特開2026-163021IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2026.10.10 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東ソー株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】
(43)【公開日】
(54)【発明の名称】細胞培養基材
(51)【国際特許分類】
   
   
   
   
【FI】
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】
(21)【出願番号】
(22)【出願日】
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今泉 裕
(72)【発明者】
【氏名】牧内 直征
【テーマコード(参考)】
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043BA16
2G043CA04
2G043EA01
2G043FA02
2G043KA02
2G043KA03
2G043MA01
2G057AA04
2G057AB01
2G057AB03
2G057AC01
2G057BA03
2G057BB06
2G057BC07
2G057BD02
2G057BD04
4B029AA08
4B029AA21
4B029BB01
4B029CC02
4B029FA12
4B029FA15
4B029GA03
4B029GB09
4B029HA05
(57)【要約】
【課題】細胞等の選択的な接着性に優れ、かつ、細胞等の蛍光分析に適した細胞培養基材の提供。
【解決手段】細胞培養基材であって、基材と、前記基材の一方の表面の少なくとも一部を被覆する親水性層とを備え、基材は、芳香環を有するポリマーを含み、厚さが1mm未満であり、所定の波長域の光の透過率が80%以上であり、細胞培養基材の第1表面は、(A)領域及び(B)領域を有し、(A)領域は、細胞接着性及び細胞増殖性を有し、(B)領域は、領域(A)に隣接し、細胞接着性及び/又は細胞増殖性を有さず、(A)領域は、親水性層に形成された凹部からなり、細胞培養基材は、基材の親水性層が設けられている表面とは反対側の表面に接して補強層が設けられ、補強層は、所定の波長域の光の透過率が80%以上であり、所定の波長域の光に対して実質的に非蛍光性であり、補強層の表面弾性率N1と、基材の表面弾性率N2の関係が、N1>N2である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項】
細胞培養基材であって、
基材と、前記基材の一方の表面の少なくとも一部を被覆する親水性高分子を含む親水性層と、を備え、
前記基材は、
分子内に芳香環を有するポリマーを含み、
厚さが1mm未満であり、
波長350~800nmの波長域の光の透過率が80%以上であり、
前記細胞培養基材の第1表面は、(A)領域、及び(B)領域を有し、
前記(A)領域は、細胞接着性及び細胞増殖性を有する領域であり、
前記(B)領域は、前記領域(A)に隣接し、細胞接着性及び/又は細胞増殖性を有しない領域であり、
前記(A)領域は、前記親水性層に形成された凹部からなり、
前記細胞培養基材は、さらに、前記基材の前記親水性層が設けられている表面とは反対側の表面に接して補強層が設けられてなり、
前記補強層は、波長350~800nmの波長域の光の透過率が80%以上であり、波長230nm以上800nm以下の波長領域の光に対して実質的に非蛍光性であり、かつ、温度23℃においてナノインデンテーション法で測定した前記補強層の表面の弾性率をN1、前記基材の表面の弾性率をN2としたときに、N1>N2である、細胞培養基材。
【請求項】
前記ポリマーが、芳香族ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、及びポリイミドからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の細胞培養基材。
【請求項】
前記補強層の厚さ(mm)/前記基材の厚さ(mm)が、0.01以上1.0未満である、請求項1又は2に記載の細胞培養基材。
【請求項】
前記N1及び前記N2が、N1>(4×N2)の関係であるとともに、前記補強層の厚さ(mm)/前記基材の厚さ(mm)が0.1以上0.3以下である、請求項1又は2に記載の細胞培養基材。
【請求項】
前記N2が1.0GPa以上であり、前記N1が5.0GPa以上である、請求項1又は2に記載の細胞培養基材。
【請求項】
前記補強層が、有機材料又は有機-無機ハイブリッド材料のいずれかから形成されるハードコート層である、請求項1又は2に記載の細胞培養基材。
【請求項】
前記ハードコート層が、架橋性の樹脂を含むハードコート剤により形成される層である、請求項6に記載の細胞培養基材。
【請求項】
前記ハードコート剤が、シリカ粒子及びアルミナ粒子からなる群から選択される少なくとも一方の粒子を含む、請求項7に記載の細胞培養基材。
【請求項】
前記ハードコート剤が、多官能アクリレートと、光ラジカル発生剤と、シリカ粒子とを含む、請求項7に記載の細胞培養基材。
【請求項】
前記ハードコート剤が、250~350nmの範囲内に吸収スペクトルのピーク波長を有する紫外線吸収剤を含む、請求項7に記載の細胞培養基材。
【請求項】
前記補強層の前記基材と対向する側とは反対側の表面に、前記補強層よりも屈折率が低い低屈折率層が設けられている、請求項1又は2に記載の細胞培養基材。
【請求項】
前記(A)領域の最大深さが1nm以上2000nm以下である、請求項1又は2に記載の細胞培養基材。
【請求項】
前記(A)領域の底面の少なくとも一部が前記基材で構成されている、請求項1又は2に記載の細胞培養基材。
【請求項】
前記親水性層の厚さが、10nm以上500nm以下である、請求項1又は2に記載の細胞培養基材。
【請求項】
前記(A)領域が、前記基材の一方の表面に形成された親水性層の一部をリアクティブイオンエッチングによって除去することによって形成されてなる、請求項1又は2に記載の細胞培養基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【】
本開示は、例えば、蛍光顕微鏡を用いた細胞や細胞凝集塊の蛍光観察に好適に用いることのできる細胞培養基材に関する。
【背景技術】
【】
分子が紫外・可視の光を吸収した後、光を放出し基底状態へ戻る過程で放出される蛍光によって分析をする蛍光分析装置としては、蛍光顕微鏡、マイクロアレイスキャナー等が挙げられる。蛍光分析は高感度であるため、現在では微量成分の分析にとって最も重要な手段の一つとなっている。
蛍光顕微鏡は生体高分子の動きや、生物反応の観察等に用いられる。蛍光色素を光らせるための光(励起光)を照射する光学系と、それにより発生した蛍光(蛍光放射光)を観察する光学顕微鏡を組み合わせたものである。
マイクロアレイスキャナーは、遺伝子関連、又は創薬開発におけるハイスループットスクリーニング用途等でその性能を発揮している。例えば、遺伝子関連用途では、オリゴDNAを基板上で合成、又はcDNAをスライドガラスにスポットしたDNAマイクロアレイに使用され、蛍光色素でラベルし、各スポットの蛍光強度をマイクロアレイスキャナーで解析するなどの用途に用いられている。
蛍光分析の特徴は、微量成分の分析に適していることであり、なかでもレーザー光によるマイクロアレイスキャナーは、サンプルの微量化にともない解析装置として重要となってきている。
ところで、蛍光分析に従来から使用されているガラス製プレート、例えば、幅25mm、長さ75mmのスライドガラスは高価であった。このような課題を解決する方法としてスライドガラスを樹脂製プレートに置き換える検討がなされてきた。しかしながら、樹脂製プレートは、測定波長の光、例えば紫外線の透過率が低かったり、樹脂製プレート自体が蛍光を発する(自家蛍光)ために生体高分子等に結合させた蛍光色素からの蛍光強度が正確に識別できないことがある、といった課題を有していることがあった。
このような樹脂製プレートが有する課題に対し、特許文献1には、生物化学用途、例えば蛍光顕微鏡による生体高分子の動きの観察、生物反応の観察、遺伝子関連、又は創薬開発におけるハイスループットスクリーニング用途におけるマイクロアレイスキャナーを用いた、スポット別の蛍光強度などの用途に好適に用いることができる樹脂製プレートに関する発明が記載されている。
特許文献1の発明に係る樹脂製プレートは、波長300nm以上、800nm以下の波長領域における光の透過率が80%以上であり、かつ、波長230nm以上、800nm以下の波長領域の光を照射したときに自家蛍光を発せず、化学構造にベンゼン環を有しない樹脂からなる、生物化学用途において蛍光分析に使用されるものである。
そして、特許文献1の段落[0020]では、ガラス製プレートと同等の光透過率とするには、紫外線領域を含んだ波長300nm以上、800nm以下の波長領域において光透過率が80%以上であることが必要であり、このような条件を満たすためには、ポリカーボネート、ポリスチレン等、その化学構造にベンゼン環を有している材料は使用しないことが必要であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【】
【特許文献】特開2005-134339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【】
本発明者らの検討によれば、ベンゼン環のような芳香環を有するポリマーを含む基材を備える細胞培養基材は、細胞の選択的接着性に優れる表面を形成し得る点で有用であるとの認識を得ている。その一方で、芳香環を有するポリマーを含む基材は、紫外線領域を含む光に対して自家蛍光を発するため、当該細胞培養基材の一方の面(第2表面)側から紫外領域の光を入射させ、当該第2表面とは反対側の面(第1表面)上に付着してなる細胞等に結合された蛍光色素からの蛍光を観察しようとした場合において、本来検出すべき蛍光に自家蛍光が混在し、蛍光分析の精度に影響を与えることがあった。そこで、本発明者らは、細胞培養基材の基材として、芳香環を有するポリマーを含む基材を用いることを前提として、細胞培養基材の第1表面に付着してなる細胞等を第2表面の側から紫外領域の波長を含む光を入射させて蛍光色素からの蛍光を検出して蛍光分析するにあたって、基材の自家蛍光の影響を防止すべく、基材の厚みを1mm未満とすることを試みた。その結果、蛍光分析における基材の自家蛍光の影響を有意に軽減することができた。その一方で、ポリマーで構成されてなる、厚さ1mm未満の基材を用いた細胞培養基材は、その第1表面上の細胞や細胞凝集塊の重さによって基材が部分的に撓むことがあった。基材が部分的に撓むことで、観察領域の全体に蛍光顕微鏡の焦点が合わなくなり、細胞等の正確な蛍光観察に支障を来す可能性がある。
