm以下である、請求項1に記載のアミン系化合物の検出方法。
【請求項4】
前記酸性試薬は、硝酸、硫酸、塩酸、酢酸およびリン酸から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のアミン系化合物の検出方法。
【請求項5】
前記酸性試薬の添加量は、前記セメント粉体と水の混合物の質量の0.1倍以上10倍以下である、請求項1に記載のアミン系化合物の検出方法。
【請求項6】
前記呈色試薬は、ニンヒドリン試薬、ドラーゲンドルフ試薬、マルキス試薬、シモン試薬およびスコットテストから選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のアミン系化合物の検出方法。
【請求項7】
前記呈色試薬の添加量は、前記セメント粉体と水の混合物の質量の0.1倍以上10倍以下である、請求項1に記載のアミン系化合物の検出方法。
【請求項8】
前記呈色試薬の添加量は、前記セメント粉体と水の混合物の質量の0.2倍以上5倍以下である、請求項7に記載のアミン系化合物の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント硬化体中のアミン系化合物の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化防止に向けた大気中の二酸化炭素(以下、「CO」ともいう。)の除去技術として、コンクリート構造物等のセメント硬化体の表面からアミン系含浸剤を浸透させて、アミン系含浸剤を介してセメント硬化体中にCOを促進固定化する技術が提案されている。セメント硬化体の表面から浸透させたアミン系含浸剤について、セメント硬化体の深さ方向におけるアミン系含浸剤の濃度分布を測定することは、アミン系含浸剤の重ね塗りのタイミングを把握するためや、COの固定量を最大化するために必要である。
【0003】
アミン系化合物は、コンクリートにおいて、鉄筋防錆剤(例えば、非特許文献1、特許文献1参照)、凝結促進剤(例えば、非特許文献2参照)、強度増進剤(例えば、非特許文献3参照)等として利用されている。しかしながら、セメント硬化体中のアミン系化合物の濃度を測定した例は極めて少ない。セメント硬化体中のアミン系化合物の濃度を測定する技術としては、精密測定手法および簡易測定手法が開発・展開されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-179919号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】遠藤裕丈、久保善司、島多昭典、“寒冷地における表面含浸材による既設コンクリートの凍・塩害抑制効果”、寒地土木研究所月報、No.752、pp.2-10(2016).
【非特許文献2】坂井悦郎、“化学混和剤”、コンクリート工学、Vol.51、No.1、pp.40-44(2013).
【非特許文献3】宮川美穂、岩城圭介、新大軌、小山智幸、“フライアッシュを使用した調合における初期強度に及ぼすアミン系強度増進剤の効果”、日本建築学会構造系論文集、第82巻、第736号、pp.783-789(2017).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アミン系化合物の精密測定手段である核磁気共鳴装置(NMR)や高速液体クロマトグラフ(HPLC)は、対象試料の前処理が煩雑である上に、高価かつ大がかりな分析装置が必要であるため、現場での測定には不向きである。
【0007】
また、アミン系化合物の簡易測定手法である呈色試験法を行うための器具としては、アミノ酸や覚せい剤を対象としたキットが市販されている。そのようなキットは、アミン系化合物を含む試料と複数の試薬を混合(必要に応じて加熱)することで呈色反応が生じるため、現場での測定に適している。しかしながら、セメント硬化体のような強塩基性かつ夾雑イオン成分を多く含む試料に対しては、市販の呈色試薬をそのまま適用することができなかった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、セメント硬化体における、アミン系化合物の含有の有無および含有量の多寡について簡易に把握することができるアミン系化合物の検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は以下の態様を有する。
[1]セメント硬化体を粉砕してセメント粉体とする第1の工程と、
前記セメント粉体と、酸性試薬と、呈色試薬とを混合して、前記セメント粉体と、前記酸性試薬と、前記呈色試薬とを含む混合物とする第2の工程と、
