(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025097795
(43)【公開日】2025-07-01
(54)【発明の名称】複合構造回転体及び樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
F16H 55/06 20060101AFI20250624BHJP
F16H 55/17 20060101ALI20250624BHJP
B29C 33/42 20060101ALI20250624BHJP
【FI】
F16H55/06
F16H55/17 Z
B29C33/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023214208
(22)【出願日】2023-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100183438
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 泰史
(72)【発明者】
【氏名】田原 伸一
【テーマコード(参考)】
3J030
4F202
【Fターム(参考)】
3J030BB02
3J030BB06
3J030BB16
3J030BC01
3J030BC08
4F202AB25
4F202AD03
4F202AD12
4F202AG26
4F202AG28
4F202AH12
4F202AR12
4F202CA11
4F202CB12
4F202CK12
4F202CK42
4F202CQ01
(57)【要約】
【課題】バランス良く補強繊維を設け強度を向上させた複合構造回転体及び樹脂成形体を提供すること。
【解決手段】複合構造ギヤ1は、補強繊維及び樹脂を含み、外周部51に歯形が形成された環状の樹脂成形体5と、環状の金属製ブッシュ3と、樹脂成形体5及び金属製ブッシュ3を連結する結合樹脂部材7と、を備えている。樹脂成形体5には、周方向において所定の間隔をあけて、複数の凹領域531が形成されており、凹領域531には、樹脂成形体5の厚さ方向の両面に凹部531yが形成された薄肉部531xが設けられている。そして、
図2(b)に示されるように、凹領域531において、両面の凹部531yの深さD1の合計値は、薄肉部531xの厚さT1よりも小さい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強繊維及び樹脂を含み、外周部に歯形が形成された環状の樹脂成形体と、
環状の金属製ブッシュと、
前記樹脂成形体及び前記金属製ブッシュを連結する結合樹脂部材と、を備え、
前記樹脂成形体には、周方向において所定の間隔をあけて複数の凹領域が形成されており、
前記凹領域には、前記樹脂成形体の厚さ方向の両面に凹部が形成された薄肉部が設けられており、
前記凹領域において、前記両面の前記凹部の深さの合計値は、前記薄肉部の厚さよりも小さい、複合構造回転体。
【請求項2】
前記補強繊維は、有機繊維である、請求項1記載の複合構造回転体。
【請求項3】
前記補強繊維は、アラミド繊維である、請求項2記載の複合構造回転体。
【請求項4】
互いに隣り合う2つの前記凹領域に挟まれた領域は、前記周方向における長さが、高さの2倍以上である、請求項1~3のいずれか一項記載の複合構造回転体。
【請求項5】
金属製ブッシュとの間を結合樹脂部材により連結されて複合構造回転体を構成する環状の樹脂成形体であって、
補強繊維と、樹脂と、を備え、
周方向において所定の間隔をあけて複数の凹領域が形成されており、
前記凹領域には、厚さ方向の両面に凹部が形成された薄肉部が設けられており、
前記凹領域において、前記両面の前記凹部の深さの合計値は、前記薄肉部の厚さよりも小さい、樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、複合構造回転体及び樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、補強用繊維基材に樹脂を含浸して歯部を形成した樹脂製複合構造回転体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上述した樹脂製複合構造回転体では、成型時において、樹脂成形体(補強繊維及び樹脂を含む成形体)における一部の領域、例えば隣り合う凹凸形状における凸の領域(2つの凹領域に挟まれた領域)に補強繊維が追従し難い場合がある。
【0005】