本開示の一態様は、細胞等の選択的な接着性に優れ、かつ、細胞等の蛍光分析に適した細胞培養基材の提供に向けたものである。
【課題を解決するための手段】
【】
本開示は、以下の態様を含む。
[1] 細胞培養基材であって、
基材と、前記基材の一方の表面の少なくとも一部を被覆する親水性高分子を含む親水性層と、を備え、
前記基材は、
分子内に芳香環を有するポリマーを含み、
厚さが1mm未満であり、
波長350~800nmの波長域の光の透過率が80%以上であり、
前記細胞培養基材の第1表面は、(A)領域、及び(B)領域を有し、
前記(A)領域は、細胞接着性及び細胞増殖性を有する領域であり、
前記(B)領域は、前記領域(A)に隣接し、細胞接着性及び/又は細胞増殖性を有しない領域であり、
前記(A)領域は、前記親水性層に形成された凹部からなり、
前記細胞培養基材は、さらに、前記基材の前記親水性層が設けられている表面とは反対側の表面に接して補強層が設けられてなり、
前記補強層は、波長350~800nmの波長域の光の透過率が80%以上であり、波長230nm以上800nm以下の波長領域の光に対して実質的に非蛍光性であり、かつ、温度23℃においてナノインデンテーション法で測定した前記補強層の表面の弾性率をN1、前記基材の表面の弾性率をN2としたときに、N1>N2である、細胞培養基材。
[2] 前記ポリマーが、芳香族ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、及びポリイミドからなる群から選択される少なくとも1種である、[1]に記載の細胞培養基材。
[3] 前記補強層の厚さ(mm)/前記基材の厚さ(mm)が、0.01以上1.0未満である、[1]又は[2]に記載の細胞培養基材。
[4] 前記N1及び前記N2が、N1>(4×N2)の関係であるとともに、前記補強層の厚さ(mm)/前記基材の厚さ(mm)が0.1以上0.3以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の細胞培養基材。
[5] 前記N2が1.0GPa以上であり、前記N1が5.0GPa以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の細胞培養基材。
[6] 前記補強層が、有機材料又は有機-無機ハイブリッド材料のいずれかから形成
されるハードコート層である、[1]~[5]のいずれかに記載の細胞培養基材。
[7] 前記ハードコート層が、架橋性の樹脂を含むハードコート剤により形成される層である、[6]に記載の細胞培養基材。
[8] 前記ハードコート剤が、シリカ粒子及びアルミナ粒子からなる群から選択される少なくとも一方の粒子を含む、[7]に記載の細胞培養基材。
[9] 前記ハードコート剤が、多官能アクリレートと、光ラジカル発生剤と、シリカ粒子とを含む、[7]又は[8]に記載の細胞培養基材。
[10] 前記ハードコート剤が、250~350nmの範囲内に吸収スペクトルのピーク波長を有する紫外線吸収剤を含む、[7]~[9]のいずれかに記載の細胞培養基材。
[11] 前記補強層の前記基材と対向する側とは反対側の表面に、前記補強層よりも屈折率が低い低屈折率層が設けられている、[1]~[10]のいずれかに記載の細胞培養基材。
[12] 前記(A)領域の最大深さが1nm以上2000nm以下である、[1]~[11]のいずれかに記載の細胞培養基材。
[13] 前記(A)領域の底面の少なくとも一部が前記基材で構成されている、[1]~[12]のいずれかに記載の細胞培養基材。
[14] 前記親水性層の厚さが、10nm以上500nm以下である、[1]~[13]のいずれかに記載の細胞培養基材。
[15] 前記(A)領域が、前記基材の一方の表面に形成された親水性層の一部をリアクティブイオンエッチングによって除去することによって形成されてなる、[1]~[14]のいずれかに記載の細胞培養基材。
【発明の効果】
【】
本開示の一態様によれば、細胞の選択的な接着性に優れ、かつ、細胞等の蛍光分析に適した(細胞観察性に優れる)細胞培養基材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【】
【図】本開示の一実施態様に係る細胞培養基材の模式図(断面図)である。
【図】本開示の一実施態様に係る細胞培養基材の製造方法における親水性層形成工程(工程(1))後の表面に親水性層が形成された基材の模式図(斜視図)である。
【図】本開示の一実施態様に係る細胞培養基材の製造方法におけるパターニング工程(工程(3))後の細胞培養基材の模式図(斜視図)である。
【図】本開示の一実施態様に係る細胞培養基材の製造方法における貼り合わせ工程(工程(4))後の細胞培養基材の模式図(斜視図)である。
【図】本開示の他の実施態様に係る細胞培養基材の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【】
本明細書において、数値範囲を表す「XX以上YY以下」や「XX~YY」の記載は、特に断りのない限り、端点である下限、及び上限を含む数値範囲を意味する。数値範囲が段階的に記載されている場合、各数値範囲の上限、及び下限は任意に組み合わせることができる。また、本明細書において、例えば「XX、YY、及びZZからなる群から選択される少なくとも一つ」のような記載は、XX単独、YY単独、ZZ単独、XXとYYとの組合せ、XXとZZとの組合せ、YYとZZとの組合せ、又はXXとYYとZZとの組合せのいずれかを意味する。また、本明細書において、「一態様」や「一実施態様」などの記載は、複数登場する場合においては必ずしも同じ態様を指しているとは限らず、異なる態様を指している場合がある。
【】
本明細書において「細胞凝集塊」とは、複数の細胞が集まって形成される細胞の三次元凝集塊を意味する。三次元凝集塊の形状は、球状等の楕円体の形状であってもよく、半球
状等の形状であってもよい。これらの形状は、シート状の細胞が折りたたまれることで形成される隙間のある形状であってもよく、中空の形状であってもよい。細胞凝集塊の一例として、スフェロイドが挙げられる。
【】
本明細書において、「温度応答性」とは、温度変化によって親水性/疎水性の程度が変化することを示す。さらに、親水性/疎水性の程度が変化する境界温度を「応答温度」と表記する。
【】
本明細書において、「生体由来物質」とは、生物の体内に存在する物質、及び当該物質と同等の物質であって、化学的に合成した物質を意味する。生物の体内に存在する物質は、天然物であってもよく、遺伝子組み換え技術等で人工的に合成したものであってもよい。生体由来物質に特に限定はないが、例えば、生体を構成する基本材料である核酸、タンパク質及び多糖、及びこれらの構成要素であるヌクレオチド、ヌクレオシド、アミノ酸、及び各種の糖、並びに脂質、ビタミン及びホルモンが挙げられる。
【】
本明細書において、「細胞接着性」とは、培養温度における基材又は細胞培養基材への接着しやすさを示し、「細胞接着性を有する」とは、細胞が培養温度において基材又は細胞培養基材に直接又は生体由来物質を介して接着可能であることを示す。また、「細胞接着性を有しない」とは、培養温度において細胞が基材又は細胞培養基材に直接又は生体由来物質を介して接着できないことを示す。細胞接着性の有無を評価する方法としては特に限定されないが、例えば前述した生体由来物質に蛍光色素等のラベリング処理したものを当該領域に添加して、前記物質の吸着有無を確認する方法や、当該領域の水接触角を測定する方法等がある。
【】
本明細書において、「細胞増殖性」とは、培養温度における細胞の増殖しやすさを示し、「細胞増殖性を有する」とは、培養温度において細胞が増殖可能であることを示す。また、「細胞増殖性を有しない」とは、培養温度において細胞が増殖できないことを示す。「細胞増殖性が高い」とは、同一の培養期間で比較した際により多くの細胞へと増殖することを示す。
【】
本発明者らは、細胞の選択的接着性に優れる表面を与えることができる芳香環を有するポリマーを含む基材を用いることを前提として、当該基材に起因する自家蛍光の蛍光分析に与える影響を防止することができ、かつ、基板上において培養される細胞等の重さによっても基材がたわむことのない細胞培養基材を得ることを目的としてさらなる検討を重ねた。
その結果、以下のような細胞培養基材が、上記の目的をよく達成し得ることを見出した。
【】
すなわち、本開示の一態様に係る細胞培養基材は、基材と、前記基材の一方の表面の少なくとも一部を被覆する親水性高分子を含む親水性層と、を備える。前記基材は、分子内に芳香環を有するポリマーを含み、厚さが1mm未満であり、波長350~800nmの波長域の光の透過率が80%以上である。また、前記細胞培養基材の第1表面は、(A)領域、及び(B)領域を有し、前記(A)領域は、細胞接着性及び細胞増殖性を有する領域であり、
前記(B)領域は、前記領域(A)に隣接し、細胞接着性及び/又は細胞増殖性を有しない領域であり、前記(A)領域は、前記親水性層に形成された凹部からなる。
前記細胞培養基材は、さらに、前記基材の前記親水性層が設けられている表面とは反対側の表面に接して補強層が設けられてなり、
前記補強層は、波長350~800nmの波長域の光の透過率が80%以上であり、波長230nm以上800nm以下の波長領域の光に対して、すなわち、波長230nm以
上800nm以下の波長領域の励起光を照射した場合に実質的に非蛍光性であり、かつ、温度23℃においてナノインデンテーション法で測定した前記補強層の表面の弾性率をN1、前記基材の表面の弾性率をN2としたとき、N1>N2の関係を有する。
【】
なお、本明細書において、「実質的に非蛍光性」とは、蛍光顕微鏡での細胞観察時に実質的に蛍光が観察されないことをいう。具体的には、蛍光色素が標識された細胞と比較して蛍光強度が1%未満、好ましくは0.1%未満、より好ましくは0.01%未満であることを意味する。また、N1、N2はそれぞれ数値を意味し単位は[GPa]である。
