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特許6989912構造体の異常検出装置、構造体の異常検出システム、構造体の異常検出方法、及び構造体の異常検出プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】構造体の異常検出装置、構造体の異常検出システム、構造体の異常検出方法、及び構造体の異常検出プログラム
(51)【国際特許分類】
   E01D 22/00 20060101AFI20220104BHJP
   E01D 19/02 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
E01D22/00 A
E01D19/02
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2017182296
(22)【出願日】2017-09-22
(65)【公開番号】P2019056271
(43)【公開日】2019-04-11
【審査請求日】2020-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(73)【特許権者】
【識別番号】000100676
【氏名又は名称】IMV株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【弁理士】
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】川合 忠雄
(72)【発明者】
【氏名】川田 浩二
(72)【発明者】
【氏名】小林 敏之
(72)【発明者】
【氏名】川平 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】柴田 敏治
(72)【発明者】
【氏名】日▲高▼ 和男
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-270552(JP,A)
【文献】特開2010-210335(JP,A)
【文献】特開2008-134182(JP,A)
【文献】特開2015-102329(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 1/00-24/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造体に配置され、前記構造体の振動の加速度を検出する第1加速度計と、
前記構造体において、前記第1加速度計から所定距離以上離間して、前記第1加速度計の下方に配置され、前記構造体の振動の加速度を検出する第2加速度計と、
前記第1加速度計及び前記第2加速度計の各々から所定方向の振動データを取得する取得部と、
時間に関する関数である前記振動データに対してフーリエ変換を行い、前記振動データを、周波数に関する関数である第1スペクトル及び第2スペクトルに変換する変換部と、
前記変換部によって生成された前記第1スペクトルと前記第2スペクトルとに基づいて振幅比を算出し前記振幅比に基づいて前記構造体の異常の発生を検出する検出部と
を備え、
前記構造体は、少なくとも下端が支持され、
前記第1スペクトルは、前記第1加速度計の前記振動データに対応し、
前記第2スペクトルは、前記第2加速度計の前記振動データに対応
前記振幅比は、前記第2加速度計の検出した前記振動の振幅に対する前記第1加速度計の検出した前記振動の振幅の比率を示し、
前記構造体の支持剛性が低下するほど前記振幅比が減少し、
前記構造体の異常は、前記構造体の支持剛性の低下を含む、構造体の異常検出装置。
【請求項2】
前記検出部は、前記振幅比のヒストグラム、前記振幅比の平均値及び前記振幅比の標準偏差の少なくともいずれか1つに基づき、前記構造体の異常の発生を検出し、
前記振幅比のヒストグラムは、所定期間内における前記振幅比の値の所定範囲毎の頻度を示す、請求項1に記載の構造体の異常検出装置。
【請求項3】
前記第1スペクトルのパワースペクトル、又は前記第2スペクトルのパワースペクトルを算出し、前記第1スペクトルと前記第2スペクトルとからクロススペクトルを算出する第1算出部と、
前記第1スペクトルのパワースペクトルと前記クロススペクトル、又は前記第2スペクトルのパワースペクトルと前記クロススペクトルとに基づいて、前記振幅比を算出する第2算出部と
を更に備える、請求項1又は請求項2に記載の構造体の異常検出装置。
【請求項4】
記振幅比は、前記第1スペクトルのパワースペクトルの特定周波数における値を、前記クロススペクトルの前記特定周波数における値で除した商を示す、請求項3に記載の構造体の異常検出装置。
【請求項5】
前記特定周波数は、前記構造体の固有振動数に対応する、請求項4に記載の構造体の異常検出装置。
【請求項6】
前記振幅比を、前記構造体の周囲の外気温に基づいて補正する補正部を更に備える、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の構造体の異常検出装置。
【請求項7】
前記検出部は、第1期間における前記振幅比のヒストグラムと、前記第1期間と相違する第2期間における前記振幅比のヒストグラムとの間の有意差の有無に基づき、前記構造体の異常の発生を検出する、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の構造体の異常検出装置。
【請求項8】
前記検出部は、前記第1期間における前記振幅比のヒストグラムと、前記第2期間における前記振幅比のヒストグラムとの間のp値が所定値以下であるか否かに基づき、前記構造体の異常の発生を検出
前記p値が前記所定値以下であることは、前記第1期間における前記振幅比のヒストグラムと、前記第2期間における前記振幅比のヒストグラムとの間に有意差があることを示す、請求項7に記載の構造体の異常検出装置。
【請求項9】
前記取得部は、前記振動データにおける振幅が所定の閾値を超えている場合に、前記振動データを取得する、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の構造体の異常検出装置。
【請求項10】
前記所定方向は、水平方向を示す、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の構造体の異常検出装置。
【請求項11】
前記構造体は、橋脚、鉄塔、煙突、アンテナ、道路標識、及び街路灯の少なくとも1つを含む、請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の構造体の異常検出装置。
【請求項12】
構造体に配置され、前記構造体の振動の加速度を検出する第1加速度計と、
前記構造体において、前記第1加速度計から所定距離以上離間して、前記第1加速度計の下方に配置され、前記構造体の振動の加速度を検出する第2加速度計と、
前記第1加速度計及び前記第2加速度計の各々から受信した振動データを送信する送信ユニットと、
前記送信ユニットと通信可能に接続されるサーバ装置と
を備え、
前記構造体は、少なくとも下端が支持され、
前記サーバ装置は、
前記送信ユニットが送信した前記振動データから所定方向の振動データを取得する取得部と、
時間に関する関数である前記振動データに対してフーリエ変換を行い、前記振動データを、周波数に関する関数である第1スペクトル及び第2スペクトルに変換する変換部と、
前記変換部によって生成された前記第1スペクトルと前記第2スペクトルとに基づいて振幅比を算出し前記振幅比に基づいて前記構造体の異常の発生を検出する検出部と
を備え、
前記第1スペクトルは、前記第1加速度計の前記振動データに対応し、
前記第2スペクトルは、前記第2加速度計の前記振動データに対応
前記振幅比は、前記第2加速度計の検出した前記振動の振幅に対する前記第1加速度計の検出した前記振動の振幅の比率を示し、
前記構造体の支持剛性が低下するほど前記振幅比が減少し、
前記構造体の異常は、前記構造体の支持剛性の低下を含む、構造体の異常検出システム。
【請求項13】
構造体の振動の加速度を検出する第1加速度計と、前記構造体の振動の加速度を検出する第2加速度計とが配置された前記構造体の異常検出方法であって、
前記第1加速度計及び前記第2加速度計の各々から所定方向の振動データを取得する取得ステップと、
時間に関する関数である前記振動データに対してフーリエ変換を行い、前記振動データを、周波数に関する関数である第1スペクトル及び第2スペクトルに変換する変換ステップと、
前記変換ステップで生成された前記第1スペクトルと前記第2スペクトルとに基づいて振幅比を算出し前記振幅比に基づいて前記構造体の異常の発生を検出する検出ステップと
を含み、
前記構造体は、少なくとも下端が支持され、
前記第2加速度計は、前記構造体において、前記第1加速度計から所定距離以上離間して、前記第1加速度計の下方に配置され、
前記第1スペクトルは、前記第1加速度計の前記振動データに対応し、
前記第2スペクトルは、前記第2加速度計の前記振動データに対応
前記振幅比は、前記第2加速度計の検出した前記振動の振幅に対する前記第1加速度計の検出した前記振動の振幅の比率を示し、
前記構造体の支持剛性が低下するほど前記振幅比が減少し、
前記構造体の異常は、前記構造体の支持剛性の低下を含む、構造体の異常検出方法。
【請求項14】
構造体に配置され、前記構造体の振動の加速度を検出する第1加速度計と、
前記構造体において、前記第1加速度計から所定距離以上離間して、前記第1加速度計の下方に配置され、前記構造体の振動の加速度を検出する第2加速度計と、
コンピュータと
を備えた構造体の異常検出装置において、
前記コンピュータを、
前記第1加速度計及び前記第2加速度計の各々から所定方向の振動データを取得する取得部、
時間に関する関数である前記振動データに対してフーリエ変換を行い、前記振動データを、周波数に関する関数である第1スペクトル及び第2スペクトルに変換する変換部、及び、
前記変換部によって生成された前記第1スペクトルと前記第2スペクトルとに基づいて振幅比を算出し前記振幅比に基づいて前記構造体の異常の発生を検出する検出部
として機能させ、
前記構造体は、少なくとも下端が支持され、
前記第1スペクトルは、前記第1加速度計の前記振動データに対応し、
前記第2スペクトルは、前記第2加速度計の前記振動データに対応
前記振幅比は、前記第2加速度計の検出した前記振動の振幅に対する前記第1加速度計の検出した前記振動の振幅の比率を示し、
前記構造体の支持剛性が低下するほど前記振幅比が減少し、
前記構造体の異常は、前記構造体の支持剛性の低下を含む、構造体の異常検出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体の異常検出装置、構造体の異常検出システム、構造体の異常検出方法、及び構造体の異常検出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の橋脚の異常検知システムは、加速度計、FFT処理部、平均化処理部、重み付け処理部、面積算定正規化処理部、及び正規化面積減少評価部を備える。加速度計は、橋脚の天端に配置されて、橋脚天端の加速度を検出する。FFT処理部は、加速度計による検出データに高速フーリエ変換を施してフーリエスペクトルを算出する。平均化処理部は、フーリエスペクトルを所定の時間についての加算平均により時間的な平均を求め、所定の周波数幅について周波数軸上で移動平均を求めて、フーリエスペクトル波形を平滑化する。重み付け処理部は、健全時の橋脚の伝達関数に基づく重み付け関数で平滑化フーリエスペクトルを重み付けする。面積算定正規化処理部は、重み付けフーリエスペクトルの曲線とベースラインとで囲まれる領域の面積を求めて正規化する。正規化面積減少評価部は、正規化された面積と閾値とを比較して橋脚Pの支持剛性の低下を評価する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-186984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の橋脚の異常検知システムは、橋脚の天端に配置されている1つの加速度計で振動データを取得するため、橋脚の異常を正確に検出できない可能性がある。
