(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025097061
(43)【公開日】2025-06-30
(54)【発明の名称】半導体装置の製造方法、半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 23/40 20060101AFI20250623BHJP
【FI】
H01L23/40 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023213123
(22)【出願日】2023-12-18
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【弁理士】
【氏名又は名称】尾形 文雄
(72)【発明者】
【氏名】松島 誠二
【テーマコード(参考)】
5F136
【Fターム(参考)】
5F136BA04
5F136BB04
5F136BB18
5F136EA01
5F136GA31
(57)【要約】
【課題】信頼性を向上させることができる半導体装置の製造方法等を提供する。
【解決手段】半導体装置の製造方法は、半導体素子が搭載される絶縁性基板11と、絶縁性基板11の板面と平行な平板状であって絶縁性基板11と接合される平板状部21を有し、半導体素子12が発した熱を放散する放熱部材20と、を有する半導体装置の製造方法であって、絶縁性基板11と放熱部材20の平板状部21との間に金属ペーストを介在させた状態で絶縁性基板11と放熱部材20とを積層する工程と、絶縁性基板11の中央部の面圧よりも外周部の面圧が高くなるように絶縁性基板11を加圧した状態で金属ペーストを焼結する工程と、を備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子が搭載される絶縁性基板と、
前記絶縁性基板の板面と平行な平板状であって当該絶縁性基板と接合される平板状部を有し、前記半導体素子が発した熱を放散する放熱部材と、
を有する半導体装置の製造方法であって、
前記絶縁性基板と前記放熱部材の前記平板状部との間に金属ペーストを介在させた状態で当該絶縁性基板と当該放熱部材とを積層する工程と、
前記絶縁性基板の中央部の面圧よりも外周部の面圧が高くなるように当該絶縁性基板を加圧した状態で前記金属ペーストを焼結する工程と、
を備える半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記絶縁性基板の前記中央部は、前記半導体素子の中心を中心とする円形である、
請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記絶縁性基板の外周部の面圧を中央部の面圧の1.3~3.0倍とする、
請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
半導体素子が搭載される絶縁性基板と、
前記絶縁性基板の板面と平行な平板状であって当該絶縁性基板と接合される平板状部を有し、前記半導体素子が発した熱を放散する放熱部材と、
を備え、
前記絶縁性基板と前記放熱部材の前記平板状部とは、金属ペーストを焼結することにより接合され、当該絶縁性基板の外周部における焼結部の空隙率が当該絶縁性基板の中央部における焼結部の空隙率よりも小さい、
半導体装置。
【請求項5】
前記絶縁性基板の前記中央部は、前記半導体素子を中心とする円形である、
請求項4に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造方法及び半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に記載された半導体装置は、複数の半導体素子と、複数の半導体素子が搭載される絶縁回路基板と、接合層を介して絶縁回路基板と接合される放熱基板と、を備える。そして、接合層は、複数の半導体素子の直下に位置する複数の第一焼結金属層と、第一焼結金属層よりも空隙率が大きく、かつ、絶縁回路基板の外周部に接すると共に、複数の第一焼結金属層の各々を囲む第二焼結金属層と、を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
絶縁性基板と放熱部材との線膨張係数差により、絶縁性基板と放熱部材との焼結部(特許文献1においては接合層)における外側の部位であって絶縁基板側の部位にクラックや剥離が発生するおそれがある。そして、クラック等が焼結部の内側の部位に進展して、半導体素子から発生した熱が放熱部材まで至る放熱経路まで至ると、熱性能が悪化してしまう。その結果、半導体装置の信頼性が低下してしまう。
