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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025096880
(43)【公開日】2025-06-30
(54)【発明の名称】水素貯蔵容器
(51)【国際特許分類】
   F17C 11/00 20060101AFI20250623BHJP
【FI】
F17C11/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023212848
(22)【出願日】2023-12-18
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】519246238
【氏名又は名称】境川工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 裕太
(72)【発明者】
【氏名】山根 俊博
(72)【発明者】
【氏名】下田 英介
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 成輝
(72)【発明者】
【氏名】西村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】前田 悟志
【テーマコード(参考)】
3E172
【Fターム(参考)】
3E172AA09
3E172AB01
3E172BA04
3E172BB05
3E172BB12
3E172BB18
3E172BC07
3E172BC08
3E172FA04
3E172FA23
3E172FA27
(57)【要約】
【課題】容器の内部における水素吸蔵合金の温度分布を均一化させ、水素の吸蔵・放出反応を効率的に進行させる。
【解決手段】筒状をなし、軸方向が水平方向に沿って配置される容器本体10と、容器本体10の内部に配置され、軸方向に沿って延び、熱媒体が流通する複数の配管40と、を備え、容器本体10は、水素吸蔵合金を収容する収容室30と、収容室30の軸方向両端にそれぞれ設けられる一対の流通室31,32と、を有し、流通室31の下端側には、配管を流れる熱媒体を容器本体の外部から流入させる流入部16が接続され、流通室32の上端側には、配管を流れる熱媒体を容器本体の外部へ流出させる流出部17が接続され、一対の流通室31,32のうち、流入部16が接続されている流通室31の内部には、流通室31を複数の空間に区画する少なくとも1つの仕切り部60が設けられていることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状をなし、軸方向が水平方向に沿って配置される容器本体と、
前記容器本体の内部に配置され、前記容器本体の軸方向に沿って延び、熱媒体が流通する複数の配管と、
を備え、
前記容器本体は、
水素吸蔵合金を収容する収容室と、
前記収容室の軸方向両端にそれぞれ設けられ、隔壁により前記収容室と区画され、前記配管の端部が接続される一対の流通室と、
を有し、
前記流通室の下端側には、前記配管を流れる熱媒体を前記容器本体の外部から流入させる流入部が接続され、前記流通室の上端側には、前記配管を流れる熱媒体を前記容器本体の外部へ流出させる流出部が接続され、
一対の前記流通室のうち、前記流入部が接続されている前記流通室の内部には、前記流通室を複数の空間に区画する少なくとも1つの仕切り部が設けられている、水素貯蔵容器。
【請求項2】
前記仕切り部は、水平方向に延びる平板形状を有する、請求項1に記載の水素貯蔵容器。
【請求項3】
前記仕切り部のうち少なくとも1つは、前記収容室の上下方向の中央部の位置に設けられている、請求項1に記載の水素貯蔵容器。
【請求項4】
前記仕切り部のうち少なくとも1つは、前記収容室の上下方向の中央部よりも下側の位置に設けられている、請求項1に記載の水素貯蔵容器。
【請求項5】
前記流通室は、前記収容室の軸方向一端側に設けられ、前記流入部が接続される第1流通室と、前記収容室の軸方向他端側に設けられた第2流通室と、を有し、
前記第1流通室および前記第2流通室の内部には、それぞれ少なくとも1つの前記仕切り部が設けられ、
前記収容室の下端から、前記第1流通室に設けられた前記仕切り部のうち最も下側に配置される前記仕切り部までの高さをH1とし、前記収容室の下端から、前記第2流通室に設けられた前記仕切り部のうち最も下側に配置される前記仕切り部までの高さをH2とした際、
