(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008504
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】硫化物固体電解質粉末、固体電解質層及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01B 1/06 20060101AFI20250109BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20250109BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20250109BHJP
H01B 1/10 20060101ALI20250109BHJP
C01B 25/14 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01M10/0562
H01M10/052
H01B1/10
C01B25/14
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023110731
(22)【出願日】2023-07-05
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】国狭 康弘
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
【Fターム(参考)】
5G301CA05
5G301CA08
5G301CA12
5G301CA15
5G301CA19
5G301CA22
5G301CA24
5G301CA28
5G301CA30
5G301CD01
5G301CE02
5H029AJ06
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H029DJ16
5H029DJ17
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ05
(57)【要約】
【課題】粉末の粒度を保ちつつ、良好なリチウムイオン伝導率を示す硫化物固体電解質粉末の提供。
【解決手段】質量基準での含有量は、Al:50ppm未満、かつZr:50ppm未満を満たし、粒径D50は1μm未満である、硫化物固体電解質粉末。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量基準での含有量は、
Al:50ppm未満、かつ
Zr:50ppm未満を満たし、
粒径D50は1μm未満である、硫化物固体電解質粉末。
【請求項2】
BET比表面積から算出されるBET径は0.10~0.30μmである、請求項1に記載の硫化物固体電解質粉末。
【請求項3】
前記硫化物固体電解質粉末を構成する硫化物固体電解質は結晶相を有し、
前記結晶相は、アルジロダイト型の結晶構造を有する、請求項1に記載の硫化物固体電解質粉末。
【請求項4】
前記硫化物固体電解質粉末を構成する硫化物固体電解質はLiαPSβ(5.5≦α≦5.6、4.3≦β≦4.4)で表される組成を有する、請求項1に記載の硫化物固体電解質粉末。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質粉末を含む固体電解質層。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質粉末を含むリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は硫化物固体電解質粉末、固体電解質層及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、携帯電話やノート型パソコン等の携帯型電子機器に広く用いられている。
従来、リチウムイオン二次電池においては液体の電解質が使用されてきたが、安全性の向上や高速充放電が期待できる点から、固体電解質をリチウムイオン二次電池の電解質として用いるリチウムイオン全固体電池(以下、固体電池ともいう)が注目されている。
【0003】
固体電解質は、硫化物固体電解質と酸化物固体電解質とに大別される。なかでも、硫化物固体電解質は、分極率の大きい硫化物イオンを含むため、高いイオン伝導性を示す。
硫化物固体電解質として、Li10GeP2S12等のLGPS型の結晶や、Li6PS5Cl等のアルジロダイト型の結晶、Li7P3S11結晶化ガラス等のLPS結晶化ガラス等が知られている。
【0004】
固体電解質は液体の電解質に比べて正極や負極の内部への浸透性に劣る。そのため、電池性能の向上を目的として、粒径を小さくしたり、粒径の大きい粗粒をなくした固体電解質粉末とすることにより、活物質との界面をより多く形成している。
【0005】
固体電解質粉末の粒径を小さくする技術として、例えば、得られた固体電解質やその粗粉砕物に対して、直径0.1~1mm程度の硬質ビーズを用いた湿式ビーズミルによって粉砕する方法がある。
【0006】
ビーズの種類としては、ジルコニアビーズやアルミナビーズが挙げられるが、ジルコニアビーズは比重が大きいため、過粉砕が生じやすく、リチウムイオン伝導率の低下を引き起こしやすい。
これに対し、アルミナビーズはジルコニアビーズよりも比重が小さいため、粉砕後の固体電解質粉末の粒度を保ちやすいという特徴がある。実際に、特許文献1にはアルミナビーズを用いた湿式ビーズミルによって得られた固体電解質が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これに対し、硫化物固体電解質を粉砕した硫化物固体電解質粉末について、リチウムイオン伝導率の更なる向上が求められている。
【0009】