【】
図1に本開示に係る細胞培養基材の一実施形態の概略断面図を示す。
図1に示す細胞培養基材10は、基材1と、基材1の一方の表面の少なくとも一部を被覆する親水性高分子を含有する層(親水性層)2と、基材1の親水性層2を有する表面とは反対側の表面に接する補強層3とを備える。
基材1は、分子内に芳香環を有するポリマーを含み、厚さが1mm未満であり、波長350~800nmの波長域の光の透過率が80%以上である。
補強層3は、波長350~800nmの波長域の光の透過率が80%以上であり、波長230nm以上800nm以下の波長領域の光に対して実質的に非蛍光性であり、かつ、表面の弾性率N1が、基材1の表面の弾性率N2よりも大きい(N1>N2)。
【】
細胞培養基材10の第1表面は、下記(A)領域及び下記(B)領域を有する。
(A)細胞接着性及び細胞増殖性を有する島状の領域、
(B)(A)領域に隣接し、細胞接着性及び/又は細胞増殖性を有しない領域。
本態様に係る細胞培養基材10においては、(A)領域は、親水性層2に形成された凹部からなる。すなわち、凹部の底部が(A)領域を構成する。このような(A)領域は、例えば、基材1の一方の表面全面を被覆するように親水性層2を設けたのち、親水性層2に対して位置選択的(パターン状)にリアクティブイオンエッチング(RIE)などのプラズマ処理を施すことによって、当該親水性層の厚さ方向の一部又は全部を除去する工程(パターニング工程)を経ることによって形成することができる。
このとき、親水性層2の厚さ方向の全てを除去した場合、親水性層に形成された凹部の底部は基材の表面となる。すなわち、(A)領域は、図1に示すように基材1の表面の一部(親水性層2の非形成部)で構成されることとなる。また、親水性層2の厚さ方向の一部を除去した場合、(A)領域は、図5に示したように親水性層2の一部で構成されることとなる。
また、パターニング工程にRIEのようなプラズマ処理を用いることによって親水性層2に形成された凹部の底部を構成する基材又は親水性層の部分は、プラズマによって処理され、当該底面にはカルボキシ基等の親水性の官能基が導入される。
また、プラズマ処理によって親水性層の厚さ方向の全てを除去して基材の一部を露出させてなる図1に示した構成においては、芳香環を分子内に有するポリマーを含むことにより疎水性が高くなっている基材の表面がプラズマによって改質され、親水性の官能基が導入される。そのため、疎水性と親水性とがよりよくバランスされ、細胞の接着性をより高めた(A)領域とすることができる。
【】
<基材>
本実施形態に係る細胞培養基材の一部を構成する基材は、波長350~800nmの波長領域における光の透過率が80%以上であり、好ましくは90%以上である。
また、基材は、分子内に芳香環を有するポリマーを含む。分子内に芳香環を有するポリマーを含む基材は、その表面により高度な細胞の接着性を付与し得る。その理由としては以下のように考えられる。すなわち、分子内に芳香環を有するポリマーを含む基材は疎水性が高い。そのため当該基材の表面への細胞の接着性は極めて低い。しかしながら、当該基材に対してプラズマ処理等を施して当該基材の表面にヒドロキシ基やカルボキシ基のよ
うな親水性の官能基を導入することによって、当該基材の表面における親水性と疎水性とがバランスされたものとすることができる。その結果として、細胞の接着性に極めて優れた(A)領域を形成することができる。
【】
分子内に芳香環を有するポリマーとしては、波長350~800nmの波長領域における光の透過率が80%以上であって、かつ、分子内に芳香環を有していれば特に限定されないが、例えば、芳香族ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、及びポリイミドからなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【】
基材の厚さとしては、1mm未満であり、0.5mm以下が好ましく、0.1mm(100μm)未満がより好ましく、0.08mm(80μm)以下が特に好ましい。すなわち、分子内に芳香環を有するポリマーを含む基材は、波長230~800nmの波長域の光を照射したときに自家蛍光を発することがある。自家蛍光は、細胞培養基材上の細胞や細胞凝集塊等に標識された蛍光色素からの蛍光とコンタミネーションし、当該細胞や細胞凝集塊の正確な蛍光観察が困難となる場合がある。しかしながら、基材の厚さを上記のように薄くすることで、たとえ当該基材中に芳香環を有するポリマーが含まれていても、蛍光分析における自家蛍光の影響を軽減することができ、細胞の明瞭な蛍光像を得ることができる。また、基材が薄いことは光の透過率向上やヘーズ値(光の散乱度合い)の低減にも繋がり、細胞の明瞭な蛍光像取得に寄与する。基材の厚さの下限は特に限定されないが、例えば、ハンドリング性の観点等から、0.01mm(10μm)以上が好ましく、0.02mm(20μm)以上がより好ましい。すなわち、基材の厚みは、0.01mm以上1mm未満が好ましく、0.01mm以上0.5mm以下がより好ましく、0.01mm以上0.1mm未満が特に好ましく、0.02mm以上0.08mm以下がとりわけ好ましい。なお、ここでの基材の厚みは、基材の最も薄い部分における厚みを意味する。
【】
基材の形状としては、特に制限はなく、板、フィルムのような平面形状であることができ、また、細胞培養等に一般に用いられる容器(ペトリ皿等の細胞培養皿、フラスコ、プレート、バッグ等)の形状であってもよい。培養操作の容易性から、基材の形状は、板、フィルムのような平面形状、又は平膜の多孔質膜の形状であることが好ましい。
【】
<補強層>
本開示に係る細胞培養基材における基材の厚さが1mm未満であることに起因する新たな課題として、細胞培養基材の表面上で成長してなる細胞や細胞凝集塊の重さによって基材が部分的に撓むことがある。このような撓みは、蛍光分析において観察領域の全域に蛍光顕微鏡の焦点が合わなくなり、明瞭な蛍光像を得るうえで障害となり得る。そこで、本開示に係る細胞培養基材は、図1に示すように、基材1の親水性層2が設けられる側とは反対側の表面に接して補強層3を有する。これにより、当該撓みの発生を防いでいる。
【】
補強層3は、蛍光分析に影響を与えることがないように、波長350~800nmの波長域の光の透過率が80%以上であり、かつ、波長230nm以上、800nm以下の波長領域の光に対して実質的に非蛍光性である。また、基材の撓みをより確実に防止する観点から、補強層は、基材に対向する側の表面とは反対側の表面において測定される弾性率をN1とし、基材の表面において測定される弾性率をN2としたとき、N1>N2の関係を有し、好ましくはN1>(2×N2)の関係を有し、より好ましくはN1>(4×N2)の関係を有する。基材の撓みをさらに確実に防止する観点から、補強層と基材とがN1>N2の関係を満たしたうえで、N2は、1.0GPa以上が好ましく、より好ましくは、1.5GPa以上である。N2の上限は特に限定されないが、取り扱い性の観点から、例えば、8.0GPa以下が好ましく、4.0GPa以下がより好ましい。
また、N1は、3.0GPa以上が好ましく、より好ましくは5.0GPa以上、さらに好ましくは7.0GPa以上である。N1の上限は特に限定されないが、靭性確保の観
点から、例えば、20.0GPa以下が好ましく、15.0GPa以下がより好ましく、10.0GPa以下がさらに好ましい。
すなわち、補強層の弾性率N1、及び基材の弾性率N2は、N1>N2の関係を満たしたうえで、1.0GPa≦N2≦8.0GPaであることが好ましく、1.5GPa≦N2≦4.0GPaであることがより好ましく、また、3.0GPa≦N1≦20.0GPaであることが好ましく、5.0GPa≦N1≦15.0GPaであることがより好ましく、7.0GPa≦N1≦10.0GPaであることが特に好ましい。
【】
ここで、上記の弾性率は、ISO14577(2002)に準拠して、圧子の荷重-侵入量曲線のうち、除荷時に得られた除荷曲線において、最大荷重の65%以上95%以下の荷重域における傾きから測定される。測定条件は、次の通りである。
・測定装置:ナノインデンテーション法 ダイナミック超微小硬度計「商品名PICODENTOR HM500、(製造元フィッシャー・インストルメンツ社製)」
・圧子:120゜の面角を持つ円錐のBerkovich型ダイヤモンド圧子
・圧子の押込み深さ:0.2μm
・圧子の押込み速度:0.02μm/秒
・圧子の除荷速度:0.02μm/秒
・押込んだ状態での保持時間:5.0秒
【】
補強層の厚さとしては、例えば、1~200μmであり、1~100μmが好ましく、5~50μmがより好ましく、5~30μmがさらに好ましく、5~20μmが特に好ましい。
補強層が光や熱により硬化した硬化膜である場合における、補強層の形成時の硬化収縮によって基材が、補強層が設けられている側にカールすることをより確実に防止するとともに細胞培養基材の撓みを防止する観点から、補強層の厚さ(mm)/基材の厚さ(mm)は、0.01以上1.0未満であることが好ましく、0.1以上0.5以下であることがより好ましく、0.1以上0.3以下であることが特に好ましい。
【】
補強層の材料としては、上で述べた物性を達成し得る限り特に限定されないが、例えば、窒化ケイ素、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、フッ化マグネシウムなどの無機材料、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂などの有機材料、有機材料と無機粒子を含む有機-無機ハイブリッド材料が挙げられる。細胞培養基材の撓みを防止するとともに細胞観察性(反射防止機能付与)を向上させる観点から、無機材料を用いた補強層として、フッ化マグネシウムの単層膜や、二酸化ケイ素と二酸化チタンを交互に積層させた積層膜とすることが好ましい。また、撓み防止と製造プロセス簡易化の観点からは、補強層は、有機材料、又は有機-無機ハイブリッド材料のいずれかから形成されるハードコート層であることが好ましい。
【】
補強層の形成方法としては、補強層の構成材料に適した方法が適宜採用される。例えば、補強層を窒化ケイ素などの無機材料の膜とする場合には、スパッタリング法やCVD法によって形成することができる。また、補強層をハードコート層とする場合には、光硬化タイプや熱硬化タイプのハードコート剤を基材の光入射面上にグラビアコート、スプレーコート、インクジェットコートなどの方法で塗布し、硬化させることで形成することができる。