前記収容室の下端から高さH1の位置までの範囲に配置される前記配管の本数P1と、前記収容室の下端から高さH2の位置までの範囲に配置される前記配管の本数P2とは、(P2-P1)>P1を満たす、請求項1に記載の水素貯蔵容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素貯蔵容器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水素を安全かつ大容量で貯蔵できる手法として、水素吸蔵合金を収容した水素貯蔵容器が注目されている。この貯蔵方法は、水素吸蔵合金に水素を吸蔵させることにより水素を水素貯蔵容器内に貯蔵し、水素吸蔵合金から水素を放出させることにより、水素を水素貯蔵容器から別の燃料タンク等に充填させる。
【0003】
水素吸蔵合金に水素を吸蔵する場合は発熱反応であり、水素吸蔵合金から水素を放出する場合は吸熱反応である。そのため、これらの反応を促進するためには、水素吸蔵合金を加熱または冷却する必要がある。特許文献1には、容器の内部に多数のプレートフィンが設けられた水素貯蔵容器が開示されている。多数のプレートフィンを設けることで、水素吸蔵合金を効率よく加熱、冷却することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4420445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水素吸蔵合金を使用した水素貯蔵容器において、水素の吸蔵量および放出量を増加させることは重要な課題である。水素の吸蔵量および放出量を増加させるためには、容器の内部における水素吸蔵合金の温度分布を均一化させ、水素の吸蔵・放出反応を効率的に進行させることが重要である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様である水素貯蔵容器は、筒状をなし、軸方向が水平方向に沿って配置される容器本体と、容器本体の内部に配置され、容器本体の軸方向に沿って延び、熱媒体が流通する複数の配管と、を備え、容器本体は、水素吸蔵合金を収容する収容室と、収容室の軸方向両端にそれぞれ設けられ、隔壁により収容室と区画され、配管の端部が接続される一対の流通室と、を有し、流通室の下端側には、配管を流れる熱媒体を容器本体の外部から流入させる流入部が接続され、流通室の上端側には、配管を流れる熱媒体を容器本体の外部へ流出させる流出部が接続され、一対の流通室のうち、流入部が接続されている流通室の内部には、流通室を複数の空間に区画する少なくとも1つの仕切り部が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様である水素貯蔵容器によれば、容器の内部における水素吸蔵合金の温度分布を均一化させることができる。その結果、水素の吸蔵・放出反応を効率的に進行させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態の水素貯蔵容器の軸方向断面図である。
図2】第1実施形態の水素貯蔵容器の軸方向の中央部における上下方向断面図である。
図3】第2実施形態の水素貯蔵容器の軸方向断面図である。
図4】第2実施形態の水素貯蔵容器の軸方向の中央部における上下方向断面図である。
図5】実施例の水素貯蔵容器の軸方向断面図であって、熱電対の設置場所を示す図である。
図6】実施例の水素貯蔵容器において、収容室の内部の水素吸蔵合金の温度の経時変化を示す図である。
図7】実施例の水素貯蔵容器において、水素流量の経時変化および水素吸蔵量の経時変化を示す図である。
図8】比較例の水素貯蔵容器の軸方向断面図である。
図9】比較例の水素貯蔵容器において、収容室の内部の水素吸蔵合金の温度の経時変化を示す図である。
図10】比較例の水素貯蔵容器において、水素流量の経時変化および水素吸蔵量の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る水素貯蔵容器の実施形態の一例について詳細に説明する。以下で説明する実施形態はあくまでも一例であって、本発明は以下の実施形態に限定されない。また、以下で説明する複数の実施形態を選択的に組み合わせてなる形態は本発明に含まれている。
【0010】
[第1実施形態]