本発明は、信頼性を向上させることができる半導体装置の製造方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる目的のもと完成させた本発明は、半導体素子が搭載される絶縁性基板と、前記絶縁性基板の板面と平行な平板状であって当該絶縁性基板と接合される平板状部を有し、前記半導体素子が発した熱を放散する放熱部材と、を有する半導体装置の製造方法であって、前記絶縁性基板と前記放熱部材の前記平板状部との間に金属ペーストを介在させた状態で当該絶縁性基板と当該放熱部材とを積層する工程と、前記絶縁性基板の中央部の面圧よりも外周部の面圧が高くなるように当該絶縁性基板を加圧した状態で前記金属ペーストを焼結する工程と、を備える半導体装置の製造方法である。
ここで、前記絶縁性基板の前記中央部は、前記半導体素子の中心を中心とする円形であっても良い。
また、前記絶縁性基板の外周部の面圧を中央部の面圧の1.3~3.0倍としても良い。
他の観点から捉えると、本発明は、半導体素子が搭載される絶縁性基板と、前記絶縁性基板の板面と平行な平板状であって当該絶縁性基板と接合される平板状部を有し、前記半導体素子が発した熱を放散する放熱部材と、を備え、前記絶縁性基板と前記放熱部材の前記平板状部とは、金属ペーストを焼結することにより接合され、当該絶縁性基板の外周部における焼結部の空隙率が当該絶縁性基板の中央部における焼結部の空隙率よりも小さい、半導体装置である。
ここで、前記絶縁性基板の前記中央部は、前記半導体素子を中心とする円形であっても良い。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、信頼性を向上させることができる半導体装置の製造方法等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態に係る半導体装置の概略構成の一例を示す図である。
【
図2】半導体モジュールを
図1のII-II部で切断した断面の一例を示す図である。
【
図3】半導体装置の製造方法の一例を説明する図である。
【
図4】第1領域及び第2領域の一例を示す図である。
【
図5】焼結工程に用いる加圧治具の一例を示す図である。
【
図6】第1緩衝部材及び第2緩衝部材の上に第2治具を載せる前の第1緩衝部材及び第2緩衝部材の状態の一例を示す図である。
【
図7】緩衝部材の変形例の一例を積層方向に見た図である。
【
図8】面圧を異ならせる手法の変形例の一例を示す図である。
【
図9】第1変形例に係る第1領域及び第2領域の一例を示す図である。
【
図10】第2変形例に係る第1領域及び第2領域の一例を示す図である。
【
図11】第2実施形態に係る半導体装置の製造方法の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、実施形態に係る半導体装置1の概略構成の一例を示す図である。
図2は、半導体モジュール10を
図1のII-II部で切断した断面の一例を示す図である。
実施形態に係る半導体装置1は、半導体モジュール10と、半導体モジュール10から伝達された熱を放熱する放熱部材20と、半導体モジュール10と放熱部材20とを接合する放熱部材接合層30とを備えている。
【0009】
半導体装置1においては、放熱部材20と半導体モジュール10とが積層されている。以下、放熱部材20と半導体モジュール10との積層方向を、単に「積層方向」と称する場合がある。また、積層方向の半導体モジュール10側(
図1では上側)を「第1側」、積層方向の放熱部材20側(
図1では下側)を「第2側」と称する場合がある。また、放熱部材20の後述する直方体状の平板状部21における、積層方向に直交する矩形状の長手方向を単に「長手方向」、矩形状の短手方向を単に「短手方向」と称する場合がある。
【0010】
図示はしないが、半導体装置1は、例えば、冷却液が流通する内部空間を有するケースに対し、放熱部材20の後述するフィン22が冷却液に接触するように取り付けられて使用される。これにより、半導体モジュール10で発生し、放熱部材接合層30を介して放熱部材20へ伝導した熱が、冷却液によって放熱される。あるいは、半導体装置1は、空気が流通する空間に放熱部材20が配置された空冷式であっても良い。
【0011】
(半導体モジュール10)
半導体モジュール10は、絶縁性基板11と、絶縁性基板11の第1側の面に積載された半導体素子12と、絶縁性基板11と半導体素子12とを接合する素子接合層15とを備えている。
【0012】
