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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025093173
(43)【公開日】2025-06-23
(54)【発明の名称】ゴム組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/50 20060101AFI20250616BHJP
   C08L 17/00 20060101ALI20250616BHJP
   C08J 11/22 20060101ALI20250616BHJP
   C08J 11/18 20060101ALI20250616BHJP
【FI】
C08F8/50
C08L17/00
C08J11/22 ZAB
C08J11/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023208751
(22)【出願日】2023-12-11
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100228120
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 蓮太朗
(72)【発明者】
【氏名】安西 弘行
(72)【発明者】
【氏名】カルモカル アショカ クマル
(72)【発明者】
【氏名】加賀 紀彦
(72)【発明者】
【氏名】木原 伸一
(72)【発明者】
【氏名】山本 盛泰
【テーマコード(参考)】
4F401
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4F401AA03
4F401BA13
4F401CA54
4F401CA66
4F401CA68
4F401CB27
4F401EA56
4F401EA58
4F401EA62
4F401FA01Z
4J002AC131
4J002EV040
4J002EV320
4J002GN00
4J002GN01
4J002HA03
4J100AA02P
4J100AA03P
4J100AA06P
4J100AB02P
4J100AM02P
4J100AS02P
4J100AS03P
4J100AS07P
4J100CA31
4J100HA51
4J100HA59
4J100HC01
4J100HC69
4J100HD04
4J100HE14
4J100HG31
4J100JA28
4J100JA29
(57)【要約】
【課題】短時間で効率よく、架橋ゴムからポリマー成分が高分子量のゴム組成物を製造できるゴム組成物の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】架橋ゴムからポリマー成分の重量平均分子量が15万以上のゴム組成物を製造する方法であって、SP値が7.0(cal/cm1/2以上9.7(cal/cm1/2以下、かつ、自然発火温度が220℃以上300℃以下の溶媒中、前記架橋ゴムを温度160℃以上190℃以下で加熱しながら、前記架橋ゴムにせん断力をかけることで前記ゴム組成物を得る工程を含む、ゴム組成物の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋ゴムからポリマー成分の重量平均分子量が15万以上のゴム組成物を製造する方法であって、
SP値が7.0(cal/cm1/2以上9.7(cal/cm1/2以下、かつ、自然発火温度が220℃以上300℃以下の溶媒中、前記架橋ゴムを温度160℃以上190℃以下で加熱しながら、前記架橋ゴムにせん断力をかけることで前記ゴム組成物を得る工程を含む、ゴム組成物の製造方法。
【請求項2】
前記溶媒が、アネトール、リモネン、シクロヘキサンから選択される少なくとも1種の溶媒である、請求項1に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項3】