以下、図1および図2を参照しながら、第1実施形態の水素貯蔵容器1について説明する。図1は、本実施形態の水素貯蔵容器1の軸方向断面図であり、図2は、本実施形態の水素貯蔵容器1の軸方向の中央部における上下方向断面図である。
【0011】
図1に示すように、水素貯蔵容器1は、水素吸蔵合金(図示せず)を収容する収容室30を内部に有する容器本体10と、水素吸蔵合金を加熱および冷却する熱媒体が流通する複数の配管40とを備える。容器本体10は、軸方向が水平方向に沿うように配置され、配管40は、収容室30を横断するように容器本体10の軸方向、すなわち水平方向に沿って延びている。また、配管40には、複数の熱交換フィンが接合されている。本実施形態では、熱交換フィンとして、プレートフィン41が用いられている。なお、図1では、容器本体10の内部における配置関係を分かりやすくするために、後述の吸放出板50の図示を省略し、かつ実際の場合よりプレートフィン41の枚数を少なくして示している。また、図1および図2では、配管40およびプレートフィン41をハッチングして示している。
【0012】
容器本体10は、円筒形状を有する側壁11と、側壁11の軸方向一端の開口を塞ぐ第1蓋体12と、側壁11の軸方向他端の開口を塞ぐ第2蓋体13とを有する。第1蓋体12および第2蓋体13は、容器本体10の内部から軸方向外側に向かって膨らんだ形状を有する。
【0013】
なお、本実施形態では、側壁11の断面形状は円形であるが、これに限定されない。側壁11の断面形状は、例えば、多角形および楕円形としてもよい。また、側壁11、第1蓋体12、および第2蓋体13の壁厚およびサイズは、目的などに応じて、適宜選択することができる。また、側壁11、第1蓋体12、および第2蓋体13の材質は、例えば、ステンレス合金、アルミニウム合金など、水素脆化が生じない、または生じにくい材料を選択できる。
【0014】
側壁11と第1蓋体12との間には、第1隔壁14が設けられ、側壁11と第2蓋体13との間には、第2隔壁15が設けられている。これにより、容器本体10の内部には、側壁11、第1隔壁14、および第2隔壁15により区画された収容室30と、第1蓋体12および第1隔壁14により区画された第1流通室31と、第2蓋体13および第2隔壁15により区画された第2流通室32が形成されている。つまり、収容室30の軸方向両端には、第1流通室31および第2流通室32からなる一対の流通室がそれぞれ設けられている。
【0015】
また、第1隔壁14および第2隔壁15には、配管40が貫通する貫通孔(図示せず)が複数設けられている。これにより、第1流通室31には、配管40の一端が接続され、第2流通室32には、配管40の他端が接続される。本実施形態では、第1流通室31と第2流通室32とは、略同一の大きさを有する。
【0016】
ここで、第1流通室31の内部には、1つの仕切り部60が設けられている。仕切り部60は、水平方向に延びる平板形状を有する。仕切り部60の材質は特に限定されないが、例えば、ステンレス合金、アルミニウム合金が挙げられる。
【0017】
仕切り部60は、第1流通室31を2つの空間に分離するように配置されている。つまり、第1流通室31は、仕切り部60により、第1流通室31の下部空間を構成する第1流通室31A(詳しくは後述するが、流入室に相当する)と、第1流通室31の上部空間を構成する第1流通室31Bとに区画される。本実施形態では、仕切り部60は、収容室30の上下方向の中央部の位置に配置されているため、第1流通室31Aと第1流通室31Bとは略同一の大きさを有する。なお、収容室30の上下方向の中央部とは、収容室30の上端と下端とを結ぶ直線の上下方向長さを二等分する位置を意味する。
【0018】
上記のように、第1流通室31には、配管40の一端が接続されている。よって、第1流通室31Aには、配管40の端部うち、容器本体10を上下方向に二等分した際に下側の領域に配置される配管40の端部が接続される。そして、第1流通室31Bには、配管40の端部うち、容器本体10を上下方向に二等分した際に上側の領域に配置される配管40の端部が接続される。
【0019】
図1に示すように、第1蓋体12の下端側、すなわち第1蓋体12のうち第1流通室31Aを区画する部分には、配管40を流れる熱媒体を容器本体10の外部から流入させる流入部16が設けられている。これにより、第1流通室31Aには、流入部16が接続されている。また、第1蓋体12の上端側、すなわち第1蓋体12のうち第1流通室31Bを区画する部分には、配管40を流れる熱媒体を容器本体10の外部へ流出させる流出部17が設けられている。これにより、第1流通室31Bには、流出部17が接続されている。
