(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025098832
(43)【公開日】2025-07-02
(54)【発明の名称】イオン伝導性薄膜及び当該イオン伝導性薄膜を含むアクチュエータ素子
(51)【国際特許分類】
C08L 27/06 20060101AFI20250625BHJP
C08K 5/10 20060101ALI20250625BHJP
C08K 5/3432 20060101ALI20250625BHJP
C08K 5/3445 20060101ALI20250625BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20250625BHJP
【FI】
C08L27/06
C08K5/10
C08K5/3432
C08K5/3445
H01B1/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023215223
(22)【出願日】2023-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 直弘
(72)【発明者】
【氏名】物部 浩達
【テーマコード(参考)】
4J002
5G301
【Fターム(参考)】
4J002BD041
4J002EH096
4J002EU117
4J002EW177
4J002FD026
4J002FD117
4J002GQ02
5G301CD01
(57)【要約】
【課題】透明性及び伸縮率の高い新規アクチュエータを提供すること。
【解決手段】ビニル系ポリマー、可塑剤及びイオン液体を含むイオン伝導性薄膜であって、当該イオン伝導性薄膜におけるイオン液体の含有量が10質量%を超える、イオン伝導性薄膜。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニル系ポリマー、可塑剤及びイオン液体を含むイオン伝導性薄膜であって、当該イオン伝導性薄膜におけるイオン液体の含有量が10質量%を超える、イオン伝導性薄膜。
【請求項2】
ビニル系ポリマーがポリ塩化ビニル(PVC)である、請求項1に記載のイオン伝導性薄膜。
【請求項3】
可塑剤がジブチルアジピン酸(DBA)である、請求項1に記載のイオン伝導性薄膜。
【請求項4】
前記イオン液体がアニオンとしてTFSI、FSI又はClを含み、かつ下記の一般式(I)~(IV)のいずれかで表わされるカチオンを含む、請求項1に記載のイオン伝導性薄膜:
【化1】
[上記の式(I)~(IV)において、Rは炭素数1~12の直鎖又は分枝を有するアルキル基又はエーテル結合を含み炭素と酸素の合計数が3~12の直鎖又は分枝を有するアルキル基を示し、式(I)においてR
1は炭素数1~4の直鎖又は分枝を有するアルキル基又は水素原子を示す。式(III)および(IV)において、xはそれぞれ1~4の整数である。式(III)および(IV)において、xが2~4のとき、2つのR基はそれらが結合している窒素原子又はリン原子と一緒になって3~8員環、好ましくは5員環又は6員環のヘテロ環式基を形成してもよい。]
【請求項5】
前記イオン伝導性薄膜を構成するビニル系ポリマー、可塑剤及びイオン液体を含む組成物が、350μmの厚さとした場合の550nmの光線透過率が80.0%以上であるような組成物である、請求項1に記載のイオン伝導性薄膜。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のイオン伝導性薄膜を含む、アクチュエータ素子。
【請求項7】
電圧周波数0.05Hzで±5.0Vの矩形波電圧を加えた場合の伸縮率が0.010%以上である、請求項6に記載のアクチュエータ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン伝導性薄膜及び当該イオン伝導性薄膜を含むアクチュエータ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
空気中、あるいは真空中で作動可能なアクチュエータ素子として、誘電ゲルアクチュエータの開発が進められている。例えば、ポリ塩化ビニル、ジブチルアジピン酸から構成される誘電ゲルアクチュエータが知られている(非特許文献1)。しかしながら、上記の誘電ゲルアクチュエータは数百V以上の印加電圧が必要であった。そこで透明でかつ低電圧駆動(10-20V)する誘電ゲルアクチュエータより優れたアクチュエター素子を開発することが望まれている。
【0003】
また、ポリ塩化ビニルを10重量部、アジピン酸ジブチルを85重量部、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウム メタンスルホン酸を5重量部の混合物を用いたPVCゲルからなる高分子柔軟アクチュエータ及びポリ塩化ビニルを10重量部、アジピン酸ジブチルを88重量部、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウム メタンスルホン酸を2重量部の混合物を用いたPVCゲルからなる高分子柔軟アクチュエータも知られている(特許文献2)。しかし、かかる高分子柔軟アクチュエータよりも電圧を印加した際の伸縮率の高いものの開発が依然として熱望されている。そのようななか、本発明者らは、透明なイオン伝導性薄膜層と酸化・還元機能を持つポリマーを含む透明な導電性薄膜層を有する透明な積層体であって、前記イオン伝導性薄膜が有機ケイ素系ポリマーおよびイオン液体から構成される、積層体を開発し、特許を取得している(特許文献1)。ただ、かかる状況においても、上記積層体とは組成の異なる透明性及び伸縮率の高い新規アクチュエータのさらなる開発は望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許7079463
