(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】無機繊維、布及び繊維強化プラスチック
(51)【国際特許分類】
D01F 9/08 20060101AFI20220104BHJP
C03C 13/00 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
D01F9/08 A
D01F9/08 B
C03C13/00
(21)【出願番号】P 2017173024
(22)【出願日】2017-09-08
【審査請求日】2020-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】510188986
【氏名又は名称】株式会社宮城化成
(73)【特許権者】
【識別番号】517316801
【氏名又は名称】株式会社スマートファイバーデザイン研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】蛯名 武雄
(72)【発明者】
【氏名】小山 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】寺林 五策
(72)【発明者】
【氏名】岩田 伸一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 佑輝
(72)【発明者】
【氏名】池田 豊隆
(72)【発明者】
【氏名】志賀野 明
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-006823(JP,A)
【文献】特公昭51-037382(JP,B2)
【文献】特公昭60-005539(JP,B2)
【文献】特表2003-527287(JP,A)
【文献】特表2008-534420(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00 - 14/00
D01F 9/08 - 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2重量%以下のCaO、
7.71重量%以上かつ
10.83重量%以下のFe
2O
3、
62.21重量%以上かつ67.85重量%以下のシリカ及び
12.17重量%以上かつ18.54重量%以下のアルミナを含む無機繊維。
【請求項2】
5マイクロメートル以上かつ300マイクロメートル以下の繊維径を有する請求項1に記載の無機繊維。
【請求項3】
800℃で1時間にわたり熱処理した後、0.5%以上かつ2%以下の重量が減少し、互いに融着することがない請求項1又は2に記載の無機繊維。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の無機繊維からなる布。
【請求項5】
請求項4に記載の布を強化材として含む繊維強化プラスチック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機繊維並びにこの無機繊維を用いた布及び繊維強化プラスチックに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、無機材を原料とした無機繊維として、ガラス繊維、炭素繊維、ロックウール繊維などが提供されている。ガラス繊維は安価であり、強化材として使用した繊維強化プラスチックは船体や簡易トイレやキャンピングカーのボディーなどに幅広く使用されている(非特許文献1を参照)。ガラス繊維は、600℃程度の耐熱性を有し、3000MPa程度の引張強度を有している。また、ガラス繊維は、900℃で加熱すると繊維が溶融する。一般的に、ガラス繊維を製造しやすくするため融点を下げる目的でカルシウム分が添加される。また、ガラスについてビッカース硬度とヤング率との関係式が知られている(非特許文献2を参照)。この式によると、ビッカース硬度とヤング率には比例関係がある。3成分系ガラスは、CaOの含有量が少なくなるほど耐アルカリ性が増加することが知られている(非特許文献3を参照)。
【0003】
炭素繊維は、軽量で高強度であり、炭素繊維を用いた繊維強化プラスチックが航空機や車両の部品として利用されている(特許文献1を参照)。ロックウール繊維としては、ロシアや中国では、鉄分を多く含む玄武岩(バサルト)を溶融させ紡糸したバサルト繊維(玄武岩繊維)が生産されている(特許文献2を参照)。バサルト繊維は、ガラス繊維よりも耐熱性が高く、また強度が強いことが知られている。おもな玄武岩は、表1に示すような重量分率の範囲の組成である(非特許文献4を参照)。