【0020】
ここで、第1流通室31Aには、流入部16より流入した熱媒体が収容される。流入部16を介して第1流通室31Aに流入した熱媒体は、配管40を通って第2流通室32へ流通される。そして、第2流通室32へ流入した熱媒体は、配管40を通って第1流通室31Bへ流通され、流出部17を介して容器本体10の外部へ流出される。つまり、熱媒体は、容器本体10の下側の配管40を流通した後に、容器本体10の上側の配管40を流通する。
【0021】
また、第1流通室31A、第2流通室32、および第1流通室31Bを介して熱媒体を流通させることにより、配管40同士を直接接続することなく、全ての配管40に熱媒体を流通させることが可能になる。そのため、低コストで水素貯蔵容器1を作製することができる。
【0022】
本発明者らの検討の結果、後述の図8に示すように、第1流通室31に仕切り部60を設けず、第2流通室32に流出部17を接続させた場合、水素吸蔵時において、収容室30の下側領域に配置される水素吸蔵合金の温度が、収容室30の上側領域に配置される水素吸蔵合金の温度よりも高くなることが判明した。これは、第1流通室31に仕切り部60を設けない場合、容器本体10の下側領域に配置される配管40を流通する熱媒体の流速が、容器本体10の上側領域に配置される配管40を流通する熱媒体の流速よりも小さくなるためと推測される。これにより、容器本体10の下側領域に配置される配管40を流通する熱媒体の流量が減少し、水素吸蔵時において、収容室30の下側領域に配置される水素吸蔵合金を十分に冷却することが困難となる。その結果、水素の吸蔵反応を効率的に進行させることができず、水素の吸蔵量が減少してしまう。
【0023】
本実施形態のように、第1流通室31に仕切り部60を設けることにより、熱媒体は、容器本体10の下側領域に配置される配管40を流通した後に、容器本体10の上側領域に配置される配管40を流通する。これにより、容器本体10の下側領域に配置される配管40を流通する熱媒体の流量を増加させることができる。その結果、水素吸蔵時において、収容室30の下側領域に配置される水素吸蔵合金を十分に冷却することが容易になる。その結果、水素の吸蔵反応を効率的に進行させることができ、水素の吸蔵量を増加させることができる。
【0024】
また、水素吸蔵合金は、水素ガスの吸蔵・放出において体積が膨張または収縮し、その繰り返しによって微粉化する。微粉化した水素吸蔵合金は、収容室30の下部に堆積しやすいため、収容室30の下側領域における水素吸蔵合金の充填密度は、収容室30の上側領域における水素吸蔵合金の充填密度よりも大きくなる傾向がある。これにより、収容室30の下側領域では、体積当たりの水素吸放出量が大きくなり、水素の吸蔵・放出反応に伴う発熱・吸熱量も大きくなる。具体的には、容器の下側領域の温度は、水素吸蔵時にはより高温になり、水素放出時にはより低温になる。
【0025】
本実施形態のように、第1流通室31に仕切り部60を設ける、熱媒体を容器本体10の下側領域に配置される配管40を流通させた後に、容器本体10の上側領域に配置される配管40を流通させることにより、水素吸蔵合金が微粉化し、収容室30の下側領域における水素吸蔵合金の充填密度が増加した場合であっても、収容室30の下側領域に配置される水素吸蔵合金を十分に冷却することが容易になる。その結果、水素吸蔵合金が微粉化した場合であっても、水素の吸蔵反応を効率的に進行させることができ、水素の吸蔵量を増加させることができる。
【0026】
側壁11の上部には、水素吸蔵合金を容器本体10の内部へ充填するための充填口18が2つ設けられている。充填口18には蓋部19がそれぞれ設けられており、水素吸蔵合金を容器本体10の内部へ充填した後、例えば、フランジ接合により充填口18を蓋部19で塞ぐことにより、容器本体10の内部の密閉が確保される。
【0027】
また、側壁11の上部には、吸蔵時において、水素を容器本体10の内部へ流入させ、放出時において、水素を容器本体10の外部へ流出させる水素流通部20が設けられている。水素流通部20は、例えば、水素製造装置(図示せず)等と接続される。これにより、上記水素製造装置で製造した水素を、容器本体10の内部へ流入させることができる。また、水素流通部20は、例えば、燃料電池(図示せず)や燃料電池に水素を供給する燃料タンク(図示せず)へつながる配管と接続される。これにより、水素流通部20を介して流出した水素を、燃料電池に供給したり、燃料タンクに充填したりすることができる。なお、水素流通部20の個数や配置は、容器本体10の大きさ等により適宜設定可能である。