【特許文献2】特許5392669
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Sensors and Actuators B: Chemical, 273 (2018) 1246-1256.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、透明性及び伸縮率の高い新規アクチュエータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる状況の下、本発明者らは鋭意検討した結果、ビニル系ポリマー、可塑剤及びイオン液体を含むイオン伝導性薄膜であって、当該イオン伝導性薄膜におけるイオン液体の含有量が10質量%を超える、イオン伝導性薄膜を用いることにより、透明性の高いアクチュエータでありかつ伸縮率も高いものが得られることを見出した。本発明者らは、かかる新規の知見に基づき、ビニル系ポリマー、可塑剤及びイオン液体の種類、配合量等についてさらに多大なる試行錯誤を重ねた結果、本発明を完成するにいたった。従って、本発明は、以下の項を提供する:
項1.ビニル系ポリマー、可塑剤及びイオン液体を含むイオン伝導性薄膜であって、当該イオン伝導性薄膜におけるイオン液体の含有量が10質量%を超える、イオン伝導性薄膜。
【0008】
項2.ビニル系ポリマーがポリ塩化ビニル(PVC)である、項1に記載のイオン伝導性薄膜。
【0009】
項3.可塑剤がジブチルアジピン酸(DBA)である、項1に記載のイオン伝導性薄膜。
【0010】
項4.前記イオン液体がアニオンとしてTFSI、FSI又はClを含み、かつ下記の一般式(I)~(IV)のいずれかで表わされるカチオンを含む、項1に記載のイオン伝導性薄膜:
【0011】
【0012】
[上記の式(I)~(IV)において、Rは炭素数1~12の直鎖又は分枝を有するアルキル基又はエーテル結合を含み炭素と酸素の合計数が3~12の直鎖又は分枝を有するアルキル基を示し、式(I)においてR1は炭素数1~4の直鎖又は分枝を有するアルキル基又は水素原子を示す。式(III)および(IV)において、xはそれぞれ1~4の整数である。式(III)および(IV)において、xが2~4のとき、2つのR基はそれらが結合している窒素原子又はリン原子と一緒になって3~8員環、好ましくは5員環又は6員環のヘテロ環式基を形成してもよい。]
【0013】
項5.前記イオン伝導性薄膜を構成するビニル系ポリマー、可塑剤及びイオン液体を含む組成物が、350μmの厚さとした場合の550nmの光線透過率が80.0%以上であるような組成物である、項1に記載のイオン伝導性薄膜。
【0014】
項6.項1~5のいずれか一項に記載のイオン伝導性薄膜を含む、アクチュエータ素子。
【0015】
項7.電圧周波数0.05Hzで±5.0Vの矩形波電圧を加えた場合の伸縮率が0.010%以上である、項6に記載のアクチュエータ素子。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、透明性及び伸縮率の高い新規アクチュエータを提供することができる。これに対し、特許文献2には、その実施例に具体的に記載されたアクチュエータとしては、ポリ塩化ビニルを10重量部、アジピン酸ジブチルを85重量部、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウム メタンスルホン酸を5重量部の混合物を用いたPVCゲルからなる高分子柔軟アクチュエータ及びポリ塩化ビニルを10重量部、アジピン酸ジブチルを88重量部、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウム メタンスルホン酸を2重量部の混合物を用いたPVCゲルからなる高分子柔軟アクチュエータ、すなわち、イオン液体の含有量が5質量%以下の高分子柔軟アクチュエータが開示されているに止まる。また、特許文献2には、溶液中でのイオン液体濃度が約5重量%であることが特に好ましいと記載されている。従って、ビニル系ポリマー、可塑剤及びイオン液体を含むイオン伝導性薄膜であって、当該イオン伝導性薄膜におけるイオン液体の含有量が10質量 %を超える、イオン伝導性薄膜を用いることにより透明性及び伸縮率の高い新規アクチュエータを提供できるという本発明の効果は従来技術からは予想しえないものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例で用いたアクチュエータ素子の構造の概略を示す。
【
図2】アクチュエータ素子に±10.0V、電圧周波数0.01Hzの矩形波電圧を加えた実施例における、電圧の経時的変化を示す。
【
図3】アクチュエータ素子に±10.0V、電圧周波数0.01Hzの矩形波電圧を加えた実施例における、電流の経時的変化を示す。
【
図4】アクチュエータ素子に±10.0V、電圧周波数0.01Hzの矩形波電圧を加えた実施例における、アクチュエータ素子の変異の経時的変化を示す。
【
図5】アクチュエータ素子に±5.0V、電圧周波数0.01Hzの矩形波電圧を加えた実施例における、電圧の経時的変化を示す。
【
図6】アクチュエータ素子に±5.0V、電圧周波数0.01Hzの矩形波電圧を加えた実施例における、電流の経時的変化を示す。
【
図7】アクチュエータ素子に±5.0V、電圧周波数0.01Hzの矩形波電圧を加えた実施例における、アクチュエータ素子の変異の経時的変化を示す。
【
図8】実施例(PVC/DBA/TFSI)及び比較例(PVC/DBA)のゲルに対する光線透過率の測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
イオン伝導性薄膜