【0005】
橋脚は、例えば洗掘の進行に伴って支持剛性が低下する。具体的には、橋脚が河川敷内に設置されている場合には、河川の流れによる洗掘作用によって、地盤面が低下し、これに伴って、橋脚の支持剛性が低下する。そして、橋脚の支持剛性が低下すると、橋脚の上部における振動の振幅に対する橋脚の下部における振動の振幅の比が大きくなる。しかしながら、橋脚の天端に配置されている1つの加速度計では、このような支持剛性の低下を検出できない可能性がある。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、構造体の異常を正確に検出可能な構造体の異常検出装置、構造体の異常検出システム、構造体の異常検出方法、及び構造体の異常検出プログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願に開示する構造体の異常検出装置は、第1加速度計と、第2加速度計と、取得部と、変換部と、検出部とを備える。前記第1加速度計は、構造体に配置される。前記第2加速度計は、前記構造体において、前記第1加速度計から所定距離以上離間して、前記第1加速度計の下方に配置される。前記取得部は、前記第1加速度計及び前記第2加速度計の各々から所定方向の振動データを取得する。前記変換部は、前記振動データにフーリエ変換を行う。前記検出部は、前記変換部によって生成された第1スペクトルと第2スペクトルとに基づき、前記構造体の異常の発生を検出する。前記構造体は、少なくとも下端が支持される。前記第1スペクトルは、前記第1加速度計の前記振動データに対応する。前記第2スペクトルは、前記第2加速度計の前記振動データに対応する。
【0008】
本願に開示する構造体の異常検出装置において、第1算出部を更に備えることが好ましい。前記第1算出部は、前記第1スペクトルと前記第2スペクトルとからクロススペクトルを算出することが好ましい。前記検出部は、前記クロススペクトルに基づき、前記構造体の異常の発生を検出することが好ましい。
【0009】
本願に開示する構造体の異常検出装置において、第2算出部を更に備えることが好ましい。前記第2算出部は、前記クロススペクトルと前記第1スペクトルとに基づき、振幅比を算出することが好ましい。前記検出部は、前記振幅比に基づき、前記構造体の異常の発生を検出することが好ましい。前記振幅比は、前記第1スペクトルのパワースペクトルの特定周波数における値を、前記クロススペクトルの前記特定周波数における値で除した商を示すことが好ましい。
【0010】
本願に開示する構造体の異常検出装置において、前記検出部は、前記振幅比のヒストグラム、前記振幅比の平均値及び前記振幅比の標準偏差の少なくともいずれか1つに基づき、前記構造体の異常の発生を検出することが好ましい。前記振幅比のヒストグラムは、所定期間内における、前記振幅比の値の所定範囲毎の頻度を示すことが好ましい。
【0011】
本願に開示する構造体の異常検出装置において、前記特定周波数は、前記構造体の固有振動数に対応することが好ましい。
【0012】
本願に開示する構造体の異常検出装置において、補正部を更に備えることが好ましい。前記補正部は、前記振幅比を、前記構造体の周囲の外気温に基づいて補正することが好ましい。
【0013】
本願に開示する構造体の異常検出装置において、前記検出部は、第1期間における前記振幅比のヒストグラムと、前記第1期間と相違する第2期間における前記振幅比のヒストグラムとの間の有意差の有無に基づき、前記構造体の異常の発生を検出することが好ましい。
【0014】
本願に開示する構造体の異常検出装置において、前記検出部は、前記第1期間における前記振幅比のヒストグラムと、前記第2期間における前記振幅比のヒストグラムとの間のp値に基づき、前記構造体の異常の発生を検出することが好ましい。
【0015】
本願に開示する構造体の異常検出装置において、前記検出部は、前記p値が所定値以下である場合に、前記構造体の異常が発生していると評価することが好ましい。
【0016】
本願に開示する構造体の異常検出装置において、前記取得部は、前記振動データにおける振幅が所定の閾値を超えている場合に、前記振動データを取得することが好ましい。
【0017】
本願に開示する構造体の異常検出装置において、前記所定方向は、水平方向を示すことが好ましい。
【0018】
本願に開示する構造体の異常検出装置において、前記構造体の異常は、前記構造体の支持剛性の低下を含むことが好ましい。
【0019】
本願に開示する構造体の異常検出装置において、前記構造体は、橋脚、鉄塔、煙突、アンテナ、及び街路灯の少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0020】
本願に開示する構造体の異常検出システムは、第1加速度計と、第2加速度計と、送信ユニットと、サーバ装置とを備える。前記第1加速度計は、構造体に配置される。前記第2加速度計は、前記構造体において、前記第1加速度計から所定距離以上離間して、前記第1加速度計の下方に配置される。前記送信ユニットは、前記第1加速度計及び前記第2加速度計の各々からの振動データを前記サーバ装置に送信する。前記サーバ装置は、前記送信ユニットと通信可能に接続される。前記構造体は、少なくとも下端が支持される。前記サーバ装置は、取得部と、変換部と、検出部とを備える。前記取得部は、前記第1加速度計及び前記第2加速度計の各々から所定方向の振動データを取得する。前記変換部は、前記振動データにフーリエ変換を行う。前記検出部は、前記変換部によって生成された第1スペクトルと第2スペクトルとに基づき、前記構造体の異常の発生を検出する。前記第1スペクトルは、前記第1加速度計の前記振動データに対応する。前記第2スペクトルは、前記第2加速度計の前記振動データに対応する。
【0021】
本願に開示する構造体の異常検出方法は、第1加速度計と、第2加速度計とが配置された構造体の異常検出方法であって、取得ステップと、変換ステップと、検出ステップとを含む。前記取得ステップでは、前記第1加速度計及び前記第2加速度計の各々から所定方向の振動データを取得する。前記変換ステップでは、前記振動データにフーリエ変換を行う。前記検出ステップでは、前記変換ステップで生成された第1スペクトルと第2スペクトルとに基づき、前記構造体の異常の発生を検出する。前記構造体は、少なくとも下端が支持される。前記第2加速度計は、前記構造体において、前記第1加速度計から所定距離以上離間して、前記第1加速度計の下方に配置される。前記第1スペクトルは、前記第1加速度計の前記振動データに対応する。前記第2スペクトルは、前記第2加速度計の前記振動データに対応する。
【0022】
本願に開示する構造体の異常検出プログラムは、第1加速度計と、第2加速度計と、コンピュータとを備えた構造体の異常検出装置において、前記コンピュータを、取得部、変換部、及び検出部として機能させる。前記第1加速度計は、構造体に配置される。前記第2加速度計は、前記構造体において、前記第1加速度計から所定距離以上離間して、前記第1加速度計の下方に配置される。前記取得部は、前記第1加速度計及び前記第2加速度計の各々から所定方向の振動データを取得する。前記変換部は、前記振動データにフーリエ変換を行う。前記検出部は、前記変換部によって生成された第1スペクトルと第2スペクトルとに基づき、前記構造体の異常の発生を検出する。前記構造体は、少なくとも下端が支持される。前記第1スペクトルは、前記第1加速度計の前記振動データに対応する。前記第2スペクトルは、前記第2加速度計の前記振動データに対応する。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る構造体の異常検出装置、構造体の異常検出システム、構造体の異常検出方法、及び構造体の異常検出プログラムによれば、構造体の異常を正確に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施形態に係る構造体の異常検出装置の構成の一例を示す図である。
図2】加速度計の仕様の一例を示す図である。
図3】橋脚の配置の一例を示す図である。
図4】制御部の構成の一例を示す図である。
図5】振動データの一例を示す図である。(a)は、第1加速度計の振動データを示す。(b)は、第2加速度計の振動データを示す。
図6】(a)は、第1スペクトルの一例を示す図である。(b)は、第2スペクトルの一例を示す図である。
図7】(a)は、第1スペクトルのパワースペクトルの一例を示す図である。(b)は、クロススペクトルの一例を示す図である。
図8】第1橋脚における、基準車両走行時の振幅比のヒストグラムと一般車両走行時の振幅比のヒストグラムとの一例を示す図である。(a)は、X軸方向の振幅比のヒストグラムを示す図である。(b)は、Y軸方向の振幅比のヒストグラムを示す図である。
図9】第2橋脚における、基準車両走行時の振幅比のヒストグラムと、一般車両走行時の振幅比のヒストグラムとの一例を示す図である。(a)は、X軸方向の振幅比のヒストグラムを示す図である。(b)は、Y軸方向の振幅比のヒストグラムを示す図である。
図10】基準車両走行時の振幅比のヒストグラムと一般車両走行時の振幅比のヒストグラムとの間のp値の一例を示す図である。
図11】橋脚の洗掘の変化の一例を示す図である。
図12】洗掘が進行する前後の振幅比のヒストグラムの一例を示す図である。(a)は、X軸方向の振幅比のヒストグラムを示す図である。(b)は、Y軸方向の振幅比のヒストグラムを示す図である。
図13】洗掘が進行する前後の振幅比の平均値、及び振幅比の標準偏差の変化の一例を示す図である。
図14】構造体の異常の検出方法の一例を示す図である。(a)は、振幅比の平均値の経年的な変化を示し、(b)は、振幅比の平均値の短期的な変化を示す。
図15】制御部の処理の一例を示すフローチャートである。
図16】制御部の処理の一例を示すフローチャートである。
図17】制御部の振幅比算出処理の一例を示すフローチャートである。
図18】時間帯毎の振動の発生回数の一例を示す図である。
図19】外気温と振幅比との短期的な変化の一例を示す図である。
図20】外気温が変化する前後のヒストグラムの一例を示す図である。(a)は、X軸方向の振幅比のヒストグラムを示す図である。(b)は、Y軸方向の振幅比のヒストグラムを示す図である。
図21】外気温と振幅比との長期的な変化の一例を示す図である。
図22】外気温が低下する前後のヒストグラムを示す図である。(a)は、X軸方向の振幅比のヒストグラムを示す図である。(b)は、Y軸方向の振幅比のヒストグラムを示す図である。
図23】外気温とX軸方向の振幅比との関係の一例を示す図である。
図24】外気温とY軸方向の振幅比との関係の一例を示す図である。
図25】外気温が低下する前後の温度補正後のヒストグラムの一例を示す図である。(a)は、X軸方向の振幅比のヒストグラムを示す図である。(b)は、Y軸方向の振幅比のヒストグラムを示す図である。
図26】加速度の振幅の閾値を変化させた時のヒストグラムの変化の一例を示す図である。(a)は、閾値が1.00Galの場合の振幅比のヒストグラムを示す図である。(b)は、閾値が3.16Galの場合の振幅比のヒストグラムを示す図である。
図27】加速度の振幅の閾値を変化させた時のヒストグラムの変化の一例を示す図である。(a)は、閾値が5.48Galの場合の振幅比のヒストグラムを示す図である。(b)は、閾値が7.07Galの場合の振幅比のヒストグラムを示す図である。
図28】加速度の振幅の閾値と、データ数及びp値との関係の一例を示す図である。
図29】本発明の実施形態に係る構造体の異常検出システムの構成の一例を示す図である。
