(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025097932
(43)【公開日】2025-07-01
(54)【発明の名称】アルコール分散大粒子シリカゾル及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/145 20060101AFI20250624BHJP
【FI】
C01B33/145
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024213091
(22)【出願日】2024-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2023214242
(32)【優先日】2023-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 修平
(72)【発明者】
【氏名】末村 尚彦
(72)【発明者】
【氏名】関口 和敏
【テーマコード(参考)】
4G072
【Fターム(参考)】
4G072AA25
4G072AA28
4G072BB05
4G072CC02
4G072DD05
4G072EE06
4G072GG01
4G072GG03
4G072HH18
4G072HH21
4G072JJ15
4G072KK01
4G072LL06
4G072LL11
4G072PP11
4G072PP14
4G072TT01
4G072TT02
4G072TT30
(57)【要約】
【課題】アルコール溶媒に分散した大粒子シリカゾルであって、沈降性が低く、沈降しても再分散性が高いシリカゾルとその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】300~600nmの動的光散乱法による平均粒子径を有するシリカ粒子が炭素原子数1~5のアルコールに分散したシリカゾルであって、下記沈降性を有するシリカゾル。沈降性:シリカゾルを円筒形状かつ丸底型の底部を有する透明な容器に入れ、密封して5分間で1000回振とうを行った後、密封した容器を20℃で30日間静置する保管試験を行った場合に、該容器の対面に観察される透光可能な部分と透光不可能な部分の境界が、容器底部からaの高さにあり、かつ、シリカゾルの液面が当該境界からbの高さにあり、a:b=10:0~8の割合となる、沈降性。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
300~600nmの動的光散乱法による平均粒子径を有するシリカ粒子が炭素原子数1~5のアルコールに分散したシリカゾルであって、下記沈降性を有するシリカゾル。
沈降性:シリカゾルを円筒形状かつ丸底型の底部を有する透明な容器に入れ、密封して5分間で1000回振とうを行った後、密封した容器を20℃で30日間静置する保管試験を行った場合に、該容器の対面に観察される透光可能な部分と透光不可能な部分の境界が、容器底部からaの高さにあり、かつ、シリカゾルの液面が当該境界からbの高さにあり、a:b=10:0~8の割合となる、沈降性。
【請求項2】
更に下記再分散性を有する、請求項1に記載のシリカゾル。
再分散性:シリカゾルを円筒形状かつ丸底型の底部を有する透明な容器に入れ、密封して5分間で1000回振とうを行った後、20℃で30日間静置して保管した後、該容器を30秒間で100回振とうを行った場合に、シリカゾルの固形分(c:質量%)が、前記保管試験直前のシリカゾルの固形分(d:質量%)に対して60~100%である、再分散性。
【請求項3】
レーザー回折法によるD20~D80の粒子径範囲が250nm~550nmに存在する、請求項1又は2に記載のシリカゾル。
【請求項4】
アルコールが、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、又はプロピレングリコールモノエチルエーテルである、請求項1又は2に記載のシリカゾル。
【請求項5】
50℃28日間の保管後のpHの低下が2.0以内である、請求項1又は2に記載のシリカゾル。
【請求項6】
SiO2濃度が20質量%の時に粘度が2~10mPa・sである、請求項1又は2に記載のシリカゾル。
【請求項7】
SiO2濃度が0.05質量%のシリカゾルの波長350nmの吸光度が1.5以下である、請求項1又は2に記載のシリカゾル。
【請求項8】
水分を0.1~5.0質量%含む、請求項1又は2に記載のシリカゾル。
【請求項9】
