(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025086531
(43)【公開日】2025-06-09
(54)【発明の名称】脂身様食品及び脂身様食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 13/00 20160101AFI20250602BHJP
A23L 29/262 20160101ALI20250602BHJP
A23L 29/20 20160101ALI20250602BHJP
【FI】
A23L13/00 Z
A23L29/262
A23L29/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023200568
(22)【出願日】2023-11-28
(71)【出願人】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】関口 千絵
(72)【発明者】
【氏名】倉沢 洋佑
(72)【発明者】
【氏名】青木 栄里子
【テーマコード(参考)】
4B041
4B042
【Fターム(参考)】
4B041LC10
4B041LD01
4B041LH02
4B041LH11
4B041LK15
4B041LP01
4B041LP04
4B041LP12
4B041LP16
4B042AC10
4B042AD36
4B042AE03
4B042AK06
4B042AK09
4B042AP02
4B042AP14
4B042AP18
4B042AP21
(57)【要約】
【課題】脂身として使用することができるプラントベースの新規な脂身様食品を提供することを課題とする。
【解決手段】(A)水、融点35℃未満の液体油脂及び可逆的熱硬化性ゲル化剤を含む油水ゲルと、
(B)澱粉と、
(C)融点35℃以上の固体油脂と、
(D)水と
を含み、
(A)油水ゲルに含まれる可逆的熱硬化性ゲル化剤の量が、油水ゲル中の水と融点35℃未満の液体油脂との合計100質量部に対して、1.5~5質量部の範囲であり、
(C)融点35℃以上の固形油脂の質量aに対する(D)水の質量bの比b/aが2.00以下であり、
(A)油水ゲルの量が、(A)油水ゲルと(C)融点35℃以上の固形油脂と(D)水との合計質量に対して12~45質量%である、脂身様食品を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)水、融点35℃未満の液体油脂及び可逆的熱硬化性ゲル化剤を含む油水ゲルと、
(B)澱粉と、
(C)融点35℃以上の固体油脂と、
(D)水と
を少なくとも含み、
(A)油水ゲルに含まれる可逆的熱硬化性ゲル化剤の量が、油水ゲル中の水と融点35℃未満の液体油脂との合計100質量部に対して、1.5~5質量部の範囲であり、
(C)融点35℃以上の固体油脂の質量aに対する(D)水の質量bの比b/aが2.00以下であり、
(A)油水ゲルの量が、(A)油水ゲルと(C)融点35℃以上の固体油脂と(D)水との合計質量に対して12~45質量%である、脂身様食品。
【請求項2】
(A)油水ゲルに含まれる融点35℃未満の液体油脂の量が、油水ゲル中の水と融点35℃未満の液体油脂の合計質量に対して5~55質量%の範囲である、請求項1記載の脂身様食品。
【請求項3】
(C)融点35℃以上の固体油脂の質量aに対する(D)水の質量bの比b/aが0.04以上である、請求項1に記載の脂身様食品。
【請求項4】
(B)澱粉の量が、(A)油水ゲルと(C)融点35℃以上の固体油脂と(D)水との合計100質量部に対して1質量部以上である、請求項1に記載の脂身様食品。
【請求項5】
(A)油水ゲルに含まれる可逆的熱硬化性ゲル化剤が、セルロース誘導体である、請求項1に記載の脂身様食品。
【請求項6】
(B)澱粉が、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉、モチ種トウモロコシ澱粉、タピオカ澱粉及びこれらを化学的、物理的、酵素的に変性させたヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、ヒドロキシプロピル化澱粉、リン酸架橋澱粉からなる群から選択される1以上である、請求項1に記載の脂身様食品。
