(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008741
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】光触媒及びその製造方法、並びに前記光触媒を用いた水の分解方法
(51)【国際特許分類】
B01J 35/39 20240101AFI20250109BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20250109BHJP
B01J 23/22 20060101ALI20250109BHJP
B01J 23/652 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
B01J35/02 J
B01J37/08
B01J23/22 M
B01J23/652 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023111173
(22)【出願日】2023-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】西本 大夢
(72)【発明者】
【氏名】阿部 能之
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕之
(72)【発明者】
【氏名】久富 隆史
(72)【発明者】
【氏名】堂免 一成
(72)【発明者】
【氏名】高田 剛
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA14
4G169BA48A
4G169BB04C
4G169BB05C
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BB08C
4G169BB16C
4G169BC01C
4G169BC02C
4G169BC03C
4G169BC39A
4G169BC39B
4G169BC54A
4G169BC54B
4G169BC54C
4G169BC58B
4G169BC71B
4G169BD12C
4G169CB81
4G169CC33
4G169EA01X
4G169EA01Y
4G169EA02X
4G169EA02Y
4G169EB18Y
4G169FB30
4G169FB33
4G169FC04
4G169FC07
4G169FC10
4G169HA01
4G169HB06
4G169HC08
4G169HD04
4G169HE09
(57)【要約】
【課題】水分解性能に特に優れる光触媒及びその製造方法を提供すること。また、前記光触媒を用いた水の分解方法を提供すること。
【解決手段】ScVO
4を主成分化合物として含む複合酸化物粒子を備える光触媒の製造方法であって、スカンジウム(Sc)及びバナジウム(V)原料を混合して原料混合物を得る工程と、前記原料混合物を680℃以上の温度で焼成して反応生成物を得る工程と、
前記反応生成物をフラックス中で熱処理して被熱処理反応生成物を得る工程と、を備える方法。
【選択図】
図7B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ScVO4を主成分化合物として含む複合酸化物粒子を備える光触媒の製造方法であって、
スカンジウム(Sc)原料及びバナジウム(V)原料を混合して原料混合物を得る工程と、
前記原料混合物を680℃以上の温度で焼成して反応生成物を得る工程と、
前記反応生成物をフラックス中で熱処理して被熱処理反応生成物を得る工程と、を備える方法。
【請求項2】
前記フラックスがアルカリ金属元素の塩化物、炭酸塩、及び水酸化物、並びに酸化バナジウム(V2O5)からなる群から選択される1種以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記フラックスが塩化ナトリウム(NaCl)と塩化カリウム(KCl)の混合物である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の方法で得られた光触媒。
【請求項5】
請求項4に記載の光触媒と水とを含む懸濁液に紫外光を照射し、それにより前記水を分解して水素と酸素を発生させる、水の分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒及びその製造方法、並びに前記光触媒を用いた水の分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化や化石資源枯渇の問題から、光触媒を用いた水の分解反応に関する技術開発が注目を集めている。水の分解反応を利用することで、太陽光エネルギーを水素などの化学エネルギーに変換して有効活用することができる。
【0003】
光触媒を用いた水の光分解では、微粒子状の半導体粒子を水中に分散させ、これに光照射することで水素と酸素が生成する。半導体粒子のバンドギャップ以上のエネルギーをもつ光を半導体粒子が吸収すると、価電子帯の電子が伝導帯に励起される。それに伴い、負の電荷をもつ自由電子が伝導帯に生じるとともに、正の電荷をもつ正孔が価電子帯に生成する。これらは半導体粒子の表面に移動し、そこで正孔が水を酸化して酸素を発生させ、自由電子が水素イオンを還元して水素を発生させる。
【0004】
