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特許6989833酸化鉄粉末、組成物、陶磁器、酸化鉄粉末前駆体、酸化鉄粉末前駆体の製造方法、及び酸化鉄粉末の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】酸化鉄粉末、組成物、陶磁器、酸化鉄粉末前駆体、酸化鉄粉末前駆体の製造方法、及び酸化鉄粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 49/00 20060101AFI20220104BHJP
   C01G 49/06 20060101ALI20220104BHJP
   C09C 1/24 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
C01G49/00 A
C01G49/06 A
C09C1/24
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020525832
(86)(22)【出願日】2019-06-21
(86)【国際出願番号】 JP2019024828
(87)【国際公開番号】W WO2019245046
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2018118338
(32)【優先日】2018-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501241645
【氏名又は名称】学校法人 工学院大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 英樹
(72)【発明者】
【氏名】阿相 英孝
(72)【発明者】
【氏名】高田 潤
(72)【発明者】
【氏名】藤井 達生
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1401352(KR,B1)
【文献】特開2004-122077(JP,A)
【文献】特開2015-086126(JP,A)
【文献】特開2003-252629(JP,A)
【文献】ACS APPLIED MATERIALS & INTERFACES,2014年,Vol. 6,全14頁
【文献】Journal of Solid State Chemistry,2015年,Vol. 228,pp. 82-89
【文献】Clays and Clay Minerals,2000年,Vol. 48, No. 2,pp. 159-172
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 49/00 - 49/08
C09C 1/00 - 3/12
C09D 1/00 - 10/00
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムの含有量が10mol%以上80mol%以下であり、
直径0.3μm以上2μm以下である多孔質構造体からなり、
前記多孔質構造体は、一次粒子の凝集体により形成される二次粒子であり、
アルミナ成分を除く酸化鉄粉末に対してヘマタイト粉末を90質量%以上含み、前記ヘマタイト粉末のヘマタイトにアルミニウムが固溶している、
彩度が40以上70以下である酸化鉄粉末。
【請求項2】
前記多孔質構造体の表面にアルミナ粒子が付着している請求項1に記載の酸化鉄粉末。
【請求項3】
前記多孔質構造体の、BET比表面積が20m/g以上150m/g以下であり、細孔容積が0.15cm/g以上0.60cm/g以下である請求項1又は請求項2に記載の酸化鉄粉末。
【請求項4】
前記一次粒子の平均粒子径が10nm以上50nm以下である請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の酸化鉄粉末。
【請求項5】
1100℃で1時間加熱したときの彩度が25以上である請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の酸化鉄粉末。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の酸化鉄粉末を含む組成物。
【請求項7】
基材層と、
請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の酸化鉄粉末を含む釉薬層と、
を含む陶磁器。
【請求項8】
アルミニウムの含有量が10mol%以上80mol%以下であり、
直径0.3μm以上2μm以下である多孔質構造体からなり、
前記多孔質構造体は、一次粒子の凝集体により形成される二次粒子であり、球状二次粒子、板状二次粒子、及び円盤状二次粒子の少なくとも1つを含む酸化鉄粉末前駆体。
【請求項9】
前記一次粒子の平均粒子径は5nm以下である請求項8に記載の酸化鉄粉末前駆体。
【請求項10】
硝酸鉄、硫酸鉄、及び塩化鉄(II)からなる群から選択される少なくとも1種の金属塩と、硝酸アルミニウムと、炭酸水素アンモニウムとを混合して、共沈法により酸化鉄粉末前駆体を製造する請求項8又は請求項9に記載の酸化鉄粉末前駆体の製造方法。
