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特開2025-99231発光性粒子、インク組成物、光変換層、波長変換フィルム並びにカラーフィルタ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025099231
(43)【公開日】2025-07-03
(54)【発明の名称】発光性粒子、インク組成物、光変換層、波長変換フィルム並びにカラーフィルタ
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/08 20060101AFI20250626BHJP
   G02B 5/20 20060101ALI20250626BHJP
   C09K 11/66 20060101ALI20250626BHJP
   C09K 11/02 20060101ALI20250626BHJP
   C09D 11/50 20140101ALI20250626BHJP
   C09D 11/101 20140101ALI20250626BHJP
【FI】
C09K11/08 G ZNM
G02B5/20
G02B5/20 101
C09K11/66
C09K11/02 Z
C09D11/50
C09D11/101
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023215727
(22)【出願日】2023-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【弁理士】
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】延藤 浩一
(72)【発明者】
【氏名】野中 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】山本 祥子
【テーマコード(参考)】
2H148
4H001
4J039
【Fターム(参考)】
2H148AA07
2H148AA11
2H148AA18
2H148AA24
2H148BD25
4H001CA01
4H001CA02
4H001CC11
4H001CC13
4H001XA01
4H001XA06
4H001XA07
4H001XA20
4H001XA35
4H001XA82
4J039AD21
4J039BA10
4J039BA12
4J039BA30
4J039BA34
4J039BA35
4J039BC20
4J039BC56
4J039BE01
4J039BE27
4J039CA07
4J039EA06
4J039EA27
4J039EA28
4J039EA35
4J039EA38
4J039EA44
4J039FA04
(57)【要約】
【課題】 水、光及び熱に対する安定性に優れる、ナノ結晶を含む発光性粒子、前記発光性粒子を含むインク組成物及び前記インク組成物の硬化物からなる光変換層、並びに前記光変換層を備えた波長変換フィルム及びカラーフィルタを提供する。
【解決手段】 本発明の発光性粒子は、メタルハライドからなる半導体ナノ結晶粒子に表面層を備えた発光性粒子であって、前記表面層が、T単位のシラン化合物の加水分解縮合物と、Q単位のシラン化合物の加水分解縮合物とを含有し、前記発光性粒子が、熱重量示差熱分析により算出される有機成分を50質量%以上70質量%以下含有することを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタルハライドからなる半導体ナノ結晶粒子に表面層を備えた発光性粒子であって、
前記表面層が、T単位のシラン化合物の加水分解縮合物と、Q単位のシラン化合物の加水分解縮合物とを含有し、
前記発光性粒子が、熱重量示差熱分析により算出される有機成分を50質量%以上70質量%以下含有することを特徴とする発光性粒子。
【請求項2】
前記表面層が、下記一般式(T1)で表されるT単位のシラン化合物の加水分解縮合物と、下記一般式(Q1)で表されるQ単位のシラン化合物の加水分解縮合物とを含有し、さらにT単位のハロゲン化アルコキシシラン化合物の加水分解縮合物を含有する、請求項1に記載の発光性粒子。
【化1】
(式中、RT1、RT2及びRT3は、それぞれ独立に、炭素原子数が1~4のアルキル基を表し、
T1は、炭素原子数が1~10のアルキル基及び単結合を表すが、当該アルキル基は直鎖業であっても分岐状であってもよく、当該アルキル基中の任意の水素原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子に置換されていてもよく、当該アルキル基中の1個の-CH-又は隣接していない2個以上の-CH-は各々独立して、-NH-、-O-、-C(=O)-、-C=N-、-N=C-又は1,4-フェニレン基によって置換されていてもよく、
は、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アミノ基、メルカプト基、アクリル基、メタクリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、イソシアネート基及び環状エーテル基からなる群より選ばれる少なくとも1種を有する1価の基を表す。)
【化2】
(式中、RQ1及びRQ2は、それぞれ独立に炭素原子数が1~4のアルキル基を表し、RQ3及びRQ4は、それぞれ独立に水素原子又は炭素原子数が1~4アルキル基を表し、mは1以上10以下の整数を表す。)
【請求項3】
前記表面層が、塩基を有するポリマーをさらに含む、請求項1又は2に記載の発光性粒子。
【請求項4】
前記ハロゲン化アルコキシシラン化合物が、3-ブロモプロピルトリメトキシシラン、3-ブロモプロピルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン、3-ヨードプロピルトリメトキシシラン及び3-ヨードプロピルトリエトキシシランからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の発光性粒子。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の発光性粒子と、光重合性化合物と、光重合開始剤とを含むインク組成物。
【請求項6】
請求項5に記載のインク組成物の重合体を含む光変換層。
【請求項7】
請求項6に記載の光変換層を備えた波長変換フィルム。
【請求項8】
請求項6に記載の光変換層を備えたカラーフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光性粒子、インク組成物、光変換層、波長変換フィルム並びにカラーフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、メタルハライドからなる半導体ナノ結晶の一種である、ペロブスカイト構造を有する量子ドットが見出された(例えば、特許文献1)。ペロブスカイト量子ドットは、例えば、CsPbX(XはCl、BrまたはIを示す。)で表される半導体ナノ結晶であり、その粒子サイズ、ハロゲン原子の種類や存在割合を調整することにより、発光波長を制御できる。前記調整の操作は簡便であることから、ペロブスカイト量子ドットは、CdSe/ZnSに代表されるコアシェル型の量子ドットと比較して、発光波長の制御がより容易に行うことができ、これにより、生産性に優れるという利点を有する。また、ペロブスカイト量子ドットは、フォトルミネッセンス量子(PLQY)が高く、発光波長幅(FWHM)が狭いことから、CdSe系材料に代わる量子ドットとして、液晶ディスプレイのバックライト用波長変換フィルムやカラーフィルタ等の光変換層への利用が検討されている。
【0003】
ペロブスカイト量子ドットは優れた光学特性を有する一方、水分、光、熱に対する安定性の向上が求められている。例えば、ペロブスカイト量子ドット粒子の表面に3-アミノプロピルトリエトキシシラン等のシラン化合物を用いてシリカ層を形成させ、安定性を高める技術が提案されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-222851号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Journal of Materials Chemistry C,2019,7,9813
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1に開示の方法によると、シラン化合物を用いてナノ結晶の表面にシリカ層を形成する際、シラン化合物の加水分解に関与する水分子、および加水分解時に生成するアルコールによって、ペロブスカイト量子ドットの劣化が生じやすく、粒子の凝集による分散性の不良、粒子表面での欠陥準位の生成による量子収率や半値幅などの光学特性が不十分となるという不都合がある。さらに、非特許文献1で得られたナノ結晶を含む発光性粒子は、光変換層として用いるときに、バックライトの光や熱により、ペロブスカイト量子ドットを構成するナノ結晶のハロゲン脱離に起因する光学特性が低下するという不都合がある。
【0007】
本発明の目的は、水、光及び熱に対する安定性に優れる、ナノ結晶を含む発光性粒子を提供することにある。
本発明の目的はまた、かかる発光性粒子を含むインク組成物及び前記インク組成物の硬化物からなる光変換層、並びに前記光変換層を備えた波長変換フィルム並びにカラーフィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、メタルハライドからなり発光性を有する半導体ナノ結晶を含む発光性粒子において、T単位及びQ単位のシラン化合物の加水分解縮合物とを含有し、熱重量示差熱分析により算出される有機成分を50質量%以上70質量%以下含有する場合に、優れた分散安定性と、優れた光学特性及び耐久性とが得られることを見出し、本発明に想到した。
【0009】
すなわち、本発明の発光性粒子は、メタルハライドからなる半導体ナノ結晶粒子に表面層を備えた発光性粒子であって、前記表面層が、T単位のシラン化合物の加水分解縮合物と、Q単位のシラン化合物の加水分解縮合物とを含有し、前記発光性粒子が、熱重量示差熱分析により算出される有機成分を50質量%以上70質量%以下含有することを特徴とする。
【0010】
本発明のインク組成物は、上記発光性粒子と、光重合性化合物と、光重合開始剤とを含むことを特徴とする。
【0011】
本発明の光変換層は、上記インク組成物の重合体を含むことを特徴とする。
【0012】
本発明の波長変換フィルムは、上記光変換層を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明のカラーフィルタは、上記光変換層を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一側面によれば、分散性及び安定性に優れた、メタルハライドからなる半導体ナノ結晶粒子を用いた発光性粒子、当該発光性粒子を含むインク組成物、光変換層、波長変換フィルム並びにカラーフィルタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本実施形態の積層構造体の構成を模式的に示す断面図である。
図2図2は、本発明の一実施形態のカラーフィルタの模式断面図である。
図3】アクティブマトリックス回路の構成を示す概略図である。
図4図3に示すアクティブマトリックス回路の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されない。
【0017】
1.発光性粒子
本発明の発光性粒子は、メタルハライドからなる半導体ナノ結晶に表面層を備え、前記表面層がT単位のシラン化合物の加水分解縮合物と、Q単位のシラン化合物の加水分解縮合物とを含み、熱重量示差熱分析により算出される有機成分を50質量%以上70質量%以下含有する。
【0018】
本発明における発光性粒子は、例えば、波長変換フィルム等が有する光変換層を形成するためのインク組成物に好適に用いることができる。かかるインク組成物は、発光性粒子の分散安定性に優れる上に、優れた光学物性を備える。
【0019】
上記効果が得られる理由は、明らかではないが、本発明者らは、以下のように推察している。
【0020】
本発明のメタルハライドからなる半導体ナノ結晶に表面層を備える発光性粒子において、前記表面層が、T単位のシラン化合物の加水分解縮合物と、Q単位のシラン化合物の加水分解縮合物の両方を含有すると共に、熱重量示差熱分析から算出される有機成分を50質量%以上70質量%含有する。これにより、本発明の発光性粒子では、強固な表面層を形成しつつ、有機成分の存在により発光性粒子の凝集を抑制することができる。そのため、本発明における発光性粒子は、その凝集を抑制でき、優れた分散性を得ることができ、加えて、本発明の発光性粒子を含むインク組成物から形成される光変換層においては、発光ピーク波長、半値幅、量子収率(PLQY、IQE)等の光学特性の経時変化を抑制することができる。
【0021】
これに対し、発光性粒子において前記表面層が、T単位のシラン化合物の加水分解縮合物を含むがQ単位のシラン化合物の加水分解縮合物を含まない場合には、表面層が強固なものでないため、水、光及び熱により半導体ナノ結晶表面からの配位子の離脱や、半導体ナノ結晶の分解を生じやすい。また、前記表面層が、Q単位のシラン化合物の加水分解縮合物を含むがT単位のシラン化合物の加水分解縮合物を含まない場合には、表面層は強固であるものの、発光性粒子間の凝集が生じやすく、分散安定性が不十分となる。
【0022】
上述のとおり、本発明によれば、発光性粒子の分散性に優れ、インク組成物からは、水、光、熱に対して優れた安定性を有する光変換層を得ることができる。かかる効果は、硬化の際のUV照射時、バックライトの長期間点灯時に好適に発揮される。
【0023】
本発明の発光性粒子の実施形態を図1に示すが、実施形態はこれに限定されない。
【0024】
図1に示す発光性粒子10は、メタルハライドからなる半導体ナノ結晶11と、前記半導体ナノ結晶11の表面を被覆する表面層12とを備え、表面層12が、T単位のシラン化合物の加水分解縮合物と、Q単位のシラン化合物の加水分解縮合物とを含み、熱重量示差測定から算出される有機成分を50質量%以上70質量%含有する。
【0025】
1-1.半導体ナノ結晶
本発明の発光性粒子は、発光性を有する半導体ナノ結晶を含み、所定の波長の光を吸収することにより、吸収した波長とは異なる波長の光(蛍光又は燐光)を発することができる。ここで、発光性とは、電子の励起により発光する性質であることが好ましく、励起光が照射されたときに、ナノ結晶に含まれる電子が基底状態から励起状態に励起されて、基底状態に戻る際に発光を生じる性質であるのがより好ましい。
【0026】
<メタルハライドからなる半導体ナノ結晶>
本発明において、半導体ナノ結晶は、メタルハライドからなる半導体ナノ結晶(以下、単に「ナノ結晶」とも記すことがある。)であり、励起光を吸収して蛍光又は燐光を発光するナノサイズの結晶体(ナノ結晶粒子)である。かかるナノ結晶は、例えば、透過型電子顕微鏡又は走査型電子顕微鏡によって測定される最大粒子径が100nm以下である結晶体である。ナノ結晶は、例えば、所定の波長の光エネルギーや電気エネルギーにより励起され、蛍光又は燐光を発することができる。また、メタルハライドからなる量子ドットであるナノ結晶は、半値幅がより狭い発光を得ることができる。
【0027】
本発明の発光性粒子において、半導体ナノ結晶は、一般式Aで表される化合物である。ここで、aは、1~7の正数であり、bは、1~4の正数であり、cは、1~16の正数である。
【0028】
上記式中、Aは1価の陽イオンを表し、有機カチオン及び金属カチオンのうちの少なくとも1種である。有機カチオンとしては、メチルアンモニウム、ホルムアミジニウム、アンモニウム、2-フェニルエチルアンモニウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム、1-ブチル-1-メチルピペリジニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、ベンジルトリメチルアンモニウム、ベンジルトリエチルアンモニウム、グアニジニウム、イミダゾリウム、ピリジニウム及びプロトン化チオウレアからなる群から選ばれる1種以上が挙げられ、金属カチオンとしては、Cs、Rb、K、Na、Li等の1価のカチオンが挙げられる。
【0029】
Mは少なくとも1種の金属カチオンを表す。具体的には、1種の金属カチオン(M)、2種の金属カチオン(M1α2β)、3種の金属カチオン(M1α2β3γ)、4種の金属カチオン(M1α2β3γ4δ)等が挙げられる。但し、α、β、γ、δは、それぞれ0~1の実数を表し、かつα+β+γ+δ=1を表す。Mが表す金属カチオンとしては、1族、2族、3族、4族、5族、6族、7族、8族、9族、10族、11族、13族、14族、15族から選ばれる金属カチオンが挙げられる。より好ましくは、Ag、Au、Bi、Ca、Ce、Co、Cr、Cu、Eu、Fe、Ga、Ge、Hf、In、Ir、Mg、Mn、Mo、Na、Nb、Nd、Ni、Os、Pb、Pd、Pt、Re、Rh、Ru、Sb、Sc、Sm、Sn、Sr、Ta、Te、Ti、V、W、Zn、Zr等のカチオンが挙げられる。
【0030】
Xは少なくとも1種のハロゲンを含むアニオンを表し、具体的には、1種又は2種以上のハロゲン化物アニオンを含む。Xとして2種以上のアニオンが共存する場合、その共存比には特に制限はない。かかるアニオンとしてはF、Cl、Br、I等のハロゲン化物イオンが挙げられる。
【0031】
上記一般式Aで表される化合物の具体例としては、AMX、AMX、AMX、AMX、AMX、AM、AMX、AMX、AMX、A、AMX、AMX、AM、AMX、A、AMX、A、A、A10、A16で表される化合物が好ましい。
【0032】
上記一般式Aで表されるメタルハライドからなる化合物の中で、ペロブスカイト型結晶構造を有する化合物は、その粒子サイズ、Mサイトを構成する金属カチオンの種類および存在割合を調整し、さらにXサイトを構成するアニオンの種類および存在割合を調整することにより、発光波長(発光色)を制御することができる点で、半導体ナノ結晶として利用する上で特に好ましい。具体的には、AMX、AMX、AMX、AMX、AMXで表される化合物が好ましい。式中のA、M及びXは上記のとおりである。また、ペロブスカイト型結晶構造を有する化合物は、上述のように、Bi、Mn、Ca、Eu、Sb、Ybなどの金属イオンが添加(ドープ)されたものであってもよい。
【0033】
ペロブスカイト型結晶構造を示す化合物の中でも、合成の容易さ、良好な発光特性及び結晶構造の堅牢性の観点から、AはCs、Rb、K、Na、Li、メチルアンモニウム、ホルムアミジニウムからなる群から選ばれる陽イオンであることが好ましく、Cs、Rb、メチルアンモニウム及びホルムアミジニウムから選ばれる陽イオンがより好ましく、Cs及びホルムアミジニウムから選ばれる陽イオンがさらに好ましい。
Mは合成の容易さ、良好な発光特性及び結晶構造の堅牢性の観点から、Pb、Sn、Ge、Bi、Sb、Ag、In、Cu、Yb、Ti、Pd、Mn、Eu、Zr及びTbからなる群から選ばれる金属イオンであることが好ましく、Pb、Sn、Bi、Sb、Ag、In、Cu、Mn及びZrからなる群から選ばれる金属イオンがより好ましく、Pb、Sn及びCuからなる群から選ばれる金属イオンがさらに好ましく、Pbイオンが特に好ましい。
XはF-、Cl-、Br-、I-からなる群から選ばれるハロゲン化物イオンであることが好ましく、合成の容易さ、良好な発光特性及び結晶構造の堅牢性の観点から、Cl-、Br-、I-からなる群から選ばれるハロゲン化物イオンがより好ましく、Br-、I-からなる群から選ばれるハロゲン化物イオンがさらに好ましく、Br-が特に好ましい。
【0034】
ペロブスカイト型結晶構造を有するナノ結晶の具体的な組成として、CsPbBr、(CHNH)PbBr、(CHN)PbBr、CsPbI、(CHNH)PbI、(CHN)PbI、CsPb(Br/I)、(CHNH)Pb(Br/I)、(CHN)Pb(Br/I)等の、MとしてPbを用いたナノ結晶は、光強度に優れると共に量子効率に優れることから、好ましい。また、CsSnBr、CsSnCl、CsSnBr1.5Cl1.5、CsSbBr、(CHNHBiBr、(CNHAgBiBr、等のMとしてPb以外の金属カチオンを用いたナノ結晶は、低毒性であって環境への影響が少ないことから、好ましい。
【0035】
ナノ結晶として、605~665nmの波長範囲に発光ピークを有する光(赤色光)を発する赤色発光性の結晶、500~560nmの波長範囲に発光ピークを有する光(緑色光)を発する緑色発光性の結晶、420~480nmの波長範囲に発光ピークを有する光(青色)を発する青色発光性の結晶等を選択して用いることができる。
なお、ナノ結晶の発光ピークの波長は、例えば、絶対PL量子収率測定装置を用いて測定される蛍光スペクトル又は燐光スペクトルにおいて確認できる。
【0036】
