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特開2025-92987アルミニウム合金基板のリサイクル方法、磁気ディスクの製造方法、磁気ディスク及びハードディスクドライブ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025092987
(43)【公開日】2025-06-23
(54)【発明の名称】アルミニウム合金基板のリサイクル方法、磁気ディスクの製造方法、磁気ディスク及びハードディスクドライブ
(51)【国際特許分類】
   C22B 21/00 20060101AFI20250616BHJP
   G11B 5/82 20060101ALI20250616BHJP
   G11B 5/73 20060101ALI20250616BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20250616BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20250616BHJP
   C22B 1/00 20060101ALI20250616BHJP
   C23C 18/18 20060101ALI20250616BHJP
   C23C 18/31 20060101ALI20250616BHJP
   C23C 18/36 20060101ALI20250616BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20250616BHJP
   C22C 19/03 20060101ALN20250616BHJP
   C22C 21/06 20060101ALN20250616BHJP
   C22F 1/047 20060101ALN20250616BHJP
【FI】
C22B21/00
G11B5/82
G11B5/73
G11B5/84 Z
C22B7/00 F
C22B1/00 601
C23C18/18
C23C18/31 A
C23C18/36
C22F1/00 623
C22F1/00 627
C22F1/00 661D
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
C22F1/00 613
C22C19/03 M
C22C21/06
C22F1/047
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023208446
(22)【出願日】2023-12-11
(71)【出願人】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】村田 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】国分 勇磨
(72)【発明者】
【氏名】畠山 英之
(72)【発明者】
【氏名】坂本 遼
【テーマコード(参考)】
4K001
4K022
5D112
【Fターム(参考)】
4K001AA02
4K001BA22
4K001CA02
4K001DA05
4K022AA02
4K022AA44
4K022BA14
4K022CA11
4K022DA01
4K022DB02
5D112AA02
5D112AA24
5D112BA06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】リサイクル性に優れ、簡便且つ確実に皮膜の除去が可能なアルミニウム合金基板のリサイクル方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム合金基板と、前記アルミニウム合金基板上に少なくとも1層の皮膜とを有するリサイクル材に物理的加工を施すことにより前記リサイクル材から皮膜を除去してアルミニウム合金材を得る皮膜除去工程を含むアルミニウム合金基板のリサイクル方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金基板と、前記アルミニウム合金基板上に少なくとも1層の皮膜とを有するリサイクル材に物理的加工を施すことにより前記リサイクル材から皮膜を除去してアルミニウム合金材を得る皮膜除去工程を含むことを特徴とするアルミニウム合金基板のリサイクル方法。
【請求項2】
前記物理的加工が、旋盤を用いて前記リサイクル材の表面と端面を切削加工する方法、又は、砥石を用いて前記リサイクル材の表面を研削加工する方法と旋盤を用いて前記リサイクル材の端面を切削加工する方法との組み合わせである、請求項1に記載のアルミニウム合金基板のリサイクル方法。
【請求項3】
前記物理的加工において、前記リサイクル材の表面及び端面が削られる深さが、前記皮膜の厚さの1.05倍以上である、請求項1又は2に記載のアルミニウム合金基板のリサイクル方法。
【請求項4】
前記皮膜がNiを含んでいる、請求項1又は2に記載のアルミニウム合金基板のリサイクル方法。
【請求項5】
前記リサイクル材を構成するアルミニウム合金基板が円環状である、請求項1又は2に記載のアルミニウム合金基板のリサイクル方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のリサイクル方法の皮膜除去工程により得たアルミニウム合金材を、少なくとも一部の原料として使用してアルミニウム合金の溶湯を調製する工程と、
調製した溶湯を加熱保持する工程と、
加熱保持した溶湯を鋳造してアルミニウム合金鋳塊を得る工程と、
前記アルミニウム合金鋳塊を加熱して均質化処理を行う工程と、
前記均質化処理をしたアルミニウム合金鋳塊を圧延してアルミニウム合金板とする圧延工程と、
前記圧延工程により得たアルミニウム合金板を円環状ディスクブランクに加圧平坦化する工程と、
加圧平坦化した前記円環状ディスクブランクに切削加工と研削加工を施してめっき用アルミニウム合金基板を得る工程と、
前記めっき用アルミニウム合金基板に、脱脂、エッチング及びジンケート処理を施すめっき前処理工程と、
めっき前処理を施したアルミニウム合金基板の表面に無電解でのNi-Pめっき処理を施した後、Ni-Pめっき処理を施した表面を研磨して磁気ディスク用アルミニウム合金基板を得る工程と、