そこで本発明は、粉末の粒度を保ちつつ、良好なリチウムイオン伝導率を示す硫化物固体電解質粉末、並びに、該硫化物固体電解質粉末を含む固体電解質層及びリチウムイオン二次電池の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は鋭意検討の結果、硫化物固体電解質粉末の粒度を保つべくビーズミルを用いて粉砕すると、得られた硫化物固体電解質粉末中には、アルミナ(Al2O3)やジルコニア(ZrO2)のコンタミネーションが存在することが分かった。そして、さらなる検討の結果、上記コンタミネーションがリチウムイオン伝導率の低下の一因であることを見出した。すなわち、上記コンタミネーションにより、硫化物固体電解質粉末の連続性が阻害され、リチウムイオンの伝導パスが途切れることが、リチウムイオン伝導率低下の要因であると考えられる。
これに対し、硫化物固体電解質粉末中に含まれるAl(アルミニウム)とZr(ジルコニウム)の含有量を一定以下とすることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下に関する。
[1] 質量基準での含有量は、
Al:50ppm未満、かつ
Zr:50ppm未満を満たし、
粒径D50は1μm未満である、硫化物固体電解質粉末。
[2] BET比表面積から算出されるBET径は0.10~0.30μmである、前記[1]に記載の硫化物固体電解質粉末。
[3] 前記硫化物固体電解質粉末を構成する硫化物固体電解質は結晶相を有し、
前記結晶相は、アルジロダイト型の結晶構造を有する、前記[1]又は[2]に記載の硫化物固体電解質粉末。
[4] 前記硫化物固体電解質粉末を構成する硫化物固体電解質はLiαPSβ(5.5≦α≦5.6、4.3≦β≦4.4)で表される組成を有する、前記[1]又は[2]に記載の硫化物固体電解質粉末。
[5] 前記[1]~[4]のいずれか1に記載の硫化物固体電解質粉末を含む固体電解質層。
[6] 前記[1]~[4]のいずれか1に記載の硫化物固体電解質粉末を含むリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、粉末の粒度を保ちつつ、リチウムイオン伝導率に優れる硫化物固体電解質粉末が得られる。そのため、上記硫化物固体電解質粉末を含む固体電解質層及びリチウムイオン二次電池は、その良好なリチウムイオン伝導率による優れた電池特性を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る硫化物固体電解質粉末の製造方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施できる。また、数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0015】
<硫化物固体電解質粉末>
本実施形態に係る硫化物固体電解質粉末は、質量基準での含有量が、Al:50ppm未満、かつZr:50ppm未満を満たす。また、上記硫化物固体電解質粉末の粒径D50は1μm未満である。
【0016】
硫化物固体電解質粉末の粒径D50は1μm未満であり、0.40μm以上1μm未満が好ましい。
ここで、上記粒径D50は1μm未満であることで、活物質との界面がより多く形成され、電池特性が向上する。粒径D50は0.95μm以下が好ましく、0.90μm以下がより好ましく、0.80μm以下がさらに好ましく、0.70μm以下が特に好ましい。
また、上記粒径D50の下限は特に限定されないが、取り扱い性の観点や、結晶性が損なわれにくく、良好なリチウムイオン伝導率を実現する観点から、0.40μm以上が好ましく、0.45μm以上がより好ましく、0.50μm以上がさらに好ましい。
【0017】
なお、本明細書において粒径D50とは、レーザー回折式の粒度分布測定装置により求められる体積基準累積50%径である。すなわち、レーザー回折・散乱法によって粒度分布を測定し、硫化物固体電解質の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径である。
また、後述する粒径D90、粒径D10についても上記と同様の測定により得られる累積カーブ上で、累積体積がそれぞれ90%、10%となる点の粒子径である。
【0018】
硫化物固体電解質粉末の粒径D50が1μm未満であるとは、通常ビーズミルによる粉砕で量産できる粒径であり、他の粉砕手段として知られている乳鉢粉砕、アトライタ(登録商標)、ディスクミル、ターボミル、振動ミル等により、粒径D50を1μm未満とすることは現実的ではない。
【0019】
これに対し、例えばアルミナビーズやジルコニアビーズを用いたビーズミルを採用することで、上記粒径D50の値を1μm未満とできる。
【0020】
本実施形態に係る硫化物固体電解質粉末の、体積基準の粒度分布曲線において累積体積が90%となる点である粒子径(粒径D90)は0.80~3.0μmが好ましく、0.90~2.5μmがより好ましく、0.90~2.0μmがさらに好ましく、0.90~1.8μmが特に好ましい。
ここで、活物質との界面がより多く形成され、電池特性がより向上する観点から、上記粒径D90は3.0μm以下が好ましく、2.5μm以下がより好ましく、2.0μm以下がさらに好ましく、1.8μm以下が特に好ましい。
また、硫化物固体電解質粉末の結晶性が損なわれにくく、良好なリチウムイオン伝導率を得る観点から、上記粒径D90は0.80μm以上が好ましく、0.90μm以上がより好ましい。
【0021】
本実施形態に係る硫化物固体電解質粉末の、体積基準の粒度分布曲線において累積体積が10%となる点である粒子径(粒径D10)は0.10~0.80μmが好ましく、0.15~0.70μmがより好ましく、0.20~0.65μmがさらに好ましく、0.25~0.60μmが特に好ましい。
ここで、活物質との界面がより多く形成され、電池特性が向上する観点から、上記粒径D10は、0.80μm以下が好ましく、0.70μm以下がより好ましく、0.65μm以下がさらに好ましく、0.60μm以下が特に好ましい。
また、硫化物固体電解質粉末の結晶性が損なわれにくく、良好なリチウムイオン伝導率を得る観点から、上記粒径D10は0.10μm以上が好ましく、0.15μm以上がより好ましく、0.20μm以上がさらに好ましく、0.25μm以上が特に好ましい。
【0022】
