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特開2025-99419吸水機能を有するナノ粒子層が形成された金属材料の製造方法
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  • 特開-吸水機能を有するナノ粒子層が形成された金属材料の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025099419
(43)【公開日】2025-07-03
(54)【発明の名称】吸水機能を有するナノ粒子層が形成された金属材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 3/02 20060101AFI20250626BHJP
   F28D 15/02 20060101ALI20250626BHJP
   C23C 24/08 20060101ALI20250626BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20250626BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20250626BHJP
【FI】
B05D3/02 A
F28D15/02 Z
C23C24/08 C
B05D7/14 Z
B05D7/24 301H
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023216065
(22)【出願日】2023-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】大川 富雄
(72)【発明者】
【氏名】劉 依凡
(72)【発明者】
【氏名】安藤 優大
(72)【発明者】
【氏名】清水 大輔
(72)【発明者】
【氏名】三井 滋
【テーマコード(参考)】
4D075
4K044
【Fターム(参考)】
4D075AB01
4D075AB54
4D075AG30
4D075BB22X
4D075BB22Y
4D075BB66X
4D075CA18
4D075CA37
4D075DA15
4D075DB01
4D075DB06
4D075DC16
4D075EA06
4D075EA12
4D075EB01
4D075EB57
4D075EC02
4D075EC03
4D075EC53
4K044AA06
4K044AB02
4K044BA12
4K044BB01
4K044BC12
4K044CA24
4K044CA25
4K044CA53
(57)【要約】      (修正有)
【課題】熱輸送効率の向上を図ったヒートパイプの構成部材として有用なナノ粒子層を有する金属材料の製造方法を提供する。
【解決手段】加熱部と該加熱部に連なる沸騰部と該沸騰部に連なる凝縮部とを備える、金属基材にナノ粒子層を形成する装置において、沸騰部において該金属基材と分散液とを接触させ、凝縮部で液体を還流し、沸騰部に液体を戻すことからなる条件を満たす。または、金属基材を前記分散液から取り出し、核沸騰以外で堆積した成分を除去する工程を付加する。核沸騰以外で堆積した成分の除去が、前記分散液から取り出した金属基材の表面付着水を吸い取る方法で行われるか、又は前記分散液から取り出した金属基材から表面付着水を吹き飛ばす方法で行われる。コロイド状粒子が、TiO、ZrO、ZnO、CuO、Al、及びSiOからなる群から選ばれる少なくとも一種の無機酸化物のコロイド状粒子である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a0)工程及び(b0)工程を含み、(a0)工程と(b0)工程がこの順にて逐次実施、又は、(a0)工程と(b0)工程が同時に実施される、ナノ粒子層を有する金属材料の製造方法であって、該方法は、下記方法1又は方法2を含む、ナノ粒子層を有する金属材料の製造方法。
方法1:(a0)工程と(b0)工程が、下記(条件1)を満たす方法、
方法2:(a0)工程と(b0)工程に続き、更に(c0)工程を行う方法、
(a0):平均粒子径(光散乱式粒子径)5nm~800nm、且つ、平均粒子径(光散乱式粒子径)と一次粒子径(BET法粒子径)との比(平均粒子径(光散乱式粒子径)/一次粒子径(BET法粒子径))が1.0~10.0であるコロイド状粒子を含む分散液と金属基材とを接触させる工程、
(b0):前記金属基材の表面近傍において前記分散液を核沸騰状態に保持する工程、
(条件1):前記(a0)工程及び(b0)工程が、加熱部と該加熱部に連なる沸騰部と該沸騰部に連なる凝縮部とを備える、金属基材にナノ粒子層を形成する装置において、沸騰部において該金属基材と分散液とを接触させ、凝縮部で液体を還流し、沸騰部に液体を戻すことからなる条件、
(c0):金属基材を前記分散液から取り出し、核沸騰以外で堆積した成分を除去する工程。
【請求項2】
(c0)工程における核沸騰以外で堆積した成分の除去が、前記分散液から取り出した金属基材の表面付着水を吸い取る方法で行われるか、又は前記分散液から取り出した金属基材から表面付着水を吹き飛ばす方法で行われる請求項1に記載の金属材料の製造方法。
【請求項3】
前記コロイド状粒子は、レーザー回折法による粒度分布測定値からそれぞれ求めた累積径に関して、
10%累積径(D10)に対する50%累積径(D50)の比 D50/D10が1.0以上2.5未満であり、且つ、
50%累積径(D50)に対する90%累積径(D90)の比 D90/D50が1.0以上2.5未満である、請求項1又は請求項2に記載のナノ粒子層を有する金属材料の製造方法。
【請求項4】
前記(a0)工程が、前記分散液に金属基材を浸漬する工程である、請求項1に記載のナノ粒子層を有する金属材料の製造方法。
【請求項5】
前記コロイド状粒子が、TiO、ZrO、ZnO、CuO、Al、及びSiOからなる群から選ばれる少なくとも一種の無機酸化物のコロイド状粒子である、請求項1に記載のナノ粒子層を有する金属材料の製造方法。
【請求項6】
前記金属材料が、ヒートパイプの構成部材である、請求項1に記載のナノ粒子層を有する金属材料の製造方法。
【請求項7】
前記ヒートパイプが、作動流体が封入されたコンテナおよび該コンテナ内に金属製ウィックを備える、請求項6に記載のナノ粒子層を有する金属材料の製造方法。
【請求項8】