【】
有機材料を含む補強層は、例えば、樹脂を含んだ液状のコーティング剤(ハードコート剤)を基材の表面に塗布することにより形成することができる。ハードコート剤は、架橋性の樹脂(モノマー及び/又はオリゴマーを含む)を含むことが好ましい。架橋性の樹脂を含むハードコート剤としては、例えば、多官能アクリレートを含むアクリル系、多官能エポキシや多官能オキセタンを含むエポキシ系、メラミンとフェノールを含むメラミンフ
ェノール系、シリコーン系等の有機系ハードコート剤等が挙げられる。特には、ハードコート剤は、架橋性の樹脂とともに無機粒子を含有してなる有機-無機ハイブリッド系ハードコート剤が好ましい。無機粒子としては、例えば、シリカ粒子及びアルミナ粒子からなる群から選択される少なくとも一方の粒子が挙げられる。
【】
ハードコート剤として、紫外線(UV)の照射によって硬化される光硬化タイプが用いてもよいし、熱が加えられることによって硬化される熱硬化タイプを用いてもよい。
撓み防止及び生産性(低温での速効果)の観点からは、ハードコート剤は、多官能アクリレートと、光ラジカル発生剤(光開始剤)と、シリカ粒子とを含む、光硬化タイプの有機-無機ハイブリッド系ハードコート剤であることが特に好ましい。この場合、補強層表面の弾性率を9GPa以上とすることが可能であるとともに、表面の鉛筆硬度として9H以上にできるため、細胞培養基材を取り扱う際に補強層の表面が実験台などと接触しても傷が付きにくく、細胞観察性の低下が起こりにくい。
【】
ハードコート剤は、さらに、紫外線吸収剤を含んでもよい。例えば、細胞等に標識された蛍光色素の励起光のピーク波長が350~400nmの範囲にある場合、励起光のスペクトルのうち短波長側の光が基材中の芳香環成分を励起してわずかな自家蛍光も発しないように、250~350nmの範囲内に吸収スペクトルのピーク波長を有する紫外線吸収剤を含むことができる。この場合の紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系の紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤、トリアジン系の紫外線吸収剤等が挙げられ、ハードコート剤は、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、及びトリアジン系紫外線吸収剤からなる群から選択される少なくとも1種を含むことができる。ハードコート剤が、励起光のピーク波長よりも短波長側に吸収スペクトルのピーク波長を有する紫外線吸収剤を含む場合、このハードコート剤により形成された補強層を備えた細胞培養基材は自家蛍光が特に低減されるため、細胞観察性に一層優れる。
【】
補強層の基材と対向する側とは反対側の表面(蛍光観察における光入射面)には、さらに、補強層よりも屈折率が低い層(低屈折率層)(不図示)を設けてもよい。低屈折率層を設けることにより、細胞培養基材の最表面と空気との間での界面反射が低減されることで、細胞に対して励起光がより多く照射されるとともに、蛍光色素から発せられる光をより多く取り出すことができるため、細胞観察性にさらに優れる。低屈折率層としては、例えば、フッ素を含有する無機膜や有機膜を挙げることができる。
【】
本開示に係る細胞培養基材における基材と補強層との組合せの例として、例えば、基材が、厚さが0.08mm(80μm)の芳香族ポリカーボネート(ビスフェノールA型)製のシート(弾性率=2.0GPa)に対して、補強層として、厚さが0.01mm(10μm)ハードコート層(光(UV)硬化型有機-無機ハイブリッド系ハードコート材(商品名:8RX-012、大成ファインケミカル株式会社製)の硬化膜、弾性率=9.0GPa)を組み合わせることで、当該細胞培養基材の第2面上に培養されてなる細胞や細胞凝集塊の重みによっても基材が撓むことを有効に防止し得る。
【】
本開示に係る細胞培養基材における基材と補強層との組合せの他の例として、例えば、基材が、厚さが0.05mm(50μm)のポリエチレンテレフタレート製のシート(弾性率=3.0GPa)に対して、補強層として、厚さが0.02mm(20μm)のハードコート層(光硬化性ハードコート剤(商品名:PC X166、DIC株式会社製)の硬化膜、弾性率=7.0GPa)を組み合わせることで、当該細胞培養基材の第2面上に培養されてなる細胞や細胞凝集塊の重みによっても基材が撓むことを有効に防止し得る。
【】
本開示に係る細胞培養基材における基材と補強層との組合せのさらに他の例として、例
えば、基材が、厚さが0.05mm(50μm)の芳香族ポリカーボネートのシート(弾性率=1.5GPa)に対して、補強層として、厚さが0.02mm(20μm)のハードコート層(熱硬化性ハードコート剤(商品名:NSC-3101、日本精化株式会社製)の硬化膜、弾性率=5.0GPa)を組み合わせることで、当該細胞培養基材の第2面上に培養されてなる細胞や細胞凝集塊の重みによっても基材が撓むことを有効に防止し得る。
【】
<親水性層>
親水性層2の層厚は、例えば、10nm以上500nm以下であってよい。親水性層の層厚が10nm以上500nm以下であることにより、(A)領域のみに細胞を接着及び増殖させることが可能であり、また、細胞の遊走により(A)領域に細胞を集めやすく、細胞凝集塊の細胞生存率を高めることができる。ここで、親水性層の「層厚」とは、基材と親水性層の界面から、親水性層の基材とは逆側の界面((A)領域を除く。)までの面外方向の長さを示す。層厚が10nmを超える範囲ではミクロトームにより作製した細胞培養基材の超薄切片を用いて断面像を透過型電子顕微鏡によって測定し、無作為に選んだ10点の該距離を測定し、平均することで算出することができる。また、層厚が10nm以下の範囲ではエリプソメーターを用いて測定することができる。(B)領域に細胞が接着するのを抑制するのに好適であるため、層厚が10nm以上であることが好ましく、30nm以上、40nm以上、さらには50nm以上であることがより好ましい。また、細胞の遊走により(A)領域に細胞を集めることで細胞凝集塊の細胞生存率を高めるのに好適であることから、層厚が200nm以下であることが好ましく、180nm以下、160nm以下、150nm以下、140nm以下、さらには120nm以下であることがより好ましい。親水性層の層厚の範囲としては、例えば、10nm以上200nm以下、10nm以上120nm以下、30nm以上200nm以下、30nm以上120nm以下、40nm以上200nm以下、40nm以上120nm以下、50nm以上200nm以下、又は50nm以上120nm以下であることが好ましい。
【】
(A)領域の最大深さとは、(A)領域の底面、すなわち、親水性層に形成された凹部の底部と(B)領域の面との面外方向の距離を意味する。(A)領域の最大深さは、例えば、1nm以上2000nm以下であってよく、1nm以上500nm以下であってよい。(A)領域の最大深さが500nm以下であることで、凹凸によって捕捉される死細胞の数をより抑制することができ、細胞凝集塊に混入する死細胞の数をより低減させることができる。これにより、細胞凝集塊の細胞生存率をより高めることが可能である。また、(A)領域の最大深さが500nm以下であると、凹凸部分への気泡の付着がより抑制される。気泡の付着が抑制されると、気泡を除去するために脱気を行ったりピペッターを用いて培地の吐出と吸引を繰り返したりする必要がなくなり、操作性がより向上する。(A)領域の最大深さが1nm以上であることで、細胞培養基材上で自発的に移動(遊走)した生細胞がより(A)領域に集まり易くなるため、細胞凝集塊の細胞生存率をより高めることができる。形成される細胞凝集塊の細胞生存率をより高めるのに好適であることから、(A)領域の最大深さは、400nm以下がより好ましく、350nm以下がさらに好ましい。
【】
親水性層を構成する親水性高分子は、ホスホリルコリン基又は水酸基を含むことが好ましい。親水性高分子がホスホリルコリン基又は水酸基を含むことにより、親水性高分子が被覆された領域を細胞が接着しない領域とすることが可能である。加えて、このような親水性高分子は完全に分解除去される必要が無いので、プラズマ処理を行うことで、その領域を細胞接着性及び細胞増殖性を有する領域とすることができ、細胞に親水性高分子の分解物が混入しにくい。ホスホリルコリン基又は水酸基を含むこと以外に、親水性高分子の種類に特に限定はないが、市販品としては例えば、Lipidure(登録商標)CM5206(日油(株)製)、Lipidure CM2001(日油(株)製)、BIOSURFINE(登録商標)-AWP(東洋合成工業(株)製)等を挙げることができる。また、親水性高分子が被覆済みの市販品の親水性層付きの基材としては、PrimeSurface(登録商標)(住友ベークライト(社)製)、EZ-BindShut(登録商標)(AGCテクノグラス(社)製)、EZ-BindShut II(AGCテクノグラス(社)製)等を好適に用いることができる。
【】
親水性高分子は、下記一般式(1)で表される化合物、下記一般式(2)で表される化合物、又は下記一般式(3)で表される化合物を含むことが好ましい。
【】
【化】

[一般式(1)中、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、R3は水素原子又は任意の有機基を示し、m及びnはそれぞれ独立に正の整数を示す。]
【】
【化】

[一般式(2)中、R4、R5及びR6はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、R7は水素原子又は任意の有機基を示し、x、y及びzはそれぞれ独立に正の整数を示す。]
【】
【化】

[一般式(3)中、R8及びR9はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、R10は水素原子又は任意の有機基を示し、a及びbはそれぞれ独立に正の整数を示す。]
【】
