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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】光学素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/137 20060101AFI20220104BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20220104BHJP
   G02F 1/1337 20060101ALI20220104BHJP
   C09K 19/38 20060101ALI20220104BHJP
   C09K 19/56 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
G02F1/137 500
G02F1/13 500
G02F1/1337
C09K19/38
C09K19/56
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2017544217
(86)(22)【出願日】2016-10-06
(86)【国際出願番号】 JP2016079769
(87)【国際公開番号】W WO2017061536
(87)【国際公開日】2017-04-13
【審査請求日】2019-10-04
(31)【優先権主張番号】P 2015199120
(32)【優先日】2015-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】513099603
【氏名又は名称】兵庫県公立大学法人
(73)【特許権者】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097102
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 敬夫
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 友之
(72)【発明者】
【氏名】小野 浩司
(72)【発明者】
【氏名】川月 喜弘
(72)【発明者】
【氏名】後藤 耕平
【審査官】磯崎 忠昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/114864(WO,A1)
【文献】特開2009-271390(JP,A)
【文献】SASAKI Tomoyuki, et al.,Photoalignment and resulting holographic vector grating formation in composites of low molecular weight liquid crystals and photoreactive liquid crystalline polymers,Applied Phisics B,2015年08月,Vol.120, No.2,pp.217-222,ISSN: 0946-2171(Print), 1432-0649(Online)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/137
G02F 1/13
G02F 1/1337
C09K 19/20
C09K 19/30
C09K 19/32
C09K 19/38
C09K 19/56
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
I)第1の透明基体層;
II)第1の配向処理済の液晶配向膜層;
III)光反応性液晶組成物を充填する液晶層;
IV)第2の透明基体層;
を、上記の順序で有してなる光学素子であって、
前記III)層中の光反応性液晶組成物が、
(A)(A-1)光架橋、及び(A-2)光異性化からなる群から選ばれる少なくとも1種の反応を生じる光反応性側鎖を有する光反応性高分子液晶;及び
(B)低分子液晶;を有し、
前記III)液晶層の光反応性液晶組成物は、
前記組成物を偏光紫外線に露光し、且つ前記(A)光反応性高分子液晶が液晶性を発現する温度範囲の下限値より50℃低い温度以上に前記組成物を加熱することにより、前記(B)低分子液晶が所定の配向性を有する、光学素子。
【請求項2】
前記III)液晶層と前記IV)第2の透明基体層との間に、V)第2の配向処理済の液晶配向膜層、をさらに有する請求項1記載の光学素子。
【請求項3】
前記II)第1の液晶配向膜層、及び/又は前記V)第2の液晶配向膜層は、アンカリングエネルギーが2.5×10-3J/m未満である請求項1又は2記載の光学素子。
【請求項4】
前記III)液晶層の光反応性液晶組成物は、(A)光反応性高分子液晶と(B)低分子液晶との重量比((A)光反応性高分子液晶:(B)低分子液晶)が、3:97~20:80である、請求項1~3のいずれか1項記載の光学素子。
【請求項5】
前記(A)光反応性高分子液晶が、(A-1)光架橋反応を生じる光反応性側鎖を有する、請求項1~のいずれか1項記載の光学素子。
【請求項6】
前記(A)光反応性高分子液晶が、下記式(1)~(6)
(式中、A、B、Dはそれぞれ独立に、単結合、-O-、-CH-、-COO-、-OCO-、-CONH-、-NH-CO-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表す;
Sは、炭素数1~12のアルキレン基であり、それらに結合する水素原子はハロゲン基に置き換えられていてもよい;
Tは、単結合または炭素数1~12のアルキレン基であり、それらに結合する水素原子はハロゲン基に置き換えられていてもよい;
は、1価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環および炭素数5~8の脂環式炭化水素から選ばれる環を表すか、それらの置換基から選ばれる同一又は相異なった2~6の環が結合基Bを介して結合してなる基であり、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に-COOR(式中、Rは水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表す)、-NO、-CN、-CH=C(CN)、-CH=CH-CN、ハロゲン基、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
は、2価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環、炭素数5~8の脂環式炭化水素、および、それらの組み合わせからなる群から選ばれる基であり、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に-NO、-CN、-CH=C(CN)、-CH=CH-CN、ハロゲン基、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
Rは、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルコキシ基を表すか、又はYと同じ定義を表す;
Xは、単結合、-COO-、-OCO-、-N=N-、-CH=CH-、-C≡C-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表し、Xの数が2となるときは、X同士は同一でも異なっていてもよい;
Couは、クマリン-6-イル基またはクマリン-7-イル基を表し、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に-NO、-CN、-CH=C(CN)、-CH=CH-CN、ハロゲン基、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
q1とq2は、一方が1で他方が0である;
q3は0または1である;
P及びQは、各々独立に、2価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環、炭素数5~8の脂環式炭化水素、および、それらの組み合わせからなる群から選ばれる基である;ただし、Xが-CH=CH-CO-O-、-O-CO-CH=CH-である場合、-CH=CH-が結合する側のP又はQは芳香環であり、Pの数が2以上となるときは、P同士は同一でも異なっていてもよく、Qの数が2以上となるときは、Q同士は同一でも異なっていてもよい;
l1は0または1である;
l2は0~2の整数である;
l1とl2がともに0であるときは、Tが単結合であるときはAも単結合を表す;
l1が1であるときは、Tが単結合であるときはBも単結合を表す;
H及びIは、各々独立に、2価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環、およびそれらの組み合わせから選ばれる基である。)
からなる群から選ばれるいずれか1種の光反応性側鎖を有する請求項1~5のいずれか1項に記載の光学素子。
【化1】
【請求項7】
前記(A)光反応性高分子液晶が、下記式(7)~(10)
(式中、A、B、Dはそれぞれ独立に、単結合、-O-、-CH-、-COO-、-OCO-、-CONH-、-NH-CO-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表す;
は、1価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環および炭素数5~8の脂環式炭化水素から選ばれる環を表すか、それらの置換基から選ばれる同一又は相異なった2~6の環が結合基Bを介して結合してなる基であり、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に-COOR(式中、Rは水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表す)、-NO、-CN、-CH=C(CN)、-CH=CH-CN、ハロゲン基、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
Xは、単結合、-COO-、-OCO-、-N=N-、-CH=CH-、-C≡C-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表し、Xの数が2となるときは、X同士は同一でも異なっていてもよい;
lは1~12の整数を表す;
mは、0~2の整数を表し、m1、m2は1~3の整数を表す;
nは0~12の整数(ただしn=0のときBは単結合である)を表す;
は、2価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環、炭素数5~8の脂環式炭化水素、および、それらの組み合わせからなる群から選ばれる基であり、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に-NO、-CN、-CH=C(CN)、-CH=CH-CN、ハロゲン基、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
