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  • 特開-ジアミンおよびこれを用いた重合体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009145
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】ジアミンおよびこれを用いた重合体
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/21 20060101AFI20250110BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20250110BHJP
   H01B 17/56 20060101ALI20250110BHJP
【FI】
C07F7/21 CSP
C08G73/10
H01B17/56 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023111944
(22)【出願日】2023-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(72)【発明者】
【氏名】安井 平
(72)【発明者】
【氏名】藤馬 大亮
【テーマコード(参考)】
4H049
4J043
5G333
【Fターム(参考)】
4H049VN01
4H049VP09
4H049VQ35
4H049VQ88
4H049VR21
4H049VR43
4H049VU20
4H049VW02
4J043PA02
4J043QB15
4J043QB26
4J043RA35
4J043SA06
4J043SA46
4J043SA85
4J043SB01
4J043TA22
4J043TA71
4J043TB01
4J043UA041
4J043UA672
4J043UB331
4J043YA06
4J043ZA12
4J043ZA43
4J043ZB21
4J043ZB50
5G333AA03
5G333DA03
5G333DA07
5G333DA08
(57)【要約】
【課題】 芳香環構造を有しない全脂肪族籠状シルセスキオキサン構造を有するジアミンを提供する。籠状シルセスキオキサン構造を有する全脂肪族ジアミンから誘導されるポリアミック酸、ポリイミド、ポリアミドまたはポリアミドイミドの重合体を提供する。およびこれらの重合体からなる薄膜や自立膜である膜を使用した低誘電部材や光学部材を提供する。
【解決手段】 籠状構造頂点の置換基を芳香族から脂肪族、好ましくは脂環式へ変更することで、籠状構造を有するシルセスキオキサン全脂肪族ジアミンを得る。また、この脂肪族ジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを反応させ、低誘電部材や無色透明なポリイミド材料に不可欠な全脂肪族籠状シルセスキオキサン構造、好ましくは全脂環式籠状シルセスキオキサン構造を主鎖に導入したポリアミック酸、ポリイミド、ポリアミド、またはポリアミドイミドの重合体を得る。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるジアミン。
式(1)中、Xは独立して炭素数1~12のアルキレンまたは炭素数4~8のシクロアルキレンであり;この炭素数1~12のアルキレンにおいて、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく、Rは独立して炭素数1~45のアルキルまたは炭素数4~8のシクロアルキルであり;この炭素数1~45のアルキルにおいて、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく、そして少なくとも1つの-CH-は-O-で置き換えられてもよく、炭素数4~8のシクロアルキレンにおいて、少なくとも1つの水素はフッ素または炭素数1~3のアルキルで置き換えられてもよく;そしてR’は独立してメチルまたはシクロヘキシルである。ただし、Xが炭素数1~12のアルキレンであり;この炭素数1~12のアルキレンにおいて、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられてもよい、であるとき、Rが炭素数1~45のアルキルであり;この炭素数1~45のアルキルにおいて、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられてもよく、そして少なくとも1つの-CH-が-O-で置き換えられてもよい、であることはない。
【請求項2】
Xがプロピレンまたはシクロヘキシレンであり;Rがメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ターシャリブチル、シクロペンチル、またはシクロヘキシルである請求項1に記載のジアミン。
【請求項3】
Xが1,4-シクロヘキシレンであり;Rがシクロヘキシルである請求項1に記載のジアミン。
【請求項4】
請求項1に記載のジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを含む原料を反応させて得られるポリアミック酸。
【請求項5】
請求項4に記載のポリアミック酸を脱水環化させて得られるポリイミド。
【請求項6】
請求項1に記載のジアミンとジカルボン酸またはその誘導体とを含む原料を反応させて得られるポリアミド。