【請求項7】
下記の工程1~4:
工程1:融点35℃未満の液体油脂に可逆的熱硬化性ゲル化剤を加えて撹拌し、分散させた混合物を得る工程
工程2:工程1で得た混合物に、水を加えて混合後、冷却し、(A)油水ゲルを得る工程
工程3:工程2で得た(A)油水ゲルに、(B)澱粉、(C)融点35℃以上の固体油脂、(D)水を加えて混合し、混合物を得る工程
工程4:工程3で得た混合物を加熱後、冷却し、脂身様食品を得る工程
を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の脂身様食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は脂身様食品及び脂身様食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、「環境負荷」、「食糧不足」、「ヘルスケア」、「動物倫理」等の観点から、プラントベースフード(植物性の食材からなる食品)が市場に広まっており、年々身近なものになっている。国内におけるプラントベースフードの市場規模は、2011年は51憶円(TPCマーケティングリサーチ調べ)だったが、2021年には285憶円(日本食糧新聞社調べ)となり、10年で5倍以上も伸びている。
プラントベースフードの中でも大豆を代表とする植物性たんぱくを用いた食肉の代替品も市場に多く流通しており、見た目や味わいをより食肉に近づけた製品が増え、消費者からはより高品質な肉様食品が求められている(特許文献1及び2)。
牛肉の脂身では約74%が脂質、豚肉でも脂身の内72%は脂質であり、この脂身が肉特有の甘みや濃厚さ等のおいしさを出している。しかし、現状プラントベースの肉様食品では、脂身として製造されているものは少ない。
従来の肉様食品は、大豆特有の臭みに加えて、パサつきや、保形性の悪さなど課題が多くあった。これらを改善するためにハンバーグ等の食肉様加工品に油脂を混合し、ジューシー感を付与させる製造方法が報告されている(特許文献3)が、これらの技術は成型肉に限定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2023-005979号
【特許文献2】特開2021-171030号
【特許文献3】特開2018-029565号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、脂身として使用することができるプラントベースの新規な脂身様食品を提供することである。
本発明はまた、プラントベースの脂身様食品であって、冷凍耐性を有し、喫食時にジューシー感をもたらす脂身様食品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討の結果、水、液体油脂及び可逆的熱硬化性ゲル化剤を含む油水ゲルを含み、さらに澱粉と、固体油脂と、水とを含む組成物が、喫食時にジューシー感をもたらす脂身様食品となることを見出し、本発明の完成に至った。
本発明は以下を提供する。
〔1〕(A)水、融点35℃未満の液体油脂及び可逆的熱硬化性ゲル化剤を含む油水ゲルと、
(B)澱粉と、
(C)融点35℃以上の固体油脂と、
(D)水と
を少なくとも含み、
(A)油水ゲルに含まれる可逆的熱硬化性ゲル化剤の量が、油水ゲル中の水と融点35℃未満の液体油脂との合計100質量部に対して、1.5~5質量部の範囲であり、
(C)融点35℃以上の固形油脂の質量aに対する(D)水の質量bの比b/aが2.00以下であり、
(A)油水ゲルの量が、(A)油水ゲルと(C)融点35℃以上の固形油脂と(D)水との合計質量に対して12~45質量%である、脂身様食品。
〔2〕(A)油水ゲルに含まれる融点35℃未満の液体油脂の量が、油水ゲル中の水と融点35℃未満の液体油脂の合計質量に対して5~55質量%の範囲である、〔1〕に記載の脂身様食品。
〔3〕(C)融点35℃以上の固体油脂の質量aに対する(D)水の質量bの比b/aが0.04以上である、〔1〕又は〔2〕に記載の脂身様食品。
〔4〕(B)澱粉の量が、(A)油水ゲルと(C)融点35℃以上の固体油脂と(D)水との合計100質量部に対して1質量部以上である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の脂身様食品。