作動流体が封入されたコンテナおよび該コンテナ内に金属製ウィックを備えたヒートパイプにおいて、前記金属材料が、該コンテナ内の壁面及び前記金属製ウィックの一方又は双方の構成部材である請求項6に記載のナノ粒子層を有する金属材料の製造方法。
【請求項9】
前記金属材料表面が、エッチング処理されてなる、請求項1に記載のナノ粒子層を有す
る金属材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粒子層を有する金属材料の製造方法に関し、さらに、該金属基材がヒートパイプの構成部材であるところのナノ粒子層を有する金属材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属基材の表面に、目的や用途に応じた機能を付与する層(以下、機能層とも称する。)を設けるべく、これまでに種々の技術が提案されている。更にその改良として、ナノオーダーからマイクロオーダーの粒子径を有する粒子を用い、前記機能層を金属基材上に形成する技術の開発が望まれている。
【0003】
上記のナノオーダーの粒子を用いた技術としては、大気圧より高い圧力下で、ナノメートルサイズの粒子を含有する液体を、その標準沸点より高い温度にて基材表面上で沸騰させ、基材表面に該ナノオーダーの粒子を堆積させる方法が開示されている。該方法は、良好な湿潤性を有する表面を、良好な湿潤性を有する粒子の堆積により形成する技術として開示されている(特許文献1)。
これら技術を基材表面に適用することにより得られた良好な親水性(湿潤性)を示す表面を有する部材や基材は、ヒートパイプやフィン等の熱交換素子の材料に適用できることが期待されている。
【0004】
前記ヒートパイプは、管の内部にウィック(毛細管構造)と揮発性の冷媒を封入し、冷媒の蒸発と凝縮(気液相変化)による潜熱の吸収と放出を利用して熱輸送を行う熱交換(冷却)デバイスである。近年、ヒートパイプは、電子機器や医療機器などにおける高発熱電子部品用の冷却デバイスとして利用されている。
【0005】
昨今の電子機器や医療機器の小型化・高性能化に伴い、前記ヒートパイプなどの高発熱電子部品用の冷却デバイスは、電子デバイス設計において重要な技術の一つとなっている。特に、スマートフォンやタブレットPCでは、冷却デバイス用のスペースが限られており、高性能化に向けた高発熱密度の電子素子の使用に際し、前記冷却デバイスの小型化・効率化の実現は急務である。
【0006】
前記ヒートパイプ等の熱交換素子用の部材として、種々の材料やその製造方法が提案されている。例えば、三次元網目構造の骨格と空隙を有するシリカのモノリス型多孔体を熱輸送原理の中枢を担うウィックとして使用するヒートパイプ(特許文献2)が提案されている。また、前述のナノオーダーの粒子を用いた技術として、ヒートパイプを構成するパイプ部分の内側やウィックとしての役割をもたせるメッシュをシリカナノ流体に浸漬し、該ナノ流体を核沸騰させて、前記パイプ部分の内側(内壁)やメッシュ表面にナノ粒子層を形成するヒートパイプの製造方法が開示されている(特許文献3)。
【0007】
シリカゾルと金属基材を接触させ、その金属基材の表面近傍においてシリカゾルが核沸騰状態に保持された状態でコロイド状シリカ粒子を基材に付着させる方法が開示されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2012-514689号公報
【特許文献2】特開2010-96405号公報
【特許文献3】特開2020-067269号公報
【特許文献4】国際公開第2022/265041号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ナノ粒子層を金属基材表面に形成することによる、ナノ粒子層を有する金属材料を製造する方法の提供を目的とする。
また、高い吸水性能を有するナノ粒子層を有することで毛管力による水の移動速度を高め、それにより、熱輸送効率の向上を図ったヒートパイプの構成部材として有用なナノ粒子層を有する金属材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は第1観点として、下記(a0)工程及び(b0)工程を含み、(a0)工程と(b0)工程がこの順にて逐次実施、又は、(a0)工程と(b0)工程が同時に実施される、ナノ粒子層を有する金属材料の製造方法であって、該方法は、下記方法1又は方法2を含む、ナノ粒子層を有する金属材料の製造方法。
方法1:(a0)工程と(b0)工程が、下記(条件1)を満たす方法、
方法2:(a0)工程と(b0)工程に続き、更に(c0)工程を行う方法、
(a0):平均粒子径(光散乱式粒子径)5nm~800nm、且つ、平均粒子径(光散乱式粒子径)と一次粒子径(BET法粒子径)との比(平均粒子径(光散乱式粒子径)/一次粒子径(BET法粒子径))が1.0~10.0であるコロイド状粒子を含む分散液と金属基材とを接触させる工程、
(b0):前記金属基材の表面近傍において前記分散液を核沸騰状態に保持する工程、
(条件1):前記(a0)工程及び(b0)工程が、加熱部と該加熱部に連なる沸騰部と該沸騰部に連なる凝縮部とを備える、金属基材にナノ粒子層を形成する装置において、沸騰部において該金属基材と分散液とを接触させ、凝縮部で液体を還流し、沸騰部に液体を戻すことからなる条件、
(c0):金属基材を前記分散液から取り出し、核沸騰以外で堆積した成分を除去する工程、
第2観点として、(c0)工程における核沸騰以外で堆積した成分の除去が、前記分散液から取り出した金属基材の表面付着水を吸い取る方法で行われるか、又は前記分散液から取り出した金属基材から表面付着水を吹き飛ばす方法で行われる第1観点に記載の金属材料の製造方法、
第3観点として、前記コロイド状粒子は、レーザー回折法による粒度分布測定値からそれぞれ求めた累積径に関して、
10%累積径(D10)に対する50%累積径(D50)の比 D50/D10が1.0以上2.5未満であり、且つ、
50%累積径(D50)に対する90%累積径(D90)の比 D90/D50が1.0以上2.5未満である、第1観点又は第2観点に記載のナノ粒子層を有する金属材料の製造方法、
第4観点として、前記(a0)工程が、前記分散液に金属基材を浸漬する工程である、第1観点乃至第3観点の何れか一つに記載のナノ粒子層を有する金属材料の製造方法、
第5観点として、前記コロイド状粒子が、TiO、ZrO、ZnO、CuO、Al、及びSiOからなる群から選ばれる少なくとも一種の無機酸化物のコロイド状粒子である、第1観点乃至第4観点のうち何れか一つに記載のナノ粒子層を有する金属材料の製造方法、