前記磁気ディスク用アルミニウム合金基板の表面に、磁性体を付着させて磁性体層を形成する工程と、を含む磁気ディスクの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の磁気ディスクの製造方法によって得られた磁気ディスク。
【請求項8】
請求項7に記載の磁気ディスクを備えるハードディスクドライブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金基板のリサイクル方法、磁気ディスクの製造方法、磁気ディスク及びハードディスクドライブに関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータやデータセンターを始め、各種電子機器の記憶装置としてHDD(ハードディスクドライブ)が広く使用されている。HDDは磁気ディスクが情報の記憶を担っており、該磁気ディスクの基板には磁気ディスク用アルミニウム合金基板が使用されている。磁気ディスク用アルミニウム合金基板には、良好なめっき性を有するとともに機械的特性や加工性が優れたJIS5086合金(3.5質量%以上4.5質量%以下のMg、0.50質量%以下のFe、0.40質量%以下のSi、0.20質量%以上0.70質量%以下のMn、0.05質量%以上0.25質量%以下のCr、0.10質量%以下のCu、0.15質量%以下のTi、0.25質量%以下のZnを含み、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金)によるアルミニウム合金基板が使用され、一例では該アルミニウム合金基板に無電解Ni-Pめっき処理を施した後に、表面を平滑に研磨する工程で製造されている。
【0003】
例えば、JIS5086合金を用いた磁気ディスク用アルミニウム合金基板は、以下の製造工程により製造される。まず、所望の化学成分を含むアルミニウム合金を鋳造し、その鋳塊を均質化した後に熱間圧延し、次いで冷間圧延を施し、磁気ディスクとして必要な厚みの圧延材を作製する。この圧延材は、必要に応じ冷間圧延の途中等に焼鈍を施すことが好ましい。次に、この圧延材を円環状に打ち抜いて円環状ディスクブランクとし、前記製造工程により生じた歪み等を除去するため、円環状ディスクブランクを積層し、両面から加圧しつつ焼鈍を施して平坦化する加圧焼鈍を行う。このようにして作製された円環状ディスクブランクに、前処理として切削加工、研削加工、脱脂処理、エッチング処理、ジンケート処理(Zn置換処理)を施し、次いで下地処理として硬質非磁性金属であるNi-P無電解めっき処理をし、該Ni-Pめっき処理を施した表面を研磨した後に、磁性体をスパッタリングして磁性体層を形成することで磁気ディスク用アルミニウム合金基板が製造される。
【0004】
近年、クラウドサービスの発展に伴い、データセンターの新設や既存のデータセンターにおける大容量HDDへの交換が積極的に進んでいる。そのような昨今の状況から、HDDの大容量化は必要不可欠となっている。HDDの大容量化には、磁気ディスクの搭載枚数を増やすこと、及び磁気ディスク1枚あたりの容量を増やすことが重要である。前者においては磁気ディスクの厚さを薄くする必要があり、後者では磁気ディスク用アルミニウム合金基板表面のNi-Pめっき表面の欠陥を少なくする必要がある。上記両者の方法は技術的には可能であるが、これらの方法を行うと磁気ディスクの製造工程において歩留まりが悪くなる。具体的には、前者について磁気ディスクを薄くすると圧延や研削等においてより高い加工精度が求められることとなり、後者のNi-P表面の欠陥については発生数の閾値がより厳しくなる。つまりは、不良品となる磁気ディスク用アルミニウム合金基板の数量が増えることとなり、今後の磁気ディスクの需要を考慮すると磁気ディスク用アルミニウム合金基板の不良品が増えていくことは容易に予想される。
【0005】
また、近年では環境保全への関心の高まりから、金属製品のリサイクル技術の確立が必要不可欠となってきている。また、金属の種類としては地政学的なリスクが顕在化していることも明らかになってきた。アルミニウムは比較的リサイクルがしやすい金属種ではあるものの、その合金系によりリサイクルの難易度は変わる。例えば、アルミ缶材料であれば同じ合金を集めて原料とすることができるため、容易に再びアルミ缶材料とすることができる。しかしながら、熱交換器用材料として使用されるアルミニウムクラッド材は異なる組成のアルミニウム合金の多層構造を有しており、各層を分離することが不可能である。このため、アルミニウムクラッド材全体を再溶解及び鋳造することが必要となり、再溶解・鋳造時に元々の合金組成から変化してしまうため、リサイクル後の使用範囲が限られてくる可能性がある。
【0006】
一方、磁気ディスク用のアルミニウム合金は、めっき欠陥不具合の改善を目的に高純度の地金を多量に使用し、FeやSi等の含有量を制限した高コストの材料である。そのため、可能な限りリサイクルすることで、高純度の地金の使用量を減らすことが可能となる。これにより、高純度の地金を製造する量を削減でき、少なからず環境保全への一助となる。
【0007】
磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造工程において圧延や研削等で所定の基準を満たさず、磁気ディスク用アルミニウム合金基板が不良品となった場合には、そのまま原料の一部として再利用することが可能である。しかしながら、表面にNi-Pめっき層等の皮膜が形成された磁気ディスク用アルミニウム合金基板の状態で不良品が発生すると、そのリサイクルは複雑となる。すなわち、磁気ディスク用アルミニウム合金基板にはNi-Pめっき層等の皮膜が付与されているため、例えば、HDDの筐体等の鋳物合金として使用することが可能となる。この一方で、前述の通り、高純度の地金を多量に使用したアルミニウム合金を鋳物として再利用することは、リサイクルの効率としては悪く、圧延材、好ましくは再び磁気ディスク用のアルミニウム合金として再利用することが望まれている。
【0008】
