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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009207
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】磁性細線デバイス
(51)【国際特許分類】
   H10B 61/00 20230101AFI20250110BHJP
   H10N 50/10 20230101ALI20250110BHJP
   G11C 11/16 20060101ALI20250110BHJP
【FI】
H10B61/00
H10N50/10 Z
G11C11/16 100C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023112059
(22)【出願日】2023-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大典
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 真央
(72)【発明者】
【氏名】小倉 渓
(72)【発明者】
【氏名】宮本 泰敬
(72)【発明者】
【氏名】井口 義則
【テーマコード(参考)】
4M119
5F092
【Fターム(参考)】
4M119AA20
4M119BB01
4M119CC10
4M119GG01
4M119JJ03
4M119JJ13
5F092AA20
5F092AB06
5F092AD26
5F092BB23
5F092BB35
5F092BB36
5F092BB43
5F092BB57
5F092BC01
5F092CA02
(57)【要約】
【課題】磁区の駆動におけるシフト長の安定化を図る磁性細線デバイスを提供する。
【解決手段】磁性細線デバイス1は、基板80上に配置される下地層60と、平面視において直線状に延伸する磁性細線10と、磁性細線10を磁化する記録電流が印加される記録素子40と、磁性細線10と記録素子40との間に配置される絶縁層30と、を備え、磁性細線10は、下地層60の上面に配置され、下面が第1の位置H1にある第1区間11及び第1の位置H1よりも高い第2の位置H2にある第2区間12を、第1区間11と第2区間12とを接続する接続部20を介して交互に繰り返して上下に高さを変えながら延伸し、下地層60の上面は、磁性細線10の下面の形状に沿って磁性細線10の下面の高さに形成されている。
【選択図】図2C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に配置される下地層と、
前記下地層の上方に配置され、平面視において直線状に延伸する磁性細線と、
前記磁性細線の上方に、平面視において前記磁性細線と交差するように配置され、前記磁性細線を磁化する記録電流が印加される記録素子と、
前記磁性細線と前記記録素子との間に配置される絶縁層と、を備え、
前記磁性細線は、前記下地層の上面に配置され、下面が第1の位置にある第1区間及び前記第1の位置よりも高い第2の位置にある第2区間を、前記第1区間と前記第2区間とを接続する接続部を介して交互に繰り返して上下に高さを変えながら延伸し、
前記下地層の上面は、前記磁性細線の下面の形状に沿って前記磁性細線の下面の高さに形成されている磁性細線デバイス。
【請求項2】
基板上に配置される下地層と、
前記下地層の上方に配置され、平面視において直線状に延伸する磁性細線と、
前記磁性細線の下方に、平面視において前記磁性細線と交差するように配置され、前記磁性細線を磁化する記録電流が印加される記録素子と、
前記磁性細線と前記記録素子との間に配置される絶縁層と、を備え、
前記磁性細線は、前記絶縁層の上面に配置され、下面が第1の位置にある第1区間及び前記第1の位置よりも高い第2の位置にある第2区間を、前記第1区間と前記第2区間とを接続する接続部を介して交互に繰り返して上下に高さを変えながら延伸し、
前記絶縁層の上面は、前記磁性細線の下面の形状に沿って前記磁性細線の下面の高さに形成されている磁性細線デバイス。
【請求項3】
前記磁性細線において、前記記録電流によって磁区が形成される磁区形成領域と形成された磁区を逐次移動させて保存する保存領域との境界に前記接続部の1つが位置し、
前記記録素子から前記境界までの平面視における距離は、1ビットの情報に対応する磁区の長さであるビット長の0.5倍以上2倍以下である請求項1又は請求項2に記載の磁性細線デバイス。
【請求項4】
前記接続部は、前記磁性細線の延伸方向に等間隔で配置され、
隣り合う前記接続部の間隔を1ビットの情報に対応する磁区の長さであるビット長とする請求項1又は請求項2に記載の磁性細線デバイス。
【請求項5】
前記接続部は、前記磁性細線の延伸方向に等間隔で配置され、
1つおきに並ぶ前記接続部の間隔を1ビットの情報に対応する磁区の長さであるビット長とする請求項1又は請求項2に記載の磁性細線デバイス。
【請求項6】
少なくとも一部の前記接続部は、前記磁性細線の延伸方向に等間隔で配置され、
等間隔で配置される前記接続部の間隔を1ビットの情報に対応する磁区の長さであるビット長とする請求項1又は請求項2に記載の磁性細線デバイス。
【請求項7】
前記磁性細線は、前記第1区間及び前記第2区間において同じ厚さであり、
前記第1の位置からの前記第2の位置の高さは、前記第1区間及び前記第2区間における前記磁性細線の厚さの2倍以下である請求項1又は請求項2に記載の磁性細線デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性細線メモリの一部となる磁性細線デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
