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特開2025-9364β-ディフェンシン-3 mRNA発現促進剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009364
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】β-ディフェンシン-3 mRNA発現促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/63 20060101AFI20250110BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20250110BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20250110BHJP
【FI】
A61K8/63
A61Q19/00
A61K8/9789
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023112321
(22)【出願日】2023-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】591082421
【氏名又は名称】丸善製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】林 祥太
(72)【発明者】
【氏名】平中 夏海
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AA082
4C083AA111
4C083AA112
4C083AA122
4C083AB032
4C083AC022
4C083AC072
4C083AC102
4C083AC122
4C083AC182
4C083AC242
4C083AC422
4C083AC442
4C083AC482
4C083AD092
4C083AD282
4C083AD352
4C083AD392
4C083AD512
4C083AD531
4C083AD532
4C083CC04
4C083CC05
4C083DD23
4C083DD27
4C083DD31
4C083EE12
(57)【要約】
【課題】優れたβ-ディフェンシン-3 mRNA発現促進作用を有し、かつ安全性が高いβ-ディフェンシン-3 mRNA発現促進剤の提供。
【解決手段】グリチルリチン酸ジカリウムを含むβ-ディフェンシン-3 mRNA発現促進剤である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリチルリチン酸ジカリウムを含むことを特徴とするβ-ディフェンシン-3 mRNA発現促進剤。
【請求項2】
ユキノシタ抽出物を更に含む請求項1に記載のβ-ディフェンシン-3 mRNA発現促進剤。
【請求項3】
ユキノシタ抽出物と併用する請求項1に記載のβ-ディフェンシン-3 mRNA発現促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β-ディフェンシン-3 mRNA発現促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は体の最外層に位置し、生体を外部の刺激から保護する重要な組織であり、有害な微生物が体内に侵入するのを防ぐ防御機能が備わっている。その中の1つとして抗菌ペプチド(antimicrobial peptide:AMPs)がある。皮膚には20種類以上のAMPsが確認されており、代表的なものとしてはβ-ディフェンシン-3(β-Defensin-3)が知られている。AMPsは表皮細胞で産生され、層板顆粒に貯蔵されて角層細胞へ放出される(例えば、非特許文献1参照)。AMPsは抗菌剤として有害な微生物の生育を阻害することで生体を外部の刺激から保護していると考えられている。
【0003】
これまでに、β-ディフェンシン-3 mRNA発現促進作用を有するものとして、ブッチャーブルーム抽出物(例えば、特許文献1参照)等が知られている。
【0004】
しかしながら、優れたβ-ディフェンシン-3 mRNA発現促進作用を有し、かつ安全性が高く、そのため、化粧料等の外用組成物や研究用試薬などの成分として広く利用が可能な新たな素材に対する要望は依然として強く、その速やかな開発が求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-104364号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】化粧品の効能を考えるときに読む皮膚科学,2020年,p.37-39