図30】本発明の実施形態に係る構造体の一例を示す図である。(a)は、煙突を示す図である。(b)は、アンテナを示す図である。(c)は、街路灯を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について、図面(図1図30)を参照しながら説明する。なお、図中、同一又は相当部分については同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0026】
図1を参照して本発明に係る構造体4の異常検出装置100について説明する。図1に示すように、異常検出装置100は、制御部1、送信ユニット2及び加速度計3を備える。構造体4は、少なくとも下端が支持される。構造体4は、本発明の実施形態では、橋脚BPを示す。橋脚BPは、下端のみが支持されている。
【0027】
また、図1には、X軸、Y軸及びZ軸を記載している。Z軸は、鉛直方向に平行な方向を示す。X軸及びY軸は、水平方向を示す。橋脚BPは、Y軸に沿って配列される(図3参照)。X軸、Y軸及びZ軸は、互いに直交する。
【0028】
以下の説明では、橋脚BPが、阿波麻植大橋(徳島県吉野川市川島町三ツ島)に配置されている場合について説明する。橋脚BPは、第1橋脚BPAと、第2橋脚BPBとを含む。阿波麻植大橋において、第1橋脚BPA及び第2橋脚BPBの配置される位置については、図3を参照して詳細に説明する。
【0029】
橋脚BPは、橋桁BA1を支持する。橋桁BA1は、Y軸方向に延びる。橋桁BA1の上を車両が走行する。橋脚BPは、躯体BPαと、基礎BPβとを有する。基礎BPβは、躯体BPαを支持する。基礎BPβは、躯体BPαと比較して大径に形成されている。
【0030】
躯体BPαのZ軸方向の長さL1は、13.8mである。基礎BPβのZ軸方向の長さL2は、10.0mである。基礎BPβは、地下(地面GNDの下)に埋設されている。すなわち、橋脚BPは、基礎BPβが地下に埋設されて支持されている。
【0031】
加速度計3は、橋脚BPの振動(加速度)を検出する。加速度計3は、収納ケースSBに収納されている。加速度計3は、第1加速度計31と、第2加速度計32とを含む。第1加速度計31は、橋脚BPの上部に配置される。具体的には、第1加速度計31は、橋脚BPの上端に配置される。
【0032】
第2加速度計32は、橋脚BPにおいて、第1加速度計31から所定距離以上離間して、第1加速度計31の下方に配置される。所定距離は、例えば5mである。具体的には、第2加速度計32は、基礎BPβの上端から距離LSだけ上側の位置に配置される。距離LSは、1.0mである。すなわち、第2加速度計32は、第1加速度計31から距離L3だけ下方に配置される。距離L3は、12.8m(=13.8m-1.0m)である。
【0033】
送信ユニット2は、加速度計3が検出した振動データを制御部1に送信する。具体的には、送信ユニット2は、加速度計3との間で、配線で信号を送受信可能に構成される。送信ユニット2は、制御部1との間で、無線通信で振動データを送信可能に構成される。
【0034】
制御部1は、加速度計3の所定方向の振動データに基づいて、橋脚BPの異常を検出する。所定方向は、例えば水平方向(X軸方向、及びY軸方向)を示す。制御部1は、プロセッサ11及び記憶部12を備える。プロセッサ11は、例えばCPU(Central Processing Unit)を備える。記憶部12は、半導体メモリーのようなメモリーを備え、HDD(Hard Disk Drive)を備えてもよい。記憶部12は、制御プログラムを記憶している。プロセッサ11は、「コンピュータ」の一例に相当する。また、制御部1は、例えば、パーソナルコンピュータである。
【0035】
なお、本発明の実施形態では、制御部1がパーソナルコンピュータであるが、本発明はこれに限定されない。制御部1がプロセッサ11及び記憶部12を備えればよい。制御部1が、例えばタブレット端末でもよいし、スマートフォンでもよい。
【0036】
また、本発明の実施形態では、送信ユニット2は、加速度計3との間で、配線で信号を送受信するが、本発明はこれに限定されない。送信ユニット2は、加速度計3との間で、信号を送受信可能であればよい。送信ユニット2は、例えば加速度計3との間で、無線通信で信号を送受信してもよい。
【0037】
更に、本発明の実施形態では、送信ユニット2は、制御部1との間で、無線通信で振動データを送信するが、本発明はこれに限定されない。送信ユニット2は、制御部1との間で、振動データを送信すればよい。送信ユニット2は、制御部1との間で、配線で振動データを送信してもよい。
【0038】
次に、図1及び図2を参照して、加速度計3について説明する。図2は、加速度計の仕様の一例を示す図である。図2に示すように、加速度計3の計測軸は、3軸(X軸、Y軸及びZ軸)である。すなわち、加速度計3は、X軸方向の加速度と、Y軸方向の加速度と、Z軸方向の加速度とを検出する。また、加速度計3の周波数計測範囲は、0.1~100Hzである。すなわち、加速度計3は、極めて低い周波数の振動を検出できる。
【0039】
加速度計3のセンサノイズ密度は、X軸方向及びY軸方向が0.0001g/Hz1/2であり、Z軸方向が0.0002g/Hz1/2である。よって、加速度計3は、極めて高精度に加速度を計測できる。また、加速度計3の保護機能(防水及び防塵機能)は、IEC(InterNational Electrotechnical Commission)規格の「IP67」であり、極めて高い防塵機能、及び防水性能を有する。
【0040】
加速度計3としては、IMV株式会社製の小型高性能振動計測装置HM-0013(製品名)を好適に使用できる。
【0041】
次に、図1及び図3を参照して、橋脚BPの配置について説明する。図3は、橋脚BPの配置の一例を示す図である。図3に示すように、橋梁BRには、14個の橋脚BP(橋脚BP1~橋脚BP14)がY軸方向に沿って配列されている。また、橋梁BRは、橋梁本体BAを更に備える。橋梁本体BAは、いわゆる「トラス構造」を有する。橋梁本体BAの下端には、橋桁BA1が配置されている。橋脚BP1~橋脚BP14は、橋梁本体BAを支持する。第1橋脚BPAは、橋脚BP9に対応し、第2橋脚BPBは、橋脚BP12に対応する。
【0042】
橋梁本体BAは、河川(吉野川)を跨いで配置されている。すなわち、橋脚BP1~橋脚BP14は、河川敷内に設置されている。橋脚BP9は、河川の流れによって、洗掘が発生している。橋脚BP9における洗掘については、図11を参照して詳細に説明する。
【0043】
次に、図1及び図4を参照して、制御部1の構成について説明する。図4は、制御部1の構成の一例を示す図である。図4に示すように、制御部1は、取得部101、変換部102、第1算出部103、第2算出部104、補正部105及び検出部106を備える。具体的には、制御部1のプロセッサ11が、制御プログラムを実行することによって、取得部101、変換部102、第1算出部103、第2算出部104、補正部105及び検出部106として機能する。制御プログラムは、「構造体の異常検出プログラム」の一例に相当する。
【0044】
取得部101は、第1加速度計31及び第2加速度計32の各々から所定方向の振動データを取得する。具体的には、取得部101は、第1加速度計31から振動データG1を取得し、第2加速度計32から振動データG2を取得する。
【0045】
変換部102は、振動データG1及び振動データG2にフーリエ変換を行う。具体的には、変換部102は、振動データG1にフーリエ変換を行い、第1スペクトルF1を生成する。また、変換部102は、振動データG2にフーリエ変換を行い、第2スペクトルF2を生成する。また、フーリエ変換は、FFT(Fast Fourier Transform)処理を用いて実行する。
【0046】
第1算出部103は、第1スペクトルF1と第2スペクトルF2とからクロススペクトルCSを算出する。
【0047】
第2算出部104は、クロススペクトルCSと第1スペクトルF1とに基づき、振幅比APを算出する。
【0048】
補正部105は、橋脚BPの周囲の外気温TMPに基づいて振幅比APを補正する。補正部105の処理については、図21図25を参照して詳細に説明する。
【0049】
検出部106は、第1スペクトルF1と第2スペクトルF2とに基づき、橋脚BPの異常の発生を検出する。橋脚BPの異常とは、例えば橋脚BPの洗掘を含む。
【0050】
以上、図1及び図4を参照して説明したように、本発明の実施形態では、第1加速度計31の振動データG1に対応する第1スペクトルF1と、第2加速度計32の振動データG2に対応する第2スペクトルF2とに基づき、構造体4(橋脚BP)の異常の発生を検出する。例えば、橋脚BPの支持剛性が低下すると、第1加速度計31の検出した振幅に対する第2加速度計32の検出した振幅の比率が増大する。したがって、構造体4の異常を正確に検出できる。
【0051】
次に、図1及び図4図7を参照して、制御部1の処理について更に説明する。図5は、振動データの一例を示す図である。図5(a)は、第1加速度計31の振動データG1を示す。図5(b)は、第2加速度計32の振動データG2を示す。図5(a)及び図5(b)の横軸は、時間Tを示し、図5(a)の縦軸は、第1加速度GXUを示し、図5(b)の縦軸は、第2加速度GXDを示す。第1加速度GXUは、第1加速度計31が検出するX軸方向の加速度を示す。第2加速度GXDは、第2加速度計32が検出するX軸方向の加速度を示す。ただし、第1加速度GXU及び第2加速度GXDの各々に対してFFT処理を施すため、第1加速度GXU及び第2加速度GXDの各々に窓関数を使用している。本発明の実施形態では、ハミング窓を使用した。
【0052】
図5(a)のグラフW11に示すように、時間Tが14秒から35秒の範囲で振幅の大きな第1加速度GXUが検出されている。また、図5(b)のグラフW12に示すように、時間Tが14秒から35秒の範囲で振幅の大きな第2加速度GXDが検出されている。また、グラフW11とグラフW12とを比較すると、第1加速度GXUの振幅は、第2加速度GXDの振幅より大きい。
【0053】
すなわち、橋脚BPは下端のみが支持され、第1加速度計31は橋脚BPの上端に配置され、第2加速度計32は第1加速度計31の下方に配置されるため、第1加速度GXUの振幅が、第2加速度GXDの振幅より大きくなる。
【0054】
変換部102は、次の式(1)に示すように、振動データG1にフーリエ変換を行い、第1スペクトルF1を生成する。
【数1】
また、変換部102は、次の式(2)に示すように、振動データG2にフーリエ変換を行い、第2スペクトルF2を生成する。
【数2】
ただし、振動データG1(t)及び振動データG2(t)の各々は、時間tに関する関数である。また、第1スペクトルF1(f)及び第2スペクトルF2(f)の各々は、周波数fに関する関数である。なお、変換部102は、FFT処理を用いて離散フーリエ変換(Discrete Fourier Fransform:DFT)を実行するが、ここでは、便宜上、式(1)及び式(2)で変換部102の処理を示している。
【0055】
図6(a)は、第1スペクトルF1の一例を示す図である。図6(b)は、第2スペクトルF2の一例を示す図である。図6(a)及び図6(b)の横軸は、周波数F(Hz)を示し、図6(a)の縦軸は、第1スペクトルF1の加速度FSU(Gal)を示し、図6(b)の縦軸は、第2スペクトルF2の加速度FSD(Gal)を示す。
【0056】
図6(a)のグラフW21に示すように、第1スペクトルF1の加速度FSUは、周波数Fが4.5Hzで最大値を示している。また、図6(b)のグラフW22に示すように、第2スペクトルF2の加速度FSDも、周波数Fが4.5Hzで最大値を示している。また、グラフW21とグラフW22とを比較すると、第1スペクトルF1の加速度FSUの最大値は、第2スペクトルF2の加速度FSDの最大値より大きい。
【0057】
第1算出部103は、第1スペクトルF1のパワースペクトルPSを算出する。具体的には、第1算出部103は、次の式(3)を用いてパワースペクトルPSを算出する。
【数3】
