(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025091718
(43)【公開日】2025-06-19
(54)【発明の名称】リサイクル正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 53/00 20060101AFI20250612BHJP
H01M 10/54 20060101ALI20250612BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20250612BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M10/54
C22B7/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023207140
(22)【出願日】2023-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】滝口(竹元) 毬恵
(72)【発明者】
【氏名】島野 哲
【テーマコード(参考)】
4G048
4K001
5H031
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AA04
4G048AB01
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE05
4K001AA01
4K001AA02
4K001AA07
4K001AA08
4K001AA09
4K001AA10
4K001AA11
4K001AA15
4K001AA16
4K001AA17
4K001AA18
4K001AA19
4K001AA27
4K001AA28
4K001AA29
4K001AA30
4K001AA34
4K001AA36
4K001AA38
4K001AA40
4K001BA22
5H031RR02
(57)【要約】
【課題】電池の内部抵抗を低減するリサイクル正極活物質の製造方法を提供すること。
【解決手段】リサイクル正極活物質の製造方法は、(1)正極活物質を含む正極合材に、1種または2種以上のアルカリ金属化合物を含有する活性化処理剤を混合して混合物を得る工程、(2)混合物を、活性化処理剤の溶融開始温度以上の温度に加熱して加熱後の混合物を得る工程、及び(3)加熱後の混合物から加熱後の正極活物質を回収する工程、を含む。活性化処理剤は、1種または2種以上のアルカリ土類金属化合物を更に含有する。活性化処理剤中のアルカリ土類金属の含有量の合計が、0.5mоl%以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程を含み、
(1)正極活物質を含む正極合材に、1種または2種以上のアルカリ金属化合物を含有する活性化処理剤を混合して混合物を得る工程、
(2)前記混合物を、前記活性化処理剤の溶融開始温度以上の温度に加熱して加熱後の混合物を得る工程、
(3)前記加熱後の混合物から加熱後の正極活物質を回収する工程、
前記活性化処理剤が、1種または2種以上のアルカリ土類金属化合物を更に含有し、
前記活性化処理剤中のアルカリ土類金属の含有量の合計が、0.5mоl%以上である、
リサイクル正極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記活性化処理剤中のアルカリ土類金属の含有量の合計が、14.3mоl%未満である、
請求項1に記載のリサイクル正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リサイクル正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電池の正極活物質にはコバルト、ニッケル、マンガン、リチウムなどの希少金属成分が含有されており、特に非水電解質二次電池の正極活物質には、上記の希少金属成分を主成分とする化合物が利用されている。希少金属成分の資源を保全するために、二次電池の電池廃材から、希少金属成分を再生産する方法が求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、正極合材とアルカリ金属化合物を含有する活性化処理剤とを混合し、混合物を加熱してバインダーを分解し、水などにより分解物や活性化処理剤を除去して正極活物質を回収する方法が開示されている。この方法では、有機溶剤を使用せずに、電池廃材から正極活物質を直接回収する点でコスト的に優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一側面の目的は、電池の内部抵抗を低減するリサイクル正極活物質の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面は、以下のリサイクル正極活物質の製造方法に関する。
【0007】
[1] 下記工程を含み、
(1)正極活物質を含む正極合材に、1種または2種以上のアルカリ金属化合物を含有する活性化処理剤を混合して混合物を得る工程、
(2)前記混合物を、前記活性化処理剤の溶融開始温度以上の温度に加熱して加熱後の混合物を得る工程、
(3)前記加熱後の混合物から加熱後の正極活物質を回収する工程、
前記活性化処理剤が、1種または2種以上のアルカリ土類金属化合物を更に含有し、
前記活性化処理剤中のアルカリ土類金属の含有量の合計が、0.5mоl%以上である、
リサイクル正極活物質の製造方法。
【0008】
[2] 前記活性化処理剤中のアルカリ土類金属の含有量の合計が、14.3mоl%未満である、
前記[2]に記載のリサイクル正極活物質の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一側面によれば、電池の内部抵抗を低減するリサイクル正極活物質を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、リサイクルに係る正極活物質の製造方法について説明する。
【0011】
本発明の実施形態に係るリサイクル正極活物質の製造方法は、下記工程を含む。
工程(1):正極活物質を含む正極合材に、1種または2種以上のアルカリ金属化合物を含有する活性化処理剤を混合して混合物を得る工程
工程(2):前記混合物を、前記活性化処理剤の溶融開始温度以上の温度(例えば保持温度)に加熱して加熱後の混合物を得る工程
工程(3):前記加熱後の混合物から加熱後の正極活物質を回収する工程
前記活性化処理剤は、1種または2種以上のアルカリ土類金属化合物を更に含有する。
前記活性化処理剤中のアルカリ土類金属(第2族元素)の含有量の合計は、0.5mоl%以上である。
【0012】
