(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009737
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】レーザー加工方法及びGaNウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20250109BHJP
B23K 26/066 20140101ALI20250109BHJP
B23K 26/53 20140101ALI20250109BHJP
B23K 26/067 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
H01L21/304 611Z
B23K26/066
B23K26/53
B23K26/067
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023218900
(22)【出願日】2023-12-26
(31)【優先権主張番号】P 2023106994
(32)【優先日】2023-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【弁理士】
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 貴之
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【弁理士】
【氏名又は名称】今藤 敏和
(72)【発明者】
【氏名】野本 朝輝
(72)【発明者】
【氏名】平田 和也
【テーマコード(参考)】
4E168
5F057
【Fターム(参考)】
4E168AE01
4E168CA06
4E168CA07
4E168CB07
4E168CB12
4E168CB22
4E168CB23
4E168DA02
4E168DA24
4E168DA32
4E168DA54
4E168EA05
4E168EA19
4E168HA01
4E168JA12
4E168JA13
5F057AA05
5F057AA06
5F057BA01
5F057BB06
5F057CA02
5F057DA22
5F057DA31
(57)【要約】
【課題】被加工物の外周領域にレーザービームを照射して被加工部の内部に改質部を形成する場合に、外周側面から被加工物に入射するレーザービームの影響を低減する。
【解決手段】被加工物を透過する波長を有するパルス状のレーザービームのうち外周側面を介して被加工物の内部へ入射するレーザービームの一部が被加工物の加工閾値未満の強度を有する様にレーザービームの一部をマスクユニットでマスクしながら、レーザービームの集光点が被加工物の内部に位置する様に集光点の高さ位置を調整した状態で、集光点が被加工物の外周領域に沿う様に集光点と被加工物とを相対的に移動させることにより、被加工物の内部に改質層を形成するレーザービーム照射工程を備えるレーザー加工方法を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー加工方法であって、
第1面と、該第1面と反対側に位置する第2面と、該第1面及び該第2面に交差する外周側面と、を有する柱状又は板状の被加工物に対して、該第1面から該第2面へ進む方向で該被加工物の外周領域に対して該被加工物を透過する波長を有するパルス状のレーザービームを照射する際に該レーザービームのうち該外周側面から該被加工物の内部へ入る該レーザービームの一部が該被加工物の加工閾値未満の強度を有する様に、該レーザービームの一部をマスクするマスクユニットを調整するマスク準備工程と、
該マスク準備工程の後、該レーザービームの集光点が該被加工物の内部に位置する様に該集光点の高さ位置を調整した状態で、該集光点が該外周領域に沿う様に該集光点と該被加工物とを相対的に移動させることにより、該外周側面を介して該被加工物の内部へ入射する該レーザービームの一部が該被加工物の加工閾値未満の強度を有する様に該レーザービームの一部を該マスクユニットでマスクしながら、該被加工物の内部に改質層を形成するレーザービーム照射工程と、
を備えることを特徴とするレーザー加工方法。
【請求項2】
該マスクユニットは、該レーザービームを少なくとも部分的に変調する空間光位相変調器、又は、該レーザービームを部分的にマスクする金属製のマスクを有し、
該レーザービーム照射工程では、該空間光位相変調器により、光の強度が弱め合う様に該レーザービームを少なくとも部分的に変調することで該レーザービームの一部をマスクする、又は、該金属製のマスクにより、物理的に該レーザービームの一部をマスクすることを特徴とする請求項1に記載のレーザー加工方法。
【請求項3】
該レーザービーム照射工程では、該マスクユニットでマスクされなかった該レーザービームの他の一部が、該集光点と該被加工物とが相対的に移動する方向に対して平面視において交差する所定方向に沿って配置された複数の集光点に集光する様に、該レーザービームの該他の一部を分岐させた上で、該レーザービームの該他の一部を該被加工物に照射することを特徴とする請求項1又は2に記載のレーザー加工方法。
【請求項4】
GaNインゴット又はGaN単結晶基板である被加工物から該被加工物の厚さ未満の厚さを有するGaNウェーハを製造するGaNウェーハの製造方法であって、
該被加工物は、第1面と、該第1面と反対側に位置する第2面と、該第1面及び該第2面に交差する外周側面と、を有し、
該GaNウェーハの製造方法は、
該被加工物を透過する波長を有するパルス状のレーザービームの集光点が該被加工物の内部に位置する様に該集光点の高さ位置を調整した状態で該集光点が該被加工物の外周領域に沿う様に該被加工物と該集光点とを相対的に移動させて、該外周領域に剥離層を形成する外周領域剥離層形成工程と、
該外周領域剥離層形成工程の後に、該第1面又は該第2面の面内において該外周領域よりも内側に位置する該被加工物の中央領域において該集光点と該被加工物とを相対的に移動させて、該中央領域に剥離層を形成する中央領域剥離層形成工程と、
該外周領域の剥離層と、該中央領域の剥離層と、を起点として該被加工物から該GaNウェーハを剥離する剥離工程と、
を備え、
該外周領域剥離層形成工程では、該レーザービームのうち該外周側面から該被加工物の内部へ入射する該レーザービームの一部が該被加工物の加工閾値未満の強度を有する様に該レーザービームの一部をマスクユニットでマスクしながら該被加工物の内部に剥離層を形成することを特徴とするGaNウェーハの製造方法。
【請求項5】
該マスクユニットは、該レーザービームを少なくとも部分的に変調する空間光位相変調器、又は、該レーザービームを部分的にマスクする金属製のマスクを有し、
該外周領域剥離層形成工程では、該空間光位相変調器により、光の強度が弱め合う様に該レーザービームを少なくとも部分的に変調することで該レーザービームの一部をマスクする、又は、該金属製のマスクにより、物理的に該レーザービームの一部をマスクすることを特徴とする請求項4に記載のGaNウェーハの製造方法。
【請求項6】
該外周領域剥離層形成工程では、該マスクユニットでマスクされなかった該レーザービームの他の一部が、該集光点と該被加工物とが相対的に移動する方向に対して平面視において交差する所定方向に沿って配置された複数の集光点に集光する様に、該レーザービームの該他の一部を分岐させた上で、該レーザービームの該他の一部を該被加工物に照射することを特徴とする請求項4に記載のGaNウェーハの製造方法。
【請求項7】
該中央領域剥離層形成工程において該集光点と該被加工物とを相対的に移動させる方向は、該GaNインゴット又は該GaN単結晶基板の(0001)面において下記の(1)で表される結晶方位との間で形成される角度が10°以下であることを特徴とする請求項4から6のいずれかに記載のGaNウェーハの製造方法。
【数1】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物を透過する波長を有するパルス状のレーザービームで被加工物を加工するレーザー加工方法と、当該レーザービームを用いてGaNインゴット又はGaN単結晶基板である被加工物から当該被加工物の厚さ未満の厚さを有するGaNウェーハを製造するGaNウェーハの製造方法と、に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザービームを用いてインゴットの内部の略同じ深さにおいて、改質層と、当該改質層から進展するクラックと、をそれぞれ含む複数の剥離層を形成した後、機械的強度が低減されたこの複数の剥離層を起点にインゴットからウェーハを剥離する方法が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
剥離層を形成する際には、インゴットを透過する波長を有するパルス状のレーザービームの集光点をインゴットの内部に位置付けた状態で、インゴットの厚さ方向と直交する所定方向に沿ってレーザービームとインゴットと相対的に加工送りする。これにより、剥離層をインゴットの内部に形成する。
【0004】
1つの剥離層を形成した後、集光点とインゴットとを相対的に割り出し送りし、次いで、同様に加工送りすることにより、更に剥離層を形成する。この様にして、それぞれ所定方向に沿う複数の剥離層をインゴットの内部に形成する。