前記溶媒を、前記溶媒と前記架橋ゴムとの質量比(溶媒の質量:架橋ゴムの質量)が0.1:1~5:1となる範囲で用いる、請求項1に記載のゴム組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境及び省資源化の視点から、架橋ゴムを再生し、新たな架橋ゴムとして再利用することが検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、より緩和な条件下においても、液状炭化水素を高収率で製造することができるゴム組成物製造方法を提供することを目的として、架橋ゴムを、炭素数2以上の第一級アルコールを含む反応溶媒下において0.1~2.0MPaかつ300℃以下で加熱して液状炭化水素を含むゴム組成物を得るゴム組成物製造方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、加硫ゴム廃棄物から再使用可能な液状炭化水素及びカーボンブラックを効率よく簡便に製造するために、加硫ゴム廃棄物等の加硫ゴムを水素供与性溶媒の存在下で加熱分解して、液状炭化水素及びカーボンブラックを製造する方法が開示されている。
【0005】
また、架橋ゴムを2-ブタノールを用いて、150~300℃の温度域で圧力3.4MPa以上の条件下で解架橋する方法(例えば、特許文献3参照)、架橋ゴムをアルコールとケトン系溶媒を用いて、200~350℃の温度域で、圧力3.4~34MPa以上の条件下で解架橋する方法(例えば、特許文献4参照)、及び水と有機溶剤(アルコール)を用いて各溶媒の蒸気圧以上の温度で、不活性ガスを含めて300psi以上の雰囲気で、飽和蒸気圧以上、温度帯285℃以下で加硫ゴムを分解する方法(例えば、特許文献5参照)等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2019/160088号
【特許文献2】特開平7-310076号公報
【特許文献3】米国特許第5891926号明細書
【特許文献4】米国特許第6548560号明細書
【特許文献5】米国特許第9458304号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の架橋ゴムからのゴム組成物の製造方法では、予め架橋ゴムの微粉化が必要であったり、高温環境下で架橋ゴムを分解していたりと効率の点で改善の余地があった。
【0008】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題を解決し、短時間で効率よく、架橋ゴムからポリマー成分が高分子量のゴム組成物を製造できるゴム組成物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、誠意検討を行ったところ、架橋ゴムを特定の溶媒中で加熱しながら、架橋ゴムにせん断力をかけることで、架橋ゴムの微粉化等の必要なく、短時間で効率よく架橋ゴムからポリマー成分が高分子量のゴム組成物が得られることを見出した。
【0010】
上記課題を解決する本発明のゴム組成物の製造方法の要旨構成は、以下のとおりである。
【0011】
[1] 架橋ゴムからポリマー成分の重量平均分子量が15万以上のゴム組成物を製造する方法であって、
SP値が7.0(cal/cm1/2以上9.7(cal/cm1/2以下、かつ、自然発火温度が220℃以上300℃以下の溶媒中、前記架橋ゴムを温度160℃以上190℃以下で加熱しながら、前記架橋ゴムにせん断力をかけることで前記ゴム組成物を得る工程を含む、ゴム組成物の製造方法。
上記[1]に記載のゴム組成物の製造方法によると、効率よく、架橋ゴムからポリマー成分が高分子量のゴム組成物を製造できる。
【0012】
[2] 前記溶媒が、アネトール、リモネン、シクロヘキサンから選択される少なくとも1種の溶媒である、[1]に記載のゴム組成物の製造方法。
上記[2]に記載のゴム組成物の製造方法によると、より効率よく、架橋ゴムからゴム組成物を製造でき、かつ、ポリマー成分の分子量がより高いゴム組成物を製造できる。
【0013】
[3] 前記溶媒を、前記溶媒と前記架橋ゴムとの質量比(溶媒の質量:架橋ゴムの質量)が0.1:1~5:1となる範囲で用いる、[1]又は[2]に記載のゴム組成物の製造方法。
上記[3]に記載のゴム組成物の製造方法によると、より効率よく、架橋ゴムからゴム組成物を製造でき、かつ、ポリマー成分の分子量がより高いゴム組成物を製造できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、短時間で効率よく、架橋ゴムからポリマー成分が高分子量のゴム組成物を製造できるゴム組成物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明のゴム組成物の製造方法をその実施形態に基づき、詳細に例示説明する。
【0016】