本実施形態に係る硫化物固体電解質粉末の、BET比表面積から算出されるBET径は0.10~0.30μmが好ましく、0.12~0.25μmがより好ましく、0.13~0.23μmがさらに好ましい。
ここで、上記BET径は、硫化物固体電解質粉末の結晶性が損なわれにくく、良好なリチウムイオン伝導率を得る観点から0.10μm以上が好ましく、0.12μm以上がより好ましく、0.13μm以上がさらに好ましい。
また、活物質との界面がより多く形成され、電池特性がより向上する観点から、上記BET径は0.30μm以下が好ましく、0.25μm以下がより好ましく、0.23μm以下がさらに好ましい。
【0023】
なお、本明細書においてBET径とは、BET法により測定される比表面積(BET比表面積)から、下記式を用いて算出される粒子径を意味する。
BET径(nm)=6/〔真密度(g/cm3)×BET比表面積(m2/g)〕×1000
また、BET比表面積とは、窒素吸着BET多点法により求められる値である。
【0024】
本実施形態に係る硫化物固体電解質粉末のBET比表面積は10~28m2/gが好ましく、13~26m2/gがより好ましく、13~20m2/gがさらに好ましい。
ここで、活物質との界面がより多く形成され、電池特性がより向上する観点から、上記BET比表面積は10m2/g以上が好ましく、13m2/g以上がより好ましい。
また、硫化物固体電解質粉末の結晶性が損なわれにくく、良好なリチウムイオン伝導率を得る観点から、上記BET比表面積は28m2/g以下が好ましく、26m2/g以下がより好ましく、20m2/g以下がさらに好ましい。
【0025】
上記粒径D50、BET径、BET比表面積は、硫化物固体電解質を粉砕する際の条件を適宜変更することにより調整できる。
【0026】
本実施形態に係る硫化物固体電解質粉末は、硫化物固体電解質の粒子の集合体である。本実施形態に係る硫化物固体電解質粉末の基となる、粉砕前の硫化物固体電解質は従来公知のものを使用できる。
【0027】
本実施形態における硫化物固体電解質とは、具体的には、Li7P3S11等のようなLPS系と呼ばれるLi元素、P元素、及びS元素を含む結晶構造を有する硫化物固体電解質、Li10GeP2S12等のようなLGPS系と呼ばれるLi元素、Ge元素、P元素、及びS元素を含む結晶構造を有する硫化物固体電解質、Li元素、P元素、S元素、及びHa元素を含むアルジロダイト型の結晶構造を有する硫化物固体電解質、Li-P-S-Ha系の結晶化ガラスからなる硫化物固体電解質、チオリシコン型の結晶構造を有する硫化物固体電解質、酸化物を含む結晶相等が挙げられる。また、上記の結晶構造を有する結晶相と非晶質相(アモルファス相)とを含む硫化物固体電解質であってもよい。なお、本実施形態に係る硫化物固体電解質粉末を構成する硫化物固体電解質は上記結晶構造に限らず、また、一部の元素が他の元素で置換されていてもよい。
【0028】
上記結晶構造の中でも、リチウムイオン伝導率および電池特性の観点から、本実施形態に係る硫化物固体電解質粉末を構成する硫化物固体電解質は結晶相を有し、上記結晶相は、LPS系の結晶構造またはアルジロダイト型の結晶構造を有することが好ましい。
【0029】
上記硫化物固体電解質が有する結晶相の結晶構造がLPS系である場合、上記硫化物固体電解質はLiαPSβ(5.5≦α≦5.6、4.3≦β≦4.4)で表される組成を有することが好ましい。本実施形態に係る硫化物固体電解質粉末が、上記組成のLPS系の結晶構造を有する硫化物固体電解質の粉末であることで、高いリチウムイオン伝導性を確保できる。
また、LPS系の結晶構造は、Li元素、P元素、及びS元素の他に、Cl元素及びBr元素の少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0030】
上記硫化物固体電解質が有する結晶相の結晶構造がアルジロダイト型である場合について、アルジロダイト型の結晶構造とは、組成式Ag8GeS6で表される鉱物に由来する化合物群が有する結晶構造である。
【0031】
硫化物固体電解質がアルジロダイト型の結晶構造を有する場合、Ha元素として、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含むことがより好ましく、2種以上の元素を含むことがさらに好ましい。
また、上記において、Ha元素として、Cl及びBrの少なくとも1種を含むことがさらに好ましく、Cl及びBrを含むこともさらに好ましい。
【0032】
アルジロダイト型の組成式としては、Liα’PSβ’Haγ’で表され、5≦α’≦7、4≦β’≦6かつ1.3≦γ’≦2の関係を満たすことが好ましい。かかる元素比は、5.1<α’<6.3、4<β’<5.3かつ1.4≦γ’≦1.9の関係を満たすことがより好ましく、5.2<α’<6.2、4.1<β’<5.2かつ1.5≦γ’≦1.8の関係を満たすことがさらに好ましい。
すなわち、α’について、5以上が好ましく、5.1超がより好ましく、5.2超がさらに好ましく、また、7以下が好ましく、6.3未満がより好ましく、6.2未満がさらに好ましい。β’について、4以上が好ましく、4超がより好ましく、4.1超がさらに好ましく、また、6以下が好ましく、5.3未満がより好ましく、5.2未満がさらに好ましい。γ’について、1.3以上が好ましく、1.4以上がより好ましく、1.5以上がさらに好ましく、また、2以下が好ましく、1.9以下がより好ましく、1.8以下がさらに好ましい。
【0033】
アルジロダイト型の結晶構造において、S元素の一部がHa元素やO元素、さらにはSe、Te、BH4、CN等に置換されていてもよい。また、P元素の一部がSi元素、Al元素、Sn元素、In元素、Cu元素、Sb元素、Ge元素等に置換されていてもよい。
【0034】
なお、本明細書において、硫化物固体電解質が、LPS系の結晶構造やアルジロダイト型no結晶構造を有するとは、硫化物固体電解質が少なくともこれらの結晶相を有することを意味する。
【0035】
本実施形態に係る硫化物固体電解質は、結晶相と非晶質相とを含む硫化物固体電解質であってもよいが、結晶化率は80~100質量%が好ましく、85~100質量%がより好ましく、90~100質量%がさらに好ましい。