【0028】
配管40は、収容室30の内部において容器本体10の軸方向に沿って延び、熱媒体が流通する中空部材である。本実施形態では、全ての配管40が同一の形状を有する。配管40は、熱伝導性の高い材料で構成されている。配管40は、第1隔壁14および第2隔壁15に設けられた貫通孔を貫通することにより、固定されており、一端が第1流通室31に接続し、他端が第2流通室32に接続している。収容室30を横断するように配管40を配置し、配管40に熱媒体を流通させることで、収容室30に収容されている水素吸蔵合金を、効率よく加熱または冷却することができる。
【0029】
図2に示すように、本実施形態では、配管40は、容器本体10の内部において規則的に配置されている。また、容器本体10を上下方向に二等分した際、上側領域と下側領域とで同じ本数の配管40が配置されている。なお、配管40の配置はこれに限定されず、容器本体10を上下方向に二等分した際、下側領域に配置される配管40の本数を、上側領域に配置される配管40の本数よりも多くしてもよい。下側領域に多くの配管40を配置することで、収容室30の下側領域に存在する水素吸蔵合金をより効率よく加熱・冷却することができる。
【0030】
配管40の内部を流通する熱媒体としては、例えば、水またはブライン等を用いることができる。
【0031】
配管40には、熱交換フィンとして、複数のプレートフィン41が接合されている。プレートフィン41は、上下方向に延びる平板形状を有する。プレートフィン41は、貫通孔(図示せず)を有し、当該貫通孔に配管40が貫通することにより、配管40に対して固定されている。
【0032】
プレートフィン41は、容器本体10の軸方向にわたって略等間隔で配置されている。そして、収容室30において、水素吸蔵合金は、プレートフィン41と当接するように、プレートフィン41同士の間の隙間に配置される。これにより、水素吸蔵合金は、配管40に加えて、プレートフィン41を介して加熱・冷却される。換言すると、プレートフィン41を設けることにより、水素吸蔵合金を効率よく加熱・冷却することができる。容器本体10の軸方向におけるプレートフィン41同士の間隔は、水素吸蔵合金の粒径等により適宜設定可能であるが、例えば、1.0mm以上、10mm以下である。
【0033】
プレートフィン41の厚み、枚数、間隔、およびサイズは、適宜設定することができる。プレートフィン41の枚数を増やしたり、プレートフィン41のサイズを大きくしたりすることにより、水素吸蔵合金とプレートフィン41との接触面積が増加し、収容室30に収容された水素吸蔵合金を効率よく加熱・冷却することができる。また、プレートフィン41の材質は、熱伝導率が高いものであれば特に限定されず、例えば、アルミニウム合金が挙げられる。
【0034】
図2に示すように、収容室30の内部には、容器本体10の内部に存在する水素を授受する吸放出板50が設けられている。吸放出板50は、中空構造を有する枠体51と、枠体51の内部に設けられたフィルター材52とを有する。吸放出板50は、吸放出板50の長手方向が、容器本体10の軸方向に沿って延びるように配置されている。
【0035】
枠体51は、例えば、容器本体10の内壁に設けられた係止部(図示せず)と係合することにより、容器本体10の内部に設置される。枠体51は、吸放出板50の厚み方向に直交する側面にメッシュ層が形成されており、当該側面を介して水素を透過する構造を有する。これにより、枠体51の外部に存在する水素は、枠体51の側面を通じて、枠体51の内部へ流入する。また、枠体51の内部へ流入した水素は、枠体51の側面を通じて、枠体51の外部へ流出する。
【0036】
