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特開2025-99547水生生物の養殖方法、水生生物の養殖設備、及び飼育水の植え継ぎ方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025099547
(43)【公開日】2025-07-03
(54)【発明の名称】水生生物の養殖方法、水生生物の養殖設備、及び飼育水の植え継ぎ方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/59 20170101AFI20250626BHJP
【FI】
A01K61/59
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023216269
(22)【出願日】2023-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000004189
【氏名又は名称】株式会社ニッスイ
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 正弥
(72)【発明者】
【氏名】松岡 功介
(72)【発明者】
【氏名】森島 輝
【テーマコード(参考)】
2B104
【Fターム(参考)】
2B104AA18
2B104BA14
2B104CA01
2B104CB04
2B104CB10
2B104CB12
2B104CG17
2B104CG22
2B104EA01
2B104EA05
2B104EB20
2B104EC01
2B104EC08
2B104EF09
(57)【要約】
【課題】水生生物の養殖を安定的に行うことが可能な水生生物の養殖方法及び養殖設備を提供すること。
【解決手段】
水槽50における飼育水Wの中で水生生物を養殖する養殖方法であって、飼育水Wに酸化剤を添加して飼育水Wのバルキングを抑制する工程を有する、水生生物の養殖方法を提供する。また、水生生物を養殖する飼育水Wが収容される水槽50と、飼育水Wに酸化剤を添加する酸化剤供給部200と、を備える水生生物の養殖設備であって、上記酸化剤によって水槽50における飼育水Wのバルキングを抑制するように構成される、水生生物の養殖設備100を提供する。
【選択図】図1


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水槽における飼育水の中で水生生物を養殖する養殖方法であって、
前記飼育水に酸化剤を添加して前記飼育水のバルキングを抑制する工程を有する、水生生物の養殖方法。
【請求項2】
前記飼育水がバイオフロックを含む、請求項1に記載の水生生物の養殖方法。
【請求項3】
前記飼育水のバルキングに関連する情報及び前記バイオフロックの機能に関連する情報からなる群より選ばれる少なくとも一つに基づいて、前記酸化剤の前記水槽への供給量を調整する工程を有する、請求項2に記載の水生生物の養殖方法。
【請求項4】
前記バイオフロックのフロック体積をFV(mL)、フロック乾燥重量をTSS(mg)、及びFV/TSS×1000で計算されるフロック1g当たりの体積をSVI(mL/g)としたとき、以下の条件(a)、(b)及び(c)からなる群より選ばれる少なくとも一つを満たすように前記酸化剤の前記水槽への供給量を調整する工程を有する、請求項2に記載の水生生物の養殖方法。
(a)SVI≦1211mL/g
(b)FV≦350mL
(c)前記水生生物の斃死率≦0.59%
【請求項5】
前記水槽における前記飼育水のアンモニア態窒素の濃度が5.0mg/L以下、及び亜硝酸態窒素の濃度が30mg/L以下になるように前記酸化剤の前記飼育水への供給量を調整する工程を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の水生生物の養殖方法。
【請求項6】
前記酸化剤が次亜塩素酸ナトリウムを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の水生生物の養殖方法。
【請求項7】
水と酸化剤とを混合して前記酸化剤の希釈液を得る工程を有し、
前記バルキングを抑制する工程では、前記希釈液を前記水槽における前記飼育水に混合する、請求項1~4のいずれか一項に記載の水生生物の養殖方法。
【請求項8】
前記水槽の前記飼育水中には、前記水生生物が移動可能な第1部分と、侵入不可能な第2部分と、が設けられており、
前記バルキングを抑制する工程では、前記酸化剤を前記第2部分に添加する、請求項1~4のいずれか一項に記載の水生生物の養殖方法。
【請求項9】
前記水生生物がバナメイエビを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の水生生物の養殖方法。
【請求項10】
水生生物を養殖する飼育水が収容される水槽と、前記飼育水に酸化剤を添加する酸化剤供給部と、を備える水生生物の養殖設備であって、
前記酸化剤によって前記水槽における前記飼育水のバルキングを抑制するように構成される、水生生物の養殖設備。
【請求項11】
前記飼育水がバイオフロックを含む、請求項10に記載の水生生物の養殖設備。
【請求項12】
前記酸化剤供給部は、前記飼育水のバルキングに関連する情報及び前記バイオフロックの機能に関連する情報からなる群より選ばれる少なくとも一つに基づいて、前記酸化剤の前記水槽への供給量を調整する調整部を有する、請求項11に記載の水生生物の養殖設備。
【請求項13】
前記酸化剤供給部は、前記バイオフロックのフロック体積をFV(mL)、フロック乾燥重量をTSS(mg)、及びFV/TSS×1000で計算されるフロック1g当たりの体積をSVI(mL/g)としたとき、以下の条件(a)、(b)及び(c)からなる群より選ばれる少なくとも一つを満たすように前記酸化剤の供給量を調整する調整部を有する、請求項11に記載の水生生物の養殖設備。
(a)SVI≦1211mL/g
(b)FV≦350mL
(c)前記水生生物の斃死率≦0.59%
【請求項14】
水と酸化剤とを混合して前記酸化剤の希釈液を得る混合部を備え、
前記水槽における飼育水には前記希釈液が混合される、請求項10~13のいずれか一項に記載の水生生物の養殖設備。
【請求項15】
前記水槽の前記飼育水中に前記水生生物が移動可能な第1部分と侵入不可能な第2部分とを設ける区画部材を備え、
前記酸化剤供給部は、前記酸化剤を前記第2部分に添加する、請求項10~13のいずれか一項に記載の水生生物の養殖設備。
【請求項16】
バイオフロックを含む飼育水の植え継ぎ方法であって、
第1水槽における前記飼育水に酸化剤を添加してバルキングが抑制された植え継ぎ用飼育水を得る工程と、
水生生物を養殖する第2水槽に前記植え継ぎ用飼育水を植え継ぐ工程と、を有する、飼育水の植え継ぎ方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水生生物の養殖方法、水生生物の養殖設備、及び飼育水の植え継ぎ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