親水性高分子が上記一般式(1)で表される化合物、上記一般式(2)で表される化合物、又は上記一般式(3)で表される化合物を含むことで、細胞を接着及び増殖させやすくなり、(A)領域において均一な形状の細胞凝集塊を形成させるのに好適である。上記一般式(1)、上記一般式(2)、又は上記一般式(3)において、R3、R7、及びR10は、親水性高分子を基材に固定化するのに好適であることから、それぞれ、疎水性基、又は活性エネルギー線(例えば、UV、電子線等)に対する反応性を有する官能基であることが好ましい。疎水性基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、シクロヘキシル基等の直鎖又は環状アルキル基等を好適に用いることができる。また、活性エネルギー線(例えば、UV、電子線等)に対する反応性を有する官能基としては、アジド基、アクリレート基、メタクリレート基、ビニル基、エポキシ基等が挙げられ、アジド基を好適に用いることができる。
【】
(A)領域は、細胞培養基材を親水性層側から基材に対して直交する方向で観察したときに島状の領域として把握されるように形成されていることが好ましい。このとき島状の領域の外周は、(A)領域と(B)領域の境界にあたる。本明細書において、(A)領域と(B)領域の境界(すなわち、上記島状の領域の外周)で画定される平面領域を開口部と呼ぶこともある。図1中、φは、開口部の径(本明細書中、スポット径とも呼ぶ。)を示す。なお、島状の領域であるとは、当該領域が当該領域以外の領域から独立した状態で存在していることを示す。(A)領域が上述のような島状の領域であることにより、上述のような島状の領域ではない場合(例えば、ストライプ構造等の場合)と比べて、(A)領域に生細胞が集中して存在するようになるため、細胞凝集塊をより効率よく製造することができる。
【】
開口部((A)領域と(B)領域の境界で画定される平面領域)の形状は、特に限定はなく、目的とする細胞凝集塊の形状に応じて適宜設定可能であるが、例えば、楕円(円を含む。)、多角形、又は直線及び曲線で形成される閉じた形状等を挙げることができる。また、球に近い形状の細胞凝集塊を製造するのに好適であることから、開口部の形状として、楕円(円を含む。)又は多角形が好ましく、楕円(円を含む。)又は長方形がより好ましく、楕円(円を含む。)又は正方形がさらに好ましく、楕円(円を含む。)が最も好ましい。
【】
球に近い形状の細胞凝集塊を製造するのに好適であることから、開口部((A)領域と(B)領域の境界で画定される平面領域)の形状のアスペクト比としては、1以上2以下が好ましく、1以上1.5以下がより好ましく、1以上1.1以下がさらに好ましく、1以上1.05以下が最も好ましい。ここで、「アスペクト比」とは、形状の最大径(長径)と最小径(短径)の比である長径/短径を示す。
【】
均一なサイズ及び形状の細胞凝集塊を製造するのに好適であることから、開口部((A)領域と(B)領域の境界で画定される平面領域)の形状のアスペクト比の標準偏差/平均アスペクト比が80%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましく、20%以下であることがさらに好ましく、5%以下であることが最も好ましい。
【】
開口部((A)領域と(B)領域の境界で画定される平面領域)の面積は、例えば、0.001mm2以上5mm2以下であってよい。当該面積は、0.005mm2以上1mm2以下が好ましく、面積0.01mm2以上0.5mm2以下がより好ましく、面積0.015mm2以上0.25mm2以下がさらに好ましく、面積0.02mm2以上0.2mm2以下が最も好ましい。
【】
均一なサイズ及び形状の細胞凝集塊を製造するのに好適であることから、開口部((A
)領域と(B)領域の境界で画定される平面領域)の面積の標準偏差/平均面積が80%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましく、20%以下であることがさらに好ましく、5%以下であることが最も好ましい。
【】
(A)領域の底面の形状は、開口部の形状と同一であってもよく、異なっていてもよい。(A)領域の底面の形状は、特に限定はなく、目的とする細胞凝集塊の形状に応じて適宜設定可能であるが、例えば、楕円(円を含む。)、多角形、又は直線及び曲線で形成される閉じた形状等を挙げることができる。また、球に近い形状の細胞凝集塊を製造するのに好適であることから、開口部の形状として、楕円(円を含む。)又は多角形が好ましく、楕円(円を含む。)又は長方形がより好ましく、楕円(円を含む。)又は正方形がさらに好ましく、楕円(円を含む。)が最も好ましい。
【】
(A)領域の底面の形状のアスペクト比は、開口部の形状のアスペクト比と同一であってもよく、異なっていてもよい。球に近い形状の細胞凝集塊を製造するのに好適であることから、(A)領域の底面の形状のアスペクト比としては、1以上2以下が好ましく、1以上1.5以下がより好ましく、1以上1.1以下がさらに好ましく、1以上1.05以下が最も好ましい。
【】
均一なサイズ及び形状の細胞凝集塊を製造するのに好適であることから、(A)領域の底面の形状のアスペクト比の標準偏差/平均アスペクト比が80%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましく、20%以下であることがさらに好ましく、5%以下であることが最も好ましい。
【】
(A)領域の底面の面積は、開口部の面積と同一であってもよく、異なっていてもよい。(A)領域の底面の面積は、例えば、0.001mm2以上6mm2以下であってよい。当該面積は、0.001mm2以上5mm2以下が好ましく、0.005mm2以上1mm2以下がより好ましく、面積0.01mm2以上0.5mm2以下がさらに好ましく、面積0.015mm2以上0.25mm2以下がさらにより好ましく、面積0.02mm2以上0.2mm2以下が最も好ましい。
【】
均一なサイズ及び形状の細胞凝集塊を製造するのに好適であることから、(A)領域の底面の面積の標準偏差/平均面積が80%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましく、20%以下であることがさらに好ましく、5%以下であることが最も好ましい。
【】
(A)領域は、(A)領域の開口部の直径(nm)と最大深さ(nm)との比(直径/最大深さ)は、例えば、100以上20000以下とすることができる。直径/最大深さは、500以上3000以下であることが好ましい。これにより、凹凸形状が明瞭になり、サイズ及び形状が均一な細胞凝集塊をより安定して得ることができる。直径/最大深さは、500以上2000以下がより好ましく、500以上800以下がさらに好ましい。なお、「開口部の直径」は、開口部の長軸径(最大径)と短軸径(最小径)の平均を意味する。開口部の径は、図1中、φで示すものである。
【】
また、細胞の周囲の酸素濃度を高め、細胞凝集塊の生存率を高めるのに好適であることから、(A)領域同士の最小距離が、400μm以上10000μm以下であることが好ましく、500μm以上8000μm以下であることがより好ましく、1000μm以上5000μm以下であることがさらに好ましく、2000μm以上4000μm以下であることが最も好ましい。
【】
本開示に係る細胞培養基材においては、(A)領域は、親水性層に形成された凹部の底
部を少なくとも含む。そして、当該底部は、図1に示すように基材の表面で構成され、又は図5に示すように親水性層2で構成される。そして、いずれの構成においても当該底部は、プラズマ処理によって親水性の官能基が導入されていることが好ましい。(A)領域が、プラズマ処理等により改質されていることにより、(A)領域は、細胞接着性及び細胞増殖性に優れた領域となる。また、短時間のプラズマ処理等で(A)領域を細胞接着性及び細胞増殖性に優れた領域とすることができるため、細胞培養基材の量産性を高めることができる。
【】
前述のプラズマ処理では、酸素や水素、窒素、アンモニア、アルゴン等の導入ガス存在下で実施することもできる。前述の導入ガスを使用することで、分子内に芳香環を有するポリマーを含む基材の疎水性の高い表面に親水性の官能基をより効率的に導入することができる。その結果として、当該表面に細胞接着性及び細胞増殖性に優れる(A)領域を形成することができる。官能基の種類は、プラズマ処理に使用する導入ガスによって水酸基、カルボニル基、アルデヒド基、カルボキシ基、エーテル結合、エステル結合、アミノ基、ニトロ基が挙げられる。酸素を使用すると、前述の群の水酸基、カルボニル基、アルデヒド基、カルボキシ基、エーテル結合、エステル結合、ニトロ基といった多様な官能基を生成させることができるため好ましい。特に、高極性の官能基であるカルボキシ基が当該表面に導入されると、当該基材の表面が親水性に大幅に改質され、また細胞接着性及び細胞増殖性も向上させることができる。そのため、少なくともカルボキシ基を当該表面に導入することは特に好ましい。
【】
細胞培養基材の表面の材料が有機物及び生成される官能基がカルボキシ基の場合、(A)領域における全炭素に対するカルボキシ基の炭素比率(RCOOH)は0.25%以上が好ましい。また、(A)領域における全炭素に対するカルボキシ基の炭素比率(RCOOH)は、例えば、10%以下であってもよい。(A)領域における全炭素に対するカルボキシ基の炭素比率(RCOOH)は、例えば、0.25%以上10%以下0.25%以上2%以下、0.3%以上10%以下、0.3%以上2%以下、0.5%以上10%以下、0.5%以上2%以下、0.8%以上10%以下、0.8%以上2%以下、1.2%以上10%以下、又は1.2%以上2%以下であってもよい。(A)領域における全炭素に対するカルボキシ基の炭素比率(RCOOH)が前記範囲にあることで、本願で示す細胞接着性及び増殖性を有した細胞培養基材を提供することが可能となる。また、RCOOHは、肥大率低減の観点からは、0.7%以上1.0%以下であることが好ましい。
【】
なお、本明細書において、(A)領域における全炭素に対するカルボキシ基の炭素比率(RCOOH)は、トリフルオロエタノール、ジ-tブチルカルボジイミド及びピリジンを用いた気相化学修飾を行い、(A)領域の表面官能基量をX線光電子分光法にて下記条件で測定したのち、気相化学修飾の反応式から誘導される下式より算出したものである。RCOOH(%)=(フッ素(F)濃度(atom%))/(3×炭素(C)濃度(atom%)-2×F濃度(atom%))/rCOOH×100
rCOOH:反応率
<測定条件>
X線:モノクロAl-Kα線(出力:25W)
エネルギー分解能:ワイドスキャンスペクトル 117.40eV
高分解能スペクトル 93.90eV
帯電補正:C1sメインピーク(284.8eV)
【】