下記(A)乃至(B)工程:
(A)工程:300~600nmの動的光散乱法による平均粒子径を有する水性シリカゾルを製造する工程、
(B)工程:(A)工程で得られた水性シリカゾルを限外ろ過装置を用いて水性媒体を炭素原子数1~5のアルコールに溶媒置換する工程、を含む、請求項1又は2に記載のシリカゾルの製造方法。
【請求項10】
(A)工程に用いる水性シリカゾルがアルカリケイ酸水溶液を陽イオン交換して得られるケイ酸水溶液から生じるシリカ粒子に、アルカリ成分と酸性ケイ酸水溶液を加え粒子成長させたシリカゾルである、請求項9に記載のシリカゾルの製造方法。
【請求項11】
(B)工程で水性ゾルに酸を電気伝導度として50~5000μS/cmの範囲で添加して、電気伝導度が5~50μS/cm未満になるまで限外ろ過装置を用いて炭素原子数1~5のアルコールに溶媒置換する、請求項10に記載のシリカゾルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルコールに分散した大粒子シリカゾルとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大粒子シリカゾルは、大粒子シリカ粒子の特性を利用して種々の用途に用いられている。例えば、大粒子シリカゾルをコーティング剤に含有させてフィルム表面に塗布することで、フィルム表面の凹凸を利用してフィルムの傷つきを防止したり、密着抑制を目的としたアンチブロッキング剤として利用したり、あるいはコーティング剤や接着剤に含有するフィラーとして強度向上剤に利用することができる。
【0003】
大粒子シリカゾルを用いる方法としては、従来からシリカ粉末を湿式粉砕してゾルにする方法が知られている。例えば、特許文献1には、沈殿法により得られた湿式シリカを分散させて湿式シリカ分散液を得る方法が記載され、特許文献2には、体積平均粒径が0.46~1.3μm、体積平均粒径に対する標準偏差の値が45~110%、反応性シラノール基量が1.5~3.0個/nm2である球状シリカ粉末を50~85質量%含有するシリカスラリー組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-231954号公報
【特許文献2】特開2013-212956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、アルコール溶媒に分散した大粒子シリカゾルであって、沈降性が低く、沈降しても再分散性が高いシリカゾルとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1観点として、300~600nmの動的光散乱法による平均粒子径を有するシリカ粒子が炭素原子数1~5のアルコールに分散したシリカゾルであって、下記沈降性を有するシリカゾル、
沈降性:シリカゾルを円筒形状かつ丸底型の底部を有する透明な容器に入れ、密封して5分間で1000回振とうを行った後、密封した容器を20℃で30日間静置する保管試験を行った場合に、該容器の対面に観察される透光可能な部分と透光不可能な部分の境界が、容器底部からaの高さにあり、かつ、シリカゾルの液面が当該境界からbの高さにあり、a:b=10:0~8の割合となる、沈降性、
第2観点として、更に下記再分散性を有する第1観点に記載のシリカゾル、
再分散性:シリカゾルを円筒形状かつ丸底型の底部を有する透明な容器に入れ、密封して5分間で1000回振とうを行った後、20℃で30日間静置して保管した後、該容器を30秒間で100回振とうを行った場合に、シリカゾルの固形分(c:質量%)が、前記保管試験直前のシリカゾルの固形分(d:質量%)に対して60~100%である、再分散性、
第3観点として、レーザー回折法によるD20~D80の粒子径範囲が250nm~550nmに存在する第1観点又は第2観点に記載のシリカゾル、
第4観点として、アルコールがメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、又はプロピレングリコールモノエチルエーテルである第1観点乃至第3観点のいずれか一つに記載のシリカゾル、
第5観点として、50℃28日間の保管後のpHの低下が2.0以内である第1観点乃至第4観点のいずれか一つに記載のシリカゾル、
第6観点として、SiO2濃度が20質量%の時に粘度が2~10mPa・sである第1観点乃至第5観点のいずれか一つに記載のシリカゾル、