絶縁性基板11は、絶縁材料であるセラミックス板111の両面に、銅板が接合一体化された絶縁放熱回路基板であり、セラミックス板111の第1側に設けられた第1銅板112と、セラミックス板111の第2側に設けられた第2銅板113とを有する。セラミックス板111と、第1銅板112及び第2銅板113との接合は、直接接合法(Direct Copper Bonding)、活性金属接合法(Active Metal Brazing)を用いて行われていることを例示することができる。積層方向に見た場合に、セラミックス板111が第1銅板112及び第2銅板113よりも大きく、第1銅板112と第2銅板113とは同じ大きさであることを例示することができる。
【0013】
半導体素子12は、例えば、電力制御に用いられるトランジスタ、サイリスタ、ダイオード等のパワー半導体である。半導体素子12の材質は、シリコン(Si)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、酸化ガリウム(Ga2O3)を例示することができる。なお、本実施形態では、半導体素子12は、直方体状である。
【0014】
素子接合層15の厚さは、10μm以上500μm以下の範囲を例示することができる。素子接合層15を介して、絶縁性基板11と半導体素子12とを接合する手法は、銅焼結、銀焼結、又は、金焼結である。素子接合層15を構成する焼結体は、後述する放熱部材接合層30を構成する焼結体と同じであることを例示することができる。
なお、半導体モジュール10は、半導体素子12に、例えばはんだを介してリードフレームが接合されていても良い。
【0015】
(放熱部材20)
放熱部材20は、平板状の平板状部21と、平板状部21から突出する複数のフィン22とを備えている。
平板状部21は、積層方向に見た場合の形状が長方形である。平板状部21は、放熱部材接合層30を介して半導体モジュール10と対向する面である第1面211と、複数のフィン22が突出する側の面である第2面212とを有している。
【0016】
フィン22は、平板状部21の第2面212から平板状部21の板面に直交する方向に突出する。フィン22は、長手方向に延びる平板状であることを例示することができる。フィン22は、長手方向に平行であっても良いし、長手方向に傾斜した部位を有する波状であっても良い。複数のフィン22は、短手方向に並んで配置されている。また、フィン22は、平板状部21からの突出方向が積層方向となる柱状であっても良い。そして、フィン22を、突出方向に直交する面にて切断した形状(以下、「断面形状」と称する場合がある。)は、正方形、長方形、ひし形等の四角形であることを例示することができる。また、断面形状は、円や楕円であっても良い。
【0017】
放熱部材20は、銅又はアルミニウム材の少なくともいずれかにて成形されている。アルミニウム材としては、A1100等の純アルミニウムのA1000系であることを例示することができる。
放熱部材20は、素材である金属の塊に対して、切削加工及び鍛造加工の少なくともいずれかが施されることで製造されていることを例示することができる。あるいは、放熱部材20は、押出加工が施されることで製造されても良いし、押出加工が施された後に切削加工が施されることで製造されても良い。
【0018】
放熱部材接合層30は、絶縁性基板11の第2銅板113と放熱部材20の平板状部21とを接合する。放熱部材接合層30としては、第2銅板113と放熱部材20との間で熱を伝達可能なものであれば特に限定されない。放熱部材接合層30を介して絶縁性基板11と放熱部材20とを接合する手法は、銅焼結、銀焼結、又は、金焼結である。
【0019】
放熱部材接合層30の厚さは、10μm以上500μm以下の範囲を例示することができる。放熱部材接合層30の厚さが10μm未満である場合、放熱部材接合層30による、絶縁性基板11と放熱部材20との接合強度が不十分となる場合がある。また、放熱部材接合層30の厚さが500μmを超える場合、放熱部材接合層30を介した半導体素子12から放熱部材20への伝熱性が低下しやすい。この場合、半導体素子12で発生した熱の放熱効率が低下するおそれがある。なお、放熱部材接合層30の厚さは、50μm以上200μm以下の範囲が好ましく、60μm以上180μm以下の範囲がより好ましい。
【0020】
放熱部材接合層30を構成する焼結体は、例えば、絶縁性基板11の第2銅板113と放熱部材20との間に、金属粒子を分散させた金属ペーストを塗布し、焼結することで得られる。金属ペーストを焼結して焼結体を得る方法としては、無加圧焼結、加圧焼結、通電焼結等を例示することができる。