陸上に構築された養殖水槽内において魚介類又は甲殻類の育成を行う養殖設備に関し、様々な設備及び装置が開発されている。特許文献1には、硝化細菌を担持した硝化細菌固定化材を使用することで、バイオフロックを用いた養殖設備において養殖水槽の水質を適切に保つ養殖設備が開示されている。特許文献2には、養殖水槽を覆う保温ハウスを設けることで、温度管理の負担を低減し、エビ類の養殖に好適な養殖設備が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2018/151282号
【特許文献2】国際公開第2018/151283号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水生生物の養殖では、飼育水中の糸状性細菌が増殖してバルキングが生じると、飼育水中に浮遊した固形分が水生生物の鰓に詰まり、養殖中の水生生物の斃死率が上昇することが懸念される。そこで、本開示では、水生生物の養殖を安定的に行うことが可能な水生生物の養殖方法及び養殖設備を提供する。また、水生生物の養殖を効率よく行うことが可能な飼育水の植え継ぎ方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一側面は、水槽における飼育水の中で水生生物を養殖する養殖方法であって、前記飼育水に酸化剤を添加して前記飼育水のバルキングを抑制する工程を有する、水生生物の養殖方法を提供する。
【0006】
上記水生生物の養殖方法は、飼育水に酸化剤を添加してバルキングを抑制する工程を有する。飼育水に添加した酸化剤は、バルキングの原因となる糸状性細菌の成長を抑制する。そのため、飼育水に酸化剤を添加することで、バルキングを抑制することができる。これによって、水生生物の斃死を抑制し、水生生物の養殖を安定的に行うことができる。
【0007】
本開示の一側面は、水生生物を養殖する飼育水が収容される水槽と、前記飼育水に酸化剤を添加する酸化剤供給部と、を備える水生生物の養殖設備であって、前記酸化剤によって前記水槽における前記飼育水のバルキングを抑制するように構成される、水生生物の養殖設備を提供する。
【0008】
上記水生生物の養殖設備は、飼育水に酸化剤を供給する酸化剤供給部を備える。飼育水に供給した酸化剤は、バルキングの原因となる糸状性細菌の成長を抑制する。そのため、飼育水に酸化剤を供給する酸化剤供給部を備える養殖設備を用いることで、バルキングを抑制して水生生物の飼育を行うことができる。これによって、水生生物の斃死を抑制し、水生生物の養殖を安定的に行うことができる。
【0009】
本開示の一側面は、バイオフロックを含む飼育水の植え継ぎ方法であって、前記飼育水に酸化剤を添加してバルキングが抑制された植え継ぎ用飼育水を得る工程と、水生生物を養殖する水槽に前記植え継ぎ用飼育水を植え継ぐ工程と、を有する、飼育水の植え継ぎ方法を提供する。
【0010】
上記飼育水の植え継ぎ方法は、バルキングを抑制したバイオフロックを含む飼育水を別の水槽に植え継ぐことができる。このような工程を有することで、酸化剤を添加した飼育水を植え継ぎ用飼育水として使用することができる。これにより、バルキングを抑制したバイオフロックを含む飼育水を、別の水槽に移し替えることができ、養殖に有効なバイオフロックを別の水槽で再利用することができる。これによって、水生生物の養殖を効率よく行うことができる。
【発明の効果】
【0011】
本開示は、水生生物の養殖を安定的に行うことが可能な養殖方法及び養殖設備を提供することができる。また、水生生物の養殖を効率よく行うことが可能な飼育水の植え継ぎ方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態に係る水生生物の養殖設備の一例を示す図である。
図2】水生生物の養殖設備の別の一例を示す平面図である。
図3】水生生物の養殖設備の別の一例を示す断面図である。
図4図2に示す養殖設備の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の幾つかの実施形態を説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。本開示の数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されるいずれかの値に置き換えてもよい。また、個別に挙げた上限値及び下限値を任意に組み合わせた数値範囲も本開示に含まれる。本開示において例示する材料又は成分は特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、説明に使用される上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。
【0014】
一実施形態に係る水生生物の養殖方法は、水槽における飼育水の中で水生生物を養殖する養殖方法であって、飼育水に酸化剤を添加して飼育水のバルキングを抑制する工程を有する。
【0015】
バルキングを抑制する工程では、飼育水中に添加した酸化剤が糸状性細菌を殺菌することで、飼育水のバルキングを抑制することができる。本開示において、バルキングとは、バイオフロック中の糸状性細菌が過剰に増殖し、水中の固液分離が起こりにくくなることをいい、典型的にはSVI>200とすることができる。糸状性細菌が増殖すると、固形分の凝集性が低下したり、水の粘度が増加したりすることによって、飼育水において固形分が沈降し難くなる。沈澱しない固形分は水生生物の鰓詰まりを引き起こし、養殖時における斃死率を上昇させるため、バルキングの頻度を低減することが好ましい。したがって、バルキングを抑制する工程を有することで、養殖中の水生生物の斃死を抑制することができる。
【0016】
本開示において、飼育水とは、水生生物を養殖する水槽に収容され、水生生物の飼育のために使用される水又は水溶液である。飼育水は、淡水、海水、及び汽水からなる群より選ばれる少なくとも一つを含んでもよい。これらは飼育する水生生物の種類に応じて適切なものを選択することができる。海水、及び汽水は、人工海水を用いて調製したものであってよい。卵から出荷サイズまでの飼育時期により、飼育水の種類を変更してもよい。
【0017】
本開示において、酸化剤とは他の物質を酸化して自らは還元される物質をいう。本開示の酸化剤は、気体、液体、及び固体のいずれであってもよいが、取り扱い性の観点から液体であることが好ましい。本開示の酸化剤は、酸化剤自体のみならず、酸化剤を水等の溶媒に溶解した溶解液、及び水等の溶媒で希釈した希釈液も含まれる。酸化剤は、塩素系酸化剤を含んでもよい。塩素系酸化剤としては、例えば、塩素ガス、二酸化塩素、次亜塩素酸又はその塩、亜塩素酸又はその塩、塩素酸又はその塩、過塩素酸又はその塩、塩素化イソシアヌル酸又はその塩等が挙げられる。塩としては、例えば、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム等の次亜塩素酸アルカリ金属塩、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸バリウム等の次亜塩素酸アルカリ土類金属塩、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム等の亜塩素酸アルカリ金属塩、亜塩素酸バリウム等の亜塩素酸アルカリ土類金属塩、亜塩素酸ニッケル等の他の亜塩素酸金属塩、塩素酸アンモニウム、塩素酸ナトリウム、塩素酸カリウム等の塩素酸アルカリ金属塩、塩素酸カルシウム、塩素酸バリウム等の塩素酸アルカリ土類金属塩等が挙げられる。これらの塩素系酸化剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。塩素系酸化剤としては、糸状性細菌への殺菌力、及び取り扱い性等の点から、次亜塩素酸ナトリウムを用いることが好ましい。