【請求項11】
前記金属塩を含み、前記金属塩の合計の濃度が0.3mol・dm-3以上0.7mol・dm-3以下である水溶液と、前記硝酸アルミニウムと、前記炭酸水素アンモニウムとを混合して、共沈法により酸化鉄粉末前駆体を製造する請求項10に記載の酸化鉄粉末前駆体の製造方法。
【請求項12】
請求項10又は請求項11に記載の酸化鉄粉末前駆体の製造方法により得られた酸化鉄粉末前駆体を焼成して、酸化鉄粉末を製造する酸化鉄粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、酸化鉄粉末、組成物、陶磁器、酸化鉄粉末前駆体、酸化鉄粉末前駆体の製造方法、及び酸化鉄粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸化鉄粉末は、ヘマタイトを主成分とする赤色酸化鉄の粉末が、アスファルト、陶磁器、プラスチック、化粧品などの顔料として用いられていることが知られている。
しかし、その色は彩度に欠ける。また,陶磁器などの高温にさらされる用途において,ヘマタイトの粒子は粒成長を起こし,退色するという問題がある。
これまでに高彩度の酸化鉄赤色顔料が開発されてきている(特許文献1~3参照)。また、また,高温加熱しても安定した色を示すヘマタイトも開発されている(特許文献4参照)。
その他、ヘマタイトに関して、様々な研究がなされている(非特許文献1~2参照)
【0003】
[特許文献1]特開2015-86126号公報
[特許文献2]特開2008-1542号公報
[特許文献3]特開2007-321043号公報
[特許文献4]特開2004-43208号公報
【0004】
[非特許文献1]Hideki Hashimoto, et al. ACS Appl. Mater. Interfaces 2014, 6, 20282-20289
[非特許文献2]Hideki Hashimoto, et al. Dyes and Pigments 95 (2012) 639-643
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、赤色を呈する酸化鉄粉末の彩度については、未だ十分でなく、また、耐熱性も十分であるとはいえない。
このように、鮮やかな赤色を呈し、高温に曝されても退色し難い耐熱性が高い酸化鉄粉末が求められている。
【0006】
そこで、本開示の一態様の課題は、従来の酸化鉄赤色顔料よりも鮮やかな赤色を呈し、かつ耐熱性が高い酸化鉄粉末、また、それを含む組成物及び陶磁器を提供することである。
本開示の別の一態様の課題は、従来の酸化鉄赤色顔料よりも鮮やかな赤色を呈し、かつ耐熱性が高い酸化鉄粉末を製造するための酸化鉄粉末前駆体を提供することである。
本開示の別の一態様の課題は、従来の酸化鉄赤色顔料よりも鮮やかな赤色を呈し、かつ耐熱性が高い酸化鉄粉末を製造するために、酸化鉄粉末前駆体の製造方法および酸化鉄粉末の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
【0008】
<1>
アルミニウムの含有量が10mol%以上80mol%以下であり、直径0.3μm以上2μm以下である多孔質構造体からなる酸化鉄粉末。
<2>
前記多孔質構造体の表面にアルミナ粒子が付着している<1>に記載の酸化鉄粉末。
<3>
前記多孔質構造体の、BET比表面積が20m/g以上150m/g以下であり、細孔容積が0.15cm/g以上0.60cm/g以下である<1>又は<2>に記載の酸化鉄粉末。
<4>
前記多孔質構造体は一次粒子の凝集体であり、前記一次粒子の平均粒子径が10nm以上50nm以下である<1>~<3>のいずれか一項に記載の酸化鉄粉末。
<5>
1100℃で1時間加熱したときの彩度が25以上である<1>~<4>のいずれか一項に記載の酸化鉄粉末。
<6>
<1>~<5>のいずれか一項に記載の酸化鉄粉末を含む組成物。
<7>
基材層と、<1>~<5>のいずれか一項に記載の酸化鉄粉末を含む釉薬層と、を含む陶磁器。
<8>
アルミニウムの含有量が10mol%以上80mol%以下であり、直径0.3μm以上2μm以下である多孔質構造体からなる酸化鉄粉末前駆体。
<9>
前記多孔質構造体は一次粒子の凝集体であり、前記一次粒子の平均粒子径は5nm以下である<8>に記載の酸化鉄粉末前駆体。
<10>
硝酸鉄、硫酸鉄、及び塩化鉄(II)からなる群から選択される少なくとも1種の金属塩と、硝酸アルミニウムと、炭酸水素アンモニウムとを混合して、共沈法により酸化鉄粉末前駆体を製造する<8>又は<9>に記載の酸化鉄粉末前駆体の製造方法。
<11>
前記金属塩を含み、前記金属塩の合計の濃度が0.3mol・dm-3以上0.7mol・dm-3以下である水溶液と、前記硝酸アルミニウムと、前記炭酸水素アンモニウムとを混合して、共沈法により酸化鉄粉末前駆体を製造する<10>に記載の酸化鉄粉末前駆体の製造方法。
<12>
<10>又は<11>に記載の酸化鉄粉末前駆体の製造方法により得られた酸化鉄粉末前駆体を焼成して、酸化鉄粉末を製造する酸化鉄粉末の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一態様によれば、従来の酸化鉄赤色顔料よりも鮮やかな赤色を呈し、かつ耐熱性が高い酸化鉄粉末、また、それを含む組成物及び陶磁器が提供される。