本明細書において、工程(1)~(3)を経た正極活物質を「リサイクル正極活物質」と呼ぶ。工程(1)~(3)を経たリサイクル正極活物質は、正極等の製造に好適に用いることができる。本実施形態に係るリサイクル正極活物質の製造方法は、工程(1)~(3)の前後に、追加の工程を備えることができる。本明細書において、工程(1)~(3)及びその後の追加の工程を経た正極活物質も「リサイクル正極活物質」と呼ぶ。工程(1)~(3)以外の追加の工程の例としては、工程(1)の前に実施される後述の正極合材の準備工程及び正極合材の洗浄工程;工程(3)の後に実施される後述の工程(4)及び工程(5)等が挙げられる。
【0013】
以下、本実施形態に係るリサイクル正極活物質の製造方法における各工程について詳細に説明する。
【0014】
(正極合材の準備工程)
本実施形態に係るリサイクル正極活物質の製造方法は、工程(1)の前に、正極活物質を含有する正極合材を準備する正極合材の準備工程を備えてよい。
【0015】
正極合材は結着材を含んでよい。正極合材において、正極活物質の粒子が結着材により互いに結着されていてよい。正極合材は、正極活物質及び結着材に加えて、電解質及び/又は導電材を含んでもよい。正極合材が導電剤を有する場合、正極活物質の粒子及び導電材が互いに結着剤により結着されていてよい。電解質は、電池の電解液に由来して正極合材に含浸される成分である。正極合材は、結着材及び/又は電解液(例えば、電解液中の電解質)に由来するフッ素化合物を含有してよい。
【0016】
<正極活物質>
正極活物質の例は、リチウム、酸素、フッ素、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リン、硫黄、カリウム、カルシウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、イットリウム、ニオブ、モリブデン、銀、インジウム、タングステン、などを構成元素とする複合化合物である。
【0017】
なお、正極活物質は単一の化合物のみからなってもよいし、複数の化合物から構成されていてもよい。
【0018】
好適な正極活物質の例は、下記の元素群1から選ばれる1種以上の元素と、元素群2から選ばれる1種以上の元素とを含有する複合酸化物である。
元素群1:Ni、Co、Mn、Fe、Al、P
元素群2:Li、Na、K、Ca、Sr、Ba、Mg
【0019】
中でも、正極活物質は、以下の化学式(A式)で表されることが好適である。
【0020】
Li1+aM2
bM1MT
cO2+dXe
ただし、M2は、Na、K、Ca、Sr、Ba、及び、Mgからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、
M1は、Ni、Co、Mn、Fe、Al、及び、Pからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、
MTは、Ni、Co、Mn、及び、Fe以外の遷移金属元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、
Xは、O及びPを除く非金属元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、
-0.4<a<1.5,0≦b<0.5,0≦c<0.5,-0.5<d<1.5,0≦e<0.5を満たす。
【0021】
MTは、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、V、B、Si、Ca、Sr、Ba、Ge、Cr、Sc、Y、La、Ta、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、及びInからなる群から選択される少なくとも1種の元素であることが好ましい。Xの例は、F、S、Cl、Br、I、Se、Te、Nである。
【0022】
正極活物質は、LiとNiを少なくとも含む複合酸化物であることが好ましい。
【0023】
また、正極活物質において、M1におけるNiのモル分率は0.3~0.95であることがより好ましい。
【0024】
正極活物質としての上記複合酸化物の結晶構造には、特に制限はないが、層状構造が好ましく、六方晶型または単斜晶型の結晶構造がより好ましい。
【0025】
六方晶型の結晶構造は、P3、P31、P32、R3、P-3、R-3、P312、P321、P3112、P3121、P3212、P3221、R32、P3m1、P31m、P3c1、P31c、R3m、R3c、P-31m、P-31c、P-3m1、P-3c1、R-3m、R-3c、P6、P61、P65、P62、P64、P63、P-6、P6/m、P63/m、P622、P6122、P6522、P6222、P6422、P6322、P6mm、P6cc、P63cm、P63mc、P-6m2、P-6c2、P-62m、P-62c、P6/mmm、P6/mcc、P63/mcmおよびP63/mmcからなる群より選ばれるいずれか一つの空間群に帰属する。
【0026】
単斜晶型の結晶構造は、P2、P21、C2、Pm、Pc、Cm、Cc、P2/m、P21/m、C2/m、P2/c、P21/cおよびC2/cからなる群より選ばれるいずれか一つの空間群に帰属する。
【0027】
さらには、六方晶型の結晶構造に含まれるR-3mまたは単斜晶型の結晶構造に含まれるC2/mの空間群に帰属することが好ましい。
【0028】
なお、正極活物質の結晶構造はCuKα線を線源とする粉末エックス線回折測定により得られる粉末X線回折図形から同定される。
【0029】
正極合材中の正極活物質の粒子径には特に制限はないが、通常、0.001~100μm程度である。なお、正極活物質の粒度分布はレーザー回折散乱粒度分布測定装置(例えば、マルバーン社製マスターサイザー2000)を用いて測定できる。得られた粒度分布から、体積基準の累積粒度分布曲線を作成し、微小粒子側から50%累積時の粒子径(D50)の値を粉末の平均粒子径とすることができる。
【0030】
<導電材>
導電材の例は、金属粒子等の金属系導電材、及び、炭素材料からなる炭素系導電材である。
【0031】
炭素系導電材の例は、具体的には黒鉛粉末、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック)および繊維状炭素材料(例えば黒鉛化炭素繊維、カーボンナノチューブ)である。
【0032】
炭素系導電材は、単一の炭素材料でもよいし、複数の炭素材料から構成されていてもよい。
【0033】
また、炭素系導電材として用いられる炭素材料の比表面積は、通常0.1~500m2/gであることができる。
【0034】