〔5〕(A)油水ゲルに含まれる可逆的熱硬化性ゲル化剤が、セルロース誘導体である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の脂身様食品。
〔6〕(B)澱粉が、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉、モチ種トウモロコシ澱粉、タピオカ澱粉及びこれらを化学的、物理的、酵素的に変性させたヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、ヒドロキシプロピル化澱粉、リン酸架橋澱粉からなる群から選択される1以上である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の脂身様食品。
〔7〕下記の工程1~4:
工程1:融点35℃未満の液体油脂に可逆的熱硬化性ゲル化剤を加えて撹拌し、分散させた混合物を得る工程
工程2:工程1で得た混合物に、水を加えて混合後、冷却し、(A)油水ゲルを得る工程
工程3:工程2で得た(A)油水ゲルに、(B)澱粉、(C)融点35℃以上の固体油脂、(D)水を加えて混合し、混合物を得る工程
工程4:工程3で得た混合物を加熱後、冷却し、脂身様食品を得る工程
を含む、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の脂身様食品の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、可逆的熱硬化性ゲル化剤を使用して、動物性原料を使わずに食肉の脂身の様なジューシー感を有する脂身様食品を提供することができる。また、本発明の脂身様食品は冷凍耐性にも優れているため、冷凍保存が可能である。
本発明の脂身様食品は、環境への負荷が小さく、食肉の脂身と同様のジューシー感、保形性を有し、冷凍耐性が付与された植物性の素材からなる食品である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【発明を実施するための形態】
【0008】
(1)脂身様食品
本発明の脂身様食品は、
(A)水、融点35℃未満の液体油脂及び可逆的熱硬化性ゲル化剤を含む油水ゲルと、
(B)澱粉と、
(C)融点35℃以上の固体油脂と、
(D)水と
を少なくとも含み、
(A)油水ゲルに含まれる可逆的熱硬化性ゲル化剤の量が、油水ゲル中の水と融点35℃未満の液体油脂との合計100質量部に対して、1.5~5質量部の範囲であり、
(C)融点35℃以上の固体油脂の質量aに対する(D)水の質量bの比b/aが2.00以下であり、
(A)油水ゲルの量が、(A)油水ゲルと(C)融点35℃以上の固体油脂と(D)水との合計質量に対して12~45質量%である、
脂身様食品である。
【0009】
本発明において「脂身様食品」とは、豚肉や牛肉等の動物の食肉に含まれる脂肪が集まった部位である脂身に類似した外観、食感・硬さあるいは味等を有する、動物の食肉以外から製造される食品である。喫食時に口の中で油の染み出しが広がりジューシー感を感じることができる。本発明では、好ましくは、植物由来成分(植物性素材ともいう)で製造された食品を意味する。より好ましくは、動物由来の原料を使用せずに植物由来成分のみで製造された、脂身に類似した食品を意味する。
また、製造・保管・流通などの際に脂身様食品を冷凍する利用方法が考えられるため、解凍後もゲル状を維持した、保形性がよいものが好ましい。本発明の脂身様食品は冷凍食品に用いることができる。
【0010】
本発明の脂身様食品の各構成についてさらに説明する。
(A) 水、融点35℃未満の液体油脂及び可逆的熱硬化性ゲル化剤を含む油水ゲル
本発明では、水、融点35℃未満の液体油脂及び可逆的熱硬化性ゲル化剤を含む油水ゲルを用いることが1つの特徴である。
(A-1)油水ゲル
本発明の油水ゲルとは、ゲル化剤の働きによって、油水混合物を油水分離の少ない安定な状態に分散させた、ゲル状組成物のことを指す。本明細書においてゲル状組成物とは、コロイド科学上の厳密な意味で定義されるものではなく、高い粘性を持ち室温下では流動しない状態で、系全体としては固体状になった組成物を意味する。
【0011】