このような背景から、アルミニウム合金からのNi-Pめっき層等の皮膜の分離、及びアルミニウム合金基板の回収方法の技術確立が求められている。例えば、特許文献1には、Ni-Pめっきが付与されたままのアルミニウム合金基板を、Al-Si系合金用の原料として再利用する手法が開示されている。この技術ではアルミニウム合金基板の再利用は可能であるものの、高純度の地金を使用したアルミニウム合金基板を効率的に利用することは困難である。
【0009】
特許文献2には、Ni-Pめっき層を除去した後の基板を、再びめっき工程に戻して再利用する手法が開示されている。この技術では、再生したアルミニウム合金基板を再利用可能にする。しかしながら、昨今の磁気ディスク用アルミニウム合金基板はNi-Pめっき表面の欠陥に対する要求が極めて厳しくなっており、Ni-Pめっき層を剥離したアルミニウム合金基板をそのまま再利用すると、表面にダメージを受けた状態でアルミニウム合金基板にめっき処理が施されるため、めっき表面の欠陥が多発する可能性がある。
【0010】
このように、先行技術では、アルミニウム合金基板を高い品質を保った状態で再利用することが不可能であり、近年の高品質が要求される磁気ディスク用に、アルミニウム合金基板を再利用することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第4656194号公報
【特許文献2】特開昭63-282281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、リサイクル性に優れ、簡便且つ確実に皮膜の除去が可能なアルミニウム合金基板のリサイクル方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、アルミニウム合金基板と少なくとも1層の皮膜とを有するリサイクル材に物理的加工を施すことにより、皮膜が完全に除去されたアルミニウム合金基板が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明の実施態様に係るアルミニウム合金基板のリサイクル方法は、アルミニウム合金基板と、前記アルミニウム合金基板上に少なくとも1層の皮膜とを有するリサイクル材に物理的加工を施すことにより前記リサイクル材から皮膜を除去してアルミニウム合金材を得る皮膜除去工程を含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、リサイクル性に優れ、簡便且つ確実に皮膜の除去が可能なアルミニウム合金基板のリサイクル方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0017】
1.アルミニウム合金基板のリサイクル方法
本発明におけるアルミニウム合金基板のリサイクル方法は、
(a)アルミニウム合金基板と、アルミニウム合金基板上に少なくとも1層の皮膜とを有するリサイクル材に物理的加工を施すことによりリサイクル材から皮膜を除去してアルミニウム合金材を得る皮膜除去工程を含む。
【0018】
本発明のアルミニウム合金基板のリサイクル方法では、皮膜除去工程においてリサイクル材に物理的加工を施し、リサイクル材から皮膜を除去することによりアルミニウム合金材を製造する。このように、皮膜の除去を物理的加工によって行うため、簡便且つ確実にアルミニウム合金基板から皮膜を除去させることができる。また、このような物理的加工によりアルミニウム合金基板から皮膜が完全に除去されるため、リサイクル性に優れたアルミニウム合金基板のリサイクル方法を提供することができる。
【0019】
さらに、従来技術では、Ni-Pめっきが施されているアルミニウム合金基板をAl-Si系合金の原料として再利用できるものの、原料の用途が限られており、高純度の地金を含むアルミニウム合金基板を効率的にリサイクルするまでには至っていない。また、皮膜を除去したアルミニウム合金基板をそのままリサイクルして、該アルミニウム合金基板上にNi-Pめっき層等の皮膜を形成しているため、アルミニウム合金基板の皮膜上に欠陥が発生する場合がある。これに対して、本発明のアルミニウム合金基板のリサイクル方法では、皮膜を除去することにより得られたアルミニウム合金材を、例えば、後述する磁気ディスクの製造方法において、アルミニウム合金の溶湯の原料として再利用し、その溶湯を用いて、鋳造、熱処理、圧延工程を経て新たにアルミニウム合金板を製造できる。そのため、新たに製造したアルミニウム合金板を用いてNi-Pめっき層等の皮膜を形成しても、皮膜上の欠陥を抑制することができる。また、アルミニウム合金板の性能を維持しつつ高価な高純度地金の使用量を削減することが可能であるため、低コスト化を図ることができる。
【0020】
(リサイクル材)
本発明において用いられる「リサイクル材」とは、アルミニウム合金基板と、当該アルミニウム合金基板上に皮膜とを有する材料である。リサイクル材としては、例えば、磁気ディスクの製造過程で生じる中間材、完成品等を挙げることができる。「中間材」としては、例えば、磁気ディスク用アルミニウム合金基板が相当し、「完成品」としては例えば、磁気ディスクが相当する。これらのリサイクル材は、不良品や規格外のもの、また、磁気ディスクであれば使用済みのもの等が該当する。また、「皮膜」とは、アルミニウム合金基板上に形成された1層以上の膜であれば特に限定されないが、例えば、Ni-Pめっき層、磁性体層、保護層、潤滑層等を挙げることができる。このような皮膜のうち、例えば、後述する中間材、完成品においては、アルミニウム合金基板上に形成される皮膜は、Niを含む皮膜を含んでおり、具体的にはNi-Pめっき層を含んでいる。
【0021】
リサイクル材の形状は特に限定されるものではなく、円環状、多角形状、特定の形状を有しない不定形状であってもよい。リサイクル材は円環状のディスクが多いため、円環状のリサイクル材を調達しやすい。また、円環状のリサイクル材は、曲げ変形された状態、孔空きの状態、切断された状態での使用も可能であり、都度加工条件を変更しなくても効率的に皮膜を除去しやすい。そのため、リサイクル材を構成するアルミニウム合金基板は円環状であることが好ましい。本発明のアルミニウム合金基板のリサイクル方法では、皮膜除去工程により得られたアルミニウム合金材を少なくとも一部の原料として使用するものであり、当該アルミニウム合金材のみを原料として使用してもよく、当該アルミニウム合金材と共に他の材料や元素を原料として使用してもよい。