本発明の一態様は上記実情に鑑みてなされたものであり、バランス良く補強繊維を設け強度を向上させた複合構造回転体及び樹脂成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る複合構造回転体は、補強繊維及び樹脂を含み、外周部に歯形が形成された環状の樹脂成形体と、環状の金属製ブッシュと、樹脂成形体及び金属製ブッシュを連結する結合樹脂部材と、を備え、樹脂成形体には、周方向において所定の間隔をあけて複数の凹領域が形成されており、凹領域には、樹脂成形体の厚さ方向の両面に凹部が形成された薄肉部が設けられており、凹領域において、両面の凹部の深さの合計値は、薄肉部の厚さよりも小さい。
【0007】
本発明の一態様に係る複合構造回転体では、環状の樹脂成形体において周方向に沿って複数の凹領域が形成されており、各凹領域においては、樹脂成形体の厚さ方向の両面に凹部が形成された薄肉部が設けられている。そして、各凹領域においては、両面の凹部の深さの合計値が薄肉部の厚さよりも小さくなっている。このように、凹部が浅く形成されることにより、樹脂成形体の成型時において、補強繊維を互いに隣り合う凹領域の間の領域に適切に追従させて設けることができる。すなわち、凹部が深く形成されている場合には、凹領域に隣接する領域に補強繊維を追従させることが難しいのに対して、両面の凹部の深さの合計値が薄肉部の厚さよりも小さくなる程度に凹部が浅くされることにより、凹領域に隣接する領域にも適切に補強繊維を設けることができる。このことで、例えば連続した凹凸部が形成された樹脂成形体においてもバランス良く補強繊維を設けることができる。なお、凹部が浅くなった場合には樹脂成形体と結合樹脂部材との結合性が低下することが問題になり得るが、上述したように凹領域に隣接する領域にも適切に補強繊維が設けられるため、補強繊維により強度を担保し、上記結合性の低下を適切に抑制することができる。以上のように、本発明の一態様によれば、バランス良く補強繊維を設け強度を向上させた複合構造回転体を提供することができる。
【0008】
補強繊維は、有機繊維であってもよい。このような構成によれば、複合構造回転体の強度を適切に向上させることができる。
【0009】
補強繊維は、アラミド繊維であってもよい。このような構成によれば、複合構造回転体の強度を適切に向上させることができる。
【0010】
互いに隣り合う2つの凹領域に挟まれた領域は、周方向における長さが、高さの2倍以上であってもよい。このような構成によれば、樹脂成形体の成型時において補強繊維を上述した2つの凹領域に挟まれた領域に適切に追従させて設けることができる。
【0011】
本発明の一態様に係る樹脂成形体は、金属製ブッシュとの間を結合樹脂部材により連結されて複合構造回転体を構成する環状の樹脂成形体であって、補強繊維と、樹脂と、を備え、周方向において所定の間隔をあけて複数の凹領域が形成されており、凹領域には、厚さ方向の両面に凹部が形成された薄肉部が設けられており、凹領域において、両面の凹部の深さの合計値は、薄肉部の厚さよりも小さい。このように樹脂成形体が構成されることにより、バランス良く補強繊維を設け強度を向上させた複合構造回転体を提供することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、バランス良く補強繊維を設け強度を向上させた複合構造回転体及び樹脂成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実施形態に係る複合構造ギヤの正面図及び断面図である。
【
図2】
図2は、
図1の複合構造ギヤに含まれる樹脂成形体の正面図及び断面図である。
【
図5】
図5は、型締め圧縮時の補強繊維の状態を説明する図である。
【
図6】
図6は、比較例に係る複合構造ギヤの断面図である。
【
図7】
図7は、
図6の複合構造ギヤに含まれる樹脂成形体の断面図である。
【
図8】
図8は、比較例に係る樹脂成形体に関して、型締め圧縮時の補強繊維の状態を説明する図である。
【
図9】
図9は、変形例に係る複合構造ギヤの正面図及び断面図である。
【
図10】
図10は、
図9の複合構造ギヤに含まれる樹脂成形体の正面図及び断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。図面の説明において、同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0015】
図1は、実施形態に係る複合構造ギヤの正面図(
図1(a)及び断面図(
図1(b))である。
図1(a)及び
図1(b)に示されるように、複合構造ギヤ1は、樹脂及び金属からなる所謂ハイブリッドギヤであって、例えば車両用及び産業用等のギヤとして用いられる。複合構造ギヤ1は、金属製ブッシュ3と、樹脂成形体5と、結合樹脂部材7と、を備える複合構造回転体であってもよい。
【0016】
金属製ブッシュ3は、例えば不図示の回転軸に取り付けられる部材である。
図1(a)及び