【請求項7】
請求項1に記載のジアミンとトリカルボン酸またはその誘導体とを含む原料を反応させて得られるポリアミドイミド。
【請求項8】
請求項4に記載のポリアミック酸、請求項5に記載のポリイミド、請求項6に記載のポリアミドまたは請求項7に記載のポリアミドイミドからなる薄膜または自立膜である膜。
【請求項9】
請求項8に記載の膜を用いた絶縁膜。
【請求項10】
請求項8に記載の膜を用いた保護膜。
【請求項11】
請求項8に記載の膜を用いた低誘電部材。
【請求項12】
請求項8に記載の膜を用いた光学部材。
【請求項13】
請求項9に記載の絶縁膜を用いた電気的固体装置。
【請求項14】
請求項10に記載の保護膜を用いた電気的固体装置。
【請求項15】
請求項11に記載の低誘電部材と;
高周波を発信、変換、伝達、および信号処理する能力
からなる群から選択される少なくとも1つの能力を有する電子デバイスと;を備えた、
電子機器。
【請求項16】
請求項12に記載の光学部材を用いた光学装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジアミンおよびこれを用いた重合体に関し、より詳しくはシルセスキオキサン骨格を有するジアミンおよびこれを用いた重合体に関する。さらに詳しくは、頂点脂肪族置換基、好ましくは頂点脂環式置換基を有する籠状シルセスキオキサン構造全脂肪族ジアミン、およびこれから誘導される主鎖に籠状シルセスキオキサン構造を有するポリアミック酸、ポリイミド、ポリアミドもしくはポリアミドイミドの重合体、ならびにこれらの重合体からなる薄膜や自立膜である膜を用いた保護膜、絶縁膜、低誘電部材および光学部材と、またはこれらの薄膜や自立膜である膜を使用した電子機器や光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報伝達の超高速化・大容量化の要求に伴い、信号周波数の高周波数化が進んでいる。高周波数化により、電子回路やアンテナの基板材料の伝送損失が大きくなり、プリント配線板の発熱や信号の減衰、遅延といった問題が生じる。伝送損失には、伝送回路を形成する導体によって生じる導体損失と絶縁体によって信号の電界エネルギーが消費されて起こる誘電損失が挙げられるが、高周波の領域では誘電損失の寄与が大きく、高周波回路のプリント配線板では絶縁体として誘電損失の低い低誘電損失材料が必要とされている。誘電損失は、基板材料や樹脂の誘電率の平方根や誘電正接に比例しているため、誘電損失の低減には誘電体である基板材料や樹脂の誘電正接の低減が最も効果的な方法と考えられる。
【0003】
従来から回路用基板など電子機器や電子部品には高い絶縁性および信頼性を有するポリイミドが多く用いられている。ポリイミドは極性基を多く含むことから低誘電損失化の達成が非常に難しい。フッ素の導入、ポリイミド多孔質化による誘電率や誘電正接を下げる方法が一般的に用いられている。
【0004】
近年、微細な空隙を有する籠状シルセスキオキサン(Polyhedral Oligomeric Silsequioxanes(POSS))が注目され、その構造をポリイミドに導入する種々の手法が提案されている。
西浦らの報告(例えば、特許文献1、2参照。)ではPOSSの部分開裂構造体をポリイミドと混合し用いて、従来のPOSSとポリイミド分散系におけるポリイミドフィルムの膜厚の均一性に欠ける問題を改善することで、誘電正接の低減に成功した。
また、低誘電材料組成物として籠状シルセスキオキサン構造を主鎖に導入したポリアミック酸とこれを脱水閉環反応させて得られるポリイミドなどの重合体も報告されていた。これらのポリアミック酸やポリイミドの合成に用いられていた籠状シルセスキオキサンジアミンは、いずれも籠状構造の頂点置換基がベンゼン環を有する芳香族ジアミンであることを特徴とする。この籠状シルセスキオキサンの芳香族ジアミンを用いて得られるポリアミック酸やポリイミドは、誘電損失の低い低誘電損失材料として用いることができるものの、更なる低誘電損失化が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-107121号公報
【特許文献2】特開2013-18806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の従来技術の有する問題点に鑑み、本発明の課題は、低誘電部材や透明性ポリイミド材料などの光学部材を提供することであり、このために、低誘電部材や光学部材を与える全脂肪族籠状シルセスキオキサンジアミンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、籠状構造頂点の置換基とアミノ基と直結する置換基を共に脂肪族置換基にすることで、籠状構造を有するシルセスキオキサン全脂肪族ジアミンを得ることに成功した。また、この脂肪族ジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを反応させ、低誘電部材や無色透明なポリイミド材料などの光学部材に不可欠な全脂肪族籠状シルセスキオキサン構造、好ましくは全脂環式籠状シルセスキオキサン構造を主鎖に導入したポリアミック酸、ポリイミド、ポリアミド、またはポリアミドイミドの重合体を得ることができた。さらに、これらの重合体から得られる硬化膜は誘電損失の改善に顕著な効果を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明は以下の構成を含む。