本明細書に記載されている化合物は、部分的に、又は全てが化石資源由来であってもよく、植物資源等の生物資源由来であってもよく、使用済タイヤ等の再生資源由来であってもよい。また、化石資源、生物資源、再生資源のいずれか2つ以上の混合物由来であってもよい。
また、本明細書中、数値範囲の説明における「a~b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下であることを表す。
【0017】
<ゴム組成物の製造方法>
【0018】
本実施形態のゴム組成物の製造方法は、架橋ゴムからポリマー成分の重量平均分子量が15万以上のゴム組成物を製造する方法であって、
SP値(溶解度パラメータ)が7.0(cal/cm1/2以上9.7(cal/cm1/2以下、かつ、自然発火温度が220℃以上300℃以下の溶媒中、前記架橋ゴムを温度160℃以上190℃以下で加熱しながら、前記架橋ゴムにせん断力をかけることで前記ゴム組成物を得る工程(以下、単に「ゴム組成物を得る工程」ということがある。)を含むことを特徴とする。
本実施形態のゴム組成物の製造方法によると、効率よく、架橋ゴムからポリマー成分が高分子量のゴム組成物を製造できる。そのため、結果として、二酸化炭素等の排出量を抑えることもでき、環境負荷を低減してゴム組成物を製造できる。
なお、本明細書において、「ポリマー成分」とは、架橋ゴムのゴム成分が脱架橋されて生じる成分のことをいう。
【0019】
前記ゴム組成物を得る工程においては、熱及び溶媒効果により架橋ゴムの結合を切断することに加えて、架橋ゴムにせん断力をかけることにより架橋ゴムの結合を切断する。そのため、熱及び溶媒効果による架橋ゴムの結合の切断と、せん断力による架橋ゴムの結合の切断との両方により架橋ゴムの結合が切断されるため、より効率よく架橋ゴムの脱架橋を行うことができる。
本実施形態のゴム組成物の製造方法においては、架橋ゴムを構成するゴム分子由来の炭素原子同士の結合(炭素-炭素結合)、当該炭素原子と架橋剤由来のヘテロ原子(酸素原子、硫黄原子等)との結合(例えば、炭素-硫黄結合)等において、熱及び溶媒効果、並びにせん断により結合が切断され、ラジカル及び/又は新たな結合が生成すると考えられる。これらの切断を受けて生成される高反応性のラジカル種と、SP値が7.0(cal/cm1/2以上9.7(cal/cm1/2以下、かつ、自然発火温度が220℃以上300℃以下の溶媒とが反応し、ラジカルの反応を停止すると考えられる。そのため、ラジカル同士の結合が生じにくく、また、切断された炭素-炭素結合、炭素-硫黄結合等の再結合も生じにくいと推定される。
なお、本発明において、「せん断力」とは、後述の装置を用いて、機械的な力で架橋ゴムの炭素-炭素結合、炭素-硫黄結合等結合を切断する機械的な力のことをいい、せん断速度の調整を通じてコントロールすることができる。
【0020】
本実施形態のゴム組成物の製造方法において、せん断力をかけるための装置としては、例えば、ロール機、バンバリーミキサー、一軸押出機や二軸押出機等の押出機、ギアポンプ、かみ合い式ミキサー、ニーダー、コニーダーが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
架橋ゴムにせん断力をかける方法としては、一軸せん断又は二軸せん断が好ましい。例えば、一軸押出機を使用することで、架橋ゴムに一軸せん断をかけることができ、二軸押出機を使用することで、架橋ゴムに二軸せん断をかけることができる。
【0021】
また、せん断力を架橋ゴムに付与する際のせん断速度としては、押出機等の使用時にせん断対象に付与されるせん断速度でよく、せん断速度は例えば、2000s-1以下が好ましく、最大せん断速度1000s-1以下であることがより一層好ましい。
【0022】
(ゴム組成物を得る工程)
-温度-
ゴム組成物を得る工程において、架橋ゴム及び溶媒等は、160℃以上190℃以下で加熱される。加熱温度を190℃以下とすることで、ポリマー成分の酸化や熱による劣化を抑制することができる。また、加熱温度を160℃以上とすることで、架橋ゴムの硫黄結合が切れやすく、短時間で結合を切断し架橋ゴムを分解することができる。
【0023】
-圧力-
ゴム組成物を得る工程において、架橋ゴム及び溶媒等に与えられる圧力は、前記温度範囲において、0.1MPa以上15Pa以下であることが好ましい。圧力が15MPaを超えると架橋ゴムの分解反応が進みやすくなるためである。また、15MPa以下であることで省資源及び省エネルギー化に優れる。また、ゴム組成物を得る工程における圧力は、7MPa以上15MPa以下であることがより好ましい。