磁性細線メモリは、磁性体材料を細線状に加工した磁性細線を記録媒体とし、情報の単位となる磁区を磁性細線に形成する「記録」、形成した磁区を磁性細線中でシフトさせる「駆動」、磁区の磁化方向を検出する「再生」、という3つの動作によって、情報の読み書きをシーケンシャルに行うことができる記憶装置である。情報は、例えば上向き、下向きといった磁性細線の磁化の向きに対応する2値情報とすることができる。磁区は磁性細線における磁化方向が揃った区間である。例えば特許文献1に記載されているように、記録は電流磁界を用いて磁化方向を局所的に反転させて行い、駆動は磁性細線への電流の印加により磁壁が移動する電流磁壁移動現象を利用して行う。そして、磁性細線の一端側で記録された情報を他端側の固定された位置で再生することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-27802号公報
【特許文献2】特開2014-86640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁区の駆動における移動距離であるシフト長は、磁性細線の磁気特性等のばらつきによって磁性細線間で異なり、同一磁性細線内であっても場所によって異なる場合がある。シフト長が安定しない場合、予定の回数で再生の位置に磁区を駆動させることが難しいという問題があった。
特許文献2には、一定の周期で磁性細線の幅を変化させ、幅が細いくびれの部分に磁壁を位置させる磁性細線が記載されている。しかし、一定の周期で幅を変化させるためには、磁性細線に対して高精度な微細加工が必要となり、歩留まりが低下してしまう。
【0005】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、磁区の駆動におけるシフト長の安定化を図る磁性細線デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態に係る磁性細線デバイスは、基板上に配置される下地層と、前記下地層の上方に配置され、平面視において直線状に延伸する磁性細線と、前記磁性細線の上方に、平面視において前記磁性細線と交差するように配置され、前記磁性細線を磁化する記録電流が印加される記録素子と、前記磁性細線と前記記録素子との間に配置される絶縁層と、を備え、前記磁性細線は、前記下地層の上面に配置され、下面が第1の位置にある第1区間及び前記第1の位置よりも高い第2の位置にある第2区間を、前記第1区間と前記第2区間とを接続する接続部を介して交互に繰り返して上下に高さを変えながら延伸し、前記下地層の上面は、前記磁性細線の下面の形状に沿って前記磁性細線の下面の高さに形成されている。
【0007】
また、実施形態に係る他の磁性細線デバイスは、基板上に配置される下地層と、前記下地層の上方に配置され、平面視において直線状に延伸する磁性細線と、前記磁性細線の下方に、平面視において前記磁性細線と交差するように配置され、前記磁性細線を磁化する記録電流が印加される記録素子と、前記磁性細線と前記記録素子との間に配置される絶縁層と、を備え、前記磁性細線は、前記絶縁層の上面に配置され、下面が第1の位置にある第1区間及び前記第1の位置よりも高い第2の位置にある第2区間を、前記第1区間と前記第2区間とを接続する接続部を介して交互に繰り返して上下に高さを変えながら延伸し、前記絶縁層の上面は、前記磁性細線の下面の形状に沿って前記磁性細線の下面の高さに形成されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、磁区の駆動におけるシフト長の安定化を図る磁性細線デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係る磁性細線デバイスの概略を例示する斜視図である。
図2A】第1実施形態に係る磁性細線デバイスの概略を例示する平面図である。
図2B図2AのIIB-IIB線における断面図である。
図2C図2Bの一部を拡大して例示する断面図である。
図3A】第1実施形態の磁性細線の形成方法において、磁性細線を形成する前の下地層の上面の概略を例示する平面図である。
図3B図3AのIIIB-IIIB線における断面図である。
図3C図3AのIIIC-IIIC線における断面図である。
図4A】第1実施形態の磁性細線の形成方法において、磁性細線を形成する前の下地層の上面の概略を例示する平面図である。
図4B図4AのIVB-IVB線における断面図である。
図5】第1変形例に係る磁性細線デバイスの概略を例示する断面図である。
図6A】第2変形例に係る磁性細線デバイスの概略を例示する断面図である。
図6B】第3変形例に係る磁性細線デバイスの概略を例示する断面図である。
図7A】第4変形例に係る磁性細線デバイスの概略を例示する断面図である。
図7B】第5変形例に係る磁性細線デバイスの概略を例示する断面図である。
図8】第2実施形態に係る磁性細線デバイスの概略を例示する斜視図である。
図9A】第2実施形態に係る磁性細線デバイスの概略を例示する平面図である。
図9B図9AのIXB-IXB線における断面図である。
図10A】磁区の形成を観察した写真である。
図10B】磁区の駆動及び形成を観察した写真である。
図10C】磁区の駆動及び形成を観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[第1実施形態]
第1実施形態に係る磁性細線デバイス1について、図1から図2Cを参照しながら説明する。磁性細線デバイス1は、磁性細線メモリ100の一部となる素子群である。なお、図1は凹凸を省略し、各部材の相対的な位置関係を例示している。
磁性細線メモリ100は、磁性細線デバイス1と、電流制御部92と、再生処理部94と、を備えている。そして、磁性細線デバイス1は、磁性細線10と、絶縁層30と、記録素子40と、再生ヘッド50と、下地層60と、を備え、これらが基板80上に形成されている。以下、磁性細線デバイス1の各構成について説明する。なお、磁性細線10の本数は、図面では2本としているが、1本でもよく、3本以上であってもよい。