[1] 式(1)で表されるジアミン。
式(1)中、Xは独立して炭素数1~12のアルキレンまたは炭素数4~8のシクロアルキレンであり;この炭素数1~12のアルキレンにおいて、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく、Rは独立して炭素数1~45のアルキルまたは炭素数4~8のシクロアルキルであり;この炭素数1~45のアルキルにおいて、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく、そして少なくとも1つの-CH-は-O-で置き換えられてもよく、炭素数4~8のシクロアルキレンにおいて、少なくとも1つの水素はフッ素または炭素数1~3のアルキルで置き換えられてもよく;そしてR’は独立してメチルまたはシクロヘキシルである。ただし、Xが炭素数1~12のアルキレンであり;この炭素数1~12のアルキレンにおいて、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられてもよい、であるとき、Rが炭素数1~45のアルキルであり;この炭素数1~45のアルキルにおいて、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられてもよく、そして少なくとも1つの-CH-が-O-で置き換えられてもよい、であることはない。
[2] Xがプロピレンまたはシクロヘキシレンであり;Rがメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ターシャリブチル、シクロペンチル、またはシクロヘキシルである[1]に記載のジアミン。
[3] Xが1,4-シクロヘキシレンであり;Rがシクロヘキシルである[1]または[2]に記載のジアミン。
[4] [1]~[3]のいずれか1項に記載のジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを含む原料を反応させて得られるポリアミック酸。
[5] [4]に記載のポリアミック酸を脱水環化させて得られるポリイミド。
[6] [1]~[3]のいずれか1項に記載のジアミンとジカルボン酸またはその誘導体とを含む原料を反応させて得られるポリアミド。
[7] [1]~[3]のいずれか1項に記載のジアミンとトリカルボン酸またはその誘導体とを含む原料を反応させて得られるポリアミドイミド。
[8] [4]に記載のポリアミック酸、[5]に記載のポリイミド、[6]に記載のポリアミドまたは[7]に記載のポリアミドイミドからなる薄膜または自立膜である膜。
[9] [8]に記載の膜を用いた絶縁膜。
[10] [8]に記載の膜を用いた保護膜。
[11] [8]に記載の膜を用いた低誘電部材。
[12] [8]に記載の膜を用いた光学部材。
[13] [9]に記載の絶縁膜を用いた電気的固体装置。
[14] [10]に記載の保護膜を用いた電気的固体装置。
[15] [11]に記載の低誘電部材と;
高周波を発信、変換、伝達、および信号処理する能力
からなる群から選択される少なくとも1つの能力を有する電子デバイスと;を備えた、
電子機器。
[16] [12]に記載の光学部材を用いた光学装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明のジアミンは芳香環構造を有しない全脂肪族ジアミンであり、籠状シルセスキオキサン構造を有している。本発明のジアミンを用いることで、主鎖にシルセスキオキサン構造が導入されたポリアミック酸、ポリイミド、ポリアミドまたはポリアミドイミドの重合体(以下、本発明の重合体ということがある。)を得ることができる。上記ポリアミック酸主鎖に籠状シルセスキオキサン構造および脂肪族構造、好ましくは脂環式構造を有する重合体を硬化させて得られる硬化膜は、低誘電率および低誘電正接や透明性を示す。このため、本発明の重合体から得られる硬化膜を用いれば、低誘電基板、低誘電基板用層間絶縁膜、または低誘電被覆材などの低誘電部材、およびこれらを用いた電子回路、センサー、アンテナ、レーダーなどの電子デバイス、またはこれらの低誘電部材および電子デバイスを使用した電子機器や、透明性が必要とされる光学部材を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、[合成例1]で合成した本発明のジアミンである、ジ[9,19-メチル(4-アミノシクロヘキシル)]-1,3,5,7,11,13,15,17-オクタシクロヘキシルペンタシクロ[11.7.1.13,11.15,17.17,15]デカシロキサン(化合物2)のIRスペクトル図である。なお、化合物2は、上記式(1)において、Xが1,4-シクロヘキシレンであり、Rがシクロヘキシルであり、そしてR’がメチルである化合物に相当する。
図2図2は、[合成例1]化合物2の合成に用いた化合物1である、ベンゼンアミン,4,4’-(9,19-ジメチル-1,3,5,7,11,13,15,17-オクタフェニルペンタシクロ[11.7.1.13,11.15,17.17,15]デカシロキサン-9,19-ジイル)ビス-のIRスペクトル図である。なお、化合物1は、JNC(株)製商品名:XQ1251であり、上記式(1)において、Xが1,4-フェニレンであり、Rがフェニルであり、そしてR’がメチルである化合物に相当する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はこれらの内容になんら限定されない。また、本発明の実施態様は適宜組み合わせることもできる。