赤色発光性のナノ結晶は、665nm以下、663nm以下、660nm以下、658nm以下、655nm以下、653nm以下、651nm以下、650nm以下、647nm以下、645nm以下、643nm以下、640nm以下、637nm以下、635nm以下、632nm以下又は630nm以下の波長範囲に発光ピークを有することが好ましく、628nm以上、625nm以上、623nm以上、620nm以上、615nm以上、610nm以上、607nm以上又は605nm以上の波長範囲に発光ピークを有することが好ましい。
これらの上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。なお、以下の同様の記載においても、個別に記載した上限値及び下限値は任意に組み合わせ可能である。
【0037】
緑色発光性のナノ結晶は、560nm以下、557nm以下、555nm以下、550nm以下、547nm以下、545nm以下、543nm以下、540nm以下、537nm以下、535nm以下、532nm以下又は530nm以下の波長範囲に発光ピークを有することが好ましく、528nm以上、525nm以上、523nm以上、520nm以上、515nm以上、510nm以上、507nm以上、505nm以上、503nm以上又は500nm以上の波長範囲に発光ピークを有することが好ましい。
【0038】
青色発光性のナノ結晶は、480nm以下、477nm以下、475nm以下、470nm以下、467nm以下、465nm以下、463nm以下、460nm以下、457nm以下、455nm以下、452nm以下又は450nm以下の波長範囲に発光ピークを有することが好ましく、450nm以上、445nm以上、440nm以上、435nm以上、430nm以上、428nm以上、425nm以上、422nm以上又は420nm以上の波長範囲に発光ピークを有することが好ましい。
【0039】
ナノ結晶の形状は、特に限定されず、任意の幾何学的形状であってもよく、任意の不規則な形状であってもよい。ナノ結晶の形状としては、例えば、直方体状、立方体状、球状、正四面体状、楕円体状、角錐形状、ディスク状、枝状、網状、ロッド状等が挙げられる。ナノ結晶の形状は、直方体状、立方体状又は球状が好ましい。
【0040】
ナノ結晶の平均粒子径(体積平均径)は、40nm以下であることが好ましく、30nm以下がより好ましく、20nm以下がさらに好ましく、15nm以下が特に好ましい。また、ナノ結晶の平均粒子径は、1nm以上であることが好ましく、1.5nm以上がより好ましく、2nm以上がさらに好ましく、3nm以上が特に好ましい。かかる平均粒子径を有するナノ結晶は、所望の発光波長を得ることができると共に、ナノ結晶の凝集による二次粒子の形成を抑制でき、蛍光量子収率、輝度及び色再現性の低下を抑制できる。
なお、ナノ結晶の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)又はX線回折装置(XRD)等によってナノ結晶の粒径を測定し、体積基準の平均粒径を算出して得られる。
【0041】
1-2.表面層
本発明の発光性粒子は、半導体ナノ結晶の表面に、T単位のシラン化合物の加水分解縮合物と、Q単位のシラン化合物の加水分解縮合物と、有機成分とを含む表面層を備える。
かかる表面層は単独の層からなっていてもよく、複数の層からなっていてもよい。ナノ結晶が前記表面層を備えることで、発光性粒子の水分や酸素に対する安定性、耐光性等を向上できる。また本発明の発光性粒子を含むインク組成物から形成される光変換層の光学特性の耐久性等を向上できる観点から好ましい。
【0042】
[シラン化合物]
一般的にシラン化合物の加水分解縮合物に含まれるケイ素原子は、1個の酸素原子と結合したケイ素原子をM単位、2個の酸素原子と結合したケイ素原子をD単位、3個の酸素原子と結合したケイ素原子をT単位、4個の酸素原子と結合したケイ素原子をQ単位と呼称し区別される。M単位、D単位、T単位及びQ単位としては、それぞれ以下の式(M)、(D)、(T)及び(Q)が例示できる。
【0043】
【化1】
上記式中、Rはケイ素に結合する置換基であって、例えば、それぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アミノ基、メルカプト基、アクリル基、メタクリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、イソシアネート基、環状エーテル基または1価の炭化水素基であり、1価の炭化水素基中の水素原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子に置換されていてもよい。
【0044】
ケイ素に結合する置換基の含有量に関する情報は、29Si-NMRにより得ることができる。29Si-NMRスペクトルにおいて、M単位の化学シフトは約-81ppmから約-90ppmの範囲に確認され、D単位の化学シフトは約-90ppmから約-95ppmの範囲に確認され、T単位の化学シフトは約-98ppmから約-104ppmの範囲に確認され、Q単位の化学シフトは約-108ppmから約-111ppmの範囲に確認されるが、これら化学シフトの範囲には、一般的に±3ppm程度の誤差を含む場合がある。
【0045】
<T単位のシラン化合物>
本発明の発光性粒子で使用されるT単位のシラン化合物は、以下の一般式(T1)で表される化合物であることが好ましい。
【0046】
【化2】
(式中、RT1、RT2及びRT3は、それぞれ独立に、炭素原子数が1~4のアルキル基を表し、
T1は、炭素原子数が1~10のアルキル基及び単結合を表すが、当該アルキル基は直鎖業であっても分岐状であってもよく、当該アルキル基中の任意の水素原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子に置換されていてもよく、当該アルキル基中の1個の-CH-又は隣接していない2個以上の-CH-は各々独立して、-NH-、-O-、-C(=O)-、-C=N-、-N=C-又は1,4-フェニレン基によって置換されていてもよく、
は、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アミノ基、メルカプト基、アクリル基、メタクリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、イソシアネート基及び環状エーテル基からなる群より選ばれる少なくとも1種を有する1価の基を表す。)
【0047】
一般式(T1)で表される化合物が、ナノ結晶の表面に配位可能な配位子として使用される場合には、かかる配位子は、ナノ結晶に含まれるカチオン又はアニオンに結合する結合性基を有し、加水分解によりシロキサン結合を形成可能な反応性基を有することが好ましい。
配位子として使用されるT単位のシラン化合物(以後「シラン配位子T」とも言う)における、シロキサン結合を形成可能な反応性基としては、シロキサン結合を容易に形成できる観点から、シラノール基、炭素原子数が1~6のアルコキシシリル基等の加水分解性シリル基が好ましく、シラノール基、炭素原子数が1~2のアルコキシシリル基がより好ましい。
シラン配位子Tの有する結合性基としては、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アミノ基及びメルカプト基の少なくとも1種が好ましく、アミノ基及びメルカプト基の少なくとも1種がより好ましい。これらの結合性基は、ナノ結晶に含まれるカチオン又はアニオンに対する親和性が高いため、シラン配位子Tは結合性基をナノ結晶側にして配位する。そして、シラン配位子Tが有する加水分解性シリル基の縮合によりシロキサン結合を形成させることで、より容易かつ確実にシロキサン結合を有する構造を含む表面層を形成できる。
シラン配位子Tとしては、アミノ基含有シラン化合物、メルカプト基含有シラン化合物が特に好ましい。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。
【0048】
アミノ基含有シラン化合物としては、例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリプロポキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリイソプロポキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、(アミノエチルアミノエチル)フェニルトリメトキシシラン、(アミノエチルアミノエチル)フェニルトリエトキシシラン、(アミノエチルアミノエチル)フェニルトリプロポキシシラン、(アミノエチルアミノエチル)フェニルトリイソプロポキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェニルトリメトキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェニルトリエトキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェニルトリプロポキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェニルトリイソプロポキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-(N-フェニル)アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N-ビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、(アミノエチルアミノエチル)フェネチルトリメトキシシラン、(アミノエチルアミノエチル)フェネチルトリエトキシシラン、(アミノエチルアミノエチル)フェネチルトリプロポキシシラン、(アミノエチルアミノエチル)フェネチルトリイソプロポキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリメトキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリエトキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリプロポキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリイソプロポキシシラン、N-[2-[3-(トリメトキシシリル)プロピルアミノ]エチル]エチレンジアミン、N-[2-[3-(トリエトキシシリル)プロピルアミノ]エチル]エチレンジアミン、N-[2-[3-(トリプロポキシシリル)プロピルアミノ]エチル]エチレンジアミン、N-[2-[3-(トリイソプロポキシシリル)プロピルアミノ]エチル]エチレンジアミン等が挙げられる。
【0049】
メルカプト基含有シラン化合物としては、例えば、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0050】
本発明の発光性粒子で使用されるT単位のシラン化合物は、配位子として機能するシラン化合物(シラン配位子T)以外に、光や熱によりナノ結晶から脱離したハロゲンを補填できる観点から、ハロゲン化アルコキシシラン化合物をさらに含むことが好ましい。
ハロゲン化アルコキシシラン化合物としては、例えば、3-ブロモプロピルトリメトキシシラン、3-ブロモプロピルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン、3-ヨードプロピルトリメトキシシラン、3-ヨードプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
ハロゲン化アルコキシシラン化合物におけるハロゲン種は、優れた光学特性を付与する目的で、ナノ結晶を構成するハロゲン種と同一であることが好ましく、例えば、ナノ結晶中のハロゲン種が臭素である場合には、臭素化アルコキシシラン化合物が好ましく、3-ブロモプロピルトリメトキシシランがより好ましい。
【0051】
<Q単位のシラン化合物>
本発明の発光性粒子で使用されるQ単位のシラン化合物は、以下の一般式(Q1)で表される化合物であることが好ましい。
【0052】
【化3】
上記式中、RQ1及びRQ2は、それぞれ独立に炭素原子数が1~4のアルキル基を表し、RQ3及びRQ4は、それぞれ独立に水素原子又は炭素原子数が1~4アルキル基を表し、mは1以上10以下の整数を表す。
【0053】
式(Q1)で表される化合物は、具体的には、例えば、テトラブトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、n-ブチルトリエトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリエトキシシラン、n-オクチルトリメトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、n-デシルルトリメトキシシラン、n-ドデシルトリメトキシシラン、n-ドデシルトリエトキシシラン、n-ヘキサデシルトリメトキシシラン、n-ヘキサデシルトリエトキシシラン、n-オクタデシルトリメトキシシラン、トリメトキシ(3、3、3-トリフルオロプロピル)シラン、トリメトキシ(ペンタフルオロフェニル)シラン、トリメトキシ(11-ペンタフルオロフェノキシウンデシル)シラン、トリメトキシ(1H、1H、2H、2H-ノナフルオロヘキシル)シラン、テトラメトキシシランの部分加水分解オリゴマー(製品名:メチルシリケート51、メチルシリケート53A(以上、コルコート株式会社製))、テトラエトキシシランの部分加水分解オリゴマー(製品名:エチルシリケート40、エチルシリケート48(以上、コルコート株式会社製)、テトラメトキシシランとテトラエトキシシラン混合物の部分加水分解オリゴマー(製品名:EMS-485(コルコート株式会社製))等が挙げられる。
【0054】
加水分解縮合物の堅牢性の観点から、一般式(Q1)中、RQ1及びRQ2は、それぞれ独立に炭素原子数が1~2のアルキル基が好ましく、RQ3及びRQ4は、それぞれ独立に水素原子又は炭素原子数が1~2のアルキル基が好ましく、mは1以上4以下の整数であることが好ましい。
【0055】
発明の発光性粒子の表面層を形成するシラン化合物は、T単位及びQ単位のシラン化合物に加えて、例えば、下記式(C2)で表される化合物及び(C3)で表されるシラン化合物を併用することも可能である。
【0056】
【化4】
式中、RC21、RC22、RC31は、それぞれ独立にアルキル基を表し、RC23、RC24、RC32、RC33、及びRC34は、それぞれ独立に水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、フェニル基、シクロヘキシル基を表し、前記アルキル基中の炭素原子は酸素原子あるいは窒素原子に置換されていてもよく、m2は1以上10以下の整数を表す。
【0057】
式(C2)で表される化合物及び式(C3)で表される化合物としては、具体的には、例えば、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルエチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシランが挙げられる。式(C2)で表される化合物及び(C3)で表される化合物は、発光性粒子の優れた光学特性及び耐久性を維持できる範囲において、一般式(T1)及び(Q1)で表される化合物に加えて1種あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
本発明の発光性粒子の表面層に含まれるシラン化合物の加水分解縮合物は、発光性粒子の優れた光学特性及び耐久性を維持する観点で、T単位のシラン化合物の加水分解縮合物及びQ単位のシラン化合物の加水分解縮合物のみを含むことが好ましい。29Si-NMRスペクトルにおいて、T単位のシラン化合物の加水分解縮合物に含まれるケイ素原子の面積の割合%をSi(T)、Q単位のシラン化合物の加水分解縮合物に含まれるケイ素原子の面積の割合%をSi(Q)としたとき、発光性粒子のモノマー分散性及び発光性粒子を含むインク組成物から形成される硬化物の耐久性の観点から、Si(T)/Si(Q)が0.30~0.70であることが好ましく、0.40~0.60であることがより好ましい。
【0059】
[有機成分]
本発明の発光性粒子中に含まれる有機成分は、発光性粒子を構成するナノ結晶表面に結合可能なSi原子を有しない化合物(以後「リガンド」とも言う)及びポリマーを含む。この有機成分は発光性粒子への親和性を優れたものとするだけではなく、光重合性化合物への親和性も優れたものとする。そのため、本発明の発光性粒子を含有するインク組成物中で凝集体を形成することなく存在することができ、したがって該組成物は分散安定性に優れたものとなる。
【0060】
また、前記有機成分として、発光性粒子を構成するナノ結晶と同一の1価の陽イオン及びハロゲンからなる塩を含んでもよい。発光性粒子中に前記塩を含むことにより、後述する光変換層となった場合にさらに優れた耐光性を得ることができる。
【0061】
本発明の発光性粒子中に含まれる有機成分の質量割合は、熱重量示差熱分析装置(TG-DTA)を用いて、熱重量分析を行うことによって求めることができる。
前記有機成分の質量割合は、本発明の発光性粒子を熱重量分析した場合の470℃における重量減少率から算出される。
470℃における重量減少率は、測定前の試料(発光性粒子)の重量と、熱重量分析の470℃における試料の重量から、以下の式(I)で求められる。
470℃における重量減少率(%)(発光性粒子中の有機成分の質量割合)=100×(試験前の試料の重量-470℃における試料の重量)/測定前の試料の重量・・・式(I)
【0062】
前記有機成分の質量割合は、50質量%以上70質量%以下であることが好ましい。重量減少率が50質量%以下であると、インク組成物としたときの分散性が不十分となり、重量減少率が70質量%以上であると、インク組成物から形成される硬化物の耐久性が不十分なものとなる。このような観点から、上記重量減少率は、好ましくは55質量%以上70質量%以下であり、より好ましくは60質量%以上70質量%以下である。
【0063】
前記リガンドは、ナノ結晶表面に結合可能な部位を有する化合物であれば特に限定されないが、具体的には、例えば、前記結合可能な部位としては、例えば、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、アミノ基、アンモニウム基、メルカプト基、ホスフィン基、ホスフィンオキシド基、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、スルホン酸基およびボロン酸基のうちの少なくとも1種であることが好ましく、カルボキシル基およびアミノ基のうちの少なくとも1種であることがより好ましい。かかるリガンドとしては、カルボキシル基またはアミノ基含有化合物等が挙げられ、これらの1種を単独で使用し、または2種以上を併用することができる。
【0064】
カルボキシル基含有化合物としては、例えば、炭素原子数1 30の直鎖状または分岐状の脂肪族カルボン酸が挙げられる。かかるカルボキシル基含有化合物の具体例としては、例えば、アラキドン酸、クロトン酸、trans-2-デセン酸、エルカ酸、3-デセン酸、cis-4,7,10,13,16,19-ドコサヘキサエン酸、4-デセン酸、all cis-5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸、all cis-8,11,14-エイコサトリエン酸、cis-9-ヘキサデセン酸、trans-3-ヘキセン酸、trans-2-ヘキセン酸、2-ヘプテン酸、3-ヘプテン酸、2-ヘキサデセン酸、リノレン酸、リノール酸、γ-リノレン酸、3-ノネン酸、2-ノネン酸、trans-2-オクテン酸、ペトロセリン酸、エライジン酸、オレイン酸、3-オクテン酸、trans-2-ペンテン酸、trans-3-ペンテン酸、リシノール酸、ソルビン酸、2-トリデセン酸、cis-15-テトラコセン酸、10-ウンデセン酸、2-ウンデセン酸、酢酸、酪酸、ベヘン酸、セロチン酸、デカン酸、アラキジン酸、ヘンエイコサン酸、ヘプタデカン酸、ヘプタン酸、ヘキサン酸、ヘプタコサン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、メリシン酸、オクタコサン酸、ノナデカン酸、ノナコサン酸、n-オクタン酸、パルミチン酸、ペンタデカン酸、プロピオン酸、ペンタコサン酸、ノナン酸、ステアリン酸、リグノセリン酸、トリコサン酸、トリデカン酸、ウンデカン酸、吉草酸等が挙げられる。
【0065】
アミノ基含有化合物としては、例えば、炭素原子数1 30の直鎖状または分岐状の脂肪族アミンが挙げられる。かかるアミノ基含有化合物の具体例としては、例えば、1-アミノヘプタデカン、1-アミノノナデカン、ヘプタデカン-9-アミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、2-n-オクチル-1-ドデシルアミン、アリルアミン、アミルアミン、2-エトキシエチルアミン、3-エトキシプロピルアミン、イソブチルアミン、イソアミルアミン、3-メトキシプロピルアミン、2-メトキシエチルアミン、2-メチルブチルアミン、ネオペンチルアミン、プロピルアミン、メチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、n-オクチルアミン、1-アミノデカン、ノニルアミン、1-アミノウンデカン、ドデシルアミン、1-アミノペンタデカン、1-アミノトリデカン、ヘキサデシルアミン、テトラデシルアミン等が挙げられる。