本開示の別の一態様によれば、従来の酸化鉄赤色顔料よりも鮮やかな赤色を呈し、かつ耐熱性が高い酸化鉄粉末を製造するための酸化鉄粉末前駆体が提供される。
本開示の別の一態様によれば、従来の酸化鉄赤色顔料よりも鮮やかな赤色を呈し、かつ耐熱性が高い酸化鉄粉末を製造するために、酸化鉄粉末前駆体の製造方法および酸化鉄粉末の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の酸化鉄粉末を作製する手順についてのフローチャート
図2A】実施例及び比較例の酸化鉄粉末の彩度を示すグラフ
図2B】実施例及び比較例の酸化鉄粉末の明度を示すグラフ
図3A】実施例及び比較例の酸化鉄粉末の粒子形態を示す走査型電子顕微鏡写真
図3B】実施例の酸化鉄粉末の粒子形態を示す走査型電子顕微鏡写真
図4】実施例の粒子形態を示す走査型透過電子顕微鏡写真(二次電子像)
図5】実施例の窒素吸脱着法による評価を示すグラフ
図6】実施例及び比較例の酸化鉄粉末の耐熱性評価を示すグラフ
図7】実施例の酸化鉄粉末の粒子形態を示す走査型電子顕微鏡写真
図8】実施例及び比較例の酸化鉄粉末の粒子形態を示す走査型電子顕微鏡写真
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい態様の一例について詳細に説明する。
【0012】
本開示の酸化鉄粉末は、アルミニウムの含有量が10mol%以上80mol%以下であり、直径0.3μm以上2μm以下である多孔質構造体からなる。
【0013】
本開示の酸化鉄粉末は、上記構成により、従来の酸化鉄赤色顔料よりも鮮やかな赤色を呈し、かつ耐熱性が高い酸化鉄粉末となる。本開示の酸化鉄粉末は、次の知見により見出された。
【0014】
一般的にヘマタイトは、粒子径が小さいほど、また、粒子の分散性が高いほど明るく鮮やかな赤色を示すことが知られている。さらに、ヘマタイトにアルミニウムが固溶すると、鮮やかな赤色粉末になることが報告されている。
本開示の酸化鉄粉末が高彩度である理由として、ヘマタイトにアルミニウムが固溶していること、及び、直径0.3μm以上2μm以下である多孔質構造体という従来に無い構造に由来することが考えられる。ここで、「固溶」とは、互いに異なる元素が溶け合い、全体として単一の固相を形成していることをいう。
次に、本開示の酸化鉄粉末の耐熱性が高い理由として以下のことが考えられる。
一般的に、ヘマタイトを主成分とする酸化鉄粉末を高温で加熱すると、粒子同士の焼結が進行し、粒成長することにより、ヘマタイトは赤ではなく灰色や黒色になってしまう。
一方、本開示の酸化鉄粉末を高温で加熱すると、1000℃まで直径0.3μm以上2μm以下である多孔質構造体の形態が保たれていることが観察された。
したがって、本開示の酸化鉄粉末が従来に無い多孔質構造体であることにより、従来に比べ粒子同士の焼結が進行しにくい構造であることが考えられる。さらに言えば、本発明の酸化鉄粉末は、粒子同士の焼結よりも、粒子内の焼結が優先して進行することが考えられる。その結果、粒子同士の焼結の進みが遅くなり、粒成長の進行が遅れるものと推測される。
よって、本開示の酸化鉄粉末は、その特徴的な構造により粒成長が生じにくい傾向にあると考えられるため、高温で加熱しても鮮やかな赤色が保持される。
以上から、本開示の酸化鉄粉末は、従来の酸化鉄赤色顔料よりも鮮やかな赤色を呈し、
かつ耐熱性が高い酸化鉄粉末となることが見出された。
【0015】
本開示の別の一態様の酸化鉄粉末では、酸化鉄粉末は円盤状の多孔質構造体であることが確認された。
この酸化鉄粉末を観察すると、その円盤状の多孔質構造体同士の凝集は、ほとんどみられなかった。
本開示の別の一態様の酸化鉄粉末が高彩度である理由として、まずはヘマタイトにアルミニウムが固溶していることが考えられるが、前述したように、円盤状の多孔質構造体の凝集がほとんど見られなかったことから、この円盤状の多孔質構造体の分散性の高さが大きく寄与しているものと考えられる。
次に、本開示の別の一態様の酸化鉄粉末の耐熱性が高い理由として以下のことが考えられる。
前述のように、一般的に、ヘマタイトを主成分とする酸化鉄粉末を高温で加熱すると、粒子同士の焼結が進行し、粒成長することにより、ヘマタイトは赤ではなく灰色や黒色になってしまうが、本開示の別の一態様の酸化鉄粉末を高温で加熱すると、1000℃まで円盤状の多孔質構造体の形態が保たれていることが観察された。
したがって、本開示の酸化鉄粉末が従来に無い円盤状の多孔質構造体であることにより、従来に比べ、粒子同士の焼結が進行しにくい構造であることが考えられる。
【0016】
以下、本開示の酸化鉄粉末の詳細について説明する。
【0017】
[酸化鉄粉末]
本開示の酸化鉄粉末は、アルミニウムの含有量が10mol%以上80mol%以下であり、直径0.3μm以上2μm以下である多孔質構造体からなる。ここで、アルミニウムの含有量とは、酸化鉄粉末に含まれるFeとAlの総量に占めるAlの割合(mol%)のことである。