フィルター材52は、水素を透過させつつ、水素吸蔵合金の透過を抑制する機能を有する。ここで、容器本体10の内部においては、流通する水素につられて水素吸蔵合金が舞い上がる場合がある。そして、例えば、水素放出時において、水素が水素流通部20(図1参照)を通じて容器本体10の外部へ流出する際、水素吸蔵合金もつられて水素流通部20へ侵入する場合がある。水素吸蔵合金が水素流通部20に侵入すると、水素流通部20が目詰まりを起こしてしまう。本実施形態のように枠体51の内部にフィルター材52を設けることで、水素吸蔵合金が流通する水素につられて移動することが抑制される。その結果、水素吸蔵合金による水素流通部20の目詰まりが生じることを抑制できる。フィルターとしては、例えば、グラスウール、多孔質の焼結金属、および多孔質の無機膜を用いることができる。
【0037】
なお、本実施形態では、1枚の吸放出板50を収容室30の内部に設けているが、吸放出板50の枚数は、2枚以上であってもよい。また、収容室30の内部には、吸放出板50を設けていなくてもよい。
【0038】
[第2実施形態]
図3および図4を参照しながら、第2実施形態である水素貯蔵容器1Aについて説明する。図3は、本実施形態の水素貯蔵容器1Aの軸方向断面図であり、図4は、本実施形態の水素貯蔵容器1Aの軸方向の中央部における上下方向断面図である。なお、図3では、容器本体10の内部における配置関係を分かりやすくするために、吸放出板50の図示を省略し、かつ実際の場合よりプレートフィン41の枚数を少なくして示している。また、図3および図4では、配管40およびプレートフィン41をハッチングして示している。以下では、第1実施形態と共通する構成については同じ符号を用いて重複する説明を省略し、主に第1実施形態との相違点を説明する。
【0039】
図3に示すように、本実施形態では、仕切り部60として、第1流通室31に2つの仕切り部61,62が設けられており、第2流通室32に1つの仕切り部63が設けられている点で、第1実施形態と異なる。
【0040】
仕切り部61,62,63は、第1実施形態の仕切り部60と同様に、水平方向に延びる平板形状を有する。つまり、仕切り部61,62,63は、互いに平行に配置されている。
【0041】
仕切り部61は、第1流通室31の内部において、収容室30の上下方向の中央部よりも下側の位置に設けられている。また、仕切り部62は、収容室30の上下方向の中央部よりも上側の位置に設けられている。これにより、第1流通室31は、第1流通室31A(詳しくは後述するが、流入室に相当する)と、第1流通室31Bと、第1流通室31Cとに区画されている。より詳細には、第1流通室31Aは、第1蓋体12、第1隔壁14、および仕切り部61により区画されている。また、第1流通室31Bは、第1蓋体12、第1隔壁14、仕切り部61、および仕切り部62により区画されている。また、第1流通室31Cは、第1蓋体12、第1隔壁14、および仕切り部62により区画されている。
【0042】
仕切り部63は、第2流通室32の内部において、収容室30の上下方向の中央部よりも下側の位置に設けられており、第2流通室32を2つの空間に分離するように設けられている。これにより、第2流通室32は、仕切り部63により、第2流通室32の下部空間を構成する第2流通室32Aと、第2流通室32の上部空間を構成する第2流通室32Bとに区画されている。
【0043】
上記のように、第1流通室31には、配管40の一端が接続されている。よって、第1流通室31Aには、配管40の端部うち、容器本体10を上下方向に二等分した際に下側の領域に配置される配管40の端部が接続される。そして、第1流通室31Cには、配管40の端部うち、容器本体10を上下方向に二等分した際に上側の領域に配置される配管40の端部が接続される。
【0044】
また、同様に、第2流通室32には、配管40の他端が接続されている。よって、第2流通室32Aには、配管40の端部うち、容器本体10を上下方向に二等分した際に下側の領域に配置される配管40の端部が接続される。
【0045】
図3に示すように、第1蓋体12の下側、すなわち第1蓋体12のうち第1流通室31Aを区画する部分には、配管40を流れる熱媒体を容器本体10の外部から流入させる流入部16が設けられている。つまり、第1流通室31Aには、流入部16が接続されている。また、第1蓋体12の上側、すなわち第1蓋体12のうち第1流通室31Cを区画する部分には、配管40を流れる熱媒体を容器本体10の外部へ流出させる流出部17が設けられている。つまり、第1流通室31Cには、流出部17が接続されている。
【0046】
