(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009490
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】バイオマス処理装置
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20250110BHJP
C02F 11/04 20060101ALI20250110BHJP
B09B 3/65 20220101ALI20250110BHJP
C12M 1/04 20060101ALI20250110BHJP
C12M 1/113 20060101ALI20250110BHJP
C12P 5/02 20060101ALN20250110BHJP
【FI】
C12M1/00 D
C12M1/00 H ZAB
C02F11/04 A
B09B3/65
C12M1/04
C12M1/113
C12P5/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023112528
(22)【出願日】2023-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000133032
【氏名又は名称】株式会社タクマ
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 竜生
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 夏紀
(72)【発明者】
【氏名】羽深 昭
(72)【発明者】
【氏名】大下 和徹
(72)【発明者】
【氏名】高岡 昌輝
【テーマコード(参考)】
4B029
4B064
4D004
4D059
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA27
4B029BB01
4B029DB11
4B064AB03
4B064AD04
4B064CA01
4B064CC21
4B064CD21
4B064DA16
4D004AA02
4D004AA03
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4D004BA03
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4D004CB04
4D004CB27
4D004CC01
4D059AA01
4D059AA02
4D059AA03
4D059AA07
4D059BA16
4D059BA48
4D059BA51
4D059BJ00
4D059DA70
(57)【要約】
【課題】バイオガス中のメタン濃度を高めることができ、これによってバイオガスを多様な用途に利用することができるバイオマス処理装置を提供する。
【解決手段】バイオマスを発酵させてバイオガスを生成する湿式のバイオマス処理装置1Aであって、バイオマスを発酵させた発酵液を貯留する発酵槽2と、発酵液に水素含有ガスを供給するガス供給部5とを備えるものとする。発酵液を濾過して濾液を排出するとともに濾物を発酵槽2に戻す再利用装置7を設けることが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマスを発酵させてバイオガスを生成する湿式のバイオマス処理装置であって、
前記バイオマスを発酵させた発酵液を貯留する発酵槽と、
前記発酵液に水素含有ガスを供給するガス供給部と、
を備えるバイオマス処理装置。
【請求項2】
前記発酵槽は、酸発酵ゾーンとメタン発酵ゾーンとを有し、
前記ガス供給部は、前記メタン発酵ゾーンに前記水素含有ガスを供給する請求項1に記載のバイオマス処理装置。
【請求項3】
前記酸発酵ゾーンと前記メタン発酵ゾーンとを仕切る仕切板を設けてある請求項2に記載のバイオマス処理装置。
【請求項4】
前記発酵槽における前記仕切板の高さ位置を調整可能に構成してある請求項3に記載のバイオマス処理装置。
【請求項5】
前記発酵槽は、径方向に区分けされた外槽部と内槽部とを有し、
前記ガス供給部は、前記外槽部又は前記内槽部に前記水素含有ガスを供給する請求項1に記載のバイオマス処理装置。
【請求項6】
生成したバイオガスの少なくとも一部を前記ガス供給部に戻して循環させる循環回路を設けてある請求項1~5の何れか一項に記載のバイオマス処理装置。
【請求項7】