第7観点として、SiO2濃度が0.05質量%のシリカゾルの波長350nmの吸光度が1.5以下である第1観点乃至第6観点のいずれか一つに記載のシリカゾル、
第8観点として、水分を0.1~5.0質量%含む第1観点乃至第7観点のいずれか一つに記載のシリカゾル、
第9観点として、下記(A)乃至(B)工程:
(A)工程:300~600nmの動的光散乱法による平均粒子径を有する水性シリカゾルを製造する工程、
(B)工程:(A)工程で得られた水性シリカゾルを限外ろ過装置を用いて水性媒体を炭素原子数1~5のアルコールに溶媒置換する工程、を含む第1観点乃至第8観点のいずれか一つに記載のシリカゾルの製造方法、
第10観点として、(A)工程に用いる水性シリカゾルがアルカリケイ酸水溶液を陽イオン交換して得られるケイ酸水溶液から生じるシリカ粒子に、アルカリ成分と酸性ケイ酸水溶液を加え粒子成長させたシリカゾルである請求項9に記載のシリカゾルの製造方法、及び
第11観点として、(B)工程で水性ゾルに酸を電気伝導度として50~5000μS/cmの範囲で添加して、電気伝導度が5~50μS/cm未満になるまで限外ろ過装置を用いて炭素原子数1~5のアルコールに溶媒置換する第9観点又は第10観点に記載のシリカゾルの製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
大粒子シリカゾルは、シリカ粉末を水性媒体や有機溶媒に分散又は湿式粉砕する方法で行われていた。シリカ粉末は数μmの粒子径のものであるが、分散や湿式粉砕する段階で粒子の細分化を生じる。その時に粒子径分布は広くなり、微小なシリカ粒子から粗大なシリカ粒子まで広い粒子径分布を有するシリカゾルが形成される。これらのシリカゾルは粗大シリカ粒子が沈降する傾向にあり、分散性の高いゾルを得る上で障害になり得る。
また、機械的な粉砕であるため粒子を破砕する過程で粒子形状が不均一な形状であったり、粒子径分布が広がったりすることにより、用途によっては不適となることがある。
【0008】
本発明は、水性媒体中でシリカ粒子の粒子径を増大させる技術を用い、十分に増大したシリカ粒子を有機溶媒(例えば、炭素原子数1~5のアルコール)に溶媒置換することで、分散安定性を有した状態で有機溶媒分散シリカゾルが得られる。また、粉砕等の工程を経ることがないため、粒子形状が不均一になることなく、粒子形状が整った有機溶媒分散シリカゾルが得られる。
【0009】
本発明では、大粒子水性シリカゾルの水性媒体を有機溶媒に溶媒置換することによって、有機溶媒に分散した大粒子シリカゾルが得られる。溶媒置換は限外濾過装置(UF装置)を用いて行うことができる。溶媒置換が蒸発法で行われた場合には、蒸発によって外部に除去された溶媒に置換すべき溶媒が、SiO2固形分が一定になるように供給されずにSiO2固形分が変動する条件で行われることにより、SiO2の沈殿を生じやすくなる。
【0010】
一方、本発明は、限外濾過装置(UF装置)を用いて水性シリカゾルの水性媒体を有機溶媒に溶媒置換するために、溶媒置換過程におけるSiO2固形分変化がほとんどなく、そのためにSiO2の沈殿を生じることがない。
【0011】
本発明では、大粒子シリカ粒子を水性媒体中で均一な大粒子径にすることによって得られた大粒子水性シリカゾルの水性媒体を、限外濾過装置(UF装置)を用いて炭素原子数1~5のアルコールに溶媒置換することで、大粒子シリカ粒子であっても沈降性が低い安定な有機溶媒に分散したシリカゾルを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明する。ただし、下記の実施形態は本発明を説明するための例示であり、本発明は下記の実施形態に何ら限定されるものではない。
本発明の一実施形態では、300~600nmの動的光散乱法による平均粒子径を有するシリカ粒子が炭素原子数1~5のアルコールに分散したシリカゾルであって、特定の沈降性を有するシリカゾルである。
【0014】
この沈降性は、シリカゾルを円筒形状かつ丸底型の底部を有する透明な容器に入れ、密封して5分間で1000回振とうを行った後、密封した容器を20℃で30日間静置する保管試験を行った場合に、該容器の対面に観察される透光可能な部分と透光不可能な部分の境界が、容器底部からaの高さにあり、かつ、シリカゾルの液面が当該境界からbの高さにあり、a:b=10:0~8の割合となる沈降性として、評価することができる。本発明のシリカゾルは300~600nmの動的光散乱法による平均粒子径を有するため、十分に分散したシリカゾルは白色コロイド状であり透光は不可であるが、該粒子が沈降することで透光可能な液体に変化する。透光不可領域と透光可能領域の境目が形成され、容器底部からの境界と液面からの境界の高さを計測することができる。