水分解反応を起こす上で、半導体粒子のバンドギャップ以上のエネルギーをもつ光を照射する必要がある。言い換えれば、半導体粒子は、そのバンドギャップよりも大きいエネルギーをもつ光しか吸収できない。
【0005】
従来から、酸化チタンが光触媒材料として知られている。しかしながら、酸化チタンはバンドギャップが3.0eV以上と大きく、アナターゼ型酸化チタンは酸素生成速度が低い。非特許文献1によると、ルチル型酸化チタンは、Rh、Pt又はPdを助触媒とした場合に、水分解を可能とするとされているものの、RhCrOx触媒を担持した場合に水分解活性を示さず、逆反応を防止しにくい。したがって、高効率化に適さない。
【0006】
そのため、酸化チタン以外の光触媒材料の開発が進んでおり、そのうち、バナジウム系化合物が注目を集めている。例えば、酸化バナジウム(V2O5)や単斜晶バナジン酸ビスマス(BiVO4)は、酸化物でありながら適切なバンドギャップ(2.3eVもしくは2.4eV)を有し、優れた酸素生成型光触媒として知られる。しかしながら、伝導帯の下端が水素生成準位より貴なために、水分解触媒ではなく、水素発生触媒と組み合わせたZスキーム型光触媒として利用されることが多い。
【0007】
バナジウム系化合物に関する文献として、特許文献1には、BiVO4からなる光触媒粒子が開示されている。具体的には、水素発生用可視光応答型光触媒粒子と、酸素発生用可視光応答型光触媒粒子とを含む複合光触媒について、酸素発生用可視光応答型光触媒粒子がBiVO4等であること、及び可視光による水の光分解反応に複合触媒を用いることが記載されている(特許文献1の請求項1及び9)。
【0008】
水の分解反応とは異なる用途に用いられるものではあるが、特許文献2には、バナジン酸ビスマス(BiVO4)のBiサイトの一部にランタン(La)がドープされてなる可視光応答型光触媒が開示されている(特許文献2の請求項1)。特許文献2には、当該光触媒に関して、Laドープにより、BiVO4の価電子帯上端位置が下がり、酸化力が高まり、その結果、有機物の分解能を高めることが可能になると記載されている(特許文献2の[0008])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2014/046305号
【特許文献2】特開2020-040830号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Maeda, Kazuhiko. Photocatalytic properties of rutile TiO2 powder for overall water splitting. Catalysis Science & Technology 4.7 (2014): 1949-1953.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このように、バナジウム系化合物からなる光触媒材料が提案されるものの、従来の材料には改良の余地があった。すなわち、水を分解して水素を発生させるためには、光触媒材料の伝導帯下端の電位が水素生成電位よりも卑である必要がある。また、水を分解して酸素を発生させるためには、価電子帯上端の電位が酸素発生電位よりも貴であることが必要である。ここで、水素生成電位とは、水中のプロトンを還元して水素ガスを生成させる電位である。また酸素発生電位とは、水を酸化させて酸素を発生させる電位である。
【0012】
そのため、光触媒材料が光を吸収して水を分解し、それにより水素と酸素の両方を発生させるためには、光触媒材料のバンドギャップが光エネルギーよりも小さく、さらに伝導帯下端電位が水素発生電位よりも卑であり、且つ価電子帯上端電位が酸素発生電位よりも貴であることが必要である。
【0013】
この点、酸化バナジウム(V2O5)は、バンドギャップ(2.7eV)がアナターゼ型酸化チタンよりも小さいものの、伝導帯下端が水素発生電位よりも貴な電位側にあるため、励起された電子を水素発生に利用できない。またV2O5は水に溶解してコロイド状に変質するため、水中で安定して利用することができない。
【0014】
単斜晶BiVO4も、バンドギャップ(2.4eV)がアナターゼ型酸化チタンよりも小さいものの、V2O5と同様に伝導帯の下端が水素発生電位より貴なため、電子を水素発生に利用できない。特許文献1で提案される複合光触媒は、BiVO4等の酸素発生用光触媒粒子の他に、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム等の水素発生用光触媒粒子を必要とする(特許文献1の請求項1及び5)。
【0015】
さらに、特許文献2ではLaドープBiVO
4からなる光触媒が提案されるものの、この光触媒は有機物分解用であり、水分解用ではない。実際、特許文献2にはLaドープBiVO
4の伝導帯下端の電子エネルギー準位が従来のBiVO
4と一致していることが示されている(特許文献2の[0044]及び
図4)。そのため、この文献で提案される光触媒(LaドープBiVO
4)は、従来のBiVO
4と同様、水素イオンを還元して水素を発生させることはできないと考えられる。
【0016】
このような状況のもと、ScVO4を主成分として含む新規なバナジウム系化合物光触媒は、バンドギャップが比較的小さく、水分解用光触媒として有望であるとの知見を得て、本発明者らの一部は、この光触媒に関する特許出願を行った(特願2023-030812号)。
【0017】
