(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025086530
(43)【公開日】2025-06-09
(54)【発明の名称】食品用コーティング剤、食品、食品用包装材
(51)【国際特許分類】
A23L 5/00 20160101AFI20250602BHJP
A23B 7/16 20060101ALI20250602BHJP
【FI】
A23L5/00 F
A23B7/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023200567
(22)【出願日】2023-11-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【弁理士】
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】草野 晋吾
(72)【発明者】
【氏名】大原 伸一
【テーマコード(参考)】
4B035
4B169
【Fターム(参考)】
4B035LC01
4B035LC05
4B035LE07
4B035LG04
4B035LG05
4B035LG32
4B035LG57
4B035LP26
4B169AA04
4B169HA07
4B169KA10
4B169KB01
4B169KB02
4B169KC08
4B169KC23
4B169KC33
4B169KC40
(57)【要約】
【課題】 本発明は、食品に直接コーティングした状態で加食しても、味に変化を生じさせず、且つ、消費期限や賞味期限の延長が可能な食品用コーティング剤を提供する。
【解決手段】 セラック、タンニン酸、及びエタノールを含有する食品用コーティング剤、及び、前記食品用コーティング剤を使用する食品、食品用包装材、ならびに賞味期限延長方法。セラックとタンニン酸の質量比率が、セラック:タンニン=100:1~100:100であることが好ましい。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラック、タンニン酸、及びエタノールを含有することを特徴とする、食品用コーティング剤。
【請求項2】
セラックとタンニン酸の質量比率が、セラック:タンニン=100:1~100:100である請求項1に記載の食品用コーティング剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の食品用コーティング剤をコーティングした食品。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の食品用コーティング剤をコーティングした食品用包装材。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の食品用コーティング剤を食品にコーティングすることを特徴とする賞味期限延長方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品に直接コーティングすることが可能な食品コーティング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
2030年までに世界中で取り組むべき目標SDGsの1つに、食品ロスを減らすという目標がある。2019年には食品ロス削減推進法が施行されており、食品ロスを低減するための取り組みの1つとして、様々な視点から消費期限や賞味期限の延長が検討されている。
【0003】
日本は高温多湿地域であるため、従来よりかび汚染や腐敗による対策は行われてきた。特に柑橘類等の青果物はかびが生えやすいことから、カピリンとポリフェノールを柑橘類表面にコーティングする方法や(例えば特許文献1,2参照、)、タンニンを含有する組成物を柑橘類表面にコーティングする方法(例えば特許文献3参照)が検討されてきた。
しかしながら、特許文献1~3に記載の方法は、対象とする食品が実質的に非加食部分である外果皮を有する柑橘類であり、塗布剤は外果皮にコーティングすることを想定されている。従って、塗布された食品の味の変質等についてはなんら考慮されてこなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-230283号公報
【特許文献2】特開2006-42799号公報