前記混合物の呈色状態を確認する第3の工程と、を有する、アミン系化合物の検出方法。
[2]前記第2の工程において、前記セメント粉体と前記酸性試薬を混合した後に、さらに、前記呈色試薬を混合する、[1]に記載のアミン系化合物の検出方法。
[3]前記セメント粉体の平均粒子径は、80μm以上150μm以下である、[1]または[2]に記載のアミン系化合物の検出方法。
[4]前記酸性試薬は、硝酸、硫酸、塩酸、酢酸およびリン酸から選択される少なくとも1種である、[1]~[3]のいずれかに記載のアミン系化合物の検出方法。
[5]前記酸性試薬の添加量は、前記セメント粉体と水の混合物の質量の0.1倍以上10倍以下である、[1]~[4]のいずれかに記載のアミン系化合物の検出方法。
[6]前記呈色試薬は、ニンヒドリン試薬、ドラーゲンドルフ試薬、マルキス試薬、シモン試薬およびスコットテストから選択される少なくとも1種である、[1]~[5]のいずれかに記載のアミン系化合物の検出方法。
[7]前記呈色試薬の添加量は、前記セメント粉体と水の混合物の質量の0.1倍以上10倍以下である、[1]~[6]のいずれかに記載のアミン系化合物の検出方法。
[8]前記呈色試薬の添加量は、前記セメント粉体と水の混合物の質量の0.2倍以上5倍以下である、[7]に記載のアミン系化合物の検出方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、セメント硬化体における、アミン系化合物の含有の有無および含有量の多寡について簡易に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実験例において、セメント粉体中のアミン系化合物の含有量による呈色試験の検討結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態に係るアミン系化合物の検出方法の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0013】
[アミン系化合物の検出方法]
本実施形態のアミン系化合物の検出方法は、セメント硬化体におけるアミン系化合物の有無を検出する方法である。
本実施形態のアミン系化合物の検出方法は、セメント硬化体を粉砕してセメント粉体とする第1の工程と、前記セメント粉体と、酸性試薬と、呈色試薬とを混合して、前記セメント粉体と、前記酸性試薬と、前記呈色試薬とを含む混合物とする第2の工程と、前記混合物の呈色状態を確認する第3の工程と、を有する。
【0014】
「第1の工程」
第1の工程では、セメント硬化体を粉砕してセメント粉体とする。
【0015】
(セメント硬化体)
本実施形態のアミン系化合物の検出方法では、セメント硬化体は、セメント硬化体に二酸化炭素吸収剤が担持した二酸化炭素固定化用セメント硬化体である。二酸化炭素固定化用セメント硬化体は、二酸化炭素の固定化に用いられる。
本明細書において、「担持」とは、二酸化炭素吸収剤が、セメント硬化体の内部および表面の少なくとも一方に付着していることをいう。
本明細書において、セメント硬化体は、いわゆる担体として機能する。
【0016】
セメント硬化体は、セメントと水とを含有する含セメント組成物の硬化物である。
本明細書において、「硬化物」とは、指で押しても変形しない程度に硬化した状態のものをいう。
含セメント組成物としては、例えば、コンクリート(生コンクリート)、モルタル(ペーストモルタル)、セメントミルク(セメントペースト)等が挙げられる。
本明細書において、コンクリートとは、セメントと細骨材(砂)と粗骨材(砂利(砕石))とを混合し、水で練ったものをいう。
本明細書において、モルタルとは、セメントと細骨材(砂)とを混合し、水で練ったものをいう。
本明細書において、セメントミルクとは、セメントを水だけで練ったものをいう。
本明細書において、セメントとは、石灰石、粘土、珪石、酸化鉄原料等を主原料とした、水による化学反応で硬化する粉体のことをいう。
本明細書において、細骨材とは、直径5mm以下の砂をいう。
本明細書において、粗骨材とは、直径5mm超の砂利(砕石)をいい、粗骨材の直径は、25mm以下が好ましい。
【0017】
コンクリートにおけるセメントと細骨材と粗骨材との混合割合は、コンクリートに求める強度に応じて適宜決定できる。セメントと細骨材と粗骨材との混合割合は、質量比で、例えば、セメント1に対して、細骨材2~3、粗骨材4~6が好ましい。
【0018】
モルタルにおけるセメントと細骨材との混合割合は、モルタルに求める強度に応じて適宜決定できる。セメントと細骨材との混合割合は、質量比で、例えば、セメント1に対して、細骨材2~4が好ましい。
