(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】シート立体形状形成装置、シート立体形状形成方法およびシート立体形状形成プログラム
(51)【国際特許分類】
G09F 19/02 20060101AFI20220104BHJP
H02N 1/00 20060101ALI20220104BHJP
B65H 5/00 20060101ALI20220104BHJP
B42D 1/00 20060101ALI20220104BHJP
G09F 11/00 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
G09F19/02 K
H02N1/00
B65H5/00 C
B42D1/00 B
G09F11/00 Z
(21)【出願番号】P 2017092435
(22)【出願日】2017-05-08
【審査請求日】2020-04-23
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】592128191
【氏名又は名称】株式会社川口電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】山本 晃生
(72)【発明者】
【氏名】小林 満紀
【審査官】金田 理香
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-048036(JP,A)
【文献】特開平06-335264(JP,A)
【文献】特開平06-231493(JP,A)
【文献】特開2000-204524(JP,A)
【文献】特開2013-009619(JP,A)
【文献】特開2004-158492(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63H 1/00 - 37/00
B42D 1/00 - 15/00
15/04 - 19/00
G09F 1/00 - 7/22
15/00 - 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定ピッチで複数の電極が配置された電極群が複数形成された電極基板上に、
一端側から所定の長さの切り込みが入れられた誘電体シートを載置する載置ステップと、
複数の電極群に電圧をそれぞれ印加して、静電気力により前記切り込みの外側に向けた搬送力を生じさせることで、前記誘電体シートを前記切り込みの端部を回転中心として前記切り込みの開放端が離反する方向に回転運動させて、前記誘電体シートの前記切り込みの延長線上にある特定の位置に圧縮力を集中
させて前記特定の位置を屈曲変形して盛り上げ、前記誘電体シートの他端側を立ち上げて前記誘電体シートを立体形状に形成する立体形成ステップと、
を有するシート立体形状形成方法。
【請求項2】
前記誘電体シートは、前記切り込みの延伸方向において、前記切り込みの両側が2つの駆動対象部分で、前記切り込みが形成されていない領域が引き起こし部分であり、
前記誘電体シートは
、前記2つの駆動対象部分の表面に非一様な抵抗率分布を有している
請求項1に記載のシート立体形状形成方法。
【請求項3】
前記引き起こし部分が立ち上がった状態で、
前記切り込みの外側に向けて進行する電圧分布を形成して、前記2つの駆動対象部分を外側に向けて回転させることで、前記引き起こし部分の立ち上がり高さを高くし、又は
前記切り込みの内側に向けて進行する電圧分布を形成して、前記2つの駆動対象部分を内側に向けて回転させることで、前記引き起こし部分の立ち上がり高さを低くする、立ち上がり高さ調整ステップを、さらに有する
請求項2に記載のシート立体形状形成方法。
【請求項4】
前記引き起こし部分が立ち上がった状態で、
前記切り込みの両側で同一方向に進行する電圧分布を形成して、前記2つの駆動対象部分を同じ方向へ搬送することで、前記誘電体シート全体をその形状を維持したまま左右方向に移動させ、又は
前記切り込みの両側で一方の電極の電圧を一定にして、他方の電極の電圧を変化させて、前記2つの駆動対象部分の一方を固定して他方をピボットすることで、前記誘電体シート全体を前記電極基板上で回転させ、さらに交互の回転を繰り返すことで前記誘電体シート全体を前後方向に移動させる、誘電体シート移動ステップをさらに有する
請求項2に記載のシート立体形状形成方法。
【請求項5】
所定ピッチで複数の電極が配置された電極群が複数形成された電極基板上に載置された
一端側から所定の長さの切り込みが入れられた誘電体シートに対して、
静電気力により前記切り込みの外側に向けた搬送力を生じさせることで、前記誘電体シートを前記切り込みの端部を回転中心として前記切り込みの開放端が離反する方向に回転運動させて、前記誘電体シートの前記切り込みの延長線上にある特定の位置に圧縮力を集中