【0022】
(中間材)
中間材としては、例えば、磁気ディスクの製造過程で生じる磁気ディスク用アルミニウム合金基板を挙げることができる。一例では、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の表面には、Ni-Pめっき層等のNiを含む皮膜が形成されている。磁気ディスク用アルミニウム合金基板に使用されるNiを含む皮膜中のNiの含有量は、例えば、80質量%以上95質量%以下である。また、Niを含む皮膜がNi-Pめっき層である場合、Ni-Pめっき層中に含まれるPの含有量は、例えば、5質量%以上20質量%以下である。また、Niを含む皮膜の厚さは特に限定されるものではないが、例えば、3μm以上25μm以下であり、この場合、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の厚さは例えば、0.3mm以上2.0mm以下である。
【0023】
(完成品)
完成品としては、例えば、磁気ディスクを挙げることができる。一例の磁気ディスクにおいては、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の表面に、皮膜として、Ni-Pめっき層、CoCrPt系の磁性体層、炭素系材料等の保護層が順に形成されている。これらの磁性体層や保護層はNi-Pめっき層の上に形成されているため、Ni-Pめっき層を除去することで、これらの磁性体層や保護層も一緒に除去することができる。そのため、完成品である磁気ディスクから皮膜を除去して得られたアルミニウム合金材も、少なくとも一部の原料として使用することができる。
【0024】
上記のように本発明のアルミニウム合金基板のリサイクル方法は、皮膜除去工程として以下の工程(a)を有する。以下では、工程(a)を詳細に説明する。
【0025】
(a)皮膜除去工程
皮膜除去工程では、リサイクル材から皮膜を除去する。皮膜を除去する処理方法としてリサイクル材に物理的加工が施される。上述のように、リサイクル材は円環状のディスクが多いため、このような形状のリサイクル材の表面に形成されている皮膜は、リサイクル材の両面、内径、外径全ての面に存在する。リサイクル材の表面全体に形成されている皮膜を確実に除去するためには、物理的加工が効果的である。また、皮膜除去工程において、リサイクル材からの皮膜の除去は、皮膜の完全な除去を意図するものであり、皮膜の一部、部分的な除去は含まれない。
【0026】
物理的加工として、例えば、旋盤を用いてリサイクル材の表面と端面を切削加工する方法、又は、砥石を用いてリサイクル材の表面を研削加工する方法と旋盤を用いてリサイクル材の端面を切削加工する方法との組み合わせが挙げられる。リサイクル材を構成するアルミニウム合金基板が円環状である場合、リサイクル材の表面はリサイクル材の両面(両主面)を意味し、リサイクル材の端面は内径側の側面と外径側の側面を意味する。切削加工及び研削加工は、一般的な製造方法にしたがって磁気ディスクを作製する際、円環状ディスクブランクからめっき用アルミニウム合金基板を得る工程でも行われている。物理的加工としてこのような機械的加工を施すことにより、特段新たな装置や複雑な装置を用いる必要もなく、簡易且つ容易に皮膜を除去することができる。
【0027】
切削加工においては、リサイクル材の表面及び端面の一部を切削できるように切削刃が形成されているバイトである切削バイト、リサイクル材の端面の形状に沿って切削刃が形成されているバイトである総型バイト等、様々なバイトを使用できる。バイト形状は特に限定されるものではなく、一定の深さの皮膜を除去できるように設定されていればよい。
【0028】
研削加工においては、リサイクル材の両面を砥石ではさみ込み圧力をかけ摺動させる。砥石は、粗さを選択することが可能であり、粗さが大きいほど研削速度は向上するものの、研削加工されて得られたアルミニウム合金材の表面の粗さは大きくなる。一方で、砥石の粗さが小さいほど研削速度は遅くなるものの、研削加工されて得られたアルミニウム合金材の表面は平滑になる。研削加工では、得られるアルミニウム合金材の表面の粗さは無関係であり、皮膜を除去することが目的であるため、砥石の粗さが大きい程、皮膜を効率的に除去することが可能である。
【0029】
物理的加工において、リサイクル材の表面及び端面が削られる深さ(以下、「加工量」ともいう)は、皮膜の厚さの1.05倍以上であることが好ましく、1.1倍以上であることがより好ましい。加工量が皮膜の厚さより5%以上厚いことにより、皮膜を完全に除去することができる。尚、上述の加工量は、リサイクル材の表面及び端面の一方が満たされるだけでは、皮膜の一部はリサイクル材に残存しており、サイクル材の表面及び端面の両方で満たされることにより、皮膜が完全に除去される。例えば、物理的加工として切削加工を行う場合、切削する深さが加工量に相当し、物理的加工として研削加工を行う場合、研削する深さが加工量に相当する。また、上記加工量の上限は、アルミニウム合金基板の表面が過剰に削られることを防止するため、2.2倍以下であることが好ましく、2.0倍以下であることがより好ましい。
【0030】
2.磁気ディスクの製造方法
本発明の磁気ディスクの製造方法は、
(b)上記のアルミニウム合金基板のリサイクル方法の皮膜除去工程により得たアルミニウム合金材を、少なくとも一部の原料として使用してアルミニウム合金の溶湯を調製する工程と、
(c)調製した溶湯を加熱保持する工程と、
(d)加熱保持した溶湯を鋳造してアルミニウム合金鋳塊を得る工程と、
(e)アルミニウム合金鋳塊を加熱して均質化処理を行う工程と、
(f)均質化処理をしたアルミニウム合金鋳塊を圧延してアルミニウム合金板とする圧延工程と、
(g)圧延工程により得たアルミニウム合金板を円環状ディスクブランクに加圧平坦化する工程と、
(h)加圧平坦化した円環状ディスクブランクに切削加工と研削加工を施してめっき用アルミニウム合金基板を得る工程と、
(i)めっき用アルミニウム合金基板に、脱脂、エッチング及びジンケート処理を施すめっき前処理工程と、