一実施形態において、本発明は、ビニル系ポリマー、可塑剤及びイオン液体を含むイオン伝導性薄膜であって、当該イオン伝導性薄膜におけるイオン液体の含有量が10質量 %を超える、イオン伝導性薄膜を提供する。
【0019】
本発明において用いるビニル系ポリマーとしては、例えば、ポリ塩化ビニル系ポリマー、ポリエチレン系ポリマー、ポリプロピレン系ポリマー、ポリアクリロニトリル系ポリマー等が挙げられ、好ましくは、ポリ塩化ビニル系ポリマー等が挙げられる。本発明において、用語ポリ塩化ビニル系ポリマーには、塩化ビニルモノマーのみを重合させたポリ塩化ビニル(PVC)の他、塩化ビニルと共重合するアクリル系モノマー、ビニリデン系モノマー、酢酸ビニルモノマー等を共重合させたポリマーも包含し得る。本発明においては、ポリ塩化ビニル(PVC)が好ましい。同様に、ポリエチレン系ポリマー、ポリプロピレン系ポリマー、ポリアクリロニトリル系ポリマーにも、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル等の他に、これらの原料モノマーと共重合するアクリル系モノマー、ビニリデン系モノマー、酢酸ビニルモノマー等を共重合させたポリマーも包含し得る。これらのビニル系ポリマーは一種単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
可塑剤としては、例えば、メチルアジピン酸、ジブチルアジピン酸等のアジピン酸エステル;トリブチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート等のリン酸エステル;ジブチルフタレート、ジ-2-エチルヘキシルフタレート等のフタル酸エステル;アセチルクエン酸トリブチル等のクエン酸エステル;ジ-2-エチルヘキサノール等のアルコールのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられ、好ましくはアジピン酸エステル等が挙げられる。アジピン酸エステルとしては、ジブチルアジピン酸が好ましい。これらの可塑剤は、一種単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
本発明に用いられるイオン液体(ionic liquid)とは、常温溶融塩または単に溶融塩などとも称されるものであり、常温(室温)を含む幅広い温度域で溶融状態を呈する塩であり、例えば0℃、好ましくは-20℃、さらに好ましくは-40℃で溶融状態を呈する塩である。また、本発明で使用するイオン液体はイオン導電性が高いものが好ましい。
【0022】
本発明においては、各種公知のイオン液体を使用することができるが、常温(室温)または常温に近い温度において液体状態を呈する安定なものが好ましい。本発明において用いられる好適なイオン液体としては、下記の一般式(I)~(IV)のいずれかで表わされるカチオン(好ましくは、イミダゾリウムイオン、第4級アンモニウムイオン)と、アニオン(X-)より成るものが挙げられる。
【0023】
【0024】
上記の式(I)~(IV)において、Rは炭素数1~12の直鎖又は分枝を有するアルキル基またはエーテル結合を含み炭素と酸素の合計数が3~12の直鎖又は分枝を有するアルキル基を示し、式(I)においてR1は炭素数1~4の直鎖又は分枝を有するアルキル基または水素原子を示す。式(I)において、RとR1は同一ではないことが好ましい。式(III)および(IV)において、xはそれぞれ1~4の整数である。式(III)および(IV)において、2つのR基は一緒になって3~8員環、好ましくは5員環又は6員環の脂肪族飽和環式基を形成してもよい。好ましい実施形態において、カチオンとしては、式(I)又は式(III)で示されるもの等が挙げられる。
【0025】
炭素数1~12の直鎖又は分枝を有するアルキル基としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、t-ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシルなどの基が挙げられる。炭素数は好ましくは1~8,より好ましくは1~6である。
【0026】
炭素数1~4の直鎖又は分枝を有するアルキル基としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、t-ブチルが挙げられる。
【0027】
エーテル結合を含み炭素と酸素の合計数が3~12の直鎖又は分枝を有するアルキル基としては、CH2OCH3、CH2CH2OCH3、CH2OCH2CH3、CH2CH2OCH2CH3、(CH2)p(OCH2CH2)qOR2(ここで、pは1~4の整数、qは1~4の整数、R2はCH3又はC2H5を表す)が挙げられる。
【0028】
アニオン(X-)としては、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン(TFSI)((CF3SO2)2N-)、ビス(フルオロメタンスルホニル)イミドイオン(FSI)((FSO2)2N-)、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドイオン((CF3CF2SO2)2N-)テトラフルオロホウ酸イオン(BF4
-)、BF3CF3
-、BF3C2F5
-、BF3C3F7
-、BF3C4F9
-、ヘキサフルオロリン酸イオン(PF6
-)、過塩素酸イオン(ClO4
-)、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)炭素酸イオン(CF3SO2)3C-)、トリフルオロメタンスルホン酸イオン(CF3SO3