【0004】
【0005】
このような無機繊維は、例えば-40℃から80℃までのような広い温度範囲において安定した強度を確保する必要がある自動車の繊維強化プラスチック(FRP)部材の材料として想定され、一部ではガラス繊維が使用されている。自動車の部材の観点からは、部材に十分な剛性を与えるために、材料となる無機繊維のヤング率を向上させることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平5-17225号公報
【文献】特表平9-500080号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】山根正之、外6名、「ガラス光学ハンドブック」、株式会社朝倉書店、1999年7月5日、p.513-524
【文献】稲葉誠二、外1名、「ガラスの機械的性質」、ニューグラス(NEW GLASS)、一般社団法人ニューガラスフォーラム、2008年、第23巻、第4号、p.50
【文献】大蔵明光、外1名、「銑鉄・製鋼スラグ,3成分系ガラスの熱特性」、生産研究、東京大学生産技術研究所、1979年3月、第31巻、第3号、p.186~189
【文献】国立天文台編、「おもな火成岩の化学組成」、丸善出版株式会社、2016年11月、第90冊、p.649
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、ガラス繊維強化プラスチックを焼却炉で焼却しようとすると、加熱されたガラス繊維が互いに融着し、さらに溶融したガラス繊維が焼却炉の炉材に溶け着いて取れなくなることがあった。炭素繊維は、繊維製造のプロセスが複雑であり、高価である。また、FRPに通常用いられるエポキシ樹脂と炭素繊維を含むFRPを焼却炉で焼却すると、エポキシ樹脂だけではなく炭素繊維も燃えてしまい、リサイクルすることが難しかった。バサルト繊維等のロックウール繊維は、天然物の玄武岩を原料とするものであり、玄武岩の組成が安定しないことから、これを溶融した溶融物の組成が安定せず、繊維特性、特に強度が安定しかった。また、組成が安定しないことから粘性も安定せず、そのため繊維径も安定しなかった。
【0009】
自動車の部材の材料としてガラス繊維が使用されることがあったが、ガラス繊維のヤング率は比較的小さく、部材の強度として十分な剛性を与えることができなかった。このため、ヤング率をさらに高めた無機繊維が求められている。また、自動車の部材の材料として使用するために、ガラス繊維に比べて耐アルカリ性を高めることが求められている。
【0010】
本発明は、上述の実情に鑑みて提案されるものであって、ガラス繊維よりも強度の点で優れ、耐熱性ではガラス繊維や炭素繊維よりも優れ、繊維特性と強度の点で安定し、高い耐アルカリ性を有し、さらにリサイクルが可能であるとともに、ヤング率及び耐アルカリ性を向上させた無機繊維並びにこの無機繊維を用いた布及び繊維強化プラスチックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の課題を解決するために、この出願に係る無機繊維は、2重量%以下のCaO、5重量%以上かつ15重量%以下のFe2O3、シリカ及びアルミナを含むものである。
【0012】
無機繊維は、5マイクロメートル以上かつ300マイクロメートル以下の繊維径を有してもよい。無機繊維は、800℃で1時間にわたり熱処理した後、0.5%以上かつ2%以下の重量が減少し、互いに融着することがないものでもよい。
【0013】
この出願に係る布は、前記無機繊維からなるものである。この出願に係る糸は、前記無機繊維が撚り合わされてなる。この出願に係る繊維強化プラスチックは、前記布を強化材として含むものである。
【発明の効果】
【0014】
この発明によると、ガラス繊維よりも強度の点で優れ、耐熱性ではガラス繊維や炭素繊維よりも優れ、繊維特性と強度の点で安定し、さらにリサイクルが可能である無機繊維並びに無機繊維を用いた布及び繊維強化プラスチックを提供することができる。また、ヤング率をガラス繊維よりも向上させることにより、自動車の部材に求められる剛性の無機材料を提供することができる。また、耐アルカリ性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】無機繊維の溶融試験の結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本実施の形態に係る無機繊維、布及び繊維強化プラスチックの実施の形態について詳細に説明する。