【0018】
飼育水はバイオフロックを含んでもよい。本開示において、バイオフロックとは、魚介類や甲殻類等の水生生物の水槽の飼育水中に人為的に作られ、水生生物の餌として使用される微生物の固まり(フロック)である。バイオフロックは、給餌によって増加する有毒なアンモニア及び亜硝酸を減少させる。バイオフロックを含む飼育水に酸化剤を添加することで、バイオフロック中の糸状性細菌を殺菌し、バイオフロックのバルキングを抑制することができる。これによって、バイオフロックが水生生物の鰓に詰まることを抑制し、水生生物の斃死率を低減することができる。
【0019】
バイオフロックは、硝化細菌を含んでもよい。硝化細菌としては、アンモニア酸化細菌、及び亜硝酸酸化細菌等が挙げられる。アンモニア酸化細菌は、好気性雰囲気下で、飼育水中のアンモニア態窒素におけるアンモニウムイオンを酸化して、亜硝酸イオンに変換する細菌である。また、亜硝酸酸化細菌は、好気性雰囲気下で、飼育水中の亜硝酸態窒素における亜硝酸イオンを酸化して硝酸イオンに変換する細菌である。バイオフロックが硝化細菌を含むことで、飼育水のC/N比が適切に調整され、飼育水の水質を高く維持することができ、水生生物の成長を一層促進することができる。また、海水の取水量及び排水量を少なくできるため、養殖における環境負荷を低減することができる。飼育水のC/N比は10以上であってもよく、9以上であってもよく、8以上であってもよく、7以上であってもよく、6以上であってもよい。飼育水のC/N比が上記範囲であることによって、水質を維持することができ、水生生物の成長を一層促進することができる。
【0020】
硝化細菌としては、ニトロバクタ(Nitorobacter)、ニトロスピナ(Nitorospina)、ニトロコッカス(Nitorococcus)等が挙げられる。ただし、硝化細菌の種類はこれらに限定されず、養殖対象の水生生物の種類、水素イオン指数、溶存酸素、窒素濃度、養殖密度、飼育水槽の大きさ(飼育水の量)、温度、pH等の諸条件を考慮して適宜選択できる。硝化細菌は、飼育水中にそのまま加えてもよく、無機担体に担持して加えてもよい。
【0021】
バイオフロックを構成する細菌叢は、例えばFlavobacteriaceae科、Saprospiraceae科、Rhodobacteraceae科等の細菌を含んでよい。このようなバイオフロックを使用することで、飼育水の水質を適切に維持しつつ、水生生物の成長を十分に促進することができる。
【0022】
本実施形態の水生生物の養殖方法は、飼育水のバルキングに関連する情報及びバイオフロックの機能に関連する情報からなる群より選ばれる少なくとも一つに基づいて、酸化剤の水槽への供給量を調整する工程を有していてもよい。飼育水のバルキングに関連する情報は、バルキングに関連する測定値であってよい。バイオフロックの機能に関連する情報は、バイオフロックの機能に関連する測定値であってよい。バルキングに関連する測定値及びバイオフロックの機能に関連する測定値からなる群より選ばれる少なくとも一つが所定の範囲内になるように、酸化剤の水槽への供給量を調整してもよい。酸化剤の供給量の調整は、例えば、酸化剤の供給量を調整するバルブの開度を自動又は手動で変更することで行ってもよい。バルキングに関連する情報が所定の範囲内である場合には、酸化剤の供給量は調整しなくてもよい。酸化剤の供給は、連続的に行ってもよいし、断続的に行ってもよい。バルキングに関連する情報の例としては、SVI、FV、及び水生生物の斃死率が挙げられる。
【0023】
FVは、バイオフロックのフロック体積(mL)である。SVIは、FV/TSS×1000で計算されるフロック1g当たりの体積(mL/g)である。TSSは、フロック乾燥重量(mg)である。例えば、これらをバルキングに関連する情報として選択し、以下の条件(a)、(b)及び(c)からなる群より選ばれる少なくとも一つを満たすように酸化剤の水槽への供給量を調整してもよい。このような酸化剤の供給量を調整する工程を行うことで、バルキングの発生を十分に抑制し、水生生物の斃死を一層抑制することができる。
(a)SVI≦1211mL/g
(b)FV≦350mL
(c)上記水生生物の斃死率≦0.59%
【0024】
条件(a)のSVI(mL/g)は1211mL/g以下であってもよく、1000mL/g以下であってもよく、800mL/g以下であってもよく、500mL/g以下であってもよく、200mL/g以下であってもよく、100mL/g以下であってもよく、80mL/g以下であってもよく、60mL/g以下であってもよく、50mL/g以下であってもよく、40mL/g以下であってもよい。SVIが大きいほど、質量当たりの体積が大きくなっているため、バイオフロックの沈澱が抑制されている。したがって、SVIをバルキングの指標とすることができる。SVIが上記範囲を維持するように酸化剤の供給量を調整する工程を有することで、SVIが増加してバルキングが発生することを十分に抑制することができる。したがって、水生生物の斃死率を低減することができる。バイオフロックを十分に沈殿させる観点から、SVIは5mL/g以上であってもよく、10mL/g以上であってもよい。SVIの数値範囲の一例は、5~60mL/gであってよい。斃死は糸状性細菌の鰓詰まり以外でも生じるが、SVIが特に60mL/gを超えると糸状性細菌の鰓詰まりによる斃死が多く観察されるようになる。
【0025】
FV(mL)は、例えば、飼育水1Lを1L容メスシリンダ等の測定器具に測りとり、30分間静置後の沈殿物の体積を読み取ることで求めることができる。TSS(mg)は、例えば、FVを測定した後の飼育水1Lをろ過し、沈殿物を100℃の恒温槽で1時間乾燥させた後の重量を測ることで求めることができる。
【0026】
条件(b)のFV(mL)は、350mL以下であってもよく、250mL以下であってもよく、150mL以下であってもよく、100mL以下であってもよく、80mL以下であってもよく、60mL以下であってもよく、40mL以下であってもよく、25mL以下であってもよく、20mL以下であってもよく、15mL以下であってもよい。FVが大きいほどバイオフロックが沈澱し難くなり、バルキングが発生し易くなる。したがって、FVもSVIと同様にバルキングの指標とすることができる。FVが上記範囲を維持するように酸化剤の供給量を調整する工程を有することで、FVが増加してバルキングの発生を十分に抑制することができる。したがって、水生生物の斃死率を十分に低減して水生生物の養殖を一層安定的に行うことができる。バイオフロックを十分に沈殿させる観点から、FVは1mL以上であってもよく、2mL以上であってもよい。FVの数値範囲の一例は、1~25mLであってよい。FVが大きくなると糸状性細菌の鰓詰まりによる斃死が多く観察されるようになり、特に25mLを超えると糸状性細菌の鰓詰まりによる斃死が多く観察されるようになることがある。
【0027】
TSS(mg)は、100~1000mgであってよい。TSSがこの範囲であることで、バイオフロックが飼育水中に十分に存在するため、飼育水中のC/N比が適切な範囲に調整されやすくなり、水生生物の成長を促進することができる。また、環境負荷を低減することができる。同様の観点から、TSS(mg)の下限は、150mg、200mg、250mg、又は300mgであってよい。同様の観点から、TSS(mg)の上限は、900mg、800mg、700mg、600mg、又は500mgであってよい。