ここで、リチウムイオン伝導性確保の観点から、上記結晶化率は80質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。
また、リチウムイオン伝導性確保の観点から、上記結晶化率は高い方が好ましく100質量%でもよい。
本明細書において、結晶化率は、結晶相の割合と非晶質相との合計に対する結晶相の比率であり、X線回折測定により測定できる。
【0036】
本実施形態に係る硫化物固体電解質粉末は、質量基準での含有量が、Al:50ppm未満かつZr:50ppm未満である。
【0037】
先述したように、硫化物固体電解質粉末の粒径D50を1μm未満とするためには、ビーズミルによる微粉砕が必要である。
ここで、ビーズミルのベッセルは、通常、冷却のための熱伝導性を重視してジルコニア強化型アルミナ製である。中にはジルコニア製の場合もある。また、ビーズミルのビーズ(メディア)は、通常アルミナ(Al2O3)やジルコニア(ZrO2)である。
【0038】
これに対し、粒径D50が1μm未満の硫化物固体電解質粉末を得るべく、上記のようにビーズミルによる微粉砕を行うと、ベッセルやメディアに由来するAlやZrがコンタミネーションする。そのため、従来の硫化物固体電解質粉末の、Al及びZrの少なくとも一方の質量基準での含有量は50ppm以上であった。そして、本発明者は、上記コンタミネーションとして含まれるAlやZrが、リチウムイオン伝導率の低下の原因であることを見出したものである。
【0039】
本実施形態に係る硫化物固体電解質粉末が、質量基準でAlを50ppm以上含む場合、イオン伝導パスを阻害し、リチウムイオン伝導率を低下させる。これに対し、本実施形態におけるAl含有量は質量基準で50ppm未満であり、49ppm以下が好ましく、20ppm以下がより好ましく、10ppm以下がさらに好ましく、5ppm以下が特に好ましく、1ppm以下が最も好ましい。
Al含有量の下限は、特に限定されないが、例えば、0.01ppmである。
【0040】
また、本実施形態に係る硫化物固体電解質粉末が、質量基準でZrを50ppm以上含む場合、Alと同様にイオン伝導パスを阻害し、リチウムイオン伝導率を低下させる。これに対し、本実施形態におけるZr含有量は質量基準で50ppm未満であり、49ppm以下が好ましく、20ppm以下がより好ましく、10ppm以下がさらに好ましく、5ppm以下が特に好ましく、1ppm以下が最も好ましい。
Zrの含有量の下限は、特に限定されないが、例えば、0.01ppmである。
【0041】
硫化物固体電解質粉末に含まれるAl及びZrの含有量は、ICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分光分析法によって測定でき、具体的には後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0042】
上記Al及びZrの含有量は、例えば、得られた硫化物固体電解質を粗粉砕して得られた粗粉砕物に対して、さらに高純度のアルミナビーズを用いた微粉砕を行うことで実現できる。上記高純度とは、例えば純度99.9%以上である。
【0043】
本実施形態に係る硫化物固体電解質粉末のリチウムイオン伝導率は、リチウムイオン二次電池に用いた際に良好な電池特性を得る観点から、2mS/cm以上が好ましく、3mS/cm以上がより好ましく、3.5mS/cm以上がさらに好ましく、4mS/cm以上が特に好ましく、高いほど好ましい。
リチウムイオン伝導率の上限は、特に限定されないが、例えば、15mS/cmである。
【0044】
なお、本明細書におけるリチウムイオン伝導率は、硫化物固体電解質粉末に対して380MPaの圧力をかけた圧粉体とした測定サンプルに対し、交流インピーダンス測定装置を用いて求められる値を用いる。ここで、交流インピーダンス測定の測定条件は、測定周波数:100Hz~1MHz、測定電圧:100mV、測定温度:25℃とする。
【0045】
本実施形態に係る硫化物固体電解質粉末は、所望により従来公知の方法で処理を行った後、正極活物質又は負極活物質と共に圧力をかけて電極合剤である正極層又は負極層としたり、必要に応じてバインダー等の添加剤と共に圧力をかけて固体電解質層として、全固体型のリチウムイオン二次電池に好適に用いられる。
【0046】
<硫化物固体電解質粉末の製造方法>
本実施形態に係る硫化物固体電解質粉末の製造方法は、
図1に示すように、下記工程を順に含む。
工程1:硫化物固体電解質を用意する工程
工程2:ステップS1として、上記硫化物固体電解質を粗粉砕して、硫化物固体電解質の粗粉砕物を得る工程
工程3:ステップS2として、上記硫化物固体電解質の粗粉砕物を微粉砕し、硫化物固体電解質粉末を得る工程
【0047】
以下、各工程について順に説明する。
【0048】
・工程1
工程1は、硫化物固体電解質を用意する工程である。硫化物固体電解質は合成しても、市販のものを用いてもよい。硫化物固体電解質を合成する場合には、従来公知の方法を採用できるが、電解質の均質性の観点から溶融法が好ましい。
【0049】
硫化物固体電解質を合成する場合には、例えば、原材料混合物を得る工程、原材料混合物を反応させる工程、及び、結晶化又はアモルファス化する工程を含むことが好ましい。
【0050】
原材料混合物を反応させる工程における反応は、加熱反応でもメカノケミカル反応でもよい。また、原材料混合物を加熱し結晶化又はアモルファス化して硫化物固体電解質を得てもよく、その場合には、別途結晶化又はアモルファス化する工程を含まなくてよい。また、結晶相やアモルファス相を得る工程の他に、結晶化率を高める工程や結晶を再配列する工程を含んでもよい。
溶融法の場合には、各原材料を必要に応じて混合物とした後に加熱溶融し、冷却固化することで硫化物固体電解質を得られる。
【0051】
原材料は所望する結晶相又はアモルファス相の組成によっても異なるが、例えばLi、P、Sを含む原材料を使用できる。Haを含むアルジロダイト型の結晶相やHaを含むLPSHa型の結晶化ガラスを得たい場合には、Li、P及びSに加えてHaを含む原材料をさらに使用できる。