第6観点として、前記金属材料が、ヒートパイプの構成部材である、第1観点乃至第5観点のうち何れか一つに記載のナノ粒子層を有する金属材料の製造方法、
第7観点として、前記ヒートパイプが、作動流体が封入されたコンテナおよび該コンテナ内に金属製ウィックを備える、第6観点に記載のナノ粒子層を有する金属材料の製造方法、
第8観点として、作動流体が封入されたコンテナおよび該コンテナ内に金属製ウィックを備えたヒートパイプにおいて、前記金属材料が、該コンテナ内の壁面及び前記金属製ウィックの一方又は双方の構成部材である第6観点に記載のナノ粒子層を有する金属材料の製造方法、及び
第9観点として、前記金属材料表面が、エッチング処理されてなる、第1観点乃至第8観点のうち何れか一つに記載のナノ粒子層を有する金属材料の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
金属材料の表面に高担持量で、また均一性を高めたナノ粒子層を有する金属基材を製造することができ、そして前記ナノ粒子層において高い吸水性能を実現できる金属材料を提供できる。
本発明の製造方法により得られた表面にナノ粒子層が形成された金属材料を、ヒートパイプのコンテナ(コンテナ内の壁面に前記ナノ粒子層を備える)やヒートパイプの金属製ウィックなどの構成部材に用いることにより、毛管力による水の移動速度が向上し、熱抵抗を低下させ熱輸送効率を向上させたヒートパイプを製造できることが期待できる。さらに、限界熱輸送量を向上させたヒートパイプを製造できることが期待できる。
また本発明の方法は、材料形状によらずにその表面にナノ粒子層を形成させた金属材料を製造することができ、ヒートパイプのコンテナ内の壁面や金属製ウィック上など、目的とする箇所に高担持量で均一性を高めたナノ粒子層を形成でき、ひいては熱輸送性能に優れたヒートパイプを製造できることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】(条件1)を満たすように凝縮部を備え、還流下で行われるナノ粒子層を有する金属材料の製造に用いられる装置の模式図である。
図2】凝縮部を備えず開放下で行われるナノ粒子層を有する金属材料の製造に用いられる装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明ではヒートパイプ等の金属材料表面に核沸騰状態でコロイド粒子を含む分散液(例えばシリカゾル)中のシリカ粒子を付着させる際に、付着したシリカ粒子の状態により給水性能に差があることが分かった。そして、金属材料上にナノ粒子層を形成する場合、該金属材料を製造する際の方法として、コロイド粒子を含む分散液を還流状態で行う装置を用いた方法を採用することにより、シリカ粒子の状態が吸水性能を向上させる形態となることを達成できた。解放状態で行った場合、分散液中のコロイド粒子の濃度上昇により該コロイド粒子が凝集した状態で金属基材表面に付着すると考えられるが、それを還流状態で行うことにより個々のコロイド粒子が機能を持った状態で金属基材表面に付着されたものと考えられる。この様な状態で金属基材表面に付着することで、コロイド粒子間に間隙を生じ、その間隙を通じて水や冷媒等の液体が毛細管現象により吸い上げられて吸水性能の高い機能層が形成できるものと考えられる。
また、本発明に係る金属材料を製造する時に用いる装置から金属基材を取り出した後であっても、コロイド状粒子を含む分散液が金属基材上に残存する場合に、余熱で残存する分散液中のコロイド状粒子の濃縮が発生するため、速やかに基材から除去させることが好ましい。
金属基材上に残存するコロイド状粒子を含む分散液を除去する方法としては、金属基材の表面付着水を吸い取る方法や、又は金属基材から表面付着水を吹き飛ばす方法、等が挙げられる。この時に吸着水を加圧下でふき取ることは表面付着水を圧縮することであるためコロイド状粒子の凝集につながり易く好ましくない。従って、そのような現象を生じない方法で、コーティング装置(金属基材にナノ粒子層を形成する装置)から取り出した金属基材を処理することで吸水性能の高い機能層が形成できるものと考えられる。金属基材から表面付着水を吹き飛ばす方法としては、高圧をかけずにエアーにより表面付着水を除
去する方法が採り得る。
【0014】
本発明は金属材料の表面に付着するコロイド状粒子の状態に着目し、すなわち、コロイド状粒子が付着する前の分散液の状態と、コロイド状粒子が付着した後の表面付着水の状態とに着目し、コロイド状粒子が濃縮されて凝集状態になることを避ける方法により、良好な吸水性能を有するナノ粒子層が形成された金属材料、更にはヒートパイプの構成部材の製造方法を見出した。凝集状態のコロイド状粒子は、凝集状態が形成されていないコロイド状粒子に比べて、水と接する部分(比表面積)が小さくなり吸水性能に問題を生じると考えられる。凝集状態ではないコロイド状粒子ではコロイド状粒子間に間隙があり、その間隙を通じて毛細管現象が生じやすくなるものと考えられる。
【0015】
本発明は下記(a0)工程及び(b0)工程を含み、(a0)工程と(b0)工程がこの順にて逐次実施、又は、(a0)工程と(b0)工程が同時に実施される、ナノ粒子層を有する金属材料の製造方法であって、該方法は、下記方法1又は方法2を含む、ナノ粒子層を有する金属材料の製造方法。
方法1:(a0)工程と(b0)工程が、下記(条件1)を満たす方法、
方法2:(a0)工程と(b0)工程に続き、更に(c0)工程を行う方法、
(a0):平均粒子径(光散乱式粒子径)5nm~800nm、且つ、平均粒子径(光散乱式粒子径)と一次粒子径(BET法粒子径)との比(平均粒子径(光散乱式粒子径)/一次粒子径(BET法粒子径))が1.0~10.0であるコロイド状粒子を含む分散液と金属基材とを接触させる工程、
(b0):前記金属基材の表面近傍において前記分散液を核沸騰状態に保持する工程、
(条件1)::前記(a0)工程及び(b0)工程が、加熱部と該加熱部に連なる沸騰部と該沸騰部に連なる凝縮部とを備える、金属基材にナノ粒子層を形成する装置において、沸騰部において該金属基材と分散液とを接触させ、凝縮部で液体を還流し、沸騰部に液体を戻すことからなる条件、
(c0):金属基材を前記分散液から取り出し、核沸騰以外で堆積した成分を除去する工程である。
【0016】
[(a0)工程]
本工程は、後述する金属基材を、特定の粒子径を有するコロイド状粒子を含む分散液と接触させる工程である。