【0066】
前記ポリマーは、塩基性基を含む構造単位を有するポリマーであれば何でもよく特に限定されるものではないが、有機無機複合粒子の粒子サイズを制御する観点から、下記一般式(Z1-1)又は(Z1-2)で表される、塩基性基を含む構造単位を有するポリマーZであることが好ましい。
【0067】
【化5】
式中、R、R及びRは、各々独立して、水素原子又はメチル基を表し、RZ1は、塩基性を有する1価の基、例えば、一級アミノ基、二級アミノ基、三級アミノ基、四級アンモニウム基、イミノ基、ピリジル基、ピリミジン基、ピペラジニル基、ピペリジル基、イミダゾリル基、ピロリジニル基、イミダゾリジニル基を含む塩基性基を表し、
及びXは、各々独立して、-COO-、-OCO-、窒素原子によって置換されてもよい炭素原子数が1~8のアルキル鎖、単結合を表す。
【0068】
前記式(Z1-1)で表される第一の構造単位を与える化合物としては、具体的には、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、4-アミノスチレン、4-ジメチルアミノスチレン、1-ビニルイミダゾール、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノブチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジエチルアミノプロピルアクリルアミド、アリルアミン等が挙げられる。
【0069】
前記式(Z1-2)で表される第一の構造単位を与える化合物としては、エチレンイミン、プロピレンイミン等が挙げられる。
【0070】
前記ポリマーZは、親溶媒性基として第二の構造単位を備えていても良い。第二の構造単位としては、有機無機複合粒子の粒子サイズの制御の観点から、下記式(Z2-1)、(Z2-2)で表される構造単位を有することがより好ましい。
【0071】
【化6】
式中、R及びRは、水素原子又はメチル基を表し、RZ3は、直鎖状或いは分岐状の炭素数2~15のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数4~20のシクロアルキル基、末端がヒドロキシ基又はアルコキシ基である炭素数10~50のポリアルキレンオキサイド基、置換基を有してもよい芳香族基、または一般式(Z3)で表される基を表し、
及びXは、-COO-、-OCO-、炭素原子数が1~8のアルキル鎖、単結合を表し、
Z4は、一般式(Z3)で表される基を表す。
【0072】
【化7】
式中、Rは、炭素数1~20の直鎖状又は分岐状の飽和又は不飽和の2価の炭化水素基を表し、aは0または1を表し、bは1~100を表す。
【0073】
一般式(Z3)におけるポリエステル骨格は、ヒドロキシカルボン酸、ラクトンの自己縮合、もしくはヒドロキシカルボン酸とラクトンの混合縮合により得られる。ヒドロキシカルボン酸としては、12-ヒドロキシステアリン酸などが挙げられ、ラクトンとしては、ε-カプロラクトン、β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトンなどが挙げられるが、12-ヒドロキシステアリン酸、バレロラクトンあるいはカプロラクトンから誘導される構造単位を少なくとも一つ有することが好ましい。
【0074】
前記式(Z2-1)で表される第二の構造単位を与える化合物としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、イコサニル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート、フェニルエチル(メタ)アクリレート等の芳香族(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の脂環式構造を有する(メタ)アクリレート;メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、オクトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ラウロキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ラウロキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ステアロキシポリエチレングリコール、ステアロキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、アリロキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、アリロキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等のアルキル基末端ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート化合物;スチレン、α-メチルスチレン、4-tert-ブチルスチレン、2,5-ジメチルスチレン、p-イソブチルスチレン等のスチレン誘導体モノマー、アリルアミンとポリエステルの縮合物等が挙げられる。
【0075】
前記式(Z2-2)で表される第二の構造単位を与える化合物としては、エチレンイミンとポリエステルの縮合物、プロピレンイミンとポリエステルの縮合物等が挙げられる。
【0076】
前記ポリマーZにおいては、式(Z1)及び式(Z2)で表される構造単位を各々1種で用いることもでき、各々2種以上併用することもできる。さらに、前記ポリマーZは、式(Z1)で表される第一の構造単位を第一のポリマーブロックとして有し、式(Z2)で表される第二の構造単位を第二のポリマーブロックとして有するブロックコポリマーであってもよく、式(Z1)で表される第一の構造単位と式(Z2)で表される第二の構造単位をランダムに有するランダムポリマーであってもよく、式(Z1)で表される第一の構造単位と式(Z2)で表される第二の構造単位を有するグラフトポリマーであってもよい。前記シラン配位子Tの加水分解縮合物を含むナノ結晶表面への吸着性の観点から、前記ポリマーZは、ブロックコポリマー、グラフトポリマーであることが好ましい。
【0077】
前記ポリマーZにおいては、式(Z1-1)及び式(Z1-2)で表される構造単位の少なくとも1種以上を用いることができ、また、式(Z2-1)及び式(Z2-2)で表される構造単位の少なくとも1種以上を用いることができる。さらに、前記ポリマーBは、式(Z1-1)で表される第一の構造単位を第一のポリマーブロックとして有し、式(Z2-1)で表される第二の構造単位を第二のポリマーブロックとして有するブロックコポリマーであってもよく、式(Z1-2)で表される第一の構造単位と式(Z2-2)で表される第二の構造単位をランダムに有するランダムポリマーであってもよく、式(Z1-2)で表される第一の構造単位と式(Z2-2)で表される第二の構造単位を有するグラフトポリマーであってもよい。発光性粒子のサイズの均一性の観点から、前記ポリマーZは、ブロックコポリマー、グラフトポリマーであることが好ましい。
【0078】
ポリマーZにおける第一の構造単位の含有量は、ポリマーZを構成する全構造単位を基準として、例えば、3モル%以上、4モル%以上、又は5モル%以上であることが好ましく、50モル%以下、30モル%以下、又は20モル%以下であることが好ましい。
【0079】
ポリマーZにおける第二の構造単位の含有量は、ポリマーZを構成する全構造単位を基準として、例えば、70モル%以上、75モル%以上、又は80モル%以上であることが好ましく、97モル%以下、96モル%以下、又は95モル%以下であることが好ましい。
【0080】
ポリマーZは、第一の構造単位及び第二の構造単位に加えて、他の構造単位を含むものであってもよい。その場合、ポリマーZにおける第一の構造単位及び第二の構造単位の合計の含有量は、ポリマーZを構成する全構造単位を基準として、例えば、70モル%以上、80モル%以上、又は90モル%以上であることが好ましい。
【0081】
例えば、ポリマーZは、第一の構造単位及び第二の構造単位に加えて、酸性基を有する構造単位を備えたものであってもよい。
【0082】
酸性基としては、カルボキシル基(-COOH)、スルホ基(-SO3H)、硫酸基(-OSO3H)、ホスホン酸基(-PO(OH)3)、リン酸基(-OPO(OH)3)、ホスフィン酸基(-PO(OH)-)、メルカプト基(-SH)、が挙げられる。
非イオン性官能基としては、ヒドロキシ基、エーテル基、チオエーテル基、スルフィニル基(-SO-)、スルホニル基(-SO2-)、カルボニル基、ホルミル基、エステル基、炭酸エステル基、アミド基、カルバモイル基、ウレイド基、チオアミド基、チオウレイド基、スルファモイル基、シアノ基、アルケニル基、アルキニル基、ホスフィンオキシド基、ホスフィンスルフィド基が挙げられる。
【0083】
酸性基を有する構造単位を与える化合物としては、カルボキシ基を有する(メタ)アクリレート、リン酸基を有する(メタ)アクリレート、スルホン基を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。前記カルボキシ基を有する(メタ)アクリレートとしては、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシペンチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルサクシネート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルマレアート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフタレート等のヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートに無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸等の酸無水物を反応させたモノマー、(メタ)アクリル酸等が挙げられる。前記スルホン酸基を有する(メタ)アクリレートとしては、スルホン酸エチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。前記リン酸基を有する(メタ)アクリレートとしては、(メタ)アクリル酸2-(ホスホノオキシ)エチル等が挙げられる。
【0084】
ポリマーZにおける重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定された値であり、標準ポリスチレン換算値で表す。発光性粒子の分散性の観点から、3,000以上200,000以下の範囲であることが好ましく、4,000以上100,000以下の範囲であることがより好ましく、5,000以上80,000以下の範囲であることがさらにより好ましい。
【0085】
1-3.発光性粒子の製造方法
本発明の一実施形態は、メタルハライドからなる半導体ナノ結晶粒子の表面に、T単位及びQ単位のシラン化合物の加水分解縮合物と、有機成分を含む表面層を備えた発光性粒子の製造方法である。一実施形態に係る製造方法は、半導体ナノ結晶粒子の原料化合物と、半導体ナノ結晶粒子の表面に結合可能な結合性基及び加水分解性シリル基を有するシラン配位子Tと、溶媒とを含む溶液から、半導体ナノ結晶粒子及びその表面にシラン配位子Tの加水分解縮合物を含む層を備えた前駆体粒子を得る工程S1と、前駆体粒子と、塩基性基を有する第一の構造単位及び塩基性基を有さず親溶媒性の第二の構造単位を備えたポリマーと、溶媒とを混合して混合物を得る工程S2と、Q単位を有するシラン化合物及びハロゲン化アルコキシシラン化合物を混合物に添加し、ポリシロキサン結合を形成させることにより、前駆体粒子の表面にポリマーと、Q単位のシラン化合物の加水分解縮合物及びハロゲン化アルコキシシラン化合物の加水分解縮合物とを含む層を備えた発光性粒子を得る工程S3と、を備える。
【0086】
<<工程S1>>
工程S1では、例えば、半導体ナノ結晶粒子の原料化合物を含む第1の溶液と、シラン配位子Tを含む第2の溶液とを混合することにより、メタルハライドからなる半導体ナノ結晶粒子を生成すると共に当該半導体ナノ結晶粒子の表面に前記シラン配位子Tを配位させる。その後、配位した前記シラン配位子T中の加水分解性シリル基を縮合させてシロキサン結合を形成する。以上によって、前記半導体ナノ結晶の表面にシラン配位子Tの加水分解縮合物を含む層を備えた前駆体粒子を得る。
【0087】
工程S1において、第1の溶液と第2の溶液とを混合する際、加熱してもよく、加熱しなくてもよい。第1の溶液と第2の溶液との混合時に加熱する場合、例えば、第1の溶液が半導体ナノ結晶粒子の原料化合物の一部を含み、第2の溶液が、シラン配位子Tに加えて、半導体ナノ結晶粒子の原料化合物の残部を含むものであってもよい。次いで、これらの溶液を不活性ガス雰囲気下で混合し、例えば130~260℃の温度条件下に反応させる。次いで、-20~30℃に冷却し、攪拌することにより、半導体ナノ結晶粒子を生成させると共に、該半導体ナノ結晶粒子の表面にシラン配位子Tを結合させた後、シラン配位子T中の加水分解性シリル基を縮合させることによりシロキサン結合を形成させることができる。
【0088】
具体的には、例えば、原料化合物の一部である炭酸セシウムと、半導体ナノ結晶粒子の配位子として作用する化合物と、有機溶媒とを含む溶液を調製する。半導体ナノ結晶粒子の配位子として作用する化合物として、オレイン酸、オレイルアミン等を用いることができる。有機溶媒として、1-オクタデセン、ジオクチルエーテル、ジフェニルエーテル等を用いることができる。このとき、有機溶媒40mLに対して、炭酸セシウム等の原料化合物が0.2~2g、オレイン酸等の配位子として作用する化合物が0.1~10mLとなるように、それぞれの添加量を調整することが好ましい。得られた溶液を90~150℃で10~180分間減圧乾燥した後、アルゴン、窒素等の不活性ガス雰囲気下で100~200℃に加熱することにより、セシウム-オレイン酸溶液を得る。
【0089】
一方、原料化合物の残部である臭化鉛(II)と、半導体ナノ結晶粒子の配位子として作用する化合物と、有機溶媒とを含む溶液を調製する。半導体ナノ結晶粒子の配位子として作用する化合物及び有機溶媒は、炭酸セシウムを含む溶液の調製に用いた有機溶媒と同一のものである。有機溶媒5mLに対して、臭化鉛(II)等の原料化合物を20~100mg添加し、オレイン酸等の配位子として作用する化合物を0.1~10mLとなるように添加する。得られた溶液を90~150℃で10~180分間減圧乾燥した後、アルゴン、窒素等の不活性ガス雰囲気下で0.1~2mLのシラン配位子Tである3-アミノプロピルトリエトキシシランを添加する。
【0090】
そして、臭化鉛(II)及び3-アミノプロピルトリエトキシシランを含む溶液を130~260℃に加熱した状態で上述のセシウム-オレイン酸溶液を添加し、1~10秒間加熱撹拌させることにより反応させた後に、得られた反応液を氷浴で冷却する。このとき、臭化鉛(II)、オレイン酸及び3-アミノプロピルトリエトキシシランを含む溶液5mLに対して、セシウム-オレイン酸溶液を0.1~1mL添加することが好ましい。-20~30℃で撹拌中に、半導体ナノ結晶粒子が生成すると共に、半導体ナノ結晶粒子の表面に3-アミノプロピルトリエトキシシラン及びオレイン酸が配位する。
【0091】
その後、得られた反応液に対し、0.1~60mLの酢酸メチルを添加することにより懸濁液を得る。得られた懸濁液を遠心分離した後に上澄み液を除去することにより、前駆体粒子を含む固形物を得る。
【0092】
第1の溶液と第2の溶液との混合時に加熱しない場合、まず、半導体ナノ結晶粒子の原料化合物を含む第1の溶液と、シラン配位子Tを含む第2の溶液とを大気下で混合する。次いで、得られた混合物を、半導体ナノ結晶粒子に対して貧溶媒である有機溶媒を多量に加えることにより、半導体ナノ結晶粒子を生成させる。有機溶媒の使用量は、半導体ナノ結晶粒子に対して、質量基準で10~1000倍量であることが好ましい。また、生成した半導体ナノ結晶粒子の表面には、シラン配位子Tの加水分解性シリル基同士によるシロキサン結合が形成される。
【0093】
具体的には、半導体ナノ結晶粒子の原料化合物を含む第1の溶液として、例えば、原料化合物の一部である臭化鉛(II)及びメチルアミン臭化水素酸塩とを有機溶媒とを含む溶液を調製する。有機溶媒は、ナノ結晶の良溶媒であればよいが、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルホルムアミド、及びこれらの混合溶媒であることが相溶性の点から好ましい。このとき、有機溶媒10mLに対して、臭化鉛(II)が50~200mg、メチルアミン臭化水素酸塩が10~100mgとなるように、それぞれの添加量を調整することが好ましい。
【0094】
一方、シラン配位子Tを含む第2の溶液として、例えば、3-アミノプロピルトリエトキシシランと、半導体ナノ結晶粒子として作用する配位子と、貧溶媒とを含む溶液を調製する。半導体ナノ結晶粒子として作用する配位子として、例えば、オレイン酸、オレイルアミン等を用いることができる。貧溶媒としては、イソプロピルアルコール、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、アセトニトリル等を用いることができる。このとき、貧溶媒5mLに対して、3-アミノプロピルトリエトキシシラン等のシラン配位子Tが0.01~0.5mL、オレイン酸等の配位子が0.01~0.5mLとなるように、それぞれの添加量を調整することが好ましい。
【0095】
そして、上述の臭化鉛(II)及びメチルアミン臭化水素酸塩を含む溶液0.1~5mLに対して、上述の3-アミノプロピルトリエトキシシランを含む溶液5mLを、大気下、0~60℃で添加して混合物を得る。その直後に、得られた混合物を大量の貧溶媒に添加し、遠心分離した後に、上澄み液を除去することにより前駆体粒子を含む固形物を得る。混合物を大量の貧溶媒に添加したときに、半導体ナノ結晶粒子が析出すると共に、半導体ナノ結晶粒子の表面に3-アミノプロピルトリエトキシシラン及びオレイン酸が配位する。そして、3-アミノプロピルトリエトキシシランのアルコキシシリル基が縮合し、半導体ナノ結晶粒子の表面にシラン配位子Tの加水分解性シリル基同士によるシロキサン結合が形成される。
【0096】
工程S1で生成されるメタルハライドからなる半導体ナノ結晶粒子は、励起光を吸収して蛍光または燐光を発光するナノサイズの結晶体(ナノ結晶粒子)である。半導体ナノ結晶粒子は、例えば、透過型電子顕微鏡または走査型電子顕微鏡によって測定される最大粒子径が100nm以下である粒子である。半導体ナノ結晶粒子は、例えば、所定の波長の光エネルギーや電気エネルギーにより励起され、蛍光または燐光を発することができる。
【0097】
半導体ナノ粒子は、安定性をより高めるために、その表面にリガンドが配位していることが好ましい。半導体ナノ結晶粒子の原料化合物を含む第1の溶液及び/又は第2の溶液にリガンドを添加しておくことにより、表面にリガンドが配位した半導体ナノ粒子を生成することができる。
【0098】
シラン配位子Tは、半導体ナノ結晶粒子の表面に結合可能な結合性基及び加水分解性シリル基を有する化合物であり、工程S1において1種又は2種以上を用いることができる。
【0099】
<<工程S2>>
工程S2では、例えば、前記前駆体粒子を含む固形物に、塩基性基を有する第一の構造単位及び塩基性基を有さず親溶媒性の第二の構造単位を備えたポリマーZをトルエン等の溶媒に溶解させたポリマー溶液を添加し、さらに、T単位を有するハロゲン化アルコキシシラン化合物を添加する。これにより、前駆体粒子の表面にポリマーZ中の塩基性基を有する第一の構造単位が当該前駆体粒子の側に向けて集まった状態が形成される。ポリマーZの一部は、前記ハロゲン化アルコキシシラン化合物のハロゲンと塩を形成し(以後「ポリマーZ’」ともいう)、ポリマーZ’は、発光性粒子の表面に形成される表面層中でナノ結晶のハロゲン供給源となる。
【0100】
具体的には、例えば、まず、ポリマーZを濃度0.1~100mg/mLとなるように溶媒に添加し、20~80℃の温度で溶解させる。続いて、上記前駆体粒子を含む固形物1質量部に対して、ポリマー溶液を例えば10~1000質量部添加し、1~60分間撹拌する。さらに、固形物1質量部に対して、前記ハロゲン化アルコキシシラン化合物を例えば10~1000質量部添加し、6~24時間攪拌する。その後、3000~10000回転/分、1~30分間の条件で遠心分離した後、その上澄み液(例えば、溶液全量に対して70~100体積%分の上澄み液)を回収することにより、前駆体粒子、ポリマー及びT単位のハロゲン化アルコキシシラン化合物を含む分散液S2を得ることができる。
【0101】
工程S2で用いられるポリマーZは、両親媒性の化合物であり、塩基性基を有する第一の構造単位と、分散媒への親和性に優れた親溶媒性であって、塩基性基を有さない第二の構造単位とを備えたポリマーである。ここでいう分散媒とは、発光性粒子を分散させることが可能な分散媒である。分散媒は、工程S2で用いる溶媒であってもよく、他の溶媒や、光重合性化合物等の樹脂であってもよい。