脂身様食品における(A)油水ゲルの配合量は、(A)油水ゲルと(C)融点35℃以上の固体油脂と(D)水との合計質量100質量%のうち、12~45質量%であり、24~38質量%がより好ましい。上記範囲において、硬さ及び保形性がよく、ジューシー感のある脂身様食品を得ることができる。油水ゲルの配合量が少なすぎると形がまとまらず流動性のある生地となり、油水ゲルの配合量が多くなりすぎると、硬く、ジューシー感が欠ける食感になる。
油水ゲルは、可逆的熱硬化性ゲル化剤と液体油脂を混合して分散させ、さらに水、好ましくは冷水、さらに好ましくは10℃以下の水を加えて撹拌してゲル化させて調製することができる。
【0012】
(A-2)可逆的熱硬化性ゲル化剤
本発明において可逆的熱硬化性ゲル化剤とは、液体をゲル化して固化する物質を指す。
本発明において「可逆的熱硬化性ゲル化剤」は、ゲル化剤溶液の加熱により該溶液がゲル状となり、冷却すると元の液状に戻る性質を有するゲル化剤をいう。
可逆的熱硬化性ゲル化剤の好ましい例としては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのセルロース誘導体が挙げられる。より好ましくはメチルセルロースである。
本発明の(A)油水ゲルに含まれる可逆的熱硬化性ゲル化剤の量は、油水ゲル中の水と融点35℃未満の液体油脂の合計100質量部に対して、1.5~5質量部の範囲である。好ましくは1.5~4.0質量部の範囲であり、より好ましくは2.0~3.5質量部であり、さらに好ましくは2.0~3.0質量部である。1.5質量部より多ければジューシー感がある脂身様食品を得ることができ、5.0質量部以下では硬さと保形性が良い脂身様食品を得ることができる。
【0013】
(A-3) 35℃未満の融点を有する液体油脂
油水ゲル製造に用いる油脂は融点が35℃未満(常温)の液体油脂(常温液状油脂ともいう)である。融点が35℃以上の固体状の油脂(常温固体状油脂ともいう)では、油水ゲルの製造時にゲル化し難く流動性がある柔らかい状態になり脂身様食品の製造に適さない。
本明細書において融点が35℃未満の液体油脂とは、油糧原料から分離精製された常温で液体である油脂をいい、具体的には、35℃未満で24時間静置した際に液体である油脂をいう。液体油脂は、一般に飽和脂肪酸よりも不飽和脂肪酸のグリセリンエステルを多く含有する。液体油脂の具体例としては例えば、大豆油、菜種油、コーン油、サラダ油等の植物油、魚油、肝油等の動物油が挙げられるが、本発明の趣旨である植物性の素材であることから、大豆油、菜種油、コーン油、サラダ油、紅花油、ひまわり油、ごま油、オリーブ油、アマニ油等の植物油が好ましく、風味の観点から、大豆油、菜種油、コーン油、サラダ油、紅花油、ひまわり油がより好ましい。
(A)油水ゲルに含まれる融点35℃未満の液体油脂の量は、油水ゲル中の水と融点35℃未満の液体油脂の合計質量に対して5~55質量%であることが好ましく、8~52質量%がより好ましく、10~45質量%がさらに好ましく、20~42質量%がさらにより好ましい。液体油脂の量が少なすぎると脂身様食品の食感が柔らかくなり、液体油脂の量が多すぎると食感が硬くジューシー感に欠けるものとなる。
【0014】
(A-4)水
油水ゲルは水を含む。油水ゲル中の水は、(A)油水ゲルに含まれる融点35℃未満の液体油脂が、油水ゲル中の水と融点35℃未満の液体油脂の合計質量に対して上で述べた所定量となるような量において含まれることが好ましい。
【0015】
(B)澱粉
脂身様食品は、澱粉を含む。澱粉の原料には特に限定はなく、例えば、小麦澱粉、トウモロコシ澱粉、モチ種トウモロコシ澱粉、馬鈴薯澱粉、さつまいも澱粉、タピオカ澱粉、米澱粉、さご澱粉、くず澱粉等を挙げることができ、これらを化学的、物理的、酵素的に変性させた加工澱粉も使用できる。いずれの種類の澱粉でも使用できるが、脂身様食品の硬さ及び解凍後の保形性やジューシーさの観点から好ましくは馬鈴薯澱粉であり、加工澱粉であればヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉である。