【特許文献3】特開2008-54529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、食品に直接コーティングした状態で加食しても、味に変化を生じさせず、且つ、消費期限や賞味期限の延長が可能な食品用コーティング剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち本発明は、セラック、タンニン酸、及びエタノールを含有する食品用コーティング剤を提供する。
【0007】
また本発明は、前記記載の食品用コーティング剤をコーティングした食品を提供する。
【0008】
また本発明は、前記記載の食品用コーティング剤をコーティングした食品用包装材を提供する。
【0009】
また本発明は、前記記載の食品用コーティング剤を食品にコーティングする賞味期限延長方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の食品用コーティング剤は、セラック、タンニン酸、及びエタノールを含有する。
【0011】
(セラック)
本発明で使用するセラックは、カイガラムシの一種であるラックカイガラムシ、及びその近縁の数種のカイガラムシが分泌する樹脂状の虫体被覆物を公知の溶液抽出法、ソーダー法などの方法により精製した樹脂である(セラック樹脂とも称される)。その成分は、皮膜形成の為の多数の樹脂酸およびそのエステル化物、ワックス、色素の混合物から構成される。前記樹脂酸はアレウリチン酸、ジャラール酸、及びラクシジャラール酸であり、これら樹脂酸とのエステル化合物を主成分とした天然セラック樹脂あるいは合成セラック樹脂であり、例えば、精製セラック樹脂、漂白セラック樹脂、脱色セラック樹脂などが挙げられる。
【0012】
前記精製セラック樹脂は、ラックカイガラムシが分泌する樹脂状物質を濾過により不純物を除去して精製したものである。漂白セラック樹脂(白ラック)は、樹脂状物質をアルカリ水溶液に溶解させ、次亜塩素酸ナトリウムで漂白し、無機酸でアルカリを中和させて沈殿させたものである。脱色セラック樹脂は、物理的に色素を取り除いて脱色したものである。
これらのセラックは、中でも脱色セラック又は精製セラックが好ましい。
なお本発明において用いられるセラック樹脂は、産地、原料の種類、精製法等に特に限定されるものではない。
【0013】
本発明において前記セラック樹脂は、コーティング剤の基剤となるもので、コーティング剤による被膜が被コーティング物を被覆して防湿機能、酸化防止機能、光沢機能、マスキング機能、安定化機能等の機能を付与することができる。
前記セラック樹脂は、本発明の食品用コーティング剤の全固形分に対し50質量%~99質量%含有することが好ましく、より好ましくは80質量%~95質量%である。
【0014】
(タンニン酸)
本発明で使用するタンニン酸は、グルコースに複数の没食子酸分子が結合した構造を有するポリフェノール化合物である。タンニン酸は、例えば植物から容易に入手することができる。本発明に使用されるタンニン酸の由来や形態は特に限定されず、例えば、植物抽出物のように部分的に精製されたタンニン酸、植物から単離されたタンニン酸、人工的に合成されたタンニン酸などを用いることができ、それらを組合せて用いてもよい。
【0015】
本発明においてタンニン酸は、食品に対する防腐効果や防カビ効果を目的に添加される。その観点から、本発明の食品用コーティング剤の全固形分に対し1質量%~50質量%含有することが好ましく、より好ましくは5質量%~20質量%である。
【0016】
一方で、タンニン酸には収れん作用があることから、食することで苦みや渋みを有する。食品に対する防腐効果や防カビ効果を発現する前記範囲の含有量は、時として塗布された食品の味に苦みや渋みを与えてしまうこととなり、塗布された食品の味の変質につながる。
本発明においては、セラックとタンニン酸の質量比率が、セラック:タンニン酸=100:1~100:100であることが好ましい。この範囲において、食品に直接コーティングした状態で加食しても、タンニン酸に由来する味に変化を生じさせず、且つ、タンニン酸が有する防腐効果や防カビ効果と、セラック被覆による防湿機能、酸化防止機能、光沢機能、マスキング機能、安定化機能等が総合された、消費期限や賞味期限の延長が可能となる。
中でも、セラック:タンニン酸=100:1~100:100であることがなお好ましく、より好ましくはセラック:タンニン酸=100:5~100:20である。
【0017】
(エタノール)