Rは、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルコキシ基を表すか、又はYと同じ定義を表す)
からなる群から選ばれるいずれか1種の光反応性側鎖を有する請求項1~のいずれか1項に記載の光学素子。
【化2】
【請求項8】
前記(A)光反応性高分子液晶が、下記式(11)~(13)
(式中、Aは、それぞれ独立に、単結合、-O-、-CH-、-COO-、-OCO-、-CONH-、-NH-CO-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表す;
Xは、単結合、-COO-、-OCO-、-N=N-、-CH=CH-、-C≡C-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表し、Xの数が2となるときは、X同士は同一でも異なっていてもよい;
lは、1~12の整数を表し、mは0~2の整数を表し、m1は1~3の整数を表す;
Rは、1価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環および炭素数5~8の脂環式炭化水素から選ばれる環を表すか、それらの置換基から選ばれる同一又は相異なった2~6の環が、単結合、-O-、-CH -、-COO-、-OCO-、-CONH-、-NH-CO-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表す結合基Bを介して結合してなる基であり、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に-COOR(式中、Rは水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表す)、-NO、-CN、-CH=C(CN)、-CH=CH-CN、ハロゲン基、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルキルオキシ基で置換されても良いか、又はヒドロキシ基もしくは炭素数1~6のアルコキシ基を表す)
からなる群から選ばれるいずれか1種の光反応性側鎖を有する請求項1~6のいずれか1項に記載の光学素子。
【化3】
【請求項9】
前記(A)光反応性高分子液晶が、下記式(14)又は(15)
(式中、Aはそれぞれ独立に、単結合、-O-、-CH-、-COO-、-OCO-、-CONH-、-NH-CO-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表す;
は、1価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環および炭素数5~8の脂環式炭化水素から選ばれる環を表すか、それらの置換基から選ばれる同一又は相異なった2~6の環が、単結合、-O-、-CH -、-COO-、-OCO-、-CONH-、-NH-CO-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表す結合基Bを介して結合してなる基であり、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に-COOR(式中、Rは水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表す)、-NO、-CN、-CH=C(CN)、-CH=CH-CN、ハロゲン基、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
lは1~12の整数を表し、m1、m2は1~3の整数を表す)
で表される光反応性側鎖を有する請求項1~のいずれか1項に記載の光学素子。
【化4】
【請求項10】
前記(A)光反応性高分子液晶が、下記式(16)又は(17)(式中、Aは単結合、-O-、-CH-、-COO-、-OCO-、-CONH-、-NH-CO-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表す;
Xは、単結合、-COO-、-OCO-、-N=N-、-CH=CH-、-C≡C-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表し、Xの数が2となるときは、X同士は同一でも異なっていてもよい;
lは、1~12の整数を表し、mは0~2の整数を表す)
で表される光反応性側鎖を有する請求項1~のいずれか1項に記載の光学素子。
【化5】
【請求項11】
前記(A)光反応性高分子液晶が、下記式(20)(式中、Aは、単結合、-O-、-CH-、-COO-、-OCO-、-CONH-、-NH-CO-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表す;
は、1価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環および炭素数5~8の脂環式炭化水素から選ばれる環を表すか、それらの置換基から選ばれる同一又は相異なった2~6の環が、単結合、-O-、-CH -、-COO-、-OCO-、-CONH-、-NH-CO-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表す結合基Bを介して結合してなる基であり、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に-COOR(式中、Rは水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表す)、-NO、-CN、-CH=C(CN)、-CH=CH-CN、ハロゲン基、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
Xは、単結合、-COO-、-OCO-、-N=N-、-CH=CH-、-C≡C-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表し、Xの数が2となるときは、X同士は同一でも異なっていてもよい;
lは1~12の整数を表し、mは0~2の整数を表す)で表される光反応性側鎖を有する請求項1~6のいずれか1項に記載の光学素子。
【化6】
【請求項12】
前記光学素子に、局所的に偏光紫外線を照射し、該照射された箇所においてのみ(A)光反応性高分子液晶及び(B)低分子液晶が所定の配向性を有する、請求項1~11のいずれか1項記載の光学素子。
【請求項13】
I)第1の透明基体層;
II)第1の配向処理済の液晶配向膜層;
III)光反応性液晶組成物を充填する液晶層;
IV)第2の透明基体層;
を、上記の順序で有してなる光学素子の製造方法であって、
[X1] 第1の透明基体上に、第1の液晶配向膜を調製する工程;
[X2] 第1の液晶配向膜を、そのアンカリングエネルギーが2.5×10-3未満となるように配向処理して、第1の基板を得る工程;
[X3] 第2の透明基体を準備する工程;
[X4] 第2の透明基体から第2の基板を調製する工程;
[X5] 第1の液晶配向膜が空間側になるように、第1と第2の基板の間に空間を設け、該空間に(A) (A-1)光架橋、及び(A-2)光異性化からなる群から選ばれる少なくとも1種の反応を生じる光反応性側鎖を有する光反応性高分子液晶;及び(B)低分子液晶;を有する光反応性液晶組成物を充填する工程;
を有することにより、前記光学素子を得る、上記方法であって、
[X6] 上記で得られた光学素子の液晶層に、前記第1及び第2の透明基体のいずれか一方から、偏光した紫外線を照射する工程;及び
[X7] 前記(A)光反応性高分子液晶が液晶性を発現する温度範囲の下限値より50℃低い温度以上に液晶層を加熱する工程;
をさらに有することにより、液晶層内で(B)低分子液晶が所定の配向性を有する光学素子が形成される、上記方法
【請求項14】
前記[X4]工程において、
[X4-1] 第2の透明基体上に第2の液晶配向膜を調製する工程;及び
[X4-2] 第2の液晶配向膜を、そのアンカリングエネルギーが2.5×10-3未満となるように配向処理し、第2の基板を調製する工程;
を有し、
前記[X5]工程において、第2の液晶配向膜が空間側になるように、第2の基板を配置する、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記[X7]工程を前記[X6]工程中に行う請求項13又は14記載の方法。
【請求項16】
前記[X7]工程を前記[X6]工程後に行う請求項13又は14記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子及び該光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光波の分岐、伝播方向の変換、集光分散、などが可能である回折格子は光記録、光情報伝送などの光エレクトロニクス分野の受動素子として広範に使用されている。
代表的な作成方法として、半導体集積回路などの作成に用いるフォトレジストを用いる方法であるが、このように作成された回折素子は、光学的異方性を有しないか、制御された周期的な光学的異方性を形成することが困難であるため、偏光状態の制御はできない。偏光の制御を行うためには、光学的異方性を高度に制御し、周期性を持たせた構造を有することが必要である。そのため、例えば光化学反応によって屈折率変化を生じさせる際に同時に光学的異方性を生じさせることができるポリビニルシンナメート(PVCi)やアゾベンゼンの軸選択的光反応を利用することが提案されている。
【0003】
しかしながら、PVCiの軸選択的光反応では誘起される複屈折は0.01と非常に小さく、また、アゾベンゼンにおいても、大きな複屈折が誘起されるわけではなく、かつ、熱や光などの外場の影響によって特性が変化するか、又は可視領域での光吸収があるなど、高い安定性を要求される受動型の光デバイスへの応用が困難であった。
【0004】
さらに、近年では電界によって回折特性を制御できる偏光制御型の回折素子の実現が期待されており、周期的に変化した固定化された分子配向構造を有する重合層、低分子液晶層、を含む構成としたことを特徴とする光回折液晶素子が開示されている(特許文献1)。液晶の配向状態を液晶バルク内で任意に制御できれば、種々の光学素子、例えば周期的配向分布を有する回折格子、レンズ、ミラーなどを提供することができる(非特許文献2又は3)。しかしながら、該構成の回折格子の場合、分子配向構造を有する重合層を形成する際に、複雑な配向処理を施す必要がある。また、配向処理による分子配向の制御は要求される素子性能により、素子毎にフォトマスクなどの製造設備を設計する必要があるため、製造コストの上昇や回折格子の製造を煩雑化させる問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-201388号公報。
【非特許文献】
【0006】
【文献】液晶便覧 丸善株式会社。
【文献】S. Sato, Jpn. J. Appl. Phys. 18, 1679 (1979).
【文献】T. Scharf, Polarized Light in Liquid Crystals and Polymers (Wiley, 2007).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、液晶の配向を液晶素子内の任意の場所で任意の状態に制御して得られる素子、具体的には光学素子を提供することにある。