-)、トリフルオロ酢酸イオン(CF3COO-)等の含フッ素アニオン;ハロゲンイオン;ジシアンアミドイオン((CN)2N-)等の含シアンアニオン;有機カルボン酸イオン等が例示でき、含フッ素アニオン、ハロゲンイオン等が好ましい。含フッ素アニオンとしては、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン、ビス(フルオロメタンスルホニル)イミドイオン、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドイオン等のビス(フルオロアルカンスルホニル)イミドイオンが好ましい。ビス(フルオロアルカンスルホニル)イミドイオンにおけるフルオロアルカンスルホニル基としては、例えば、炭素数が1~5、好ましくは1~3、より好ましくは1~2、さらに好ましくは1であるアルキル基が有する水素原子のうち一部または全部[例えば、1~(2n+1)個(nはアルキル基の炭素数を示す)]がフッ素で置換された構造を有するものに相当する基で置換されたスルホニル等が挙げられる。
【0029】
これらのうち、イオン液体としては、例えば、カチオンが式(I)又は式(III)で示されるカチオン(例えば、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムイオン、又はトリヘキシル、テトラデシルホスホニウムイオン等)であり、アニオンが含フッ素アニオン又はハロゲンイオン(例えば、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン、ビス(フルオロメタンスルホニル)イミドイオン、塩素イオン等)であるものが、具体的に例示できる。本発明においては、イオン液体としては、これらのものに限定されず、様々なものを使用することができ、導電率が0.1Sm-1以上のものが好ましい。なお、これらのイオン液体は、一種単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。具体的には例えば、カチオン及び/又はアニオンを2種以上使用し、融点をさらに下げることも可能である。
【0030】
本発明において、イオン伝導性薄膜におけるイオン液体の含有量が10質量%を超えることを特徴とし、好ましくは11質量%以上、より好ましくは12質量%以上、13質量%以上等が挙げられる。イオン伝導性薄膜におけるイオン液体の含有量の上限は限定されないが、例えば、好ましくは30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、16質量%以下等が挙げられる。イオン伝導性薄膜の伸縮率の観点から、イオン伝導性薄膜におけるイオン液体の含有量が上記範囲であることが好ましい。
【0031】
本発明において、イオン伝導性薄膜におけるビニル系ポリマーの含有量は限定されないが、好ましくは15質量%以上、より好ましくは18質量%以上、より好ましくは19質量%以上、より好ましくは20質量%以上等が挙げられる。イオン伝導性薄膜におけるビニル系ポリマーの含有量の上限も限定されないが、例えば、好ましくは35質量%以下、30質量%以下、25質量%以下、22質量%以下等が挙げられる。イオン伝導性薄膜の伸縮率の観点から、イオン伝導性薄膜におけるビニル系ポリマーの含有量が上記範囲であることが好ましい。
【0032】
本発明において、イオン伝導性薄膜における可塑剤の含有量は限定されないが、好ましくは50質量%以上、より好ましくは55質量%以上、より好ましくは60質量%以上、より好ましくは63質量%以上等が挙げられる。イオン伝導性薄膜における可塑剤の含有量の上限は限定されないが、例えば、好ましくは70質量%以下、67質量%以下、66質量%以下、65質量%以下等が挙げられる。イオン伝導性薄膜の伸縮率の観点から、イオン伝導性薄膜における可塑剤の含有量が上記範囲であることが好ましい。
【0033】
本発明において、ビニル系ポリマー、可塑剤及びイオン液体の合計量に対するイオン液体の含有量は、好ましくは11質量%以上、より好ましくは12質量%以上、13質量%以上等が挙げられる。イオン伝導性薄膜におけるイオン液体の含有量の上限は限定されないが、例えば、好ましくは30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、16質量%以下等が挙げられる。イオン伝導性薄膜の伸縮率の観点から、ビニル系ポリマー、可塑剤及びイオン液体の合計量に対するイオン液体の含有量が上記範囲であることが好ましい。
【0034】
本発明において、ビニル系ポリマー、可塑剤及びイオン液体の合計量に対するビニル系ポリマーの含有量は限定されないが、好ましくは15質量%以上、より好ましくは18質量%以上、より好ましくは19質量%以上、より好ましくは20質量%以上等が挙げられる。イオン伝導性薄膜におけるビニル系ポリマーの含有量の上限も限定されないが、例えば、好ましくは35質量%以下、30質量%以下、25質量%以下、22質量%以下等が挙げられる。イオン伝導性薄膜の伸縮率の観点から、ビニル系ポリマー、可塑剤及びイオン液体の合計量に対するビニル系ポリマーの含有量が上記範囲であることが好ましい。
【0035】
本発明において、ビニル系ポリマー、可塑剤及びイオン液体の合計量に対する可塑剤の含有量は限定されないが、好ましくは50質量%以上、より好ましくは55質量%以上、より好ましくは60質量%以上、より好ましくは63質量%以上等が挙げられる。イオン伝導性薄膜における可塑剤の含有量の上限は限定されないが、例えば、好ましくは70質量%以下、67質量%以下、66質量%以下、65質量%以下等が挙げられる。イオン伝導性薄膜の伸縮率の観点から、ビニル系ポリマー、可塑剤及びイオン液体の合計量に対する可塑剤の含有量が上記範囲であることが好ましい。
【0036】