【0015】
本発明の一実施形態では、シリカゾルは、更に、特定の再分散性を有することができる。
この再分散性は、シリカゾルを円筒形状かつ丸底型の底部を有する透明な容器に入れ、密封して5分間で1000回振とうを行った後、20℃で30日間静置して保管した後、該容器を30秒間で100回振とうを行った場合に、シリカゾルの固形分(c:質量%)が、前記保管試験直前のシリカゾルの固形分(d:質量%)に対して60~100%である、再分散性として、評価することができる。
【0016】
上記保管試験に用いられる透明容器は、縦方向に沈降性が確認できる円筒形状の容器が好ましく、円筒の直径に対して高さ方向の長さが10倍以上、例えば10~20倍の形状が好ましく、例えば透明試験管を用いることができる。材質は、ガラス製又はプラスチック製の材質を選択することができる。本発明のシリカゾルは、動的光散乱法による平均粒子径が300~600nmであるため、固形分10~50質量%、又は20~40質量%のシリカゾルは目視で白色状である。このシリカゾル中のシリカ粒子が底部に沈降を生じた場合に、SiO2固形分濃度が高い沈殿部分と、SiO2固形分が希薄な上澄み部分に分離する。本発明では十分に分散した状態のシリカゾルを密封容器に20℃で30日間静置する保管試験を行い、保管試験終了後に該容器を30秒間で100回振とうを行う。この振とうは振とう機に保管試験容器を接して、振とう機の振動を保管容器に伝えることで実施することができる。上記振とう後に直ちにシリカゾルの固形分測定を行い、保管試験直前の固形分に対して60~100%、又は70~100%、又は80~100%、又は90~100%、又は95~100%となるものである。
【0017】
本発明の一実施形態において、固形分測定は、保管試験容器の液体部分から液体を抽出し、その液体を1000℃に焼成した残分の焼成前の質量の割合から測定することができる。
【0018】
上記振とうを行った場合でも底部に固形物が固着している場合には、固着物の上部に存在する液体の固形分を計測して、その結果が上記固形分範囲に含まれていることで、本発明のシリカゾルとすることができる。上記固形分範囲に入る値は再分散性が高いシリカゾルである。評価に用いる30秒間の振とう時間という条件は十分に分散した状態であるが、更に延長することで高度に分散性のあるシリカゾルとすることができ、60秒以上、更に60~600秒間の振とうであり、例えば300秒間の振とうを行い高度に分散したシリカゾルとすることができる。
【0019】
本発明に用いられる振とう機は、例えば振とう台の下部の台座内に動力部分が内蔵されていて、動力部分はモーターからベルトを介してプーリーに動力を伝えることでモーターの回転が振とう台の往復運動に変換される仕組みを用いる振とう機を利用することができる。
【0020】
本発明では、レーザー回折法によるD20~D80の粒子径範囲が250nm~550nmに存在することができる。
【0021】
本明細書において、上記X%累積径(DX)とは、累積粒度分布の小粒子側からの累積X体積%(体積頻度粒度分布における累積値がX%)に相当する粒子径をいう。
【0022】
上記累積径は、以下の通り定められる。まず対象となる粒子等の分散液について、レーザー回折散乱粒度分布測定装置を用いて粒度分布を測定し、体積基準の累積粒度分布曲線を得る。そして得られた累積粒度分布において、X%累積時の体積粒度を、該粒子等のX%累積径(DX)とする。
【0023】
本発明において、炭素原子数1~5のアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、又はプロピレングリコールモノエチルエーテルを挙げることができる。特に粒子径の大きなシリカ粒子は分岐アルコールによって沈降性を防止することができ、イソプロピルアルコールは好ましく用いることができる。
【0024】
本発明の一実施形態では、50℃28日間の保管後のpHの低下が2.0以内、例えば1.0以内に調整することができる。粒子径の大きなシリカ粒子は単位体積当たりのシラノール基量が低く、アルカリイオンの吸脱着量も大きくないためpHの変化率は低いと考えられる。
【0025】
また、粒子径の大きなシリカ粒子は比表面積が低く、シリカ粒子間の相互作用も緩和されるため粘度は2~10mPa・sの範囲に存在することができる。そして、水分が0.1~5.0質量%含むアルコール溶媒である場合に2~10mPa・sの範囲が好ましい。