また、本発明の目的は、上記目的以外に、又は、上記目的に加えて、該素子を作製する製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、以下の発明を見出した。
<1> I)第1の透明基体層;
II)第1の配向処理済の液晶配向膜層;
III)光反応性液晶組成物を充填する液晶層;
IV)第2の透明基体層;
を、上記の順序で有してなる光学素子であって、III)層中の光反応性液晶組成物が、
(A)(A-1)光架橋、及び(A-2)光異性化からなる群から選ばれる少なくとも1種の反応を生じる光反応性側鎖を有する光反応性高分子液晶;及び
(B)低分子液晶;を有する、光学素子。
【0009】
<2> 上記<1>において、III)液晶層とIV)第2の透明基体層との間に、V)第2の配向処理済の液晶配向膜層、をさらに有するのがよい。
<3> 上記<1>又は<2>において、II)第1の液晶配向膜層、及び/又はV)第2の液晶配向膜層は、アンカリングエネルギーが2.5×10-3J/m未満、好ましくは1.0×10-6~2.0×10-3J/m、より好ましくは1.0×10-5~1.0×10-3J/mであるのがよい。
【0010】
<4> 上記<1>~<3>のいずれかにおいて、III)液晶層の光反応性液晶組成物は、(A)光反応性高分子液晶と(B)低分子液晶との重量比((A)光反応性高分子液晶:(B)低分子液晶)が、3:97~20:80、好ましくは4:96~15:85、より好ましくは5:95~13:87である、のがよい。
<5> 上記<1>~<4>のいずれかにおいて、III)液晶層の光反応性液晶組成物は、該組成物を偏光紫外線に露光し、且つ(A)光反応性高分子液晶が液晶性を発現する温度範囲の下限値より50℃低い温度以上、好ましくは65~150℃、より好ましくは70~120℃に該組成物を加熱することにより、(B)低分子液晶が所定の配向性を有するのがよい。
<6> 上記<1>~<5>のいずれかにおいて、(A)光反応性高分子液晶が、(A-1)光架橋反応を生じる光反応性側鎖を有するのがよい。
【0011】
<7> 上記<1>~<6>のいずれかにおいて、(A)光反応性高分子液晶が、下記式(1)~(6)
(式中、A、B、Dはそれぞれ独立に、単結合、-O-、-CH-、-COO-、-OCO-、-CONH-、-NH-CO-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表す;
Sは、炭素数1~12のアルキレン基であり、それらに結合する水素原子はハロゲン基に置き換えられていてもよい;
Tは、単結合または炭素数1~12のアルキレン基であり、それらに結合する水素原子はハロゲン基に置き換えられていてもよい;
は、1価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環および炭素数5~8の脂環式炭化水素から選ばれる環を表すか、それらの置換基から選ばれる同一又は相異なった2~6の環が結合基Bを介して結合してなる基であり、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に-COOR(式中、Rは水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表す)、-NO、-CN、-CH=C(CN)、-CH=CH-CN、ハロゲン基、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
は、2価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環、炭素数5~8の脂環式炭化水素、および、それらの組み合わせからなる群から選ばれる基であり、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に-NO、-CN、-CH=C(CN)、-CH=CH-CN、ハロゲン基、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
Rは、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルコキシ基を表すか、又はYと同じ定義を表す;
Xは、単結合、-COO-、-OCO-、-N=N-、-CH=CH-、-C≡C-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表し、Xの数が2となるときは、X同士は同一でも異なっていてもよい;
Couは、クマリン-6-イル基またはクマリン-7-イル基を表し、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に-NO、-CN、-CH=C(CN)、-CH=CH-CN、ハロゲン基、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
q1とq2は、一方が1で他方が0である;
q3は0または1である;
P及びQは、各々独立に、2価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環、炭素数5~8の脂環式炭化水素、および、それらの組み合わせからなる群から選ばれる基である;ただし、Xが-CH=CH-CO-O-、-O-CO-CH=CH-である場合、-CH=CH-が結合する側のP又はQは芳香環であり、Pの数が2以上となるときは、P同士は同一でも異なっていてもよく、Qの数が2以上となるときは、Q同士は同一でも異なっていてもよい;
l1は0または1である;
l2は0~2の整数である;
l1とl2がともに0であるときは、Tが単結合であるときはAも単結合を表す;
l1が1であるときは、Tが単結合であるときはBも単結合を表す;
H及びIは、各々独立に、2価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環、およびそれらの組み合わせから選ばれる基である。)
からなる群から選ばれるいずれか1種の光反応性側鎖を有するのがよい。
【0012】
【化1】
【0013】
<8> 上記<1>~<7>のいずれかにおいて、(A)光反応性高分子液晶が、下記式(7)~(10)
(式中、A、B、D、Y、X、及びRは、上述と同じ定義を有する;
lは1~12の整数を表す;
mは、0~2の整数を表し、m1、m2は1~3の整数を表す;
nは0~12の整数(ただしn=0のときBは単結合である)を表す;
は、2価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環、炭素数5~8の脂環式炭化水素、および、それらの組み合わせからなる群から選ばれる基であり、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に-NO、-CN、-CH=C(CN)、-CH=CH-CN、ハロゲン基、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルキルオキシ基で置換されても良い)
からなる群から選ばれるいずれか1種の光反応性側鎖を有するのがよい。
【0014】
【化2】
【0015】
<9> 上記<1>~<7>のいずれかにおいて、(A)光反応性高分子液晶が、下記式(11)~(13)
(式中、A、X、l、及びRは、上述と同じ定義を有する)
からなる群から選ばれるいずれか1種の光反応性側鎖を有するのがよい。
【0016】
【化3】
【0017】
<10> 上記<1>~<7>のいずれかにおいて、(A)光反応性高分子液晶が、下記式(14)又は(15)
(式中、A、Y、l、m1及びm2は、上述と同じ定義を有する)
で表される光反応性側鎖を有するのがよい。
【0018】
【化4】
【0019】
<11> 上記<1>~<7>のいずれかにおいて、(A)光反応性高分子液晶が、下記式(16)又は(17)
(式中、A、X、l、及びmは、上述と同じ定義を有する)
で表される光反応性側鎖を有するのがよい。
【0020】
【化5】
【0021】
<12> 上記<1>~<7>のいずれかにおいて、(A)光反応性高分子液晶が、下記式(20)
(式中、A、Y、X、l及びmは、上述と同じ定義を有する)
で表される光反応性側鎖を有するのがよい。
【0022】
【化6】
【0023】
<13> 上記<1>~<12>のいずれかの光学素子は、該素子に、局所的に偏光紫外線を照射し、該照射された箇所においてのみ(A)光反応性高分子液晶及び(B)低分子液晶が所定の配向性を有するのがよい。
【0024】
<14> 上記<1>~<12>のいずれかの光学素子の製造方法であって、
[X1] 第1の透明基体上に、第1の液晶配向膜を調製する工程;
[X2] 第1の液晶配向膜を、そのアンカリングエネルギーが2.5×10-3J/m未満、好ましくは1.0×10-6~2.0×10-3J/m、より好ましくは1.0×10-5~1.0×10-3J/mとなるように配向処理して、第1の基板を得る工程;
[X3] 第2の透明基体を準備する工程;
[X4] 第2の透明基体から第2の基板を調製する工程;
[X5] 第1の液晶配向膜が空間側になるように、第1と第2の基板の間に空間を設け、該空間に(A) (A-1)光架橋、及び(A-2)光異性化からなる群から選ばれる少なくとも1種の反応を生じる光反応性側鎖を有する光反応性高分子液晶;及び(B)低分子液晶;を有する光反応性液晶組成物を充填する工程;
を有することにより、光学素子を得る、上記方法。
【0025】
<15> 上記<14>の[X4]工程において、
[X4-1] 第2の透明基体上に第2の液晶配向膜を調製する工程;及び
[X4-2] 第2の液晶配向膜を、そのアンカリングエネルギーが2.5×10-3J/m未満、好ましくは1.0×10-6~2.0×10-3J/m、より好ましくは1.0×10-5~1.0×10-3J/mとなるように配向処理し、第2の基板を調製する工程;
を有し、
[X5]工程において、第2の液晶配向膜が空間側になるように、第2の基板を配置するのがよい。
【0026】
<16> 上記<14>又は<15>において、
[X6] 上記<14>又は<15>で得られた光学素子の液晶層に、第1及び第2の透明基体のいずれか一方から、偏光した紫外線を照射する工程;及び
[X7] (A)光反応性高分子液晶が液晶性を発現する温度範囲の下限値より50℃低い温度以上、好ましくは65~150℃、より好ましくは70~120℃に液晶層を加熱する工程;
を有することにより、液晶層内で(B)低分子液晶が所定の配向性を有する光学素子が形成されるのがよい。
【0027】
<17> 上記<16>において、[X7]工程を[X6]工程中に行うのがよい。
<18> 上記<16>において、[X7]工程を[X6]工程後に行うのがよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明により、液晶の配向を液晶素子内の任意の場所で任意の状態に制御して得られる素子、具体的には光学素子を提供することができる。