【0011】
(磁性細線)
磁性細線10は、情報の記録媒体となる細線状の磁性体である。ここでは、磁化方向は、厚さ方向に平行な上向き及び下向きの何れかであり、図面において白色の矢印で表示されている。磁区15は、磁性細線10の延伸方向に並んでおり、磁化方向が反対の隣り合う磁区15の間には磁壁がある。なお、磁壁とは、磁化方向が異なる磁区15の間で磁化方向が徐々に変化している領域である。
磁性細線10は、下地層60の上方に配置されている。ここでは、下地層60の上面に、2本の磁性細線10が互いに平行に配置されている。図2Aに例示するように、磁性細線10は、平面視において直線状に延伸し、等幅で形成されている。なお、磁性細線10は、図面において1ビットの情報に対応する磁区15が延伸方向に数個並び、数ビット分の長さとして記載されているが、特にビット数や長さに制限はなく、必要に応じた長さとすることができる。例えば磁性細線10の長さを30mm、1ビット分の長さを30nmとして設計することで10ビット分の長さの磁性細線10とすることができる。
【0012】
図2B及び図2Cに例示するように、磁性細線10は、第1区間11及び第2区間12を交互に繰り返して、上下に高さを変えながら延伸している。なお、図2C図2Bの一部を拡大して例示している。磁性細線10の下面は、第1区間11において第1の位置H1にあり、第2区間12において第2の位置H2にある。第2の位置H2は、第1の位置H1よりも高い位置にある。高さの基準は、例えば基板80の上面とすることができる。
第2区間12の磁性細線10の厚さT2は、第1区間11の厚さT1と同じとすることができる。第1区間11及び第2区間12の上面の位置関係は下面と同様であり、第2区間12の上面が第1区間11の上面よりも相対的に高い位置にある。第1区間11と第2区間12とは接続部20によって接続され、磁性細線10の高さが変化している。
【0013】
記録素子40から再生ヘッド50に向かう向きを前方とすると、接続部20は、磁性細線10の上面及び下面が前方に向かって上る上昇部21と、前方に向かって下る下降部22とを有し、上昇部21と下降部22とが交互に並んでいる。上昇部21及び下降部22は延伸方向に一定の間隔D1で交互に配置されている。
接続部20は、磁性細線10の延伸方向に等間隔で配置されている。接続部20は、磁性細線10の内部構造が変化する箇所であり、磁壁のピニングサイトとなることができる。すなわち、磁性細線10は、延伸方向に等間隔で配置されるピニングサイトを有している。なお、ピニングサイトとは、磁壁が位置し易く、磁壁が移動する際に捕捉され易い箇所である。磁区15は、その端部にピニングサイトが位置する状態となり易く、ピニングサイトの間隔によって磁区15の長さを規定することができる。
【0014】
磁性細線デバイス1は、第1区間11及び第2区間12のそれぞれに情報の1ビットを割り当てており、接続部20の間隔D1はビット長BLと一致している。磁性細線デバイス1は、隣り合う接続部20の間隔D1を1ビットの情報に対応する磁区15の長さであるビット長BLとしている。ビット長BLが小さいほど1本の磁性細線の記録密度を高めることができる。一方、データ保持の安定性の観点から、ビット長BLは、磁性細線の幅の1倍以上3倍以下であることが好ましく、1.8倍以上2.2倍以下がさらに好ましい。なお、磁性細線の幅とは、記録素子の長手方向と平行な方向の磁性細線の長さである。また、データ保持の安定性とは、記録されたデータである磁化方向の磁区内における安定性をいう。
【0015】
磁性細線デバイス1は、接続部20の間隔D1を磁性細線10の幅の1倍以上3倍以下とすることで、ビット長BLを磁性細線10の幅の1倍以上3倍以下に設定することができ、データ保持の安定性を向上させることができる。なお、図面では、磁性細線10を広い幅に変形して記載しているため、磁区15は延伸方向よりも幅方向が長い形状となっているが、磁区15の平面視形状は、正方形状又は延伸方向に長い長方形状であることが好ましい。
ここでは、第1区間11及び第2区間12のそれぞれが1つの磁区15を有し、磁壁は接続部20に位置している。1つの磁区15に着目すると、上昇部21及び下降部22の一方が1ビットにおける先頭側であり、他方が末尾側である。また、上昇部21が先頭側の磁区15の隣りは、下降部22が先頭側である。なお、磁区15において、再生ヘッド50側が先頭側、記録素子40側が末尾側である。
【0016】
磁区15は磁性細線10の磁区形成領域10Aに形成される。磁区形成領域10Aは、記録電流IRによって磁区15が形成される領域である。ここでは、磁区形成領域10Aは、記録素子40近傍の再生ヘッド50側の領域である。磁区形成領域10Aよりも再生ヘッド50側は、形成された磁区15を逐次移動させて保存する保存領域10Bとなっている。そして、磁区形成領域10Aと保存領域10Bとの境界10Cに接続部20の1つが位置している。
【0017】
磁性細線10は、厚さよりも幅が広い膜状の部材である。第1区間11及び第2区間12の磁性細線10の厚さT1、T2は、特に限定されないが、例えば3nm以上15nm以下とすることができる。磁性細線10の幅は、例えば10nmから10μmとすることができ、特に限定されない。
接続部20の形状を安定させるという観点から、第1の位置H1からの第2の位置H2の高さΔHは、第1区間11及び第2区間12における磁性細線10の厚さT1、T2の2倍以下であることが好ましく、0.9倍以下がさらに好ましい。一方、接続部20のピニングサイトとしての動作を安定させるという観点では、高さΔHは、厚さT1、T2の0.5倍以上であることが好ましく、0.6倍以上がさらに好ましい。つまり、接続部20における磁性細線10の高低差に相当する高さΔHは、厚さT1、T2の0.5倍以上2倍以下であることが好ましく、0.6倍以上0.9倍以下がさらに好ましい。