その場合、導電材は30m2/g以上の炭素系導電材のみからなることができ、30m2/g以上のカーボンブラックであってもよく、30m2/g以上のアセチレンブラックであってもよい。
【0035】
なお、後述する酸化力のあるアルカリ金属化合物を含む活性化処理剤を用いる場合、炭素系導電材の酸化処理の速度を高めることができ、比表面積が小さい炭素材料であっても酸化処理することができる場合がある。
【0036】
<結着材>
正極合材に含まれる結着材(活性化処理前結着材)の例は、熱可塑性樹脂であり、具体的には、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVdFということがある。)、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEということがある。)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体および四フッ化エチレン・パーフルオロビニルエーテル系共重合体などのフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;スチレンブタジエン共重合体(以下、SBRということがある。);が挙げられ、これらの二種以上の混合物であってもよい。
【0037】
正極合材中の正極活物質、導電材及び結着材の配合量に特段の限定はない。結着材の配合量は、正極活物質100重量部に対し、0.5~30重量部であることができ、1~5重量部であってもよい。導電材の配合量は、0であってもよいが、正極活物質100重量部に対し、0~50重量部であることができ、1~10重量部であってもよい。
【0038】
<電解質及び溶媒>
電解質の例は、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2F)2、LiCF3SO3である。正極合材に含まれる電解質の量に限定はないが0.0005~7質量%であることができる。
【0039】
正極合材は、電解液に由来する溶媒を含んでいてもよい。溶媒の例は、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートである。
【0040】
<正極合材の回収>
このような正極合材は、集電体と正極合材層とを有する廃正極から正極合材を分離して回収することにより得ることができる。
【0041】
「廃正極」とは、廃棄された電池から回収された正極、及び、正極及び電池の製造の過程で発生する正極の廃棄物であることができる。廃棄された電池は、使用済みの電池であってもよく、未使用であるが規格外品の電池であってもよい。また、正極の廃棄物は、電池の製造工程で発生する正極の端部、及び、規格外品の正極であることができる。また、正極合材として、正極合材製造工程で生じる、集電体に貼り付けられていない正極合材の廃棄品を用いることもできる。
【0042】
廃正極は、アルミニウム箔及び銅箔などの金属箔である集電体と、当該集電体上に設けられた正極合材層とを有する。正極合材層は、集電体の片面に設けられてもよく、両面に設けられていてもよい。
【0043】
正極合材層と集電体とを有する廃正極から正極合材を分離する方法としては、集電体から正極合材層を機械的に剥離する方法(例えば、集電体から正極合材を掻き落とす方法)、正極合材層と集電体との界面に溶剤を浸透させて集電体から正極合材層を剥離する方法、アルカリ性もしくは酸性の水溶液を用いて、集電体を溶解して正極合材層を分離する方法などがある。好ましくは、集電体から正極合材層を機械的に剥離する方法である。
【0044】
(正極合材の洗浄工程)
つづいて、正極合材が電解質を含有する場合には、準備した正極合材に対して、電解質洗浄溶媒を接触させて、正極合材から電解質の少なくとも一部を除去することが好適である。具体的には、正極活物質及び電解質を含む正極合材を、電解質洗浄溶媒と接触させて固体成分と液体成分とを含むスラリーを得て、その後、スラリーを固体成分と液体成分とに分離する。
【0045】
固液分離とは、スラリーを液体成分と固体成分とに分離する工程である。固液分離の方法としては、従来公知の方法でよく、例えば、ろ過や遠心分離法が挙げられる。
【0046】
電解質洗浄溶媒に特に限定はない。例えば、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート等の炭酸エステル類;水;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類が挙げられる。
【0047】
正極合材に対して電解質洗浄溶媒を接触させることは、公知の粉体と液体との接触装置、例えば、攪拌槽等で行うことができる。
【0048】
正極合材を電解質洗浄溶媒と接触させる工程において、正極合材と電解質洗浄溶媒とを攪拌してスラリーを得ることが好適である。攪拌翼の先端の周速は0.1~1.0m/sとすることができる。
【0049】
正極合材の洗浄工程において、固液分離した後、得られた固体成分のリンスを実施してもよい。リンスとは、得られた固体成分に再び電解質洗浄溶媒を接触させてスラリーを得て、その後、スラリーを再び固体成分と液体成分とに分離する操作である。正極合材の洗浄では、リンスを複数回実施してもよい。リンスにおけるスラリー濃度も上記と同様にすることができる。リンスにおいても、上述のようにスラリーの攪拌を行うことができる。
【0050】
上記の洗浄により正極合材から電解質を十分に除去できる。例えば、電解質が残っていると以下の反応が起こり、正極活物質の構造が層状岩塩構造からスピネル構造に変化してしまう。
LiPF6+16LiMO2+2O2→6LiF+Li3PO4+8LiM2O4
また、活性化剤として炭酸リチウムを含む場合、以下の反応によるリチウムの消費も起こる。
LiPF6+4Li2CO3→6LiF+Li3PO4+4CO2
【0051】
分離された固体成分は、必要に応じて、減圧及び/または加熱により電解質洗浄溶媒の乾燥を行うことができる。加熱温度は、50~200℃とすることができる。
【0052】
(工程(1):活性化処理剤混合工程)
工程(1)では、正極活物質を含む正極合材に、活性化処理剤を混合して混合物を得る。活性化処理剤は、1種または2種以上のアルカリ化合物と、1種または2種以上のアルカリ土類金属化合物を含有する。
【0053】
正極合材と活性化処理剤との混合方法は、乾式混合又は、湿式混合のいずれでもよく、これらの混合方法の組み合わせでもよく、その混合順序も特に制限されない。
【0054】
混合の際には、ボールなどの混合メディアを備えた混合装置を用いて、粉砕混合する工程を経ることが好ましく、これにより混合効率を向上させることができる。
【0055】