【0021】
金属ペーストは、金属粒子と、金属粒子を分散する溶媒とを含む。また、金属ペーストは、金属粒子および溶媒以外の添加剤を含んでいても良い。このような添加剤としては、界面活性剤、消泡剤、イオントラップ剤等が挙げられる。
【0022】
金属粒子としては、銅、銀、及び、金からなる群より選ばれる少なくとも1つの金属を含む粒子を例示することができる。また、金属粒子としては、表面を銀で被覆した銅からなる粒子を用いても良い。
これらの中でも、放熱部材接合層30を介した半導体モジュール10と放熱部材20との熱の伝導性の観点から、金属粒子として銅粒子を用いることが好ましい。
【0023】
金属粒子の平均粒径(50%堆積平均粒径)は、0.1μm以上500μm以下の範囲を例示することができ、1μm以上200μm以下の範囲が好ましく、10μm以上100μm以下の範囲がより好ましい。
なお、金属粒子の平均粒子径は、金属ペーストから溶媒を除去し乾燥させた金属粒子を、公知の分散剤を用いて分散させたものを光散乱法粒度分布測定装置で測定する方法により求めることができる。
【0024】
金属粒子の形状は、特に限定されず、球状、回転楕円体等の略球状、塊状、針状、フレーク状、これらの凝集体等を例示することができる。金属粒子のこれらの形状は、単独で用いてもよく、組み合わせて用いても良い。金属ペーストにおける金属粒子の分散性や放熱部材接合層30における金属粒子の充填性等の観点からは、金属粒子の形状は、球状、略球状又はフレーク状であることが好ましい。
また、金属粒子は、公知の表面処理剤により表面処理が施されていても良い。
【0025】
溶媒としては、金属ペーストの溶媒として公知の揮発性の溶媒を用いることができる。
また、金属ペーストにおける溶媒の含有量は、金属粒子の全質量を100質量部とした場合に、5質量部以上50質量部以下の範囲を例示することができる。
【0026】
{半導体装置1の製造方法}
次に、半導体装置1の製造方法について説明する。
半導体装置1の製造方法は、放熱部材20と絶縁性基板11の少なくともいずれかに金属粒子を分散させた金属ペーストを塗布する第1塗布工程と、金属ペーストを介して絶縁性基板11と放熱部材20とを積層する第1積層工程とを備える。また、半導体装置1の製造方法は、絶縁性基板11と半導体素子12の少なくともいずれかに金属粒子を分散させた金属ペーストを塗布する第2塗布工程と、金属ペーストを介して絶縁性基板11と半導体素子12とを積層する第2積層工程とを備える。また、半導体装置1の製造方法は、放熱部材20、絶縁性基板11、及び、半導体素子12を積層した状態で、放熱部材20と絶縁性基板11との間の金属ペースト、及び、絶縁性基板11と半導体素子12との間の金属ペーストを焼結する焼結工程を備える。また、半導体装置1の製造方法は、焼結工程の後、半導体素子12に、例えば、はんだ付け、焼結等の金属接合にてリードフレームを接合する工程を有しても良い。
【0027】
以下、塗布工程及び焼結工程について詳述する。
図3は、半導体装置1の製造方法の一例を説明する図である。
(第1塗布工程)
第1塗布工程では、絶縁性基板11の第2銅板113と、放熱部材20の平板状部21の第1面211との少なくともいずれかの面に、金属ペーストを塗布して第1塗膜層40を形成する。
図3(a)には、放熱部材20の平板状部21の第1面211に、金属ペーストを塗布して第1塗膜層40を形成する例を示している。
金属ペーストを塗布する手法としては、特に限定されず、スクリーン印刷、転写印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷、各種のディスペンサやコータを用いた印刷法等を例示することができる。
第1塗布工程では、平板状部21の第1面211に対して、積層方向から見て、長手方向および短手方向それぞれに対応する辺を有する矩形状の範囲に金属ペーストを塗布して、第1塗膜層40を形成する。矩形状の範囲は、絶縁性基板11の第2銅板113の形状と略同じであることを例示することができる。
【0028】
(第1積層工程)
第1積層工程では、第1塗布工程により形成された第1塗膜層40の金属ペーストを介して、放熱部材20と絶縁性基板11とを積層する。
図3(b)には、放熱部材20の平板状部21の第1面211上に形成された第1塗膜層40上に、絶縁性基板11の第2銅板113を重ねる例を示している。
【0029】