【0019】
セメント硬化体としては、特に限定されないが、既設の構造物における割合が高いことから、コンクリートが好ましく、鉄筋コンクリートがより好ましい。
【0020】
(二酸化炭素吸収剤)
二酸化炭素吸収剤は、セメント硬化体中に担持され、大気中の二酸化炭素を吸収する。
このため、大気中の二酸化炭素はセメント硬化体に取り込まれ、大気中の二酸化炭素濃度が低減する。すなわち、大気中の二酸化炭素をセメント硬化体に固定化できる。二酸化炭素吸収剤は、常温・常圧で固体であってもよく、液体であってもよい。
本明細書において、「常温」とは、大気の標準的な温度をいい、例えば、15~25℃である。「常圧」とは、大気の標準的な圧力をいい、例えば、1気圧(1013hPa)である。
【0021】
二酸化炭素吸収剤としては、例えば、アルカリ性化合物が挙げられる。
ここで、「アルカリ性化合物」とは、水に溶解したときに、pHが7超になる化合物をいう。
アルカリ性化合物は、無機化合物であってもよく、有機化合物であってもよく、それらの混合物であってもよい。
無機のアルカリ性化合物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウム、亜硝酸リチウム、亜硝酸カルシウム等が挙げられる。
有機のアルカリ性化合物としては、例えば、アルギニン、リジン、尿素、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、アミン系化合物等が挙げられる。
二酸化炭素吸収剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、二酸化炭素吸収材は、アルカリ性化合物に限定されず、二酸化炭素をセメント硬化体に固定できるものであればよい。
【0022】
アミン系化合物としては、例えば、脂肪族アミン、芳香族アミン等が挙げられる。
アミン系化合物としては、水に溶解しやすいことから、脂肪族アミンが好ましい。
脂肪族アミンとしては、例えば、アルキルアミン、アルカノールアミン等が挙げられる。
アルキルアミンとしては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン等が挙げられる。
アルカノールアミンとしては、例えば、モノエタノールアミン(MEA)、ジエタノールアミン(DEA)、トリエタノールアミン(TEA)、モノイソプロパノールアミン(MIPA)、ジイソプロパノールアミン(DIPA)、トリイソプロパノールアミン(TIPA)、N-メチルエタノールアミン(MMEA)、N-メチルジエタノールアミン(MDEA)等が挙げられる。
【0023】
アミン系化合物は、1級アミン、2級アミン、3級アミン、4級アンモニウム塩のいずれであってもよく、環状構造を有していてもよい。
アミン系化合物としては、上記のほか、例えば、ジシクロヘキシルアミン(DCHA)、ジメチルシクロヘキシルアミン(DMCHA)、ポリエーテルアミン(PEA)、ジグリコールアミン(DGA)、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMP90)、n-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン等が挙げられる。
これらのアミン系化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
アルカリ性化合物は、炭素鋼等の鋼材の腐食を抑制する効果を有する。このため、セメント硬化体が鉄筋コンクリートの場合、アルカリ性化合物は、鉄筋コンクリート中の鉄筋の腐食を抑制できる。一般に、鉄筋コンクリートが二酸化炭素を吸収すると、中性化が進行し、pH低下により鉄筋が腐食するリスクがあることが知られている。セメント硬化体にアルカリ性化合物を含浸することで、前記リスクを軽減できる。以上の観点から、二酸化炭素吸収剤としては、アルカリ性化合物が好ましい。
【0025】
セメント硬化体中の二酸化炭素吸収剤の含有量(セメント硬化体の二酸化炭素吸収剤の担持量)は、担体となるセメント硬化体100質量部に対して、5~20質量部が好ましい。セメント硬化体の二酸化炭素吸収剤の担持量が上記下限値以上であると、固定化できる二酸化炭素の量をより高められる。セメント硬化体の二酸化炭素吸収剤の担持量が上記上限値以下であると、セメント硬化体に付着する二酸化炭素吸収剤の量を維持できる。