前記発酵液を濾過して濾液を排出するとともに濾物を前記発酵槽に戻す再利用装置を設けてある請求項1~5の何れか一項に記載のバイオマス処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスを発酵させてバイオガスを生成する湿式のバイオマス処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生物由来の有機性資源(バイオマス)を嫌気発酵すれば、最終的には、メタンと二酸化炭素とを主成分とする可燃性のバイオガスが発生する。バイオガスの利用は、環境汚染の防止及びエネルギーの再生産という観点から注目されている。
【0003】
バイオマスの嫌気発酵は、大きく分けると、加水分解菌、酸生成菌による可溶化工程と、メタン生成菌によるメタン発酵工程との二段階の生化学反応からなっている。タンパク質、炭水化物、脂肪等の高分子有機化合物は、まず、加水分解菌などによって低分子化されて高級脂肪酸、アミノ酸、糖類となる。次に、これらの低分子有機物は酸生成菌によって水素、CO2、有機酸(酢酸、酪酸、プロピオン酸、ピルビン酸、ギ酸、乳酸、コハク酸等)に分解され、最後にメタン発酵工程でメタン生成菌によってメタンが生成される。
【0004】
上記のような嫌気発酵によりメタン等を含むバイオガスを生成するバイオマス処理装置として、可溶化工程とメタン発酵工程とを行う単槽式の発酵槽を備えた装置が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のバイオマス処理装置では、酸生成菌による低分子有機物の分解によって不可避的に生じるCO2がバイオガス中に含まれるため、発生するバイオガス中のメタン濃度が約50~60%と低く、バイオガスを限られた用途にしか利用できないという問題があった。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、バイオガス中のメタン濃度を高めることができ、これによってバイオガスを多様な用途に利用することができるバイオマス処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明に係るバイオマス処理装置の特徴構成は、
バイオマスを発酵させてバイオガスを生成する湿式のバイオマス処理装置であって、
前記バイオマスを発酵させた発酵液を貯留する発酵槽と、
前記発酵液に水素含有ガスを供給するガス供給部と、
を備えることにある。
【0009】
本構成のバイオマス処理装置においては、最終的にはメタン生成菌によって、酢酸、並びに水素及びCO2から、メタンが生成される。前者のような酢酸を基質としてメタンを生成する反応は酢酸分解メタン生成反応であり、この反応は、酢酸分解メタン生成菌によるものである。一方、後者のような水素及びCO2を基質としてメタンを生成する反応はCO2還元メタン生成反応であり、この反応は、水素資化性メタン生成菌によるものである。本構成のバイオマス処理装置によれば、ガス供給部によって水素含有ガスが発酵槽内の発酵液に供給されるので、酸生成菌による低分子有機物の分解によって生じた水素とは別に、ガス供給部によって供給された水素含有ガスに由来する水素が発酵液に含まれることになる。そして、この水素含有ガスに由来する水素と、酸生成菌による低分子有機物の分解によって不可避的に生じるCO2とを基質として、水素資化性メタン生成菌によるCO2還元メタン生成反応により、メタンが生成される。こうして、CO2を水素で還元して、バイオガス中のメタン濃度を高めることができ、これによってバイオガスを多様な用途に利用することができる。
【0010】
本発明に係るバイオマス処理装置において、
前記発酵槽は、酸発酵ゾーンとメタン発酵ゾーンとを有し、
前記ガス供給部は、前記メタン発酵ゾーンに前記水素含有ガスを供給することが好ましい。
【0011】