(j)めっき前処理を施したアルミニウム合金基板の表面に無電解でのNi-Pめっき処理を施した後、Ni-Pめっき処理を施した表面を研磨して磁気ディスク用アルミニウム合金基板を得る工程と、
(k)磁気ディスク用アルミニウム合金基板の表面に、磁性体を付着させて磁性体層を形成する工程と、
を有する。
【0031】
上記のように本発明の磁気ディスクの製造方法は、工程(b)~(k)を有する。以下では、各工程(b)~(k)を詳細に説明する。
【0032】
(b)アルミニウム合金の溶湯を調製する工程
次に、皮膜除去工程で得られたアルミニウム合金材を少なくとも一部の原料として使用してアルミニウム合金の溶湯を調製する。以下に、工程(b)で調製した溶湯中の各元素の含有量を記載する。
【0033】
・Ni(ニッケル)含有量
アルミニウム合金の溶湯中のNi含有量は、0質量%以上2.5質量%以下であることが好ましい。Niは、アルミニウム(Al)等と結合してAl-Ni系化合物を生成し、めっき表面に大きな欠陥を発生させるため、Ni含有量を低減させることが有用である。溶湯中のNi含有量は、2.5質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましい。Ni含有量の調整は、原料を加熱・溶融するアルミニウム合金の溶湯を調製する工程において実施する。例えば、溶湯中の原料が溶融しきった後に溶湯の成分を分析し、Ni含有量が多い場合はアルミニウム合金地金等を添加して所望のNi含有量になるように調整する。
【0034】
・P(リン)含有量
アルミニウム合金の溶湯中のP含有量は、0質量%以上0.05質量%以下であることが好ましい。Pは、アルミニウム合金地金等に含有されるものであるが、溶湯原料のアルミニウム合金に一般的に含まれるMg(マグネシウム)と結合してMg-P系酸化物を生成し、めっき処理時にその部分だけ反応が不均一となり、めっき表面に大きな欠陥を発生させることがある。その結果、めっき表面の平滑性が低下する。なお、Mg-P系酸化物の一部は、溶湯を加熱保持することにより溶湯の表面に浮上して除去可能ではあるが、Mgと結合するPそのものの含有量が低いことが好ましい。溶湯中のP含有量は、0.05質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以下であることがより好ましい。溶湯中のP含有量は、Ni含有量に比べて非常に少ないため、アルミニウム合金地金等を添加して所望の含有量になるように調整することは一般に必要ない。しかしながら、調整が必要な場合には、Niと同様にアルミニウム地金等を添加して所望の含有量になるように調整する。
【0035】
・Mg(マグネシウム)含有量
アルミニウム合金の溶湯中のMg含有量は、0質量%以上6.5質量%以下であることが好ましい。上述のように、Mgは、溶湯中のPと結合してMg-P系酸化物を生成するため、Pと同様にその含有量が低いことが好ましい。溶湯中のMg含有量は、6.5質量%以下であることが好ましく、4.5質量%以下であることがより好ましい。Mg含有量が多い場合は、Niと同様にアルミニウム合金地金等を添加して所望の含有量になるように調整する。
【0036】
・アルミニウム合金の溶湯における金属成分
アルミニウム合金の溶湯に含まれる金属成分については、上述のように、Ni、Pそのものの含有量、並びに、Pとの間で金属間化合物を形成するMg等の元素を調整することが好ましい。
【0037】
一方、Ni、P及びMg以外の元素とその含有量については、特に限定されるものではない。アルミニウム合金の溶湯に含まれる合金組成としては、例えば以下のようなものが挙げられる。アルミニウム合金は、Fe(鉄)と、任意にMn(マンガン)を含有し、これらFe及びMnの含有量の合計が0.005質量%以上7.00質量%以下の範囲であり、さらに、Mgを0.5質量%以上6.5質量%以下含有し、任意に、0質量%以上1.0質量%以下のSi(ケイ素)、0質量%以上0.7質量%以下のZn(亜鉛)、0質量%以上0.30質量%以下のCr(クロム)、0質量%以上1.0質量%以下のCu(銅)及び0質量以上0.20質量%以下のZr(ジルコニア)からなる群から選択される1種又は2種以上の金属を含有し、残部がAl及び不可避的不純物やその他の微量成分からなる。
【0038】
不可避的不純物としてはアルミニウム合金に含まれるTi(チタン)、Ga(ガリウム)等が挙げられ、その他の微量成分としてはCo(コバルト)、Pt(白金)等が挙げられる。これら不可避的不純物とその他の微量成分の含有量は、各元素について0.10質量%以下、合計で0.30質量%以下であれば、本発明の作用効果を損なわない。
【0039】
(c)溶湯を加熱保持する工程
次に、アルミニウム合金の溶湯を加熱保持する。この工程では、アルミニウム合金の溶湯を保持炉によって加熱保持する。この際に、溶湯の表面に浮上する酸化皮膜を炉外に除去することが好ましい。アルミニウム合金の鋳造前にこの浮上した酸化皮膜をすくい上げ等の方法で除去することで、溶湯中のNiやPの含有量を低減することができる。その際、酸化皮膜をできるだけ速やかに炉外に除去することが好ましい。
【0040】
(d)溶湯を鋳造してアルミニウム合金鋳塊を得る工程
次に、溶湯を鋳造してアルミニウム合金鋳塊を得る。加熱保持されたアルミニウム合金の溶湯は、必要に応じて後述のインライン脱ガス処理やインライン濾過処理の後に、半連続鋳造法(DC鋳造法)、金型鋳造法、連続鋳造法(CC法)等によりアルミニウム合金鋳塊に鋳造される。DC鋳造法においては、スパウトを通して注がれた溶湯が、ボトムブロックと、水冷されたモールドの壁、並びにインゴット(鋳塊)の外周部に直接吐出される冷却水で熱を奪われ、凝固し、鋳塊として下方に引き出される。金型鋳造法においては、鋳鉄等で作製された中空の金型に注がれた溶湯が、金型の壁に熱を奪われ、凝固し、鋳塊が作製される。CC鋳造法では、一対のロール(又は、ベルトキャスタ、ブロックキャスタ)の間に鋳造ノズルを通して溶湯を供給し、ロールからの抜熱で薄板を直接鋳造する。
【0041】