第1塗膜層40を介して放熱部材20と絶縁性基板11とを積層する際には、放熱部材20および絶縁性基板11を加圧してもよく、無加圧であっても良い。放熱部材20および絶縁性基板11に付与する力は、第1塗膜層40の形成に用いる金属ペーストの粘度等によっても異なるが、0.01MPa以下、好ましくは0.005MPa以下の範囲を例示することができる。また、力を付与する方法としては、特に限定されないが、絶縁性基板11上に錘を載せる方法等を例示することができる。
【0030】
(第2塗布工程)
第2塗布工程では、絶縁性基板11の第1銅板112と、半導体素子12における第2側の面との少なくともいずれかの面に、金属ペーストを塗布して第2塗膜層50を形成する。
図3(c)には、絶縁性基板11の第1銅板112に、金属ペーストを塗布して第2塗膜層50を形成する例を示している。金属ペーストを塗布する手法としては、特に限定されず、スクリーン印刷、転写印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷、各種のディスペンサやコータを用いた印刷法等を例示することができる。
【0031】
第2塗布工程では、絶縁性基板11の第1銅板112に対して、積層方向から見て、長手方向および短手方向それぞれに対応する辺を有する矩形状の範囲に金属ペーストを塗布して、第2塗膜層50を形成する。矩形状の範囲は、半導体素子12の第2側の面の形状と略同じであることを例示することができる。
【0032】
(第2積層工程)
第2積層工程では、第2塗布工程により形成された第2塗膜層50の金属ペーストを介して、絶縁性基板11と半導体素子12とを積層する。
図3(d)には、絶縁性基板11の第1銅板112に形成された第2塗膜層50上に、半導体素子12を重ねる例を示している。
【0033】
第2塗膜層50を介して絶縁性基板11と半導体素子12とを積層する際には、絶縁性基板11および半導体素子12を加圧してもよく、無加圧であっても良い。絶縁性基板11および半導体素子12を加圧する力は、第2塗膜層50の形成に用いる金属ペーストの粘度等によっても異なるが、0.01MPa以下、好ましくは0.005MPa以下の範囲を例示することができる。また、力を付与する方法としては、特に限定されないが、半導体素子12上に錘を載せる方法等を例示することができる。
【0034】
図4は、第1領域A1及び第2領域A2の一例を示す図である。
本実施形態においては、積層方向に見た場合の、半導体素子12の第2側の面の大きさは、絶縁性基板11の第1銅板112及び第2銅板113の大きさよりも小さく、半導体素子12は、絶縁性基板11の第1銅板112の中央部に積層される。それゆえ、積層方向に見た場合、第2塗膜層50が形成された領域に第1塗膜層40が形成されているとともに、第2塗膜層50が形成された領域の周囲にも第1塗膜層40が形成されている。以下、積層方向に見た場合に、第2塗膜層50が形成された領域を「第1領域A1」と称し、第1塗膜層40が形成されている領域の内、第2塗膜層50が形成された領域を除く領域を「第2領域A2」と称する場合がある。積層方向に見た場合に、第1領域A1は絶縁性基板11の中央部に存在し、第2領域A2は絶縁性基板11の外周部に存在する。
【0035】
(焼結工程)
焼結工程では、第1塗膜層40及び第2塗膜層50を加圧しながら加熱して第1塗膜層40及び第2塗膜層50を構成する金属ペーストを焼結し、放熱部材20と絶縁性基板11とを接合する放熱部材接合層30及び絶縁性基板11と半導体素子12とを接合する素子接合層15を形成する。
【0036】
焼結工程において第1塗膜層40及び第2塗膜層50を加熱する際の温度は、金属ペーストに含まれる金属粒子の種類等によっても異なるが、150℃以上500℃以下の範囲を例示することができる。
【0037】
焼結工程において第1塗膜層40及び第2塗膜層50を加圧する際に、絶縁性基板11の中央部の面圧よりも外周部の面圧が高くなるように加圧する。例えば、第1領域A1よりも第2領域A2の面圧が高くなるように絶縁性基板11を加圧する。
【0038】
図5は、焼結工程に用いる加圧治具500の一例を示す図である。
加圧治具500は、被加圧物400(焼結工程が施される前の半導体装置1)を載せる第1治具510と、被加圧物400を加圧する第2治具520と、第2治具520と被加圧物400との間に配置される緩衝部材530とを備える。加圧治具500は、加圧装置600にて、第2治具520における被加圧物400とは反対側の面が加圧され、第2治具520が緩衝部材530を介して被加圧物400を加圧する。
【0039】
第1治具510及び第2治具520は、金属にて成形された直方体状の部材であり、積層方向に見た場合に、被加圧物400の大きさよりも大きい。
【0040】