【0005】
また、第1のウェーハと第2のウェーハとが積層された積層ウェーハにおいて、それぞれ所定方向に沿う複数の剥離層を第1のウェーハの内部に形成した後、複数の剥離層を起点として、第1のウェーハを二枚の円盤に分割する様に剥離する方法が開発されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
この方法においても、剥離層を形成する際には、第1のウェーハを透過する波長を有するパルス状のレーザービームの集光点を第1のウェーハの内部に位置付けた状態で、第1のウェーハの厚さ方向と直交する所定方向に沿ってレーザービームと第1のウェーハとを相対的に移動させることで、第1のウェーハの内部に剥離層を形成する。
【0007】
ところで、インゴット、積層ウェーハ等の被加工物において、被加工物の外周領域にレーザービームを照射する場合には、レーザービームの一部が被加工物の表面から入射すると共に、レーザービームの他の一部が被加工物の外周側面から入射することがある。
【0008】
被加工物の表面から入射するレーザービームの集光点と、被加工物の外周側面から入射するレーザービームの集光点と、では、被加工物の内外での屈折率の差異に起因して、被加工物の厚さ方向における集光点の位置が異なるので、同一の深さ位置においてレーザービームの強度(W/cm2)が異なる。
【0009】
加えて、外周側面では、レーザービームが反射、散乱等される。それゆえ、被加工物の外周領域では、改質層の深さ位置、改質層の形成態様等が、被加工物の中央部とは異なり、加えて、被加工物の外周領域では、改質層から進展するクラックが予期せぬ方向に進展する恐れがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2016-111143号公報
【特許文献2】特開2023-26825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は係る問題点に鑑みてなされたものであり、被加工物の外周領域にレーザービームを照射して被加工部の内部に改質部を形成する場合に、外周側面から被加工物に入射するレーザービームの影響を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様によれば、レーザー加工方法であって、第1面と、該第1面と反対側に位置する第2面と、該第1面及び該第2面に交差する外周側面と、を有する柱状又は板状の被加工物に対して、該第1面から該第2面へ進む方向で該被加工物の外周領域に対して該被加工物を透過する波長を有するパルス状のレーザービームを照射する際に該レーザービームのうち該外周側面から該被加工物の内部へ入る該レーザービームの一部が該被加工物の加工閾値未満の強度を有する様に、該レーザービームの一部をマスクするマスクユニットを調整するマスク準備工程と、該マスク準備工程の後、該レーザービームの集光点が該被加工物の内部に位置する様に該集光点の高さ位置を調整した状態で、該集光点が該外周領域に沿う様に該集光点と該被加工物とを相対的に移動させることにより、該外周側面を介して該被加工物の内部へ入射する該レーザービームの一部が該被加工物の加工閾値未満の強度を有する様に該レーザービームの一部を該マスクユニットでマスクしながら、該被加工物の内部に改質層を形成するレーザービーム照射工程と、を備えるレーザー加工方法が提供される。
【0013】
好ましくは、該マスクユニットは、該レーザービームを少なくとも部分的に変調する空間光位相変調器、又は、該レーザービームを部分的にマスクする金属製のマスクを有し、該レーザービーム照射工程では、該空間光位相変調器により、光の強度が弱め合う様に該レーザービームを少なくとも部分的に変調することで該レーザービームの一部をマスクする、又は、該金属製のマスクにより、物理的に該レーザービームの一部をマスクする。
【0014】
また、好ましくは、該レーザービーム照射工程では、該マスクユニットでマスクされなかった該レーザービームの他の一部が、該集光点と該被加工物とが相対的に移動する方向に対して平面視において交差する所定方向に沿って配置された複数の集光点に集光する様に、該レーザービームの該他の一部を分岐させた上で、該レーザービームの該他の一部を該被加工物に照射する。
【0015】
本発明の他の態様によれば、GaNインゴット又はGaN単結晶基板である被加工物から該被加工物の厚さ未満の厚さを有するGaNウェーハを製造するGaNウェーハの製造方法であって、該被加工物は、第1面と、該第1面と反対側に位置する第2面と、該第1面及び該第2面に交差する外周側面と、を有し、該GaNウェーハの製造方法は、該被加工物を透過する波長を有するパルス状のレーザービームの集光点が該被加工物の内部に位置する様に該集光点の高さ位置を調整した状態で該集光点が該被加工物の外周領域に沿う様に該被加工物と該集光点とを相対的に移動させて、該外周領域に剥離層を形成する外周領域剥離層形成工程と、該外周領域剥離層形成工程の後に、該第1面又は該第2面の面内において該外周領域よりも内側に位置する該被加工物の中央領域において該集光点と該被加工物とを相対的に移動させて、該中央領域に剥離層を形成する中央領域剥離層形成工程と、該外周領域の剥離層と、該中央領域の剥離層と、を起点として該被加工物から該GaNウェーハを剥離する剥離工程と、を備え、該外周領域剥離層形成工程では、該レーザービームのうち該外周側面から該被加工物の内部へ入射する該レーザービームの一部が該被加工物の加工閾値未満の強度を有する様に該レーザービームの一部をマスクユニットでマスクしながら該被加工物の内部に剥離層を形成するGaNウェーハの製造方法が提供される。
【0016】
好ましくは、該マスクユニットは、該レーザービームを少なくとも部分的に変調する空間光位相変調器、又は、該レーザービームを部分的にマスクする金属製のマスクを有し、該外周領域剥離層形成工程では、該空間光位相変調器により、光の強度が弱め合う様に該レーザービームを少なくとも部分的に変調することで該レーザービームの一部をマスクする、又は、該金属製のマスクにより、物理的に該レーザービームの一部をマスクする。
【0017】
また、好ましくは、該外周領域剥離層形成工程では、該マスクユニットでマスクされなかった該レーザービームの他の一部が、該集光点と該被加工物とが相対的に移動する方向に対して平面視において交差する所定方向に沿って配置された複数の集光点に集光する様に、該レーザービームの該他の一部を分岐させた上で、該レーザービームの該他の一部を該被加工物に照射する。
【0018】
また、好ましくは、該中央領域剥離層形成工程において該集光点と該被加工物とを相対的に移動させる方向は、該GaNインゴット又は該GaN単結晶基板の(0001)面において下記の(1)で表される結晶方位との間で形成される角度が10°以下である。
【数1】
【発明の効果】
【0019】
本発明の一態様に係るレーザー加工方法では、レーザービーム照射工程において、外周側面を介して被加工物の内部へ入射するレーザービームの一部が被加工物の加工閾値未満の強度を有する様に、当該レーザービームの一部をマスクユニットでマスクしながら、被加工物の内部に改質層を形成する。それゆえ、外周側面から被加工物に入射するレーザービームの影響を低減できる。
【0020】
本発明の他の態様に係るGaNウェーハの製造方法では、外周領域剥離層形成工程において、レーザービームのうち外周側面から被加工物の内部へ入射するレーザービームの一部が被加工物の加工閾値未満の強度を有する様に、当該レーザービームの一部をマスクユニットでマスクしながら被加工物の内部に剥離層を形成する。それゆえ、外周側面から被加工物に入射するレーザービームの影響を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】第1の実施形態に係るレーザー加工方法の一例を示すフロー図である。
【
図3】マスク準備工程で空間光位相変調器に表示される変調パターンの一例である。
【
図4】
図4(A)はレーザービーム照射工程を示す図であり、
図4(B)は
図4(A)の部分拡大図である。
【
図5】
図5(A)はY軸方向において最も外周側面に近い集光点を形成する際のレーザービームを示す図であり、
図5(B)はY軸方向において最も外周側面から遠い集光点を形成する際のレーザービームを示す図である。
【
図6】レーザービーム照射工程での被加工物の平面図である。
【
図7】
図7(A)は第1の比較実験において空間光位相変調器に表示される変調パターンの一例であり、
図7(B)は第1の比較実験でのレーザー加工後の被加工物の外周領域の平面写真である。
【
図8】
図8(A)は第2の比較実験において空間光位相変調器に表示される変調パターンの一例であり、
図8(B)は第2の比較実験でのレーザー加工後の被加工物の外周領域の平面写真である。
【
図9】
図9(A)は第1の実施形態に対応する第1実験において空間光位相変調器に表示される変調パターンの一例であり、
図9(B)はレーザー加工後の被加工物の外周領域の平面写真である。
【
図10】
図10(A)は変形例におけるマスク準備工程を示す図であり、
図10(B)は変形例におけるレーザービーム照射工程を示す図である。
【