させて前記特定の位置を屈曲変形して盛り上げ、前記誘電体シートの一部を立ち上げるように、複数の電極群に電圧をそれぞれ印加する処理を、コンピュータに実行させるプログラム。
【請求項6】
所定ピッチで複数の電極が配置された電極群が複数形成された電極基板と、
前記電極群に印加する電圧を制御する制御部と、を備え、
前記電極基板上には、一端側から所定の長さの切り込みが入れられた誘電体シートが載置され、
前記制御部は、
静電気力により前記切り込みの外側に向けた搬送力を生じさせることで、前記誘電体シートを前記切り込みの端部を回転中心として前記切り込みの開放端が離反する方向に回転運動させて、前記誘電体シートの前記切り込みの延長線上にある特定の位置に圧縮力を集中
させて前記特定の位置を屈曲変形して盛り上げ、前記誘電体シートの一部を立ち上げるように、複数の電極群に電圧をそれぞれ印加する
シート立体形状形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙、フィルム、プラスチックシート等のシート状部材(以下、シートと称する)を用いて立体形状を形成するシート立体形状形成装置、シート立体形状形成方法およびシート立体形状形成プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、書籍や広告等において、見る者に驚きを与えるため、または、見る者の興味を惹きつけるために、予め平面的に配置された紙等を立体的に変形させる機構が知られている。
【0003】
例えば、絵本等の娯楽書籍について、予め見開きの2ページにまたがって複数の切り紙を部分的に貼り付けておき、読者がページを開くことにより、それらの切り紙がページの上に立体的に立ち上がる機構を持った絵本、いわゆる仕掛け絵本が広く知られている。
【0004】
このような機構は、広告用途にも適用することができる。このような機構を、例えば店頭のPOP(Point of purchase)広告やショーウィンドウ内における広告媒体として用いることで、シート形状の立体的な変化によって見る者に驚きを与え、または、興味を惹きつけ、優れた広告効果を得ることができる。
【0005】
これまで、このような機構では、例えば仕掛け絵本であれば、読者がページを開く動きを利用して立体形状を形成している。また、このような機構を広告用途に適用する場合には、モータを用いてシートの一部を動かすことで、立体形状を形成することができるが、この場合には、モータ等の機構を納めるための構造物を広告の近傍に配置する必要がある。
【0006】
こうした構造物の存在は、広告設置スペースを増大させるとともに、美観を損なうおそれがあることから望ましくない。そのため、見る者に違和感を与えない構成で、シートを立体的に変形させることができる装置が求められている。
【0007】
ここで、モータ等の機構を用いることなく、薄く平面的な機構でシートを直接動かすことができれば、このような装置を実現することができる。そこで、このような装置の候補として、例えば非特許文献1に示される静電式シート搬送装置が知られている。
【0008】
この静電式シート搬送装置では、所定の間隔をおいて多数の電極が平行に配置された帯状電極を有する薄板状の部材(以下、固定子と称する)の上にシートを配置し、固定子の帯状電極に多相電圧を印加する。これにより、シート表面にパターン化された電荷を誘導する。
【0009】
その後、帯状電極に印加する多相電圧を切り替えて、帯状電極表面近傍の電圧分布を空間的に移動させていくことで、電圧分布の移動方向への静電気力を、シート表面の電荷に対して及ぼす。この結果、シートは固定子表面を滑るように移動する。すなわち、静電気力により、シートを搬送することができる。
【0010】
また、例えば非特許文献2に示されるように、互いに独立した多相電圧を印加できるように構成された複数の帯状電極群を固定子内に配置し、各帯状電極群に対して、それぞれ適切な多相電圧パターンを印加することが考えられる。これにより、複数の帯状電極群にまたがるように配置されたシートを、任意の方向に搬送するか、または回転させることができる。
【0011】
この静電式シート搬送装置では、固定子を薄く構成することができるため、狭い設置スペースにも容易に設置することができる。また、見る者には、この静電式シート搬送装置の駆動の仕組みが分かりづらいことから、見る者に対して不可思議な印象を与えることができる。
【0012】
また、例えば非特許文献3に示されるように、透明なプラスチック素材と透明電極とを用いることで、固定子を透明に構成することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【文献】新野、柄川、樋口、「静電力による紙送り機構」、精密工学会誌、Vol.60、No.12、pp.1761-1765、1994