また、本発明により、上記効果以外に、又は、上記効果に加えて、該素子を作製する製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】実施例及び比較例で得られた液晶セルに直線偏光紫外線を照射する実験系の概略図を示す。
図2】実施例及び比較例の偏光露光後に得られた液晶セルの透過回折光の強度を測定する実験系の概略図を示す。
図3図2に示す実験系において、実施例1、実施例2、及び比較例1の液晶セルA1~A3を回転させたとき(横軸:角度)の透過光強度(縦軸)を測定した結果を、(A):実施例1の液晶セルA1、(B):実施例2の液晶セルA2、及び(C):比較例1の液晶セルA3、について、それぞれ示す。
図4】実施例1の液晶セルA1について、露光角度を液晶配向膜のラビング方向に対して15°、30°及び45°とした場合に、液晶セルのラビング方向を偏光子の透過軸に対して回転させた時の偏光顕微鏡による観察結果を示す。
図5】アンカリングエネルギーを測定するネールウォール法において、ネールウォール幅を測定する概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本願は、液晶の配向をその素子内の任意の場所で任意の状態に制御して得られる素子、特に光学素子及びその製造方法を提供する。
以下、該光学素子、及び該素子の製造方法を説明する。
<光学素子>
本発明の光学素子は、
I)第1の透明基体層;
II)第1の配向処理済の液晶配向膜層;
III)光反応性液晶組成物を充填する液晶層;及び
IV)第2の透明基体層;
を、上記の順序で有して形成される。
また、所望により、III)液晶層とIV)第2の透明基体層との間に、V)第2の配向処理済の液晶配向膜層、をさらに有してもよい。
【0031】
<<第1及び第2の透明基体層>>
第1及び第2の透明基体層は、透明基体からなる。
透明基体として、光学素子として用いる特性に依存するが、例えば、ガラス;アクリルやポリカーボネート等のプラスチック等;を用いることができる。例えば、透明基体として、偏光紫外線を透過する特性を有するのがよい。該基体は、形成する光学素子に依存して、可撓性を有してもよい。
【0032】
<<第1及び第2の配向処理済の液晶配向膜層>>
第1の配向処理済の液晶配向膜層は、上述の第1の透明基体層と後述の液晶層との間に設けられる。
第1の配向処理済の液晶配向膜層と上述の第1の透明基体層との間に、その他の層を設けてもよい。例えば、その他の層として、屈折率を制御するための層、電極を保護するための層、及び電極等の凹凸を平坦化するための層などを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0033】
また、上述のように、本発明の光学素子は、所望により第2の配向処理済の液晶配向膜層を有してもよい。この場合、第2の配向処理済の液晶配向膜層は、上述の第2の透明基体層と後述の液晶層との間に設けられる。
第2の配向処理済の液晶配向膜層についても、第1の配向処理済の液晶配向膜層と同様に、上述の第2の透明基体層との間に、その他の層を設けてもよい。
【0034】
第1及び第2の配向処理済の液晶配向膜層に用いられる液晶配向膜は、液晶配向膜としての作用を生じるものであれば、その材料は特に限定されない。
液晶配向膜としての作用を生じる材料として、例えば、ポリイミド前駆体、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレア、ポリウレタン、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリスチレン、ポリシロキサン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホンなどを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0035】
液晶配向膜層は、配向処理済であることを要する。
ここで、第1及び第2の配向処理済の液晶配向膜層は、各々独立に、そのアンカリングエネルギーが2.5×10-3J/m未満、好ましくは1.0×10-6~2.0×10-3J/m、より好ましくは1.0×10-5~1.0×10-3J/mであるのがよい。
アンカリングエネルギーが上記範囲にあることにより、該配向膜層で光反応性液晶組成物を一軸に配向させることができ、かつ、その後の偏光紫外線の露光により、露光した箇所のみにおいて、配向方向の変化が可能となるという作用を生じることができる。
【0036】
<<液晶層>>
本発明の光学素子は、第1の配向処理済の液晶配向膜層と第2の透明基体層との間に、又は、第1の配向処理済の液晶配向膜層と第2の配向処理済の液晶配向膜層との間に、光反応性液晶組成物を充填する液晶層を有してなる。
液晶層は、第1の配向処理済の液晶配向膜層と第2の透明基体層との間に、又は、第1の配向処理済の液晶配向膜層と第2の配向処理済の液晶配向膜層との間に、空間を形成して、該空間に光反応性液晶組成物を充填することにより形成される。
【0037】
<<光反応性液晶組成物>>
液晶層の光反応性液晶組成物は、(A) (A-1)光架橋、及び(A-2)光異性化からなる群から選ばれる少なくとも1種の反応を生じる光反応性側鎖を有する光反応性高分子液晶;及び(B)低分子液晶;を有する。
光反応性液晶組成物は、(A)光反応性高分子液晶;及び(B)低分子液晶;のみからなっても、該(A)及び(B)の性質が変化しない程度のその他の成分を有する(A)及び(B)のみから本質的になってもよい。また、本発明の光反応性液晶組成物は、(A)又は(B)以外に、その他の成分を有してもよい。
【0038】
<<(B)低分子液晶>>
光反応性液晶組成物に含まれる(B)低分子液晶は、従来、液晶表示素子などに用いられているネマチック液晶や強誘電性液晶などを用いることができる。
具体的には、(B)低分子液晶として、4-シアノ-4’-n-ペンチルビフェニル、4-シアノ-4’-n-ヘプチルオキシビフェニル等のシアノビフェニル類;コレステリルアセテート、コレステリルベンゾエート等のコレステリルエステル類;4-カ ルボキシフェニルエチルカーボネート、4-カルボキシフェニル-n-ブチルカーボネート等の炭酸エステル類;安息香酸フェニルエステル、フタル酸ビフェニ ルエステル等のフェニルエステル類;ベンジリデン-2-ナフチルアミン、4’-n-ブトキシベンジリデン-4-アセチルアニリン等のシッフ塩基類;N,N’-ビスベンジリデンベンジジン、p-ジアニスアルベンジジン等のベンジジン類;4,4’-アゾキシジアニソール、4,4’-ジ-n-ブトキシ アゾキシベンゼン等のアゾキシベンゼン類;以下に具体的に示すフェニルシクロヘキシル系、ターフェニル系、フェニルビシクロヘキシル系などの液晶;などを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0039】
【化7】
【0040】
【化8】
【0041】
【化9】
【0042】
<<(A)光反応性高分子液晶>>
光反応性液晶組成物に含まれる、(A) 光反応性高分子液晶(以降、単に「(A)成分」と略記する場合がある)は、(A-1)光架橋、及び(A-2)光異性化からなる群から選ばれる少なくとも1種の反応を生じる光反応性側鎖を有すれば、特に限定されない。
本明細書において光反応性とは、(A-1)光架橋、又は(A-2)光異性化、のいずれかの反応;及び双方の反応;を生じる性質をいう。
(A)成分は、好ましくは(A-1)光架橋反応を生じる側鎖を有するのがよい。
【0043】
(A)成分は、i)所定の温度範囲で液晶性を発現する高分子であって、光反応性側鎖を有する高分子である。
(A)成分は、ii)250nm~450nmの波長範囲の光で反応し、かつ50~300℃の温度範囲で液晶性を示すのがよい。
(A)成分は、iii)250nm~450nmの波長範囲の光、特に偏光紫外線に反応する光反応性側鎖を有することが好ましい。
(A)成分は、iv)50~300℃の温度範囲で液晶性を示すためメソゲン基を有することが好ましい。
【0044】
本発明の光反応性液晶組成物において、(A)光反応性高分子液晶と(B)低分子液晶との重量比((A)光反応性高分子液晶:(B)低分子液晶)は、3:97~20:80、好ましくは4:96~15:85、より好ましくは5:95~13:87であるのがよい。
(A):(B)における(A)の比率が、上記範囲であると、i)液晶を配向させるために必要な配向性基の量が確保できる、ii)均一な液晶配向を得ることができる、iii)光反応性高分子液晶(A)が偏光紫外線で反応した後の高分子マトリックスの密度が所望の値となる、iv)電圧を印可した際の低分子液晶(B)が所望の応答を行う、などの点で良い。
【0045】
(A)成分は、上述のように、光反応性を有する光反応性側鎖を有する。該側鎖の構造は、特に限定されないが、上記(A-1)及び/又は(A-2)に示す反応を生じる構造を有し、(A-1)光架橋反応を生じる構造を有するのが好ましい。(A-1)光架橋反応を生じる構造は、その反応後の構造が、熱などの外部ストレスに曝されたとしても、(A)成分の配向性を長期間安定に保持できる点で好ましい。
(A)成分の側鎖の構造は、剛直なメソゲン成分を有する方が、液晶の配向が安定するため、好ましい。
【0046】
メソゲン成分として、ビフェニル基、ターフェニル基、フェニルシクロヘキシル基、フェニルベンゾエート基、アゾベンゼン基などを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0047】
(A)成分の主鎖の構造として、例えば、炭化水素、(メタ)アクリレート、イタコネート、フマレート、マレエート、α-メチレン-γ-ブチロラクトン、スチレン、ビニル、マレイミド、ノルボルネン等のラジカル重合性基およびシロキサンからなる群から選択される少なくとも1種を挙げることができるがこれに限定されない。
また、(A)成分の側鎖として、下記式(1)~(6)の少なくとも1種からなる側鎖であるのが好ましい。
【0048】
【化10】
【0049】
式中、A、B、Dはそれぞれ独立に、単結合、-O-、-CH-、-COO-、-OCO-、-CONH-、-NH-CO-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表す;
Sは、炭素数1~12のアルキレン基であり、それらに結合する水素原子はハロゲン基に置き換えられていてもよい;
Tは、単結合または炭素数1~12のアルキレン基であり、それらに結合する水素原子はハロゲン基に置き換えられていてもよい;
は、1価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環および炭素数5~8の脂環式炭化水素から選ばれる環を表すか、それらの置換基から選ばれる同一又は相異なった2~6の環が結合基Bを介して結合してなる基であり、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に-COOR(式中、Rは水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表す)、-NO、-CN、-CH=C(CN)、-CH=CH-CN、ハロゲン基、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