混合方法としては、より簡便に混合が行える点で乾式混合が好ましい。乾式混合においては、V型混合機、W型混合機、リボン混合機、ドラムミキサー、攪拌翼を内部に備えた粉体混合機、ボールミル、振動ミルまたはこれらの装置の組み合わせを用いることができる。
【0056】
乾式混合に用いる混合装置としては、攪拌翼を内部に備えた粉体混合機が好ましく、具体的には、レーディゲミキサー(株式会社マツボー製)を挙げることができる。
【0057】
以下、本工程で使用される活性化処理剤について詳細に説明する。
【0058】
<活性化処理剤>
活性化処理剤は、1種又は2種以上のアルカリ金属化合物を含有する。活性化処理剤は、カリウム化合物及びナトリウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有することが好適である。ここで、カリウムおよび/又はナトリウムをアルカリ金属元素Xとよぶことがある。活性化処理剤は、カリウム化合物及び/又はナトリウム化合物以外に、Liなどの他のアルカリ金属を含むアルカリ金属化合物を含有してもよい。
【0059】
活性化処理剤が正極活物質と接触すると、正極活物質を活性化させることができる。活性化処理剤におけるアルカリ金属化合物が特に溶融部分を含む場合には、該溶融部分と正極活物質との接触性が向上することで、正極活物質の活性化がより促進される。
【0060】
また、正極合材は、結着材及び/又は電解液に由来してフッ素を含む化合物を含むことがあるが、該フッ素を含む化合物と活性化処理剤とを接触させることで、フッ素成分がアルカリ金属フッ化物として安定化するため、フッ化水素などの腐食性ガスが発生することを抑制することができる。なお、フッ化水素は正極活物質の活性を落とすことからも発生を防止することが望ましい。
【0061】
活性化処理剤における全アルカリ金属化合物の割合は、アルカリ金属化合物の種類や、対象となる正極活物質の種類等に考慮して適宜設定されるが、活性化処理剤全重量に対して、通常、50重量%以上、好ましくは70重量%以上(100重量%含む)である。
アルカリ金属化合物中に含まれるアルカリ金属のうちカリウム及びナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ金属の濃度は、0~100モル%で任意に調整できるが、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上であり、好ましくは90モル%以下であり、より好ましくは80モル%以下である。
【0062】
活性化処理剤の成分となるアルカリ金属化合物としては、アルカリ金属の、水酸化物、ホウ酸塩、炭酸塩、酸化物、過酸化物、超酸化物、硝酸塩、リン酸塩、硫酸塩、塩化物、バナジウム酸塩、臭酸塩、モリブデン酸塩、タングステン酸塩が挙げられる。これらは活性化処理剤の成分として、単独でも複数を組み合わせて使用することができる。
【0063】
好適なアルカリ金属化合物の具体例としては、LiOH、NaOH、KOH、RbOH、CsOH等の水酸化物;
LiBO2、NaBO2、KBO2、RbBO2、CsBO2等のホウ酸化物;
Li2CO3、Na2CO3、K2CO3、RbCO3、CsCO3等の炭酸塩;
Li2O、Na2O、K2O、Rb2O、Cs2O等の酸化物;
Li2O2、Na2O2、K2O2、Rb2O2、Cs2O2等の過酸化物;
LiO2、NaO2、KO2、RbO2、CsO2等の超酸化物;
LiNO3、NaNO3、KNO3、RbNO3、CsNO3等の硝酸塩;
Li3PO4、Na3PO4、K3PO4、Rb3PO4、Cs3PO4等のリン酸塩;
Li2SO4、Na2SO4、K2SO4、Rb2SO4、Cs2SO4等の硫酸塩;
LiCl、NaCl、KCl、RbCl、CsCl等の塩化物;
LiBr、NaBr、KBr、RbBr、CsBr等の臭化物;
LiVO3、NaVO3、KVO3、RbVO3、CsVO3等のバナジウム酸塩;
Li2MoO4、Na2MoO4、K2MoO4、Rb2MoO4、CsMoO4等のモリブデン酸塩;
Li2WO4、Na2WO4、K2WO4、Rb2WO4、CsWO4等のタングステン酸塩;が挙げられる。
【0064】
ここで、より正極活物質の活性化効果を高めるため、活性化処理剤は、カリウム化合物及びナトリウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物以外に、正極合材中の正極活物質に含まれるアルカリ金属元素と同一のアルカリ金属元素を含むことができる。
【0065】
すなわち、正極合材中の正極活物質がリチウム複合酸化物の場合には、活性化処理剤は、カリウム化合物及びナトリウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物以外に、リチウム化合物を含むことが好適である。好適なリチウム化合物としては、LiOH、LiBO2、Li2CO3、Li2O、Li2O2、LiO2、LiNO3、Li3PO4、Li2SO4、LiCl、LiVO3、LiBr、Li2MoO4、Li2WO4が挙げられる。
【0066】
活性化処理剤は、1種又は2種以上のアルカリ土類金属化合物を含有する。アルカリ土類金属化合物は、活性化処理剤の溶融開始温度をコントロールする目的で、アルカリ金属化合物と共に活性化処理剤中に含有される。さらにアルカリ土類金属化合物は、リサイクル正極活物質を正極に用いた電池の内部抵抗(インピーダンス又は直流抵抗)を低減することができる。つまり、活性化処理剤としてアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物の両方を用いて製造されたリサイクル正極活物質を用いた電池の内部抵抗は、活性化処理剤としてアルカリ金属化合物のみを用いて製造されたリサイクル正極活物質を用いた電池の内部抵抗よりも低減される。発明者らは、アルカリ金属化合物のみならずアルカリ土類金属化合物も含む高温反応場の形成により、正極活物質の表面の結晶構造の再生が促進され、電池の反応抵抗(化学反応の速度限界に因る抵抗成分)が低減(回復)される、と推察する。
【0067】
活性化処理剤中のアルカリ土類金属の含有量の合計は、0.5mоl%以上である。活性化処理剤中のアルカリ土類金属の含有量の合計が0.5mоl%以上であることにより、リサイクル正極活物質を正極に用いた電池の内部抵抗を低減することができる。活性化処理剤中のアルカリ土類金属(第2族元素)の物質量(単位:モル)がmと表され、活性化処理剤中のアルカリ金属化合物(分子)及びアルカリ土類化合物(分子)の物質量の合計がMと表される場合、活性化処理剤中のアルカリ土類金属の含有量の合計は、{100×(m/M)}mоl%と表されてよい。