澱粉の量は、(A)油水ゲルと(C)融点35℃以上の固体油脂と(D)水との合計100質量部に対して1質量部以上含まれることが好ましい。より好ましくは3~30質量部であり、さらに好ましくは3~25質量部であり、よりさらに好ましくは5~20質量部である。澱粉が含まれない場合には、特に保形性が低くなり、脂身様食品の成形が難しくなる。上記含有量で澱粉が含まれる場合、ジューシー感、硬さ及び保形性が適切な範囲となり脂身様食品として好ましい。
【0016】
(C)融点35℃以上の固体油脂
脂身様食品は、融点35℃以上の固体油脂を含む。固体油脂とは、油糧原料から分離精製された常温で固体である油脂をいい、具体的には、35℃以上で24時間静置した際に固体である油脂をいう。固体油脂は、一般に不飽和脂肪酸よりも飽和脂肪酸のグリセリンエステルを多く含有する。固体油脂の具体例としては例えば、牛脂、豚脂等の動物脂、パーム油、パーム核油等の植物脂が挙げられるが、本発明の趣旨である植物性の素材であることから、パーム油、パーム核油等の植物脂が好ましい。
35℃以上の温度で固体状の固体油脂であれば脂身様食品が製造可能である。35℃未満で液状の液体油脂では、脂身様食品の保形性が悪く柔らかい食感となり、不適である。
(C)融点35℃以上の固体油脂の質量aに対する(D)水の質量bの比b/aは2.00以下である。b/aは0.04以上であることが好ましく、0.04~1.80であることがより好ましく、0.10~1.30であることがさらに好ましく、0.10~0.90であることがよりさらに好ましい。
【0017】
(D)水
脂身様食品は、上記(A)~(C)に加えて(D)水を含む。水の質量bは、b/aが2.00以下となるような量であればよい。水は必ず含まれているのでb>0であり、(C)融点35℃以上の固体油脂も必ず含まれているのでa>0である。したがってb/aは0より大きくなる(>0)。b/aは0.04以上であることが好ましい。上記範囲において保形性により優れた脂身様食品を製造することができる。
(D)水を含まない場合、保形性が悪く、脂身様食品を製造できない場合もある。
【0018】
(2)脂身様食品の製造方法
脂身様食品は、可逆的熱硬化性ゲル化剤を含む油水ゲルと、固体油脂、澱粉及び水の混合物を成形、加熱して製造する。
より具体的には以下の工程により製造することが好ましい。
工程1:融点35℃未満の液体油脂に可逆的熱硬化性ゲル化剤を加えて撹拌し、分散させた混合物を得る工程
工程2:工程1で得た混合物に、水を加えて混合後、冷却し、(A)油水ゲルを得る工程
工程3:工程2で得た(A)油水ゲルに、(B)澱粉、(C)融点35℃以上の固体油脂、(D)水を加えて混合し、混合物を得る工程
工程4:工程3で得た混合物を加熱後、冷却し、脂身様食品を得る工程
【0019】
工程1及び3における攪拌方法あるいは工程2における混合方法は特に限定されるものではないが、例えば、フードプロセッサー、ミキサーなどの撹拌機を用いて、1900~3200rpmで2~5分程度攪拌することにより行うことができる。
工程2における冷却は、例えば、0~10℃程度で、30分間~18時間程度冷却することが好ましい。
【0020】
工程4における加熱方法は特に限定されるものではなく、公知の加熱手段であれば何れも好適に適用できる。加熱手段の具体例としては、過熱水蒸気処理、スチームコンベクション処理、熱風噴射処理(ジェットオーブン)等が挙げられる。可逆的熱硬化性ゲルが熱凝固してゲル化する温度に達する、かつ澱粉が糊化する温度に達する条件であればよい。より具体的には、原料混合物の芯部(最も熱が通りにくい部分)の温度が、70℃以上であればよく、好ましくは75℃以上であり、より好ましくは80℃以上である。食品製造の衛生管理の観点から、芯温が85℃1分以上、またはそれと同等以上の加熱であれば加熱殺菌処理を同時に施せるので更に好ましい。
油水ゲルを厚さ2mm程度の板状に成型した場合であれば、過熱水蒸気処理であれば110~250℃で1分~3分間、スチームコンベクションであれば110~300℃で1分~3分間、熱風噴射処理であれば160~200℃で2~3分間加熱すればよい。このような加熱条件は、使用する澱粉の種別及び成形した原料混合物の大きさや形状により適宜調節すればよい。加熱にあたり、原料混合物を耐熱性包装材で密封包装してもよい。
特別に断らない限り、本明細書中の%は質量%を意味する。
【実施例0021】
製造例1:油水ゲルの製造