【0052】
具体的には、例えば、アルジロダイト型の結晶やLi-P-S-Ha系の結晶化ガラスを得る場合には、Li、P、S及びHaを含む原材料を用いる。Li7P3S11等のようなLPS系の結晶やLPS結晶化ガラスを得る場合には、Li、P及びSを含む原材料を用いる。Li10GeP2S12等のようなLGPS系の結晶を得る場合には、Li、Ge及びSを含む原材料を用いる。チオリシコン型の結晶を得る場合には、Li、S、Ge及びP等を含む原材料を用いる。
上記原材料はそれぞれ、従来公知のものを採用できる。
原材料の混合や反応させる工程における各条件は従来公知のものを採用できる。例えば溶融法の場合、加熱溶融時の加熱温度や、加熱溶融又は冷却固化時の時間、雰囲気、圧力、露点等は、従来公知のものを採用できる。また、原材料を溶融前に反応させた中間体を用い、そこから溶融合成を行ってもよい。
【0053】
・工程2
工程2は、工程1で得られた硫化物固体電解質を粗粉砕して、硫化物固体電解質の粗粉砕物を得る工程である(ステップS1)。
後述する工程3による微粉砕で粒径D50が1μm未満の硫化物固体電解質粉末を得るために、工程2の粗粉砕により、工程3のビーズミルで用いるメディアであるビーズ径の約十分の一程度にまで粗粉砕する。
【0054】
粗粉砕の方法として、湿式粉砕ではない方法が好ましく、例えば、カッターミル(カットミル)が好ましい。
カッターミルとは、カッターなどを取り付けたロータを高速回転させ、せん断力あるいは切断力によって原材料を粉砕する方法である。
【0055】
カッターミルにおいて、例えばステンレス製の破砕刃を低摩耗性のコーティング材でコートしたものを採用することで、ステンレス成分のコンタミネーションを抑制できる。加えて、カッターミルでの粗粉砕は、遊星ボールミルを用いた粗粉砕と異なり、アルミナやジルコニアボールを使う必要もないため、最終的に得られる硫化物固体電解質粉末におけるAlおよびZrの含有量を好適に低減できる。
【0056】
また、カッターミルを用いた粗粉砕以外に、例えば、融液から直接粗粉末を得る様な方法で、粗粉砕物に相当するものを得てもよい。
【0057】
なお、摩耗し易いアルミナビーズ(例えば、純度が99.5%以下、かつ、ビッカース硬さHV10が1,300以下のアルミナビーズ)やジルコニアビーズを用いたビーズミルによる粗粉砕は、硫化物固体電解質の粗粉砕物におけるAlやZr含有量が高くなる。その結果、得られる硫化物固体電解質粉末のAl含有量及びZr含有量を共に50質量ppm未満とすることは困難となる。
【0058】
粗粉砕は、硫化物固体電解質の粗粉砕物の粒径D95が100μm未満になるように行うことが好ましい。これは、工程3におけるビーズミル粉砕に供する場合に好適となるためである。
具体的には、型式にもよるが、ビーズミル機には、粉砕室出口にビーズと分けるためにスラリーのみを通すためのスクリーンと呼ばれるフィルターが付いている。そのフィルターの隙間は100μm程度かそれ以下を採用することが好ましい。
【0059】
上記フィルターの隙間サイズは選択できるが、本実施形態のように特に細かい微粉を得たい場合には、ビーズサイズは直径0.5mmではなく、直径0.3mmのような小さいビーズを用いることが好ましい。その場合、ビーズの寸法誤差等を考慮して、上記フィルターの隙間サイズは200μmではなく、100μmが必要となる。
【0060】
したがって、工程2で得られる粗粉砕物の粒径D95は、フィルターの詰まり防止のため、少なくとも100μm未満が好ましい。
上記粗粉砕は、粗粉砕物の粒径D95が10~99μmとなるように行うことが好ましく、上記粒径D95は10~70μmがより好ましく、10~50μmがさらに好ましい。ここで、粉砕室出口のフィルター(スクリーン)目詰まり防止の観点から、上記粗粉砕物の粒径D95は100μm未満が好ましく、99μm以下がより好ましく、70μm以下がさらに好ましく、50μm以下がよりさらに好ましい。また、工程3に供する粗粉砕物及び溶媒を含むスラリーの粘度上昇や粗粉砕物の凝集抑制の観点から、上記粒径D95は10μm以上が好ましい。
【0061】
また、フィルター目詰まり防止の観点から、工程2で得られる粗粉砕物の粒径D50は5~30μmが好ましく、8~20μmがさらに好ましい。ここで、上記粒径D50は30μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましく、また、5μm以上が好ましく、8μm以上がより好ましい。
【0062】
また、硫化物固体電解質の粗粉砕後に、必要に応じて分級(篩い分け等)を行って、硫化物固体電解質の粗粉砕物を得てもよい。
【0063】
・工程3
工程3は、工程2で得られた硫化物固体電解質の粗粉砕物を微粉砕し、硫化物固体電解質粉末を得る工程である(ステップS2)。
【0064】
微粉砕は、ビーズミルにて微粉砕することが好ましい。ビーズミルとは、型式によるが、一つには硬質のビーズを円筒形の容器中で回転させることによって、材料にビーズが衝突することで砕く、いわゆる衝突粉砕により微細な粉末を作る方法である。このような方法により適切にビーズサイズを選び、微粉砕を行うことで、粒径D50が1μm未満の細かい硫化物固体電解質粉末を得られる。
【0065】
微粉砕用ビーズの種類は、良好なリチウムイオン伝導率を有し、微細な硫化物固体電解質粉末を得られる観点、及び、アルミニウムやジルコニウムのコンタミネーションを抑制し、リチウムイオン伝導率を向上させる点から、高純度のアルミナビーズが好ましい。
【0066】
また、高純度のアルミナビーズは、アルミニウムビーズの摩耗が生じづらく、アルミニウムのコンタミネーションを抑制する観点から、純度99.9%以上及びビッカース硬さ1800HV10以上の少なくとも一方を満たすものが好ましく、両方を満たすものがより好ましい。上記のような高純度のアルミナビーズを用いることで、ビーズによるベッセルの摩耗もさらに抑制できるため、ベッセルに含まれるジルコニウムの硫化物固体電解質粉末へのコンタミネーションも抑制できる。
【0067】
アルミナビーズの純度は99.9%以上が好ましく、99.93%以上がより好ましく、99.95%以上がさらに好ましく、99.99%以上が特に好ましく、高いほど好ましい。
