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  • 特許-伝搬距離推定装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】伝搬距離推定装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 11/02 20100101AFI20220207BHJP
   E05B 49/00 20060101ALN20220207BHJP
【FI】
G01S11/02
E05B49/00 K
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018003810
(22)【出願日】2018-01-12
(65)【公開番号】P2019124497
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2020-10-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003551
【氏名又は名称】株式会社東海理化電機製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】古賀 健一
(72)【発明者】
【氏名】岩下 明暁
(72)【発明者】
【氏名】菊間 信良
【審査官】▲高▼場 正光
(56)【参考文献】
【文献】特許第4265686(JP,B2)
【文献】特表昭63-503404(JP,A)
【文献】特開2013-205101(JP,A)
【文献】特表2004-502177(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0167662(US,A1)
【文献】山田将也 外2名,“マルチキャリア信号伝送を用いた基地局端末間距離推定に関する一検討”,2017年電子情報通信学会通信ソサイエティ大会 講演論文集1,2017年08月29日,Page 129,ISSN:1349-1407, Article B-1-129
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 11/00 - G01S 11/16
G01S 13/74 - G01S 13/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる周波数の複数の連続波を基地局において合成し、これを測距信号として前記基地局から端末に送信し、当該測距信号を前記端末から前記基地局に返信させ、当該測距信号の伝搬距離を推定する伝搬距離推定装置において、
前記基地局が受信した前記測距信号と、前記基地局が送信した前記測距信号を構成する測距信号成分のうち、n+1番目の周波数における測距信号成分の複素共役とを乗算し、その乗算結果を時刻t から時刻t l+1 において時間平均したものをパラメータAとし
前記基地局が受信した前記測距信号の複素共役と、前記基地局が送信した前記測距信号を構成する測距信号成分のうち、n番目の周波数における測距信号成分とを乗算し、その乗算結果を時刻t から時刻t l+1 において時間平均したものをパラメータBとして
前記パラメータA及び前記パラメータBを算出し、前記パラメータAと前記パラメータBを乗算し、その乗算結果を時間平均したパラメータzz を算出することを、前記互いに異なる周波数のそれぞれについて行う相関演算部と、
前記相関演算部が算出した各zz の位相から前記伝搬距離を推定する距離推定部とを備え
前記基地局のクロックの周波数と前記端末のクロックの周波数との差をクロック誤差としたとき、
前記相関演算部は、時刻t l+1 での前記クロック誤差に対応する測距信号成分であるexp{-j(ω e t l+1 )}と、時刻t での前記クロック誤差に対応する測距信号成分であるexp{-j(ω e t l )}とが等しくなるように、時刻t から時刻t l+1 までの時間t l+1 -t を設定することを特徴とする伝搬距離推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基地局と端末との間で電波を送受信して、電波の伝搬距離を推定する伝搬距離推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基地局から端末に電波を送信し、その電波を受信した端末から電波を基地局に再送信させ、このとき基地局が受信した電波から、電波の送受信に要した伝搬距離を推定する伝搬距離推定装置が周知である(特許文献1~4等参照)。これら特許文献でも示されるように、この種の伝搬距離推定装置は、車両及び電子キーの間でキー照合を無線により行う電子キーシステムへの適用が検討されている。これは、車両から遠く離れた場所に電子キーが位置するとき、この電子キーと車両とを中継器によって不正に通信確立させてしまう状況を防ぐためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-170364号公報