活性化処理剤中のアルカリ土類金属の含有量の合計の上限値は、限定されない。例えば、活性化処理剤中のアルカリ土類金属の含有量の合計は、0.5mоl%以上50mоl%以下であってよい。活性化処理剤中のアルカリ土類金属の含有量の合計は、好ましくは、0.5mоl%以上14.3mоl%未満、又は0.5mоl%以上9.1mоl%以下であってよい。活性化処理剤中のアルカリ土類金属の含有量の合計が14.3mоl%未満又は9.1mоl%以下である場合、リサイクル正極活物質を正極に用いた電池のレート特性(各Cレートでの放電容量)が向上する傾向がある。
活性化処理剤中のアルカリ土類金属の含有量の合計は、より好ましくは、0.5mоl%以上9.1mоl%未満、又は0.5mоl%以上3.2mоl%以下であってよい。活性化処理剤中のアルカリ土類金属の含有量の合計が9.1mоl%未満又は3.2mоl%以下である場合、初回充電容量、初回放電容量、初回充放電効率、及び初回放電容量回復率が向上する傾向がある。
活性化処理剤中のアルカリ土類金属の含有量の合計は、0.5mоl%以上14.3mоlmоl%以下、0.5mоl%以上11.7mоl%以下、0.5mоl%以上9.1mоl%以下、0.5mоl%以上6.2mоl%以下、0.5mоl%以上3.2mоl%以下、0.5mоl%以上2.4mоl%以下、0.5mоl%以上1.6mоl%以下、1.6mоl%以上14.3mоl%以下、1.6mоl%以上11.7mоl%以下、1.6mоl%以上以上9.1mоl%以下、1.6mоl%以上6.2mоl%以下、1.6mоl%以上3.2mоl%以下、又は1.6mоl%以上2.4mоl%以下であってもよい。
【0068】
アルカリ土類金属化合物に含まれるアルカリ土類金属は、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、及びバリウムからなる群より選ばれる1種又は2種以上の元素であってよい。アルカリ土類金属化合物に含まれるアルカリ土類金属は、マグネシウム及びカルシウムのうち一つ又は両方の元素であることが好適である。アルカリ土類金属化合物としては、アルカリ土類金属の、水酸化物、ホウ酸塩、炭酸塩、酸化物、過酸化物、超酸化物、硝酸塩、リン酸塩、硫酸塩、塩化物、バナジウム酸塩、臭酸塩、モリブデン酸塩、タングステン酸塩が挙げられる。これらは活性化処理剤の成分として、単独でも複数を組み合わせて使用することができる。
【0069】
好適なアルカリ土類金属化合物の具体例としては、Be(OH)2、Mg(OH)2、Ca(OH)2、Sr(OH)2、Ba(OH)2等の水酸化物;
Be(BO2)2、Mg(BO2)2、Ca(BO2)2、Sr(BO2)2、Ba(BO2)2等のホウ酸化物;
BeCO3、MgCO3、CaCO3、SrCO3、BaCO3等の炭酸塩;
BeO、MgO、CaO、SrO、BaO等の酸化物;
Be2O3、Mg2O3、Ca2O3、Sr2O3、Ba2O3等の過酸化物;
BeO2、MgO2、CaO2、SrO2、BaO2等の超酸化物;
Be(NO3)2、Mg(NO3)2、Ca(NO3)2、Sr(NO3)2、Ba(NO3)2等の硝酸塩;
Be3(PO4)2、Mg3(PO4)2、Ca3(PO4)2、Sr3(PO4)2、Ba3(PO4)2等のリン酸塩;
BeSO4、MgSO4、CaSO4、SrSO4、BaSO4等の硫酸塩;
BeCl2、MgCl2、CaCl2、SrCl2、BaCl2等の塩化物;
BeBr2、MgBr2、CaBr2、SrBr2、BaBr2等の臭化物;
Be(VO3)2、Mg(VO3)2、Ca(VO3)2、Sr(VO3)2、Ba(VO3)2等のバナジウム酸塩;
BeMoO4、MgMoO4、CaMoO4、SrMoO4、BaMoO4等のモリブデン酸塩;
BeWO4、MgWO4、CaWO4、SrWO4、BaWO4等のタングステン酸塩;が挙げられる。
【0070】
活性化処理剤は、必要に応じてアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物以外の化合物を含んでいてもよい。また、活性化処理剤中のアルカリ金属化合物以外の化合物の含有量は、上述の溶融したアルカリ金属化合物に由来する効果を著しく抑制しない範囲で選択され、活性化処理剤全重量の50重量%未満であることができる。
【0071】
正極合材及び活性化処理剤の混合物中における活性化処理剤の添加量は、正極合材が含む正極活物質の重量に対して、0.001~100倍であることが好ましく、より好ましくは、0.05~1倍である。
【0072】
正極合材及び活性化処理剤の混合物における活性化処理剤中のアルカリ金属化合物のモル数は、正極合材が含む正極活物質(例えばA式)のモル数を1としたときに、アルカリ金属元素のモル数が0.001~200倍となるように添加することができる。
【0073】
混合物中の活性化処理剤の割合を適切に制御することで、正極合材からの正極活物質の回収にかかる費用を低減できることができ、炭素系導電材や結着材の酸化分解処理速度を高めることができる。また、加熱工程における腐食性ガスの発生を防止する効果を向上させることができ、さらには得られる正極活物質を用いて製造される電池の放電容量をより高めることができる。
【0074】
また、活性化処理剤に含有されるアルカリ金属化合物の少なくとも1種が、水に溶解させた場合にアルカリ性を示すアルカリ金属化合物であることが好ましい。このようなアルカリ金属化合物を含む活性化処理剤は、純水に溶解した際に、該溶液のpHが7よりも大きくなる。以下、このような活性化処理剤を「アルカリ性の活性化処理剤」と称す場合がある。
【0075】
アルカリ性の活性化処理剤を使用することにより、加熱工程における腐食性ガスの発生をより抑制することができるため、回収される正極活物質を用いて製造される電池の放電容量をより高めることができる。また、アルカリ性の活性化処理剤を使用することにより、炭素系導電材や結着材の処理速度を高めることもできる。
【0076】
アルカリ性の活性化処理剤に含まれる水に溶解させた場合にアルカリ性を示すアルカリ金属化合物としては、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、酸化物、過酸化物、超酸化物が挙げられる。具体的には、LiOH、NaOH、KOH、RbOH、CsOH;Li2CO3、Na2CO3、K2CO3、RbCO3、CsCO3;LiHCO3、NaHCO3、KHCO3、RbHCO3、CsHCO3;Li2O、Na2O、K2O、Rb2O、Cs2O;Li2O2、Na2O2、K2O2、Rb2O2、Cs2O2;LiO2、NaO2、KO2、RbO2、CsO2;が挙げられる。これらは、1種又は2種以上を活性化処理剤に含ませてもよい。
【0077】