本構成のバイオマス処理装置によれば、発酵槽は、酸発酵ゾーンとメタン発酵ゾーンとを有する。酸発酵ゾーンでは、有機物を酸生成菌により酪酸、プロピオン酸、酢酸等の低級有機酸に分解する酸生成反応が行われる。一方、メタン発酵ゾーンでは、メタン生成菌によって、酢酸、並びに水素及びCO2から、メタンを生成するメタン生成反応が行われる。ところで、ガス供給部からの水素含有ガスを発酵槽における酸発酵ゾーンに供給した場合、酸発酵ゾーンで行われる酸生成反応において副生される水素に加えて、ガス供給部によって供給される水素含有ガスに由来する水素が蓄積して水素分圧が上昇し、その結果、生産物阻害により酢酸の生成反応が進まなくなり、ひいてはメタン生成速度が遅くなる虞がある。そこで、本構成のバイオマス処理装置によれば、ガス供給部からの水素含有ガスが発酵槽におけるメタン発酵ゾーンに供給される。これにより、酸発酵ゾーンにおいて生産物阻害を回避することができる。その結果、メタン発酵ゾーンにおいて、酢酸を基質とする酢酸分解メタン生成反応によりメタンが生成されるとともに、水素及びCO2を基質とするCO2還元メタン生成反応によりメタンが生成され、メタンの生成効率を向上させることができる。
【0012】
本発明に係るバイオマス処理装置において、
前記酸発酵ゾーンと前記メタン発酵ゾーンとを仕切る仕切板を設けてあることが好ましい。
【0013】
本構成のバイオマス処理装置によれば、メタン発酵ゾーンに供給された水素含有ガスに由来する水素の酸発酵ゾーンへの移動が仕切板によって阻止されるので、酸発酵ゾーンにおいて生産物阻害の状態になるのを確実に回避することができる。
【0014】
本発明に係るバイオマス処理装置において、
前記発酵槽における前記仕切板の高さ位置を調整可能に構成してあることが好ましい。
【0015】
本構成のバイオマス処理装置によれば、発酵槽における仕切板の高さ位置を調整することにより、酸発酵ゾーンでの酸生成反応と、メタン発酵ゾーンでのメタン生成反応との割合を容易に調整することができる。
【0016】
本発明に係るバイオマス処理装置において、
前記発酵槽は、径方向に区分けされた外槽部と内槽部とを有し、
前記ガス供給部は、前記外槽部又は前記内槽部に前記水素含有ガスを供給することが好ましい。
【0017】
本構成のバイオマス処理装置によれば、外槽部又は内槽部に供給された水素含有ガスは、発酵液中において気泡となって上昇する。この発酵液中を上昇する水素含有ガスの気泡によって、外槽部又は内槽部を上昇するような発酵液の流れが生じ、これに伴い、内槽部又は外槽部を下降するような発酵液の流れが生じ、外槽部と内槽部との間に循環流が生じる。外槽部又は内槽部では酸生成反応が行われる一方で、内槽部又は外槽部ではメタン生成反応が行われ、酸生成反応とメタン生成反応とが別々に行われるが、外槽部と内槽部との間の循環流によって外槽部と内槽部との間で一定の発酵液の移動がある条件下で酸生成反応とメタン生成反応とが連動して行われる。従って、メタンの生成効率をより向上させることができる。
【0018】
本発明に係るバイオマス処理装置において、
生成したバイオガスの少なくとも一部を前記ガス供給部に戻して循環させる循環回路を設けてあることが好ましい。
【0019】
本構成のバイオマス処理装置によれば、生成したバイオガスの少なくとも一部がガス供給部に戻されて循環されることにより、バイオガス中に残留するCO2がメタンに変換されるので、バイオガス中のメタン濃度をより高めることができる。
【0020】
本発明に係るバイオマス処理装置において、
前記発酵液を濾過して濾液を排出するとともに濾物を前記発酵槽に戻す再利用装置を設けてあることが好ましい。
【0021】
本構成のバイオマス処理装置によれば、発酵液を濾過して排出される濾液(消化液)は、例えば、液肥として有効利用することができる。また、メタン菌が大量に含まれている濾物は、発酵槽に戻されて再利用される。これにより、発酵槽内においてメタン菌が高濃度に維持され、発酵を効率よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、第一実施形態のバイオマス処理装置の概略構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、第二実施形態のバイオマス処理装置の概略構成を示す模式図である。
【
図3】
図3は、第三実施形態のバイオマス処理装置の概略構成を示す模式図である。
【
図4】
図4は、第四実施形態のバイオマス処理装置の概略構成を示す模式図である。
【
図5】
図5は、第五実施形態のバイオマス処理装置の概略構成を示す模式図である。
【
図6】
図6は、第六実施形態のバイオマス処理装置の概略構成を示す模式図である。
【
図7】