【0018】
磁性細線10は、磁性体を厚さ及び幅に対して十分に長い細線状に形成している。磁性細線10としては、磁化方向が厚さ方向に向き易い垂直磁化膜を採用することができる。垂直磁化膜は、垂直磁気異方性の磁気材料で形成される。
磁性細線10の材料は、例えば、Fe、Co、Ni等の遷移金属とPd、Ptのような貴金属とを繰り返し積層したCo/Pt多層膜のような多層膜、Tb-Fe-Co、Gd-Fe等の希土類金属と遷移金属との合金(RE-TM合金)の単層膜や多層膜、L1系の規則合金としたFePt、FePd等とすることができる。
【0019】
(下地層)
下地層60は、記録素子40や磁性細線10の下地となる層である。ここでは、下地層60は基板80上に配置されている。そして、下地層60の上面に磁性細線10が配置されている。下地層60は絶縁性である。下地層60は、例えばSi基板の表面に形成されるSiO膜であってもよい。下地層60は、複数の層が積層されていてもよい。
下地層60の上面60Aは、磁性細線10の下面の凹凸形状に噛み合うように対面する凹凸パターンを有している。下地層60の上面60Aは、磁性細線10の下面の形状に沿って磁性細線10の下面の高さに形成されている。下地層60は、磁性細線10の第2区間12の位置に凸部62を有している。凸部62における下地層60の厚さは、凹凸パターンのない領域の厚さT3よりも厚くなっている。磁性細線10は、下地層60の上面60Aの凹凸パターンを反映するように上下に高さを変えながら延伸している。
【0020】
(記録素子)
記録素子40は、記録電流IRの流路となる細線状の導電体である。記録素子40は、磁性細線10の上方に、平面視において磁性細線10と交差するように配置され、磁性細線10を磁化する記録電流IRが印加される。ここでは、記録素子40は、磁性細線10の一端側の上方に絶縁層30を介して配置されている。また、記録素子40は、平面視において磁性細線10と直交するように配置されている。
記録素子40は、記録素子40から磁区形成領域10Aと保存領域10Bとの境界10Cまでの平面視における距離DRが接続部20の間隔D1に近い値となる位置に配置されている。距離DRは、間隔D1の0.5倍以上2倍以下とすることができる。
【0021】
記録素子40は、例えばCu、Al、Au、Ag、Ta、Cr等の金属やその合金のような一般的な電極用金属材料からなり、特に導電性が高く、化学的にも安定なAuが好適である。記録素子40は、スパッタリング法等の公知の方法により製膜され、フォトリソグラフィ、電子ビームリソグラフィ、エッチング、リフトオフ法等を組み合わせて加工し、細線状に形成することができる。
【0022】
(絶縁層)
絶縁層30は、磁性細線10と記録素子40とを絶縁する絶縁体の層である。絶縁層30は、磁性細線10と記録素子40との間に配置されている。ここでは、絶縁層30は磁性細線10の上面に配置され、絶縁層30の上面に記録素子40が配置されている。絶縁層30は、磁性細線10の形状が反映され、磁性細線10の上面の凹凸に沿うように凹凸形状を有している。
絶縁層30の材料は、例えばSiOやAlO等の酸化膜、SiN、MgF等の公知の絶縁材料を適用することができる。なお、OやNの添え字のXは、組成比が限定されないことを表している。SiOは例えばSiOであり、AlOは例えばAlであり、SiNは例えばSiである。絶縁層30は、スパッタリング法等の公知の方法により製膜して形成することができる。
【0023】
(基板)
基板80は、磁性細線デバイス1の土台となる部材である。基板80の上面は平坦な面である。基板80は、記録素子40や磁性細線10を形成するための広義の基板であり、公知の基板材料が適用できる。基板80としては、例えばSi基板、GGG(ガドリニウムガリウムガーネット)基板、SiC(シリコンカーバイド)基板、MgO(酸化マグネシウム)基板、AlN(窒化アルミニウム)基板、Ge(ゲルマニウム)単結晶基板等を使用することができる。ここでは、基板80は、表面を熱酸化してSiO膜(0<X≦2)を形成して下地層60としたSi基板である。
【0024】
(再生ヘッド)
再生ヘッド50は、磁気信号を電気信号に変換する素子である。ここでは、再生ヘッド50は、磁性細線10の他端側(記録素子40と反対側)の上方に配置されている。再生ヘッド50は、一般的に磁気記録に用いられる磁気ヘッドであり、例えばトンネル磁気抵抗(TMR)ヘッドとすることができる。
【0025】
(磁性細線デバイスの動作)
次に、磁性細線デバイス1の動作について説明する。磁性細線デバイス1は、磁性細線メモリ100の一部となって、記録、駆動、再生という3つの動作を行う。
【0026】
(記録)
記録は、磁性細線10に磁区を形成する動作である。磁区の形成は、記録素子40に印加される記録電流IRの磁界によって行われる。記録電流IRは電流制御部92によって制御される。
電流制御部92は、磁性細線10に印加する駆動電流ID及び記録素子40に印加する記録電流IRを制御する装置である。電流制御部92は、磁性細線メモリ100に書き込む2値情報が入力され、駆動電流ID及び記録電流IRの大きさやタイミングを制御する。磁性細線10又は記録素子40が複数の場合には、電流制御部92はそれぞれと独立に配線され、それぞれに印加する電流を独立して制御することができる。電流制御部92は、基板80と別体としてもよく、一部又は全部を基板80上に設けてもよい。
【0027】
磁性細線10は、記録電流IRの向きによって上向き又は下向きに磁化される。また、形成される磁区の長さMLは、記録素子40に印加される記録電流IRの大きさや、記録素子40から磁壁のピニングサイトまでの距離等によって変化する。