【文献】N.Yamashita and A.Yamamoto,"Three-DOF Electrostatic Induction Actuator Providing Translating and Rotating Surface-drive Motion",International Journal of Automation Technology,Vol.10,No.4,pp.525―532,2016
【文献】N.Yamashita,K.Amano,A.Yamamoto,"Interaction with Real Objects and Visual Images on a Flat Panel Display using Three-DOF Transparent Electrostatic Induction Actuators",Proceedings of the Seventh International Conference on Advances in Computer-Human Interactions,pp.294-299,2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、静電式シート搬送装置が発生する搬送力は微弱であり、かつその発生力は、固定子の電極とシートとの対向面積に比例する。そのため、シートを搬送するためには、できるだけ広い面、望ましくはシート全面を固定子の電極と対向させ、シートの広い範囲に対して静電気力を作用させる必要がある。
【0015】
このとき、シートに対して搬送方向の静電気力を作用させると、同時にシートを固定子に吸引する方向にも静電気力が発生する。そのため、従来の静電式シート搬送装置では、シートが固定子表面に常に吸引されて搬送されており、シートの動きは、固定子表面の平面内に限定されていた。
【0016】
そのため、従来の静電式シート搬送装置では、シートを立体的に変形させることはできなかった。
【0017】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、静電気力を用いて、シートを立体的に変形させることができるシート立体形状形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の実施の形態のシート立体形状形成方法は、所定ピッチで複数の電極が配置された電極群が複数形成された電極基板上に、一端側から所定の長さの切り込みが入れられた誘電体シートを載置する載置ステップと、複数の電極群に電圧をそれぞれ印加して、静電気力により前記切り込みの外側に向けた搬送力を生じさせることで、前記誘電体シートを前記切り込みの端部を回転中心として前記切り込みの開放端が離反する方向に回転運動させて、前記誘電体シートの前記切り込みの延長線上にある特定の位置に圧縮力を集中させて前記特定の位置を屈曲変形して盛り上げ、前記誘電体シートの一部を立ち上げて前記誘電体シートを立体形状に形成する立体形成ステップと、を有する。また、シート立体形状形成方法を実行するシート立体形状形成装置を提供する。
【0019】
このように、誘電体シートに対して、誘電体シートの少なくとも一部が電極基板の基板面から離れる方向に変形するような静電気力が働くことで、誘電体シートを立体的に変形させることができる。
【発明の効果】
【0020】
静電気力を用いて、誘電体シートを立体的に変形させることができるシート立体形状形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施の形態1に係るシート立体形状形成装置を例示する斜視図である。
【
図2】実施の形態1に係るシート立体形状形成装置における誘電体シートの構造を例示する説明図である。
【
図3】実施の形態1に係るシート立体形状形成装置における印加電圧を例示する説明図である。
【
図4】実施の形態1に係るシート立体形状形成装置において、電圧印加に伴って変形する誘電体シートの変形状態を示す説明図である。
【
図5】実施の形態1の第1変形例に係るシート立体形状形成装置における誘電体シートの構造を例示する説明図である。
【
図6】実施の形態1の第2変形例に係るシート立体形状形成装置を例示する斜視図である。
【
図7】実施の形態2に係るシート立体形状形成装置における電極基板の構造を例示する説明図である。
【
図8】実施の形態2に係るシート立体形状形成装置における誘電体シートの構造を例示する説明図である。
【
図9】実施の形態3に係るシート立体形状形成装置を例示する斜視図である。
【
図10】実施の形態3に係るシート立体形状形成装置における誘電体シートの変形状態を示す説明図である。
【
図11】実施の形態4に係るシート立体形状形成装置を例示する斜視図である。