【0017】
本実施の形態の無機繊維は、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、酸化第二鉄(Fe2O3)、酸化カルシウム(CaO)を含む原料から作成されたものである。ここで、Fe2O3は、5重量%以上かつ15重量%以下である。CaOは、2重量%以下である。本実施の形態の無機繊維は、Fe2O3を含有することにより強度を確保している。また、CaOの含量を制限することにより、融点が低下しないようにしているとともに、高い耐アルカリ性を確保している。
【0018】
本実施の形態の無機繊維は、次のような工程によって製造される。まず、各成分の粉状原料を用意し、適切な重量比になるように秤量した上で、乳鉢等を用いて十分に混合して混合材料を準備する。次に、混合材料を電気炉内の坩堝に格納し、1250℃から1600℃に加熱して溶融する。そして、坩堝の底部に設けられたノズルから溶融物を細く連続落下させ、冷却して固化させることにより無機繊維を得る。無機繊維の繊維径は、5マイクロメートル以上かつ300マイクロメートル以下の範囲にあってもよい。
【0019】
このような無機繊維を集めることにより、綿状の短繊維の無機繊維のウールを得る。無機繊維のウールを圧縮して成形することにより、不織布を得る。一方、坩堝のノズルから落下させた溶融物を固化させて撚り合わせて紡糸することにより、長繊維の無機繊維の糸を得る。無機繊維の糸を織ることによって無機繊維の織布を得る。本明細書では、不織布及び織布を併せて布と称する。
【0020】
本実施の形態のFRPは、前記無機繊維の布を強化材としたプラスチックの複合材料である。このプラスチックは、熱硬化プラスチック、熱可塑プラスチックのいずれでもよい。
【0021】
本実施の形態の無機繊維は、800℃で1時間にわたり熱処理した後、0.5%以上かつ2%以下の重量が減少し、互いに融着することがないものであってもよい。このように、本実施の形態の繊維強化プラスチックは、優れた耐熱性を有する。
【0022】
本実施の形態の無機繊維は、ガラス繊維と同様に安価であり、バサルト繊維と同様の強度を有する。また、ガラス繊維や炭素繊維よりも高い耐熱性を有し、焼却炉で焼却しても炉材に溶融物が付着したり燃えてしまったりすることなくリサイクルすることができる。さらに、天然物のバサルト繊維とは異なり、組成が一定しているために繊維特性と強度の点において安定している。また、高い耐アルカリ性を有する。
【0023】
本実施の形態の布は、本実施の形態の無機繊維と同様に、安価であり、強度に優れ、耐熱性を有し、繊維特性と強度の点で安定し、さらにリサイクルすることができる。また、本実施の形態の繊維強化プラスチックは、安価であり、強度に優れ、特性が安定し、焼却処分により強化材の無機繊維を回収してリサイクルすることができる。
【0024】
本実施の形態の無機繊維は、ガラス繊維と比較してヤング率が向上している。また、本実施の形態の無機繊維は、広い温度範囲で耐熱性を有している。したがって、本実施の形態の無機繊維、布及び繊維強化プラスチックを使用して作成した部材は、例えば-40℃から80℃の範囲で十分な剛性を提供することができ、十分な強度が求められる自動車の部材に適している。
【実施例】
【0025】
本実施の形態の無機繊維について、実施例1から実施例6の5種類の組成の混合材料を準備し、溶融物を冷却してスラブ状のサンプルを作成した。表2は、実施例1から実施例6の重量%による組成を示している。
【0026】
【0027】
表2に示すように、実施例1から実施例6は、シリカ、アルミナ、Fe2O3、CaO、を含み、Fe2O3は5重量%以上かつ15重量%以下の範囲にあり、CaOは2重量%以下の範囲にある。なお、添加しない成分については検出不可(not detected: ND)として示した。
【0028】
実施例1から実施例5について、各サンプルのビッカース硬度を測定し、ヤング率に換算した。この換算には、ビッカース硬度Hv[GPa]とヤング率E[GPa]との関係式Hv=0.07Eを用いた(前記非特許文献2を参照)。したがって、表2のビッカース硬度が測定値であるのに対し、ヤング率は計算値である。