本発明者らがさらに検討を進めた結果、ScVO4を主成分として含む光触媒の製造方法において、原料混合物を所定温度で焼成して反応生成物を得、さらに得られた反応生成物をフラックス中で熱処理するという手法を採用することで、特に水分解性能に優れる光触媒が得られるとの知見を得た。
【0018】
本発明は、このような知見に基づき完成されたものであり、水分解性能に特に優れる光触媒及びその製造方法の提供を課題とする。また、本発明は、前記光触媒を用いた水の分解方法の提供をも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、下記(1)~(5)の態様を包含する。なお、本明細書において「~」なる表現は、その両端の値を含む。すなわち、「X~Y」は「X以上Y以下」と同義である。
【0020】
(1)ScVO4を主成分化合物として含む複合酸化物粒子を備える光触媒の製造方法であって、
スカンジウム(Sc)原料及びバナジウム(V)原料を混合して原料混合物を得る工程と、
前記原料混合物を680℃以上の温度で焼成して反応生成物を得る工程と、
前記反応生成物をフラックス中で熱処理して被熱処理反応生成物を得る工程と、を備える方法。
【0021】
(2)前記フラックスがアルカリ金属元素の塩化物、炭酸塩、及び水酸化物、並びに酸化バナジウム(V2O5)からなる群から選択される1種以上である、上記(1)の方法。
【0022】
(3)前記フラックスが塩化ナトリウム(NaCl)と塩化カリウム(KCl)の混合物である、上記(2)の方法。
【0023】
(4)上記(1)~(3)のいずれかの方法で得られた光触媒。
【0024】
(5)上記(4)の光触媒と水とを含む懸濁液に紫外光を照射し、それにより前記水を分解して水素と酸素を発生させる、水の分解方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、水分解性能に特に優れる光触媒及びその製造方法が提供される。また、本発明によれば、前記光触媒を用いた水の分解方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】実験例1のScVO
4複合酸化物粒子のXRDスペクトルを示す。
【
図2】実験例1のScVO
4複合酸化物粒子のSEM写真を示す。
【
図3】実験例2のScVO
4複合酸化物粒子のXRDスペクトルを示す。
【
図4】実験例2のScVO
4複合酸化物粒子のSEM写真を示す。
【
図5】実験例3のScVO
4複合酸化物粒子のXRDスペクトルを示す。
【
図6A】実験例1のScVO
4複合酸化物粒子のSEM写真を示す。
【
図6B】実験例3のScVO
4複合酸化物粒子のSEM写真を示す。
【
図7A】実験例1のScVO
4複合酸化物粒子について水分解光触媒活性評価結果を示す。
【
図7B】実験例3のScVO
4複合酸化物粒子について水分解光触媒活性評価結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施形態」という)について、以下に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0028】
<<1.光触媒>>
本実施形態の光触媒は複合酸化物粒子を含む、この複合酸化物粒子は、正方晶系結晶構造(ジルコン構造)を有するバナジン酸スカンジウム(ScVO4)を主成分化合物として含む。なお、主成分とは、複合酸化物粒子中で50質量%以上の割合を占める成分を指す。ScVO4は半導体的性質をもち、第一原理計算により求められるバンドギャップが2.6eVと比較的小さい。また、バンド構造における伝導帯下端電位が水素発生電位より卑な電位にあるとともに、価電子帯上端電位が酸素発生電位よりも貴な電位にある。したがって、波長480nm以下の光を吸収して水を水素と酸素とに分解することができると考えられる。
【0029】
複合酸化物粒子は、ScVO4以外の成分の含有を排除しない。そのような成分として、酸化スカンジウム(Sc2O3)や酸化バナジウム(V2O5)などの異相が挙げられる。しかしながら、酸化スカンジウムは触媒活性に劣る。また酸化バナジウムは水中安定性に欠ける。水の分解反応に光触媒を用いる場合には、光触媒を水と接触させる必要があり、水中安定性に優れることが望まれる。
【0030】
複合酸化物粒子は、ScVO4を主成分として含むことを前提として、スカンジウム(Sc)とバナジウム(V)の含有割合は限定されない。しかしながら、スカンジウム量が過剰に多い粒子は、触媒活性に劣る酸化スカンジウム等の異相の含有量が多くなる。またバナジウム量が過剰に多いと、水に対する溶解度が高く、水中安定性に欠ける酸化バナジウム等の異相の含有量が多くなる。優れた触媒活性及び水中安定性を確保する観点から、原子比(V/Sc)は0.90以上1.00以下が好ましく、0.93以上1.00以下がより好ましい。
【0031】
複合酸化物粒子の原子比(V/Sc)は、光触媒製造時の条件を調整することで制御できる。例えば、原料混合工程でのバナジウム原料とスカンジウム原料の配合量を調整することで、最終的に得られる複合酸化物粒子の原子比を制御できる。また、焼成により得られた反応生成物にアルカリ洗浄処理を施すことで、余剰V2O5を除去できる。
【0032】
複合酸化物粒子の粒子径は0.1μm以上10μm以下が好ましく、0.3μm以上5μm以下がより好ましい。粒子径が過度に小さい複合酸化物粒子は、結晶性が低く光触媒活性に劣る恐れがある。また、粒子径が過度に大きい複合酸化物粒子は、比表面積が小さいが故に水分解反応に供した際に十分に高い触媒活性を得ることが困難になる恐れがある。なお粒子径は、SEM像やTEM像から測定して求められる。