本発明において、前記金属基材と分散液との接触形態は特に限定されないが、例えば、分散液に金属基材を浸漬する形態などが挙げられる。
【0017】
前記(a0)工程の一例として、大気圧下で前記分散液と、例えば100℃~500℃に加熱された金属基材とを接触させる工程を挙げることができる。
前記金属基材の加熱は、ホットプレート、電気炉などにより行うことができる。また、加熱温度は、100℃~500℃とすることができ、又は、200℃~300℃の範囲とすることができる。
本発明で使用するナノ粒子層を形成させる基材に用いる金属として、熱伝導率の高い金属を好ましく用いることができる。例えば、銀、銅、金、アルミニウム、ニッケル、鉄、亜鉛、及びこれらを主成分として含む合金を用いることができる。
また、金属基材の形状として、板状、線状、メッシュ状、曲面状、パイプ状、繊維状などの形状を有するものを用いることができる。特に、パイプ状やメッシュ状の金属基材はヒートパイプの構成部材として用いることもできるため好適である。なお金属基材は、ナノ粒子層を形成する表面にエッチング処理を施してもよい。
本発明で使用するコロイド状粒子は、例えばSi、Al、Ti、Zr、Fe、Cu、Zn、Mg、Ca及びCsなどの原子の酸化物(無機酸化物)のコロイド状粒子を用いることができる。無機酸化物の粒子は、原子価2~6の原子の酸化物の粒子であり、これら原
子の酸化物としてSiO、Al、TiO、Fe、CuO、ZnO、ZrO等を例示することができる。
前記コロイド状粒子は、該コロイド状粒子が液状媒体に分散したゾルの形態にて用いることができる。
前記コロイド状粒子の形状は特に限定されず、例えば球状、鎖状、数珠状、ひも状、針状、棒状、板状、またその他の非球状の形状のコロイド状粒子を用いることができる。粒子形状は、透過型電子顕微鏡などにより観察することができる。
また前記コロイド状粒子は公知の方法(例えば、イオン交換法、解膠法、加水分解法、反応法(酸化法)など)により製造できる。
【0018】
前記コロイド状粒子の中でも、本発明にあっては、TiO、ZrO、ZnO、CuO、Al、及びSiOからなる群から選ばれる少なくとも一種の無機酸化物のコロイド状粒子を好ましく用いることができ、中でもコロイド状シリカ(SiO)粒子を好ましく用いることができる。
コロイド状シリカ粒子は、コロイド状シリカ粒子が液状媒体に分散した分散液(ゾル)の形態にて用いることができる。またコロイド状シリカ粒子として、公知の方法(例えば、イオン交換法、解膠法、加水分解法、反応法(酸化法)など)により製造されたコロイド状シリカ粒子の分散液を用いることができる。
液状媒体に分散したコロイド状シリカ粒子の分散液(ゾル)として、市販品を用いることができる。一例として、日産化学(株)製、商品名スノーテックス(登録商標)、オルガノシリカゾルを挙げることができるが、これに限定されない。
【0019】
また、シリカ粉末を液状媒体中で分散処理することによりコロイド状シリカ粒子の分散液とし、これを本発明に係るコロイド状粒子として用いることもできる。
前記シリカ粉末(SiO粉末)は、公知の方法、例えば液相法(加水分解法、ゾル-ゲル法、水熱法、共沈法、凍結乾燥法など)や気相法(溶融法、噴霧乾燥法、気相反応法(燃焼加水分解等)など)等により製造可能である。また、上述の通りコロイド状シリカ粒子を公知の方法(例えば、イオン交換法、解膠法、加水分解法、反応法など)により製造した後、これを乾燥してシリカ粉末としたものを用いることもできる。
シリカ粉末は市販品を用いることができ、一例として以下のものを挙げることができるが、これらに限定されない。例えば、日本アエロジル(株)製AEROSIL(登録商標)シリーズ、キャボット社製Cab-O-SIL(登録商標)シリーズ、富士シリシア化学(株)Sylysia(登録商標)シリーズ、(株)トクヤマ製レオロシール(登録商標)シリーズ、エクセリカ(登録商標)シリーズ、旭化成ワッカーシリコーン(株)製HDK(登録商標)シリーズなどを挙げることができる。
【0020】
<コロイド状粒子の平均粒子径(光散乱式粒子径)、一次粒子径(BET法粒子径)、及び粒度分布>
本発明では、所定の数値範囲の平均粒子径(光散乱式粒子径)、及び平均粒子径(光散乱式粒子径)と一次粒子径(BET法粒子径)との比を有するコロイド状粒子を使用することを特徴とする。また後述するように、特定の数値範囲の累積径(粒度分布)を有するコロイド状粒子を使用することが好ましい。
本発明にあっては、平均粒子径(光散乱式粒子径)と一次粒子径(BET法粒子径)の差が小さく、また粒度が揃っており、分散性が高く凝集の少ないコロイド状粒子を用いることにより、付着量を高め均一な層形成につながると考えられる。
【0021】
(平均粒子径(光散乱式粒子径))
光散乱式粒子径とは、レーザー回折法、動的光散乱法を測定原理とする粒子径測定装置により測定される粒子径を指す。コロイド状粒子の平均粒子径(光散乱式粒子径)は、動的光散乱法やレーザー回折法により測定することができる。特に本発明で使用する、平均
粒子径(光散乱式粒子径)がナノオーダーのコロイド状粒子は、動的光散乱法により測定することが望ましい。
前記動的光散乱法による平均粒子径(光散乱式粒子径)(DLS平均粒子径ともいう)は、二次粒子径(分散粒子径)の平均値を表しており、(a0)工程で金属基材に接触する前のコロイド状粒子を含む分散液において、液状媒体中のコロイド状粒子が分散状態にあるか、又は凝集状態にあるかを判断する指標といえる。すなわち、DLS平均粒子径が大きくなるほど液状媒体中のコロイド状粒子が凝集状態になっていると判断できる。
本発明で使用するコロイド状粒子は、平均粒子径(光散乱式粒子径)が5nm~800nmの範囲のものであり、例えば10nm~500nmの範囲のものを用いることができる。
【0022】
(一次粒子径(BET法粒子径))
本発明で使用するコロイド状粒子の一次粒子径(BET法粒子径)は、窒素ガス吸着法(BET法)により測定して得られる比表面積径(DB[nm])である。
粒子が球形であるとしたとき、窒素ガス吸着法で測定される比表面積sと、比表面積径d[nm]は、s=6000/ρd(ρ[g/cm]は粒子の密度)の関係が成り立つ。すなわち、本明細書で言及する一次粒子径(BET法粒子径)は、窒素ガス吸着法により測定された比表面積sを用いて、s=6000/ρdの式に従い算出した粒子径である。例えば、前記コロイド状粒子がシリカ粒子である場合、粒子の密度を2.2[g/cm]として比表面積径を算出することができる。