図11】第2の実施形態に係るGaNウェーハの製造方法の一例を示すフロー図である。
【
図13】外周領域剥離層形成工程を示す上面図である。
【
図14】
図14(A)はレーザービームの略半分がマスクされる様子を示す図であり、
図14(B)はレーザービームの略半分のうちその外周部分がマスクされる様子を示す図である。
【
図15】中央領域剥離層形成工程を示す上面図である。
【
図16】
図16(A)は剥離装置を示す図であり、
図16(B)は剥離工程後のGaNインゴット及びGaNウェーハを示す図である。
【
図17】矩形板状のGaN単結晶基板に対する外周領域剥離層形成工程を示す平面図である。
【
図18】クラックが形成される最小の平均出力の結晶方位依存性を評価する実験において、所定方向と複数の集光点の移動方向との成す角度θを示すGaNインゴットの平面図である。
【
図19】
図19(A)は角度θに対するクラックが形成される最小の平均出力を示すグラフであり、
図19(B)はθ=30°の場合のGaNインゴットの平面図であり、
図19(C)はθ=90°の場合のGaNインゴットの平面図である。
【
図20】第2の実施形態の第2変形例に係る中央領域剥離層形成工程を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1の実施形態)添付図面を参照して、本発明の一態様に係る実施形態について説明する。
図1は、第1の実施形態に係るレーザー加工方法の一例を示すフロー図である。
図1に示す様に、本実施形態におけるレーザー加工方法では、保持工程S10、マスク準備工程S20及びレーザービーム照射工程S30を順に行う。
【0023】
まず、
図2を参照し、第1の実施形態で使用されるレーザー加工装置2について説明する。
図2では、複数の構成要素を、機能ブロックや簡略化された形状で示す。
図2に示すX軸方向(加工送り方向)、Y軸方向(割り出し送り方向)、及び、Z軸方向(高さ方向、鉛直方向)は、互いに直交している。
【0024】
レーザー加工装置2は、円盤状のチャックテーブル4を有する。チャックテーブル4は、ステンレス鋼等の金属で形成された円盤状の枠体を有する。枠体の中央部には枠体の径よりも小径の円盤状の凹部(不図示)が形成されている。この凹部には、多孔質セラミックスで形成された円盤状の多孔質板(不図示)が固定されていている。
【0025】
枠体には、所定の流路(不図示)が形成されており、所定の流路には、管部(不図示)等を介して真空ポンプ等の吸引源(不図示)が接続されている。吸引源で生じた負圧が多孔質板に伝達されると、多孔質板の上面には負圧が生じる。
【0026】
枠体の環状の上面と、多孔質板の円形の上面とは、略面一且つ略平坦となっており、被加工物11を吸引保持するための保持面4aとして機能する。保持面4aは、XY平面と略平行に配置されている。
【0027】
チャックテーブル4の下部には、チャックテーブル4を回転させる回転駆動機構6が設けられている。回転駆動機構6は、チャックテーブル4の回転軸を任意の角度回転させることができる。この回転軸は、Z軸方向に沿って配置されている。
【0028】
チャックテーブル4及び回転駆動機構6は、水平方向移動機構8で支持されている。水平方向移動機構8は、それぞれボールねじ式のX軸方向移動機構及びY軸方向移動機構を含み、X軸方向及びY軸方向に沿ってチャックテーブル4及び回転駆動機構6を移動させることができる。
【0029】
保持面4aの上方には、レーザービーム照射ユニット12が設けられている。レーザービーム照射ユニット12は、レーザー発振器14を含む。レーザー発振器14は、Nd:YAG、Nd:YVO4等のレーザー媒質を有する。
【0030】
レーザー発振器14は、レーザー媒質に励起光を照射するランプ等の励起光源(不図示)と、レーザービームLが出射されるタイミングを制御するQスイッチ(不図示)と、を更に有する。
【0031】
レーザー発振器14は、被加工物11を透過する波長(例えば、被加工物11がGaNの場合、1064nm)を有するパルス状のレーザービームLを生成する。なお、
図2では、レーザービームLの進行経路を破線矢印で示す。
【0032】
レーザー発振器14から出射したレーザービームLは、不図示の音響光学変調器(AOM:Acousto-Optic Modulator)においてバーストモードのレーザービームLに変換される。音響光学変調器は、音響光学変調器に入力される電気信号に従って動作する。
【0033】
音響光学変調器は、入力される電気信号に従ってレーザービームLを時間的に所定の間隔で偏向させる機能を有する。音響光学変調器は、パルスを間引くことにより、複数のパルスを含むパルス群が所定の周期で繰り返されるバーストモードにレーザービームLを変換する。
【0034】
本実施形態では、1つのパルス群に含まれるパルスの数をバースト数と称する。バースト数は、例えば、10であるが、必ずしも10に限定されない。パルス群の間隔は、例えば、数十μsから数百μsであり、パルス群の繰り返し周波数は、例えば、50kHzである。
【0035】
バーストモードのレーザービームLは、アッテネータ等を有する出力調整器16において出力が調整された後、LCOS-SLM(Liquid Crystal on Silicon - Spatial Light Modulator)(以下では、空間光位相変調器18と記載する)に進入する。
【0036】
本実施形態の空間光位相変調器18は、所謂、反射型の液晶デバイスであるが、透過型の液晶デバイスであってもよい。空間光位相変調器18は、入射するレーザービームLの位相、偏波面、振幅、強度、伝搬方向等を変化させる(即ち、レーザービームLを変調する)機能を有する。
【0037】
空間光位相変調器18は、保持面4aで吸引保持された被加工物11の上面(第1面)11aから下面(第2面)11bに進む方向で被加工物11の外周領域11c(
図6参照)に対してレーザービームLを照射する際に、例えば、レーザービームLの位相を変化させる。
【0038】
具体的には、空間光位相変調器18は、被加工物11の外周側面11dから被加工物11の内部へ入るレーザービームLの一部が被加工物11の加工閾値未満の強度を有する様にレーザービームLの位相を変化させることで、レーザービームLの当該一部をマスクする。
【0039】
本実施形態では、レーザービームLの一部が被加工物11の加工閾値未満の強度を有する場合に、レーザービームLの一部がマスクされると表現する。マスクされるレーザービームLの一部は、例えば、完全に遮蔽される。この場合、レーザービームLの当該一部の強度(W/cm2)又はエネルギー(J)は、略ゼロである。
【0040】
一例において、空間光位相変調器18は、レーザービームLが照射される空間光位相変調器18の被照射領域のうち特定の半円領域(
図3において縞模様を有する半円領域を参照)を除く領域を利用して、集光点近傍において光の強度が弱め合う様にレーザービームLを少なくとも部分的に変調する。
【0041】
これにより、レーザービームLの進行方向に直交するレーザービームLの断面におけるレーザービームLの光束の略半分(レーザービームLの一部)が、集光点近傍においてマスクされる。即ち、集光点近傍において、レーザービームLの光束の略半分が加工閾値未満の強度(例えば、略ゼロ)を有する様に、レーザービームLの空間的なエネルギー分布が調整される。
【0042】
なお、変調されるレーザービームLの光束は、略半分に限定されず、加工態様に応じて適宜調整される。空間光位相変調器18は、レーザービームLの位相等を変化させることで、上述の様にエネルギー分布を調整すると共に、複数の集光点Pで集光する様にレーザービームLを分岐させる(
図6参照)。
【0043】
本実施形態のレーザービームLは、10個の集光点PがY軸方向に並ぶ様に分岐される。但し、レーザービームLの分岐数は、10に限定されない。被加工物11の大きさ、レーザービームLの平均出力、繰り返し周波数等に応じて、レーザービームLの分岐数は、適宜調節される。
【0044】
上述の様に、空間光位相変調器18は、レーザービームLをマスクする機能と、分岐させる機能と、を有する。空間光位相変調器18の動作は、駆動回路18aにより制御される。駆動回路18aは後述するコントローラ30により制御される。
【0045】
空間光位相変調器18は、マトリクス状に配置された複数の画素を含む表示領域を有する。表示領域には、液晶層が設けられており、各画素において液晶分子の傾きを制御することで、空間光位相変調器18の液晶層は所定のパターンを構成する。液晶層のパターンに応じて、レーザービームLの位相等が変化する。
【0046】
本実施形態のマスクユニット20では、空間光位相変調器18がレーザービームLのマスク及び分岐の機能を担う。但し、他の例のマスクユニット20では、レーザービームLを部分的にマスクする機能を、空間光位相変調器18ではなく金属製のマスクが担ってもよい。
【0047】
マスクユニット20が金属製のマスクを有する場合、空間光位相変調器18がレーザービームLを分岐する機能を担うが、空間光位相変調器18に代えて、DOE(Diffractive Optical Element)がレーザービームLを分岐させる機能を担ってもよい。
【0048】