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、優れたβ-ディフェンシン-3 mRNA発現促進作用を有し、かつ安全性が高いβ-ディフェンシン-3 mRNA発現促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、グリチルリチン酸ジカリウムが、優れたβ-ディフェンシン-3 mRNA発現促進作用を有し、かつ安全性が高く、β-ディフェンシン-3 mRNA発現促進に有用な素材であることを知見した。
【0009】
本発明は、本発明者らの前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> グリチルリチン酸ジカリウムを含むことを特徴とするβ-ディフェンシン-3 mRNA発現促進剤である。
<2> ユキノシタ抽出物を更に含む前記<1>に記載のβ-ディフェンシン-3 mRNA発現促進剤である。
<3> ユキノシタ抽出物と併用する前記<1>に記載のβ-ディフェンシン-3 mRNA発現促進剤である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のβ-ディフェンシン-3 mRNA発現促進剤によると、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、優れたβ-ディフェンシン-3 mRNA発現促進作用を有し、かつ安全性が高いβ-ディフェンシン-3 mRNA発現促進剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(β-ディフェンシン-3 mRNA発現促進剤)
本実施形態に係るβ-ディフェンシン-3 mRNA発現促進剤は、グリチルリチン酸ジカリウムを有効成分として含み、更に必要に応じてその他の成分を含む。
【0012】
本明細書において、β-ディフェンシン-3 mRNAの発現を促進するとは、前記β-ディフェンシン-3 mRNA発現促進を使用しない場合と比較して、β-ディフェンシン-3 mRNAの発現レベルを高めることをいう。β-ディフェンシン-3 mRNA発現促進の程度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0013】
前記β-ディフェンシン-3 mRNA発現促進剤は、β-ディフェンシン-3 mRNA発現促進作用を増強し、より優れたβ-ディフェンシン-3 mRNA発現促進作用を奏することができる点で、ユキノシタ抽出物と組み合わせて用いることが好ましい。
ユキノシタ抽出物と組み合わせて用いる態様としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記β-ディフェンシン-3 mRNA発現促進剤が更にユキノシタ抽出物を含む態様、前記β-ディフェンシン-3 mRNA発現促進剤をユキノシタ抽出物と併用する態様などが挙げられる。
【0014】
前記グリチルリチン酸ジカリウムが、優れたβ-ディフェンシン-3 mRNA発現促進作用を有し、β-ディフェンシン-3 mRNA発現促進剤として有用であること、前記グリチルリチン酸ジカリウムと、前記ユキノシタ抽出物とを組み合わせて用いると、β-ディフェンシン-3 mRNA発現促進作用が増強されることは、従来は全く知られておらず、本発明者らによる新たな知見である。
【0015】
<グリチルリチン酸ジカリウム>
グリチルリチン酸ジカリウムは、C426016で表される分子量899.1の化合物である。
グリチルリチン酸ジカリウムは、化学合成により調製したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
【0016】
前記化学合成の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、グリチルリチン酸と、水酸化カリウム(KOH)などとを反応させる方法などが挙げられる。
【0017】
前記グリチルリチン酸を入手する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、市販品を用いる方法、グリチルリチン酸を含有する植物抽出物から単離及び精製の少なくともいずれかの方法により得る方法などが挙げられる。
【0018】
前記グリチルリチン酸を含有する植物抽出物は、グリチルリチン酸を含有する植物を抽出原料として得られる抽出液、当該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、当該抽出液を乾燥して得られる乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物のいずれであってもよい。
【0019】
前記グリチルリチン酸を含有する植物抽出物は、植物の抽出に一般に用いられている方法によって得ることができる。グリチルリチン酸を含有する植物としては、例えば、カンゾウなどが挙げられる。
【0020】
前記グリチルリチン酸ジカリウムは、優れたβ-ディフェンシン-3 mRNA発現促進作用を有しているため、その作用を利用して、前記β-ディフェンシン-3 mRNA発現促進剤の有効成分として用いることができる。