【0028】
本開示において、斃死率は、特に言及のない場合は対象となる日の前後の日を含む計3日間の平均の斃死率をいう。つまり、斃死率は、各日における一日の斃死率の平均値である。条件(c)について、水生生物の斃死率は0.59%以下であってよく、0.5%以下であってよく、0.4%以下であってよく0.3%以下であってもよい。バイオフロックを含む飼育水にバルキングが発生すると、バイオフロックが沈澱し難くなってバイオフロックが水生生物の鰓に詰まり、斃死率が上昇する。したがって、斃死率をバルキングの指標とすることができる。上記斃死率の計算のもととなる一日の斃死率は、測定日における推定生存尾数と、測定日における斃死尾数との比率で求めることができる。測定日における推定生存尾数は、水槽へ導入した水性生物の尾数から測定日前日までの累積斃死尾数を引いて求めることができる。また、推定生存尾数は、以下の式で求めてもよい。
推定生残尾数=前日の生残尾数-回収斃死尾数-未回収斃死尾数
未回収斃死尾数=在池差異尾数×回収斃死尾数/総回収斃死尾数
在池差異数=導入尾数-水揚げ尾数-総回収斃死尾数
【0029】
生存尾数及び斃死尾数は、目視により数えて求めてもよいし、飼育水の画像を撮影し、画像解析で求めてもよい。斃死の原因が鰓詰まりであることは、斃死した個体の鰓にバイオフロックの固形分が詰まっていることを目視又は画像解析によって判定することができる。斃死率が上記範囲を維持するように酸化剤の供給量を調整する工程を有することで、バルキングの発生を抑制し、水生生物の斃死率が上昇することを抑制することができる。斃死率は0.01%以上であってよい。斃死率の数値範囲の一例は、0.01~0.59%であってよい。本開示で認められる鰓詰まりによる斃死は、水生生物が甲殻類の場合、飼育ステージにより耐性が異なることがある。飼育ステージがいわゆる稚エビと呼ばれるステージでは脱皮頻度が高いため、鰓が詰まってしまう前に脱皮することにより斃死を免れることができる。そのため同程度のバルキングであっても体重が小さい個体よりも、体重が大きい個体の方が斃死が多くなることがある。例えばバナメイエビの場合、体重が15g以上、17g以上、18g以上、20g以上のとき、脱皮頻度が低いためよりバルキングによる斃死リスクが高いことがあり、本開示が効果的である。
【0030】
酸化剤の水槽への供給量を調整する工程は、上述の条件(a)、(b)及び(c)からなる群より選ばれる少なくとも一つを指標として行ってよい。例えば、条件(a)、(b)及び(c)のうち、一つ又は二つのみを指標として行ってもよいし、条件(a)、(b)及び(c)の全てを指標として行ってもよい。この場合、SVI、FV、水生生物の一日の斃死率をそれぞれ測定し、いずれか一つの測定結果が所定の範囲を外れた場合に、酸化剤の水槽への供給量を調整してもよい。各測定結果がいずれも所定の範囲内である場合には、酸化剤の供給量は調整しなくてもよい。
【0031】
バルキングに関連する情報の別の例としては、飼育水におけるバイオフロックの浮遊濃度(MLSS)が挙げられる。浮遊濃度(MLSS)は、500mg/L以下であってよく、400mg/L以下であってよく、300mg/L以下であってもよい。MLSSが上記範囲内であることで、MLSSが増加してバルキングが発生することを十分に抑制することができる。したがって、水生生物の斃死率を低減することができる。また、MLSSは、バイオフロックを十分に沈殿させる観点から、10mg/L以上であってよく、50mg/L以上であってよく、100mg/L以上であってもよい。MLSSの範囲の一例は、10~500mg/Lであってよい。MLSSが上記範囲を維持するように酸化剤の供給量を調整してもよい。MLSSは市販の汚泥濃度計を用いて測定することができる。
【0032】
バイオフロックの機能に関連する情報の例としては、飼育水中のアンモニア態窒素(TAN)の濃度、及び亜硝酸態窒素(NO2-N)の濃度が挙げられる。飼育水中のアンモニア態窒素(TAN)の濃度が5.0mg/L以下、及び亜硝酸態窒素(NO2-N)の濃度が30mg/L以下になるように酸化剤の飼育水への供給量を調整してもよい。アンモニア態窒素及び亜硝酸態窒素が上記範囲にあることで、バイオフロック中の硝化細菌が十分に機能し、飼育水中に生じる有害なアンモニアや亜硝酸を十分に分解して、水質を高く維持することができる。水質を一層高く維持する観点から、TANの濃度は、2.0mg/mL以下であってよく、1.0mg/mL以下であってよく、0.5mg/mL以下であってもよい。TANの濃度が上記範囲となるように酸化剤の供給量を調整してもよい。また、酸化剤による硝化細菌への影響を少なくし、硝化細菌の機能を維持する観点から、TANの濃度は、0.01mg/mL以上であってよく、0.05mg/mL以上であってもよい。TANの濃度範囲の一例は、0.01~5.0mg/mLであってよい。
【0033】
水質を一層高く維持する観点から、NO2-Nの濃度は、10mg/mL以下であってよく、1mg/mL以下であってよく、0.5mg/mL以下であってもよい。このような範囲となるように酸化剤の供給量を調整してもよい。また、酸化剤による硝化細菌への影響を少なくし、硝化細菌の機能を維持する観点から、NO2-Nの濃度は、0.01mg/mL以上であってよく、0.02mg/mL以上であってもよい。NO2-Nの濃度範囲の一例は、0.02~30mg/mLであってよい。このように、アンモニア態窒素(TAN)の濃度、及び亜硝酸態窒素(NO2-N)の濃度の測定結果に基づいて酸化剤の供給量を調整することで、バイオフロック中の硝化細菌へは影響を及ぼさず、バルキングの原因となる糸状性細菌のみを殺菌することができる。これにより、バルキングの発生を抑制しつつ、バイオフロックを十分に機能させ水生生物の成長を一層促進することできる。TAN及びNO2-Nの濃度は、例えば、ケルダール法、及びイオン電極法等によって求めることができる。
【0034】
飼育水の溶存酸素量(DO)は、3.0~8.0mg/Lであってもよく、4.0~7.0mg/Lであってもよい。DOがこの範囲であることで、水質を高く維持することができ、水生生物の成長を一層促進することができる。DOは、例えば、市販の溶存酸素計を用いて測定することができる。
【0035】
飼育水のpHは、6.5~8.5であってもよく、7.0~8.0であってもよい。pHがこの範囲であることで、水生生物の成長に適切なpHを維持し、水生生物の成長を一層促進することができる。pHは、例えば、市販のpHメーターを用いて測定することができる。
【0036】
本実施形態の水生生物の養殖方法は、水と酸化剤とを混合して酸化剤の希釈液を得る工程を有してもよい。得られた希釈液を水槽における飼育水に混合することで、バルキングを抑制することができる。希釈液の調製に用いる水は、例えば、水槽内を循環する水であってもよく、外部から新たに導入した水であってもよい。希釈液を得る工程では、飼育槽とは別の設備で水と酸化剤とを混合して希釈液を調製する。飼育水への希釈液の混合は、希釈液を水槽における飼育水に添加することによって行ってよい。酸化剤を希釈して混合することで、水槽中の水生生物が高濃度の酸化剤に直接触れることを防ぎ、水生生物の損傷を抑制することができる。