また、本発明のイオン伝導性薄膜には、本発明の効果が得られる範囲において、有機ケイ素系ポリマーを添加してもよい。かかる実施形態において、有機ケイ素系ポリマーとしては、ポリシロキサン系化合物、ポリジオルガノシロキサン系化合物、ポリジオルガノシロキサン系共重合体が挙げられる。また、これら化合物を組む合わせたものであってもよい。ポリシロキサン系化合物は、有機基を有する化合物であり、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランなどの有機基を有しない原料を使用する場合には、1個又は2個の有機基を有するアルコキシシランを少なくとも1種使用して得ることができる。具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトキエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等の加水分解性シリル基を有するシラン化合物の部分加水分解物や、有機溶媒中に無水ケイ酸の微粒子を安定に分散させたオルガノシリカゾル、または該オルガノシリカゾルにラジカル重合性を有する上記シラン化合物を付加させたもの等を使用することができる。
【0037】
ポリジオルガノシロキサン系化合物としては、ポリジメチルシロキサン、アルキル変性ポリジメチルシロキサン、カルボキシル変性ポリジメチルシロキサン、アミノ変性ポリジメチルシロキサン、エポキシ変性ポリジメチルシロキサン、フッ素変性ポリジメチルシロキサン、(メタ)アクリレート変性ポリジメチルシロキサンなどのポリジメチルシロキサン系化合物、ポリジエチルシロキサン、アルキル変性ポリジエチルシロキサン、カルボキシル変性ポリジエチルシロキサン、アミノ変性ポリジエチルシロキサン、エポキシ変性ポリジエチルシロキサン、フッ素変性ポリジエチルシロキサン、(メタ)アクリレート変性ポリジエチルシロキサンなどのポリジエチルシロキサン系化合物、ポリジフェニルシロキサン、アルキル変性ポリジフェニルシロキサン、カルボキシル変性ポリジフェニルシロキサン、アミノ変性ポリジフェニルシロキサン、エポキシ変性ポリジフェニルシロキサン、フッ素変性ポリジフェニルシロキサン、(メタ)アクリレート変性ポリジフェニルシロキサンなどのポリジフェニルシロキサン系化合物などが挙げられる。
【0038】
オルガノシロキサン系共重合体は、ブロック共重合体、グラフト共重合体、ランダム共重合体のいずれであってもよいが、ブロック共重合体、グラフト共重合体が好ましい。
【0039】
オルガノシロキサン系共重合体は、リビング重合法、高分子開始剤法、高分子連鎖移動法などに製造することができる。
【0040】
ポリシロキサン系化合物、ポリジオルガノシロキサンなどのオルガノシロキサンとの共重合体に用いられるビニルモノマーとしては、例えばメチルアクリレート、フェニルアクリレート,n-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、オクチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、メチルメタクリレート、フェニルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、2-フェニルヘキシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、メチルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、スチレン、α-メチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノフェニルメタクリレート、N,N-ジフェニルアミノフェニルメタクリレート、ジアセチトンアクリルアミド、2-ヒドロキシフェニルアクリレート、2-ヒドロキシフェニルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、アリルアルコールなどを挙げることができる。
【0041】
オルガノシロキサン系共重合体は、通常溶液重合によって製造される。このような溶液重合では、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、アセトン、メチルフェニルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸フェニル、酢酸プロピル、酢酸イソブチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール等のアルコール系溶剤などが単独または混合溶剤として用いられる。また、必要に応じてベンゾイルパーオキサイド、アゾビスイソブチルニトリルなどの重合開始剤を併用する。重合反応は50~150℃で3~12時間行うのが好ましい。
【0042】
また、オルガノシロキサン系共重合体の合成において、イソシアネート基を有するモノマー(例えば、イソシアネート基を有する(メタ)アクリレート)と水酸基を有するモノマー(例えば、水酸基を有する(メタ)アクリレート)を用いることによって、活性エネルギー線硬化性のオルガノシロキサン系共重合体を得ることができる。
【0043】
典型的な実施形態において、本発明のイオン伝導性薄膜は、ビニル系ポリマー、可塑剤及びイオン液体と溶媒、任意選択でさらに前記イオン液体とは異なるイオン液体を含む溶液を調製し、得られた溶液をキャスト法により製膜し、溶媒を蒸発、乾燥させることによって得ることができる。イオン伝導性薄膜の形成は、塗布、印刷、押し出し、キャスト、または、射出などにより行うことができる。ここで、前記溶媒は親水性溶媒と疎水性溶媒の混合溶媒を用いてもよい。溶媒としては、例えば、ジメチルアセトアミド、プロピレンカーボネート、メチルペンタノン、クロロホルム、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルアセトアミド、ジオキサン、ジクロロメタン、メタノール、エタノール等が挙げられる。これらの溶媒は一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。前記イオン液体とは異なるイオン液体としては、本発明が属する技術分野において通常用いられているものを適宜使用することができる。