図7は、第七実施形態のバイオマス処理装置の概略構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について、図面を参照しながら説明する。本明細書において、バイオマスとは、生物由来の有機性資源をいう。バイオマスとしては、例えば、有機性廃棄物、資源作物又はその廃棄物が挙げられる。有機性廃棄物としては、例えば、生ごみ、糞尿、汚泥、食品加工残渣、畜産廃棄物、廃油、動物性油脂、農作物残渣又は食品工業、製紙工業若しくは畜産業等における有機性廃水等が挙げられる。汚泥としては、例えば、下水処理汚泥、し尿処理汚泥、浄化槽汚泥、食品工場等から発生する工場排水の処理汚泥等を挙げることができる。資源作物としては、例えば、ジャガイモ、てん菜、菜種、ヒマワリ、ムギ、クロレラ、ホテイアオイ、トウモロコシ、サトウキビ又はこれらの処理工程で発生する廃棄物等が挙げられる。また、本明細書において、バイオガスとは、バイオマスの発酵(嫌気発酵)により発生するガスをいう。バイオガスの成分としては、例えば、水素ガス、メタンガス、二酸化炭素ガスが挙げられる。なお、以下の実施形態では、有機性廃棄物を発酵させてバイオガスを生成する湿式のバイオマス処理装置を例に挙げて説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されることは意図しない。
【0024】
〔第一実施形態〕
<全体構成>
図1は、第一実施形態のバイオマス処理装置1Aの概略構成を示す模式図である。
図1に示すように、バイオマス処理装置1Aは、発酵槽2、バイオマス供給部3、攪拌装置4、ガス供給部5、バイオガス回収部6及び任意の構成である再利用装置7を備え、発酵槽2内の固形物濃度を10%重量前後、又は10%重量以下に調整し、中温発酵方式又は高温発酵方式でバイオマスを発酵(メタン発酵)させてバイオガスを生成する湿式の発酵装置である。
【0025】
<発酵槽>
発酵槽2は、上下方向に軸線(図示省略)を向けた円筒状の胴部10を有し、胴部10の上側及び下側が閉鎖された縦型単槽からなる。発酵槽2は、バイオマスをメタン発酵させた発酵液FLが貯留され、発酵液FLの液面より上の空間にバイオガスBGが充満するように構成される。
【0026】
<バイオマス供給部>
バイオマス供給部3は、圧送部11とバイオマス供給管12とを備えている。圧送部11は、図示による詳細説明は省略するが、有機性廃棄物を圧送する圧送ポンプや、圧送量及び圧送圧を制御する制御弁等を備えて構成されている。バイオマス供給管12は、発酵槽2の下部(発酵液FLが貯留される部分)と圧送部11とを接続する。バイオマス供給部3の前段においては、原料となる有機性廃棄物に対し、図示されない前処理設備にて異物の除去による原料の均質化や、メタン発酵に適した水分率に調整する等の処理がなされる。このような前処理がなされた有機性廃棄物が、バイオマス供給部3により、発酵槽2の下部に供給される。
【0027】
<攪拌装置>
攪拌装置4は、発酵槽2内の発酵液FLの均一化を図るとともに、発酵基質表面に発生するスカムの除去を目的として配設されている。攪拌装置4としては、例えば、機械式攪拌タイプや、ガス攪拌タイプ、循環攪拌タイプのものが挙げられ、特に限定されるものではないが、本例では、機械式攪拌タイプのものが採用されている。
【0028】
本例において採用される機械式攪拌タイプの攪拌装置4は、発酵槽2の天部の中心位置において天部を貫通して槽内に配されるように上下方向に延設される回転軸15と、回転軸15の上端側に回転動力伝達可能に連結される駆動部16と、発酵槽2の下部に位置するように配されて回転軸15の下端側に固定される下段回転翼17とを備えて構成されている。攪拌装置4においては、駆動部16からの回転動力を、回転軸15を介して下段回転翼17に伝達して下段回転翼17を回転させることにより、発酵槽2の下部において発酵液FLを攪拌する。
【0029】
<ガス供給部>
ガス供給部5は、発酵槽2内の発酵液FLに水素含有ガスを供給する。水素含有ガスとは、水素含有ガス全体に対し容積比で少なくとも水素を10%以上含むガスを意味する。水素含有ガスにおける水素ガスの含有量は、好ましくは80%以上であり、より好ましくは90%以上であり、最も好ましくは95%以上である。水素含有ガスにおける水素ガスの含有量の上限は、特に制限はなく100%であってもよい。
【0030】
ガス供給部5は、ガス供給源21とガス供給管22とを備えている。ガス供給源21は、図示による詳細説明は省略するが、水素ガスを高圧状態で貯蔵する水素貯蔵部や、水素貯蔵部からの高圧の水素ガスを減圧する減圧弁等を備えて構成されている。なお、ここで用いる水素としては、例えば、太陽光や風力、地熱等の再生可能エネルギーで発電した電力で水を電気分解して得られる水素や、近隣の石油化学プラント等の余剰水素等が挙げられる。ガス供給管22において、ガス流れ上流側端部は、ガス供給源21に接続され、ガス流れ下流側端部は、発酵槽2内の発酵液FL中に水素含有ガスを吹き込み可能に配されている。
