(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025098286
(43)【公開日】2025-07-01
(54)【発明の名称】浸炭部品
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20250624BHJP
C22C 38/18 20060101ALI20250624BHJP
C22C 38/54 20060101ALI20250624BHJP
C21D 9/00 20060101ALN20250624BHJP
C21D 8/06 20060101ALN20250624BHJP
【FI】
C22C38/00 301N
C22C38/18
C22C38/54
C21D9/00 A
C21D8/06 A
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2025062146
(22)【出願日】2025-04-03
(62)【分割の表示】P 2020191751の分割
【原出願日】2020-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 知理
(74)【代理人】
【識別番号】100185258
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 宏理
(72)【発明者】
【氏名】大西 真也
(72)【発明者】
【氏名】橋本 和弥
(57)【要約】
【課題】 高Cr材であっても安定な浸炭層が得られる浸炭部品の提供。
【解決手段】 化学成分が質量%で、C:0.10~0.32%、Si:0.20~0.80%、Mn:0.20~0.60%、P:≦0.030%、S:≦0.030%、Cr:1.60~5.00%、Al:0.003~0.050%、N:0.005~0.020%、残部がFeおよび不可避不純物からなり、Cr+9.0Mn<8.6を満足する鋼材を浸炭した浸炭部品であって、浸炭後の表面の硬さが700Hv以上、浸炭後の表面から500μm深さまでの炭素量が0.50~1.00%である浸炭部品。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.10~0.32%、Si:0.20~0.80%、Mn:0.20~0.60%、P:≦0.030%、S:≦0.030%、Cr:1.60~5.00%、Al:0.003~0.050%、N:0.005~0.020%、残部がFeおよび不可避不純物からなり、
Cr+9.0Mn<8.6の式を満足する鋼材を浸炭した浸炭部品であって、
浸炭後の表面の硬さが700Hv以上で、表面から500μm深さまでの炭素量が0.50~1.00%であること、を特徴とする浸炭部品。
【請求項2】
質量%で、C:0.10~0.32%、Si:0.20~0.80%、Mn:0.20~0.60%、P:≦0.030%、S:≦0.030%、Cr:1.60~5.00%、Al:0.003~0.050%、N:0.005~0.020%、
さらに選択的付加的成分として、Nb:0.02~0.10%、Ni:5.00%以下、Mo:1.00%以下、Ti:0.20%以下、B:0.010~0.050%のうち、少なくとも1種類を含有し、
残部がFeおよび不可避不純物からなり、
Cr+9.0Mn<8.6の式を満足する鋼材を浸炭した浸炭部品であって、
浸炭後の表面の硬さが700Hv以上で、表面から500μm深さまでの炭素量が0.50~1.00%であること、を特徴とする浸炭部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸炭部品に関し、特に高Cr材であっても浸炭阻害の発生を抑制することが可能な浸炭部品に関する。
【背景技術】
【0002】
浸炭焼入れは鋼材の表面硬化処理の代表的なものであり、歯車や軸受などの高い疲労強度・耐摩耗性が必要とされる浸炭部品に用いられている。このような部品には、日本産業分類(JIS)に規定されるSCM420やSCR420が通常用いられてきた。しかし、昨今の部品の使用環境はより過酷化しており、部品の長寿命化や高強度化が求められている。
【0003】