は、2価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環、炭素数5~8の脂環式炭化水素、および、それらの組み合わせからなる群から選ばれる基であり、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に-NO、-CN、-CH=C(CN)、-CH=CH-CN、ハロゲン基、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
Rは、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルコキシ基を表すか、又はYと同じ定義を表す;
Xは、単結合、-COO-、-OCO-、-N=N-、-CH=CH-、-C≡C-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表し、Xの数が2となるときは、X同士は同一でも異なっていてもよい;
Couは、クマリン-6-イル基またはクマリン-7-イル基を表し、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に-NO、-CN、-CH=C(CN)、-CH=CH-CN、ハロゲン基、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
q1とq2は、一方が1で他方が0である;
q3は0または1である;
P及びQは、各々独立に、2価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環、炭素数5~8の脂環式炭化水素、および、それらの組み合わせからなる群から選ばれる基である;ただし、Xが-CH=CH-CO-O-、-O-CO-CH=CH-である場合、-CH=CH-が結合する側のP又はQは芳香環であり、Pの数が2以上となるときは、P同士は同一でも異なっていてもよく、Qの数が2以上となるときは、Q同士は同一でも異なっていてもよい;
l1は0または1である;
l2は0~2の整数である;
l1とl2がともに0であるときは、Tが単結合であるときはAも単結合を表す;
l1が1であるときは、Tが単結合であるときはBも単結合を表す;
H及びIは、各々独立に、2価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環、およびそれらの組み合わせから選ばれる基である。
【0050】
側鎖は、下記式(7)~(10)からなる群から選ばれるいずれか1種の光反応性側鎖であるのがよい。
式中、A、B、D、Y、X、Y、及びRは、上記と同じ定義を有する;
lは1~12の整数を表す;
mは、0~2の整数を表し、m1、m2は1~3の整数を表す;
nは0~12の整数(ただしn=0のときBは単結合である)を表す。
【0051】
【化11】
【0052】
側鎖は、下記式(11)~(13)からなる群から選ばれるいずれか1種の光反応性側鎖であるのがよい。
式中、A、X、l、m、m1及びRは、上記と同じ定義を有する。
【0053】
【化12】
【0054】
側鎖は、下記式(14)又は(15)で表される光反応性側鎖であるのがよい。
式中、A、Y、l、m1及びm2は上記と同じ定義を有する。
【0055】
【化13】
【0056】
側鎖は、下記式(16)又は(17)で表される光反応性側鎖であるのがよい。
式中、A、X、l及びmは、上記と同じ定義を有する。
【0057】
【化14】
【0058】
側鎖は、下記式(20)で表される光反応性側鎖であるのがよい。
式中、A、Y、X、l及びmは上記と同じ定義を有する。
【0059】
【化15】
【0060】
また、(A)成分は、下記式(21)~(31)からなる群から選ばれるいずれか1種の液晶性側鎖を有してもよい。例えば、(A)成分の光反応性側鎖が液晶性を有しない場合、又は、(A)成分の主鎖が液晶性を有しない場合、(A)成分は、下記式(21)~(31)からなる群から選ばれるいずれか1種の液晶性側鎖を有するのがよい。
式中、A、B、q1及びq2は上記と同じ定義を有する;
は、1価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、窒素含有複素環、及び炭素数5~8の脂環式炭化水素、および、それらの組み合わせからなる群から選ばれる基であり、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に-NO、-CN、ハロゲン基、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
は、水素原子、-NO、-CN、-CH=C(CN)、-CH=CH-CN、ハロゲン基、1価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、窒素含有複素環、炭素数5~8の脂環式炭化水素、炭素数1~12のアルキル基、又は炭素数1~12のアルコキシ基を表す;
lは1~12の整数を表し、mは0から2の整数を表し、但し、式(23)~(24)において、全てのmの合計は2以上であり、式(25)~(26)において、全てのmの合計は1以上であり、m1、m2およびm3は、それぞれ独立に1~3の整数を表す;
は、水素原子、-NO、-CN、ハロゲン基、1価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、窒素含有複素環、及び炭素数5~8の脂環式炭化水素、および、アルキル基、又はアルキルオキシ基を表す;
、Zは単結合、-CO-、-CHO-、-CH=N-、-CF-を表す。
【0061】
【化16】
【0062】
<<(A)成分の製法>>
(A)成分は、上記光反応性側鎖を有する光反応性側鎖モノマーを重合することによって、場合によっては該光反応性側鎖モノマーと上記液晶性側鎖を有するモノマーとを共重合することによって、得ることができる。
【0063】
[光反応性側鎖モノマー]
光反応性側鎖モノマーとは、本明細書において、高分子を形成した場合に、高分子の側鎖部位に光反応性側鎖を有する高分子を形成することができるモノマーのことをいう。
側鎖が有する光反応性基としては下記の構造およびその誘導体が好ましい。
【0064】
【化17】
【0065】
光反応性側鎖モノマーのより具体的な例としては、炭化水素、(メタ)アクリレート、イタコネート、フマレート、マレエート、α-メチレン-γ-ブチロラクトン、スチレン、ビニル、マレイミド、ノルボルネン等のラジカル重合性基およびシロキサンからなる群から選択される少なくとも1種から構成された重合性基と、上記式(1)~(6)の少なくとも1種からなる光反応性側鎖、好ましくは、例えば、上記式(7)~(10)の少なくとも1種からなる光反応性側鎖、上記式(11)~(13)の少なくとも1種からなる光反応性側鎖、上記式(14)又は(15)で表される光反応性側鎖、上記式(16)又は(17)で表される光反応性側鎖、上記式(20)で表される光反応性側鎖を有する構造であることが好ましい。
【0066】
光反応性側鎖モノマーとして、例えば、下記式PRM-1~PRM-11(式中、nは1~6の整数を示し、mは0~4の整数を示し、Xは水素原子又はメチル基を示し、Rは水素原子、炭素数1~3の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルコキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、もしくはニトロ基を示し、R~Rは各々独立に、水素原子、炭素数1~3の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルコキシ基、もしくはハロゲン原子を示し、pは1~4の整数を示す)で表される化合物を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0067】
【化18】
【0068】
[液晶性側鎖モノマー]
液晶性側鎖モノマーとは、本明細書において、該モノマー由来の高分子が液晶性を発現し、該高分子が側鎖部位にメソゲン基を形成することができるモノマーをいう。
側鎖が有するメソゲン基として、ビフェニルやフェニルベンゾエートなどの単独でメソゲン構造となる基であっても、安息香酸などのように側鎖同士が水素結合することでメソゲン構造となる基であってもよい。側鎖が有するメソゲン基としては下記の構造が好ましい。
【0069】
【化19】
【0070】
液晶性側鎖モノマーのより具体的な例としては、炭化水素、(メタ)アクリレート、イタコネート、フマレート、マレエート、α-メチレン-γ-ブチロラクトン、スチレン、ビニル、マレイミド、ノルボルネン等のラジカル重合性基およびシロキサンからなる群から選択される少なくとも1種から構成された重合性基と、上記式(21)~(31)の少なくとも1種からなる側鎖を有する構造であることが好ましい。
具体的には、液晶性側鎖モノマーとして、例えば、下記式LCM-1~LCM-9(式中、nは1~6の整数を示し、Xは水素原子又はメチル基を示し、R、R及びR61~R63は各々独立に水素原子、炭素数1~3の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルコキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、もしくはニトロ基を示し、Rは水素原子、炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す)で表される化合物を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0071】
【化20】
【0072】
(A)成分は、上述した液晶性を発現する光反応性側鎖モノマーの重合反応により得ることができる。また、液晶性を発現しない光反応性側鎖モノマーと液晶性側鎖モノマーとの共重合や、液晶性を発現する光反応性側鎖モノマーと液晶性側鎖モノマーとの共重合によって得ることができる。さらに、液晶性の発現能を損なわない範囲でその他のモノマーと共重合することができる。
【0073】
その他のモノマーとしては、例えば工業的に入手できるラジカル重合反応可能なモノマーが挙げられる。
その他のモノマーの具体例としては、不飽和カルボン酸、アクリル酸エステル化合物、メタクリル酸エステル化合物、マレイミド化合物、アクリロニトリル、マレイン酸無水物、スチレン化合物及びビニル化合物等が挙げられる。
【0074】
不飽和カルボン酸の具体例としてはアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などが挙げられる。
アクリル酸エステル化合物としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ベンジルアクリレート、ナフチルアクリレート、アントリルアクリレート、アントリルメチルアクリレート、フェニルアクリレート、2,2,2-トリフルオロエチルアクリレート、tert-ブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、イソボルニルアクリレート、2-メトキシエチルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、2-エトキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、3-メトキシブチルアクリレート、2-メチル-2-アダマンチルアクリレート、2-プロピル-2-アダマンチルアクリレート、8-メチル-8-トリシクロデシルアクリレート、及び、8-エチル-8-トリシクロデシルアクリレート等が挙げられる。