ただし、パワースペクトルPS(f)は、周波数fの関数である。また、時間Tは、測定時間を示す。関数F1*(f)は、第1スペクトルF1(f)の共役複素関数を示す。
【0058】
また、第1算出部103は、第1スペクトルF1と第2スペクトルF2とのクロススペクトルCSを算出する。具体的には、第1算出部103は、次の式(4)を用いてクロススペクトルCSを算出する。
【数4】
ただし、クロススペクトルCS(f)は、周波数fの関数である。また、関数F2*(f)は、第2スペクトルF2(f)の共役複素関数を示す。
【0059】
図7(a)は、第1スペクトルF1のパワースペクトルPSの一例を示す図である。図7(b)は、クロススペクトルCSの一例を示す図である。図7(a)及び図7(b)の横軸は、周波数F(Hz)を示し、図7(a)の縦軸は、パワースペクトルPSの加速度PSU(Gal)を示し、図7(b)の縦軸は、クロススペクトルCSの加速度CSV(Gal)を示す。
【0060】
図7(a)のグラフW31に示すように、パワースペクトルPSの加速度PSUは、周波数Fが4.5Hzで最大値を示している。また、図7(b)のグラフW32に示すように、クロススペクトルCSの加速度CSVも、周波数Fが4.5Hzで最大値を示している。
【0061】
第2算出部104は、クロススペクトルCSと第1スペクトルF1のパワースペクトルPSとに基づき、振幅比APを算出する。具体的には、第2算出部104は、次の(5)式を用いて、振幅比APを算出する。
【数5】
ただし、|X(f)|は、複素関数X(f)の絶対値を示す。また、固有振動数ωは、構造体4(橋脚BP)の固有振動数を示す。固有振動数ωは、例えば、クロススペクトルCSにおいて、加速度CSVが最大値となる周波数(例えば、4.5Hz)を示す。
【0062】
また、式(3)及び式(4)を用いて、次の(6)式が成立する。
【数6】
なお、式(6)において、第1スペクトルF1(f)及びクロススペクトルCS(f)は、複素関数であり、実部は振幅を表し、虚部は位相を表す。よって、式(6)の両辺の振幅成分を求めることによって、次の(7)式が求められる。
【数7】
また、式(5)及び式(7)より次の式(8)が成立する。
【数8】
すなわち、振幅比APは、固有振動数ωにおけるパワースペクトルPSの絶対値を、固有振動数ωにおけるクロススペクトルCSの絶対値で除することによって求められる。
また、検出部106は、振幅比APに基づき、構造体4(橋脚BP)の異常の発生を検出する。
【0063】
以上、図1及び図4図7を参照して説明したように、クロススペクトルCSに基づき、構造体4(橋脚BP)の異常の発生を検出する。例えば、橋脚BPの支持剛性が低下すると、第1加速度計31の検出した振幅に対する第2加速度計32の検出した振幅の比率が増大する。したがって、例えば、クロススペクトルCSの橋脚BPの固有振動数ωにおける値と、第1スペクトルF1のパワースペクトルPSの橋脚BPの固有振動数ωにおける値との比を求めることによって、構造体4(橋脚BP)の異常の発生を更に正確に検出できる。
【0064】
また、振幅比APは、第1スペクトルF1のパワースペクトルPSの特定周波数FAにおける値を、クロススペクトルCSの特定周波数FAにおける値で除した商を示す。特定周波数FAは、例えば固有振動数ωである。例えば、橋脚BPの支持剛性が低下すると、第1加速度計31の検出した振幅に対する第2加速度計32の検出した振幅の比率が増大する。よって、橋脚BPの支持剛性が低下すると、振幅比APは減少する。したがって、振幅比APに基づき、構造体4の異常の発生を更に正確に検出できる。
【0065】
更に、特定周波数FAは、構造体4の固有振動数ωに対応する。構造体4は、固有振動数ωの近傍で振幅が最大になる。よって、第1加速度計31及び第2加速度計32の各々が検出する加速度のS/N比は、固有振動数ωにおいて最大になる。したがって、構造体4の固有振動数ωにおける振幅比APに基づき、構造体4の異常の発生を更に正確に検出できる。
【0066】
なお、本発明の実施形態では、第2算出部104は、クロススペクトルCSと第1スペクトルF1のパワースペクトルPSとに基づき、振幅比APを算出するが、本発明はこれに限定されない。クロススペクトルCSと第2スペクトルF2のパワースペクトルPSとに基づき、振幅比APを算出してもよい。ただし、第2スペクトルF2と比較して、第1スペクトルF1の方がS/N比が大きいため、第1スペクトルF1のパワースペクトルPSを用いることが好ましい。
【0067】
また、本発明の実施形態では、特定周波数FAが、構造体4の固有振動数ωに対応するが、本発明はこれに限定されない。特定周波数FAが、構造体4の固有振動数ωの近傍の周波数であればよい。
【0068】
更に、本発明の実施形態では、固有振動数ωを、クロススペクトルCSにおいて加速度が最大値となる周波数としたが、本発明はこれに限定されない。例えば、固有振動数ωを、第1スペクトルF1のパワースペクトルPSにおいて加速度が最大値となる周波数としてもよい。
【0069】
次に、図1及び図4図10を参照して、制御部1の処理について更に説明する。図8は、第1橋脚BPAにおける、基準車両走行時の振幅比APのヒストグラムと一般車両走行時の振幅比APのヒストグラムとの一例を示す図である。図8(a)は、X軸方向の振幅比APXAのヒストグラムを示す図である。図8(b)は、Y軸方向の振幅比APYAのヒストグラムを示す図である。
【0070】
図9は、第2橋脚BPBにおける、基準車両走行時の振幅比APのヒストグラムと一般車両走行時の振幅比APのヒストグラムとの一例を示す図である。図9(a)は、X軸方向の振幅比APXBのヒストグラムを示す図である。図9(b)は、Y軸方向の振幅比APYBのヒストグラムを示す図である。
【0071】
図8(a)、図8(b)、図9(a)及び図9(b)の縦軸は、発生回数PR(回)を示す。図8(a)の横軸は、第1橋脚BPAにおけるX軸方向の振幅比APXAを示し、図8(b)の横軸は、第1橋脚BPAにおけるY軸方向の振幅比APYAを示す。図9(a)の横軸は、第2橋脚BPBにおけるX軸方向の振幅比APXBを示し、図9(b)の横軸は、第2橋脚BPBにおけるY軸方向の振幅比APYAを示す。発生回数PRは、「頻度」の一例に相当する。
【0072】
基準車両とは、車重11.58トンのトラックを示す。また、基準車両走行時の振幅比APとは、基準車両だけが橋梁BRを走行する状況における振幅比APを示す。一般車両走行時の振幅比APとは、橋梁BRを走行する車両を限定しない状況における振幅比APを示す。
【0073】
図8(a)のヒストグラムG1αは、基準車両走行時の振幅比APのヒストグラムを示し、図8(a)のヒストグラムG1βは、一般車両走行時の振幅比APのヒストグラムを示す。図8(b)のヒストグラムG2αは、基準車両走行時の振幅比APのヒストグラムを示し、図8(b)のヒストグラムG2βは、一般車両走行時の振幅比APのヒストグラムを示す。
【0074】
図9(a)のヒストグラムG3αは、基準車両走行時の振幅比APのヒストグラムを示し、図9(a)のヒストグラムG3βは、一般車両走行時の振幅比APのヒストグラムを示す。図9(b)のヒストグラムG4αは、基準車両走行時の振幅比APのヒストグラムを示し、図9(b)のヒストグラムG4βは、一般車両走行時の振幅比APのヒストグラムを示す。
【0075】
ヒストグラムG1α、G2α、G3α、及びG4αは、ヒストグラムG1β、G2β、G3β、及びG4βと比較して、高さが低い(=発生回数が少ない)。その理由は、基準車両走行時の振幅比APを算出するためには、橋梁BRを走行する車両を基準車両だけに限定する必要があるため、一般車両走行時の振幅比APと比較して、取得可能なデータ数NDが少なくなるためである。
【0076】
検出部106は、基準車両走行時の振幅比APのヒストグラムと、一般車両走行時の振幅比APのヒストグラムとの間のp値VPに基づき、2つのヒストグラムの有意差の有無を判定した。「p値VP」とは、t検定において2つのヒストグラムの有意差の有無を判定する閾値を示す。「t検定」とは、2つのヒストグラムの差が偶然誤差の範囲内にあるか否かを判定するものである。
【0077】
検出部106は、例えば、「p値VP」が、「0.05」以下である場合に、2つのヒストグラムの有意差があると判定し、「p値VP」が、「0.05」より大である場合に、2つのヒストグラムの有意差がないと判定する。
【0078】
図10は、基準車両走行時の振幅比APのヒストグラムと一般車両走行時の振幅比APのヒストグラムとの間のp値VPの一例を示す図である。図10には、「計測年月日」欄に示すように、2016年8月27日の測定データに基づくp値VPと、2016年10月22日の測定データに基づくp値VPと、2017年1月14日の測定データに基づくp値VPとを示す。なお、図8及び図9は、2016年8月27日の測定データに基づくヒストグラムを示す。
【0079】
図10に示す「第1橋脚BPA」欄は、第1橋脚BPAに配置された第1加速度計31及び第2加速度計32の検出データに基づくp値VPを示し、「第2橋脚BPB」欄は、第2橋脚BPBに配置された第1加速度計31及び第2加速度計32の検出データに基づくp値VPを示す。また、「第1橋脚BPA」欄及び「第2橋脚BPB」欄の各々には、「X軸方向」欄と「Y軸方向」欄とが記載されている。「X軸方向」欄は、第1加速度計31及び第2加速度計32のX軸方向の振動データに基づくp値VPを示す。「Y軸方向」欄は、第1加速度計31及び第2加速度計32のY軸方向の振動データに基づくp値VPを示す。
【0080】
例えば、「第1橋脚BPA」欄の「X軸方向」欄に示すように、2016年8月27日の測定データに基づくp値VPは、「0.1797」であり、2016年10月22日の測定データに基づくp値VPは、「0.3165」であり、2017年1月14日の測定データに基づくp値VPは、「0.2687」である。図10に示すように、全てのp値VPは、「0.05」より大きいため、基準車両走行時の振幅比APのヒストグラムと一般車両走行時の振幅比APのヒストグラムとの間には有意差はない。
【0081】
以上、図1及び図4図10を参照して説明したように、本発明の実施形態では、基準車両走行時の振幅比APのヒストグラムと一般車両走行時の振幅比APのヒストグラムとの間には有意差はない。したがって、一般車両走行時の振幅比APを用いて、橋脚BPの異常の発生を検出することが可能である。換言すれば、橋脚BPの異常の発生を検出するために、基準車両走行時の振幅比APを求める必要はない。すなわち、橋脚BPの異常の発生を検出するために、基準車両だけが橋梁BRを走行する状況における振幅比APを求める必要はない。
【0082】
次に、図1及び図4図13を参照して、第1橋脚BPAの洗掘の振幅比APに及ぼす影響について説明する。図11は、第1橋脚BPAの洗掘の変化の一例を示す図である。図11の中央には、第1橋脚BPAの洗掘の測定位置を示す。図11に示すように、第1橋脚BPAの洗掘の測定位置は、第1橋脚BPAの周囲の位置P1~位置P11の11箇所である。方向DWは、河川の流れの方向を示す。位置P1~位置P11において、超音波ソナーを用いて、第1橋脚BPAの回りの河床の深さを測定した。河床の深さの測定は、3回(2016年8月27日、10月22日、及び2017年1月14日)行った。
【0083】
図11の左側には、位置P7における測定結果、及び位置P9における測定結果を示す。図11の右側には、位置P4における測定結果、位置P3における測定結果、及び位置P2における測定結果を示す。各測定結果の横軸は、方向DWの距離DSを示し、縦軸は、河床の深さDPを示す。
【0084】
位置P7における測定結果を示すグラフG8α、グラフG8β及びグラフG8γには大きな変化は見られない。同様に、位置P9における測定結果を示すグラフG9α、グラフG9β及びグラフG9γには洗掘の進行は見られない。なお、グラフG8α及びグラフG9αは、2016年8月27日の測定結果を示す。グラフG8β及びグラフG9βは、2016年10月22日の測定結果を示す。グラフG8γ及びグラフG9γは、2017年1月14日の測定結果を示す。