図1(b)に示されるように、金属製ブッシュ3は、環状である。金属製ブッシュ3は、例えばステンレス鋼等の金属で形成されている。金属製ブッシュ3には、貫通孔3hが設けられている。貫通孔3hは、金属製ブッシュ3を軸方向に貫通する。貫通孔3hには、回転軸が挿入される。金属製ブッシュ3は、その外周面において周方向に所定の間隔をあけて複数形成された凸状の回り止め部31を有している。回り止め部31は、結合樹脂部材7に入り込んでいる。回り止め部31は、金属製ブッシュ3に対する結合樹脂部材7の回り止め及び抜け防止の機能を有する。
【0017】
樹脂成形体5は、他の歯車と噛み合う部材である。
図2は、
図1の複合構造ギヤ1に含まれる樹脂成形体5の正面図及び断面図である。
図1(a)(b)及び
図2(a)(b)に示されるように、樹脂成形体5は、金属製ブッシュ3と同軸の環状である。樹脂成形体5は、金属製ブッシュ3の周囲、ひいては、結合樹脂部材7の周囲に設けられている。樹脂成形体5は、外周部51と、内周部52と、中間部53と、を含んで構成されている。
【0018】
外周部51は、樹脂成形体5の外周に設けられた環状部分である。外周部51には、歯形が形成されている。歯形は、樹脂成形体5の周方向において、所定の間隔をあけて複数形成されている。内周部52は、樹脂成形体5の内周に設けられた環状部分である。
【0019】
中間部53は、外周部51及び内周部52の間の部分である。樹脂成形体5の中間部53には、
図2(a)に示されるように、周方向において所定の間隔をあけて、複数の凹領域531が形成されている。詳細には、樹脂成形体5の中間部53においては、周方向において凹領域531と領域532とが交互に配置されている。このような領域532は、互いに隣り合う2つの凹領域531に挟まれた領域である。
【0020】
各凹領域531には、
図2(b)に示されるように、樹脂成形体5の厚さ方向の両面に凹部531y,531yが形成された薄肉部531xが設けられている。凹領域531において、両面の凹部531y,531yの深さD1,D1の合計値は、薄肉部531xの厚さT1よりも小さい。言い換えると、各凹領域531の間の領域532において、両面の凸部である斜面部532y,532y(後述)の高さの合計値(すなわち、D1+D1)は、薄肉部531xの厚さT1よりも小さい。以下では、凹部531yの深さD1を、領域532(詳細には斜面部532y)の高さD1と言い換える場合がある。また、領域532の周方向における長さである幅W1(
図5参照)は、領域532の斜面部532yの高さD1よりも大きく、例えば2倍以上である。薄肉部531xの厚さT1は、例えば、5~10mm程度とされてもよい。領域532の斜面部532yの高さD1(凹部531yの深さD1)は、例えば、2~5mm程度とされてもよい。領域532の斜面部532yの幅W1(
図5参照)は、例えば4~10mm程度とされてもよい。また、樹脂成形体5における内周部52の内周面から外周部51の外周面までの径方向の長さR1(
図2(a)参照)は、樹脂成形体5の半径の40~50%程度とされてもよく、具体的には、15~20mm程度とされてもよい。
【0021】
また、
図2(a)に示されるように、凹部531yにおける外周側の角部については、金型からの離型性を向上させるためにRが付与されていてもよい。
【0022】
各領域532には、基部532xと、斜面部532yとが設けられている。基部532xは、外周部51に連続する位置に設けられた部分である。斜面部532yは、基部532xに連続すると共に径方向に沿って内周部52に向かうに連れて厚みが薄くなるように(
図2(b)参照)傾斜して延びる部分である。斜面部532yは、樹脂成形体5の厚さ方向の両面に形成されている。
【0023】
樹脂成形体5は、補強繊維(強化繊維)と、樹脂とを含んで構成されている。樹脂成形体5に含まれる補強繊維は、例えば、有機繊維である。補強繊維は、例えば、アラミド繊維であってもよいし、PBO(Poly-p-phenylenebenzobisoxazole)繊維、カーボン繊維、ガラス繊維、又は金属繊維等であってもよい。樹脂成形体5に含まれる樹脂は、例えば、ポリアミノアミド樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等であってもよい。なお、補強繊維として採用されるアラミド繊維は、パラ系アラミド繊維であってもよいし、メタ系アラミド繊維であってもよいし、パラ系アラミド繊維パルプであってもよい。パラ系アラミド繊維が採用される場合、その長さは3mm以上であってもよい。メタ系アラミド繊維が採用される場合、その長さは3mm以上であってもよいし、6mm以上であってもよい。樹脂成形体5に含まれる補強繊維の繊維総量(体積)は40%以上であってもよいし、40%以上且つ60%以下であってもよい。
【0024】