【0031】
<バイオガス回収部>
バイオガス回収部6は、ガス排出管25とガス引抜部26とを備えている。ガス排出管25において、ガス流れ上流側端部は、バイオガスBGを槽外に排出可能に発酵槽2に接続され、ガス流れ下流側端部は、ガスホルダー27に接続されている。ガス引抜部26は、ガス排出管25の途中に介設されている。そして、発酵槽2内からガス排出管25を介してガス引抜部26により引き抜かれたバイオガスBGは、一旦、ガスホルダー27に貯留され、その後、有効利用される。なお、ガスホルダー27のガス流れ下流側に、ガス精製装置を接続してもよい。ガス精製装置としては、バイオガスBGから硫化水素を取り除く装置や、圧力スイング吸着(PSA)により、バイオガスBGからCO2をさらに減らす装置などが挙げられる。
【0032】
<再利用装置>
再利用装置7は、還流管31、圧送ポンプ32及び固液分離装置33を備えている。還流管31は、発酵槽2に貯留される発酵液FLの液面付近に設けられた導出口34と、発酵槽2の下部に設けられた導入口35とを接続する形態で配設されている。圧送ポンプ32は、還流管31における導出口34に近い位置に介設されている。固液分離装置33は、圧送ポンプ32と導入口35との間に位置するように還流管31に介設されている。固液分離装置33においては、例えば、精密濾過膜(MF膜)、限外濾過膜(UF膜)等の濾過膜を用いることができ、膜の形状としては、例えば、平膜、中空糸膜等がある。再利用装置7においては、圧送ポンプ32の作動により、発酵槽2の上部においてバイオガスBGを取り出した後に残る発酵液(メタン発酵消化液)FLが固液分離装置33に送り込まれる。固液分離装置33は、圧送ポンプ32から送り込まれたメタン発酵消化液を濾過して、濾液と濾物とに分離する。濾物は、還流管31を介して発酵槽2の下部に戻されて再利用される。一方、濾液(濾過消化液)は、固液分離装置33の濾液排出口に接続される濾液排出管36を介して排出される。なお、排出された濾過消化液は、消化液回収部37に回収され、例えば、液肥として有効利用される。本実施形態では、固液分離装置33として、MF膜、UF膜等の濾過膜により固液分離する装置を用いる例を示したが、これに限定されるものではなく、例えば、回転ドラム、ドラムスクリーン、ベルトプレス、スクリュープレス、ベルト濃縮器、浮上分離器、沈殿分離器等の装置も用いることができる。
【0033】
以上に述べたように構成されるバイオマス処理装置1Aにおいて、有機性廃棄物は、バイオマス供給部3により、発酵槽2の下部に供給される。また、ガス供給部5からは発酵槽2内の発酵液FL中に水素含有ガスが吹き込まれる。さらに、発酵液FLを均一化するために、発酵液FLは攪拌装置4により攪拌される。
【0034】
発酵槽2においては、有機性廃棄物を基質として、加水分解菌、酸生成菌による可溶化工程と、メタン生成菌によるメタン発酵工程との二段階の生化学反応が行われる。すなわち、タンパク質、炭水化物、脂肪等の高分子有機化合物は、まず、加水分解菌などによって低分子化されて高級脂肪酸、アミノ酸、糖類となる。次に、これらの低分子有機物は、酸生成菌によって水素、CO2、有機酸(酢酸、酪酸、プロピオン酸、ピルビン酸、ギ酸、乳酸、コハク酸等)に分解され、最後にメタン発酵工程でメタン生成菌によってメタンが生成される。
【0035】
酢酸を基質としてメタンを生成する反応は酢酸分解メタン生成反応であり、この反応は、酢酸分解メタン生成菌によるものである。一方、水素及びCO2を基質としてメタンを生成する反応はCO2還元メタン生成反応であり、この反応は、水素資化性メタン生成菌によるものである。
【0036】
第一実施形態のバイオマス処理装置1Aでは、ガス供給部5によって水素含有ガスが発酵槽2内の発酵液FLに供給されるので、酸生成菌による低分子有機物の分解によって生じた水素とは別に、ガス供給部5によって供給された水素含有ガスに由来する水素が発酵液FLに含まれることになる。そして、この水素含有ガスに由来する水素と、酸生成菌による低分子有機物の分解によって不可避的に生じるCO2とを基質として、水素資化性メタン生成菌によるCO2還元メタン生成反応により、メタンが生成される。こうして、CO2を水素で還元して、バイオガスBG中のメタン濃度を高めることができる。そして、メタン発酵によって生じたバイオガスBGは、発酵槽2に貯留される発酵液FLの液面より上方に溜まり、バイオガス回収部6により回収されて有効利用される。