本発明で使用するコロイド状粒子の一次粒子径(BET法粒子径)としては、1nm~100nm、又は3nm~80nm、又は5nm~80nmの範囲のものを用いることができる。なお上述したように、前記平均粒子径(光散乱式粒子径)は二次粒子径の平均値を表すことから、一次粒子径(BET法粒子径)の大きさが前記平均粒子径(光散乱式粒子径)を上回ることなない。
【0023】
(平均粒子径(光散乱式粒子径)/一次粒子径(BET法粒子径))
平均粒子径(光散乱式粒子径)と一次粒子径(BET法粒子径)の比は、前記の方法により測定した平均粒子径(光散乱式粒子径)と一次粒子径(BET法粒子径)を比で表わしたものであり、コロイド状粒子が形成しているクラスターサイズの大きさの指標として用いることができる。
本発明で使用するコロイド状粒子の平均粒子径(光散乱式粒子径)と一次粒子径(BET法粒子径)の比(平均粒子径(光散乱式粒子径)/一次粒子径(BET法粒子径))は1.0~10.0であり、例えば1.0~8.0、又は1.0~6.0の範囲のものを用いることができる。
【0024】
(累積径(粒度分布))
本発明で使用するコロイド状粒子は、レーザー回折法による粒度分布測定から求めた累積径に関して、10%累積径(D10)に対する50%累積径(D50)の比 D50/D10が1.0以上2.5未満であり、且つ、50%累積径(D50)に対する90%累積径(D90)の比 D90/D50が1.0以上2.5未満であることが好ましい。
なお本明細書において、前記X%累積径(D)とは、累積粒度分布の小粒子側からの累積X体積%(体積頻度粒度分布における累積値がX%)に相当する粒子径をいう。
前記累積径は以下の通り定められる。まず対象となる粒子等の分散液について、レーザー回折散乱粒度分布測定装置を用いて粒度分布を測定し、体積基準の累積粒度分布曲線を得る。そして得られた累積粒度分布において、X%累積時の体積粒度を、該粒子等のX%累積径(D)とする。
前記粒度分布径は、粒子径がナノオーダーであっても、ミクロンオーダーであっても、レーザー回折散乱粒度分布測定装置を用いて測定することができる。また、測定に際して、散乱強度が最適になるように、測定サンプルを希釈、又は濃縮しても良い。
【0025】
(コロイド状粒子を含む分散液)
本発明で使用するコロイド状粒子を含む分散液は、前記コロイド状粒子が液状媒体に分散した分散液(ゾル)を、必要に応じて希釈することにより、用いることができる。
コロイド状粒子を含む分散液において、無機酸化物の濃度(例えばSiO濃度)は、0.1質量%~10質量%、又は0.5質量%~10質量%、又は1.0質量%~5質量%の範囲とすることができる。
前記液状媒体としては、例えば水等の水性媒体、アルコール、グリコール、エステル、ケトン、含窒素溶媒、芳香族系溶媒等の有機溶媒、また有機溶媒と水との混合溶媒などを用いることができる。
【0026】
[(b0)工程]
本工程は、前記(a0)工程において、コロイド状粒子を含む分散液と接触させた金属基材の表面近傍において、核沸騰状態に保持する工程である。本工程により、前記金属基材の表面に分散液中のコロイド状粒子からなるナノ粒子層が形成される。
【0027】
前記コロイド状分散液の核沸騰状態は、前記金属基材(表面)及び前記分散液の少なくとも一方を、これらの接触時に加熱する、すなわち、これらが接触する瞬間に一方が(分散液を核沸騰状態に至らしめる程度の)加熱状態にあるか、あるいはこれらが接触した状態にあるとき一方を(分散液を核沸騰状態に至らしめる程度に)加熱することにより、実現することができる。
本工程は、高温に熱した前記金属基材を前記分散液と接触させる、あるいは、該分散液を熱するなどして実施され得る。
例えば、前述したように、前記分散液と、例えば100℃~500℃に加熱された金属基材とを接触させることにより実施できる。
前述したように、(b0)工程は、(a0)工程に続いて実施され、あるいはまた(a0)工程と同時に実施される。
また例えば、前記分散液に前記金属基材を浸漬する態様である際、前記金属基材の近傍に(例えば金属基材と接するように)ヒーターを配置し、金属基材を加熱、好ましくは金属基材を直接加熱することにより、金属基材の表面近傍の分散液を効率的に核沸騰状態とすることができる。
【0028】
(核沸騰)
液体が加熱されて気体へ相変化をする現象である沸騰現象は、液体の流動状況や液体の代表温度、沸騰の機構などに応じて種々分類できる。一例として、系内の液体をポンプなどにより強制流動させない場合の沸騰をプール沸騰(あるいは自然対流沸騰)と呼び、これに対して、系内の液体を強制流動させた場合の沸騰を強制対流沸騰(あるいは強制流動沸騰)と呼ぶ。プール沸騰は流動沸騰の機構を把握するうえでの基本形態であるとともに、材料の熱処理などにおいて重要な熱伝達様式である。
伝熱面の加熱温度を徐々に上げて行った際に、伝熱面から液体に伝わる熱流束がそのように推移するかを示した沸騰曲線を用いると、プール沸騰は大まかに次の4つの領域に分割することができる。すなわち、加熱開始から沸騰開始点までの自然対流域(非沸騰)、沸騰開始点から極大熱流速点までの核沸騰領域、極大熱流速点から極小熱流速点までの遷移沸騰域、極小熱流速点以降の膜沸騰域である。
本発明で利用する核沸騰は核沸騰域で生じる沸騰現象であり、伝熱面上の小さなくぼみ(キャビティ)等に残存する空気などが気泡核となり、気泡の成長が開始すると考えられている。本発明では、金属基材表面上に生じたこの気泡核が、ナノ粒子層を構成するコロイド状粒子の析出(付着)の起点になると考えられる。
本発明に係る製造方法により得られる金属材料は、後述するヒートパイプの構成部材として好適に用いることができる。
【0029】
本浸漬態様に係る一例として、ナノ粒子層の形成をするためのコーティング装置の模式図の一例を図1及び図2に示す。
図1は、(条件1)を満たすように凝縮部Aを備え、還流下で行われるナノ粒子層を有する金属材料の製造に用いられる装置を示す。下部のヒーター(レンガ9の上にある伝熱用銅ブロック7にカートリッジヒーター8を取り付けたもの)の上にステンレス板4とのその上に伝熱部材(伝熱シリコン6)が設置され、該伝熱部材の上に、ナノ粒子層のコーティング対象となる金属基材5が載置され、加熱部Cとなっている。また、金属基材5を一部底面とするポリカーボネート容器2にコロイド状粒子を含む分散液3が投入され、沸騰部Bとなっている。