これにより、第1流通室31Aには、流入部16より流入した熱媒体が収容される。流入部16を介して第1流通室31Aに流入した熱媒体は、配管40を通って第2流通室32Aへ流通される。そして、第2流通室32Aへ流入した熱媒体は、配管40を通って第1流通室31Bへ流通される。そして、第1流通室31Bへ流入した熱媒体は、配管40を通って第2流通室32Bへ流通される。そして、第2流通室32Bへ流入した熱媒体は、配管40を通って第1流通室31Cへ流通され、流出部17を介して容器本体10の外部へ流出される。つまり、熱媒体は、容器本体10の下側の配管40を流通した後に、容器本体10の上側の配管40を流通する。
【0047】
ここで、図3および図4に示すように、収容室30の下端から、第1流通室31に設けられた仕切り部61,62のうち最も下側に配置される仕切り部61までの高さをH1とし、収容室30の下端から、第2流通室32に設けられた仕切り部63までの高さをH2とする。この際、収容室30の下端から高さH1の位置までの範囲に配置される配管40の本数P1と、収容室30の下端から高さH2の位置までの範囲に配置される配管40の本数P2とは、(P2-P1)>P1を満たすことが好ましい。つまり、収容室30の下端から高さH1の位置までの範囲を第1領域とし、高さH1の位置から高さH2の位置までの範囲を第2領域とした際、第1領域に配置される配管40の本数は、第2領域に配置される配管40の本数よりも少ない。この場合、第1領域に配置される配管40を流通する熱媒体の流速を、第2領域に配置される配管40を流通する熱媒体の流速よりも大きくすることができる。つまり、容器本体10のより下側に配置される配管40を流通する熱媒体の流速をより大きくすることができる。熱媒体の流速を大きくすることで、熱媒体と水素吸蔵合金との熱交換量を大きくすることができ、水素の吸蔵・放出反応を効率的に進行させることができる。その結果、水素の吸蔵量および放出量を増加させることができる。なお、本実施形態では、P1が24本、P2が60本となるように、すなわち第1領域に配置される配管40の本数P1が24本、第2領域に配置される配管40の本数(P2-P1)が36本となるように仕切り部61,63が配置されている。
【0048】
また、同様に、収容室30の下端から、第1流通室31に設けられた仕切り部62までの高さをH3とする。この際、収容室30の下端から高さH3の位置までの範囲に配置される配管40の本数P3と、収容室30の下端から高さH2の位置までの範囲に配置される配管40の本数P2とは、(P3-P2)>(P2-P1)を満たすことが好ましい。つまり、高さH2の位置から高さH3の位置までの範囲を第3領域とした際、第3領域に配置される配管40の本数は、上記の第2領域に配置される配管40の本数よりも多い。この場合、第2領域に配置される配管40を流通する熱媒体の流速を、第3領域に配置される配管40を流通する熱媒体の流速よりも大きくすることができる。なお、本実施形態では、P3が76本となるように、すなわち、第3領域に配置される配管40の本数(P3-P2)が40本となるように仕切り部62が配置されている。
【0049】
なお、本実施形態では、第1流通室31に2つの仕切り部61,62が設けられ、第2流通室32に1つの仕切り部63が設けられているが、仕切り部の構成はこれに限定されない。例えば、第1流通室31に3つ以上の仕切り部を設けてもよいし、第2流通室32に2つ以上の仕切り部を設けてもよい。
【0050】
また、上記の第1および第2実施形態では、仕切り部60は、水平方向に延びているが、これに限定されない。仕切り部60は、水平方向に対して上側または下側に傾斜した方向に沿って設けられていてもよい。
【0051】
また、上記の第1および第2実施形態では、流出部17は、第1蓋体12の上端側に設けられているが、これに限定されない。流出部17は、例えば、第2蓋体13に設けられていてもよい。すなわち、第2流通室32に流出部17が接続されていてもよい。
【実施例0052】
以下、実施例および比較例により本開示をさらに説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
<実施例>
水素貯蔵容器として、図1に示す水素貯蔵容器と同様のものを用いた。なお、水素貯蔵容器の容器本体は、ステンレス合金から構成されている。また、水素貯蔵容器の収容室は、軸方向長さが490mmであり、軸方向断面が円形形状を有し、内径が355mmである。
【0054】