【
図12】実施の形態4に係るシート立体形状形成装置における誘電体シートの変形状態(第1状態)を示す説明図である。
【
図13】実施の形態4に係るシート立体形状形成装置における誘電体シートの変形形状(第2状態)を示す説明図である。
【
図14】実施の形態1~4に係るシート立体形状形成方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明のシート立体形状形成装置を適用した実施の形態について説明する。
【0023】
<実施の形態1>
図1は、実施の形態1に係るシート立体形状形成装置を例示する斜視図である。
図1において、電極基板1は、絶縁体11に埋め込まれた2つの電極群12a、12bを有している。また、各電極群12a、12b内では、一定の配置間隔(例えば、1mm)で多数の電極が平行に配置され、複数の帯状電極に形成されている。
【0024】
各電極群12a、12bに属する平行電極は、3本ごとに給電線13に接続されており、3相電圧を印加できるよう高圧電源3に接続されている。また、電極群12aと電極群12bとでは、3相電圧の印加順序が空間的に反転しており、3相電圧を印加した場合に、それぞれの電極群における電圧分布が互いに逆方向に進行する。ここで、高圧電源3により各電極群12a、12bに印加される電圧は、制御部100により制御されている。
【0025】
制御部100は、一例として、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)等を含むコンピュータによって実現される。ROMまたはHDDには、CPUが実行する各種プログラムが格納されている。
【0026】
なお、ここでは電極を3本ごとに給電線13に接続し、いわゆる3相電極を形成しているが、4相、6相等のように、3相以外の構成としてもよい。また、電極基板1は、絶縁体11として透明なプラスチック素材を用い、電極として透明電極を用いることで、透明に構成することができる。
【0027】
また、電極基板1上には、誘電体シート2が載置されている。
図2は、実施の形態1に係るシート立体形状形成装置における誘電体シートの構造を例示する説明図である。
図2において、誘電体シート2は、例えばPPC(plain paper copier)用紙等、A4サイズの普通紙の中央にはさみ等により長さ16cm程度の切り込み21を入れたものである。
【0028】
ここで、切り込み21の長さは、誘電体シート2が屈曲変形しやすいように、誘電体シート2の幅の40~80%程度に設定される。また、誘電体シート2の斜線で表した駆動対象部分22-1、22-2の裏面に、表面抵抗率を調整したプラスチック製の抵抗率調整シート24が貼り付けられている。
【0029】
これにより、誘電体シート2全体の表面抵抗率は一様ではなく、場所により異なる抵抗率分布が存在している。また、抵抗率調整シート24が貼り付けられている部分は、貼り付けられていない部分と比べて厚みが大きいため、誘電体シート2全体で見ると厚みは一様ではなく、場所により異なる厚み分布が存在している。また、抵抗率調整シート24が貼り付けられている部分は、貼り付けられていない部分とは異なる材質となるため、場所により異なる材質分布が存在している。
【0030】
また、駆動対象部分22-1、22-2に貼り付けられた抵抗率調整シート24は、搬送力を発生させるのに最適な範囲に入るよう、表面抵抗率が調整されている。これに対して、抵抗率調整シート24が貼り付けられていない引き起こし部分23は、より低い表面抵抗率を有しており、大きな搬送力を得ることができない。
【0031】
以下、
図3および
図4を参照しながら、実施の形態1に係るシート立体形状形成装置の動作について説明する。
図3は、実施の形態1に係るシート立体形状形成装置における印加電圧を例示する説明図である。また、
図4は、実施の形態1に係るシート立体形状形成装置において、電圧印加に伴って変形する誘電体シートの変形状態を示す説明図である。
【0032】
制御部100により高圧電源3を駆動し、電極群12aおよび電極群12bに
図3に示される3相パルス電圧を印加する。続いて、それぞれの電極群における電圧分布を外側に向けて進行させると、誘電体シート2の駆動対象部分22-1、22-2には、静電気力により、電極基板1に沿って矢印4-1、4-2で示すような外側に向けた搬送力が生じる。この搬送力は、誘電体シート2の特定の位置に圧縮力を加え、誘電体シート2の少なくとも一部を電極基板1の基板面から離れる方向に変形させる静電気力である。
【0033】