【0044】
本発明のイオン伝導性薄膜を用いることで、透明性及び伸縮性の高いアクチュエータを得ることができるため好ましい。好ましい実施形態において、本発明のイオン伝導性薄膜は、当該イオン伝導性薄膜を構成するビニル系ポリマー、可塑剤及びイオン液体を含む組成物が、当該組成物を幅0.5cm、長さ1.5cm、厚さ350μmの薄膜とし、当該薄膜を可動長1.0cmとなるよう電極ではさんで、電圧周波数0.005Hzで±5.0Vの矩形波電圧を加えた場合の伸縮率が0.050%以上、より好ましくは0.100%以上、より好ましくは0.150%以上となるような組成物であることが好ましい。
好ましい実施形態において、本発明のイオン伝導性薄膜は、当該イオン伝導性薄膜を構成するビニル系ポリマー、可塑剤及びイオン液体を含む組成物が、当該組成物を幅0.5cm、長さ1.5cm、厚さ350μmの薄膜とし、当該薄膜を可動長1.0cmとなるよう電極ではさんで、電圧周波数0.01Hzで±5.0Vの矩形波電圧を加えた場合の伸縮率が0.040%以上、より好ましくは0.050%以上、より好ましくは0.070%以上となるような組成物であることが好ましい。
好ましい実施形態において、本発明のイオン伝導性薄膜は、当該イオン伝導性薄膜を構成するビニル系ポリマー、可塑剤及びイオン液体を含む組成物が、当該組成物を幅0.5cm、長さ1.5cm、厚さ350μmの薄膜とし、当該薄膜を可動長1.0cmとなるよう電極ではさんで、電圧周波数0.05Hzで±5.0Vの矩形波電圧を加えた場合の伸縮率が0.010%以上、より好ましくは0.020%以上となるような組成物であることが好ましい。
好ましい実施形態において、本発明のイオン伝導性薄膜は、当該イオン伝導性薄膜を構成するビニル系ポリマー、可塑剤及びイオン液体を含む組成物が、当該組成物を幅0.5cm、長さ1.5cm、厚さ350μmの薄膜とし、当該薄膜を可動長1.0cmとなるよう電極ではさんで、電圧周波数0.10Hzで±5.0Vの矩形波電圧を加えた場合の伸縮率が0.005%以上、より好ましくは0.008%以上、より好ましくは0.011%以上となるような組成物であることが好ましい。これらの実施形態において、イオン伝導性薄膜の伸縮率は後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
また、一実施形態において、本発明のイオン伝導性薄膜は、前記イオン伝導性薄膜を構成するビニル系ポリマー、可塑剤及びイオン液体を含む組成物が、当該組成物を350μmの厚さの薄膜とした場合に、JIS K 7361-1:1997に従い測定される全光線透過率が40.0%以上、50.0%以上、55.0%以上、60.0%以上、65.0%以上、70.0%以上、75.0%以上、80.0%以上、85.0%以上、又は90.0%以上であるような組成物であることが好ましい。
一実施形態において、本発明のイオン伝導性薄膜は、前記イオン伝導性薄膜を構成するビニル系ポリマー、可塑剤及びイオン液体を含む組成物が、当該組成物を350μmの厚さの薄膜とした場合に、400-700nmの範囲の波長の可視光線の透過率がが60.0%以上、65.0%以上、70.0%以上、75.0%以上、又は80.0%以上であるような組成物であることが好ましい。
一実施形態において、本発明のイオン伝導性薄膜は、前記イオン伝導性薄膜を構成するビニル系ポリマー、可塑剤及びイオン液体を含む組成物が、当該組成物を350μmの厚さの薄膜とした場合に、550nmの光線透過率が60.0%以上、65.0%以上、70.0%以上、75.0%以上、80.0%以上、85.0%以上、又は90.0%以上であるような組成物であることが好ましい。550nmの光線透過率後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0045】
典型的には、本発明のイオン伝導性薄膜は平板状の形体を有する。本発明のイオン伝導性薄膜の厚さは、限定されないが、5~500μmであるのが好ましく、200~400μmであるのがより好ましい。本発明のイオン伝導性薄膜は特に限定されず、例えば、多角形(三角形、四角形、五角形、六角形等)、円形、楕円形、これらの組み合わせ等が挙げられる。四角形としては、正方形、長方形、平行四辺形、台形等が挙げられる。本発明のイオン伝導性薄膜が平板状の場合、主な平面の面積(表裏面のうち一方の面積)は限定されないが、例えば、0.01~1000cm2、0.1~100cm2、1~10cm2等の範囲で適宜設定できる。
【0046】
アクチュエータ素子
別の実施形態において、本発明は、前記イオン伝導性薄膜を含む、アクチュエータ素子を提供する。当該実施形態におけるイオン伝導性薄膜の組成、形状、機能、製法等については前述と同様である。本発明においては、例えば、前記イオン伝導性薄膜自体をアクチュエータ素子として用いても、前記イオン伝導性薄膜を複数の導電性薄膜の間に挟んで積層体としたものをアクチュエータ素子として用いてもよい。本発明においては、前記イオン伝導性薄膜自体をアクチュエータ素子として用いることが好ましい。
【0047】
好ましい実施形態において、本発明のアクチュエータ素子は、電圧周波数0.005Hzで±5.0Vの矩形波電圧を加えた場合の伸縮率が0.050%以上、より好ましくは0.100%以上、より好ましくは0.150%以上となるようなものであることが好ましい。