【0033】
好適には、光触媒は、上述した複合酸化物粒子の表面に担持された助触媒をさらに含む。助触媒は、水素発生助触媒及び酸素発生助触媒などに分類される。水素発生助触媒は、電子による水素イオンの還元を促す作用を主として有しており、酸素発生助触媒は、正孔による水の酸化を促す作用を主として有する。特に、半導体粒子からなる光触媒の表面に水素発生助触媒を担持させることで、水分解性能を飛躍的に改善させることが可能となる。
【0034】
助触媒の材料として、公知の金属や化合物等の材料を選択すればよい。そのような材料として、白金(Pt)、金(Au)、銀(Ag)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、及び鉄(Fe)からなる群から選ばれる少なくとも一種の金属、あるいは、酸化ルテニウム、及び酸化ニッケル等の酸化物粒子からなる群から選択される1種以上、あるいは、これらの金属粒子及び酸化物粒子を混合させたもの、あるいは、ロジウム(Rh)及びクロム(Cr)を含む複合水酸化物もしくは複合酸化物を好ましく用いることがでる。より好ましくは、白金、ルテニウムの金属粒子、あるいはロジウムおよびクロムを含む複合水酸化物もしくは複合酸化物を用いることができる。
【0035】
特に好適な助触媒は、ロジウム-クロム酸化物(RhCrOx)を含む。RhCrOxは、水の還元による水素生成には高い活性を有する一方で、酸素還元には活性を示さない。そのため、酸素が還元して水に戻る逆反応を抑制しながら、水素生成を高めることが可能であり、それ故、水分解反応を効率的に進める上で有効である。
【0036】
助触媒の担持量の総量は、複合酸化物粒子に対して0.01質量%以上0.3質量%以下が好ましい。担持量をある程度に多くすることで、助触媒による還元及び/又は酸化を促進する効果を十分に発揮させることが可能となる。また、担持量をある程度に抑えることで、複合酸化物粒子表面の活性点が不足化するのを抑えることができる。
【0037】
本実施形態の光触媒を水の分解反応に利用することができる。水に接している光触媒に紫外光を照射すると、水が分解して水素と酸素とが発生する。そのため、光触媒はクリーンエネルギー創出に寄与する。また、本実施形態の光触媒を環境浄化材料として利用することもできる。光触媒に紫外光を照射すると、その表面に強い酸化力が生じ、これに接触している有機化合物や細菌などの有害物質を分解除去することができる。
【0038】
<<2.光触媒の製造方法>>
本実施形態の光触媒の製造方法は、ScVO4を主成分化合物として含む複合酸化物粒子を備える光触媒の製造を対象とする。この製造方法は、スカンジウム(Sc)原料及びバナジウム(V)原料を混合して原料混合物を得る工程(原料混合工程)と、得られた原料混合物を680℃以上の温度で焼成して反応生成物を得る工程(焼成工程)と、得られた反応生成物をフラックス中で熱処理して被熱処理反応生成物を得る工程(熱処理工程)と、を備える。焼成工程後の反応生成物をアルカリ性水溶液で洗浄する工程(アルカリ洗浄工程)を設けてもよい。また、熱処理工程後の被熱処理反応生成物を水で洗浄する工程(水洗工程)を設けてもよい。さらに、熱処理工程後の被熱処理反応生成物に助触媒を担持する工程(助触媒担持工程)を設けてもよい。各工程の詳細について以下に説明する。
【0039】
<原料混合工程>
原料混合工程では、スカンジウム(Sc)原料及びバナジウム(V)原料を混合して原料混合物を得る。スカンジウム原料として、スカンジウム単体又はスカンジウム含有化合物を用いることができる。具体的には、限定される訳ではないが、金属スカンジウム(Sc)や酸化スカンジウム(Sc2O3)が例示される。Sc2O3は粉末として市場で容易に入手できる。バナジウム原料として、限定される訳ではないが、メタバナジン酸アンモニウムなどのバナジン酸化合物や酸化バナジウム(V2O5)が例示される。V2O5は粉末として市場で容易に入手できる。また、バナジン酸化合物は、後続する焼成工程で分解してV2O5に変化する。
【0040】
ScVO4を主成分化合物として含む光触媒が得られる限り、原料配合割合は特に限定されない。しかしながら、バナジウム原料が若干過剰となるように配合することが好ましい。
【0041】
一般的に、スカンジウム原料の融点は高く、バナジウム原料の融点は低い。例えば、Sc2O3の融点は2485℃であるのに対し、V2O5の融点は690℃である。そのため、後続する焼成工程で、バナジウム原料(V2O5粉末等)が溶融して、スカンジウム原料(Sc2O3粉末等)の粒子内に拡散し、そこでバナジン酸スカンジウム(ScVO4等)が形成されると考えられる。この際、バナジウム原料の割合が少なすぎると、スカンジウム原料粒子内への浸透及び拡散が不十分となり、ScVO4の生成が阻害される恐れがある。ScVO4の生成を促す観点から、バナジウム原料を化学量論組成より過剰に配合することが好ましい。また、過剰に配合したバナジウム原料は、フラックスとして作用して、生成したScVO4の結晶性を向上させる働きもある。ScVO4の結晶性向上は、これを含む光触媒の水素発生量及び触媒活性向上につながると期待される。
【0042】