【0021】
<ユキノシタ抽出物>
前記ユキノシタ抽出物は、ユキノシタ(学名:Saxifraga stolonifera)を抽出原料とするものである。
【0022】
ユキノシタ(Saxifraga stolonifera)は、日本の本州、四国、九州および国外では中国に分布するユキノシタ科ユキノシタ属に属する常緑の多年草であり、これらの地域から容易に入手可能である。
【0023】
前記ユキノシタ抽出物は、抽出原料から調製したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
【0024】
抽出原料として使用し得る部位としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、葉、茎、花、蕾、種子、根、地上部又はこれらの混合物が挙げられる。これらの中でも全草が好ましい。
前記抽出原料の形状、構造、大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0025】
ユキノシタ抽出物に含まれるβ-ディフェンシン-3 mRNA発現促進作用を有する物質の詳細は不明であるが、植物の抽出等に一般に用いられている抽出方法によって、ユキノシタからβ-ディフェンシン-3 mRNA発現促進作用を有する抽出物を得ることができる。
【0026】
本発明において、「抽出物」には、抽出処理によって抽出原料から得られる抽出液、抽出液の希釈液もしくは濃縮液、抽出液を乾燥して得られる乾燥物、またはこれらの粗精製物もしくは精製物のいずれもが含まれる。
【0027】
上記抽出物は、抽出原料を乾燥した後、そのまま、または粗砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供することにより得ることができる。乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。また、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、上記抽出原料の極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0028】
抽出に用いられる溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、親水性有機溶媒、又はこれらの混合物等が挙げられる。
前記溶媒は、室温又は溶媒の沸点以下の温度で使用することが好ましい。
抽出原料に含まれるβ-ディフェンシン-3 mRNA発現促進作用を有する成分は、極性溶媒を抽出溶媒とする抽出処理によって容易に抽出することができる。
【0029】
抽出溶媒として使用し得る水としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等の他、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、精製、加熱、殺菌、濾過、イオン交換、浸透圧の調整、緩衝化等が含まれる。従って、本実施形態において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0030】
抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1~5の低級脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2~5の多価アルコール等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0031】
2種以上の極性溶媒の混合液を抽出溶媒として使用する場合、その混合比は適宜調整することができる。例えば、水と低級脂肪族アルコールとの混合液を抽出溶媒として使用する場合には水10容量部に対して低級脂肪族アルコール1~90容量部を混合することが好ましい。水と低級脂肪族ケトンとの混合液を抽出溶媒として使用する場合には、水10容量部に対して低級脂肪族ケトン1~40容量部を混合することが好ましい。水と多価アルコールとの混合液を抽出溶媒として使用する場合には、水10容量部に対して多価アルコール1~90容量部を混合することが好ましい。
これらの中でも、水50容量%と、1,3-ブチレングリコール50容量%との混合液を抽出溶媒として用いることが好ましい。
【0032】
抽出処理は、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り、特に制限はなく、常法に従って行うことができ、例えば、室温または還流加熱下で抽出することができる。例えば、抽出溶媒を満たした処理槽に抽出原料を投入し、必要に応じて撹拌しながら、30分~4時間静置して可溶性成分を溶出した後、濾過して固形物を除去することにより抽出物を得ることができる。得られた抽出液から抽出溶媒を留去するとペースト状の濃縮物が得られ、この濃縮物をさらに乾燥することにより乾燥物が得られる。抽出条件は、抽出溶媒として水を用いた場合には50~95℃で1~4時間程度である。また、抽出溶媒として水とエタノールとの混合溶媒を用いた場合には、40~80℃で30分~4時間程度である。また、抽出溶媒として水と1,3-ブチレングリコールとの混合溶媒を用いた場合には、80~90℃で2時間程度である。