緩衝部材530は、主に加圧面内における面圧のバラツキを抑制するために設けられた部材であり、例えば、ゴム材やカーボンシート等にて成形されている。
緩衝部材530は、半導体素子12と第2治具520との間に配置される第1緩衝部材531と、第1緩衝部材531の周囲であって絶縁性基板11と第2治具520との間に配置される第2緩衝部材532とを有する。積層方向に見た場合に、第1緩衝部材531は、絶縁性基板11における第1領域A1に加圧装置600からの加圧力を伝達するように設けられ、第2緩衝部材532は、絶縁性基板11における第2領域A2に加圧装置600からの加圧力を伝達するように設けられている。
【0041】
図6は、第1緩衝部材531及び第2緩衝部材532の上に第2治具520を載せる前の第1緩衝部材531及び第2緩衝部材532の状態の一例を示す図である。
図6に示すように、加圧装置600により加圧される前においては、第2緩衝部材532における第1側の面が第1緩衝部材531における第1側の面よりも第1側に突出するように、第1緩衝部材531及び第2緩衝部材532における積層方向の大きさが設定されている。
【0042】
以上のように構成された加圧治具500によれば、第2治具520を介して加圧装置600により加圧されたときには、第2緩衝部材532の積層方向の弾性変形量が、第1緩衝部材531の積層方向の弾性変形量よりも大きいので、絶縁性基板11の中央部の面圧よりも外周部の面圧が高くなる。
【0043】
以上説明したように、半導体装置1の製造方法は、半導体素子12が搭載される絶縁性基板11と、絶縁性基板11の板面と平行な平板状であって絶縁性基板11と接合される平板状部21を有し、半導体素子12が発した熱を放散する放熱部材20と、を接合する接合方法を有する。この接合方法は、絶縁性基板11と放熱部材20の平板状部21との間に金属ペーストを介在させた状態で絶縁性基板11と放熱部材20とを積層する工程(例えば第1積層工程)と、絶縁性基板11の中央部(例えば第1領域A1)の面圧よりも外周部(例えば第2領域A2)の面圧が高くなるように絶縁性基板11を加圧した状態で金属ペーストを焼結する工程とを備える。
【0044】
この製造方法により製造された半導体装置1は、放熱部材接合層30における外周部の焼結状態が中央部よりも緻密になる。言い換えれば、放熱部材接合層30における外周部の空隙率が中央部の空隙率よりも小さくなる。それゆえ、放熱部材接合層30の外周部の接合強度が中央部の接合強度よりも高くなる。比較例として、外周部及び中央部の面圧を同じとするとともに外周部及び中央部の面圧を上述した中央部の面圧と同じ値とする方法を考えると、半導体装置1における外周部の接合強度は、比較例に係る方法により接合された外周部及び中央部の接合強度よりも高くなる。それゆえ、放熱部材20の平板状部21における外周部が中央部よりも第2側に位置するように撓んだとしても、放熱部材接合層30における外周部にクラックや剥離が生じることが抑制される。
【0045】
ここで、放熱部材接合層30における外周部にクラック等が生じると、半導体装置1が長期に亘って使用されることに起因して、クラック等が半導体素子12から放熱部材20へと至る放熱経路が形成される中央部の方に進展して熱性能が悪化するおそれがある。しかしながら、上記製造方法により製造された半導体装置1は、放熱部材接合層30の外周部にクラック等が生じ難いので、長期に亘って使用されても熱性能が悪化し難い。それゆえ、半導体装置1の製造方法によれば、半導体装置1の信頼性を向上させることができる。
【0046】
また、半導体装置1の製造方法によれば、例えば、中央部の面圧を従来と同じにしたまま、外周部の面圧だけを従来よりも高めることが可能となる。焼結工程における面圧が高い方が放熱部材接合層30における熱伝導率も向上するが、熱伝導率が例えば150(W/m・K)を超えると、熱伝導率が上昇しても熱抵抗は下がり難い。また、半導体素子12を加圧する力が大きくなると、半導体素子12が壊れ易くなる。上述した半導体装置1の製造方法は、以上の事項に鑑みて発案された方法であり、半導体装置1の製造方法によれば、半導体装置1の熱性能及び信頼性に真に寄与する部分のみ接合強度を高めることができる。
【0047】