【0026】
高屈折率粒子と本発明のシリカ粒子を併用した場合に、例えば高屈折率粒子が酸化チタンである場合に本発明のシリカは透過性があり、SiO2濃度が0.05質量%のシリカゾルの波長350nmの吸光度が1.5以下に設定することができる。
【0027】
本発明の一実施形態では、下記(A)乃至(B)工程:
(A)工程:300~600nmの動的光散乱法による平均粒子径を有する水性シリカゾルを製造する工程、
(B)工程:(A)工程で得られた水性シリカゾルを限外ろ過装置を用いて水性媒体を炭素原子数1~5のアルコールに溶媒置換する工程、を含み製造することができる。
【0028】
本発明の一実施形態において、(A)工程では、水性シリカゾルをビルドアップすることにより製造することができる。
【0029】
(A)工程は、珪酸アルカリ水溶液の陽イオン交換により得られたケイ酸液を加熱することにより得られたシリカ粒子分散液、又はテトラアルコキシシランの加水分解により得られるシリカ粒子分散液を、下記(I)工程と(II)工程を経て得られるシリカ水性ゾルであって、
(I)工程は、シリカ粒子分散液にアルカリ性成分を添加し、ケイ酸液を添加する工程(I-i)、50~200℃で加熱する工程(I-ii)、又はそれらの組み合わせ工程(I-iii)である。
(II)工程は、(I)工程で得られたシリカ粒子分散液を陽イオン交換と陰イオン交換を行い工程、により製造することができる。
【0030】
上記(I)工程で用いられるケイ酸液は、アルカリ金属水酸化物水溶液を陽イオン交換して得られる酸性ケイ酸液、又はテトラアルコキシシランを加水分解して得られるケイ酸液を用いることができる。テトラアルコキシシランはテトラエトキシシラン又はテトラメトキシシランを用いることができる。
【0031】
上記(I)工程では、凝集を防止するためにシリカが低濃度の状態で粒子成長を行うことが望ましく、例えばシリカ濃度が0.1~20質量%の範囲で行うことができる。シリカ粒子径の増大に伴い工程途中でシリカ濃度を20~60質量%まで濃縮する操作を加えることができる。また、シリカ粒子径の増大とシリカ濃度の濃縮を同時に行うために、ケイ酸液の添加を開放系で行うことができる。
【0032】
上記(II)工程では、イオン交換によりイオンを低減するが、この時、陽イオンと陰イオンを除去することができる。本発明ではシリカ粒子径が300~600nmの範囲にあり大きな粒子形状を有するためシリカ粒子間の凝集力は、比較的小さな粒子径を有するシリカゾルよりも低いため中性付近のpHであっても安定に存在することができる。
【0033】
(B)工程は、(A)工程で得られた水性シリカゾルの水性媒体を炭素原子数1~5のアルコールに溶媒置換する工程である。上記アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、又はプロピレングリコールモノエチルエーテルを挙げることができる。中でも、イソプロパノール(即ち、2-プロパノール)を好ましく用いることができる。
【0034】
(B)工程では、水性ゾルに酸を電気伝導度として50~5000μS/cm、又は50~500μS/cmの範囲で添加して、電気伝導度が5~50μS/cm未満になるまで限外ろ過装置を用いて炭素原子数1~5のアルコールに溶媒置換することができる。
【0035】
酸としては、硫酸、硝酸、塩酸、リン酸等の鉱酸水溶液が挙げられる、中でも、硫酸を好ましく用いることができる。これらの酸は、例えば、1~15質量%濃度、又は5~10質量%濃度で用いることができる。
【0036】
上記溶媒置換によれば、水性媒体からアルコール溶媒に置換すると共に、媒体中に存在するイオンを除去することができる。除去するイオンとしては、アニオンとカチオンの両方を低減できる。本発明では、アニオンの低減として、硫酸イオンを電気伝導度が5~20μS/cm程度、又は10~20μS/cmの範囲になるまで低減して溶媒置換することができる。
【0037】
水性媒体からアルコール溶媒に置換する過程で残存する水分として、0.1~5.0質量%の水分を含むことができる。
【実施例0038】
<分散液の諸物性>
・比重:浮き秤法にて求めた。
・pH:pHメーター(東亞ティーディーケー(株)製)により求めた。(20℃)水分散シリカゾルはそのまま測定し、有機溶媒分散シリカゾルは水で質量比1:1に希釈したものを測定した。