【0085】
これに対して、位置P4における測定結果を示すグラフG5αとグラフG5β及びグラフG5γとの間には洗掘の進行が明確に確認できる。具体的には、グラフG5αは、2016年8月27日の測定結果を示す。グラフG5βは、2016年10月22日の測定結果を示す。グラフG5γは、2017年1月14日の測定結果を示す。すなわち、位置P4では2016年8月27日から2016年10月22日の間で洗掘が進行している。
【0086】
同様に、位置P3における測定結果を示すグラフG6αとグラフG6β及びグラフG6γとの間には洗掘の進行が明確に確認でき、位置P2における測定結果を示すグラフG7αとグラフG7β及びグラフG7γとの間には洗掘の進行が明確に確認できる。グラフG6α及びグラフG7αは、2016年8月27日の測定結果を示す。グラフG6β及びグラフG7βは、2016年10月22日の測定結果を示す。グラフG6γ及びグラフG7γは、2017年1月14日の測定結果を示す。
【0087】
なお、2016年9月20日頃に、台風による増水が観測されている。すなわち、平常時の水位が1m~2m程度であるのに対して、2016年9月20日頃には、水位が5mに達している。よって、洗掘の進行は、この増水によるものであると推定される。
【0088】
図12は、洗掘が進行する前後の振幅比APのヒストグラムの一例を示す図である。図12(a)は、X軸方向の振幅比APXAのヒストグラムを示す図である。図12(b)は、Y軸方向の振幅比APYAのヒストグラムを示す図である。
【0089】
図12(a)及び図12(b)の縦軸は、発生回数PR(回)を示す。図12(a)の横軸は、第1橋脚BPAにおけるX軸方向の振幅比APXAを示し、図12(b)の横軸は、第1橋脚BPAにおけるY軸方向の振幅比APYAを示す。
【0090】
図12(a)のヒストグラムG10αは、洗掘の進行前(2016年8月27日)の第1橋脚BPAにおけるX軸方向の振幅比APXAのヒストグラムを示し、図12(a)のヒストグラムG10βは、洗掘の進行後(2016年10月25日)の第1橋脚BPAにおけるX軸方向の振幅比APXAのヒストグラムを示す。図12(b)のヒストグラムG11αは、洗掘の進行前(2016年8月27日)の第1橋脚BPAにおけるY軸方向の振幅比APXAのヒストグラムを示し、図12(b)のヒストグラムG11βは、洗掘の進行後(2016年10月25日)の第1橋脚BPAにおけるY軸方向の振幅比APXAのヒストグラムを示す。
【0091】
ヒストグラムG10βをヒストグラムG10αと比較すると、洗掘の進行前と比較して洗掘の進行後の方が、振幅比APXAの値が全体的に減少していることが判る。同様に、ヒストグラムG11βをヒストグラムG11αと比較すると、洗掘の進行前と比較して洗掘の進行後の方が、振幅比APYAの値が全体的に減少していることが判る。
【0092】
また、図12(a)のヒストグラムG10αとヒストグラムG10βとの間のp値VPは、「2.2×10-16」であった。すなわち、p値VPが「0.05」より小さい値であるため、洗掘の進行前のヒストグラムG10αと洗掘の進行後のヒストグラムG10βとの間には有意差がある。同様に、図12(b)のヒストグラムG11αとヒストグラムG11βとの間のp値VPは、「2.2×10-16」であった。すなわち、p値VPが「0.05」より小さい値であるため、洗掘の進行前のヒストグラムG11αと洗掘の進行後のヒストグラムG11βとの間には有意差がある。
【0093】
図13は、洗掘が進行する前後の振幅比APの平均値APV及び標準偏差APSの変化の一例を示す図である。図13には、「計測年月日」欄に示すように、2016年8月27日の測定データに基づく振幅比APの平均値APV及び標準偏差APSと、2016年9月29日の測定データに基づく振幅比APの平均値APV及び標準偏差APSと、2016年10月22日の測定データに基づく振幅比APの平均値APV及び標準偏差APSとを示す。
【0094】
図13に示す「X軸方向」欄は、第1加速度計31及び第2加速度計32のX軸方向の振動データに基づく振幅比APの平均値APV及び振幅比APの標準偏差APSを示す。「Y軸方向」欄は、第1加速度計31及び第2加速度計32のY軸方向の振動データに基づく振幅比APの平均値APV及び標準偏差APSを示す。また、「第1橋脚BPA」欄は、第1橋脚BPAに配置された第1加速度計31及び第2加速度計32の検出データに基づく振幅比APの平均値APV及び標準偏差APSを示す。「第2橋脚BPB」欄は、第2橋脚BPBに配置された第1加速度計31及び第2加速度計32の検出データに基づく振幅比APの平均値APV及び標準偏差APSを示す。振幅比APの標準偏差APSは、括弧内に記載している。
【0095】
例えば、第1橋脚BPAに配置された第1加速度計31及び第2加速度計32のX軸方向の振動データに基づく振幅比APの平均値APV(標準偏差APS)は、以下ように変化している。洗掘が進行する前(2016年8月27日)には、「2.44(0.185)」であり、洗掘が進行した後(2016年9月29日、及び10月22日)には、「2.32(0.165)」及び「2.27(0.141)」である。また、第1橋脚BPAに配置された第1加速度計31及び第2加速度計32のY軸方向の振動データに基づく振幅比APの平均値APVは、以下ように変化している。洗掘が進行する前(2016年8月27日)には、「3.12(0.198)」であり、洗掘が進行した後(2016年9月29日、及び10月22日)には、「2.82(0.213)」及び「2.82(0.159)」である。
【0096】
すなわち、図13に示すように、洗掘が進行する前と比較して、洗掘が進行した後では、振幅比APの平均値APVが減少している。具体的には、X軸方向の振幅比APの平均値APVは、5%程度減少し、Y軸方向の振幅比APの平均値APVは、10%程度減少している。
【0097】
X軸方向の振幅比APの平均値APVの変化と比較して、Y軸方向の振幅比APの平均値APVの変化が大きいことは、図11に示す第1橋脚BPAの洗掘の変化と対応している。すなわち、図11に示すように、第1橋脚BPAに対してY軸の負方向側の位置P2、位置P3及び位置P4において洗掘が進行している。このような洗掘の進行によって、第1橋脚BPAのX軸方向の支持剛性よりもY軸方向の支持剛性が大きく変化すると推定される。つまり、第1橋脚BPAに対してY軸の負方向側の位置P2、位置P3及び位置P4において洗掘が進行したため、X軸方向の振幅比APの平均値APVと比較して、Y軸方向の振幅比APの平均値APVが大きく変化した。
【0098】
以上、図1及び図4図13を参照して説明したように、X軸方向の振幅比APXAのヒストグラムのp値VP、及びY軸方向の振幅比APYAのヒストグラムのp値VPの少なくとも一方によって、橋脚BPの洗掘を検出できることが判明した。
【0099】
また、X軸方向の振幅比APの平均値APV、及びY軸方向の振幅比APの平均値APVの少なくとも一方によって、橋脚BPの洗掘を検出できることが判明した。
【0100】
すなわち、振幅比APのヒストグラムは、振幅比APの所定範囲毎の発生回数を示す。例えば、振幅比APの平均値APVは、構造体4の支持剛性を的確に表現している。また、検出部106は、振幅比APのヒストグラム、振幅比APの平均値APV及び振幅比APの標準偏差APSの少なくともいずれか1つに基づき、構造体4(例えば、橋脚BP)の異常の発生を検出する。したがって、構造体4の異常の発生を更に正確に検出できる。
【0101】
また、構造体4(例えば、橋脚BP)の異常は、構造体4の支持剛性の低下を含む。例えば、橋脚BPの支持剛性が低下すると、第1加速度計31の検出した振幅に対する第2加速度計32の検出した振幅の比率が増大する。したがって、構造体4の支持剛性の低下を正確に検出できる。
【0102】
更に、所定方向は、水平方向(X軸方向又はY軸方向)を示す。すなわち、第1加速度計31及び第2加速度計32の各々から水平方向の振動データを取得する。また、構造体4(例えば、橋脚BP)は、下端が支持されているため、水平方向に振動し易い。したがって、構造体4の異常の発生を更に正確に検出できる。
【0103】
次に、図1及び図4図14を参照して、構造体4の異常の検出方法について説明する。図14は、構造体4の異常の検出方法の一例を示す図である。図14(a)は、経年的な変化を示し、図14(b)は、短期的な変化を示す。図14(a)の横軸及び図14(b)の横軸は時間Tを示し、図14(a)の縦軸及び図14(b)の縦軸は振幅比APを示す。
【0104】
構造体4が健全であること(健全性)は、下記の条件A及び条件Bを満たすことを示すと推定できる。
条件A:構造体4自体に損傷がない(=構造体4の剛性が低下しない)。
条件B:構造体4を支持する部分に損傷がない(=支持剛性が低下しない)。
また、構造力学的観点から、振幅比APは、構造体4自体に損傷がない場合には支持剛性によって決まり、支持剛性が低下すると振幅比APも低下する。本発明の実施形態では、構造体4の支持剛性の低下を振幅比APに基づいて検出する。
【0105】
構造体4が橋脚BPである場合には、橋脚BPの支持剛性低下は、洗掘又は地盤自体の剛性の変化(液状化等)によってもたらされる。図1及び図4図13を参照して説明したように、洗掘の進行によって振幅比APの平均値APVが減少することを確認できた。また、洗掘の進行前の振幅比APAのヒストグラムと洗掘の進行後の振幅比APAのヒストグラムとの間で有意差があることを、p値VPによって評価できた。
【0106】
図14(a)に示すように、構造体4の支持剛性が経年的に劣化する場合には、方向D1に示すような振幅比APの低下として評価できる。このような振幅比APの低下は、振幅比APの平均値APVの減少を検出することによって検出できる。また、劣化前の振幅比APのヒストグラムと、劣化後の振幅比APのヒストグラムとで有意差があることを、p値VPによって評価してもよい。
【0107】
また、図14(b)に示すように、構造体4の支持剛性が時点TAの前後でステップ的に低下する場合には、方向D2で示すような振幅比APの低下として評価できる。このような振幅比APの低下は、例えば、図11を参照して説明した台風による増水による第1橋脚BPAの洗掘の進行のような現象であり、振幅比APの平均値APVの減少を検出することによって検出できる。また、洗掘の進行前の振幅比APのヒストグラムと、洗掘の進行後の振幅比APのヒストグラムとで有意差があることを、p値VPによって評価してもよい。
【0108】
次に、図1及び図4図17を参照して、制御部1の処理について説明する。図15及び図16は、制御部1の処理の一例を示すフローチャートである。図17は、制御部1の「振幅比算出処理」の一例を示すフローチャートである。「振幅比算出処理」は、第1加速度計31及び第2加速度計32の振動データに基づき、振幅比APを算出する処理を示す。
【0109】
まず、図15のステップS101に示すように、検出部106は、第1期間PH1が開始したか否かを判定する。
第1期間PH1が開始していないと検出部106が判定した場合(ステップS101でNO)には、処理が待機状態になる。第1期間PH1が開始したと検出部106が判定した場合(ステップS101でYES)には、処理がステップS103に進む。
そして、ステップS103において、制御部1が「振幅比算出処理」を実行する。
次に、ステップS105において、検出部106は、第1期間PH1が終了したか否かを判定する。
第1期間PH1が終了していないと検出部106が判定した場合(ステップS105でNO)には、処理がステップS103に戻る。第1期間PH1が終了したと検出部106が判定した場合(ステップS105でYES)には、処理がステップS107に進む。
そして、ステップS107において、第1算出部103及び第2算出部104は、第1期間PH1における振幅比APのヒストグラムHG1、振幅比APの平均値APV1及び振幅比APの標準偏差APS1を算出する。