本発明においては、セラックとタンニン酸を溶解させるとともに、コーティング剤組成物を被コーティング物の表面にコーティングした後、揮発を速やかに行うための溶媒としてアルコールを使用することが好ましい。アルコールの種類は用途に応じて、エタノール、イソプロパノール又は含水アルコールが適宜選択されるが、被コーティング物が食品の場合にはエタノールが好ましい。前記アルコールは、2種類以上を選択して併用してもよい。
【0018】
前記含水アルコールとしては、水の含有率が30容量%以下のエタノール、又はイソプロパノールが好ましい。水の含有率が30容量%を超えると、セラックが析出するとともに、水の含有率がさらに高くなるとコーティング時の乾燥性が低下し、作業時間が長くなって好ましくない。
【0019】
(その他の成分)
本発明においては、本発明の効果を損なわない範囲において、多糖類、脂質、タンパク質等、その他の添加剤を含有することもできる。
【0020】
本発明で使用できる多糖類としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、デンプンおよび誘導体(例えば、生デンプン、修飾デンプン、α化デンプン、デキストリン、マルトデキストリン コーンシロップ スクロース、デキストロース/フルクトース、および糖ポリオール);押出物ゴム(例えば、アラビアゴム、ガッチゴム、カラヤゴム、およびトラガカントゴム);種子ゴム(例えば、ガーゴム、およびローカストビーンゴム);微生物発酵ゴム(例えば、キサンタン、ガランゴム(gallan gum)、およびチロサン(chilosan));海藻抽出物(例えば、寒天、アルギネート、カラゲーナン、およびファーセレラン);ならびにペクチンが挙げられる。
【0021】
本発明で使用できる脂質としては、ろうおよび油(例えば、パラフィンろう、カルナウバろう、蜜ろう、カンデリラろう、およびポリエチレンろう);脂肪酸およびモノグリセリド(例えば、ステアリルアルコール、ステアリン酸、パルミチン酸、モノグリセリドおよびジグリセリド);天然に存在する樹脂(例えば、ウッド樹脂(wood resin));ならびにクマロン-インデン、植物油、鉱油、中鎖トリグリセリド、脂肪、精油(例えばチモール、レモングラス、クミン、シナモン)が挙げられる。
【0022】
本発明で使用できるタンパク質としては、トウモロコシゼイン(a-ゼイン、b-ゼイン、および/またはv-ゼイン)、コムギグルテン、ダイズタンパク質、落花生タンパク質、ケラチン、コラーゲン、ゼラチン、牛乳タンパク質(カゼイン)、およびホエータンパク質、グルテン、グリセリン、シルクプロテインが挙げられる。
【0023】
(食品)
本発明の食品用コーティング剤を食品にコーティングすることで、消費期限や賞味期限の延長された食品を得ることができる。
本発明において「食品」とは、動物の食用に供されるもの(餌、飼料などを含む)をいい、典型的には、ヒトの食用に供されるものをいう。食品としては、例えば、青果物(野菜、果物、山菜、キノコなど)、魚介類等が挙げられ、これらはまとめて生鮮食品とも称される。ここで、野菜には、利用される部位による分類として、葉菜類、根菜類、果菜類が含まれる。果物とは、食用に供される果実を意味する。山菜とは、山野に自生し、食用に供される植物を意味する。キノコとは、菌類に分類される生物群のうち、肉眼的な大きさの子実体を形成するもの、又はその子実体そのものであって、食用に供されるものを意味する。魚介類とは、魚や貝などの食用に供される水産動物を意味する。
【0024】
また、食品としては、上記の青果物、魚介類等を原料とし、当該原料に何らかの加工処理が施された加工食品であってもよい。例えば、商品として消費者に渡る以前に、茹でる、蒸す、煮る、焼く、揚げるなどの調理処理がなされた食品(例えば、ボイルされたエビ、焼き魚、など)、又は多種の材料を用いて準備された食品(例えば、餃子、シュウマイ、かまぼこ、つみれなど)が挙げられる。
【0025】
また、本発明の食品コーティング剤が適用可能な食品は、その食品に含まれる栄養素の量によって分類することもできる。具体的には、炭水化物(糖質)を多く含む食品(例えば、炊飯、餅、麺類、パン、饅頭など。主食とも呼ばれる。)、タンパク質を多く含む食品(例えば、魚介類、卵、大豆、大豆加工食品など。主菜とも呼ばれる。)、及び、ビタミン類、ミネラル類、食物繊維を多く含む食品(例えば、野菜、キノコ、海藻類など。副菜とも呼ばれる。)が挙げられる。
【0026】