【文献】特開2003-13644号公報
【文献】特表2006-512515号公報
【文献】特表2008-515315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、基地局が端末に電波送信を行うときには、基地局が有する発振器のクロック信号を基に電波が生成されて、基地局から端末に送信される。一方、基地局から受信した電波を端末が基地局に再送信するときには、端末が有する発振器のクロック信号を基に電波が生成されて、端末から基地局に送信される。よって、基地局及び端末の間でクロック信号に誤差があると、電波の伝搬距離を精度よく推定できない問題に繋がっていた。
【0005】
また、そうしたクロック誤差に対応できる距離推定アルゴリズムでは、クロック誤差に非対応の距離推定アルゴリズムよりも妨害波(ノイズ)の影響を受けやすく、電波の伝搬距離を精度よく推定できない問題に繋がっていた。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、その目的は、伝搬距離の推定精度の向上を可能にした伝搬距離推定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する伝搬距離推定装置は、互いに異なる周波数の複数の連続波を基地局において合成し、これを測距信号として前記基地局から端末に送信し、当該測距信号を前記端末から前記基地局に返信させ、当該測距信号の伝搬距離を推定する伝搬距離推定装置において、前記基地局が受信した前記測距信号と、前記測距信号を構成するいずれか1つの単一周波数の信号との相関演算を行い第1の周波数成分を算出し、また、前記測距信号と、前記測距信号を構成する他の1つの単一周波数の信号との相関演算を行い第2の周波数成分を算出し、前記第1の周波数成分と前記第2の周波数成分との相関演算を行い位相差成分を抽出する相関演算部と、前記相関演算部が抽出した前記位相差成分の位相から前記伝搬距離を推定する距離推定部とを備える。
【0008】
この構成によれば、測距信号の個別の周波数成分を算出する相関演算を行うため、基地局及び端末の間のクロック誤差を要因とした周波数ずれが補正された演算結果が抽出される。また、測距信号の個別の周波数成分に対し相関演算を行うため、妨害波の除去効果についても期待することができる。したがって、クロック誤差により距離推定精度が劣化することがなく、ノイズの影響も受けにくくなるため、推定精度が改善する。よって、伝搬距離の推定精度を向上できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、伝搬距離の推定精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】伝搬距離推定装置の構成を示すブロック図。
図2】周波数と位相回転量との関係を用いた距離推定の原理を示す特性図。
図3】比較例2(クロック誤差対応アルゴリズム)について周波数ずれの補正原理を示す周波数スペクトル図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、伝搬距離推定装置の一実施の形態について説明する。
図1に示すように、基地局1及び端末2には、これら2者間の電波送信にかかる距離(伝搬距離d)を推定する伝搬距離推定装置3が設けられている。伝搬距離推定装置3は、例えば電子キーのキー照合を無線によって行う電子キーシステムに搭載されている。この場合、電子キーシステムは、基地局1及び端末2の間で仮にID照合が成立していても、伝搬距離推定装置3によって求まる伝搬距離dが閾値以上であれば、不正通信の可能性が高いとして、ID照合成立を不許可とする。
【0012】
基地局1は、各々異なる周波数の無変調連続波(CW波)として複素信号gn(p)を出力する複数の発振器4(例えばN個)を備える。各周波数の複素信号gn(p)は、「n」が「1」~「N」をとり、信号成分として実部及び虚部を有する。尚、「n」は、何番目の周波数かを表す数であり、「N」は、使用する周波数の総数であり、「p」は離散時間である。
【0013】
基地局1は、発振器4から入力する各複素信号gn(p)から実部を取り出す実数取出部5を備える。実数取出部5は、複素信号gn(p)からの実部の取り出しにより、信号real(gn(p))を出力する。尚、real(・)は、複素数から実数を取り出す関数を示す。