【0110】
次に、ステップS109において、検出部106は、第2期間PH2が開始したか否かを判定する。
第2期間PH2が開始していないと検出部106が判定した場合(ステップS109でNO)には、処理が待機状態になる。第2期間PH2が開始したと検出部106が判定した場合(ステップS109でYES)には、処理がステップS111に進む。
そして、ステップS111において、制御部1が「振幅比算出処理」を実行する。
次に、ステップS113において、検出部106は、第2期間PH2が終了したか否かを判定する。
第2期間PH2が終了していないと検出部106が判定した場合(ステップS113でNO)には、処理がステップS111に戻る。第2期間PH2が終了したと検出部106が判定した場合(ステップS113でYES)には、処理がステップS115に進む。
そして、ステップS115において、第1算出部103及び第2算出部104は、第2期間PH2における振幅比APのヒストグラムHG2、振幅比APの平均値APV2及び振幅比APの標準偏差APS2を算出する。
次に、ステップS117において、検出部106は、ヒストグラムHG1とヒストグラムHG2との間のp値VPを算出する。
【0111】
次に、図16に示すように、ステップS119において、検出部106は、p値VPが閾値VPA以下であるか否かを判定する。
p値VPが閾値VPA以下であると検出部106が判定した場合(ステップS119でYES)には、処理がステップS121に進む。
そして、ステップS121において、検出部106は、構造体4の異常が発生したと判定し、処理が終了する。
p値VPが閾値VPA以下ではないと検出部106が判定した場合(ステップS119でNO)には、処理がステップS123に進む。
そして、ステップS123において、検出部106は、構造体4の異常が発生していないと判定し、処理が終了する。
【0112】
次に、図17を参照して、「振幅比算出処理」について説明する。
まず、ステップS201において、取得部101は、取得部101は、第1加速度計31から振動データG1を取得し、第2加速度計32から振動データG2を取得する。
次に、ステップS203において、変換部102は、振動データG1にフーリエ変換(FFT処理)を行い、第1スペクトルF1を生成し、振動データG2にフーリエ変換を行い、第2スペクトルF2を生成する。
次に、ステップS205において、第1算出部103は、第1スペクトルF1と第2スペクトルF2とからクロススペクトルCSを算出する。
次に、ステップS207において、第1算出部103は、固有振動数ωを決定する。具体的には、第1算出部103は、クロススペクトルCSにおいて加速度が最大値となる周波数を固有振動数ωに決定する。
【0113】
次に、ステップS209において、第1算出部103は、第1スペクトルF1のパワースペクトルPSを算出する。
次に、ステップS211において、第2算出部104は、クロススペクトルCSとパワースペクトルPSとに基づき、振幅比APを算出する。
次に、ステップS213において、補正部105は、構造体4(例えば、橋脚BP)の周囲の外気温TMPに基づいて振幅比APを補正し、処理が終了する。補正部105については、図21図25を参照して詳細に説明する。
【0114】
ステップS201は、「取得ステップ」の一例に相当し、ステップS203は、「変換ステップ」の一例に相当し、ステップS119、ステップS121及びステップS123は、「検出ステップ」の一例に相当する。
【0115】
以上、図1及び図4図17を参照して説明したように、第1期間PH1における振幅比APのヒストグラムHG1と、第1期間PH1と相違する第2期間PH2における振幅比APのヒストグラムHG2との間の有意差の有無に基づき、構造体4(例えば、橋脚BP)の異常の発生を検出する。第1期間PH1は、例えば第1橋脚BPAの洗掘が進行する前の期間を示し、第2期間PH2は、例えば第1橋脚BPAの洗掘が進行した後の期間を示す。第1期間PH1は、例えば2016年8月27日であり、第2期間PH2は、2016年10月25日である。第1期間PH1及び第2期間PH2の各々を適正な長さの期間(例えば、1日間)にすることによって、充分な個数(例えば、100個以上)の振幅比APを算出できるため、外乱による振幅比APのバラツキの影響を低減できる。したがって、構造体4の異常の発生を更に正確に検出できる。
【0116】
また、第1期間PH1における振幅比APのヒストグラムHG1と第2期間PH2における振幅比APのヒストグラムHG2との間のt検定のp値VPは、2つのヒストグラムの間の有意差の有無を表す。したがって、2つのヒストグラムの間のt検定のp値VPに基づき構造体4(例えば、橋脚BP)の異常の発生を検出することによって、構造体4の異常の発生を更に正確に検出できる。
【0117】
なお、本発明の実施形態では、p値VPに基づき構造体4(例えば、橋脚BP)の異常の発生を検出するが、本発明はこれに限定されない。振幅比APのヒストグラム、振幅比APの平均値APV及び振幅比APの標準偏差APSの少なくともいずれか1つに基づき、構造体4(例えば、橋脚BP)の異常の発生を検出すればよい。例えば、振幅比APの平均値APVに基づき異常の発生を検出してもよい。
【0118】
次に、図1及び図4図20を参照して、時間帯、及び外気温TMPの短期的な変化の振幅比APに及ぼす影響について説明する。図18は、時間帯毎の振動の発生回数PRの一例を示す図である。図18の横軸は、時刻を示し、縦軸は振動データの発生回数PR(回)を示す。
【0119】
図18のヒストグラムG14は、発生回数PR(回)の時刻毎の変化を示す。ヒストグラムG14に示すように、夜間及び早朝(18時~4時)の振動データの発生回数PRは、昼間(6時~17時)の振動データの発生回数PRと比較して少ない。すなわち、夜間及び早朝では、橋梁BRを走行する車両の単位時間当たりの台数が、昼間と比較して少ないために、夜間及び早朝の振動データの発生回数PRは、昼間の振動データの発生回数PRと比較して少ない。なお、振動データとしては、例えば、所定の閾値GA以上の振幅の振動が発生してから60秒間のデータを取得した。すなわち、取得部101は、所定の閾値GA以上の振幅の振動が発生してから60秒間の振動データを取得した。所定の閾値GAは、例えば定常的な振動の振幅の最大値の所定数倍(例えば、5倍)に設定している。
【0120】
図19は、外気温TMPと振幅比APとの短期的な変化の一例を示す図である。図19の横軸は日時を示し、縦軸は、外気温TMP及び振幅比APを示す。図19のグラフG15αは、外気温TMPの変化を示し、グラフG15βは、第1橋脚BPAのY軸方向の振幅比APYAを示し、グラフG15γは、第1橋脚BPAのX軸方向の振幅比APXAを示す。
【0121】
グラフG15αに示すように、12月22日の12時には20℃であった外気温TMPが、12月23日の18時には10℃以下に変化している。これに対して、12月22日の0時から12月24日の0時までの2日間において、振幅比APYA及び振幅比APXAは殆ど変化していない。したがって、振動データを取得する時間帯(図18参照)と、短期的な外気温TMPの変化とは、振幅比APYA及び振幅比APXAに影響しないと考えられる。
【0122】
図20は、外気温TMPが変化する前後のヒストグラムの一例を示す図である。図20(a)は、X軸方向の振幅比APXAのヒストグラムを示す図である。図20(b)は、Y軸方向の振幅比APYAのヒストグラムを示す図である。図20(a)の縦軸、及び図20(b)の縦軸は、発生回数PR(回)を示す。図20(a)の横軸は、振幅比APXAを示し、図20(b)の横軸は、振幅比APYAを示す。
【0123】
図20(a)のヒストグラムG16αは、外気温TMPが変化する前のX軸方向の振幅比APXAのヒストグラムを示す。ヒストグラムG16βは、外気温TMPが変化した後のX軸方向の振幅比APXAのヒストグラムを示す。図20(a)のヒストグラムG17αは、外気温TMPが変化する前のY軸方向の振幅比APYAのヒストグラムを示す。ヒストグラムG17βは、外気温TMPが変化した後のY軸方向の振幅比APYAのヒストグラムを示す。
【0124】
図20(a)及び図20(b)に示すように、外気温TMPが変化する前後のヒストグラムには大きな変化は見られない。具体的には、外気温TMPが変化する前とは、12月22日の10時から16時までの期間を示し、外気温TMPが変化した後とは、12月23日の18時から24時までの期間を示す。図20(a)に示すヒストグラムG16αとヒストグラムG16βとの間のp値VPは、「0.52」であった。図20(b)に示すヒストグラムG17αとヒストグラムG17βとの間のp値VPは、「0.17」であった。
【0125】
以上、図1及び図4図20を参照して説明したように、本発明の実施形態では、外気温TMPが変化する前の振幅比APのヒストグラムと外気温TMPが変化した後の振幅比APのヒストグラムとの間のp値VPは、「0.05」以上であった。よって、外気温TMPが変化する前の振幅比APのヒストグラムと外気温TMPが変化した後の振幅比APのヒストグラムとの間には、有意差がないことが検証された。したがって、短期間(例えば、2日間)での外気温TMPの変化は、振幅比APに影響しないことが分かった。
【0126】
次に、図1及び図4図25を参照して、長期的な外気温TMPの変化の振幅比APに及ぼす影響について説明する。図21は、外気温TMPと振幅比APとの長期的な変化の一例を示す図である。図21の横軸は、年月日を示し、縦軸は外気温TMP及び振幅比APを示す。
【0127】
図21のグラフG18αは、長期的な外気温TMPの変化を示す。具体的には、グラフG18αは、2016年8月27日から2017年2月11日までの期間における外気温TMPの変化を示す。グラフG18αに示すように、2016年8月27日から2017年2月11日に向けて外気温TMPは徐々に低下している。
【0128】
図21のグラフG18βは、外気温TMPの変化の近似曲線を示す。本発明の実施形態では、近似曲線として、3次多項式を用いている。図21のグラフG18γは、第1橋脚BPAのX軸方向の振幅比APXAの変化を示す。図21のグラフG18δは、第1橋脚BPAのY軸方向の振幅比APYAの変化を示す。振幅比APXA及び振幅比APYAは、2016年8月27日から2017年2月11日に向けて徐々に減少している。
【0129】
図22は、外気温TMPが低下する前後のヒストグラムを示す図である。図22(a)は、X軸方向の振幅比APXAのヒストグラムを示す図である。図22(b)は、Y軸方向の振幅比APYAのヒストグラムを示す図である。図22(a)及び図22(b)の縦軸は、発生回数PR(回)を示す。図22(a)の横軸は、振幅比APXAを示し、図22(b)の横軸は、振幅比APYAを示す。
【0130】
なお、図11を参照して説明したように、2016年9月20日頃に、台風による増水が発生し、第1橋脚BPAの洗掘が進行している。第1橋脚BPAにおける洗掘の振幅比APに及ぼす影響を除くため、第1橋脚BPAにおける洗掘の進行後の2つの期間(2016年10月22日と2017年1月14日)を第1期間PH1及び第2期間PH2として選択した。すなわち、図22では、外気温TMPが低下する前の2016年10月22日の振幅比APXA及び振幅比APYAと、外気温TMPが低下した後の2017年1月14日の振幅比APXA及び振幅比APYAとを比較した。
【0131】
すなわち、図22(a)のグラフG19αは2016年10月22日の振幅比APXAのヒストグラムを示し、グラフG19βは2017年1月14日の振幅比APXAのヒストグラムを示す。グラフG19αと比較してグラフG19βは左側にシフトしている。すなわち、振幅比APXAが減少している。また、グラフG19αに示すヒストグラムと、グラフG19βに示すヒストグラムとの間のp値VPは、「1.54×10-5」であった。すなわち、p値VPが「0.05」以下であるため、両者の間には有意差がある。
【0132】