具体的には、誘電体シート2に対して、2つの電極群12a、12bの各電極と交差する方向であって、誘電体シート2の任意の点a1を通る直線L1に平行な成分について、互いに離反する方向に静電気力が働く。ここで、点a1は、誘電体シート2上で、圧縮力が集中する位置である。すなわち、駆動対象部分22-1には、図面の左側方向に向けた矢印4-1の搬送力が生じ、駆動対象部分22-2には、図面の右側方向に向けた矢印4-2の搬送力が生じる。なお、印加電圧は、3相正弦波電圧であってもよい。
【0034】
このとき、駆動対象部分22-1、22-2は、引き起こし部分23により拘束されているため、切り込み21の端部を回転中心として回転する。この回転により、引き起こし部分23には圧縮力が加わり、特に大きな圧縮力が加わる中央上部付近において、引き起こし部分23は、基板面から離れるように上方に座屈する。
【0035】
さらに駆動対象部分22-1、22-2に搬送力を生じさせ、回転を進めることで、引き起こし部分23は、その中央上部から徐々に屈曲変形して盛り上がり、駆動対象部分22-1、22-2の回転が進むにつれて、最終的に
図4に示されるように立体的に引き起こされる。
【0036】
また、2つの電極群12a、12bに印加する3相電圧のパターンを変更することにより、引き起こした立体の高さを変化させることや、誘電体シート2を移動させることができる。
【0037】
すなわち、引き起こし部分23が立ち上がった状態で、電極群12aおよび電極群12bに印加される
図3の3相パルス電圧のうち、相Aと相Cとを入れ替えることで、上述した外側への動きとは逆に、駆動対象部分22-1、22-2を内側に向けて駆動させることができる。こうした内側への動きや、上述した外側への動きにより、引き起こし部分23の高さを変化させることができる。
【0038】
また、電極群12aおよび電極群12bの一方のみ、3相パルス電圧の相Aと相Cとを入れ替えると、2つの電極群12a、12bで電圧分布が同一方向に進行する。このとき、駆動対象部分22-1、22-2は、左右両側とも同じ方向に向けて搬送されるため、引き起こされた誘電体シート2全体が、その形状を維持したまま左方向または右方向に移動する。
【0039】
また、引き起こし部分23が立ち上がった状態で、電極群12aおよび電極群12bの一方の電圧を一定電圧に固定し、他方の電極群にのみ
図3の3相パルス電圧を印加すると、電圧を固定した側の駆動対象部分22をピボットにして、誘電体シート2全体を電極基板1上で回転させることができる。これは、電極基板1と誘電体シート2との間の摩擦の状況によって生じる。また、電極基板1と誘電体シート2との間の摩擦の状況によっては、左右に交互に少しずつ回転させることで、誘電体シート2全体を前後方向に移動させることができる。
【0040】
ここで、本実施の形態では、切り込み21の端部を回転中心とした回転運動を引き起こすことにより、誘電体シート2の中央上部の狭い領域に圧縮力を集中させることが可能となる。これにより、静電気による吸引力が加わっていたとしても、それに打ち勝って容易に座屈を生じさせることができる。
【0041】
また、誘電体シート2の中央上部の狭い領域で座屈が生じて屈曲変形を起こした後、変形により盛り上がった部分では、電極群からの距離が遠くなるため、静電気による吸引力が大幅に減少する。そのため、これ以降の変形の拡大は、電極基板1から離れた屈曲領域の辺縁部を少しずつ基板から剥がすようにすればよく、容易に屈曲を進展させることができる。
【0042】
実施の形態1に係るシート立体形状形成装置によれば、切り込み21が入れられた誘電体シート2に対して、電極基板1に沿って、2つの電極群12a、12bの各電極と交差する方向であって、誘電体シート2の任意の点を通る直線に平行な成分について、互いに離反する方向、または対向する方向の静電気力が働くことで、誘電体シート2を立体的に変形させることができる。したがって、静電気力を用いて、簡易な構成で誘電体シート2を立体的に変形させることができるシート立体形状形成装置を提供することができる。
【0043】
本実施の形態においては、切り込み21を入れた誘電体シート2に表面抵抗率分布と厚み分布とを持たせることで、容易に屈曲変形を引き起こすことができる構成としている。しかしながら、これに限定されず、一様な表面抵抗率、または一様な厚みの誘電体シート2であっても、切り込み21の長さや印加電圧の振幅、周波数または位相を調整することで、同様に引き起こしが可能である。また、誘電体シート2の屈曲変形を引き起こす箇所に予め折り線を付けておくことにより、より容易に屈曲変形を引き起こすことができる。
【0044】
また、本実施の形態では、引き起こし部分23の表面抵抗率を低くすることで、搬送力を発生させるのに最適な表面抵抗率の範囲から外して搬送力が加わらないようにしている。しかしながら、これに限定されず、表面抵抗率を高くしても、同様の効果を得ることができる。なお、表面抵抗率を著しく高く設定することで、誘電体シート2と電極基板1との間に働く静電気の吸引力を弱めることができるため、より容易に屈曲変形を引き起こすことができる。