アルミニウムの含有量が、10mol%未満又は80mol%超えであると鮮やかな赤色が得られにくい。鮮やかな赤色の酸化鉄粉末を得る観点から、アルミニウムの含有量は、15mol%以上70mol%以下であることが好ましく、30mol%以上40mol%以下であることがより好ましい。
ここで、多孔質構造体とは、緻密体、又は中空体からなるものを意味せず、例えば複数の粒子の凝集体であり、その粒子同士の間隙が孔を形成している構造体をいう。
【0018】
本開示の酸化鉄粉末は、ヘマタイト粉末を主成分としている。ヘマタイト粉末以外にも、リモナイト粉末、マグネタイト粉末、ウスタイト粉末、マグヘマイト粉末等を含んでいてもよく、また、これらは任意の2種以上を含んでいてもよいが、鮮やかな赤色の酸化鉄粉末を得る観点から、アルミナ成分を除く酸化鉄粉末に対してヘマタイト粉末を90質量%以上含むことが好ましく、95質量%以上含むことがより好ましく、98質量%以上含むことがさらに好ましい。
【0019】
本開示の酸化鉄粉末である多孔質構造体の形状は特に限定されるものではないが、鮮やかな赤色の酸化鉄粉末を得る観点から、球状、板状又は円盤状であることが好ましく、円盤状あることがより好ましい。
ここで、円盤状とは、円形であり、かつ厚みのある盤状である形状を意味する。円形とは、真円、楕円の他、変則的な円の形状をも包含する概念である。
【0020】
本開示の酸化鉄粉末において、多孔質構造体は、酸化鉄の一次粒子の凝集体により形成される二次粒子である。すなわち、本発明の多孔質構造体は、鮮やかな赤色の酸化鉄粉末を得る観点から、球状二次粒子、板状二次粒子又は円盤状二次粒子であることが好ましく、円盤状二次粒子であることがより好ましい。それら二次粒子は、一次粒子によって形成された細かい孔を有している。
なお、一次粒子とは、凝集のない独立した粒子をいう。
【0021】
本開示の酸化鉄粉末において、多孔質構造体は、直径0.3μm以上2μm以下であり、また、鮮やかな赤色の酸化鉄粉末を得る観点から、直径0.6μm以上1.6μm以下であることが好ましい。
また、多孔質構造体が円盤状である場合、円盤の厚さは、同様の観点から、150nm以上800nm以下であることが好ましく、180nm以上750nm以下であることがより好ましい。
【0022】
ここで、多孔質構造体の直径は、以下の測定方法により測定されたものである。
走査型電子顕微鏡(JEOL社製、JSM-6701F)を使用して、酸化鉄粉末を観察し、多孔質構造体の最も長い径を多孔質構造体の直径として測定する。
この測定を観察される多孔質構造体について行い、得られた値の最大値と最小値から平均値を算出し、その値を多孔質構造体の直径とする。
なお、測定において、観察する面積は、9μm×12μmとした。
【0023】
また、多孔質構造体の形状が円盤状である場合は、次のようにして、多孔質構造体の直径及び厚さを測定する。
走査型電子顕微鏡(JEOL社製、JSM-6701F)を使用して、酸化鉄粉末を観察し、円盤状の側面を観察することができる多孔質構造体を選択し、最も厚い箇所を多孔質構造体の厚さとし、また、厚さ方向に交差する面を観察することができる多孔質構造体を選択し、最も長い径を多孔質構造体の直径として測定する。
この測定を観察される多孔質構造体について行い、得られた値の最大値と最小値から平均値を算出し、その値を多孔質構造体の直径及び厚さとする。
なお、測定において、観察する面積は、9μm×12μmとした。
【0024】
本開示の酸化鉄粉末において、多孔質構造体を形成している酸化鉄の一次粒子径は、10nm以上がよく、また、鮮やかな赤色の酸化鉄粉末を得る観点から、55nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましく、35nm以下であることが更に好ましく、25nm以下であることが特に好ましい。
なお、酸化鉄の一次粒子径とは、酸化鉄の一次粒子の平均粒子径のことを示す。
【0025】
一次粒子の平均粒子径は、以下の測定方法により測定されたものである。
走査型透過電子顕微鏡(JEOL社製、JEM-2100F)を使用して酸化鉄粉末を観察し、この際、二次粒子を形成している個々の粒子を一次粒子とし、走査型透過電子顕微鏡を一次粒子が画像解析できる倍率に調整して画像を撮影する。
撮影した画像の中から一次粒子25個以上について、粒子径の測定を行う。一次粒子の粒子径は、一次粒子の最大径を粒子径とし、その平均値を算出して、一次粒子の平均粒子径とする。
【0026】
本開示の酸化鉄粉末において、多孔質構造体の表面には、アルミナ粒子が付着していることが好ましい。
多孔質構造体にアルミナ粒子が付着していると、酸化鉄粉末を高温で加熱したときに、酸化鉄粒子間の焼結が進行しにくくなると考えられるため、耐熱性に優れた酸化鉄粉末を得る観点から有利である。
【0027】
多孔質構造体の表面に付着しているアルミナ粒子の平均粒子径は、非常に小さいもので、多孔質構造体を形成している一次粒子の平均粒子径よりも小さい。
アルミナ粒子の平均粒子径は、耐熱性に優れた酸化鉄粉末を得る観点から、10nm以下であることが好ましく、3nm以上6nm以下であることがより好ましい。
【0028】