図2に示す様に、空間光位相変調器18を経由したレーザービームLは、一対のレンズ22a,22bを通過する。一対のレンズ22a,22bは、光軸が互いに略一致し且つY軸方向と略平行に配置されている。
【0049】
なお、
図2に示す一対のレンズ22a,22bの位置、焦点距離等は概略である。一対のレンズ22a,22bによってビーム径が調節されたレーザービームLは、Z軸方向及びX軸方向において反転すると共に(
図4(A)参照)、ミラー24で反射された後、集光レンズ26へ入射する。
【0050】
ミラー24及び集光レンズ26は、円筒状の集光器(不図示)内に固定されている。レーザービーム照射ユニット12は、ボールねじ式のZ軸方向移動機構(不図示)でZ軸方向に沿って移動可能に構成されている。
【0051】
レーザービーム照射ユニット12をZ軸方向に沿って移動させることで、レーザービームLの集光点PのZ軸方向の位置が調整される。なお、集光レンズ26は、集光器内においてZ軸方向に沿って移動可能に構成されてもよい。
【0052】
集光レンズ26を通過したレーザービームLは、保持面4aで吸引保持された被加工物11へ入射する。本実施形態の被加工物11は、窒化ガリウム(GaN)の単結晶で形成された矩形板状(即ち、板状)の単結晶基板である(
図6参照)。
【0053】
被加工物11の上面11aと下面11bとは、被加工物11の厚さ方向において反対側に位置している。被加工物11の外周側面11dは、上面11a及び下面11bに直交(交差)する様に接続している。被加工物11が矩形板状である本実施形態において、外周側面11dは、それぞれ略平坦な4つの平面を有する(
図6参照)。
【0054】
図2に示す様に、集光器の近傍には、レーザービーム照射ユニット12と共にZ軸方向移動によって移動可能な態様で顕微鏡カメラユニット(不図示)が設けられている。
【0055】
顕微鏡カメラユニットは、LED(Light Emitting Diode)等の発光素子を含む光源と、CCD(Charge-Coupled Device)イメージセンサ、CMOS(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)イメージセンサ等の固体撮像素子と、を有する。
【0056】
上述のチャックテーブル4、回転駆動機構6、水平方向移動機構8、レーザー発振器14、駆動回路18a等の動作は、コントローラ30により制御される。コントローラ30は、例えば、CPU(Central Processing Unit)に代表されるプロセッサ(処理装置)と、メモリ(記憶装置)と、を含むコンピュータによって構成されている。
【0057】
メモリは、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等の主記憶装置と、フラッシュメモリ等の補助記憶装置と、を含む。補助記憶装置には、所定のプログラムを含むソフトウェアが記憶されている。このソフトウェアに従いプロセッサ等を動作させることによって、コントローラ30の機能が実現される。
【0058】
次に、
図1に示す手順に従って、被加工物11に対してレーザー加工を施す方法について説明する。まず、
図2に示す様に、下面11bが保持面4aと接する様に被加工物11をチャックテーブル4に配置し、被加工物11を保持面4aで吸引保持する(保持工程S10)。
【0059】
次いで、顕微鏡カメラユニットを利用して、GaN単結晶基板である被加工物11の外周側面11dがX軸方向と略平行になる様に、チャックテーブル4の向きを調整する(
図6参照)。
【0060】
次に、被加工物11に対してレーザービームLを照射する際に外周側面11dから被加工物11の内部に入るレーザービームLの一部をマスクし、且つ、マスクされていないレーザービームLの他の一部が集光点P近傍で分岐する様に、空間光位相変調器18(即ち、マスクユニット20)を調整する(マスク準備工程S20)。
【0061】
図2は、マスク準備工程S20を示す図である。マスク準備工程S20では、DVI(Digital Visual Interface)等の映像入出力インターフェースの規格に準拠した所定の信号を、コントローラ30が駆動回路18aに送る。
【0062】
これにより、液晶層における液晶分子の傾きが制御され、液晶層は所定のパターンを構成する。
図3は、マスク準備工程S20で空間光位相変調器18に表示される変調パターンの一例である。
【0063】
なお、
図3に示す変調パターンでは、空間光位相変調器18の各画素がレーザービームLに与える位相の変化(変化量は、0rad以上2πrad以下)を濃淡で表現している。しかし、変調パターンそのものは、人が空間光位相変調器18を目視してもほぼ見ることはできない。
【0064】
各画素がレーザービームLに与える位相の変化を8ビットで表される画素値(例えば、輝度値)に変換することで、
図2における矢印18bの向きで空間光位相変調器18の画素領域を見た場合の変調パターンは、
図3に示す画像となる。後述する
図7(A)、
図8(A)及び
図9(A)の画像も、同様にして変調パターンを画像化したものである。
【0065】
なお、保持工程S10とマスク準備工程S20とは、どちらが先に行われてもよく、同時であってもよい。保持工程S10及びマスク準備工程S20の後、レーザー発振器14からレーザービームLを照射すると、空間光位相変調器18、集光レンズ26等を経て、被加工物11にレーザービームLが照射される(レーザービーム照射工程S30)。
【0066】
図4(A)は、レーザービーム照射工程S30を示す図であり、
図4(B)は、集光点P近傍での
図4(A)の部分拡大図である。上述の様に、本実施形態の被加工物11(GaN単結晶基板)は、オフ角を有さないので、上面11aは、(0001)に対応し、厚さ方向は、[0001]と平行である。また、外周側面11dは、{-1100}又は{11-20}で表される。
【0067】
なお、本明細書では、ミラー・ブラベー指数を用いて、結晶面及び結晶方位を特定する。特定の結晶面は()を用いて表現されるが、便宜的に、()面と表記することもある。また、結晶構造の対称性に起因して互いに等価である結晶面は{}を用いて表現される。
【0068】
特定の結晶方位は[]を用いて表現されるが、便宜的に、[]方向と表記することもある。また、互いに等価である結晶方位は〈〉を用いて表現される。ところで、ミラー・ブラベー指数において、マイナスを伴う指数は、指数の上にバーが付された指数と等しい。
【0069】
図4(A)及び
図4(B)において、上面11aから被加工物11の内部に入射するレーザービームLには斜線を付し、外周側面11dから被加工物11の内部に本来は入射するが実際にはマスクユニット20によってマスクされるレーザービームLにはドットを付す。
【0070】
なお、
図4(A)及び
図4(B)では、レーザービームLがY軸方向において分岐してはいないが、本実施形態のレーザービームLは、実際にはY軸方向において分岐している(
図6参照)。Y軸方向は、集光点Pと被加工物11とが相対的に移動するX軸方向に対して平面視において直交(交差)する所定方向である。
【0071】
図4(A)及び
図4(B)は、外周側面11dから被加工物11の内部に本来は入る(しかし、実際にはマスクされる)レーザービームLの第1成分L
1と、上面11aから被加工物11の内部に実際に入るレーザービームLの第2成分L
2と、を示している。第1成分L
1は、互いに弱め合う様に変調されているが、第2成分L
2は、互いに弱め合う様には変調されておらず、互いに強め合う様に変調されている。
【0072】
ところで、
図5(A)及び
図5(B)は、比較例を示しており、レーザービームLをマスクすることなくレーザービームLを集光点P近傍で分岐させた状態で、被加工物11の外周領域11cをレーザービームLで加工する際の被加工物11の断面図である。
【0073】
図5(A)及び
図5(B)は、被加工物11の所定の深さでY軸方向に沿って分岐されている複数の集光点Pを例示的に示している。
図5(A)は、Y軸方向において最も外周側面11dに近い集光点Pを形成する際のレーザービームLを示す図である。
【0074】
図5(A)では、外周側面11dに入射するレーザービームLの被加工物11の内外での屈折率の差異、レーザービームLの外周側面11dでの反射、散乱等により、外周側面11d近傍では、改質層13(例えば、
図9(B)参照)が形成されない、又は、仮に改質層13が形成されたとしても改質層13から進展するクラックが予期せぬ方向(例えば、被加工物11の厚さ方向)に進展する恐れがある。
【0075】
これに対して、
図5(B)は、Y軸方向において外周側面11dから最も遠い集光点Pを形成する際のレーザービームLを示す図である。
図5(B)の場合、レーザービームLは外周側面11dに入射することなく上面11aから被加工物11の内部に入射する。
【0076】
図5(A)及び
図5(B)から分かる様に、外周領域11cにレーザービームLを照射する際には、レーザービームLが外周側面11dから被加工物11の内部に入射することがある。そこで、本実施形態では、外周側面11dから被加工物11の内部への入射を防ぐ様に、レーザービームLを変調する。
【0077】
本実施形態のレーザービーム照射工程S30では、
図4(A)及び