【0037】
水道水を酸化剤としてそのまま使用してもよい。水道水は殺菌のため次亜塩素酸ナトリウムが含まれるため、酸化剤の希釈液に該当する。水道水を使用する場合、水道水を、水道水とは異なる水で希釈して希釈水を得てもよい。水道水を使用することで、希釈水を得る工程を一層簡便に行うことができる。水槽に酸化剤を添加する方法の一例として、水道水で水槽内を洗浄したときに生じる洗浄水を水槽の飼育水に利用する方法等が挙げられる。
【0038】
希釈液における酸化剤の濃度は、0.01~10wt%であってよい。酸化剤の濃度が上記範囲であることで、糸状性細菌を効率よく殺菌しつつ、水生生物の損傷を十分に抑制することができる。さらに、硝化細菌を殺菌しすぎず、硝化細菌の硝化機能を十分に維持することができる。これにより、糸状性細菌を殺菌してバルキングを抑制しつつも、硝化細菌を維持してバイオフロック養殖を行うことができる。希釈液における酸化剤の濃度の下限は0.1wt%以上であってよく、1.0wt%以上であってもよい。希釈液における酸化剤の濃度の上限は7.0wt%以下であってもよく、6.0wt%以下であってもよい。
【0039】
酸化剤(希釈液)の供給速度は、10~200mL/hであってもよく、25~150mL/hであってもよく、50~100mL/hであってもよい。このような酸化剤の供給速度であることで、糸状性細菌を効率よく殺菌しつつ、水生生物に酸化剤が直接当たることを防ぎ、水生生物の損傷を抑制することができる。
【0040】
酸化剤の添加時間は、1~5時間であってもよく、2~4時間であってもよい。このような酸化剤の供給速度であることで、糸状性細菌を効率よく殺菌しつつ、水生生物に酸化剤が直接当たることを防ぎ、水生生物の損傷を抑制することができる。
【0041】
水槽の飼育水中には、水生生物が移動可能な第1部分と、侵入不可能な第2部分とが設けられており、バルキングを抑制する工程では、酸化剤又は酸化剤を含む希釈液を第2部分に添加してもよい。添加した酸化剤は、水生生物に直接接触することで水生生物にダメージを与え得る。したがって、飼育水中の水生生物が侵入不可能な第2部分に酸化剤を添加することで、添加した酸化剤が水生生物に直接接触することを防ぐことができる。第1部分と第2部分とを区画する部材としては、例えば、水が流通可能な流通孔を有する区画部材が挙げられる。区画部材は、例えば籠状部材であってよい。
【0042】
本実施形態で養殖される水生生物は、魚類、甲殻類であってもよい。魚類には、ティラピア、ナマズが含まれてもよい。ティラピアにはナイルティラピア、モザンビークティラピア、ジルティラピアが含まれてもよい。ナマズにはアメリカナマズ、ヒゲナガヒレナマズ、マナマズ、イワトコナマズが含まれてもよい。甲殻類にはカニ、エビ(特にはエビ目)が含まれていてもよい。カニにはサワガニ、ソフトシェルクラブ、アサヒガニ、ズワイガニ、紅ズワイガニ、上海蟹、モクズガニ、イシガニ,ガザミ、毛蟹、花咲ガニが含まれてもよい。エビは、大きさに制限はなく、食品としての分類ではいわゆるロブスター(lobster)、プローン(prawn)、シュリンプ(shrimp)が含まれていてもよい。
【0043】
本実施形態で養殖されるエビとしてはエビ目が好ましく、エビ目のなかではクルマエビ上科が好ましい。クルマエビ上科のなかではクルマエビ科が好ましい。クルマエビ科(Penaeidae)のエビとしては、例えば、Farfantepenaeus、Fenneropenaeus、Litopenaeus、Marsupenaeus、Melicertus、Metapenaeopsis、Metapenaeus、Penaeus、Trachypenaeus、Xiphopenaeus属のものが挙げられる。
【0044】
本実施形態で養殖されるクルマエビ科のうち、例えば、食用エビとしては、クルマエビ(Marsupenaeusjaponicus)、ミナミクルマエビ(Melicertus canaliculatus)、ウシエビ(ブラックタイガー)(Penaeus monodon)、コウライエビ(Penaeus chinensis)、クマエビ(Penaeus semisulcatus)、フトミゾエビ(Penaeus latisulcatus)、インドエビ(Fenneropenaeus indicus)、ヨシエビ(Metapenaeus ensis)、トサエビ(Metapenaeus intermedius)、Penaeus occidentalis、ブルーシュリンプ(Penaeus stylirostris)、レッドテールシュリンプ(Penaeus pencicillatus)、バナメイエビ(Litopenaeus vannamei)等が挙げられる。ただし、水生生物は、これらに限定されるものではない。
【0045】
本実施形態で養殖される水生生物は、クルマエビ科、リトペニウス属、特に、バナメイエビ(Litopenaeus vannamei)を含んでもよい。バナメイエビは本実施形態における養殖対象として、好適に利用することができる。
【0046】
本実施形態で養殖される水生生物としてバナメイエビを養殖する場合、飼育水の水温は25~32℃であってもよく、26~30℃であってもよい。バナメイエビは、中南米等の熱帯を原産とするため、上記の水温であることで、バナメイエビの飼育に適した温度となり、バナメイエビの成長を一層促進することができる。
【0047】
図1を参照して一実施形態に係る水生生物の養殖設備を説明する。養殖設備100は、水生生物を養殖する飼育水が収容される水槽50と、水槽50中の飼育水Wに酸化剤を添加する酸化剤供給部200と、飼育水Wのバルキングに関連する情報及びバイオフロックの機能に関連する情報からなる群より選ばれる少なくとも一つを取得する情報取得部150と、を備える。養殖設備100は、酸化剤供給部200からの酸化剤によって水槽50における飼育水Wのバルキングを抑制するように構成される。
【0048】
酸化剤供給部200は、酸化剤を収容するタンク202と、酸化剤の水槽50への供給量を調整する調整部203と、調整部203を制御する制御部205とを有する。情報取得部150は、SVI、FV、MLSS、斃死率、飼育水中のアンモニア態窒素(TAN)の濃度、及び、飼育水中の亜硝酸態窒素(NO2-N)の濃度からなる群より選ばれる少なくとも一つの情報を取得するものであってよい。情報取得部150は、例えば、これらの値を直接測定する測定機器であってよく、これらの値を算出するための値を測定する測定機器であってもよい。調整部203は、情報取得部150で得られた情報に基づいて酸化剤の水槽50への供給量を調整する。
【0049】
調整部203は、上述の条件(a)、(b)及び(c)からなる群より選ばれる少なくとも一つを満たすように酸化剤の水槽への供給量を調整してもよい。このような酸化剤の供給量を調整する調整部203を有することで、養殖設備100においてバルキングの発生を十分に抑制し、水生生物の斃死を一層抑制することができる。調整部203は、上述したTANの濃度が5.0mg/mL以下、及びNO2-Nの濃度が30mg/L以下となるように酸化剤の飼育水への供給量を調整してもよい。
【0050】