【0075】
メタクリル酸エステル化合物としては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、ナフチルメタクリレート、アントリルメタクリレート、アントリルメチルメタクリレート、フェニルメタクリレート、2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート、tert-ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、2-メトキシエチルメタクリレート、メトキシトリエチレングリコールメタクリレート、2-エトキシエチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、3-メトキシブチルメタクリレート、2-メチル-2-アダマンチルメタクリレート、2-プロピル-2-アダマンチルメタクリレート、8-メチル-8-トリシクロデシルメタクリレート、及び、8-エチル-8-トリシクロデシルメタクリレート等が挙げられる。 グリシジル(メタ)アクリレート、(3-メチル-3-オキセタニル)メチル(メタ)アクリレート、および(3-エチル-3-オキセタニル)メチル(メタ)アクリレートなどの環状エーテル基を有する(メタ)アクリレート化合物も用いることができる。
【0076】
ビニル化合物としては、例えば、ビニルエーテル、メチルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル、及び、プロピルビニルエーテル等が挙げられる。
スチレン化合物としては、例えば、スチレン、メチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン等が挙げられる。
マレイミド化合物としては、例えば、マレイミド、N-メチルマレイミド、N-フェニルマレイミド、及びN-シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。
【0077】
本実施の形態の側鎖型高分子の製造方法については、特に限定されるものではなく、工業的に扱われている汎用な方法が利用できる。具体的には、液晶性側鎖モノマーや光反応性側鎖モノマーのビニル基を利用したカチオン重合やラジカル重合、アニオン重合により製造することができる。これらの中では反応制御のしやすさなどの観点からラジカル重合が特に好ましい。
【0078】
ラジカル重合の重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤や、可逆的付加-開裂型連鎖移動(RAFT)重合試薬等の公知の化合物を使用することができる。
【0079】
ラジカル熱重合開始剤は、分解温度以上に加熱することにより、ラジカルを発生させる化合物である。このようなラジカル熱重合開始剤としては、例えば、ケトンパーオキサイド類(メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド等)、ジアシルパーオキサイド類(アセチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等)、ハイドロパーオキサイド類(過酸化水素、tert-ブチルハイドパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等)、ジアルキルパーオキサイド類 (ジ-tert-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド等)、パーオキシケタール類(ジブチルパーオキシ シクロヘキサン等)、アルキルパーエステル類(パーオキシネオデカン酸-tert-ブチルエステル、パーオキシピバリン酸-tert-ブチルエステル、パーオキシ2-エチルシクロヘキサン酸-tert-アミルエステル等)、過硫酸塩類(過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等)、アゾ系化合物(アゾビスイソブチロニトリル、および2,2′-ジ(2-ヒドロキシエチル)アゾビスイソブチロニトリル等)が挙げられる。このようなラジカル熱重合開始剤は、1種を単独で使用することもできるし、あるいは2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0080】
ラジカル光重合開始剤は、ラジカル重合を光照射によって開始する化合物であれば特に限定されない。このようなラジカル光重合開始剤としては、ベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、キサントン、チオキサントン、イソプロピルキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2-エチルアントラキノン、アセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-4’-イソプロピルプロピオフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、イソプロピルベンゾインエーテル、イソブチルベンゾインエーテル、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、カンファーキノン、ベンズアントロン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、4,4’-ジ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,4,4’-トリ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2-(4’-メトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(3’,4’-ジメトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(2’,4’-ジメトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(2’-メトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(4’-ペンチルオキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、4-[p-N,N-ジ(エトキシカルボニルメチル)]-2,6-ジ(トリクロロメチル)-s-トリアジン、1,3-ビス(トリクロロメチル)-5-(2’-クロロフェニル)-s-トリアジン、1,3-ビス(トリクロロメチル)-5-(4’-メトキシフェニル)-s-トリアジン、2-(p-ジメチルアミノスチリル)ベンズオキサゾール、2-(p-ジメチルアミノスチリル)ベンズチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール、3,3’-カルボニルビス(7-ジエチルアミノクマリン)、2-(o-クロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラフェニル-1,2’-ビイミダゾール、2,2’-ビス(2-クロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラキス(4-エトキシカルボニルフェニル)-1,2’-ビイミダゾール、2,2’-ビス(2,4-ジクロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラフェニル-1,2’-ビイミダゾール、2,2’ビス(2,4-ジブロモフェニル)-4,4’,5,5’-テトラフェニル-1,2’-ビイミダゾール、2,2’-ビス(2,4,6-トリクロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラフェニル-1,2’-ビイミダゾール、3-(2-メチル-2-ジメチルアミノプロピオニル)カルバゾール、3,6-ビス(2-メチル-2-モルホリノプロピオニル)-9-n-ドデシルカルバゾール、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ビス(5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウム、3,3’,4,4’-テトラ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’-テトラ(t-ヘキシルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’-ジ(メトキシカルボニル)-4,4’-ジ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,4’-ジ(メトキシカルボニル)-4,3’-ジ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、4,4’-ジ(メトキシカルボニル)-3,3’-ジ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2-(3-メチル-3H-ベンゾチアゾール-2-イリデン)-1-ナフタレン-2-イル-エタノン、又は2-(3-メチル-1,3-ベンゾチアゾール-2(3H)-イリデン)-1-(2-ベンゾイル)エタノン等を挙げることができる。これらの化合物は単独で使用してもよく、2つ以上を混合して使用することもできる。
【0081】
ラジカル重合法は、特に制限されるものでなく、乳化重合法、懸濁重合法、分散重合法、沈殿重合法、塊状重合法、溶液重合法等を用いることができる。
【0082】
(A)成分の生成反応、具体的には上述のモノマーの重合反応に用いる有機溶媒としては、生成した高分子が溶解するものであれば特に限定されない。その具体例を以下に挙げる。
【0083】