本明細書において食品の「コーティング」とは、当該食品の表面の少なくとも一部又はその全体に、本発明の食品用コーティング剤の薄膜が形成された状態をいう。本発明においては、食品の表面の少なくとも一部に本発明の食品用コーティング剤の薄膜が形成されていれば、本発明の効果を得ることができるため、食品の表面の全体に当該重合薄膜が形成されていなくてもよい。コーティング対象の食品(以下、単に「対象の食品」ともいう。)の大きさ(サイズ)、及び、後述する原料化合物の水溶液又はアルコール水溶液を塗布しようとする表面の大きさ(表面積)、形状(凹凸など)、性状(濡れ性など)等に応じて、あるいは、対象の食品の鮮度保持に関して求められる条件等に応じて、コーティングを施す場所や範囲を設定することができる。一方で、例えば生鮮食品等に対して本発明の効果を最大限に発揮するためには、食品の表面積に対して50%以上覆っている状態であることが好ましく、90%以上覆っている状態がなお好ましく、100%覆っている状態が最も好ましい。
【0027】
本発明の食品用コーティング剤を食品の表面にコーティングする方法は特に限定されず、適宜選択することができる。具体的には、噴霧、刷毛やブラシなどの塗布方法や、スピンコーティング装置などの公知の塗布装置を用いる方法、食品の表面の一部又は全体を食品用コーティング剤中に一定時間浸漬させる方法等が挙げられる。
【0028】
本発明の食品用コーティング剤を食品の表面にコーティングする際の膜厚は、特に限定はないが、1~50μmが好ましく、3~15μmがより好ましい。
【0029】
(食品用包装材)
本発明の食品用コーティング剤を、食品包装用の材料、例えばフィルム等にコーティングすることで、包装した食品の消費期限や賞味期限の延長が可能となる。本発明の食品用コーティング剤は、後述の食品包装用のフィルムや積層体を使用した包装材の内側、即ち食品と接する側にコーティングされていることが好ましい。
【0030】
(フィルム)
食品包装用の材料となるフィルムは、特に限定されず、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリアミドフィルム、ポリアクリロニトリルフィルム、ポリエチレンフィルム(OPE:二軸延伸ポリエチレンフィルム、LLDPE:低密度ポリエチレンフィルム、HDPE:高密度ポリエチレンフィルム)やポリプロピレンフィルム(CPP:無延伸ポリプロピレンフィルム、OPP:二軸延伸ポリプロピレンフィルム)等のポリオレフィンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム、セロファン等が挙げられる。
【0031】
また、これらフィルムにアルミニウム等の金属、シリカやアルミナ等の金属酸化物等の無機蒸着層を積層したフィルムを用いることもできる。具体的なものとしては、アルミニウム蒸着層を有するOPPフィルム、PETフィルム、LLDPEフィルム、CPPフィルム、シリカ蒸着層を有するOPPフィルム、PETフィルム、ナイロンフィルム、アルミナ蒸着層を有するOPPフィルム、PETフィルム、ナイロンフィルム等が挙げられる。本発明のコーティング剤は、ポリオレフィンフィルムを含むこれら基材への密着性に優れ、基材のガスバリア性や、各種香り成分の保香性を向上させることができる。
【0032】
モノマテリアルパッケージを意識する場合は、基材として、オレフィン系樹脂を主成分とする熱可塑性樹脂からなるフィルムを使用することができる。オレフィン系樹脂としては具体的には、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状(線状)低密度ポリエチレン等のポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、α-オレフィン重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メチルメタクリレート共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、環状オレフィン樹脂、アイオノマー樹脂、ポリメチルペンテン等のオレフィン樹脂;オレフィン樹脂をアクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、フマル酸その他の不飽和カルボン酸で変性した変性オレフィン系樹脂が挙げられる。
【0033】
また、フィルム基材として、バイオマス由来成分を含有する材料で形成させたフィルムを使用するのも好ましい。バイオマスフィルムは各社から販売されているほか、例えば、一般財団法人日本有機資源協会に記載のバイオマス認定商品一覧に挙げられるようなシートを使用することができる。
【0034】