そしてヒーターを加熱することで、加熱された伝熱部材及び金属基材5を通してコロイド状粒子を含む分散液3が加熱され、基材表面近傍の分散液が核沸騰状態となり、それにより、基材表面にナノ粒子層が形成される。この際、凝縮器1で液体を還流し、沸騰部Bに液体を戻す。なお図1における沸騰現象は後述するプール沸騰である。
また、図2は、開放下で行われるナノ粒子層を有する金属材料の製造に用いられる装置であり、凝縮部Aを備えていない点を除けば図1と同様の部材を備える。
【0030】
本発明のナノ粒子層を有する金属材料の製造方法では、(方法1)又は(方法2)で行われる。
(方法1)は(a0)工程と(b0)工程が、(条件1)を満たす方法である。
(条件1)は前記(a0)工程及び(b0)工程が、加熱部と該加熱部に連なる沸騰部と該沸騰部に連なる凝縮部とを備える、金属基材にナノ粒子層を形成する装置において、沸騰部において該金属基材と分散液とを接触させ、凝縮部で液体を還流し、沸騰部に液体を戻すことからなる条件である。金属基材にナノ粒子層を形成する装置において、沸騰部は加熱部の上方、下方又は側方に連なってもよく、凝縮部は加熱部及び沸騰部の側方又は上方に連なってもよい。図1に示すように、金属基材にナノ粒子層を形成する装置において、沸騰部は、加熱部の上方に連なり、凝縮部は、沸騰部の上方に連なることが好ましい。
図1に示されるコーティングに用いられる装置において、沸騰部でコロイド状粒子を含む分散液と金属基材とを核沸騰状態で接触させる場合、沸騰部における分散液中の分散媒は、凝縮部に設けられた凝縮器(コンデンサー)により、再び沸騰部に戻されるのでコロイド状粒子を含む分散液中のコロイド状粒子の濃度に大きな変化はない。分散液中でコロイド状粒子の濃度変化が少ないためコロイド状粒子の凝集を生じにくく、その状態のコロイド状粒子が金属基材上に付着するものである。その結果、基材表面のコロイド状粒子間には適切な間隔が生じ、コロイド状粒子間の毛細管現象により吸水性能が向上するものと考えられる。
【0031】
(方法2)は(a0)工程と(b0)工程に続き、更に(c0)工程を行う方法である。(c0)工程は金属基材を前記分散液から取り出し、核沸騰以外で堆積した成分を除去する工程である。核沸騰以外で堆積した成分の除去が、前記分散液から取り出した金属基材の表面付着水を吸い取る方法で行われるか、又は分散液から取り出した金属基材から表面付着水を吹き飛ばす方法で行われる。核沸騰以外で堆積した成分とは、分散液から金属基材を取り出した時に金属基材上に残存している液体が挙げられる。これら残留液にはコロイド状粒子が存在するが、残留液の蒸発と共にコロイド状粒子の濃縮が生じ、コロイド状粒子の凝集が発生する。この凝集も基材表面にナノ粒子層が形成された時に、コロイド状粒子間の毛細管現象により吸水性能の向上を阻害するものであって、基材表面から速やかに除去することが好ましい。その除去方法として金属基材の表面付着水を吸い取る方法、又は金属基材を傾け下方に落下させる方法が挙げられる。表面付着水を除去する際に、吸着紙や吸着布等でふき取る方法もあるが、ふき取る際に加わる圧力によりコロイド状粒子間に圧力が加わり凝集を生じやすくなることから、好適な除去方法としては、例えば、スポイド状の水取り装置を用いて吸い取る方法が挙げられる。
また分散液から取り出した金属基材から表面付着水を吹き飛ばす方法は、表面付着水を金属基材から除去させる方法であるが、気体を用いて低圧で該表面付着水を吹き飛ばすことも可能である。その際に、金属基材を傾けて表面付着水を落下させることもできる。
【0032】
(ヒートパイプ)
本発明に係るヒートパイプとは、高温側から低温側へ熱を移動させる仕組みを有する装置を指す。
一般にヒートパイプは、コンテナ内に真空密封された作動流体を備え、またコンテナ内にウィック(毛細管構造)を備えた構造を有する。ヒートパイプの一部が加熱されると、加熱部で作動流体が蒸発して低温部に蒸気が移動し、移動した蒸気は低温部で凝縮し、凝縮した作動流体をウィックの毛細管現象によって加熱部に還流させるという仕組みを有する。この仕組みが連続的に繰り返されることにより、熱を移動させる機能を実現する。
本発明に適用されるヒートパイプの形状は特に限定されず、チューブ形状、扁平形状など、種々の形状をとり得る。
【0033】
ヒートパイプは使用温度領域(作動温度)によって、その構成材料が適宜選択され得る。
前記ヒートパイプのコンテナ材料としては、熱伝導性が良好であり、さらに、化学的に安定であってヒートパイプ内に充填された作動流体との化学反応や劣化が起きにくい材料であることが好ましい。例えば上述した金属基材等が挙げられ、中でも銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、鉄合金、ステンレス鋼、ニッケルなどの伝熱性の高い材料を挙げることができる。また前記コンテナの形状は、丸管、多角管、外面溝付き管、内面溝付き管など、種々の形状を採り得る。前記金属材料はエッチング処理した基材を用いることができる。
なお、金属基材の表面は当該金属の酸化物が形成されていてもよい。
前記ウィックの材料は、前記コンテナ材料と同様の材料が挙げられ、その形状(構造体)としては、コンテナ内の壁面に直接溝を施した構造であるものや、コンテナとは別に金属ワイヤや金属メッシュ(金網)などの態様のほか、金属粉末の焼結体、金属発泡体、金属フェルトなども挙げることができる。
前記作動流体は、ヒートパイプの作動温度範囲により選択され、スマートフォン等の電子機器や医療機器等、本発明に係るヒートパイプの適用箇所(室温~200℃程度)を想定した場合、水やエタノールを挙げることができる。
【0034】
本発明に係るヒートパイプにあっては、コンテナの内の壁面及び金属製ウィックの一方又は双方の構成部材として、ナノ粒子層を形成する対象となる金属基材を適用することができる。すなわち本発明のヒートパイプは、前記コンテナ内の壁面及び前記金属製ウィックの表面の一方又は双方に前記ナノ粒子層を有するものとすることができる。このとき、金属基材表面、すなわち、前記コンテナ内の壁面及び前記ウィックの表面の一方又は双方は、エッチング処理を施したものとすることができる。前記ナノ粒子層は、平均粒子径(光散乱式粒子径)5nm~800nm、且つ、平均粒子径(光散乱式粒子径)と一次粒子径(BET法粒子径)との比(平均粒子径(光散乱式粒子径)/一次粒子径(BET法粒子径))が1.0~10.0であるコロイド状粒子より形成されたナノ粒子層である。