結合樹脂部材7は、樹脂成形体5及び金属製ブッシュ3を連結する部材である。結合樹脂部材7は、例えば、樹脂成形体5における中間部53及び内周部52の表面を覆うと共に、金属製ブッシュ3の外周面に接する位置まで設けられている。結合樹脂部材7に含まれる樹脂は、例えばPPS(Polyphenylene sulfide)、PEEK(Poly Ether EtherKetone)、PI(Polyimide)、LCP(LiquidCrystal Polymer)、PA(Polyamide)、POM(Polyoxymethylene)、PPE(Polyphenylene ether)、又はPBT(Poly Butylene Terephtalate)等であってもよく、ガラス繊維により強化されていてもよい。なお、結合樹脂部材7に含まれる樹脂は、樹脂成形体5に含まれる樹脂よりも安価であってもよい。
【0025】
次に、複合構造ギヤ1の製造方法について説明する。複合構造ギヤ1の製造方法は、繊維集積体を形成するステップと、樹脂製回転体を形成するステップと、成形ステップと、樹脂成形体5を形成するステップと、を含んでいる。
【0026】
繊維集積体を形成するステップについて説明する。本ステップでは、抄造法により円環状金型に短繊維を集積させて、抄造圧縮装置(不図示)を用いて圧縮動作を行うことにより、金属製ブッシュ3の外周部を囲む繊維集積体を形成する。短繊維は、水と混合されることにより形成されたスラリーとして抄造圧縮装置の金型に供給される。そして、真空吸引が行われて水分が排出されることにより、円環状の繊維集積体が形成される。
【0027】
つづいて、樹脂製回転体556を形成するステップについて説明する。本ステップでは、円環状の繊維集積体を型締め圧縮し、樹脂を含浸させ、樹脂を硬化させることにより樹脂製回転体556を形成する。
図3(a)に示されるように、繊維基材555が金型101内に配置される。金型101は、上下方向において対になって金属製ブッシュ3等を挟持する下型109及び上型110を備えている。
図3(b)に示されるように、下型109及び上型110により型締めを行い下型109及び上型110の凹凸に沿った形状に繊維基材555を強制圧縮し、金型101に液状樹脂が注入されて樹脂が硬化することにより、補強繊維及び樹脂を含む樹脂製回転体556が形成される。
【0028】
つづいて、成型ステップについて説明する。本ステップでは、樹脂製回転体556と金属製ブッシュ3を結合樹脂部材7によって連結させることにより成型品を形成する。具体的には、
図4(a)に示されるように樹脂製回転体556と金属製ブッシュ3を別の金型にセットし、
図4(b)に示されるように型締め後に結合樹脂部材7を射出して一体化して成形品を作成する。
【0029】
最後に、樹脂成形体5を形成するステップについて説明する。本ステップでは、樹脂製回転体556の外周部に機械加工が施されて歯形が形成されることにより、樹脂成形体5が形成される。このようにして、金属製ブッシュ3及び樹脂成形体5が結合樹脂部材7によって連結された複合構造ギヤ1が製造される。
【0030】
次に、本実施形態に係る複合構造ギヤ1(及び樹脂成形体5)の作用効果について説明する。
【0031】
最初に、
図6及び
図7を参照して、比較例に係る複合構造ギヤ301について説明する。
図6に示されるように、複合構造ギヤ301の基本構成は、本実施形態に係る複合構造ギヤ1と同様であり、樹脂成形体305と、金属製ブッシュ303と、結合樹脂部材307と、を備えている。金属製ブッシュ303には、貫通孔303hが設けられている。金属製ブッシュ303は、その外周面において周方向に所定の間隔をあけて複数形成された凸状の回り止め部331を有している。
図7に示されるように、樹脂成形体305の凹領域3531には、樹脂成形体305の厚さ方向の両面に凹部3531y,3531yが形成された薄肉部3531xが設けられている。各凹領域3531において、両面の凹部3531y,3531yの深さD2,D2の合計値(D2+D2)は、薄肉部3531xの厚さT2よりも大きい。
図7に示される例では、凹部3531yの深さD2は、薄肉部3531xの厚さT2と同程度とされており、両面の凹部3531y,3531yの深さD2,D2の合計値(D2+D2)は、薄肉部3531xの厚さT2の2倍程度とされている。
【0032】
このような凹部3531yの深さD2が深い樹脂成形体305については、成型時において補強繊維を凹部3531yに隣接する領域(例えば凸部)に適切に密着させることができず、強度が弱くなるおそれがある。
図8は、樹脂成形体305に関して、型締め圧縮時の繊維基材555(補強繊維)の状態を示す図である。
図8に示されるように、成形後の凹部3531yの深さが深くされている場合には、繊維基材555(補強繊維)が上型110に適切に追従せず、凹部3531yに隣接する領域において適切に補強繊維を設けることができない。
【0033】