【0068】
アルミナビーズのビッカース硬さは1800HV10~2300HV10が好ましい。ここで、耐摩耗性の観点から、上記ビッカース硬さは1800HV10以上が好ましく、1900HV10以上がより好ましく、2000HV10以上がさらに好ましく、2100HV10以上が特に好ましい。また、粉砕室(ベッセル)やローターの摩耗を抑制する観点から、ビッカース硬さは2300HV10以下が好ましい。
【0069】
アルミナビーズの純度はICP発光分光分析で不純物量を測定し、100%から、その不純物量の合計を引くことによって測定できる。また、ビッカース硬さはダイヤモンドでできた角錐形圧子を試験片に押し付け、できた圧痕を顕微鏡で観察し対角線の長さを測定することによって測定できる。
【0070】
また、微粉砕は、乾式粉砕でも、分散媒を用いた湿式粉砕でもよいが、粒径D50が1μm未満のより細かい硫化物固体電解質粉末を得るという観点から、湿式粉砕が好ましい。乾式粉砕では粒径D50=1~3μmの粉末を得るのに好適であり、粒径D50が1μm未満の微粉末を得るには湿式粉砕が適している。
【0071】
湿式粉砕法においては、硫化物固体電解質の粗粉砕物を分散媒に分散あるいは溶解させてスラリーとし、粉砕をおこなってもよい。また、スラリーには、硫化物固体電解質溶媒の他に、分散剤等の添加剤をさらに添加してもよい。
【0072】
分散媒は特に限定されないが、硫化物固体電解質は水分と反応して劣化しやすい性質を有することから、非水系溶媒が好ましい。
【0073】
非水系有機溶媒の種類は特に限定されないが、例えば、炭化水素系溶媒、ヒドロキシ基を含有した有機溶媒、エーテル基を含有した有機溶媒、カルボニル基を含有した有機溶媒、エステル基を含有した有機溶媒、アミノ基を含有した有機溶媒、ホルミル基を含有した有機溶媒、カルボキシ基を含有した有機溶媒、アミド基を含有した有機溶媒、ベンゼン環を含有した有機溶媒、メルカプト基を含有した有機溶媒、チオエーテル基を含有した有機溶媒、チオエステル基を含有した有機溶媒、ジスルフィド基を含有した有機溶媒、ハロゲン化アルキル等が挙げられる。
【0074】
炭化水素系溶媒としては、例えば、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエンが挙げられ、飽和水分濃度が低い観点から、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタンが好ましい。また、水分濃度を調整する観点から、これら炭化水素系溶媒を、トルエンやジブチルエーテル等と混ぜた混合溶媒とすることも好ましい。
【0075】
硫化物固体電解質の粗粉砕物の微粉砕時に、硫化物固体電解質と水との反応に伴うリチウムイオン伝導率の低下を防ぐ観点から、上記分散媒中の水分濃度は低い方が好ましい。上記分散媒の水分濃度は、例えば、170質量ppm以下、150質量ppm以下、120質量ppm以下、100質量ppm以下等であってよい。
【0076】
添加剤として分散剤を用いる場合には、例えば、エーテル化合物、エステル化合物、ニトリル化合物等が挙げられる。
【0077】
また、スラリー中の硫化物固体電解質の粗粉砕物の含有量は5~35質量%が好ましく、10~33質量%がより好ましく、20~30質量%がさらに好ましい。ここで、粉砕効率やスラリーの取り扱いの容易さの観点から、上記含有量は、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましく、また、35質量%以下が好ましく、33質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。
【0078】
スラリー中の固形分濃度は5~35質量%が好ましく、10~33質量%がより好ましく、20~30質量%がさらに好ましい。ここで、粉砕効率やスラリーの取り扱いの容易さの観点から、上記固形分濃度は5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましく、また、35質量%以下が好ましく、33質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。
【0079】
湿式ビーズミルによって微粉砕を行う場合、微粉砕用ビーズの直径は0.1~1mmが好ましく、0.2~0.8mmがより好ましく、0.3~0.5mmがさらに好ましい。ここで、良好なリチウムイオン伝導率を有する硫化物固体電解質粉末を得る観点から、上記直径は0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましく、0.3mm以上がさらに好ましい。また、所望する粒径の小さい微粉砕物を得る観点から、上記直径は1mm以下が好ましく、0.8mm以下がより好ましく、0.5mm以下がさらに好ましい。
【0080】
湿式ビーズミルにて微粉砕を行う際のミルの回転周速は、6~12m/secが好ましく、8~10m/secがより好ましい。ミルの回転周速を上記範囲内とすることで、硫化物固体電解質の過粉砕を防ぎ、硫化物固体電解質粉末中の粒子の凝集を抑制できる。
【0081】
また、湿式ビーズミルによる粉砕時間は、粉砕する粗粉砕物の量にもよるが、例えば粗粉砕物が150~165g程度の場合、30~480分が好ましく、60~240分がより好ましい。ここで、硫化物固体電解質粉末の粒径を小さくする観点から、上記粉砕時間は30分以上が好ましく、60分以上がより好ましい。また、過粉砕を抑制し、良好なリチウムイオン伝導率を担保する観点から、上記粉砕時間は480分以下が好ましく、240分以下がより好ましい。
【0082】
工程3で得られた硫化物固体電解質粉末に対し、さらに乾燥工程を行ってもよい。乾燥により、硫化物固体電解質粉末中に分散媒や添加剤が残存している場合でも、それらを除去できる。
乾燥方法は従来公知の方法を採用できるが、例えば、ホットプレート、乾燥炉、電気炉等を用いて実施できる。
【0083】