記録電流IRを大きくすると、磁界が及ぶ範囲は大きくなる。しかし、境界10Cがピニングサイトとなり、形成される磁区の端部が境界10Cに位置し易い。このため、記録素子40から境界10Cまでの平面視における距離DRによって長さMLを規定することができる。距離DRの起点は、例えば記録素子40の中央の位置とすることができる。なお、記録電流IRは、磁区形成領域10Aとなる距離DRの範囲を磁化するために必要かつ十分な大きさに調整されていることが好ましい。
【0028】
(駆動)
駆動は、磁区15を磁性細線10の延伸方向に平行移動させる動作である。駆動によって、磁区15は磁化方向を保ちながら再生ヘッド50の方向に移動する。磁区形成領域10Aに形成された磁区は保存領域10Bに入り、すでに保存領域10Bにあった磁区15は、それぞれ再生ヘッド50側にシフトする。そして、磁区形成領域10Aに次の磁区の記録を行うことができる。記録及び駆動を繰り返すことで、磁区15が延伸方向に並び、磁性細線10に情報を蓄積することができる。
【0029】
駆動によって磁区15がシフトする長さであるシフト長SLは、駆動電流IDの大きさや次のピニングサイトまでの距離等によって変化する。一方、保存領域10Bの各磁区15には1ビットの情報が記録されており、各磁区15の長さであるビット長BLは、磁性細線10の1ビット分の長さとなっている。シフト長SLがビット長BLと一致していれば、磁性細線10の情報を1ビットずつシフトさせることができる。
【0030】
磁性細線デバイス1に対して駆動が行われると、磁壁は磁区15と一緒にシフトし、隣りの接続部20でトラップされる。接続部20の間隔D1を揃えておくことで、駆動によって磁区15がシフトする長さであるシフト長SLを間隔D1に揃えることができる。また、各磁区15の両端が接続部20に位置するため、ビット長BLを間隔D1に揃えることができる。これにより、磁性細線デバイス1は、シフト長SLとビット長BLとを一致させることができる。
磁区形成領域10Aに形成された磁区は、駆動によって保存領域10Bに移動する。磁区形成領域10Aにおける磁区の長さMLは、保存領域10Bにおけるビット長BLと同じでなくてもよいが、移動後の磁区15の長さは、長さMLとビット長BLとの差が小さい方がビット長BLに規定され易い。移動後のビット長BLの規定の観点から、記録素子40から境界10Cまでの平面視における距離DRは、ビット長BLの0.5倍以上2倍以下とすることができる。
【0031】
駆動は、磁性細線10に駆動電流IDを印加することによって行う。ここでは、駆動電流IDは、電子eが移動する向きがシフトの向きとなるように印加している。駆動電流IDは電流制御部92によって制御される。
駆動電流IDの条件は、シフト長SLがビット長BLに一致するように調整されることが好ましい。なお、駆動電流IDの印加は、数回に分けて行ってもよい。シフト長SLは、例えば3回の駆動電流IDの印加によるシフト量の合計として調整してもよい。
【0032】
(再生)
再生は、磁区15の磁化方向を検出し、記録された情報を取り出す動作である。磁化方向は、再生ヘッド50によって検出される。再生ヘッド50は、直下を通過する磁区15の磁化方向に対応する信号を出力する。再生処理部94は、再生ヘッド50からの信号を処理して情報を取り出す。
再生処理部94は、再生ヘッド50からの信号を処理する装置である。再生処理部94には、再生ヘッド50からの信号が入力される。再生ヘッド50からの信号は、磁性細線10の磁化方向に対応する電気信号である。再生処理部94は、その電気信号を2値情報に変換して出力する。再生処理部94は、基板80と別体としてもよく、一部又は全部を基板80上に設けてもよい。
【0033】
上記のような構成を備える磁性細線デバイス1は、一定の間隔D1で配置される接続部20がピニングサイトとなり磁壁がトラップされることで、磁区15の駆動におけるシフト長SLを一定の長さに規定することができる。
また、磁性細線デバイス1は、接続部20の間隔D1を揃えておくことで、1本の磁性細線10内で磁気特性のバラつきがあっても、シフト長SLを揃えることができる。また、異なる磁性細線10の間でも、接続部20の間隔D1が同じであることで、シフト長SLを同じ長さに規定することができる。
【0034】
なお、磁性細線10は、第2区間12の上面が第1区間11の上面よりも相対的に高い位置にあり、第2区間12の下面が第1区間11の下面よりも相対的に高い位置にあればよく、第2区間12の磁性細線10の厚さT2は、第1区間11の厚さT1と異なっていてもよい。
また、磁性細線デバイス1において、保存領域10Bにおける接続部20は、磁区15の端部となっている。しかし、1つの磁区15において端部以外に1つ又は複数の接続部20が位置していてもよい。後記する変形例2、3、5は、1つの磁区15の端部以外に1つ又は複数の接続部20が位置している例である。
【0035】
[磁性細線の形成方法]
次に、磁性細線10の形成方法について、図3Aから図3Cを参照しながら説明する。なお、図3Aから図3Cは、磁性細線10を形成する前の下地層60の概略を例示しており、図3Aが平面図、図3B及び図3Cが断面図である。
磁性細線デバイス1において、磁性細線10は下地層60の上面60Aに形成されている。磁性細線10の形成方法は、磁性細線10の形成前に下地層60の上面60Aに凸部62を形成する凸部形成工程と、凸部62を通るように磁性細線10を形成する磁性細線形成工程と、を含む。
【0036】
(凸部形成工程)
凸部形成工程は、下地層60の上面60Aに凸部62を形成する工程である。図3Aに例示するように、ここでは、各磁性細線10の第2区間12となる位置に、第2区間12の個数と同じ個数の凸部62Aを形成している。
下地層60は、スパッタリング法等の公知の方法により製膜し、フォトリソグラフィ、電子ビームリソグラフィ、エッチング又はリフトオフ法等を組み合わせて凸部62Aを形成することができる。具体的には、リソグラフィによるレジストマスクを基に下地層60をエッチングして加工する方法、もしくはSiOやAlO等の酸化膜、SiNやMgF等の公知の絶縁材料に対して、リソグラフィ、製膜、リフトオフを行って加工する方法により、凸部62Aを形成することができる。