また、(A)領域についてのXPS(X線光電子分光法)を測定した際の、C1sスペクトルにおける287eVのピーク強度/285eVのピーク強度の比が、(B)領域についてのXPS測定のC1sスペクトルにおける287eVのピーク強度/285eVのピーク強度の比よりも0.05以上大きなものであることが好ましい。この場合、(A)
領域と(B)領域との細胞増殖性の差を大きくすることができるため、(A)領域で多くの細胞を増殖させることが可能であり、(A)領域において均一な細胞凝集塊を形成しやすくなる。均一な細胞凝集塊を形成するのにより好適であることから、(A)領域についてのXPS測定のC1sスペクトルにおける287eVのピーク強度/285eVのピーク強度の比が、(B)領域についてのXPS測定のC1sスペクトルにおける287eVのピーク強度/285eVのピーク強度の比よりも、0.07以上大きいことがより好ましく、0.1以上大きいことがさらに好ましく、0.15以上大きいことが最も好ましい。
【】
XPS測定のC1sスペクトルにおける287eVのピーク強度/285eVのピーク強度の比を上述した範囲に調整する方法としては、特に限定はないが、基材表面に形成された親水性層の一部((A)領域となる予定の部分)のみに、プラズマ処理を施す方法が好ましい。(A)領域となる予定の部分のみにプラズマ処理を施す方法としては、レーザー加工で作製したマスクで、基材表面に形成された親水性層を被覆して、マスクの上からプラズマ処理を施す方法が挙げられる。(A)領域についてのXPS測定のC1sスペクトルにおける287eVのピーク強度/285eVのピーク強度の比と、(B)領域についてのXPS測定のC1sスペクトルにおける287eVのピーク強度/285eVのピーク強度の比との差が上述した範囲に収まるように、プラズマ強度、プラズマ照射時間等の条件を適宜調整することが可能であるが、プラズマ処理の場合、導入ガスとして酸素及び窒素を含む気体を使用することで、上述した範囲に収まりやすくなる。
【】
プラズマ処理におけるプラズマ照射時間は、5秒以上10分以下が好ましく、10秒以上5分以下がより好ましく、30秒以上3分以下が最も好ましい。プラズマ処理の際の導入ガスとしては、空気、窒素又は酸素を用いるのが好ましく、酸素を用いるのがより好ましい。導入ガスのガス圧は、1パスカル(Pa)以上20パスカル未満が好ましく、1パスカル以上15パスカル以下がより好ましく、1パスカル以上10パスカル以下がさらに好ましい。このような条件にてプラズマ処理を行うことで(A)領域の表面を親水と疎水とがより高度にバランスされたものとすることができる。また、プラズマ処理は、リアクティブイオンエッチング処理(RIE)により実施することが特に好ましい。RIEは、異方性エッチングとも呼ばれる。
【】
(A)領域は、水接触角が20°以上110°以下であることが好ましい。親水性層の表面の一部を上述したプラズマ処理により改質することで、(A)領域の濡れ性を高めることができる。(A)領域の水接触角は、40°以上80°以下がより好ましい。(A)領域の水接触角が上記範囲内であると、(A)領域の濡れ性がより高まり、細胞接着性及び細胞増殖性がより優れたものとなる。また、(A)領域の水接触角は、肥大率低減の観点からは、20°以上40°以下であることが好ましい。(A)領域の水接触角は、例えば、(A)領域の表面に水滴を滴下し、液滴が静止しているときの液面と(A)領域の面とのなす角をθAとし下式を用いて測定することができる。
θA=2arctan(h/r)
(上記式において、θAは水接触角、hは液滴の高さ、rは液滴の半径を示す。)
【】
(A)領域は、培養した細胞凝集塊を剥離するために好適であることから、温度応答性を有していてもよい。(A)領域が温度応答性を有する場合、細胞培養基材上で細胞を培養する際に、体温に近い温度で細胞を培養可能であることから、応答温度50℃以下が好ましく、35℃以下がより好ましい。また、培養中に培地交換等の作業を行う際に細胞が剥離してしまうことを抑制するのに好適であることから、応答温度は、25℃以下が特に好ましい。
【】
(A)領域が温度応答性を有する場合、例えば、親水性層の表面((A)領域及び(B
)領域を含む表面)に、層厚1nm以上100nm以下の温度応答性高分子を含有する層(不図示)をさらに備えていてもよい。層厚1nm以上100nm以下の温度応答性高分子を含有する層を有することで、親水性層の表面に形成した(A)領域及び(B)領域のそれぞれの特性を損なうことなく、(A)領域に温度応答性を付与することができる。
【】
温度応答性高分子は、水不溶性ブロックセグメント及び温度応答性ブロックセグメントを有するブロック共重合体であることが好ましい。温度応答性高分子がこのようなブロック共重合体であることにより、細胞培養基材の量産性を高めるとともに、製造される細胞凝集塊への温度応答性高分子の混入を抑制することができる。温度応答性高分子に含まれる温度応答性ブロックセグメントの構成単位比率は、細胞培養基材から細胞凝集塊を迅速に剥離するのに好適であることから、70wt%以上が好ましく、80wt%以上がさらに好ましく、90wt%以上が特に好ましく、92wt%以上が最も好ましい。
【】
また、温度応答性高分子が水不溶性ブロックセグメント及び温度応答性ブロックセグメントを有するブロック共重合体であることにより、細胞培養基材の表面に温度応答性高分子を含有する溶液を滴下して乾燥するという簡便な手法で、細胞培養基材の表面に温度応答性を付与できる。また、この時形成した層が前述の好ましい温度応答性高分子の層厚であることにより、親水性層の表面全体に温度応答性高分子を被覆しても、上記(A)領域及び(B)領域のそれぞれの特性を損なうことがより少なくなる。
【】
温度応答性ブロックセグメントを構成する単量体単位としては例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド化合物;N,N-ジエチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-n-プロピルアクリルアミド、N-n-プロピルメタクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-イソプロピルメタクリルアミド、N-シクロプロピルアクリルアミド、N-シクロプロピルメタクリルアミド、N-t-ブチルアクリルアミド、N-エトキシエチルアクリルアミド、N-エトキシエチルメタクリルアミド、N-テトラヒドロフルフリルアクリルアミド、N-テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド等のN-アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体;N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-エチルメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド等のN,N-ジアルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体;1-(1-オキソ-2-プロペニル)-ピロリジン、1-(1-オキソ-2-プロペニル)-ピペリジン、4-(1-オキソ-2-プロペニル)-モルホリン、1-(1-オキソ-2-メチル-2-プロペニル)-ピロリジン、1-(1-オキソ-2-メチル-2-プロペニル)-ピペリジン、4-(1-オキソ-2-メチル-2-プロペニル)-モルホリン等の環状基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル等のビニルエーテル;N-プロリンメチルエステルアクリルアミド等のプロリン誘導体を挙げることができ、応答温度を0~50℃とするのに好適であることから、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-n-プロピルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-n-プロピルメタクリルアミド、N-エトキシエチルアクリルアミド、N-テトラヒドロフルフリルアクリルアミド、N-テトラヒドロフルフリルメタクリルアミドが好ましく、N-n-プロピルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミドがさらに好ましく、N-イソプロピルアクリルアミドが特に好ましい。また、培養操作における培地交換の際に室温の培地を用いる場合においては、ブロック共重合体の応答温度を室温よりも低い温度とするのに好適であることから、N-n-プロピルアクリルアミド、N-プロリンメチルエステルアクリルアミドが好ましい。
【】
水不溶性ブロックセグメントを構成する単量体単位としては、例えば、n-ブチルアクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、t-ブチルアクリレート、t-ブチルメタクリレート、n-ヘキシルアクリレート、n-ヘキシルメタクリレート、n-オクチルアクリレート、n-オクチルメタクリレート、n-デシルアクリレート、n-デシルメタクリレート、n-ドデシルアクリレート、n-ドデシルメタクリレート、n-テトラデシルアクリレート、n-テトラデシルメタクリレート等を挙げることができる。また、ブロック共重合体を基材に強固に固定化するために好適であることから、反応性基を有するものが好ましく、例えば、4-アジドフェニルアクリレート、4-アジドフェニルメタクリレート、2-((4-アジドベンゾイル)オキシ)エチルアクリレート、2-((4-アジドベンゾイル)オキシ)エチルメタクリレート等を挙げることができる。さらに、細胞増殖性を高めるのに好適であることから、芳香環を有する構造が好ましく、例えば、2-ヒドロキシフェニルアクリレート、2-ヒドロキシフェニルメタクリレート、3-ヒドロキシフェニルアクリレート、3-ヒドロキシフェニルメタクリレート、4-ヒドロキシフェニルアクリレート、4-ヒドロキシフェニルメタクリレート、N-(2-ヒドロキシフェニル)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシフェニル)メタクリルアミド、N-(3-ヒドロキシフェニル)アクリルアミド、N-(3-ヒドロキシフェニル)メタクリルアミド、N-(4-ヒドロキシフェニル)アクリルアミド、N-(4-ヒドロキシフェニル)メタクリルアミド、スチレン等を挙げることができる。