【0024】
-雰囲気-
ゴム組成物を得る工程における反応雰囲気は、特に制限されず、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガスからなる気体の雰囲気(以下、単に不活性ガス雰囲気という)下で反応を進めてもよいし、空気からなる気体の雰囲気(以下、単に空気雰囲気という)下で反応を進めてもよいし、空気と不活性ガスとの混合ガス雰囲気下で反応を進めてもよい。不活性ガスを用いる場合、2種以上の不活性ガスを混合して用いてもよい。また、ゴム組成物を得る工程における反応雰囲気は、超臨界二酸化炭素の雰囲気であってもよい。
架橋ゴムの分解をより軽微な設備で行い、また、低エネルギー化を進める観点からは、架橋ゴムは、好気環境下、即ち、酸素含有雰囲気下で加熱することが好ましく、空気を含む気体の雰囲気下で加熱することがより好ましく、空気雰囲気下で加熱することが更に好ましい。
【0025】
(その他の工程)
本実施形態のゴム組成物の製造方法は、上記ゴム組成物を得る工程に加えて、残留架橋ゴムを取り除く工程及び/又は残留架橋ゴム成分の粉砕工程をさらに含んでもよい。残留架橋ゴムを取り除く工程で残留架橋ゴムをゴム組成物から取り除くことによって、ゴム組成物の脱架橋度を上げることができる。また、ゴム組成物に架橋ゴムが含まれる場合であっても、残留架橋ゴム成分の粉砕工程において残留架橋ゴム成分を粉砕することで、ゴム組成物に含まれる架橋ゴムが細かくなり、ある程度架橋ゴムがゴム組成物中に含まれていたとしてもゴム組成物として使用される場合に大きな影響がなくなる。
また、本実施形態のゴム組成物の製造方法は、上記ゴム組成物を得る工程や、残留架橋ゴムを取り除く工程、残留架橋ゴム成分の粉砕工程に加えて、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の他の工程を含んでいてもよい。
【0026】
(架橋ゴム)
本実施形態のゴム組成物の製造方法における原料である架橋ゴムは、ゴム成分の架橋物である。前記架橋ゴムは、ゴム成分の他に、架橋剤及び充填剤等を含んでいてもよい。
本実施形態のゴム組成物の製造方法で使用される架橋ゴムとしては、例えば、廃タイヤ、ゴムホース、コンベヤベルト、ゴムブラダーなどのゴム製品、それらのゴム製品を構成するゴム製の物品、それらのゴム製品及びゴム製の物品を製造する際に発生する廃棄ゴムなどのゴム屑等を使用することができる。
【0027】
-ゴム成分-
架橋ゴムの原料であるゴム成分としては、ジエン系ゴム、非ジエン系ゴムのいずれでもよい。
ジエン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)及び合成ジエン系ゴムからなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
合成ジエン系ゴムとしては、例えば、ポリイソプレンゴム(IR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、ハロゲン化ブチルゴム、アクリロニリトル-ブタジエンゴム(NBR)等が挙げられる。
また、非ジエン系ゴムとしては、例えば、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、アクリルゴム等が挙げられる。
これらゴム成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0028】
以上の中でも、タイヤ等のゴム製品は、一般に、ジエン系ゴムが用いられていることから、ゴム成分は、ジエン系ゴムを50質量%以上含むことが好ましく、ジエン系ゴムを70質量%以上含むことがより好ましく、ジエン系ゴムを90質量%以上含むことがより一層好ましい。また、ジエン系ゴムは、天然ゴム、ポリイソプレンゴム及びスチレン-ブタジエン共重合体ゴムからなる群より選択される1種又は2種以上であることが好ましい。
【0029】
-架橋剤-
また、ゴム製品には、一般に、ゴム成分の架橋剤が使用される。該ゴム成分の架橋剤としては、特に制限されず、例えば、硫黄系架橋剤、有機過酸化物系架橋剤、無機架橋剤、ポリアミン架橋剤、樹脂架橋剤、硫黄化合物系架橋剤、オキシム-ニトロソアミン系架橋剤等が挙げられる。なお、タイヤ等におけるゴム成分は、通常、硫黄系架橋剤(加硫剤)が用いられることから、架橋ゴムは、加硫剤で加硫された加硫物、すなわち、加硫ゴムを含むことが好ましい。架橋ゴム中の加硫ゴムの含有量は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがより一層好ましく、架橋ゴムが加硫ゴムである、即ち、含有量が100質量%であることが特に好ましい。