原料(スカンジウム原料、バナジウム原料)の混合は、公知の手法で行えばよい。例えば、乳鉢、らいかい機、ヘンシェルミキサー、V型ミキサー、ボールミル、アトライター、ビーズミル、及び/又は振動ミルなどの混合装置や粉砕混合装置を用いて行えばよい。混合は乾式で行ってもよく、あるいは湿式で行ってもよい。しかしながら、V2O5は水に対する溶解度が高いため、水中で混合すると、組成ずれや成分偏析が生じる恐れがある。したがって、バナジウム原料としてV2O5を用いて湿式混合する場合には非水媒体を用いることが好ましい。また、湿式で混合した場合には、得られた混合物を乾燥することが好ましい。
【0043】
<焼成工程>
焼成工程では、得られた原料混合物を680℃以上の温度で焼成して反応生成物を得る。先述したように、焼成工程で、バナジウム原料は溶融して、スカンジウム原料の粒子内に拡散し、そこでバナジン酸スカンジウム(ScVO4)を形成する。また、バナジウム原料を過剰に配合した場合には、過剰バナジウム原料はScVO4の生成促進及び結晶性向上の働きをする。
【0044】
焼成工程で形成されるバナジン酸スカンジウムの結晶構造は焼成温度に依存する。焼成温度が680℃未満であると、所望のScVO4が得られず、bixbyte型ScVO3+x(x:0~0.5)が生成する恐れがある。ScVO4の生成促進及び結晶性向上を図る観点から、焼成温度はある程度に高い方が好ましい。一方で、焼成温度が過度に高いと、バナジウム原料が揮発して、最終的に得られる生成物の組成がずれる恐れがあるとともに、生成物の粒成長が過度に進行する恐れがある。その上、多量のエネルギーが必要になるとともに、設備劣化が進行して製造コスト増大につながる恐れがある。原料混合物を焼成する温度は680℃以上1300℃以下が好ましい。
【0045】
なお、スカンジウム原料及びバナジウム原料のそれぞれとして、酸化スカンジウム(Sc2O3)と酸化バナジウム(V2O5)を用いて680℃以上の温度で焼成を行った場合には、下記(1)式に示す反応が右方向に進む。
【0046】
Sc2O3 +V2O5 → 2ScVO4 ・・・(1)
【0047】
所望の光触媒が得られる限り、焼成保持時間は限定されない。しかしながら、ScVO4の生成促進及び結晶性向上を図る観点から、焼成保持時間はある程度に長いことが好ましい。一方で、焼成保持時間が過度に長いと、サイクルタイムが長くなり、製造コスト増大につながる。焼成保持時間は6時間以上が好ましく、8時間以上15時間以下がより好ましい。また、所望の光触媒が得られる限り、焼成雰囲気は限定されない。しかしながら、大気などの酸素含有雰囲気が好ましい。
【0048】
さらに、焼成工程で後述するフラックスを併用することもできる。その際には反応生成物の粒子成長などを考慮して焼成温度や焼成保持時間などの合成条件を適宜定める。
【0049】
焼成工程で得られた反応生成物を粉砕してもよい。焼成工程の条件によっては、反応生成物の粒子径が過度に大きくなり、光触媒活性が低下する場合がある。そのような場合には、焼成工程後の反応生成物に粉砕処理を施して粒子径を小さくすることが好ましい。粉砕は、ペイントシェーカー、ボールミル、ジェットミル等の粉砕機を用いて行えばよい。
【0050】
<アルカリ洗浄工程>
必要に応じて、焼成工程で得られた反応生成物をアルカリ性水溶液で洗浄する工程(アルカリ洗浄工程)を設けてもよい。アルカリ洗浄工程を設けることで、反応生成物が残留V2O5を含む場合に、この残留V2O5を除去でき、その結果、水中安定性の点でより一層優れた光触媒を得ることが可能となる。
【0051】
この点について説明するに、粉末状のスカンジウム原料(Sc2O3粉末等)とバナジウム原料(V2O5粉末等)を混合及び焼成して得られた反応生成物は、1μm以上の粒径をもつミクロンサイズの粒子から構成される。また、このミクロンサイズの粒子表面にサブミクロンサイズの粒子が付着している場合がある。このサブミクロンサイズの粒子はV2O5からなると推定される。特にScVO4の生成促進及び結晶性向上の効果を得るためにバナジウム原料を過剰に配合した場合には、過剰配合したバナジウム原料が、焼成工程後にV2O5となって反応生成物(光触媒)中に残留する傾向にある。
【0052】
一方で、先述したように、酸化バナジウム(V2O5)は水中安定性に劣る。そのため、残留V2O5を含む光触媒は、これを水分解に適用した場合に安定性が損なわれる恐れがある。したがって、反応生成物中の残留V2O5が存在する場合には、これを極力除去することが望ましい。この点、V2O5はアルカリ性水溶液で容易に除去できる。そのため、アルカリ性水溶液を用いたアルカリ洗浄を反応生成物に施すことで、残留V2O5が効率的に除去されて、水中安定性に優れた光触媒を得ることができる。
【0053】
アルカリ洗浄に用いるアルカリ性水溶液として、酸化バナジウム(V2O5)を溶解除去できるものであれば、特に限定されない。例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、アンモニア(NH3)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)を含む水溶液が挙げられる。水溶液の濃度も、V2O5を溶解除去できる限り、特に限定されない。例えば、NaOH水溶液を用いた場合には、その濃度は0.01M以上が好適である。またアルカリ洗浄の際は、常温のアルカリ性水溶液を用いてもよく、加熱したアルカリ性水溶液を用いてもよい。
【0054】
アルカリ洗浄後に反応生成物を水洗浄して、アルカリ成分を除去することが好ましい。また、水洗浄後に反応生成物を乾燥することが好ましい。