なお、上記した抽出時間及び抽出温度は一例であり、適宜変更してもよい。また、抽出溶媒の使用量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0033】
以上のようにして得られた抽出液は、該抽出液の希釈液もしくは濃縮液、該抽出液の乾燥物、またはこれらの粗精製物もしくは精製物を得るために、常法に従って希釈、濃縮、乾燥、精製等の処理を施してもよい。
【0034】
なお、得られた抽出液はそのままでも前記β-ディフェンシン-3 mRNA発現促進剤に配合する成分として、又は前記β-ディフェンシン-3 mRNA発現促進剤と併用する剤として使用することができるが、濃縮液または乾燥物としたもののほうが好ましい。乾燥物を得るにあたっては、吸湿性を改善するためにデキストリン、シクロデキストリン等のキャリアーを添加してもよい。
【0035】
また、ユキノシタは特有の匂いを有しているため、その生理活性の低下を招かない範囲で脱色、脱臭等を目的とする精製を行うことも可能であるが、化粧料に添加する場合には大量に使用するものではないから、未精製のままでも実用上支障はない。精製は、例えば活性炭処理、吸着樹脂処理、イオン交換樹脂処理等によって行うことができる。
【0036】
以上のようにして得られるユキノシタ抽出物は、優れたβ-ディフェンシン-3 mRNA発現促進作用を有しているため、その作用を利用して、前記β-ディフェンシン-3 mRNA発現促進剤に配合する成分として、又は前記β-ディフェンシン-3 mRNA発現促進剤と併用する剤の有効成分として用いることができる。
【0037】
前記β-ディフェンシン-3 mRNA発現促進剤は、前記グリチルリチン酸ジカリウムのみからなるものであってもよいし、前記グリチルリチン酸ジカリウムと、必要に応じて前記ユキノシタ抽出物とを製剤化したものであってもよい。
前記ユキノシタ抽出物を用いる場合の、前記グリチルリチン酸ジカリウムと、前記ユキノシタ抽出物との質量比としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0038】
前記グリチルリチン酸ジカリウムと、必要に応じて用いる前記ユキノシタ抽出物は、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、安定剤、矯臭剤等を用いることができる。前記製剤化したβ-ディフェンシン-3 mRNA発現促進剤の形態としては、例えば、軟膏剤、外用液剤等が挙げられる。
【0039】
前記製剤化したβ-ディフェンシン-3 mRNA発現促進剤におけるグリチルリチン酸ジカリウムの含有量、及びユキノシタ抽出物の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0040】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、前記β-ディフェンシン-3 mRNA発現促進剤の利用形態などに応じて適宜選択することができ、例えば、上記した製剤化する際に用いることができる成分などが挙げられる。前記その他の成分は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0041】
前記β-ディフェンシン-3 mRNA発現促進剤における前記その他の成分の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0042】
前記β-ディフェンシン-3 mRNA発現促進剤の対象に対する投与方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、経皮投与などが挙げられる。
【0043】
前記β-ディフェンシン-3 mRNA発現促進剤の対象に対する投与量、投与期間、投与間隔、投与部位などとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0044】
前記β-ディフェンシン-3 mRNA発現促進剤は、前記グリチルリチン酸ジカリウムが有するβ-ディフェンシン-3 mRNA発現促進作用を通じて、β-ディフェンシン-3 mRNAの発現を促進することができる。また、前記β-ディフェンシン-3 mRNA発現促進剤は、前記ユキノシタ抽出物と組み合わせて用いることで、β-ディフェンシン-3 mRNAの発現の促進を増強し、より一層優れたβ-ディフェンシン-3 mRNA発現促進作用が得られる。これにより、有害な微生物の生育を抑制することで感染症の予防や皮膚バリアの強化ができる。一例としては、ニキビの抑制に用いることができる。ただし、前記β-ディフェンシン-3 mRNA発現促進剤は、これらの用途以外にもβ-ディフェンシン-3 mRNA発現促進作用を発揮する意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0045】