【0037】
図3B及び図3Cに例示するように、凸部62Aの上面は磁性細線10の第2区間12に対面し、凸部62Aの磁性細線10の延伸方向に位置する側面は接続部20に対面する。凸部62Aの側面は、例えば、その加工方法によって異なる傾斜角θに形成することができる。反応性イオンエッチングによる加工では傾斜角θは90度に近づけることができ、例えば80度とすることができる。イオンビームリソグラフィによる加工ではそれよりも小さくなり、例えば70度とすることができる。なお、図面において傾斜角θを90度として記載を簡略化している場合がある。
傾斜角θは、例えば60度以上95度以下とすることができ、80度以上90度以下であることが好ましい。傾斜角θが90度に近い値であることで、接続部20は磁壁のトラップサイトとしての効果を高めることができる。
【0038】
(磁性細線形成工程)
磁性細線形成工程は、下地層60の上面60Aに磁性細線10を形成する工程である。磁性細線10は、凸部62Aを通るように、一定の幅で形成することができる。凸部62Aを有する下地層60の上面60Aに、平面視で直線状に磁性細線10を形成することによって、下地層60の凹凸パターンを反映させて、上下に高さを変えながら延伸する磁性細線10を形成することができる。
磁性細線10の形成は、スパッタリング法等の公知の方法により製膜し、フォトリソグラフィ、電子ビームリソグラフィ、エッチング、リフトオフ法等を組み合わせて直線状に加工することができる。
【0039】
磁壁のピニングサイトとして、例えば磁性細線に幅方向のくびれを設ける場合には、磁性細線に対する高精度な微細加工が必要となる。幅方向のくびれを設ける微細加工は、歩留まりを高めることが難しい場合がある。これに対し、磁性細線10を形成する前に、下地層60の上面60Aに磁性細線10の接続部20に対応するように凸部62Aを形成しておくことで、ピニングサイトとなる等間隔の接続部20を形成することができ、磁性細線に対する微細加工を不要とすることができる。
【0040】
図4A及び図4Bに例示するように、凸部62は、複数の磁性細線10に亘って連続するように畝状の凸部62Bとして形成してもよい。なお、図4A及び図4Bは、磁性細線10を形成する前の下地層60の概略を例示している。凸部62Bは、磁性細線10の第2区間12となる位置に、複数の磁性細線10と直交するように形成されている。
また、基板80の上面は平坦な面でなく、凹凸パターンを有していてもよい。そして、基板80の凹凸パターンが下地層60の上面の凹凸パターンとして反映され、さらに下地層60の上面の凹凸パターンが磁性細線10の形状に反映されるようにしてもよい。
【0041】
[変形例]
次に、磁性細線デバイスの変形例について、図5から図7Bを参照しながら説明する。
(第1変形例)
第1変形例は、記録素子40についての変形例である。図5に例示するように、第1変形例は、記録素子40が2本である点が磁性細線デバイス1と異なり、その他は磁性細線デバイス1と共通する。2本の記録素子40は、第1記録素子41及び第2記録素子42であり、間隔を空けて配置されている。再生ヘッド50に近い側に第1記録素子41が配置され、第1記録素子41の再生ヘッド50側の端部の直下に境界10Cとなる接続部が位置している。
第1変形例は、2本の記録素子40に互いに逆向きの記録電流IRを印加することで、2本の記録素子40の間の領域に同じ向きの磁界を生じ、磁区形成に必要な記録電流IRを低減することができる。
【0042】
(第2変形例)
第2変形例は、ビット長BLと接続部20の間隔との関係が磁性細線デバイス1と異なり、その他は磁性細線デバイス1と共通する。図6Aに例示するように、第2変形例は、1つおきに並ぶ接続部20の間隔D2を1ビットの情報に対応する磁区15の長さであるビット長BLとしている。ここでは、上昇部21及び下降部22は延伸方向に等しい間隔で配置され、下降部22は隣り合う上昇部21の中央に位置している。
各ビットの磁区の先頭側及び末尾側は、どちらも上昇部21となっている。磁化方向が異なる磁区の間では、上昇部21に磁壁が位置している。駆動が行われると、磁壁は磁区と一緒にシフトされ、隣りの上昇部21でトラップされる。なお、下降部22は、隣り合う上昇部21の中央に位置していなくてもよく、各ビットの先頭側又は末尾側に近い位置であってもよい。
【0043】
(第3変形例)
第3変形例は、ビット長BLと接続部20の間隔との関係が磁性細線デバイス1と異なり、その他は磁性細線デバイス1と共通する。図6Bに例示するように、第3変形例は、3つおきに並ぶ接続部20の間隔D4を1ビットの情報に対応する磁区15の長さであるビット長BLとしている。ここでは、間隔D4で並ぶ接続部20は上昇部21であり、上昇部21及び下降部22は延伸方向に等しい間隔で配置されている。
各ビットの磁区の先頭側及び末尾側は、どちらも上昇部21となっている。磁化方向が異なる磁区の間では、上昇部21に磁壁が位置している。駆動が行われると、磁壁は磁区と一緒にシフトされ、次の次の上昇部21でトラップされる。なお、上昇部21が1つおきに一定の間隔D4で並んでいればよく、全ての上昇部21が等間隔でなくてもよい。また、上昇部21と下降部22との間隔は一定でなくてもよい。また、3つおきに間隔D4で並ぶ接続部20は、下降部22であってもよい。
【0044】
さらに、2つおきに並ぶ接続部20が等間隔で、その間隔がビット長BLであってもよく、4つ以上おきに並ぶ接続部20が等間隔で、その間隔がビット長BLであってもよい。すなわち、少なくとも一部の接続部20が磁性細線10の延伸方向に等間隔で配置され、等間隔で配置される接続部20の間隔をビット長BLとしていればよい。
【0045】
(第4変形例)