図4(B)に示す様に、空間光位相変調器18(即ち、マスクユニット20)が、外周側面11dから被加工物11の内部に入る第1成分L
1(即ち、レーザービームLの一部)をマスクする。
【0078】
更に、空間光位相変調器18は、マスクされることなく上面11aから被加工物11の内部に入る第2成分L2がY軸方向に沿って配置された複数の集光点Pに集光する様に第2成分L2(即ち、レーザービームLの他の一部)を集光点P近傍で分岐させる。
【0079】
そして、第2成分L
2の集光点Pが被加工物11の内部に位置する様に集光点Pの高さ位置を調整した状態で、集光点Pが被加工物11の外周領域11cに沿う様に集光点Pと被加工物11とを相対的に移動させる(
図6参照)。
【0080】
図6は、レーザービーム照射工程S30での被加工物11の平面図である。本実施形態では、10個の集光点PがY軸方向に沿って並ぶ様に配置された状態でチャックテーブル4をX軸方向に沿って加工送りすることにより、集光点Pと被加工物11とを相対的に移動させる。
【0081】
但し、外周側面11dを介して被加工物11の内部へ入射する第1成分L1を空間光位相変調器18でマスクしながら、被加工物11の内部に改質層13を形成する。
【0082】
レーザービーム照射工程S30での加工条件の一例を下記に示す。なお、最も外周側面11dの近くに位置する集光点Pを、外周側面11dから集光点間の距離の半分以下の所定値(例えば、6μm)だけ離れる様に設定した。
【0083】
波長 :1064nm
平均出力 :2.6W
繰り返し周波数 :50kHz
分岐数 :10
集光点の間隔 :12.5μm
各集光点の深さ位置 :上面11aから170μm
各集光点のスポット径:5μm
パス数 :1
バースト数 :10
加工送り速度 :875mm/s
【0084】
本実施形態では、レーザービーム照射工程S30において、第1成分L1が被加工物11の加工閾値未満の強度を有する様に第1成分L1をマスクユニット20でマスクしながら、被加工物11の内部に改質層13を形成する。それゆえ、外周側面11dから被加工物11に入射する第1成分L1の影響を低減できる。
【0085】
(実験)次に、
図7(A)から
図9(B)を参照し、矩形板状のGaNの単結晶基板に対してレーザー加工を行った実験結果について説明する。なお、
図7(A)から
図9(B)に示す実験では、被加工物11を平面視した場合の外周側面11dを、エッジと称することがある。
【0086】
これらの実験では、平均出力と、マスクの有無と、を除き、上述の加工条件を採用した上で、
図6に示す様に被加工物11の外周領域11c(矩形の一辺部)に対してレーザー加工を行った。
【0087】
図7(A)及び
図7(B)は、第1の比較実験である。第1の比較実験では、平均出力を上述の加工条件と同じ2.6Wとした上で、レーザービームLを空間光位相変調器18でマスクすることなくレーザー加工を行った。
【0088】
このとき、外周側面11d近傍に位置する1以上の集光点Pに集光するレーザービームLは、外周側面11dから被加工物11の内部に入射した(例えば、
図5(A)参照)。なお、各集光点Pの強度は、略同じであった。
【0089】
図7(A)は、第1の比較実験において空間光位相変調器18に表示される変調パターンの一例である。
図7(B)は、第1の比較実験でのレーザー加工後の被加工物11の外周領域11cの平面写真である。
【0090】
図7(B)に示す画像の中央を縦断する破線は、被加工物11のエッジ(即ち、外周側面11d)に対応する。
図7(B)において、このエッジよりも左側に位置する被加工物11の外周領域11cには、改質層13及びクラック(なお、
図7(B)ではクラックへの符号を省略している)を含む剥離層15が形成されている。
【0091】
但し、
図7(B)に示す様に、剥離層15は、上面11aと平行な平面方向において、やや不規則に形成されており、更に、被加工物11の厚さ方向における剥離層15の深さ位置も一定ではない。
【0092】
図8(A)及び
図8(B)は、第2の比較実験である。第2の比較実験では、第1の比較実験と同様に、レーザービームLを空間光位相変調器18でマスクすることなく、
図6に示す様に被加工物11の外周領域11c(矩形の一辺部)に対してレーザー加工を行ったが、平均出力を第1の比較実験の半分である1.3Wとした。
【0093】
第2の比較実験でも、外周側面11d近傍に位置する1以上の集光点Pに集光するレーザービームLは、外周側面11dから被加工物11の内部に入射した。なお、各集光点Pの強度は、略同じであり、第1の比較実験における各集光点Pの強度の略半分であった。
【0094】
図8(A)は、第2の比較実験において空間光位相変調器18に表示される変調パターンの一例であり、
図8(B)は、第2の比較実験でのレーザー加工後の被加工物11の外周領域11cの平面写真である。
図8(B)に示す画像の中央を縦断する破線は、被加工物11のエッジに対応する。
【0095】
図8(B)に示す様に、被加工物11のエッジから少し離れており且つX軸方向に沿う第1の帯状領域には、規則的に改質層13が形成されている。改質層13からはクラックが進展しており、剥離層15が形成されている。
【0096】
しかし、外周領域11cのうち第1の帯状領域よりもエッジに比較的近い位置にあり且つX軸方向に沿う第2の帯状領域には、改質層13が形成されていない。
【0097】
これは、被加工物11の内外での屈折率の差異、外周側面11dに入射するレーザービームLの外周側面11dでの反射、散乱等により、外周側面11d近傍に位置する1以上の集光点Pの強度が、改質層13を形成可能な加工閾値に達しなかったからだと考えられる。
【0098】
図9(A)は、第1の実施形態に対応する第1実験において空間光位相変調器18に表示される変調パターンの一例であり、
図9(B)は、レーザー加工後の被加工物11の外周領域11cの平面写真である。第1実験では、第1の実施形態に記載の加工条件を採用した。
【0099】
第1実験では、外周側面11d近傍に位置する1以上の集光点Pに集光するレーザービームLのうち外周側面11dから入射する一部のレーザービームLをマスクしながら、レーザービームLを上面11aから被加工物11の内部に入射させた。
【0100】
図9(B)に示す画像の中央を縦断する破線は、被加工物11のエッジに対応する。
図9(B)の外周領域11cにおいて、このエッジを始点とし且つY軸方向において所定の幅を有する帯状の領域には、黒点で表示されている改質層13が規則的に形成されている。
【0101】
また、改質層13及びクラックを含む剥離層15は、被加工物11の厚さ方向において略同じ深さ位置に形成されている。この様に、第1の実施形態の加工方法を採用すれば、第1成分L1の影響を低減することで、被加工物11のエッジに達する帯状の領域に剥離層15を形成できる。
【0102】
(変形例)次に、
図10(A)及び
図10(B)を参照し、第1の実施形態の変形例について説明する。変形例に係るマスクユニット20は、金属製のマスク32を有する。マスク32は、全体がアルミニウムで形成されている。
【0103】
しかし、マスク32は、レーザービームLをマスクできる限り、ステンレス鋼、低熱膨張率のインバー(invar)材等の他の金属材料で全体が形成されてもよく、ガラス基板とクロム薄膜との積層構造を有してもよい。
【0104】
マスク32は、一面32aから他面32bまで貫通する開口32cを有する。一面32aを平面視した場合に、開口32cは、例えば、
図3と同じサイズ及び形状の半円形を有する。
【0105】
マスク32は、開口32cにおいてレーザービームLの一部を透過させると共に、開口32c以外の領域でレーザービームLの他の一部を物理的にマスクする。即ち、レーザービームLの他の一部を実質的に遮蔽する。
【0106】
当該変形例では、マスク32がレーザービームLを部分的にマスクする機能を担い、空間光位相変調器18は、マスクされずに開口32cを通過したレーザービームLを分岐する機能を担う。なお、空間光位相変調器18に代えてDOEを用いてもよい。
【0107】
図10(A)は、変形例におけるマスク準備工程S20を示す図であり、
図10(B)は、変形例におけるレーザービーム照射工程S30示す図である。なお、
図10(A)及び
図10(B)では、説明の便宜上、マスク32を断面で示し、レーザー加工装置2において第1の実施形態と同じ構成要素のいくつかについては、図示を省略している。
【0108】
当該変形例でも、外周側面11dを介して被加工物11の内部へ入射する第1成分L1(即ち、レーザービームLの一部)をマスクユニット20でマスクしながら、被加工物11の内部に改質層13を形成できる。
【0109】
第1の実施形態及びその変形例では、レーザービームLを複数の集光点Pに分岐させる場合を説明した。しかし、外周側面11dから被加工物11の内部へ入射するレーザービームLをマスクできる限り、レーザービームLを分岐させなくてもよい。
【0110】
なお、被加工物11は、矩形板状に限定されず、円盤状(即ち、板状)の単結晶基板であってもよい。また、単結晶基板は、所謂自立型の基板であってもよいし、種結晶となる単結晶基板上に形成されたエピタキシャル成長層を有する基板であってもよい。
【0111】