制御部205は、調整部203を制御するコンピュータであってよい。制御部205は、調整部203から水槽50に供給される酸化剤の流量を制御可能に構成される。制御部205は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、及び、入出力インターフェイス等のハードウェアを備えてよい。制御部205は、酸化剤又はその希釈液の流量を調節する調整部203を制御する制御信号を出力してよい。調整部203は通常の流量調整弁であってよい。
【0051】
調整部203を自動制御することは必須ではなく、手動で調整してもよい。飼育水Wへの酸化剤の添加は流量計又は定量容器等を用いて、作業員が行ってもよい。タンク202の上流には、酸化剤と水とを混合して希釈液を得る混合部があってもよい。また、タンク202に酸化剤と水とを添加して希釈液を調製してもよい。この場合、タンク202が混合部となる。希釈液を調製する際の水は、水槽50の飼育水を使用してもよいし、これとは異なる水であってもよい。そのような水は、水道水であってもよい。
【0052】
水道水は、あらかじめ殺菌のために次亜塩素酸ナトリウムが含まれているため、水道水をそのまま酸化剤供給部200から水槽50内の飼育水Wに添加してもよい。水道水を使用することで、酸化剤の取り扱いを一層簡便にすることができる。また、水槽50の洗浄に用いた水道水を希釈液として利用してもよい。
【0053】
水槽50には、飼育水が流出入可能に構成される区画部材Kが設けられている。区画部材Kは、飼育水W中のバナメイエビPが侵入不可能な第2部分K2と、移動可能な第1部分K1とを区画する。酸化剤はバナメイエビPが侵入不可能な第2部分K2に添加される。そのため、酸化剤とバナメイエビPとが直接接触することを抑制できる。第1部分K1においては、酸化剤が検出されなくてもよい。これによって、バナメイエビPの酸化剤による損傷を一層抑制することができる。区画部材Kは、例えば、籠状部材であってもよいし、第1部分K1と第2部分K2とが水平方向に沿って並ぶように区画する板状部材であってもよい。
【0054】
第2部分K2の体積は、飼育水Wの体積全体に対して0.5~10.0%であってもよく、1.0~5.0%であってもよく、1.5~3.0%であってもよい。第2部分K2の体積がこのような範囲であることで、第1部分K1の体積を十分に確保しつつ、第2部分K2に添加された酸化剤が第1部分K1に大量に流出することを抑制できる。
【0055】
養殖設備100は閉鎖型の陸上養殖設備であり、上述した水生生物を養殖対象とすることができる。上述の水生生物の養殖方法は、養殖設備100を用いて行うことができる。したがって、水生生物の養殖方法の説明内容は、養殖設備100にも適用できる。養殖設備100の説明内容も、水生生物の養殖方法に適用できる。
【0056】
図2図3及び図4を参照して、水生生物の養殖設備の別の例を説明する。図2に示すように、養殖設備105は、3つの水槽50を有している。水槽50は、図3に示すように、保温ハウス10内に配置されている。養殖設備105は、水槽50内の飼育水Wの加温するボイラー30と、ボイラー30において使用される燃料を貯留する燃料タンク31を備える。養殖設備105においては、必要に応じてボイラー30を運転し、保温ハウス10内の室温及び水槽50内の飼育水Wの水温を適正に保ちながら、エアインジェクター60、水車70、曝気装置80、循環ポンプ91及び自動給餌機20を稼働させることにより、水槽50内の飼育水W中で水生生物の養殖を行うことができる。水槽50における飼育水Wは上述したバイオフロックを含んでいてもよい。飼育水Wがバイオフロックを含むことで、環境負荷を低減した陸上養殖を行うことができる。
【0057】
図3で示す保温ハウス10で覆われた部分の地面Gに3つの水槽50が配置されている。本開示において、「保温ハウス」とは、養殖水槽施設の温度を所定範囲内に維持するための構築物である。保温ハウス外の温度が、養殖に適した温度よりも低い場合には、保温ハウスを外気から隔離することにより、保温ハウス内の温度を養殖に適した温度に保つことができる。保温ハウス10は、複数のパイプ材及びアングル材を組み合わせて形成された蒲鉾型の建屋11の周りを合成樹脂フィルム材12で被覆することによって構築されている。保温ハウス10は複数の連棟構造であってよい。保温ハウス10のサイズ、連棟数は特に限定されない。
【0058】
図3に示すとおり、水槽50の上面及び外周面は複数の板状の断熱材40(例えば、発泡合成樹脂材)によって覆われている。水槽50の上方において、建屋11の構成部材によって水平状態に支持された複数の受け梁41の上に複数の断熱材40が着脱可能に配置されている。断熱材40は断熱機能を有するとともに、外部からの光(太陽光)を遮蔽する機能も有していてよい。水槽50内でバナメイエビを養殖する場合、飼育水Wの温度は比較的高く(28℃程度)保つことが好ましい。水槽50の上面は断熱材40で覆われ、水槽50全体が保温ハウス10内に配置されているため、飼育水Wの散逸を抑制することができる。断熱材40により水槽50内の飼育水Wの水温変化が抑制されるため、光熱費を削減することができる。
【0059】
水槽50の平面視形状は長方形であり、水槽50を構成する長方形の短辺側の内壁面51及び長辺側の内壁面52は、水槽50内に向かって下り勾配をなすように傾斜していてよい。
【0060】
養殖設備105において、水槽50は、地面Gから重力方向に向かって凹状部を形成し、この凹状部の内壁面及び底面に遮水性を有する合成樹脂製シートを敷設することによって形成されている。水槽50の底面53の平面視形状は長方形をなしており、全体的に水平であってよい。
【0061】
養殖設備105は、地面Gに形成した凹状部に合成樹脂シート材(例えば、PE保護シート)を敷設して水槽50を設けている。水槽50に代えてコンクリート製、プラスチック製、又は金属製の水槽を用いてもよい。
【0062】
図2図3及び図4に示すように、水槽50の中央部には、水槽50の長手方向に沿って平板状の隔壁54が設けられている。隔壁54及びその端部54aは、4つの内壁面51,51,52,52から離れている。4つの内壁面51,51,52,52と隔壁54によって、隔壁54の周りを飼育水Wの水流Sが水平方向に流動する循環流水路55が形成されている。
【0063】
水槽50の底面53には、循環流水路55の長手方向に沿って複数のエアインジェクター60が配置されている。水槽50の長手方向の端部寄りの部分には、それぞれ隔壁54を挟んで一対の水車70,70が配置されている。水槽50の長手方向の端部近傍には、それぞれ曝気装置80が配置されている。水槽50の短辺部分の外部には、それぞれ沈殿槽90及び循環ポンプ91が配置されている。水槽50の一方の短辺部分の外部には自動給餌機20及び循環ポンプ91が配置されている。
【0064】
図2及び図4に示すように、水車70は、水平軸を中心に回転可能な回転羽根71と、回転羽根71を駆動するためのモータ72を備えている。回転羽根71の回転方向は切り替え可能である。水槽50の底面53に設けられた複数のエアインジェクター60からエアが混ざった水を噴出することにより、水槽50中の飼育水Wに、図2及び図4中の矢線で示すように隔壁54の周りを連続的に旋回して循環する水流Sを発生させることができる。水槽50は、水流Sに沿って泳ぐ性質を有する水生生物(例えば、クルマエビ、ウシエビ、ボタンエビ、ブドウエビ、テナガエビ、サクラエビ、ホッコクアカエビ、コウライエビ、ヨシエビ、バナメイエビ)の養殖に好適である。
【0065】