なお、アルミナ粒子の平均粒子径の測定方法は以下のとおりである。
走査型透過電子顕微鏡(JEOL社製、JEM-2100F)を使用して酸化鉄粉末を観察し、この際、二次粒子を形成している個々の粒子を一次粒子とし、走査型透過電子顕微鏡を一次粒子に付着しているアルミナ粒子が画像解析できる倍率に調整して画像を撮影する。
撮影した画像の中からアルミナ粒子8個以上について、粒子径の測定を行う。アルミナ粒子の粒子径は、アルミナ粒子の最大径を粒子径とし、その平均値を算出して、アルミナ粒子の平均粒子径とする。
【0029】
(比表面積、細孔径分布、細孔容積)
本開示の酸化鉄粉末において、多孔質構造体は、一次粒子により形成された細孔(連通孔及び非連通孔)を有している。
本開示の酸化鉄粉末において、多孔質構造体のBET比表面積は、鮮やかな赤色の酸化鉄粉末を得る観点から、15m/g以上170m/g以下であることが好ましく20m/g以上160m/g以下であることが好ましく、80m/g以上150m/g以下であることがより好ましい。
また、本開示の酸化鉄粉末において、多孔質構造体の細孔容積は、鮮やかな赤色の酸化鉄粉末を得る観点から、0.10cm/g以上0.65cm/g以下であることが好ましく、0.15cm/g以上0.60cm/g以下であることがより好ましく、0.35cm/g以上0.55cm/g以下であることが更に好ましい。
【0030】
(BET比表面積の測定)
比表面積は窒素置換法によって測定され、Belsorp Mini II(日本BEL製)を用いて測定した。具体的には、試料をセルに入れ、300°Cで5時間、真空中での脱気処理を実施した試料の液体窒素温度における窒素ガスの吸脱着等温線から比表面積、細孔径分布、細孔容積を求めた。比表面積の解析にはBET法を用い,細孔径分布の解析にはBJH法を用いた。
【0031】
(彩度)
本開示の酸化鉄粉末の彩度は、鮮やかな赤色の酸化鉄粉末を得る観点から、40以上であることが好ましく、50以上であることがより好ましく、60以上であることが更に好ましい。また、本開示の酸化鉄粉末の彩度の上限値は特に限定されるものではないが、実用上は70以下であることが好適である。
また、耐熱性の観点から、本開示の酸化鉄粉末を少なくとも1100℃で、少なくとも1時間加熱処理したときの彩度が、10以上であることが好ましく、25以上であることがより好ましく、35以上であることが更に好ましい。本開示の酸化鉄粉末を、例えば1100℃1時間で加熱処理したときの彩度の上限値は特に限定されるものではないが、実用上は55以下であることが好適である。
【0032】
なお、彩度(「彩度値」ともいう。)の測定は、以下のようにして行う。測定試料について、Konica Minolta社製「CM-5」(光源(イルミナント):CIE標準光源D65、標準観測者(視野角):2度視野)を用いてCIE1976L表色系の座標値(L値、a値及びb値)を測定する。測定の際には、粉末測定用シャーレを用いる。そして、上記座標値から、以下のようにして明度値、色相角度、及び彩度値を求める。
具体的には、上記「明度値」は、上記座標値のうちL値をいう。
また、上記「色相角度」は、CIE1976L表色系の座標においてa*及びb*が共に0の位置(すなわち、a*軸とb*軸とが交わる無彩色の位置)を原点として、上記座標値のa*及びb*で定まる位置と原点とを結んだ線と、a*軸と、の成す角度をいう。
また、上記「彩度値」は、上記座標値のa*及びb*を用いて下記式により求められるc*の値をいう。
式 : c*=((a+(b1/2
【0033】
[組成物]
本開示の組成物は、本開示の酸化鉄粉末を含む。組成物として、具体的には、焼結体、塗料、リチウムイオン電池電極材料等が挙げられる。本開示の組成物が、本開示の酸化鉄粉末を含む焼結体である場合は、組成物にガラスが主成分(すなわち、組成物全体に対して50質量%以上)として含まれることが好ましく、また、酸化鉄粉末の含有量は、組成物全体に対して、25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることが更に好ましい。
【0034】
(陶磁器)
本開示の酸化鉄粉末を含む焼結体の具体例としては、例えば、本開示の酸化鉄粉末を含む釉薬を基材に塗布して、焼結されて得ることができる陶器が挙げられる。すなわち、本開示の陶磁器は、酸化鉄粉末を含む釉薬層と、基材層と、を含む。本開示の陶磁器は、基材層、及び釉薬層以外の他の層が設けられていてもよい。他の層の一例として、色調調整のために、基材層と釉薬層との間に設けられる中間層や、陶磁器の最表面に設けられるハードコート層等が挙げられる。
基材層の組成は特に限定されず、例えば、カオリン、粘度、陶石、長石等からなる窯業原料を配合したものに所定量の水を加え、ボールミルで細かくしたスラリーを使用して基材層を形成することができる。
また、釉薬層を形成する釉薬の組成は、少なくとも本開示の酸化鉄粉末を含み、特に限定されない。本開示の酸化鉄粉末の他に、珪砂、粘度、石灰、長石、亜鉛華等からなる釉薬原料を配合したものに所定量の水を加え、ボールミルで細かくしたスラリーを用いて釉薬層を形成することができる。
【0035】
[酸化鉄粉末前駆体の製造方法]