【0037】
発酵槽2の上部からバイオガスBGを取り出した後に残る発酵液(メタン発酵消化液)FLは、圧送ポンプ32により固液分離装置33に送り込まれ、濾液と濾物とに分離される。濾物は、発酵槽2内に戻される。濾物には、メタン菌が大量に含まれており、濾物が発酵槽2に戻されることで再利用され、これによってメタン菌を高濃度に維持して発酵を効率よく行わせることができる。一方、濾液(濾過消化液)は、消化液回収部37に回収されて、例えば、液肥として有効利用される。
【0038】
〔第二実施形態〕
図2は、第二実施形態のバイオマス処理装置1Bの概略構成を示す模式図である。第二実施形態において、第一実施形態と同一又は同様のものについては図に同一符号を付すに留めてその詳細な説明を省略することとし、以下においては第二実施形態に特有の部分を中心に説明する。
【0039】
第二実施形態のバイオマス処理装置1Bにおいて、発酵槽2は、酸発酵ゾーン41とメタン発酵ゾーン42とを有する。すなわち、発酵槽2における発酵液FLが収容される部分を下部領域と上部領域とに分け、下部領域を酸発酵ゾーン41とし、上部領域をメタン発酵ゾーン42とする。酸発酵ゾーン41では、有機物を酸生成菌により酪酸、プロピオン酸、酢酸等の低級有機酸に分解する酸生成反応が行われる。一方、メタン発酵ゾーン42では、メタン生成菌によって、酢酸、並びに水素及びCO2から、メタンを生成するメタン生成反応が行われる。
【0040】
また、バイオマス処理装置1Bにおいて、ガス供給部5は、メタン発酵ゾーン42に水素含有ガスを供給する。すなわち、ガス供給部5においては、ガス供給管22のガス流れ下流側端部が、酸発酵ゾーン41とメタン発酵ゾーン42との境界位置に配されており、当該境界位置に吹き込まれた水素含有ガスの気泡がメタン発酵ゾーン42を上昇するようにされている。これにより、メタン発酵ゾーン42に水素含有ガスが供給される。
【0041】
さらに、バイオマス処理装置1Bにおいて、攪拌装置4は、メタン発酵ゾーン42の発酵液を攪拌可能に回転軸15に固定される上段回転翼18をさらに備えている。バイオマス処理装置1Bにおいては、酸発酵ゾーン41とメタン発酵ゾーン42との境界位置に吹き込まれた水素含有ガスの気泡がメタン発酵ゾーン42を上昇しつつ、上段回転翼18の攪拌作用によってメタン発酵ゾーン42の全体に均一に拡散するようにされている。
【0042】
ところで、仮に、ガス供給部5からの水素含有ガスを酸発酵ゾーン41に供給した場合、酸発酵ゾーン41で行われる酸生成反応において副生される水素に加えて、ガス供給部5によって供給される水素含有ガスに由来する水素が蓄積して水素分圧が上昇し、その結果、生産物阻害により酢酸の生成反応が進まなくなり、ひいてはメタン生成速度が遅くなる虞がある。
【0043】
そこで、バイオマス処理装置1Bでは、ガス供給部5からの水素含有ガスを、酸発酵ゾーン41に供給せずに、メタン発酵ゾーン42に供給するようにされている。これにより、酸発酵ゾーン41において生産物阻害を回避することができ、メタン発酵ゾーン42において、酢酸を基質とする酢酸分解メタン生成反応によりメタンが生成されるとともに、水素及びCO2を基質とするCO2還元メタン生成反応によりメタンが生成される。従って、第一実施形態のバイオマス処理装置1Aよりも、メタンの生成効率を向上させることができる。
【0044】
〔第三実施形態〕
図3は、第三実施形態のバイオマス処理装置1Cの概略構成を示す模式図である。第三実施形態において、先の実施形態と同一又は同様のものについては図に同一符号を付すに留めてその詳細な説明を省略することとし、以下においては第三実施形態に特有の部分を中心に説明する(以下の第四実施形態~第七実施形態についても同様)。
【0045】
第三実施形態のバイオマス処理装置1Cは、酸発酵ゾーン41とメタン発酵ゾーン42とを仕切るようにそれらのゾーンの境界位置に配設される仕切板43をさらに備え、それ以外の構成については第二実施形態のバイオマス処理装置1Bと同様である。仕切板43は、回転軸15に固定される、又はステー等の支持部材を介して発酵槽2に固定されている。仕切板43の外周と胴部10の内周面との間には、所定の隙間Sが設けられている。これにより、バイオマス供給部3により有機性廃棄物が酸発酵ゾーン41に供給されるに伴い、酸発酵ゾーン41の発酵液FLが隙間Sを通ってメタン発酵ゾーン42に移動可能となる。