上記の水素貯蔵容器の収容室に水素吸蔵合金を充填し、流入部から熱媒体としての10℃の水を流入させ、水素吸蔵合金を冷却し、水素吸蔵合金に水素を吸蔵させた。なお、水素吸蔵合金としては、平均粒子径2.0mmのTiFe0.80Mn0.18Nb0.02の組成を有する水素吸蔵合金を用いた。また、熱媒体の流量は、10L/minとした。また、水素圧は、1.1MPa(abs)未満とした。
【0055】
この際、収容室の内部における、水素吸蔵時の水素吸蔵合金の温度分布を評価すべく、収容室の内部に第1~第5熱電対を設置した。各熱電対の設置場所は図5に示す通りである。また、各熱電対は、水素吸蔵合金に当接するように設置した。各測定点での温度の経時変化を図6に示す。なお、図6では、流入部から熱媒体を流入させつつ、水素流入部から水素を流入させた時点を0分としている。
【0056】
また、水素流入部から投入された水素流量(L/min)に基づき、水素吸蔵合金に吸蔵された水素量(水素吸蔵量)を算出した。水素流入部から投入された水素流量(L/min)の経時変化、および算出した水素吸蔵量の経時変化を図7に示す。なお、図7では、図6と同様に、流入部から熱媒体を流入させつつ、水素流入部から水素を流入させた時点を0分としている。また、図7では、水素吸蔵量について、後述の比較例の水素貯蔵容器において、充填した水素吸蔵合金量から計算した水素充填最大量を100として、相対的に示している。
【0057】
<比較例>
水素貯蔵容器として、図8に示す水素貯蔵容器を用いたこと以外は実施例と同様に水素貯蔵容器を作製し、評価を行った。より詳細には、比較例の水素貯蔵容器は、第1流通室に仕切り部を設けず、第2流通室の上端側に流出部が接続されている。つまり、流入部を介して第1流通室に流入した熱媒体は、配管を通って第2流通室へ流通され、流出部17を介して容器本体10の外部へ流出される。比較例の水素貯蔵容器における各測定点での温度の経時変化を図9に示す。また、比較例の水素貯蔵容器における水素流入部から投入された水素流量(L/min)の経時変化、および水素吸蔵量の経時変化を図10に示す。
【0058】
まず、図6および図9に基づき、実施例および比較例の水素貯蔵容器について、収容室の内部における温度分布を比較する。図9に示すように、比較例の水素貯蔵容器の収容室の下部(第1および第3熱電対)の温度は、収容室の上部(第2および第4熱電対)の温度に比べて高くなっている。そして、その温度差の最大値は、約45分経過後において、約30℃となっている。
【0059】
一方、図6に示すように、実施例の水素貯蔵容器の収容室の下部(第1および第3熱電対)の温度は、収容室の上部(第2および第4熱電対)の温度に比べて高くなっているものの、その温度差の最大値は約20℃である。これは、第1流通室に仕切り部を設けることにより、容器本体の下側領域に配置される配管を流通する熱媒体の流速が増加したためと推測される。その結果、収容室の下側領域に配置される水素吸蔵合金と熱媒体との熱交換量が増加し、水素吸蔵合金がより冷却されたと推測される。よって、実施例の水素貯蔵容器は、比較例の水素貯蔵容器に比べて、収容室の内部における温度分布が均一化していると言える。
【0060】
次に、図7および図10に基づき、実施例および比較例の水素貯蔵容器について、水素流量および水素吸蔵量を比較する。図10に示すように、比較例の水素貯蔵容器は、開始から約40分経過後に水素流量が低下している。これは、水素吸蔵合金に吸蔵されている水素量が、吸蔵可能な上限水素量に近づくことで、水素吸蔵速度が低下するためである。一方、図7に示すように、実施例の水素貯蔵容器は、開始から約55分経過後まで水素流量が低下していない。その結果、図7に示すように、実施例の水素貯蔵容器は、比較例の水素貯蔵容器に比べて、水素吸蔵量が大幅に増大している。これは、上記の通り、実施例の水素貯蔵容器は、比較例の水素貯蔵容器に比べて、収容室の内部における温度分布が均一化しているためと推測される。
【符号の説明】
【0061】
1,1A 水素貯蔵容器、10 容器本体、11 側壁、12 第1蓋体、13 第2蓋体、14 第1隔壁、15 第2隔壁、16 流入部、17 流出部、18 充填口、19 蓋部、20 水素流通部、30 収容室、31,31A,31B,31C 第1流通室、32,32A,32B 第2流通室、40 配管、41 プレートフィン、50 吸放出板、51 枠体、52 フィルター材、60,61,62,63 仕切り部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10