本開示の酸化鉄粉末前駆体は、硝酸鉄、硫酸鉄、及び塩化鉄(II)からなる群から選択される少なくとも1種の金属塩、硝酸アルミニウム、及び炭酸水素アンモニウムを混合して、共沈法により得ることができる。
共沈法とは、目的とする複数種の金属イオンを含む溶液に塩基を添加することで、複数種の難溶性塩を同時に析出させるという粉体の作製方法のひとつである。
ここで、本開示の酸化鉄粉末前駆体の製造方法において、塩基として、炭酸水素アンモニウム(固体)や、アンモニア水(液体)、炭酸ナトリウム,炭酸水素ナトリウム等が挙げられるが、鮮やかな赤色の酸化鉄粉末を得る観点から、炭酸水素アンモニウムを使用することが好ましいため、炭酸水素アンモニウムを使用する。
また、硝酸鉄、硫酸鉄、及び塩化鉄(II)からなる群から選択される少なくとも1種の金属塩、及び硝酸アルミニウムの少なくとも一方は、固体、又は水和物を溶解させた液体であってもよいが、鮮やかな赤色の酸化鉄粉末を得る観点から、硝酸鉄、硫酸鉄、及び塩化鉄(II)からなる群から選択される少なくとも1種の金属塩、及び硝酸アルミニウムは共に水和物を使用し,水溶液にすることが好ましい。
【0036】
硝酸鉄、硫酸鉄、及び塩化鉄(II)からなる群から選択される少なくとも1種の金属塩を、既述の水溶液にして使用する場合、水溶液中の前記金属塩の合計の濃度は、鮮やかな赤色の酸化鉄粉末を得る観点から、0.2mol・dm-3以上0.8mol・dm-3以下であることが好ましく、0.3mol・dm-3以上0.7mol・dm-3以下であることがより好ましい。
【0037】
本開示の酸化鉄粉末前駆体の製造方法は、具体的には以下の1)~5)の工程を有していてもよい。
1)硝酸鉄、硫酸鉄、及び塩化鉄(II)からなる群から選択される少なくとも1種の金属塩を乳鉢で粉砕する。もしくは、硝酸鉄、硫酸鉄、及び塩化鉄(II)からなる群から選択される少なくとも1種の金属塩を純水に溶解させ液体とする。
2)硝酸アルミニウムを混合する。このとき、鉄とアルミニウムのモル比について、Al/(Fe+Al)のmol比が0.05~0.8の範囲になるように、各種原料の混合量を調整する。
3)上記2)の工程の後、塩基を添加する。
4)上記1)~3)の工程で得られた懸濁液を0~2時間撹拌する。
5)上記4)の工程の後、懸濁液を0~6時間静置して、吸引濾過して乾燥する。
【0038】
上記のような共沈法を用いることにより、ヘマタイト中にアルミニウムが固溶することができる。また、得られた酸化鉄粉末前駆体は、直径0.3μm以上2μm以下である多孔質構造体である。多孔質構造体を形成する一次粒子の平均粒子径は、鮮やかな赤色粉末を得る観点から5nm以下であることが好ましい。また、一次粒子の平均粒子径の下限値は特に限定されるものではないが、1μm以上であることが例示できる。本開示の酸化鉄粉末前駆体において、多孔質構造体は一次粒子の凝集体からなる。
なお、酸化鉄粉末前駆体において、多孔質構造体の直径、及び一次粒子の平均粒子径の測定はそれぞれ、本開示の酸化鉄粉末に対して行う既述の測定方法と同様に測定される。
ここで、本開示の酸化鉄粉末前駆体とは、低結晶性水酸化鉄であり、茶色を呈しているものをいう。
【0039】
本開示の酸化鉄粉末を焼成する前の別の一態様の酸化鉄粉末前駆体では、酸化鉄粉末前駆体は円盤状の多孔質構造体であることが好ましい。また、この酸化鉄粉末前駆体を700℃以上で加熱すると、ヘマタイトが生成し、鮮やかな赤黄色の酸化鉄粉末が得られた。
【0040】
[酸化鉄粉末の製造方法]
本開示の酸化鉄粉末は、共沈法により得られた酸化鉄粉末前駆体を焼成することにより製造することができる。
焼成は公知の方法によりなされ、特に限定されるものでないが、昇温速度は1℃/min~50℃/minが好ましく、また、焼成温度は600℃以上1200℃以下の温度範囲で、0時間以上5時間以下でなされることが好ましい。
【0041】
[用途]
本開示の酸化鉄粉末は、例えば顔料、着色剤として使用することができる。顔料や着色剤としては、例えば陶磁器、琺瑯、絵画、アスファルト、プラスチック、化粧品、塗料、車両塗装などに適用される。
また、顔料以外の用途として、リチウムイオン電池電極材料、触媒、光触媒、触媒担体、磁性材料などにも利用できる。
【実施例
【0042】
以下、本開示の酸化鉄粉末を、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。ただし、これら各実施例は本発明の好ましい態様の一例であり、本発明を制限するものではない。
【0043】
[実施例1~8、比較例1~3]
図1に示すフローチャートに従って、酸化鉄粉末を得た。
まず、0.5mol・dm-3硝酸鉄水溶液100mlにx=Al/(Al+Fe)の値が0以上0.8以下(すなわち、アルミニウムの含有量が10mol%以上80mol%以下)になるように硝酸アルミニウム9水和物を加え,出発溶液とした。
この水溶液に金属イオンの12倍モル量(0.6mol)の炭酸水素アンモニウムを撹拌混合しながら徐々に加えた。
その後,0~2時間撹拌し,0~6時間静置した。得られた懸濁液を1L以上の純水を用いて吸引洗浄し,適量のエタノールで置換し,真空中で乾燥させることにより、酸化鉄前駆体を得た。得られた酸化鉄粉末前駆体の色は全て茶色であった。