【0102】
<<工程S3>>
工程S3では、例えば、工程S2で得られた分散液S2と、シラン化合物Qを含む溶液とを混合する。分散液S2中のT単位のハロゲン化アルコキシシラン化合物の加水分解性シリル基及びシラン化合物Qの加水分解性シリル基が縮合してシロキサン結合を形成することにより、前駆体粒子の表面にポリマーZ、T単位のハロゲン化アルコキシシラン化合物及びシラン化合物Qの加水分解縮合物を含む層が形成される。この結果、前記半導体ナノ結晶粒子の表面に、Siを含有する表面層を備えた発光性粒子が形成される。前記表面層は、シラン化合物T由来のポリシロキサン、ポリマーZ、T単位のハロゲン化アルコキシシラン化合物及びシラン化合物Q由来のポリシロキサンを含む。その後、得られた反応液を遠心分離し、上澄みを回収することにより、前記発光性粒子が前記溶媒に分散した発光性粒子の分散液を得ることができる。
【0103】
具体的には、例えば、工程S2で得られたポリマー溶液中の前駆体粒子1質量部に対して、シラン化合物Qが例えば0.1~50質量部となるように、ポリマー溶液にシラン化合物Qを含む溶液を添加し、例えば5~300分間撹拌する。
【0104】
発光性粒子の分散液とシラン化合物Qを含む溶液との混合後に、加水分解制御の観点から、水(例えばイオン交換水)を更に添加してもよい。水の添加量は、例えば、シラン化合物Qの100質量部に対して1~100質量部であってよい。水を添加後、例えば5~300分間撹拌する。
【0105】
続いて、得られた反応液を、例えば3000~15000回転/分、1~30分間の条件で遠心分離した後、その上澄み液(例えば、反応液全量に対して70~100体積%分の上澄み液)を回収することにより、発光性粒子が溶媒に分散した発光性粒子分散体を得ることができる。
【0106】
本実施形態の製造方法によって得られた発光性粒子分散体において、溶媒に分散する発光性粒子が備えるSiを含む表面層は、シラン化合物Tに起因するポリシロキサンと、ポリマーZと、T単位のハロゲン化アルコキシシラン化合物に起因するポリシロキサンと、シラン化合物Qに起因するポリシロキサンとを含む。シラン化合物Tに起因するポリシロキサンは、結合性基によって半導体ナノ結晶粒子に結合(配位)していることから、半導体ナノ粒子側に偏在すると考えられる。シラン化合物Tに起因するポリシロキサンの表面側には、ポリマーZが、第一の構造単位中の塩基性基を半導体ナノ結晶粒子側に位置させるように集合している。ポリマーZは、第一の構造単位中の塩基性基が、半導体ナノ結晶粒子に結合(配位)していてもよく、シラン化合物Tに起因するポリシロキサンに結合(配位)していてもよい。T単位のハロゲン化アルコキシシラン化合物に起因するポリシロキサン及びシラン化合物Qに起因するポリシロキサンは、表面層においてシラン化合物Tに起因するポリシロキサンよりも外方に偏在すると考えられる。T単位のハロゲン化アルコキシシラン化合物及びシラン化合物Qに起因するポリシロキサンは、ポリマーZの第一の構造単位中の塩基性基に配位(結合)していてもよい。T単位のハロゲン化アルコキシシラン化合物及びシラン化合物Qに起因するポリシロキサンは、ポリマーZの塩基性基を有する第一の構造単位をテンプレートとして当該粒子の表面に形成されると考えられる。前述によれば、発光性粒子表面がSiを有する層により強固に被覆されるために、発光性粒子分散体は、酸素、熱、水等の極性溶媒に対する優れた安定性を確保することができる。さらには、ポリマーZの第一の構造単位中の塩基性基が半導体ナノ結晶粒子側に位置することによって、親溶媒性の第二の構造単位が発光性粒子の表面外に配置するために、発光性粒子分散体中の発光性粒子に対して、当該発光性粒子分散体中の分散媒に対する高い分散性を付与することができる。以上により、本実施形態の製造方法によれば、分散性及び安定性に優れた発光性粒子分散体を得ることができる。
【0107】
表面層の厚さは、例えば、1nm以上、2nm以上、又は3nm以上であることが好ましく、200nm以下、100nm以下、又は50nm以下であることが好ましい。かかる表面層の厚さを備える発光性粒子は、優れた安定性と、分散媒への優れた分散性を得ることができる。
【0108】
発光性粒子の平均粒子径(体積平均径)は、例えば、10nm以上、15nm以上、又は20nm以上であることが好ましく、400nm以下、300nm以下、又は200nm以下であることが好ましい。発光性粒子の平均粒子径は、動的光散乱法により測定される体積平均径を意味する。
【0109】
2.インク組成物
本発明の発光性粒子は、分散媒に分散したインク組成物として用いることが好ましい。分散媒として溶媒又は光重合性化合物を用いることが好ましい。インク組成物は、分散媒として少なくとも光重合性化合物を含有し、さらに光重合開始剤を含有ことが好ましい。このようなインク組成物は、特に、光変換フィルム用紫外線硬化型コーティング組成物あるいは紫外線硬化型インクジェット用のインク組成物として好適である。このとき、溶媒を含んでもよく、含まなくてもよい。以下、発光性粒子と、光重合性化合物と、光重合性化合物を含むインク組成物について説明する。
【0110】
発光性粒子の詳細は、上述したとおりである。インク組成物中の発光性粒子の含有量は、好ましくは、0.05質量%以上、0.1質量%以上、0.5質量%以上又は1質量%以上であり、好ましくは、20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下又は5質量%以下である。発光粉体の含有量を前記範囲に設定することにより、発光性粒子同士が凝集し難くなり、インク組成物での保存安定性ならびに得られる発光層(光変換層)の内部量子効率を高めることもできる。
【0111】
本発明のインク組成物中に含まれる光重合性化合物は、硬化物中においてバインダーとして機能し、光(活性エネルギー線)の照射により重合する化合物である。光重合性化合物としては、ラジカル重合性化合物、カチオン重合性化合物、アニオン重合性化合物等が挙げられ、モノマーであってもオリゴマーであってもよい。中でも、硬化性が良好な観点から、ラジカル重合性化合物が好ましい。
【0112】
ラジカル重合性化合物としては、例えば、重合性官能基としてエチレン性不飽和基を有する化合物が挙げられる。なお、本明細書において、エチレン性不飽和基とは、エチレン性不飽和結合(重合性の炭素-炭素二重結合)を有する基を意味する。エチレン性不飽和基としては、例えば、ビニル基、ビニレン基、ビニリデン基、(メタ)アクリロイル基等が挙げられる。エチレン性不飽和基を有する化合物が有するエチレン性不飽和結合の数(例えばエチレン性不飽和基の数)は、例えば1~6であってよい。
エチレン性不飽和基を有する化合物としては、インク組成物から得られる硬化物の外部量子効率をより向上できる観点から、(メタ)アクリロイル基を有する化合物が好ましく、単官能又は多官能の(メタ)アクリレートがより好ましく、単官能又は二官能の(メタ)アクリレートがさらに好ましい。
なお、本明細書中において「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基、メタクリロイル基及びそれらの双方を総称する用語である。「(メタ)アクリレート」はアクリレート、メタアクリレート及びそれらの双方を総称する用語である。
また、単官能(メタ)アクリレートとは、(メタ)アクリロイル基を1つ有する(メタ)アクリレートを意味し、多官能(メタ)アクリレートとは、(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する(メタ)アクリレートを意味する。
【0113】
単官能(メタ)アクリレートとしては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニルベンジル(メタ)アクリレート、こはく酸モノ(2-アクリロイルオキシエチル)、N-[2-(アクリロイルオキシ)エチル]フタルイミド、N-[2-(アクリロイルオキシ)エチル]テトラヒドロフタルイミド等が挙げられる。
【0114】
多官能(メタ)アクリレートは、2官能(メタ)アクリレート、3官能(メタ)アクリレート、4官能(メタ)アクリレート、5官能(メタ)アクリレート、6官能(メタ)アクリレート等である。例えば、ジオール化合物の2つの水酸基が(メタ)アクリロイルオキシ基によって置換されたジ(メタ)アクリレート、トリオール化合物の2つ又は3つの水酸基が(メタ)アクリロイルオキシ基によって置換されたジ(メタ)アクリレート又はトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0115】
2官能(メタ)アクリレートとしては、例えば1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバリン酸エステルジアクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートの2つの水酸基が(メタ)アクリロイルオキシ基によって置換されたジ(メタ)アクリレート、1モルのネオペンチルグリコールに4モル以上のエチレンオキシド又はプロピレンオキシドを付加して得られるジオールの2つの水酸基が(メタ)アクリロイルオキシ基によって置換されたジ(メタ)アクリレート、1モルのビスフェノールAに2モルのエチレンオキシド又はプロピレンオキシドを付加して得られるジオールの2つの水酸基が(メタ)アクリロイルオキシ基によって置換されたジ(メタ)アクリレート、1モルのトリメチロールプロパンに3モル以上のエチレンオキシド又はプロピレンオキシドを付加して得られるトリオールの2つの水酸基が(メタ)アクリロイルオキシ基によって置換されたジ(メタ)アクリレート、1モルのビスフェノールAに4モル以上のエチレンオキシド又はプロピレンオキシドを付加して得られるジオールの2つの水酸基が(メタ)アクリロイルオキシ基によって置換されたジ(メタ)アクリレート、1モルのプロピレングリコールと2モルのエピクロルヒドリンの反応生成物に(メタ)アクリル酸を付加したジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0116】
3官能(メタ)アクリレートとしては、例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、1モルのトリメチロールプロパンに3モル以上のエチレンオキシド又はプロピレンオキシドを付加して得られるトリオールの3つの水酸基が(メタ)アクリロイルオキシ基によって置換されたトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
4官能(メタ)アクリレートとしては、例えばペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
5官能(メタ)アクリレートとしては、例えばジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
6官能(メタ)アクリレートとしては、例えばジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0117】
多官能(メタ)アクリレートは、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等のジペンタエリスリトールの複数の水酸基が(メタ)アクリロイルオキシ基によって置換されたポリ(メタ)アクリレート、一分子中にエチレン性二重結合を2つ以上有する芳香族ウレタンオリゴマー、脂肪族ウレタンオリゴマー、エポキシアクリレートオリゴマー、ポリエステルアクリレートオリゴマー及びその他特殊オリゴマーからなる群から選択される少なくとも一種の化合物であってもよい。
【0118】
(メタ)アクリレート化合物は、リン酸基を有する、エチレンオキシド変性リン酸(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性アルキルリン酸(メタ)アクリレート等であってもよい。
【0119】
本発明のインク組成物における光重合性化合物の含有量は、インク組成物の全質量を基準として、40質量%以上99質量%以下であることが好ましく、60質量%以上98質量%以下がより好ましく、70質量%以上97質量%以下がさらに好ましい。
【0120】
該組成物の硬化物の表面のべたつき(タック)を低減する観点では、光重合性化合物として、環状構造を有するラジカル重合性化合物を用いることが好ましい。環状構造は、芳香環構造であっても非芳香環構造であってもよい。環状構造の数(芳香環及び非芳香環の数の合計)は、1又は2以上であるが、3以下であることが好ましい。環状構造を構成する炭素原子の数は、例えば、4以上であり、5以上又は6以上であることが好ましい。炭素原子の数は、例えば20以下であり、18以下であることが好ましい。
【0121】
芳香環構造は、炭素数6~18の芳香環を有する構造であることが好ましい。炭素数6~18の芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、アントラセン環等が挙げられる。芳香環構造は、芳香族複素環を有する構造であってもよい。芳香族複素環としては、例えば、フラン環、ピロール環、ピラン環、ピリジン環等が挙げられる。芳香環の数は、1であっても、2以上であってもよいが3以下であることが好ましい。有機基は、2以上の芳香環が単結合により結合した構造(例えば、ビフェニル構造)を有していてもよい。
【0122】
非芳香環構造は、例えば、炭素数5~20の脂環を有する構造であることが好ましい。炭素数5~20の脂環としては、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、シクロオクタン環等のシクロアルカン環、シクロペンテン環、シクロヘキセン環、シクロヘプテン環、シクロオクテン環等のシクロアルケン環などが挙げられる。脂環は、ビシクロウンデカン環、デカヒドロナフタレン環、ノルボルネン環、ノルボルナジエン環、イソボルニル環等の縮合環であってもよい。非芳香環構造は、非芳香族複素環を有する構造であってもよい。非芳香族複素環としては、例えば、テトラヒドロフラン環、ピロリジン環、テトラヒドロピラン環、ピぺリジン環等が挙げられる。
【0123】
環状構造を有するラジカル重合性化合物は、好ましくは、環状構造を有する単官能又は多官能(メタ)アクリレートである。環状構造を有する単官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、ビフェニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。環状構造を有する多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、ジメチロール-トリシクロデカンジアクリレート、EO変性ビスフェノールAジアクリレート、PO変性ビスフェノールAジアクリレート等が挙げられる。
【0124】
環状構造を有するラジカル重合性化合物の含有量は、該インク組成物から形成される光変換層において、優れた耐熱性を発現する観点から、該インク組成物中における光重合性化合物の全質量を基準として、40~95質量%であることが好ましく、60~90質量%であることがより好ましく、70~85質量%であることがさらに好ましい。
【0125】
光重合性化合物の分子量は、例えば50以上であり、100以上又は150以上であってもよい。光重合性化合物の分子量は、例えば500以下であり、400以下又は300以下であってもよい。
本発明のインク組成物をインクジェット方式の印刷方式を用いて塗布する場合、粘度及び吐出後のインクの耐揮発性を両立しやすい観点から、光重合性化合物の分子量は50~500であるのが好ましく、100~400がより好ましい。
本発明のインク組成物をロールコーター、グラビアコーター、フレキソコーター、ダイコーター等の印刷方式を用いてフィルム等の基材に塗布する場合、粘度とレベリング性を両立しやすい観点から、光重合性化合物の分子量は100~500であるのが好ましく、150~400がより好ましい。
【0126】
本発明のインク組成物において、硬化可能成分である光重合性化合物として、重合性官能基を1分子中に2つ以上有する光重合性化合物を必須成分として用いると、得られる硬化物の耐久性(強度、耐熱性等)を向上できる観点から好ましい。
より具体的には、インク組成物を調製した際の粘度安定性、吐出性、塗布性に優れる観点、インク組成物の硬化性が良好となる観点、発光粉体を含有する塗膜等の硬化物の製造時における、硬化収縮に起因する塗膜表面の平滑性低下を抑制し得る観点、本発明のインク組成物からなる光変換層において、プラスチック、ガラス等の基材への密着性、耐溶剤性、耐磨耗性が向上する観点、また優れた光学特性(例えば外部量子効率)が得られる観点から、2種以上のラジカル重合性化合物を用いることが好ましく、単官能(メタ)アクリレートと多官能(メタ)アクリレートとを組み合わせて用いることが好ましく、単官能(メタ)アクリレート、2官能(メタ)アクリレート及び3官能以上の(メタ)アクリレートとを組み合わせて用いることがより好ましく、単官能アクリレート、2官能アクリレート及び3官能以上のアクリレートとを組み合わせて用いることが特に好ましい。
【0127】
本発明のインク組成物における光重合性化合物として、単官能(メタ)アクリレートの含有量は、インク組成物における発光性粒子の分散安定性及び光変換層を形成する際の硬化性の観点から、光重合性化合物の全量を基準として、20質量%以上50質量%以下であることが好ましく、25質量%以上45質量%以下がより好ましく、30質量%以上40質量%以下がさらに好ましく、2官能(メタ)アクリレートの含有量は、光重合性化合物の全量を基準として、20質量%以上70質量%以下であることが好ましく、30質量%以上65質量%以下がより好ましく、40質量%以上60質量%以下がさらに好ましく、3官能以上の(メタ)アクリレートの含有量は、光重合性化合物の全量を基準として、5質量%以上25質量%以下であることが好ましく、7質量%以上23質量%以下がより好ましく、10質量%以上20質量%以下がさらに好ましい。
【0128】
本発明のインク組成物が含有する光重合開始剤としては、例えば分子開裂型又は水素引き抜き型の光ラジカル重合開始剤が挙げられる。
分子開裂型の光ラジカル重合開始剤としては、例えばベンゾインイソブチルエーテル、2,4-ジエチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタン-1-オン、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、(2,4,6-トリメチルベンゾイル)エトキシフェニルホスフィンオキシド等が挙げられる。これら以外に、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルホリノプロパン-1-オン等を併用してもよい。
水素引き抜き型の光ラジカル重合開始剤としては、例えばベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノン、イソフタルフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチル-ジフェニルスルフィド等が挙げられる。
分子開裂型の光ラジカル重合開始剤と水素引き抜き型の光ラジカル重合開始剤とを併用してもよい。
【0129】
また、光重合開始剤として、フォトブリーチング性を有する光重合開始剤を含有することが好ましい。この場合、本発明のインク組成物の硬化物の光透過性が高まりやすい。フォトブリーチング性を有する光重合開始剤としては、例えばフォトブリーチング性を有するオキシムエステル系化合物又はアシルホスフィンオキシド系化合物の少なくとも一方を含有するのが好ましい。
フォトブリーチング性を有するオキシムエステル系化合物としては、例えば1-[4-(フェニルチオ)フェニル]-1,2-オクタンジオン2-(O-ベンゾイルオキシム)、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(O-アセチルオキシム)等が挙げられる。
フォトブリーチング性を有するアシルホスフィンオキシド系化合物としては、例えば2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキシド等が挙げられる。
硬化物の内部硬化性に優れ、かつ初期着色度が小さい硬化物を形成できる観点から、少なくとも1種以上のアシルホスフィンオキシド系化合物を含有することが好ましい。この場合、365nm、385nm、395nm又は405nm等の、特定波長を中心とする±15nm域の狭スペクトル出力を有する紫外発光ダイオード(UV-LED)を用いた硬化に適する観点からも好ましい。
【0130】
光重合開始剤の含有量は、光重合性化合物への溶解性、インク組成物の硬化性、及びインク組成物から形成される光変換層の経時安定性(内部量子効率の維持安定性)の観点から、インク組成物中の光重合性化合物に対して0.1~20質量%であることが好ましく、0.5~15質量%がより好ましく、1~15質量%がさらに好ましく、3~7質量%が特に好ましい。
【0131】