水槽50においては、曝気装置80及び複数の水車70を稼働させることにより、空気中の酸素を飼育水W中へ効率的に供給することができる。水車70の回転羽根71は回転方向が変更可能であってよい。
【0066】
養殖設備105は、水槽50に酸化剤を添加する酸化剤供給部200を備える。酸化剤供給部200は、水槽50の外側に配置されていてよい。酸化剤供給部200は水槽50内の飼育水Wに酸化剤を添加するように構成されていてもよいし、飼育水Wの水中に酸化剤又はその希釈液を添加するように構成されていてもよい。酸化剤供給部200を備える養殖設備105は、飼育水W中の糸状性細菌を殺菌し、飼育水Wのバルキングを抑制することができる。このような養殖設備100は、水生生物の斃死を抑制し、水生生物の養殖を安定的に行うことができる。
【0067】
酸化剤供給部200は、図1と同様に、飼育水Wのバルキングに関連する情報に基づいて酸化剤の供給量を調整する調整部と、調整部を制御する制御部とを備えていてよい。各情報に基づいて、調整部は酸化剤の供給量を調整することができる。このような養殖設備105は、飼育水中にバルキングが生じ始めるときに酸化剤を添加することができ、バルキングが抑制された好ましい水質を維持することができる。
【0068】
上述の水生生物の養殖方法は、養殖設備100,105を用いて行うことができる。したがって、水生生物の養殖方法の説明内容は、養殖設備100,105にも適用できる。養殖設備100,105の説明内容も、水生生物の養殖方法に適用できる。
【0069】
一実施形態に係る飼育水の植え継ぎ方法は、バイオフロックを含む飼育水の植え継ぎ方法であって、水生生物を養殖する第1水槽で使用した飼育水に酸化剤を添加してバルキングが抑制された植え継ぎ用飼育水を得る工程と、水生生物を養殖する第2水槽に上記植え継ぎ用飼育水を植え継ぐ工程と、を有してもよい。植え継ぎとは水槽内の飼育水を別の水槽に移し替える作業のことをいう。植え継ぎは、第1水槽内の一部の飼育水を第2水槽に移し替えてもよく、第1水槽内の全部の飼育水を第2水槽に移し替えてもよい。また、一つの第1水槽から複数の第2水槽に移し替えてもよい。このような工程を有することで、酸化剤を添加した後の飼育水を第1水槽から第2水槽に移し替えることができる。これにより、バルキングを抑制したバイオフロックを含む飼育水を、第1水槽から第2水槽に移し替え、養殖に有効なバイオフロックを第2水槽で再利用することができる。
【0070】
以上、本開示の幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。
【0071】
本開示は、以下の実施形態を含む。
[1]水槽における飼育水の中で水生生物を養殖する養殖方法であって、
前記飼育水に酸化剤を添加して前記飼育水のバルキングを抑制する工程を有する、水生生物の養殖方法。
[2]前記飼育水がバイオフロックを含む、[1]に記載の水生生物の養殖方法。
[3]前記飼育水のバルキングに関連する情報及び前記バイオフロックの機能に関連する情報からなる群より選ばれる少なくとも一つに基づいて、前記酸化剤の前記水槽への供給量を調整する工程を有する、[2]に記載の水生生物の養殖方法。
[4]前記バイオフロックのフロック体積をFV(mL)、フロック乾燥重量をTSS(mg)、及びFV/TSS×1000で計算されるフロック1g当たりの体積をSVI(mL/g)としたとき、以下の条件(a)、(b)及び(c)からなる群より選ばれる少なくとも一つを満たすように前記酸化剤の前記水槽への供給量を調整する工程を有する、[2]又は[3]に記載の水生生物の養殖方法。
(a)SVI≦1211mL/g
(b)FV≦350mL
(c)前記水生生物の斃死率≦0.59%
[5]前記水槽における前記飼育水のアンモニア態窒素の濃度が5.0mg/L以下、及び亜硝酸態窒素の濃度が30mg/L以下になるように前記酸化剤の前記飼育水への供給量を調整する工程を有する、[1]~[4]のいずれかに記載の水生生物の養殖方法。
[6]前記酸化剤が次亜塩素酸ナトリウムを含む、[1]~[5]のいずれかに記載の水生生物の養殖方法。
[7]水と酸化剤とを混合して前記酸化剤の希釈液を得る工程を有し、
前記バルキングを抑制する工程では、前記希釈液を前記水槽における前記飼育水に混合する、[1]~[6]のいずれかに記載の水生生物の養殖方法。
[8]前記水槽の前記飼育水中には、前記水生生物が移動可能な第1部分と、侵入不可能な第2部分と、が設けられており、
前記バルキングを抑制する工程では、前記酸化剤を前記第2部分に添加する、[1]~[7]のいずれかに記載の水生生物の養殖方法。
[9]前記水生生物がバナメイエビを含む、[1]~[8]のいずれかに記載の水生生物の養殖方法。
[10]水生生物を養殖する飼育水が収容される水槽と、前記飼育水に酸化剤を添加する酸化剤供給部と、を備える水生生物の養殖設備であって、
前記酸化剤によって前記水槽における前記飼育水のバルキングを抑制するように構成される、水生生物の養殖設備。
[11]前記飼育水がバイオフロックを含む、[10]に記載の水生生物の養殖設備。
[12]前記酸化剤供給部は、前記飼育水のバルキングに関連する情報及び前記バイオフロックの機能に関連する情報からなる群より選ばれる少なくとも一つに基づいて、前記酸化剤の前記水槽への供給量を調整する調整部を有する、[11]に記載の水生生物の養殖設備。
[13]前記バイオフロックのフロック体積をFV(mL)、フロック乾燥重量をTSS(mg)、及びFV/TSS×1000で計算されるフロック1g当たりの体積をSVI(mL/g)としたとき、以下の条件(a)、(b)及び(c)からなる群より選ばれる少なくとも一つを満たすように、前記酸化剤供給部からの前記酸化剤の供給量を調整する調整部を備える、[11]又は[12]に記載の水生生物の養殖設備。
(a)SVI≦1211mL/g
(b)FV≦350mL
(c)前記水生生物の斃死率≦0.59%
[14]水と酸化剤とを混合して前記酸化剤の希釈液を得る混合部を備え、
前記水槽における飼育水には前記希釈液が混合される、[10]~[13]のいずれかに記載の水生生物の養殖設備。
[15]前記水槽の前記飼育水中に前記水生生物が移動可能な第1部分と侵入不可能な第2部分とを設ける区画部材を備え、
前記酸化剤供給部は前記酸化剤を前記第2部分に添加する、[10]~[14]のいずれかに記載の水生生物の養殖設備。
[16]バイオフロックを含む飼育水の植え継ぎ方法であって、
第1水槽における前記飼育水に酸化剤を添加してバルキングが抑制された植え継ぎ用飼育水を得る工程と、
水生生物を養殖する第2水槽に前記植え継ぎ用飼育水を植え継ぐ工程と、を有する、飼育水の植え継ぎ方法。
【実施例0072】
以下、実施例、比較例及び参考例を挙げて本開示の内容をより具体的に説明する。なお、本開示は下記実施例に限定されるものではない。
【0073】
<バルキングと斃死尾数の関係>
(比較例1)