【0045】
<実施の形態1の第1変形例>
図5は、実施の形態1の第1変形例に係るシート立体形状形成装置における誘電体シートの構造を例示する説明図である。
図2に示した誘電体シート2は、普通紙の中央にはさみ等により切り込み21を入れたものであるが、
図5に示されるように、誘電体シート2を切り取って切り欠き形状を作ることで、
図2に示した誘電体シート2の切り込み21と同様の効果を得ることができる。ここで、誘電体シート2の一部を切り欠いたものも、切り込み21と称する。
【0046】
<実施の形態1の第2変形例>
図6は、実施の形態1の第2変形例に係るシート立体形状形成装置を例示する斜視図である。
図6において、電極基板1は、絶縁体11に埋め込まれた2つの電極群12a、12bを有している。また、2つの電極群12a、12bは、一定の角度(例えば、30°)をつけて配置されている。その他の構成は、実施の形態1と同じ構成である。
【0047】
ここで、電極群12aおよび電極群12bに、それぞれの電極群における電圧分布が外側に向けて移動するように、
図3に示される3相パルス電圧または3相正弦波電圧を印加する。これにより、誘電体シート2の駆動対象部分22には、静電気力により、電極基板1に沿って矢印4-1、4-2で示すような外側に向けた搬送力が生じる。
【0048】
具体的には、誘電体シート2に対して、2つの電極群12a、12bの各電極と交差する方向であって、誘電体シート2の任意の点a2を通る直線L2に平行な成分について、互いに離反する方向に静電気力が働く。ここで、点a2は、誘電体シート2上で、圧縮力が集中する位置である。また、3相電圧のパターンを変更することにより、外側に向けた搬送力を生じさせることもできる。なお、離反するとは、平行方向に対して離れる向きを示し、対向するとは、平行方向に対して近づく向きを示す。
【0049】
<実施の形態2>
図7は、実施の形態2に係るシート立体形状形成装置における電極基板の構造を例示する説明図である。なお、
図7では、高圧電源3および制御部100は、図示を省略している。
【0050】
図7において、電極基板1は、絶縁体11に埋め込まれた2つの電極群12a、12bを有している。また、各電極群12a、12b内では、一定の配置間隔(例えば、3°)で多数の電極が円周方向に配置され、複数の放射状電極に形成されている。その他の構成は、実施の形態1と同じ構成である。
【0051】
図8は、実施の形態2に係るシート立体形状形成装置における誘電体シートの構造を例示する説明図である。
図8において、誘電体シート2は、円板状の普通紙であり、その一部に切り込み21が入っている。誘電体シート2は、2つの電極群12a、12bを覆うように、電極基板1の表面に載置される。なお、切り込み21の長さは、誘電体シート2が屈曲変形しやすいように、誘電体シート2の直径の40~80%程度に設定される。
【0052】
ここで、電極群12aおよび電極群12bに、電圧分布が図面の右下側は反時計回りに、左下側は時計回りになるように3相電圧を印加する。このとき、誘電体シート2に対して、2つの電極群12a、12bの各電極と交差する方向であって、誘電体シート2の任意の点a3を通る円周線L3上の成分について、互いに離反する方向に静電気力が働く。ここで、点a3は、誘電体シート2上で、圧縮力が集中する位置である。
【0053】
この結果、誘電体シート2が切り込み21の端部を回転中心として回転し、中央上部にて座屈して、電極基板1から離れる方向に屈曲変形を起こして盛り上がる。また、電極群12aおよび電極群12bに、電圧分布が図面の右下側は時計回りに、左下側は反時計回りになるように3相電圧を印加することもできる。
【0054】
実施の形態2に係るシート立体形状形成装置によれば、切り込み21が入れられた誘電体シート2に対して、電極基板1に沿って、電極群の各電極と交差する方向であって、誘電体シート2の任意の点を通る近似した円周線上の成分について、互いに離反する方向、または対向する方向の静電気力が働くことで、誘電体シート2を立体的に変形させることができる。また、多数の電極が平行に配置された帯状電極だけでなく、多数の電極が円周方向に配置された放射状電極を用いて、誘電体シート2を立体的に変形させることができる。
【0055】
<実施の形態3>
図9は、実施の形態3に係るシート立体形状形成装置を例示する斜視図である。
図9において、電極基板1は、絶縁体11に埋め込まれた2つの電極群12a、12bを有している。また、2つの電極群12a、12bは、A4用紙長辺の1/3程度の長さの隙間を空けて配置されている。その他の構成は、実施の形態1と同じ構成である。
【0056】