(1)配合表1に従い、液体油脂(菜種油、不二製油社製)150質量部に可逆的熱硬化性ゲル化剤(メチルセルロース、信越化学工業社製)10質量部を加え、フードプロセッサーで2900rpm、1分間撹拌し分散させた。前記混合物に0℃の水を340質量部加え、フードプロセッサーで2900rpm、3分間混合した。
(2)(1)を4℃の冷蔵庫で一晩置き、油水ゲルを得た。
【0022】
【0023】
製造例2:脂身様食品の製造
(1)配合表2に従い、製造例1で得た油水ゲル30質量部、固体油脂(パーム油、太陽化学社製)40質量部、加工澱粉(ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、松谷化学社製)5質量部、水10質量部を加え、フードプロセッサーで2900rpm、3分間混合した。
(2)(1)の混合物を厚さ3mmに伸ばして成形した。
(3)(2)の成形した混合物を過熱水蒸気で170℃2分加熱した。
(4)加熱後急速凍結機を用いて-30℃で凍結し、得られた脂身様食品を―20℃のフリーザーで保存した。
【0024】
【0025】
評価例1 脂身様食品の官能評価
冷凍された脂身様食品を、常温に置き解凍後、フライパンを使用し中火で片面40秒ずつ加熱焼成した。
評価基準表1に従い、10名の熟練パネラーにより評価し、評価点の平均点を求めた。
【0026】
【0027】
<試験例1 油水ゲル作成時の各資材上限検討>
油水ゲル中の油脂と水の配合割合を検討するため、液体油脂と水の配合割合を表1のように変更した以外は製造例1に従って油水ゲルを調製し、製造例2に従って脂身様食品を製造し、評価例1に従って官能評価した結果を表1に示す。
融点35℃未満の液体油脂の配合量が、油水ゲル中の水と融点35℃未満の液体油脂の合計質量のうち5~55質量%であると食感、保形性及びジューシー感において良好であった(実施例1~7)。液体油脂の配合量が5質量%未満になると食感が柔らかすぎる方向になり、液体油脂の量が増えすぎると食感が硬くなる傾向にあった。
【0028】
【0029】
<試験例2 可逆的熱硬化性ゲル化剤の配合量検討>
可逆的熱硬化性ゲル化剤の適切な配合量を検討するため、可逆的熱硬化性ゲル化剤の配合量を表2のように変更した以外は製造例1に従って油水ゲルを調製し、製造例2に従って脂身様食品を製造し、評価例1に従って官能評価した結果を表2に示す。
可逆的熱硬化性ゲル化剤の配合量は、油水ゲル中の水と融点35℃未満の液体油脂の合計100質量部に対して1.5~5質量部であることが好ましく、2~3質量部がより好ましい(実施例4,8~9)。可逆的熱硬化性ゲル化の配合量が1質量部以下だと食感が硬くジューシー感にも欠けて不適であり(比較例2)、6質量部以上だと柔らかすぎて形状を保てなかったため不適であった(比較例3)。
【0030】
【0031】
<試験例3 脂身様食品の加熱方法の検証>
脂身様食品製造時の加熱方法を検討するため、製造例1に従って油水ゲルを調製し、表3のように製造例2の(3)における加熱条件を変更した以外は製造例2に従って脂身様食品を製造し、評価例1に従って官能評価した結果を表3に示す。
加熱方法や温度条件、加熱時間を変更しても、いずれの試験でも脂身様食品の評価は大差なく、良好であった(実施例4、10~13)。
【0032】
【0033】
<試験例4 油水ゲルの製造時の油脂の種類の検証>
油水ゲル製造時に使用する油脂の種類を検討するため、油脂の種類を表3のように変更した以外は製造例1に従って油水ゲルを調製し、製造例2に従って脂身様食品を製造し、評価例1に従って官能評価した結果を表3に示す。
油水ゲル製造時の油脂が35℃以下(常温)で液状であれば脂身様食品が製造可能であったが(実施例4、14~15)、35℃より高い温度で固体状のショートニングでは油水ゲルの製造時にゲル化し難く形がまとまらず流動性がある柔らかい状態になり、不適であった(比較例4)。
【0034】
【0035】
<試験例5 脂身様食品製造時の油脂の種類の検証>
脂身様食品製造時における油脂の種類を検討するため、製造例1に従って油水ゲルを調製し、油脂の種類を表4のように変更した以外は製造例2に従って脂身様食品を製造し、評価例1に従って官能評価した結果を表4に示す。
脂身様食品製造時の油脂が35℃より高い温度で固体状であれば脂身様食品が製造可能だったが(実施例4)、35℃以下で液状の油脂では脂身様食品の保形性が悪く柔らかい食感となり、不適であった(比較例5~6)。