これに対して、本実施形態に係る複合構造ギヤ1は、補強繊維及び樹脂を含み、外周部51に歯形が形成された環状の樹脂成形体5と、環状の金属製ブッシュ3と、樹脂成形体5及び金属製ブッシュ3を連結する結合樹脂部材7と、を備えている。樹脂成形体5には、周方向において所定の間隔をあけて、複数の凹領域531が形成されると共に、互いに隣り合う凹領域531の間に領域532が形成されており、凹領域531には、樹脂成形体5の厚さ方向の両面に凹部531yが形成された薄肉部531xが設けられている。そして、
図2(b)に示されるように、凹領域531において、両面の凹部531yの深さD1の合計値は、薄肉部531xの厚さT1よりも小さい。
【0034】
このような複合構造ギヤ1では、環状の樹脂成形体5において周方向に沿って複数の凹領域531が形成されており、各凹領域531においては、樹脂成形体5の厚さ方向の両面に凹部531y、531yが形成された薄肉部531xが設けられている。そして、各凹領域531においては、両面の凹部531y,531yの深さD1,D1の合計値が薄肉部531xの厚さT1よりも小さくなっている。このように、凹部が浅く形成されることにより、樹脂成形体5の成型時において補強繊維を互いに隣り合う凹領域531の間の領域532に適切に追従させて設けることができる。すなわち、比較例に係る構成のように凹部3531yが深く形成されている場合には、凹領域531の間の領域532に補強繊維を追従させることが難しいのに対して、両面の凹部531y,531yの深さの合計値が薄肉部531xの厚さよりも小さくなる程度に凹部531yが浅くされることにより、凹領域531に隣接する領域532にも適切に補強繊維を設けることができる。このことで、連続した凹凸部が形成された樹脂成形体5においてもバランス良く補強繊維を設けることができる。なお、凹部が浅くなった場合には樹脂成形体5と結合樹脂部材7との結合性が低下することが問題になり得るが、上述したように領域532にも適切に補強繊維が設けられるため、補強繊維により強度を担保し、上記結合性の低下を適切に抑制することができる。以上のように、本実施形態に係る構成によれば、バランス良く補強繊維を設け強度を向上させた複合構造ギヤ1を提供することができる。
【0035】
補強繊維は、有機繊維であってもよいし、さらに、アラミド繊維であってもよい。このような構成によれば複合構造ギヤ1の強度を適切に担保することができる。
【0036】
図5に示されるように、領域532は、周方向における長さである幅W1が、高さD1の2倍以上であってもよい。このように幅が広く深さが浅くされることにより、型締め圧縮時において補強繊維を領域532に適切に追従させることができる。
【0037】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記に限定されない。例えば、複合構造ギヤとして、
図9及び
図10に示される複合構造ギヤ1Aが採用されてもよい。
図9に示されるように、複合構造ギヤ1Aの基本構成は、上述した実施形態に係る複合構造ギヤ1と同様であり、樹脂成形体5Aと、金属製ブッシュ3と、結合樹脂部材7と、を備えている。ここでは、複合構造ギヤ1Aの内、複合構造ギヤ1と構成が異なる点である、樹脂成形体5Aを詳細に説明する。
【0038】
図10は、
図9の複合構造ギヤ1Aに含まれる樹脂成形体5Aの正面図(
図10(a))及び断面図(
図10(b))である。
図10に示されるように、樹脂成形体5Aの中央部53Aには、周方向において所定の間隔をあけて、複数の凹領域531Aが形成されており、凹領域531Aには、樹脂成形体5Aの厚さ方向の両面に凹部531Ay,531Ayが形成された薄肉部531Axが設けられている。そして、
図10(b)に示されるように、凹領域531Aにおいて、両面の凹部531Ay,531Ayの深さの合計値は、薄肉部531Axの厚さよりも小さい。
【0039】
そして、
図10(a)及び
図2(a)を比較すると明らかなように、樹脂成形体5Aにおける内周部52Aの内周面から外周部51Aの外周面までの径方向の長さR2(
図10(a)参照)は、樹脂成形体5における内周部52の内周面から外周部51の外周面までの径方向の長さR1(
図2(a)参照)よりも小さい。具体的には、樹脂成形体5Aにおける内周部52Aの内周面から外周部51Aの外周面までの径方向の長さR2は、樹脂成形体5Aの半径の30~40%程度とされてもよく、その値が、10~15程度とされてもよい。
【0040】
このように樹脂成形体5Aにおける径方向の長さR2が小さくされることにより、結合樹脂部材7と比較して高価な樹脂成形体5Aの体積を低減することができ、材料費を低減することができる。
【符号の説明】
【0041】
1,1A…複合構造ギヤ、3…金属製ブッシュ、5,5A…樹脂成形体、7…結合樹脂部材、531,531A…凹領域、531x,531Ax…薄肉部、531y,531Ay…凹部、D1…凹部の深さ(凹領域の間の領域の高さ)、W1…幅(周方向における長さ)。