被加工物11は、単結晶基板に代えて、円柱状のインゴットであってもよい。更に、被加工物11の材料は、GaNに限定されず、シリコン(Si)、炭化ケイ素(SiC)、ガリウムヒ素(GaAs)等の半導体材料で形成された単結晶基板やインゴットであってもよい。
【0112】
被加工物11が円柱状のインゴット又は円盤状の単結晶基板である場合、外周側面11dは、略円筒状である。但し、この場合、外周側面11dは、オリエンテーションフラットとして機能する平坦面、ノッチ等を有してもよい。
【0113】
(第2の実施形態)次に、
図11から
図16を参照し、第2の実施形態について説明する。第2の実施形態は、円柱状のGaNインゴット(被加工物)21に剥離層15を形成した後、剥離層15を起点にGaNインゴット21からGaNウェーハ27を剥離する、GaNウェーハ27の製造方法に関する。
【0114】
図11は、第2の実施形態に係るGaNウェーハ27の製造方法の一例を示すフロー図である。第2の実施形態では、上述のレーザー加工装置2を用いて保持工程S10からレーザービーム照射工程S30までを行い(
図13から
図15参照)、その後、剥離装置40(
図16(A)参照)を用いて剥離工程S40を行う。
【0115】
まず、加工対象となる円柱状のGaNインゴット21について説明する。
図12は、GaNインゴット21の斜視図である。GaNインゴット21は、六方晶の結晶構造を有するGaNの単結晶である。但し、GaNインゴット21の導電型は、特段限定されない。
【0116】
GaNインゴット21は、厚さ方向21cにおいて反対側に位置する上面(第1面)21a及び下面(第2面)21bを有する。本実施形態のGaNインゴット21は、オフ角を有さない。上面21aは、(0001)に対応し、下面21bは、(000-1)に対応する。厚さ方向21cは、[0001]と平行である。
【0117】
GaNインゴット21の側部には、GaNウェーハ27のオリエンテーションフラットとなる平坦面23a,23bが形成されている。平坦面23aは{-1100}で表され、平坦面23bは{11-20}で表される。
【0118】
平坦面23a,23bの間には、平坦面23a,23bを結ぶ短い方の円弧を含む第1側面23cと、平坦面23a,23bを結ぶ長い方の円弧を含む第2側面23dと、が存在する。平坦面23a,23bと、第1側面23c及び第2側面23dとは、それぞれ、上面21a及び下面21bと直交(即ち、交差)する様に接続している。
【0119】
本実施形態でも、保持工程S10と、マスク準備工程S20と、の後、レーザービーム照射工程S30を行う。レーザービーム照射工程S30は、
図13に示す様に外周領域23fに剥離層15を形成する外周領域剥離層形成工程S32と、
図15に示す様に中央領域23gに剥離層15を形成する中央領域剥離層形成工程S34と、を含む。
【0120】
特に、本実施形態のレーザービーム照射工程S30では、外周領域剥離層形成工程S32を先に行う。
図13は、外周領域剥離層形成工程S32を示す上面図である。外周領域剥離層形成工程S32では、基本的には、上述の加工条件を採用する。
【0121】
但し、外周領域剥離層形成工程S32では、集光点PとGaNインゴット21とを直線的に相対的に移動させるのではなく、回転駆動機構6でチャックテーブル4を所定の回転速度で回転させる。回転速度は、例えば、集光点Pの少なくとも1つが上述の加工送り速度と略同じになる様に設定される。
【0122】
これにより、集光点Pが外周領域23fに沿う様に集光点PとGaNインゴット21とを相対的に移動させる。なお、
図13に示す環状の破線A
1,A
2,A
3は、チャックテーブル4の回転時における集光点Pの移動の軌跡のうち、GaNインゴット21の径方向の最も内側に位置する集光点Pの軌跡を示す。
【0123】
外周領域剥離層形成工程S32の開始時、レーザービームLの集光点Pが被加工物11の内部の所定深さ25(
図16(A)参照)に位置する様に、集光点Pの高さ位置が調整された状態で、複数の集光点Pは外周側面23eに対して平面視において直交(交差)するY軸方向(所定方向)に沿う様に並べて配置されている。
【0124】
外周領域剥離層形成工程S32において、Y軸方向は、集光点PとGaNインゴット21とが相対的に移動する円周方向(破線A1,A2,A3を参照)と、平面視において直交(交差)する方向である。
【0125】
外周領域剥離層形成工程S32では、マスクユニット20でマスクされなかった第2成分L2が集光点P近傍でY軸方向に沿って配置された複数の集光点Pに集光する様に、第2成分L2(即ち、レーザービームLの他の一部)を集光点P近傍で分岐させた上で、第2成分L2をGaNインゴット21に照射する。
【0126】
そして、
図13に示す矢印34の方向に、所定の回転速度でチャックテーブル4を1回転させる。1回転させた後、複数の集光点PをGaNインゴット21の径方向の内側に移動させる。具体的には、チャックテーブル4をY軸方向に沿って所定のインデックス量(例えば、106μm)だけ割り出し送りする。
【0127】
その後、同様にして、2回転目を行い、更に、同様に割り出し送りをした後、3回転目を行う。この様にして、外周領域23fにおいてGaNインゴット21の内部において同心円状に配置された複数の剥離層15を形成する。
【0128】
外周領域剥離層形成工程S32でも、レーザービームLのうち外周側面23e(即ち、第1側面23c又は第2側面23d)からGaNインゴット21の内部へ入射する第1成分L1(即ち、レーザービームLの一部)がGaNインゴット21の加工閾値未満の強度を有する様に、第1成分L1を空間光位相変調器18でマスクしながらレーザービームLを照射する。
【0129】
なお、空間光位相変調器18でレーザービームLをマスクする範囲は、レーザービームLの照射位置に応じて、コントローラ30及び駆動回路18aにより適宜調整する。
図13のAA断面において、レーザービームLがマスクされる様子を
図14(A)及び
図14(B)に示す。
【0130】
図14(A)は、第1側面23c又は第2側面23dからGaNインゴット21の内部へ入射するレーザービームLの略半分がマスクされる様子を示す図である。例えば、
図14(A)は、1回転目の状況に対応する。なお、
図14(A)では、
図4(B)と同様に、レーザービームLの分岐を省略し、1つの集光点Pを示すが、実際には、レーザービームLは、複数の集光点Pに分岐している。
【0131】
これに対して、
図14(B)は、
図14(A)に示す場合に比べてレーザービームLの更に狭い領域をマスクされる様子を示す図であり、レーザービームLの略半分のうちその外周部分がマスクされる様子を示す図である。
図14(B)も、例えば、1回転目の状況に対応するが、マスクされる領域は極僅かである。
【0132】
図14(A)及び
図14(B)でも、上面21aからGaNインゴット21の内部に入射するレーザービームLには斜線を付し、外周側面23eからGaNインゴット21の内部に入射する(しかし、マスクされる)レーザービームLにはドットを付す。また、
図14(B)では、
図4(B)と同様に、レーザービームLの分岐を省略して1つの集光点Pを示すが、実際には、レーザービームLは、複数の集光点Pに分岐している。
【0133】
ところで、チャックテーブル4を回転させる場合に、平面視におけるレーザービームLの軌跡は平坦面23a,23bを横断するが、この横断時に、GaNインゴット21の内部にレーザービームLが入射する範囲及び時間は極僅かである。
【0134】
それゆえ、第2の実施形態の外周領域剥離層形成工程S32では、平面視において平坦面23a,23bに沿う様に直線的に集光点PとGaNインゴット21とを相対的に移動させることはしない。
【0135】
外周領域剥離層形成工程S32では、あくまで、第1側面23c及び第2側面23d(即ち、外周領域23fの一部)に沿う様に、集光点PとGaNインゴット21とを相対的に移動させる。
【0136】
なお、
図13では、チャックテーブル4を3回転させて3つの環状の剥離層15を同心円状に形成する例を示すが、回転数は3に限定されない。
【0137】
回転数を決定する一つの指針として、チャックテーブル4の回転時にGaNインゴット21の径方向の最も外側に位置する集光点Pの移動の軌跡が、同径方向において平坦面23a,23bの両方よりも内側に位置するまで、チャックテーブル4の回転と、集光点Pの割り出し送りと、が交互に繰り返される。
【0138】
外周領域剥離層形成工程S32で外周領域23fに剥離層15が形成されると、Ga原子とN原子との結合が切り離されてN2ガス(窒素ガス)が生じる。
【0139】
仮に、中央領域剥離層形成工程S34が先に行われる場合、中央領域23gに剥離層15を形成した際に生じた窒素ガスにより、GaNインゴット21の径方向の内側に異常な体積膨張領域が形成される可能性がある。外周側面11dに達しない剥離層15(
図8(B)参照)が形成される場合にも、同様の問題がある。
【0140】
これに対して、本実施形態の様に、中央領域剥離層形成工程S34よりも外周領域剥離層形成工程S32を先に行うことで、外周領域23fに形成された剥離層15が、中央領域剥離層形成工程S34で中央領域23gに生じる窒素ガスをGaNインゴット21外に逃がす通り道として機能する。
【0141】