【0046】
第三実施形態のバイオマス処理装置1Cによれば、第二実施形態のバイオマス処理装置1Bと同様の作用効果を得ることができるのは言うまでもない。さらに、第三実施形態のバイオマス処理装置1Cによれば、メタン発酵ゾーン42に供給された水素含有ガスに由来する水素の酸発酵ゾーン41への移動が仕切板43によって阻止されるので、酸発酵ゾーン41において水素分圧上昇による生産物阻害の状態になるのを確実に回避することができる。
【0047】
〔第四実施形態〕
図4は、第四実施形態のバイオマス処理装置1Dの概略構成を示す模式図である。第四実施形態のバイオマス処理装置1Dにおいては、仕切板43が回転軸15に沿うように上下方向に移動可能に配設されるとともに、仕切板43を昇降させる昇降機構45が配設され、発酵槽2に対する仕切板43の高さ位置を昇降機構45により調整可能に構成されている。それ以外の構成については、第三実施形態のバイオマス処理装置1Cと同様である。なお、攪拌装置4において、昇降機構45による仕切板43の昇降動作に連動するように、回転軸15に沿って上段回転翼18を上下方向に移動させるように構成することが好ましい。また、ガス供給部5において、ガス供給管22のガス流れ下流側端部の高さ位置を可変とし、昇降機構45による仕切板43の昇降動作に連動するように、水素含有ガスの吹込位置(添加位置)を移動させるように構成することが好ましい。
【0048】
第四実施形態のバイオマス処理装置1Dによれば、第三実施形態のバイオマス処理装置1Cと同様の作用効果を得ることができるのは言うまでもない。さらに、第四実施形態のバイオマス処理装置1Dによれば、発酵槽2における仕切板43の高さ位置を調整することにより、酸発酵ゾーン41での酸生成反応と、メタン発酵ゾーン42でのメタン生成反応との割合を容易に調整することができる。
【0049】
〔第五実施形態〕
図5は、第五実施形態のバイオマス処理装置1Eの概略構成を示す模式図である。第五実施形態のバイオマス処理装置1Eにおいては、ガス排出管25におけるガス引抜部26とガスホルダー27との間の部分から分岐する形態で配設される返送管51がガス供給管22に接続されている。そして、発酵槽2、ガス排出管25、返送管51及びガス供給管22によって循環回路50が形成されている。それ以外の構成については、第一実施形態のバイオマス処理装置1Aと同様である。
【0050】
第五実施形態のバイオマス処理装置1Eによれば、第一実施形態のバイオマス処理装置1Aと同様の作用効果を得ることができるのは言うまでもない。さらに、第五実施形態のバイオマス処理装置1Eにおいては、発酵槽2の内部からガス排出管25を介してガス引抜部26により引き抜かれたバイオガスBGの少なくとも一部が、返送管51を介してガス供給部5のガス供給管22に戻されて循環回路50により循環される。これにより、バイオガスBG中に残留するCO2がメタンに変換されるので、バイオガスBG中のメタン濃度をより高めることができる。
【0051】
〔第六実施形態〕
図6は、第六実施形態のバイオマス処理装置1Fの概略構成を示す模式図である。第六実施形態のバイオマス処理装置1Fにおいては、発酵槽2の内部に区分け筒60が配設されている。区分け筒60は、胴部10の軸線に一致させるように上下方向に軸線(図示省略)を向けた円筒状部材からなり、胴部10の内周面に対し所定間隔をあけて配置されるとともに、発酵槽2の底部の上方に浮かせるように配置され、例えば、図示されないステー等の支持部材を介して胴部10に固定されている。このような発酵槽2に対する区分け筒60の配置により、発酵槽2の内部は、径方向に区分けされる。すなわち、胴部10の内周面と区分け筒60の外周面との間には、外槽部61が形成される。一方、区分け筒60の内部には、外槽部61の内方側に位置する内槽部62が形成される。こうして、発酵槽2は、径方向に区分けされた外槽部61と内槽部62とを有するものとなる。
【0052】
第六実施形態のバイオマス処理装置1Fにおいては、発酵槽2の底部と内槽部62との間に延在するようにガス供給管22が配されている。ガス供給管22には、発酵槽2の底部と内槽部62との間の発酵液FL全体に亘って水素含有ガスを吹き込み可能に複数のガス噴出孔が穿設され、水素含有ガスの気泡が内槽部62の全体を上昇するようにされている。これにより、吹き込まれた水素含有ガスの気泡が内槽部62の全体に均一に拡散され、第一実施形態のバイオマス処理装置1Aでは設けられる攪拌装置4を設けなくても、内槽部62の全体に亘って水素含有ガスを供給することができる。