【】
水不溶性ブロックセグメントはまた、ブロック共重合体の応答温度を制御する繰り返し単位を含んでいてもよい。ブロック共重合体の応答温度を制御する繰り返し単位としては、親水性又は疎水性の成分を挙げることができ、特に限定はないが例えば、2-ジメチルアミノエチルアクリレート、2-ジメチルアミノエチルメタクリレート、2-ジエチルアミノエチルアクリレート、2-ジエチルアミノエチルメタクリレート、N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]アクリルアミド等のアミノ基を有するもの;N-(3-スルホプロピル)-N-メタクロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアンモニウムベタイン、N-メタクリロイルオキシエチル-N、N-ジメチルアンモニウム-α-N-メチルカルボキシベタイン等のベタインを有するもの;ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノアクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアクリレート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルメタクリレート、2-メトキシエチルアクリレート、2-メトキシエチルメタクリレート、2-エトキシエチルアクリレート、2-エトキシエチルメタクリレート、3-ブトキシエチルアクリレート、3-ブトキシエチルメタクリレート、3-ブトキシエチルアクリルアミド、フルフリルアクリレート、フルフリルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート等のポリエチレングリコール基、メトキシエチル基を有するもの;メトキシメチルアクリレート、メトキシメチルメタクリレート、2-エトキシメチルアクリレート、2-エトキシメチルメタクリレート、3-ブトキシメチルアクリレート、3-ブトキシメチルメタクリレート、3-ブトキシメチルアクリルアミド等のアクリレート基を有するもの;2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、2-アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルホスホリルコリン、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルホスホリルコリン、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルホスホリルコリン、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルホスホリルコリン、ω-(メタ)アクリロイル(ポリ)オキシエチレンホスホリルコリン、2-アクリルアミドエチルホスホリルコリン、3-アクリルアミドプロピルホスホリルコリン、4-アクリルアミドブチルホスホリルコリン、6-アクリルアミドヘキシルホスホリルコリン、10-アクリルアミドデシルホスホリルコリン、ω-(メタ)アクリルアミド(ポリ)オキシエチレンホスホリルコリン等のホスホリルコリン基を有するものを挙げることができる。
【】
(B)領域は、(A)領域に隣接し、細胞接着性又は細胞増殖性を有しない。(B)領域が、(A)領域に隣接し、細胞増殖性を有しない領域であると、細胞を培養した際に、(A)領域のみに細胞凝集塊を形成し、(A)領域の一部又は全部の周囲に細胞が存在しない状態を形成することが可能である。また、製造される細胞凝集塊のサイズ及び形状を均一化するのに好適であることから、(B)領域が細胞増殖性だけでなく細胞接着性も有しないものであることが好ましい。
【】
(B)領域の形状としては、(A)領域に隣接すること以外に限定はないが、均一なサイズ及び形状の細胞凝集塊を製造するのに好適であることから、(A)領域の境界線の20%以上の長さに(B)領域が隣接していることが好ましく、50%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましく、(A)領域の周囲が全て(B)領域であることが最も好ましい。
【】
(A)領域及び(B)領域の面積比としては、特に限定はないが、細胞培養基材の単位面積当たりに製造可能な細胞凝集塊の数量を高めるのに好適であることから、(A)領域の面積が、(A)領域及び(B)領域の面積の合計に対して、10%以上であることが好ましく、30%以上がより好ましく、50%以上がさらに好ましく、70%以上が最も好ましい。また、複数の(A)領域の間に十分な距離を設け、複数の(A)領域の細胞凝集塊が融合して不均一な形状となることを抑制するのに好適であることから、(B)領域の面積が、(A)領域及び(B)領域の面積の合計に対して、20%以上であることが好ましく、40%以上がより好ましく、60%以上がさらに好ましく、80%以上が最も好ましい。
【】
細胞培養基材は、必要に応じて生体由来物質を含有する層を表面に備えていてもよい。生体由来物質を含有する層は、細胞培養基材の表面全体に存在していてもよく、(A)領域の表面のみに存在していてもよい。生体由来物質としては特に限定はないが、例えば、マトリゲル、ラミニン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、コラーゲン等を挙げることができる。
【】
これら生体由来物質は、天然物であってもよく、遺伝子組み換え技術等で人工的に合成したものであってもよく、制限酵素等で切断した断片や、これら生体由来物質と同等の物質を化学的に合成した合成タンパク質又は合成ペプチド等であってもよい。
【】
本実施形態に係る細胞培養基材は、必要に応じて、図4に示すように、基材1上に仕切り板20(例えば、面内方向の断面積が0.05cm2以上100cm2以下の貫通孔を有する板)を設ける等により、各細胞凝集塊を区分するための構造を設けてもよい。
【】
本実施形態に係る細胞培養基材は、滅菌を施してあってもよい。滅菌の方法に特に限定はないが、高圧蒸気滅菌、UV滅菌、γ線滅菌、エチレンオキシドガス滅菌等を用いることができる。ブロック共重合体の変性を抑制する観点からは、高圧蒸気滅菌、UV滅菌、エチレンオキシドガス滅菌が好ましい。基材の変形を抑制する観点からは、UV滅菌又はエチレンオキシドガス滅菌がさらに好ましい。量産性に優れるという観点からは、エチレンオキシドガス滅菌が好ましい。
【】
本実施形態に係る細胞培養基材を用いて培養される細胞としては、温度降下による刺激付与前の表面に接着可能なものであれば特に限定されるものではない。例えばチャイニーズハムスター卵巣由来CHO細胞やマウス結合組織L929、ヒト胎児腎臓由来HEK293細胞やヒト子宮頸部癌由来HeLa細胞等の種々の株化細胞に加え、例えば生体内の各組織、臓器を構成する上皮細胞や内皮細胞、収縮性を示す骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、神経系を構成するニューロン細胞、グリア細胞、繊維芽細胞、生体の代謝に関与する肝実質細胞、肝非実質細胞や脂肪細胞、分化能を有する細胞として、間葉系幹細胞、骨髄細胞、Muse細胞のように種々の組織に存在する幹細胞、さらにはES細胞、iPS細胞等の分化多能性を有する幹細胞(多能性幹細胞)、それらから分化誘導した細胞等が挙げられる。
【】
本実施形態に係る細胞培養基材は、例えば、細胞培養基材における細胞を培養する側の面である第1表面となる基材の表面の少なくとも一部を、親水性高分子を含有する組成物で被覆し親水性層を形成する親水性層形成工程(工程(1))、基材の当該表面とは反対側の面の少なくとも一部を補強層で被覆して補強層を形成する補強層形成工程(工程(2))、及び親水性層に対して位置選択的にプラズマ処理を行って親水性層の厚さ方向の少なくとも一部を除去(エッチング)するとともに、エッチングに伴って露出してなる基材の表面又は親水性層の部分(凹部の底部)に親水性の官能基を導入して(A)領域を形成するパターニング工程(工程(3))を備える製造方法により製造することができる。
図1に示す実施形態に係る細胞培養基材の少なくとも一の製造方法としては、例えば、基材上の親水性層を、メタルマスクやシリコンマスク、表面保護フィルム等でパターン状に被覆した状態でプラズマ処理を行って、親水性層の非被覆部分にプラズマを照射することによって親水性層の厚さ方向の全部を除去して基材を露出させる方法が挙げられる。この方法によれば、(A)領域となる凹部の底部が、芳香環を有するポリマーを含むため疎水性が高くなっている基材で構成されることとなり、かつ、当該底部はプラズマによって親水性の官能基が導入されることとなり、当該底部は親水と疎水とが高度にバランスしたものとなる。その結果として、細胞の接着性により優れた(A)領域とすることができる。
【】
親水性層形成工程(工程(1))は、基材の第1表面の少なくとも一部を、親水性高分子を含有する組成物で被覆し、親水性層を形成する工程である。親水性層を形成することで、細胞接着性及び細胞増殖性を有しない状態とすることができる。親水性層を形成する方法としては、特に限定はないが、例えば、親水性高分子を含有する組成物を基材の表面の少なくとも一部に塗布することで形成する方法が挙げられる。親水性高分子を含有する組成物の塗布方法としては、例えば、塗布、はけ塗り、ディップコーティング、スピンコーティング、バーコーディング、流し塗り、スプレー塗装、ロール塗装、エアーナイフコーティング、ブレードコーティング、グラビアコーティング、マイクログラビアコーティング、スロットダイコーティングなど通常知られている各種の方法を用いることができる。
【】
図2は、親水性層形成工程後の表面に親水性層が形成された基材の模式図(斜視図)である。図2では、基材1の一方の表面の全面に親水性層2が形成されている。
【】
親水性高分子が活性エネルギー線に対する反応性を有する場合、親水性層形成工程は、親水性層に活性エネルギー線照射を行い、親水性層を基材の表面に固定化することを含んでいてもよい。活性エネルギー線に対する反応性を有する親水性高分子としては、例えば、上述した活性エネルギー線(例えば、UV、赤外線、電子線等)に対する反応性を有する官能基を有する親水性高分子を挙げることができる。活性エネルギー線としては、例えば、UV、電子線等が挙げられる。
【】