1.本発明のジアミン
本発明のジアミンは、籠状構造頂点がアルキルまたはシクロアルキルを有する全脂肪族ジアミンであることが特徴である。本発明のジアミンを合成するためには、本発明のジアミンが容易に得られることから、籠状構造頂点が芳香族置換基を有する籠状シルセスキオキサンジアミンを原料として用いることが好ましい。本発明のジアミンの合成方法として、貴金属触媒存在下の核水添方法を用いることが好ましい。
【0012】
本発明のジアミンにおいて、式(1)におけるXとしての好ましい具体例として、メチレン、エチレン、プロピレン、ペンチレン、ヘキシレン、オクチレン、デシレン、ドデシレンなどのアルキレン、シクロブチレン、シクロペンチレン、シクロヘキシレン、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3-ジイル(ノルボルナン-2,3-ジイル)のシクロアルキレンを挙げることができる。
【0013】
これらの中で、式(1)におけるXとして、より好ましいのは、プロピレンまたはシクロヘキシレンである。
【0014】
式(1)におけるRとしての好ましい具体例として、シクロペンチル、シクロヘキシルを挙げることができる。
【0015】
これらの中で、式(1)におけるRとして、より好ましいのは、シクロヘキシルである。
【0016】
2.本発明のポリアミック酸およびポリイミド
本発明のジアミンは、テトラカルボン酸二無水物と反応させることで、主鎖に籠状シルセスキオキサン構造を有するポリアミック酸を得ることができる。さらに、得られたポリアミック酸を脱水処理すると主鎖に籠状シルセスキオキサン構造を有するポリイミドが合成できる。本明細書においては反応の工程においてポリアミック酸分子の一部分が脱水環化して部分ポリイミドになっている形態もポリアミック酸に含める。
ポリアミック酸とポリイミドの合成において、用いるテトラカルボン酸二無水物は特に限定されない。その具体例として、ピロメリト酸二無水物(無水ピロメリト酸)、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2、2',3,3'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3',4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3',4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、2,2’,3,3’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ジシクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、ビス(ジカルボキシシクロヘキシル)エーテル二無水物、ビス(ジカルボキシシクロヘキシル)スルホン二無水物、ビス(ジカルボキシシクロヘキシル)メタン二無水物、4,4'-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物、メタ-ターフェニル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、パラ-ターフェニル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)(商品名;リカシッド TMEG-100、新日本理化株式会社製)、または式(2)で表される籠状シルセスキオキサン構造を有するテトラカルボン酸二無水物を挙げることができる。これらの内、1つ以上を用いることができる。
【0017】
【0018】
式(2)中、Rは独立して炭素数1~45のアルキル、炭素数6~16のアリール、または炭素数7~16のアリールアルキルであり;この炭素数1~45のアルキルにおいて、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく;炭素数6~16のアリールおよび炭素数7~16のアリールアルキル中の芳香環において、少なくとも1つの水素はフッ素または炭素数1~6のアルキルで置き換えられてもよく;炭素数7~16のアリールアルキル中のアルキレンにおいて、炭素数は1~10であり、そして少なくとも1つの-CH-は-O-で置き換えられてもよく;そしてRは独立してメチルまたはフェニルである。
【0019】
これらの中で、ピロメリト酸二無水物、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、ビス(ジカルボキシシクロヘキシル)メタン二無水物、4,4'-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物が好ましい。
【0020】
本発明のポリアミック酸の合成において、上記のテトラカルボン酸二無水物に加えて、多価アルコールを用いることでポリエステルアミック酸を得ることができる。
ポリエステルアミック酸の合成において、用いる多価アルコールは、水酸基が2つ以上あれば、特に限定されない。
【0021】
3.本発明のポリアミド
本発明のジアミンは、ジカルボン酸またはその誘導体と反応させることで、主鎖に籠状シルセスキオキサン構造を有するポリアミドを得ることができる。