・電気伝導度:電気伝導率計(東亞ティーディーケー(株)製)により求めた。(20℃)水分散シリカゾルはそのまま測定し、有機溶媒分散シリカゾルは水で質量比1:1に希釈したものを測定した。
・粘度:B-II形粘度計(東機産業(株)製)を用い、25℃で測定した。
【0039】
・SiO2濃度:1000℃で焼成した際の残存固形物より求めた。
・水分:カールフィッシャー滴定法により求めた。
・動的光散乱法(DLS)による平均粒子径:分散溶媒で希釈し、動的光散乱法測定装置:Malvern Instruments Ltd製ゼーターサイザーを用いて測定した。
・レーザー回折法による体積基準のD20、D50、D80:ナノ粒子径分布測定装置:(株)島津製作所製、SALD-7500nanoで測定した。
・吸光度:分散溶媒で0.05質量%に希釈し、紫外可視近赤外分光光度計:(株)島津製作所製、UV-3600Plusを用いて350nmの波長における吸光度を測定した。
【0040】
<沈降性>
シリカゾルを円筒形状かつ丸底型の底部を有する透明容器(東京硝子器械(株)製、Fine共通共栓試験管、容量20mL、外径18mm、内径14mm、高さ180mm)に入れ、密封して5分間で1000回振とうを行った後、密封した容器を20℃で30日間静置する保管試験を行い、LED照明(3500ルーメン程度)による可視光(波長380~780nm)照射下で、該容器の対面に観察される透光可能な部分と透光不可能な部分との境界を目視で判定し、容器底部からの境界の高さaと、当該境界からシリカゾル液面の液面までの高さbを求め、それらの比(a:b)を求めた。
【0041】
<再分散性>
シリカゾルを円筒形状かつ丸底型の底部を有する透明容器に入れ、密封して5分間で1000回振とうを行った後、20℃で30日間静置して保管した後、30秒間で100回振とうした際のSiO2濃度をc質量%、静置前のSiO2濃度をd質量%とし、c/d(%)の数値より算出した。
【0042】
(実施例1)
水分散シリカゾル(1)(日産化学(株)製、商品名MP-4540M、SiO2の質量として40.3質量%含有する、動的光散乱法による平均粒子径418nm)に8.0質量%の硫酸水溶液を添加して、水分散シリカゾル(2)(pH3.1、SiO2の質量として40.4質量%含有する、動的光散乱法による平均粒子径440nm)を得た。次いで限外ろ過装置を用いて2-プロパノールに置換して、2-プロパノール分散シリカゾル(1)を得た。得られた2-プロパノール分散シリカゾル(1)は、SiO2の質量として40.8質量%含有していた。
【0043】
(実施例2)
実施例1と同様に、水分散酸性シリカゾル(2)を限外ろ過装置を用いて2-プロパノールに置換して、2-プロパノール分散シリカゾル(2)を得た。得られた2-プロパノール分散シリカゾル(2)は、SiO2の質量として19.0質量%含有していた。
【0044】
(比較例1)
シリカ粉末((株)アドマテックス製、SO-C2、粒子径0.4~0.6μm、粒子径はレーザー解析式粒度分布計にて測定)をディスパー撹拌翼で撹拌して2-プロパノールに分散させることで、2-プロパノール分散シリカゾル(3)を得た。得られた2-プロパノール分散シリカゾル(3)はSiO2の質量として17.3質量%含有していた。
【0045】
(比較例2)
500mLのポリ容器に、シリカ粉末((株)アドマテックス製、SO-C2、粒子径0.4~0.6μm、粒子径はレーザー解析式粒度分布計にて測定)35g、ジルコニアボール(直径1mm)333g、水375gを入れ、回転数220rpmで72時間処理することで、水分散シリカゾル(3)(pH6.5、SiO2の質量として8.2質量%含有する、動的光散乱法による平均粒子径260nm)を得た。得られた水分散シリカゾル(3)をエバポレータを用いて170Torrで2-プロパノールを添加しながら水を留去することにより水を2-プロパノールに置換して、2-プロパノール分散シリカゾル(4)を得た。得られた2-プロパノール分散シリカゾル(4)はSiO2の質量として20.3質量%含有していた。
【0046】
【0047】
実施例1及び実施例2で得られた2-プロパノール分散シリカゾルは、比較例1及び比較例2で得られたものに比べて、20℃で静置した際の沈降性が抑制されており、再分散性も良好だった。さらに、実施例1及び実施例2で得られた2-プロパノール分散シリカゾルは、平均粒子径及びレーザー回折法で測定することで得られた粒度分布から判断して、シリカゾル中のシリカの凝集が抑制されていることが示唆された。