また、前記β-ディフェンシン-3 mRNA発現促進剤は、優れたβ-ディフェンシン-3 mRNA発現促進作用を有するため、皮膚化粧料、頭皮化粧料、頭髪化粧料等の化粧料等に配合するのに好適である。この場合に、グリチルリチン酸ジカリウムと、必要に応じてユキノシタ抽出物とをそのまま配合してもよいし、グリチルリチン酸ジカリウムと、必要に応じてユキノシタ抽出物とを製剤化したものを配合してもよい。
【0046】
前記β-ディフェンシン-3 mRNA発現促進剤を配合可能な化粧料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、軟膏、クリーム、乳液、化粧水、ローション、美容液、パック、ファンデーション、ヘアトニック、ヘアローション、シャンプー、リンス、石鹸などが挙げられる。
【0047】
前記β-ディフェンシン-3 mRNA発現促進剤を化粧料に配合する場合、その配合量としては、特に制限はなく、化粧料の種類などに応じて適宜調整することができるが、グリチルリチン酸ジカリウムの量に換算して、約0.0001~10質量%が好ましく、約0.001~1質量%がより好ましい。
【0048】
化粧料は、グリチルリチン酸ジカリウムが有するβ-ディフェンシン-3 mRNA発現促進作用を妨げない限り、通常の化粧料の製造に用いられる主剤、助剤またはその他の成分、例えば、収斂剤、殺菌・抗菌剤、美白剤、紫外線吸収剤、保湿剤、細胞賦活剤、消炎・抗アレルギー剤、抗酸化・活性酸素除去剤、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、香料等を併用することができる。このように併用することで、より一般性のある製品となり、また、併用された他の有効成分との間の相乗作用が通常期待される以上の優れた効果をもたらすことがある。
【0049】
前記化粧料の製造方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができる。
【0050】
前記β-ディフェンシン-3 mRNA発現促進剤は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、β-ディフェンシン-3 mRNA発現促進効果が奏される限り、ヒト以外の動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、サルなど)に対して適用することも可能である。
【0051】
また、前記β-ディフェンシン-3 mRNA発現促進剤は、β-ディフェンシン-3 mRNA発現促進作用機構に関する研究のための試薬としても好適に利用することができる。
【0052】
上述したように、前記β-ディフェンシン-3 mRNA発現促進剤は、β-ディフェンシン-3 mRNA発現促進作用を有する。
したがって、本発明は、対象に、前記β-ディフェンシン-3 mRNA発現促進剤を投与することを特徴とするβ-ディフェンシン-3 mRNA発現促進方法にも関する。
【実施例0053】
以下、試験例、製造例、配合例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、下記試験例、製造例、配合例に何ら制限されるものではない。
【0054】
〔試験例1〕β-ディフェンシン-3 mRNA発現促進作用試験
被験試料としてグリチルリチン酸ジカリウム(外原規グリチルリチン酸ジカリウム、丸善製薬株式会社製)を用い、下記の方法によりβ-ディフェンシン-3 mRNA発現促進作用の試験を実施した。
【0055】
<試験方法>
正常ヒト新生児表皮角化細胞(NHEK)を、正常ヒト表皮角化細胞増殖培地(KGM)を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を、KGMを用いて6ウェルプレートに3.0×10細胞/2mLずつ播き、37℃、5%CO下で一晩培養した。
培養後、増殖因子を添加していない培地(KBM)に交換した。24時間後に培養液を捨て、KBMで必要濃度に溶解した被験試料(濃度は下記表1を参照)を各ウェルに2mLずつ添加し、37℃、5%CO下で24時間培養した。なお、コントロールとして、被験試料無添加のKBMを用いて同様に培養した。
培養後、培養液を捨て、ISOGEN II(ニッポンジーン社製; Cat. no. 311-07361)にてトータルRNAを抽出し、それぞれのRNA量を分光光度計にて測定し、200ng/μLになるようにトータルRNAを調製した。