【0053】
バイオマス処理装置1Fにおいて、外槽部61では、有機物を酸生成菌により酪酸、プロピオン酸、酢酸等の低級有機酸に分解する酸生成反応が行われる。一方、内槽部62では、メタン生成菌によって、酢酸、並びに水素及びCO2から、メタンを生成するメタン生成反応が行われる。
【0054】
ところで、ガス供給部5からの水素含有ガスを外槽部61に供給した場合、外槽部61で行われる酸生成反応において副生される水素に加えて、ガス供給部5によって供給される水素含有ガスに由来する水素が蓄積して水素分圧が上昇し、その結果、生産物阻害により酢酸の生成反応が進まなくなり、ひいてはメタン生成速度が遅くなる虞がある。
【0055】
そこで、バイオマス処理装置1Fでは、ガス供給部5からの水素含有ガスを、外槽部61には供給せずに、内槽部62に供給するようにされている。これにより、外槽部61において生産物阻害を回避することができ、内槽部62において、酢酸を基質とする酢酸分解メタン生成反応によりメタンが生成されるとともに、水素及びCO2を基質とするCO2還元メタン生成反応によりメタンが生成される。
【0056】
バイオマス処理装置1Fにおいては、内槽部62に供給された水素含有ガスが、発酵液FL中において気泡となって上昇する。この発酵液FL中を上昇する水素含有ガスの気泡によって、内槽部62を上昇するような発酵液FLの流れが生じ、これに伴い、外槽部61を下降するような発酵液FLの流れが生じ、外槽部61と内槽部62との間に循環流が生じる。
【0057】
第六実施形態のバイオマス処理装置1Fでは、外槽部61で酸生成反応を行い、内槽部62でメタン生成反応を行い、基本的に酸生成反応とメタン生成反応とを別々に行うが、外槽部61と内槽部62との間の循環流によって外槽部61と内槽部62との間で一定の発酵液FLの移動がある条件下で酸生成反応とメタン生成反応とが連動して行われる。従って、メタンの生成効率をより向上させることができる。
【0058】
なお、発酵槽2の底部と外槽部61との間の発酵液FL中に水素含有ガスが吹き込まれるように、ガス供給管22のガス流れ下流側端部を配し、水素含有ガスの気泡が外槽部61を上昇するようにして、外槽部61に水素含有ガスを供給するようにしてもよい。この場合、内槽部62では酸生成反応が行われ、外槽部61ではメタン生成反応が行われることになる。
【0059】
〔第七実施形態〕
図7は、第七実施形態のバイオマス処理装置1Gの概略構成を示す模式図である。第七実施形態のバイオマス処理装置1Gにおいては、ガス排出管25におけるガス引抜部26とガスホルダー27との間の部分から分岐する形態で配設される返送管71がガス供給管22に接続されている。そして、発酵槽2、ガス排出管25、返送管71及びガス供給管22によって循環回路70が形成されている。それ以外の構成については、第六実施形態のバイオマス処理装置1Fと同様である。
【0060】
第七実施形態のバイオマス処理装置1Gによれば、第六実施形態のバイオマス処理装置1Fと同様の作用効果を得ることができるのは言うまでもない。さらに、第七実施形態のバイオマス処理装置1Gにおいては、発酵槽2内部からガス排出管25を介してガス引抜部26により引き抜かれたバイオガスBGの少なくとも一部が、返送管71を介してガス供給部5のガス供給管22に戻されて循環回路70により循環される。これにより、バイオガスBG中に残留するCO2がメタンに変換されるので、バイオガスBG中のメタン濃度をより高めることができる。
【0061】
以上、本発明のバイオマス処理装置について、複数の実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態に記載した構成に限定されるものではなく、各実施形態に記載した構成を適宜組み合わせる等、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のバイオマス処理装置は、例えば、都市ガスやガスエンジン等の燃料の生産の用途への利用が可能である。
【符号の説明】
【0063】
1A~1G バイオマス処理装置
2 発酵槽
5 ガス供給部
7 再利用装置
41 酸発酵ゾーン
42 メタン発酵ゾーン
43 仕切板
50 循環回路
61 外槽部
62 内槽部
70 循環回路