また、電極基板1上に載置された誘電体シート2は、表面抵抗率が搬送力を発生させるのに最適な範囲に入るように調整されたA4サイズのシートであり、シート全面にわたって一様な表面抵抗率および一様な厚みを有している。
【0057】
以下、
図10を参照しながら、実施の形態3に係るシート立体形状形成装置の動作について説明する。
図10は、実施の形態3に係るシート立体形状形成装置における誘電体シートの変形状態を示す説明図である。
【0058】
電極群12aおよび電極群12bに、それぞれの電極群における電圧分布が内側に向けて移動するように、
図3に示される3相パルス電圧または3相正弦波電圧を印加すると、誘電体シート2の両端部分が、矢印4-1、4-2の搬送力により、接近するように内側に向けて駆動され、シート中央部が座屈する。これにより、誘電体シート2の中央部は、静電気力が作用しないので、屈曲変形によって誘電体シート2が中央から盛り上がり、
図10に示されるような立体形状が形成される。
【0059】
実施の形態3に係るシート立体形状形成装置によれば、誘電体シート2に対して、隙間を空けて配置された2つの電極群12a、12bから、電極基板1に沿って、2つの電極群12a、12bの各電極と交差する方向であって、誘電体シート2の任意の点a4を通る直線L4に平行な成分について、互いに対向する方向の静電気力が働くことで、誘電体シート2を立体的に変形させることができる。ここで、点a4は、誘電体シート2上で、圧縮力が集中する位置である。したがって、静電気力を用いて、簡易な構成で誘電体シート2を立体的に変形させることができるシート立体形状形成装置を提供することができる。
【0060】
<実施の形態4>
図11は、実施の形態4に係るシート立体形状形成装置を例示する斜視図である。
図11において、電極基板1は、絶縁体11に埋め込まれた4つの電極群12a、12b、12c、12dを有している。ここで、これらの電極群は、実施の形態3とは異なり、互いの絶縁を維持するための最小限の隙間を除き、有意な隙間を空けることなく互いに隣接して配置されている。その他の構成は、実施の形態3と同じ構成である。
【0061】
以下、
図12および
図13を参照しながら、実施の形態4に係るシート立体形状形成装置の動作について説明する。
図12は、実施の形態4に係るシート立体形状形成装置における誘電体シートの変形状態(第1状態)を示す説明図である。また、
図13は、実施の形態4に係るシート立体形状形成装置における誘電体シートの変形形状(第2状態)を示す説明図である。
【0062】
本実施の形態では、誘電体シート2は、4つの電極群12a、12b、12c、12dすべてを覆うように、電極基板1の表面に載置される。まず、両側の電極群12aおよび電極群12dに、それぞれの電極群における電圧分布が内側に向けて移動し、矢印4-1、4-2の搬送力により、誘電体シート2の両端が互いに接近するようにするように、
図3に示される3相パルス電圧または3相正弦波電圧を印加する。
【0063】
この間、電極群12bおよび電極群12cには、GND電位を印加する。または、電極群12bおよび電極群12cを、高圧電源3から切り離してオープン回路の状態としてもよい。これにより、誘電体シート2の両端部分が内側に向けて駆動されてシート中央部が座屈する。その結果、誘電体シート2の中央部の屈曲変形によって、誘電体シート2が中央から盛り上がり、
図12に示されるような立体形状が形成される。
【0064】
なお、
図12に示されるように、誘電体シート2の両端部分が内側に向けて駆動されると、電極群12aおよび電極群12dと誘電体シート2とが対向する面積が減少し、それ以上の駆動力が低下する。
【0065】
そこで、続いて、内側の電極群12bおよび電極群12cに、それぞれの電極群における電圧分布が内側に向けて移動するように、
図3に示される3相パルス電圧または3相正弦波電圧を印加する。これにより、誘電体シート2が中央からさらに盛り上がり、
図13に示されるように、実施の形態3よりも高く誘電体シート2を屈曲変形させることができる。
【0066】
本実施の形態では、駆動開始時に電極群12bおよび電極群12cの印加電圧をオフにし、誘電体シート2の駆動が進展するに伴い電極群12bおよび電極群12cに対しても電圧を印加している。
【0067】
これは、誘電体シート2の駆動の開始時においては、シート中央部に静電気による吸引力が加わっていると、誘電体シート2の座屈が生じないため、電極群12bおよび電極群12cの印加電圧をオフにして、静電気による吸引力を生じなくしたものである。
【0068】
一方、誘電体シート2に座屈が生じた後の屈曲変形は、屈曲領域の辺縁部を少しずつ引き剥がすことによって進展していく。すなわち、少しずつ引き剥がしていくという性質上、静電気による吸引力が加わっていても、それに打ち勝って容易に屈曲を進展させることができる。
【0069】