N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-メチルカプロラクタム、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ピリジン、ジメチルスルホン、ヘキサメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、イソプロピルアルコール、メトキシメチルペンタノール、ジペンテン、エチルアミルケトン、メチルノニルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソアミルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトール、エチルカルビトール、エチレングリコール、エチレングリコールモノアセテート、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコール-tert-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノアセテートモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノアセテートモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノアセテートモノプロピルエーテル、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、トリプロピレングリコールメチルエーテル、3-メチル-3-メトキシブタノール、ジイソプロピルエーテル、エチルイソブチルエーテル、ジイソブチレン、アミルアセテート、ブチルブチレート、ブチルエーテル、ジイソブチルケトン、メチルシクロへキセン、プロピルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジオキサン、n-へキサン、n-ペンタン、n-オクタン、ジエチルエーテル、シクロヘキサノン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、乳酸メチル、乳酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸プロピレングリコールモノエチルエーテル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸メチルエチル、3-メトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸、3-メトキシプロピオン酸、3-メトキシプロピオン酸プロピル、3-メトキシプロピオン酸ブチル、ジグライム、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-エトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド等が挙げられる。
【0084】
これら有機溶媒は単独で使用しても、混合して使用してもよい。さらに、生成する高分子を溶解させない溶媒であっても、生成した高分子が析出しない範囲で、上述の有機溶媒に混合して使用してもよい。
また、ラジカル重合において有機溶媒中の酸素は重合反応を阻害する原因となるので、有機溶媒は可能な程度に脱気されたものを用いることが好ましい。
【0085】
ラジカル重合の際の重合温度は30℃~150℃の任意の温度を選択することができるが、好ましくは50℃~100℃の範囲である。また、反応は任意の濃度で行うことができるが、濃度が低すぎると高分子量の重合体を得ることが難しくなり、濃度が高すぎると反応液の粘性が高くなり過ぎて均一な攪拌が困難となるので、モノマー濃度が、好ましくは1質量%~50質量%、より好ましくは5質量%~30質量%である。反応初期は高濃度で行い、その後、有機溶媒を追加することができる。
【0086】
上述のラジカル重合反応においては、ラジカル重合開始剤の比率がモノマーに対して多いと得られる高分子の分子量が小さくなり、少ないと得られる高分子の分子量が大きくなるので、ラジカル開始剤の比率は重合させるモノマーに対して0.1モル%~10モル%であることが好ましい。また重合時には各種モノマー成分や溶媒、開始剤などを追加することもできる。
【0087】
[重合体の回収]
上述の反応により得られた生成物、即ち(A)成分を反応溶液から回収するには、反応溶液を貧溶媒に投入するのがよい。
沈殿に用いる貧溶媒として、メタノール、アセトン、ヘキサン、ヘプタン、ブチルセルソルブ、ヘプタン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エタノール、トルエン、ベンゼン、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、水等を挙げることができる。
貧溶媒に投入して沈殿させた重合体は、濾過して回収した後、常圧あるいは減圧下で、常温あるいは加熱して乾燥することができる。また、沈殿回収した重合体を、有機溶媒に再溶解させ、再沈殿回収する操作を2回~10回繰り返すと、重合体中の不純物を少なくすることができる。この際の貧溶媒として、例えば、アルコール類、ケトン類、炭化水素等が挙げられ、これらの中から選ばれる3種類以上の貧溶媒を用いると、より一層精製の効率が上がるので好ましい。
【0088】
本発明の(A)成分の分子量は、GPC(Gel Permeation Chromatography)法で測定した重量平均分子量が、2000~1000000が好ましく、より好ましくは、5000~200000である。
【0089】
本発明の光反応性液晶組成物は、上述したように、(A)成分又は(B)成分以外に、その他の成分を有してもよい。
その他の成分として、用いる(A)成分及び(B)成分、並びに光反応性液晶組成物の用途などに依存するが、例えば、ヒンダートアミン類やヒンダートフェノール類などの酸化防止剤や1つ以上の末端に光重合または光架橋する基を有する重合性化合物などを挙げることができる。
重合性化合物の具体的な例として、以下に示す化合物(式中、Vは、単結合又は-RO-、好ましくは-RO-で表され、Rは炭素数1~10、好ましくは炭素数2~6の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を示す。Wは、単結合又は-OR-、好ましくは-OR-で表され、Rは炭素数1~10、好ましくは炭素数2~6の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を示す。V及びWは同一の構造でも異なっていてもよいが、同一であると合成が容易である。RはHまたは炭素数1~4のアルキル基を示す)を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0090】
【化21】
【0091】
<本発明の光学素子の製造方法>
本願は、上記の光学素子の製造方法も提供する。
該素子の製造方法として、例えば、次の方法を挙げることができる。
[X1] 第1の透明基体上に、第1の液晶配向膜を調製する工程;
[X2] 第1の液晶配向膜を、そのアンカリングエネルギーが2.5×10-3J/m未満、好ましくは1.0×10-6~2.0×10-3J/m、より好ましくは1.0×10-5~1.0×10-3J/mとなるように配向処理して、第1の基板を得る工程;
[X3] 第2の透明基体を準備する工程;
[X4] 第2の透明基体から第2の基板を調製する工程;
[X5] 第1の液晶配向膜が空間側になるように、第1と第2の基板の間に空間を設け、該空間に、上述の光反応性液晶組成物を充填する工程;
を有することにより、上記光学素子を得ることができる。
【0092】
<[X1]工程>
[X1]工程は、第1の透明基体上に、第1の液晶配向膜を調製する工程である。
第1の透明基体は、上述の透明基体と同じ材料を用いることができる。また、第1の液晶配向膜も上述と同じ材料を用いることができる。
[X1]工程は、従来公知の手法を用いて行うことができる。例えば、液晶配向膜を形成し得る液晶配向膜用組成物を第1の透明基体に塗布、乾燥、焼成など、従来公知の手法を行うことにより、[X1]工程を行うことができる。
【0093】
<[X2]工程>
[X2]工程は、[X1]工程で得られた第1の液晶配向膜を、そのアンカリングエネルギーが2.5×10-3J/m未満、好ましくは1.0×10-6~2.0×10-3J/m、より好ましくは1.0×10-5~1.0×10-3J/mとなるように配向処理して、第1の基板を得る工程である。
配向処理は、従来公知の手法により行うことができる。例えば液晶配向膜を布の付いたローラーで擦るラビング法や所望の波長の偏光紫外線を液晶配向膜に照射する光配向法、更には、液晶配向膜にイオンビームを照射することにより配向処理を行うイオンビーム法などが挙げられるが、用いられる配向処理法はこれらに限定されない。なお、配向処理は、液晶配向膜のアンカリングエネルギーを上記範囲にするように、行うのがよい。
【0094】
なお、アンカリングエネルギーとは、液晶配向膜が液晶を引き付ける力をいう。
また、アンカリングエネルギーとは、ネールウォール法(JPN. J. Appl. Phys. Vol. 42 (2003)を参照のこと)により測定することができる。
【0095】
<[X3]工程>
[X3]工程は、第2の透明基体を準備する工程である。
第2の透明基体は、形成する光学素子に依存して、第1の透明基体と同じであっても異なってもよく、上述の透明基体と同じ材料を用いることができる。
【0096】
<[X4]工程>
[X4]工程は、第2の透明基体から第2の基板を調製する工程である。
第2の透明基体をそのまま、第2の基板として用いる場合、[X4]工程は、第2の透明基体をそのまま、第2の基板として用いる工程となる。
また、上述したように、本発明の光学素子は、所望により第2の配向処理済の液晶配向膜層を有してもよい。
この場合、[X4]工程として、[X1]工程及び[X2]工程と同様に、
[X4-1] 第2の透明基体上に第2の液晶配向膜を調製する工程;及び
[X4-2] 第2の液晶配向膜を、そのアンカリングエネルギーが2.5×10-3J/m未満、好ましくは1.0×10-6~2.0×10-3J/m、より好ましくは1.0×10-5~1.0×10-3J/mとなるように配向処理し、第2の基板を調製する工程;
を有するのがよい。
なお、第2の液晶配向膜は、形成する光学素子に依存して、第1の液晶配向膜と同じであっても異なってもよく、上述と同じ材料を用いることができる。
【0097】
<[X5]工程>
[X5]工程は、第1の液晶配向膜が空間側になるように、第1と第2の基板の間に空間を設け、該空間に、上述の光反応性液晶組成物を充填する工程である。
なお、第2の基板が第2の液晶配向膜を有する場合、第2の液晶配向膜が空間側になるように、第2の基板を配置するのがよい。
【0098】
さらに、本発明の光学素子の製造方法は、以下の[X6]工程及び[X7]工程を有することができる。
即ち、[X6] 上記で得られた光学素子の液晶層に、第1及び第2の透明基体のいずれか一方から、偏光した紫外線を照射する工程;及び
[X7] (A)光反応性高分子液晶が液晶性を発現する温度範囲の下限値より50℃低い温度以上、好ましくは65~150℃、より好ましくは70~120℃に液晶層を加熱する工程;
を有することにより、液晶層内で(B)低分子液晶が所定の配向性を有する光学素子が形成されるのがよい。
【0099】
[X6]工程は、上記[X1]~[X5]で得られた光学素子の液晶層に、偏光した紫外線を照射する工程である。
偏光した紫外線は、2枚の透明基体のいずれか一方の外側から照射するため、透明基体は、上述したように、偏光した紫外線を透過する基体であるのがよい。
偏光した紫外線は、形成する素子に依存するが、波長100nm~450nmの範囲の紫外線を使用することができる。好ましくは、使用する液晶配向膜の種類によりフィルター等を介して最適な波長を選択する。そして、例えば、選択的に光架橋反応を誘起できるように、波長290nm~450nmの範囲の紫外線を選択して使用することができる。紫外線としては、例えば、高圧水銀灯から放射される光を用いることができる。