以上説明した半導体装置1の製造方法において、絶縁性基板11の外周部の面圧を、中央部の面圧の1.3~3.0倍とすることが好ましい。外周部の面圧が中央部の面圧の1.3倍より小さいと、外周部と中央部との接合強度の差が小さいので、上述した信頼性が高まるという効果が小さくなる。他方、外周部の面圧が中央部の面圧の3.0倍を超えると、絶縁性基板11の外周部が壊れるおそれがある。また、中央部の面圧の大きさが従来の面圧と同じ値である場合には、外周部の面圧が従来の面圧の3.0倍を超える値となり、加圧装置600の加圧力として従来の加圧力の3.0倍を超える力が必要となる。その結果、加圧装置600の設備コストが増大するおそれがある。外周部の面圧を、中央部の面圧の1.3~3.0倍とすることで、絶縁性基板11の破壊や設備コストの増大を抑制しつつ半導体装置1の信頼性を高めることが可能となる。
【0048】
また、以上説明した半導体装置1においては、絶縁性基板11の外周部における焼結部の一例としての放熱部材接合層30の空隙率が絶縁性基板11の中央部における放熱部材接合層30の空隙率よりも小さい。外周部における空隙率が中央部よりも小さいので、外周部の方が中央部よりも接合強度や材料強度が高くなる。その結果、半導体装置1は、中央部と外周部とで均一な面圧となるように加圧された場合と比べて、信頼性が向上する。
【0049】
(緩衝部材530の変形例)
図7は、緩衝部材530の変形例の一例を積層方向に見た図である。
上述した実施形態において、第1緩衝部材531又は第2緩衝部材532の少なくともいずれかの緩衝部材は、一体的に成形されずに分割されていても良い。
図7には、分割された第2緩衝部材532の一例を示している。
図7に示すように、第2緩衝部材532は、短手方向の両端部それぞれに設けられて、絶縁性基板11における長手方向の全域に亘って配置された2つの長手部材541と、これら2つの長手部材541間の隙間を埋めるように、絶縁性基板11における長手方向の両端部それぞれに設けられた2つの短手部材542との、合計4つの部材に分割されていても良い。
【0050】
(面圧を異ならせる手法の変形例)
図5、
図6を用いて説明した、絶縁性基板11の中央部の面圧よりも外周部の面圧を高くする手法は、加圧装置600により加圧されることで変形する緩衝部材130の弾性変形量を、中央部と外周部とで異ならせる手法であるが、特にこの手法に限定されない。
【0051】
図8は、面圧を異ならせる手法の変形例の一例を示す図である。
図8に示すように、加圧装置600による加圧力を、絶縁性基板11の中央部と外周部とで異ならせることで絶縁性基板11の中央部と外周部とで面圧を異ならせても良い。すなわち、加圧装置600が、それぞれ異なる領域に対して加圧することが可能な複数の加圧部材610を等間隔で有し、複数の加圧部材610の内、絶縁性基板11の中央部に対応する位置に設けられた中央加圧部材611における加圧力よりも、絶縁性基板11の外周部に対応する位置に設けられた外周部加圧部材612における加圧力を大きくすることで面圧を異ならせても良い。
【0052】
加圧部材610は、コイルバネを有し、コイルバネのバネ力を用いて加圧する部材であることを例示することができる。加圧部材610がコイルバネを有する場合、例えば、中央加圧部材611のコイルバネのバネ定数よりも、外周部加圧部材612のコイルバネのバネ定数を大きくすることで、中央加圧部材611のコイルバネと外周部加圧部材612のコイルバネとを同じ量だけ圧縮したとしても中央加圧部材611の加圧力よりも外周部加圧部材612の加圧力を大きくすることが可能となる。あるいは、例えば、中央加圧部材611と外周部加圧部材612のコイルバネのバネ定数を同じにして、中央加圧部材611のコイルバネの圧縮量よりも外周部加圧部材612のコイルバネの圧縮量を多くすることで、中央加圧部材611の加圧力よりも外周部加圧部材612の加圧力を大きくしても良い。
【0053】
また、加圧部材610は、シリンダを有し、シリンダ内の流体(例えば、オイル、エア)の圧力を用いて加圧する部材であることを例示することができる。加圧部材610がかかる構成である場合、シリンダ内に供給する流体の圧力を変えることで、中央加圧部材611の加圧力よりも外周部加圧部材612の加圧力を大きくすることが可能となる。
【0054】
なお、加圧装置600による加圧力を、絶縁性基板11の中央部と外周部とで異ならせる場合に、
図6を用いて説明したように、第2緩衝部材532の積層方向の弾性変形量が第1緩衝部材531の積層方向の弾性変形量よりも大きくなるようにしても良いし、第1緩衝部材531の弾性変形量と第2緩衝部材532の弾性変形量とを同じにしても良い。
【0055】
(面圧を異ならせる領域の変形例)
図4を用いて説明した第1領域A1は矩形状であり、第1領域A1の周囲の第2領域A2における面圧を、矩形状の第1領域A1における面圧よりも高くしているが、第1領域A1は矩形状に限定されない。
【0056】
図9は、第1変形例に係る第1領域A11及び第2領域A21の一例を示す図である。