実施例で得られた酸化鉄粉末前駆体は、直径0.3μm以上2μm以下の多孔質構造体であった。また、実施例1及び4で得られた酸化鉄粉末前駆体を形成する多孔質構造体の一次粒子径は、5nm以下であった。
得られた酸化鉄粉末前駆体を、10℃/minの昇温速度で、700~1200℃で、2時間加熱することで赤色顔料粉末(酸化鉄粉末)を作製した。具体的な加熱条件は、実施例1~6、及び比較例1~2では、700℃で2時間加熱し、実施例7~8では、900℃で2時間加熱し、得られた赤色顔料粉末を各例で得られた酸化鉄粉末とした。比較例3は市販品であり、市販品そのものを比較例3の酸化鉄粉末とした。
なお、実施例1~8において、得られた酸化鉄粉末を形成する多孔質構造体の直径は、焼成する前の酸化鉄粉末前駆体を形成する多孔質構造体の直径と比較すると、10%~15%程度収縮する傾向にあった。
【0044】
実施例及び比較例における鉄とアルミニウムのモル比については、以下の表1に示す比で作製した。
また、実施例及び比較例で得られた酸化鉄粉末の多孔質構造体について、前述した測定方法により測定された結果を表1に示した。
また、実施例、及び比較例で得られた酸化鉄粉末の評価については、後述する評価方法に基づいて評価し、表1に示した。
【0045】
【表1】
【0046】
表1の結果から、実施例で得られた酸化鉄粉末は、鮮やかな赤色を呈し、かつ耐熱性が高い酸化鉄粉末であることがわかった。
一方、比較例の酸化鉄粉末は、実施例に比べ、彩度及び耐熱性の少なくとも一方が劣るものであった。
なお、表1中の「-」は未実施であることを意味する。
以下、実施例、及び比較例の酸化鉄粉末について詳細に説明する。
【0047】
実施例で得られた酸化鉄粉末の色は、全て鮮やかな赤黄色であった。実施例においては、Al添加量の違いに依存せず、全ての試料において同様な傾向と色を示した。
例えば図2A及び図2Bに示すように、実施例で得られた酸化鉄粉末の色は、比較例3(市販品)と比較しても遜色がなく、特に実施例2~8では市販品を遥かに凌駕する彩度が得られた。
【0048】
(粉末の粒子形態)
実施例で得られた酸化鉄粉末の形態を走査型電子顕微鏡で観察すると、前駆体の粒子形態を反映した形態となっていることがわかった(図3A図3B参照)。なお、図3Bの10%、30%、50%、60%はそれぞれ、x=0.1、0.3、0.5、0.6のときの粒子形態を示す。
【0049】
図3A図3Bに示すように、実施例の酸化鉄粉末は円盤状の多孔質構造体であることがわかった。
具体的には、x=0では直径約100nmの微粒子が焼結し凝集体を形成している様子が確認された。これは市販品と同様の典型的なヘマタイトの粒子形態である。
一方、Alを添加したx=0.1及び0.3の試料においては,直径50nm以下の微粒子が集合して直径約1μmの円盤状二次粒子を形成していた。また、Alの添加量が多いx=0.3の試料はx=0.1の試料よりもヘマタイトの一次粒子径が小さかった。よって、二次粒子の形態は前駆体の形態を反映したものであった。
ここで、観察された円盤状の二次粒子同士は比較的弱く結合していると考えられ、粒子同士の焼結による凝集はほとんど見られなかった。この結果により、円盤状二次粒子の分散性が高いことが伺える。
【0050】
x=0.1と0.3の試料をさらに詳細にSTEMで解析したところ、ヘマタイトの一次粒子間に多数の隙間があることが確認され、円盤状二次粒子には多数の細孔が存在することが示唆された。
【0051】
また、x=0.3の試料では、例えば図4に示すように、ヘマタイトの粒子よりもさらに小さな10nm以下の微粒子が、ヘマタイト粒子周辺に点在している様子が確認された。多孔質構造体の表面に付着している、これらの粒子は、ヘマタイトに固溶しきれなかったAlの酸化物であると考えられる。
【0052】
多孔質構造体における一次粒子径及びアルミナの平均粒子径について、表1の実施例6をみると「測定不可」と記載されているが、実施例6の試料は過剰に帯電していたため、上記手法では粒子を詳細に判別することができなかった。
なお、実施例6の試料について、X線回折法により結晶子サイズを測定したところ14nmであり、x=0.3の試料の結晶子サイズと同程度であることがわかり、一方、x=0.1の試料の結晶子サイズは26nmであった。
【0053】
(粉末の窒素吸脱着法による評価)
得られた酸化鉄粉末の細孔の分布と表面積を解析するために,窒素吸脱着法による評価を行った。なお、評価方法は、発明の実施形態において既に説明した方法と同じである。
図5に示すように、x=0.1の試料では12nmに特徴的な細孔を有し、比表面積は比較的高く16m/gであった(市販品:13m/g)。
x=0.3の試料では6nmに特徴的な細孔を有し、表面積は非常に大きく80m/gで、市販品の約4.5倍であった。これらの結果は作製した試料が多孔質体であることを示している。
【0054】
(耐熱性の評価)
x=0.3、0.5の700℃加熱試料において同程度の彩度の試料が得られたので、これらの試料の耐熱性試験を行った。