本発明のインク組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、重合禁止剤、酸化防止剤、分散剤、界面活性剤、光散乱粒子、連鎖移動剤、増感剤、溶剤等の他の成分をさらに含有していてもよい。
【0132】
重合禁止剤としては、例えばp-メトキシフェノール、クレゾール、tert-ブチルカテコール、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシトルエン等のキノン系化合物;p-フェニレンジアミン、4-アミノジフェニルアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン等のアミン系化合物;フェノチアジン、ジステアリルチオジプロピオネート等のチオエーテル系化合物;2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル等のN-オキシル化合物;N-ニトロソジフェニルアミン、N-ニトロソフェニルナフチルアミン、N-ニトロソジナフチルアミン等のニトロソ系化合物が挙げられる。
重合禁止剤を含有する場合、その量はインク組成物に含まれる光重合性化合物の総量に対して0.01~1質量%の範囲であることが好ましく、0.02~0.5質量%がより好ましい。
【0133】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤等が挙げられ、例えばペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)]プロピオネート、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)]プロピオネート、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、2,4,8,10-テトラキス(1,1-ジメチルエチル)-6-[(2-エチルヘキシル)オキシ]-12H-ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン、ビス[3-(ドデシルチオ)プロピオン酸]2,2-ビス[[3-(ドデシルチオ)-1-オキソプロピルオキシ]メチル]-1,3-プロパンジイル等が挙げられる。
インク組成物及びインク組成物から形成される光変換層の熱安定性の観点から、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤が好ましく、フェノール系酸化防止剤がより好ましい。また、インク組成物から形成される光変換層の長期間の熱安定性の観点から、フェノール系酸化防止剤とリン系酸化防止剤を併用することが好ましい。
酸化防止剤を含有する場合、その量は、インク組成物の硬化性を阻害しない観点から、インク組成物に含まれる光重合性化合物の総量に対して0.01~2質量%の範囲であることが好ましく、0.02~1質量%がより好ましい。
【0134】
分散剤としては、例えばトリオクチルホスフィン、トリオクチルホスフィンオキシド、ヘキシルホスホン酸等のリン原子含有化合物;オレイルアミン、オクチルアミン、トリオクチルアミン等の窒素原子含有化合物;1-デカンチオール、オクタンチオール、ドデカンチオール等の硫黄原子含有化合物;アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂等の高分子分散剤が挙げられる。これらは、例えばビックケミー社製の「DISPER(登録商標)BYK」シリーズ、エボニック社製の「TEGO(登録商標)Dispers」シリーズ、BASF社製の「EFKA(登録商標)」シリーズ、日本ルーブリゾール社製の「SOLSPERSE(登録商標)」シリーズ、味の素ファインテクノ社製の「アジスパー(登録商標)」シリーズ、楠本化成社製の「DISPARLON(登録商標)」シリーズ、共栄社化学社製の「フローレン(登録商標)」等の市販品として入手できる。
分散剤を含有する場合、その量はインク組成物に含まれる光重合性化合物の総量に対して、0.05~10質量%の範囲であることが好ましく、0.1~5質量%がより好ましい。
【0135】
界面活性剤としては、発光粉体を含有する薄膜を形成する場合に、膜厚ムラを低減させ得る化合物が好ましい。例えば、ジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類及び脂肪酸塩類等のアニオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、アセチレングリコール類及びポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類等のノニオン性界面活性剤;アルキルアミン塩類、及び第四級アンモニウム塩類等のカチオン性界面活性剤;並びにシリコーン系やフッ素系の界面活性剤が挙げられる。これらは、例えばDIC社製の「メガファック(登録商標)」シリーズ、ネオス社製の「フタージェント(登録商標)」シリーズ、BYK社製の「BYK(登録商標)」シリーズ、エボニック社製の「TEGO(登録商標)Rad」シリーズ、楠本化成社製の「DISPARLON(登録商標) OX」シリーズ、共栄社化学社製の「ポリフローNo.7」、「フローレンAC-300」、「フローレンAC-303」等の市販品として入手できる。
界面活性剤を含有する場合、その添加量はインク組成物に含まれる光重合性化合物の総量に対して0.005~2質量%の範囲であることが好ましく、0.01~0.5質量%がより好ましい。
【0136】
光散乱粒子は、光学的に不活性な無機微粒子であることが好ましい。光散乱粒子は、発光層(光変換層)に照射された光源部からの光を散乱させることができる。光散乱粒子を構成する材料としては、例えばタングステン、ジルコニウム、チタン、白金、ビスマス、ロジウム、パラジウム、銀、スズ、プラチナ、金等の単体金属;シリカ、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、タルク、酸化チタン、クレー、カオリン、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、アルミナホワイト、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化バリウム、酸化アルミニウム、酸化ビスマス、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛等の金属酸化物;炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、次炭酸ビスマス、炭酸カルシウム等の金属炭酸塩;水酸化アルミニウム等の金属水酸化物;ジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウム、チタン酸カルシウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム等の複合酸化物、次硝酸ビスマス等の金属塩が挙げられる。
中でも、漏れ光の低減効果により優れる観点から、酸化チタン、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸バリウム及びシリカからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、酸化チタン、硫酸バリウム及び炭酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも一種を含むことがより好ましく、酸化チタンであることが特に好ましい。
【0137】
光散乱粒子を含有する場合、その量は、例えば本発明のインク組成物をカラーフィルタ層の形成材料として用いる場合には、バックライトの青色光の透過を抑える観点で、インク組成物全体に対して1~10質量%の範囲であることが好ましく、2~7.5質量%の範囲がより好ましく、3~5質量%の範囲が特に好ましい。また、本発明のインク組成物を光変換シートの形成材料として用いる場合には、バックライトの青色光の取出しの観点で、インク組成物全体に対して0.1~5質量%の範囲であることが好ましく、0.15~3質量%の範囲がより好ましく、0.2~1.5質量%の範囲がさらに好ましい。
【0138】
連鎖移動剤としては、例えば1,4-テルピノレン、α-テルピネン、γ-テルピネン、ジペンテン等の不飽和炭化水素;ペンタフェニルエタン、α-メチルスチレンダイマー等の芳香族炭化水素;クロロホルム、四塩化炭素、四臭化炭素、ブロモトリクロロメタン等のハロゲン化炭化水素;ブタンチオール、ペンタンチオール、オクタンチオール、ドデカンチオール、テトラデカンチオール、ヘキサデカンチオール、ヘキサンジチオール、デカンジチオール、1,4-ブタンジオールビスチオプロピオネート、1,4-ブタンジオールビスチオグリコレート、エチレングリコールビスチオグリコレート、エチレングリコールビスチオプロピオネート、トリメチロールプロパントリスチオグリコレート、トリメチロールプロパントリスチオプロピオネート、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトブチレート)、ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)、トリメルカプトプロピオン酸トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、1,4-ジメチルメルカプトベンゼン、2,4,6-トリメルカプト-s-トリアジン、2-(N,N-ジブチルアミノ)-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン等のチオール化合物;ジメチルキサントゲンジスルフィド、ジエチルキサントゲンジスルフィド、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィドのようなスルフィド化合物;N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジビニルアニリン、アクロレイン、アリルアルコール等が挙げられる。中でも、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトブチレート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)が好ましい。
連鎖移動剤を含有する場合、その量はインク組成物に含まれる光重合性化合物の総量に対して、0.1~30質量%の範囲であることが好ましく、1~25質量%がより好ましく、5~20質量%がさらに好ましい。
【0139】
溶剤としては、例えばシクロヘキサン、ヘキサン、ヘプタン、クロロホルム、トルエン、オクタン、クロロベンゼン、テトラリン、ジフェニルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ブチルカルビトールアセテート、又はこれらの混合物などが挙げられる。画素部の形成時、すなわちインク組成物を硬化させる前にインク組成物から溶剤の除去が容易である観点から、溶剤の沸点は300℃以下であるのが好ましく、200℃以下がより好ましく、150℃以下がさらに好ましい。
インク組成物が溶剤を含む場合、その量はインク組成物全体に対して5質量%以下であるのが好ましい。溶剤の除去の操作を不要とする観点からは、インク組成物は溶剤を含有しないのがより好ましい。
【0140】
本発明のインク組成物の調製方法には特に制限はなく、上記した各成分を配合することにより調製できる。例えば、分散液の状態にある発光粉体より発光粉体を単離し、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、3本ロールミル、ペイントコンディショナー、アトライター、超音波等を使用して光重合性化合物中に分散させる。次いで、光重合開始剤及び必要に応じてさらに他の成分を添加して攪拌混合することで調製できる。
光散乱粒子を含有させる場合は、光散乱粒子と高分子分散剤を混合してビーズミルにより前記光重合性化合物へ分散させたミルベースを別途作成し、前記発光粉体と共に光重合性化合物、光重合開始剤とを混合することにより調製できる。
【0141】
3.光変換層
本発明のインク組成物を基板上に塗布して被膜を形成し、この被膜を硬化させて硬化物を得ることができる。かかる本発明のインク組成物の硬化物からなる光変換層は、カラーフィルタ及び波長変換フィルム用途に好適である。
本発明のインク組成物を基板上に塗布する際の方法としては、スピンコーティング、ダイコーティング、エクストルージョンコーティング、ロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、グラビアコーティング、スプレーコーティング、ディッピング、インクジェット法、プリント法等が挙げられる。塗布の際、必要に応じ、インク組成物に炭化水素、ハロゲン化炭化水素、エーテル、アルコール、ケトン、エステル、非プロトン性極性化合物等を溶媒として添加してもよい。溶媒を添加した場合は、インク組成物を基板上に塗布後、自然乾燥、加熱下又は減圧下での乾燥を行う。
【0142】
本発明のインク組成物を基板上に塗布する際の基板の形状は、平板の他に、曲面を構成部分として有していても良い。基板を構成する材料は、有機材料又は無機材料のいずれも使用できる。有機材料としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリアリレート、ポリスルホン、トリアセチルセルロース、セルロース、ポリエーテルエーテルケトン等が挙げられ、無機材料としては、例えばシリコン、ガラス、方解石等が挙げられる。
【0143】
本発明のインク組成物の硬化は、紫外線又は電子線等の活性エネルギー線を照射することで行うのが好ましい。詳細は光変換層の作成の説明にて後述する。
【0144】
本発明のインク組成物を形成材料とする波長変換フィルムは、初期の特性変化を軽減し、安定的な特性発現を図るため、熱処理を施してもよい。かかる熱処理は50~250℃の温度範囲で、30秒~12時間の処理時間であることが好ましい。
【0145】
このような方法によって得られた波長変換フィルムは、基板から剥離して単体で用いても良く、剥離せずに用いてもよい。また、得られた波長変換フィルムを積層しても、他の基板に貼り合わせて用いてもよい。
本発明のインク組成物を形成材料とする波長変換フィルムを積層構造体に用いる場合、かかる積層構造体は、例えば基板、バリア層、光散乱層等の任意の層を有していても良い。基板を構成する材料は、前記したとおりである。バリア層としては、ポリエチレンテレフタレート、ガラス等が挙げられる。光散乱層としては、例えば前記光散乱粒子を含有する層や、光散乱フィルムが挙げられる。
積層構造体の構成例としては、例えば、2枚の基板間に本発明のインク組成物を形成材料とする光変換層を挟持した構造が挙げられる。その場合、水分や酸素から光変換層を保護するために、基板間の外周部を封止材によって封止しても良い。
図1は、本実施形態の積層構造体の構成を模式的に示す断面図である。積層構造体40は、第1の基板41及び第2の基板42の間に、本実施形態の波長変換フィルム44が挟持されている。波長変換フィルム44は、光散乱粒子441と発光粉体442とを含有する本発明のインク組成物を材料として形成され、光散乱粒子441及び発光粉体442は、波長変換フィルム中に均一に分散している。波長変換フィルム44は、封止材によって形成された封止層43によって封止されている。
【0146】
本発明のインク組成物を形成材料とする積層構造体は、例えば、プリズムシート、導光板、本発明の発光粉体を含む積層構造体及び光源を有する発光デバイス用途に好適である。光源としては、例えば、発光ダイオード、レーザー、電界発光デバイスが挙げられる。
また、本発明のインク組成物を形成材料とする積層構造体は、ディスプレイ用の波長変換部材として使用されることが好ましい。波長変換部材として使用する場合の構成例としては、例えば、2枚のバリア層の間に本発明のインク組成物を形成材料とする波長変換フィルムを封止した積層構造体を、導光板上に設置する構造が挙げられる。この場合、導光板の側面に設置された発光ダイオードからの青色光を、前記積層構造体を通すことによって、緑色光や赤色光へと変換し、青色光、緑色光及び赤色光が混色されて白色光を得ることができることから、ディスプレイ用のバックライトとして使用できる。
【0147】
4.発光素子
以下、青色有機LEDバックライトを備えた発光素子のカラーフィルタ画素部を、本発明のインク組成物にて形成する場合を例に挙げて説明する。
図2は、本発明のインク組成物の硬化物からなる光変換層を備える発光素子の一実施形態を示す断面図であり、図3及び図4は、それぞれアクティブマトリックス回路の構成を示す概略図である。なお、図2では、便宜上、各部の寸法及びそれらの比率を誇張して示し、実際とは異なる場合がある。また、以下に示す材料、寸法等は一例であって、本発明は、それらに限定されず、その要旨を変更しない範囲で適宜変更することが可能である。以下では、説明の都合上、図2の上側を「上側」又は「上方」と、下側を「下側」又は「下方」と言う。また、図2では、図面が煩雑になることを避けるため、断面を示すハッチングの記載を省略している。
【0148】
図2に示すように、発光素子100は、下基板1と、EL光源部200と、充填層10と、保護層11と、本発明の発光粉体を含有し発光層として作用する光変換層12と、上基板13とをこの順に積層した構造を備える。ここで、発光粉体を構成する第1の発光性粒子及び第2の発光性粒子が、第1の半導体ナノ結晶又は第2の半導体ナノ結晶にそれぞれ備えるシロキサン結合を有する構造を含む表面層は、シロキサン結合を有する層を1層有してもよく、複数層有するものであってもよい。
【0149】
EL光源部200は、陽極2と、複数の層からなるEL層14と、陰極8と、図示しない偏光板と、封止層9とを順に備える。EL層14は、陽極2側から順次積層された正孔注入層3と、正孔輸送層4と、発光層5と、電子輸送層6と、電子注入層7とを含む。
かかる発光素子100は、EL光源部200(EL層14)から発せられた光を光変換層12によって吸収及び再放出するか或いは透過させ、上基板13側から外部に取り出すフォトルミネセンス素子である。このとき、光変換層12に含まれる発光粉体によって所定の色の光に変換される。
以下、各層について順次説明する。
【0150】
[下基板1及び上基板13]
下基板1及び上基板13は、それぞれ発光素子100を構成する各層を支持及び/又は保護する機能を有する。発光素子100がトップエミッション型である場合、上基板3が透明基板で構成される。一方、発光素子100がボトムエミッション型である場合、下基板2が透明基板で構成される。ここで、透明基板とは、可視光領域の波長の光を透過可能な基板を意味し、透明には、無色透明、着色透明、半透明が含まれる。
【0151】
透明基板としては、例えば、石英ガラス、合成石英板等のガラス基板;石英基板;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリカーボネート等で構成される樹脂基板;鉄、ステンレス、アルミニウム、銅等で構成される金属基板;シリコン基板、ガリウム砒素基板等を使用できる。中でも、アルカリ成分を含まない無アルカリガラスからなるガラス基板が、熱膨脹率が小さく寸法安定性及び高温加熱処理における作業性に優れる観点から好ましい。このようなガラス基板として、例えばコーニング社製の「7059ガラス」、「1737ガラス」、「イーグル2000」及び「イーグルXG(登録商標)」、旭硝子社製の「AN100」、日本電気硝子社製の「OA-10G」及び「OA-11」を好適に使用できる。
下基板1及び上基板13の平均厚さに特に限定はなく、通常、100~1000μmの範囲が好ましく、300~800μmの範囲がより好ましい。
発光素子100に可撓性を付与する場合、下基板1及び上基板13には、それぞれ樹脂基板又は比較的厚さの小さい金属基板を選択できる。なお、発光素子100の使用形態に応じ、下基板1及び上基板13のいずれか一方又は双方を省略してもよい。
【0152】
図3に示すように、下基板1上には、R、G、Bで示される画素電極PEを構成する陽極2への電流の供給を制御する信号線駆動回路C1及び走査線駆動回路C2と、これらの回路の作動を制御する制御回路C3と、信号線駆動回路C1に接続された複数の信号線706と、走査線駆動回路C2に接続された複数の走査線707とを備えている。
また、各信号線706と各走査線707との交差部近傍には、図4に示すように、コンデンサ701と、駆動トランジスタ702と、スイッチングトランジスタ708とが設けられている。
【0153】
コンデンサ701は、一方の電極が駆動トランジスタ702のゲート電極に接続され、他方の電極が駆動トランジスタ702のソース電極に接続されている。駆動トランジスタ702は、ゲート電極がコンデンサ701の一方の電極に接続され、ソース電極がコンデンサ701の他方の電極及び駆動電流を供給する電源線703に接続され、ドレイン電極がEL光源部200の陽極2に接続されている。
【0154】