ポリアミドの合成において、用いるジカルボン酸は特に限定されない。その具体例として、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、2,5-ジメチルテレフタル酸、4,4'-ビフェニルジカルボン酸、3,3'-ビフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、フルオレンジカルボン酸、ベンゾフェノン-2,4'-ジカルボン酸、ベンゾフェノン-4,4'-ジカルボン酸、4,4'-ジカルボキシフェニルスルホン、2,2-ビス(4-カルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンの芳香族カルボン酸、マロン酸、メチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,4-フェニレンジ酢酸の脂肪族カルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、シクロペンタメチレンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸の脂環式カルボン酸を挙げることができる。また、これら化合物中の任意の炭化水素基の少なくとも1つの水素をフッ素またはトリフルオロメチルで置き換えられた化合物、例えばテトラフルオロフタル酸も用いることができる。これらの化合物には異性体を含むものもあるが、これらの異性体混合物であってもよい。これらの内、1つ以上を用いることができる。
【0022】
これらの中で、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、4,4'-ビフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、フルオレンジカルボン酸、ベンゾフェノン-4,4'-ジカルボン酸、4,4'-ジカルボキシフェニルスルホン、2,2-ビス(4-カルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、1,4-フェニレンジ酢酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、シクロペンタメチレンジカルボン酸、テトラフルオロフタル酸が好ましい。
【0023】
本発明のポリアミドの合成において、上記のジカルボン酸の替わりに、ジカルボン酸の誘導体を用いることでより穏和な条件で反応させることができる。
これらの誘導体として、カルボン酸クロリド等の酸ハロゲン化物、1-ヒドロキシベンゾトリアゾリルエステル、2,4-ジニトロフェニルエステル、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル等の活性エステルを用いることが可能である。これらの誘導体を経由する場合、最も好ましいのは酸ハロゲン化物である。
【0024】
4.本発明のポリアミドイミド
本発明のジアミンは、トリカルボン酸またはその誘導体と反応させるとポリアミドイミドが得られる。具体例として、トリメリット酸、無水トリメリット酸、無水トリメリット酸クロリド、トリメリット酸トリクロリドが挙げられ、好ましくは無水トリメリット酸クロリドである。
【0025】
本発明の重合体を合成するための反応において、溶剤を用いる。合成反応に使用される原料のモノマーまたは生成物の重合体を溶解することができるものであれば特に制限されない。合成反応に用いる溶剤の具体例として、トルエン、キシレン、メシチレン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、N-メチル-2-ピロリドン、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、スルホラン、γ-ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタンを挙げることができる。好ましくは、シクロヘキサノン、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフランである。これらの溶剤は、単独で用いても複数混合して使用してもよい。
【0026】
本発明で得られた重合体は、反応溶剤を除去して、液状な重合体または固体状な重合体として用いてもよいが、製膜時の時間短縮の観点から、反応溶剤をそのまま残して重合体溶液やゲル状物として使用することが好ましい。
【0027】
5.本発明の薄膜や自立膜である膜
これらの重合体溶液を薄膜や自立膜である膜の製造に用いることができる。薄膜を形成させるために基材上に塗布する方法は、特に限定しないが、アプリケーター、コンマモーター、ドクターブレード、ディスペンサーなどやスキージ(スクイージー:squeegeeまたはsquilgee)を利用する方法、スピンコーターなどの回転機器を利用する方法、スクリーン印刷、インクジェット印刷などの印刷方法などが挙げられる。均一にコーティングするために、ウェットコーティング法を用いることが好ましい。ウェットコーティング法の内、少量を作製する場合には簡便で均質な製膜が可能であるスピンコート法が好ましい。生産性を重視する場合には、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、デップコート法、ダイコート法、ワイヤーバーコート法、バーコート法、リバースコート法、ロールコート法、スリットコート法、ディッピング法、スプレーコート法、メニスカスコート法、キスコート法、リバースキスコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、フローコート法、プリント法、インクジェット法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、ロッドコート法などが好ましい。ウェットコーティング法は、これらの方法から必要とする膜厚、粘度や硬化条件等に応じて適宜選択することができる。