【0014】
基地局1は、実数取出部5から出力された信号real(gn(p))を加算する加算器6と、加算器6から出力される合成信号real(G(p))をD/A変換するD/Aコンバータ7とを備える。基地局1は、D/A変換後の合成信号real(G(q))と局部発振器8から入力する発振信号とを乗算するミキサ9と、乗算後の信号をフィルタリングするバンドパスフィルタ10と、バンドパスフィルタ10を通過した合成信号を測距信号real(G(q))cos(ωq)として送信する送信アンテナ11とを備える。尚、「G(p)」及び「G(q)」は、合成された複素信号であり、「q」は、連続時間である。
【0015】
端末2は、基地局1から送信された測距信号real(G(q))cos(ωq)を伝搬時間q0分遅れた信号で受信する受信アンテナ12と、この受信信号real(G(q-q0))cos(ωq)をフィルタリングするバンドパスフィルタ13とを備える。端末2は、バンドパスフィルタ13を通過した信号と局部発振器14から入力する発振信号とを乗算するミキサ15と、乗算後の信号をフィルタリングするローパスフィルタ16と、ローパスフィルタ16を通過した受信信号real(G(q-q0))をA/D変換するA/Dコンバータ17とを備える。
【0016】
端末2は、A/Dコンバータ17から入力する受信信号real(G(p-q0))を基に端末2を作動させる信号処理部18を備える。信号処理部18は、基地局1から受信信号real(G(q-q0))cos(ωq)を受信したとき、この受信信号real(G(q-q0))cos(ωq)を基地局1に返信する動作を実行する。
【0017】
端末2は、電波返信時において信号処理部18から入力する信号をD/A変換するD/Aコンバータ19と、D/A変換後の信号と局部発振器20から入力する発振信号とを乗算するミキサ21とを備える。端末2は、乗算後の信号をフィルタリングするバンドパスフィルタ22と、バンドパスフィルタ22を通過した信号を測距信号real(G(q-q0))cos(ωq)として送信する送信アンテナ23とを備える。
【0018】
基地局1は、端末2から送信された測距信号real(G(q-q0))cos(ωq)を伝搬時間q0分遅れた信号で受信する受信アンテナ24を備える。基地局1は、受信アンテナ24の後段の一方の経路に、バンドパスフィルタ25、局部発振器26、ミキサ27、ローパスフィルタ28及びA/Dコンバータ29を備える。バンドパスフィルタ25は、受信アンテナ24が受信した測距信号real(G(q-2q0))cos(ωq)をフィルタリングする。ミキサ27は、バンドパスフィルタ25を通過した信号と局部発振器26から入力する発振信号とを乗算する。ローパスフィルタ28は、ミキサ27で合成された信号のうち低い周波数のみ通過させる。A/Dコンバータ29は、ローパスフィルタ28を通過した測距信号real(G(q-2q0))をA/D変換して、測距信号real(G(p-2q0))を出力する。
【0019】
基地局1は、受信アンテナ24の後段の他方の経路に、バンドパスフィルタ30、移相器31、ミキサ32、ローパスフィルタ33及びA/Dコンバータ34を備える。バンドパスフィルタ30は、受信アンテナ24が受信した測距信号real(G(q-2q0))cos(ωq)をフィルタリングする。ミキサ32は、バンドパスフィルタ30を通過した信号と、局部発振器26から出力される発振信号を移相器31によって90°位相を遅らせた信号とを乗算する。ローパスフィルタ33は、ミキサ32で合成された信号のうち、低い周波数のみ通過させる。A/Dコンバータ34は、ローパスフィルタ33を通過した信号をA/D変換して、測距信号img(G(p-2q0))を出力する。尚、img(・)は、複素数から虚部を取り出す関数を示す。
【0020】
基地局1は、実部及び虚部から複素信号を算出する複素化部35を備える。複素化部35は、A/Dコンバータ29から入力する測距信号real(G(p-2q0))とA/Dコンバータ34から入力する測距信号img(G(p-2q0))とを基に、複素信号G(p-2q0)を算出する。
【0021】
基地局1は、基地局1及び端末2の間の電波の伝搬距離dを推定する一連の処理を実行する相関演算部40及び距離推定部41を備える。相関演算部40は、基地局1が受信した測距信号real(G(q-2q0))cos(ωq)と、当該測距信号real(G(q-2q0))cos(ωq)の複素共役とを乗算し、その乗算結果に対し相関演算を行って、乗算結果の各周波数成分を抽出する。距離推定部41は、相関演算部40が抽出した各周波数成分の位相から伝搬距離dを推定する。
【0022】