セメント硬化体の二酸化炭素吸収剤の担持量は、セメント硬化体の種類、二酸化炭素吸収剤の種類、二酸化炭素吸収液中の二酸化炭素吸収剤の含有量(二酸化炭素吸収液における二酸化炭素吸収剤の濃度)、二酸化炭素吸収液の量、およびこれらの組合せによって調節できる。
【0026】
第1の工程において、セメント硬化体を粉砕してセメント粉体とする方法としては、特に限定されないが、例えば、セメント硬化体から小さな欠片を採取して、その欠片を乳鉢等で粉砕する方法が挙げられる。
【0027】
セメント粉体の平均粒子径は、1μm以上250μm以下が好ましく、10μm以上200μm以下がより好ましく、80μm以上150μm以下がさらに好ましい。セメント粉体の平均粒子径が前記下限値以上であれば、セメント硬化体を粉砕する作業を効率的に行うことができる。セメント粉体の平均粒子径が前記上限値以下であれば、セメント粉体に含まれる二酸化炭素吸収剤と呈色試薬の反応が均一に進行する。
【0028】
セメント粉体の平均粒子径は、粒子径分布測定装置(例えば、Microtrac社製のMT3300II)により測定することができる。
【0029】
「第2の工程」
第2の工程では、セメント粉体と、酸性試薬と、呈色試薬とを混合して、セメント粉体と、酸性試薬と、呈色試薬とを含む混合物とする。第2の工程において、セメント粉体と酸性試薬を混合した後に、さらに、呈色試薬を混合することが好ましい。
【0030】
(酸性試薬)
酸性試薬は、セメント粉体に含まれる水酸化物イオンをブロックして、セメント粉体に含まれる二酸化炭素吸収剤(アミン系化合物)と呈色試薬との反応(呈色反応)が阻害されることを抑制する。
酸性試薬としては、硝酸、硫酸、塩酸、酢酸、リン酸等が好適に用いられる。酸性試薬は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
酸性試薬の添加量は、特に限定されず、セメント粉体に含まれる二酸化炭素吸収剤の種類等に応じて適宜調整する。酸性試薬の添加量は、例えば、セメント粉体と水の混合物(セメントペースト)の質量の0.1倍以上10倍以下が好ましく、0.2倍以上5倍以下がより好ましく、0.5倍以上2倍以下がさらに好ましい。酸性試薬の添加量が前記下限値以上であれば、セメント粉体から二酸化炭素吸収剤を十分に抽出することができるため、セメント粉体に含まれる二酸化炭素吸収剤と呈色試薬の反応が十分に進行する。酸性試薬の添加量が前記上限値以下であれば、二酸化炭素吸収剤が酸性試薬によって希釈または溶解されることがなく、混合物の呈色状態を確認しやすい。
【0032】
セメント粉体と水の混合物(セメントペースト)の水セメント比(W/C)は、特に限定されず、セメント粉体に含まれる二酸化炭素吸収剤の種類等に応じて適宜調整する。
【0033】
セメント粉体から二酸化炭素吸収剤を抽出する方法としては、セメント粉体を浸漬した温水に超音波を照射して、温水中に二酸化炭素吸収剤を抽出する方法、ソックスレー抽出法により、有機溶剤にセメント粉体に含まれる二酸化炭素吸収剤を溶解(抽出)する方法等を用いてもよい。
【0034】
(呈色試薬)
呈色試薬は、セメント粉体に含まれる二酸化炭素吸収剤の呈色反応に用いられる。
呈色試薬としては、ニンヒドリン試薬、ドラーゲンドルフ試薬、マルキス試薬、シモン試薬、スコットテスト等が好適に用いられる。
ニンヒドリン試薬は、主に1級及び2級アミンの呈色試薬として用いられる。
ドラーゲンドルフ試薬は、主に3級及び4級アミンの呈色試薬として用いられる。
マルキス試薬は、主に芳香族アミンの呈色試薬として用いられる。
シモン試薬は、主に1級アミン及び2級アミンの呈色試薬として用いられる。
スコットテストは、主にコカインを含む3級アミンの呈色試薬として用いられる。
呈色試薬は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
呈色試薬の添加量は、特に限定されず、セメント粉体に含まれる二酸化炭素吸収剤の種類等に応じて適宜調整する。呈色試薬の添加量は、例えば、セメント粉体と水の混合物(セメントペースト)の質量の0.1倍以上10倍以下が好ましく、0.2倍以上5倍以下がより好ましく、0.5倍以上2倍以下がさらに好ましい。呈色試薬の添加量が前記下限値以上であれば、セメント粉体に含まれる二酸化炭素吸収剤と呈色試薬の反応が十分に進行する。呈色試薬の添加量が前記上限値以下であれば、二酸化炭素吸収剤が呈色試薬によって希釈または溶解されることがなく、混合物の呈色状態を確認しやすい。
【0036】
呈色試薬としてニンヒドリン試薬を用いる場合、酸性試薬としては、硝酸、硫酸、塩酸、酢酸、リン酸が好ましく、酢酸がさらに好ましい。
呈色試薬としてドラーゲンドルフ試薬を用いる場合、酸性試薬としては、硝酸、硫酸、塩酸、酢酸、リン酸が好ましく、塩酸、酢酸がさらに好ましい。