具体的によく知られているフィルムは、バイオマス由来のエチレングリコールを原料としたものである。バイオマス由来のエチレングリコールは、バイオマスを原料として製造されたエタノール(バイオマスエタノール)を原料としたものである。例えば、バイオマスエタノールを、従来公知の方法により、エチレンオキサイドを経由してエチレングリコールを生成する方法等により、バイオマス由来のエチレングリコールを得ることができる。また、市販のバイオマスエチレングリコールを使用してもよく、例えば、インディアグライコール社から市販されているバイオマスエチレングリコールを好適に使用することができる。
【0035】
あるいは、ISO16620またはASTMD6866で規定されたバイオマスプラスチック度で区別されたバイオマス原料を使用したものも流通している。大気中では1012個に1個の割合で放射性炭素14Cが存在し、この割合は大気中の二酸化炭素でも変わらないので、この二酸化炭素を光合成で固定化した植物の中でも、この割合は変わらない。このため、植物由来樹脂の炭素には放射性炭素14Cが含まれる。これに対し、化石燃料由来樹脂の炭素には放射性炭素14Cがほとんど含まれない。そこで、加速器質量分析器で樹脂中の放射性炭素14Cの濃度を測定することにより、樹脂中の植物由来樹脂の含有割合、すなわちバイオマスプラスチック度を求めることができる。ISO16620またはASTM D6866で規定されたバイオマスプラスチック度が80%以上、好ましくは90%以上であるバイオマスプラスチックである植物由来の低密度ポリエチレンとしては、例えば、Braskem社製の商品名「SBC818」「SPB608」「SBF0323HC」「STN7006」「SEB853」「SPB681」等が挙げられ、これらを原料として使用したフィルムを好適に使用することができる。
【0036】
例えば、従来の石油系原料を使用したポリオレフィン系フィルムの代替として、バイオマス由来のエチレングリコールを原料とするポリエチレン系樹脂を含有するバイオマスポリエチレン系フィルム、バイオマスポリエチレン-ポリプロピレン系フィルム等のバイオマスポリオレフィン系フィルムも知られている。
ポリエチレン系樹脂は、原料の一部に前記バイオマス由来のエチレングリコールを使用する以外は特に限定されず、エチレンの単独重合体、エチレンを主成分とするエチレンとα-オレフィンとの共重合体(エチレン単位を90質量%以上含有するエチレン-α-オレフィン共重合体)などが挙げられ、これらを1種単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
なお、エチレンとα-オレフィンとの共重合体を構成するα-オレフィンは特に限定されず、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン及び1-オクテンなどの炭素原子数4乃至8のα-オレフィンが挙げられる。低密度ポリエチレン樹脂、中密度ポリエチレン樹脂及び直鎖状低密度ポリエチレン樹脂などの公知のポリエチレン樹脂を用いることができる。
その中でも、フィルム同士が擦れても、穴開きや破けなどの損傷を一段と生じにくくする観点から、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)(エチレンと1-ヘキセンとの共重合体、又はエチレンと1-オクテンとの共重合体)が好ましく、密度が0.910乃至0.925g/cm3である直鎖状低密度ポリエチレン樹脂がより好ましい。
【0037】
バイオマスフィルムは、複数のバイオマスフィルムを積層させた積層体であってもよいし、従来の石油系フィルムとバイオマスフィルムとの積層体であってもよい。
【0038】
前記フィルムは、何等かの表面処理、例えばコロナ放電処理、オゾン処理、酸素ガス若しくは窒素ガス等を用いた低温プラズマ処理、グロー放電処理、火炎処理等の物理的な処理や、化学薬品を用いた酸化処理等の化学的な処理、その他処理が施されたものであってもよい。
【0039】
前記基材は、上述した樹脂を押出法、キャスト成形法、Tダイ法、切削法、インフレーション法等の、従来公知の製膜化方法により製造することができる。未延伸フィルムであってもよいし、フィルム(1)の強度、寸法安定性、耐熱性の観点から、テンター方式、チューブラー方式等を利用して1軸ないし2軸方向に延伸したものであってもよい。
【0040】