それゆえ、外周領域剥離層形成工程S32の後に中央領域剥離層形成工程S34を行うことで、GaNインゴット21の径方向の内側での異常な体積膨張を抑制できる。
【0142】
外周領域剥離層形成工程S32の後に、GaNインゴット21の中央領域23gにおいて集光点PとGaNインゴット21とを相対的に移動させて、中央領域23gにおいて外周領域23fと略同じ深さに剥離層15を形成する。
【0143】
中央領域23gは、上面21a又は下面21bの面内において外周領域23fよりも内側に位置する。つまり、中央領域23gは、GaNインゴット21の径方向において外周領域23fよりも内側に位置する。
【0144】
図15は、中央領域剥離層形成工程S34を示す上面図である。中央領域剥離層形成工程S34では、まず、GaNインゴット21の[11-20]がX軸方向と略平行になる様に、チャックテーブル4の向きを調整する。
【0145】
そして、集光点Pとチャックテーブル4とのX軸方向における相対的に移動(即ち、加工送り)と、集光点Pとチャックテーブル4とのY軸方向における相対的に移動(即ち、割り出し送り)と、を交互に繰り返すことでGaNインゴット21の所定深さ25の略全体において、互いに略平行な直線状の複数の剥離層15を形成する。
【0146】
加工送りに関しては、例えば、奇数回目の相対移動において集光点Pを
図15の右側に移動させ、偶数回目の相対移動において集光点Pを
図15の左側に移動させるが、奇数回目において集光点Pを相対的に右側に移動させ、偶数回目において集光点Pを相対的に左側に移動させてもよい。
【0147】
また、割り出し送りに関しては、Y軸方向への割り出し送り量を所定値(例えば、106μm)とする。他の加工条件については、第1の実施形態で記載の上述の加工条件を採用してよい。
【0148】
なお、中央領域剥離層形成工程S34の段階では、外周領域23fには既に剥離層15が形成されているので、平坦面23a,23b、第1側面23c及び第2側面23dからGaNインゴット21の内部に入射するレーザービームLは、剥離層15の不規則的な形成に寄与しない。
【0149】
中央領域剥離層形成工程S34の後、剥離装置40を用いて、外周領域23fの複数の剥離層15と、中央領域23gの複数の剥離層15と、を起点としてGaNインゴット21からGaNウェーハ27を剥離する(剥離工程S40)。
【0150】
図16(A)は剥離装置40を示す図である。剥離装置40は、上述のチャックテーブル4と略同径のチャックテーブル42を有する。チャックテーブル42の構造は、チャックテーブル4と略同じであり、チャックテーブル42の上面は、GaNインゴット21を吸引保持する保持面42aとして機能する。
【0151】
チャックテーブル42の上方には、剥離ユニット44が設けられている。剥離ユニット44は、長手部がZ軸方向に沿って配置された円柱状の可動部46を有する。可動部46には、Z軸方向移動機構(不図示)が連結されている。
【0152】
Z軸方向移動機構は、例えば、ボールねじ式の移動機構であるが、他のアクチュエータで構成されてもよい。Z軸方向移動機構により、可動部46は、Z軸方向に沿って移動可能である。
【0153】
可動部46の底部には、円盤状の吸引ヘッド48が設けられている。吸引ヘッド48は、チャックテーブル42と同様に、枠体及び多孔質板を有する。枠体及び多孔質板の下面は、略面一且つXY平面と略平行に配置されており、保持面48aとして機能する。
【0154】
剥離工程S40では、複数の剥離層15が形成されたGaNインゴット21の下面21bをチャックテーブル42の保持面42aで吸引保持すると共に、吸引ヘッド48の保持面48aで上面21aを吸引保持する。
【0155】
次いで、GaNインゴット21に外力を付与する。外力の付与は、例えば、GaNインゴット21の側面に対して複数の剥離層15の高さ位置に楔(不図示)を打ち込むことで行われる。楔はGaNインゴット21の側面の一箇所だけでなく、GaNインゴット21の周方向に沿って複数箇所に打ち込む方が好ましい。
【0156】
外力を付与することで、複数の剥離層15が形成されている深さ位置において、クラックが更に進展する。なお、楔の打ち込みに代えて、GaNインゴット21に対して超音波(即ち、20kHzを超える周波数帯域の弾性振動波)を印加することで、外力を付与してもよい。
【0157】
超音波を印加する場合、吸引ヘッド48の保持面48aで上面21aを吸引保持する前に、上面21a側に純水等の液体を介して超音波を印加する。具体的には、超音波が印加された液体をノズルからGaNインゴット21に噴射する、又は、液体を介してホーンから上面21a側に超音波を印加する。
【0158】
なお、ノズル又はホーンを用いる場合、まず、上面21a側における直径5mmから50mm程度の局所的な領域に、超音波を利用して外力を印加する。次いで、ノズル又はホーンと、チャックテーブル42と、を相対的に移動させることで、上面21a側の他の領域に外力を印加する。
【0159】
この様に、外力を印加する領域を上面21a側において徐々に移動させることで、改質層13間のクラックを上面21aに沿って進展させることができる。外力の付与により、隣接する改質層13間でクラックが更に進展し、複数の剥離層15の機械的強度は、更に弱くなる。
【0160】
外力付与後、GaNインゴット21を吸引保持した吸引ヘッド48を上昇させる。なお、吸引ヘッド48の上昇と並行して、上述した外力の付与を行ってもよい。吸引ヘッド48の上昇に伴って、複数の剥離層15を起点としてGaNインゴット21からGaNウェーハ27が剥離される。
【0161】
図16(B)は、剥離工程S40後のGaNインゴット21及びGaNウェーハ27を示す図である。剥離工程S40後、GaNインゴット21の被剥離面と、GaNウェーハ27の剥離面と、に残存する凹凸を、研削、研磨等により除去してもよい。
【0162】
この様にして、GaNインゴット21の厚さ(即ち、上面21a及び下面21b間の距離)未満の厚さを有するGaNウェーハ27が製造される。
【0163】
なお、GaNインゴット21に代えて、矩形板状又は円盤状(即ち、板状)のGaN単結晶基板(被加工物)から、GaN単結晶基板の厚さ未満の厚さを有するGaNウェーハ27を製造してもよい。GaN単結晶基板は、所謂自立型の基板であってもよいし、種結晶となる単結晶基板上に形成されたエピタキシャル成長層を有する基板であってもよい。
【0164】
第2の実施形態の外周領域剥離層形成工程S32では、マスクユニット20として空間光位相変調器18を用いるが、これに代えて、第1実施形態の変形例に記載のマスク32(
図10(A)及び
図10(B)参照)を採用してもよい。
【0165】
マスク32を採用する場合も、レーザービームLの照射位置に応じてレーザービームLをマスクする範囲を適宜調整する必要がある。但し、空間光位相変調器18の様に電気信号によりマスクする範囲を調整できないので、異なるサイズの開口32cを有する複数のマスク32を適宜選択することにより、レーザービームLをマスクする範囲を調整する。
【0166】
ところで、本実施形態のGaNインゴット21はオフ角を有さないが、オフ角の有無に関わらず、加工時には、X軸方向をGaNインゴット21の<11-20>±5°以下としてよい。
【0167】
(第1変形例)次に、
図17を参照し、第2の実施形態の第1変形例について説明する。当該第1変形例では、矩形板状のGaN単結晶基板31から、GaN単結晶基板31の厚さ未満の厚さを有する矩形板状のGaNウェーハ(不図示)を製造する。
【0168】
当該第1変形例においても、
図11に示すフローに従い、各工程を行う。但し、外周領域剥離層形成工程S32では、集光点Pの軌跡を円形ではなく、GaN単結晶基板31の各辺に沿う様に矩形とするが、外周領域23f及び中央領域23gの記載については、
図13の表記を援用する。
【0169】
図17は、矩形板状のGaN単結晶基板31に対する外周領域剥離層形成工程S32を示す平面図である。
図17に示す破線B
1,B
2,B
3は、外周領域剥離層形成工程S32においてチャックテーブル4を加工送りする際に、GaN単結晶基板31の上面(第1面)31aの中心に最も近い集光点Pの移動の軌跡の概略を示す。
【0170】
最外周の加工開始時には、レーザービームLの集光点PがGaN単結晶基板31の内部の所定深さに位置する様に、集光点Pの高さ位置が調整された状態で、複数の集光点PはY軸方向に沿う様に並べて配置されている。
【0171】
このとき、上述の様に、外周縁31cに位置する外周側面からGaN単結晶基板31の内部にはレーザービームLが照射されない様に、レーザービームLの一部がマスクされている。
【0172】
そして、チャックテーブル4を所定の加工送り速度でX軸方向に沿う所定向き(例えば、+X方向)に加工送りすることにより、外周縁31cの一辺に沿って当該一辺の一端から他端まで、集光点PとGaN単結晶基板31とを相対的に移動させる。
【0173】
次いで、チャックテーブル4を所定方向に90度回転させる。そして、チャックテーブル4を所定の加工送り速度で所定方向とは反対向き(例えば、-X方向)に加工送りすることにより、外周縁31cの他の一辺に沿って当該他の一辺の一端から他端まで、集光点PとGaN単結晶基板31とを相対的に移動させる。
【0174】