また、正極合材に含まれる導電材が、炭素系導電材である場合には、活性化処理剤に含有されるアルカリ金属化合物の少なくとも1種が、加熱工程の温度において、炭素系導電材を酸化分解する酸化力を有するアルカリ金属化合物であってもよい。なお、このようなアルカリ金属化合物を含有する活性化処理剤を、以下、「酸化力を有する活性化処理剤」と称す場合がある。
【0078】
このような酸化力を有する活性化処理剤を用いると、炭素材料である導電材の二酸化炭素へ酸化を促進し、炭化水素材料である結着材の二酸化炭素と水蒸気へと酸化を促進することに特に効果を発揮し、得られる正極活物質を用いて製造される電池の放電容量をより高めることができ、さらに加熱工程における腐食性ガスの発生を防止する効果を向上させることができる場合がある。
【0079】
炭素系導電材および炭化水素を二酸化炭素と水蒸気へと酸化するために必要な酸化力を有するアルカリ金属化合物としては、アルカリ金属の過酸化物、超酸化物、硝酸塩、硫酸塩、バナジウム酸塩、モリブデン酸塩を挙げられる。これらは、1種あるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0080】
具体的には、Li2O2、Na2O2、K2O2、Rb2O2、Cs2O2;LiO2、NaO2、KO2、RbO2、CsO2;LiNO3、NaNO3、KNO3、RbNO3、CsNO3;Li2SO4、Na2SO4、K2SO4、Rb2SO4、Cs2SO4;LiVO3、NaVO3、KVO3、RbVO3、CsVO3;Li2MoO4、Na2MoO4、K2MoO4、Rb2MoO4、CsMoO4;が挙げられる。
【0081】
これらのアルカリ金属化合物の酸化力の詳細については、特開2012-186150号公報に記載されている。
【0082】
(工程(2):加熱工程)
加熱工程は、工程(1)にて得られた混合物(以下、「加熱前の混合物」と呼ぶ場合がある。)を、活性化処理剤の溶融開始温度以上の温度に加熱する工程である。例えば、加熱工程における混合物の温度を、活性化処理剤の溶融開始温度以上の温度に保持してよい。ただし、加熱工程における混合物の温度は、常に活性化処理剤の溶融開始温度以上の温度である必要はない。本加熱工程で得られた混合物を「加熱後の混合物」と呼ぶことがある。
【0083】
なお、「活性化処理剤の溶融開始温度(Tmp)」は、活性化処理剤の一部が液相を呈する最も低い温度を意味する。
【0084】
活性化処理剤の溶融開始温度(Tmp)は、示差熱測定(DTA)により求めた値である。すなわち、上記加熱前の混合物5mgを示差熱測定(DTA,測定条件:昇温速度:10℃/min)にて、DTAシグナルが吸熱のピークを示す温度を溶融開始温度(Tmp)とする。
【0085】
活性化処理剤の溶融開始温度(Tmp)は、700℃以下であることが好ましく、600℃以下であることがより好ましい。活性化処理剤の溶融開始温度(Tmp)に下限はないが、例えば、150℃であってもよい。
【0086】
また、活性化処理剤の融点は、活性化処理剤のみを加熱したときに、活性化処理剤の一部が液相を呈する最も低い温度を意味する。正極合材と活性化処理剤とを混合することで、活性化処理剤の溶融開始温度(Tmp)は、活性化処理剤の融点より低くなる。
【0087】
活性化処理剤の融点は、示差熱測定(DTA)により求めた値である。具体的には、当該活性化処理剤5mgを示差熱測定(DTA,測定条件:昇温速度:10℃/min)にて、DTAシグナルが吸熱のピークを示す温度を活性化処理剤の融点とする。
【0088】
加熱における雰囲気に特に限定はなく、空気などの酸素含有ガス、窒素、アルゴン、二酸化炭素であってよい。雰囲気の圧力に特に限定はないが、大気圧とすることができるが、減圧雰囲気でもよく、加圧雰囲気でもよい。
【0089】
工程(2)では、上述のように加熱前の混合物を活性化処理剤の溶融開始温度(Tmp)以上の温度に加熱することにより、以下の作用が生じる。
【0090】
融解状態の活性化処理剤が正極活物質と接触することにより、正極活物質の結晶構造の劣化を抑制することができる。また、場合によっては、結晶構造の修復作用を得ることもできる。
【0091】
融解状態の活性化処理剤が炭素系導電材や結着材と接触することにより導電材及び結着材の酸化分解の速度が向上し、さらに、融解状態の活性化処理剤が結着材及び電解液に由来するフッ素化合物と接触することにより、フッ素成分がアルカリ金属フッ化物として安定化され、腐食性ガスであるフッ化水素の発生を防止し、正極活物質の結晶構造の劣化が抑制される。
【0092】
さらに、活性化処理剤が、正極活物質と同じアルカリ金属を含有する場合には、正極活物質に対して不足するアルカリ金属を供給することも可能となる。
【0093】
加熱工程の温度及び、当該温度における保持時間は、正極合材を構成する正極活物質、導電材、結着材、および活性化処理剤に含有されるアルカリ金属化合物やその他の化合物におけるそれぞれの種類や組み合わせにより適宜調節することができる。通常、温度は100~1500℃の範囲であり、保持時間は、10分~24時間程度である。
【0094】
加熱工程の温度は、活性化処理剤が含有するアルカリ金属化合物の融点よりも高い温度であることが好ましい。なお、アルカリ金属化合物の融点は複数種の化合物を混合することで、各化合物の単体の融点よりも下がることがある。活性化処理剤が2種以上のアルカリ金属化合物を含む場合には、共晶点をアルカリ金属化合物の融点とする。
【0095】
加熱工程後には、必要に応じて、混合物を、例えば、室温程度など、任意の温度にまで冷却することができる。
このようにして、加熱後の正極活物質を含む加熱後の混合物が得られる。
【0096】
(工程(3):正極活物質回収工程)
正極活物質回収工程とは、工程(2)の加熱工程後に、加熱後の混合物から加熱後の正極活物質を回収する工程である。
【0097】
加熱後の混合物には、加熱後の正極活物質の他、活性化処理剤に由来する成分(アルカリ金属化合物等)、未分解の導電材や結着材、その他の正極合材の未分解物が含まれる。また、正極合剤にフッ素成分を含有する電解液が含まれている場合には、電解質に由来するフッ素成分を含む場合もある。
【0098】
加熱後の混合物から加熱後の正極活物質を分離回収する方法としては、該混合物に水などの溶媒を加えてスラリー化させた後に固液分離する固液分離法や、該混合物を加熱して加熱後の正極活物質以外の成分を気化して分離する気化分離法などが挙げられる。以下では、固液分離法を行う固液分離工程について説明する。
【0099】
工程(3a):固液分離工程
工程(3a)は、加熱後の混合物を、水を含む液体と接触させて固体成分及び液体成分を含むスラリーを得て、その後、スラリーを固体成分と液体成分とに分離する工程である。
【0100】