溶湯を加熱保持する工程で加熱保持された溶湯は、鋳造工程にかけられる前に常法に従ってインライン脱ガス処理やインライン濾過処理を行うことが好ましい。インライン脱ガス処理装置としては、SNIFやALPURなどの商標で市販されている脱ガス装置が使用できる。これらのインライン脱ガス処理装置は、アルゴンガス又はアルゴンと窒素等の混合ガスを溶湯に吹き込みながら、羽根付き回転体を高速で回転させてガスを微細な気泡として溶湯中に供給する。これにより、脱水素ガス及び介在物の除去をインラインで短時間に行うことができる。インライン濾過処理としては、セラミックチューブフィルター、セラミックフォームフィルター、アルミナボールフィルター等が用いられ、ケーク濾過機構、濾材濾過機構等により介在物が除去される。
【0042】
(e)アルミニウム合金鋳塊を加熱して均質化処理を行う工程
次に、上記のようにして得たアルミニウム合金鋳塊を加熱して均質化処理を行う。均質化処理では、好ましくは480℃以上560℃以下の加熱温度で1時間以上、より好ましくは500℃以上550℃以下の加熱温度で2時間以上の条件でアルミニウム合金鋳塊が加熱される。加熱温度が480℃未満の場合や、加熱時間が1時間未満の場合には、十分な均質化効果が得られない場合がある。また、560℃を超える加熱温度では、アルミニウム合金鋳塊が溶解するおそれがある。また、加熱時間の上限は特に限定されるものではないが、48時間を超えても均質化効果が飽和して生産性の低下を招くおそれがある。
【0043】
(f)圧延工程
次に、圧延工程では、均質化処理をしたアルミニウム合金鋳塊を圧延してアルミニウム合金板とする。圧延工程では、1回又は複数回の圧延を行い、圧延処理として冷間圧延、熱間圧延を行うことができる。一例では、均質化処理をしたアルミニウム合金鋳塊を、熱間圧延によって熱間圧延板を作製する。熱間圧延の条件は特に限定されるものではないが、熱間圧延開始温度が300℃以上500℃以下であることが好ましく、320℃以上480℃以下であることがより好ましい。また、熱間圧延終了温度が260℃以上400℃以下であることが好ましく、280℃以上380℃以下であることがより好ましい。熱間圧延開始温度が300℃未満では熱間圧延による加工性が確保できず、500℃を超えると結晶粒が粗大化し、後述する工程で形成するNi-Pめっき層の密着性が低下する場合がある。また、熱間圧延終了温度が260℃未満では熱間圧延による加工性が確保できず、400℃を超えると結晶粒が粗大化し、後述する工程で形成するNi-Pめっき層の密着性が低下する場合がある。尚、熱間圧延では、通常、鋳塊を熱間圧延開始温度で0.5時間以上10.0時間以下の範囲で加熱保持後に熱間圧延を行う。
【0044】
一例では、次に、得られた熱間圧延板を冷間圧延して好ましくは0.4mm以上2.0mm以下、より好ましくは0.6mm以上2.0mm以下の冷間圧延板を作製する。すなわち、熱間圧延終了後は、冷間圧延によって所要の製品板厚に仕上げる。冷間圧延の条件は特に限定されるものではないが、必要なアルミニウム合金板の板強度や板厚に応じて定めればよく、圧延率は20%以上90%以下であることが好ましく、20%以上80%以下であることがより好ましい。この圧延率が20%未満では、後述するディスクブランクの加圧平坦化焼鈍において結晶粒が粗大化し、後述する工程で形成するNi-Pめっき層の密着性が低下する場合がある。一方、この圧延率が90%を超えると、製造時間が長くなり生産性の低下を招くおそれがある。
【0045】
良好な冷間圧延加工性を確保するために、冷間圧延の前又は冷間圧延の途中において、任意に焼鈍処理を実施してもよい。焼鈍処理を実施する場合には、例えばバッチ式の焼鈍では、300℃以上450℃以下の焼鈍温度で0.1時間以上10時間以下の条件で行うことが好ましく、300℃以上380℃以下の焼鈍温度で1時間以上5時間以下の条件で行うことがより好ましい。焼鈍温度が300℃未満、及び/又は焼鈍時間が0.1時間未満では、十分な焼鈍効果が得られない場合がある。また、焼鈍温度が450℃を超えると、結晶粒が粗大化して後述する工程で形成するNi-Pめっき層の密着性が低下する場合があり、焼鈍時間が10時間を超えると、製造時間が長くなり生産性の低下を招くおそれがある。
【0046】
一方、連続式の焼鈍では、400℃以上500℃以下の焼鈍温度で60秒以下の保持時間の条件で行うことが好ましく、450℃以上500℃以下の焼鈍温度で30秒以下の保持時間の条件で行うことがより好ましい。焼鈍温度が400℃未満では、十分な焼鈍効果が得られない場合があり、焼鈍温度が500℃を超えると、結晶粒が粗大化し、後述する工程で形成するNi-Pめっき層の密着性が低下する場合がある。また、保持時間が60秒を超えると、結晶粒が粗大化し、後述する工程で形成するNi-Pめっき層の密着性が低下する場合がある。尚、所望の焼鈍温度に達した後、直ちに冷却を開始してもよい。
【0047】
以上の各工程によって、アルミニウム合金板が作製される。
【0048】
上記工程(b)~(f)において、アルミニウム合金の溶湯の調製を行う際に、溶湯内に任意の材料、元素、アルミニウム合金地金等を添加することにより、所望の合金組成としたアルミニウム合金板を製造することができる。また、溶湯の加熱保持、溶湯からのアルミニウム合金鋳塊の製造、アルミニウム合金鋳塊の均質化処理、アルミニウム合金鋳塊の圧延を行う際の条件を所定の条件に設定することにより、圧延後のアルミニウム合金板の性状・特性を、リサイクル材とは異なる所望の性状・特性に設定することができる。
【0049】
(g)アルミニウム合金板を円環状ディスクブランクに加圧平坦化する工程
上記のようにアルミニウム合金基板のリサイクル方法の圧延工程により得られたアルミニウム合金板を円環状に打ち抜いて、円環状ディスクブランクを作製する。一例では、円環状ディスクブランクに大気中で300℃以上450℃以下の温度で30分以上、好ましくは300℃以上380℃以下の温度で60分以上の加圧焼鈍を施し、平坦化した円環状ディスクブランクを作製する。加圧焼鈍の処理温度が300℃未満及び/又は処理時間が30分未満では、平坦化の効果が十分に得られない場合がある。また、処理温度が450℃を超えると、結晶粒が粗大化し、後述する工程で形成するNi-Pめっき層の密着性が低下する場合がある。処理時間の上限は特に限定されるものではないが、24時間を超えると製造時間が長くなり生産性の低下を招くおそれがある。尚、加圧焼鈍における圧力は、通常0.1MPa以上3.0MPa以下である。