このようなニーズに応えるために、質量%で、C:0.10~0.35%、Si:0.40~0.80%、Mn:0.15~1.50%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:1.20~2.50%、Ni:0.20%以下、Mo:0.10%以下を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼であり、該鋼はガス浸炭した時に最大粒界酸化の深さがD1が10μm以下、合金欠乏層である不完全焼入層の最大深さD2が8~20μm、かつD2-D1が2~15μmであり、浸炭異常層の残った状態の浸炭肌を有することを特徴とする耐ピッチング特性に優れた機械構造用肌焼鋼が提案されている(特許文献1参照。)。この提案は、ピッチングの起点となりうる粒界酸化の深さまでマルテンサイトよりも軟質な不完全焼き入れ層が覆うことで、粒界酸化を不完全焼き入れ層と一緒に摩耗させ、長寿命化する方策である。
【0004】
また、質量%で、C:0.10~0.35%、Si:0.25~0.80%、Mn:0.30~1.80%、P:0.030%以下、S:0.035%以下、Cr:2.00~3.50%、Mo:0.04~0.50%、Al:0.003~0.100%、N:0.002~0.050%を含有し、Si+0.5Cr≧1.5かつSi、Cr、Moの合計量が3.0%以上を満たし、残部がFeおよび不可避不純物からなるものとし、浸炭処理または浸炭窒化処理ならびに焼入焼戻し処理を行った際の、表面から20μmにおけるC濃度を、0.7~1.0%とし、同じくMs点をMs≦215℃以下とし、残留γ量が体積%で20≦γ≦50%である、特に歯車の水素浸入環境化での使用の際に耐ピッチング特性に優れた歯車用はだ焼鋼が提案されている(特許文献2参照。)。これは、脆化の原因となる水素の拡散速度を抑制させる残留γを安定化させ、歯車の耐ピッチング特性を向上させる方策である。
【0005】
そして、質量%で、C:0.13~0.35%、Si:0.20~0.65%、Mn:0.50~1.80%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:2.30~3.50%を含有し、さらに、Ni:0.10~0.50%、Mo:0.03~0.50%から選択した1種または2種を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼であり、
図2に示す浸炭焼入パターンおよび焼戻し後の該鋼の最表面から100~300μmの母相成分中に固溶したSi、Mn、Cr、Ni、Moの合計は3.0%以上であり、さらに残留γ量は20~50vol%であって、その他残部はマルテンサイト組織である、耐白色組織変化はく離寿命に優れる軸受用鋼が提案されている(特許文献3参照)。これは、水素環境下において、水素を起因とする白色組織変化を抑制することで軸受の剥離寿命を向上させる技術である。
【0006】
加えて、質量%で、C:0.10~0.30%、Si:0.20~0.50%、Mn:0.20~1.20%、P:0.020%以下、S:0.020%以下、Cr:2.60~4.50%、Mo:0.10~0.40%、Ni:0.20%以下、Cu:0.20%以下を含有し、残部が鉄(Fe)および不可避不純物である合金鋼からなり、任意の切断面で面積320mm2当たりに存在する直径10μm以上の酸化物系介在物が10個以下である素材を、所定形状に加工した後、浸炭または浸炭窒化と焼入れ焼戻しを行って得られる風力発電設備用転がり軸受が提案されている(特許文献4参照。)。これは高Crとすることで水素によるマルテンサイトからフェライトへの組織変化を抑制し、高強度化を達成する技術である。
【0007】
いずれの提案においても、Cr量が1.50%以上であることを必要としており、このように部品の長寿命化や高強度化を図る方策として、CrをJIS鋼以上に含有させることを念頭に置くものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2016-98426号公報
【特許文献2】特許第6347926号公報
【特許文献3】特許第6639839号公報
【特許文献4】特許第5982782号公報
【特許文献5】特許第6308382号公報
【特許文献6】特許第4327812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
もっとも、これら提案の技術はいずれも高Crとするものであることから、浸炭した際に鋼材の表面にCr酸化物が形成するため、炭素の侵入が阻害されてしまうリスクが顕在化してしまう問題がある。
【0010】