第4変形例は、下地層60が凹部61を有し、凹部61における下地層60の厚さが、凹凸パターンのない領域の厚さT3よりも薄くなっている点で磁性細線デバイス1と異なり、その他は磁性細線デバイス1と共通する。図7Aに例示するように、第4変形例は、磁性細線デバイス1と同様に、接続部20が磁性細線10の延伸方向に等間隔で配置され、隣り合う接続部20の間隔D1を1ビットの情報に対応する磁区の長さであるビット長BLとしている。駆動が行われると、磁壁は磁区と一緒にシフトされ、隣りの接続部20でトラップされる。
【0046】
(第5変形例)
第5変形例は、第4変形例と同様に、凹部61における下地層60の厚さが、凹凸パターンのない領域の厚さT3よりも薄くなっている点で磁性細線デバイス1と異なる。そして、第2変形例と同様に、1つおきに並ぶ接続部20の間隔D2をビット長BLとしている点でも磁性細線デバイス1と異なる。その他は磁性細線デバイス1と共通する。
図7Bに例示するように、第5変形例は、1つおきに並ぶ下降部22の間隔D2がビット長BLとなっている。また、各ビットの磁区の先頭側及び末尾側は、どちらも下降部22となっている。磁化方向が異なる磁区の間では、下降部22に磁壁が位置している。駆動が行われると、磁壁は磁区と一緒にシフトされ、隣りの下降部22でトラップされる。
【0047】
第4変形例及び第5変形例の磁性細線10の形成方法は、磁性細線10の形成前に下地層60の上面60Aに凹部61を形成する凹部形成工程と、凹部61を通るように磁性細線10を形成する磁性細線形成工程と、を含む。
凹部61は、磁性細線10の第1区間11となる位置に形成する。凹部61の形成は、磁性細線デバイス1と同様に、下地層60を製膜し、フォトリソグラフィ等により加工して行うことができる。磁性細線10の形成は、公知の方法により製膜し、フォトリソグラフィ等により直線状に加工することができる。
【0048】
なお、凹部61は、各磁性細線10の第1区間11となる位置に、第1区間11の個数と同じ個数の凹部61を形成してもよく、複数の磁性細線10に亘って連続するように溝状に形成してもよい。
【0049】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係る磁性細線デバイス1Bについて、図8から図9Bを参照しながら説明する。磁性細線デバイス1Bは、第1実施形態に係る磁性細線デバイス1と同様に、磁性細線メモリの一部となる素子群である。なお、図8は凹凸を省略し、各部材の相対的な位置関係を例示している。
【0050】
図8に例示するように、磁性細線メモリ100Bは、磁性細線デバイス1Bと、電流制御部92と、再生処理部94と、を備えている。磁性細線メモリ100Bは、磁性細線メモリ100と同様の動作を行う。磁性細線メモリ100Bは、磁性細線デバイス1Bを備える点が磁性細線メモリ100と異なり、その他は共通する。
磁性細線デバイス1Bは、記録素子40が磁性細線10の下方に配置されている。磁性細線デバイス1Bは、磁性細線デバイス1と同様に、磁性細線10と、絶縁層30と、記録素子40と、再生ヘッド50と、下地層60と、を備え、これらが基板80上に形成されている。以下、磁性細線デバイス1Bの各構成について説明する。
【0051】
(磁性細線)
図9A及び図9Bに例示するように、磁性細線デバイス1Bの磁性細線10は、下地層60の上方で、絶縁層30の上面に配置されている。その他の点は、磁性細線デバイス1の磁性細線10と共通する。
【0052】
(下地層)
下地層60は、基板80上に配置され、下地層60の上面に絶縁層30が配置されている。下地層60は、記録素子40が埋め込まれる溝部65を有し、下地層60の上面60Aは、溝部65を除き平坦な面となっている。
下地層60の材料は、磁性細線デバイス1と共通する。下地層60は、スパッタリング法等の公知の方法により製膜して形成することができる。溝部65の形成は、エッチング法等によって行うことができる。
【0053】
(記録素子)
記録素子40は、磁性細線10の下方に、平面視において磁性細線10と交差するように配置され、磁性細線10を磁化する記録電流IRが印加される。記録素子40は、磁性細線10の下方に絶縁層30を介して配置されている。記録素子40は、上面を露出させて、絶縁層30の下の下地層60の溝部65に埋め込むように配置することができる。
記録素子40は、磁性細線デバイス1の記録素子40と同様の金属材料とすることができ、同様の方法で加工することができる。記録素子40は、下地層60にフォトリソグラフィ又は電子ビームリソグラフィとエッチング法とによって溝部65を形成した後、金属材料によるメッキを施し、溝部65に金属材料を埋め込む方法で形成してもよい。
【0054】
(絶縁層)
絶縁層30は、磁性細線10と記録素子40との間に配置されている。絶縁層30は、下地層60及び記録素子40の上面に配置されている。絶縁層30の上面30Aは、磁性細線10の下面の凹凸形状に噛み合うように対面する凹凸パターンを有している。絶縁層30の上面30Aは、磁性細線10の下面の形状に沿って磁性細線10の下面の高さに形成されている。絶縁層30は、磁性細線10の第2区間12の位置に凸部32を有している。磁性細線10は、絶縁層30の上面30Aに形成され、上面30Aの凹凸パターンを反映するように上下に高さを変えながら延伸している。
絶縁層30は、スパッタリング法等の公知の方法により製膜し、フォトリソグラフィ、電子ビームリソグラフィ、エッチング又はリフトオフ法等を組み合わせて凸部32を形成することができる。絶縁層30の材料は、磁性細線デバイス1と共通する。
基板80及び再生ヘッド50は、磁性細線デバイス1と共通する。
【0055】
上記のような構成を備える磁性細線デバイス1Bは、磁性細線デバイス1と同様に、磁区15の駆動におけるシフト長SLを一定の長さに規定することができる。
【0056】
[実験]