乾燥工程における温度は特に限定されないが、例えば50~300℃が挙げられる。また、分散媒を用いて微粉砕を行った場合は、分散媒の沸点以上の温度で加熱し、乾燥を行ってもよい。
乾燥工程における時間も特に限定されないが、例えば10分~24時間が挙げられる。
また、乾燥工程は減圧下で実施してもよく、例えば絶対圧で50kPa以下であってもよい。
【0084】
さらに、工程3で得られた硫化物固体電解質粉末に対し、加熱処理(アニール処理)を実施してもよい。アニール処理を行うことで、リチウムイオン伝導率を向上できる。
アニール処理の温度および時間は、適宜調整できるが、例えば、200~600℃で、10~600分実施してもよい。また、上記加熱処理は、工程2と工程3の間に行ってもよい。
【0085】
<固体電解質層>
本実施形態に係る硫化物固体電解質粉末は固体電解質層に用いてもよい。すなわち、本実施形態に係る固体電解質層は、上記<硫化物固体電解質粉末>に記載の硫化物固体電解質粉末を含み、好ましい態様も同様である。
【0086】
本実施形態に係る固体電解質層は、好ましくはリチウムイオン二次電池に用いられる。
また、本実施形態に係る固体電解質層は、必要に応じてバインダーを含んでいてもよい。
【0087】
本実施形態に係る固体電解質層における上記硫化物固体電解質粉末の含有量は特に制限されるものではなく、目的とする電池の性能に応じて適宜決定すればよい。例えば、固体電解質層全体に対し、硫化物固体電解質粉末の含有量は80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。
【0088】
固体電解質層に含有しうるバインダーとしては、例えば、ブタジエンゴム(BR)、アクリレートブタジエンゴム(ABR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等が挙げられる。固体電解質層におけるバインダーの含有量は従来と同様とすればよい。
【0089】
固体電解質層の厚みは、特に制限されるものではなく、目的とする電池の性能に応じて適宜決定すればよい。例えば、上記厚みは10~50μmが好ましく、15~20μmがより好ましい。ここで、機械的な強度が上がり、振動や曲げなどの応力に強く、高い信頼性をもった固体電解質層を得る観点から、上記厚みは10μm以上が好ましく、15μm以上がより好ましい。また、正負極間のイオン伝導性を高められるとともに、電池のエネルギー密度を高める観点から、上記厚みは50μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましい。
【0090】
固体電解質層を形成する方法は特に限定されるものではない。例えば、上記した固体電解質層を構成する成分を液媒に分散あるいは溶解させてスラリーとし、層状(シート状)に塗工し、乾燥させ、任意にプレスすることで固体電解質層を形成できる。必要に応じて、熱をかけて脱バインダー処理を行ってもよい。当該スラリーの塗工量等を調整することで、固体電解質層の厚みを容易に調整できる。
【0091】
なお、上記したような湿式成形ではなく、固体電解質層を形成する対象(正極、負極等)の表面において、固体電解質粉末等を乾式でプレス成形することによって固体電解質層を形成してもよい。あるいは、他の基材に固体電解質層を形成し、これを、固体電解質層を形成する対象の表面に転写してもよい。固体電解質層を形成する対象の表面に強固な固体電解質層を工業的に安定して形成可能である観点から、液媒を用いた湿式成形によって、対象の表面に固体電解質層を形成することが好ましい。
【0092】
<リチウムイオン二次電池>
本実施形態に係る硫化物固体電解質粉末はリチウムイオン二次電池に用いてもよい。すなわち、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、上記<硫化物固体電解質粉末>に記載の硫化物固体電解質を含み、好ましい態様も同様である。
【0093】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、固体電解質層と、正極層と、負極層とを含む。上記硫化物固体電解質粉末は、上記固体電解質層、正極層、及び負極層のうち1以上に含まれていればよく、2以上に含まれていても、すべてに含まれていてもよい。
上記硫化物固体電解質粉末以外の、固体電解質層、正極層、及び負極層の構成は、従来公知の物を採用できる。
以下に具体例を示すが、これらに限定されるものではない。
【0094】
(正極層)
正極層は、少なくとも正極集電体および正極活物質を含有する。正極層は、更に本実施形態に係る硫化物固体電解質粉末を含有してもよい。
【0095】
正極集電体は、導電性の板材であればよく、例えば、アルミニウム又はそれらの合金、ステンレス等の金属薄板(金属箔)を用い得る。これらは、耐電解液性、耐酸化性に優れており好ましい。
【0096】
正極活物質としては、リチウムイオンの吸蔵及び放出、リチウムイオンの脱離及び挿入(インターカレーション)、又は、該リチウムイオンのカウンターアニオン(例えば、PF6
-)のドープ及び脱ドープを可逆的に進行できれば特に限定されず、公知の正極活物質を使用できる。上記正極活物質としては、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMnO2)、ニッケルマンガン酸リチウム、Li(NixCoyMnzMa)O2(x+y+z+a=1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、0≦a≦1であり、MはAl、Mg、Nb、Ti、Cu、Zn、Crから選択される少なくとも一種)で表される複合金属酸化物、LiaMb(PO4)c(1≦a≦4、1≦b≦2、1≦c≦3であり、MはFe、V、Co、Mn、Ni、VOから選択される少なくとも一種)で表されるポリアニオンオリビン型正極、等が挙げられる。
【0097】
正極層には、正極活物質同士を結合すると共に、正極活物質と正極集電体とを結合するバインダーを有してもよい。バインダーは従来公知のものを使用できる。
また、正極層は、公知の正極用導電助剤を有してもよく、例えば、黒鉛、カーボンブラック等の炭素系材料や、銅、ニッケル、ステンレス、鉄等の金属、酸化インジウムスズ(ITO)等の導電性酸化物が挙げられる。