図2に示すように、伝搬距離dの推定に際し、基地局1は、現在送信している測距信号と、受信した測距信号との間に生じている位相回転量を周波数毎に求め、さらに隣り合う周波数における位相回転量の差を求める。周波数と位相回転量との関係における傾きが測距信号の遅延時間(2q0)を示すため、遅延時間に公知の光速cを乗じることで伝搬距離dを算出しつつ、基地局1から端末2までの距離(d/2)を推定することが可能となる。そして、伝搬距離dが閾値未満の場合にドア施開錠やエンジン始動を許可し、伝搬距離dが閾値以上の場合にドア施開錠やエンジン始動を不許可とする。
【0023】
次に、伝搬距離推定装置3の作用について説明する。
まず、基地局1及び端末2の間にクロックの周波数誤差が無い場合を想定したクロック誤差非対応アルゴリズムを比較例1として考察する。
【0024】
前提として、測距信号は周波数の異なるN個のサイン波を合成した信号であり、これを基地局1から端末2に無線で送信し、端末2はこれをそのまま送り返し、基地局1は測距信号を受信する。このとき、基地局1が現在送信している測距信号と、受信した測距信号との間に生じている位相回転量を周波数毎に求め、さらに隣り合う周波数における位相回転量の差を求めることで伝搬距離dを算出する。
【0025】
【0026】
【数1】
【0027】
【0028】
【数2】
【0029】
【0030】
【数3】
【0031】
【0032】
【数4】
【0033】
【0034】
【数5】
【0035】
【数6】
【0036】
【0037】
【数7】
【0038】
【数8】
【0039】
ところが、この比較例2は妨害波の影響を上記比較例1よりも受けやすいという問題がある。すなわち、上記比較例1のように「測距信号の個別の周波数成分」を相関演算により抽出する場合には、妨害波が存在しても測距信号の個別の各周波数と一致していない限り、相関演算により除去することができる。
【0040】
しかし、図3に示すように、この比較例2では「測距信号とその複素共役の積」に対し相関演算を行うため、妨害波の周波数が測距信号と一致していなくても、相関演算により除去されない場合がある。
【0041】
【0042】
【数9】
【0043】
【0044】
【数10】
【0045】
【0046】
【0047】
また、相関演算部40は、第1の周波数成分と第2の周波数成分との相関演算を行い位相差成分を抽出する。このように測距信号の個別の周波数成分に対し相関演算を行うため、妨害波の除去効果についても期待することができる。
【0048】
したがって、[数10]を参照して、相関演算部40が抽出した位相差成分の位相から距離推定部41が伝搬距離dを推定するに際し、クロック誤差により距離推定精度が劣化することがなく、ノイズの影響も受けにくくなるため、推定精度が改善する。よって、伝搬距離の推定精度を向上できる。
【0049】
尚、上記実施の形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・伝搬距離推定装置3の回路構成、すなわち基地局1や端末2の回路構成は、実施形態に述べた構成に限らず、他に変更可能である。
【0050】
・伝搬距離dを電波の位相から推定する演算は、例えばMUSIC法など、種々の方式が採用可能である。
・伝搬距離推定装置3は、電子キーシステムに搭載されることに限定されず、他のシステムや機器に適用可能である。
【0051】
・連続波は、複素信号として取り扱われることに限定されず、種々の方式が採用可能である。
・連続波は、それぞれの周波数が重なり合わなければ、無変調波に限らず、種々の変調が施された信号としてもよい。
【0052】
・連続波は、送信の開始から終了まで全て連続する信号である必要はなく、断続的な信号でもよい。
・端末2の信号処理部18では、基地局1と既知の方法で信号処理が実施されてもよい。これにより、例えば中継器が伝搬距離測定用の信号を基地局1へ直接送信することで伝搬距離dを偽装するという手法を防止することができる。
【符号の説明】
【0053】
1…基地局、2…端末、3…伝搬距離推定装置、4…発振器、5…実数取出部、6…加算器、7…D/Aコンバータ、8…局部発振器、9…ミキサ、10…バンドパスフィルタ、11…送信アンテナ、12…受信アンテナ、13…バンドパスフィルタ、14…局部発振器、15…ミキサ、16…ローパスフィルタ、17…A/Dコンバータ、18…信号処理部、19…D/Aコンバータ、20…局部発振器、21…ミキサ、22…バンドパスフィルタ、23…送信アンテナ、24…受信アンテナ、25…バンドパスフィルタ、26…局部発振器、27…ミキサ、28…ローパスフィルタ、29…A/Dコンバータ、30…バンドパスフィルタ、31…移相器、32…ミキサ、33…ローパスフィルタ、34…A/Dコンバータ、35…複素化部、40…相関演算部、41…距離推定部。
図1
図2
図3