次に、接続部20の間隔でシフト長SLが規定されることを確認した実験について説明する。実験は、第5変形例に係る磁性細線デバイスから再生ヘッド50を除いた実験用デバイスを作製して行った。実験用デバイスは、1つおきに一定の間隔D2で配置される接続部20を有し、間隔D2をビット長BLとする。実験用デバイスは、磁区15の先頭側及び末尾側が下降部22であり、隣り合う下降部22の中央の位置に上昇部21を有している。
【0057】
(実験用デバイス)
基板80はSi基板を使用した。下地層60として、Si基板の表面を熱酸化してSiO膜を形成した。その後、SiO膜の上面に、リソグラフィ、膜厚4nmのSiNを製膜、リフトオフの順に加工を行って、SiNの凹凸パターンを形成した。すなわち、下地層60はSiO膜及び上面に凹凸パターンを有するSiN膜の2層で構成されている。顕微鏡による観察のし易さを考慮して、ビット長BLは6μmで設定した。すなわち、隣り合う下降部22の間隔D2は6μmである。
磁性細線10は、膜厚0.8nmのTbと膜厚0.35nmのCoとを繰り返して4回積層したCo/Tb多層膜を製膜し、リソグラフィによって細線状に形成した。磁性細線10の厚さは4.6nmである。酸化を防ぐため、Co/Tb多層膜の上面に膜厚3nmのPtを製膜している。このPt膜を含めた膜構成はPt(3nm)/[Co(0.35nm)/Tb(0.8nm)]である。磁性細線10の幅は3μmである。
【0058】
絶縁層30として、膜厚3nmのSiN、膜厚25nmのSiOの順で積層した、SiO(25nm)/SiN(3nm)多層膜を形成した。
記録素子40、測定用の配線及び電極パッドとして、膜厚3nmのTa、膜厚150nmのAg、膜厚20nmのAu、膜厚5nmのTaの順に積層した、Ta(5nm)/Au(20nm)/Ag(150nm)/Ta(3nm)多層膜を形成した。なお、配線パターンの加工にはリソグラフィを用いた。
【0059】
(実験手順)
実験用デバイスに電流制御部92の機能を有する外部装置を接続し、次の手順(A)、(B)、(C)により、磁性細線メモリの記録及び駆動に相当する動作を行った。そして、各手順後の状態を磁気光学顕微鏡で観察した。
まず、(A)の前に、外部の電磁石により、-1000Oeの外部磁場を印加して、磁性細線10の磁化方向をすべて下向きに初期化した。
【0060】
(A)記録素子40にパルス幅4μs、電流値270mAのパルス電流を印加して誘起される電流磁界により、磁区形成領域10Aの磁化方向を上向きに反転させて磁区15Aを形成した。
(B)磁性細線10にパルス幅4μs、電流値3.57mAのパルス電流を4回印加し、磁区15Aを右方向へビット長BLだけシフトさせた。その後、(A)と同じ条件で磁区形成領域10Aに磁区15Bを形成した。つまり、1ビット目に形成した磁区15Aの隣りに2ビット目に形成した磁区15Bが形成される。
(C)磁性細線10にパルス幅4μs、電流値3.57mAのパルス電流を4回印加し、磁区15A、15Bを右方向へビット長BLだけシフトさせた。その後、(A)と同じ条件で磁区形成領域10Aに3ビット目として磁区15Cを形成した。
【0061】
(実験結果)
図10Aは(A)の後、図10Bは(B)の後、図10Cは(C)の後の磁気光学顕微鏡による写真である。図10Aから図10Cにおいて、磁化方向が上向きの磁区は暗く、下向きの磁区は明るく表示されている。なお、デバイス完成時の磁性細線10の保磁力は500Oe、カー回転角は波長658nmの条件で0.12度であった。この測定はネオアーク株式会社製マイクロカーループ測定装置により行った。
図10Aにおいて、磁区形成領域10Aが暗く表示され、上向きの磁区となっていることがわかる。(A)により、磁区形成領域10Aに上向き磁区15Aが形成されたことが確認できた。
【0062】
図10Bにおいて、磁区形成領域10Aと、その右に隣接する第1保持領域10B1とが暗く表示され、上向きの磁区となっていることがわかる。(B)により、磁区15Aが第1保持領域10B1に駆動され、磁区形成領域10Aに新たに上向き磁区15Bが形成されたことが確認できた。
図10Cにおいて、磁区形成領域10A、第1保持領域10B1及び第1保持領域10B1の右に隣接する第2保持領域10B2が暗く表示され、上向きの磁区となっていることがわかる。(C)により、磁区15Aが第2保持領域10B2に駆動され、磁区15Bが第1保持領域10B1に駆動され、磁区形成領域10Aに新たに上向き磁区15Cが形成されたことが確認できた。
【0063】
(考察)
以上の実験結果より、磁区のシフト長SLは、1つおきの接続部20の間隔D2によって一定値に規定されている。磁壁は接続部20に位置していると推定される。また、磁区形成領域10Aに形成される磁区の長さMLが間隔D2と一致していない場合でも、形成された磁区が保存領域10Bに駆動されると、間隔D2によってビット長BLを規定することができる。磁性細線メモリは、等間隔の接続部20を有することで、シフト長SLとビット長BLとを一致させて記録及び駆動の動作を行うことができる。
【0064】
なお、磁性細線10は、磁区15の磁化方向による旋光角の違い(磁気光学カー効果)を利用して、反射型の空間光変調器における光変調素子として用いることができる。空間光変調器においては、磁性細線10の1つの磁区15を1つの画素とすることができ、再生ヘッド50や再生処理部94は不要である。
【符号の説明】
【0065】
1 磁性細線デバイス(第1実施形態)
1B 磁性細線デバイス(第2実施形態)
10 磁性細線
10A 磁区形成領域
10B 保存領域
10C 境界
11 第1区間
12 第2区間
15 磁区
20 接続部
21 上昇部
22 下降部
30 絶縁層
40 記録素子
50 再生ヘッド
60 下地層
61 凹部
62 凸部
80 基板
100 磁性細線メモリ(第1実施形態)
100B 磁性細線メモリ(第2実施形態)
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図10C