前記基材は、必要に応じて添加剤を含んでいてもよい。具体的には、加工性、耐熱性、耐候性、機械的性質、寸法安定性、抗酸化性、滑り性、離型性、難燃性、抗カビ性、電気的特性、強度等を改良、改質する目的で、エラストマー、滑剤、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、充填剤、補強剤、帯電防止剤、顔料等のプラスチック配合剤や添加剤等を添加することができる。添加剤の添加量は、他の性能やリサイクル性に影響を与えない範囲で調整する。
【0041】
前記基材の膜厚は特に限定されず、成型性や透明性の観点から、0.1~300μmの範囲で適宜選択すればよい。好ましくは0.3~100μmの範囲である。0.1μmを下回ると強度が不足し、300μmを超えると剛性が高くなり過ぎ、加工が困難になる恐れがある。
【0042】
リサイクルの観点から、できるだけ層構成は簡素であることが好ましいが、包装材の流通性の観点から、包装材の内容物や製品の説明や名称を表示するための印刷は必要であることが多い。前記基材にも印刷がされていることが多い。このための印刷インキとして、グラビア印刷インキやフレキソ印刷インキ等のリキッドインキが使用されることが多い。
【0043】
(印刷層)
印刷層は、文字、図形、記号、その他所望の絵柄等が、リキッドインキ等を用いて印刷された層である。積層体が設けられる位置は任意である。本明細書においてリキッドインキはグラビア印刷またはフレキソ印刷に用いられる溶剤型のインキの総称である。樹脂、着色剤、溶剤を必須の成分として含むものであってもよいし、樹脂と溶剤を含み、着色剤を実質的に含まない、いわゆるクリアインキであってもよい。
【0044】
リキッドインキに用いられる樹脂は特に限定されるものではなく、例えばアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、スチレン樹脂、スチレン‐マレイン酸樹脂、マレイン酸樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂、塩化ビニル-アクリル共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、セルロース系樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、ロジン系樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、ケトン樹脂、環化ゴム、塩化ゴム、ブチラール、石油樹脂等が挙げられ、1種または2種以上を併用できる。好ましくはポリウレタン樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂、セルロース系樹脂から選ばれる少なくとも1種、あるいは2種以上である。
【0045】
リキッドインキに用いられる着色剤としては、酸化チタン、弁柄、アンチモンレッド、カドミウムレッド、カドミウムイエロー、コバルトブルー、紺青、群青、カーボンブラック、黒鉛などの無機顔料、溶性アゾ顔料、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、銅フタロシアニン顔料、縮合多環顔料当の有機顔料、炭酸カルシウム、カオリンクレー、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、タルクなどの体質顔料が挙げられる。
【0046】
リキッドインキに用いられる有機溶剤は、芳香族炭化水素系有機溶剤を含まないことが好ましい。より具体的には、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール系有機溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系有機溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルなどのエステル系有機溶剤、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタンなどの脂肪族炭化水素系有機溶剤、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどの脂環族炭化水素系有機溶剤などが挙げられ、1種または2種以上を組合わせて用いることができる。
【0047】
(接着剤)
前記フィルム等が複数層積層された積層体も良く使用されている。積層体は複数層のフィルム等が接着剤や押出法により積層された構造となっている。接着剤としては、例えば、通常フィルムの接着に用いられる2液硬化型ウレタン系の溶剤型、または無溶剤型接着剤を用いることができる。