【0055】
<熱処理工程>
熱処理工程では、焼成工程を経て得た反応生成物をフラックス中で熱処理して被熱処理反応生成物を得る。フラックス中で熱処理することで、ScVO4を含む反応生成物の結晶性が向上する。具体的には、触媒活性が不十分な反応生成物粒子表面の欠損が補填されたり、あるいは反応生成物を構成する原子の規則的な配列の結晶性が改善されたりする。そして、その結果、得られる被熱処理反応生成物(光触媒)の触媒活性が顕著に向上する。
【0056】
特に、焼成工程後の反応生成物を粉砕した場合には熱処理は有効である。粉砕時の衝撃により粉砕物の粒子径は小さくなる。粉砕時の衝撃は格子のゆがみや欠損などのダメージを粒子結晶に与える。このようなダメージを受けた結晶にフラックス中での熱処理を施すことで、粉砕物の結晶性が改善され、結果的に触媒活性が向上する。
【0057】
フラックスは、熱処理工程で溶融して反応生成物の光触媒活性を高める効果のある成分であれば、特に限定されない。しかしながら、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、及びカリウム(K)といったアルカリ金属元素の塩化物、炭酸塩、及び水酸化物、並びに酸化バナジウム(V2O5)からなる群から選択される1種以上が好ましい。これらの成分は水に対する溶解性が高い。そのため、熱処理工程後の被熱処理反応生成物を水洗することで、フラックスを容易に分離除去できる。また、1種類のフラックスを単独で用いてもよく、複数種のフラックスを組み合わせて用いてもよい。しかしながら、経済性の観点から、フラックスが塩化ナトリウム(NaCl)と塩化カリウム(KCl)の混合物であることが特に好ましい。
【0058】
熱処理工程の熱処理温度は、フラックスが溶融する温度であれば限定されない。しかしながら、640℃以上850℃以下が好ましい。またNaClとKClの混合物からなるフラックスを用いた場合には、700℃以上が好ましい。熱処理時間は1時間以上24時間以下が好ましい。熱処理時間を1時間以上にすることで、反応生成物中ScVO4の結晶性改善の効果を十分に発揮させることができる。一方、熱処理時間を24時間以下にすることで、熱処理工程中でのScVO4の分解や粒成長を抑えることができる。このような条件で熱処理すれば、熱処理前の反応生成物と熱処理後の被熱処理反応生成物の粒子径は、ほぼ変わらない。
【0059】
ところで、焼成工程で上述のフラックスを使用することも考えられる。出発原料のスカンジウム源のSc2O3およびバナジウム源のV2O5をフラックス中での焼成で反応させてScVO4を合成することができる。フラックスにKClとNaClの混合物を用いる場合、合成方法で得られた生成物は、主相はScVO4であるが、Sc2O3相も確認され、特に、焼成時間を12時間とした場合には焼成温度が高いほどSc2O3相が多く確認されることがある。さらに、反応生成物をSEM観察すると大きさ10μmを超える不定形のScVO4粒子が確認されることがある。このような不定形の粒子は、フラックス中で、粒成長したと考えられる。そして、このような大きさの反応生成物の触媒活性は劣る。
【0060】
しかし、焼成温度や焼成時間などの合成条件を最適化することで、粒径の小さいScVO4粒子を合成できる可能性はある。
【0061】
また、フラックス中で主相のScVO4を粒成長させて結晶性を向上させた反応生成物を得て、該反応生成生物を、上述の粉砕を行い、光触媒として好ましい粒径とした後、本実施形態の熱処理工程を行い、粉砕物の粒子の表面の結晶性を改善して光触媒を得ることもできる。
【0062】
すなわち、本実施形態の熱処理工程は、焼成工程で得られた触媒活性が不十分な反応生成物粒子表面の改善や、焼成工程で不適切な粒子径までに成長した反応生成物の粉砕物の粒子表面の改善を、簡便に行うことができるのである。
【0063】
<水洗工程>
必要に応じて、被熱処理反応生成物を水洗してもよい。水洗により、アルカリ金属元素の塩化物などのフラックスを除去できる。また、ScVO4が熱処理工程で分解してV2O5が生じた場合には、生じたV2O5を除去できる。水洗では、被熱処理反応生成物をイオン交換水に投入して撹拌した後に濾過すればよい。水洗時のイオン交換水の水温は20℃以上100℃以下が好ましい。濾過には、メンブレンフィルタ等を用いた減圧濾過も用いることができる。濾過後、真空乾燥器などを用いて減圧乾燥を行えばよい。減圧雰囲気の温度は20℃以上100℃以下が好ましく、乾燥時間は6時間以上が好ましい。
【0064】
<助触媒担持工程>
必要に応じて、被熱処理反応生成物に助触媒を担持してもよい。助触媒の担持は、含浸法や光電着法などの公知の手法で行えばよい。含浸法は、金属塩などの助触媒原料を含む溶液を主触媒粒子と混合した後に、乾燥及び熱処理して、助触媒を担持する手法である。光電着法は、助触媒原料を含む溶液を主触媒粒子とともに撹拌し、これに光を照射して助触媒を担持する手法である。
【0065】
ロジウム-クロム酸化物(RhCrOx)からなる助触媒を含浸法で担持する場合には、例えば、Rh原料とCr原料を含む水溶液を被熱処理反応生成物に添加及び混合した後に乾燥し、得られた乾燥物を酸素含有雰囲気中で焼成する手法が挙げられる。Rh原料として、限定される訳ではないが、ヘキサクロロロジウム(III)酸ナトリウムやその水和物などが挙げられる。またCr原料として、限定される訳ではないが、硝酸クロムやその水和物が挙げられる。焼成は、大気などの酸素含有雰囲気中で300℃以上400℃以下の温度で行えばよい。