実施の形態4に係るシート立体形状形成装置によれば、誘電体シート2に対して、4つの電極群12a、12b、12c、12dから、電極基板1に沿って、2つの電極群12a、12bの各電極と交差する方向であって、誘電体シート2の任意の点a5を通る直線L5に平行な成分について、互いに対向する方向の静電気力が2段階で働くことで、誘電体シート2をより立体的に変形させることができる。ここで、点a5は、誘電体シート2上で、圧縮力が集中する位置である。したがって、静電気力を用いて、簡易な構成で誘電体シート2を立体的に変形させることができるシート立体形状形成装置を提供することができる。なお、電極基板1に沿って、連続的に異なる静電気力を働かせてもよい。
【0070】
なお、上述した各実施の形態において、電極基板1および誘電体シート2を、平面でなく、曲面や球面として構成することも可能である。例えば、実施の形態1において、電極基板1および誘電体シート2を球面状に構成して駆動すると、球面から突き出す立体形状を形成することができる。
【0071】
さらに、これらの実施の形態において、立体形状の形成と同期して誘電体シート2の表面にプロジェクションマッピング等を行うことで、形状の変化と映像の変化とを融合させ、多様な演出を行うことが可能となり、優れた広告効果を得ることができる。また、立体形状の形成と同期して音楽を流すことにより、形状の変化と音楽とを融合させることもできる。
【0072】
以下、
図14のフローチャートを参照しながら、実施の形態1~4に係るシート立体形状形成装置におけるシート立体形状形成方法ついて説明する。
図14において、まず、誘電体シート2が電極基板1上に載置される(ステップS1)。
【0073】
続いて、制御部100により、誘電体シート2の特定の位置に圧縮力を集中して誘電体シート2を座屈させる静電気力が働くように、複数の電極群に電圧がそれぞれ印加され、誘電体シート2が立体形状に形成されて(ステップS2)、
図14の処理が終了する。
【0074】
上述した実施の形態1~4において、電極群に印加する電圧パターンは、コンピュータプログラムにより制御することができる。ここで、コンピュータにインストールするプログラムを変えることにより、種々のパターンの立体形状に変えることができる。また、例えば誘電体シート2の立ち上がり速度を種々のパターンで変えることができる。
【0075】
さらに、誘電体シート2の立体形状の形成と、プロジェクションマッピングや音楽とを、1つのコンピュータプログラムで併せて制御してもよい。なお、コンピュータプログラムは、HDD等の記憶媒体に記憶させておくか、ネットワークを通じて配信することができる。
【0076】
以上のように、本発明によれば、仕掛け絵本等に見られるようなシート変形による立体形状の作成を、複数の電極群が形成された電極基板1と、立体形状に変化する誘電体シート2という極めて簡易な構成によって実現することができる。
【0077】
また、既存のモータ等で駆動するものとは異なり、誘電体シート2に直接静電気力を作用させて変形を引き起こすことから、駆動の仕組みが分かりづらく、広告用途や娯楽用途において、高い広告効果や演出効果を得ることができる。
【0078】
また、電極基板1は、透明に構成することが可能であるため、駆動の仕組みを見る者に明示しない形で立体形状を形成することが可能となり、高い広告効果や演出効果を得ることができる。
【0079】
また、電極基板1は、非常に薄く形成することができるため、コンパクトなスペースに設置することができる。また、電極基板1は、非常に薄く形成することができるため、形状の自由度が高く、平面だけでなく曲面上において、誘電体シート2を引き起こすことも容易に行うことができる。
【0080】
また、こうした自由度の高さにより、本発明は、屋外広告、屋内POP広告、絵本、インタラクティブシステム等、多様な用途、場所、大きさに対して適用が可能であり、優れた広告効果、演出効果を生み出すことが可能となる。
【0081】
また、電極基板1に形成された、誘電体シート2の引き起こしに用いる電極群をそのまま用いて、引き起こした誘電体シートを前後左右に移動することも可能である。
【0082】
以上、本発明の例示的な実施の形態のシート立体形状形成装置について説明したが、本発明は、具体的に開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0083】
1 電極基板
2 誘電体シート
3 高圧電源
4-1、4-2 駆動力の方向を表す矢印
11 絶縁体
12a 電極群
12b 電極群
12c 電極群
12d 電極群
13 給電線
21 切り込み
22-1、22-2 駆動対象部分
23 引き起こし部分
24 抵抗率調整シート
100 制御部
a1~a5 誘電体シート上の任意の点
L1~L5 直線または円周線