このトータルRNAを鋳型とし、β-ディフェンシン-3(h-BD3)及び内部標準であるGAPDHのmRNAの発現量を測定した。検出は、リアルタイムPCR装置Thermal Cycler Dice(登録商標) Real Time System III(タカラバイオ社製)を用いて、PrimeScriptTM RT Master Mix(Perfect Real Time)(タカラバイオ社製)及びTB Green(登録商標) Fast qPCR Mix(タカラバイオ社製)による2ステップリアルタイムRT-PCR反応により行った。β-ディフェンシン-3のmRNAの発現量は、GAPDHのmRNAの発現量で補正し、算出した。
得られた結果から、下記式によりβ-ディフェンシン-3 mRNA発現促進率(以下、「h-BD3 mRNA発現促進率」と称することがある。)を算出した。結果を表1に示す。なお、下記式において、被験試料無添加のβ-ディフェンシン-3 mRNA発現促進率は100%となる。
β-ディフェンシン-3 mRNA発現促進率(%)=A/B×100
上記式中のA~Bは、それぞれ以下を表す。
A : 被験試料添加時の補正値
B : 被験試料無添加時の補正値
【0056】
【表1】
【0057】
表1に示すように、グリチルリチン酸ジカリウムは、優れたβ-ディフェンシン-3 mRNA発現促進作用を有することが確認された。
【0058】
〔試験例2〕β-ディフェンシン-3 mRNA発現促進作用試験
グリチルリチン酸ジカリウムと、ユキノシタ抽出物とを併用した場合のβ-ディフェンシン-3 mRNA発現促進作用について、下記の方法により試験を実施した。
なお、グリチルリチン酸ジカリウムは試験例1と同じものを用い、ユキノシタ抽出物は下記の製造例1で製造したものを用いた。
【0059】
<製造例1>ユキノシタ抽出物の製造
ユキノシタ全草の乾燥物100gに50容量%ブチレングリコール1,500mLを加え、還流抽出器で80~90℃にて2時間加熱抽出を行い熱時濾過した。得られた抽出液を乾燥し、ユキノシタ抽出物(10g)を得た。
【0060】
<試験方法>
下記の表2に記載の被験試料を用いた以外は、試験例1と同様にして、β-ディフェンシン-3 mRNA発現促進率を求めた。結果を表2に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
表2に示すように、グリチルリチン酸ジカリウムと、ユキノシタ抽出物とを併用することで、β-ディフェンシン-3 mRNA発現促進作用の増強が認められた。
【0063】
〔配合例1〕
下記組成のクリームを常法により製造した。
・ グリチルリチン酸ジカリウム 0.05g
(試験例1で用いたものと同じ)
・ クジンエキス 0.1g
・ オウゴンエキス 0.1g
・ 流動パラフィン 5.0g
・ サラシミツロウ 4.0g
・ スクワラン 10.0g
・ セタノール 3.0g
・ ラノリン 2.0g
・ ステアリン酸 1.0g
・ オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.) 1.5g
・ モノステアリン酸グリセリル 3.0g
・ 油溶性甘草エキス 0.1g
・ 1,3-ブチレングリコール 6.0g
・ パラオキシ安息香酸メチル 1.5g
・ 香料 0.1g
・ 精製水 残部(全量を100gとする)
【0064】
〔配合例2〕
下記組成の乳液を常法により製造した。
・ グリチルリチン酸ジカリウム 0.05g
(試験例1で用いたものと同じ)
・ ユキノシタ抽出物(製造例1) 0.05g
・ ホホバオイル 4.00g
・ 1,3-ブチレングリコール 3.00g
・ アルブチン 3.00g
・ ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 2.50g
・ オリーブオイル 2.00g
・ スクワラン 2.00g
・ セタノール 2.00g
・ モノステアリン酸グリセリル 2.00g
・ オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.) 2.00g
・ パラオキシ安息香酸メチル 0.15g
・ グリチルレチン酸ステアリル 0.10g
・ 黄杞エキス 0.10g
・ イチョウ葉エキス 0.10g
・ コンキオリン 0.10g
・ オウバクエキス 0.10g
・ カミツレエキス 0.10g
・ 香料 0.05g
・ 精製水 残部(全量を100gとする)
【0065】
〔配合例3〕
下記組成の美容液を常法により製造した。
・ グリチルリチン酸ジカリウム 0.08g
(試験例1で用いたものと同じ)
・ ユキノシタ抽出物(製造例1) 0.03g
・ カミツレエキス 0.1g
・ ニンジンエキス 0.1g
・ キサンタンガム 0.3g
・ ヒドロキシエチルセルロース 0.1g
・ カルボキシビニルポリマー 0.1g
・ 1,3-ブチレングリコール 4.0g
・ グリセリン 2.0g
・ 水酸化カリウム 0.25g
・ 香料 0.01g
・ 防腐剤(パラオキシ安息香酸メチル) 0.15g
・ エタノール 2.0g
・ 精製水 残部(全量を100gとする)