スイッチングトランジスタ708は、ゲート電極が走査線707に接続され、ソース電極が信号線706に接続され、ドレイン電極が駆動トランジスタ702のゲート電極に接続されている。また、本実施形態において、共通電極705は、EL光源部200の陰極8を構成している。なお、駆動トランジスタ702及びスイッチングトランジスタ708は、例えば、薄膜トランジスタ等で構成することができる。
【0155】
走査線駆動回路C2は、走査線707を介して、スイッチングトランジスタ708のゲート電極に走査信号に応じた走査電圧を供給又は遮断し、スイッチングトランジスタ708のオン又はオフする。これにより、走査線駆動回路C2は、信号線駆動回路C1が信号電圧を書き込むタイミングを調整する。一方、信号線駆動回路C1は、信号線706及びスイッチングトランジスタ708を介して、駆動トランジスタ702のゲート電極に映像信号に応じた信号電圧を供給又は遮断し、EL光源部200に供給する信号電流の量を調整する。
【0156】
したがって、走査線駆動回路C2から走査電圧がスイッチングトランジスタ708のゲート電極に供給され、スイッチングトランジスタ708がオンすると、信号線駆動回路C1から信号電圧がスイッチングトランジスタ708のゲート電極に供給される。このとき、この信号電圧に対応したドレイン電流が電源線703から信号電流としてEL光源部200に供給される。その結果、EL光源部200は、供給される信号電流に応じて発光する。
【0157】
<EL光源部200>
[陽極2]
陽極2は、外部電源から発光層5に向かって正孔を供給する機能を有する。陽極2の構成材料(陽極材料)としては、例えば、金、アルミニウム等の金属;ヨウ化銅等のハロゲン化金属;インジウムスズ酸化物(ITO)、酸化スズ(SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)等の金属酸化物;等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
陽極2の平均厚さに特に限定はなく、通常、10~1000nmの範囲が好ましく、10~200nmの範囲がより好ましい。
陽極2は、例えば、真空蒸着法やスパッタリング法のような乾式成膜法により形成できる。この際、フォトリソグラフィー法やマスクを用いた方法により、所定のパターンを有する陽極2を形成してもよい。
【0158】
[陰極8]
陰極8は、外部電源から発光層5に向かって電子を供給する機能を有する。陰極8の構成材料(陰極材料)としては、例えば、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、銀、ナトリウム-カリウム合金、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム混合物、希土類金属、ITO、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、SnO、ZnO等の金属又は金属酸化物等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
陰極8の平均厚さに特に限定はなく、通常、0.1~1000nmの範囲が好ましく、1~200nmの範囲がより好ましい。
陰極8は、例えば、蒸着法やスパッタリング法のような乾式成膜法により形成できる。
発光素子100がトップエミッション型である場合、陰極8はITO等で形成される透明電極で構成される。この場合、陽極2はアルミニウム等で形成される反射電極で構成してもよい。
一方、発光素子100がボトムエミッション型である場合、陽極2はITO等で形成される透明電極で構成される。この場合、陰極8はアルミニウム等で形成される反射電極で構成してもよい。
【0159】
[正孔注入層3]
正孔注入層3は、陽極2から供給された正孔を受け取り、正孔輸送層4に注入する機能を有する。なお、正孔注入層3は必要に応じて設け、省略してもよい。
正孔注入層3の構成材料(正孔注入材料)としては、例えば、銅フタロシアニン等のフタロシアニン化合物;4,4’,4’’-トリス[フェニル(m-トリル)アミノ]トリフェニルアミン等のトリフェニルアミン誘導体;1,4,5,8,9,12-ヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニトリル、2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノ-キノジメタン等のシアノ化合物;酸化バナジウム、酸化モリブデン等の金属酸化物;アモルファスカーボン;ポリアニリン(エメラルディン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT-PSS)、ポリピロール等の高分子等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、PEDOT-PSSがより好ましい。
【0160】
正孔注入層3の平均厚さに特に限定はなく、通常、0.1~500nmの範囲が好ましく、1~300nmの範囲がより好ましく、2~200nmの範囲がさらに好ましい。また、正孔注入層3は、単層でも、2層以上が積層された積層構成であってもよい。
正孔注入層3は、湿式成膜法又は乾式成膜法により形成できる。
湿式成膜法では、通常、正孔注入材料を含有する液状組成物を、インクジェット印刷法(ピエゾ方式又はサーマル形式の液滴吐出法)、スピンコート法、キャスト法、LB法、凸版印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、ノズルプリント印刷法等により塗布し、得られた塗膜を乾燥する。なお、ノズルプリント印刷法とは、液状組成物をノズル孔から液柱としてストライプ状に塗布する方法である。
乾式成膜法としては、真空蒸着法、スパッタリング法等を好適に使用できる。
【0161】
[正孔輸送層4]
正孔輸送層4は、正孔注入層3から正孔を受け取り、発光層5まで効率的に輸送する機能を有する。また、正孔輸送層4は、電子の輸送を防止する機能を有していてもよい。なお、正孔輸送層4は必要に応じて設ければよく、省略することもできる。
【0162】
正孔輸送層4の構成材料(正孔輸送材料)としては、電子輸送能より正孔輸送能の高い材料を用いることが好ましい。係る正孔輸送材料としては、例えば芳香族アミン、カルバゾール誘導体、芳香族炭化水素、スチルベン誘導体等が挙げられ、π電子過剰型複素芳香族又は芳香族アミン等を好適に使用できる。
正孔輸送材料の具体例としては、、TPD(N,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(3-メチルフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン)、α-NPD(4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル)、m-MTDATA(4,4’,4’’-トリス(3-メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン)等のトリフェニルアミン誘導体;ポリビニルカルバゾール;ポリ[N,N’-ビス(4-ブチルフェニル)-N,N’-ビス(フェニル)-ベンジジン](poly-TPA)、ポリフルオレン(PF)、ポリ[N,N’-ビス(4-ブチルフェニル)-N,N’-ビス(フェニル)-ベンジジン](Poly-TPD)、ポリ[(9,9-ジオクチルフルオレニル-2,7-ジイル)-co-[4,4’-(N-(sec-ブチルフェニル)ジフェニルアミン)]](TFB)、ポリフェニレンビニレン(PPV)等の共役系化合物重合体;及びこれらのモノマー単位を含む共重合体等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
正孔輸送材料としては、トリフェニルアミン誘導体、置換基が導入されたトリフェニルアミン誘導体の重合体又は共重合体が好ましく、置換基が導入されたトリフェニルアミン誘導体の重合体がより好ましい。
【0163】
正孔輸送層4の平均厚さに特に限定はなく、通常、1~500nmの範囲が好ましく、5~300nmの範囲がより好ましく、10~200nmの範囲がさらに好ましい。
正孔輸送層4は、単層でも、2層以上が積層された積層構成であってもよい。
このような正孔輸送層4は、湿式成膜法又は乾式成膜法により形成できる。湿式製膜法及び乾式製膜法については正孔注入層3の説明にて上述したとおりである。
【0164】
[電子注入層7]
電子注入層7は、陰極8から供給された電子を受け取り、電子輸送層6に注入する機能を有する。なお、電子注入層7は必要に応じて設け、省略してもよい。
電子注入層7の構成材料(電子注入材料)としては、例えば、LiO、LiO、NaS、NaSe、NaO等のアルカリ金属カルコゲナイド;CaO、BaO、SrO、BeO、BaS、MgO、CaSe等のアルカリ土類金属カルコゲナイド;CsF、LiF、NaF、KF、LiCl、KCl、NaCl等のアルカリ金属ハライド;8-ヒドロキシキノリノラトリチウム(Liq)等のアルカリ金属塩;CaF、BaF、SrF、MgF、BeF等のアルカリ土類金属ハライド等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、アルカリ金属カルコゲナイド、アルカリ土類金属ハライド、アルカリ金属塩が好ましい。
【0165】
電子注入層7の平均厚さに特に限定はなく、通常、0.1~100nmの範囲が好ましく、0.2~50nmの範囲がより好ましく、0.5~10nmの範囲がさらに好ましい。また、電子注入層7は、単層でも、2層以上が積層された積層構成であってもよい。
電子注入層7は、湿式成膜法又は乾式成膜法により形成できる。湿式製膜法及び乾式製膜法については正孔注入層3の説明にて上述したとおりである。
【0166】
[電子輸送層6]
電子輸送層6は、電子注入層7から電子を受け取り、発光層5まで効率的に輸送する機能を有する。また、電子輸送層6は、正孔の輸送を防止する機能を有していてもよい。なお、電子輸送層6は、必要に応じて設ければよく、省略することもできる。
電子輸送層6の構成材料(電子輸送材料)としては、正孔輸送能より電子輸送能の高い材料を用いることが好ましい。電子輸送材料としては、例えば、フラーレン、ジフェニルキノン誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体、キノキサリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、ピリジン誘導体、ビピリジン誘導体、イミダゾール誘導体、キノリン誘導体、ペリレン誘導体、トリアジン誘導体、又はピリミジン誘導体等の含窒素複素芳香族化合物のようなπ電子不足型複素芳香族;キノリン配位子、ペリレン配位子、ベンゾキノリン配位子、オキサゾール配位子、ベンズオキサゾリン配位子、ベンゾチアゾリン配位子、又はチアゾール配位子を有する金属錯体等が挙げられる。
【0167】
電子輸送材料の具体例としては、トリス(8-キノリラート)アルミニウム(Alq)、トリス(4-メチル-8-キノリノラート)アルミニウム(Almq3)、ビス(10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリナート)ベリリウム、ビス(2-メチル-8-キノリノラート)(p-フェニルフェノラート)アルミニウム、ビス(8-キノリノラート)亜鉛、ビス[2-(2’-ヒドロキシフェニル)ベンズオキサゾラート]亜鉛、ビス[2-(2’-ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾラート]亜鉛、2-(4-ビフェニリル)-5-(4-tert-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール(PBD)、3-(4-ビフェニリル)-4-フェニル-5-(4-tert-ブチルフェニル)-1,2,4-トリアゾール(TAZ)、1,3-ビス[5-(p-tert-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル]ベンゼン(OXD-7)、9-[4-(5-フェニル-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)フェニル]カルバゾール(CO11)、2,2’,2’’-(1,3,5-ベンゼントリイル)トリス(1-フェニル-1H-ベンゾイミダゾール)(TPBI)、2-[3-(ジベンゾチオフェン-4-イル)フェニル]-1-フェニル-1H-ベンゾイミダゾール(mDBTBIm-II)、4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(BPhen)等が挙げられる。これらの化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、電子輸送材料として、無機半導体材料を用いてもよい。電子輸送層6を無機半導体材料で構成することにより、電子輸送層6中における電子の移動度を高め、発光層5への電子の注入効率を向上できる。係る電子輸送材料としては、例えば、炭酸セシウム等の金属塩;酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛等の金属酸化物を好適に使用できる。
【0168】
電子輸送層6の平均厚さに特に限定はなく、通常、5~500nmの範囲が好ましく、5~200nmの範囲がより好ましい。また、電子輸送層6は、単層でも、2層以上が積層された積層構成であってもよい。
電子輸送層6は、湿式成膜法又は乾式成膜法により形成できる。湿式製膜法及び乾式製膜法については正孔注入層3の説明にて上述したとおりである。
【0169】
発光素子100に正孔注入層3及び電子注入層7を設けると、正孔輸送層4及び電子輸送層6を介した発光層5への正孔及び電子の輸送効率を高めることができる。その結果、発光層5の発光効率をより向上させ、高輝度での発光が可能で、かつ長寿命な発光素子が得られる。
【0170】
[発光層5]
発光層5は、発光層5に注入された正孔及び電子の再結合により生じるエネルギーを利用して、発光を生じさせる機能を有する。本実施形態の発光層5は、400~500nmの範囲の波長の青色光を発し、より好ましくは420~480nmの範囲である。
発光層5は、発光材料(ゲスト材料又はドーパント材料)及びホスト材料を含むことが好ましい。ホスト材料と発光材料との質量比に特に制限はなく、通常、10:1~300:1の範囲が好ましい。
発光材料としては、一重項励起エネルギーを光に変換可能な化合物又は三重項励起エネルギーを光に変換可能な化合物を使用でき、有機低分子蛍光材料、有機高分子蛍光材料及び有機燐光材料からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0171】
一重項励起エネルギーを光に変換可能な化合物としては、蛍光を発する有機低分子蛍光材料又は有機高分子蛍光材料が挙げられる。
有機低分子蛍光材料としては、アントラセン構造、テトラセン構造、クリセン構造、フェナントレン構造、ピレン構造、ペリレン構造、スチルベン構造、アクリドン構造、クマリン構造、フェノキサジン構造又はフェノチアジン構造を有する化合物が好ましい。
【0172】
有機低分子蛍光材料の具体例としては、例えば、5,6-ビス[4-(10-フェニル-9-アントリル)フェニル]-2,2’-ビピリジン、5,6-ビス[4’-(10-フェニル-9-アントリル)ビフェニル-4-イル]-2,2’-ビピリジン、N,N’-ビス[4-(9H-カルバゾール-9-イル)フェニル]-N,N’-ジフェニルスチルベン-4,4’-ジアミン、4-(9H-カルバゾール-9-イル)-4’-(10-フェニル-9-アントリル)トリフェニルアミン、4-(9H-カルバゾール-9-イル)-4’-(9,10-ジフェニル-2-アントリル)トリフェニルアミン、N,9-ジフェニル-N-[4-(10-フェニル-9-アントリル)フェニル]-9H-カルバゾール-3-アミン、4-(10-フェニル-9-アントリル)-4’-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)トリフェニルアミン、4-[4-(10-フェニル-9-アントリル)フェニル]-4’-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)トリフェニルアミン、ペリレン、2,5,8,11-テトラ(tert-ブチル)ペリレン、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス[4-(9-フェニル-9H-フルオレン-9-イル)フェニル]ピレン-1,6-ジアミン、N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-N,N’-ビス[3-(9-フェニル-9H-フルオレン-9-イル)フェニル]-ピレン-1,6-ジアミン、N,N’-ビス(ジベンゾフラン-2-イル)-N,N’-ジフェニルピレン-1,6-ジアミン、N,N’-ビス(ジベンゾチオフェン-2-イル)-N,N’-ジフェニルピレン-1,6-ジアミン、N,N’’-(2-tert-ブチルアントラセン-9,10-ジイルジ-4,1-フェニレン)ビス[N,N’,N’-トリフェニル-1,4-フェニレンジアミン]、N,9-ジフェニル-N-[4-(9,10-ジフェニル-2-アントリル)フェニル]-9H-カルバゾール-3-アミン、N-[4-(9,10-ジフェニル-2-アントリル)フェニル]-N,N’,N’-トリフェニル-1,4-フェニレンジアミン、N,N,N’,N’,N’’,N’’,N’’’,N’’’-オクタフェニルジベンゾ[g,p]クリセン-2,7,10,15-テトラアミン、クマリン30、N-(9,10-ジフェニル-2-アントリル)-N,9-ジフェニル-9H-カルバゾール-3-アミン、N-(9,10-ジフェニル-2-アントリル)-N,N’,N’-トリフェニル-1,4-フェニレンジアミン、N,N,9-トリフェニルアントラセン-9-アミン、クマリン6、クマリン545T、N,N’-ジフェニルキナクリドン、ルブレン、5,12-ビス(1,1’-ビフェニル-4-イル)-6,11-ジフェニルテトラセン、2-(2-{2-[4-(ジメチルアミノ)フェニル]エテニル}-6-メチル-4H-ピラン-4-イリデン)プロパンジニトリル、2-{2-メチル-6-[2-(2,3,6,7-テトラヒドロ-1H,5H-ベンゾ[ij]キノリジン-9-イル)エテニル]-4H-ピラン-4-イリデン}プロパンジニトリル、N,N,N’,N’-テトラキス(4-メチルフェニル)テトラセン-5,11-ジアミン、7,14-ジフェニル-N,N,N’,N’-テトラキス(4-メチルフェニル)アセナフト[1,2-a]フルオランテン-3,10-ジアミン、2-{2-イソプロピル-6-[2-(1,1,7,7-テトラメチル-2,3,6,7-テトラヒドロ-1H,5H-ベンゾ[ij]キノリジン-9-イル)エテニル]-4H-ピラン-4-イリデン}プロパンジニトリル、2-{2-tert-ブチル-6-[2-(1,1,7,7-テトラメチル-2,3,6,7-テトラヒドロ-1H,5H-ベンゾ[ij]キノリジン-9-イル)エテニル]-4H-ピラン-4-イリデン}プロパンジニトリル、2-(2,6-ビス{2-[4-(ジメチルアミノ)フェニル]エテニル}-4H-ピラン-4-イリデン)プロパンジニトリル、2-{2,6-ビス[2-(8-メトキシ-1,1,7,7-テトラメチル-2,3,6,7-テトラヒドロ-1H,5H-ベンゾ[ij]キノリジン-9-イル)エテニル]-4H-ピラン-4-イリデン}プロパンジニトリル、5,10,15,20-テトラフェニルビスベンゾ[5,6]インデノ[1,2,3-cd:1’,2’,3’-lm]ペリレン等が挙げられる。
【0173】
有機高分子蛍光材料としては、例えば、フルオレン誘導体に基づく単位からなるホモポリマー、フルオレン誘導体に基づく単位とテトラフェニルフェニレンジアミン誘導体に基づく単位とからなるコポリマー、ターフェニル誘導体に基づく単位からなるホモポリマー、ジフェニルベンゾフルオレン誘導体に基づく単位からなるホモポリマー等が挙げられる。
【0174】
三重項励起エネルギーを光に変換可能な化合物としては、燐光を発する有機燐光材料が好ましい。有機燐光材料としては、例えば、Ir、Rh、Pt、Ru、Os、Sc、Y、Gd、Pd、Ag、Au、Alからなる群から選択される少なくとも1種の金属原子を含む金属錯体が挙げられる。中でも、Ir、Rh、Pt、Ru、Os、Sc、Y、Gd及びPdからなる群から選択される少なくとも1種の金属原子を含む金属錯体が好ましく、Ir、Rh、Pt及びRuからなる群から選択される少なくとも1種の金属原子を含む金属錯体がより好ましく、Ir錯体又はPt錯体がさらに好ましい。
【0175】
発光層5はホスト材料を含んでもよい。ホスト材料は、発光層5に注入された正孔と電子との再結合の場を提供し、その分子上での正孔-電子対(励起子;エキシトン)の形成を促進する。この励起子の励起エネルギーは、ナノ結晶に移動(フェルスター共鳴エネルギー移動)し、発光する。係る現象を利用することにより、発光層5の発光効率を向上できる。
ホスト材料としては、発光材料のエネルギーギャップより大きいエネルギーギャップを有する化合物の少なくとも1種を用いるのが好ましい。また発光材料が燐光材料である場合、ホスト材料は、発光材料よりも三重項励起エネルギー(基底状態と三重項励起状態とのエネルギー差)の大きい化合物を選択することが好ましい。