また、塗布の際、オリゴマー溶液の溶剤組成、濃度は重合時と同一でもよいが、反応溶剤を減圧濃縮等にてその一部または全部を一旦除去した後、最適な濃度や溶剤組成に調整してから塗布してもよい。
【0028】
自立膜を製造する場合には、重合体溶液を用いて離型処理した基材上に該溶液を前記方法などでコーティングし剥離するキャスト成形法、構造物を製造する場合には原料粉末などを、必要に応じて金型を用い、プレス成形法、インジェクション(射出)成形法、各種3Dプリンター成形法(吐出積層法)などの樹脂成形法を用いることができる。成形後、金型を外して本硬化することも、金型に入れたまま本硬化することも、または金型を用いない成形法の場合には成形体をそのまま本硬化することも可能である。
【0029】
また、これらの溶液を塗布した後の溶剤の乾燥(仮焼成)方法においても、通常の絶縁膜、保護膜、低誘電部材、光学部材等の形成に使用されている手法と同様な方法を用いることができる。例えば、オ-ブン、ホットプレ-ト、赤外炉を使用できる。溶液を塗布した後は、溶液の調製に用いた各成分の種類および配合割合によって異なるが、比較的低温で、通常60~100℃のホットプレート上またはオーブン中、1~60分間および120~180℃のホットプレート上またはオーブン中、5~90分間の二段階で溶剤を蒸発させ、乾燥を行うことが好ましい。乾燥した後、本硬化(本焼成)条件は、上記各成分の種類および配合割合によって異なるが、通常180~500℃程度の温度で、好ましくは180~450℃、より好ましくは180~400℃の温度で、オーブン中で加熱処理することが好ましい。加熱温度は一定でも段階的に昇温してもよい。加熱時間は重合体の種類によって異なるが、通常5~240分間程度の時間で、好ましくは10~180分間、さらに好ましくは約30~90分間である。なお、乾燥(仮焼成)および本硬化(本焼成)の加熱処理においては空気中、窒素雰囲気または減圧条件下のいずれで行ってもよい。
【0030】
これらの薄膜や自立膜である膜の製造において、塗布性改善などの目的で表面張力の低い溶剤を併用しても良い。表面張力の低い溶剤の具体例として、乳酸アルキル、3-メチル-3-メトキシブタノ-ル、テトラリン、マロン酸ジアルキル(具体例:マロン酸ジエチル)、イソホロン、エチレングリコ-ルモノアルキル、エチレングリコールフェニルアセテ-ト、エチレングリコ-ルモノアルキルエ-テル(具体例:エチレングリコ-ルモノブチルエ-テル)、ジエチレングリコ-ルモノアルキルエ-テル(具体例:ジエチレングリコ-ルモノエチルエ-テル)、トリエチレングリコ-ルモノアルキルエ-テル、プロピレングリコ-ルモノアルキルエ-テル(具体例:プロピレングリコ-ルモノブチルエ-テル)を挙げることができる。これらの溶剤は、反応溶剤と比べ、重合体に対して溶解性が低くなるものが多いため、溶解成分が析出しない程度の量を添加することが好ましい。
【0031】
さらに、塗布性を改良する等の目的で用いられる界面活性剤や、帯電防止の目的等で用いられる帯電防止剤を添加すること、基板との密着性の向上等で用いられるシランカップリング剤やチタン系のカップリング剤を添加することも可能である。
【0032】
好ましいシランカップリング剤として、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシランを挙げることができる。
【0033】
本発明の重合体であるポリアミック酸、ポリアミド、またはポリアミドイミドは、GPCで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が好ましくは1,000~2,000,000、より好ましくは5,000~500,000である。この数値範囲は塗膜性および膜強度を考慮したためである。なお、ポリアミック酸は部分的にイミド化されたポリアミック酸をも含む。
【0034】
本発明の保護膜は、物体をコーティングすることにより、その物体表面をより平坦にさせる膜やその物体の表面や内部を外部からの化学または物理的なダメージから保護するような膜のことである。
【0035】
本発明の絶縁膜は、LSI内部の多層配線構造を含む電子部材において、電気を通す金属配線とそれらを電気的に絶縁する機能を有する膜のことである。
【0036】
本発明の光学部材は、光ファイバーや光配線等の光機能素子において、光信号を特定の領域に閉じこめて入射端から出射端に導く機能を有する材料のことである。
【0037】
本発明の電気的固体装置とは、トランジスタやダイオード等の固体素子で構成される固体回路、およびその集積体である半導体集積回路装置のことである。
【実施例0038】
以下、合成例、実施例および比較例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら合成例および実施例によって何ら限定されるものではない。