【0050】
(h)円環状ディスクブランクに切削加工と研削加工を施してめっき用アルミニウム合金基板を得る工程
次に、切削・研削加工工程において平坦化した円環状ディスクブランクを切削加工及び研削加工し、円環状ディスクブランクの形状、表面を全体的に調製する。その後、任意に、200℃以上290℃以下の温度で0.1時間以上10.0時間以下の条件で、円環状ディスクブランクの歪取りのための歪取り熱処理を行う。
【0051】
(i)めっき前処理工程
上記のようにして作製しためっき用アルミニウム合金基板に、めっき前処理として脱脂、エッチング、ジンケート処理(Zn置換処理)が施される。脱脂は、例えば市販のAD-68F(上村工業社製)脱脂液等を用い、40℃以上70℃以下の脱脂温度、3分以上10分以下の脱脂時間、200mL/L以上800mL/L以下の脱脂液の濃度の条件で行うことが好ましく、45℃以上65℃以下の脱脂温度、4分以上8分以下の脱脂時間、300mL/L以上700mL/L以下の脱脂液の濃度の条件で行うことがより好ましい。脱脂温度が40℃未満、脱脂時間が3分未満、及び/又は脱脂液の濃度が200mL/L未満では、十分な脱脂効果が得られない場合がある。また、脱脂温度が70℃を超える、脱脂時間が10分を超える、及び/又は脱脂液の濃度が800mL/Lを超えると、めっき用アルミニウム合金基板の表面の平滑性が低下し、めっき処理後にピットが発生し平滑性が低下する場合がある。
【0052】
エッチングは、例えば市販のAD-107F(上村工業社製)エッチング液等を用い、50℃以上75℃以下のエッチング温度、0.5分以上5分以下のエッチング時間、20mL/L以上100mL/L以下のエッチング液の濃度の条件で行うことが好ましく、55℃以上70℃以下のエッチング温度、0.5分以上3分以下のエッチング時間、40mL/L以上100mL/L以下のエッチング液の濃度の条件で行うことがより好ましい。エッチング温度が50℃未満、エッチング時間が0.5分未満、及び/又はエッチング液の濃度が20mL/L未満では、十分なエッチング効果が得られない場合がある。また、エッチング温度が75℃を超える、エッチング時間が5分を超える、及び/又はエッチング液の濃度が100mL/Lを超えると、めっき用アルミニウム合金基板の表面の平滑性が低下し、めっき処理後にピットが発生し平滑性が低下する場合がある。尚、エッチング処理と後述するジンケート処理の間に、通常のデスマット処理が行なわれていてもよい。
【0053】
ジンケート処理は、例えば市販のAD-301F-3X(上村工業社製)ジンケート処理液等を用い、10℃以上35℃以下のジンケート処理温度、0.1分以上5分以下のジンケート処理時間、100mL/L以上500mL/L以下のジンケート処理液の濃度の条件で行うことが好ましく、15℃以上30℃以下のジンケート処理温度、0.1分以上2分以下のジンケート処理時間、200mL/L以上400mL/L以下のジンケート処理液の濃度の条件で行うことがより好ましい。ジンケート処理温度が10℃未満、ジンケート処理時間が0.1分未満、及び/又はジンケート処理液の濃度が100mL/L未満では、ジンケート皮膜が不均一となり、めっき処理後にピットが発生し平滑性が低下する場合がある。また、ジンケート処理温度が35℃を超える、ジンケート処理時間が5分を超える、及び/又はジンケート処理液の濃度が500mL/Lを超えると、ジンケート皮膜が不均一となり、めっき処理後にピットが発生し平滑性が低下する場合がある。
【0054】
(j)磁気ディスク用アルミニウム合金基板を得る工程
次に、ジンケート処理しためっき用アルミニウム合金基板の表面に下地処理として無電解でのNi-Pめっき処理が施され、次いでその表面の研磨が実施される。無電解でのNi-Pめっき処理は、例えば市販のニムデンHDX(上村工業社製)めっき液等を用い、80℃以上95℃以下のめっき処理温度、30分以上180分以下のめっき処理時間、3g/L以上10g/L以下のめっき液中のNi濃度の条件で行うことが好ましく、85℃以上95℃以下のめっき処理温度、60分以上120分以下のめっき処理時間、4g/L以上9g/L以下のめっき液中のNi濃度の条件で行うことがより好ましい。めっき処理温度が80℃未満、及び/又はめっき液中のNi濃度が3g/L未満では、めっきの成長速度が遅く、生産性の低下を招くおそれがある。また、めっき処理時間が30分未満では、めっき表面に欠陥が多数発生し、めっき表面の平滑性が低下する場合がある。一方、めっき処理温度が95℃を超える、及び/又はめっき液中のNi濃度が10g/Lを超えると、めっきが不均一に成長するため、めっきの平滑性が低下する場合がある。また、めっき処理時間が180分を超えると、製造時間が長くなり生産性の低下を招くおそれがある。さらに、下地(Ni-P)めっき処理面には研磨処理が施される。これらのめっき前処理、及び下地(Ni-P)めっき処理(研磨付き)によって、磁気ディスク用アルミニウム合金基板が作製される。
【0055】
(k)磁性体層を形成する工程
研磨処理も含めた無電解Ni-Pめっき処理の後、Ni-Pめっき層上に、スパッタリングによって磁性体を付着させて磁性体層を形成する。磁性体層は、単一の層であってもよく、又は、互いに異なる組成を有する複数の層から形成されていてもよい。スパッタリングを行った後、必要に応じて、CVDによって磁性体層上に炭素系材料からなる保護層を形成してもよく、保護層上に潤滑油を塗布して潤滑層が形成されていてもよい。
【0056】
3.磁気ディスク
上記磁気ディスクの製造方法によって、本発明の磁気ディスクを作製することができる。本発明の磁気ディスクは、磁気ディスク用アルミニウム合金基板と、当該磁気ディスク用アルミニウム合金基板の表面にNi-Pめっき層と、当該Ni-Pめっき層の上に形成された磁性体層とを有する。また、磁性体層上には、保護層や潤滑層が形成されていてもよい。このような本発明の磁気ディスクは、上述のリサイクル材を利用して作製されるため、環境負荷低減に優れる磁気ディスクとして有益である。
【0057】
4.ハードディスクドライブ