【0176】
ホスト材料としては、例えば、Alq、Almq3、ビス(10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリナト)ベリリウム(II)、ビス(2-メチル-8-キノリノラト)(4-フェニルフェノラト)アルミニウム(III)、ビス(8-キノリノラト)亜鉛(II)、ビス[2-(2-ベンゾオキサゾリル)フェノラト]亜鉛(II)、ビス[2-(2-ベンゾチアゾリル)フェノラト]亜鉛(II)、2-(4-ビフェニリル)-5-(4-tert-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール、1,3-ビス[5-(p-tert-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル]ベンゼン、3-(4-ビフェニリル)-4-フェニル-5-(4-tert-ブチルフェニル)-1,2,4-トリアゾール、2,2’,2’’-(1,3,5-ベンゼントリイル)トリス(1-フェニル-1H-ベンゾイミダゾール)、バソフェナントロリン、バソキュプロイン、9-[4-(5-フェニル-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)フェニル]-9H-カルバゾール、9,10-ジフェニルアントラセン、N,N-ジフェニル-9-[4-(10-フェニル-9-アントリル)フェニル]-9H-カルバゾール-3-アミン、4-(10-フェニル-9-アントリル)トリフェニルアミン、N,9-ジフェニル-N-{4-[4-(10-フェニル-9-アントリル)フェニル]フェニル}-9H-カルバゾール-3-アミン、6,12-ジメトキシ-5,11-ジフェニルクリセン、9-[4-(10-フェニル-9-アントラセニル)フェニル]-9H-カルバゾール、3,6-ジフェニル-9-[4-(10-フェニル-9-アントリル)フェニル]-9H-カルバゾール、9-フェニル-3-[4-(10-フェニル-9-アントリル)フェニル]-9H-カルバゾール、7-[4-(10-フェニル-9-アントリル)フェニル]-7H-ジベンゾ[c,g]カルバゾール、6-[3-(9,10-ジフェニル-2-アントリル)フェニル]-ベンゾ[b]ナフト[1,2-d]フラン、9-フェニル-10-{4-(9-フェニル-9H-フルオレン-9-イル)ビフェニル-4’-イル}アントラセン、9,10-ビス(3,5-ジフェニルフェニル)アントラセン、9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセン、2-tert-ブチル-9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセン、9,9’-ビアントリル、9,9’-(スチルベン-3,3’-ジイル)ジフェナントレン、9,9’-(スチルベン-4,4’-ジイル)ジフェナントレン、1,3,5-トリ(1-ピレニル)ベンゼン、5,12-ジフェニルテトラセン又は5,12-ビス(ビフェニル-2-イル)テトラセン等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0177】
発光層5の平均厚さは、通常、1~100nmの範囲であることが好ましく、1~50nmの範囲がより好ましい。
発光層5は、湿式成膜法又は乾式成膜法により形成できる。湿式製膜法及び乾式製膜法については正孔注入層3の説明にて上述したとおりである。
【0178】
なお、EL光源部200は、さらに、例えば正孔注入層3、正孔輸送層4及び発光層5を区画するバンク(隔壁)を有していてもよい。バンクの高さは特に限定されず、通常、0.1~5μmの範囲が好ましく、0.2~4μmの範囲がより好ましく、0.2~3μmの範囲がさらに好ましい。
バンクの開口の幅は、10~200μmの範囲が好ましく、30~200μmの範囲がより好ましく、50~100μmの範囲がさらに好ましい。バンクの開口の長さは、10~400μmの範囲が好ましく、20~200μmの範囲がより好ましく、50~200μmの範囲がさらに好ましい。
また、バンクの傾斜角度は、10~100°の範囲が好ましく、10~90°の範囲がより好ましく、10~80°の範囲がさらに好ましい。
【0179】
発光素子100は、発光層5と電子輸送層6との間にさらに正孔ブロック層を有していてもよい。正孔ブロック層は、正孔輸送層4から輸送された正孔が発光層5を通過し、電子輸送層6へ移動することを規制する機能を有する。正孔ブロック層を設けると、発光層5中で電子と再結合できなかった正孔を電子輸送層6へ逃すことなく、発光層5中に留めることができる。発光層5中に留まる正孔は、再度電子との再結合の機会を得られるため無駄にならず、発光層5の発光効率をより向上できる。
正孔ブロック層の構成材料としては、上述した電子輸送材料を、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
正孔ブロック層の平均厚さに特に限定はなく、通常、1~500nmの範囲が好ましく、2~300nmの範囲がより好ましく、3~200nmの範囲がさらに好ましい。また、正孔ブロック層は、単層でも、2層以上が積層された積層構成であってもよい。
正孔ブロック層は、湿式成膜法又は乾式成膜法により形成できる。湿式製膜法及び乾式製膜法については正孔注入層3の説明にて上述したとおりである。
また、発光素子100は、光を適切に反射させるための反射層、光を適切に透過させるための透明光学調整層、光を適切に透過及び散乱させるための光散乱層をさらに有していてもよい。
発光素子100の実施の形態は、上述の構成に限定されず、他の任意の構成を追加で備えてもよく、同様の機能を発揮する任意の構成と置換されてもよい。
【0180】
<光変換層12>
光変換層12は、EL光源部200から発せられた光を変換して再発光するか、或いは、EL光源部200から発せられた光を透過する。
光変換層は、図2に示すように、画素部20として、前記範囲の波長の光を変換して赤色光を発する第1の画素部20aと、前記範囲の波長の光を変換して緑色光を発する第2の画素部20bと、前記範囲の波長の光を透過する第3の画素部20cとを有している。複数の第1の画素部20a、第2の画素部20b及び第3の画素部20cが、この順に繰り返すように格子状に配列されている。そして、隣り合う画素部の間、すなわち、第1の画素部20aと第2の画素部20bとの間、第2の画素部20bと第3の画素部20cとの間、第3の画素部20cと第1の画素部20aとの間に、光を遮蔽する遮光部30が設けられている。換言すれば、隣り合う画素部20同士は、遮光部30によって隔てられている。なお、第1の画素部20a及び第2の画素部20bは、それぞれの色に対応した色材を含んでもよい。
【0181】
第1の画素部20a及び第2の画素部20bは、それぞれ上述したインク組成物の硬化物を含む発光性の画素部である。硬化物は、発光粉体と硬化成分とを含有する。また、硬化物は、光を散乱させて外部へ確実に取り出すためにさらに光散乱粒子を含むことが好ましい。
第1の画素部20aは、第1硬化成分22aと、第1硬化成分22a中に分散された第1発光粉体90a及び第1光散乱粒子21aとを含む。同様に、第2の画素部20bは、第2硬化成分22bと、第2硬化成分22b中に分散された第2発光粉体90b及び第2光散乱粒子21bとを含む。なお、第1発光粉体90aは、実際には第1の発光性粒子と第2の発光性粒子とを含有するが、図2では各発光性粒子の記載を省略している。同様に、第2発光粉体90bは、実際には第1の発光性粒子と第2の発光性粒子とを含有するが、図2では各発光性粒子の記載を省略している。
硬化成分は、光重合性化合物の重合によって得られた成分であり、光重合性化合物の重合体と、インク組成物中の有機成分(分散剤、未反応の光重合性化合物等)が含まれていてもよい。
第1の画素部20a及び第2の画素部20bにおいて、第1硬化成分22aと第2硬化成分22bとは同一であっても異なっていてもよく、第1光散乱粒子21aと第2光散乱粒子21bとは同一であっても異なっていてもよい。
【0182】
第1発光粉体90aは、420~480nmの範囲の波長の光を吸収し605~665nmの範囲に発光スペクトルのピーク波長を有する光を発する、赤色発光性粉体である。すなわち、第1の画素部20aは、青色光を赤色光に変換するための赤色画素部と言える。
また、第2発光粉体90bは、420~480nmの範囲の波長の光を吸収し500~560nmの範囲に発光スペクトルのピーク波長を有する光を発する、緑色発光性粉体である。すなわち、第2の画素部20bは、青色光を緑色光に変換するための緑色画素部と言える。
【0183】
画素部20a、20bにおける発光粉体の含有量は、外部量子効率の向上効果により優れる観点及び優れた発光強度が得られる観点から、インク組成物の硬化物の全質量を基準として0.1質量%以上であることが好ましく、1質量%以上がより好ましく、2質量%以上がさらに好ましく、3質量%以上が特に好ましい。発光粉体の含有量は、画素部20a、20bの信頼性に優れる観点及び優れた発光強度が得られる観点から、インク組成物の全質量を基準として30質量%以下であることが好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましく、15質量%以下が特に好ましい。
【0184】
画素部20a、20bにおける光散乱粒子の含有量は、外部量子効率の向上効果により優れる観点から、インク組成物の硬化物の全質量を基準として、0.1質量%以上であることが好ましく、1質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましく、7質量%以上が特に好ましい。光散乱粒子の含有量は、外部量子効率の向上効果により優れる観点及び画素部20の信頼性に優れる観点から、インク組成物の硬化物の全質量を基準として、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましく、30質量%以下が特に好ましい。
【0185】
第3の画素部20cは、420~480nmの範囲の波長の光に対し30%以上の透過率を有する。そのため、第3の画素部20cは、420~480nmの範囲の波長の光を発する光源を用いる場合に、青色画素部として機能する。第3の画素部20cは、例えば、本発明の発光粉体を含まない以外は上述した実施形態のインク組成物と同様の組成である組成物(非発光性インク組成物)の硬化物を含む、非発光性の画素部である。硬化物は、発光粉体を含有せず、光散乱性粒子と硬化成分とを含有する。すなわち、第3の画素部20cは、第3硬化成分22cと、第3硬化成分22c中に分散された第3光散乱性粒子21cを含む。
第3硬化成分22cは、例えば、光重合性化合物の重合によって得られる成分であり、光重合性化合物の重合体を含む。第3硬化成分22cは、420~480nmの範囲の波長の光に対する透過率が30%以上となる限りにおいて、光重合性化合物の重合体と、インク組成物中の有機成分(分散剤、未反応の光重合性化合物等)が含まれていてもよい。
第3光散乱性粒子21cは、第1光散乱性粒子21a及び第2光散乱性粒子21bと同一であっても、異なっていてもよい。
画素部20cにおける光散乱粒子の含有量は、視野角における光強度差をより低減する観点から、非発光性インク組成物の硬化物の全質量を基準として、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましい。光散乱粒子の含有量は、光反射をより低減する観点から、非発光性インク組成物の硬化物の全質量を基準として、80質量%以下であることが好ましく、75質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらに好ましい。
なお、第3の画素部20cの透過率は、顕微分光装置により測定できる。
【0186】
画素部(第1の画素部20a、第2の画素部20b及び第3の画素部20c)の厚さは、1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましく、3μm以上であることがさらに好ましい。
画素部(第1の画素部20a、第2の画素部20b及び第3の画素部20c)の厚さは、30μm以下であることが好ましく、25μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることがさらに好ましい。
【0187】
遮光部30は、隣り合う画素部20を隔てて混色(クロストーク)を防ぐ目的及び光源からの光漏れを防ぐ目的で設けられる隔壁部、いわゆるブラックマトリックスである。
遮光部30を構成する材料は特に限定されず、クロム等の金属の他、バインダー樹脂とカーボン微粒子、金属酸化物、無機顔料、有機顔料等の遮光性粒子を含む樹脂組成物等が挙げられる。バインダー樹脂には、例えばポリイミド樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ゼラチン、カゼイン、セルロース等の1種又は2種以上を含む樹脂、感光性樹脂、O/Wエマルジョン樹脂(例えば、反応性シリコーンエマルジョン)等を使用できる。
遮光部30の厚さは、1μm以上15μm以下であることが好ましい。
【0188】
[光変換層12の形成方法]
以上の第1~3の画素部20a~20cを備える光変換層12は、例えば、湿式成膜法により形成した塗膜を乾燥、加熱して硬化させることより形成することができる。第1の画素部20a及び第2の画素部20bは、本発明のインク組成物を用いて形成することができ、第3の画素部20cは、本発明の発光粉体を含まない、上述した非発光性インク組成物を用いて形成することができる。
【0189】
本発明のインク組成物の塗膜を得るための塗布法としては、インクジェット印刷法(ピエゾ方式又はサーマル方式の液滴吐出法)、スピンコート法、キャスト法、LB法、凸版印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、ノズルプリント印刷法等が挙げられる。
塗布法としてインクジェット印刷法(特に、ピエゾ方式の液滴吐出法)が好ましい。これにより、インク組成物を吐出する際の熱負荷を小さくでき、発光粉体の熱による劣化を防ぐことができる。
【0190】
インクジェット印刷法において、インク組成物の吐出量は特に限定されず、通常、1~50pL/回であることが好ましく、1~30pL/回がより好ましく、1~20pL/回がさらに好ましい。
ノズル孔の開口径は、5~50μmの範囲であることが好ましく、10~30μmの範囲であることがより好ましい。かかる範囲であると、ノズル孔の目詰まりを防止しつつ、インク組成物の吐出精度を高められる。
【0191】
塗膜を形成する際の温度は特に限定されず、通常、10~50℃の範囲が好ましく、15~40℃の範囲がより好ましく、15~30℃の範囲がさらに好ましい。かかる温度で液滴を吐出すれば、本発明のインク組成物中に含まれる各種成分の結晶化を抑制できる。
また、塗膜を形成する際の相対湿度も特に限定されず、通常、0.01ppm~80%の範囲であることが好ましく、0.05ppm~60%の範囲がより好ましく、0.1ppm~15%の範囲がさらに好ましく、1ppm~1%の範囲が特に好ましく、5~100ppmの範囲が最も好ましい。相対湿度が上記下限値以上であると、塗膜を形成する際の条件の制御が容易となる。一方、相対湿度が上記上限値以下であると、得られる光変換層12に悪影響を及ぼし得る塗膜に吸着する水分量を低減できる。
【0192】
インク組成物に炭化水素、ハロゲン化炭化水素、エーテル、アルコール、ケトン、エステル、非プロトン性極性化合物等を溶媒として添加した場合は、インク組成物を基板上に塗布後、硬化させる前に、自然乾燥、加熱下又は減圧下での乾燥を行う。生産性の観点から、加熱下、又は加熱下かつ減圧下で乾燥を行うのが好ましい。加熱温度は、添加した溶媒の沸点及び蒸気圧も考慮し、通常、50~130℃が好ましく、60~120℃がより好ましい。減圧下の圧力は、通常、0.001~100Paの範囲が好ましい。また、乾燥時間は、通常、1~30分間が好ましい。乾燥により溶媒を塗膜から除去することで、得られる光変換層の外部量子効率をより向上できる。
【0193】
本発明のインク組成物の硬化は、活性エネルギー線(例えば、紫外線)の照射により行える。照射源(光源)としては、例えば、水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、LED等が挙げられ、塗膜への熱負荷の低減や低消費電力の観点から、LEDが好ましい。
【0194】
照射する光の波長は、200nm以上440nm以下が好ましい。また、光の強度は、塗膜表面と内部の硬化度にムラがなく十分に硬化でき、塗膜表面の平滑性を保ちやすい観点から、0.2~2kW/cmが好ましく、0.4~1kW/cmがより好ましい。光の照射量(露光量)は、10mJ/cm以上4000mJ/cm以下が好ましい。
塗膜の硬化は、大気雰囲気下、又は窒素、アルゴン、二酸化炭素等の不活性ガス雰囲気下で行うことができるが、塗膜表面の酸素阻害及び塗膜の酸化を抑制する観点から、不活性ガス下で行うことが好ましい。このような条件で塗膜を硬化させることにより、得られる光変換層の外部量子効率をより向上できる。
【0195】
上述したように、本発明のインク組成物は熱に対する安定性に優れるため、硬化物(成形体)である画素部20においても良好な発光を実現できる。また、本発明のインク組成物は分散性に優れるため発光粉体の分散性に優れ、かつ平坦な画素部20を得やすい。
【0196】
さらに、第1の画素部20a及び第2の画素部20bに含まれる発光粉体が、ペロブスカイト型結晶構造を有する半導体ナノ結晶を含む場合は、300~500nmの波長領域の吸収が大きい。そのため、第1の画素部20a及び第2の画素部20bにおいて、第1の画素部20a及び第2の画素部20bに入射した青色光が上基板13側へ透過する、すなわち、青色光が上基板13側へ漏れることを防止できる。したがって、本発明の発光粉体を含む、第1の画素部20a及び第2の画素部20bによれば、青色光が混色されることなく、色純度の高い赤色光及び緑色光を取り出すことができる。
【0197】
発光素子100は、トップエミッション型に代えて、ボトムエミッション型として構成することもできる。また、発光素子100はEL光源部200に代えて他の光源を使用することもできる。
【0198】
上述の発光素子は、カラーフィルタを備えたカラー表示デバイスへの適用に好適である。ここで、カラー表示デバイスとは、例えば、テレビ、モニター、スマートフォン、携帯電話等のカラー表示を行うデバイスであり、液晶層を用いないタイプと液晶層を用いるタイプのいずれをも包含する。
【0199】
以上、本発明の発光性粒子、前記発光性粒子を含むインク組成物及び前記インク組成物の硬化物からなる光変換層、並びに前記光変換層を備えた波長変換フィルム及びカラーフィルタについて説明したが、本発明は、上述した実施形態の構成に限定されない。
例えば、本発明の発光性粒子、発光性粒子を含むインク組成物、インク組成物の硬化物からなる光変換層、光変換層を備えた波長変換フィルム及びカラーフィルタは、それぞれ、上述した実施形態の構成において、他の任意の構成を追加して有していてもよく、同様の機能を発揮する任意の構成と置換されていてもよい。また、本発明の発光粉体の製造方法は、上述した実施形態の構成において、他の任意の目的の工程を有してもよいし、同様の効果を発揮する任意の工程と置換されていてもよい。
【実施例0200】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0201】
[製造例1]
(ポリマー1の製造例)
12-ヒドロキシステアリン酸15質量部、ε-カプロラクトン285質量部、及びモノブチルスズオキシド0.05質量部を反応器に仕込み、系内を窒素置換した後、120℃に加熱して4時間撹拌し、ポリエステル中間体を得た。
水の分離装置を備えた別の反応器にポリアリルアミン10%水溶液(「PAA(登録商標)-1LV」(商品名)、日東紡績(株)製、数平均分子量約3000)100質量部を仕込んで160℃に加熱し、ここに上記で得たポリエステル中間体200質量部を160℃まで昇温したものを加え、水を留去しながら160℃で2時間撹拌して反応させることで、25℃で淡黄色固体のグラフトコポリマー(以下、「ポリマー1」と称する。)を得た。
ポリマー1の重量平均分子量(Mw)を、下記条件でのゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定したところ、44,000であった。
<GPC測定条件>
装 置:「HLC-8220GPC」(東ソー社製)
カラム:「TSK-GEL super AWM-H」(東ソー社製)を2本連結
溶離液:リチウムブロミド(10mmol/L)のN,N-ジメチルホルムアミド溶液
流 速:0.6mL/分
検量線:標準ポリスチレンを使用
【0202】
[製造例2]
(ポリマー2の製造例)
ポリエチレンイミン(「Epomin(登録商標) SP-018」(商品名、日本触媒社製)6質量部、ε-カプロラクトン60質量部、δ-バレロラクトン40質量部、12-ヒドロキシステアリン酸15質量部、及びジラウリン酸ジブチルスズ0.05質量部を反応器に仕込み、系内を窒素置換した後、170℃に加熱して5時間反応を行い、25℃で褐色液体のグラフトコポリマー(以下、「ポリマー2」と称する。)を得た。