【0066】
このようにして、本実施形態の光触媒を得ることができる。本実施形態の光触媒は、特に水の分解反応や有害物質の分解除去に有用である。
【0067】
<<3.水の分解方法>>
本実施形態の水の分解方法は、上述した光触媒と水とを含む懸濁液に紫外光を照射し、それにより、水を分解して水素と酸素を発生させる。具体的には、光触媒と水とを混合して懸濁液を作製する。次いで、得られた懸濁液に紫外光を照射する。
【0068】
照射する紫外光の光源として、300nm以上500nm以下の波長域に十分な強度を有するものを用いることが好ましい。紫外光照射により懸濁液中の光触媒の表面で水の分解反応が起こり、水素と酸素とが発生する。紫外光照射は、懸濁液を閉鎖循環系内に配置し、その状態で行ってもよい。また、照射の際に懸濁液を撹拌してもよい。
【実施例0069】
本実施形態を、以下の例によってさらに具体的に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例に限定される訳ではない。
【0070】
(1)光触媒の評価
光触媒(複合酸化物粒子)をサンプルに用いて、各種特性の評価を以下のとおり行った。
【0071】
<XRD>
サンプルを粉末X線回折法(XRD)で分析して、結晶相を同定した。XRD分析は、以下の条件で行った。
【0072】
‐X線回折装置:株式会社リガク、Mini Flex
‐線源:CuKα
‐管電圧:30kV
‐管電流:10mA
‐スキャン速度:1.25°/分
‐スキャン範囲(2θ):15~60°
【0073】
<SEM観察>
走査型電子顕微鏡(SEM;Carl Zeiss社,ULTRA55)を用いてサンプルの二次電子像を求め、サンプル粒子の形状を調べた。
【0074】
<水分解光触媒性能>
ガス閉鎖循環系内でサンプルに紫外(UV)光を照射する水分解光触媒性能試験を行った。具体的には、0.1gのサンプルを100mlの蒸留水に投入した後、30秒間超音波分散を行って懸濁液を調製した。調製した懸濁液を反応容器に入れ、反応容器ごと閉鎖循環系内に配置した。懸濁液中の溶存ガス除去と閉鎖循環系内の脱気を十分に行った後、閉鎖循環系内にアルゴン(Ar)ガスを封入し、系内を10kPaに保った。次いで、波長300~500nmの紫外(UV)光のみを反射するハーフミラーCM2を搭載した300Wキセノンランプを用いて光触媒性能を評価した。その際、光照射による懸濁液の加熱を防ぐため、15℃に設定した冷却水で反応容器の周囲を冷却し、懸濁液の撹拌を続けながら光触媒反応により発生したガスを分析し、その発生量を測定した。発生ガスの分析及び測定は、充填剤としてモレキュラーシーブ5Aを使用したカラムとTCD(Thermal Conductivity Detector)検出器を搭載したガスクロマトグラフ(株式会社島津製作所,GC-8A)を用いて行った。
【0075】
(2)固相反応法によるScVO4複合酸化物粒子の合成
[実験例1(参考例)]
実験例1では、複合酸化物粒子を固相反応法で合成し、その評価を行った。具体的には、酸化スカンジウム(Sc2O3)粉末(住友金属鉱山株式会社製、純度99.99%)と酸化バナジウム(V2O5)粉末(和光純薬株式会社製、特級、純度99%)を0.03モルのScVO4が得られるように秤量した。この際、仕込み組成でのモル比(原子比)でV/Sc=1.00となるように、原料(Sc2O3粉末、V2O5粉末)を秤量した。そして、秤量した原料をメノウ乳鉢で30分間混合して原料混合物を作製した。
【0076】
次いで、得られた原料混合物をアルミナ坩堝に入れて、大気中650℃、800℃、960℃、又は1000℃で12時間焼成した。この際、各焼成温度への昇温速度は毎分10℃とした。このようにして、各焼成温度について0.03モルの複合酸化物粒子からなる反応生成物(焼成物)を作製した。
【0077】
実験例1に係る各反応生成物についてX線回折装置により評価を行った。各反応生成物の2θ=15~60°におけるXRDスペクトルを
図1に示す。また、
図1には、参考のため、Sc
2O
3の標準回折ピーク(JCPDSカード01-084-1880)、V
2O
5の標準回折ピーク(JCPDSカード00-041-1426)、及びScVO
4の標準回折ピーク(JCPDSカード01-079-7028;ScVO
4、I41/amd、tetragonal)を示す。
【0078】
焼成温度650℃の反応生成物には、未反応原料(Sc2O3、V2O5)に基づく相が確認され、ScVO4は殆ど生成していなかった。この結果は、V2O5の融点(690℃)以下の焼成では、ScVO4の合成反応が進行しないことを示している。これに対して、焼成温度800℃以上の反応生成物では、XRDスペクトルの回折ピークが正方晶系ScVO4の標準回折ピークと殆ど一致した。焼成温度を800℃以上に高めることで、ScVO4単相の反応生成物が得られることが分かった。
【0079】
焼成温度800℃と960℃の反応生成物を60℃のイオン交換水で水洗し、濾過後、温度40℃の減圧雰囲気下に1日放置して、水洗した反応生成物を得た。水洗前後の反応生成物のSEM写真を
図2に示す。
【0080】
(3)フラックス中でのScVO4複合酸化物粒子の合成
[実験例2(参考例)]