【0030】
-充填剤-
架橋ゴムは、充填剤を含んでいてもよい。タイヤは、一般に、タイヤの耐久性、耐摩耗性等の諸機能を上げるために、カーボンブラック、シリカ等の補強性充填剤を含む。充填剤は、シリカ及びカーボンブラックのいずれか一方を単独で用いてもよいし、シリカ及びカーボンブラックの両方を用いてもよい。
架橋ゴム中の充填剤の含有量は、特に制限がなく、例えばゴム成分100質量部に対して、10~300質量部であってもよい。
【0031】
充填剤としてカーボンブラックが使用される場合、カーボンブラックは特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。カーボンブラックとしては、例えば、FEF、SRF、HAF、ISAF、SAFグレードのものを用いることができる。
【0032】
また、充填剤としてシリカが使用される場合、シリカは特に限定されず、一般グレードのシリカ、シランカップリング剤などで表面処理を施した特殊シリカなど、用途に応じて使用することができる。シリカは、例えば、湿式シリカを用いることができる。
【0033】
-その他の成分-
架橋ゴムは、ゴム成分等の他、必要に応じて、ゴム工業界で通常使用される配合剤、例えば、軟化剤、ステアリン酸、老化防止剤、酸化亜鉛、加硫促進剤等を含むゴム組成物を架橋した架橋物であってもよい。タイヤは、一般に、これらの配合剤を含むゴム組成物を加硫した加硫ゴムを含む。
【0034】
(溶媒)
本実施形態のゴム組成物の製造方法は、SP値(溶解度パラメータ)が7.0(cal/cm1/2以上9.7(cal/cm1/2以下、かつ、自然発火温度が220℃以上300℃以下の溶媒(以下、単に「溶媒」ということがある。)中で行う。このような溶媒であると、ゴムを膨潤させつつ、架橋ゴムの結合の切断を受けて生成する高反応性のラジカル種と溶媒とが反応し、ラジカルの反応を停止させることができ、ラジカル同士の結合等を防ぐことができると考えられる。
【0035】
前記SP値が7.0(cal/cm1/2以上9.7(cal/cm1/2以下、かつ、自然発火温度が220℃以上300℃以下の溶媒としては、例えば、アネトール、リモネン、テルペン化合物、シクロヘキサン、乾性油等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0036】
前記SP値が7.0(cal/cm1/2以上9.7(cal/cm1/2以下、かつ、自然発火温度が220℃以上300℃以下の溶媒は、アネトール、リモネン、シクロヘキサンから選択される少なくとも1種の溶媒であることが好ましい。これらの溶媒は酸化されやすい性質を持つため、この性質によりポリマー成分の主鎖の切断を防ぎ、ポリマー成分の分子量を向上させることができると考えられる。
アネトールは、SP値が8.4(cal/cm1/2、自然発火温度が近似化学構造を有する別の化合物の自然発火温度から推測し、235~245℃であり、リモネンは、SP値が8.3(cal/cm1/2、自然発火温度が235℃であり、シクロヘキサンはSP値が8.2(cal/cm1/2、自然発火温度が245℃である。
【0037】
本実施形態のゴム組成物の製造方法において、溶媒は、SP値が、7.0(cal/cm1/2以上であり、7.3(cal/cm1/2以上であることが好ましく、また、SP値が、9.7(cal/cm1/2以下であり、9.0(cal/cm1/2以下であることが好ましく、8.8(cal/cm1/2以下であることがより好ましい。
また、溶媒は、自然発火温度が220℃以上300℃以下であり、250℃以下であることがより好ましく、240℃以下であることがより一層好ましい。
【0038】
本実施形態のゴム組成物の製造方法において、溶媒は、加熱によりゴム組成物と分離できる化合物、又はゴム組成物が膨潤しない液体媒体に親和性を持つものが好ましい。そのような特徴を持つ溶媒であれば、脱架橋後溶媒とゴム組成物を簡単に分離でき、より純度の高いゴム組成物を得ることが可能である。また、ゴム組成物と分離する際の加熱温度は例えば100℃以上が挙げられ、上記ゴム組成物が膨潤しない液体媒体は、例えば、アセトン、超臨界二酸化炭素流体などが挙げられる。