【0048】
前記食品包装用のフィルムや積層体に本発明の食品用コーティング剤を塗布する方法としては特に限定されず、スプレー法、スピンコート法、ディップ法、ロールコート法、ブレードコート法、ドクターロール法、ドクターブレード法、カーテンコート法、スリットコート法、スクリーン印刷法、インクジェット法、ディスペンス法、ダイコート(ダイコーティング)法、ダイレクトグラビア法、リバースグラビア法、フレキソ法、ナイフコート法、ドットコーコート法等を用いることができる。
【0049】
食品用コーティング剤の膜厚は、基材の種類等により適宜調整され得るが、一例として3μm以上15μm以下であることが好ましい。
【実施例0050】
以下、実施例により本発明を具体的に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の例において、「g」、「部」、「%」等は、特に断りがない限り、「質量g」「質量部」及び「質量%」をそれぞれ表す。
【0051】
実施例1~3および比較例2~4の組成物を調製し、試験例1~4に基づき試験を行なった。実施例1~3、比較例1~4および試験例1~4の詳細は、以下の通りである。
【0052】
(実施例1)
脱色セラックPEARL-N811(岐阜セラック社製)25g、タンニン酸(五協フード&ケミカル株式会社製「Gタンニン酸」)2.5g、エタノール75gを混合して実施例1の食品用コーティング剤を調製した。
【0053】
(実施例2)
脱色セラックPEARL-N811(岐阜セラック社製)25g、タンニン酸(五協フード&ケミカル株式会社製「Gタンニン酸」)50g、エタノール225gを混合して実施例2の食品用コーティング剤を調製した。
【0054】
(実施例3)
脱色セラックPEARL-N811(岐阜セラック社製)25g、タンニン酸(五協フード&ケミカル株式会社製「Gタンニン酸」)0.2g、エタノール75gを混合して実施例3の食品用コーティング剤を調製した。
【0055】
(比較例1)
いずれの処理も行わないものを無処理とし、比較例1とした。
【0056】
(比較例2)
エタノール500gをコーティング剤として使用したものを比較例2とした。
【0057】
(比較例3)
タンニン酸(五協フード&ケミカル株式会社製「Gタンニン酸」)25g、エタノール75gを混合して比較例3の組成物とした。
【0058】
(比較例4)
脱色セラックPEARL-N811(岐阜セラック社製)25g、エタノール75gを混合して比較例4の組成物とした。
【0059】
(試験例1)
ミニトマトを使用し、実施例1~3および比較例2~4の各組成物を表面にスプレー塗装(10μm膜厚)し、自然乾燥にて塗膜を形成させた。室内で静置し、1か月後の腐敗状況を目視にて確認した。
【0060】
(試験例2)
ミニトマトを使用し、実施例1~3および比較例2~4の各組成物を表面にスプレー塗装(10μm膜)し、自然乾燥にて塗膜を形成させた。室内で一週間静置し、食味を確認した。
【0061】
(試験例3)
透明PETフィルムに比較例4、実施例1~3をバーコーター#8で塗工し、60℃で5分乾燥後塗膜を作成させた。塗工フィルムをJIS Z2801:2012に準拠して抗菌試験を実施した。
・サイズ、厚さ、形状
サイズ:50mm×50mm、厚さ:1mm未満、形状:平滑
・試験方法
JIS Z 2801:2012 抗菌加工製品-抗菌性試験方法・抗菌効果
・試験菌株
Escherichia coli NBRC 3972(大腸菌)
・試験菌液接種量
0.4mL
・被覆フィルム
ストマッカーフィルム
サイズ:40mm×40mm、厚さ:約0.09mm、形状:平滑
・生菌数の測定方法
寒天平板培養法
【0062】
(試験例4)
透明PETフィルムに比較例4の組成物、実施例1~3の組成物をバーコーター#8で塗工し、60℃で5分乾燥後塗膜を作成させた。塗工フィルムを25℃の水に1時間浸漬したあとの塗膜状態を確認した。
【0063】
試験例1~2の結果を表1に示す。
【0064】
試験例3~4の結果を表2に示す
【0065】
【0066】
比較例1(腐敗状況)
◎:表面光沢維持 〇:表面しわあり △:しぼみあり ×:カビ発生
比較例2(食味)
◎:通常 〇:僅かに苦味 △: 苦味 ×:苦味強い
【0067】
【0068】
試験例3
2以上:抗菌活性あり 2未満:抗菌活性なし
試験例4
◎:変化なし 〇:一部白化 △: 一部溶解剥離 ×全部溶解剥離