ポリマー2の重量平均分子量を製造例1と同様にGPC測定したところ、25000であった。
【0203】
[製造例3]
(ポリマー3の製造例)
ラウリルメタクリレート66.5質量部、ジメチルアミノエチルメタクリレート3.5質量部、ジメチル-2,2-アゾビス(2-メチルプロピオネート)0.5質量部、及びヘプタン20質量部を混合して混合液を得た。
温度計、攪拌機、還流冷却器及び窒素導入管を備えた四つ口フラスコにヘプタン190質量部を仕込んで85℃に昇温し、ここに上記で得た混合液を3.5時間かけて滴下し、滴下終了後、85℃で10時間反応させることにより、コポリマー(以下、「ポリマー3」と称する。)を含有する溶液(不揮発分量25.1質量%)を得た。
ポリマー3の重量平均分子量を製造例1と同様にGPC測定したところ、10000であった。
【0204】
[製造例4]
(光散乱粒子分散液の調製)
窒素ガスで満たした容器内で、酸化チタン(石原産業株式会社製「CR60-2」、平均粒子径210nm)10.0質量部と、高分子分散剤「Efka PX4701」(アミン価:40.0mgKOH/g、BASFジャパン株式会社製)1.0質量部と、フェノキシエチルアクリレート(ライトアクリレートPOA;共栄社化学株式会社製)14.0質量部とを混合した。さらに、得られた配合物にジルコニアビーズ(直径:1.25mm)を加え、前記容器を密栓しペイントコンディショナーを用いて2時間振とうさせて配合物の分散処理を行うことにより、光散乱粒子分散体を得た。分散処理後の光散乱粒子の平均粒子径は、粒子径分布測定装置(ナノトラックウェーブII)を用いて測定したところ、0.245μmであった。
【0205】
(発光性粒子a及びbの製造例)
[製造例5(発光性粒子aを含有する分散液aの調製)]
アルゴン雰囲気下、3口フラスコにホルムアミジン酢酸塩0.16g、オレイン酸5mLを加え、減圧(15±3kPa)下、120℃で30分間加熱撹拌した。アルゴン雰囲気のまま大気圧に戻した。150℃に昇温し、均一な溶液となるまで撹拌し、ホルムアミジニウム-オレイン酸溶液を得た。
一方、アルゴン雰囲気下、上記とは別の3口フラスコに臭化鉛(II)0.06g、オレイン酸0.6mL及び1-オクタデセン7.85mLを加え、減圧(15±3kPa)下、120℃で30分間加熱撹拌した。アルゴン雰囲気のまま大気圧に戻し、シラン配位子Tとして、0.45mLの3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES;東京化成工業株式会社製)を加えた。140℃に昇温し、均一な溶液となるまで撹拌した。
【0206】
得られた臭化鉛(II)を含む混合液に150℃で前記ホルムアミジニウム-オレイン酸溶液1.1mLを添加し、5秒間撹拌した後、氷浴で冷却した。次いで、30mLの酢酸メチルを添加した。得られた懸濁液を遠心分離(10000rpm、3分間)した後、上澄み液を除去して得られた固形物(発光性粒子a)にトルエン20mLを加え振倒攪拌し分散させた。
得られたコロイド溶液を25℃、10000rpmで3分間遠心分離し、上澄み液を回収することにより、発光性粒子aがコロイド状に分散した分散液aを得た。発光性粒子aについて、X線粉末解析法を行ったところ、発光性粒子aを構成する半導体ナノ結晶がペロブスカイト型結晶構造を有するFAPbBr(「FA」は、(NHCH、すなわちホルムアミジニウムを意味する。)であることが判明した。また、発光性粒子aについて、走査透過電子顕微鏡を用いたエネルギー分散型X線分析法(STEM-EDS)によって元素分布を評価し、発光性粒子aの表面層にSiが含まれていることを確認した。このSiは、APTESの加水分解によって生じたシロキサン結合に由来するものと考えられる。また、前記分散液aを25℃で減圧して溶媒を蒸発させ発光性粒子aの粉体を得て、29Si核の固体NMRを測定したところ、Si(T)を示すピークは見られたが、Si(Q)を示すピークは見られなかった。さらに、発光性粒子aについて、熱重量示差熱分析(TG-DTA;昇温速度10℃/分、窒素雰囲気下)測定により、100~470℃の範囲での重量減少率を算出したところ、46.7%であった。すなわち、分散液aにおいては、ペロブスカイト型結晶構造を有するFAPbBrをコアに有し、かつT単位のシラン化合物由来のシロキサン結合を含む表面層を備える発光性粒子aがコロイド状に分散している。
分散液aを粒子径分布測定装置(ナノトラックウェーブII)により分析したところ、その平均粒子径は17nmであった。
【0207】
[製造例6(発光性粒子bを含有する分散液bの調製)]
アルゴン雰囲気下、3口フラスコに0.12gの炭酸セシウムと、5mLの1-オクタデセンと、0.5mLのオレイン酸とを加え、減圧(15±3kPa)下、120℃で30分間加熱撹拌した。アルゴン雰囲気のまま大気圧に戻した。150℃に昇温し、均一な溶液となるまで撹拌し、セシウム-オレイン酸溶液を得た。
一方、アルゴン雰囲気下、上記とは別の3口フラスコに0.2gの臭化鉛(II)と15mLの1-オクタデセンと1.5mLのオレイン酸とを混合し、90℃で10分間減圧乾燥後、T単位のシラン配位子として、1.5mLのAPTESを添加した。さらに20分間減圧乾燥後、アルゴン雰囲気下のまま大気圧に戻し、140℃で加熱した。
得られた臭化鉛(II)を含む混合液に、150℃で1.5mLの前記セシウム-オレイン酸溶液を添加し、5秒間撹拌した後、氷浴で冷却した。次いで、30mLの酢酸メチルを添加した。得られた懸濁液を遠心分離(10000rpm、1分間)した後、上澄み液を除去して得られた固形物(発光性粒子b)にトルエン20mLを加え振倒攪拌し分散させた。
得られたコロイド溶液を25℃、10000rpmで3分間遠心分離し、上澄み液を回収することにより、発光性粒子bがコロイド状に分散した分散液bを得た。発光性粒子bについて、X線粉末回折法を行ったところ、発光性粒子bを構成する半導体ナノ結晶がペロブスカイト型結晶構造を有するCsPbBrであることが判明した。また、発光性粒子bについてSTEM-EDSによって元素分布を評価し、発光性粒子bの表面層にSiが含まれていることを確認した。また、前記分散液bを25℃で減圧して溶媒を蒸発させ発光性粒子aの粉体を得て、29Si核の固体NMRを測定したところ、Si(T)を示すピークは見られたが、Si(Q)を示すピークは見られなかった。さらに、発光性粒子bについて、熱重量示差熱分析(TG-DTA;昇温速度10℃/分、窒素雰囲気下)測定により、100~470℃の範囲での重量減少率を算出したところ、42.0%であった。このSiは、APTESの加水分解によって生じたシロキサン結合に由来するものと考えられる。すなわち、分散液bにおいては、ペロブスカイト型結晶構造を有するCsPbBr3をコアに有し、かつT単位のシラン化合物由来のシロキサン結合を含む表面層を備える発光性粒子bがコロイド状に分散している。
発光性粒子bを粒子径分布測定装置(ナノトラックウェーブII)により分析したところ、その平均粒子径は15nmであった。
【0208】
(本発明の発光性粒子の製造例)
(実施例1)
[発光性粒子1を含有する分散液1の調製]
製造例1の方法で得たポリマー1の0.8gを、トルエン5mLに60℃で攪拌しながら溶解させ、次いで製造例4の方法で得た分散液aを5mL添加し、60℃で15分間撹拌した。
室温に戻したのち、T単位のハロゲン化アルコキシシラン化合物である3-ブロモプロピルトリメトキシシラン(BrPTMS;東京化成工業株式会社製)の0.25mLを添加し、室温で12時間攪拌した。
その後、さらに下記式(B1-1)で表されるQ単位のシラン化合物(メチルシリケート-51、コルコート株式会社製、式(B1-1)中のmの平均値は4;以下「MS-51」と記す。)0.5mL、及び臭化ホルムアミジン(FABr)の10質量%水溶液0.025mLを添加し、室温で2時間撹拌した。
【0209】
【化8】
【0210】
得られた混合液を、9000rpm、5分間の条件で遠心分離した後、上澄み液を回収することにより、発光性粒子aの表面にさらにシロキサン結合を含む表面層を備える発光性粒子1が含まれる分散液1を得た。
発光性粒子1について、走査透過電子顕微鏡を用いたエネルギー分散型X線分析法(STEM-EDS)によって元素分布を評価し、発光性粒子1の表面層にSiが含まれていることを確認した。当該表面層の厚さを測定したところ、約4nmであった。
前記分散液1を25℃で減圧して溶媒を蒸発させ発光性粒子1の粉体を得て、29Si核の固体NMRを測定したところ、Si(T)/Si(Q)は0.43であった。また、発光性粒子1について、熱重量示差熱分析(TG-DTA;昇温速度10℃/分、窒素雰囲気下)測定により、100~470℃の範囲での重量減少率を算出したところ、65.4%であった。熱分解ガスクロマトグラフ質量分析計(TD/Py-GC/MS)測定により、ポリマー1が成分として同定された。発光性粒子1を粒子径分布測定装置(ナノトラックウェーブII)により分析したところ、その平均粒子径は33nmであった。
【0211】
(実施例2)
実施例1において、3-ブロモプロピルトリメトキシシランを0.10mLに変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行うことにより、発光性粒子2を含む分散液2を得た。発光性粒子2を粒子径分布測定装置(ナノトラックウェーブII)により分析したところ、その平均粒子径は31nmであった。
【0212】
(実施例3)
実施例1において、3-ブロモプロピルトリメトキシシランを0.50mLに変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行うことにより、発光性粒子3を含む分散液3を得た。発光性粒子3を粒子径分布測定装置(ナノトラックウェーブII)により分析したところ、その平均粒子径は36nmであった。
【0213】
(実施例4)
実施例1において、3-ブロモプロピルトリメトキシシランを1.0mLに変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行うことにより、発光性粒子4を含む分散液4を得た。発光性粒子3を粒子径分布測定装置(ナノトラックウェーブII)により分析したところ、その平均粒子径は40nmであった。
【0214】
(実施例5)
実施例1において、ポリマー1に代えてポリマー2を添加したこと以外は、実施例1と同様の操作を行うことにより、発光性粒子5を含む分散液5を得た。発光性粒子5を粒子径分布測定装置(ナノトラックウェーブII)により分析したところ、その平均粒子径は35nmであった。
【0215】
(実施例6)
実施例1において、臭化ホルムアミジンの10質量%水溶液0.025mLを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の操作を行うことにより、発光性粒子6を含む分散液6を得た。発光性粒子6を粒子径分布測定装置(ナノトラックウェーブII)により分析したところ、その平均粒子径は33nmであった。
【0216】
(実施例7)
実施例1において、分散液aを製造例5の方法で得た分散液bに変更し、臭化ホルムアミジンの10質量%水溶液を臭化セシウムの10質量%水溶液に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行うことにより、発光性粒子7を含む分散液7を得た。発光性粒子7を粒子径分布測定装置(ナノトラックウェーブII)により分析したところ、その平均粒子径は32nmであった。
【0217】
(比較例1)
製造例5の方法で得た分散液aの5mLにトルエン5mLを添加し、室温にて15分間撹拌、混合した。得られた混合液を、9000rpm、5分間の条件で遠心分離した後、上澄み液を回収することにより、発光性粒子aが含まれる分散液C1を得た。
【0218】
(比較例2)
比較例2において、分散液aに代えて製造例6で得た分散液bを用いたこと以外は、比較例1と同様の操作をおこなうことにより、発光性粒子bを含む分散液C2を得た。
【0219】
(比較例3)
実施例1において、ポリマー1に代えてポリマー3を添加したこと以外は、実施例1と同様の操作を行うことにより、発光性粒子cを含む分散液C3を得た。
【0220】
(比較例4)
実施例1において、ポリマー1、3-ブロモトリメトキシシラン及び臭化ホルムアミジンの10質量%水溶液を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の操作を行うことにより、発光性粒子dを含む分散液C4を得た。
【0221】
(比較例5)
実施例1において、3-ブロモトリメトキシシラン及び臭化ホルムアミジンの10質量%水溶液を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の操作を行うことにより、発光性粒子eを含む分散液C5を得た。
【0222】
(比較例6)
実施例1において、3-ブロモトリメトキシシラン及び臭化ホルムアミジンの10質量%水溶液を添加せず、ブロモトリメチルシラン(BrTMS;東京化成工業株式会社製)0.25mLを添加したこと以外は、実施例1と同様の操作を行うことにより、発光性粒子fを含む分散液C6を得た。
【0223】
得られた各分散液1~7及びC1~C6について、絶対PL量子収率測定装置(浜松ホトニクス株式会社製、「Quantaurus-QY」)を用いて、調製直後の分散液の、それぞれの絶対量子収率(PLQY)、発光スペクトルのピーク波長(λmax)及び発光スペクトルの半値幅(FWHM)を測定した。
結果を表1に示す。
【0224】
【表1】
【0225】
(インク組成物の製造及び評価)
(実施例8)
[インク組成物の調製例]
撹拌子を備えたガラス製バイアルにヘキサン4mL及び実施例1で得た分散液1を2mL加えて撹拌し、得られた懸濁液を4000rpmで1分間遠心分離した。上澄み液を除去することにより、発光性粒子1を含有する固形物X1を得た。
波長500nm以下の光をカットしたクリーンルーム内で、撹拌子を備えたガラス製バイアルに、フェノキシエチルアクリレート(PhEA;共栄社化学社製「ライトアクリレートPOA」)6質量部、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート(DCPA;共栄社化学社製「ライトアクリレートDCP-A」)10質量部、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA;MIWON Specialty Chemical社製「MIRAMER M-300」)3.1質量部及びジフェニル(2,4,6-トリメトキシベンゾイル)ホスフィンオキシド(TPO;IGM Resin社製「Omnirad TPO」)0.2質量部を加え、室温で撹拌し溶解させた。続いて、上述の固形物X1を0.2質量部加えて室温で撹拌して溶解させ、さらに、製造例4で得た光散乱粒子分散液を0.5質量部加えて攪拌して均一化した。その後、メンブレンフィルター(孔径0.50μm)により濾過することで、発光性粒子1を含有したインク組成物1を調製した。
【0226】
(実施例9~14、比較例7~12)
実施例8において、実施例1で得た分散液1の代わりに、実施例2~7及び比較例1~6で得た分散液C1~C6をそれぞれ用いた以外は、実施例8と同様の操作により、インク組成物2~7、インク組成物C1~C6を調製した。
【0227】
(インク組成物の保存安定性)
得られたインク組成物1~7及びC1~C6について、ガラス製バイアルに入れて、遮光下、室温で30日間保管し、以下の基準で目視にて分散安定性を評価した。結果を表2に示す。
<インク組成物の保存安定性の評価基準>
A:透明な状態、沈殿物は確認されず
B:透明な状態、わずかに沈殿物が確認された
C:不透明な状態、沈殿物が多く確認された
【0228】
表2に示すように、実施例8~14のインク組成物は、比較例7~12と比較して分散安定性に優れる。
【0229】
(光変換層の製造及び評価)
(光変換層の製造)
実施例8~14、比較例7~12で得た各インク組成物を、ガラス基板EagleXG(コーニング社製)に滴下し、もう一枚のガラス基板EagleXGを重ね置き、各インク組成物の硬化前の塗膜を作製したのち、以下の発光特性評価を行った。その後、窒素雰囲気下、主波長が395nmのUV光を、積算光量が10J/cmになるように照射することによって、各インク組成物の硬化物からなる、発光性粒子を含有する厚み100μmの光変換層を製造した。
【0230】
(発光特性評価)
硬化前の各塗膜(インク組成物)及び各光変換層について、内部量子効率(IQE)を、絶対PL量子収率測定装置(浜松ホトニクス株式会社製、「Quantaurus-QY(C11347-01)」)を用いて、励起波長450nmにより測定し、硬化前の各塗膜から各光変換層を形成した際のIQE保持率(%)を、下記式によって算出した。
硬化前後でのIQE保持率(%)=100×(光変換層のIQE/硬化前の塗膜のIQE)
【0231】
(耐光性の評価)
各光変換層について、耐光性試験機(シーシーエス社製)を用いて、空気中、発光スペクトルのピーク波長450nmの青色光を、ステージ温度50℃で100mW/cm、250時間照射した。光照射後における光変換層のIQEを、絶対PL量子収率測定装置(浜松ホトニクス株式会社製、「Quantaurus-QY(C11347-01)」)を用いて、励起波長450nmにより測定し、下記式(1)からIQE保持率を算出し、以下の基準により評価した。
耐光性試験でのIQE保持率(%)=100×(光照射後の光変換層のIQE/光照射前の光変換層のIQE)・・・式(1)
<耐光性の評価基準>
◎:保持率が97%以上
○:保持率が97%未満95%以上
△:保持率が95%未満90%以下
×:保持率が90%未満
【0232】
(耐湿熱性の評価)
各光変換層について、恒温恒湿試験機を用いて、60℃、90%RH条件下で500時間保管した。試験前後のIQE保持率を下記式(2)によって算出し、以下の基準により評価した。
耐湿熱性試験でのIQE保持率(%)=100×(500時間試験後の光変換層のIQE/試験前の光変換層のIQE)・・・式(2)
<耐湿熱性の評価基準>
◎:保持率が97%以上
○:保持率が97%未満95%以上
△:保持率が95%未満90%以下
×:保持率が90%未満
【0233】
以上の評価結果をまとめて、表2に示す。
【0234】
【表2】
【0235】
実施例1~7の分散液に含まれる発光性粒子1~7は、いずれも、表面層として、T単位のシラン化合物であるAPTESの加水分解縮合物を含む第1のシェル層を備えると共に、T単位のハロゲン化アルコキシシラン化合物であるBrPTMS及びQ単位のシラン化合物であるMS-51の加水分解縮合物を含む第2のシェル層を備えている。すなわち、発光性粒子1~7は、メタルハライドからなる半導体ナノ結晶の表面にT単位及びQ単位のシラン化合物の加水分解縮合物を含む表面層を備え、熱重量分析により算出される有機成分を50質量%~70質量%含有する発光性粒子である。
一方、比較例1~2の分散液に含まれる発光性粒子a~bは、メタルハライドからなる半導体ナノ結晶の表面にT単位のシラン化合物の加水分解縮合物を含む表面層を備えるものの、Q単位のシラン化合物の加水分解縮合物を含まず、熱重量分析により算出される有機成分を50質量%未満含有する発光性粒子である。また、比較例3~6の分散液に含まれる発光性粒子c~fは、メタルハライドからなる半導体ナノ結晶の表面にT単位及びQ単位のシラン化合物の加水分解縮合物を含む表面層を備えるものの、熱重量分析により算出される有機成分を50質量%未満あるいは70質量%以上含有する発光性粒子である。
【0236】
表2に示すように、実施例8~14に示したように、本発明の発光性粒子を含有するインク組成物は、比較例7から比較例12に示した発光性粒子を含有するインク組成物と比較して、塗膜硬化前後でのIQE保持率(%)が高い。このことから、発光性粒子1~7は、発光性粒子a~fと比較して、塗膜硬化時に光重合開始剤が発するラジカルにより劣化しにくいことがわかる。また、本発明の発光性粒子を含有するインク組成物から形成される光変換層は、光に250時間ばく露されたときのIQE保持率(%)が高い。このから、発光性粒子1~7は、発光性粒子a~fと比較して、光に対する安定性が高いことがわかる。さらに、60℃90%RH下で500時間保管した後のIQE保持率が高い。このことから、発光性粒子1~7は、発光性粒子a~fと比較して、水及び熱に対する安定性が高いことがわかる。
【0237】
以上の結果から、本発明の発光性粒子を含有する光変換層を用いて、波長変換フィルムあるいは発光素子のカラーフィルタ画素部を構成した場合には、優れた発光特性と安定性を得ることができるものと期待できる。
【符号の説明】
【0238】
10…画素部、10a…第1の画素部、10b…第2の画素部、10c…第3の画素部、11a…第1の発光性粒子、11b…第2の発光性粒子、12a…第1の光散乱性粒子、12b…第2の光散乱性粒子、12c…第3の光散乱性粒子、20…遮光部、30…光変換層、40…基材、50…積層構造体、51…第1の基板、52…第2の基板、53…封止層、54…光変換フィルム、541…光散乱粒子、542…発光性粒子、100…カラーフィルタ。
図1
図2
図3
図4