実験例2では、複合酸化物粒子をフラックス中で焼成するフラックス法で作製し、その評価を行った。具体的には、酸化スカンジウム(Sc2O3)粉末(住友金属鉱山株式会社製、純度99.99%)と酸化バナジウム(V2O5)粉末(和光純薬株式会社製、特級、純度99%)を0.01モルのScVO4が得られるように秤量した。この際、仕込み組成でのモル比(原子比)でV/Sc=1.00となるように、原料(Sc2O3粉末、V2O5粉末)を秤量した。次いで、秤量した原料をメノウ乳鉢で25分間混合して原料混合物を作製した。そして、得られた原料混合物に、NaCl:0.05モル及びKCl:0.05モルを加えてメノウ乳鉢でさらに10分間混合して混合物を得た。
【0081】
次いで、得られた混合物をアルミナ坩堝に入れて、大気中650℃、700℃、750℃、又は800℃で12時間焼成した。この際、各焼成温度への昇温速度を毎分10℃とした。このようにして、各焼成温度について0.01モルの焼成物を作製した。
【0082】
焼成後、得られた焼成物を60℃のイオン交換水中で40分間撹拌して洗浄した。この際、撹拌時の回転速度を毎分450回転とした。次いで、洗浄した焼成物を、メンブレンフィルタを用いて減圧濾過し、さらに温度40℃の真空乾燥器を用いて減圧雰囲気下で1日乾燥させて反応生成物を得た。
【0083】
実験例2に係る各反応生成物についてX線回折装置により評価を行った。各反応生成物の2θ=15~60°におけるXRDスペクトルを
図3に示す。
【0084】
焼成温度650℃、700℃、750℃、及び800℃のいずれの場合であっても、正方晶系ScVO4の標準回折ピーク(JCPDSカード01-079-7028;ScVO4、I41/amd、tetragonal)が確認された。そのため、主相はScVO4と判断された。また、焼成温度が高いほどSc2O3量が多くなることも確認された。
【0085】
実験例2に係る各反応生成物のSEM像を
図4に示す。各反応生成物は、粒径が10μmを超える粒子であった。実験例2に係る反応生成物は、実験例1に係る反応生成物よりも粒径が大きかった。
【0086】
(4)反応生成物のフラックス処理(熱処理工程)による触媒活性の改善
[実験例3(実施例)]
実験例1で得た反応生成物(800℃焼成物)について、さらにフラックス処理を行った。具体的には、NaCl:0.05モルとKCl:0.05モルを秤量し、メノウ乳鉢で20分間混合して混合塩化物を得た。実験例1の反応生成物(800℃焼成物):0.01モルを混合塩化物に加え、さらにメノウ乳鉢で10分間混合して混合物を得た。
【0087】
次いで、得られた混合物をアルミナ坩堝に入れ大気中750℃の温度で12時間熱処理した。得られた生成物を、60℃のイオン交換水中で40分間撹拌して洗浄した。この際、撹拌時の回転速度を毎分450回転とした。洗浄した生成物を、メンブレンフィルタを用いて減圧濾過し、さらに温度40℃の真空乾燥器を用いて減圧雰囲気下で1日乾燥させて被熱処理反応生成物を得た。
【0088】
実験例3に係る被熱処理反応生成物についてX線回折装置により評価を行った。被熱処理反応生成物の2θ=15~60°におけるXRDスペクトルを
図5に示す。なお、
図5には、参考データとして実験例1の反応生成物(焼成温度800℃と960℃)及び実験例2の反応生成物(焼成温度750℃)のXRDスペクトルも併せて示す。
【0089】
熱処理前の反応生成物(実験例1、焼成温度800℃)のXRDスペクトルにはSc2O3のピークは見られないのに対し、熱処理後の被熱処理反応生成物(実験例3)のXRDスペクトルにはSc2O3のピークが観察された。
【0090】
熱処理前の反応生成物(実験例1、焼成温度800℃)のSEM像と、熱処理後の被熱処理反応生成物(実験例3)のSEM像のそれぞれを
図6A及び
図6Bに示す。両者の粒子径はほぼ同じであった。
【0091】
熱処理前の反応生成物(実験例1、焼成温度800℃)と熱処理後の被熱処理反応生成物(実験例3)にRhCr酸化物(RhCrOx)を助触媒として含浸法で担持させた。その際、反応生成物及び被熱処理反応生成物のそれぞれに対して0.1質量%のロジウム量とクロム量となるように助触媒の担持を行った。
【0092】
助触媒担持の具体的手順は次のとおりとした。まず、時計皿で反応生成物又は被熱処理反応生成物:0.25gとヘキサクロロロジウム(III)酸ナトリウムn水和物(Na3[RhCl6]・nH2O、Rh17.4質量%含有):1.44mgを秤量した。その後、得られた秤量物に濃度1×10-2mol/Lの硝酸クロム9水和物(Cr(NO3)3・9H2O)水溶液478μLとイオン交換水2.5mLを加えた。得られた混合物に1分間超音波混合処理を行った後、70℃の恒温水槽内にてガラス棒で撹拌を継続し、溶媒を除去して乾燥物を得た。次いで、得られた乾燥物を坩堝に入れて大気中350℃1時間焼成した。一連の操作で、反応生成物又は被熱処理反応生成物にRhCr酸化物助触媒を担持させた。
【0093】
助触媒担持後の反応生成物(実験例1、800℃焼成)及び被熱処理反応生成物(実験例3)について、水分解光触媒性能を評価した。得られた評価結果のそれぞれを
図7A及び
図7Bに示す。熱処理後の被熱処理反応生成物(実験例3)は、水素発生量が、熱処理前の反応生成物(実験例1、800℃焼成)よりも向上していた。
【0094】
以上の結果より、本実施形態によれば、焼成工程で合成された反応生成物(ScVO4光触媒粒子)が熱処理工程(フラックスによる熱処理)を経ることでより水分解光触媒活性が向上することが示された。