【0036】
【0037】
<試験例6 脂身様食品における油脂と水の比率の検討>
脂身様食品製造時における固体油脂(a)と水(b)の配合比率(b/a)を検討するため、製造例1に従って油水ゲルを調製し、固体油脂と水の配合比率を表5のように変更した以外は製造例2に従って脂身様食品を製造し、評価例1に従って官能評価した結果を表5に示す。
脂身様食品製造時のb/aが大きくなるほどジューシー感が向上し、硬さが柔らかくなり、2.00以下では良好な結果であった(実施例4、16~18)。b/aが大きくなりすぎて2.00を越えると、食感が柔らかすぎて不適であり、水を含まず、b/aが0となる場合には硬すぎてジューシー感に欠け不適であった(比較例7、8)。
【0038】
【0039】
<試験例7 脂身様食品における油水ゲル配合量の検討>
脂身様食品製造時における水と固体油脂の配合割合を検討するため、製造例1に従って油水ゲルを調製し、水と固体油脂の配合割合を表6のように変更した以外は製造例2に従って脂身様食品を製造し、評価例1に従って官能評価した結果を表6に示す。
さらに、前記と同様の方法で、油水ゲルの配合量が12質量%及び42質量%での固体油脂(a)と水(b)の配合比率(b/a)を確認した結果を表7~9に示した。
油水ゲル、固体油脂及び水の合計質量を100質量%としたときの、油水ゲルの配合量は、12~45質量%が好ましく、24~38質量%がより好ましかった(実施例19~22)。
油水ゲルの配合量が上記範囲内であれば保形性がよく、硬さもよく、またジューシー感があった11%より少ない場合、形がまとまらず流動性のある生地となり不適であり(比較例9)、油水ゲルの配合量が45%を越える場合、硬く、ジューシー感が欠けており不適である(比較例10)。
油水ゲルの配合量が12質量%の時と42質量%の時も、固体油脂(a)と水(b)の配合比率(b/a)は2.00未満の範囲が好ましかった(実施例19、23~29)。
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
<試験例8 脂身様食品における澱粉配合量の検討>
脂身様食品製造時における澱粉の配合量を検討するため、製造例1に従って油水ゲルを調製し、澱粉の配合量を表10のように変更した以外は製造例2に従って脂身様食品を製造し、評価例1に従って官能評価した結果を表10に示す。
澱粉の配合量は、油水ゲルと固体油脂、水の合計100質量部に対して、1質量部以上含まれていれば、食感、保形性及びジューシー感が良好であった。3~25質量部ではより好ましく、5~10質量部ではさらに好ましかった(実施例4、30~32)。
澱粉の配合量が1質量部より少ないと、食感が柔らかく流動性のある物性で不適であり(比較例15)、澱粉の配合量が多くなりすぎると、食感が硬くジューシー感に欠ける方向となった。
【0044】
【0045】
<試験例9 脂身様食品製造時の澱粉の種類の検証>
脂身様食品製造時における澱粉の種類を検討するため、製造例1に従って油水ゲルを調製し、澱粉の種類を表11のように、いずれもヒドロキシプロピル化リン酸架橋の加工を施した馬鈴薯澱粉、ワキシーコーンスターチ、コーンスターチ、タピオカに変更した以外は、製造例2に従って脂身様食品を製造し、評価例1に従って官能評価した結果を表11に示す。
また、澱粉の加工方法による適性の違いを検証するため、製造例1に従って油水ゲルを調製し、澱粉の種類を表12のように加工方法の異なる馬鈴薯澱粉であるヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、ヒドロキシプロピル化澱粉、リン酸架橋澱粉、未加工澱粉に変更した以外は、製造例2に従って脂身様食品を製造し、評価例1に従って官能評価した結果を表12に示す。
いずれの澱粉の種類でも硬さ、保形性、ジューシー感が許容範囲内であったが、馬鈴薯澱粉が特に好ましかった(実施例4、33~35)。
また、澱粉の加工処理の有無や加工方法に限らず、品質は許容範囲内であったが、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉が特に好ましかった(実施例4、36~38)。
【0046】
【0047】