【0029】
後述する比較例5はガラス繊維に対応するEガラスの組成を有し、比較例6はバサルト繊維に対応するバサルト(玄武岩)の組成を有している。実施例1から実施例5のヤング率は、ガラス繊維に相当する比較例5よりも高く、バサルト繊維に相当する比較例6のヤング率に近いことが見られた。
【0030】
比較例として、比較例1から比較例6に、シリカ、アルミナ、Fe2O3、CaOを含むが、Fe2O3が5重量%以上かつ15重量%以下の範囲にあり、CaOが2重量%以下の範囲にあるという、本実施の形態の条件を満たさない場合について6種類の組成の混合材料を用意した。また、比較例5にEガラス、比較例6にバサルトに相当する組成の混合材料を用意した。そして、比較例1から比較例6についても、実施例1から実施例5と同様に、溶融物を冷却して作成したスラブ状の各サンプルのヤング率を調べた。
【0031】
ガラス繊維に相当する比較例5のEガラスのヤング率は、バサルト繊維に相当する比較例6のバサルトに比べると低いことが見られた。バサルトに対応する比較例6の組成を除いて、比較例1から比較例6のヤング率は、実施例1から実施例5のヤング率と比較すると低くなることが見られた。
【0032】
本実施の形態の例として、比較例5のEガラス、比較例6のバサルト、実施例6の材料を大気雰囲気で加熱したときの重量変化を測定した。加熱プロファイルは、室温から10℃/分の速度で昇温し、その後800℃で1時間保持した。その結果、比較例5のEガラスにおいては、1.5%の質量減少が観察された。また、比較例6のバサルトにおいては、0.02%の質量増加が観察された。実施例6の材料においては、0.1%の重量減少が観察された。
【0033】
ここで、比較例5のEガラスは、構成成分であるホウ素が容易に揮発するため、揮発により失われて重量が減少したものであると思われる。比較例6のバサルトは、バサルトに含まれる金属に加熱による酸化や窒化が進み重量を増加させたものであると思われる。実施例6の材料においても、材料の構成成分が揮発したために重量が減少したものであると思われる。本実施の形態の無機繊維は、表2の実施例1から実施例6の組成に示すようにホウ素を含むものではないため、同様の条件により加熱した場合には、加熱しても重量の変化はわずかであると考えられる。
【0034】
実施例6の材料を各成分の粉状原料を用意し、適切な重量比になるように秤量した上で、乳鉢等を用いて十分に混合して準備した。次に、材料を電気炉内の坩堝に格納し、1460℃に加熱して溶融した。そして、坩堝の底部に設けられたノズルから溶融物を細く連続落下させ、冷却して固化させることにより無機繊維を得た。無機繊維の繊維径は、20マイクロメートル以上100マイクロメートル以下の範囲であった。この繊維を纏めることにより、大きさ10センチメートル平方の布を作製した。この布にエポキシ樹脂を含浸させることによって、FRP板を作製した。
【0035】
図1は、本実施の形態の例として、比較例5のEガラス、比較例6のバサルト、実施例6の材料の溶融試験の結果を示している。
図1(a)の左側には試験に使用したEガラスの布を示し、
図1(a)の右側にはEガラスの布を1100℃で2時間にわたり加熱した後の状態を示している。布は、加熱により完全に溶融している。
図1(b)の左側には試験に使用したバサルトの繊維を示し、
図1(b)の右側には
図1(b)のバサルトの繊維を1100℃で2時間にわたり加熱した後の状態を示している。バサルトは、加熱により溶融することはなかった。
図1(c)の左側には比較例6の材料の繊維を示し、
図1(a)の右側にはこの材料の繊維を1100℃で2時間にわたり加熱した後の状態を示している。この材料は、加熱により溶融することはなかった。
【0036】
ここで、
図1(a)のEガラスは、構成成分のカルシウムが融点を低下させる作用があるため、融点の低下により溶融したものであると思われる。本実施の形態の無機繊維は、表2の実施例1から実施例5および実施例6に示すように、Eガラスと比較してカルシウムの含量が低いため、
図1(b)のバサルトや
図1(c)の材料に示されたように溶融することはないと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
この発明の無機繊維、布及び繊維強化プラスチックは、-40℃から80℃までの温度範囲において強度を確保することが求められる自動車の部材に利用することができる。