なお本発明に係るヒートパイプは、コンテナ内の壁面にナノ粒子層が形成されている場合、該ナノ粒子層自体が毛管力を有し得、ヒートパイプのウィック(毛細管構造)としての役割を果たすことができるため、別途金属製ウィックを設けてもよいが設けなくてもよい。
【0035】
本発明に係るヒートパイプ、例えば作動流体が封入された金属製コンテナを有するヒートパイプは、下記(a1)及び(b1)の工程を含む手順にて製造することができる。
(a1)ヒートパイプを構成するコンテナ内の壁面と、平均粒子径(光散乱式粒子径)5
nm~800nm、且つ、平均粒子径(光散乱式粒子径)と一次粒子径(BET法粒子径)との比(平均粒子径(光散乱式粒子径)/一次粒子径(BET法粒子径))が1.0~10.0であるコロイド状粒子を含む分散液とを接触させる工程、
(b1)前記コンテナ内の壁面近傍において前記分散液を核沸騰状態に保持する工程。
前記(a1)工程及び(b1)工程は、前述の[金属基材表面にナノ粒子層を形成する方法]の(a0)工程及び(b0)工程において、金属基材をコンテナ内壁と読み替え、実施することができる。また(a0)工程及び(b0)工程と同様、(a1)工程と(b1)工程はこの順にて逐次実施、あるいは、(a1)工程と(b1)工程は同時に実施される。
【0036】
また別の態様において、本発明に係るヒートパイプ、例えば作動流体が封入された金属製コンテナおよびコンテナ内の壁面側に金属製ウィックを備えたヒートパイプは、下記(a2)及び(b2)の工程を含む手順にて製造することができる。
(a2)ヒートパイプを構成する金属製ウィックと、平均粒子径(光散乱式粒子径)5nm~800nm、且つ、平均粒子径(光散乱式粒子径)と一次粒子径(BET法粒子径)との比(平均粒子径(光散乱式粒子径)/一次粒子径(BET法粒子径))が1.0~10.0であるコロイド状粒子を含む分散液とを接触させる工程、
(b2)前記ウィック表面近傍において前記分散液を核沸騰状態に保持する工程。
前記(a2)工程及び(b2)工程は、前述の[金属基材表面にナノ粒子層を形成する方法]の(a0)工程及び(b0)工程において、金属基材を金属製ウィックと読み替え、実施することができる。また(a0)工程及び(b0)工程と同様、(a2)工程と(b2)工程はこの順にて逐次実施、あるいは、(a2)工程と(b2)工程は同時に実施される。
【0037】
(ヒートパイプの作動流体)
本発明のヒートパイプにおいて、作動流体としては前述した水やエタノールを用いることができるが、これらに加え、コロイド状粒子を含む分散液を作動流体に用いることができる。このような分散液を作動流体に用いることで、ヒートパイプの使用によるナノ粒子層の劣化部分を分散液中のコロイド状粒子が修復(穴埋め)することが期待される。
【0038】
前記コロイド状粒子は、TiO、ZrO、ZnO、CuO、Al、及びSiOからなる群から選ばれる少なくとも一種の無機酸化物のコロイド状粒子とすることできる。また、作動流体の耐熱性の向上を目的に二種以上の元素を含むコロイド状粒子でもよい。
特に、コロイド状SiO粒子を含む分散液を用いることが好ましく、該コロイド状SiO粒子は、粒子内部、及び/又は表面にTi、Zr、Zn、Cu、Alから選ばれる少なくとも1種の元素を含んでもよい。
【0039】
該コロイド状粒子は、平均粒子径(光散乱式粒子径)が5nm~80nmの範囲のものを用いることができ、該平均粒子径(光散乱式粒子径)は動的光散乱法にて測定することができる。本発明のヒートパイプにおいて用いる作動流体におけるコロイド状粒子の平均粒子径(光散乱式粒子径)(DLS平均粒子径)として、例えば、5nm~80nm、5nm~50nm、5nm~30nmのものを用いることができる。
また、該コロイド状粒子は、一次粒子径(BET法粒子径)が1nm~50nmのものを用いることができる。一次粒子径(BET法粒子径)は、前述したように、窒素ガス吸着法(BET法)により測定して得られる比表面積径(DB[nm])である。
該コロイド状粒子は、平均粒子径(光散乱式粒子径)と一次粒子径(BET法粒子径)との比(平均粒子径(光散乱式粒子径)/一次粒子径(BET法粒子径))が、0.8~1.5の範囲のものを用いることができる。
【0040】
前記作動流体に用いるコロイド状粒子を含む分散液は、コロイド状粒子の無機酸化物換算の濃度として、0.001質量%~5.0質量%とすることができる。無機酸化物換算の濃度は焼成法により定量することができる。例えば、0.001質量%~3.0質量%、0.01質量%~3.0質量%とすることができる。
前記作動流体に用いるコロイド状粒子を含む分散液における分散媒としては、例えば水等の水性媒体、アルコール、グリコール、エステル、ケトン、含窒素溶媒、芳香族系溶媒等の有機溶媒、また有機溶媒と水との混合溶媒などを用いることができる。
【0041】
また、前記作動流体に用いるコロイド状粒子を含む分散液は、pH1~14、又はpH2~12の範囲のものを用いることができる。
また、前記コロイド状粒子を含む分散液は、粘度0.1~5mPa・sのものを用いることができる。なお、粘度はオストワルド法により測定することができる。
なお、本発明のヒートパイプにおける作動流体に用いるコロイド状粒子を含む分散液は、ナノ粒子層形成のためのコロイド状粒子を含む分散液と同じものを用いてもよく、異なっていてもよい。
【0042】
(ヒートパイプの評価)
ヒートパイプの性能評価の指標として、ウィッカビリティ(Wickability)と限界熱輸送量(Qmax)を挙げることができる。
【0043】
(ウィッカビリティ(Wickability))
ウィッカビリティ(Wickability:Wi)は吸水性能(毛管力)の指標であり、後述する限界熱輸送量(Qmax)の向上と関連する、伝熱面の性能指標としてプール沸騰の研究でよく用いられる。ウィッカビリティが高いほど、Qmaxが高いと判断することができる。
具体的には、細管内の液(作動流体、例えば蒸留水)を伝熱面(本発明におけるナノ粒子層)に吸引させ、液位の低下速度を計測し、液の吸引体積流量Vを求める。Vを以下の式(1)に代入して、ウィッカビリティ:Wiを算出する。
【数1】
【0044】
(限界熱輸送量(Qmax))
限界熱輸送量(Qmax)とは、伝熱面熱流束がある値を超えると合体した気泡が伝熱面から液への熱の移動を阻害するようになり、伝熱面過熱度の急上昇を引き起こす際の熱輸送量をいう。
【実施例0045】
以下の実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
〔1〕ナノ粒子層の付着量測定