【0039】
合成例における測定項目の略称を以下に示す。
Mw:重量平均分子量
Mn:数平均分子量
【0040】
次に、合成例および実施例で使用した測定装置および分析条件を示す。
<FT-IR>
装置:日本分光株式会社製FT/IR-7000型
測定条件:KBr法、室温
1H-NMR>
装置:日本電子株式会社製JNM-GSX400(400MHz)
溶剤:重クロロホルム
測定温度:室温
内部標準物質:テトラメチルシラン
29Si-NMR>
装置:日本電子株式会社製JNM-GSX400(79MHz)
溶剤:重クロロホルム
測定温度:室温
内部標準物質:テトラメチルシラン
<GPC>
装置:Waters社製 2695セパレーションモジュール・2414示差屈折計
溶剤:リン酸-DMF混合溶液(リン酸/DMF=0.6/100重量比)
流速:0.40mL/min
カラム温度:50℃
使用カラム:Waters社製 HSPgel RT MB-M
校正曲線用標準試料:東ソー(株)製 TSK標準ポリスチレン
<誘電特性評価(比誘電率・誘電正接測定)>
装置:(株)エーイーティー(AET, INC.)製 空洞共振器 TEモード10GHz用、28GHz用およびアンリツ(株)製 ベクトルネットワークアナライザー MS46522B-043型
<耐熱性評価(熱分解温度測定)>
装置:(株)リガク製 TG-DTA8120/S
雰囲気:窒素
昇温条件:40℃→800℃,10℃/min
【0041】
[ジアミンの合成]
[合成例1]ジ[9,19-メチル(4-アミノシクロヘキシル)]-1,3,5,7,11,13,15,17-オクタシクロヘキシルペンタシクロ[11.7.1.13,11.15,17.17,15]デカシロキサン(化合物2)の合成
なお、化合物2は、上記式(1)において、Xが1,4-シクロヘキシレンであり、Rがシクロヘキシルであり、そしてR’がメチルである化合物に相当する。
攪拌子を備えた500mL高圧用反応器を用いて、化合物1(66.80g;50.0mmol)、Ru/C(Ru 5重量%、含水)(0.4043g;Ru 0.2mmol)(エヌ・イーケムキャット社製)、シクロペンチルメチルエーテル(303.94g)を0.2MPaの水素雰囲気下80℃で7時間反応させた。次いで触媒をフィルターろ過にて固液分離した後、ろ液に無水硫酸マグネシウムを加え脱水乾燥を行った。その後、フィルターろ過により固-液分離を行った後、ロータリーエバポレーターを用いて、ろ液を濃縮した。得られた固体の濃縮物を70℃、6時間で減圧乾燥し、白色の固体を得た(収量:50.31g、収率:84%)。得られた化合物2のGPC測定を行った結果、単一ピークを確認し、不純物等の存在は、確認されなかった。この化合物2のIRスペクトルを図1に示した。図1のIRスペクトルから、核水添反応によって原料である化合物1のIRスペクトル(図2)に見られる芳香環由来ピーク1598cm-1、1619cm-1および3016~3072cm-1の消失を確認できた。
NMRを測定した結果、化合物2の構造であることを確認した。そのケミカルシフトを以下に示す。
H-NMR(400MHz,CDCl)δ0.50(m, 6H), 0.70(m, 8H), 1.02(m, 3H), 1.21(m,43H),1.55(m, 6H),1.71(m, 43H), 1.93(m, 2H), 2.07(m, 1H), 2.60(m, 1H)。
29Si-NMR(79MHz,CDCl)δ-22.77, -69.80, -71.65。
なお、化合物2の合成に用いた、上記合成反応式の左辺で表される化合物1は、JNC(株)製商品名:XQ1251であり、上記式(1)において、Xが1,4-フェニレンであり、Rがフェニルであり、そしてR’がメチルである化合物に相当する。また、上記合成反応式中、Phはフェニルであり、Meはメチルであり、Cyはシクロヘキシルである。
【0042】
[ポリアミック酸の合成]
[合成例2]ポリアミック酸(PAA1)の合成
温度計、攪拌機、窒素導入管を備えた300mLの四つ口セパラブルフラスコに、ジアミンとして化合物2(21.7962g;15.6mmol)、反応溶剤として脱水N-メチル-2-ピロリドン(142.8101g)を入れ、固体が完全に溶解した後、窒素雰囲気下にし、室温で、テトラカルボン酸二無水物として無水ピロメリト酸(3.4056g;15.6mmol)をさらに加え、16時間攪拌した後、固形分濃度が15.0重量%の均一な透明なポリアミック酸(PAA1)溶液168.00gを得た。ポリアミック酸(PAA1)のMwは107,500であり、Mnは43,800であり、Mw/Mnは2.5であった。
【0043】
[ポリイミドの合成]
[合成例3]ポリイミド(PI1)の合成
ポリアミック酸(PAA1)溶液をマイクロピペットで15mL取り、洗浄済みのシリコン基板上にアプリケーターを用いて10cm×10cm以上の四角形に塗布し、ホットプレート上において80℃で30分溶剤を蒸発させ、150℃オーブン中、15分加熱した後、1時間をかけてオーブンを350℃に昇温し、さらに350℃で30分加熱することにより本硬化(本焼成)を行い、厚さ200μmの硬化膜形態の透明なポリイミド(PI1)が得られた。
【0044】
[ポリアミック酸の合成]
[比較合成例1]ポリアミック酸(PAA2)の合成