こうした問題に対して、これまでにもCr酸化物層を所定の厚さ以下にすることで無害化しようとする方策が提供されている(特許文献5参照。)。また、浸炭前にCr酸化物形成の原因となる、Crの濃化が生じる加工変質層を除去する方策も提供されている(特許文献6参照。)。
【0011】
しかしながら、こうした提案では、いずれにしても浸炭条件に左右されることから、完全に阻害を避けることができるとは言い難く、未だに十分な改善方法が確立されていないのが現状である。
【0012】
そこで、本発明が解決する課題は、浸炭条件に左右されず、高Cr材でありつつも浸炭阻害を抑制した浸炭部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討の結果、部品を長寿命化するために浸炭後の表面硬さと表面炭素量が規定を満たし、さらに浸炭特性を高めるために、Cr酸化物とともにMn酸化物の形成を抑制すること、つまりCrおよびMnの量がCr+9.0Mo<8.6(以下式(A))を満足する鋼材を用いた浸炭部品を提供することが、浸炭阻害を抑制するうえで有用であることを見出した。
【0014】
そして、本発明の課題を解決するための第1の手段は、
質量%で、C:0.10~0.35%、Si:0.20~0.80%、Mn:0.20~0.60%、P:≦0.030%、S:≦0.030%、Cr:1.60~5.00%、Al:0.003~0.050%、N:0.005~0.020%、残部がFeおよび不可避不純物からなり、
Cr+9.0Mn<8.6の式を満足する鋼材を浸炭した浸炭部品であって、
浸炭後の表面の硬さが700Hv以上で、表面から500μm深さまでの炭素量が0.50~1.00%であること、を特徴とする浸炭部品である。
【0015】
その第2の手段は、
質量%で、C:0.10~0.35%、Si:0.20~0.80%、Mn:0.20~0.60%、P:≦0.030%、S:≦0.030%、Cr:1.60~5.00%、Al:0.003~0.050%、N:0.005~0.020%を主成分とし、
さらに、選択的付加的成分としてNb:0.02~0.10%、Ni:5.00%以下,Mo:1.00%以下,Ti:0.20%以下,B:0.010~0.050%のうち、少なくとも1種類を含有し、
残部がFeおよび不可避不純物からなり、
Cr+9.0Mn<8.6の式を満足する鋼材を浸炭した浸炭部品であって、
浸炭後の表面の硬さが700Hv以上で、表面から500μm深さまでの炭素量が0.50~1.00%であること、を特徴とする浸炭部品である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、高Cr材でありながら、浸炭条件に左右されにくく、浸炭条件に特段の工夫をせずとも、浸炭阻害が抑制された浸炭部品を得られることとなる。そこで、浸炭後に700Hv以上の優れた表面硬さであって、表面から500μm深さまでの炭素量が0.50~1.00%である適正な炭素濃度分布の浸炭部品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】浸炭性の評価に用いる試験片を説明する(a)正面図と(b)側面図である。
【
図2】浸炭処理条件の一例を示す温度-時間の工程図であり、上から順に、実施例に用いた浸炭条件1、2、3の手順が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の浸炭部品に用いる鋼材の化学組成を規定した理由を述べる。以下の%は質量%である。
【0019】
C:0.10~0.35%
Cは、機械構造用部品として浸炭処理後の浸炭層ならびに芯部強度を確保するために必要な元素である。0.10%未満ではその効果が十分に得られず、反対に0.35%を超えると芯部の靭性を低下させる。そのためCの含有量を0.10~0.35%とする。好ましくはCは0.10~0.32%であり、より望ましくはCは0.15~0.30%である。
【0020】
Si:0.20~0.80%
Siは、鋼の溶製時の脱酸に必要な元素であり、焼き入れ性を向上させる効果を持つ元素である。0.20%未満では脱酸効果が十分でなく、0.80%を超えると加工性を低下させる。そのためSiの含有量を0.25~0.80%とする。より望ましくはSiは0.35~0.65%とする。
【0021】
Mn:0.20~0.60%
Mnは、本発明において最も重要な元素成分である。鋼の溶製時の脱酸に必要な元素であるとともに、焼入性を向上させる元素である。Mnは0.20%未満では脱酸効果が十分でなく、0.60%を超えると浸炭阻害が生じうる酸化スケールが生成してしまう。そのためMnの含有量を0.20~0.60%とする。より好ましくはMnを0.20~0.40%とする。