本発明のハードディスクドライブは、1枚又は複数枚の上記磁気ディスクと、磁気ディスクを回転させるスピンドルモータと、磁気ディスクの内径側部分を固定するクランプ部材と、磁気ディスクに対してデータ処理を行う磁気ヘッドと、磁気ヘッドを磁気ディスクに対して移動自在に支持したアクチュエータと、アクチュエータを回動及び位置決めするスイングアームとを備える。このような本発明のハードディスクドライブは、上述のリサイクル材を利用して作製されるため、環境負荷低減に優れる。特に、データセンター等で使用されるハードディスクドライブは、大量のデータ処理を行うため、多数枚の磁気ディスクを備える。このようなハードディスクドライブ中の多くの磁気ディスクについてリサイクル材を利用して作製されたものとすることで、特に環境負荷低減に優れたものとすることができる。
【0058】
以上の実施態様に基づき、本発明は以下の[1]~[8]に関するものである。
[1]
アルミニウム合金基板と、前記アルミニウム合金基板上に少なくとも1層の皮膜とを有するリサイクル材に物理的加工を施すことにより前記リサイクル材から皮膜を除去してアルミニウム合金材を得る皮膜除去工程を含むアルミニウム合金基板のリサイクル方法。
[2]
前記物理的加工が、旋盤を用いて前記リサイクル材の表面と端面を切削加工する方法、又は、砥石を用いて前記リサイクル材の表面を研削加工する方法と旋盤を用いて前記リサイクル材の端面を切削加工する方法との組み合わせである、上記[1]に記載のアルミニウム合金基板のリサイクル方法。
[3]
前記物理的加工において、前記リサイクル材の表面及び端面が削られる深さが、前記皮膜の厚さの1.05倍以上である、上記[1]又は[2]に記載のアルミニウム合金基板のリサイクル方法。
[4]
前記皮膜がNiを含んでいる、上記[1]乃至[3]のいずれか1つに記載のアルミニウム合金基板のリサイクル方法。
[5]
前記リサイクル材を構成するアルミニウム合金基板が円環状である、上記[1]乃至[4]のいずれか1つに記載のアルミニウム合金基板のリサイクル方法。
[6]
上記[1]乃至[5]のいずれか1つに記載のアルミニウム合金基板のリサイクル方法の皮膜除去工程により得たアルミニウム合金材を、少なくとも一部の原料として使用してアルミニウム合金の溶湯を調製する工程と、
調製した溶湯を加熱保持する工程と、
加熱保持した溶湯を鋳造してアルミニウム合金鋳塊を得る工程と、
前記アルミニウム合金鋳塊を加熱して均質化処理を行う工程と、
前記均質化処理をしたアルミニウム合金鋳塊を圧延してアルミニウム合金板とする圧延工程と、
前記圧延工程により得たアルミニウム合金板を円環状ディスクブランクに加圧平坦化する工程と、
加圧平坦化した前記円環状ディスクブランクに切削加工と研削加工を施してめっき用アルミニウム合金基板を得る工程と、
前記めっき用アルミニウム合金基板に、脱脂、エッチング及びジンケート処理を施すめっき前処理工程と、
めっき前処理を施したアルミニウム合金基板の表面に無電解でのNi-Pめっき処理を施した後、Ni-Pめっき処理を施した表面を研磨して磁気ディスク用アルミニウム合金基板を得る工程と、
前記磁気ディスク用アルミニウム合金基板の表面に、磁性体を付着させて磁性体層を形成する工程と、を含む磁気ディスクの製造方法。
[7]
上記[6]に記載の磁気ディスクの製造方法によって得られた磁気ディスク。
[8]
上記[7]に記載の磁気ディスクを備えるハードディスクドライブ。
【0059】
以上、本実施形態に係るアルミニウム合金基板のリサイクル方法、磁気ディスクの製造方法、磁気ディスク、及びハードディスクドライブについて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想に基づき、各種の変形及び変更が可能である。
【実施例0060】
以下に、本発明を実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0061】
リサイクル材として、JIS5086合金(Al-Mg合金)からなるアルミニウム合金基板と、無電解Ni-Pめっき処理により当該アルミニウム合金基板上に形成されたNi-Pめっき層(皮膜)と、を有する磁気ディスク用アルミニウム合金基板(以下、「サンプル」と記載する;外径95mm、内径25mm、全体厚さ1.3mm)を用いた。尚、アルミニウム合金基板上に形成された皮膜において、表面(両主面)の厚さは10μm、端面(内径側の側面及び外径側の側面)の厚さは11μmであった。各例のサンプルを表1に示す条件で切削加工を行った。尚、表1中の「切削量」は、サンプルの表面及び端面が削られる深さを意味する。
【0062】
アルミニウム合金基板に用いたアルミニウム合金の組成は、4質量%のMg、0.025質量%のFe、0.025質量%のSi、0.3質量%のZn、0.05質量%のCu、残部がAl、不可避的不純物及び微量成分からなるものであった。
【0063】
(リサイクル性の評価)
リサイクル性は、切削加工後のサンプルについて表面及び端面の外観観察により、皮膜除去の残存状況により評価した。Ni-Pめっき層が確認されなかった場合を「〇」、Ni-Pめっき層の残存が確認された場合を「×」とそれぞれ評価し、サンプルの表面及び端面の両方の評価が「〇」であれば、リサイクル性は良好とした。
【0064】
【表1】
【0065】
表1に示すように、実施例1~6では、サンプルの表面及び端面の両方の評価が「〇」であれば、Ni-Pめっき層が完全に除去されたことを確認できた。一方、比較例1、4ではサンプルの表面及び端面の両方の評価が「×」であり、Ni-Pめっき層が全体的に残存していた。また、比較例2、4ではサンプルの表面及び端面のいずれかの評価が「×」であり、Ni-Pめっき層が局部的に残存していた。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明により、リサイクル性に優れ、簡便且つ確実に皮膜の除去が可能なアルミニウム合金基板のリサイクル方法を提供することができる。また、このようなリサイクル方法によって得られたアルミニウム合金板を再利用して磁気ディスクを製造することが可能であるため、高価な高純度地金の使用量を削減し、低コスト化を図ることができると共に、環境保全の観点からも有益である。