呈色試薬としてマルキス試薬を用いる場合、酸性試薬としては、硝酸、硫酸、塩酸、酢酸、リン酸が好ましく、硫酸がさらに好ましい。
呈色試薬としてシモン試薬を用いる場合、酸性試薬としては、硝酸、硫酸、塩酸、酢酸、リン酸が好ましく、酢酸、リン酸がさらに好ましい。
呈色試薬としてスコットテストを用いる場合、酸性試薬としては、硝酸、硫酸、塩酸、酢酸、リン酸が好ましく、塩酸がさらに好ましい。
【0037】
呈色試薬に対する酸性試薬の混合比(酸性試薬/呈色試薬)は、質量比で、0.1倍以上10倍以下が好ましく、0.2倍以上5倍以下がより好ましく、0.5倍以上2倍以下がさらに好ましい。呈色試薬に対する酸性試薬の混合比が前記下限値以上であれば、セメント粉体に含まれる二酸化炭素吸収剤と呈色試薬の反応が十分に進行する。呈色試薬に対する酸性試薬の混合比が前記上限値以下であれば、二酸化炭素吸収剤が酸性試薬によって希釈または溶解されることがなく、混合物の呈色状態を確認しやすい。
【0038】
「第3の工程」
第3の工程では、混合物の呈色状態を確認する。
【0039】
混合物の呈色状態を確認する方法としては、例えば、目視により確認する方法、吸光光度計(例えば、GL Optic社製のGL SPECTIS 5.0 Touch)により吸光度を測定する方法等が挙げられる。
【0040】
アミン系化合物の呈色反応では、呈色試薬とアミン系化合物の化学反応または錯体形成反応により呈色する。そのため、セメント硬化体に含まれる陽イオン(例えば、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、ナトリウムイオン)および陰イオン(例えば、塩化物イオン、水酸化物イオン)により、化学反応および錯体形成反応が阻害される。本実施形態のアミン系化合物の検出方法では、特に、セメント硬化体に含まれる水酸化物イオンによって呈色反応が阻害されることに着目して、セメント粉体に、呈色試薬と適切な酸性試薬とを混合することにより、セメント硬化体中のアミン系化合物の呈色反応を実現することができる。なお、呈色試薬とアミン系化合物の化学反応または錯体形成反応では、沈殿物(例えば、黒色沈殿物)が生じるため、目視により呈色状態を確認することができる。
【0041】
本実施形態のアミン系化合物の検出方法によれば、セメント硬化体を粉砕して得られたセメント粉体と、酸性試薬と、呈色試薬とを混合して混合物とし、その混合物の呈色状態を確認することにより、セメント硬化体における、アミン系化合物の含有の有無および含有量の多寡についてオンサイトで簡易に把握することができる。
【0042】
本実施形態のアミン系化合物の検出方法によれば、呈色試薬に加えて、適切な酸性試薬を用いることにより、強塩基性かつ夾雑イオン成分が多いセメント硬化体において、セメント硬化体に含まれるアミン系化合物(二酸化炭素吸収剤)を検出することができる。
【0043】
本実施形態のアミン系化合物の検出方法によれば、セメント硬化体におけるアミン系化合物の含有量と、セメント粉体、酸性試薬および呈色試薬を含む混合物の呈色状態とを関連付けて、前記アミン系化合物の含有量を示す色見本を作成することができる。
【実施例0044】
以下、実験例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
【0045】
[実験例]
アミン系化合物として3級アミンのN-メチルジエタノールアミン(MDEA)、呈色試薬としてドラーゲンドルフ試薬、酸性試薬として濃塩酸(12N)を用いた。
アミン系化合物を含むセメントペーストを乳鉢で粉砕し、呈色皿の上で呈色試薬および酸性試薬と混合した際の呈色状況を、黒色沈殿物の有無により判断した。呈色状態の判定において、黒色沈殿物が観察されない場合を「-」、黒色沈殿物が観察された場合を「+」、黒色沈殿物が非常に多く観察された場合を「++」とした。結果を表1、表2、図1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
呈色試験における呈色試薬と酸性試薬の検討結果を表1に示す。本検討では、呈色試薬と酸性試薬をそれぞれ100μLずつ添加した場合にのみ、黒色沈殿物が生じた。
セメント粉体中のアミン系化合物の含有量による呈色試験の検討結果を表2および図1に示す。なお、図1において、左から順に実験例9、実験例10、実験例11、実験例12を示す。本検討では、練り混ぜ水中にアミン系化合物を1体積%および5体積%含む場合にのみ黒色沈殿物が確認され、その量は1体積%に比べて5体積%の方が大きかった。
図1