好ましい実施形態において、本発明のアクチュエータ素子は、電圧周波数0.01Hzで±5.0Vの矩形波電圧を加えた場合の伸縮率が0.040%以上、より好ましくは0.050%以上、より好ましくは0.070%以上となるようなものであることが好ましい。
好ましい実施形態において、本発明のアクチュエータ素子は、電圧周波数0.05Hzで±5.0Vの矩形波電圧を加えた場合の伸縮率が0.010%以上、より好ましくは0.020%以上となるようなものであることが好ましい。
好ましい実施形態において、本発明のアクチュエータ素子は、電圧周波数0.10Hzで±5.0Vの矩形波電圧を加えた場合の伸縮率が0.005%以上、より好ましくは0.008%以上、より好ましくは0.011%以上となるようなものであることが好ましい。これらの実施形態において、イオン伝導性薄膜の伸縮率は後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
また、一実施形態において、本発明のアクチュエータ素子は、JIS K7361-1:1997に従い測定される全光線透過率が40.0%以上、50.0%以上、55.0%以上、60.0%以上、65.0%以上、70.0%以上、75.0%以上、80.0%以上、85.0%以上、又は90.0%以上であることが好ましい。
一実施形態において、本発明のアクチュエータ素子は、400-700nmの範囲の波長の可視光線の透過率が60.0%以上、65.0%以上、70.0%以上、75.0%以上、又は80.0%以上であることが好ましい。
一実施形態において、本発明のアクチュエータ素子は、550nmの光線透過率が60.0%以上、65.0%以上、70.0%以上、75.0%以上、80.0%以上、85.0%以上、又は90.0%以上であることが好ましい。550nmの光線透過率後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0048】
本発明のアクチュエータ素子の厚さは、限定されないが、5~500μmであるのが好ましく、200~400μmであるのがより好ましい。
【0049】
典型的な実施形態において、本発明のアクチュエータ素子は、例えば、電極間(電極は導電性薄膜層に接続されている)に10~20Vの直流電圧を加えると、100秒以内に素子長(可動長)の10%程度の変位を得ることができる。典型的な実施形態において、本発明のアクチュエータ素子は、例えば、電極間に交流電圧、例えば、±5.0V~±10.0V、電圧周波数0.01Hzの矩形波電圧を加えた場合も、1周期の間(100秒以内)に素子長(可動長)の10%程度の変位を得ることができる。また、このアクチュエータ素子は、空気中あるいは真空中で、柔軟に作動することができる。このようなアクチュエータ素子の作動原理は、誘電ゲルアクチュエータに加えてイオン伝導性アクチュエータの両方の機能で構成される。
【0050】
典型的な実施形態において、本発明のアクチュエータ素子は、空気中、真空中で耐久性良く作動し、しかも低電圧で柔軟に作動することから、安全性が必要な人と接するロボットのアクチュエータ(例えば、ホームロボット、ペットロボット、アミューズメントロボットなどのパーソナルロボットのアクチュエータ)、また、宇宙環境用、真空チェンバー内用、レスキュー用などの特殊環境下で働くロボット、また、手術デバイスやマッスルスーツなどの医療、福祉用ロボット、さらにはマイクロマシーンなどのためのアクチュエータとして最適である。
【0051】
特に、純度の高い製品を得るために、真空環境下、超クリーンな環境下での材料製造において、純度の高い製品を得るために、試料の運搬や位置決め等のためのアクチュエータの要求が高まっており、全く蒸発しないイオン液体を用いた本発明のアクチュエータ素子は、汚染の心配のないアクチュエータとして、真空環境下でのプロセス用アクチュエータとして有効に用いることができる。
【0052】
本発明の透明なアクチュエータは、フラットパネルディスプレイ上に統合することで,ディスプレイ上での物体駆動が可能になる。このような透明アクチュエータを使用することにより、例えば、映像世界と現実物体の動きをリンクしてユーザに触力覚的な情報提示することや,実物体を介してユーザが映像とインタラクションすることなど、が可能となる。また、透明なアクチュエータに非透明な物体(例えば紙)を連結し、アクチュエータを駆動することで、非透明な物体がひとりでに動いているような印象を与えることができ、広告やアミューズメントへの用途が見込まれる。本発明のアクチュエータは駆動力が大きいので、これらの用途にも有利である。
【0053】
以下に実施例を用いて本発明の特定の実施形態をより詳細に説明する。しかし、本発明は以下の実施例に限定されない。
【実施例0054】
<実験法の共通の説明>
1.使用した薬品、材料
アクチュエータ素子の作製には以下の薬品を用いた。
ポリ塩化ビニル(PVC)(MW 約233,000;Aldrich)及びジブチルアジピン酸(DBA)(FUJIFILM Wako Pure Chemical Corporation)をさらなる精製をすることなく使用した。
イオン液体(IL)としては以下のものを使用した:
1-エチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド(EMI[TFSI],IoLiTec)、
1-エチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(fluoroメチルスルフォニル)イミド(EMI[FSI],Kanto Chemical Co.,Inc.)、
トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド(THTDP[TFSI];IoLiTec)、