温度計、攪拌機、窒素導入管を備えた300mLの四つ口セパラブルフラスコに、ジアミンとして化合物1(20.8551g;15.6mmol)、反応溶剤として脱水N-メチル-2-ピロリドン(137.4230g)を入れ、固体が完全に溶解した後、窒素雰囲気下にし、室温で、テトラカルボン酸二無水物として無水ピロメリト酸(3.4056g;15.6mmol)をさらに加え、16時間攪拌した後、固形分濃度が15.0重量%の均一な透明なポリアミック酸(PAA2)溶液161.68gを得た。ポリアミック酸(PAA2)のMwは193,600であり、Mnは79,500であり、Mw/Mnは2.5であった。
【0045】
[ポリイミドの合成]
[比較合成例2]ポリイミド(PI2)の合成
ポリアミック酸(PAA2)溶液をマイクロピペットで15mL取り、洗浄済みのシリコン基板上にアプリケーターを用いて10cm×10cm以上の四角形に塗布し、ホットプレート上において80℃で30分溶剤を蒸発させ、150℃オーブン中、15分加熱した後、1時間をかけてオーブンを350℃に昇温し、さらに350℃で30分加熱することにより本硬化(本焼成)を行い、厚さ200μmの硬化膜形態の透明なポリイミド(PI2)が得られた。
【0046】
[実施例1]、[比較例1]
上記合成例3、比較合成例2で得られたポリイミド(PI1)、ポリイミド(PI2)のそれぞれについて、以下のようにして誘電特性(比誘電率および誘電正接)および耐熱性(熱分解温度)の評価を行った。
<誘電特性(比誘電率および誘電正接)測定方法>
上記合成例で得られたポリイミドの硬化膜をシリコン基板からはがし、誘電特性評価用の測定試料とした。測定試料中の水分量による影響を少なくするため、測定試料を予め相対湿度10%RHに設定した電子デシケーター内で1日静置した。誘電特性の評価は温度20℃にエアコンを設定した実験室で、測定試料を60分以上静置した後に開始した。ベクトルネットワークアナライザー(アンリツ(株)製MS46522B-043型)に接続した、(株)エーイーティー(AET, INC.)製の空洞共振器(TEモード10GHz用、28GHz用)を用いて、誘電特性評価用試料の、共振周波数のシフト量と減衰量を測定し、同社製ソフトウエアを用いて比誘電率および誘電正接(tanδ)の誘電特性を求めた。この際、膜厚が測定精度に大きく影響するため、作製した試料の総厚を(株)ミツトヨ製のデジマチックマイクロメータで5点測定し、その平均値を計算に用いた。結果は表1に示した。
<耐熱性評価方法>
耐熱性の評価は、上記誘電特性評価用の測定試料を用いて熱分解温度を測定し、5%重量減少温度を耐熱性評価に用いた。結果は表1に示した。
【0047】
[表1]
表1に示した比較例1の硬化膜の比誘電率および誘電正接と比べ、実施例1の硬化膜は、比誘電率および誘電正接が共に低く、優れた誘電特性を示すことが分かった。耐熱性については、比較例1の硬化膜の5%重量減少温度と比べ、実施例1の硬化膜の5%重量減少温度は37℃低下するものの、依然として500℃以上であり、優れた耐熱性を示すことが分かった。
【0048】
[ポリアミドの合成]
[合成例4]ポリアミド(PA1)の合成
上記合成したジアミン化合物2(21.7962g;15.6mmol)をN-メチル-2-ピロリドン(141.4741g)に溶かし氷冷下で撹拌した。この溶液に、テレフタル酸ジクロリド(3.1698g;15.6mmol)を固体のまま添加した。室温に戻して3時間撹拌し、反応液をメタノール100mL中に投入して重合体を沈殿させた。沈殿物をろ集し、白色の固体を減圧下乾燥してポリアミド(PA1)を21.56g得た。GPCで測定したMwは52,100であり、Mnは28,400であった。
【0049】
[ポリアミドイミドの合成]
[合成例5]ポリアミドイミド(PAI1)の合成
無水トリメリット酸クロリド(3.2877g;15.6mmol)、トリエチルアミン(16.0mL)をN-メチル-2-ピロリドン(80.0g)に溶解させ、氷冷下で撹拌した。その溶液に上記で合成したジアミン化合物2(21.7962g;15.6mmol)をN-メチル-2-ピロリドン(145.0g)に溶解した溶液を滴下し、反応を行った。析出したトリエチルアミンの塩酸塩をろ別し、固形分濃度が10.0重量%の均一な透明な重合体溶液240.40gを得た。この溶液を用いてGPCで測定した結果、Mwは78,300であり、Mnは33,800であった。
マイクロピペットで重合体溶液を1mL取り、スピンナー法で10cm×10cmのガラス基板に塗布し、100℃のホットプレート上で3分間加熱した。続いて窒素雰囲気下150℃のオーブンに入れて1時間加熱したところ、膜厚約900nmの淡黄色薄膜状ポリアミドイミド(PAI1)が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のジアミンは芳香環構造を有しない全脂肪族ジアミンであり、籠状シルセスキオキサン構造を有している。また、本発明の全脂肪族ジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを反応させ、低誘電部材や無色透明な光学部材に不可欠な全脂肪族籠状シルセスキオキサン構造、好ましくは全脂環式籠状シルセスキオキサン構造を主鎖に導入したポリアミック酸、ポリイミド、ポリアミド、またはポリアミドイミドの重合体を得ることができる。さらに、これらの重合体から得られる硬化膜は高周波を取り扱う電子デバイスや電子機器の絶縁部材や光学部材として好適に使用できる。
図1
図2