また、図22(b)のヒストグラムG20αは2016年10月22日の振幅比APYAのヒストグラムを示し、ヒストグラムG20βは2017年1月14日の振幅比APYAのヒストグラムを示す。ヒストグラムG20αと比較してヒストグラムG20βは左側にシフトしている。すなわち、ヒストグラムG20αが示す振幅比APYAと比較してヒストグラムG20βが示す振幅比APYAの方が小さい。また、ヒストグラムG20αと、ヒストグラムG20βとの間のp値VPは、「2.20×10-16」であった。すなわち、p値VPが「0.05」以下であるため、両者の間には有意差がある。
【0133】
図23は、外気温TMPとX軸方向の振幅比APXAとの関係の一例を示す図である。図23の横軸は、外気温TMPを示し、縦軸は、振幅比APXAを示す。ただし、外気温TMPは、実測値ではなく、図21のグラフG18βで示した3次多項式で近似した値を示す。なお、図23では、図22と同様に第1橋脚BPAの洗掘の影響を除くため、2016年9月24日以降のデータを用いている。
【0134】
図23のグラフG21αは、外気温TMPと振幅比APXAの実測値との関係を示す散布図である。グラフG21βは、外気温TMPと振幅比APXAの実測値との関係を示す回帰直線である。グラフG21βに示す回帰直線は、グラフG21αを最小自乗近似して求めた。
【0135】
図24は、外気温TMPとY軸方向の振幅比APYAとの関係の一例を示す図である。図24の横軸は、外気温TMPを示し、縦軸は、振幅比APYAを示す。ただし、外気温TMPは、実測値ではなく、図21のグラフG18βで示した3次多項式で近似した値を示す。なお、図24では、図23と同様に、2016年9月24日以降のデータを用いている。
【0136】
図24のグラフG22αは、外気温TMPと振幅比APYAの実測値との関係を示す散布図である。グラフG22βは、外気温TMPと振幅比APYAの実測値との関係を示す回帰直線である。グラフG22βに示す回帰直線は、グラフG22αを最小自乗近似して求めた。
【0137】
図25は、外気温TMPが低下する前後の温度補正後のヒストグラムの一例を示す図である。図25(a)は、X軸方向の振幅比APXAのヒストグラムを示す図である。図25(b)は、Y軸方向の振幅比APYAのヒストグラムを示す図である。図25(a)及び図25(b)の縦軸は、発生回数PR(回)を示し、図25(a)の横軸は振幅比APXAを示し、図25(b)の横軸は振幅比APYAを示す。
【0138】
図25(a)のヒストグラムG23αは、外気温TMPが低下する前(2016年10月22日)の温度補正後の振幅比APXAのヒストグラムを示す。図25(a)のヒストグラムG23βは、外気温TMPが低下した後(2017年1月14日)の温度補正後の振幅比APXAのヒストグラムを示す。図25(a)に示すヒストグラムG23αとヒストグラムG23βとの間のp値VPは、「0.05839」であった。
【0139】
図25(b)のヒストグラムG24αは、外気温TMPが低下する前(2016年10月22日)の温度補正後の振幅比APYAのヒストグラムを示す。図25(b)のヒストグラムG24βは、外気温TMPが低下した後(2017年1月14日)の温度補正後の振幅比APYAのヒストグラムを示す。図25(b)に示すヒストグラムG24αとヒストグラムG24βとの間のp値VPは、「0.01352」であった。
【0140】
誤差(データのばらつき)が小さい場合、及びデータ数NDが多い場合には、p値VPが小さくなる傾向があると言われている。よって、これらの影響によって、p値VPが小さくなったと推定される。一方、図12を参照して説明したように、洗掘が発生する前後のヒストグラムの間のp値VPは「2.2×10-16」であるので、「0.05」に換えて、「0.01」を新たに有意差の有無の基準とする。すなわち、検出部106は、p値VPが「0.01」より大である場合には、有意差がないと判定し、p値VPが「0.01」以下である場合には、有意差があると判定する。
【0141】
ここで、補正部105の処理について説明する。図21を参照して説明したように、補正部105は、まず、外気温TMPの変化を示す3次多項式を算出する。次に、図23及び図24を参照して説明したように、補正部105は、外気温TMPと振幅比APXAとの関係を示す回帰直線(グラフG21βに示す回帰直線)と、外気温TMPと振幅比APYAとの関係を示す回帰直線(グラフG22βに示す回帰直線)とを算出する。そして、補正部105は、グラフG21βに示す回帰直線を用いて振幅比APXAを補正し、グラフG22βに示す回帰直線を用いて振幅比APYAを補正する。
【0142】
以上、図1及び図4図25を参照して説明したように、本発明の実施形態では、構造体4(例えば、橋脚BP)の周囲の外気温TMPが変化すると、構造体4の支持状態が変化し、支持剛性が変化する可能性がある。例えば、コンクリートの熱膨張係数は地面の熱膨張係数と比較して大きいため、外気温TMPが低下すると、橋脚BPと地面との間に隙間が生じ、支持剛性が低下することが想定される。したがって、振幅比APを構造体4の周囲の外気温TMPに基づいて補正することによって、構造体4の異常の発生を更に正確に検出できる。
【0143】
なお、図19及び図20を参照して説明したように、短期間(2日間)で急激に温度が変化した場合には、振幅比APに影響しなかった。これは、短期間では、橋脚BP及び地面の表面の温度だけが変化するため、熱膨張係数の違いに伴う橋脚BPと地面との間の隙間は発生したからであると推定される。また、実測温度ではなく、3次多項式で近似した温度を用いて温度補正を行う理由も、上述のような橋脚BP及び地面の表面だけの温度変化は振幅比APに影響しないからである。
【0144】
また、外気温TMPの振幅比APに及ぼす影響を考慮すると、第1期間PH1における振幅比APのヒストグラムと、第2期間PH2における振幅比APのヒストグラムと間のp値VPが閾値VPA(例えば、「0.01」)以下である場合には、2つのヒストグラムの間に有意差が有る可能性が高い。したがって、p値VPが所定値以下である場合に構造体4(例えば、橋脚BP)の異常が発生していると評価することによって、構造体4の異常の発生を更に正確に検出できる。
【0145】
なお、本発明の実施形態では、補正部105が、外気温TMPの変化を示す3次多項式を算出するが、本発明はこれに限定されない。補正部105が、外気温TMPの変化を示す多項式を算出すればよい。例えば、補正部105が、外気温TMPの変化を示す4次多項式を算出してもよいし、5次多項式を算出してもよい。図21に示すように、年月日の期間が半年に近い場合には、次数が奇数の多項式(例えば、3次多項式)が好ましい。また、年月日の期間が1年に近い場合には、次数が偶数の多項式(例えば、4次多項式)が好ましい。
【0146】
また、補正部105が、外気温TMPと振幅比APXAとの関係を示す回帰直線(グラフG21βに示す回帰直線)と、外気温TMPと振幅比APYAとの関係を示す回帰直線(グラフG22βに示す回帰直線)とを算出するが、本発明はこれに限定されない。補正部105が、外気温TMPと振幅比APXAとの関係を示す回帰曲線と、外気温TMPと振幅比APYAとの関係を示す回帰曲線とを算出する形態でもよい。回帰曲線は、外気温TMPに関する多項式でも良いし、その他の式でも良い。
【0147】
次に、図1及び図4図28を参照して、取得部101が振動データを取得するか否かを判定する加速度の振幅の閾値GAが検出部106の検出結果に及ぼす影響について説明する。閾値GAを大きくする程、取得部101が取得する振動データの個数が減少する。また、閾値GAを大きくする程、取得部101が取得する振動データは、大きな振幅の振動が発生している振動データに限定される。換言すれば、所定の重量以上の車両が橋梁BRを走行している場合に発生する振動データに限定される。すなわち、振動データの個数、及び橋梁BRを走行する車両の重量が、検出部106の検出結果に及ぼす影響について説明する。
【0148】
図26は、加速度の振幅の閾値GAを変化させた時のヒストグラムの変化の一例を示す図である。図26(a)は、閾値GAが1.00Galの場合の洗掘が進行する前後の振幅比APXAのヒストグラムを示す図である。図26(b)は、閾値が3.16Galの場合の洗掘が進行する前後の振幅比APXのヒストグラムを示す図である。図26(a)及び図26(b)の縦軸は、発生回数PR(回)を示し、図26(a)の横軸は、第1橋脚BPAにおけるX軸方向の振幅比APXAを示し、図26(b)の横軸は、第1橋脚BPAにおけるX軸方向の振幅比APXAを示す。すなわち、閾値GAを変化させて、洗掘の発生する前後の間の振幅比APXのヒストグラムの有意差を検証した。
【0149】
図26(a)に示すヒストグラムG25αは、洗掘の発生する前(2016年8月27日)の振幅比APXAのヒストグラムを示し、図26(a)に示すヒストグラムG25βは、洗掘の発生した後(2016年10月22日)の振幅比APXAのヒストグラムを示す。ヒストグラムG25αと比較してヒストグラムG25βは左側にシフトしている。すなわち、洗掘が発生した後の振幅比APXAは、洗掘が発生する前の振幅比APXAより小さい。
【0150】
図26(b)に示すヒストグラムG26αは、洗掘の発生する前の振幅比APXAのヒストグラムを示し、図26(b)に示すヒストグラムG26βは、洗掘の発生した後の振幅比APXAのヒストグラムを示す。ヒストグラムG26αと比較してヒストグラムG26βは左側にシフトしている。すなわち、洗掘が発生した後の振幅比APXAは、洗掘が発生する前の振幅比APXAより小さい。
【0151】
また、ヒストグラムG26αは、図26(a)に示すヒストグラムG25αと比較して、振幅比APXAの拡がりが狭くなり、発生回数PR(回)が減少している。同様に、ヒストグラムG26βは、図26(a)に示すヒストグラムG25βと比較して、振幅比APXAの拡がりが狭くなり、発生回数PR(回)が減少している。
【0152】
図27は、加速度の振幅の閾値GAを変化させた時のヒストグラムの変化の一例を示す図である。図27は、図26と比較して、閾値GAが大きい点で相違している。図27(a)は、閾値GAが5.48Galの場合の洗掘が進行する前後の振幅比APXAのヒストグラムを示す図である。図27(b)は、閾値が7.07Galの場合の洗掘が進行する前後の振幅比APXのヒストグラムを示す図である。図27(a)及び図27(b)の縦軸は、発生回数PR(回)を示し、図27(a)の横軸は、第1橋脚BPAにおけるX軸方向の振幅比APXAを示し、図27(b)の横軸は、第1橋脚BPAにおけるX軸方向の振幅比APXAを示す。
【0153】
図27(a)に示すヒストグラムG27αは、洗掘の発生する前(2016年8月27日)の振幅比APXAのヒストグラムを示し、図27(a)に示すヒストグラムG27βは、洗掘の発生した後(2016年10月22日)の振幅比APXAのヒストグラムを示す。ヒストグラムG27αと比較してヒストグラムG27βは左側にシフトしている。すなわち、洗掘が発生した後の振幅比APXAは、洗掘が発生する前の振幅比APXAより小さい。
【0154】
また、ヒストグラムG27αは、図26(b)に示すヒストグラムG26αと比較して、振幅比APXAの拡がりが更に狭くなり、発生回数PR(回)が更に減少している。同様に、ヒストグラムG27βは、図26(b)に示すヒストグラムG26βと比較して、振幅比APXAの拡がりが更に狭くなり、発生回数PR(回)が更に減少している。
【0155】
図27(b)に示すヒストグラムG28αは、洗掘の発生する前の振幅比APXAのヒストグラムを示し、図27(b)に示すヒストグラムG28βは、洗掘の発生した後の振幅比APXAのヒストグラムを示す。ヒストグラムG28αと比較してヒストグラムG28βは左側にシフトしている。すなわち、洗掘が発生した後の振幅比APXAは、洗掘が発生する前の振幅比APXAより小さい。
【0156】