ナノ粒子層コーティング前の銅基材の質量をX0、ナノ粒子層コーティング後の銅基材の質量をX1とし、その質量差分:X2=X1-X0を金属基材へのナノ粒子層の付着量とした。
【0047】
〔2〕ナノ粒子層が形成された金属基材の吸水性能評価;吸水高さ
純水1800mLを幅30cm×奥行30cm×高さ30cmのプラスチック容器に加
え、ここにナノ粒子層コーティング基材の短辺の端を浸漬させるように立て掛けて、純水が吸い上げられた高さを測定した。4200秒経過後の吸上げ高さ[mm]を吸水性能として評価した。
前記吸上げ高さの値が大きいほど、吸水性能が高く、すなわち毛管力による水の移動速度が早いと評価できる。
【0048】
〔3〕ナノ粒子層が形成された金属基材の吸水性能評価;吸水速度(V
内径1.05mmのガラス製細管に蒸留水を充填して、細管先端を水平に各基材のナノ粒子層面に接触させた。高速度カメラ(ハイスピードカメラ500FPS、株式会社フォトロン製)を用いて、毛管力により細管内の蒸留水がナノ粒子層に吸収されるところを撮影するとともに、細管内の液位の低下速度を計測し、以下の算出式により、蒸留水体積流量Vを算出した。ナノ粒子層の測定部位を変えてVの算出を3回行ない、得られたVの平均値を吸水性能として評価した。
【数2】
【0049】
〔4〕ナノ粒子層が形成された金属基材の吸水性能評価;Wickability(Wi)
前記〔3〕で算出したVを以下の算出式に代入してWiを算出した。ナノ粒子層の測定部位を変えてVの計測及びWiの算出を3回行ない、得られたWi値の平均値を吸水性能として評価した。
【数3】
【0050】
以下の手順にて、実施例及び比較例に用いる金属基材を準備した。
板厚:1mm、寸法:幅60mm×長さ170mmの銅板(以下、銅基材と称する)。
前記、銅基材は表面処理を施していないものを用いた。該銅基材は、あらかじめ、脱脂処理を行ない、純水でよく洗浄後、エアースプレーで乾燥させた。
【0051】
[実施例1]
100mLのポリプロピレン製容器に純水95.1gと水分散シリカゾル(日産化学(株)製、商品名スノーテックス ST-O、固形分20.5質量%)4.9gを加え、これをマグネチックスターラーで5分間撹拌し、ナノ流体(コロイド状粒子を含む分散液)を作製した(シリカ濃度:1.0質量%)。
次いで、図1の模式図に示すコーティング装置に、前記銅基材をセットし、該装置の水槽部へナノ流体を20mL加えた。銅基材が完全にナノ流体に浸漬していることを確認し、ナノ流体が沸騰する温度まで加熱後、10分間沸騰を保持した。次に、水槽部から銅基材を取り出し、同基材上に付着しているナノ流体をシリンジで除去した。その後、ヘアードライヤーによる送風にて、基材に付着していないシリカ分を除去して、ナノ粒子層コーティング基材を得た。
作製したナノ粒子層コーティング基材に関して、前記〔1〕,〔2〕,〔3〕,〔4〕の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0052】
[実施例2]
100mLのポリプロピレン製容器に純水95.1gと水分散シリカゾル(日産化学(株)製、商品名スノーテックス ST-O、固形分20.5質量%)4.9gを加え、これをマグネチックスターラーで5分間撹拌し、ナノ流体を作製した(シリカ濃度:1.0質量%)。
次いで、図1の模式図に示すコーティング装置に、前記銅基材をセットし、該装置の水槽部へナノ流体を20mL加えた。銅基材が完全にナノ流体に浸漬していることを確認し、ナノ流体が沸騰する温度まで加熱後、10分間沸騰を保持した。次に、水槽部から銅基材を取り出し、基材を自然乾燥させた。評価は実施例1と同様の評価を行った。
【0053】
[実施例3]
100mLのポリプロピレン製容器に純水95.1gと水分散シリカゾル(日産化学(株)製、商品名スノーテックス ST-O、固形分20.5質量%)4.9gを加え、これをマグネチックスターラーで5分間撹拌し、ナノ流体を作製した(シリカ濃度:1.0質量%)。
次いで、図2の模式図に示すコーティング装置に、前記銅基材をセットし、該装置の水槽部へナノ流体を20mL加えた。銅基材が完全にナノ流体に浸漬していることを確認し、ナノ流体が沸騰する温度まで加熱後、10分間沸騰を保持した。次に、水槽部から銅基材を取り出し、同基材上に付着しているナノ流体をシリンジで除去した。その後、ヘアードライヤーによる送風にて、基材に付着していないシリカ分を除去して、ナノ粒子層コーティング基材を得た。評価は実施例1と同様の評価を行った。
【0054】
[比較例1]
100mLのポリプロピレン製容器に純水95.1gと水分散シリカゾル(日産化学(株)製、商品名スノーテックス ST-O、固形分20.5質量%)4.9gを加え、これをマグネチックスターラーで5分間撹拌し、ナノ流体を作製した(シリカ濃度:1.0質量%)。
次いで、図2の模式図に示すコーティング装置に、前記銅基材をセットし、該装置の水槽部へナノ流体を20mL加えた。銅基材が完全にナノ流体に浸漬していることを確認し、ナノ流体が沸騰する温度まで加熱後、10分間沸騰を保持した。次に、水槽部から銅基材を取り出し、基材を自然乾燥させた。評価は実施例1と同様の評価を行った。
【0055】
【表1】
【0056】
本発明では(a0)工程と(b0)工程を還流状態で行った実施例1と実施例2では、付着量、吸水高さ、吸水速度、及び吸水性能において、それらを実施していない比較例1に比べて良好な結果が得られた。
また、(c0)工程(前記表1中、ナノ流体除去工程が(c0)工程に相当する)を行った実施例1と実施例3では、付着量、吸水高さ、吸水速度、及び吸水性能において、それらを実施していない比較例1に比べて良好な結果が得られた。
そして、(a0)工程と(b0)工程を還流状態で行い、更に(c0)工程を行った場合は、付着量、吸水高さ、吸水速度、及び吸水性能の全てにおいて総合的に良好な結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0057】
ナノ粒子層を金属基材表面に形成することによる、ナノ粒子層を有する金属材料を製造する方法であり、熱輸送効率が向上したヒートパイプを製造することができる。
【符号の説明】
【0058】
A 凝縮部
B 沸騰部
C 加熱部
1 凝縮器
2 ポリカーボネート容器
3 ナノ流体(コロイド状粒子を含む分散液)
4 ステンレス板
5 金属基材
6 伝熱シリコン
7 伝熱用銅ブロック
8 カートリッジヒーター
9 レンガ
図1
図2