【0022】
P:≦0.030%
Pは不可避的不純物であり、0.030%を超えると、粒界偏析によって靱性が低下することとなる。そこで、Pは0.030%以下とする。
【0023】
S:≦0.030%
Sは不可避的不純物であり、0.030%を超えると、MnSの形成によって靱性が低下し、疲労強度も低下する。そこで、Sは0.030%以下とする。
【0024】
Cr:1.60~5.00%
Crは焼き入れ性向上を向上させる元素である。鋼の焼き入れ性を確保するためにCrは1.60%以上の添加が必要である。しかし、Crを5.00%を超えて添加すると、鋼材表面にCr系主体の酸化被膜が形成し、浸炭条件によらず、浸炭を阻害することとなる。そこで、Crは1.60~5.00%とし、より望ましくはCrは1.70~3.00%とする。
【0025】
Al:0.003~0.050%
Alは、脱酸のために必要な元素である。しかし、Alは0.003%未満ではその効果が十分に得られず、Alの添加量を増やすと、鋼中に生成されるアルミナ系介在物が増加することにより、疲労強度が低下する。そのためAlの含有量を0.003~0.050%とする。より望ましくはAlを0.010~0.030%とする。
【0026】
N:0.005~0.200%
NはAl,Nb,Ti等と結合して窒化物を形成しやすく、結晶粒微細化に有効で、疲労強度を高める効果がある。この効果を得るためには0.005%以上の添加が必要である。しかし、Nは0.200%を超えて添加すると窒化物が析出しすぎてしまい疲労強度が低下する。そのためNの含有量を0.005~0.200%とし、より望ましくはNを0.050~0.150%とする。
【0027】
Ni:5.00%以下
Niは選択元素の1つである。Niは鋼の焼入れ性を高めるのに有効な元素であるが、高価であるため、工業上その含有量の最小化が求められている。そのため、Niの含有量は5.00%以下とする。
【0028】
Mo:1.00%以下
Moは選択元素の1つである。Moは焼き入れ性向上および靭性向上に有効な元素である。しかし、Moが過多になると加工性の低下および素材コストの上昇につながってしまう。そのためMoの含有量は1.00%以下とする。
【0029】
Nb:0.02~0.10%
Nbは選択的付加的成分の1つである。C、Nと炭窒化物を形成し、ピンニング効果により結晶粒が微細化することで疲労強度が向上する元素である。しかしながら、Nb含有量が高すぎれば、鋼の靭性が低下する。そのためNbの含有量を0.02~0.10%とする。
【0030】
Ti:0.20%以下
Tiは選択的付加的成分の1つである。TiはC、Nと炭窒化物を形成し、ピンニング効果により結晶粒が微細化することで疲労強度が向上する。しかしながら、Ti含有量が高すぎれば、鋼の靭性が低下する。そのため、Tiの含有量は0.20%以下とする。
【0031】
B:0.010~0.050%
Bは選択的付加的成分の1つである。Bは焼き入れ性を向上させるとともにPの粒界析出を阻害することで靭性を向上させる働きを有する元素である。この効果を得るためにはBを0.010%以上添加することが望ましい。しかし、Bが0.050%を超えるとその効果は飽和する。そこで添加するBの含有量は0.010~0.050%とする。
【0032】
Cr+9.0Mn<8.6であること
この式の指標は、浸炭時の浸炭阻害抑制のためである。この指標の値が8.6を上回ると、浸炭した際に鋼材の表面にCr酸化物とともにMn酸化物が形成するため、炭素の侵入が阻害されてしまうので、硬さが得られにくくなる。鋼材の成分がCr+9.0Mn<8.6を満足していると、浸炭した際に、浸炭条件に左右されることなく、浸炭阻害の発生を抑制することができる。
【0033】
次に、本発明に規定する鋼材を浸炭した浸炭部品の浸炭後の表面の性状について規定した理由を述べる。
【0034】
浸炭後の最表面の硬さが700Hv以上
浸炭部品の表面硬さが700Hv未満であると、浸炭部品、例えば歯車や軸受などにおいて、所定の強度特性が得られず、部品の寿命が短くなるからである。したがって、最表面硬さは700Hv以上とする。
【0035】
浸炭後の表面から500μm深さまでの炭素量は0.50%~1.00%とすること