また、ヒストグラムG28αは、図27(a)に示すヒストグラムG27αと比較して、振幅比APXAの拡がりは同程度で、発生回数PR(回)が減少している。同様に、ヒストグラムG28βは、図27(a)に示すヒストグラムG27βと比較して、振幅比APXAの拡がりは同程度で、発生回数PR(回)が更に減少している。
【0157】
図28は、加速度の振幅の閾値GAと、データ数ND及びp値VPとの関係の一例を示す図である。「X軸方向」欄は、X軸方向の振幅比APXAのデータ数ND及びp値VPを示す。「Y軸方向」欄は、Y軸方向の振幅比APYAのデータ数ND及びp値VPを示す。以下の説明では、図26及び図27で示したX軸方向の振幅比APXAのデータ数ND及びp値VPについて説明し、Y軸方向の振幅比APYAのデータ数ND及びp値VPについては、その説明を省略する。
【0158】
例えば、閾値GAが「1.00」である場合には、洗掘が発生する前のデータ数NDは「233」であり、洗掘が発生した後のデータ数NDは「120」であり、p値VPは「2.2×10-16」である。また、例えば、閾値GAが「3.16」である場合には、洗掘が発生する前のデータ数NDは「134」であり、洗掘が発生した後のデータ数NDは「56」であり、p値VPは「2.3×10-16」である。このように、閾値GAが「3.16」である場合には、閾値GAが「1.00」である場合と比較して、データ数NDは約半減しているが、p値VPは殆ど変化していない。
【0159】
更に、例えば、閾値GAが「5.48」である場合には、洗掘が発生する前のデータ数NDは「87」であり、洗掘が発生した後のデータ数NDは「35」であり、p値VPは「2.3×10-16」である。このように、閾値GAが「5.48」である場合には、閾値GAが「3.16」である場合と比較して、データ数NDは約半減しているが、p値VPは変化していない。
【0160】
また、例えば、閾値GAが「7.07」である場合には、洗掘が発生する前のデータ数NDは「66」であり、洗掘が発生した後のデータ数NDは「25」であり、p値VPは「8.5×10-14」である。このように、閾値GAが「7.07」である場合には、閾値GAが「5.48」である場合と比較して、データ数NDは3/4倍に減少し、p値VPも変化している。しかしながら、有意差の有無の判定には影響しない。
【0161】
更に、例えば、閾値GAが「10.00」である場合には、洗掘が発生する前のデータ数NDは「26」であり、洗掘が発生した後のデータ数NDは「13」であり、p値VPは「2.0×10-7」である。このように、閾値GAが「10.00」である場合には、閾値GAが「7.07」である場合と比較して、データ数NDは半減し、p値VPも変化している。しかしながら、有意差の有無の判定には影響しない。
【0162】
以上、図1及び図4図28を参照して説明したように、本発明の実施形態では、閾値GAが「1.00」から「5.48」の範囲では、p値VPは殆ど変化せず、有意差の有無の判定には全く影響しなかった。一方、閾値GAが「5.48」から「10.00」の範囲では、p値VPは変化するものの、有意差の有無の判定には影響しなかった。また、比較する2つのヒストグラムのデータ数NDの各々は、100個程度あれば充分であることが判明した。
【0163】
また、取得部101は、加速度の振幅が閾値GA以上である場合に、振動データを取得する。よって、閾値GAを外乱の振幅に基づいて設定することによって、構造体4(橋脚BP)の振動を示す振動データを取得できる。したがって、構造体4の異常の発生を更に正確に検出できる。なお、閾値GAの値は、データ数NDが100個以上になるように設定すればよい。
【0164】
次に、図1及び図4図29を参照して、本発明の実施形態に係る構造体4の異常検出システム200の構成について説明する。図29は、本発明の実施形態に係る構造体4の異常検出システム200の構成の一例を示す図である。図29に示すように、異常検出システム200は、サーバ装置10、送信ユニット2及び加速度計3を備える。サーバ装置10は、制御部1を含む。加速度計3は、第1加速度計31と第2加速度計32とを含む。
【0165】
制御部1、第1加速度計31及び第2加速度計32は、図1及び図4を参照して説明した異常検出装置100と同一の構成を有するため、その説明を省略する。
【0166】
加速度計3は、橋梁BR1、橋梁BR2、橋梁BR3及び橋梁BR4に配置される。送信ユニット2は、橋梁BR1~橋梁BR4の各々に配置される。例えば、橋梁BR1を参照して、送信ユニット2について説明する。橋梁BR1は、第1橋脚BPA、第2橋脚BPB、及び橋脚BPCを備える。第1橋脚BPA及び第2橋脚BPBの各々には、第1加速度計31及び第2加速度計32が配置される。橋脚BPCには、送信ユニット2が配置される。
【0167】
送信ユニット2は、第1橋脚BPAに配置された第1加速度計31及び第2加速度計32の各々から振動データを受信する。また、送信ユニット2は、第2橋脚BPBに配置された第1加速度計31及び第2加速度計32の各々から振動データを受信する。更に、送信ユニット2は、ネットワークNWを介してサーバ装置10と通信可能に構成される。送信ユニット2は、ネットワークNWを介してサーバ装置10に対して振動データを送信する。
【0168】
ネットワークNWは、例えば、インターネットである。なお、ネットワークNWは、インターネット以外のネットワークでもよい。例えば、ネットワークNWは、LAN(Local Area Network)でもよいし、WAN(Wide Area Network)でもよい。
【0169】
サーバ装置10は、ネットワークNWを介して送信ユニット2から振動データを受信して、記憶部12に記憶する。同様に、サーバ装置10は、橋梁BR2、橋梁BR3及び橋梁BR4の各々に配置された送信ユニット2から振動データを受信して、記憶部12に記憶する。
【0170】
制御部1は、橋梁BR1~橋梁BR4の橋脚BPの異常を検出する。
【0171】
以上、図1及び図4図29を参照して説明したように、本発明の実施形態に係る異常検出システム200では、橋梁BR1~橋梁BR4の各々の橋脚BPの異常を検出できる。
【0172】
なお、異常検出システム200が、橋梁BR1~橋梁BR4の各々の橋脚BPの異常を検出する場合について説明したが、異常検出システム200が、複数の橋梁BRの各々の橋脚BPの異常を検出すればよい。例えば、異常検出システム200が、5つ以上の橋梁BRの各々の橋脚BPの異常を検出してもよい。
【0173】
また、送信ユニット2が、橋脚BPCに配置される場合について説明したが、送信ユニット2は、橋梁BR1に配置されればよい。例えば、送信ユニット2が第1橋脚BPA(又は、第2橋脚BPB)に配置されてもよい。また、例えば、送信ユニット2が橋桁BA1に配置されてもよい。
【0174】
次に、図1及び図4図30を参照して、構造体4について説明する。図30は、本発明の実施形態に係る構造体4の一例を示す図である。図30(a)は、煙突Cを示す図である。図30(b)は、アンテナAを示す図である。図30(c)は、街路灯Lを示す図である。
【0175】
図30(a)~図30(c)に示すように、煙突C、アンテナA及び街路灯Lの各々は、下端のみが支持されている。具体的には、煙突C、アンテナA及び街路灯Lの各々は、下端が地面GNDに埋設されたアンカー(図示省略)に固定されて支持されている。
【0176】
以上、図1及び図4図30を参照して説明したように、構造体4が、煙突C、アンテナA又は街路灯Lでもよい。また、構造体4は、鉄塔、及び道路標識でもよい。すなわち、構造体4は、橋脚BP、鉄塔、煙突C、アンテナA、道路標識、及び街路灯Lの少なくとも1つを含む。構造体4が、例えばアンテナAである場合には、地面GNDの液状化現象等によって支持剛性が低下する。また、構造体4がアンテナAである場合には、山中等に設置されているため、液状化現象を測定することは容易ではない。すなわち、アンテナAの支持剛性の低下を正確に検出できることによって、アンテナAの地面GNDの状況(例えば、液状化の状態)を調査する必要がなくなる。したがって、ユーザー(例えば、アンテナAのメンテナンスを行う管理者)の利便性を向上できる。
【0177】
なお、図1及び図4図30を参照して説明したように、構造体4は、橋脚BP、鉄塔、煙突C、アンテナA、道路標識、又は街路灯Lであるが、本発明は、これに限定されない。構造体4は、少なくとも下端が支持されていればよい。例えば、構造体4が、高層ビルでもよい。また、構造体4は、例えば、門型の構造体でもよいし、アーチ型の構造体でもよい。
【0178】
以上、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明した。ただし、本発明は、上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能である(例えば、下記に示す(1)~(4))。図面は、理解し易くするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示しており、図示された各構成要素の厚み、長さ、個数等は、図面作成の都合上から実際とは異なる場合がある。また、上記の実施形態で示す各構成要素の形状、寸法等は一例であって、特に限定されるものではなく、本発明の構成から実質的に逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0179】
(1)図1を参照して説明したように、本発明の実施形態では、加速度計3が第1加速度計31及び第2加速度計32であるが、本発明はこれに限定されない。加速度計3が第1加速度計31及び第2加速度計32を含めばよい。例えば、加速度計3が3つ以上の加速度計を含んでもよい。
【0180】
(2)図1を参照して説明したように、本発明の実施形態では、第1加速度計31が橋脚BPの上端に配置されるが、本発明はこれに限定されない。第1加速度計31は、橋脚BPの上部に配置されればよい。
【0181】
(3)図1を参照して説明したように、本発明の実施形態では、第2加速度計32は、基礎BPβの上端から距離LSだけ上側の位置に配置されるが、本発明はこれに限定されない。第2加速度計32は、第1加速度計31から所定距離以上離間して、第1加速度計31の下方に配置されればよい。例えば、第2加速度計32は、第1加速度計31から5m離間して、第1加速度計31の下方に配置されてもよい。
【0182】
(4)図1及び図4図7を参照して、本発明の実施形態では、検出部106は、振幅比APに基づき、構造体4(橋脚BP)の異常の発生を検出するが、本発明はこれに限定されない。検出部106が、第1スペクトルF1と第2スペクトルF2とに基づき、構造体4の異常の発生を検出すればよい。例えば、検出部106が、第1スペクトルF1の振幅の最大値と、第2スペクトルF2の振幅の最大値とに基づき構造体4の異常の発生を検出してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0183】
本発明は、構造体の異常検出装置、構造体の異常検出システム、構造体の異常検出方法、及び構造体の異常検出プログラムの分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0184】
100 異常検出装置
200 異常検出システム
1 制御部
11 プロセッサ
101 取得部
102 変換部
103 第1算出部
104 第2算出部
105 補正部
106 検出部
12 記憶部
2 送信ユニット
3 加速度計
31 第1加速度計
32 第2加速度計
4 構造体
BR、BR1~BR4 橋梁
BP、BPA、BPB、BPC 橋脚
BPA 第1橋脚
BPB 第2橋脚
BPα 躯体
BPβ 基礎
GND 地面
AP 振幅比
G1、G2 振動データ
F1 第1スペクトル
F2 第2スペクトル
CS クロススペクトル
PS パワースペクトル
PV p値
ω 固有振動数
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30