活性エネルギー線に対する反応性を有する親水性高分子に活性エネルギー線照射を行うことで、親水性高分子同士、又は親水性高分子と基材との化学反応が起こり、親水性層が基材の表面に固定化される。親水性層が基材表面に固定化されることによって、後述する温度応答層形成工程で温度応答性高分子を含有する組成物を塗布した際に、親水性層を変形させることなく、温度応答性高分子を含有する層を形成することができる。また、親水
性層が基材表面に固定化されることによって、後述するパターニング工程(工程(3))で形成した(A)領域の形状を保つこともできる。
【】
補強層形成工程(工程(2))は、基材の第2表面の少なくとも一部を、基材よりも弾性率の高い補強層を形成することのできるような材料で被覆し補強層を形成する工程である。補強層を形成することで、細胞培養基材の撓みを抑制することができる。補強層を形成する方法としては、特に限定はないが、例えば、補強層を形成可能な材料を基材の第2表面の少なくとも一部に蒸着や塗布することで形成する方法が挙げられる。蒸着等の方法としては、常圧蒸着、真空蒸着、スパッタリング、CVDなどの各種の方法を用いることができる。また、塗布方法としては、上述の親水性層形成工程と同様に通常知られている各種の方法を用いることができ、その硬化方法も親水性層形成工程と同様に行うことができる。
【】
親水性層形成工程(工程(1))と、補強層形成工程(工程(2))は、どちらを先に行ってもよい。また、補強層形成工程は、パターニング工程(工程(3))の前に行われてもよいし、後に行われてもよい。生産性の観点からは、2つの工程を一つの生産設備を用いて行えるため、親水性層形成工程と補強層形成工程とは同じ塗布方法であることが好ましい。
【】
パターニング工程(工程(3))は、前記のとおり、親水性層2を位置選択的に、且つ、その厚さ方向の少なくとも一部を除去することによって親水性層2にパターン状に凹部を形成して(A)領域を形成する工程である。
凹部の底部で構成される(A)領域は、前記のとおり、良好な細胞接着性を付与する観点から、親水性の官能基が導入されていることが好ましい。そのために、パターニング工程においては、親水性層のエッチングによって形成される凹部の底部に親水性の官能基が導入されるようにプラズマ処理を用いることが好ましい。パターニング工程にプラズマ処理を用いる場合においては、プラズマ照射時間は、5秒以上10分以下が好ましく、10秒以上5分以下がより好ましく、30秒以上3分以下が最も好ましい。プラズマ処理の際の導入ガスとしては、空気、窒素、酸素、又は水蒸気を用いるのが好ましく、酸素又は水蒸気を用いるのがより好ましい。導入ガスのガス圧は、1パスカル(Pa)以上20パスカル未満が好ましく、1パスカル以上15パスカル以下がより好ましく、1パスカル以上10パスカル以下がさらに好ましい。また、親水性層のパターニングの方法としては、特に限定はないが、メタルマスクやシリコンマスク、表面保護フィルム等で被覆した状態でエッチングを行うことにより、親水性層の所望の部分(マスクされていない部分)についてその厚さ方向の一部又は全部を除去する方法が挙げられる。
【】
図3は、パターニング工程(工程(3))後の細胞培養基材の模式図(斜視図)である。
図3に示す細胞培養基材10では、等間隔に配置された円の形状の領域(Aで示した領域。例えば、当該領域の面積は0.001mm2以上5mm2以下である。)がプラズマ処理を行った部分に該当する。Aで示した領域は、親水性層2の表面がプラズマ処理により改質されることにより、細胞接着性及び細胞増殖性を有するようになる。また、円の形状の領域以外の領域(Bで示した領域。)は、例えば、メタルマスク等により保護されることでプラズマ処理が行われていない部分に該当する。Bで示した領域は、表面が親水性層2であるため、細胞接着性又は細胞増殖性を有しない。
【】
パターニング工程後、上記親水性高分子を溶媒で洗浄し、表面に固定化されていない親水性高分子を溶解させて基材の表面から除去する工程を実施してもよい。固定化されていない親水性高分子を除去することで基材1表面を部分的に露出させ、(A)領域を形成することができる。使用する溶媒としては、活性エネルギー線に対する反応性を有する親水
性高分子の自己反応によって副生する化合物、例えばアジド基由来のニトレンを含有する化合物等を除去するのに好適であることから、水とアルコールを含有することが好ましい。水とアルコールの混合溶媒を用いて洗浄することで、(A)領域に残留する親水性高分子由来成分を低減することが可能で、(A)領域の細胞接着性及び細胞増殖性を高めることができる。上記アルコールとしては低級アルコールが好ましく、例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノール、t-ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、ヘキサノールが好ましく、メタノール又はエタノールがさらに好ましい。また、上記アルコールの含有量としては、50~95%が好ましく、50~90%がさらに好ましく、60~90%が特に好ましく、70~90%が最も好ましい。
なお、他の実施形態に係る製造方法は、パターニング工程を備えず、親水性層形成工程のみで(A)領域の形状を形成してもよい。この場合、親水性層形成工程での塗布方法としては、例えば、インクジェット印刷やオンデマンド印刷等の射出印刷、フレキソ印刷や活版印刷等の凸版印刷、グラビア印刷やパッド印刷等の凹版印刷、オフセット印刷等の平板印刷、スクリーン印刷等の孔版印刷が利用可能である。(A)領域を表面改質により細胞接着性及び細胞増殖性を有する領域とすることは、親水性層形成工程の前や、親水性層形成工程の後に行ってもよい。表面改質は、例えば、コロナ放電処理、プラズマ照射、紫外線照射などにより行うことができる。
【】
本実施形態に係る製造方法は、親水性層形成工程、補強層形成工程、及びパターニング工程に加えて、必要に応じて、貼り合わせ工程(工程(4))、温度応答層形成工程をさらに備えるものであってもよい。
【】
貼り合わせ工程(工程(4))は、パターニング工程の後に、面内方向の断面積が0.05cm2以上100cm2以下の貫通孔を有する板を、基材の親水性層で被覆した面側で基材と貼り合わせる工程である。面内方向の断面積が0.05cm2以上100cm2以下の貫通孔を有する板を基材と貼り合わせることにより、培地を入れるための空間を有するプレートを高い量産性で作製可能である。図4は、貼り合わせ工程((工程(4))後の細胞培養基材の模式図(斜視図)である。図4に示す細胞培養基材11は、例えば、図3に示す細胞培養基材10等に仕切り板20(面内方向の断面積が0.05cm2以上100cm2以下の貫通孔を有する板)を貼り合わせたものである。面内方向の断面積が0.05cm2以上100cm2以下の貫通孔を有する板は、例えば、細胞を培養する側の面を区画可能な複数の円筒状隔壁を有する仕切り部材であってよい。断面積が0.05cm2以上100cm2以下の貫通孔の側壁が円筒状隔壁として機能する。
【】
温度応答層の形成工程は、パターニング工程(好ましくは、プラズマ処理を含む)の後に、親水性層の表面を、温度応答性高分子を含有する組成物で被覆し、温度応答性高分子を含有する層を形成する工程である。この際、温度応答性高分子を含有する層の層厚を100nm以下で形成することによって、形成した(A)領域の表面に温度応答性高分子の分子鎖が疎な状態で被覆されやすく、(A)領域の機能(細胞接着性及び細胞増殖性を有する)を維持しながら温度応答性を付与するのに好適である。また、温度応答性高分子を含有する層の層厚を1nm以上とすることで、充分な温度応答性を付与し、細胞凝集塊の形成を迅速に行うことが可能な細胞培養基材を製造することができ、好適である。
【】
温度応答性高分子を含有する組成物で被覆する方法としては、前述の親水性高分子を含有する組成物の塗布方法と同様の方法を好適に用いることができる。
【】
温度応答性高分子を含有する組成物で被覆する方法としてはまた、細胞培養基材の全面に温度応答性物質を被覆することが好ましい。温度応答性高分子を含有する組成物の被覆に際し、パターニングを行うことなく、通常用いられる塗工方法を用いて被覆することにより、細胞培養基材の量産性を高めることができる。また、細胞培養基材の全面に温度応
答性高分子を含有する組成物を被覆することによって、(A)領域に温度応答性を付与するとともに、(B)領域にも温度応答性高分子が被覆される。(B)領域に温度応答性高分子が被覆されることにより、(B)領域の細胞接着性を低下させることができる。
【】
本実施形態に係る細胞培養キットは、細胞培養基材を含む。当該細胞培養基材は、上述した本発明に係る細胞培養基材に細胞を培養する側の面を区画可能な複数の円筒状隔壁を有する仕切り部材が設けられたものであってよい。
【】
本実施形態に係る細胞培養キットは、細胞培養基材に加え、温度応答性高分子若しくは温度応答性高分子を含有するコーティング剤を含んでいてもよい。これにより、培養を実施する研究者が細胞の種類に応じて、簡便に温度応答性高分子の層厚を調整可能である。
【】
温度応答性高分子を含有するコーティング剤は、溶媒を含有していてよい。コーティング剤に含まれ得る溶媒としては、例えば、水、有機溶媒又はこれらの混合液を挙げることができる。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール等のアルコール類;アセトニトリル、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、メチルエチルケトン等を挙げることができる。コーティングの膜厚を均一にするのに好適であることから、水とアルコール類の混合溶媒を用いることが好ましい。コーティング剤の全質量を基準とした、温度応答性高分子の含有量は、0.1~50重量%、0.2~10重量%、又は0.5~5重量%とすることができる。
【】
上記コーティング剤は、温度応答性高分子及び溶媒以外の、その他の成分を含有していてよい。その他の成分としては、細胞接着性を高めるための成分が挙げられ、例えば、水不溶性ブロックセグメントのみからなる高分子を挙げることができる。
【符号の説明】
【】
A (A)領域、
B (B)領域
H (A)領域と(B)領域の境界における凹凸高さ
1 基材
2 親水性高分子を含有する層(親水性層)
3 補強層
10、11 細胞培養基材
20 仕切り板
【図】
【図】
【図】
【図】
【図】