なお、溶媒のSP値はFedors法によって算出できる。溶媒の自然発火温度は、ASTM式発火点試験によって測定できる。
【0039】
本実施形態のゴム組成物の製造方法においては、溶媒を、溶媒と架橋ゴムとの質量比(溶媒の質量:架橋ゴムの質量)が、0.1:1~5:1となる範囲で用いることが好ましい。上記範囲で溶媒を用いることで、加溶媒分解がより促進され、また、熱分解で生成したラジカルの再結合を抑制し、架橋ゴムを効率よく分解できる。溶媒の使用量は、溶媒と架橋ゴムとの質量比(溶媒の質量:架橋ゴムの質量)が0.5:1~3:1であることがより好ましく、0.5:1~1:1であることがより一層好ましい。溶媒の使用量がこのような範囲であると、架橋ゴムを効率よく分解できるだけでなく、溶媒の使用量が少ないため、環境負荷を低減することもできる。
【0040】
(添加剤)
本実施形態のゴム組成物の製造方法は、さらに添加剤の存在下で行ってもよい。前記添加剤としては、塩基性還元剤、アミン系還元剤、芳香環及び硫黄原子を有する化合物が挙げられる。その中でも芳香環及び硫黄原子を有する化合物が好ましい。このような添加剤の存在下でゴム組成物を製造すると、ポリマー成分の分子量をより向上させることができる。前記芳香環及び硫黄原子を有する化合物としては、例えば、ジフェニルジスルフィド、メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアゾールジスルフィド等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、ジフェニルジスルフィド、メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアゾールジスルフィドから選択される1種又は2種以上の化合物が好ましい。
【0041】
また、他の好ましい実施形態においては、前記芳香環及び硫黄原子を有する化合物は、ジスルフィド化合物であってもよい。ジスルフィド化合物としては、ジアリールジスルフィドが好ましい。
ジスルフィド化合物としては、例えば、ジフェニルジスルフィド、ジメチルジスルフィド、二硫化アリル、ジブチルジスルフィド等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
前記添加剤の添加量としては、添加剤の質量と架橋ゴムの質量の質量比(添加剤の質量:架橋ゴムの質量)が0.1:100~10:100であることが好ましく、1:100~10:100であることがより好ましい。
【0043】
本実施形態のゴム組成物の製造方法においては、溶媒や添加剤に加えて、本発明の効果を損なわない範囲で、他の物質を使用することもできる。
【0044】
<ゴム組成物の製造方法で得られるゴム組成物>
本実施形態のゴム組成物の製造方法によって得られるゴム組成物は、ポリマー成分を含み、該ポリマー成分の重量平均分子量(Mw)が15万以上である。なお、ポリマー成分とは、架橋ゴムのゴム成分が脱架橋されて生じる成分をいう。
【0045】
前記ゴム組成物は、ポリマー成分の重量平均分子量(Mw)が15万以上であることが好ましく、20万以上であることがより好ましく、25万以上であることがより一層好ましい。
加硫前の天然ゴム(生ゴム)は、一般に、重量平均分子量(Mw)が50万~100万程度、ゴム組成物のポリマー成分のMwがこれらの値に近いほど好ましい。
なお、重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定できる。
【0046】
前記ゴム組成物は、脱架橋度が30%以上であればよく、50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、100%であることが特に好ましい。
なお、脱架橋度は、架橋ゴムと同じ配合成分の未架橋ゴムを溶媒を用いて抽出されたポリマー成分の質量に対し、脱架橋を行って得たポリマー成分の質量の割合という。
【0047】
また、前記ゴム組成物は、ポリマー成分に加えて、他の成分を含んでいてもよい。ゴム組成物に含まれる他の成分としては、例えば、架橋ゴムにおいて使用されるカーボンブラックやシリカ等の充填剤、架橋剤等のゴム工業界で通常使用される配合剤が含まれていてもよい。
【0048】
得られたゴム組成物は、単独で使用しても、又は未加硫(未使用)のゴム成分等と混合して使用しても、良好な加硫後物性が得られる。