バナメイエビの体重1g弱程度の大きさの稚エビ184998尾をバイオフロック(TSS)52.2kgを含む435tの飼育水の水槽内で、飼育を開始した。水温は26~32℃を維持し、アンモニア濃度コントロールのための炭素源の添加、pH維持のためのpH調整剤の添加を行い、バイオフロックの形成を促し、調整を行った。好気的な環境を維持するための酸素供給、適正なフロック量を維持するための余剰フロック回収を行った。飼育開始から一日ごとにTSS、FV、SVI、一日の斃死尾数、一日の斃死率を求めた。一日の斃死尾数は、一日ごとに水槽を目視で観察して、斃死した個体の数を数えることで求めた。一日の斃死率は、測定日における推定生存尾数と、測定日における斃死尾数との比率で求めた。測定日における推定生存尾数は、水槽へ導入した尾数から測定日前日までの累積斃死尾数を引いて求めた。バルキングの抑制による斃死率低減の効果を正確に判断するため、斃死率は対象となる日とその前後の日にそれぞれ測定される一日の斃死率の平均として求めた。FVは、飼育水を1L容メスシリンダに採取し、30分間静置後のバイオフロックの体積を読み取ることで求めた。TSSは、FVを測定したバイオフロックを乾燥させ、重量を測定して求めた。FVとTSSから、SVIを算出した。飼育開始から20~63日間における斃死率、TSS、FV、及びSVIの測定結果を表1に示す。測定を行っていない欄は「-」で示した。
【0074】
【表1】
【0075】
表1に示すとおり、バルキングの指標であるFV及びSVIが大きくなると、バナメイエビの斃死率も大きくなる傾向がみられた。したがって、バルキングがバナメイエビの斃死率に影響を及ぼすことが確認された。
【0076】
<酸化剤を使用した水生生物の養殖実験>
(実施例)
図1に示すような区画部材を備える水槽を用いて、バナメイエビのバイオフロック養殖を行った。水槽にバイオフロック10Lを含む3トンの飼育水を収容し、789尾の体重20g程度のバナメイエビを入れ、飼育を開始した。給餌は、毎日午前と午後に200gずつの飼料を与えることによって行った。水温は28℃程度を維持し、pH維持のためのpH調整剤の添加により調整を行った。好気的な環境を維持するための酸素供給を行った。飼育を開始してから1日ごとに斃死尾数、斃死率、水温、溶存酸素量(DO)、TAN、NO2-N、pH、MLSS、TSS、FV、及びSVIを測定し、水質の変化を調べた。斃死率、MLSS、TSS、FV、及びSVIは、比較例1と同じ手順で求めた。DOは市販の溶存酸素計(飯島電子工業株式会社製、商品名:DOメーターID-150)、pHは市販のpHメーター(東興化学研究所製、商品名:ガラス電極式水素イオン濃度指示計TPX-999i)を用いて求めた。TAN及びNO2-Nは市販のパックテスト(共立理化学研究所製、商品名:パックテスト アンモニウム、パックテスト 亜硝酸)を用いて求めた。
【0077】
飼育開始後、87~102日間における、斃死率、MLSS、TSS、FV、及びSVIの測定結果を表2に示す。飼育開始後、87~102日間における、斃死率、水温、DO、TAN、NO2-N、及びpHの測定値を表3に示す。
【0078】
飼育開始後、1~69日間はバナメイエビの斃死が全く生じず、バルキングは生じていなかった。この間、FVは25以下、且つSVIは60以下であり、水質の変化は検知できなかった。飼育を開始してから70日目にバナメイエビの斃死がみられた。70日目以降は、徐々に斃死尾数が増加した。以後は斃死尾数の増加に伴って、FV及びSVIが増加する傾向がみられた。斃死した個体を目視で確認したところ、鰓に固形分が詰まっていた。これらの結果から、バルキングが生じていたことが分かった。
【0079】
飼育を開始してから91日目に、籠状部材で区画された飼育水中の第2部分に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を100mL/hの供給速度で250mL添加した。区画部材は籠状部材であり、第2部分の体積は飼育水の全体積の1.75%とした。このとき添加した次亜塩素酸ナトリウム水溶液の次亜塩素酸ナトリウムの濃度は2.4質量%であった。添加開始時のFVは600mL/gであった。添加は4時間かけて行った。添加を開始してから2時間経過後に、FVは400mL/gに低下していた。したがって、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の添加がFVを減少させ、バルキングを抑制したことが確認された。なお、バナメイエビが移動可能な第1区画には塩素は検出されなかった(塩素の検出下限:0.05質量ppm)。
【0080】
飼育を開始してから98日目に、上記第2部分に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を50mL/hの供給速度で200mL添加した。このとき添加した次亜塩素酸ナトリウム水溶液の次亜塩素酸ナトリウムの濃度は6.0質量%であった。添加開始時のFVは350mL/gであった。添加は4.5時間かけて行った。添加を開始してから4.5時間経過後に、FVは15mL/gに低下していた。したがって、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の添加がFVを減少させ、バルキングを抑制したことが確認された。なお、バナメイエビが移動可能な第1部分には塩素は検出されなかった(塩素の検出下限:0.05質量ppm)。
【0081】
飼育を開始してから91日目に2.4質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を250mL添加したところ、91日目では1771mL/gであったSVIが、92日目では613mL/gまで減少し、さらに斃死率も2.3%から1.1%に減少していた。その後、飼育日数の経過に伴い、SVIが再び上昇し始めた。そこで、飼育を開始してから98日目に6.0質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を200mL添加したところ、98日目では1211mL/gであったSVIが、99日目では66mL/gまで減少し、さらに斃死率も0.59%から0.47%に減少していた。なお、91日目及び98日目に次亜塩素酸ナトリウムを添加したため、表2における次亜塩素滴下の項目の91日目及び98日目の欄に「〇」を付けた。
【0082】
また、TAN及びNO2-Nの値は飼育の間で上昇せず、次亜塩素酸ナトリウムを添加してもバイオフロック中の硝化細菌の機能は維持されていることが確認された。以上より、次亜塩素酸ナトリウムを飼育水に添加することで、バルキングの原因となる糸状性細菌を殺菌してバルキングを抑制する一方で、硝化細菌への影響は少ないことが示された。
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0085】
本開示は、水生生物の養殖を安定的に行うことが可能な養殖方法及び養殖設備を提供することができる。また、水生生物の養殖を効率よく行うことが可能な飼育水の植え継ぎ方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0086】
100,105…養殖設備、W…飼育水、50…水槽、200…酸化剤供給部、202…タンク、203…調整部、205…制御部、150…情報取得部、10…保温ハウス、20…自動給餌機、30…ボイラー、31…燃料タンク、51,52…内壁面、53…底面、54…隔壁、54a…端部、55…循環流水路、60…エアインジェクター、70…水車、71…回転羽根、72…モータ、80…曝気装置、90…沈殿槽、91…循環ポンプ、G…地面、11…建屋、12…合成樹脂フィルム材、40…断熱材、41…受け梁、K…区画部材、K1…第1部分、K2…第2部分、P…バナメイエビ、S…水流。

図1
図2
図3
図4