耐熱性試験は、700℃で加熱して得られた粉末試料を再度1000~1400℃の高温で1時間処理したときの退色具合の確認(「耐熱性の評価手法1」とする。)、あるいは焼成前の前駆体試料を1000℃を超える高温で2時間処理したときの退色具合の確認(「耐熱性の評価手法2」とする。)をすることによりなされた。
詳細には下記の手法により評価した。
【0055】
<耐熱性の評価手法1>
実施例4~6、及び比較例3(市販品)については、粉末試料を1100℃の高温で1時間処理し、次の評価基準により評価した。その結果を表1に示す。
・高温処理後のCの値が35以上:とても良い
・高温処理後のCの値が10以上35以下:良い
・高温処理後のCの値が10未満:悪い
【0056】
<耐熱性の評価手法2>
実施例7、8については、焼成前の前駆体試料を1200℃の高温で2時間処理し、上記の評価基準により評価した。その結果を表1に示す。
【0057】
耐熱性について、表1をみると、実施例4~6では1100℃の高温にさらされても、市販品と同程度の彩度を保つことが分かり、また、1300℃までは目視においても赤色を維持することがわかった。また、実施例7、8では1200℃という高温で加熱したにもかかわらず、得られた酸化鉄粉末の彩度は優れていた。
さらに、図6に示すように、市販品とx=0.3の粉末試料について高温で加熱処理したときの彩度の変化をみると、市販品の1000℃再加熱試料よりも、本開示の試料の1300℃加熱試料の方が高い彩度を有することは特筆すべき結果である。
これらの結果は,本開示で作製した試料が優れた耐熱性を有することを示している。
【0058】
[実施例9-1~9-4、比較例4-1~4-2]
硝酸鉄水溶液の濃度を表2に示す値となるように調製した以外は、実施例4と同様に酸化鉄粉末を作製した。そして、耐熱性の評価については、既述の<耐熱性の評価手法1>と同様に行った。
なお、実施例9-3は、前述の実施例4と同じである。
【0059】
【表2】
【0060】
表2からわかるように、実施例で得られた酸化鉄粉末は、比較例に比べ、彩度が高く、かつ耐熱性に優れていた。特に、硝酸液水溶液の濃度を0.3mol・dm-3~0.7mol・dm-3の範囲で調製した実施例9-2~9-4では、極めて高い彩度で、かつ耐熱性が高い酸化鉄粉末が得られていた。また、図7に示すように、極めて高い彩度を示した0.3mol・dm-3(「0.3M」とも示す。)~0.7mol・dm-3(「0.7M」とも示す。)では、酸化鉄粉末の粒子形態が円盤状であることが確認された。なお、比較例4-1及び4-2で得られた酸化鉄粉末は、多孔質構造体を形成していなかったため、その直径及び厚さについて測定することができなかった。
【0061】
[実施例10-1~10-3、比較例5-1~5-2]
硝酸鉄水溶液に使用される硝酸鉄に代えて、表3に示す原料を使用した以外は、実施例4と同様に酸化鉄粉末を作製した。そして、耐熱性の評価については、既述の<耐熱性の評価手法1>と同様に行った。
【0062】
【表3】
【0063】
表3からわかるように、実施例で得られた酸化鉄粉末は彩度が高く、かつ耐熱性に優れていた。また、図8に示すように、極めて高い彩度を示した、出発原料として塩化鉄(II)、硫酸鉄(II)、又は硫酸鉄(III)を使用して得られた実施例の酸化鉄粉末は、直径0.3μm以上2μm以下の多孔質構造体であった。一方、比較例の酸化鉄粉末では、一次粒子が大きな凝集体を形成しており、前述の多孔質構造体は観察されなかったため、多孔質構造体の直径を測定することができなかった。更に、比較例5-2においては、一次粒子を識別することができず、一次粒子径を測定することができなかった。
【0064】
2018年6月21日に出願された日本国特許出願2018-118338の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
【0065】
上記の実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0066】
<付記1>
アルミニウムの含有量が10mol%以上80mol%以下であり、円盤状の多孔質構造体からなる酸化鉄粉末。
<付記2>
前記多孔質構造体が直径0.3μm以上2μm以下、厚さ150nm以上800nm以下である<付記1>に記載の酸化鉄粉末。
<付記3>
前記多孔質構造体の表面にアルミナ粒子が付着している<付記1>又は<付記2>に記載の酸化鉄粉末。
<付記4>
前記多孔質構造体の、BET比表面積が20m/g以上150m/g以下であり、細孔容積が0.15cm/g以上0.60cm/g以下である<付記1>~<付記3>のいずれか1つに記載の酸化鉄粉末。
<付記5>
前記多孔質構造体の酸化鉄粉末の一次粒子径が10nm以上50nm以下である<付記1>~<付記4>のいずれか一つに記載の酸化鉄粉末。
<付記6>
硝酸鉄、硝酸アルミニウム、及び炭酸水素アンモニウムを混合して、共沈法により酸化鉄粉末前駆体を製造する酸化鉄粉末前駆体の製造方法
<付記7>
<付記6>に記載の酸化鉄粉末前駆体の製造方法により得られた酸化鉄粉末前駆体を焼成して、酸化鉄粉末を製造する酸化鉄粉末の製造方法。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8