加熱後の混合物には、加熱後の正極活物質の他、活性化処理剤に由来する成分(アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物等)、未分解の導電材や結着材、その他の正極合材の未分解物が含まれる。また、正極合材にフッ素成分を含有する電解液が含まれている場合には、電解質に由来するフッ素成分を含む場合もある。
【0101】
加熱後の混合物から加熱後の正極活物質を分離回収するために、該混合物に水を含む液体(液体)を加えてスラリー化させた後に固液分離して、固体成分と液体成分とに分離する。
【0102】
スラリー化工程に用いる液体は、水を含む限り特に制限はない。液体における水の量は50質量%以上であってよい。水溶性成分の溶解度を高めたり、処理速度を高めたりするために液体に水以外の成分を添加して、pHを調整してもよい。
水を含む液体の好適例としては、純水やアルカリ性洗浄液があげられる。アルカリ性洗浄液としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸アンモニウムからなる群より選ばれる1種以上の無水物並びにその水和物の水溶液を挙げることができる。また、アルカリとして、アンモニアを使用することもできる。
【0103】
得られるスラリーは、加熱後の正極活物質を主として含む固体成分と、正極活物質以外の水溶性成分を含む液体成分とを含む。なお、液体成分には、活性化処理剤に由来するアルカリ金属成分、アルカリ土類金属成分、及び/又は、結着材及び電解液に由来するフッ素成分が含まれる。
【0104】
混合物に添加される液体の量は、混合物に含まれる加熱後の正極活物質と、正極活物質以外の水溶性成分のそれぞれの量を考慮して適宜決定される。
【0105】
工程(3a)において、加熱後の混合物と水を含む液体とを攪拌してスラリーを得ることが好適である。これにより、水溶性成分の溶解が促進される。攪拌翼の先端の周速は0.1~0.9m/sとすることが好ましい。
【0106】
スラリー化工程で形成されたスラリーは、次いで、固液分離に供される。固液分離とは、スラリーを液体成分と固体成分とに分離する工程である。固液分離の方法としては、従来公知の方法でよく、例えば、ろ過や遠心分離法が挙げられる。
【0107】
工程(3a)において、固液分離した後、得られた固体成分のリンスを実施してもよい。リンスとは、得られた固体成分に再び水を含む液体を接触させてスラリーを得て、その後、スラリーを再び固体成分と液体成分とに分離する操作である。工程(3a)では、リンスを複数回実施してもよい。リンスにおけるスラリー濃度も上記と同様にすることができる。
【0108】
(工程(4):乾燥工程)
工程(4)では、前記工程(3a)で得られた固体成分を加熱及び/又は減圧環境に曝して固体成分から水を除去する工程である。
【0109】
加熱の温度としては水を除去するために100℃以上が好ましい。さらに十分に水を除去するために150℃以上とすることが好ましい。特に250℃以上の温度では、得られる正極活物質を用いて製造される電池の放電容量がさらに高まることから好ましい。乾燥工程における温度は、一定でもよく、また段階的もしくは連続的に変化させてもよい。加熱の到達温度範囲は、例えば、10℃以上900℃未満であることができる。
【0110】
減圧の到達圧力範囲は、例えば、1.0×10-10~1.0×103Paであることができる。
【0111】
(工程(5):アニール(再焼成)工程)
工程(5)は、好ましくは、前記工程(4)後の固体成分を900℃未満で熱処理する工程である。
【0112】
熱処理の雰囲気に限定はないが、空気などの酸素含有雰囲気下であることが好適である。また、熱処理の温度は、100℃以上であることができる。また、熱処理の保持時間は、1分~24時間とすることができる。特に、350℃以上の保持温度にて、0.1時間以上5時間以下で加熱することが好適である。
【0113】
本発明のリサイクル正極活物質の製造方法を用いることで電池合材から得られたリサイクル正極活物質は、未使用活物質と同様に再利用することができる。リサイクル正極活物質を用いて、正極及び電池を製造する方法は周知である。
【0114】
最終的に得られる、本発明の実施形態に係るリサイクル正極活物質の放電容量は、150mAh/g以上であることができる。
【実施例0115】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0116】
(実施例1)
100質量部のLiNi0.6Co0.2Mn0.2O2(正極活物質)、5質量部のカーボンブラック(導電材)、及び3質量部のPVdF(結着材)を混合することにより、模擬合材(正極合材)を作製した。
【0117】
工程(1)では、上記の模擬合材に活性化処理剤を混合することにより、混合物を得た。活性化処理剤は、Li補充材、活性化剤1、及び活性化剤2からなっていた。Li補充材はLi2CO3であり、活性化剤1はK2SO4であり、活性化剤2は、Mg(OH)2であった。活性化処理剤中のLi補充材、活性化剤1、及び活性化剤2それぞれの配合量は、下記表1に示される値に調整した。活性化処理剤中のアルカリ土類金属の含有量の合計は、下記表1に示される値に調整した。
下記表1中の「正極活物質の物質量」とは、模擬合材中の正極活物質の物質量を意味する。
下記表1中の「Li補充材の割合」とは、100mоl%の正極活物質(模擬合材中の正極活物質)に対するLi補充材の割合を意味する。
下記表1中の「活性化剤1の割合」とは、100mоl%の正極活物質(模擬合材中の正極活物質)に対する活性化剤1の割合を意味する。
下記表1中の「活性化剤2の割合」とは、100mоl%の正極活物質(模擬合材中の正極活物質)に対する活性化剤2の割合を意味する。
【0118】
工程(1)に続く工程(2)では、5gの上記混合物をアルミナ製のボート型容器に容れて、ガス炉内に設置した。ガス炉内の雰囲気は空気であった。ガス炉内の混合物を700℃で3時間加熱した。700℃は、活性化処理剤の溶融開始温度以上の温度であった。加熱後の混合物を、自然冷却によって室温まで冷却した後、加熱後の混合物をガス炉から取り出した。
【0119】
工程(2)に続く工程(3)では、加熱後の混合物を粉砕した。粉砕された混合物に蒸留水を加えて、スラリーを作製した。スラリー中の混合物の含有量は、2質量%に調整した。スラリーの攪拌後、スラリーのデカンテーションを行なった。デカンテーション後、スラリーの濾過によって、固相をスラリーから分離及び回収した。回収された固相を水でリンスした。
【0120】
工程(3)に続く工程(4)では、100℃で固相の真空乾燥を行った。
【0121】
工程(4)に続く工程(5)では、空気中の固相を700℃で1時間加熱した。
【0122】
以上の製造方法により、実施例1のリサイクル正極活物質を得た。
【0123】
<正極の製造>