図9に示すように、第1変形例に係る第1領域A11は、積層方向に見た場合に、半導体素子12が設けられる領域を含むとともに、半導体素子12の中心C1を中心とする円形状であっても良い。
第1領域A11が
図9に示す形状であることにより、焼結工程時に加圧装置600にて加圧することに起因して半導体素子12が破壊されることを確度高く抑制することが可能となる。
【0057】
図10は、第2変形例に係る第1領域A12及び第2領域A22の一例を示す図である。
第2変形例に係る第1領域A12は、矩形状の半導体素子12が絶縁性基板11に複数個接合されている場合の領域の一例である。第2変形例に係る第1領域A12は、積層方向に見た場合に、
図10に示すように、複数個の半導体素子12が設けられる領域を含むとともに、複数個の半導体素子12の中心C2を中心とする円形状であっても良い。
第1領域A12が
図10に示す形状であることにより、焼結工程時に加圧装置600にて加圧することに起因して複数個の半導体素子12が破壊されることを確度高く抑制することが可能となる。
【0058】
なお、第1領域A1及び第2領域A2が、第1変形例に係る第1領域A11及び第2領域A21、又は、第2変形例に係る第1領域A12及び第2領域A22であっても、第1緩衝部材531又は第2緩衝部材532の少なくともいずれかの緩衝部材は、一体的に成形されずに分割されていても良い。
【0059】
<第2実施形態>
図11は、第2実施形態に係る半導体装置2の製造方法の一例を説明する図である。
第2実施形態に係る半導体装置2は、第1実施形態に係る半導体装置1に対して、半導体モジュール10に相当する半導体モジュール210が異なる。以下、第1実施形態と異なる点について説明する。第1実施形態と第2実施形態とで、同じものについては同じ符号を用い、その詳細な説明は省略する。
第2実施形態に係る半導体モジュール210は、絶縁性基板11と、半導体素子12と、素子接合層15と、絶縁性基板11、半導体素子12及び素子接合層15の周囲を覆う封止樹脂部250を有する。
【0060】
{半導体装置2の製造方法}
半導体装置2の製造方法は、半導体モジュール210を製造する製造工程と、半導体モジュール210と放熱部材20との少なくともいずれかに金属ペーストを塗布する塗布工程と、金属ペーストを介して半導体モジュール210と放熱部材20とを積層する積層工程と、半導体モジュール210と放熱部材20との間の金属ペーストを焼結する焼結工程とを備える。
【0061】
製造工程は、絶縁性基板11と半導体素子12とを接合した後に、熱硬化性樹脂にて封止樹脂部250を成形することを例示することができる。また、製造工程は、絶縁性基板11と半導体素子12とを接合した後、半導体素子12に、例えば、はんだ付け、焼結等の金属接合にてリードフレームを接合する工程を有しても良い。
【0062】
塗布工程では、上述した第1塗布工程と同様に、絶縁性基板11の第2銅板113と、放熱部材20の平板状部21の第1面211との少なくともいずれかの面に、金属ペーストを塗布して第1塗膜層40を形成する。
積層工程では、
図11(a)に示すように、塗布工程により形成された第1塗膜層40の金属ペーストを介して、放熱部材20と半導体モジュール210とを積層する。
【0063】
焼結工程では、
図11(b)に示すように、第1塗膜層40を加圧しながら加熱して第1塗膜層40を構成する金属ペーストを焼結し、放熱部材20と半導体モジュール210とを接合する放熱部材接合層30を形成する。
焼結工程において第1塗膜層40を加圧する際には、加圧治具500及び加圧装置600を用いて、絶縁性基板11の中央部の面圧よりも外周部の面圧が高くなるように加圧する。
【0064】
この製造方法により製造された半導体装置2は、放熱部材接合層30における外周部の焼結状態が中央部よりも緻密になるので、放熱部材接合層30の外周部の接合強度が中央部の接合強度よりも高くなる。その結果、放熱部材接合層30における外周部にクラックや剥離が生じることが抑制されるので、半導体装置2の信頼性が高まる。また、上述した半導体装置2の製造方法によれば、半導体装置2の熱性能及び信頼性に真に寄与する部分のみ接合強度を高めることができる。
【符号の説明】
【0065】
1,2…半導体装置、10,210…半導体モジュール、11…絶縁性基板、12…半導体素子、15…素子接合層、20…放熱部材、21…平板状部、22…フィン、30…放熱部材接合層、40…第1塗膜層、50…第2塗膜層、111…セラミックス板、112…第1銅板、113…第2銅板、A1…第1領域、A2…第2領域