【0098】
(負極層)
負極層は、少なくとも負極集電体および負極活物質を含有する。負極層は、更に本実施形態に係る硫化物固体電解質粉末を含有してもよい。
【0099】
負極集電体は、導電性の板材であればよく、例えば、銅やアルミニウム等の金属薄板(金属箔)を用い得る。これらは、耐電解液性、耐酸化性に優れており好ましい。
【0100】
負極活物質としては、特に制限されず、リチウムイオンの挿入及び脱離が可能な材料を用いればよい。例えば、リチウム金属、炭素系材料、シリコン、シリコン合金、スズ等を用い得る。
負極活物質としては、リチウムイオンの吸蔵及び放出、リチウムイオンの脱離及び挿入(インターカレーション)、又は、該リチウムイオンのカウンターアニオン(例えば、PF6
-)のドープ及び脱ドープを可逆的に進行できれば特に限定されず、公知の負極活物質を使用できる。上記負極活物質としては、例えば、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素系材料、アルミニウム、シリコン、スズ等のリチウムと合金を形成できる金属、酸化シリコン、酸化スズ等の非晶質の酸化物、チタン酸リチウム(Li4Ti5O12)等が挙げられる。
【0101】
その他、負極層は、負極活物質同士を結合すると共に、負極活物質と負極集電体とを結合するバインダーを有してもよい。バインダーは従来公知のものを使用できる。
また、負極層は、公知の負極用導電助剤を有してもよく、上記正極用導電助剤と同様のものを用い得る。
【0102】
上記固体電解質層、正極層及び負極層等のリチウムイオン二次電池を構成するものは、電池外装体に格納される。電池外装体の材料も、従来公知のものを使用できるが、具体的には、ニッケルメッキを施した鉄、ステンレス、アルミニウムまたはその合金、ニッケル、チタン、樹脂材料、フィルム材料等が挙げられる。
【0103】
リチウムイオン全固体電池の形状としては、コイン型、シート状(フィルム状)、折り畳み状、巻回型有底円筒型、ボタン型等が挙げられ、用途に応じて適宜選択できる。
【0104】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、良好なリチウムイオン伝導率を実現し得る。
【実施例0105】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。また、例1は実施例であり、例2は比較例である。
【0106】
<試験例>
(例1)
ドライ窒素雰囲気下で、Li5.4PS4.4Cl0.8Br0.8の組成になるように、硫化リチウム粉末(Sigma社製、純度99.98%)、五硫化二リン粉末(Sigma社製、純度99%)、塩化リチウム粉末(Sigma社製、純度99.99%)、及び臭化リチウム粉末(Sigma社製、純度99.995%)を秤量し、石英製の試験管に入れて真空封管を実施した。750℃で1時間溶解した後、冷却して硫化物固体電解質を得た。
得られた硫化物固体電解質をカッターミルで粗粉砕し、硫化物固体電解質の粗粉砕物を得た。
次いで、上記で得られた硫化物固体電解質の粗粉砕物165gを脱水ジブチルエーテル385gに添加し、スラリーを得た(スラリー固形分濃度:30質量%)。ジルコニア強化型アルミナ製試料容器(ベッセル)に、スラリー550gと、直径0.3mmの高純度アルミナビーズ(大明化学、TB-03、純度99.99質量%以上)288gを投入して、アシザワ・ファインテック(株)製 ラボスターミニ LMZ015にセットし、下記条件にて湿式粉砕を行った。
(条件)
・試料容器に対するビーズ充填率:70.2体積%
・周速:8m/sec
・粉砕時間:240分
・スラリー流量:約1l/min
その後、窒素雰囲気下で溶媒の沸点以上で加熱、乾燥して、硫化物固体電解質粉末を得た。
【0107】
(例2)
直径0.3mmの高純度アルミナビーズに代えて、直径0.3mmの純度99.5質量%のアルミナビーズ(比良セラミックス社製:AL9-0.3)を用いた以外は、例1と同様の方法で行い、例2の硫化物固体電解質粉末を得た。
【0108】
<評価>
[粒度分布:粒径D50、粒径D90]
体積基準累積粒度分布における粒径D10、粒径D50、粒径D90は、レーザー回折式粒度分布測定装置として、マイクロトラック・ベル社製のMicrtrao MT3300EX IIおよび極小容量循環器 Microtrac USVRを用いて測定した。
【0109】
[BET径]
窒素吸着BET多点法により求められるBET比表面積を測定し、下記式により算出される値をBET径とした。
BET径(nm)=6/〔真密度(g/cm3)×BET値(m2/g)〕×1000
【0110】
[リチウムイオン伝導率]
硫化物固体電解質粉末を380MPaの圧力で圧粉体とし、測定サンプルに用いた。
交流インピーダンス測定装置(Bio-Logic Sciences Instruments社製、ポテンショスタット/ガルバノスタット VSP)を用い、下記条件で測定した。
測定周波数:100Hz~1MHz
測定電圧:100mV
測定温度:25℃
得られたナイキストプロットから、25℃におけるリチウムイオン伝導率を求めた。
【0111】
[Al含有量、及びZr含有量]
硫化物固体電解質粉末に対し、アルカリ溶解処理を行い、溶液化した。このとき、溶解処理時に生成した残渣は回収、酸溶解し溶液化した。それぞれの溶液中のAl、ZrをICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分光分析法により定量し、粉末中のAl含有量、Zr含有量とした。
【0112】
[結晶化率]
硫化物固体電解質粉末をX線回折(XRD)で測定し、結晶相の割合と非晶質相との合計に対する結晶相の比率を結晶化率とした。
【0113】
【0114】
表1に示すように、微粉砕の際に、純度の高いアルミナビーズを用いた例1の硫化物固体電解質粉末は、比較例である例2の硫化物固体電解質に比べてAl含有量、Zr含有量が共に大きく低減され、また、高いリチウムイオン伝導率も実現できた。