実施例1のリサイクル正極活物質と、バインダー溶液と、導電材とを、自転・公転方式ミキサー(株式会社シンキー製 ARE-310)で混練して、正極合材ペーストを製造した。リサイクル正極活物質:結着材:導電材の重量比は、92:3:5に調整した。バインダー溶液としては、結着材であるPVdF(株式会社クレハ社製の#1100)を溶解したNMP(N―メチル―2-ピロリドン)を用いた。正極合材ペースト中の正極活物質、導電材、及びバインダーの重量の合計が50重量%となるように、バインダー溶液の組成をNMPの添加によって調整した。導電材としては、アセチレンブラック(電気化学工業株式会社製、品番:デンカブラック HS100)を用いた。
【0124】
正極合材ペーストを集電体の表面に塗布した。集電体の表面における正極活物質の質量は、3.0±0.1mg/cm2に調整した。正極合材ペーストが塗布された集電体を、150℃で8時間真空乾燥して、正極を得た。正極の電極面積は、1.65cm2であった。集電体としては、アルミニウム箔(日本製箔社製の1085)を用いた。集電体の厚さは、20μmであった。
【0125】
<電池の製造>
上述の正極と、電解液と、セパレータと、負極とを組み合わせて、実施例1の非水電解質型リチウムイオン二次電池(コイン型電池)を製造した。なお、電池の組み立てはアルゴン雰囲気のグローブボックス内で行った。
【0126】
電解液中の電解質としては、LiPF6を用いた。電解液中のLiPF6の濃度は、1.0mol/Lに調整した。電解液の溶媒としては、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、及びエチルメチルカーボネートの混合液を用いた。エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートの体積比は、30:35:35に調整した。
【0127】
セパレータとしては、ポリエチレン製多孔質フィルムの上に、耐熱多孔層を積層した積層フィルムセパレータを使用した。また、負極としては、金属リチウムを使用した。
【0128】
<充放電試験>
実施例1の上記電池の初回充電容量及び初回放電容量を測定した。測定中の電池の温度は、25℃に保持した。初回放電容量を初回充電容量で除することにより、初回充放電効率を算出した。初回充放電は、以下の条件下で実施した。
充電最大電圧:4.3V、充電レート:0.2C、定電流定電圧充電
放電最小電圧:2.5V、放電レート:0.2C、定電流放電
【0129】
実施例1の電池(リサイクル正極活物質を用いた電池)の初回放電容量から、初回放電容量回復率を算出した。リサイクル正極活物質を用いた電池の初回放電容量をXmAh/g、未使用の模擬合材を正極材に用いた電池(参考例1)の0.2Cでの初回充放電における放電容量(標準値)をYmAh/g(=179mAh/g)としたとき、初回放電容量回復率は以下の数式(a)で算出される。
初回放電容量回復率(%)=X/Y×100 (a)
【0130】
初回の充放電に続いて、以下の各充放電サイクルにおける放電容量を測定した。測定中の電池の温度は、25℃に保持した。各充放電サイクルにおける放電最小電圧は、2.5Vであった。
2サイクル目(充電レート:0.2C、放電レート:0.2C)
3サイクル目(充電レート:0.2C、放電レート:0.5C)
4サイクル目(充電レート:0.2C、放電レート:1C)
5サイクル目(充電レート:0.2C、放電レート:2C)
6サイクル目(充電レート:0.2C、放電レート:5C)
5サイクル目(2C)の放電容量を2サイクル目(0.2C)の放電容量で除することによって、レート維持率を算出した。
【0131】
<内部抵抗測定>
以下の交流インピーダンス法によって、100%のSOC(State Of Charge)における実施例1の電池の内部抵抗(電荷移動抵抗)を測定した。
4.3Vの充電最大電圧、及び0.2Cの充電電流での電池の定電流定電圧充電を行い、交流インピーダンス測定装置を用いて1MHz~0.1Hzの範囲で周波数を掃引することによって、コール-コールプロットを作成した。コール-コールプロットの縦軸は、複素インピーダンスの虚数部であり、コール-コールプロットの横軸は、複素インピーダンスの実数部である。つづいて、コール-コールプロットにおいて、100Hz~1Hzに含まれる円弧部分を円でフィッティングすることにより、円の直径、つまり電荷移動抵抗を特定した。交流インピーダンス測定装置としては、周波数応答アナライザsolartron1260、ポテンショ/ガルバノスタットsolartron1287を用いた。
【0132】
以上の測定結果は、下記表2に示される。
【0133】
(実施例2~4)
実施例2~4それぞれの活性化処理剤中のLi補充材、活性化剤1、及び活性化剤2それぞれの配合量は、下記表1に示される値に調整した。実施例2~4それぞれの活性化処理剤中のアルカリ土類金属の含有量の合計は、下記表1に示される値に調整した。
上記の事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例2~4それぞれのリサイクル正極活物質及び電池を作製した。実施例1と同様の方法で、実施例2~4それぞれの電池を用いた測定を実施した。実施例2~4それぞれの測定結果は、下記表2に示される。
【0134】
(実施例5~8)
実施例5~8それぞれの活性化処理剤に含まれる活性化剤2は、Mg(OH)2ではなく、Ca(OH)2であった。実施例5~8それぞれの活性化処理剤中のLi補充材、活性化剤1、及び活性化剤2それぞれの配合量は、下記表1に示される値に調整した。実施例5~8それぞれの活性化処理剤中のアルカリ土類金属の含有量の合計は、下記表1に示される値に調整した。
上記の事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例5~8それぞれのリサイクル正極活物質及び電池を作製した。実施例1と同様の方法で、実施例5~8それぞれの電池を用いた測定を実施した。実施例5~8それぞれの測定結果は、下記表2に示される。
【0135】
(比較例1)
比較例1のリサイクル正極活物質の製造では、活性化剤2を用いなかった。
上記の事項を除いて実施例1と同様の方法で、比較例1のリサイクル正極活物質及び電池を作製した。実施例1と同様の方法で、比較例1の電池を用いた測定を実施した。比較例1の測定結果は、下記表2に示される。
【0136】
(参考例1)
参考例1の電池の作製では、リサイクル正極活物質を含む正極材の代わりに、模擬合材を用いた。
上記の事項を除いて実施例1と同様の方法で、参考例1の電池を作製した。実施例1と同様の方法で、参考例1の電池を用いた測定を実施した。参考例1の測定結果は、下記表2に示される。
【0137】
【0138】