同様にして、外周縁31cの各辺に沿って剥離層15を形成する1周目の加工を行った後、複数の集光点Pを上面31aの内側に移動させる。具体的には、チャックテーブル4をY軸方向に沿って所定のインデックス量(例えば、106μm)だけ割り出し送りする。そして、同様に、2周目及び3周目の加工を順次行う。
【0175】
外周領域剥離層形成工程S32の終了後、第2の実施形態と同様に、中央領域剥離層形成工程S34及び剥離工程S40を行う。
【0176】
ところで、集光点と、GaNインゴット21又はGaN単結晶基板31(即ち、被加工物)と、の相対的な移動方向は、(0001)面において<11-20>±5°以下に限定されない。
【0177】
出願人の実験に依れば、平面内で隣接する様に形成されている改質層13がクラックでつながれた剥離層15を形成する際に、集光点と、被加工物と、の相対的な移動方向を、(0001)面において<10-10>±10°以下とすれば、レーザービームLの平均出力を低くできることが判明した。
【0178】
図18から
図19(C)を参照して、隣接する改質層13同士をつなぐクラックを形成できるレーザービームLの最小の平均出力と、(0001)面上を直線的に移動する複数の集光点Pの移動方向と、の関係を調べた実験結果について説明する。
【0179】
図18は、クラックが形成される最小の平均出力の結晶方位依存性を評価する実験において、(0001)面上で[11-20]と複数の集光点Pの移動方向(即ち、レーザービームLの走査方向)との成す角度θを示すGaNインゴット21の平面図である。なお、本実験においても、複数の集光点Pが配列されている方向は、複数の集光点Pが移動する方向と(0001)面上において直交している。
【0180】
例えば、複数の集光点Pの移動方向が[11-20]方向であるときθ=0°であり、複数の集光点Pの移動方向が[-1100]方向であるときθ=90°である。当該実験での加工条件は、次の通りとした。
【0181】
波長 :1064nm
加工送り速度 :1000mm/s
繰り返し周波数 :50kHz
バースト数 :10(パルス群に含まれるパルス数)
分岐数 :10(レーザービームLの分岐数)
パス数 :1
各集光点のスポット径:約5μm
隣接する集光点の間隔:12.5μm
集光点の深さ位置 :上面21aからGaNインゴット21の内部へ約170μm
【0182】
なお、分岐数が10である本実験において、レーザービームLの平均出力とは、集光器における集光レンズ26を透過した後にGaNインゴット21へ入射するレーザービームLの平均出力を意味する。
【0183】
本実験では、まず、θの値を0°、且つ、レーザービームLの平均出力を所定値に固定した上で、上面21aをレーザービームLで走査した。次に、θの値を0°に固定した上で、レーザービームLの平均出力を0.05Wだけ増加させた。
【0184】
この様にして、段階的にレーザービームLの平均出力を増加させた結果、隣接する改質層13同士をつなぐクラックを形成できるレーザービームLの最小の平均出力は、1.25W(θ=0°)であった。
【0185】
次に、θを10°だけ増加させた上で、レーザービームLの出力を同様に段階的に上昇させた。その結果、レーザービームLの最小の平均出力は、1.10W(θ=10°)であった。同様にして、θを10°単位で増加させると共に、各角度において、隣接する改質層13同士をつなぐクラックを形成できる各レーザービームLの最小の平均出力を探索した。
【0186】
その結果、レーザービームLの最小の平均出力は、それぞれ、1.05W(θ=20°)、1.05W(θ=30°)、1.05W(θ=40°)、1.10W(θ=50°)、1.25W(θ=60°)、1.10W(θ=70°)、1.05W(θ=80°)、1.05W(θ=90°)となった。
【0187】
図19(A)は、角度θに対するクラックが形成される最小の平均出力を示すグラフであり、
図19(B)は、θ=30°の場合のGaNインゴット21の平面図であり、
図19(C)はθ=90°の場合のGaNインゴット21の平面図である。
【0188】
図19(A)に示す様に、θは、20°以上40°以下(即ち、30°-10°≦θ≦30°+10°)の範囲において、レーザービームLの平均出力は最小となる。つまり、レーザービームLの走査方向は、(0001)面において[01-10]±10°以下の範囲が好ましい。
【0189】
ここで、θについては、90°までの実験結果しか存在しないが、GaNインゴット21が六方晶であり、GaNインゴット21には(0001)面においてc軸(即ち、[0001]方向)の周りに60°の回転対称性があることを考慮すると、θは、80°以上100°以下(即ち、90°-10°≦θ≦90°+10°)の範囲も同様であることが合理的に推測される。
【0190】
つまり、レーザービームLの走査方向は、(0001)面において[-1100]±10°以下の範囲においても同様に好ましいものであると言える。また、60°の回転対称性を考慮すれば、レーザービームLの走査方向は、(0001)面において<10-10>±10°以下の範囲であれば、同様に好ましいものであると言える。
【0191】
即ち、(0001)面において、下記の(1)で表される結晶方位と、レーザービームLの走査方向と、の間で形成される角度を10°以下とすることで、レーザービームLの平均出力を過度に高くせずとも、隣接する改質層13同士をつなぐクラックを形成できると合理的に推測できる。
【0192】
【0193】
(第2変形例)
図20は、上述の実験結果を踏まえた第2の実施形態の第2変形例に係る中央領域剥離層形成工程S34を示す平面図である。なお、
図20では、理解を容易にするために、複数の集光点Pの2つは比較的大きな丸で示されており、この2つの集光点Pの間に位置するいくつかの集光点は省略されている。
【0194】
本実施形態の中央領域剥離層形成工程S34では、まず、GaNインゴット21の[1-100]がX軸方向と略平行になる様に、チャックテーブル4の向きを調整する。そして、複数の集光点Pを相対的に-X方向に移動させた後、複数の集光点Pを相対的に+X方向に移動させる。この様に、-X方向の移動と、+X方向の移動と、を交互に繰り返す。
【0195】
図20では、GaNインゴット21中における複数の集光点Pの移動経路を破線矢印で示す。なお、複数の集光点Pを、-X方向及び+X方向に交互に移動させることに代えて、-X方向のみに移動させてもよく、+X方向のみに移動させてもよい。
【0196】
複数の集光点PとGaNインゴット21との相対的な移動方向がX軸方向に沿う場合、当該移動方向は、[1-100]及び、[-1100]と平行になる。これらの結晶方位は、下記の(2)に示す様に、六方晶の結晶構造を有するGaNインゴット21において、6つの等価な結晶方位のうちの2つである。
【0197】
【0198】
勿論、上述の実験から明らかな様に、複数の集光点PとGaNインゴット21との相対的な移動方向は、GaNインゴット21の(0001)面において(2)で表される結晶方位との間で形成される角度が10°以下(即ち、<10-10>±10°以下)であってよい。
【0199】
GaNインゴット21と同じ結晶構造を有するGaN単結晶基板31に対して中央領域剥離層形成工程S34を行う際も、同様に、複数の集光点PとGaN単結晶基板31との相対的な移動方向を、GaN単結晶基板31の(0001)面において<10-10>±10°以下としてよい。
【0200】
第1及び2の実施形態並びにこれらの変形例では、レーザービームLを複数の集光点Pに分岐させる場合を説明した。しかし、加工時間は長くなることが予想されるが、原理的には、必ずしもレーザービームLを分岐させなくてもよく、外周側面から被加工物の内部に入射するレーザービームLをマスクできればよい。
【0201】
その他、上述の実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0202】
2:レーザー加工装置、4:チャックテーブル、4a:保持面
6:回転駆動機構、8:水平方向移動機構
11:被加工物、11a:上面(第1面)、11b:下面(第2面)
11c:外周領域、11d:外周側面
12:レーザービーム照射ユニット、14:レーザー発振器、16:出力調整器
13:改質層、15:剥離層
18:空間光位相変調器、18a:駆動回路、18b:矢印
20:マスクユニット
21:GaNインゴット(被加工物)
21a:上面(第1面)、21b:下面(第2面)、21c:厚さ方向
22a,22b:レンズ
23a,23b:平坦面、23c:第1側面、23d:第2側面
23e:外周側面、23f:外周領域、23g:中央領域
24:ミラー、26:集光レンズ
25:所定深さ、27:GaNウェーハ
30:コントローラ
31:GaN単結晶基板、31a:上面(第1面)、31c:外周縁
32:マスク、32a:一面、32b:他面、32c:開口
34:矢印
40:剥離装置、42:チャックテーブル、42a:保持面
44:剥離ユニット、46:可動部、48:吸引ヘッド、48a:保持面
A1,A2,A3,B1,B2,B3:破線
L:レーザービーム、L1:第1成分、L2:第2成分、P:集光点
S10:保持工程、S20:マスク準備工程、S30:レーザービーム照射工程
S32:外周領域剥離層形成工程、S34:中央領域剥離層形成工程
S40:剥離工程