トリヘキシルテトラデシルホスホニウムクロリド(THTDP[Cl];IoLiTec)。
これらのイオン液体は、さらなる精製をすることなく使用した。
【0055】
また、溶媒としては、テトラヒドロフラン (THF, FUJIFILM Wako Pure Chemical Corporation) をさらなる精製することなく使用した。
【0056】
本実施例で用いたイオン液体(IL)、ビニル系ポリマー(PVC)及び可塑剤(DBA)の構造を以下に示す。
【0057】
【0058】
2.アクチュエータ素子の変位測定方法
特許文献1に記載のレーザー変位計を用い、素子を5mmx15mmの短冊状に切り取り、得られた素子を可動長10mmとなるように電極で挟んで電圧を加えた時の9mmの位置の変位を測定した。
また伸縮率(ε)は、以下の式(1)に従い計算した。
【0059】
【0060】
L:電圧を印加しない時の素子長(可動長)
d:素子の厚さ
δ:変位
3.光線透過率
ゲルの光線透過率は、UV-visible spectrometer(UV-3600,Shimadzu Co., Ltd.)を用いて300-700 nmの波長について測定した。
【0061】
4.イオン導電率
ゲルのイオン導電率は、impedance analyzer (Solartron 1250)を用いたインピーダンス測定により行った。
【0062】
5.ゲル電解質フィルム厚測定
作成した電極フィルム、ゲル電解質フィルム、およびそれらの積層体からなるアクチュエータ素子フィルムの厚みは、マイクロメーター(Mitsutoya株式会社製)を用いて測定した。
【0063】
実施例1
アクチュエータ素子の作製
透明PVC/DBA/ILゲルアクチュエータを調製するために、300mgのPVC、900mgのDBA、及び200mgのIL(前述したイオン液体のいずれか)を6mLのTHF中で混合し、5時間にわたり攪拌した。そして、得られた溶液の3.5mLをテフロン(登録商標)モールド(2.5×2.5cm2)にキャストし、その後、溶媒を揮発させた。得られたゲルの厚さは約350μmであった。得られたゲルを幅0.5cm、長さ1.5cmの長方形に切断し、アクチュエータ素子として使用した。
【0064】
ILとしてEMI[TFSI]を使用して作製したアクチュエータ素子の特性の結果を表1に示す。また電極間に周波数の異なる±5.0Vの矩形波電圧を加えた時に観測された変位を表2に示す。
【0065】
【0066】
【0067】
また、実施例1のアクチュエータ素子に±10.0V、電圧周波数0.01Hzの矩形波電圧(
図2)を加えた際に観測された電流(
図3)及び変位(
図4)を
図2~
図4に示す。さらに、実施例1のアクチュエータ素子に±5.0V、電圧周波数0.01Hzの矩形波電圧(
図5)を加えた際に観測された電流(
図6)及び変位(
図7)を
図5~
図7に示す。
【0068】
上記アクチュエータ素子は、透過率・イオン伝導率・変位すべて後述する比較例より大きい。従って、上記アクチュエータ素子は、応答速度が高く、曲げ(伸縮率)の大きい透明高性能のアクチュエータ素子であることがわかる。
【0069】
実施例2
アクチュエータ素子の作製
ILとしてEMI[FSI]を用いる以外、実施例1と同様にしてアクチュエータ素子を作製し、各種評価を行った。得られたアクチュエータ素子の特性の結果を表3に示す。また電極間に周波数の異なる±5.0Vの矩形波電圧を加えた時に観測された変位を表4に示す。
【0070】
【0071】
【0072】
上記アクチュエータ素子は、透過率・イオン伝導率・変位すべて後述する比較例より大きい。従って、上記アクチュエータ素子は、応答速度が高く、曲げ(伸縮率)の大きい透明高性能のアクチュエータ素子であることがわかる。
【0073】
実施例3
ゲル膜の作製
ILとしてTHTDP[TFSI]を用いる以外、実施例1と同様にしてアクチュエータ素子を作製し、各種評価を行った。得られたアクチュエータ素子の特性の結果を表5に示す。また電極間に周波数の異なる±5.0Vの矩形波電圧を加えた時に観測された変位を表6に示す。
【0074】
【0075】
【0076】
上記アクチュエータ素子は、透過率・イオン伝導率・変位すべて後述する比較例より大きい。従って、上記アクチュエータ素子は、応答速度が高く、曲げ(伸縮率)の大きい透明高性能のアクチュエータ素子であることがわかる。
【0077】
実施例4
ILとしてTHTDP[Cl]を用いる以外、実施例1と同様にしてアクチュエータ素子を作製し、各種評価を行った。得られたアクチュエータ素子の特性の結果を表7に示す。また電極間に周波数の異なる±5.0Vの矩形波電圧を加えた時に観測された変位を表8に示す。
【0078】
【0079】
【0080】
上記アクチュエータ素子は、透過率・イオン伝導率・変位すべて後述する比較例より大きい。従って、上記アクチュエータ素子は、応答速度が高く、曲げ(伸縮率)の大きい透明高性能のアクチュエータ素子であることがわかる。
【0081】
比較例1
アクチュエータ素子の作製
ILを用いないこと以外、実施例1と同様にしてアクチュエータ素子を作製し、各種評価を行った。得られたアクチュエータ素子の特性の結果を表9に示す。また電極間に周波数の異なる±5.0Vの矩形波電圧を加えた時に観測された変位を表10に示す。
【0082】
【0083】
【0084】
光線透過率
実施例1で調製したゲル(PVC/DBA/TFSI)及び比較例で調製したゲル(PVC/DBA)の光線透過率の測定結果を
図8に示す。
【0085】
上記実施例及び比較例の結果から明らかなように、各実施例のアクチュエータ素子は、透過率・イオン伝導率・変位すべて比較例より大きい。従って、各実施例のアクチュエータ素子は、曲げ(伸縮率)の大きい透明高性能のアクチュエータ素子であることがわかる。