【0100】
偏光紫外線を照射すると、液晶層において、次のようなメカニズムが生じるものと考えられる。即ち、液晶層における(A)光反応性高分子液晶は、該偏光紫外線に応じた配向性を有することとなる。
また、(B)低分子液晶は、(A)光反応性高分子液晶の配向性にしたがって、配向する。
これにより、(A)光反応性高分子液晶及び(B)低分子液晶は、偏光紫外線に応じて、配向性を有することとなる。
【0101】
なお、偏光紫外線の露光のみにより、上述のように配向性を有することとできるが、不十分である場合もあるため、さらに[X7]液晶層を加熱する工程、具体的には、(A)光反応性高分子液晶が液晶性を発現する温度範囲の下限値より50℃低い温度以上に液晶層を加熱する工程;をさらに有してもよい。この場合、偏光紫外線の露光と共に加熱を行うか、及び/又は偏光紫外線の露光後に加熱を行うことができる。
ここで、加熱は、(A)光反応性高分子液晶が液晶性を発現する温度範囲の下限値(Tx)よりも50℃低い温度((Tx-50)℃)又はそれより高い温度、好ましくは65~150℃、より好ましくは70~120℃で行うのがよい。
【0102】
例えば、i)偏光紫外線を液晶層に露光すること;ii)上記温度範囲で液晶層を加熱した状態で露光すること;iii)上記i)のような露光を行った後に上記温度範囲で加熱すること;又はiv)上記ii)の後にさらに上記温度範囲で加熱すること;により、(A)光反応性高分子液晶が配向性を有し、これにしたがって、(B)低分子液晶も配向性を有することとなる。このような工程を用いることにより、(B)低分子液晶が一軸に配向した光学素子を作成することができる。
【0103】
また、光学素子に局所的に偏光紫外線を照射することにより、該局所的な箇所のみにおいて、(B)低分子液晶が一軸に配向した光学素子を作成することができる。
このように、局所的な箇所のみにおいて(B)低分子液晶が一軸に配向した光学素子を作成することができるため、該光学素子を高密度に情報を記憶する記憶媒体、複雑に偏光状態を制御できる光学素子として応用することができる。
以下、本発明について、実施例を用いて具体的に説明するが、本発明は該実施例によってのみ限定されるものではない。
【実施例
【0104】
(実施例1)
下記式P6CBで表される光反応性高分子液晶5重量部を、下記式E7で表されるメルク社製の低分子液晶(E7)95重量部に添加した後、180℃で20分間攪拌し、光反応性液晶組成物を得た。なお、式P6CBで表される光反応性高分子液晶は、115℃以上で液晶性を発現した。
【0105】
【化22】
【0106】
別途、液晶配向剤(日産化学製RN-3801)を基板の両面にITOを備える2枚のガラス基板にスピンコート塗布にて塗布した。これら基板を80℃のホットプレート上で120秒間乾燥させた後、220℃のホットプレート上で20分間焼成を行い、膜厚100nmの液晶配向膜を得た。これら液晶配向膜をローラー押し込み量0.2mm、ローラー移動速度10mm/s、ローラー回転数0.5krpmでラビングすることにより、配向処理を施した。
その後、2枚の基板を液晶配向膜が向かい合うように張り合わせ、2μmギャップの並行平板の空セルを得た。この空セルをホットプレート上で180℃に加熱した状態で、該光反応性液晶組成物をキャピラリー法により注入することで液晶セルA1を作製した。
得られた液晶セルA1にHe-Cdレーザー(金門光波、IK3501R-G)を用いて直線偏光紫外線を照射した。具体的には、図1に示す実験系を用いて、波長325nm(33mW/cm)の直線偏光を露光量2J/cmとなるように液晶セルA1の法線方向から露光した。また、直線偏光紫外線の露光方位角はラビング方向に対して、15、30、45°の3水準とした。
直線偏光紫外線を露光した後、液晶セルA1を100℃のホットプレート上で30分間熱処理を行った。なお、使用したITO付きガラス基板の325nmにおける透過率は66%であった。
【0107】
<低分子液晶の配向状態>
A1作製後、直線偏光紫外線露光前、直線偏光紫外線露光後、100℃で30分加熱後において、低分子液晶の配向状態を確認した。配向状態の確認は図2に示す実験系を用いて、液晶セルを回転させた時の透過光強度を測定することにより行った。また、偏光顕微鏡によっても、低分子液晶の配向状態を確認した。
図2に示す実験による直線偏光紫外線の露光角度がラビング方向に対して45°とした場合の測定結果を図3(A)に、露光角度を15、30、45°とした場合の偏光顕微鏡による観察結果を図4に、それぞれ示す。
【0108】
なお、図2の実験系11は、He-Neレーザ12、偏光子13、検光子14及びパワーメータ15を有してなり、He-Neレーザ12から照射されるレーザを偏光子13、検光子14、パワーメータ15の順で受けるように配置される。また、偏光子13と検光子14とは直交ニコルの状態で配置される。試料16は、偏光子13と検光子14との間に配置し、該試料16を回転させる際の透過光強度をパワーメータ15で検出する。測定開始位置は偏光子13の透過軸とラビング方向が一致する方向とした。
【0109】
図3から次のことが分かる、即ち、直線偏光紫外線の露光前と露光後では液晶セルの光学軸が偏光子と検光子に対して45度傾いた場合に最大の透過光強度を示したことから、液晶セル内の液晶はラビング方向に対して一軸に配向していることが分かる。一方、直線偏光紫外線を露光した後に熱処理すると、液晶セルの光学軸が偏光子に対して0°と90°の場合に最大の透過光強度が得られた。このことから、液晶セル中の液晶は直線偏光紫外線の露光方向に対して一軸に配向していることが示された。
また、図4から、ラビング方向に対する偏光子の透過軸の角度と露光した直線偏光とが一致した場合、露光箇所が黒く見え、45°回転すると明るく見えることが分かる。これは、露光した直線偏光方位角に沿って配向しているためである。この結果、直線偏光紫外線を露光することで液晶の配向方位が制御可能であることが確認できた。
【0110】
<アンカリングの測定>
液晶配向膜のアンカリングエネルギーはネールウォール法により測定した。ネールウォールは、液晶を等方相で注入し冷却することで発生する配向欠陥で、液晶界面の弾性自由エネルギーと表面方位角アンカリングエネルギーが平衡した状態で安定するため、その幅を測定する事で方位角アンカリングエネルギーAφを求めることができる。方位角アンカリングエネルギーは、ホモジニアス配向セルのセル厚方向へ捩れは存在せず、x-y面内のダイレクタは一様に分布していると仮定した場合、
n=(cos(φ(y)),sin(φ(y)),0) (32)
とし、これをフランクの弾性自由エネルギー密度を表す式に代入して得られる式から、解析的に求めることができ、式(33)(式中、dはセル厚(m)、K11(N)は広がりの弾性定数を表し、w(m)はネールウォール幅(図5)を表し、φ(y)はy軸から液晶のダイレクタがなす角を表す。)のように表せる。
【0111】
【数1】
【0112】
ネールウォール観察用にセルギャップ0.2mmの液晶セルを作成した。具体的には、液晶配向剤(日産化学製RN-3801)を基板の両面にITOを備える2枚のガラス基板にスピンコート塗布にて塗布した。これら基板を80℃のホットプレート上で120秒間乾燥させた後、220℃のホットプレート上で20分間焼成を行い、膜厚100nmの液晶配向膜を得た。これら液晶配向膜をローラー押し込み量0.2mm、ローラー移動速度10mm/s、ローラー回転数0.5krpmでラビングすることにより、配向処理を施した後、2枚の基板を液晶配向膜が向かい合うように張り合わせ、0.2mmギャップの並行平板の空セルを得た。この空セルをホットプレート上で180℃に加熱した状態で、低分子液晶E7をキャピラリー法により注入することでネールウォール測定用の液晶セルB1を作製した。次に、作成した液晶セルB1を20℃で保持しながら、ネールウォール幅を測定した。測定したネールウォール幅と、セルギャップ0.2mm、低分子液晶E7の20℃における弾性定数K11=12×10-12を用いて、上記式(33)からアンカリングエネルギーを算出した。結果を表1に示す。
【0113】
(実施例2)
液晶配向膜のラビング条件をローラー押し込み量0.3mm、ローラー移動速度5.0mm/s、ローラー回転数0.5krpmに変更した以外、実施例1と同様に、液晶セルA2を作成し、直線偏光紫外線を露光した後、加熱処理を行った。得られた液晶セルA2を用いて、実施例1と同様に低分子液晶の配向状態を図2に示す実験系及び偏光顕微鏡による観察を行った。
液晶セルA2の図2に示す実験系による測定結果を図3(B)に示す。
図3から、直線偏光紫外線露光後と熱処理後で、最大透過光強度が得られる液晶セルの光学軸の偏光子に対する角度が異なる。これは、加熱処理後における液晶セル中の液晶が直線偏光紫外線の露光方向に僅かに配向変化したことを示している。
また、液晶配向膜のラビング条件をローラー押し込み量0.3mm、ローラー移動速度5.0mm/s、ローラー回転数0.5krpmに変更した以外、実施例1と同様にネールウォール測定用の液晶セルB2を作成し、発生したネールウォール幅を測定することにより、アンカリングエネルギーを算出した。結果を表1に示す。
【0114】
(比較例1)
液晶配向膜のラビング条件をローラー押し込み量0.6mm、ローラー移動速度5.0mm/s、ローラー回転数0.5krpmに変更した以外、実施例1と同様に、液晶セルA3を作成し、直線偏光紫外線を露光した後、加熱処理を行った。得られた液晶セルA3を用いて、実施例1と同様に低分子液晶の配向状態を図2に示す実験系及び偏光顕微鏡による観察を行った。
液晶セルA3の図2に示す実験系による測定結果を図3(C)に示す。
図3から、直線偏光紫外線露光後と熱処理後で、最大透過光強度が得られる液晶セルの光学軸の偏光子に対する角度に変化は見られなかった。
また、液晶配向膜のラビング条件をローラー押し込み量0.6mm、ローラー移動速度5.0mm/s.、ローラー回転数0.5krpmに変更した以外、実施例1と同様にネールウォール測定用の液晶セルB3を作成し、発生したネールウォール幅を測定することにより、アンカリングエネルギーを算出した。結果を表1に示す。
【0115】
【表1】
【0116】
(比較例2)
実施例1と同様に、液晶セルA4を作成した。該液晶セルA4に直線偏光紫外線を照射した後、30℃で30分間、加熱処理を行った。得られた液晶セルA4を用いて、実施例1と同様に低分子液晶の配向状態を図2に示す実験系及び偏光顕微鏡による観察を行った。その結果、直線偏光紫外線露光後と熱処理後で、最大透過光強度が得られる液晶セルの光学軸の偏光子に対する角度に変化は見られなかった。
【0117】
実施例1、2及び比較例1から、所定のアンカリングエネルギーを有する液晶配向膜上で光反応性液晶組成物を配向させることにより、その後の直線偏光紫外線の露光と熱処理により、液晶セル内で液晶の配向方向を任意に変化させた液晶セルが作成できることが分かった。さらに、実施例1及び2と比較例2とを比較すると、所定の加熱工程を有することにより、直線偏光紫外線の露光による液晶の配向変化を誘起できることが分かった。
図1
図2
図3
図4
図5