【実施例0049】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0050】
<測定方法>
実施例及び比較例において使用した原料及びゴム組成物の各種物性測定は、以下のようにして行った。
【0051】
(1)ゴム組成物中のポリマー成分の重量平均分子量(Mw)
ゴム組成物中のポリマー成分の重量平均分子量(Mw)を、以下の条件でゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定により求めた。なお、重量平均分子量(Mw)はポリスチレン換算である。
・カラム:東ソー(株)製造:TSKgel GMHXL
・溶離液:テトラヒドロフラン
・流速:1mL/min
・温度:40℃
・検出器:RI
【0052】
(2)ゴム組成物の脱架橋度
架橋ゴムと同じ配合成分の未架橋ゴムを溶媒を用いて抽出されたポリマー成分の質量に対し、脱架橋を行って得たポリマー成分の質量の割合を算出した。
【0053】
(3)溶媒のSP値(溶解度パラメータ)
Fedors法によって溶媒のSP値を算出した。
【0054】
(4)溶媒の自然発火温度
アネトール以外の溶媒については吉田製作所、型式AM-659を使用して、ASTM・E659に基づき溶媒の自然発火温度を測定した。アネトールについては、近似の化学構造を持つ化合物の自然発火温度を測定し、化学構造の相違点に基づいて自然発火温度を推測した。
【0055】
<ゴム組成物の製造で使用した物質>
アネトール(溶媒):SP値=8.4(cal/cm1/2、自然発火温度235~245℃)
リモネン(溶媒):SP値=8.3(cal/cm1/2、自然発火温度235℃)
シクロヘキサン(溶媒):SP値=8.2(cal/cm1/2、自然発火温度245℃)
ジフェニルジスルフィド(DPDS)(添加剤))
【0056】
<ゴム組成物の製造>
(実施例1)
内容量51.7ccの高耐圧混練ミキサー(自主製作装置)中に、1mm程度の小片状にした加硫ゴム10gと、10gのアネトール(溶媒)とを投入した。投入物を180℃の加熱状態で接線式の噛み込みニーディングディスクにより機械的なせん断力を加え、架橋ゴム中の硫黄結合を切断する処理を行った。回転数は60rpmとし、60分間処理し続けた。ついとなるニーディングディスク間のクリアランスと回転数に基づき架橋ゴムには最大で163.4s-1の速度でせん断が付与された。
【0057】
(実施例2)
加硫ゴムと溶媒に加えて、添加剤としてジフェニルジスルフィド(DPDS)を添加したこと以外は、実施例1と同様にしてゴム組成物を製造した。
【0058】
(実施例3)
溶媒をリモネンに変更したこと以外は、実施例1と同様にしてゴム組成物を製造した。
【0059】
(実施例4)
加硫ゴムと溶媒に加えて、添加剤としてジフェニルジスルフィド(DPDS)を添加したこと以外は、実施例3と同様にしてゴム組成物を製造した。
【0060】
(実施例5)
溶媒をシクロヘキサンに変更したこと以外は、実施例2と同様にしてゴム組成物を製造した。
【0061】
(比較例1)
溶媒を投入しない以外は、実施例1と同様にしてゴム組成物を製造した。
【0062】
(比較例2)
加硫ゴムに加えて、添加剤としてジフェニルジスルフィド(DPDS)を添加したこと以外は、比較例1と同様にしてゴム組成物を製造した。
【0063】
(比較例3)
ゴム組成物の製造における温度を150℃としたこと以外は、実施例5と同様にしてゴム組成物を製造した。
【0064】
(比較例4)
溶媒をトルエンに変更したこと以外は、実施例1と同様にしてゴム組成物を製造した。
【0065】
<ゴム組成物の評価>
実施例1~5及び比較例1~4で得られたゴム組成物中のポリマー成分の重量平均分子量(Mw)と脱架橋度を上記の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
表1より、SP値が7.0(cal/cm1/2以上9.7(cal/cm1/2以下、かつ、自然発火温度が220℃以上300℃以下の溶媒中、前記架橋ゴムを温度160℃以上190℃以下で加熱しながら、前記架橋ゴムにせん断力をかけることで、短時間で効率よく、ポリマー成分が高分子量のゴム組成物を得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明によれば、短時間で効率よく、架橋ゴムからポリマー成分が高分子量のゴム組成物を製造できるゴム組成物の製造方法を提供することができる。