浸炭後の表面から500μm深さまでの炭素量が0.50%未満であると、浸炭が正常に行えておらず、疲労強度が低くなる。また、表面から500μm深さまでの炭素量が1.00%を超えると炭化物が析出しすぎてしまい、効果が飽和する。したがって、浸炭後の表面から500μm深さまでの炭素量は0.50%~1.00%とする
【0036】
(実施例)
表1に示された化学組成からなる鋼種名A~Pの100kg鋼塊を、それぞれ真空溶解炉にて溶製した。その後、これらA~Pの各鋼を1250℃で12時間以上ソーキングを行い、熱間鍛造して直径32mmの棒鋼に製造し、900℃で4時間保持した後空冷して焼きならし処理を行うことで供試材を得た。
【0037】
【0038】
これらの供試材を、
図1に示す寸法に加工し、
図2に示す浸炭条件が異なる3条件でそれぞれガス浸炭することで試験片を得た。ここで、浸炭条件1は通常用いられる浸炭条件であり、浸炭条件2は浸炭温度が低めであり、浸炭条件3は浸炭時間を短めに設定している。
【0039】
<評価項目>
浸炭後の試験片の特性については、(1)浸炭後の表面硬さ(Hv硬さ試験機を用いて測定)、(2)浸炭後の表面炭素濃度(浸炭後に試験片を切り出し、電子線マイクロアナライザ(EPMA)を用いて測定)を評価した。下記に、詳細な測定方法について述べる。
【0040】
(1)上記の試験片に対して、Hv硬さ試験機を用いて浸炭面の任意の箇所を5回、荷重300kgfで測定し、その測定結果の平均値を当該試験片の浸炭後の表面硬さ(ビッカース硬さ)とした。
【0041】
(2)浸炭後の試験片を半割し、切断面が表面に現れるように導電性樹脂に埋め込み、研磨をした。その後、EPMAを用いて、浸炭面から深さ方向に500μm深さまでの炭素量を10μm間隔で測定し、その平均値を表面炭素濃度とした。この値が炭素量に関わる請求項の範囲である0.50~1.00%を満たすか判定した。
【0042】
鋼種A~Pの化学成分の鋼からなる試験片に対して浸炭条件1~3にて浸炭し、各浸炭後の試験片に対して、上記(1)、(2)の評価を行った。各試験片の評価結果を表2に示す。
【0043】
【0044】
本発明鋼の化学成分からなる鋼種A~Jは、浸炭条件1~3のいずれの試験片についても、浸炭阻害が生じることなく、浸炭後の表面硬さが700Hv以上、表面から500μm深さまでの炭素量が0.50~1.00%となった。
【0045】
他方、比較鋼の化学成分からなる鋼種K~Mでは、浸炭条件によって、表面硬さが得られておらず、表面から500μm深さまでの炭素量も不足しているなど、浸炭が阻害されるものとなった。
鋼種Kは、Mnの含有量が0.60%を超え、Crの含有量も5.00%を超えており、MnおよびCrの酸化スケールが生成して浸炭阻害が生じやすくなっているためと思われる。また、鋼種Lは、Crの含有量が5%を超えており、浸炭した際に鋼材の表面にCr酸化物が形成するため、炭素の侵入が阻害されてしまい、硬さが得られなかったものと思われる。
鋼種Mは、Mnの量が0.95%で0.60%を超えており、鋼材表面にMn系主体の酸化被膜が形成し、浸炭条件によらず、浸炭を阻害したため、硬さが得られず、表面炭素濃度も低かったと思われる。
【符号の説明】
【0046】
1 試験片
【手続補正書】
【提出日】2025-04-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.10~0.32%、Si:0.20~0.80%、Mn:0.20~0.60%、P:≦0.030%、S:≦0.030%、Cr:1.60~4.92%、Al:0.003~0.050%、N:0.005~0.020%、残部がFeおよび不可避不純物からなり、
Cr+9.0Mn<8.6の式を満足する鋼材を浸炭した浸炭部品であって、
浸炭後の表面の硬さが700Hv以上で、表面から500μm深さまでの炭素量が0.50~1.00%であること、を特徴とする浸炭部品。
【請求項2】
質量%で、C:0.10~0.32%、Si:0.20~0.80%、Mn:0.20~0.60%、P:≦0.030%、S:≦0.030%、Cr:1.60~4.92%、Al:0.003~0.050%、N:0.005~0.020%、
さらに選択的付加的成分として、Nb:0.02~0.10%、Ni:5.00%以下、Mo:1.00%以下、Ti:0.20%以下のうち、少なくとも1種類を含有し、
残部がFeおよび不可避不純物からなり、
Cr+9.0Mn<8.6の式を満足する鋼材を浸炭した浸炭部品であって、
浸炭後の表面の硬さが700Hv以上で、表面から500μm深さまでの炭素量が0.50~1.00%であること、を特徴とする浸炭部品。